(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電気接点部材、ブラシ、および、回転機
(51)【国際特許分類】
H01R 39/20 20060101AFI20241119BHJP
H02K 13/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01R39/20
H02K13/00 P
(21)【出願番号】P 2023518654
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2022017492
(87)【国際公開番号】W WO2022234764
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021079010
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 祥広
(72)【発明者】
【氏名】野須 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】関川 純哉
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-293132(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111575527(CN,A)
【文献】特許第6381860(JP,B1)
【文献】特開平08-031229(JP,A)
【文献】特開2015-088306(JP,A)
【文献】特開2021-009788(JP,A)
【文献】特開2002-369454(JP,A)
【文献】特開2001-327127(JP,A)
【文献】特開2006-164900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 39/20
H02K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手材に対向させるための接点面(11)を有しており、
上記接点
面を有する部分が、カーボン粒子(12)と、銅粒子(13)と、銅よりも電離電圧が低い低電離電圧金属(14)とを含んでおり、
上記低電離電圧金属は、低電離電圧金属粒子として含まれている、または、上記銅粒子の表面を覆う被覆層として含まれて
おり、
上記接点面の走査型電子顕微鏡像において、
上記走査型電子顕微鏡像上のいずれの位置に直径50μmの円(3)を配置した場合でも、
上記円内に収まる上記低電離電圧金属が存在する、
電気接点部材(1)。
【請求項2】
上記低電離電圧金属の大きさは、上記円の直径の1/2以下とされている、請求項
1に記載の電気接点部材。
【請求項3】
上記低電離電圧金属は、AlおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、請求項1
または請求項2に記載の電気接点部材。
【請求項4】
銅よりも沸点が低い低沸点金属をさらに含む、請求項1
または請求項2に記載の電気接点部材。
【請求項5】
上記低沸点金属は、ZnおよびMgからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、請求項
4に記載の電気接点部材。
【請求項6】
上記銅粒子の一部または全部が、銅とは異なる金属より構成される置換粒子に置換されている、
請求項1
または請求項2に記載の電気接点部材。
【請求項7】
請求項1
または請求項2に記載の電気接点部材を有する、ブラシ(10)。
【請求項8】
請求項
7に記載のブラシを有する、回転機(2)。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年5月7日に出願された日本出願番号2021-079010号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、電気接点部材、ブラシ、および、回転機に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、様々な分野において、相手材との電気的接続を図るために電気接点部材が用いられている。例えば、モータ等の回転機の分野では、相手材である整流子に摺動接触させる接点面を備えたブラシが知られている。
【0004】
具体的には例えば、特許文献1に、電気接点部材に銅の沸点よりも沸点が低い低沸点材としての亜鉛を加え、亜鉛蒸気によりアーク放電時の蒸気密度を高めて電子速度を小さく抑え、電磁ノイズの低減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
従来技術には、次の課題がある。すなわち、亜鉛は、銅よりも熱電離し難い。そのため、従来技術によれば、電磁ノイズの低減を図るためには、亜鉛を大量に添加する必要がある。それ故、整流子等の相手材の表面に酸化亜鉛が堆積しやすく、接触抵抗が増加しやすい。また、この電気接点部材をモータのブラシ等に適用した場合には、モータ効率の低下等の不具合が生じるおそれがある。
【0007】
本開示は、亜鉛を大量に添加しなくても、電磁ノイズを低減することが可能な電気接点部材、また、これを用いたブラシ、回転機を提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様は、
相手材に対向させるための接点面を有しており、
上記接点面を有する部分が、カーボン粒子と、銅粒子と、銅よりも電離電圧が低い低電離電圧金属とを含んでおり、
上記低電離電圧金属は、低電離電圧金属粒子として含まれている、または、上記銅粒子の表面を覆う被覆層として含まれており、
上記接点面の走査型電子顕微鏡像において、
上記走査型電子顕微鏡像上のいずれの位置に直径50μmの円を配置した場合でも、
上記円内に収まる上記低電離電圧金属が存在する、
電気接点部材にある。
【0009】
本開示の他の態様は、上記電気接点部材を有する、ブラシにある。
【0010】
本開示のさらに他の態様は、上記ブラシを有する、回転機にある。
【0011】
上記電気接点部材は、上記構成を有する。そのため、上記電気接点部材では、接点面と相手材との間にてアーク放電が生じた場合に、導電材料である銅粒子を構成する銅よりも先行して低電離電圧金属の熱電離が生じ、アーク空間における電子密度が増大する。それ故、上記電気接点部材によれば、アーク空間における電子密度が小さい場合に比べ、同じ電流を流す際の電子を移動させる力、つまり、電界強度を小さくすることができる。したがって、上記電気接点部材は、亜鉛を大量に添加しなくても、電磁ノイズを低減することが可能になる。
