(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】超伝導磁気センサを用いた検査装置及び検査方法。
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20241119BHJP
G01R 33/035 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N27/82
G01R33/035
(21)【出願番号】P 2021021361
(22)【出願日】2021-02-13
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】田中 三郎
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-092507(JP,A)
【文献】国際公開第2009/110529(WO,A1)
【文献】特開2010-237081(JP,A)
【文献】特開2007-205925(JP,A)
【文献】米国特許第06215303(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0277164(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01R 33/035
G01V 3/00-3/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被検体の磁気的特性を検査する検査装置であって、
前記被検体へ磁場を印加する磁場印加部と、
前記磁場が印加された前記被検体を搬送する搬送部と、及び
該搬送部に対向して配置される磁気センサであって、グラジオメータの構成を具備したSQUID磁気センサと、を備え、
前記被検体の搬送方向が前記グラジオメータの差分方向と直交する、検査装置。
【請求項2】
前記磁場印加部は前記被検体に対して第1の方向へ磁場を印加し、
前記搬送部による前記被検体の搬送方向は前記第1の方向と一致する、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記SQUID磁気センサが、前記被検体の搬送方向に対して直交する方向に複数配置される、請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記搬送部はベルトコンベア又はトレイ搬送式である、請求項1~3の何れかに記載の検査装置。
【請求項5】
前記搬送部は長尺物あるいは連続体を保持する固体保持部を備える、請求項1~4の何れかに記載の検査装置。
【請求項6】
前記搬送部は粉体を保持する粉体保持部を備える、請求項1~4の何れかに記載の検査装置。
【請求項7】
前記搬送部は液体を保持する液体保持部を備える、請求項1~4の何れかに記載の検査装置。
【請求項8】
磁場印加部、搬送部及びグラジオメータの構成を具備したSQUID磁気センサを備える検査装置を用い、搬送される被検体の磁気特性を検査する検査方法であって、
前記被検体を準備するステップと、
前記磁場印加部により、前記被検体へ磁場を印加する磁場印加ステップと、及び
前記搬送部により搬送される、前記磁場の印加された被検体に対し、前記SQUID磁気センサを対向させて、前記被検体の磁気特性を検査する検査ステップと、とを備える検査方法であって、
前記被検体の搬送方向を前記グラジオメータの差分方向と直交させる、検査方法。
【請求項9】
前記磁場印加部は前記被検体に対して第1の方向へ磁場を印加し、
前記搬送部による前記被検体の搬送方向は前記第1の方向と一致する、請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
前記被検体を準備するステップにおいて、前記被検体は母材と該母材に含まれる磁化対象物とを含み、前記母材は磁場印加部により前記SQUID磁気センサで検査可能な状態に磁化され、前記磁化対象物は前記磁場印加部により前記母材より強く磁化され、
前記母材は前記搬送方向に磁気特性が変化している、請求項8又は9に記載の検査方法。
【請求項11】
前記母材の磁気特性の変化は、前記母材の厚さの変化、前記母材の材質変化、前記母材の密度の変化のうちの少なくとも一つに基づく、
請求項10に記載の検査方法。
【請求項12】
前記被検体は前記搬送方向に長尺である、請求項8~11のいずれかに記載の検査方法。
【請求項13】
前記被検体は連続体である、請求項8~11のいずれかに記載の検査方法。
【請求項14】
前記搬送部に対して前記被検体が間隔をあけて配置され、
前記SQUID磁気センサは前記被検体と被検体の間隔の空間の磁気特性も検出する、請求項8~12の何れかに記載の検査方法。
【請求項15】
前記SQUID磁気センサは、搬送されてくる前記被検体に対して、常にオンの状態である、請求項8~14のいずれかに記載の検査装置。
