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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電磁波反射装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021002451
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107474
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-12-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集 会 名:第614回 伝送工学研究会 開 催 日:2020年(令和2)1月16日 ・配布場所 :東北大学 青葉山 電気・情報系1号館2階大会議室「第614回 伝送工学研究会」 配 布 日:2020年(令和2年)1月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人 科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)、自律分散協調型直流マイクログリッドの全体最適化を実現する電力・通信融合ネットワーク基盤技術の創出、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】今野 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 頌
(72)【発明者】
【氏名】陳 強
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第688062(EP,A2)
【文献】国際公開第2020/183181(WO,A1)
【文献】特開平01-255301(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3021419(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3648249(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を反射可能な反射面を有し、前記反射面に平行な面に沿って並べて配置された複数の反射体と、
各反射体の前記反射面とは反対側に配置され、電気的に接地された接地部材と、
各反射体に対応して複数設けられ、対応する反射体を前記接地部材に対して前記反射面の垂直方向に移動可能に、弾性的に支持する支持部材と、
各反射体に対応して複数設けられ、対応する反射体との間に前記接地部材を挟むよう配置された電磁石とを有し、
各反射体は、対応する電磁石の磁界を受けて、前記反射面の垂直方向に移動可能に設けられていることを
特徴とする電磁波反射装置。
【請求項2】
各反射体は、互いに一定の間隔をあけて、一列または面状に並べて配置されていることを特徴とする請求項1記載の電磁波反射装置。
【請求項3】
各支持部材は、弾性を有し、対応する反射体と前記接地部材との間に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波反射装置。
【請求項4】
各支持部材は、可撓性の板から成り、一方の表面に、対応する反射体が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波反射装置。
【請求項5】
各反射体は、一方の表面が前記反射面から成る板状の強磁性体から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項6】
各反射体は、一方の表面が前記反射面から成る板材と、前記板材の他方の表面に設けられた磁石または強磁性体とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波反射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信システムである5Gや車載レーダなど、電磁波の利用分野の多様化や高度化に伴い、電磁波を所望の方向に反射させることにより、アンテナの性能を動的に制御する電磁波反射装置が開発されている。