(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】木質軸部材と建物架構
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20241119BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
E04B1/26 F
E04B1/58 D
(21)【出願番号】P 2020165388
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西塔 純人
(72)【発明者】
【氏名】辻 千佳
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-119895(JP,A)
【文献】特開2012-026259(JP,A)
【文献】特開2007-077611(JP,A)
【文献】特開2019-065685(JP,A)
【文献】特開2001-262712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/61
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部に収容孔を備えた木質本体と、
内部に中空部を備え、該中空部の一端にネジ溝を備えている、金属パイプと、
金属芯材と、該金属芯材の一端にあって該金属芯材よりも大径の金属ネジと、を備える金属軸部材と、を有し、
前記収容孔に前記金属パイプが収容固定され、該金属パイプの一端の前記ネジ溝に前記金属軸部材の一端の前記金属ネジが螺合し
、該金属軸部材の前記金属芯材の他端は、該金属パイプの前記中空部と接しているか、該中空部との間に僅かな隙間を有しており、該金属芯材の座屈変形に際して該金属軸部材が移動できるようになっていることを特徴とする、木質軸部材。
【請求項2】
前記収容孔と前記金属パイプが、接着材を介して固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の木質軸部材。
【請求項3】
前記収容孔がネジ孔であり、前記金属パイプは周面にネジ切りを備えており、
前記収容孔に対して前記金属パイプが螺合されていることを特徴とする、請求項1に記載の木質軸部材。
【請求項4】
前記木質本体の端部には、前記収容孔に連通する座ぐり溝が設けられており、
内部に中空孔を備える金属コッターに対して、前記金属軸部材の他端が収容固定され、該金属コッターが前記座ぐり溝に収容されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の木質軸部材。
【請求項5】
前記金属軸部材の端部もしくは前記金属コッターの端部において、建物架構に接続されている接続治具に対して回動自在に取り付けられる回動片が設けられていることを特徴とする、請求項4に記載の木質軸部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の木質軸部材からなる木製ブレースと、梁と、柱とを有し、
前記梁と前記柱に対して、前記木製ブレースが接続されていることを特徴とする、建物架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質軸部材と建物架構に関する。
【背景技術】
【0002】
木造軸組工法による木造建築物においては、柱や梁、土台等を形成する木質軸部材同士がドリフトピンやラグスクリューボルトといった接合金具を介して接合され、部材同士が緊結されることによって接合部の剛性や耐力が高められ、耐震性能の向上が図られている。しかしながら、ラグスクリューボルト等の接続金具を用いることにより接合部の剛性が高められることの背反として、接合部の変形性能が低くなり、接合部における脆性破壊が危惧される。
【0003】
