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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20241119BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P3/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020217311
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102523
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】七里 眞義
(72)【発明者】
【氏名】小寺 義男
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-516227(JP,A)
【文献】上野 浩晶 他,食欲制御物質と肥満症,日本内科学会雑誌,2015年,104巻, 4号,Pages 717-722
【文献】Database Uniprot [online], Accessin No.Q6UWP8, SBSN_HUMAN,<https://rest.uniprot.org/unisave/Q6UWP8?format=txt&versions=125>,2020-Dec-02 uploaded, [retrieved on 2024-June-14]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
A61P 3/04
C07K 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分とする、抗肥満薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には膨大な量の高分子量タンパク質が存在する。このため、従来の質量分析技術だけでは、血液中に存在する生理活性ペプチドを同定することは不可能であった。過去20年間、ヒトの生理活性ペプチドはほとんど発見されていない。
【0003】
発明者らは、以前に、従来困難とされていた血漿中のペプチドーム解析技術を開発し、ヒト血漿中に存在する大量の小分子量ペプチドの構造決定に成功した(非特許文献1、2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kawashima Y., et al., High-yield peptide-extraction method for the discovery of subnanomolar biomarkers from small serum samples, J Proteome Res, 9 (4), 1694-1705, 2010.
【文献】Saito T., et al., Establishment and application of a high-quality comparative analysis strategy for the discovery and small-scale validation of low-abundance biomarker peptides in serum based on an optimized novel peptide extraction method, J Electrophoresis, 57, 1, 1-9, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒト血液中に存在する新規の生理活性ペプチドを提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、抗肥満薬;血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞におけるNF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤;動脈硬化促進剤及び動脈硬化治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1](i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、を有効成分とする、抗肥満薬。
[2](v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、を有効成分とする、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞におけるNF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤。
[3](v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、の受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤である、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法。
[4](v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が炎症性疾患又は腫瘍の治療剤であることを示す、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法。
[5](v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を有効成分とする、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤。
[6](ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、を有効成分とする、動脈硬化促進剤。
[7](ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、の受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、動脈硬化治療剤である、動脈硬化治療剤のスクリーニング方法。
[8](ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン又は動脈硬化促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が動脈硬化治療剤であることを示す、動脈硬化治療剤のスクリーニング方法。
[9](ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を有効成分とする、動脈硬化治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒト血液中に存在する新規の生理活性ペプチドを提供することができる。より具体的には、抗肥満薬;血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、マクロファージ細胞におけるNF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤;動脈硬化促進剤及び動脈硬化治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)及び(b)は、実験例2の結果を示すグラフである。(c)~(f)は、実験例2の結果を示す共焦点顕微鏡写真である。
図2】(a)及び(b)は、実験例3の結果を示すグラフである。
図3】(a)及び(b)は、実験例4におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。(c)~(e)は、実験例4における免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図4】(a)及び(b)は、実験例5の結果を示すグラフである。
図5】(a)~(f)は、実験例6の結果を示すグラフである。