従来の電磁波反射装置として、基板の表面に、所定の間隔で配列された複数の板状の導体パッチと、隣接する導体パッチ同士を電気的に接続する容量素子を有する移相器とを有し、移相器により各容量素子の容量を制御することにより、電磁波を所定の位相で反射させるフェーズドアレイ型の反射装置がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載のようなフェーズドアレイ型の反射装置は、移相器の構造が複雑で高価であるという問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決するために、比較的簡単な構造を有する反射装置として、電気的制御を行うものや機械的制御を行うものが開発されている。電気的制御を行う反射装置は、所定の間隔で配列された複数の板状のパッチに、それぞれダイオードを接続して成り、各ダイオードで各パッチに流れる電流を阻止または通過させることにより、電流分布や位相を変化させて、電磁波の反射方向を制御するよう構成されている(例えば、非特許文献1参照)。この電気的制御を行う反射装置は、電流の阻止と通過の2パターンの制御しかできないが、応答性が良く、信頼性が高いという特徴を有している。
【0004】
また、機械的制御を行う反射装置は、所定の間隔で配列された複数の反射素子にそれぞれマイクロモータ等を接続して成り、各反射素子やその一部を各マイクロモータ等で機械的に動かすことにより、電磁波の反射方向を制御するよう構成されている(例えば、非特許文献2参照)。この機械的制御を行う反射装置は、電気的制御を行うものと比べると、応答性には劣るが、連続的な制御を行うことができるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-193345号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】H. Kamoda, T. Iwasaki, J. Tsumochi, T. Kuki and O. Hashimoto, “60-GHz Electronically Reconfigurable Large Reflectarray Using Single-Bit Phase Shifters”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, July 2011, vol. 59, no. 7, p. 2524-2531
【文献】X. Yang et al., “A Broadband High-Efficiency Reconfigurable Reflectarray Antenna Using Mechanically Rotational Elements”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Aug. 2017, vol. 65, no. 8, p. 3959-3966
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1および2に記載の反射装置は、それぞれ応答性や制御性に特徴を有しているが、ダイオードのバイアス回路やマイクロモータ等により、各パッチや反射素子に入射する電磁波が散乱し、反射波のパターンが乱れてしまうため、精確な反射波パターンを実現することが難しくなり、電磁波の反射性能が低下してしまうという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、電磁波の反射性能の低下を抑えることができる電磁波反射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る電磁波反射装置は、電磁波を反射可能な反射面を有し、前記反射面に平行な面に沿って並べて配置された複数の反射体と、各反射体の前記反射面とは反対側に配置され、電気的に接地された接地部材と、各反射体に対応して複数設けられ、対応する反射体を前記接地部材に対して前記反射面の垂直方向に往復移動可能に、弾性的に支持する支持部材と、各反射体に対応して複数設けられ、対応する反射体との間に前記接地部材を挟むよう配置された電磁石とを有し、各反射体は、対応する電磁石の磁界を受けて、前記反射面の垂直方向に移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電磁波反射装置は、並べて配置された複数の反射体を、対応する電磁石の磁界により、各反射体の反射面の垂直方向に移動させることができる。このため、各電磁石により対応する反射体の移動距離を制御することにより、各反射体の反射面に入射される電磁波を、所望の方向に反射させることができる。
【0011】
本発明に係る電磁波反射装置は、電気的に接地された接地部材を挟んで、各反射体と各電磁石とが配置されているため、電磁石および電磁石に電圧を印加する電源回路が、各反射体に入射する電磁波に影響を与えるのを抑えることができる。また、各反射体を、磁界により非接触で移動させるため、各反射体に入射する電磁波が、機械的な動きによる影響を受けない。このため、本発明に係る電磁波反射装置は、各反射体の動きを制御する際に、各反射体に入射する電磁波が散乱するのを抑制することができ、電磁波の反射性能の低下を抑えることができる。
