(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】推定支援装置および学習済みモデルと、当該推定支援装置を備えるケア支援装置および転帰予測装置と、当該ケア支援装置を備える転帰予測装置
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20241119BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B10/00 T
(21)【出願番号】P 2020215401
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2019234876
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 和貴
【審査官】原 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207684(JP,A)
【文献】特開2009-122851(JP,A)
【文献】特表2019-526851(JP,A)
【文献】森・濱田松本法律事務所 外,ヘルステックの法務 Q&A,初版,日本,株式会社商事法務,2019年12月10日,pp. 67-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん患者の属性情報、および、植物系機能障害に関する初期評価情報を含む患者情報が入力される入力部と、
前記入力部に入力された患者情報と、予め生成された学習済みモデルとを用いて、前記がん患者の
主観的症状を推定する推定部と、
前記推定部
による前記主観的症状の推定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記学習済みモデルは、前記患者情報が入力されると、前記がん患者の症状推定情報を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである、
推定支援装置。
【請求項2】
前記属性情報は、診療場面、年齢、性別、がん種別、治療期、ECOG-PSおよび依頼者の少なくとも一つに関する情報を含む、
請求項1に記載の推定支援装置。
【請求項3】
前記初期評価情報は、食欲低下、嘔気嘔吐、腹満、便秘、浮腫、および不眠の少なくとも一つに関する情報を含む、
請求項1または2に記載の推定支援装置。
【請求項4】
前記
主観的症状は、動物系機能障害に起因する症状を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の推定支援装置。
【請求項5】
前記
主観的症状は、疼痛、呼吸困難・咳・痰、倦怠感、眠気、不安・抑うつ・気持
ちのつらさ、せん妄、インフォームド・コンセントの不足およびスピリチュアル・ペイン
の少なくとも一つを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の推定支援装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、決定木である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の推定支援装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の推定支援装置と、
前記患者情報、前記推定結果及び前記推定結果に対する観察情報の少なくとも一方、並びに、予め生成された第2の学習済みモデルを用いて、前記がん患者に対するケアプラン案を生成する生成部と、
を備え、
前記第2の学習済みモデルは、前記学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、
前記出力部は、前記ケアプラン案を出力する、
ケア支援装置。
【請求項8】
請求項7に記載のケア支援装置と、
前記患者情報、前記推定結果及び前記観察情報の少なくとも一方、前記ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方、並びに、予め生成された第3の学習済みモデルを用いて、前記がん患者の所定期間における転帰予測を生成する予測部と、
を備え、
前記第3の学習済みモデルは、前記学習済みモデル及び前記第2の学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、
前記出力部は、前記転帰予測を出力する、
転帰予測装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の推定支援装置と、
前記患者情報、前記推定結果及び前記推定結果に対する観察情報の少なくとも一方、前記入力部を介して入力される実施予定ケアプラン、並びに、予め生成された第3の学習済みモデルを用いて、前記がん患者の所定期間における転帰予測を生成する予測部と、
を備え、
前記第3の学習済みモデルは、前記学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、
前記出力部は、前記転帰予測を出力する、
転帰予測装置。
【請求項10】
入力ノード、出力ノード、および、前記入力ノードと前記出力ノードとの間に設けられた中間ノードを備え、
がん患者の属性情報および植物系機能の障害情報を含む患者情報と、前記がん患者の
主観的症状の推定に利用される症状推定情報とを対応づけた教師データを用いて生成され、
前記患者情報が前記入力ノードに入力されると
、前記症状推定情報を前記出力ノードが出力するよう、コンピュータを機能させるための学習済みモデル。
【請求項11】
前記入力ノードは、ルートノードであり、
前記出力ノードは、リーフノードであり、
前記中間ノードは、前記ルートノードと前記リーフノードとの間の経路を分岐させる、
決定木である請求項10に記載の学習済みモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定支援装置および学習済みモデルと、当該推定支援装置を備えるケア支援装置および転帰予測装置と、当該ケア支援装置を備える転帰予測装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1は、疾患患者の自覚症状の判断を客観的に把握するためのシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
がん患者の終末期では、患者とのコミュニケーションが困難で、症状の推定(評価)に苦慮することが多い。特に、患者の主観的症状の評価は、熟練した医療者等であっても困難を極めることがある。
【0005】
本開示は、がん患者の病状の推定に供することのできる推定支援装置および学習済みモデルと、当該推定支援装置を備えるケア支援装置および転帰予測装置と、当該ケア支援装置を備える転帰予測装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る推定支援装置は、がん患者の属性情報、および、植物系機能障害に関する初期評価情報を含む患者情報が入力される入力部と、入力部に入力された患者情報と、予め生成された学習済みモデルとを用いて、がん患者の症状を推定する推定部と、推定部の推定結果を出力する出力部と、を備え、学習済みモデルは、患者情報が入力されると、がん患者の症状推定情報を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである。
【0007】
上記の推定支援装置によれば、患者情報と、予め生成された学習済みモデルとを用いて、がん患者の症状が推定され、その推定結果が出力される。したがって、推定支援装置をがん患者の症状の推定に供することができる。
【0008】
属性情報は、診療場面、年齢、性別、がん種別、治療期、ECOG-PS(EsternCooperative Oncology Group Performance Status)および依頼者の少なくとも一つに関する情報を含んでよい。これらの項目を考慮して、がん患者の症状を推定することができる。
【0009】
初期評価情報は、食欲低下、嘔気嘔吐、腹満、便秘、浮腫、および不眠の少なくとも一つに関する情報を含んでよい。これらの項目を考慮して、がん患者の症状を推定することができる。
【0010】
がん患者の症状は、動物系機能障害に起因する症状、たとえば、疼痛、呼吸困難・咳・痰、倦怠感、眠気、不安・抑うつ・気持ちのつらさ、せん妄、インフォームド・コンセントの不足およびスピリチュアル・ペインの少なくとも一つを含んでよい。これにより、客観的に評価しにくい(主観的な)症状を推定することができる。
【0011】
学習済みモデルは、決定木であってよい。このように学習済みモデルとして決定木を用いることができる。
【0012】
本開示の一側面に係るケア支援装置は、上記推定支援装置と、患者情報、推定結果及び推定結果に対する観察情報の少なくとも一方、並びに、予め生成された第2の学習済みモデルを用いて、がん患者に対するケアプラン案を生成する生成部と、を備え、第2の学習済みモデルは、学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、出力部は、ケアプラン案を出力する。
【0013】
上記のケア支援装置によれば、推定支援装置による推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方を用いることによって、がん患者の症状推定情報を踏まえたケアプラン案が得られる。これにより、一般医療者が当該がん患者に対するケアプランを立案するとき、当該ケアプラン案を参考にできる。したがって、ケア支援装置を、がん患者にとっての最適なケアプラン立案に供することができる。
【0014】
本開示の一側面に係る転帰予測装置は、上記ケア支援装置と、患者情報、推定結果及び観察情報の少なくとも一方、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方、並びに、予め生成された第3の学習済みモデルを用いて、がん患者の所定期間における転帰予測を生成する予測部と、を備え、第3の学習済みモデルは、学習済みモデル及び第2の学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、出力部は、転帰予測を出力する。
【0015】
本開示の一側面に係る転帰予測装置は、上記推定支援装置と、患者情報、推定結果及び推定結果に対する観察情報の少なくとも一方、入力部を介して入力される実施予定ケアプラン、並びに、予め生成された第3の学習済みモデルを用いて、がん患者の所定期間における転帰予測を生成する予測部と、を備え、第3の学習済みモデルは、学習済みモデルとは異なる教師データを用いて生成され、出力部は、転帰予測を出力する。
【0016】