図6】(a)~(e),(a’)~(e’),(a’’)~(e’’)は、実験例8における免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図7】(a)~(f)は、実験例9の結果を示す共焦点顕微鏡写真である。
図8】(a)~(c)は、実験例10の結果を示すグラフである。
図9】(a)~(c)は、実験例11の結果を示すグラフである。
図10】(a)~(d)は、実験例12の結果を示す共焦点顕微鏡写真である。
図11】(a)~(d)は、実験例13の結果を示す顕微鏡写真である。
図12】(a)~(d)は、実験例14の結果を示す肉眼的組織標本である。(e)~(l)は、実験例14の結果を示す顕微鏡写真である。
図13】(a)及び(b)は、実験例14の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[抗肥満薬]
1実施形態において、本発明は、(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、を有効成分とする、抗肥満薬を提供する。
【0010】
実施例において後述するように、発明者らは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ヒトスプラバシンのアミノ酸配列における第279~295番目のアミノ酸からなるペプチド、以下「SBSN_HUMAN[279-295]」という場合がある。)、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ヒトプロアンジオテンシノーゲンのアミノ酸配列における第448~462番目のアミノ酸からなるペプチド、以下「ANGT_HUMAN[448-462]」という場合がある。)が、マウスを用いた実験において、強力な摂食抑制活性を有することを明らかにした。
【0011】
これらのペプチドは、国際的に2型糖尿病の第2選択薬となったGLP-1作動薬の摂食抑制効果を遙かに凌駕する強力な摂食抑制作用を有する。このため、国際的に長く求められてきた抗肥満薬として、2型糖尿病等の治療に用いることができる。
【0012】
また、これらのペプチドは、本来ヒトの血液中に存在するものであるため、ヒトに投与しても安全である。
【0013】
本実施形態の活性を有している限り、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)のペプチドは、1~3個のアミノ酸の、欠失、置換若しくは付加を有していてもよい。また、これらのペプチドは、薬学的に許容される塩であってもよく、溶媒和物であってもよい。塩としては、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)塩、酢酸塩、塩酸塩等が挙げられる。溶媒和物としては、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0014】
[炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤]
1実施形態において、本発明は、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、を有効成分とする、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞におけるNF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤を提供する。
【0015】
実施例において後述するように、発明者らは、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ヒトスプラバシンのアミノ酸配列における第225~237番目のアミノ酸からなるペプチド、以下「SBSN_HUMAN[225-237]」という場合がある。)、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ヒトスプラバシンのアミノ酸配列における第243~259番目のアミノ酸からなるペプチド、以下「SBSN_HUMAN[243-259]」という場合がある。)を、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させると、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じて、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子、血管新生促進因子の発現を誘導することを明らかにした。
【0016】
したがって、これらのペプチドは、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞において、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤として、研究用試薬等に用いることができる。
【0017】
本実施形態の活性を有している限り、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)のペプチドは、1~3個のアミノ酸の、欠失、置換若しくは付加を有していてもよい。また、これらのペプチドは、薬学的に許容される塩であってもよく、溶媒和物であってもよい。塩としては、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)塩、酢酸塩、塩酸塩等が挙げられる。溶媒和物としては、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0018】
[炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、の受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤である、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0019】
実施例において後述するように、発明者らは、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)が、血管平滑筋細胞に結合することを明らかにした。したがって、これらのペプチドには受容体が存在する。
【0020】
上記のSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)及びこれらの変異ペプチドの受容体の阻害剤は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子が原因となる疾患、すなわち、リウマチ関節炎、COVID-19重症肺炎等のサイトカインストーム等の炎症性疾患;腫瘍等の治療剤となる。
【0021】
したがって、1実施形態において、本発明は、上記のペプチドの受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤である、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0022】
被験物質としては特に限定されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ、抗体ライブラリ等が挙げられる。
【0023】
受容体の同定は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、血管平滑筋細胞の膜タンパク質を抽出し、リポソームと混合することにより、膜タンパク質が埋め込まれたリポソームを作製する。続いてリポソームにメンブランを通過させ、例えば直径200nm以下のものを回収する。これを膜タンパク質ライブラリとして上記のペプチドと結合性を示すリポソームを回収し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、バンドの切り出し、トリプシン消化-液体クロマトグラフィー(LC)-質量分析(MS)/MS等により受容体タンパク質を同定することができる。
【0024】
受容体の阻害薬としては、受容体と上記ペプチドとの結合を阻害する物質、受容体と上記ペプチドが結合した後のシグナル伝達を阻害する物質等が挙げられる。
