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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】解析装置および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
G01T1/161 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020178434
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2021076598
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2019198958
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊介
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康雄
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
(72)【発明者】
【氏名】謝 琳
(72)【発明者】
【氏名】藤永 雅之
(72)【発明者】
【氏名】破入 正行
(72)【発明者】
【氏名】黄 政龍
(72)【発明者】
【氏名】福島 正和
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋巳
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121233(JP,A)
【文献】特表2017-503763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍に集積することで効果を発揮する抗癌剤に、放射性標識を施した薬剤が投与された被検体に関するCT画像及び核医学画像を取得する取得部と、
前記CT画像に基づいて、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域を指定する関心領域の設定を受け付ける受付部と、
前記設定された関心領域に基づいて、前記核医学画像から、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域内の検出値を抽出する抽出部と、
前記血液領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の前記検出値の比較結果である第1比較値と、前記筋肉領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の前記検出値の比較結果である第2比較値を算出する算出部と、
記第1比較値に関する条件が満たされているか否かに関する第1の判定を行うとともに、前記第2比較値に関する条件が満たされているか否かに関する第2の判定とを行い前記第1の判定及び前記第2の判定の組合せに基づいて前記薬剤の腫瘍への集積を評価する評価部と、
を備える解析装置。
【請求項2】
前記第1比較値は、前記血液領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の検出値との比である、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記第2比較値は、前記筋肉領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の前記検出値との比である、請求項1に記載の解析装置。
【請求項4】
コンピュータに、
腫瘍に集積することで効果を発揮する抗癌剤に、放射性標識を施した薬剤が投与された被検体に関するCT画像及び核医学画像を取得する取得機能と、
前記CT画像に基づいて、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域を指定する関心領域の設定を受け付ける受付機能と、
前記設定された関心領域に基づいて、前記核医学画像から、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域内の検出値を抽出する抽出機能と、
前記血液領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の前記検出値の比較結果である第1比較値と、前記筋肉領域内の前記検出値と前記腫瘍領域内の前記検出値の比較結果である第2比較値を算出する算出機能と、
記第1比較値に関する条件が満たされているか否かに関する第1の判定を行うとともに、前記第2比較値に関する条件が満たされているか否かに関する第2の判定とを行い前記第1の判定及び前記第2の判定の組合せに基づいて前記薬剤の腫瘍への集積を評価する評価機能と、
を実現させるための解析プログラム。
【請求項5】
前記評価部は、前記第1の判定及び前記第2の判定の組合せに基づいて、前記薬剤の腫瘍への集積を3以上の段階で評価する、請求項1~3のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記受付部は、表示部に表示された前記CT画像と前記核医学画像との重ね合わせ画像において前記関心領域を設定する操作を操作者から受け付ける、請求項1~3、5のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記受付部は、前記CT画像に対するセグメンテーション処理に基づいて前記関心領域の設定を受け付ける。請求項1~3、5のいずれか一項に記載の解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、解析装置および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者に適切な抗がん剤を選択するために、遺伝子やタンパク質といった特定の生体内物質を検出する検査が行われる。特に、代謝拮抗剤である5-FU(Fluorouracil)の薬効予測に関しては、5-FUの阻害標的であるTS(Thymidylate synthase)の発現量と5-FUの感受性との関係が報告されているため、患者の病理組織におけるTSの発現量を評価することで5-FUの薬効をある程度予測することができるとされている。
【0003】
しかしながら、TSの発現量を評価する際には、組織生検で患者の病理組織を得て、得た病理組織を所定の染色法で染色するのが一般的であるので、TSの発現量の評価は、侵襲性の高さゆえに患者への負担が大きい。しかも、組織生検では腫瘍の一部のみを対象とするので、TSの発現量の評価では、不均一性を有する腫瘍に対して5-FUの包括的な体内動態および5-FUの薬効を評価するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-044803号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Johnston PG, Lenz HJ, Leichman CG, Danenberg KD, Allegra CJ, Danenberg PV, Leichman L., Thymidylate synthase gene and protein expression correlate and are associated with response to 5-fluorouracil in human colorectal and gastric tumors., Cancer Res. 1995 Apr 1;55(7):1407-12.
