(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/202 20060101AFI20241119BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20241119BHJP
A61K 31/336 20060101ALI20241119BHJP
A61K 31/5575 20060101ALI20241119BHJP
A61K 31/5585 20060101ALI20241119BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20241119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241119BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20241119BHJP
A61P 1/16 20060101ALN20241119BHJP
A61P 3/06 20060101ALN20241119BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20241119BHJP
A61P 7/02 20060101ALN20241119BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20241119BHJP
A61P 11/00 20060101ALN20241119BHJP
A61P 11/06 20060101ALN20241119BHJP
A61P 13/02 20060101ALN20241119BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20241119BHJP
A61P 17/04 20060101ALN20241119BHJP
A61P 17/06 20060101ALN20241119BHJP
A61P 19/10 20060101ALN20241119BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20241119BHJP
A61P 25/08 20060101ALN20241119BHJP
A61P 25/16 20060101ALN20241119BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20241119BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20241119BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20241119BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20241119BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20241119BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20241119BHJP
A61P 37/08 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K31/232
A61K31/336
A61K31/5575
A61K31/5585
A61K47/54
A61P43/00 111
A61P43/00 123
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/06
A61P3/10
A61P7/02
A61P9/10 101
A61P11/00
A61P11/06
A61P13/02
A61P17/00 171
A61P17/04
A61P17/06
A61P19/10
A61P25/04
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P35/00
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2020162311
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019176875
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~令和1年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」研究開発領域、「プリン作動性化学伝達を制御する機能性脂質代謝物の同定とその分子メカニズムに基づく創薬基盤の構築」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 孝明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 百合
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】MakotoARITA,“Omega-3 fatty acid metabolism in controlling inflammation and relateddiseases”,Journal of Lipid Nutrition,2017年,Vol. 26, No. 1,p.27-34,DOI:10.4010/jln.26.27
【文献】有田誠ほか,“ω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の構造と機能”,生化学 / 日本生化学会 編,2008年,第80巻, 第11号,p.1042-1046
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物を有効成分として含有する、小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤
であって、
前記プロドラッグが、前記脂肪酸と炭素数1~20の脂肪族アルコールとのエステルであり、
前記代謝物が、
20-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(20-HEPE)、
18-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)、
15-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(15-HEPE)、
12-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),10(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(12-HEPE)、
11-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),12(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(11-HEPE)、
9-ヒドロキシ-5(Z),7(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(9-HEPE)、
8-ヒドロキシ-5(Z),9(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(8-HEPE)、
5-ヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(5-HEPE)、
5,6-ジヒドロキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-DiHETE)、
8,9-ジヒドロキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-DiHETE)、
