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特許7589954LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜
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  • 特許-LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241119BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241119BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20241119BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241119BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/00 D
C09D7/65
C09D201/00
C09D183/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023124168
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】507381455
【氏名又は名称】株式会社フェクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(74)【代理人】
【識別番号】100119747
【弁理士】
【氏名又は名称】能美 知康
(72)【発明者】
【氏名】安田 海人
(72)【発明者】
【氏名】大山 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】草野 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 友理
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 充人
(72)【発明者】
【氏名】平川 一成
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/031221(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/031222(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/205639(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/015815(WO,A1)
【文献】特許第7178059(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2020/0216679(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内壁面に形成されたLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物であって、
結合剤としての樹脂成分に近赤外線反射性顔料が配合された下塗り塗膜形成用塗料と、
結合剤としてのシリコーン樹脂に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子が配合された上塗り塗膜形成用塗料と、
からなることを特徴とする、LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物。
【請求項2】
前記下塗り塗膜形成用塗料は、
前記結合剤としての樹脂成分としてアクリルシリコーン樹脂を含み、
前記近赤外線反射性顔料として、前記下塗り塗膜形成用塗料全量に対し、20~30質量%の無機系白色系顔料及び1~10質量%の無機系黒色系顔料を含む、
ことを特徴とする、請求項1に記載のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物。
【請求項3】
前記上塗り塗膜形成用塗料は、
前記重合性モノマーから形成された光拡散微粒子として、架橋ポリメタクリル酸メチル微粒子、架橋ポリスチレン微粒子又は架橋ポリメタクリル酸メチル-スチレン共重合体微粒子を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物を用いて形成された塗膜であって、
前記下塗り塗膜形成用塗料を用いて形成された下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜の表面に、前記上塗り塗膜形成用塗料を用いて形成された上塗り塗膜と、