【文献】Tsutani Y, Yoshida K, Sanada Y, Wada Y, Konishi K, Fukushima M, Okada M., Decreased orotate phosphoribosyltransferase activity produces 5-fluorouracil resistance in a human gastric cancer cell line., Oncol Rep. 2008 Dec;20(6):1545-51.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、5-FUの包括的な体内動態および5-FUの薬効を、患者に負担をかけずに評価可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る解析装置は、抽出部と、算出部と、評価部とを備える。抽出部は、腫瘍に集積することで効果を発揮する抗癌剤に、放射性標識を施した薬剤が投与された被検体の核医学画像から、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域内の検出値を抽出する。算出部は、血液領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値の比較結果である第1比較値と、筋肉領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値の比較結果である第2比較値を算出する。評価部は、算出部によって算出された第1比較値および第2比較値に基づいて、薬剤の腫瘍への集積を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る医用画像診断システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る解析装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3図3は、[18F]5-FUの構造式を示す図である。
図4図4は、[18F]5-FUが投与されたDLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスのPET画像の一例を示す図である。
図5図5は、CT画像とPET画像との重ね合わせ画像の一例を示す図である。
図6図6は、[18F]5-FUが投与されたDLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスの腫瘍への[18F]の集積量の経時的変化を示すグラフである。
図7図7は、腫瘍および血液への放射能分布から算出された、DLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスの腫瘍血液比を示すグラフである。
図8図8は、腫瘍および筋肉への放射能分布から算出された、DLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスの腫瘍筋肉比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、解析装置および解析プログラムの実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0010】
(実施形態)
実施形態に係る解析装置は、抽出部と、算出部と、評価部を備える。抽出部は、腫瘍に集積することで効果を発揮する抗癌剤に、放射性標識を施した薬剤が投与された被検体の核医学画像から、腫瘍領域、血液領域、および筋肉領域内の検出値を抽出する。算出部は、血液領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値の比較結果である第1比較値と、筋肉領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値の比較結果である第2比較値を算出する。評価部は、算出部によって算出された第1比較値および第2比較値に基づいて、薬剤の腫瘍への集積を評価する。なお、第1比較値は、血液領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比でも良い。また、第2比較値は、筋肉領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比でも良い。
【0011】
図1は、実施形態に係る医用画像診断システムの構成例を示すブロック図である。図1に示すように、実施形態に係る医用画像診断システム10は、医用画像診断装置100と、解析装置200とを備える。医用画像診断装置100と解析装置200は、例えば院内LAN(Local Area Network)等のネットワーク300を介して通信可能に接続されている。
【0012】