【0025】
受容体と上記ペプチドとの結合を阻害する物質としては、デコイ受容体、上記ペプチドの断片ペプチド、上記ペプチドに対する抗体又はその断片等が挙げられる。デコイ受容体としては、可溶化した受容体が挙げられ、より具体的には受容体と抗体定常領域との融合タンパク質等が挙げられる。
【0026】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が炎症性疾患又は腫瘍の治療剤であることを示す、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0027】
実施例において後述するように、発明者らは、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)が、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に作用して、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子、血管新生促進因子の発現を誘導することを明らかにした。したがって、これらの因子の発現誘導を抑制する被験物質は、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤となる。
【0028】
すなわち、本発明は、上記のSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)又はこれらの変異ペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が炎症性疾患又は腫瘍の治療剤であることを示す、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法を提供する。第2実施形態の方法によっても、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤をスクリーニングすることができる。
【0029】
被験物質としては上述したものと同様である。炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子としては、例えば、Vascular Endothelial Growth Factor a(VEGFa)、dickkopf-related protein 1(DKK1)、Endoglin、urokinase plasminogen activator receptor(uPAR)、granulocyte macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)、vascular cell adhesion molecule 1(VCAM1)、cystatin C、hepatocyte growth factor(HGF)、osteopontin(OPN)、Interleukin-6(IL-6)、Angiogenin等が挙げられる。
【0030】
[炎症性疾患又は腫瘍の治療剤]
1実施形態において、本発明は、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を有効成分とする、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤を提供する。
【0031】
実施例において後述するように、発明者らは、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)が、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に作用して、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子、血管新生促進因子の発現を誘導することを明らかにした。
【0032】
したがって、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)又はこれらの変異ペプチドに対する抗体又はその断片は、これらのペプチドがその受容体に結合することを抑制し、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞において、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導を抑制する。抗体断片としては、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv、scFv等が挙げられる。このような抗体又はその断片は、炎症性疾患又は腫瘍の治療剤として用いることができる。
【0033】
抗体はヒト型抗体であることが好ましい。ヒト型抗体としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体等が挙げられる。ここで、キメラ抗体とは、可変領域が非ヒト動物由来の抗体であり、定常領域の少なくとも一部がヒト由来の抗体である抗体を意味する。また、ヒト化抗体とは、重鎖及び軽鎖の相補性決定領域のみが非ヒト動物由来の抗体であり、定常領域及びフレームワーク領域がヒト由来の抗体である抗体を意味する。また、完全ヒト抗体とは、相補性決定領域を含めて全体がヒト由来の抗体を意味する。
【0034】
抗体又はその断片が、ヒト型抗体又はその断片であれば、ヒトに投与しても免疫原性が低いため、アナフィラキシーショック等の副作用を抑制することができる。
【0035】
[動脈硬化促進剤]
1実施形態において、本発明は、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、を有効成分とする、動脈硬化促進剤を提供する。
【0036】
実施例において後述するように、発明者らは、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(ヒトグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)のアミノ酸配列における第22~51番目のアミノ酸からなるペプチド、以下「GIP_HUMAN[22-51]」という場合がある。)を、アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウスである、ApoE-/-マウスに投与した場合に、動脈硬化が有意に促進されることを明らかにした。
【0037】
したがって、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)は、動脈硬化促進剤として、研究用試薬等に用いることができる。本実施形態の活性を有している限り、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)のペプチドは、1~3個のアミノ酸の、欠失、置換若しくは付加を有していてもよい。また、これらのペプチドは、薬学的に許容される塩であってもよく、溶媒和物であってもよい。塩としては、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)塩、酢酸塩、塩酸塩等が挙げられる。溶媒和物としては、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0038】
[動脈硬化治療剤のスクリーニング方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、の受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、動脈硬化治療剤である、動脈硬化治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0039】
実施例において後述するように、発明者らは、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を、アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウスである、ApoE-/-マウスに投与すると、動脈硬化が有意に促進されることを明らかにした。したがって、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)又はその変異ペプチドの受容体の阻害剤は、動脈硬化治療剤となる。