の複層構造の塗膜からなることを特徴とする、LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内を走行するLiDAR(Light Detection And Ranging)センサーを搭載した自動運転車に対し、トンネル構造物表面保護に用いられている塗膜として乱反射性を有した塗膜を形成することにより、LiDARセンサーに対するトンネル内の位置情報の検出精度を向上させることができる塗膜形成用塗料組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転車両の自車位置推定方法には,路面に埋め込んだ磁気マーカー等を車両に設置したセンサーにより検出する方法、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)による位置推定方法、三次元点群地図とLiDARで位置を参照する方法等が用いられている。しかし、トンネル区間ではGNSSが受信できず,トンネルの形状が単調であるために長距離になるほど三次元点群地図では位置誤差が大きくなるという課題が存在している。加えて、自動運転車が道路上の他車や歩行者、障害物などを検知して減速することができるようにするため、より遠く、より広い範囲で、かつスピーディーで高精度に検知できるようにすることが必要とされる。
【0003】
LiDARセンサーは、レーザー光を照射し、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術であり、周波数30~300GHzのミリ波を使用するレーダーによるものよりも高精度に人や障害物を検知することができるため、自動車の自動運転を支援するシステムで多く使用されるようになっている。LiDARセンサーには、波長905~1550nmの近赤外線が多く用いられており、LiDARセンサーに検出されやすくするには、この波長帯域の光を吸収しがたく、より効率的に反射させる光学特性が必要となる。そのため、LiDARセンサーに最適な塗料ないし塗膜の開発が要望されている。
【0004】
たとえば、特許文献1(特開2021-075454号公報)には、LiDARセンサーを使用する自動運転車の障害物検出感度を向上させることができる黒色二酸化チタンLiDAR反射粒子及びそれを有する乗物の発明が開示されている。この特許文献1に開示されている発明は、結晶質二酸化チタンコア、前記結晶質二酸化チタンコアを内包している非晶質二酸化チタンシェルを含有しており、かつ、可視スペクトルにおける電磁放射線に対する15%以下の反射率、及び近赤外電磁放射線及びLiDAR電磁放射線に対する10%以上の反射率を有している黒色二酸化チタン、及びこれを用いた塗料並びに塗膜が記載されており(請求項1、16、実施例1、2、図1B)、波長905ナノメートルのパルスレーザ電磁放射線を用いたLiDARシステムにより、自動運転乗物の障害物検出及び回避するシステムが試験されていること(段落0002)、上記LiDAR反射黒色TiO2粒子が905nmまたは1550nm等の近赤外電磁放射線またはLiDAR電磁放射線を使用するLiDARシステムによって検出することができること(段落0060、0061)も開示されている。
【0005】
また、特許文献2(特許第7178059号公報)には、塗膜形成樹脂(A)と着色顔料(B)を含むLiDARセンサーの検出対象物用塗料組成物であって、前記着色顔料(B)は、近赤外反射率60%以白の色系顔料及び近赤外反射率50%以上の有彩色顔料のうちの少なくとも1種と、任意量の近赤外反射率30%以上の黒色顔料と、有機顔料とを含近赤外線反射性顔料(B1)を含み、前記有機顔料の含有割合が前記含近赤外線反射性顔料(B1)の総量の3質量%以上であるLiDARセンサーの検出対象物用塗料組成物の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-075454号公報
【文献】特許第7178059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている発明によれば、LiDARセンサーを用いた、乗物(請求項19,20参照)の検出精度を向上させることができる塗料を提供することができるようになる。また、特許文献2に開示されている発明によれば、LiDARセンサーを用いた自動車の自動運転の際に障害となり得る構造物、たとえば、車輌、舗装、路面標示、歩道、横断歩道、排水施設、平面交差構造、橋梁等の各種道路構造物に対する検出精度を向上させることができる塗料組成物及び塗膜を形成することができるようになる。
【0008】
一方、トンネル内壁面をLiDARセンサーで高精度に検知できるようにするには、内壁面に対して反射角度が90°以下の鋭角な角度の反射光強度が強くなるようにする必要があるが、特許文献1にはトンネルの内壁の塗料とすることについては何も示唆されておらず、さらに特許文献2にはトンネルの内壁の塗料とすることも示唆されている(段落0144参照)が、トンネル内壁に適用する際の具体的な条件ないし特性についてはなにも開示されていない。
【0009】
