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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】アニオン基含有多糖類の定量法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241119BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N27/416 302G
G01N27/48 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023186226
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2024-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300075751
【氏名又は名称】株式会社オプトラン
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 渉
(72)【発明者】
【氏名】並木 恵一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-014707(JP,A)
【文献】特開2002-131233(JP,A)
【文献】特開2005-179495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度既知の陽イオンを含む陽イオン溶液に前記陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプルを添加して混合溶液を得る調製工程と、
前記混合溶液中の陽イオン濃度を測定する測定工程と、
前記測定工程で得られた測定値に基づき、前記サンプル中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する算出工程と、
を含む、アニオン基含有多糖類の定量法。
【請求項2】
前記測定工程は、前記混合溶液を電気化学測定に供して前記測定値を得る、
請求項1に記載のアニオン基含有多糖類の定量法。
【請求項3】
前記調製工程で、前記陽イオン溶液を収容した容器に前記サンプルを添加して前記混合溶液を調製し、
前記測定工程で前記電気化学測定に供するにあたり、電極を前記容器に挿し込んで前記混合溶液に浸漬する、
請求項2に記載のアニオン基含有多糖類の定量法。
【請求項4】
前記電気化学測定は、アノーディックストリッピングボルタンメトリー法にて行う、
請求項2に記載のアニオン基含有多糖類の定量法。
【請求項5】
前記アニオン基含有多糖類はカルボキシル基を有する多糖類であり、
前記陽イオンは金属イオンである、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアニオン基含有多糖類の定量法。
【請求項6】
前記陽イオン溶液の溶媒及び前記サンプルの溶媒は水であり、
前記アニオン基含有多糖類は水溶性ペクチンであり、
前記陽イオンは鉛イオンである、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアニオン基含有多糖類の定量法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン基含有多糖類の定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジャムやゼリー等の食品や医薬品においてペクチン等の多糖類がゲル化剤や増粘剤として使用されている。多糖類の濃度はゲル化や増粘化の度合いに大きく影響するので、品質管理、特にゲル化や増粘化の制御のためには多糖類を定量する必要がある。
【0003】
多糖類の定量法として、蛍光標識されたウロン酸含有多糖類をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて検出及び定量する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、酸性多糖類を含有する水溶液に金属塩水溶液を加えてゲル化させて回収し、HPLCや沈殿法、分光法、滴定法、酵素反応法等で定量する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、従来の定量法は、多糖類を蛍光標識する処理や、ゲル化させて回収する処理などの煩雑な前処理が必要であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-131233号公報