ここで、以下の実施形態では、医用画像診断装置100として、PET(Positron Emission computed Tomography)装置とX線CT(Computed Tomography)装置とが一体化されたPET-CT装置が適用される場合を説明するが、実施形態はこれに限定されず、例えば、医用画像診断装置100としてPET装置が適用されてもよい。また、医用画像診断装置100としてPET装置が適用される場合、医用画像診断システム10は、医用画像診断装置100とは別の医用画像診断装置としてX線CT装置をさらに備えてもよい。
【0013】
医用画像診断装置100は、医用画像を撮像する装置である。医用画像診断装置100は、被検体の体内が描出された医用画像を撮像し、撮像した医用画像を解析装置200に送信する。例えば、医用画像診断装置100は、陽電子放出核種18Fで標識された抗がん剤5-FU([18F]5-FU)が投与された、腫瘍を有する被検体の体内が描出されたPET画像を撮像し、撮像したPET画像を解析装置200に送信する。より詳細には、医用画像診断装置100は、[18F]5-FUが投与され、投与から一定時間経過後の、腫瘍を有する被検体のPET画像を撮像し、撮像したPET画像を解析装置200に送信する。また、医用画像診断装置100は、腫瘍を有する被検体の体内が描出されたCT画像を撮像し、撮像したCT画像を解析装置200に送信する。被検体には、5-FU分解酵素阻害剤が[18F]5-FUと共に投与されてもよい。なお、[18F]5-FUは、腫瘍に集積することで効果を発揮する抗癌剤である5-FUに、放射性標識を施した薬剤の一例である。また、被検体は、腫瘍を有するか否かが不明なものでも良い。また、PET画像は、核医学画像の一例である。
【0014】
解析装置200は、ネットワーク300を介して、医用画像を取得し、取得した医用画像を用いた種々の処理を実行する。例えば、解析装置200は、ネットワーク300を介して、[18F]5-FUが投与された、腫瘍を有する被検体のPET画像およびCT画像を取得し、取得したPET画像およびCT画像を用いた種々の処理を実行する。解析装置200は、5-FUの包括的な体内動態および5-FUの薬効を、患者に負担をかけずに評価可能にするための処理機能を実行する。解析装置200は、例えば、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。
【0015】
図1に示すように、解析装置200は、ネットワークインタフェース201と、入力インタフェース202と、ディスプレイ203と、記憶回路204と、処理回路205とを有する。ネットワークインタフェース201、入力インタフェース202、ディスプレイ203、記憶回路204、および処理回路205は、互いに接続されている。
【0016】
ネットワークインタフェース201は、医用画像を受信する。ネットワークインタフェース201によって受信された医用画像は、記憶回路204に格納される。
【0017】
入力インタフェース202は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路205に出力する。例えば、入力インタフェース202は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等によって実現される。なお、入力インタフェース202は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、解析装置200とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路205へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース202の例に含まれる。
【0018】
ディスプレイ203は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ203は、処理回路205による制御の下、医用画像等を表示する。ディスプレイ203は、入力インタフェース202を介して操作者から各種指示や各種設定等を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。例えば、ディスプレイ203は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。ディスプレイ203は、デスクトップ型でもよいし、解析装置200本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。ディスプレイ203は、表示部の一例である。
【0019】
記憶回路204は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。なお、記憶回路204は、ハードウェアによる非一過性の記憶媒体としても用いられる。記憶回路204は、取得した医用画像データを記憶する。また、例えば、記憶回路204は、解析装置200に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。記憶回路204は、記憶部の一例である。