発明者等は、LiDARセンサーで高精度に検知できるトンネルの内壁面に形成する塗膜の構成について種々検討を重ねてきた。なお、このようなLiDARセンサーに対応させるためのトンネル内壁面の塗膜は、道路法第2条第2項第5号に掲げる「道路の附属物」中の「自動運行補助施設」に該当するから、既設のトンネル内壁面の塗膜部分からの一般ドライバーの誘目性を防ぐことができるようにする必要があり、既設のトンネル内壁面の塗膜部分と同色、同光沢とすることも要求される。その結果、近赤外線反射材料を含有し、有機顔料を含まない特定の下塗り塗膜と、特定の光拡散微粒子を含む上塗り塗膜との複層構造の塗膜とすることにより、道路法上の規定を満たしつつ、近赤外線の乱反射性が良好となり、反射角45°以下でも近赤外線の反射強度を強くすることができるため、LiDARセンサーによってトンネル内壁面を高精度に検知できるようになることを見出し、本発明を完成するに到ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、トンネル内の内壁面に特定の複層構造の塗膜を形成することにより、トンネル内を走行するLiDARセンサーを搭載した自動運転車において、トンネル内壁面を高精度に検知することができるようになるLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、トンネル内壁面に形成されたLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物であって、結合剤としての樹脂成分に近赤外線反射性顔料が配合された下塗り塗膜形成用塗料と、結合剤としてのシリコーン樹脂に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子が配合された上塗り塗膜形成用塗料と、からなることを特徴とする、LiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物が提供される。
【0012】
本発明のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物においては、下塗り塗膜形成用塗料は、結合剤としての樹脂成分と、近赤外線反射性顔料と、を含有している。
【0013】
下塗り塗膜形成用塗料の結合剤としての樹脂成分は、近赤外線反射性顔料の分散性が良好で、近赤外線の透過性が良好なものであれば使用し得る。樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル変性ウレタン樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの結合剤としての樹脂成分は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの樹脂成分のなかでは、上塗り塗膜の結合剤としてのシリコーン樹脂との密着性も優れていることから、アクリルシリコーン系樹脂が好ましい。アクリルシリコーン系樹脂原料としては、たとえば、アクリルシリコーンエマルジョンであるボンコートSA-6360(商品名、DIC(株)製)、LDM7523(商品名、ジャパンコーティングレジン(株)製)などを使用し得る。
【0014】
また、下塗り塗膜形成用塗料が水性塗料である場合には、溶媒として、水をはじめ、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。この場合の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールなどが挙げられる。さらに下塗り塗料が溶剤型塗料である場合には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、イソノナンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル系溶媒などを用いることができる。
【0015】
また、この下塗り塗膜形成用塗料に含有されている近赤外線反射性顔料は、トンネル内壁に形成される塗膜としては新設時には白色が採用されても汚れ等の経時変化によりグレーに変化していくため、新設及び既存改修のどちらにも対応できるようにするため、白色系顔料及び黒色系顔料を適宜に組み合わせて用いることが好ましい。なお、近赤外線反射性顔料には、無機系近赤外線反射性顔料と有機系近赤外線反射性顔料とがあるが、LiDARに使用される近赤外領域における光線の反射性に優れていることから、無機系近赤外線反射性顔料が好ましい。
【0016】
無機系白色系顔料としては、例えば、赤外線遮蔽酸化チタンであるJR-1000(商品名、テイカ(株)製)、TIPAQUE CR-97、TIPAQUE CR-95(いずれも商品名、石原産業(株)製)、タイピュア R-902(商品名、デュポン社製)等を挙げることができる。無機系黒色系顔料としては、例えば、タイペークブラックSG-101(商品名、石原産業(株)製、(Ca,Ti,Mn)O)、TMブラック3550(商品名、Cu(Fe,Mn)O、大日精化(株))、IRR Black 6340(商品名、(Fe,Cr)O、旭化成(株))などの複合酸化物からなるものが挙げられる。これらの無機系白色系顔料及び無機系黒色系顔料は共に近赤外線反射性顔料であるから、下塗り塗膜の色が白色となるようにしても、グレーとなるようにしても、実質的に同等の近赤外線反射性を備えるようにすることが可能である。