11,12-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-DiHETE)、
14,15-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-DiHETE)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-DiHETE)、
5,12,18-トリヒドロキシ-6(Z),8(E),10(E),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E1)、
5,18-ジヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E2)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),15(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E3)、
5,6,15-トリヒドロキシ-7(E),9(E),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(Lipoxin A5)、
17,18-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)、
14,15-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-EpETE)、
11,12-エポキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-EpETE)、
8,9-エポキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-EpETE)、
5,6-エポキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-EpETE)、
16,17-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-hydroxy DPA)、
7,17-ジヒドロキシ-8(E),10(Z),13(Z),15(E),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,17-hydroxy DPA)、
13,14-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-hydroxy DPA)、
10,11-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-hydroxy DPA)、
7,8-ジヒドロキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-hydroxy DPA)、
4,5-ジヒドロキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-hydroxy DPA)、
19,20-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z)-ドコサペンタエン酸(19,20-EpDPA)、
16,17-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-EpDPA)、
13,14-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-EpDPA)、
10,11-エポキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-EpDPA)、
7,8-エポキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-EpDPA)、
4,5-エポキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-EpDPA)、
プロスタグランジンE3、
プロスタグランジンD3、及び
プロスタグランジンI3からなる群から選択される化合物又はその薬学的に許容される塩である、小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤(但し、抗炎症剤、組織保護剤、心臓リモデリング抑制剤、抗アレルギー剤、抗動脈硬化剤、抗血栓剤、及び抗がん剤を除く)。
【化1】
式(1)中、Rは、炭素数が13~19の2価の直鎖炭化水素基であり、2~5個の炭素-炭素二重結合を含む。
【請求項2】
前記脂肪酸が、下記式(2)で示される脂肪酸である、請求項1に記載の阻害剤。
【化2】
式(2)中、aは3~6の整数であり、bは1~13の整数であり、炭素数(3a+b+2)が18~24である。
【請求項3】
前記脂肪酸が、
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)、
4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサヘキサエン酸(DHA)、
9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)、
11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサトリエン酸、
13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサトリエン酸、
10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサテトラエン酸(DTA)、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサヘキサエン酸、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサテトラエン酸、及び
15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサトリエン酸からなる群から選択される化合物である請求項2に記載の阻害剤。
【請求項4】
前記脂肪酸が、
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、及び
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)からなる群から選択される化合物である請求項3に記載の阻害剤。
【請求項5】
前記脂肪酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、請求項1~4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項6】
前記プロドラッグを有効成分として含有する、請求項1~4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項7】
前記代謝物を有効成分として含有する、請求項1~4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項8】
前記脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物の1日当たりの投与量が0.0001~500mg/kg体重である、請求項1~
7のいずれかに記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT: vesicular nucleotide transporter)は、分泌小胞へのATP輸送を司っており、プリン作動性化学伝達の必須因子の一つである。プリン作動性化学伝達では、分泌小胞に充填されたATPがさまざまな刺激によって開口放出され、プリン受容体に結合することで、シグナルが伝達される。VNUT阻害剤は、このようなATPの開口放出を阻害することで、プリン作動性化学伝達を遮断できる化合物である。
【0003】