そこで、部材間の接合部に変形性能を付与するべく、ネジやボルトといった接合金具の内部に軸方向に延びる長孔を設け、長孔の端部に備えてあるネジ溝に対してボルトを接合する方策や、外周面にネジが切られているパイプとボルトを圧着することにより、ボルトの引張時の変形性能を高める方策などが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ラグスクリュー本体と、ラグスクリュー本体と一体化されつつラグスクリュー本体の一端から同心状に突出する連結用螺軸とを備えた連結金具が提案されている。このラグスクリュー本体は、一端外周に回転操作用角軸部が設けられ、他端にボルト圧着固定領域が設けられ、回転操作用角軸部とボルト圧着固定領域との間の外周面に螺旋突条が形成されたパイプ材から構成されている。連結用螺軸は、ラグスクリュー本体内に挿入されたボルトの後端螺軸部によって構成され、ボルトの他端部には、ラグスクリュー本体のボルト圧着固定領域の内側に位置する先端螺軸部が設けられ、ボルトの先端螺軸部にボルト圧着固定領域の内周面が圧着されて両者が一体化されている。この連結金具によれば、長尺のラグスクリュータイプの連結金具を容易かつ安価に製造でき、ボルトの伸び性能を利用した免震効果の高いラグスクリュータイプの連結金具を提供できるとしている。
【0005】
一方、特許文献2には、円柱状の外形で周面に螺旋状の凸条が形成され、一端面の中心には軸方向に延在する導入穴が形成され、導入穴の奥には軸方向に延在して反対面に到達する雌ネジを備え、導入穴の直径が雌ネジの外径よりも大きな締結金物が提案されている。この締結金物を例えば梁に埋め込み、柱に埋め込まれているラグスクリューボルトを導入穴を介して締結金物に接続することにより、地震時の外力が作用して柱と梁が離れるように変形した際に、ラグスクリューボルトが塑性変形することによってエネルギーを吸収し、締結金物やラグスクリューボルトの抜け落ちを防止して、締結部の破壊を回避できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-2200号公報
【文献】特開2010-7428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載の連結金具や締結金物はいずれも、連結されるボルトの引張側の変形性能にのみ期待するものであることから、地震時に部材の接合部に作用する引張力に対してボルトの引張側の変形性能は発揮されるものの、地震時に当該接合部に作用する圧縮力に対する十分な性能が期待できないことから、結果として、地震時における歪みエネルギー吸収性能が高いとは言えない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木質軸部材の端部に設けられている金属軸部材の引張側と圧縮側の双方の変形性能を発揮させることにより、歪みエネルギー吸収性能に優れた木質軸部材と、この木質軸部材を備えて耐震性能に優れた建物架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による木質軸部材の一態様は、
端部に収容孔を備えた木質本体と、
内部に中空部を備え、該中空部の一端にネジ溝を備えている、金属パイプと、
金属芯材と、該金属芯材の一端にあって該金属芯材よりも大径の金属ネジと、を備える金属軸部材と、を有し、
前記収容孔に前記金属パイプが収容固定され、該金属パイプの一端の前記ネジ溝に前記金属軸部材の一端の前記金属ネジが螺合していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、木質本体の端部の収容孔に収容固定されている金属パイプに対して、金属芯材とその一端に該金属芯材よりも大径の金属ネジを備えている金属軸部材の当該金属ネジが螺合して固定されていることにより、地震時において引張力が作用した際には金属パイプや金属軸部材が引張変形し、圧縮力が作用した際には金属軸部材を構成する金属芯材が座屈変形することにより、地震時における歪みエネルギーを効果的に吸収することができる。
【0011】
本態様では、実際に変形する金属芯材が、金属パイプに対して固定される金属ネジよりも小径であることにより、金属芯材と金属パイプの中空部との間に座屈変形を許容する隙間が形成される。金属軸部材において、金属芯材の一端にあって金属パイプに固定される金属ネジが相対的に大径であることにより、金属軸部材に圧縮力が作用した際には金属芯材が座屈変形し、金属ネジが先行して破壊することはない。尚、金属芯材の他端は、金属パイプの中空部と接しているか、中空部との間に僅かな隙間を有しており、金属芯材の座屈変形に際して金属軸部材が移動できるようになっている。
【0012】
また、金属芯材の座屈変形の際には、金属芯材の外周に金属パイプがあり、金属パイプの外周に木質本体があることから、変形が許容されている金属芯材は金属パイプの内部において座屈変形しながらも、金属パイプと木質本体によって拘束され、金属芯材の座屈破壊は抑止される。すなわち、木質本体の端部に金属パイプが埋設され、金属パイプの内部において、金属芯材と金属パイプの間に隙間を備えた状態で金属軸部材の一端が固定されている構成により、木質軸部材の端部には、所謂座屈拘束ブレースが形成されることになる。