【文献】特開2005-179495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような現状を改善すべく成されたものであり、アニオン基含有多糖類を簡便に定量する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアニオン基含有多糖類の定量法は、濃度既知の陽イオンを含む陽イオン溶液に前記陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプルを添加して混合溶液を得る調製工程と、前記混合溶液中の陽イオン濃度を測定する測定工程と、前記測定工程で得られた測定値に基づき、前記サンプル中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する算出工程と、を含む。
【0008】
本発明の定量法において、例えば、前記測定工程は、前記混合溶液を電気化学測定に供して前記測定値を得るようにしても構わない。
【0009】
さらに、前記調製工程で、前記陽イオン溶液を収容した容器に前記サンプルを添加して前記混合溶液を調製し、前記測定工程で前記電気化学測定に供するにあたり、電極を前記容器に挿し込んで前記混合溶液に浸漬するようにしても構わない。ここで、「電極」とは、電気化学測定が二電極方式のときは作用電極及び参照電極であり、三電極方式のときは作用電極、参照電極及び対極である。
【0010】
また、前記電気化学測定は、例えば、アノーディックストリッピングボルタンメトリー法にて行う例を挙げることができる。
【0011】
本発明の定量法において、例えば、前記アニオン基含有多糖類はカルボキシル基を有する多糖類であり、前記陽イオンは金属イオンである例を挙げることができる。例えば、前記陽イオン溶液の溶媒及び前記サンプルの溶媒は水であり、前記アニオン基含有多糖類は水溶性ペクチンであり、前記陽イオンは鉛イオンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアニオン基含有多糖類の定量法は、サンプル中のアニオン基含有多糖類を簡便に定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電気化学測定装置の一例を示す概略構成図である。
図2】電気化学測定で使用する電極の一例を備えた電極チップの平面図である。
図3】混合溶液を収容するチューブ容器と電極チップとを模式的に示す図である。
図4】水溶性ペクチンと鉛イオン水溶液の混合溶液の測定結果を示すグラフである。
図5】水溶性ペクチン濃度が異なる複数サンプルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、陽イオン濃度既知の陽イオン溶液にアニオン基含有多糖類を含むサンプルを添加し、アニオン基含有多糖類に吸着した陽イオン量(陽イオン溶液に対する陽イオン減少量)からアニオン基含有多糖類を定量できることを見い出した。すなわち、本発明のアニオン基含有多糖類の定量法は、アニオン基含有多糖類及びその誘導体を直接的に定量しなくても、アニオン基含有多糖類を簡便に定量できる。以下に、本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0015】
[第1実施態様]
第1実施態様のアニオン基含有多糖類の定量法は、濃度既知の陽イオンを含む陽イオン溶液に前記陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプルを添加して混合溶液を得る調製工程と、前記混合溶液中の陽イオン濃度を測定する測定工程と、前記測定工程で得られた測定値に基づき、前記サンプル中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する算出工程と、を含む。
【0016】
[測定対象]
本発明のアニオン基含有多糖類の定量法の測定対象は、陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプルである。アニオン基含有多糖類には、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン基を含有する各種の多糖類が含まれる。このような多糖類としては、例えば、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、アルギン酸、ジエランガム、キサンタンガム、トラガカントガム、カラギーナン、アラビアガム、アニオン化でんぷん、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸、繊維素グリコール酸、デンプンリン酸等の多糖物質及びそれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0017】
[陽イオン溶液]
陽イオン溶液に含まれる陽イオンは、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどの一価金属イオン、カルシウムイオン、銅イオン、ストロンチウムイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、鉛イオン、マグネシウムイオン、ルテニウムイオンなどの二価金属イオン、アルミニウムイオン、ランタンイオン、鉄(III)イオンなどの三価金属イオンなどを挙げることができる。また、陽イオン溶液の溶媒は、水のほか、エタノール、メタノールなどのアルコール液、アセトン、アセトニトリル、グルタルアルデヒド、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンなどを挙げることができる。