上記の転帰予測装置によれば、推定支援装置による推定結果及び観察情報の少なくとも一方、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方などを用いることによって、がん患者の所定期間における転帰予測が得られる。これにより、たとえば医療者は、当該がん患者に対する実施予定ケアプランの妥当性を客観的に確認できる。このため、転帰予測装置を、最適なケアプラン立案の精度向上に供することができる。加えて、たとえばがん患者は、転帰予測を確認することによって自身の将来における状態推移の例を客観視できる。これにより、がん患者は、医療に関する希望及び選択の意思決定をしやすくなる。したがって、転帰予測装置を、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)の立案に供することができる。
【0017】
本開示の一側面に係る学習済みモデルは、入力ノード、出力ノード、および、入力ノードと出力ノードとの間に設けられた中間ノードを備え、がん患者の属性情報および植物系機能の障害情報を含む患者情報と、がん患者の症状推定情報とを対応づけた教師データを用いて生成され、患者情報が入力ノードに入力されると、がん患者の症状推定情報を出力ノードが出力するよう、コンピュータを機能させる。
【0018】
上記の学習済みモデルによれば、患者情報から、がん患者の症状推定情報を得ることができる。したがって、学習済みモデルをがん患者の症状の推定に供することができる。
【0019】
上記の学習済みモデルは、入力ノードがルートノードであり、出力ノードがリーフノードであり、中間ノードがルートノードとリーフノードとの間の経路を分岐させる、決定木であってよい。このように学習済みモデルとして決定木を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、がん患者の病状の推定に供することのできる推定支援装置および学習済みモデルと、当該推定支援装置を備えるケア支援装置および転帰予測装置と、当該ケア支援装置を備える転帰予測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、推定支援装置の概要を示す図である。
【
図2】
図2は、推定支援装置の概要を示す図である。
【
図3】
図3は、推定支援装置の概要を示す図である。
【
図4】
図4の(a)、(b)および(c)は、推定支援装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図6】
図6は、教師データにおける入力データの例を示す図である。
【
図7】
図7は、教師データにおける出力データの例を示す図である。
【
図8】
図8は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図9】
図9は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図10】
図10は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図11】
図11は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図12】
図12は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図13】
図13は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図14】
図14は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図15】
図15は、決定木の上流のノードにおける特徴量の出現頻度を示す図である。
【
図16】
図16は、ケア支援装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図17】
図17は、第2の学習済みモデルの教師データにおける出力データの例を示す。
【
図18】
図18は、評価データ結果を用いて形成されるグラフである。
【
図19】
図19は、評価データ結果を用いて形成されるグラフである。
【
図20】
図20は、評価データ結果を用いて形成されるグラフである。
【
図21】
図21は、転帰予測装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図22】
図22は、第3の学習済みモデルにおける出力データの例を示す。
【
図23】
図23は、検証結果を用いて形成されるグラフである。
【
図24】
図24は、検証結果を用いて形成されるグラフである。
【
図25】
図25は、検証結果を用いて形成されるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本開示の実施形態について説明する。図面において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0023】
(第1実施形態)
図1~
図3を参照して、第1実施形態に係る推定支援装置の概要を説明する。
図1には、推定支援装置1、および、推定支援装置1を利用するユーザUが例示される。この例では、推定支援装置1はタブレット端末であり、ユーザUは、推定支援装置1のディスプレイ1a(タッチパネルディスプレイ)を使って推定支援装置1を操作する。タブレット端末に限らず、スマートフォン、PC等が推定支援装置1として用いられてもよい。ユーザUは、患者(不図示)の関係者であり、たとえば医療者等である。ユーザUは、医療者等から緩和ケアに関する相談を受けた専門家でもよいし、緩和ケアに関する支援ニーズを持った医療者等でもよい。推定支援装置1は、がん患者に関する情報(患者情報)が入力されると、そのがん患者の症状を推定し、推定結果を出力する。このような推定支援装置1は、がん患者の症状の推定に供することができる。
【0024】
図2には、推定支援装置の入力画面の例が示される。この例では、推定支援装置1のディスプレイ1aには、患者情報として「診療場面」、「年齢」、「性別」、「がんの種類」、「治療期」、「ECOG-PS」、「依頼者」、「食欲低下」、「嘔気嘔吐」、「腹部膨満感・腹水」、「便秘」、「浮腫」および「不眠」が表示されている。「診療場面」は、がん患者がどのような場面において診療を受けているのかを示す情報であり、入院および外来のいずれかが選択入力されるようにチェックボックスが設けられている。「年齢」は、がん患者の年齢を示す情報であり、対応する数値が直接入力されるようになっている。「性別」は、がん患者の性別を示す情報であり、男性および女性のいずれかが選択入力されるようにチェックボックスが設けられている。「がんの種類」は、がん患者がどのような種類のがんを有しているのかを示す情報であり、対応するがんの種類(たとえば、肺がん等)が選択入力されるようにプルダウンメニューが設けられている。「治療期」は、がん患者がどのような治療段階(時期)にあるのかを示す情報であり、抗がん治療を行わない予定、治療予定(精密検査中)、および抗がん治療中のいずれかが選択入力されるようにチェックボックスが設けられている。「ECOG-PS」は、がん患者の全身状態を示す情報(Estern Cooperative Oncology Group Performance Status)であり、対応する数値が直接入力されるようになっている。「依頼者」は、がん患者の緩和ケアを依頼した者を示す情報であり、医師および看護師のいずれかが選択入力されるようにチェックボックスが設けられている。「食欲低下」は、がん患者における食欲低下の有無を示す情報であり、有および無のいずれかが選択入力されるようにチェックボックスが設けられている。「嘔気嘔吐」、「腹部膨満感・腹水」、「便秘」、「浮腫」および「不眠」についても同様である。
【0025】
図3には、推定支援装置の出力画面の例が示される。この例では、推定支援装置1のディスプレイ1aに、推定結果として「疼痛」、「呼吸困難・咳・痰」、「倦怠感」、「眠気」、「不安・抑うつ・気持ちのつらさ」、「せん妄」、「スピリチュアル・ペイン」および「インフォームド・コンセントの不足」の確率がパーセント表示される。たとえば「疼痛」に対応する数値は、がん患者が疼痛を有している確率(疼痛の感度)の推定結果、もしくは疼痛を有さない確率(疼痛の特異度)を示す。感度および特異度の両方が表示されてもよい。他の症状についても同様である。なお、「スピリチュアル・ペイン」とは、がん患者が直面しうる死に関する苦しみであり、生の無意味、無価値、空虚等の苦痛を意味する。「インフォームド・コンセントの不足」とは、診断・治療に関する理解と選択が不十分であること、抗がん治療の副作用に関する不安、心配等があること、医療者とのコミュニケーションに困難な事情があること等を意味する。なお、「スピリチュアル・ペイン」、「インフォームド・コンセントの不足」に関する汎用性のある評価尺度は、たとえば日本等では未確立である。「スピリチュアル・ペイン」、「インフォームド・コンセントの不足」は、実地臨床における緩和ケアチームのメンバー(専門医等)の診察等で初めて認識されることが多い。このため、「スピリチュアル・ペイン」、「インフォームド・コンセントの不足」の発見が遅れることも珍しくない。
【0026】
以上のような推定支援装置1を利用することで、ユーザUは、がん患者の症状の推定(評価)を行うことができる。たとえば、ユーザUが、自身の判断結果だけでなく推定支援装置1の推定結果をも考慮することで、がん患者の症状の推定精度を向上できる可能性が高まる。
【0027】
図4の(a)は、推定支援装置1の機能ブロックの例を示す図である。推定支援装置1は、その機能ブロックとして、入力部10と、推定部20と、学習済みモデル30と、出力部40とを含む。
【0028】
入力部10は、患者情報が入力される部分(入力手段)である。入力部10は、たとえば先に
図2を参照して説明した患者情報を受け付ける。患者情報についてさらに述べると、患者情報は、がん患者の属性情報を含む。属性情報は、がん患者に備わっている固有の情報であり、診療場面、年齢、性別、がん種別、治療期、ECOG-PSあるいは依頼者、またはこれらの任意の組み合わせに関する情報である。また、患者情報は、がん患者の初期評価情報を含む。初期評価情報は、専門医(医療者等)による観察で評価しやすい症状の情報である。評価しやすい症状として、がん患者の植物系機能障害(栄養、代謝内分泌系、血液循環系および自律神経系等の障害)に起因する症状が挙げられる。植物系機能障害に起因する症状の例は、食欲低下、嘔気嘔吐、腹満、便秘、浮腫および不眠である。初期評価情報は、食欲低下、嘔気嘔吐、腹満、便秘、浮腫あるいは不眠、またはこれらの任意の組み合わせに関する情報であってよい。本明細書における「植物系機能(vegetative function)」とは、その生命維持に直接的に関与する生理機能とする。植物系機能は、たとえば、栄養、代謝、内分泌、血液循環、自律神経などを含む。生命維持に直接的に関与する生理機能は、多くの場合、無意識下で調節される。植物系機能の状態は、他者からの観察で評価しやすく、病的状態下では客観的症状として他者から認識され得る。
【0029】
推定部20は、入力部10に入力された患者情報と、学習済みモデル30とを用いて、がん患者の症状を推定する部分(推定手段)である。推定されるがん患者の症状は、専門医(医療者等)による観察でも評価しにくい症状である。評価しにくい症状として、がん患者の動物系機能障害(運動系(骨格筋・神経)、呼吸循環系、高次脳機能)に起因する症状が挙げられる。動物系機能障害に起因する症状の例は、疼痛、呼吸困難・咳・痰、倦怠感、眠気、不安・抑うつ・気持ちのつらさ、せん妄、インフォームド・コンセントの不足およびスピリチュアル・ペインである。がん患者の症状は、これらの少なくとも一つまたは任意の組み合わせであってよい。推定部20は、患者情報を学習済みモデル30に入力し、がん患者の症状推定情報を学習済みモデル30から得ることによって、がん患者の症状を推定する。がん患者の症状推定情報は、先に