【0017】
なお、下塗り塗膜形成用塗料中の近赤外線反射性顔料の含有量は、新設時ないし補修時のトンネル内壁の色に対応した色となるように無機系白色系顔料の含有割合を多くして無機系黒色系顔料の含有割合を所定の明度となるように添加して調製すれば良い。無機系白色系顔料の含有割合の最小値は、下塗り塗膜の近赤外反射率を向上させる観点から下塗り塗膜形成用塗料全量に対して20質量%以上とすることが好ましく、上限は上塗り塗膜との密着性向上の観点及び下塗り塗膜形成時の作業性維持の観点から30質量%以下とすることが好ましい。同様に、無機系黒色系顔料の含有割合の最小値は、新設時に要求される明度により変化するが、完全な白色は望まれていないことから下塗り塗膜形成用塗料全量に対し、1質量%以上が好ましく、上限はどの程度経時変化したトンネル内壁に適用するかによっても変化するが、あまり汚れがひどくなった場合は全面的に塗り替えが行われると考えられるため、10質量%以下であれば大部分のトンネル内壁の補修に対してもできるようになると思われる。従って、好ましい、前記下塗り塗膜形成用塗料全量に対する、近赤外線反射顔料としての無機系白色系顔料の含有割合は20~30質量%であり、同じく無機系黒色系顔料の含有割合は1~10質量%であると思われる。
【0018】
また、下塗り塗膜形成用塗料には、必要により、例えば、前記近赤外線反射性顔料以外の顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、艶消し剤、防かび剤、帯電防止剤、防錆剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、凍結防止剤、造膜助剤などの添加剤を添加しても良い。特に、増粘剤としてはアデカノールUH-420、UH472(何れも商品名、アデカ(株)製)、造膜助剤としては、テキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を使用し得る。
【0019】
この様な組成の下塗り塗膜形成用塗料は、上述した結合剤としての樹脂成分、近赤外線反射性顔料、溶媒、及び必要により添加される添加剤を混合することによって調製することができる。その際、下塗り塗料中に近赤外線反射性顔料を均一に分散させる観点から、例えば、ロールミル、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバーなどの分散機を用いて分散させることが好ましい。
【0020】
下塗り塗膜形成用塗料をトンネル内壁面に塗布する方法としては、例えば、エアースプレー法、ローラー塗装法などを採用し得る。形成される乾燥後の下塗り塗膜の厚さは、一般的には20~50μm程度でよい。下塗り塗膜形成用塗料をトンネル内壁面に塗布した後に、半日から1日程度大気中で放置することによって自然乾燥させることにより、本発明の下塗り塗膜を形成することができる。
【0021】
本発明のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物においては、以上のようにしてトンネル内壁面に形成された下塗り塗膜の表面に、下塗り塗膜中の近赤外線反射性顔料によって反射された近赤外光をトンネル内壁面に沿う方向に反射される成分が多くなるように乱反射(分散反射)させるための上塗り塗膜を形成するための上塗り塗膜形成用塗料が含まれる。この上塗り塗膜形成用塗料としては、結合剤としてのシリコーン樹脂中に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子が配合されているものが用られる。
【0022】
シリコーン樹脂としては、オルガノポリシロキサン、シリコーンオリゴマー等と総称されているものや、室温硬化型のもの、硬化剤ないし硬化触媒と反応させるもの等も含み、オルガノポリシロキサンにシランカップリング剤としてのアルコキシシランを混合したもの等も使用し得る。これらのシリコーン樹脂、硬化剤ないし硬化触媒は、いずれも市販のものから適宜に選択して使用することができる。
【0023】
さらに、上塗り塗膜形成用塗料中に配合される重合性モノマーから形成された光拡散微粒子は、核(シード)となる微粒子を予め合成し,これにモノマーを 強制的に供給して重合することにより得たものであり、既に公知のものである。この重合性モノマーから形成された光拡散微粒子はとしては、架橋ポリメタクリル酸メチル微粒子であるテクポリマー(登録商標名)MBXシリーズ、架橋ポリスチレン微粒子であるテクポリマーSBXシリーズ、架橋ポリメタクリル酸メチル-スチレン共重合体微粒子であるテクポリマーMSX(SMX)シリーズ(いずれも商品名、積水化成工業(株)製)のものを使用し得る。