【0020】
処理回路205は、解析装置200の処理全体を制御する。より詳細には、処理回路205は、表示制御機能205aと、受付機能205bと、抽出機能205cと、算出機能205dと、評価機能205eとを有する。表示制御機能205aは、表示制御部の一例である。受付機能205bは、受付部の一例である。抽出機能205cは、抽出部の一例である。算出機能205dは、算出部の一例である。評価機能205eは、評価部の一例である。
【0021】
ここで、例えば、処理回路205の構成要素である表示制御機能205a、受付機能205b、抽出機能205c、算出機能205d、および評価機能205eの各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路204に記憶されている。処理回路205は、各プログラムを記憶回路204から読み出し、読み出した各プログラムを実行することで、各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路205は、図1の処理回路205内に示された各機能を有することとなる。なお、図1においては、単一の処理回路205にて、表示制御機能205a、受付機能205b、抽出機能205c、算出機能205d、および評価機能205eの各処理機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路205を構成し、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。
【0022】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。なお、記憶回路204にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0023】
表示制御機能205aは、各種のGUIまたは医用画像等をディスプレイ203に表示させる。例えば、表示制御機能205aは、各種のGUI、PET画像、CT画像、またはPET画像とCT画像との重ね合わせ画像等をディスプレイ203に表示させる。
【0024】
受付機能205bは、入力インタフェース202を介して、操作者による各種の操作を受け付ける。例えば、受付機能205bは、入力インタフェース202を介して、操作者による、組織領域内に関心領域を設定する操作を受け付ける。より詳細には、受付機能205bは、入力インタフェース202を介して、操作者による、腫瘍領域、心臓領域、および筋肉領域内に関心領域を設定する操作を受け付ける。受付機能205bは、受け付けた関心領域を、抽出機能205cに送出する。なお、心臓領域は、血液領域の一例である。
【0025】
抽出機能205cは、[18F]5-FUが投与された、腫瘍を有する被検体のPET画像から、組織領域内に設定された関心領域内の放射能値を抽出する。例えば、抽出機能205cは、[18F]5-FUが投与された、腫瘍を有する被検体のPET画像から、腫瘍領域内に設定された関心領域(腫瘍関心領域)、心臓領域内に設定された関心領域(心臓関心領域)、および筋肉領域内に設定された関心領域(筋肉関心領域)内の放射能値(例えば放射能平均値など)を抽出する。なお、放射能値は、検出値の一例である。
【0026】
算出機能205dは、抽出機能205cによって抽出された、腫瘍関心領域、心臓関心領域、および筋肉関心領域内の放射能値から、心臓関心領域内の放射能値に対する腫瘍関心領域内の放射能値の比である第1の比および筋肉関心領域内の放射能値に対する腫瘍関心領域内の放射能値の比である第2の比を算出する。なお、第1の比は、血液領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比の一例である。また、第2の比は、筋肉領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比の一例である。
【0027】
評価機能205eは、算出機能205dによって算出された第1の比および第2の比から、腫瘍への[18F]5-FUの集積の特異性を評価する。例えば、評価機能205eは、算出機能205dによって算出された第1の比および第2の比を所定の閾値(例えば1など)と比較することにより、腫瘍に[18F]5-FUが集積しやすい傾向があるかを評価する。なお、閾値は、例えば、一定数の患者から得た第1の比および第2の比を基に設定してもよい。また、第1の比および第2の比から特異性を評価することは、血液領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比および筋肉領域内の検出値と腫瘍領域内の検出値との比に基づいて薬剤の腫瘍への集積を評価することの一例である。
【0028】