【請求項16】
前記被検体の母材は粉体である、請求項8~15のいずれかに記載の検査方法。
【請求項17】
前記被検体の母材は液体である、請求項8~15のいずれかに記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は超伝導磁気センサを用いた検査方法及び検査方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導磁気センサ(以下、「SQUID磁気センサ」ということがある)を用いて、被検体に存在する異物を非侵襲的に検査する装置が特許文献1に提案されている。 特許文献1の
図6には(本件出願の
図1)には、タングステンカーバイド製の異物24を含んだ真鍮製のプレートを被検体22として、SQUID磁気センサを用いた検査装置による検査結果が開示されている。SQUID磁気センサはベルトコンベアによって搬送されている被検体22に対向して、検査を実行する。被検体22は、SQUID磁気センサに対向する前に、ベルトコンベアの搬送方向に磁化されている。ここに、被検体22の母材となる真鍮は、一般的には磁化されない材料であるが、SQUID磁気センサの検査対象としてみたときには、その磁化の影響が観察される。即ち、弱く磁化された状態といえる。タングステンカーバイドは強磁性体であり、真鍮に比べて強く磁化される。
【0003】
SQUID磁気センサを用いる場合、その感度が高いので、被検体の母材となる材料がわずかに磁化されても、その検査結果に影響がでる。したがって、被検体の母材の磁化の影響を相殺できるようにSQUID磁気センサにはグラジオメータの構成を具備したものが利用されることが一般的である。 グラジオメータの構成を備えたSQUID磁気センサに対して被検体を搬送させたときの、当該SQUID磁気センサの出力が図に示されている。即ち、異物24に対応してピークBが観察され、被検体22の端部に対応してピークA、Cが観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1 特許5229923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の例では、異物24に対応するピークBが被検体22の端部に対応するピークA、Cに比べて大きく表れているが、被検体の母材の材質や異物の材質の如何によっては、ピークA、B、Cの大きさに有意な差が出ないことがある。 工業製品である被検体にかかる検査装置を適用する際には、検査装置とアラーム装置とが組み合わされて、SQUID磁気センサにより異物のピークを検出するたびにアラーム装置からアラームが生成されることがある。この場合、被検体の端部からも異物と同じようなピークが検出されると、その都度アラームが生成される。換言すれば、異物に起因するアラームと被検体の端部に起因するアラームとを検査現場にて峻別することが困難になる。 さらには、被検体の端部に異物が存在したとき、当該異物に起因するピークと被検体の端部に起因するピークとを峻別することも困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明はかかる課題を解決するべきなされ、その第1局面は次のように規定される。即ち、 搬送される被検体の磁気的特性を検査する検査装置であって、 前記被検体の第1の方向に前記被検体へ磁場を印加する磁場印加部と、 前記磁場が印加された前記被検体を前記第1の方向に搬送する搬送部と、及び 該搬送部に対向して配置される磁気センサであって、グラジオメータの構成を具備したSQUID磁気センサと、を備え、 前記被検体の搬送方向が前記グラジオメータの差分方向と直交する、検査装置。
【0007】
このように規定される第1局面の検査装置によれば、被検体の搬送方向がグラジオメータの差分方向と直交するので、被検体の端部に起因するピークが消滅する。
図2にグラジオメータの構成を具備したSQUID磁気センサのピックアップループC1、C2の配置方向と被検体1の搬送方向との関係を示す。なお、被検体1は搬送方向に磁化されており、当該磁化により被検体1の母材(強磁性体ではない)は、SQUID磁気センサにより検査可能な状態に磁化される。異物3は強磁性体であり、母材より強く磁化されるものとする。
【0008】
図2(a)に示すグラジオメータの構成では、ピックアップループC1、C2が被検体1の搬送方向に並べられている。ピックアップループC1、C2は相互に逆方向に電流が流れるように構成されているので、その差分方向と搬送方向とが並列となる。その結果、被検体1の端部がピックアップループC1を通過するときと、ピックアップループC2とを通過するときに逆相のピークが現れる((a)の波形参照)。即ち、ピックアップループが被検体1の母材からの磁束を検出しているとき、他方のピックアップループは空気の磁束を検出することとなるので、当該磁束の差に基づく電流差が表れる。 他方、異物3がピックアップループC1を通過するとき、図の例では差分の電流が増大し、ピックアップループC2を通過するときに差分の電流は減少し、もって中央のピークが生成される。端部及び異物3以外の被検体1の部分では、ピックアップループC1、C2はともに被検体1の母材の磁束を検出するので、そこに実質的な差分は現れない。