図3を参照して説明したような、「疼痛」等の感度や特異度の推定結果である。本明細書における「動物系機能(animal function)」は、知覚、感覚、神経機構と運動に関係する生理機能とする。動物系機能は、たとえば、感覚器や、骨格筋や神経系に代表される機能である。動物系機能は、多くの場合、意識下で調節される。動物系機能の状態は、他者からの観察により評価しにくい傾向があり、病的状態下では主観的症状として当該者(患者本人)により認識される。
【0030】
学習済みモデル30は、患者情報が入力されると、がん患者の症状推定情報を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである。学習済みモデルは、入力データ(この例では患者情報)を受け付ける入力ノード(入力層)、出力データ(この例では症状推定情報)を出力する出力ノード(出力層)、および、入力ノードと出力ノードとの間に設けられた中間ノード(中間層)を含んで構成されてよい。そのような学習済みモデルとして、決定木、ニューラルネットワーク、その他の種々の公知のモデルが用いられてよい。ニューラルネットワークは、ディープラーニングによって生成されたもの説明を含む。
【0031】
図5は、決定木の構成の例を示す図である。
図5に例示される決定木30aは、複数のノードNを含んで構成される。便宜上、各ノードには、「N1」等の区別可能な符号を付している。ノードN1は、患者情報が入力されるルートノード(入力ノード)であり、第1の分岐である。ノードN2-1およびノードN2-2は、ノードN1から分岐したノードであり、第2の分岐である。ノードN3-1およびノードN3-2は、ノードN2-1から分岐したノードであり、第3の分岐である。ノードN3-3およびノードN3-4は、ノードN2-2から分岐したノードであり、第3の分岐である。このように上流から下流に向かって分岐が繰り返され、第nの分岐であるノードNn-pおよびノードNn-qに至る。ノードNn-pおよびノードNn-qは分岐しておらず、がん患者の症状推定情報を出力するリーフノード(出力ノード)である。ノードN1とノードNn-pおよびノードNn-qとの間に設けられたノードN2-1、ノードN2-2、ノードN3-1、ノードN3-2、ノードN3-3およびノードN3-4は、ノードN1とノードNn-pおよびノードNn-qとの間を分岐させる中間ノードである。
【0032】
決定木30aの生成は、教師データを用いた機械学習によって行う。機械学習によって、教師データに応じた構成を有する決定木が自動的に生成される。決定木の構成は、決定木に含まれるノードの数、各ノード間の接続関係、入力ノードおよび中間ノードにおける分岐条件、出力ノードが出力する病状推定情報等である。各ノードにおける分岐条件は、患者情報のいずれかの項目を用いて定められる。項目の例は、先に説明した
図2、および、後に説明する
図6に示される「年齢」等である。分岐条件の例は、年齢が所定年齢値以下であるか否かといった条件である。出力する病状推定情報の例は、先に説明した
図3、および、後に説明する
図7に示される「疼痛」等の感度や特異度の推定結果である。
【0033】
図4の(a)に戻り、出力部40は、推定部20の推定結果を出力する部分(出力手段)である。出力部40は、たとえば先に
図3を参照して説明した推定結果を提示する。出力部40による出力の態様はとくに限定されない。たとえば、推定結果の値に応じて、項目が並び変えられて(昇順、降順等の態様で)表示されてよい。推定結果の一部のみが表示されてもよい。推定結果が、種々のグラフを用いて表示されてもよい。推定結果が、音(音声等)で出力されてもよい。
【0034】
図4の(a)に示される例では、推定部20および学習済みモデル30は、推定支援装置1の内部に設けられる。ただし、推定部20および学習済みモデル30は、推定支援装置1の外部に設けられてもよい。
【0035】
図4の(b)に例示される推定支援装置1Aは、推定支援装置1と比較して、学習済みモデル30を外部のサーバ2Aに備えている点において相違している。また、推定支援装置1は、通信部50を含む。サーバ2Aは学習済みモデル30および通信部60を含む。推定支援装置1Aにおいては、推定部20が、推定支援装置1Aの通信部50およびサーバ2Aの通信部60を介して、サーバ2A内の学習済みモデル30を用いる。このように推定支援装置1Aおよびサーバ2Aの協働によって実現されるシステム(推定支援システム)も、推定支援装置の一態様である。
【0036】
図4の(c)に例示される推定支援装置1Bは、推定支援装置1Aと比較して、推定部20をサーバ2Bに備えている点において相違する。推定支援装置1Bにおいては、入力部10に入力された患者情報が、推定支援装置1Bの通信部50およびサーバ2Bの通信部60を介して、サーバ2B内の推定部20に送られる。推定部20は、学習済みモデル30を用いて、がん患者の症状を推定する。推定部20の推定結果は、サーバ2Bの通信部60および推定支援装置1Bの通信部50を介して推定支援装置1Bに送られ、出力部40によって出力される。このように推定支援装置1Bおよびサーバ2Bの協働によって実現される「システム(推定支援システム)」も、推定支援装置の一態様である。
【0037】
推定支援装置1のハードウェア構成について説明する。推定支援装置1は、プロセッサ(CPU等)、主記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)、および補助記憶装置等を備えるコンピュータ装置によって構成されてよい。補助記憶装置は、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体(computer readable medium)であってよく、非一過性の(non-transitory)記録媒体であってよい。補助記憶装置の例としては、種々の公知の記憶装置(たとえば、CD-ROM、DVD、ハードディスクドライブ、USBメモリ等)が挙げられるが、これらに限定されない。補助記憶装置には、コンピュータ装置を推定支援装置として機能させるためのプログラムが記憶されている。このプログラムが主記憶装置に読み込まれ、プロセッサがプログラムに従ってコンピュータ装置を動作させる。学習済みモデル30は、プログラムまたはプログラムに準ずるものとして、補助記憶装置に記憶されて(記録媒体に記録されて)よい。学習済みモデル30は、患者情報が入力ノードに入力されると、症状推定情報を出力ノードが出力するようにコンピュータ装置を機能させる。また、コンピュータ装置は、ユーザUの操作を受け付けるための入力インタフェース、および、ユーザUに推定結果を提示するための出力インタフェースを備えうる。
図1に示される例では、推定支援装置1のディスプレイ1aが、入力インタフェースおよび出力インタフェースの一態様である。なお、サーバ2Aおよびサーバ2B(
図4の(b)および(c))も、推定支援装置1と同様のハードウェア構成を備えうる。
【0038】
学習済みモデル30の生成の例についてさらに説明する。学習済みモデル30の生成には、教師データ、より具体的には複数の教師データから構成されるデータセット(訓練データ)が用いられる。本実施形態では、教師データは、入力データに相当する患者情報と、出力データに相当する症状推定情報とを対応付けたデータである。
【0039】
データセット(患者情報および症状推定情報)の収集の手法はとくに限定されない。患者情報のうちの属性情報(診療場面等)は容易に取得できるので、その収集の手法はここでは説明は行わない。患者情報のうちの初期評価情報(食欲低下等)は、専門医等の診察等によって取得される。症状推定情報は、実際に何らかの処方を行い、期待する効果が得られたか否かによって取得される。たとえば、疼痛に対する処方を行うことによってがん患者の症状が緩和されたことが確認されれば、がん患者の症状は疼痛であったと推定される。なお、一般に、緩和ケア病棟を有する病院施設においては、所定のフォーマットによる緩和ケアチーム活動記録が作成されるようになっているので、その記録をデータセットの収集に利用してもよい。フォーマットの例としては、緩和ケアチーム活動記録標準フォーマット1.0(SF-PCTA 1.0:StandardFormat for Reporting Palliative Care Team Activities 1.0)が挙げられるが、これに限定されない。
【0040】
以下、学習済みモデル30の生成の実施例について説明する。今回の実施例では、213例のがん症例に基づくデータセット、つまり213の教師データを準備し、そのデータセットを用いて機械学習を行い、学習済みモデル30を生成した。
【0041】
図6は、教師データにおける入力データの例を示す。この例では、入力データに相当する患者情報は、32個の項目で表される。便宜上、各項目には符号(X1~X32)が対応付けられている。
【0042】
項目X1~X26は、がん患者の属性情報である。具体的に、項目X1「入院」は、がん患者が入院しているか否かを示す情報である。この情報に対応するデータの例は、入院している場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X2「外来」は、がん患者が外来であるか否かを示す情報である。データの例は、外来である場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X3は、がん患者の年齢を示す情報である。データの例は、年齢の値(連続変数)である。連続変数に代えて、2値データとしてもよい。たとえば所定年齢より高い場合は「1」とし、そうでない場合は「0」としてよい。所定年齢の例は、全教師データの中央値、平均値等である。項目X4「男性」は、がん患者が男性であるか否かを示す情報である。データの例は、男性である場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X5「女性」についても同様である。項目X6「膵臓がん」は、がん患者が膵臓がんであるか否かを示す情報である。データの例は、すい臓がんである場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X7「原発不明がん」、項目X8「肺がん」、項目X9「乳がん」、項目X10「頭頚部がん」、項目X11「胆道系がん」、項目X12「大腸・直腸がん」、項目X13「前立腺がん」、項目X15「腎・膀胱がん」、項目X16「食道がん」、項目X17「子宮・卵巣がん」、項目X18「肝臓がん」、項目X19「胃がん」、項目X20「リンパ・血液がん」についても同様である。項目X14「がんの精査中」は、がんの種類が明確になっておらず精査している途中であるか否かを示す情報である。データの例は、精査中の場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X21「抗がん治療を行わない予定」は、がん患者が抗がん治療を行わない予定であるか否かを示す情報である。データの例は、抗がん治療を行わない予定の場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X22「治療予定」は、がん患者が治療を行う予定であるか否かを示す情報である。データの例は、治療を行う予定の場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X23「抗がん治療中」は、がん患者が抗がん治療中であるか否かを示す情報である。データの例は、抗がん治療中の場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X24「ECOG-PS」は、がん患者のECO-PS値を示す情報である。データの例は、ECOG-PSの値(連続変数)である。連続変数に変えて、2値データとしてもよい。たとえば所定値より高い場合は「1」とし、そうでない場合は「0」としてよい。所定値の例は、全教師データの中央値、平均値等である。項目X25「依頼者が医師」は、がん患者の緩和ケアを依頼した者が医師であるか否かを示す情報である。データの例は、医師の場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X26「依頼者が看護師」についても同様である。