【0013】
木質本体は、無垢材であってもよいし、複数のラミナが積層してなる集成材により形成されてもよい。例えば、スギなどの弱い樹種が適用された場合であっても、金属パイプと金属軸部材が埋設されている構成により、圧縮側と引張側の双方の変形性能を安定的に発揮することができる。
【0014】
また、本発明による木質軸部材の他の態様は、前記収容孔と前記金属パイプが、接着材を介して固定されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、例えば木質本体の端部に円柱状の収容孔を刳り抜き、収容孔に接着材を充填しつつ円筒状の金属パイプが挿入されることにより、高い製作効率の下で、木質本体の収容孔と金属パイプとの接合強度の高い木質軸部材を製作することができる。
【0016】
また、本発明による木質軸部材の他の態様は、前記収容孔がネジ孔であり、前記金属パイプは周面にネジ切りを備えており、
前記収容孔に対して前記金属パイプが螺合されていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、ネジ孔である収容孔に対して、周面にネジ切りを備えている金属パイプが螺合することにより、木質本体の収容孔と金属パイプとの接合強度の高い木質軸部材を製作することができる。ここで、周面にネジ切りを備えている金属パイプとしては、例えばパイプラグスクリューボルト(パイプLSB)が挙げられる。
【0018】
また、本発明による木質軸部材の他の態様において、前記木質本体の端部には、前記収容孔に連通する座ぐり溝が設けられており、
内部に中空孔を備える金属コッターに対して、前記金属軸部材の他端が収容固定され、該金属コッターが前記座ぐり溝に収容されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、木質本体の端部に設けられている座ぐり溝に金属コッターが収容され、金属軸部材の他端が金属コッターの中空孔に収容固定されていることにより、木質軸部材の端部が金属コッターにて補強されながら、木質軸部材の端部における局部座屈を抑制することができる。
【0020】
また、本発明による木質軸部材の他の態様は、前記金属軸部材の端部もしくは前記金属コッターの端部において、建物架構に接続されている接続治具に対して回動自在に取り付けられる回動片が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、金属軸部材の端部もしくは金属コッターの端部において、建物架構を構成する柱や梁に取り付けられている接続治具に対して、回動自在に取り付けられる回動片が設けられていることにより、柱や梁に対して、自由度の高い取り付け角度にて、効率的かつ高強度に木質軸部材を取り付けることができる。
【0022】
また、本発明による建物架構の一態様は、
前記木質軸部材からなる木製ブレースと、梁と、柱とを有し、
前記梁と前記柱に対して、前記木製ブレースが接続されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、本発明の木質軸部材を木製ブレースとして備えていることにより、柱や梁と木製ブレースとの接合部における圧縮側と引張側の双方の変形性能に優れ、地震時における歪みエネルギー吸収性能に優れた建物架構が形成される。また、木製ブレースの変形性能により、地震時の外力が作用した際に、柱や梁と木製ブレースとの接合部における荷重の急激な増加が抑制される。また、金属パイプや金属軸部材等の金物が木質本体の内部に埋設されていることから、金物を外部から視認することはできず、外観意匠性に優れた木製ブレースを有する建物架構となる。
【0024】
ここで、本態様の建物架構は、柱と梁がともに木製である木造建築物を構成する建物架構である他にも、柱と梁が鉄骨造の鉄骨造建築物を構成する建物架構や、柱と梁が鉄筋コンクリート造のRC(Reinforced Concrete)建築物を構成する建物架構であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の木質軸部材と建物架構によれば、木質軸部材の端部に設けられている金属軸部材の引張側と圧縮側の双方の変形性能を発揮させることにより、歪みエネルギー吸収性能に優れた木質軸部材と、この木質軸部材を備えて耐震性能に優れた建物架構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る木質軸部材の一例を示す縦断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る木質軸部材の一例を分解した縦断面図である。