つぎに、実施形態に係る解析装置200が実行する処理の流れの一例について説明する。図2は、実施形態に係る解析装置200が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、この説明では、腫瘍を有する被検体に[18F]5-FUを投与し、投与から一定時間経過後の被検体を医用画像診断装置100によって撮像することによって得たPET画像およびCT画像が、記憶回路204に予め格納されていることを前提とする。
【0029】
まず、表示制御機能205aは、記憶回路204に格納されているCT画像を、ディスプレイ203に表示させる(S1)。なお、表示制御機能205aは、PET画像とCT画像との重ね合わせ画像を、ディスプレイ203に表示させてもよい。
【0030】
操作者は、ディスプレイ203に表示されているCT画像から、被検体の腫瘍、血液プールとしての心臓、および筋肉の位置を確認する。操作者は、入力インタフェース202を介して、画像中の腫瘍領域、心臓領域、および筋肉領域内に関心領域を設定する操作を行う。なお、ディスプレイに203に重ね合わせ画像が表示されている場合は、操作者は、重ね合わせ画像から、被検体の腫瘍、血液プールとしての心臓、および筋肉の位置を確認し、画像中の腫瘍領域、心臓領域、および筋肉領域内に関心領域を設定する操作を行う。
【0031】
つぎに、受付機能205bは、操作者による、腫瘍領域、心臓領域、および筋肉領域内への関心領域の設定を受け付け、受け付けた関心領域(腫瘍関心領域、心臓関心領域、および筋肉関心領域)の設定を抽出機能205cに送出する(S2)。
【0032】
ここで、関心領域の設定は、手動で行うことに限らず、自動で行ってもよい。例えば、公知のセグメンテーション処理により画像内の構造物の輪郭を抽出し、抽出した輪郭の位置や形状に基づいて、画像内に関心領域を設定することができる。
【0033】
つぎに、抽出機能205cは、PET画像から、設定された腫瘍関心領域、心臓関心領域、および筋肉関心領域内の放射能平均値を抽出する(S3)。
【0034】
つぎに、算出機能205dは、抽出された腫瘍関心領域、心臓関心領域、および筋肉関心領域内の放射能平均値から、心臓関心領域内の放射能平均値に対する腫瘍関心領域内の放射能平均値の比である第1の比および筋肉関心領域内の放射能平均値に対する腫瘍関心領域内の放射能平均値の比である第2の比を算出する(S4)。
【0035】
つぎに、評価機能205eは、算出された第1の比および第2の比の両方が所定の閾値より大きければ、腫瘍に[18F]5-FUが集積しやすい傾向があると評価し、算出された第1の比および第2の比の少なくとも一方が所定の閾値より小さければ、腫瘍に[18F]5-FUが集積しやすい傾向がないと評価する(S5)。なお、評価機能205eは、第1の比および第2の比のいずれか一方が所定の閾値より小さければ、腫瘍に[18F]5-FUが集積しやすい傾向が中程度であると評価し、第1の比および第2の比の両方が所定の閾値より小さければ、腫瘍に[18F]5-FUが集積しやすい傾向がないと評価してもよい。
【0036】
そして、医師は、解析装置200によって得られた評価結果を参考にして、評価対象の被検体に、5-FUによる治療を適用するか、それとも5-FUによる治療以外の治療を適用するかを判断することができる。
【0037】
このように、実施形態では、[18F]5-FUが投与された、腫瘍を有する被検体のPET画像から抽出された、腫瘍領域、心臓領域、および筋肉領域内の放射能値から、心臓領域内の放射能値に対する腫瘍領域内の放射能値の比である第1の比および筋肉領域内の放射能値に対する腫瘍領域内の放射能値の比である第2の比を算出し、算出された第1の比および第2の比から、腫瘍への[18F]5-FUの集積の特異性を評価する。このため、実施形態によれば、5-FUの包括的な体内動態および5-FUの薬効を、患者に負担をかけずに評価可能にすることができる。
【0038】
より詳細には、実施形態によれば、5-FUの腫瘍への集積の様子を、患者に負担をかけずに評価可能にすることができる。また、実施形態によれば、5-FUによる治療の効果が期待できない患者への投与を未然に防ぐことが可能であり、延いては、副作用の発生を防止することができる。また、実施形態によれば、5-FUの継続投与による5-FUへの耐性獲得に起因する5-FUの体内動態の変化を、簡便に評価可能にすることができる。また、実施形態によれば、5-FUによる治療の効果が期待できない患者への5-FUの継続投与に伴うがんの進行を防止することができる。また、実施形態によれば、適切な抗がん剤への切り替えの判断に貢献することができる。
【0039】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0040】
(実施例1)[18F]5-FUを用いた5-FUの体内動態の可視化
DLD-1マウス(N=8)およびDLD-1/5-FUマウス(N=8)に対し、以下の手順11~15の実験を行うことで、[18F]5-FUを用いた5-FUの体内動態の可視化を試みた。