【0012】
上記ブラシは、上記電気接点部材を有する。そのため、上記ブラシでは、相手材となる整流子と電気接点部材の接点面との間で摺動接触および開離が行われるときのアーク放電時に、低電離電圧金属の熱電離が生じ、アーク空間における電子密度が増大し、電磁ノイズを低減することが可能になる。
【0013】
上記回転機は、上記ブラシを有する。そのため、上記回転機は、電磁ノイズ対策として、コイルやコンデンサなどによって構成されるフィルター、金属製のシールド筐体などを削減することが可能になる。そのため、上記回転機によれば、回転機の小型化、軽量化、低コスト化などを図ることが可能になる。
【0014】
なお、請求の範囲に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
【
図1】
図1は、実施形態1の電気接点部材を適用した実施形態1のブラシを模式的に示した図であり、
【
図2】
図2は、実施形態1の電気接点部材における接点面の走査型電子顕微鏡像の一部を模式的に例示した図であり、
【
図3】
図3は、実施形態3の電気接点部材およびブラシを説明するための説明図であり、(a)は、実施形態3の電気接点部材およびブラシの製造に用いられる低電離電圧金属の球体状粉末の一例を示した図であり、(b)は、実施形態3の電気接点部材およびブラシの製造に用いられる低電離電圧金属の箔状粉末の一例を示した図であり、
【
図4】
図4は、実施形態4の電気接点部材およびブラシを説明するための説明図であり、(a)は、酸化皮膜に欠損部が生じていない低電離電圧金属粒子を模式的に示した図であり、(b)は、酸化皮膜に欠損部が生じており、当該欠損部にて低電離電圧金属粒子同士が部分的に金属接合している状態を模式的に示した図であり、
【
図5】
図5は、実施形態5の回転機についてシャフトの軸方向に沿った断面図であり、
【
図6】
図6は、実施形態5の回転機におけるブラシと整流子とを模式的に示した図であり、
【
図7】
図7は、実験例1において得られた、Cu、Al、Znの各元素についての温度(K)と電子密度(m
-3)との関係を示した図であり、
【
図8】
図8は、実験例2において得られた、試料1~試料4のブラシについてのフィルタ電圧値(dB)を示した図であり、
【
図9】
図9は、実験例2において得られた、試料1~試料4のブラシにおける接点面の走査型電子顕微鏡像を示した図であり、(a)は試料1、(b)は試料2、(c)は試料3、(d)は試料4の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
実施形態1の電気接点部材およびブラシについて、
図1、
図2を用いて説明する。
図1、
図2に例示されるように、本実施形態の電気接点部材1は、相手材(
図1、
図2では不図示)に対向させるための接点面11を有している。電気接点部材1は、カーボン粒子12と、銅粒子13と、銅よりも電離電圧が低い低電離電圧金属14と、を含んでいる。
【0017】
電気接点部材1は、使用時に接点面11と相手材との間にアークが生じる用途等に好適に用いることができる。また、電気接点部材1は、使用時に接点面11が相手材と摺動接触する用途等に好適に用いることができる。電気接点部材1は、具体的には、例えば、モータ、発電機等の回転機のブラシ(電機ブラシ)、アーク溶接棒等に用いることができる。なお、接点面11は、相手材と接触してよいし、相手材と離れていてもよい。
【0018】
図1では、電気接点部材1を回転機(
図1では不図示)のブラシ10に適用した例が示されている。本実施形態のブラシ10は、本実施形態の電気接点部材1を有している。具体的には、ブラシ10は、電気接点部材1を備える接点部101と、接点部101に接続されたリード線102とを有している。なお、リード線102は、ピッグテールと称されることがあり、外部から供給される電気が流れる部分である。ブラシ10は、回転機の回転子に設けられる鉄心に巻回された電機子コイルに対して、整流子を通じて給電を行うものである。この場合、相手材は、回転機における回転子の一部を構成する整流子であり、接点面11は、相手材と摺動接触および開離する面となる。なお、接点部101は、
図1に例示されるように、電気接点部材1から構成されていてもよいし、図示はしないが、電気接点部材1と、電気接点部材1に結合され、電気接点部材1とは異なる別部材とを有する構成などとされていてもよい。後者の例としては、例えば、別部材の表面に電気接点部材1が表面層として形成されている例などを挙げることができる。
【0019】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、カーボン粒子12を含む。カーボン粒子12は、相手材と接点面11との間で摺動接触および開離が行われる際に、相手材へ潤滑被膜を形成し、相手材との融着を防止するために有用な粒子である。カーボン粒子12としては、潤滑被膜の形成性、導電性、コスト、素材調達などの観点から、黒鉛粒子を好適なものとして例示することができる。
【0020】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、銅粒子13を含む。銅粒子13は、電気接点部材1の基材粒子であり、主に電気接点部材1に導電性等の電気特性を付与するために重要な粒子である。
【0021】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、低電離電圧金属14を含む。低電離電圧金属14は、銅よりも電離電圧が低い金属である。また、低電離電圧金属14は、銅とは異なる金属である。銅の電離電圧は、具体的には、7.73eVである。したがって、低電離電圧金属14は、7.73eVよりも低い電離電圧を有する金属から選択される。電離電圧が低いほど、少ない熱エネルギ(J)で熱電離し、アーク空間における電子密度を増大させることができる。
【0022】