【0040】
すなわち、本発明は、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)の受容体を同定する工程と、被験物質をスクリーニングし、前記受容体の阻害薬を同定する工程と、を含み、前記阻害薬が、動脈硬化治療剤である、動脈硬化治療剤のスクリーニング方法を提供する。被験物質、受容体の同定、受容体の阻害薬については上述したものと同様である。
【0041】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン又は動脈硬化促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が動脈硬化治療剤であることを示す、動脈硬化治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0042】
実施例において後述するように、発明者らは、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)が、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に作用して、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、動脈硬化促進因子の発現を誘導することを明らかにした。したがって、これらの因子の発現誘導を抑制する被験物質は、動脈硬化の治療剤となる。
【0043】
すなわち、本発明は、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)又はその変異ペプチド、及び、被験物質の存在下で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞を培養し、前記細胞における炎症性サイトカイン又は動脈硬化促進因子の発現量を測定する工程を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下と比較して有意に減少することが、前記被験物質が動脈硬化の治療剤であることを示す、動脈硬化の治療剤のスクリーニング方法を提供する。第2実施形態の方法によっても、動脈硬化の治療剤をスクリーニングすることができる。
【0044】
被験物質としては上述したものと同様である。炎症性サイトカイン、ケモカイン、動脈硬化促進因子としては、例えば、アンジオポエチン2(Angpt2)、アンジオポエチン3(Angpt3)、血清アミロイドP(SAP)、CXCL16、PCSK9、フェツインA、cystatinC、Low Density Lipoprotein Receptor(LDLR)、MMP-3、IGF結合タンパク質(IGFBP)、vascular cell adhesion molecule-1(VCAM1)、intercellular adhesion molecule-1(ICAM1)、Endostatin等が挙げられる。
【0045】
[動脈硬化治療剤]
1実施形態において、本発明は、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を有効成分とする、動脈硬化治療剤を提供する。
【0046】
実施例において後述するように、発明者らは、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体を、アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウスである、ApoE-/-マウスに投与した場合に、動脈硬化が有意に抑制されることを明らかにした。
【0047】
したがって、上記の抗体又はその断片は動脈硬化治療剤として用いることができる。抗体はヒト型抗体であることが好ましい。抗体断片、ヒト型抗体については上述したものと同様である。
【0048】
[その他の実施形態]
(2型糖尿病の治療方法)
1実施形態において、本発明は、(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む2型糖尿病の治療方法を提供する。本実施形態の治療方法は、患者の摂食又は飲水を抑制させる方法であるということもできる。
【0049】
1実施形態において、本発明は、2型糖尿病の治療に用いられる、(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、を提供する。
【0050】
1実施形態において、本発明は、2型糖尿病の治療薬を製造するための、(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ哺乳動物に投与した場合に摂食又は飲水を抑制させる活性を有するペプチド、の使用を提供する。
【0051】
(炎症性疾患又は腫瘍の治療方法)
1実施形態において、本発明は、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、炎症性疾患又は腫瘍の治療方法を提供する。
【0052】
炎症性疾患としては、リウマチ関節炎、COVID-19重症肺炎等のサイトカインストーム等が挙げられる。腫瘍は、血管新生を伴う腫瘍であれば特に限定されない。
【0053】
1実施形態において、本発明は、炎症性疾患又は腫瘍の治療に用いられる、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を提供する。
【0054】
1実施形態において、本発明は、炎症性疾患又は腫瘍の治療薬を製造するための、(v)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、(vi)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、(vii)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(viii)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞に接触させた場合に、NF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現を誘導する活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片の使用を提供する。
【0055】
(動脈硬化の治療方法)
1実施形態において、本発明は、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、動脈硬化の治療方法を提供する。
【0056】
1実施形態において、本発明は、動脈硬化の治療に用いられる、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片を提供する。
【0057】
1実施形態において、本発明は、動脈硬化の治療薬を製造するための、(ix)配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、又は、(x)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ApoE-/-マウスに投与した場合に動脈硬化を促進させる活性を有するペプチド、に対する抗体又はその断片の使用を提供する。
【実施例
【0058】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実験例1]
発明者らが開発した、改良したdifferential solubilization法(非特許文献2を参照。)により、ヒト血漿中に存在する多数のペプチドを同定した。その中で、配列番号1~5にアミノ酸配列を示すペプチドに着目し、以下の実験を行った。
【0060】
<I.SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3),SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4),SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)の検討>