【0041】
ここで、DLD-1マウスは、大腸がん細胞株DLD-1由来の腫瘍(腫瘍体積平均107mm)を持つ担癌マウスである。DLD-1/5-FUマウスは、大腸がん細胞株DLD-1/5-FU由来の腫瘍(腫瘍体積平均86mm)を持つ担癌マウスである。DLD-1/5-FUは、DLD-1を5-FU添加培地で培養することにより樹立したものである。DLD-1とDLD-1/5-FUの5-FUに対する感受性は異なり、DLD-1は5-FUに対し感受性があり、DLD-1/5-FUは5-FUに対し耐性がある。
【0042】
[手順11]マウスに、1頭あたり18MBqの[18F]5-FU(図3参照)と1頭あたり10mg/kgのギメラシル(5-FU分解酵素阻害剤)を、尾部静脈へ注射により同時に投与する。なお、[18F]5-FUの投与量18MBqは、5-FUの投与量1.5pg/kgに相当する。
【0043】
[手順12]投与後約45分が経過した時点から、マウスに麻酔を施し、マウスを撮像台に固定する。
【0044】
[手順13]投与後50分が経過したと同時に、PET装置(キヤノンメディカルシステムズ株式会社製)により、スタティックスキャンで10分間、マウスの撮像を行う。
【0045】
[手順14]PET装置による撮像後、マウスが固定されている状態の撮像台を、X線CT装置(キヤノンメディカルシステムズ株式会社製)へ移動し、X線CT装置によりマウスの撮像を行う。
【0046】
[手順15]PET装置およびX線CT装置と接続されているコンピュータに導入されている、関心領域の設定および関心領域内の放射能平均値(%ID/gおよびSUV(Standardized Uptake Value))の抽出が可能な医用画像解析用のビューワー(ソフトウェア)を用いて、PET画像化を行う。具体的には、コンピュータのディスプレイに表示されている、ビューワーにより提供された所定の操作画面において、マウスの体重、[18F]5-FUの投与量、投与時間および撮像開始時間を入力し、画像のコントラストを0.5~2.0%ID/g wtの範囲に設定して、PET画像化を行う。
【0047】
実験により得られたPET画像の一例を図4に示す。図4の(a)に示された画像は、DLD-1マウスのPET画像であり、図4の(b)に示された画像は、DLD-1/5-FUマウスのPET画像である。図中、丸で囲まれた領域は、腫瘍領域に相当する。PET画像により、DLD-1由来の腫瘍とDLD-1/5-FU由来の腫瘍との間での[18F]の集積量の明らかな差異を可視化することができた。
【0048】
(実施例2)腫瘍への[18F]5-FUの集積の特異性の評価
実施例1では、PET画像から、DLD-1由来の腫瘍のみに[18F]の集積が確認された。
【0049】
しかし、マウスの全身への[18F]の滞留量は個体間で差異が生じる場合がある。例えば、全身への[18F]の集積が高い個体では、PET画像で全体的にハイライトされることで、PET画像から腫瘍への特異的な[18F]の集積の有無を判別できない場合がある。逆に、全身への[18F]の集積が低い個体では、実際に腫瘍へは[18F]が集積していないのか、それとも、[18F]の集積の絶対量が少ないが故にPET画像でハイライトされていないのか、を判別できない。
【0050】
そのため、PET画像から腫瘍部位における放射能を定量し、定量した放射能を個体間で比較する必要があると考えられる。
【0051】
しかし、全身への放射能の滞留量は個体ごとに異なっているため、腫瘍に集積した放射能だけを個体間で比較するのは適切ではない。
【0052】
そこで、実施例2では、血液プールとしての心臓、および筋肉における放射能を基準として、心臓における放射能に対する腫瘍における放射能の比(以下「腫瘍血液比」と記す。)および筋肉における放射能に対する腫瘍における放射能の比(以下「腫瘍筋肉比」と記す。)を算出し、算出した腫瘍血液比および腫瘍筋肉比を個体間で比較することで、腫瘍への[18F]の集積の特異性を相対的に評価した。
【0053】
実施例1で用いた各マウスの腫瘍血液比および腫瘍筋肉比を以下の手順21~24で算出し、算出した各マウスの腫瘍血液比および腫瘍筋肉比から、DLD-1マウスの腫瘍血液比の平均値および腫瘍筋肉比の平均値ならびにDLD-1/5-FUマウスの腫瘍血液比の平均値および腫瘍筋肉比の平均値を算出した。
【0054】
[手順21]ビューワーを用いて、マウスのPET画像とCT画像との重ね合わせ画像を生成する。
【0055】
[手順22]重ね合わせ画像(図5参照)を観察しながら、腫瘍、心臓、および筋肉の各領域を判別する。
【0056】
[手順23]ビューワーにより提供された所定の操作画面において、判別した各領域内に関心領域を設定し、ビューワーを用いて、各関心領域内の放射能平均値を抽出する。
【0057】
[手順24]抽出された各関心領域内の放射能平均値から、腫瘍血液比および腫瘍筋肉比を算出する。
【0058】