【0012】
本発明に係る電磁波反射装置は、各反射体が、対応する支持部材により弾性的に支持されているため、電磁石で反射体を移動させた後、電磁石に流す電流を小さくすることにより、反射体を元の位置の方向に戻すことができる。また、支持部材の弾性定数により、応答性を制御することができる。
【0013】
本発明に係る電磁波反射装置は、各反射体の移動距離を、複数段階に制御してもよく、連続的に制御してもよい。例えば、各反射体の移動距離を、対応する電磁石に流す電流がゼロのときの位置と、対応する電磁石に、1または複数の大きさの電流を流したときの位置とに制御することにより、複数段階で制御することができる。また、電磁石による磁界の大きさは、電磁石に流す電流に比例するため、各電磁石に流す電流を連続的に制御することにより、各反射体の移動距離を連続的かつ比較的容易に制御することができる。
【0014】
本発明に係る電磁波反射装置で、各反射体は、互いに一定の間隔をあけて、一列または面状に並べて配置されていることが好ましい。この場合、電磁波の反射方向を比較的容易に制御することができる。
【0015】
本発明に係る電磁波反射装置で、各支持部材は、対応する反射体を反射面の垂直方向に往復移動可能に、弾性的に支持するものであれば、いかなる構成を有していてもよい。各支持部材は、例えば、弾性を有し、対応する反射体と前記接地部材との間に配置されていてもよい。この場合、各支持部材は、例えば、バネであってもよい。また、各支持部材は、可撓性の板から成り、一方の表面に、対応する反射体が取り付けられていてもよい。このとき、各支持部材は、接地部材に対して撓むよう配置され、その撓む位置に反射体が取り付けられていることが好ましい。また、各支持部材は、両持ち梁状や片持ち梁状など、いかなる構成で設けられていてもよい。また、各支持部材は、可撓性であればよく、網状であってもよい。各支持部材は、耐久性や制御性などを考慮すると、可撓性の板から成る方が好ましい。
【0016】
本発明に係る電磁波反射装置で、各反射体は、対応する電磁石の磁界により引力または斥力を受けるものであれば、いかなる構成を有していてもよい。各反射体は、例えば、一方の表面が前記反射面から成る板状の強磁性体から成っていてもよい。また、各反射体は、一方の表面が前記反射面から成る板材と、前記板材の他方の表面に設けられた磁石または強磁性体とを有していてもよい。また、各反射体は、対応する電磁石の磁界により、反射面全体が移動可能であっても、反射面の一部のみが移動可能であってもよい。また、各反射体の反射面は、正方形、矩形、円形など、いかなる形状を成していてもよい。
【0017】
本発明に係る電磁波反射装置で、接地部材は、各電磁石の磁界を妨げない、銅やアルミニウムなどの金属製の導体から成ることが好ましい。接地部材は、各反射体と各電磁石との間の距離を短くして、各電磁石による各反射体の制御性を高めるために、薄い板状を成していることが好ましい。また、接地部材は、1つから成り、全ての反射体と電磁石との間に配置されていてもよく、各反射体または複数の反射体に対応して複数設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁波の反射性能の低下を抑えることができる電磁波反射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態の電磁波反射装置を示す正面図である。
図2】本発明の実施の形態の電磁波反射装置の第1の変形例を示す(a)斜視図、(b)正面図、(c)電磁石により反射体を移動させたときの正面図である。
図3】本発明の実施の形態の電磁波反射装置の第2の変形例を示す(a)平面図、(b)斜視図である。
図4図2に示す電磁波反射装置の、電磁石に印加した電圧(Voltage)に対する反射体の移動量(Displacement)を示すグラフである。
図5図2に示す電磁波反射装置の、シミュレーションに用いた(a)各反射体の配置を示す斜視図、(b)反射体および接地部材のモデルを示す斜視図である。
図6図5に示す電磁波反射装置のモデルを用いたシミュレーション結果の、反射材の板材と接地部材との間隔hに対する(a)反射波の位相変化、(b)振幅の大きさの変化を示すグラフである。
図7図2に示す電磁波反射装置の、(a)電磁波の反射実験に用いた各反射体の配置を示す斜視図、(b)電磁波の反射実験の方法を示す側面図である。