【0009】
図2(b)に示すグラジオメータの構成では、ピックアップループC1、C2が搬送方向と直交するように並べられている。その結果、その差分方向と搬送方向とが直交している。その結果、被検体1の端部がピックアップループC1又はC2を通過するとき、電流差(ピーク差)は現れない((b)の波形参照)。被検体1の端部が搬送方向と直交していれば、各ピックアップループに対して、被検体1の母材の占める割合と空気の占める割合とが一致するからである。 他方、異物3については、ピックアップループC1とC2の何れか一方に偏在して通過するので、そこに電流差が形成され、それに伴うピーク波形は有意の大きさを備え、観察可能となる。
【0010】
以上より、グラジオメータの構成を備えるSQUID磁気センサを採用する際、グラジオメータの差分方向と被検体の搬送方向とを直交させることにより、SQUID磁気センサの出力から被検体1の端部の影響を消去することができる。 なお、この明細書において直交とは、物理的に交差角度が完全に90度の場合のみを指すものではなく、機械的な組付けに起因する誤差を含むものとする。 これにより、以下に示す少なくとも1つの効果が得られる。
【0011】
(1) 被検体の端部に存在する異物を確実に検出できる。(2)検査装置と警報装置とを組み合わせ、検査装置の出力ピークに警報装置の警報を応答させたとき、(a)の波形を出力する従来の検査装置では被検体の端部についても警報が発せられるので、往々にして現場では、SQUID磁気センサに端部が対向するときセンサをオフにすることがあった。これに対し、(b)の波形を出力するこの発明の検査装置では、被検体の端部においてSQUID磁気センサをオフにする必要がなく、これをオンの状態に維持できる。なお、(a)の波形を出力する従来の検査装置では、被検体の端部がセンサに対向したことを検知するポジションセンサなどの付帯装置が必要とされるので、これを省略できる効果もある。
【0012】
(3) 長尺物あるいは連続体を対象としたとき、その長さ方向で厚さに変化の生じることがある。特に長尺物が積層体であり、一方の層に対して他方の層をその長さ方向に塗布して形成するときにかかる厚さの変化が生じやすい。この場合、厚さの変化の生じた部分は、母材が変化した部分とみなされるので、(a)の波形を出力する従来の検査装置では当該部分においてピークが生じることとなる。よって、当該部分での異物の検出の精度が低下するおそれがある。 長尺物においてその長さ方向に材質や密度が変化したときも同様に、変化した部分において異物の検出の精度が低下するおそれがある。 これに対し、本発明の検査装置では、母材が変化した部分でのピークの発生が消滅される。よって、当該部分を含め被検体全体において異物検出の精度を維持できる。 ベルトコンベアには長尺物の軸方向(長手方向)が搬送方向と一致するように、これを保持する長尺物保持装置を備えることが好ましい。
【0013】
(4) (3)の効果から、被検体の母材を粉体、または液体とすることも可能になる。即ち、搬送部に粉体又は液体を保持できる保持部を設ける。かかる保持部として、パイプや樋状の凹条部がある。かかるパイプや凹条部に粉体又は液体を注入して被検体とする。粉体や液体はこれをパックに充填してこれを被検体とし、ベルトコンベアで搬送することもできる。かかる粉体や液体の厚さ(深さ)は搬送方向において変化する可能性が高い。注入量が微妙に変化したり、ベルトコンベアの振動が影響したりするからである。このような厚さ(深さ)や密度の変化は母材の変化となるが、既述のようにこの発明の検査装置によれば、当該厚さ(深さ)や密度の変化した部分においてもそれに起因するピークは生じない。よって、異物検出の精度が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は従来技術の検査装置の出力波形を示す。
【
図2】
図2はこの発明の検査装置(b)非微分方向型と従来の検査装置(a)微分方向型による検査方法の違いと、それによる出力波形の違いを説明する。
【
図3】