【0043】
項目X27~X32は、がん患者の初期評価情報である。具体的に、項目X27「食欲低下・経口摂取困難」は、がん患者に食欲低下・経口摂取障害の症状がみられるか否かを示す情報である。データの例は、食欲低下・経口摂取障害がみられる場合は「1」、そうでない場合は「0」である。項目X28「嘔気・嘔吐」、項目X29「腹部膨満感・腹水」、項目X30「便秘」、項目X31「浮腫・リンパ浮腫」および「不眠」についても同様である。
【0044】
図7は、教師データにおける出力データの例を示す。この例では、出力データに相当する症状推定情報は、8個の項目で表される。便宜上、各項目には符号(Y1~Y8)が対応付けられている。
【0045】
項目Y1「疼痛」は、がん患者に疼痛が存在すると推定されることを示す情報、もしくは存在しないと推定されることを示す情報である。データの例は、存在する/しない可能性の程度を示す数値であり、0~1の数値、あるいはこの数値をパーセンテージ換算した0~100である。他の項目Y2「呼吸困難・咳・痰」、項目Y3「倦怠感」項目Y4「眠気」、項目Y5「不安・抑うつ・気持ちのつらさ」、項目Y6「せん妄」、項目Y7「スピリチュアル・ペイン」および項目Y8「インフォームド・コンセントの不足」についても同様である。
【0046】
モデルの生成には、種々の公知の手法が用いられてよい。この実施例では、機械学習プラットフォームとして提供されているRapidMinderを用いた機械学習によりモデルを生成した。学習済みモデルには決定木を用いた。
【0047】
学習済みモデルの検証には、交差検証法(Cross Validation法)を使用した。交差検証法自体は公知であるので、ここでは手短に説明する。まず、データセットのデータのうちの1/10のデータをテスト用データとして残しておく。このテスト用データは、機械学習では用いない。残りの9/10のデータを10個のグループに分割し、任意の1グループを検証用データとし、残りの9グループを学習用データとする。学習用データを用いて学習済みモデルを生成し、検証用データを用いて動作確認を行うことによって、その学習済みモデルの検証結果を得る。同じくテスト用データを用いて動作確認を行うことによって、その学習済みモデルの別の検証結果を得る。次に、先の検証用データに用いたグループとは別の1グループを新たな検証データとし、残りの9グループを学習用データとする。その学習用データを用いて別の学習済みモデルを生成し、検証用データを用いて動作確認を行うことによって、その学習済みモデルの検証結果を得る。同じくテスト用データを用いて動作確認を行うことによって、その学習済みモデルの別の検証結果を得る。これを繰り返し行うことで10個の学習済みモデルによるそれぞれの検証結果を得る。そして、それらの検証結果の平均を算出する。なお、今回の実施例では分割数=10としたが、分割数は任意の整数(たとえば分割数=5等)であってよい。
【0048】
検証結果の指標としては、混同行列(Confusion Matrix)およびROC曲線(receiver operating characteristic curve)を用いた。混同行列およびROC曲線は公知であるので、ここでは詳細な説明は行わず手短に説明する。すなわち、混同行列は、機械学習のクラス分類の結果を記述するものであり、実際にそうである(正である)クラスをそのクラスである(正である)と推定すればTP(True Positive)とする。実際にそうでない(負である)クラスをそのクラスでない(負である)と推定すればTN(True Negative)とする。実際にそうであるクラス(正である)クラスをそうでない(負である)クラスと推定(すればFN(False Negative)とする。実際にそうでない(負である)クラスをそうである(正である)と推定すればFP(False Positive)とする。これらを用いて、精度(Accuracy)=(TP+TN)/(TP+FP+TN+FN)、感度(recall, sensitivity)=TP/(TP+FN)、特異度(specificity)=TN/(FP+TN)および適合率(precision)=TP/(TP+FP)を算出する。ROC曲線は、学習モデルのパラメータを変化させながら、縦軸に感度(TP/TP+FN)、横軸に1-特異度(FP/(FP+TN))をとった曲線であり、ROC曲線の下側の面積AUC(area under the curve)が曲線によるクラス分類の性能(能力)を示す。
【0049】
10個の学習済みモデルによるそれぞれの検証結果の平均として、以下の結果が得られた。精度、感度、特異度、および適合率の単位はパーセント(%)である。±の後の数値は、標準偏差を示す。AUCは無次元(最大1.0)である。
【0050】
がん患者の症状「疼痛」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 63.3± 2.95。
感度= 77.7± 3.40。
特異度= 29.9± 5.46。
適合率= 72.0± 2.28。
AUC=0.541±0.0250。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 68.5± 14.2。
感度= 84.9± 7.05。
特異度= 24.1± 19.6。
適合率= 72.9± 16.4。
AUC=0.582±0.151。
以上のように、精度、感度および適合率において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「疼痛」の推定に有用であると考えられる。
【0051】
がん患者の症状「呼吸困難」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 62.6± 3.46。
感度= 18.1± 6.91。
特異度= 80.0± 6.00。
適合率= 26.4± 6.36。
AUC=0.486±0.0337。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 59.5± 11.4。
感度= 27.9± 28.1。
特異度= 70.6± 13.8。
適合率= 19.6± 20.3。
AUC=0.482±0.175。
以上のように、精度および特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「呼吸困難」の推定に有用であると考えられる。特異度の高さは、たとえばスクリーニング、レビュー等に役立てることができる。
【0052】
がん患者の症状「倦怠感」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 70.5± 2.75。
感度= 21.0± 7.23。
特異度= 85.7± 3.42。
適合率= 30.8± 7.81。
AUC=0.552±0.0484。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 73.5± 6.26。
感度= 34.5± 30.8。
特異度= 88.0± 12.0。
適合率= 48.0± 38.9。
AUC=0.706±0.146。
以上のようにAUC、感度および特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「倦怠感」の推定に有用であると考えられる。
【0053】
がん患者の症状「眠気」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 88.0± 1.71。
感度= 12.9± 5.74。
特異度= 95.7± 1.75。
適合率= 25.6± 12.6。
AUC=0.531±0.123。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。なお、ACUが定まらない(AUC=NAとなる)分割データが2セットあったので、ここでは残りの8セットでの検証結果の平均を示す。
精度= 85.0± 5.98。
感度= 4.17± 11.8。
特異度= 95.8± 3.95。
適合率= 12.5± 35.4。
AUC= 0.450± 0.207。
以上のように感度および特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「眠気」の推定に有用であると考えられる。
【0054】
がん患者の症状「不安」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 58.6± 2.52。
感度= 61.1± 5.05。
特異度= 55.9± 5.11。
適合率= 59.6± 2.96。
AUC=0.549±0.0402。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 56.0± 8.10。
感度= 67.3± 12.5。
特異度= 41.8± 21.6。
適合率= 56.8± 15.8。
AUC=0.533±0.162。
以上のように感度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「不安」の推定に有用であると考えられる。
【0055】
がん患者の症状「せん妄」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 70.8± 2.35。
感度= 31.2± 5.04。
特異度= 83.2± 2.42。
適合率= 36.9± 4.63。
AUC=0.612±0.0301。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 71.0± 10.2。
感度= 29.8± 20.9。
特異度= 85.7± 11.2。
適合率= 40.2± 27.4。
AUC=0.654±0.147。