【0018】
[調製工程]
調製工程では、濃度既知の陽イオンを含む陽イオン溶液に、上記陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプルを添加して混合溶液を得る。混合溶液において、アニオン基含有多糖類に陽イオンが吸着し、陽イオン量が減少する。ここで、サンプルは、アニオン基含有多糖類を含む液体もしくは固体のいずれでも構わないが、陽イオン溶液の溶媒と同じ溶媒にアニオン基含有多糖類を溶解又は抽出して得た液体であることが好ましい。
【0019】
[測定工程]
測定工程では、前記混合溶液中の陽イオン濃度を測定する。本工程において、陽イオン濃度を測定する方法は、特に限定されないが、例えば電気化学測定法、プラズマ発光分光法、原子吸光法、蛍光X線分析法、質量分析法、キレート滴定法、HPLC法などを採用できる。
【0020】
[算出工程]
算出工程では、上記測定工程で得られた測定値に基づき、サンプル中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する。アニオン基含有多糖類の濃度の算出は、例えば、濃度既知の陽イオン溶液にアニオン基含有多糖類の濃度が既知のサンプルを添加した標準混合溶液を用いて得られた、アニオン基含有多糖類濃度と測定値との関係を示す検量線に基づいて算出する。検量線は、例えば、種々の濃度既知のアニオン基含有多糖類を含む標準混合溶液とアニオン基含有多糖類を含まない標準混合溶液とについて測定を行い、アニオン基含有多糖類の濃度に対して測定値をプロットすることによって得ることができる。
【0021】
上記のアニオン基含有多糖類の定量法によれば、アニオン基含有多糖類及びその誘導体を直接的に定量しなくても、アニオン基含有多糖類に吸着した陽イオン量(陽イオン溶液に対する陽イオン減少量)からアニオン基含有多糖類を簡便に定量できる。
【0022】
[第2実施態様]
第2実施態様の上記測定工程は、上記混合溶液を電気化学測定に供して上記測定値を得る。電気化学測定は、例えば、クロノアンペロメトリー(CA)、微分パルスボルタンメトリー(DPV)、サイクリックボルタンメトリー(CV)、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)、短波形ボルタンメトリー(SWV)、アノーディックストリッピングボルタンメトリー(ASV)、電気化学インピーダンス分光法(EIS)などの方法を採用できる。
【0023】
電気化学測定は測定時間が短いから、アニオン基含有多糖類を迅速かつ簡便に定量できる。また、電気化学測定は比較的簡便な装置で実施できるから、装置を測定現場へ移動させて測定を実施するオンサイト測定も可能である。
【0024】
さらに、電気化学測定を採用することで、例えば混合溶液中に陽イオンと結合したアニオン基含有多糖類が懸濁している場合でも、アニオン基含有多糖類を混合溶液から分離することなく、混合溶液中の陽イオン濃度を測定できる。例えば、サンプル量が少量の場合やサンプル中のアニオン基含有多糖類濃度が低い場合であって、陽イオンと結合したアニオン基含有多糖類を混合溶液から分離が困難な場合に、他の測定法ではアニオン基含有多糖類が測定を阻害して正確な測定値が得られないことがある。これに対し、電気化学測定は、混合溶液中に陽イオンと結合したアニオン基含有多糖類が存在していても混合溶液中の陽イオン濃度を測定できるから、サンプル中のアニオン基含有多糖類を正確且つ高感度に定量できる。
【0025】
[第3実施態様]
第3実施態様では、上記調製工程で、陽イオン溶液を収容した容器にサンプルを添加して混合溶液を調製し、上記測定工程で電気化学測定に供するにあたり、電極を上記容器に挿し込んで混合溶液に浸漬する。
【0026】
第3実施態様によれば、陽イオンと結合したアニオン基含有多糖類を混合溶液から分離することなく、簡便な操作でサンプル中のアニオン基含有多糖類を定量できる。また、作用電極及び参照電極、もしくは作用電極、参照電極及び対極を基板上に形成した電極チップを使用し、容器としてチューブ容器を使用するようにすれば、少量の陽イオン溶液及びサンプルで測定を行うことができる。例えば、1ml(ミリリットル)程度の少量の陽イオン溶液と、100μl(マイクロリットル)以下の極少量の液体サンプルであっても測定を行うことができる。
【0027】
また、上記電極チップを使用する場合、基板上の各電極にまたがるように混合溶液を滴下して測定を行うことも可能である。この場合、電極チップ上に滴下する混合溶液量は少量であってもよく、例えば20~30μl程度の混合溶液を電極チップ上に滴下することで測定を行うことができる。なお、電気化学測定を実施するにあたり、電極は基板上に形成されたものに限定されず、例えば棒状の電極を使用することも可能である。また、第3実施形態における容器は、チューブ容器等の小容量のものに限らず、ビーカー等の他の容器であっても構わない。