【0024】
なお、上塗り塗膜形成用塗料中に配合される重合性モノマーから形成された光拡散微粒子の好ましい含有割合の下限は、用いる結合剤としてのシリコーン樹脂の組成、成分等によっても変化するため必ずしも臨界的意義は明確ではないが、少なすぎても近赤外光乱反射効率が低くなりすぎて所定のLiDARセンサーによる易検出性を達成できないので、上塗り塗膜を構成する結合剤全量(硬化剤を使用する結合剤の場合はこれも含む。)に対し、1.0質量%以上が好ましい。同じく上限は、上塗り塗膜形成用塗料を用いた上塗り塗膜形成時の作業性の観点から、20.0質量%以下が好ましい。
【0025】
塗り塗膜形成用塗料中に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子を含有させることにより、LiDARセンサーからトンネル内壁面に照射された近赤外光は、上塗り塗膜中でその一部が直接重合性モノマーから形成された光拡散微粒子によって乱反射されると共に、下塗り塗膜内で無機系近赤外線反射性顔料によって反射されてきた近赤外光も乱反射されるため、広い角度範囲に亘って乱反射されるようになる。そのため、本発明のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物を用いて形成された複層構造の塗膜によれば、入射角45°以下でも近赤外線の反射強度を強くなるので、LiDARセンサーによってトンネル内壁面を高精度に検知できるようになる。
【0026】
なお、他の光拡散微粒子としては、たとえば、アルミニウム顔料ないしステンレス顔料等の光輝顔料が知られているが、これらはフレーク状ないし鱗片状のものであるため、近赤外線の反射性は良好であるが、乱反射性については劣るため、本発明の上塗り塗膜用の近赤外線の乱反射材としては適していない。
【0027】
塗り塗膜形成用塗料を塗布する方法としては、例えば、エアースプレー法、ローラー塗装法などが挙げられ、上塗り量を塗布した後に、形成された塗膜を乾燥させることにより透明ガラス質の塗膜とすることができる。形成された塗膜の乾燥は、そのまま大気中に放置することによって行なうことができる。形成される乾燥後の上塗り塗膜の厚さは、3~20μm程度とすることが好ましい。
【0028】
以上のようにして得られる本発明のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物を用いて形成された複層構造の塗膜によれば、トンネル内で自動運転車のLiDARから放射された近赤外光が、トンネル内壁面に形成されている下塗り塗膜に含まれている無機系近赤外線反射性顔料よって反射され、この反射光が上塗り塗膜中に配合されている重合性モノマーから形成された光拡散微粒子によって乱反射されるので、入射角45°以下の入射光でも乱反射される成分が多くなる。その結果として、トンネル内を進行している自動運転車両に設けられているLiDARセンサーから放射されてトンネルに内壁面に照射された近赤外光のうち、乱反射されて自動運転車両側に戻る成分が多くなるので、LiDARセンサーによって検出されるトンネル内の位置情報の検出精度が向上する。
【0029】
しかも、上塗り塗膜は、無機系ガラス質膜からなっているので、特に下塗り塗膜の樹脂成分がアクリルシリコーン樹脂の場合には下塗り塗膜との接着性も極めて良好となり、さらに、トンネル内壁に排気ガスや汚れが付着しがたくなり、また、中性化や塩害、凍害等に対する保護性や耐久性、不燃性等も備えている。そのため、本発明のLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物を用いて形成された複層構造の塗膜を、トンネル内壁だけでなく、コンクリート打ち放し壁面、閉所壁面、各種構造物や各種材料等の表面保護に適用しても、排気ガスや降雨による汚れが付きにくくなり、しかも、廃棄や燃却時に有害物質が発生しない環境に配慮したLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜となる。
【0030】
加えて、下塗り塗膜形成用塗料中の無機系近赤外線反射性顔料である白色系顔料及び黒色系顔料のそれぞれの含有割合を適宜に変更することにより、既設のトンネル内壁面の塗膜部分からの一般ドライバーの誘目性を防ぐことができるようなるので、道路法上の規定を満たしつつ、LiDARセンサーによってトンネル内壁面を高精度に検知できるLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜を提供することができるようになる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明によれば、LiDARセンサーによってトンネル内壁面を高精度に検知できるLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1(a)~(c)はそれぞれ入射角90°、45°及び20°となるように塗装片を配置した状態を示す側面図、図1(A)~(C)はそれぞれ図1(a)~(c)に対応する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料組成物及び塗膜について、実施例及び各種比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこの実施例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0034】