低電離電圧金属14としては、例えば、Al(アルミニウム)(電離電圧:5.99eV)、Cr(クロム)(電離電圧:6.77eV)、Mg(マグネシウム)(電離電圧:7.65eV)、Rb(ルビジウム)(電離電圧:4.18eV)、Ce(セシウム)(電離電圧:3.89eV)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。低電離電圧金属14は、電離電圧が銅に比べて十分に低い、常温付近で固体として存在することができ、電気接点部材1の形状を保持することができるなどの観点から、好ましくは、Al、Crなどであるとよい。これらは1種または2種以上併用することができる。低電離電圧金属14は、より好ましくは、電離電圧がより低く、少量の添加で電子密度の増大を図ることができる、銅の沸点より低温で金属蒸気となり熱電離する、電気接点部材1の焼成時(例えば焼成温度400℃以上1000℃以下程度の焼成時等)に焼結によって電気接点部材1を固めることができるなどの観点から、Alであるとよい。なお、各金属の融点、沸点は、Al(融点:660℃、沸点:2467℃)、Cr(融点:1857℃、沸点:2672℃)、Mg(融点:639℃、沸点:1090℃)、Rb(融点:39℃、沸点:688℃)、Ce(融点:29℃、沸点:678℃)である。また、これら低電離電圧金属14は、単独元素に限らず、化合物(熱分離、熱還元含む)として含まれていても同様の効果が得られる。
【0023】
低電離電圧金属14は、例えば、
図2に例示されるように、低電離電圧金属14の粒子(以下、低電離電圧金属粒子140ということがある。)として電気接点部材1に含まれることができる。この構成によれば、カーボン粉末、銅粉末、および、低電離電圧金属粉末を含む混合粉を成形し、焼成することによって比較的簡易に電気接点部材1を製造することができる。また、上記以外にも、例えば、低電離電圧金属14は、例えば、銅粒子13の表面を覆う被覆層(不図示)などとして電気接点部材1に含まれることもできる。この場合、被覆層は、銅粒子13の表面に低電離電圧金属14を蒸着することなどによって形成されることができる。
【0024】
図2では、具体的には、電気接点部材1が、カーボン粒子12と、銅粒子13と、低電離電圧金属粒子140と、を含む例が示されている。より具体的には、電気接点部材1は、複数のカーボン粒子12と、複数の銅粒子13と、複数の低電離電圧金属粒子140と、を含む焼結体より構成することができる。
【0025】
電気接点部材1は、低沸点金属(不図示)をさらに含むことができる。低沸点金属は、銅よりも沸点が低い金属である。この構成によれば、銅の沸点よりも低温で低沸点金属が金属蒸気となり、アーク空間の空気を排除することができる。空気に含まれる窒素や酸素は熱電離し難いため、低沸点金属の金属蒸気によってアーク空間の空気が排除されることにより、低電離電圧金属の熱電離が促進され、アーク空間における電子密度を増大させやすくなる。なお、銅の沸点は、具体的には、2567℃である。したがって、低沸点金属は、2567℃よりも低い沸点を有する金属から選択されることができる。低沸点金属は、低電離電圧金属14とは異なる金属であり、銅よりも沸点が低ければ、電離電圧は窒素や酸素より低く銅より高いものであってもよい。
【0026】
低沸点金属としては、例えば、Zn(亜鉛)(沸点:907℃、電離電圧:9.39eV)、Mg(マグネシウム)(沸点:1090℃、電離電圧:7.65eV)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。低沸点金属としては、沸点がより低く、アーク中の空気排除効果が得やすいなどの観点から、Znを選択することができる。また、低沸点金属としては、銅よりも沸点が低い上、銅よりも電離電圧が低いために熱電離による電子密度の増大化も期待できるなどの観点から、Mgを選択することができる。
【0027】
低沸点金属は、例えば、低沸点金属の粒子(以下、低沸点金属粒子ということがある。)として電気接点部材1に含まれることができる。この構成によれば、カーボン粉末、銅粉末、低電離電圧金属粉末、および、低沸点金属粉末を含む混合粉を成形し、焼成することによって比較的簡易に電気接点部材1を製造することができる。
【0028】
図示はしないが、電気接点部材1は、具体的には、例えば、カーボン粒子12と、銅粒子13と、低電離電圧金属粒子140と、低沸点金属粒子とを含む構成とすることができる。この場合、より具体的には、電気接点部材1は、複数のカーボン粒子12と、複数の銅粒子13と、複数の低電離電圧金属粒子140と、複数の低沸点金属粒子とを含む焼結体より構成することができる。
【0029】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、接点面11の走査型電子顕微鏡(以下、SEMということがある。)像において、SEM像上のいずれの位置に直径50μmの円3を配置した場合でも、円3内に収まる低電離電圧金属14が存在する構成とすることができる。直径50μmの円3は、接点面11と相手材との間に発生するアークのアーク輝点径と関係がある。アーク電圧は、アーク輝点が接する材質によって変化する。上記構成によれば、電気接点部材1を構成する材料の小粒径化、均一分散化が促進される。上記構成によれば、接点面11のいずれの位置にてアークが生じ、また、アークが移動した場合でも、アーク電圧変動の抑制に有利となる。また、上記構成によれば、アークの位置、移動によらずに、アーク輝点径内に収まる低電離電圧金属14を常に存在させやすくなる。そのため、上記構成によれば、アークの位置、移動によらずに、低電離電圧金属14の熱電離を確実に生じさせることができ、アーク空間における電子密度を増大させることが可能になる。
【0030】
電気接点部材1が低沸点金属を含む場合、電気接点部材1は、接点面11のSEM像において、SEM像上のいずれの位置に円3を配置した場合でも、円3内に収まる低沸点金属が存在する構成とすることができる。上記構成によれば、電気接点部材1を構成する材料の小粒径化、均一分散化が促進される。上記構成によれば、接点面11のいずれの位置にてアークが生じ、また、アークが移動した場合でも、アーク電圧変動の抑制に有利となる。また、上記構成によれば、アークの位置、移動によらずに、アーク輝点径内に収まる低沸点金属を常に存在させやすくなる。そのため、上記構成によれば、アークの位置、移動によらずに、低沸点金属の金属蒸気を確実に生じさせることができ、この低沸点金属の金属蒸気によってアーク空間の空気を排除することが可能になる。
【0031】