図3のこの発明の実施形態の検査装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図3はこの発明の実施の形態の検査装置10の構造を示す模式図である。 この検査装置10は、永久磁石30、ベルトコンベア35及びSQUID磁気センサ40を備えている。符号1は被検体を、符号3は異物を指す。 永久磁石30は、ベルトコンベア35に対してその磁束が平行になるように配置される。これにより、永久磁石30は被検体1に対してベルトコンベア35の搬送方向へ磁場を印加する。 この例では、ベルトコンベア35が水平方向に配置されているので、被検体に対して水平方向に、かつ搬送方向へ磁場が印加されている。ベルトコンベア35が水平方向以外の方向に配置されたときには、当該ベルトコンベア35に対してその磁束が平行になるように永久磁石が配置される。永久磁石の代わりに、コイルを用いた電磁石を用いることもできる。
【0016】
この例では、磁化の影響が劣化しないように、SQUID磁気センサ40にできる限り近接して、永久磁石30を配置している。搬送方向と磁化の方向が一致しておれば(第1の方向)、磁場印加部としての永久磁石を搬送部としてのベルトコンベアから離隔して配置してもよい。この場合、磁場印加部により被検体の第1の方向へ磁場を印加したとき、搬送部はこの第1の方向へ被検体を搬送するものとする。このように、SQUID磁気センサに対する搬送方向と磁場の印加される方向とが一致する構成において、本発明の効果は最も有効であるが、磁場が印加される方向を搬送方向及び被検体表面に垂直にしても本発明の効果は有効である。 搬送部は、被検体をSQUID磁気センサ40との近接位置を維持しながら、一定の方向へ搬送できればよく
、
図3に示す連続体のベルトコンベア35に限られない。磁場印加部に対向する部分と、SQUID磁気センサに対向する部分とで、ベルトコンベアを別体とすることができる。また、トレイ搬送式の無端ベルトを採用することもできる。
【0017】
SQUID磁気センサ40は、
図2(b)に示す非微分方向型のグラジオメータの構成のSQUID41を備える。即ち、SQUID41を構成するピックアップループC1、C2がベルトコンベア35の搬送方向と直交するように並べられている。これにより、被検体1の搬送方向がグラジオメータの微分方向と直交することとなる。 なお、ピックアップループC1、C2の視野範囲には制限があるので、ベルトコンベア35の搬送方向に対して直交する方向に、複数のSQUID磁気センサを配置して、ベルトコンベア35の所望の幅にわたって検出を実行できるようにすることが好ましい。
【0018】
図3において、グラジオメータの構成を採用し、その配置の方向を被検体の搬送方向に対し非微分方向型とすることの他は、SQUID磁気センサ40構成は一般的なもとすることができる。図中符号42は磁気シールドボックス、符号43はSQUIDを伝熱冷却するためのサファイアロッド、符号45は液体窒素を保持するクライオスタットである。
【0019】
以下、この発明の実施例について説明する。 ガラスエポキシのプレート(幅:40mm、長さ:85mm、厚さ:3.3mm)を被検体としてこれに異物、即ち磁化対象物としての微小金属粒体(ニッケル製、直径50μm)を載置固定した。搬送速度を60m/分として、
図3に示すように永久磁石(1.2T)で磁場を印加した。そのまま、SQUID41に対向させた。SQUID41と被検体との距離は7.5mmであった。
【0020】
かかる資料を
図3の検査装置10で検査した結果を
図4に示す。
図4において、最上段のチャートは、被検体なしの状態、即ちベルトコンベアは駆動するがそこに被検体を載置しない状態でのSQUID磁気センサ40の出力を示す。
図4において、中段のチャートは異物としての微小金属球のないガラスエポキシプレートを被検体としたときのSQUID磁気センサ40の出力を示す。
図4において、下段のチャートは異物としての微小金属球を固定したガラスエポキシプレートを被検体としたときのSQUID磁気センサ40の出力を示す。
図4の結果より、実施例の検査装置10によれば、被検体の端部に起因するピークを消滅させ、かつ異物については有意な大きさのピークを生成させられることがわかる。
【0021】
図5は比較例の検査装置の出力を示す。この比較例は、
図3の検査装置において、SQUIDを構成するピックアップループを微分方向型(
図2の(a))としたものである。 かかる比較例の検査装置の出力は、
図1に示す従来例の場合と同様に、被検体の端部に起因するピークを生成するものであった。
図5において、最上段のチャートは、被検体なしの状態、即ちベルトコンベアは駆動するがそこに被検体を載置しない状態でのSQUID磁気センサの出力を示す。
図5において、中段のチャートは異物としての微小金属球のないガラスエポキシプレートを被検体としたときのSQUID磁気センサの出力を示す。
図5において、下段のチャートは異物としての微小金属球を固定したガラスエポキシプレートを被検体としたときのSQUID磁気センサの出力を示す。
【0022】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1 被検体10 検査装置22 被検体35 ベルトコンベア40 SQUID磁気センサ