[下塗り塗膜の作成]
実施例及び比較例1~3に共通する下塗り塗膜形成用塗料は次のようにして調製した。まず、アクリルシリコーンエマルジョン ボンコートSA-6360(商品名、DIC(株)製)50g、造膜助剤としてテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)を2.0g、増粘剤としてアデカノールUH-420を1.0g、イオン交換水を18.0g、近赤外線反射性白色顔料として無機系白色系顔料であるタイペークPFR404(商品名、石原産業(株)製)を25.0g(下塗り塗膜形成用塗料全量に対し25.0質量%に対応)、近赤外線反射性黒色顔料として無機系黒色系顔料であるタイペークブラックSG-101を4.0g(同じく4.0質量%に対応)を、500mLビーカーに取り、ディゾルバーによって十分に撹拌し、下塗り塗膜形成用塗料を調製した。この下塗り塗膜形成用塗料を、縦75mm、横150mm、厚さ4mmの冷間圧延鋼板を用い、この鋼板の一方表面上にエアースプレー法によって乾燥後の厚さが30μm程度となるように吹き付け、大気中で半日自然乾燥し、4件の実施例及び比較例1~3用の下塗り塗膜を形成した試料を作成した。
【0035】
[上塗り塗膜の作成]
実施例及び比較例1~3の上塗り塗膜形成用塗料はそれぞれ次のようにして調製した。実施例の上塗り塗膜形成用塗料は、シリコーン樹脂として中重合度メチル系オリゴマーであるKR-500(商品名、信越化学工業(株)製)を95.0g、硬化触媒としてD-20(商品名、信越化学工業(株)製)を5.0g、アクリル系光拡散ビーズ テクポリマーMBX-5(商品名、積水化成品工業(株)製)を5.0g、500mLビーカーに取り、ディゾルバーによって十分に撹拌し、実施例の上塗り塗膜形成用塗料を調製した。
【0036】
また、アクリル系光拡散ビーズを使用しなかった以外は実施例の場合と同様にして比較例1の上塗り塗膜形成用塗料を調製した。また、アクリル系光拡散ビーズに変えてアルミニウム顔料であるアルミニウムペーストBP-5650(商品名、東洋アルミニウム(株)製)を5.0g用いた以外は実施例の場合と同様にして比較例2の上塗り塗膜形成用塗料を調製した。さらに、アクリル系光拡散ビーズに変えてステンレス顔料であるステンレス鋼フレークRFA-4000(商品名、東洋アルミニウム(株)製)を5.0g用いた以外は実施例の場合と同様にして比較例3の上塗り塗膜形成用塗料を調製した。
【0037】
そして、上述のようにして作成された4件の下塗り塗膜を形成した試料の表面上に、上述のようにして調製された実施例及び比較例1~3の上塗り塗膜形成用塗料を、それぞれエアースプレー法によって乾燥後の厚さが10μm程度となるように吹き付け、大気中で1週間自然乾燥し、実施例及び比較例1~3の下塗り塗膜及び上塗り塗膜の複層構造を有する塗膜を形成した塗装片を作成した。
【0038】
このようにして調製された実施例及び比較例1~3のそれぞれの下塗り塗膜形成用塗料及び上塗り塗膜形成用塗料のそれぞれの組成を下記表1にまとめて示した。
【表1】
【0039】
[近赤外線反射特性の測定]
上述のようにして作成された実施例及び比較例1~3の下塗り塗膜及び上塗り塗膜を形成したそれぞれの塗装片に対し、LiDARセンサーとして全方位3D-LiDARセンサー VLP-16(商品名、Velodyne Lider社製)を用いて次のようにして入射角90°、45°及び20°の近赤外線の反射光強度を測定した。まず、Liderセンサー10の正面から5m離間してして、図1(a)~(c)及び図1(A)~(C)に示したように、実施例及び比較例1~3のそれぞれの塗装片11を配置した。なお、図1(a)~(c)はそれぞれ入射角90°、45°及び20°となるように塗装片を配置した状態を示す側面図、図1(A)~(C)はそれぞれ図1(a)~(c)に対応する平面図である。
【0040】
そして、実施例及び比較例1~3のそれぞれの塗装片11に対し、LiDARセンサー10から所定の入射角で近赤外光を照射して反射光強度を測定した。用いたLiDARセンサーでは、反射光は2次元カラー画像で表示され、反射光強度が強く出る部分は赤色となり、弱くなるに従い、緑色→青色と変化する。信号受信強度としては、青色は30%以下、水色は50~30%、緑色は65~50%、黄色は80~65%、赤色は100~80%となる。
【0041】
このようにして測定した実施例及び比較例1~3のそれぞれの塗装片11に対するそれぞれ入射角90°、45°及び20°の反射光強度の測定結果を下記表2に示した。