VNUTを阻害することによって、炎症性と神経障害性疼痛、潰瘍性大腸炎、非アルコール性肝炎(NASH)、2型糖尿病、脂質異常症、慢性炎症(炎症性疾患)、血液凝固異常症、下部尿路機能障害、痒み、感染症等になりにくいことが報告されており、VNUT阻害剤は、これら疾患の治療と予防に利用することが期待できる。さらに、プリン受容体に関する研究からパーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、アレルギー性疾患、アトピー性皮膚炎、敗血症、骨粗しょう症、慢性閉塞性肺疾患、乾せん、慢性肺疾患、喘息、アテローム動脈硬化症、がん、眼疾患等への応用も期待できる。
【0004】
本発明者やその共同研究者は、これまでに代謝物のVNUT阻害剤として、アセト酢酸(ケトン体:VNUTの50%阻害濃度(IC50)が約100μM)、グリオキシル酸(C2のケト酸:VNUTのIC50が4.1μM)、アラキドン酸(ω6不飽和脂肪酸:VNUTのIC50が6.5μM)を報告した(特許文献1、非特許文献1~3)。しかしながら、これらの化合物の阻害効果は、いずれもIC50がμMレベルであり、さらに低濃度で効果を奏する化合物が求められている。
【0005】
また、本発明者やその共同研究者は、骨粗しょう症治療薬であるビスホスホネート製剤のクロドロン酸がVNUTを強力に阻害し(VNUTのIC50が15.6nM)、炎症性腸疾患の予防又は治療に有効であることを見出した(特許文献2、非特許文献4)。しかしながら、ビスホスホネート製剤の一部には顎骨壊死等の重篤な副作用が報告されており、医薬品・食品業界からはそのような副作用のおそれのない化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2009/116546 A1
【文献】WO2017/126637 A1
【非特許文献】
【0007】
【文献】Narinobu Juge et al. Neuron 68(1), 99-112, 2010
【文献】Miki Hiasa et al. Physiol Rep, 2(6), e12034, 2014
【文献】Yuri Kato et al. Biol. Pharm. Bull. 36(11), 1688-1691, 2013
【文献】Yuri Kato et al. PNAS doi: 10.1073/pnas.1704847114, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、VNUTの阻害効果が大きく、しかも安全性が高くて副作用の生じにくいVNUT阻害剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、下記式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物を有効成分として含有する、小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤を提供することによって解決される。
【0010】
【0011】
式(1)中、Rは、炭素数が13~19の2価の直鎖炭化水素基であり、2~5個の炭素-炭素二重結合を含む。
【0012】
このとき、前記脂肪酸が下記式(2)で示される脂肪酸であることが好ましい。
【0013】
【0014】
式(2)中、aは3~6の整数であり、bは1~13の整数であり、炭素数(3a+b+2)が18~24である。
【0015】
このとき、前記脂肪酸が、
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)、
4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサヘキサエン酸(DHA)、
9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)、
11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサトリエン酸、
13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサトリエン酸、
10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサテトラエン酸(DTA)、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサヘキサエン酸、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサテトラエン酸、及び
15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサトリエン酸からなる群から選択される化合物であることがより好ましい。
【0016】
なかでも、前記脂肪酸が、
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、及び
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)からなる群から選択される化合物であることがさらに好ましい。
【0017】
前記脂肪酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する阻害剤が、本発明の一つの実施態様である。
【0018】
前記プロドラッグを有効成分として含有する阻害剤も、本発明の一つの実施態様である。このとき、前記プロドラッグが、前記脂肪酸とアルコールとのエステルであることが好ましい。
【0019】
また、前記代謝物を有効成分として含有する阻害剤も、本発明の一つの実施態様である。このとき、前記代謝物が、
20-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(20-HEPE)、
18-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)、
15-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(15-HEPE)、
12-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),10(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(12-HEPE)、
11-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),12(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(11-HEPE)、
9-ヒドロキシ-5(Z),7(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(9-HEPE)、
8-ヒドロキシ-5(Z),9(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(8-HEPE)、
5-ヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(5-HEPE)、
5,6-ジヒドロキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-DiHETE)、
8,9-ジヒドロキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-DiHETE)、
11,12-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-DiHETE)、
14,15-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-DiHETE)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-DiHETE)、
5,12,18-トリヒドロキシ-6(Z),8(E),10(E),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E1)、