【
図3】木質軸部材に圧縮力が作用した際の各構成部材の作用を説明する図であって、(a)は、木質軸部材に圧縮力が作用する前の状態を示す図であり、(b)は、木質軸部材に圧縮力が作用した状態を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る木質軸部材の一例を示す縦断面図である。
【
図5】(a)~(e)は、実施形態に係る建物架構の一例を示す模式図である。
【
図6】
図5(d)に示す建物架構を具体的に示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、各実施形態に係る木質軸部材と建物架構の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[第1実施形態に係る木質軸部材]
はじめに、
図1乃至
図3を参照して、第1実施形態に係る木質軸部材の一例について説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る木質軸部材の一例を示す縦断面図であり、
図2は、第1実施形態に係る木質軸部材の一例を分解した縦断面図である。また、
図3は、木質軸部材に圧縮力が作用した際の各構成部材の作用を説明する図であって、
図3(a)は、木質軸部材に圧縮力が作用する前の状態を示す図であり、
図3(b)は、木質軸部材に圧縮力が作用した状態を示す図である。
【0029】
図示する木質軸部材50は、木質本体10と、木質本体10の端部11に設けられている収容孔12に収容固定されている金属パイプ20と、金属パイプ20の備える中空部21において一端が固定されている金属軸部材30と、木質本体10の端部11に設けられている座ぐり溝13に収容されている金属コッター40とを有する。
【0030】
木質本体10は、無垢材や、ラミナが積層された集成材により形成されている。
図2に明りょうに示すように、木質本体10の端部11には、所定長さを有する円柱状の収容孔12が設けられており、この収容孔12はネジ切りを備えたネジ孔となっている。また、木質本体10の端部11には、端面11aに臨んで収容孔12に連通する座ぐり溝13が設けられている。
【0031】
金属パイプ20は、内部に中空部21を備え、中空部21の一端にはネジ溝22を備え、さらにネジ切りを備えた周面23を備えている。この金属パイプ20は、周面にネジ切りを備えているパイプラグスクリューボルト(パイプLSB)である。
【0032】
図2に示すように、木質本体10の座ぐり溝13を介して、ネジ孔12に対して金属パイプ20をX1方向に挿入し、螺合することにより、木質本体10のネジ孔12に対して金属パイプ20が固定される。
【0033】
金属軸部材30は、外径t1の金属芯材31と、金属芯材31の一端にあって金属芯材31よりも大径である外径t2の金属ネジ32Aと、金属芯材31の他端にあって同様に外径t2のネジ無し端部32Bとを備えている。図示例の金属芯材31は、その表面にネジ切りを備えていないが、表面にネジ切りを備える形態であってもよい。このように、両端の金属ネジ32A及びネジ無し端部32Bに対して、相対的に小径の金属芯材31を中央に備えている金属軸部材30は、例えば転造加工により形成される。
【0034】
図2に示すように、木質本体10の内部に固定されている金属パイプ20に対して、金属軸部材30をX2方向に挿入し、一端の金属ネジ32Aをネジ溝22に螺合することにより、金属パイプ20の内部において金属軸部材30が固定される。
【0035】
図1に示すように、金属芯材31が両端の金属ネジ32A及びネジ無し端部32Bよりも相対的に小径であることにより、金属パイプ20の中空部21との間に第一隙間G1(隙間の一例)が形成される。この第一隙間G1は、以下で詳説する座屈変形用の隙間である。
【0036】
金属コッター40は、内部に中空孔41を備えており、図示例においては、その端部に回動片45が固定されている。回動片45は、建物架構に接続されている接続治具に対して、木質軸部材50を回動自在に取り付ける取り付け治具である。
【0037】