算出したDLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスの腫瘍血液比の平均値および腫瘍筋肉比の平均値から、腫瘍への[18F]の集積の特異性を評価したところ、腫瘍血液比の平均値については、DLD-1/5-FUマウスで1.07であったのに対し、DLD-1マウスで1.99と有意に高かった(p<0.01)。腫瘍筋肉比の平均値についても、DLD-1/5-FUマウスで1.08であったのに対し、DLD-1マウスで2.14と有意に高かった(p<0.01)。すなわち、DLD-1マウスでは、DLD-1/5-FUマウスと比較して、腫瘍血液比の平均値が約1.86倍、腫瘍筋肉比の平均値が約1.98倍と、いずれも有意に高かった。
【0059】
さらに、PET画像から得られた腫瘍血液比および腫瘍筋肉比についての比較結果の妥当性を検証すべく、解剖で得た組織から得られた腫瘍の放射能値、腫瘍血液比、および腫瘍筋肉比についての比較を行った。具体的には、投与後10分、投与後30分、投与後60分、および投与後240分のタイムポイントごとに、DLD-1マウスおよびDLD-1/5-FUマウスを4頭ずつ用意し、各マウスに対し、以下の手順31~34の実験を行うことで、腫瘍の放射能値についてのDLD-1マウスとDLD-1/5-FUマウスとの定量的な比較ならびに腫瘍血液比および腫瘍筋肉比についてのDLD-1マウスとDLD-1/5-FUマウスとの定量的な比較を行った。なお、解剖で得た組織から腫瘍血液比を得るにあたっては、心臓における放射能ではなく実際に採取した血液における放射能を基準としたので、解剖で得た組織から得られた腫瘍血液比は、血液における放射能に対する腫瘍における放射能の比である。
【0060】
[手順31]マウスに、1頭あたり1.8MBqの[18F]5-FUと1頭あたり10mg/kgのギメラシルを、尾部静脈へ注射により同時に投与する。
【0061】
[手順32]タイムポイントが経過したら速やかにマウスを解剖し、各組織(腫瘍、血液、筋肉、肺、および骨など)への放射能の分布を解析する。具体的には、マウスを解剖してマウスから各組織を分離し、分離した各組織の重量および分離した各組織に含有する放射能値を測定する作業を、速やかに行う。
【0062】
[手順33]測定した各組織の重量および各組織に含有する放射能値から、各組織の単位重量あたりの放射能値を算出する。
【0063】
[手順34]算出した腫瘍の放射能値、血液の放射能値および筋肉の放射能値から、腫瘍血液比および腫瘍筋肉比を算出する。
【0064】
比較の結果、DLD-1マウスでは、DLD-1/5-FUマウスと比較して、[18F]の集積量の平均値(%ID/g)が2.0倍(図6に示す折れ線グラフにおける投与後経過時間60分に対応する点を参照)、腫瘍血液比の平均値が1.6倍(図7に示す、「60min」との表記に対応する棒グラフを参照)、腫瘍筋肉比の平均値が1.9倍(図7に示す、「60min」との表記に対応する棒グラフを参照)と、いずれも有意に高かった(p<0.01)。
【0065】
図6に示すように、投与後10分、投与後30分および投与後240分でも、DLD-1マウスの集積量がDLD-1/5-FUマウスのそれを上回っていた。より詳細には、投与後10分と投与後240分では、DLD-1マウスの集積量は、DLD-1/5-FUマウスのそれと有意な差はなかったが、投与後30分では、DLD-1マウスの集積量は、DLD-1/5-FUマウスのそれより有意に高かった(p<0.01)。また、図7および図8に示すように、投与後10分、投与後30分および投与後240分でも、DLD-1マウスの腫瘍血液比および腫瘍筋肉比がDLD-1/5-FUマウスのそれを上回っていた。より詳細には、投与後10分と投与後240分では、DLD-1マウスの腫瘍血液比および腫瘍筋肉比は、DLD-1/5-FUマウスのそれと有意な差はなかったが、投与後30分後では、DLD-1マウスの腫瘍血液比および腫瘍筋肉比は、DLD-1/5-FUマウスのそれより有意に高かった(p<0.01)。
【0066】
実施例1および実施例2により、PET画像から得られた組織への放射能の体内分布と実際の組織への放射能の体内分布との比較結果に相関が見られたことから、マウスにおいて、[18F]5-FUを用いた5-FUの体内動態の可視化および腫瘍への[18F]5-FUの集積の特異性の評価が可能であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0067】
10 医用画像診断システム
100 医用画像診断装置
200 解析装置
201 ネットワークインタフェース
202 入力インタフェース
203 ディスプレイ
204 記憶回路
205 処理回路
205a 表示制御機能
205b 受付機能
205c 抽出機能
205d 算出機能
205e 評価機能
300 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8