5,18-ジヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E2)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),15(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E3)、
5,6,15-トリヒドロキシ-7(E),9(E),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(Lipoxin A5)、
17,18-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)、
14,15-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-EpETE)、
11,12-エポキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-EpETE)、
8,9-エポキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-EpETE)、
5,6-エポキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-EpETE)、
16,17-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-hydroxy DPA)、
7,17-ジヒドロキシ-8(E),10(Z),13(Z),15(E),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,17-hydroxy DPA)、
13,14-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-hydroxy DPA)、
10,11-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-hydroxy DPA)、
7,8-ジヒドロキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-hydroxy DPA)、
4,5-ジヒドロキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-hydroxy DPA)、
19,20-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z)-ドコサペンタエン酸(19,20-EpDPA)、
16,17-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-EpDPA)、
13,14-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-EpDPA)、
10,11-エポキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-EpDPA)、
7,8-エポキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-EpDPA)、
4,5-エポキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-EpDPA)、
プロスタグランジンE3、
プロスタグランジンD3、及び
プロスタグランジンI3からなる群から選択される化合物であることが好ましい。
【0020】
また、前記脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物の1日当たりの投与量が0.0001~500mg/kg体重である阻害剤も、本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤は、VNUTの阻害効果が大きく、しかも安全性が高くて副作用が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】各種多価不飽和脂肪酸の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図2】VNUTのATP取り込みに対する阻害効果のEPA濃度依存性を示したグラフである。
【
図3】多価不飽和脂肪酸プロドラッグ(EPAメチルエステル及びEPAエチルエステル)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図4】多価不飽和脂肪酸代謝物(HEPE類)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図5】多価不飽和脂肪酸代謝物(12(R)-HEPE、12(S)-HEPE及び8(S)-HEPE)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図6】多価不飽和脂肪酸代謝物(DiHETE類)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図7】多価不飽和脂肪酸代謝物(EpETE類)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図8】多価不飽和脂肪酸代謝物(その他)の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を示したグラフである。
【
図9】VNUTのATP取り込みに対する阻害効果の塩素イオン(Cl
-)濃度依存性を示したグラフである。
【
図10】VNUTのATP取り込みに対する阻害効果の可逆性を示したグラフである。
【
図11】EPAによる神経細胞からの各種伝達物質放出の阻害効果を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)阻害剤は、下記式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物を有効成分として含有するものである。
【0024】
【0025】
式(1)中、Rは、炭素数が13~19の2価の直鎖炭化水素基であり、2~5個の炭素-炭素二重結合を含む。
【0026】
上記式(1)で示される脂肪酸は、炭素鎖のメチル末端から3番目と4番目の炭素の間に二重結合を有する脂肪酸であり、ω3脂肪酸と呼ばれるものに含まれる。ω3脂肪酸は、魚介類や植物油などの多くの食品に含まれているものであり、その安全性は高い。
【0027】
式(1)中のRは、2価の直鎖炭化水素基である。したがって、Rは分岐を有さない。Rに含まれる炭素原子の数は13~19である。すなわち、脂肪酸全体としての炭素数は18~24である。Rに含まれる炭素原子の数は、VNUT阻害活性の面からは、15~17であることが好ましく、15であることがより好ましい。Rに含まれる炭素-炭素二重結合の数は、2~5個である。VNUT阻害活性の面からは、Rに含まれる炭素-炭素二重結合の数が3又は4であることが好ましい。Rに含まれる炭素-炭素二重結合は、共役二重結合であっても非共役二重結合であっても構わないが、全ての二重結合が非共役二重結合であることが好ましい。全ての二重結合が非共役二重結合である場合、炭素-炭素二重結合同士が共役することもないし、炭素-炭素二重結合と炭素-酸素二重結合とが共役することもない。二重結合と二重結合の間にはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどの2価の直鎖飽和炭化水素基が挟まれている。Rに含まれる炭素-炭素二重結合は全てシス型(Z)であることが好ましい。
【0028】
前記脂肪酸が、下記式(2)で示される脂肪酸であることが好ましい実施態様である。
【0029】
【0030】
式(2)中、aは3~6の整数であり、bは1~13の整数であり、炭素数(3a+b+2)が18~24である。
【0031】