以上のように精度および特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「せん妄」の推定に有用であると考えられる。
【0056】
がん患者の症状「インフォームド・コンセントの不足」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 60.1± 2.83。
感度= 41.8± 5.73。
特異度= 70.8± 4.58。
適合率= 46.3± 3.47。
AUC=0.556±0.0383。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 55.5± 14.6。
感度= 28.0± 16.2。
特異度= 71.2± 9.98。
適合率= 36.6± 17.8。
AUC=0.460±0.134。
以上のように特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「インフォームド・コンセントの不足」の推定に有用であると考えられる。
【0057】
がん患者の症状「スピリチュアル・ペイン」について、検証用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 72.3± 3.79。
感度= 17.9± 5.68。
特異度= 86.4± 3.84。
適合率= 26.0± 7.44。
AUC=0.548±0.0412。
テスト用データを用いた検証結果は以下のとおりである。
精度= 74.0± 10.7。
感度= 21.7± 35.2。
特異度= 90.8± 8.40。
適合率= 25.0± 35.4。
AUC=0.558±0.235。
以上のように精度および特異度において比較的高い値が得られた。少なくともこの点において、がん患者の症状「スピリチュアル・ペイン」の推定に有用であると考えられる。
【0058】
以上のことから、生成した学習済みモデルが症状の推定に有用であることが分かる。教師データの数を増やしたり、学習モデルの種類を適宜選択したりすることによって、より高い推定精度が得られると期待される。教師データの数に応じて、機械学習の手法を変えてもよい。たとえば、教師データの数が11~100個程度の場合は、Leave One Out法が用いられてよい。101~1000個程度の場合は、上述のCross Validation法の他にLeave One Out法が用いられてよい。教師データの数が1001~10000個程度の場合は、Corss Validation法またはHold Out法が用いられてよい。教師データの数が10001~100000個程度の場合は、Hold Out法を用いられてよい。教師データの数がさらに多くなり、100001個以上になる場合は、専門機関等によってより適切な手法が検討されてよい。学習モデルの種類に関しては、上述のデータセットを用いてニューラルネットワークにディープラーニングを適用した場合の、症状「呼吸困難」の推定の検証結果を以下に示す。この結果は、テスト用データを用いた結果である。
精度= 73.6± 13.6。
感度= 0.00± 0.00。
特異度= 100 ± 0.00。
適合率= 0.00± 0.00。
上記のニューラルネットワークは、決定木と比較して、精度および特異度が高いという特徴があった。このように学習モデルの違い(決定木またはニューラルネットワーク)によっても異なる特徴が得られることから、さまざまな学習モデルを利用しうること、また、学習モデルの種類を適切に選択することで推定精度が向上しうることが分かる。
【0059】
学習モデルとして決定木を採用する場合、さらに次のようなメリットがある。すなわち、機械学習によって生成された決定木がどのような構造を有するかを、人が確認することができる。その構造、より具体的には分岐の過程を調べることによって、新規の病態生理、診察技法につながる知見が得られることが期待される。たとえば、決定木の上流の分岐に出現する項目は、症状推定においてとくに重要な特徴量であると考えられる。この観点から上記の実施例で作成された決定木の構造を調べた結果を、
図8~
図15を参照して説明する。
【0060】
図8は、症状「疼痛」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。グラフの横軸は分岐の番号を示し、縦軸は、各分岐における項目の出現頻度(%)を示す。項目は、先に説明した
図6に示される項目X1~X32である。たとえば、分岐1において項目X3「年齢」の出現頻度が80%であり、これは、生成した10個の決定木のうち、8個の決定木が、分岐1に項目X3「年齢」の判断を行うノードNを有することを意味する。
図8に示されるグラフから、症状「疼痛」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X4「男性」(性別)、項目X11「胆道系がん」、項目X24「ECOG-PS」および項目X27「食欲低下・経口摂取困難」が重要な特徴量であると知ることができる。換言すれば、それらの項目と症状「疼痛」との間に何らかの因果関係がある可能性があると知ることができる。
【0061】
図9は、症状「呼吸困難」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図9に示されるグラフから、症状「呼吸困難」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X7「原発不明がん」、項目X9「乳がん」、項目X13「前立腺がん」、項目X24「ECOG-PS」、項目X29「腹部膨満感・腹水」および項目X31「浮腫・リンパ浮腫」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0062】
図10は、症状「倦怠感」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図10に示されるグラフから、症状「倦怠感」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X7「原発不明がん」、項目X9「乳がん」、項目X13「前立腺がん」、項目X31「浮腫・リンパ浮腫」および項目X32「不眠」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0063】
図11は、症状「眠気」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図11に示されるグラフから、症状「眠気」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X30「便秘」および項目X32「不眠」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0064】
図12は、症状「不安」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図12に示されるグラフから、症状「不安」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X20「リンパ・血液がん」および項目X31「浮腫・リンパ浮腫」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0065】
図13は、症状「せん妄」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図13に示されるグラフから、症状「せん妄」を推定する際は、項目X3「年齢」、項目X7「原発不明がん」、項目X24「ECOG-PS」および項目X31「浮腫・リンパ浮腫」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0066】
図14は、症状「インフォームド・コンセントの不足」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図14に示されるグラフから、項目X1「入院」、項目X3「年齢」、項目X7「原発不明がん」、項目X8「肺がん」、項目X9「乳がん」、項目X14「がんの精査中」、項目X17「子宮・卵巣がん」、項目X24「ECOG-PS」、項目X25「依頼者が医師」、項目X29「腹部膨満感・腹水」、項目X30「便秘」および項目X31「浮腫・リンパ浮腫」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0067】
図15は、症状「スピリチュアル・ペイン」を推定する際に決定木の上流の分岐に頻出する項目を示すグラフである。
図15に示されるグラフから、項目X1「入院」、項目X3「年齢」、項目X6「膵臓がん」、項目X8「肺がん」、項目X11「胆道系がん」、項目X13「前立腺がん」、項目X17「子宮・卵巣がん」、項目X18「肝臓がん」、項目X19「胃がん」、項目X20「リンパ・血液がん」、項目X21「抗がん治療を今後行わない予定」、項目X24「ECOG-PS」、項目X29「腹部膨満感・腹水」および項目X32「不眠」が重要な特徴量であると知ることができる。
【0068】
以上のように、機械学習によって生成された決定木の構造を調べることによって、各症状の推定に重要な特徴量の手がかりを得ることができる。
【0069】
以上説明した推定支援装置1(推定支援装置1Aおよび推定支援装置1Bを含む)は、たとえば以下のように特定される。
【0070】
推定支援装置1は、入力部10と、推定部20と、出力部40とを備える。入力部10には、がん患者の属性情報、および、植物系機能障害に関する初期評価情報を含む患者情報が入力される。推定部20は、入力部10に入力された患者情報と、予め生成された学習済みモデル30とを用いて、がん患者の症状を推定する。学習済みモデル30は、患者情報が入力されると、がん患者の症状推定情報を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである。
【0071】
推定支援装置1によれば、患者情報と、予め生成された学習済みモデル30とを用いて、がん患者の症状が推定され、その推定結果が出力される。したがって、推定支援装置1をがん患者の症状の推定に供することができる。
【0072】
属性情報は、診療場面、年齢、性別、がん種別、治療期、ECOG-PSおよび依頼者の少なくとも一つに関する情報を含んでよい。これらの項目を考慮して、がん患者の症状を推定することができる。
【0073】
属性情報は、上述の項目の少なくとも一つまたは任意の組み合わせであってよい。好ましい組み合わせの例は、年齢、がん種、ECOG-PSである。
【0074】
初期評価情報は、食欲低下、嘔気嘔吐、腹満、便秘、浮腫、および不眠の少なくとも一つに関する情報を含んでよい。これらの項目を考慮して、がん患者の症状を推定することができる。
【0075】
初期評価情報は、上述の項目の少なくとも一つまたは任意の組み合わせであってよい。好ましい組み合わせの例は、腹満、便秘、浮腫、不眠である。
【0076】
がん患者の症状は、動物系機能障害に起因する症状、たとえば疼痛、呼吸困難・咳・痰、倦怠感、眠気、不安・抑うつ・気持ちのつらさ、せん妄、インフォームド・コンセントの不足およびスピリチュアル・ペインの少なくとも一つを含んでよい。これにより、客観的に評価しにくい(主観的な)症状を推定することができる。