上述した構成を満たすことは、接点面11のSEM像上に直径50μmの円3を当てて、SEM像の全領域において円3を動かし、各位置において円3内に収まる低電離電圧金属14や低沸点金属が存在することを確認することによる。SEM像を取得するにあたり、接点面11は、必要に応じて研磨することができる。なお、円3内に収まる低電離電圧金属14が存在するとは、低電離電圧金属14の外形輪郭全体が円3内に入っている低電離電圧金属14が存在することを意味する。また、円3内に収まる低沸点金属が存在するとは、低沸点金属の外形輪郭全体が円3内に入っている低沸点金属が存在することを意味する。この際、円3の外形線が低電離電圧金属14、または、低沸点金属上を通るもの(円3の外形線と低電離電圧金属14が重なるものや、円3の外形線と低沸点金属が重なるもの)については除外する。低電離電圧金属14、低沸点金属の外形輪郭は、例えば、低電離電圧金属14、低沸点金属が粒子として電気接点部材1に含まれる場合には、低電離電圧金属粒子140、低沸点金属の粒子外形である。
【0032】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、接点面11のSEM像において、SEM像上のいずれの位置に直径50μmの円3を配置した場合でも、円3内に収まるカーボン粒子12が存在する構成とすることができる。上記構成によれば、電気接点部材1を構成する材料の小粒径化、均一分散化が促進される。上記構成によれば、接点面11のいずれの位置にてアークが生じ、また、アークが移動した場合でも、アーク電圧変動の抑制に有利となる。
【0033】
電気接点部材1は、
図2に例示されるように、接点面11のSEM像において、SEM像上のいずれの位置に直径50μmの円3を配置した場合でも、円3内に収まる銅粒子13が存在する構成とすることができる。上記構成によれば、電気接点部材1を構成する材料の小粒径化、均一分散化が促進される。上記構成によれば、接点面11のいずれの位置にてアークが生じ、また、アークが移動した場合でも、アーク電圧変動の抑制に有利となる。なお、円3内に収まるカーボン粒子12、円3内に収まる銅粒子13の意味については、円3内に収まる低電離電圧金属14についての上述の説明を準用して理解することができる。
【0034】
図2では、具体的には、電気接点部材1が、接点面11のSEM像において、SEM像上のいずれの位置に円3を配置した場合でも、円3内に収まるカーボン粒子12と、円3内に収まる銅粒子13と、円3内に収まる低電離電圧金属粒子140と、を含む例が示されている。また、図示はしないが、電気接点部材1は、円3内に収まる低沸点金属粒子をさらに含んでいてもよい。これらの場合には、電気接点部材1を構成する各材料粒子(カーボン粒子12、銅粒子13、低電離電圧金属粒子140、低沸点金属粒子等)の小粒径化、均一分散化が図られる。電気接点部材1がブラシに適用される場合等、電気接点部材1の接点面11が相手材と摺動接触する場合には、接点面11が摺動接触により摩耗するため、アーク発生位置が異なる位置となりやすい。そのため、上記の場合には、接点面11が相手材と摺動接触する場合であっても、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制することができる。
【0035】
電気接点部材1において、低電離電圧金属14の大きさは、円3の直径の1/2以下とされることができる。また、電気接点部材1が低沸点金属を含む場合、低沸点金属の大きさは、円3の直径の1/2以下とされることができる。これらの構成によれば、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制しやすくなる。
【0036】
低電離電圧金属14、低沸点金属の大きさは、好ましくは、上述した作用効果を確実なものとするなどの観点から、円3の直径の2/5以下、より好ましくは、円3の直径の3/10以下、さらに好ましくは、円3の直径の1/5以下、さらにより好ましくは、円3の直径の1/10以下とすることができる。
【0037】
上記構成を満たすことは、接点面11のSEM像上に直径50μmの円3に対して所定の直径を有する大きさ確認用円(不図示)を当てて、SEM像の全領域において大きさ確認用円を動かし、各位置において大きさ確認用円内に低電離電圧金属14、低沸点金属が収まっていることを確認することによる。なお、大きさ確認用円内に低電離電圧金属14が収まっているとは、各低電離電圧金属14の外形輪郭全体が大きさ確認用円内に入っていることを意味する。また、大きさ確認用円内に低沸点金属が収まっているとは、各低沸点金属の外形輪郭全体が大きさ確認用円内に入っていることを意味する。この際、大きさ確認用円の外形線が低電離電圧金属14、または、低沸点金属上を通るもの(大きさ確認用円の外形線と低電離電圧金属14とが重なるものや、大きさ確認用円の外形線と低沸点金属とが重なるもの)については除外する。低電離電圧金属14、低沸点金属の大きさは、低電離電圧金属14、低沸点金属が粒子として電気接点部材1に含まれる場合には、低電離電圧金属粒子140、低沸点金属粒子の粒径である。
【0038】
図2では、具体的には、カーボン粒子12、銅粒子13、および、低電離電圧金属粒子140の各粒径が、円3の直径の1/2以下とされることができる。また、図示はしないが、電気接点部材1は、円3内に収まる低沸点金属粒子をさらに含んでいる場合には、低沸点金属粒子の粒径は、円3の直径の1/2以下とされることができる。なお、カーボン粒子12、銅粒子13、低電離電圧金属粒子140、低沸点金属粒子の各粒径は、好ましくは、上述した作用効果を確実なものとするなどの観点から、円3の直径の2/5以下、より好ましくは、円3の直径の3/10以下、さらに好ましくは、円3の直径の1/5以下、さらにより好ましくは、円3の直径の1/10以下とすることができる。なお、カーボン粒子12、銅粒子13の粒径については、上述した低電離電圧金属14、低沸点金属の大きさについての説明を準用して理解することができる。
【0039】
電気接点部材1において、カーボン粒子12の含有量は、接点面11を相手材へ摺動接触させる場合に接点面11と相手材との融着を効果的に抑制するなどの観点から、25質量%以上85質量%以下の範囲から選択されることができる。また、銅粒子13の含有量は、電気接点部材1の導電性等の電気特性などの観点から、15質量%以上75質量%以下の範囲から選択されることができる。低電離電圧金属14の含有量は、添加による効果を確実なものとし、また、電気および機械結合低下の抑制、原料コストなどの観点から、2質量%以上75質量%以下の範囲から選択されることができる。また、低沸点金属の含有量は、添加による効果を確実なものとする、絶縁酸化皮膜の増加抑制などの観点から、2質量%以上30質量%以下の範囲から選択されることができる。なお、上記質量%の選択は、合計で100質量%となるように行うものとする。