式(2)中のaは、脂肪酸中に含まれる炭素-炭素二重結合の数を示す。これらの炭素-炭素二重結合は、メチレン基を介して相互に連結されている。VNUT阻害活性の面からは、aが4又は5であることが好ましい。式(2)中のbは、カルボキシル基と炭素-炭素二重結合の間に存在するメチレン基の数を示す。VNUT阻害活性の面からは、bが、2~11であることが好ましく、3~8であることがより好ましく、3~6であることがさらに好ましい。また、VNUT阻害活性の面からは、炭素数(3a+b+2)が20~22であることが好ましく、20であることがより好ましい。
【0032】
式(2)で示される脂肪酸としては、以下のものが例示される。
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)、
4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサヘキサエン酸(DHA)、
9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)、
11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサトリエン酸、
13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサトリエン酸、
10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサテトラエン酸(DTA)、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサヘキサエン酸、
9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサペンタエン酸、
12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサテトラエン酸、及び
15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサトリエン酸。
【0033】
なかでも、VNUT阻害活性の面からは、5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)及び8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)が好適であり、EPAが特に好適である。
【0034】
式(1)で示される脂肪酸は、その薬学的に許容される塩であっても構わない。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが例示される。アンモニウム塩の具体例としてはとしては、アンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム塩、ビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
本発明の阻害剤として、式(1)で示される脂肪酸のプロドラッグを用いることもできる。経口あるいは非経口投与した後に、生体内で式(1)で示される脂肪酸又はその塩に変換されるものであればプロドラッグの種類は特に限定されない。中でも、前記プロドラッグが、前記脂肪酸とアルコールとのエステルであることが好ましい。当該エステルは生体内でエステラーゼによって加水分解されて、脂肪酸又はその塩とアルコールとに変換される。一般に、エステルの方が脂肪酸よりも吸収されやすいことが多いので、エステルの形で生体内に吸収され、その後生体内でより阻害活性の高い脂肪酸に変換されることによって、効果的にVNUTを阻害することができる。
【0036】
前記脂肪酸と縮合してエステルを形成するアルコールは特に限定されないが、炭素数1~20のアルコールであることが好ましい。アルコールの炭素数は、より好適には10以下であり、さらに好適には6以下であり、特に好適には3以下である。脂肪族アルコールであっても、芳香族アルコールであっても構わないが、脂肪族アルコールの方が、安全性の面から好ましい場合が多い。また、複数の水酸基を含む多価アルコールであっても構わない。脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセリン、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノールなどが例示される。これらの中でも、メタノール及びエタノールが特に好適である。多価アルコールの場合には、水酸基の少なくとも一つが、式(1)で示される脂肪酸とエステルを形成していればよい。芳香族アルコールとしては、アリールアルキルアルコールが好ましく、そのような例としてはベンジルアルコールなどが例示される。
【0037】
またさらに、式(1)で示される脂肪酸の代謝物を用いることも可能である。例えば、EPAやDHAの代謝物としては、以下のものが例示される。
20-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(20-HEPE)、
18-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)、
15-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(15-HEPE)、
12-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),10(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(12-HEPE)、
11-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),12(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(11-HEPE)、
9-ヒドロキシ-5(Z),7(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(9-HEPE)、
8-ヒドロキシ-5(Z),9(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(8-HEPE)、
5-ヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(5-HEPE)、
5,6-ジヒドロキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-DiHETE)、
8,9-ジヒドロキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-DiHETE)、
11,12-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-DiHETE)、
14,15-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-DiHETE)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-DiHETE)、
5,12,18-トリヒドロキシ-6(Z),8(E),10(E),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E1)、
5,18-ジヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E2)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),15(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E3)、
5,6,15-トリヒドロキシ-7(E),9(E),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(Lipoxin A5)、
17,18-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)、