図2に示すように、木質本体10の座ぐり溝13に対して金属コッター40をX3方向に挿入し、座ぐり溝13に臨んでいる金属軸部材30の端部のネジ無し端部32Bを中空孔41に収容することにより、金属コッター40は金属軸部材30の一端を収容しながら座ぐり溝13に収容される。ここで、金属コッター40の中空孔41に対して金属軸部材30のネジ無し端部32Bの一部が収容され、固定されることになるが、中空孔41がネジ溝を有し、ネジ無し端部32Bの一部がネジ切りを有し、双方が螺合される形態であってもよい。また、座ぐり溝13に収容された金属コッター40の端部と、金属パイプ20の端部との間には、座屈誘発用の第二隙間G2が設けられている。
【0038】
木質軸部材50の端部に金属コッター40が設けられることにより、木質軸部材50の端部11が金属コッター40にて補強され、木質軸部材50の端部11における局部座屈が抑制される。尚、木質軸部材50の端部11の補強が不要な場合には、金属コッター40を省略してもよい。
【0039】
建物架構に組み込まれた木質軸部材50に対して、地震時の引張力が作用した場合は、金属パイプ20や金属軸部材30が引張側に変形することにより、地震時における歪みエネルギーを吸収することができる。
【0040】
一方、建物架構に組み込まれた木質軸部材50に対して、地震時の圧縮力が作用した場合の木質軸部材50を構成する各構成部材の作用について、
図3を参照して説明する。理解を容易にするべく、
図3では、木質軸部材50の端部11にある金属コッター40を床上に載置して木質軸部材50を立設させ、木質軸部材50の上方から圧縮力を作用させた際の各構成部材の作用を説明している。
【0041】
図3(a)に示すように、木質軸部材50を床上に立設し、
図3(b)に示すように木質軸部材50の上方から圧縮力Pを作用させると、相互に螺合されている金属パイプ20と金属軸部材30の金属ネジ32Aが下方へY1方向に変位し、座屈誘発用の第二隙間G2が解消される。金属軸部材30のネジ無し端部32Bの一部は金属コッター40の中空孔41に収容固定されていることから、金属ネジ32Aの下方への変位の過程で金属軸部材30を構成する相対的に小径の金属芯材31は圧縮力を受ける。そして、作用する圧縮力が金属芯材31の座屈耐力より大きい場合は、金属芯材31は金属パイプ20の中空部21の第一隙間G1内において座屈変形する(変形量δ)。座屈変形した金属芯材31は、中空部21の壁面に当接してそれ以上の変形が拘束される。
【0042】
このように、地震時において木質軸部材50に圧縮力Pが作用した際には、金属軸部材30を構成する金属芯材31が座屈変形することにより、地震時における歪みエネルギーを効果的に吸収することができる。この際、金属軸部材30では、中央の金属芯材31よりも両端にあって金属パイプ20と金属コッター40に固定される金属ネジ32A及びネジ無し端部32Bが相対的に大径であることにより、作用する圧縮力Pに対して、金属ネジ32A及びネジ無し端部32Bは先行破壊せず、金属芯材31が座屈変形することになる。
【0043】
また、金属芯材31の座屈変形の際には、金属芯材31の外周に金属パイプ20があり、金属パイプ20の外周に木質本体10があることから、金属芯材31は金属パイプ20の中空部21において座屈変形しながらも、金属パイプ20と木質本体10によって拘束され、金属芯材31の座屈破壊は抑止される。
【0044】
このように、木質軸部材50によれば、その端部11に設けられている金属軸部材30の引張側と圧縮側の双方の変形性能が発揮されることにより、地震時における歪みエネルギー吸収性能に優れた木質軸部材となる。
【0045】
[第2実施形態に係る木質軸部材]
次に、
図4を参照して、第2実施形態に係る木質軸部材の一例について説明する。ここで、
図4は、第2実施形態に係る木質軸部材の一例を示す縦断面図である。
【0046】
図示する木質軸部材50Aは、木質本体10Aと金属パイプ20Aが相互に螺合されることによって固定される木質軸部材50と異なり、接着材28を介して固定される形態である。
【0047】
木質本体10Aは、ネジ孔でなく、表面が滑らかな収容孔12Aを備えている。一方、金属パイプ20Aは、ネジ切りを備えておらず、表面が滑らかな周面23Aを備えている。
【0048】