【0040】
本実施形態の電気接点部材1では、接点面11と相手材との間にてアーク放電が生じた場合に、導電材料である銅粒子13を構成する銅よりも先行して低電離電圧金属14の熱電離が生じ、アーク空間における電子密度が増大する。それ故、本実施形態の電気接点部材1によれば、アーク空間における電子密度が小さい場合に比べ、同じ電流を流す際における電子を移動させる力、つまり、電界強度を小さくすることができる。したがって、本実施形態の電気接点部材1は、亜鉛を大量に添加しなくても、電磁ノイズを低減することが可能になる。
【0041】
本実施形態のブラシ10は、本実施形態の電気接点部材1を有する。そのため、本実施形態のブラシ10では、相手材となる整流子と電気接点部材1の接点面11との間で摺動接触および開離が行われるときのアーク放電時に、低電離電圧金属14の熱電離が生じ、アーク空間における電子密度が増大し、電磁ノイズを低減することが可能になる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態2の電気接点部材およびブラシについて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0043】
本実施形態の電気接点部材1は、銅粒子13の一部または全部が、銅とは異なる金属より構成される置換粒子(不図示)に置換されたものである。つまり、本実施形態の電気接点部材1は、銅粒子13の少なくとも一部が置換粒子に置換されたものである。
【0044】
置換粒子としては、例えば、Al粒子、Cr粒子などを例示することができる。置換粒子がAl粒子の場合には、軽量、低価格、素材調達容易、埋蔵枯渇リスクが小さいなどの利点がある。また、置換粒子がCr粒子の場合には、機械強度増加、耐摩耗性向上などの利点がある。
【0045】
なお、置換粒子がAl粒子である場合等、置換粒子を構成する金属を低電離電圧金属として機能させることができる場合には、電気接点部材1は、例えば、カーボン粒子12と、銅粒子13と、置換粒子とを含む構成としたり、また、カーボン粒子12と、置換粒子とを含む構成としたりすることができる。
【0046】
また、本実施形態のブラシ10は、本実施形態の電気接点部材1を有している。
【0047】
なお、実施形態1における銅粒子についての説明は、置換粒子の説明として準用することができる。その他の構成および効果は実施形態1と同様である。
【0048】
(実施形態3)
実施形態3の電気接点部材およびブラシについて
図3を用いて説明する。実施形態3の電気接点部材1において、低電離電圧金属14は、球体状粒子または箔状粒子より構成されている。
図3(a)は、実施形態3の電気接点部材1およびブラシ10(後述する)の製造に用いられる低電離電圧金属14の球体状粉末の一例を示した図であり、
図3(b)は、実施形態3の電気接点部材1およびブラシ10(後述する)の製造に用いられる低電離電圧金属14の箔状粉末の一例を示した図である。なお、
図3に例示した低電離電圧金属14の球体状粉末および箔状粉末の材質は、具体的にはAlである。
【0049】
低電離電圧金属14が球体状粒子より構成される場合には、電気接点部材1の製造時に、カーボン粒子12を含有させるためのカーボン粉末と、球体状粒子より構成される低電離電圧金属14を含有させるための低電離電圧金属14の球体状粉末とを含む混合粉が準備される。低電離電圧金属14の球体状粉末はカーボン粉末との均一分散性に優れるため、上記構成によれば、カーボン粒子12、球体状粒子より構成される低電離電圧金属14の均一分散性に優れた電気接点部材1が得られる。低電離電圧金属14の球体状粉末は、例えば、アトマイズ法などを用いて準備することができる。
【0050】
一方、低電離電圧金属14が箔状粒子より構成される場合には、次の利点がある。上述のように低電離電圧金属14が球体状粒子より構成される場合には、低電離電圧金属14が箔状粒子より構成される場合に比べて、球体状粒子同士の接触が少なく、球体状粒子の表面が滑らかであるために、機械結合力および電気結合力が小さく、摺動時に球体状粒子が脱落し、これにより電気接点部材1の電気抵抗が大きくなるおそれがある。これに対し、低電離電圧金属14が箔状粒子より構成される場合には、箔状粒子同士が絡み合いやすいために、機械結合力および電気結合力が向上し、摺動時に箔状粒子が脱落し難く、電気接点部材1の電気抵抗の増加を抑制することが可能になる。電気接点部材1の製造時に用いる低電離電圧金属14の箔状粉末としては、例えば、低電離電圧金属14の箔を粉砕した粉(箔粉砕粉)などを好適に用いることができる。
【0051】
なお、電気接点部材1に含まれる低電離電圧金属14の形状は、電気接点部材1の断面カット面をSEMなどにより観察することにより特定することができる。球体状粒子は、粒子外形が真円状または楕円状を呈する。一方、箔状粒子は、粒子の隅部分の外形が真円状または楕円状を呈していない。そのため、両粒子は、比較的容易に区別することができる。その他の構成および効果は、実施形態1、2の電気接点部材1と同様である。
【0052】
本実施形態のブラシ10は、本実施形態の電気接点部材1を有している。そのため、電気接点部材1が球体状粒子より構成される低電離電圧金属14を有する場合には、カーボン粒子12、球体状粒子より構成される低電離電圧金属14の均一分散性に優れたブラシ10が得られる。また、電気接点部材1が箔状粒子より構成される低電離電圧金属14を有する場合には、摺動時に箔状粒子同士が脱落し難く、これによる電気抵抗の増加を抑制することが可能なブラシ10が得られる。その他の構成および効果は実施形態1、2のブラシ10と同様である。
【0053】
(実施形態4)
実施形態4の電気接点部材およびブラシについて
図4を用いて説明する。
図4に例示されるように、実施形態4の電気接点部材1において、低電離電圧金属14は、低電離電圧金属14の粒子(低電離電圧金属粒子140)として電気接点部材1に含まれている。低電離電圧金属粒子140を含む電気接点部材1において、低電離電圧金属粒子140の微構造は、
図4(a)および
図4(b)に例示されるような微構造のうち少なくとも一方の構造とすることができる。以下、具体的に説明する。
【0054】