14,15-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-EpETE)、
11,12-エポキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-EpETE)、
8,9-エポキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-EpETE)、
5,6-エポキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-EpETE)、
16,17-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-hydroxy DPA)、
7,17-ジヒドロキシ-8(E),10(Z),13(Z),15(E),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,17-hydroxy DPA)、
13,14-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-hydroxy DPA)、
10,11-ジヒドロキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-hydroxy DPA)、
7,8-ジヒドロキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-hydroxy DPA)、
4,5-ジヒドロキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-hydroxy DPA)、
19,20-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z)-ドコサペンタエン酸(19,20-EpDPA)、
16,17-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(16,17-EpDPA)、
13,14-エポキシ-4(Z),7(Z),10(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(13,14-EpDPA)、
10,11-エポキシ-4(Z),7(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(10,11-EpDPA)、
7,8-エポキシ-4(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(7,8-EpDPA)、
4,5-エポキシ-7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(4,5-EpDPA)、
プロスタグランジンE3、
プロスタグランジンD3、及び
プロスタグランジンI3。
【0038】
これらの代謝物は、その薬学的に許容される塩であっても構わない。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが例示される。アンモニウム塩の具体例としては、アンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム塩、ビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム塩などが挙げられる。
【0039】
式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物は、VNUTを効果的に阻害する。いわゆるω6脂肪酸であるアラキドン酸よりも顕著に優れた効果を奏することが明らかになった。
【0040】
これまでに、VNUTノックアウトマウスでは、炎症性と神経障害性疼痛、潰瘍性大腸炎、非アルコール性肝炎(NASH)、2型糖尿病、脂質異常症、慢性炎症(炎症性疾患)、血液凝固異常症、下部尿路機能障害、痒み、感染症等になりにくいことが報告されているため、本発明のVNUT阻害剤は、これらの疾患の治療と予防に利用することが期待できる。さらに、プリン受容体研究からパーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、アレルギー性疾患、アトピー性皮膚炎、敗血症、骨粗しょう症、慢性閉塞性肺疾患、乾せん、慢性肺疾患、喘息、アテローム動脈硬化症、がん、眼疾患等への応用も期待できる。
【0041】
前記脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物の1日当たりの投与量が0.0001~500mg/kg体重であることが好ましい。1日当たりの投与量は、0.001mg/kg体重以上であることがより好ましく、0.01mg/kg体重以上であることがより好ましい。一方、1日当たりの投与量は200mg/kg体重以下であることがより好ましく、100mg/kg体重以下であることがより好ましい。
【0042】
前記脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物は、安全性が高いため、安全に大量投与することができる。したがって、より大きな効果を得るためには、1日当たりの投与量が0.1mg/kg体重以上であることがより好ましく、1mg/kg体重以上であることがさらに好ましく、5mg/kg体重以上であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の小胞型ヌクレオチドトランスポーター阻害剤は、式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物をそのまま投与してもよいが、好ましくは、当該化合物を含む、経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。経口用あるいは非経口用の医薬組成物は、当業者に利用可能な製剤用添加物、即ち薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体を用いて製造することができる。
【0044】
経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記医薬組成物の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、粘着剤等を挙げることができる。
【0045】
また、医薬組成物として投与する以外に、飲料や食品中に添加することによって摂取することもできる。式(1)で示される脂肪酸、その薬学的に許容される塩、そのプロドラッグ又はその代謝物は、安全性が高いので、食品添加剤としても有用である。食品添加剤として用いた場合には、VNUT阻害に由来する薬理効果が奏される、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品などとして有用である。
【実施例】
【0046】
実施例1:多価不飽和脂肪酸のVNUT阻害効果
多価不飽和脂肪酸による、VNUTに対する阻害効果を検証するため、各種多価不飽和脂肪酸を用いて、VNUTのATP取り込みを測定した。用いた多価不飽和脂肪酸は、9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z)-オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)、
5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(EPA)、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z)-ヘネイコサペンタエン酸(HPA)、
7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサペンタエン酸(DPA)、
4(Z),7(Z),10(Z),13(Z),16(Z),19(Z)-ドコサヘキサエン酸(DHA)、