例えば、木質本体10Aの収容孔12Aに接着材28を充填し、金属パイプ20Aを収容孔12Aに挿入し、接着材28を硬化させることによって木質本体10Aと金属パイプ20Aが固定され、金属軸部材30や金属コッター40が順次取り付けられることにより、効率的に木質軸部材50Aが製作される。木質軸部材50Aでは、特に金属パイプ20Aの周面23Aにおけるネジ切りを設ける加工が不要になることから、構成部材の製作時における加工手間が削減される。
【0049】
木質軸部材50Aの他の構成は木質軸部材50と同様であることから、木質軸部材50Aによっても、木質軸部材50Aの端部11に設けられている金属軸部材30の引張側と圧縮側の双方の変形性能が発揮されることにより、地震時における歪みエネルギー吸収性能に優れた木質軸部材となる。
【0050】
[実施形態に係る建物架構]
次に、
図5及び
図6を参照して、実施形態に係る建物架構の複数の例について説明する。ここで、
図5(a)乃至
図5(e)は、実施形態に係る建物架構の一例を示す模式図であり、
図6は、
図5(d)に示す建物架構を具体的に示した正面図である。
【0051】
図5に示す各建物架構において、木質軸部材50(50A)は、木製ブレースとして架構に組み込まれるものである。尚、各建物架構を構成する梁60と柱70は、木製部材であってもよいし、鋼製部材であってもよいし、鉄筋コンクリート製部材であってもよい。また、建物架構は少なくとも木製ブレース50(50A)を備えていればよく、図示例以外の形態であってもよい。
【0052】
図5(a)に示すK型の建物架構80Aは、梁60と、梁60を支持する二本の柱70を有し、二本の木製ブレース50(50A)が、各柱70の下端と梁60の中央を繋ぐように取り付けられている。
【0053】
図5(b)に示す建物架構80Bは、K型の変則形態であり、梁60と、梁60を支持する二本の柱70を有し、二本の木製ブレース50(50A)が、各柱70の下端と梁60の左右寄りの箇所を繋ぐように取り付けられている。
【0054】
図5(c)に示す方杖型の建物架構80Cは、梁60と、梁60を支持する二本の柱70を有し、二本の木製ブレース50(50A)が、各柱70の上端近傍と梁60の左右端近傍を繋ぐように取り付けられている。
【0055】
図5(d)に示す一本の筋交い型の建物架構80Dは、梁60と、梁60を支持する二本の柱70を有し、一本の木製ブレース50(50A)が、一方の柱70の上端と他方の柱70の下端を繋ぐように取り付けられている。
【0056】
図5(e)に示す建物架構80Eは、K型を90度反転させた形態であり、梁60と、梁60を支持する二本の柱70を有し、二本の木製ブレース50(50A)が、一方の柱の上下端と他方の柱の中央を繋ぐように取り付けられている。
【0057】
図6では、
図5(d)に示す建物架構80Dを具体的に示しており、土台65も建物架構の構成部材として示している。
【0058】
正面視矩形枠状を呈する梁60と柱70の右上と左下の各取り合い部には、ブラケット等の接続治具74がボルト等を介して取り付けられており、各接続治具74に対して木製ブレース50(50A)の両端にある回動片45がボルトナット75により取り付けられている。
【0059】
図示する建物架構80A乃至80Eによれば、木製ブレース50(50A)として備えていることにより、柱70や梁60と木製ブレース50(50A)との接合部における圧縮側と引張側の双方の変形性能に優れ、地震時における歪みエネルギー吸収性能に優れた建物架構となる。また、木製ブレース50(50A)の変形性能により、地震時の外力が作用した際に、柱70や梁60と木製ブレース50(50A)との接合部における荷重の急激な増加が抑制される。さらに、金属パイプ20,20Aや金属軸部材30等の金物が木質本体10、10Aの内部に埋設されていることから、金物を外部から視認することはできず、外観意匠性に優れた木製ブレースを有する建物架構となる。
【0060】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10,10A:木質本体
11:端部
12:収容孔(ネジ孔)
12A:収容孔
13:座ぐり溝
20,20A:金属パイプ
21:中空部
22:ネジ溝
23:ネジ切りを備えた周面(周面)
23A:周面
28:接着材
30:金属軸部材
31:金属芯材
32A:金属ネジ(一端)
32B:ネジ無し端部(他端)
40:金属コッター
41:中空孔
45:回動片
50,50A:木質軸部材(木製ブレース)
60:梁
65:土台
70:柱
74:接続治具
75:ボルトナット
80A、80B,80C,80D,80E:建物架構
G1:第一隙間
G2:第二隙間