図4(a)において、低電離電圧金属粒子140は、表面全体が酸化皮膜141で覆われている。酸化皮膜141に欠損部141aは生じておらず、低電離電圧金属粒子140同士に部分的な金属接合は生じていない。
図4(a)に例示されるような微構造を有する電気接点部材1は、例えば、電気接点部材1の製造における焼成時に、低電離電圧金属14の融点を超えない(変形を生じない)温度にて焼成することにより製造することができる。なお、低電離電圧金属14が例えばAlの場合、Alの融点は約660℃である。
【0055】
一方、
図4(b)においては、例えば、低電離電圧金属14の融点を超える温度による焼成により、溶融による粒子の変形が生じる。低電離電圧金属粒子140は、表面が酸化皮膜141で覆われている。但し、酸化皮膜141に部分的に欠損部141aが存在し、当該欠損部141aにおいて低電離電圧金属粒子140同士に部分的な金属接合が生じている。なお、上記金属接合は、具体的には例えば、溶融結合とすることができる。また、
図4(b)に例示されるように、欠損部141aが生じていない酸化皮膜141を有する低電離電圧金属粒子140が含まれていてもよい。
図4(b)に例示されるような微構造を有する電気接点部材1は、例えば、電気接点部材1の製造における焼成時に、低電離電圧金属14の融点以上の温度にて焼成することにより製造することができる。
図4(b)に例示されるような微構造を有する電気接点部材1は、
図4(a)に例示されるような微構造を有する電気接点部材1に比べて、低電離電圧金属粒子140同士の部分的な金属接合により、機械結合力および電気結合力が向上し、摺動時に低電離電圧金属粒子140が脱落し難く、電気接点部材1の電気抵抗の増加を抑制することが可能になる。とりわけ、低電離電圧金属粒子140の材質がAlの場合には、焼成時に低電離電圧金属粒子140の表面に薄い酸化皮膜141(例えば、約5nm程度)が生じやすい。酸化皮膜141は、粒子間の機械結合力を低下させ、絶縁性であるために電気抵抗の増加につながる。そのため、
図4(b)に例示されるような微構造を有する電気接点部材1によれば、酸化皮膜141の欠損部141aにて低電離電圧金属粒子140同士が部分的に金属接合していることによる効果を十分に発揮することが可能になる。なお、部分的な金属接合の密度は、例えば、電気接点部材1の深さ方向において異なることができる。なぜなら、電気接点部材1の深さ方向において焼成温度が異なることが製造上生じうるからである。
【0056】
なお、電気接点部材1における低電離電圧金属粒子140の微構造は、電気接点部材1の断面カット面をEPMA(X線元素マッピング)分析し、低電離電圧金属粒子140が表面に備える酸化皮膜141の欠損部141aの有無を確認することにより把握することができる。酸化皮膜141の欠損部141aがあれば、低電離電圧金属粒子140同士の金属接合が生じているということができる。その他の構成および効果は、実施形態1、2の電気接点部材1と同様である。
【0057】
本実施形態のブラシ10は、本実施形態の電気接点部材1を有している。とりわけ、電気接点部材1において、低電離電圧金属粒子140の表面における酸化皮膜141に欠損部141aが生じており、当該欠損部141aにて低電離電圧金属粒子140同士が部分的に金属接合している場合には、摺動時に低電離電圧金属粒子140同士が脱落し難く、これによる電気抵抗の増加を抑制することが可能なブラシ10が得られる。その他の構成および効果は実施形態1、2のブラシ10と同様である。
【0058】
(実施形態5)
実施形態5の回転機について、
図5、
図6を用いて説明する。
図5、
図6に例示されるように、本実施形態の回転機2は、実施形態1のブラシ10を有する。回転機2は、具体的には、回転電機であり、より具体的には、ブラシ付き直流モータとして構成されている。回転機2は、例えば、車載装置の駆動用モータ、家庭用電気の駆動用モータ、一般産業用機械の駆動用モータをはじめ、各種の機器の駆動用モータなどに使用可能である。回転機2は、電動機として構成されてもよいし、電動機と発電機の2つの機能を併せ持つ電動発電機として構成されてもよい。
【0059】
本実施形態では、特に断わらない限り、回転機2を構成するシャフト20の軸方向を矢印Xで示し、シャフト20の径方向を矢印Yで示すものとする。また、シャフト20の周方向のうちの一方向である回転方向を矢印Zaで示すものとする。
【0060】
回転機2は、回転軸である円柱状のシャフト20を備え、電源Eから供給される電力によってこのシャフト20が回転駆動されるように構成されている。この回転機2は、ケース23とカバー24とによって構成されたハウジング22と、シャフト20を回転駆動するための複数の構成要素とを備え、ハウジング22内にこれら複数の構成要素が収容されている。複数の構成要素には、シャフト20を回転可能に支持する複数の支持部25と、ロータとしての回転子220と、整流子231と、2つのブラシ10、10と、ステータとしての磁石240とが含まれている。
【0061】
回転子220は、シャフト20に固定されている。回転子220は、複数の電磁鋼板が積層されてなる鉄心221と、電機子コイル222とを有し、鉄心221に電機子コイル222が巻かれている。
【0062】
磁石240は、ハウジング22を構成するケース23の内面に回転子220との間に隙間を隔てて固定されている。磁石240は、電機子コイル222に界磁を与える機能を有するものであり、互いに極性の異なる界磁用の永久磁石(S極およびN極)として構成されている。
【0063】
整流子231は、複数の整流子片232を有し、電機子コイル222に電気的に接続されている。
図6に示されるように、整流子231において複数の整流子片232はシャフト20の周方向に並べて配置されている。隣接する整流子片232は、周方向に互いに離間しており、且つ電機子コイル222によって互いに電気的に接続されている。
【0064】
2つのブラシ10はいずれも、電源Eに電気的に接続され、かつ、整流子231の回転に伴って複数の整流子片232に摺動接触する矩形状のブラシである。一方の第1のブラシ10は、電源Eの正極端子に電気的に接続されている。他方の第2のブラシ10は、電源Eの負極端子に電気的に接続されて第1のブラシ10と対をなすように構成されている。2つのブラシ10は、周方向に180°ずれた位置に配置されている。このため、第1のブラシ10を「正ブラシ」といい、第2のブラシ10を「負ブラシ」ということもできる。
【0065】