【0077】
とくに、がん患者の終末期では、がん患者とのコミュニケーションが困難で、症状の推定に苦慮することが多く、このような場合に、推定支援装置1を用いることのメリットがより顕在化する。たとえば上述のような評価しにくい症状を、推定支援装置1を用いて推定(指摘)し、専門医の診断に導くようにして、専門医不足を補うこともできる。2019年4月1日の時点で、日本緩和医療学会の認定を受けた専門医は244名、専門医より簡易型の認定医は518名に対して、2017年にがんによる死亡者は全国で37万人を超える。緩和ケアは終末期だけでなく、がんと診断を受けた時から提供が求められるため、新たにがんと診断された患者も含めると、地域医療では、専門医不足で緩和ケアを行うことができないといった実情があるためである。
【0078】
学習済みモデル30は、決定木30aであってよい。このように学習済みモデル30として決定木30aを用いることができる。また、先に
図8~
図15を参照して説明したように、決定木30aの構造(分類過程)を調べることで、症状の推定において重要な特徴量(患者情報の項目)を知ることができる。
【0079】
学習済みモデル30は、たとえば以下のように特定される。
【0080】
学習済みモデル30は、入力ノード、出力ノードおよび中間ノードを備える。中間ノードは、入力ノードおよび出力ノードの間に設けられる。学習済みモデル30は、がん患者の属性情報および植物系機能の障害情報を含む患者情報と、がん患者の症状推定情報とを対応づけた教師データを用いて生成され、患者情報が入力ノードに入力されると、がん患者の症状推定情報を出力ノードが出力するよう、コンピュータを機能させる。
【0081】
学習済みモデル30によれば、患者情報から、がん患者の症状推定情報を得ることができる。したがって、学習済みモデル30をがん患者の症状の推定に供することができる。
【0082】
上記の学習済みモデル30は、決定木30aであってよい。この場合、入力ノードは、ルートノード(ノードN1)である。出力ノードは、リーフノード(ノードNn-p、Nn-q等)である。中間ノードは、ルートノードとリーフノードとの間の経路を分岐させるノード(ノードN2-1、N2-2、N3-1、N3-2、N3-3、N3-4等)である。このように学習済みモデルとして決定木を用いることができる。また、決定木の構造(分類過程)を調べることで、症状の推定において重要な特徴量(患者情報の項目)を知ることができる。
【0083】
(第2実施形態)
以下では、上記第1実施形態に係る推定支援装置1の応用例の一つとして、第2実施形態に係るケア支援装置の概要を説明する。以下の第2実施形態において、上記第1実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記第1実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0084】
第2実施形態に係るケア支援装置は、推定支援装置1により症状が推定されたがん患者のケアプランを提案する装置であり、推定支援装置1を有する。このため、第2実施形態に係るケア支援装置は、推定支援装置1と同様に、タブレット端末等である。ケア支援装置のユーザは、患者に対して診療、看護等を実施する医療者、当該医療者から緩和ケアに関する相談を受けた専門家等である。ケア支援装置のハードウェア構成は、推定支援装置1のハードウェア構成と同様である。
【0085】
図16は、ケア支援装置の機能ブロックの例を示す図である。
図16に示されるように、ケア支援装置100は、その機能ブロックとして、入力部10Aと、推定部20と、学習済みモデル30と、生成部31と、第2の学習済みモデル32と、出力部40Aとを含む。
【0086】
入力部10Aは、患者情報に加えて、推定部20にて推定される推定結果に対する観察情報が入力される部分である。入力部10Aは、たとえば上記第1実施形態の入力部10と同一構成を有する。観察情報は、緩和ケア専門家ではない一般医療者による観察でも判断できるがん患者の主観的症状に関する情報である。たとえば、一般医療者は、上記推定結果を参考として、患者との言語的コミュニケーションおよび非言語的コミュニケーションを介して上記観察情報を抽出した後、抽出した当該観察情報を入力部10Aを介してケア支援装置100に入力する。本実施形態では、一般医療者は、自身によるがん患者の観察結果と、推定支援装置1による推定結果とに基づいて、観察情報を入力するが、これに限られない。がん患者の主観的症状に関する情報は、たとえば、一般医療者による各症状(すなわち、「疼痛」、「呼吸困難・咳・痰」、「倦怠感」、「眠気」、「不安・抑うつ・気持ちのつらさ」、「せん妄」、「スピリチュアル・ペイン」および「インフォームド・コンセントの不足」)の有無の判断結果である。一般医療者は、上記主観的症状の確率(感度)を、がん患者の症状に関する情報として入力してもよい。なお、観察情報は、推定結果と同一でもよい。
【0087】
生成部31は、推定支援装置1にて症状を推定したがん患者に対するケアプラン案を生成する部分(ケアプラン案生成部分)である。生成部31は、入力部10Aから入力される患者情報と、推定部20の推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、第2の学習済みモデル32とを用いて、ケアプラン案を生成する。本実施形態では、観察情報が推定結果と異なる場合、生成部31は、患者情報と、観察情報と、第2の学習済みモデル32とを用いてケアプラン案を生成する。また、観察情報が推定結果と同一である場合、生成部31は、患者情報と、推定結果及び観察情報の少なくとも一方と、第2の学習済みモデル32とを用いてケアプラン案を生成する。しかしながら、観察情報が推定結果と異なる場合であっても、生成部31は、患者情報と、推定結果及び観察情報と、第2の学習済みモデル32とを用いてケアプラン案を生成してもよい。
【0088】
ケアプラン案には、たとえば、大項目として「患者の包括的アセスメント」、「患者の身体的苦痛に関するケア」、「患者の精神的ケア」、「患者の意思決定に関するケア」、「療養場所の選択・移行に関するケア」、「在宅療養患者のケア」、「家族のケア」、「倫理的な問題」、「専門家の介入の必要性の評価・紹介」、「医療スタッフの支援」、「緩和ケアチーム内の調整」、「医療処置・検査」、「薬物療法」の少なくとも一つが含まれる。すなわち、ケアプラン案には、上記大項目の少なくとも一つまたは任意の組み合わせが含まれる。生成部31は、患者情報、推定結果、及び観察情報を第2の学習済みモデル32に入力することによって、第2の学習済みモデル32からケアプラン案を得る。なお、上記大項目には、一つまたは複数の小項目が含まれる。たとえば、大項目:「患者の身体的苦痛に関するケア」には、「医療麻薬の使用」等の小項目が含まれ得る。このため、ケアプラン案は、上記小項目の少なくとも一つまたは任意の組み合わせに相当してもよい。
【0089】
第2の学習済みモデル32は、患者情報と、推定部20の推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方とが入力されると、ケアプラン案を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである。第2の学習済みモデル32は、学習済みモデル30とは異なる教師データを用いて生成される。第2の学習済みモデル32の教師データは、たとえば、患者情報と、症状推定情報と、症状推定情報に対する観察情報とを対応付けたデータである。第2の学習済みモデル32は、学習済みモデル30とは異なる入力ノード、出力ノード及び中間ノードを含む。第2の学習済みモデルとして、学習済みモデル30と同様に、決定木、ニューラルネットワーク、その他の種々の公知のモデルが用いられてよい。第2の学習済みモデル32における決定木の生成などは、学習済みモデルにおける決定木30aの生成と同様である。各ノードにおける分岐条件は、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方とのいずれかの項目を用いて定められる。項目の例は、患者情報に含まれる「年齢」、推定結果及び観察情報に含まれる「疼痛」等である。分岐条件の例は、疼痛の有無といった条件である。なお、第2の学習済みモデル32と、学習済みモデル30とは、互いに同一のハードウェア構成でもよい。
【0090】
出力部40Aは、推定部20の推定結果に加えて、ケアプラン案を出力する部分である。出力部40Aは、たとえば上記第1実施形態の出力部40と同一構成を有する。出力部40Aは、たとえば、上述したケアプラン案に含まれる一つまたは複数の大項目を提示する。このとき、小項目が同時に提示されてもよい。出力部40Aは、推定結果と同様の態様にて、ケアプラン案を提示できる。出力部40Aが、ケアプラン案に含まれる大項目及び/又は小項目を文章及び/または音にて提示するとき、提示された大項目、小項目の感度もしくは特異度に応じて、提示される表現が調整されてもよい。たとえば、第1の小項目において、その特異度よりもその感度の方が優位である場合、出力部40Aは、第1の小項目を優先的に検討することを促す第1表現(たとえば、「まず、第1の小項目をご検討ください」など)に調整する。一方、第2の小項目においてその感度よりもその特異度の方が優位である場合、出力部40Aは、第2の小項目を見逃さない/忘れないように検討することを促す第2表現(たとえば、「第2の小項目を適宜ご検討ください」など)に調整する。このように大項目・小項目毎に表現を調整することによって、医療者が最初に検討すべき項目、見逃してはならない項目、忘れてはならない項目などを容易に把握できる。これにより、医療者がより適切なケアプランを立案しやすくなる。感度と特異度とはトレードオフの関係にあることから、感度が100%に近いほど(すなわち、特異度が0%に近いほど)感度が特異度よりも優位であり、特異度が100%に近いほど(すなわち、感度が0%に近いほど)特異度が感度よりも優位であるが、これに限られない。例えば、所定の小項目において、感度が特異度の0.9倍以上、0.8倍以上、または0.75倍以上である場合、感度は特異度よりも優位と設定されてもよい。換言すると、所定の小項目においては、感度が特異度よりも若干低い場合であっても感度が特異度よりも優位と設定されてもよい。あるいは、所定の小項目において、特異度が感度の0.9倍以上、0.8倍以上、または0.75倍以上である場合、特異度は感度よりも優位と設定されてもよい。換言すると、所定の小項目においては、感度が特異度よりも若干低い場合であっても特異度が感度よりも優位と設定されてもよい。
【0091】
第2実施形態に係るケア支援装置は、上記第1実施形態と同様に、学習済みモデル30及び第2の学習済みモデル32を外部のサーバに備えてもよい。もしくは、ケア支援装置は、推定部20と、学習済みモデル30及び第2の学習済みモデル32と、生成部31とをサーバに備えてもよい。換言すると、ケア支援装置およびサーバの協働によって実現される「システム(ケア支援システム)」も、ケア支援装置の一態様である。
【0092】