11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサトリエン酸、
6(Z),9(Z),12(Z),15(Z),18(Z),21(Z)-テトラコサヘキサエン酸、
8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(ETA)及び
アラキドン酸である。
【0047】
また、EPAのプロドラッグを用いて、VNUTのATP取り込みを同様に測定した。用いたプロドラッグは、EPAのメチルエステルと、EPAのエチルエステルである。
【0048】
また、EPAの代謝物を用いて、VNUTのATP取り込みを同様に測定した。用いた代謝物は、
20-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(20-HEPE)、
18-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)、
15-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(15-HEPE)、
12-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),10(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(12-HEPE)、
11-ヒドロキシ-5(Z),8(Z),12(E),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(11-HEPE)、
9-ヒドロキシ-5(Z),7(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(9-HEPE)、
8-ヒドロキシ-5(Z),9(E),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(8-HEPE)、
5-ヒドロキシ-6(E),8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサペンタエン酸(5-HEPE)、
5,6-ジヒドロキシ-8(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(5,6-DiHETE)、
8,9-ジヒドロキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-DiHETE)、
14,15-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-DiHETE)、
17,18-ジヒドロキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-DiHETE)、
17,18-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),14(Z)-エイコサテトラエン酸(17,18-EpETE)、
14,15-エポキシ-5(Z),8(Z),11(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(14,15-EpETE)、
11,12-エポキシ-5(Z),8(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(11,12-EpETE)、
8,9-エポキシ-5(Z),11(Z),14(Z),17(Z)-エイコサテトラエン酸(8,9-EpETE)、
5,12,18-トリヒドロキシ-6(Z),8(E),10(E),14(Z),16(E)-エイコサペンタエン酸(Resolvin E1)、
5,6,15-トリヒドロキシ-7(E),9(E),11(Z),13(E),17(Z)-エイコサペンタエン酸(Lipoxin A5)及び
プロスタグランジンE3である。
【0049】
さらに、上記12-HEPE及び8-HEPEについてはそのラセミ体を用いて測定を行ったが、それらの光学活性体の両方(12(S)-HEPE及び12(R)-HEPE)又は片方(8(S)-HEPE)を用いて、VNUTのATP取り込みを同様に測定した。
【0050】
VNUTの発現と精製、人工膜小胞への再構成と輸送活性測定は、非特許文献4に記載の方法に準じて行なった。SLC17A9 (Accession NO. NM 001302643、NP 001289572)タンパク質を大量発現させた膜画分を可溶化させ、Ni-NTAアフィニティカラムクロマトグラフィーにより精製した。精製したVNUTタンパク質をリポソームに組込み、多価不飽和脂肪酸が、VNUTを阻害するのか否かを検証した。
【0051】
[再構成]
精製タンパク質20μgを、リポソーム550μgと混合し、-80℃で少なくとも15分間静置した。混合物を素早く溶解させ、20mMのMOPS-Tris (pH7.0)、150mM酢酸ナトリウム及び5mM酢酸マグネシウムを含む再構成バッファーで60倍に希釈した。再構成したプロテオリポソームは、4℃、200,000g、1時間の超遠心によりペレットにし、0.2mLの再構成バッファーに懸濁した。アゾレクチンリポソームは、非特許文献4に記載のとおり準備した。大豆レクチン(10mg/mL; Sigma Type IIS)を、20mM MOPS-NaOH (pH7.0)及び1mMジチオトレイトール(dithiothreitol)を含むバッファーに懸濁した。チップソニケーターで、混合物が透き通るまでソニケーションを行い、使用まで-80℃で保存した。
【0052】
[輸送アッセイ]
プロテオリポソームに組込んだ0.3μgの精製タンパク質、20mM MOPS-Tris(pH7.0)、140mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、10mM KCl、2μMバリノマイシン、100μM [3H]-ATP (0.5MBq/μmol;Perkin Elmer)及び測定対象の多価不飽和脂肪酸(100nM又は1μM)からなる反応混合物(130μL)を27℃でインキュベートした。カリウムイオノファであるバリノマイシンを加えることで、リポソーム内にカリウムイオンが流入し、内側が正の膜電位差が形成される。反応開始2分後に、Sephadex G-50(fine)を包含する遠心カラムを用いて、プロテオリポソームを外部培地から分離することにより、輸送を終結させた。溶出物中にあるプロテオリポソームに取り込まれた[3H]-ATPの放射線を、液体シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)により測定した。混合液中に各種多価不飽和脂肪酸を加えた群と加えていない群との比較により、膜電位依存的なATP輸送活性の阻害効果を算出した。
【0053】
[データ解析]
特筆しない限り、実施例1に関して、全ての数値を平均±標準誤差(n=4~31)として示す。統計的有意性は、Student’s t検定又は分散分析(ANOVA)により決定した。有意性は、*P<0.05及び**P<0.01として定義した。
【0054】
[結果]
各種多価不飽和脂肪酸の、VNUTのATP取り込みに対する阻害効果を
図1に示す。試験した化合物の中で、EPAは、VNUTが媒介するATPの取り込み抑制に対し、IC
50が67nMであり最も強い阻害効果を有した(
図2)。また、HPA、DPA及びETAがEPAに準ずる強い阻害効果を有した。さらに、測定した全てのω3多価不飽和脂肪酸(DHA、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、テトラコサヘキサエン酸)が、アラキドン酸に比べて優れた阻害効果を示した。
【0055】
また、ω3多価不飽和脂肪酸のプロドラッグであるEPAのメチルエステル及びEPAのエチルエステルのATP取り込みに対する阻害効果を
図3に示す。これらのプロドラッグもアラキドン酸に比べて、有効な阻害効果を示した。
【0056】