図8図7に示す電磁波反射装置の電磁波の反射実験の、反射材の板材と接地部材との間隔hを、17.5mmとしたときの反射波、および、7.0mmとしたときの反射波の(a)位相差、(b)振幅の大きさを示すグラフである。
図9図3に示す電磁波反射装置10の、(a)支持部材の板材の長さL、(b)板材の幅d、(c)板材の厚みt、(d)支持部材のアクリル棒の高さhを変えたときの、電磁石に印加した電圧に対する反射体の移動量を示すグラフである。
図10図3に示す電磁波反射装置10の、性能の評価実験に用いた各反射体の配置を示す平面図である。
図11図10に示す電磁波反射装置10の性能の評価実験の、全ての反射体をONにしたときの反射波、および、全ての反射体をOFFにしたときの反射波の(a)位相差(Phase difference)の変化、(b)振幅比(Amplitude difference)の変化を示すグラフである。
図12図10に示す電磁波反射装置10の、電磁波の反射波の振幅パターンの計算から求められた、反射波の主ビームが、電磁波の入射方向に対して0°(θ=0°)に向くとき、および、10°(θ=10°)に向くときの、(a)各反射体のON/OFFの状態を示すパターン図、(b)反射波の散乱パターン(Relative Array factor)を示すグラフである。
図13図10に示す電磁波反射装置10の、各反射体が図12(a)に示す各状態での反射波の測定により得られた、BRCS(レーダ散乱断面積)パターンである。
図14図3に示す電磁波反射装置の変形例を示す(a)平面図、(b)斜視図である。
図15図14に示す電磁波反射装置の、電磁石に印加した電圧に対する、各電圧を印加して0.2秒後および17秒後の反射体の移動量を示すグラフである。
図16図14に示す電磁波反射装置の、各反射体を面状に並べて配置した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図16は、本発明の実施の形態の電磁波反射装置を示している。
図1に示すように、電磁波反射装置10は、複数の反射体11と接地部材12と複数の支持部材13と複数の電磁石14とを有している。
【0021】
各反射体11は、電磁波を反射可能な反射面11aを有し、磁界により引力または斥力を受けるよう構成されている。図1に示す具体的な一例では、各反射体11は、板状を成し、一方の表面が反射面11aを成している。各反射体11は、反射面11aに平行な面に沿って、互いに一定の間隔をあけて、一列または面状に並べて配置されている。
【0022】
接地部材12は、薄い金属板から成り、各反射体11の反射面11aとは反対側に、各反射体11との間に間隔をあけて配置されている。接地部材12は、電気的に接地されている。接地部材12は、1つから成り、全ての反射体11と電磁石14との間に配置されている。なお、接地部材12は、銅製に限らず、各電磁石14の磁界を妨げない材料であれば、いかなる材料から成っていてもよい。また、接地部材12は、1つに限らず、各反射体11または複数の反射体11に対応して複数設けられていてもよい。
【0023】
各支持部材13は、それぞれ各反射体11に対応して設けられている。各支持部材13は、対応する反射体11を、接地部材12に対して反射面11aの垂直方向に往復移動可能に、弾性的に支持している。図1に示す具体的な一例では、各支持部材13は、可撓性の板から成り、対応する反射体11の接地部材12の側に配置され、反射体11に向いた側の表面に、対応する反射体11の反射面11aとは反対側の面が貼り付けられている。
【0024】
各電磁石14は、それぞれ各反射体11に対応して設けられている。各電磁石14は、対応する反射体11との間に接地部材12を挟むよう、接地部材12の反射体11とは反対側に配置されている。これにより、電磁波反射装置10は、各反射体11が、対応する電磁石14の磁界を受けて、反射面11aの垂直方向に移動可能になっている。このとき、図1に示す具体的な一例では、各支持部材13が撓むことにより、各反射体11が移動可能になっている。
【0025】
より具体的には、電磁波反射装置10は、図2図3に示す構成を有していてもよい。図2に示す構成では、各反射体11は、一方の表面が反射面11aから成る、銅製の正方形の板材21と、板材21の反射面11aとは反対側の面に取り付けられた永久磁石22とを有している。支持部材13は、弾性を有するコイルバネから成り、対応する反射体11と接地部材12との間に配置されている。
【0026】
また、図3に示す構成では、各反射体11は、一方の表面が反射面11aから成る、鉄製の正方形の板から成っている。各支持部材13は、スチロール樹脂製の可撓性の板材23と、板材23を両持ち梁状に支持するよう、板材23の両端部と接地部材12との間に設けられた1対のアクリル棒24とを有している。各反射体11は、板材23の接地部材12とは反対側の表面の中央部に、反射面11aとは反対側の表面が貼り付けられている。