[実験例2]
(ペプチドの血管平滑筋細胞への結合の検討)
SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)の血管平滑筋細胞への結合を検討した。
【0061】
まず、各ペプチドを化学合成した。各ペプチドのN末端には5-carboxyfluorescein(FAM)標識を行った。続いて、各ペプチドを、ヒト血管平滑筋細胞株であるHAoSMCの培地に、終濃度1μMとなるように添加し、プレートリーダー及び共焦点顕微鏡で、細胞表面への結合の有無を評価した。
【0062】
図1(a)は、プレートリーダーでFAMの蛍光を検出することにより、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)の血管平滑筋細胞への結合を測定した結果を示すグラフである。
【0063】
図1(b)は、プレートリーダーでFAMの蛍光を検出することにより、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)の血管平滑筋細胞への結合を測定した結果を示すグラフである。
【0064】
その結果、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)は、それぞれ細胞の培地への添加後30分以内に蛍光強度が急上昇し、その後結合が維持されることが明らかとなった。一方、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)は、血管平滑筋細胞に対する結合を示さないことが明らかとなった。
【0065】
図1(c)~(f)は、撮影した共焦点顕微鏡写真である。図1(c)はペプチドを添加しなかった対照であり、図1(d)はSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)を培地に添加した結果であり、図1(e)はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を培地に添加した結果であり、図1(f)はSBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)を培地に添加した結果である。その結果、図1(d)及び(e)では、FAMの蛍光が観察されたが、図1(f)では蛍光が観察されなかった。
【0066】
以上の結果から、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)は血管平滑筋細胞に結合し、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)は血管平滑筋細胞に結合しないことが明らかとなった。
【0067】
[実験例3]
(ペプチドの機能の検討)
ヒト血管平滑筋細胞株であるHAoSMCをコンフルエントになるまで培養後、無血清培地で16時間更に培養した。その後、培地に、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)又はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を終濃度0.1μMとなるように添加し、24時間培養した。続いて、市販のキット(製品名「Proteome Profiler Human XL Cytokine Arrays」、R&Dシステムズ社)を用いて、培養上清中に発現するサイトカイン、ケモカイン、細胞増殖性因子、細胞死関連因子の分泌量を評価した。
【0068】
図2(a)は、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)を培地に添加した結果である。図2(a)中の表に、分泌量が増加した上位5因子について、分泌量の増加の相対値を示す。図2(b)は、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を培地に添加した結果である。図2(b)中の表に、分泌量が増加した上位5因子について、分泌量の増加の相対値を示す。
【0069】
その結果、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)は、VEGFa、DKK1、Endoglin、uPAR、cystatinCをはじめとする、強力なサイトカイン、ケモカイン、増殖性因子、血管新生促進因子、アポトーシス制御性因子の分泌を顕著に促進したことが明らかとなった。
【0070】
また、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)は、HGF、VEGFa、DKK1、OPN、Interleukin-6(IL-6)等の分泌を促進したことが明らかとなった。
【0071】
以上の結果から、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)は、血管平滑筋細胞に対する強力な炎症惹起性、細胞増殖促進性、動脈硬化促進性作用等を有することが明らかとなった。
【0072】
[実験例4]
(ペプチドによるシグナル伝達機構の検討)
ヒト血管平滑筋細胞株であるHAoSMCの培地に、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)又はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を添加し、IκB-αの分解及びNF-κB p65の局在を検討した。IκB-αの分解はウエスタンブロッティングにより検討した。NF-κB p65の局在は、免疫染色により検討した。
【0073】
図3(a)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)を添加後、0,5,10,15,30,60分後のIκB-αの存在をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す写真である。また、ローディングコントロールとしてβ-アクチンを検出した結果も示す。
【0074】
図3(b)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を添加後、0,5,10,15,30,60分後のIκB-αの存在をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す写真である。また、ローディングコントロールとしてβ-アクチンを検出した結果も示す。
【0075】
図3(c)~(e)は、免疫染色によりNF-κB p65を検出した結果を示す蛍光顕微鏡写真である。図3(c)は、HAoSMCの培地にペプチドを添加した直後(0分後)の写真である。図3(b)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)を添加してから120分後の写真である。図3(c)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を添加してから120分後の写真である。図3(b)及び(c)中、矢頭は細胞核内のNF-κB p65の免疫活性を示す。
【0076】
その結果、いずれのペプチドを添加した場合においても、IκB-αが崩壊し、NF-κB p65が核内移行したことが明らかとなった。
【0077】
以上の結果から、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)が、NF-κB活性化促進作用を示すことが明らかになった。このことから、実験例3で示された、種々のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、血管新生制御因子等の誘導には、NF-κBの活性化が関与していると考えられた。
【0078】
[実験例5]
(ペプチドによるシグナル伝達機構の検討)
SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)による、種々のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、血管新生制御因子等の誘導にNF-κBが直接介在しているかどうかを明らかにするため、プロテアソーム阻害剤であるMG132(CAS番号:133407-82-6)による、VEGFの発現抑制作用を評価した。
【0079】
ヒト血管平滑筋細胞株であるHAoSMCをコンフルエントになるまで培養後、無血清培地で16時間更に培養した。その後、培地に、MG132を終濃度100nMとなるように添加して30分間前処理した。続いて、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)又はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を終濃度0.1μMとなるように添加し、8時間培養した。続いて、定量的RT-PCRによりVEGF遺伝子の発現を評価した。
【0080】
図4(a)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)を添加した場合の定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。図4(b)は、HAoSMCの培地にSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を添加した場合の定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【0081】
図4(a)及び(b)中、「-」はMG132、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)又はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を培地に添加しなかったことを示し、「+」はMG132、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)又はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)を培地に添加したことを示す。また、「**」はp<0.01で有意差が存在することを示す。
【0082】
その結果、MG132で前処理することにより、VEGF遺伝子の発現が有意に抑制されたことが明らかとなった。この結果は、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)による、種々のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、血管新生制御因子等の誘導にNF-κBが直接介在していることを示す。
【0083】
[実験例6]
(ペプチドのマウスへの投与)
SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)をマウスに投与し、その機能を検討した。C57BL/6マウス(オス成体、クレア社)を、22~25℃、12時間毎の明暗周期、自由摂食、自由飲水下で飼育した。餌としては、通常食であるCE2を与えた。少なくとも7日間、生理食塩水の腹腔内投与に慣らした後、暗期の始まる30分前にSBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)を腹腔内投与し、自由行動下、摂食・飲水・行動量モニタリングシステム(製品名「ACTIMO-100M」、シンファクトリー社)を用いて、暗期における摂食量、飲水量、活動量を経時的にモニターした。SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)の投与量は、10pmol/マウス、又は、100pmol/マウスであった。
【0084】
図5(a)~(f)は、摂食量、飲水量、活動量のモニター結果を示すグラフである。図5(a)~(c)はSBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)を10pmol/マウス投与した結果であり、図5(d)~(f)はSBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)を100pmol/マウス投与した結果である。
【0085】
また、図5(a)及び(d)の縦軸は摂食量(g)を示し、横軸は時間(分)を示す。図5(b)及び(e)の縦軸は飲水量(mL)を示し、横軸は時間(分)を示す。図5(c)及び(f)の縦軸は活動量(カウント)を示し、横軸は時間(分)を示す。図5(a)~(f)中、「vehicle」はペプチドを含まない精製水のみを投与したことを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」は、p<0.01で有意差が存在することを示す。
【0086】
その結果、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)をわずか10pmol/マウス投与しただけで、摂食量、飲水量の有意な減少が認められた。この結果は、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)が強力な内因性摂食・飲水制御性因子であることを示す。
【0087】
[実験例7]
(ヒト各種主要臓器におけるペプチド発現の解析)
SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)をそれぞれウサギに免疫し、各ペプチドに対する特異的ポリクローナル抗体を作製した。
【0088】
続いて、各ポリクローナル抗体で、市販のヒト組織アレイ(カタログ番号「MNO341」、US Biomax社)を免疫染色し、ヒト各種主要臓器におけるペプチド発現を解析した。結果を下記表1に示す。表1中、「-」は発現が認められなかったことを示し、「+」及び「++」は発現が認められたことを示す。また、「++」は、「+」よりも発現レベルが高かったことを示す。
【0089】
【表1】
【0090】
その結果、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)は、各種組織で普遍的に発現するペプチドではなく、肝臓及び膵臓に特異的に発現することが明らかとなった。これに対し、SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)及びSBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)は、多くの組織で普遍的に発現するペプチドであることが明らかとなった。
【0091】
[実験例8]
(ヒト各種細胞株におけるペプチド発現の解析)
SBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)、SBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)、SBSN_HUMAN[279-295](配列番号1)に対する特異的ポリクローナル抗体を用いて、ヒト各種培養細胞におけるペプチド発現を免疫染色により解析した。
【0092】
図6(a)~(e),(a’)~(e’),(a’’)~(e’’)は、免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。図6(a)~(e)はSBSN_HUMAN[225-237](配列番号3)に対する抗体による染色結果を示し、(a’)~(e’)はSBSN_HUMAN[243-259](配列番号4)に対する抗体による染色結果を示し、(a’’)~(e’’)はSBSN_HUMAN[279-295](配列番号4)に対する抗体による染色結果を示す。いずれも抗体の希釈倍率は1000倍である。
【0093】
また、図6(a),(a’),(a’’)はヒト血管平滑筋細胞株であるHAoSMCの染色結果であり、図6(b),(b’),(b’’)はヒト単球THP-1由来マクロファージ細胞の染色結果であり、図6(c),(c’),(c’’)は健常ヒトマクロファージ細胞の染色結果であり、図6(d),(d’),(d’’)はヒト表皮角化細胞株であるHaCaTの染色結果であり、図6(e),(e’),(e’’)はヒト肝臓癌細胞株であるHepG2の染色結果である。また、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)により核を染色した。