第1のブラシ10は、複数の整流子片232に対して摺動接触および開離が可能であり、摺動接触あるいは開離するときに、複数の整流子片232に対して相対的に電位が高くなる。第2のブラシ10は、複数の整流子片232に対して摺動接触および開離が可能であり、摺動接触あるいは開離するときに、複数の整流子片232に対して相対的に電位が低くなる。このように、複数の整流子片232のそれぞれは、2つのブラシ10との摺動接触の関係に応じて高電位側あるいは低電位側になり得る。本実施形態では、2つのブラシ10の両方が、電気接点部材1を用いて構成されている。
【0066】
本実施形態の回転機2は、実施形態1のブラシ10を有する。そのため、本実施形態の回転機2は、電磁ノイズ対策として、コイルやコンデンサなどによって構成されるフィルター、金属製のシールド筐体などを削減することが可能になる。そのため、本実施形態の回転機2によれば、回転機2の小型化、軽量化、低コスト化などを図ることが可能になる。
【0067】
なお、本実施形態において、回転機2の入力電力は、特に限定されないが、例えば、10W以上800W以下などとすることができる。この場合には、ブラシが有する電気接点部材1と整流子231との間にて形成されるアークのアーク輝点径の大きさとの関係において、上述した電気接点部材1の効果を十分に発揮させることができる。
【0068】
また、本実施形態では、回転機2が実施形態1のブラシ10を有する場合について説明したが、回転機2は、実施形態2~4の電気接点部材1を有するブラシ10を有していてもよい。
【0069】
(実験例1)
Cu(電離電圧:7.72eV)、Al(電離電圧:5.99eV)、Zn(電離電圧:9.39eV)の各元素について、温度と、1m
3当たりの熱電離した電子数で定義される電子密度との関係を、シミュレーションにより求めた。このシミュレーションでは、Cu、Al、Znの各元素が、温度に関わらず、大気圧で、全てガス化(気体化)していると仮定した。この際、各元素は100%金属ガス状態であるとし、空気(N
2、O
2)の混入はないものとした。また、電子密度は、各元素毎に熱電離するエネルギから電離する電子数を計算にて求めた。
図7に、Cu、Al、Znの各元素についての温度(K)と電子密度(m
-3)との関係を示す。なお、本実験例では、入力電力が50Wクラスの小型のブラシ付き直流モータを想定し、アーク放電温度を4000K(ケルビン)と設定した。
【0070】
図7によれば、以下のことがわかる。Cu、Al、Znの各元素は、いずれも10000K(9727℃)超で、ほぼ100%電離する(電子密度が飽和する)。Znは、Cuよりも電離電圧が高い。一方、Alは、Cuよりも電離電圧が低い。アーク放電温度の4000K程度付近では、Alは、Znに比べ、アーク空間における電子密度を増加させることができる。このことから、銅粒子を含む電気接点部材において、Znに代えてAlを用いる、つまり、Alのような、Cuよりも電離電圧が低い低電離電圧金属を用いることにより、接点面と相手材との間にてアーク放電が生じた場合に、導電材料である銅粒子を構成する銅よりも先行して低電離電圧金属の熱電離が生じ、アーク空間における電子密度を増加させることが可能になるといえる。それ故、このような電気接点部材によれば、アーク空間における電子密度が小さい場合に比べ、同じ電流を流す際の電子を移動させる力、つまり、電界強度を小さくすることができ、亜鉛を大量に添加しなくても、電磁ノイズを低減することが可能になるといえる。
【0071】
(実験例2)
平均粒径50μmのCu(銅)粉と、平均粒径5μmのC(黒鉛)粉とを、質量比で50:50(体積比で20:80程度)となるように配合し、撹拌、混合した。次いで、得られた混合粉を金型にて圧縮成形した。次いで、得られた圧縮成形体を、脱酸素雰囲気下、成分が熱変化しない温度にて焼成し、焼き固めた。これにより、試料1のブラシを作製した。なお、原料粉の平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって求められた粒度分布における体積積算値が50%のときの粒径をいう(以下、同様)。
【0072】
試料1のブラシの作製において、均一分散性がより向上するように撹拌、混合した点以外は同様にして、試料2のブラシを作製した。
【0073】
試料1のブラシの作製において、平均粒径20μmのCu粉と、平均粒径5μmのC粉とを、質量比で50:50(体積比で20:80程度)となるように配合した点以外は同様にして、試料3のブラシを作製した。
【0074】
試料1のブラシの作製において、平均粒径2μmのCu粉と、平均粒径5μmのC粉とを、質量比で50:50(体積比で20:80程度)となるように配合した点以外は同様にして、試料4のブラシを作製した。
【0075】
各ブラシを用いたモータ実機相当の摺動電気接点回路にて、電気接点間の電圧波形を取り込み、250MHzバンドバスフィルタ後のフィルタ電圧値(電圧波形の大きさ)を測定した。フィルタ電圧値の大きさは接触状態で変動するため、幅がある。そのため、同じ設定にてデータ計測を繰り返し、フィルタ電圧値の上限値、下限値、および、平均値を求めた。なお、各試料につき、サンプル数2、繰り返し数4でn=8とした。
図8に、試料1~試料4のブラシについてのフィルタ電圧値(dB)を示す。また、
図9に、試料1~試料4のブラシにおける接点面のSEM像を示す。なお、
図9において、白色部分がCuであり、灰色部分がCである。
【0076】
図8、
図9によれば、以下のことがわかる。
図8、
図9に示されるように、試料1のブラシでは、SEM像上に直径50μmの円を配置した場合に、電気接点部材を構成する各材料粒子(ここでは、Cu粒子、C粒子)が上記円内に収まって存在していない。そのため、試料1のブラシは、フィルタ電圧値の幅が大きくなった。そのため、試料1のブラシは、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制することができないといえる。試料2のブラシも同様である。なお、試料2のブラシは、試料1のブラシと原料粒径を同じとして分散性のみ向上させたものである。これらに対し、試料3、試料4のブラシでは、SEM像いずれの位置に直径50μmの円を配置した場合でも、電気接点部材を構成する各材料粒子が上記円内に収まって存在している。そのため、試料3、試料4のブラシは、材料粒子の小粒径化、均一分散化が図られることにより、フィルタ電圧値の幅が小さくなった。この結果から、試料3、試料4のブラシによれば、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制することができるといえる。また、試料1~試料4のブラシ同士を比較すると、材料粒子の小粒径化、均一分散化が促進されるほど、フィルタ電圧値の幅がより小さくなり、アーク電圧変動を抑制しやすくなることがわかる。また、材料粒子の粒径を上記円の直径の1/2以下とすることにより、材料粒子が上記円内に収まって存在する状態を確実なものとしやすくなることもわかる。