【0027】
次に、作用について説明する。
電磁波反射装置10は、並べて配置された複数の反射体11を、対応する電磁石14の磁界により、各反射体11の反射面11aの垂直方向に移動させることができる。このため、各電磁石14により対応する反射体11の移動距離を制御することにより、各反射体11の反射面11aに入射される電磁波を、所望の方向に反射させることができる。
【0028】
電磁波反射装置10は、電気的に接地された接地部材12を挟んで、各反射体11と各電磁石14とが配置されているため、電磁石14および電磁石14に電圧を印加する電源回路が、各反射体11に入射する電磁波に影響を与えるのを抑えることができる。また、各反射体11を、磁界により非接触で移動させるため、各反射体11に入射する電磁波が、機械的な動きによる影響を受けない。このため、電磁波反射装置10は、各反射体11の動きを制御する際に、各反射体11に入射する電磁波が散乱するのを抑制することができ、電磁波の反射性能の低下を抑えることができる。
【0029】
電磁波反射装置10は、各反射体11が、対応する支持部材13により弾性的に支持されているため、電磁石14で反射体11を移動させた後、電磁石14に流す電流を小さくすることにより、反射体11を元の位置の方向に戻すことができる。また、支持部材13の弾性定数により、応答性を制御することができる。電磁波反射装置10では、各電磁石14による磁界の大きさは、各電磁石14に流す電流に比例するため、各電磁石14に流す電流を連続的に制御することにより、各反射体11の移動距離を連続的かつ比較的容易に制御することができる。
【実施例1】
【0030】
図2に示す電磁波反射装置10を製造し、各種の実験およびシミュレーションを行った。まず、反射体11を1つとして実験を行った。実験では、入射する電磁波の周波数を7.5GHz(波長λ=40mm)と仮定して、反射体11の板材21の一辺の長さa、bを20mm(λ/2)とした。また、コイルバネから成る支持部材13により、板材21と接地部材12との間隔hを17.5mmとした。なお、接地部材12は、薄い銅製の板である。実験では、直流電源を用いて電磁石14に電流を流し、磁界を発生させて、永久磁石22に引力や斥力を作用させることにより、反射体11を反射面11aの垂直方向に往復移動させた。
【0031】
電磁石14に印加する電圧(Voltage)を10V刻みで変化させ、反射体11の移動量(Displacement)を測定した。その結果を、図4に示す。図4では、電圧の符号として、電圧を印加して磁界を発生させたときに、電磁石14と磁石との間に引力が発生する向きを正、電磁石14と磁石との間に斥力が発生する向きを負としている。図4に示すように、反射体11の板材21を、接地部材12からの定常高さ17.5mmから、-3mm~+1.4mmの範囲で連続的に動かすことができることが確認された。また、その移動量は、電圧に対して、ほぼ線形に近い挙動を示すことも確認された。また、印加する電圧が45V以上になると、反射体11の板材21が、コイルバネが縮む限界の位置である-10.5mmの位置まで急激に移動することが確認された。なお、電磁石14に印加する電圧を0Vから50Vに瞬時に切り替えたとき、反射体11の板材21が-10.5mmの位置までに移動する時間を測定したところ、0.07秒であった。
【0032】
次に、シミュレーションにより、図2に示す電磁波反射装置10に電磁波を入射したときの、反射体11の移動による反射波の位相変化等を調べた。図5に示すように、シミュレーションでは、無限個の反射体11が、反射面11aに平行な面に沿って、縦方向および横方向に互いに一定の間隔をあけて面状に並べて配置されているものとした。また、入射する電磁波の周波数を7.5GHz(波長λ=40mm)と仮定して、各反射体11の板材21の一辺の長さa、bを20mm(λ/2)、縦方向および横方向の各反射体11の配置周期a,bを40mm、縦方向および横方向の各反射体11の板材21の間隔を20mmとした。シミュレーションは、有限要素法(FEM)を利用した市販の電磁界解析ソフト「HFSS」(ANSYS社製)を用いて行った。
【0033】
反射体11の板材21を、接地部材12との間隔hが1~20mmの範囲で、0.5mm刻みで移動させたときの、反射波の位相変化および振幅の大きさの変化のシミュレーション結果を、それぞれ図6(a)および(b)に示す。図6(a)に示すように、反射体11を移動させることにより、約-180°~約+180°の範囲で、位相(Phase)が変化していることが確認された。また、図6(b)に示すように、反射体11を移動させても、反射波の振幅の大きさの変動は、-0.0025dB以下であり、非常に小さいことが確認された。