【0094】
その結果、3種類のペプチドはいずれも癌細胞及びマクロファージ細胞において発現していることが明らかになった。
【0095】
<II.ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)の検討>
[実験例9]
(ペプチドのマクロファージ細胞への結合の検討)
ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)のマクロファージ細胞への結合を検討した。まず、ペプチドを化学合成した。ペプチドのN末端には5-carboxyfluorescein(FAM)標識を行った。続いて、ペプチドを、ヒト単球細胞株であるTHP1細胞の培地に、終濃度1μMとなるように添加して60分間インキュベートした後に、共焦点顕微鏡で細胞表面への結合の有無を評価した。
【0096】
また、比較のために、終濃度10μMのβ-カソモルフィン5又は終濃度10μMのβ-カソモルフィン7で30分間前処理した試料も用意した。β-カソモルフィン5及びβ-カソモルフィン7は、ATP合成酵素β鎖のリガンドであることが知られている。また、同時にATP合成酵素α鎖及びβ鎖の免疫染色も行った。
【0097】
図7(a)~(f)は、撮影した共焦点顕微鏡写真である。図7(a)~(c)はATP合成酵素α鎖を免疫染色した結果であり、図7(d)~(f)はATP合成酵素β鎖を免疫染色した結果である。
【0098】
図7(b)及び(e)はFAM標識ANGT_HUMAN[448-462]投与前に、ATP合成酵素α鎖に対する部分的な阻害作用を示すと考えられるβ-カソモルフィン5で前処理した結果であり、図7(c)及び(f)はATP合成酵素α鎖に対して競合的阻害作用を示すと考えられるβ-カソモルフィン7で前処理した結果であり、図7(a)及び(d)は前処理していない結果である。
【0099】
図7(a)~(f)中、最も左の写真はATP合成酵素α鎖(図7(a)~(c))又はATP合成酵素β鎖(図7(d)~(f))を染色した結果であり、左から2番目の写真はFAM標識ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)の細胞への結合による蛍光を検出した結果であり、左から3番目の写真はDAPIで核を染色した結果であり、最も右の写真は、左から1~3番目の写真を合成した写真である。
【0100】
その結果、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)は、摂食抑制因子や血管新生抑制因子が結合して作用することで知られるATP合成酵素α鎖及びβ鎖と共局在することが明らかとなった。また、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)の細胞表面ATP合成酵素α鎖及びβ鎖に対する結合は、β-カソモルフィン5、β-カソモルフィン7により競合的に阻害されることが明らかとなった。
【0101】
[実験例10]
(ペプチドのマウスへの投与1)
ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)をマウスに投与し、その機能を検討した。C57BL/6マウス(オス成体、クレア社)を、22~25℃、12時間毎の明暗周期、自由摂食、自由飲水下で飼育した。餌としては、通常食であるCE2を与えた。少なくとも7日間、生理食塩水の腹腔内投与に慣らした後、暗期の始まる30分前にANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)を腹腔内投与し、自由行動下、摂食・飲水・行動量モニタリングシステム(製品名「ACTIMO-100M」、シンファクトリー社)を用いて、暗期における摂食量、飲水量、活動量を経時的にモニターした。ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)の投与量は、100pmol/マウスであった。
【0102】
図8(a)~(c)は、摂食量、飲水量、活動量のモニター結果を示すグラフである。図8(a)の縦軸は摂食量(g)を示し、横軸は時間(分)を示す。図8(b)の縦軸は飲水量(mL)を示し、横軸は時間(分)を示す。図8(c)の縦軸は活動量(カウント)を示し、横軸は時間(分)を示す。図8(a)~(c)中、「vehicle」はペプチドを含まない精製水のみを投与したことを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示し、「**」は、p<0.01で有意差が存在することを示す。
【0103】
その結果、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)をわずか100pmol/マウス投与しただけで、摂食量、飲水量の有意な減少が認められた。この結果は、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)が強力な末梢性摂食・飲水抑制因子であることを示す。
【0104】
[実験例11]
(ペプチドのマウスへの投与2)
ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)をマウスに投与し、その機能を検討した。実験例10では腹腔内投与したのに対し、本実験例では脳室内投与した。C57BL/6マウス(オス成体、クレア社)を、22~25℃、12時間毎の明暗周期、自由摂食、自由飲水下で飼育した。餌としては、通常食であるCE2を与えた。移植した脳室内カテーテルを通じてANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)を脳室内投与し、自由行動下、摂食・飲水・行動量モニタリングシステム(製品名「ACTIMO-100M」、シンファクトリー社)を用いて、暗期における摂食量、飲水量、活動量を経時的にモニターした。ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)の投与量は、1pmol/マウスであった。
【0105】
図9(a)~(c)は、摂食量、飲水量、活動量のモニター結果を示すグラフである。図9(a)の縦軸は摂食量(g)を示し、横軸は時間(時間)を示す。図9(b)の縦軸は飲水量(mL)を示し、横軸は時間(時間)を示す。図9(c)の縦軸は活動量(カウント)を示し、横軸は時間(時間)を示す。図9(a)~(c)中、「vehicle」はペプチドを含まない精製水を投与したことを示す。また、「*」はp<0.05で有意差が存在することを示す。
【0106】
その結果、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)をわずか1pmol/マウス投与しただけで、摂食量、飲水量の有意な減少が認められた。この結果は、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)が強力な中枢性摂食・飲水抑制因子であることを更に支持するものである。また、ANGT_HUMAN[448-462](配列番号2)は、非常に低濃度で効果を奏することから、経口投与によって摂食量、飲水量の減少効果を奏する可能性がある。
【0107】
<III.GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)の検討>
[実験例12]
(ペプチドの細胞への結合の検討)
GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)の血管内皮細胞及びマクロファージ細胞への結合を検討した。まず、ペプチドを化学合成した。ペプチドのN末端には5-carboxyfluorescein(FAM)標識を行った。続いて、ペプチドをヒト大動脈内皮細胞株であるHAoECの培地に、終濃度1μMとなるように添加して30分間インキュベートした後に、共焦点顕微鏡で細胞表面への結合の有無を評価した。また、DAPIで核を染色した。
【0108】