ω3多価不飽和脂肪酸(EPA)の代謝物である、20-HEPE、18-HEPE、15-HEPE、12-HEPE、11-HEPE、9-HEPE、8-HEPE及び5-HEPEのATP取り込みに対する阻害効果を
図4に示す。これらの代謝物もアラキドン酸に比べて、有効な阻害効果を示した。なかでも、5-HEPE、12-HEPE及び15-HEPEが大きな阻害効果を示し12-HEPEが特に大きな阻害効果を示した。
図4に示された12-HEPEはラセミ体(±)であるが、12(R)-HEPE、12(S)-HEPE及び8(S)-HEPEのATP取り込みに対する阻害効果を
図5に示す。
図5からわかるように、光学異性体によってATP取り込み性能は異なり、12(S)-HEPEよりも12(R)-HEPEの方が優れていることがわかった。また、8(S)-HEPEがそのラセミ体よりも優れていて、特に大きな阻害効果を示すこともわかった。
【0057】
ω3多価不飽和脂肪酸(EPA)の代謝物である、5,6-DiHETE、8,9-DiHETE、14,15-DiHETE及び17,18-DiHETEのATP取り込みに対する阻害効果を
図6に示す。ω3多価不飽和脂肪酸(EPA)の代謝物である、8,9-EpETE、11,12-EpETE、14,15-EpETE及び17,18-EpETEのATP取り込みに対する阻害効果を
図7に示す。ω3多価不飽和脂肪酸(EPA)の代謝物である、Resolvin E1、Lipoxin A5及びプロスタグランジンE3のATP取り込みに対する阻害効果を
図8に示す。いずれもアラキドン酸に比べて、有効な阻害効果を示した。それらのうちでも、ジヒドロキシ化合物(DiHETE)及びエポキシ化合物(EpETE)は、大きな阻害効果を示した。なかでも、8,9-EpETE、11,12-EpETE及び14,15-EpETEは、特に大きな阻害効果を示した。
【0058】
実施例2:VNUT阻害性能の塩素イオン濃度依存性
実施例1と同様に精製VNUTを含むプロテオリポソームを用いて、多価不飽和脂肪酸のVNUT阻害様式を調べた。まず生理的な塩化物イオン濃度(10mM)と高い塩化物イオン濃度(100mM)でのVNUT阻害効果を比較した。バリノマイシン非添加群(-Val)とバリノマイシン添加群(+Val)を比較することで、駆動力である膜電位依存的なATP輸送を評価することができる。
【0059】
プロテオリポソームに組込んだ0.3μgの精製タンパク質、20mM MOPS-Tris(pH7.0)、140mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、10mM KCl及び100μM [3H]-ATP (0.5MBq/μmol;Perkin Elmer)からなる反応混合物(-Val)130μLを27℃でインキュベートし、反応開始から1分間のATP輸送活性を測定した。また、上記反応混合物(-Val)に2μMバリノマイシンを加えた反応混合物(+Val)と、上記反応混合物(+Val)にさらに1μM EPAを加えた反応混合物(+1μM EPA)でも同様に測定した。これらの結果をまとめて
図9の「10mM Cl
-」に示す。
【0060】
また、プロテオリポソームに組込んだ0.3μgの精製タンパク質、20mM MOPS-Tris(pH7.0)、50mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、100mM KCl及び100μM [
3H]-ATP (0.5MBq/μmol;Perkin Elmer)からなる反応混合物(-Val)130μLを27℃でインキュベートし、反応開始から1分間のATP輸送活性を測定した。また、上記反応混合物(-Val)に2μMバリノマイシンを加えた反応混合物(+Val)と、上記反応混合物(+Val)にさらに1μM EPAを加えた反応混合物(+1μM EPA)でも同様に測定した。これらの結果をまとめて
図9の「100mM Cl
-」に示す。
【0061】
ウォッシュアウトの実験は、反応開始から2分間のATP輸送活性を生理的な塩化物イオン濃度(10mM)で行なった。Washout(+)は1μM EPAとプロテオリポソームを混合し、4℃、200,000g、1時間の超遠心によりペレットにし、再懸濁したサンプルを用いた測定結果であり、Washout(-)はこの操作をしていないサンプルを用いた測定結果である。これらの結果を、ウォッシュアウトをしていない上記「10mM Cl
-」の結果とともにまとめて
図10に示す。
【0062】
[データ解析]
特筆しない限り、実施例2に関して、全ての数値を平均±標準誤差(n=4~11)として示す。統計的有意性は、Student’s t検定又は分散分析(ANOVA)により決定した。有意性は、*P<0.05及び**P<0.01として定義した。
【0063】
[結果]
図9に示されるように、EPAの存在下では、塩素イオン(Cl
-)濃度が10mMの時にATPの取り込みが顕著に阻害されたが、塩素イオン濃度が100mMの時にはATPの取り込みは全く阻害されなかった。このことから、EPAと塩素イオンとの間には競争的相互作用が存在することが示唆された。また、
図10に示されるように、EPAの効果は全体として可逆的であり、調合液から当該化合物をウォッシュアウトすることにより活性が完全に回復した。この結果から、EPAが競合的かつ可逆的にVNUTの結合部位を阻害することがわかった。すなわち、EPAはVNUTの塩素イオン(Cl
-)濃度依存のアロステリックモジュレーターであるといえる。
【0064】
実施例3:神経細胞からのATP放出の阻害効果
Banker GA, Cowan WM. Rat hippocampal neurons in dispersed cell culture, Brain Res 126:397-442 (1977)に記載の方法に準じて、脳の神経細胞を初代培養し、EPAによるATPやその他の伝達物質(グルタミン酸、アスパラギン酸、GABA及びグリシン)の放出阻害効果を検討した。
【0065】
128mM NaCl、1.9mM KCl、1.2mM KH
2PO
4、1.3mM MgSO
4、26mM NaHCO
3、10mM D-glucose、10mM HEPES-NaOH(pH7.4)、2.4mM CaCl
2、及び0.2%(wt/vol)BSAからなるKrebs緩衝液(Low K
+)を調製した。この緩衝液に神経細胞を3時間浸漬して、伝達物質の放出を定量した。その結果を
図11の「Low K
+」に示す。
【0066】
次に、上記と同様にKrebs緩衝液(Low K
+)に神経細胞を3時間浸漬して前処理してから、75mM NaCl、55mM KCl、1.2mM KH
2PO
4、1.3mM MgSO
4、26mM NaHCO
3、10mM D-glucose、10mM HEPES-NaOH(pH7.4)、2.4mM CaCl
2、及び0.2%(wt/vol)BSAからなるKrebs緩衝液(High K
+)に、Krebs緩衝液を置換した後、20分間の伝達物質の放出を定量した。その結果を
図11の「High K
+」に示す。
【0067】
また、Krebs緩衝液(Low K
+)に100nMのEPAを加えた液に神経細胞を3時間浸漬して前処理してから、100nMのEPAを加えたKrebs緩衝液(High K
+)に置換した後、20分間の伝達物質の放出を定量した。その結果を
図11の「100 nM EPA」に示す。
【0068】
上記試験において、ATPはルシフェラーゼ発光法によりマイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)で定量した。グルタミン酸、アスパラギン酸、GABA及びグリシンは、3-メルカプトプロピオン酸存在下にオルトフタルアルデヒドで蛍光標識し、Accucore-150-C18カラムを用いて超高速逆相クロマトグラフィー(ThermoFisher Scientific)により定量した。
【0069】
[結果]
その結果、100nMのEPAでATP放出は完全に阻害された。一方、その他の伝達物質はいずれも有意な阻害効果は観察されなかった。この結果は、式(1)で示される脂肪酸が選択的にVNUTを阻害し、ATP放出だけを遮断できることを示した。