以上に説明したケア支援装置100は、たとえば以下のように特定される。ケア支援装置100は、入力部10Aと、推定部20と、生成部31と、出力部40Aとを備える。入力部10Aには、患者情報に加えて、推定部20の推定結果に対する観察情報が入力される。生成部31は、患者情報と、推定結果及び観察情報の少なくとも一方と、予め生成された第2の学習済みモデル32とを用いて、ケアプラン案を生成する。このケア支援装置100によれば、推定支援装置1による推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方を用いることによって、がん患者の症状推定情報を踏まえたケアプラン案が得られる。これにより、医療者が当該がん患者に対するケアプランを立案するとき、当該ケアプラン案を参考にできる。したがって、ケア支援装置100を、がん患者にとっての最適なケアプラン立案に供することができる。
【0093】
上述したように、日本緩和医療学会の認定を受けた緩和ケアに関する専門医等の人数は、がんによる全国の死亡者数と比較すると、極めて小数である。このため、第2実施形態に係るケア支援装置100をたとえば一般医療者が用いることによって、専門医が不足しがちである地域でも、適切な緩和ケアプランを立案しやすくなる。
【0094】
以下では、第2実施形態における第2の学習済みモデル32の検証結果の一例を説明する。ここでは、第1実施形態にて用いられるデータセットに、当該データセットの出力データ(症状推定情報)に対する観察情報を加えた第2のデータセットを用いた。第2の学習済みモデル32の教師データにおける入力データの例は、がん患者の属性情報及び初期評価情報を含む患者情報と、一般医療者等によって判断される観察情報とする。この例では、患者情報は第1実施形態と同一であって32個の項目で表され、観察情報は8個の項目で表される。また、観察情報の各項目は、2値データにて示される。たとえば観察情報の項目「疼痛」は、疼痛の有無を示す情報であり、疼痛があると判断された場合は「1」、疼痛がないと判断された場合は「0」である。観察情報の他の項目に関しても、同様にして「1」もしくは「0」とされる。
【0095】
図17は、第2の学習済みモデル32における出力データの例を示す。この例では、出力データに関するケアプラン案は、13個の大項目で表される。各大項目は、1または複数の小項目を含む。便宜上、各小項目には符号(Z1~Z100)が対応付けられ、小項目Z1~Z4は大項目「患者の包括的アセスメント」に含まれ、小項目Z5~Z15は大項目「患者の身体的苦痛に関すケア」に含まれ、小項目Z16~Z30は大項目「患者の精神的ケア」に含まれ、大項目Z31~Z33は「患者の意思決定に関するケア」に含まれ、小項目Z34~Z38は大項目「療養場所の選択・移行に関するケア」に含まれ、小項目Z39は大項目「在宅療養患者のケア」に含まれ、小項目Z40~Z47は大項目「家族のケア」に含まれ、小項目Z48は大項目「倫理的な問題」に含まれ、小項目Z49~Z53は大項目「専門家の介入の必要性の評価・紹介」に含まれ、小項目Z54~Z64は大項目「医療スタッフの支援」に含まれ、小項目Z65~Z66は大項目「緩和ケアチーム内の調整」に含まれ、小項目Z67~Z71は大項目「医療処置・検査」に含まれ、小項目Z72~Z100は大項目「薬物療法」に含まれる。
【0096】
大項目「患者の包括的アセスメント」は、患者が抱くつらさを身体的・心理的・社会的・霊的の4つの視点から捉え、つらさを見落とすことをなく専門的な対応が必要であることを示す情報、もしくは、当該対応が不要であることを示す情報である。データの例は、必要/不要の可能性の程度を示す数値であり、0~1の数値、あるいはこの数値をパーセンテージ換算した0~100である。このような数値は、小項目Z1~Z4のそれぞれに対して出力される。他の小項目Z5~Z100についても同様である。
【0097】
本例では、上記第1実施形態と同様に、RapidMinderを用いた機械学習によりモデルを生成した。また、第2の学習済みモデルには決定木を用いた。そして、上記第1実施形態と同様の検証手法にて第2の学習済みモデルを検証した。これにより、検証された各小項目の少なくとも一つを含むケアプラン案を得た。続いて、ケアプラン案を専門医が評価した結果である評価データ結果を入手した。評価データ結果には、小項目Z1~Z100のそれぞれにおいて、専門医が評価した結果である評価データ結果のうちのケアプラン実施の頻度を示すZn(+)も含まれる。精度、感度、特異度及びZn(+)の単位は、パーセント(%)である。小項目Z1~Z100のうち、最も低い精度は46%であった。
【0098】
図18~20のそれぞれは、評価データ結果を用いて形成されるグラフである。
図18において、横軸はZn(+)を示し、縦軸は精度を示す。
図19において、横軸はZn(+)を示し、縦軸は感度を示す。
図20において、横軸はZn(+)を示し、縦軸は特異度を示す。
図18~
図20には、近似曲線AC1~AC3のそれぞれが示される。
図18の近似曲線AC1に示されるように、Zn(+)が0%もしくは100%に近い小項目ほど、高い精度を示す傾向があることがわかる。
図19の近似曲線AC2に示されるように、Zn(+)が100%に近い小項目ほど、高感度を示す傾向があることがわかる。
図20の近似曲線AC3に示されるように、Zn(+)が100%に近い小項目ほど、低特異度を示す傾向があることがわかる。これらのグラフから、Zn(+)が0%もしくは100%に近い小項目ほど実施予定ケアプランに含めるか否かの選択(取捨選択)が容易な傾向があること、Zn(+)が50%に近い小項目ほど実施予定ケアプランの取捨選択が困難な傾向があることがわかる。このような傾向を得ることによって、専門医が不足しがちである地域でも、適切な緩和ケアプランを立案しやすくなる。加えて、Zn(+)が100%に近い小項目には上述した第1表現(小項目を優先的に検討することを促す表現)を適用することによって、緩和ケアプランの立案にあたってまず検討すべき事項を容易に把握できる。また、Zn(+)が0%に近い小項目には上述した第2表現(小項目を見逃さないように検討することを促す表現)を適用することによって、緩和ケアプランの立案にあたって見逃してはいけない事項および忘れずに行わなくてはいけない事項を容易に把握できる。なお、
図18~
図20のいずれにおいても、ケアプランの大項目での層別化は見られなかった。
【0099】
(第3実施形態)
以下では、上記第1実施形態に係る推定支援装置1の応用例の別の一つとして、第3実施形態に係る転帰予測装置の概要を説明する。以下の第3実施形態において、上記第1及び第2実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記第1及び第2実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0100】
第3実施形態に係る転帰予測装置は、推定支援装置1により症状が推定されたがん患者に対して立案した実施予定ケアプランの妥当性を客観的に評価する装置であり、推定支援装置1を有する。このため、第3実施形態に係る転帰予測装置は、推定支援装置1と同様に、タブレット端末等である。転帰予測装置のユーザは、上記第2実施形態に係るケア支援装置100と同様である。転帰予測装置のハードウェア構成は、たとえば、推定支援装置1のハードウェア構成と同様である。なお、第3実施形態では、上記実施予定ケアプランは、ケア支援装置100によって生成されるケアプラン案に基づいて立案される。このため、上記転帰予測装置は、ケア支援装置100を有する。
【0101】
図21は、転帰予測装置の機能ブロックの例を示す図である。
図21に示されるように、転帰予測装置200は、その機能ブロックとして、入力部10Bと、推定部20と、学習済みモデル30と、生成部31と、第2の学習済みモデル32と、予測部33と、第3の学習済みモデル34と、出力部40Bとを含む。
【0102】
入力部10Bは、患者情報及び観察情報に加えて、生成部31にて生成されるケアプラン案に対する実施予定ケアプランが入力される部分である。入力部10Bは、たとえば上記第1実施形態の入力部10と同一構成を有する。実施予定ケアプランは、緩和ケアの専門医もしくは一般医療者によって立案されるがん患者に対する治療手法、療養手法などである。実施予定ケアプランは、たとえば、ケアプラン案に含まれる小項目のうち一つまたは複数の組み合わせに相当する。本実施形態では、医療者は、自身によるがん患者の観察結果と、生成部31にて生成されるケアプラン案とに基づいて、実施予定ケアプランを入力するが、これに限られない。なお、実施予定ケアプランは、ケアプラン案と同一でもよい。
【0103】
予測部33は、推定支援装置1にて症状を推定したがん患者の所定期間における転帰を予測する部分(転帰予測部分)である。予測部33は、入力部10Aから入力される患者情報と、推定部20の推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方と、第3の学習済みモデル34とを用いて、転帰予測を生成する。本実施形態では、実施予定ケアプランがケアプラン案と異なる場合、予測部33は、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、実施予定ケアプランと、第3の学習済みモデル34とを用いて転帰予測を生成する。また、実施予定ケアプランがケアプラン案と同一である場合、予測部33は、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方と、第3の学習済みモデル34とを用いて転帰予測を生成する。しかしながら、実施予定ケアプランがケアプラン案と異なる場合であっても、予測部33は、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方と、第3の学習済みモデル34とを用いて転帰予測を生成してもよい。
【0104】
転帰予測には、たとえば、項目として「観察期間終了」、「死亡」、「自宅へ退院」、「その他施設へ退院・転院」、「ホスピス・緩和ケア病棟へ転院」、「問題解決・消失」の少なくとも一つが含まれる。所定期間は、複数のフェーズに区切られ得る。この場合、予測部33は、各フェーズにおける転帰予測を実施する。そして、各フェーズにおいて予測される転帰が設定される。本実施形態では、予測部33は、所定期間を1ヶ月と設定し、各フェーズを7日間(1週間)と設定しているが、これに限られない。
【0105】