【0034】
次に、図7(a)に示すように、図2に示す電磁波反射装置10を用い、8組の反射体11および支持部材13を、縦方向に4列、横方向に2列で面状に並べて配置して電磁波の反射実験を行った。実験では、入射する電磁波の周波数を7.5GHz(波長λ=40mm)と仮定し、各反射体11の板材21の一辺の長さa、bを20mm(λ/2)、縦方向および横方向の各反射体11の板材21の間隔を20mm(λ/2)とした。また、図7(b)に示すように、実験では、ホーンアンテナ1を用いて反射体11の反射面11aに電磁波を入射し、その反射波をネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製「N5224A」)2で測定した。ホーンアンテナ1と反射面11aとの距離は、80cmとした。
【0035】
各反射体11の板材21と接地部材12との間隔hを、17.5mmとしたときの反射波、および、7.0mmとしたときの反射波の測定を行った。各反射波の位相差を求め、図8(a)に示す。また、各反射波の振幅の大きさを、図8(b)に示す。なお、図8(b)は、ホーンアンテナ1に入射した電磁波の振幅の大きさに対する、反射波の振幅の大きさを示している。図8(a)に示すように、電磁波の周波数が7.5GHzのとき、-137°の位相差が得られることが確認された。また、図8(b)に示すように、電磁波の周波数が7.5GHzのとき、各反射波の振幅の大きさは、ほぼ同じであることが確認された。また、電磁波の周波数が7.5GHzではないときには、広い周波数範囲で、各反射波の振幅の大きさが異なってることが確認された。
【実施例2】
【0036】
図3に示す電磁波反射装置10を製造し、各種の実験を行った。まず、反射体11を1つとして、反射体11の寸法や構造に関する実験を行った。実験では、基準寸法として、鉄製の板から成る反射体11の一辺の長さaを15mm、支持部材13のスチロール樹脂製の板材21の長さLを47.5mm、板材21の幅dを17.5mm、板材21の厚みtを0.21mm、支持部材13のアクリル棒24の高さhを5mmとした。なお、接地部材12は、薄い銅製の板である。実験では、直流電源を用いて電磁石14に電流を流し、磁界を発生させて、永久磁石22に引力を作用させることにより、反射体11を反射面11aの垂直方向に移動させた。
【0037】
電磁石14に印加する電圧を連続的に変化させ、支持部材13のスチロール樹脂製の板材23の長さL、板材23の幅d、板材23の厚みt、支持部材13のアクリル棒24の高さhを、それぞれ基準寸法から変えたときの反射体11の移動量を測定した。それぞれの結果を、図9(a)~(d)に示す。図9では、電圧の符号として、電圧を印加して磁界を発生させたときに、電磁石14と反射体11との間に引力が発生する向きを正としている。図9に示すように、小さい電圧で反射体11の移動量を大きくするためには、Lを大きく、dを小さく、tを小さく、hを小さく(電磁石14と反射体11との間隔を短く)すればよいことが確認された。逆に、反射体11の移動量の制御性を高めるためには、Lを小さく、dを大きく、tを大きく、hを大きくすればよいことが確認された。
【0038】
次に、図10に示すように、20組の反射体11を有する図3に示す電磁波反射装置10を用い、各反射体11および各支持部材13を、支持部材13の板材23の幅方向に一列にアレー状に並べて配置して、性能を評価する実験を行った。実験では、反射体11等を上記の基準寸法とし、各反射体11の間隔を15mmとした。各反射体11の位置を、反射体11と接地部材12との間隔が5mm(反射体11の移動なし;以下では「OFF」とする)、0mm(反射体11の移動距離5mm;以下では「ON」とする)の2段階のみとした。また、実験では、2つのホーンアンテナを用い、一方のホーンアンテナから反射体11の反射面11aに電磁波を入射し、他方のホーンアンテナでその反射波を受信して、ネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製「E8722ET」)で測定した。各ホーンアンテナと反射面11aとの距離は、それぞれ80cmおよび240cmとした。
【0039】