図10(a)及び(b)は撮影した共焦点顕微鏡写真である。図10(a)はペプチドを反応させなかった結果であり、図10(b)はペプチドを反応させた結果である。その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)が血管内皮細胞に結合することが明らかとなった。
【0109】
続いて、FAM標識したGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を、ヒト単球細胞株であるTHP1細胞由来のマクロファージ細胞の培地に、終濃度1μMとなるように添加して5分間インキュベートした後に、共焦点顕微鏡で細胞表面への結合の有無を評価した。また、DAPIで核を染色した。
【0110】
図10(c)及び(d)は撮影した共焦点顕微鏡写真である。図10(c)はペプチドを反応させなかった結果であり、図10(d)はペプチドを反応させた結果である。その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)がマクロファージ細胞に結合することが明らかとなった。
【0111】
[実験例13]
(ペプチドによるシグナル伝達機構の検討)
GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を、ヒト大動脈内皮細胞及びヒトマクロファージ細胞に接触させて、NF-κB p65の核への移行を検討した。
【0112】
ペプチドをヒト大動脈内皮細胞株であるHAoEC、又は、ヒト単球細胞株であるTHP1細胞由来のマクロファージ細胞の培地に、終濃度1μMとなるように添加して60分間インキュベートした後に、免疫染色によりNF-κB p65を染色した。
【0113】
図11(a)及び(b)は、大動脈内皮細胞の結果を示す写真である。図11(a)はペプチドを添加しなかった結果であり、図11(b)はGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を添加した結果である。その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を大動脈内皮細胞の培地に添加すると、NF-κBが核に移行することが明らかとなった。
【0114】
また、図11(c)及び(d)は、マクロファージ細胞の結果を示す写真である。図11(c)はペプチドを添加しなかった結果であり、図11(d)はGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を添加した結果である。その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)をマクロファージ細胞の培地に添加すると、NF-κBが核に移行することが明らかとなった。
【0115】
[実験例14]
(動脈硬化に対する影響の検討)
GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)が動脈硬化に与える影響を検討した。アテローム性動脈硬化症の疾患モデルマウスである、ApoE-/-マウス(17週齢)に、浸透圧ポンプを用いてGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)又は生理食塩水を4週間投与し、動脈硬化の進行を評価した。また、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対するポリクローナル抗体を投与した影響も検討した。ポリクローナル抗体は、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)をウサギに免疫して作製した。
【0116】
図12(a)~(d)は、検討結果を示す肉眼的組織標本であり、(e)~(l)は、顕微鏡写真である。図12(a),(e),(i)は生理食塩水のみを投与した結果である。また、図12(b),(c),(f),(g),(j),(k)は0.6nM/kg/時間の投与量でGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を投与した結果である。また、図12(c),(d),(g),(h),(k),(l)は、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体を1.4μg/kg/時間で投与した結果である。
【0117】
図12(a),(b),(c),(d)は大動脈の表面をオイルレッドO染色した結果である。また、図12(e),(f),(g),(h)は大動脈根の断面をオイルレッドO染色した結果である。また、図12(i),(j),(k),(l)は抗MOMA-2抗体で染色した結果である。抗MOMA-2抗体は、単球及びマクロファージ細胞に結合する抗体である。
【0118】
その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)の投与により動脈硬化の進行が促進され、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体の投与により、これを抑制することができることが明らかとなった。
【0119】
続いて、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を4週間投与したApoE-/-マウス、並びに、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)及びGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体を4週間投与したApoE-/-マウスの血清中のサイトカイン及びケモカインを市販の抗体アレイ(製品名「Mouse XL Cytokine Kit」、R&Dシステムズ社)を用いて定量した。
【0120】
図13(a)はGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)を投与したマウスの血清中のサイトカイン及びケモカインの存在量の相対値を示す。図13(b)はGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)及びGIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体を投与したマウスの血清中のサイトカイン及びケモカインの存在量の相対値を示す。
【0121】
その結果、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)の投与により、アンジオポエチン2(Angpt2)、血清アミロイドP(SAP)、CXCL16、PCSK9、フェツインA、MMP-3等の炎症性サイトカイン及び動脈硬化促進因子の血清中レベルが上昇したことが明らかとなった。
【0122】
一方、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)に対する抗体を投与することにより、ICAM-1、VCAM-1、フェツインA、PCSK9、CXCL16、SAP等の血清中レベルが減少したことが明らかとなった。
【0123】
以上の結果は、GIP_HUMAN[22-51](配列番号5)が、炎症性サイトカイン、ケモカイン及び動脈硬化促進因子の内因性誘導因子であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、ヒト血液中に存在する新規の生理活性ペプチドを提供することができる。より具体的には、抗肥満薬;血管平滑筋細胞、血管内皮細胞又はマクロファージ細胞におけるNF-κBシグナル伝達の活性化を通じた、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子又は血管新生促進因子の発現誘導剤;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤のスクリーニング方法;炎症性疾患又は腫瘍の治療剤;動脈硬化促進剤及び動脈硬化治療剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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