第3の学習済みモデル34は、患者情報と、推定部20の推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、実施予定ケアプラン及びケアプラン案の少なくとも一方とが入力されると、所定期間における転帰予測を出力するように、教師データを用いて生成された学習済みモデルである。第3の学習済みモデル34は、学習済みモデル30及び第2の学習済みモデル32とは異なる教師データを用いて生成される。第3の学習済みモデル34の教師データは、たとえば、患者情報と、症状推定情報と、当該症状推定情報に対する観察情報と、ケアプラン案と、実施予定ケアプランとを対応付けたデータである。第3の学習済みモデル34は、学習済みモデル30及び第2の学習済みモデル32とは異なる入力ノード、出力ノード及び中間ノードを含む。第3の学習済みモデル34における入力データは、たとえば、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、実施予定ケアプラン及びケアプラン案の少なくとも一方とである。第3の学習済みモデル34における出力データは、たとえば、各項目の感度、特異度などである。第3の学習済みモデルとして、学習済みモデル30等と同様に、決定木、ニューラルネットワーク、その他の種々の公知のモデルが用いられてよい。第3の学習済みモデル34における決定木の生成などは、学習済みモデルにおける決定木30aの生成等と同様である。各ノードにおける分岐条件は、患者情報と、推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、実施予定ケアプラン及びケアプラン案の少なくとも一方とのいずれかの項目を用いて定められる。項目の例は、患者情報に含まれる「年齢」、推定結果及び観察情報に含まれる「疼痛」、実施予定ケアプラン及びケアプラン案の少なくとも一方に含まれる「医療麻薬の使用」等である。なお、第3の学習済みモデル34と、学習済みモデル30とは、互いに同一のハードウェア構成でもよい。
【0106】
出力部40Bは、推定部20の推定結果及びケアプラン案に加えて、所定期間における転帰予測を出力する部分である。出力部40Bは、たとえば上記第1実施形態の出力部40と同一構成を有する。出力部40Bは、たとえば、上述した転帰予測に含まれる項目をフェーズ毎に提示する。このとき、全てのフェーズと、当該フェーズに対応する項目とが同時に提示されてもよい。
【0107】
第3実施形態に係る転帰予測装置は、上記第2実施形態と同様に、学習済みモデル30と、第2の学習済みモデル32と、第3の学習済みモデル34とを外部のサーバに備えてもよい。もしくは、転帰予測装置は、推定部20と、学習済みモデル30と、生成部31と、第2の学習済みモデル32と、予測部33と、第3の学習済みモデル34とをサーバに備えてもよい。換言すると、転帰予測装置およびサーバの協働によって実現される「システム(転帰予測システム)」も、転帰予測装置の一態様である。
【0108】
以上説明した転帰予測装置200は、たとえば以下のように特定される。転帰予測装置200は、入力部10Bと、推定部20と、生成部31と、予測部33と、出力部40Bとを備える。入力部10Bには、患者情報などに加えて、ケアプラン案に対する実施予定ケアプランが入力される。予測部33は、患者情報と、推定結果及び観察情報の少なくとも一方と、実施予定ケアプラン及びケアプラン案の少なくとも一方と、予め生成された第3の学習済みモデル34とを用いて、所定期間における転帰予測を生成する。この転帰予測装置200によれば、推定支援装置1による推定結果及び観察情報の少なくとも一方、ケアプラン案及び実施予定ケアプランの少なくとも一方などを用いることによって、がん患者の所定期間における転帰予測が得られる。これにより、たとえば医療者は、当該がん患者に対する実施予定ケアプランの妥当性を客観的に確認できる。したがって、転帰予測装置200を、最適なケアプラン立案の精度向上に供することができる。加えて、たとえばがん患者は、自身の転帰予測を確認することによって、所定期間における自身の状態推移の例を客観視できる。これにより、がん患者は、自身の医療に関する希望及び選択の意思決定をしやすくなる。したがって、転帰予測装置200を、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の立案に供することができる。
【0109】
上述したように、日本緩和医療学会の認定を受けた緩和ケアに関する専門医等の人数は、がんによる全国の死亡者数と比較すると、極めて小数である。このため、たとえば第2実施形態に係るケア支援装置100を用いたケアプラン案、及び、当該ケアプラン案を踏まえて立案した実施予定ケアプランの妥当性の客観的な評価は、特に専門医が不足しがちである地域では困難である。これに対して第3実施形態では、予測部33による転帰予測を医療者が確認することによって、実施予定ケアプランの妥当性を客観的に評価しやすくなる。したがって、転帰予測装置200を用いることによって、医療者がより適切な緩和ケアプラン(及びACP)を立案しやすくなる。特に、がん患者の意思表示が可能な時期にACPを立案及び文書化しておくことが重要である。これにより、がん患者が医療に関する意思決定をできない危機的な状況に陥った場合であっても、がん患者の希望及び選択に沿った対応が可能になる。したがって、上述した危機的な状況に陥ったとしても、患者の家族等による代わりの意思決定が不要になる。
【0110】
以下では、第3実施形態における第3の学習済みモデル34の検証結果の一例を説明する。ここでは、第1実施形態にて用いられるデータセットに観察情報及び実施予定ケアプランを加えた第2のデータセットを用いた。第3の学習済みモデル34の教師データにおける入力データの例は、患者情報と、観察情報と、実施予定ケアプランとする。この例では、患者情報は第1実施形態と同一であって32個の項目で表され、観察情報は8個の項目で表される。また、実施予定ケアプランは、上記第2実施形態にて記載される小項目に相当し、100個の項目で表される。実施予定ケアプランの各項目は、2値データにて示される。たとえば実施予定ケアプランの項目「医療麻薬の使用」は、医療麻薬の使用の要否を示す情報であり、医療麻薬の使用が必要であると判断された場合は「1」、医療麻薬は不要であると判断された場合は「0」である。実施予定ケアプランの他の項目に関しても、同様にして「1」もしくは「0」とされる。
【0111】
図22は、第3の学習済みモデル34における出力データの例を示す。この例では、出力データに関する転帰予測は、6個の大項目で表される。各大項目は、所定期間に含まれるフェーズ数に対応する数の小項目を含む。以下では、所定期間に4つのフェーズ(第1フェーズ~第4フェーズ)が含まれることによって、各大項目は4つの小項目を含む。小項目W1,W7,W13,W19は大項目「観察期間終了」に含まれ、小項目W2,W8,W14,W20は大項目「死亡」に含まれ、小項目W3,W9,W15,W21は大項目「自宅へ退院」に含まれ、小項目W4,W10,W16,W22は大項目「その他施設へ退院・転院」に含まれ、小項目W5,W11,W17,W23は大項目「ホスピス・緩和ケア病棟へ転院」に含まれ、小項目W6,W12,W18,W24は大項目「問題解決・消失」に含まれる。また、小項目W1~W6は第1フェーズにて用いられ、小項目W7~12は第2フェーズにて用いられ、小項目W13~W18は第3フェーズにて用いられ、小項目W19~W24は第4フェーズにて用いられる。
【0112】
大項目「観察期間終了」は、たとえば患者の退院などの理由によって以後の医療が不要であることを示す情報である。データの例は、必要/不要の可能性の程度を示す数値であり、0~1の数値、あるいはこの数値をパーセンテージ換算した0~100である。このような数値は、小項目W1,W7,W13,W19のそれぞれに対して出力される。他の大項目に含まれる小項目についても同様である。
【0113】
本例では、上記第1実施形態と同様に、RapidMinderを用いた機械学習によりモデルを生成した。また、第3の学習済みモデルには決定木を用いた。そして、上記第1実施形態と同様の検証手法にて第3の学習済みモデルを検証した。第3の学習済みモデルによるそれぞれの検証結果の平均を
図23~
図25に示す。
図23~
図25のそれぞれは、検証結果を用いて形成されるグラフである。
図23は、検証された小項目に対する精度を表し、
図24は、検証された小項目に対する感度を表し、
図25は、検証された小項目に対する特異度を表す。
図23~25において、小項目W1,W4,W7,W13,W18は、出力されなかったため、省略されている。
図23~
図25に示されるように、転帰予測の精度及び特異度は概ね80%以上となっている。少なくともこれらの点において、転帰予測として有用であると考えられる。とくに、各小項目の特異度が概ね高いことから、転帰予測の結果によっては、転帰予測装置200が注意喚起をしてもよい。たとえば、小項目「死亡」の転帰予測がなされた場合にはACPの対応準備、小項目「自宅へ退院」の転帰予測がなされた場合には在宅ケアスタッフとの連携体制の準備などが必要になり得る。よって、転帰予測の結果に応じて転帰予測装置200により注意喚起がなされることによって、一般医療者等が転帰予測に沿った対応の要否を容易に判断できるので、医療現場においての負担軽減にもつながり得る。なお、注意喚起としては、たとえば「念のためにご注意ください」、「ACPの対応準備が必要か検討ください」などのメッセージ表示、音声表示などが挙げられる。
【0114】
上記第3実施形態では、転帰予測装置200はケア支援装置100を備えるが、これに限られない。たとえば、転帰予測装置は、ケア支援装置100(特に、生成部31および第2の学習済みモデル32)を有さなくてもよい。すなわち、転帰予測装置は、ケア支援装置100の代わりに推定支援装置1を備えてもよい。この場合、転帰予測装置は、患者情報と、推定支援装置1から得られるがん患者の推定結果及び当該推定結果に対する観察情報の少なくとも一方と、入力部を介して入力される実施予定ケアプランと、第3の学習モデルとを用いて、転帰予測を生成してもよい。この場合であっても、上記第3実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0115】
たとえば緩和ケアプランの専門医などにとっては、がん患者の症状推定を支援可能な装置(推定支援装置)、および、がん患者に対するケアプラン立案を支援可能な装置(ケア支援装置)は不要であっても、自身で立案したケアプランによってがん患者の転帰がどのように予測できるかを客観的に確認したいニーズが考えられる。このようなニーズに応えるため、たとえば緩和ケアプランの専門医などが利用する転帰予測装置では、ケア支援装置および推定支援装置の両方(特に、推定部20、学習済みモデル30、生成部31および第2の学習済みモデル32)が含まれなくてもよい。換言すると、上記転帰予測装置は、入力部と、予測部と、第3の学習済みモデルと、出力部とを少なくとも含む装置でもよい。このような転帰予測装置は、たとえば、第3の学習済みモデルに加えて、専門医などが入力部を介して入力される患者情報(患者の属性情報および初期評価情報)と、専門医などが判断したがん患者の主観的症状と、専門医などが立案した実施予定ケアプランとを用いて、がん患者の所定期間における転帰予測を生成してもよい。これにより、専門家などが自信で立案したケアプランの妥当性を客観的に把握できるので、上記転帰予測装置をケアプランの修正の要否の検討に供することができる。加えて、上記転帰予測装置を用いても、上記第3実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0116】
1、1A、1B…推定支援装置、2A、2B…サーバ、1a…ディスプレイ、U…ユーザ、10…入力部、20…推定部、30…学習済みモデル、31…生成部、32…第2の学習済みモデル、33…予測部、34…第3の学習済みモデル、30a…決定木、40…出力部、50…通信部、60…通信部、100…ケア支援装置、200…転帰予測装置。