各反射体11の反射面11aに電磁波を入射し、全ての反射体11をONにしたときの反射波の位相および振幅、ならびに、全ての反射体11をOFFにしたときの反射波の位相および振幅を測定した。入射する電磁波の周波数を7.5GHz~10GHzの範囲で変化させて測定を行い、OFFのときを基準にして、ONのときの位相差および振幅比を求めた。入射した電磁波の周波数に対する位相差(Phase difference)および振幅比(Amplitude difference)の変化を、それぞれ図11(a)および(b)に示す。図11(a)に示すように、位相差は-50°~-170°の範囲で変化することが確認された。また、図11(b)に示すように、振幅比は+1dB~+9dBの範囲で変化することが確認された。例えば、電磁波の周波数が8GHzのとき、位相差が-144°、振幅比が+7.5dBであることが確認された。
【0040】
次に、図10に示すアレー状の配置で、各反射体11のON/OFFを切り替えたときの電磁波の反射波の振幅パターンを、電磁界の数値解析法であるモーメント法により計算した。その計算の結果、各反射体11のON/OFFを切り替えることにより、ほぼ連続的に所望の方向に反射波の主ビーム(最も電力密度が大きい方向のビーム)を向けることができることが確認された。
【0041】
その計算結果から、反射波の主ビームが、電磁波の入射方向に対して0°に向くときの、各反射体11のON/OFFの状態(第1の状態)、および、10°に向くときの、各反射体11のON/OFFの状態(第2の状態)、ならびに、各状態での反射波の散乱パターン(Relative Array factor)を、それぞれ図12(a)および(b)に示す。なお、電磁波の周波数は、8GHzとした。また、電磁波の入射方向に対する反射角度をθとしている。また、図12(b)は、第1の状態での、θ=0°のときの反射波の振幅を基準にしている。
【0042】
図10に示すアレー状の配置で、図12(a)に示す第1の状態および第2の状態での反射波の測定を行った。測定条件および測定方法は、図11の測定時と同じである。また、電磁波の周波数は、8GHzとした。測定で得られた各状態でのBRCS(レーダ散乱断面積)パターンを、図13に示す。図13では、各パターンを、それぞれの最大値で規格化している。図13に示すように、第1の状態のパターン(図中の破線)および第2の状態のパターンとも、図12(b)と同様のパターンを示しており、第1の状態のパターンではθ=0°で、第2の状態のパターンではθ=12°で最大値になっていることが確認された。この結果から、反射波の主ビームはほぼ狙った方向に向いており、電磁波の反射方向を制御可能であるといえる。
【実施例3】
【0043】
図3に示す電磁波反射装置10を変形した、図14に示す電磁波反射装置10を製造し、変位特性を調べる実験を行った。図14に示す電磁波反射装置10は、図3に示す電磁波反射装置10と同じ部材から成っており、図3の鉄製の反射体11を、その反射面11aの中心線周りに、45度回転させたものである。図14に示す電磁波反射装置10は、入射する電磁波の周波数fを10GHz(波長λ=30mm)と仮定して、各寸法を表1のように設定している。
【0044】
【表1】
【0045】
実験では、反射体11を1つとして、直流電源を用いて電磁石14に電流を流し、磁界を発生させて、鉄製の反射体11に引力を作用させることにより、反射体11を反射面11aの垂直方向に移動させた。実験では、電磁石14に印加する電圧を2V刻みで変化させ、各電圧を印加して0.2秒後および17秒後の反射体11の移動量を測定した。その結果を、図15に示す。図15では、電圧の符号として、電圧を印加して磁界を発生させたときに、電磁石14と磁石との間に引力が発生する向きを正としている。図15に示すように、反射体11の移動量が、0mmから約-1.7mmまでは、反射体11を連続的に動かすことができ、0.2秒後の移動量と17秒後の移動量もほぼ同じであることが確認された。また、その移動量は、電圧の大きさに対して、ほぼ線形に近い挙動を示すことも確認された。また、反射体11の移動量が約-1.7mmより大きくなると、反射体11が接地部材12と接触する位置まで急激に移動することが確認された。
【0046】
図14に示す電磁波反射装置10で、複数の反射体11を、反射面11aに平行な面に沿って、縦方向および横方向に互いに一定の間隔をあけて面状に並べて配置したものを、図16に示す。図16では、各反射体11を、反射体11の各辺の長さ方向に沿って並べ、隣り合う反射体11の間隔がλ/2より短くなるよう配置されている。この図16に示す配置では、各反射体11の移動量を制御することにより、電磁波の反射方向をほぼ連続的に制御可能であると考えられる。
【符号の説明】
【0047】
10 電磁波反射装置
11 反射体
11a 反射面
12 接地部材
13 支持部材
14 電磁石

21 板材
22 永久磁石
23 板材
24 アクリル棒

1 ホーンアンテナ
2 ネットワークアナライザ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16