【0077】
(実験例3)
平均粒径5μmのCu(銅)粉と、平均粒径10μmのC(黒鉛)粉と、平均粒径5μmのAl(アルミニウム)粉を、質量比で50:45:5となるように配合し、ボールミルを用いて撹拌、混合した。次いで、得られた混合粉を金型にて圧縮成形した。次いで、得られた圧縮成形体を、脱酸素雰囲気下、成分が熱変化しない温度にて焼成し、焼き固めた。これにより、試料6のブラシを得た。なお、試料6のブラシは、低電離電圧金属粒子として、Al粒子を含む。
【0078】
平均粒径5μmのCu(銅)粉と、平均粒径10μmのC(黒鉛)粉と、平均粒径5μmのAl(アルミニウム)粉と、平均粒径5μmのZn(亜鉛)粉とを、質量比で50:40:5:5となるように配合し、ボールミルを用いて撹拌、混合した。次いで、得られた混合粉を金型にて圧縮成形した。次いで、得られた圧縮成形体を、脱酸素雰囲気下、成分が熱変化しない温度にて焼成し、焼き固めた。これにより、試料7のブラシを得た。なお、試料7のブラシは、低電離電圧金属粒子として、Al粒子を含み、低沸点粒子として、Zn粒子を含む。
【0079】
本開示は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。すなわち、本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は、当該実施形態や構造等に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。また、各実施形態、各実験例、以下の参考形態に示される各構成および各効果は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【0080】
以下に第1の参考形態の例を付記する。
[1]
相手材に対向させるための接点面(11)を有しており、
カーボン粒子(12)と、
銅粒子(13)と、
銅よりも電離電圧が低い低電離電圧金属(14)と、
を含む、電気接点部材(1)。
[2]
上記接点面の走査型電子顕微鏡像において、
上記走査型電子顕微鏡像上のいずれの位置に直径50μmの円(3)を配置した場合でも、
上記円内に収まる上記低電離電圧金属が存在する、[1]に記載の電気接点部材。
[3]
上記低電離電圧金属の大きさは、上記円の直径の1/2以下とされている、[2]に記載の電気接点部材。
[4]
上記低電離電圧金属は、AlおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、[1]から[3]のいずれか1つに記載の電気接点部材。
[5]
銅よりも沸点が低い低沸点金属をさらに含む、[1]から[4]のいずれか1つに記載の電気接点部材。
[6]
上記低沸点金属は、ZnおよびMgからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、[5]に記載の電気接点部材。
[7]
上記銅粒子の一部または全部が、銅とは異なる金属より構成される置換粒子に置換されている、
[1]から[6]のいずれか1つに記載の電気接点部材。
[8]
[1]から[7]のいずれか1つに記載の電気接点部材を有する、ブラシ(10)。
[9]
[8]に記載のブラシを有する、回転機(2)。
また、以下に第2の参考形態の例を付記する。
[項1]
相手材に対向させるための接点面を有する電気接点部材であって、
上記接点面の走査型電子顕微鏡像において、
上記走査型電子顕微鏡像上のいずれの位置に直径50μmの円を配置した場合でも、
上記電気接点部材を構成する材料粒子が上記円内に収まって存在する、
電気接点部材。
上記項1の電気接点部材によれば、電気接点部材1を構成する材料粒子の小粒径化、均一分散化が図られる。そのため、上記項1の電気接点部材によれば、接点面のいずれの位置にてアークが生じ、また、アークが移動した場合でも、アーク電圧変動を抑制するという課題を解決することができる。
[項2]
上記材料粒子の粒径は、上記円の直径の1/2以下とされている、項1に記載の電気接点部材。
上記項2の電気接点部材によれば、上記電気接点部材を構成する材料粒子が上記円内に収まって存在する状態を確実なものとすることができる。
[項3]
上記材料粒子は、銅粒子を含み、
上記銅粒子の粒径は、上記円の直径の1/2以下とされている、項1または項2に記載の電気接点部材。
[項4]
上記材料粒子は、銅よりも電離電圧が低い低電離電圧金属粒子を含み、
上記低電離電圧金属粒子の粒径は、上記円の直径の1/2以下とされている、項1から項3のいずれか1項に記載の電気接点部材。
[項5]
上記低電離電圧金属粒子を構成する金属は、AlおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、項4に記載の電気接点部材。
[項6]
上記材料粒子は、銅よりも沸点が低い低沸点金属粒子を含み、
上記低沸点金属粒子の粒径は、上記円の直径の1/2以下とされている、項1から項5のいずれか1項に記載の電気接点部材。
[項7]
上記低沸点金属粒子を構成する金属は、ZnおよびMgからなる群より選択される少なくとも1種の金属である、項6に記載の電気接点部材。
[項8]
上記材料粒子は、カーボン粒子を含み、
上記カーボン粒子の粒径は、上記円の直径の1/2以下とされている、項1から項7のいずれか1項に記載の電気接点部材。
[項9]
上記銅粒子の一部または全部が、銅とは異なる金属より構成される置換粒子に置換されている、
項3に記載の電気接点部材。
[項10]
項1から項9のいずれか1項に記載の電気接点部材を有する、ブラシ。
項10のブラシによれば、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制することが可能なブラシが得られる。
[項11]
項10に記載のブラシを有する、回転機。
項11の回転機によれば、アークの位置、移動によらずに、アーク電圧変動を抑制することが可能なブラシを有する、回転機が得られる。