【表2】
【0042】
表2に示した結果から以下のことが分かる。入射角度90°の場合、実施例及び比較例1~3の全ての塗装片の全てについて、LiDARセンサーによる検出結果は赤色となっており、近赤外反射光の受信強度は100~80%となっている。このことは、入射角度が90°近傍の場合、上塗り塗膜中に乱反射性粒子の混入の有無により近紫外線の反射性には差異が生じていないことを示している。
【0043】
それに対し、入射角度45°の場合、実施例の試験片では、LiDARセンサーによる検出結果は入射角度90°の場合と同様に赤色となっており、近赤外反射光の受信強度は100~80%となっている。しかしながら、比較例1及び2の試験片では、LiDARセンサーによる検出結果は共に青色と緑色が入り交じった状態となっており、近赤外反射光の受信強度は65~30%となっている。さらに、比較例3の試験片では、LiDARセンサーによる検出結果は青色となっており、近赤外反射光の受信強度は30%以下となっていた。
【0044】
このことは、上塗り塗膜中に乱反射性粒子としてのステンレス顔料を混入した比較例3の場合は、何も乱反射性粒子を混入しない比較例1の場合よりも近赤外光の反射性が劣っており、LiDARセンサーによる近赤外光の検出強度が低下していることを示している。また、上塗り塗膜中に乱反射性粒子としてのアルミニウム顔料を混入した比較例2の場合は、何も乱反射性粒子を混入しない比較例1の場合と近赤外光の乱反射性が同等となっており、実質的にLiDARセンサーによる近赤外光の検出強度の向上に繋がっていない。
【0045】
さらに、入射角度20°の場合、実施例の試験片では、LiDARセンサーによる検出結果は、入射角度90°及び45°の場合と同様に、赤色となっており、近赤外反射光の受信強度は100~80%となっている。それに対し、比較例1~3のいずれも、LiDARセンサーの検出限界となっている。このことから、上塗り塗膜中に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子を添加すると、下塗り塗膜中に含有されている無機系近赤外線反射性顔料によって反射された近紫外光が上塗り塗膜中の重合性モノマーから形成された光拡散微粒子によって乱反射されるため、LiDARセンサーから入射された近赤外光の試験片への入射角度が小さくても、試験片で反射されてLiDARセンサーへ戻る近赤外光が強くなり、受信強度が高くなっていることが分かる。
【0046】
そのため、トンネル内壁面に形成される塗膜として、無機系近赤外線反射性顔料が添加されている下塗り塗膜の表面に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子が添加された上塗り塗膜を設けた複層構造の塗膜を用いると、LiDARセンサーから入射された近赤外光の複層構造の塗膜への入射角度が小さくても、複層構造の塗膜で乱反射されてLiDARセンサーへ戻る近赤外光を強くすることができることがわかる。これにより、LiDARセンサーによってトンネル内壁面を高精度に検知でき、トンネル内の位置情報の検出精度を向上させることができるようになる。
【0047】
さらに、上塗り塗膜は、無機系ガラス質膜からなっているので、特に下塗り塗膜の樹脂成分がアクリルシリコーン樹脂の場合には下塗り塗膜との接着性も極めて良好となり、さらに、トンネル内壁に排気ガスや汚れが付着しがたくなり、また、中性化や塩害、凍害等に対する保護性や耐久性、不燃性等も備えるようになる。加えて、本発明の複層構造の塗膜により、LiDARセンサーによるトンネル内の位置情報の検出精度の向上効果を維持しつつ、既設のトンネル内壁面の塗膜部分と同色、同光沢とすることができるため、既設のトンネル内壁面の塗膜部分からの一般ドライバーの誘目性を防ぐことができるようになる。また、上述のような複層構造の塗膜を、トンネル内壁だけでなく、コンクリート打ち放し壁面、閉所壁面、各種構造物や各種材料等の表面保護に適用しても、排気ガスや降雨による汚れが付きにくくなり、しかも、廃棄や燃却時に有害物質が発生しない環境に配慮したLiDARセンサーによる易検出性を備える複層構造の塗膜となる。
【符号の説明】
【0048】
10:LiDARセンサー
11:試験片
【要約】
【課題】トンネル内を走行するLiDARセンサーを搭載した自動運転車に対し、トンネル構造物表面保護に用いられている塗膜として乱反射性を有した塗膜を形成することにより、LiDARセンサーに対するトンネル内の位置情報の検出精度を向上させることができる塗膜形成用塗料組成物及び塗膜を提供する。
【解決手段】本発明のトンネル内壁面に形成されたLiDARセンサーによる易検出性を備える塗膜形成用塗料は、結合剤としての樹脂成分に近赤外線反射性顔料が配合された下塗り塗膜形成用塗料と、結合剤としてのシリコーン樹脂に重合性モノマーから形成された光拡散微粒子が配合された上塗り塗膜形成用塗料と、からなる。
【選択図】図1
図1