【0028】
[第4実施態様]
第4実施形態では、上記電気化学測定は、アノーディックストリッピングボルタンメトリー(ASV)法にて行う。ASV法は、混合溶液中の陽イオンを電極表面に濃縮析出させた後、その物質を電解溶出させたときの電流値から陽イオン濃度を定量するから、高感度測定が可能であり、少量の陽イオン溶液及びサンプルで測定を行うことができる。
【0029】
[第5実施態様]
第5実施態様では、上記アニオン基含有多糖類はカルボキシル基を有する多糖類であり、上記陽イオンは金属イオンである。例えば、上記陽イオン溶液の溶媒及び上記サンプルの溶媒は水であり、上記アニオン基含有多糖類は水溶性ペクチンであり、上記陽イオンは鉛イオンである。なお、本発明の測定対象であるアニオン基含有多糖類は、カルボキシル基を有する多糖類に限定されないし、カルボキシル基を有する多糖類は水溶性ペクチンに限定されない。また、陽イオンは鉛イオンに限定されない。
【0030】
[第1実施例]
次に、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。図1は、電気化学測定装置の一例を示す概略構成図である。図2は、電気化学測定で使用する電極の一例を備えた電極チップの平面図である。図3は、混合溶液を収容するチューブ容器と電極チップとを模式的に示す図である。
【0031】
図1に示すように、電気化学測定装置1は、電極チップ2と、電極チップ2に接続されるポテンショスタット3と、ポテンショスタット3に接続される操作部4、表示部5、電源部6及び外部出力部7を備えている。本実施例では、電極チップ2は使い捨て型のものである。
【0032】
図2に示すように、電極チップ2は平板状の絶縁性の基板21を備え、基板21上に作用電極22、対極23及び参照電極24が互いに絶縁されて設けられている。基板21は平面視で略長方形の形態を有している。作用電極22、対極23及び参照電極24は、基板21の長手方向一端近傍から他端近傍にわたって設けられている。なお、電極チップ2における作用電極22、対極23及び参照電極24の配置及び形状は、図2のものに限定されず、例えば、基板21の長手方向一端側で対極23端部と参照電極24端部とが丸形の作用電極22端部を基板21の長手方向で挟んでいる構成など、適宜変更可能である。
【0033】
図2に示すように、電極チップ2において、作用電極22、対極23及び参照電極24の一端側には、陽イオン溶液11にアニオン基含有多糖類を含むサンプル12を混合した混合溶液10が接触される。また、図3(2)に示すように、混合溶液10を収容したチューブ容器13に電極チップ2の一端側が挿し込まれて、作用電極22、対極23及び参照電極24が混合溶液10に接触される。電極チップ2の作用電極22、対極23及び参照電極24の他端側は、コネクタ8及びケーブル9(図1での図示省略)を介してポテンショスタット3に電気的に接続される。電極チップ2は、コネクタ8に着脱可能に取り付けられる。
【0034】
電極チップ2の基板21の少なくとも一表面は、平坦な絶縁性材料で形成されている。基板21の材質は特に限定されず、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、単結晶シリコン(シリコンウェハ)、ガラス、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオキシメチレン(POM)、ABS樹脂(ABS)などを挙げることができる。ただし、基板21の材質は、これらに限定されず、セラミックスや石英などであってもよい。また、基板21の形状、厚み及び大きさは、特に限定されない。
【0035】
作用電極22、対極23及び参照電極24を形成する導電層の材料としては、例えば、金、銀、チタン、ニッケル、アルミニウム、ルテニウム、タンタル、チタン、銅、白金、ニオブ、ジルコニウム、もしくはこれらの元素の合金、又はこれらの元素と炭素との合金、もしくは炭素単体などを使用できる。また、この導電層は、単層膜であってもよいし、複数の膜を積層した多層膜であってもよい。
【0036】
図1に示すように、ポテンショスタット3は、電極チップ2の作用電極22の電位が参照電極24に対して一定になるように制御するとともに、作用電極22と対極23との間に流れる電流を測定可能に構成されている。ポテンショスタット3は、概略構成として、演算制御部31、電圧印加部32及び電流検出部33を備えている。
【0037】
演算制御部31は、電気化学測定で得られた測定値を用いて所定の演算処理を行なうとともに、操作部4を介して入力されたユーザからの指令に基づいて、電圧印加部32に必要な信号を送信したり、表示部5に測定結果等の情報を表示させたりする機能である。演算制御部31は、例えばマイクロコンピュータが所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0038】
電圧印加部32は、演算制御部31からの測定開始の信号を受信したときに、電極チップ2の作用電極22と対極23との間に所望の波形の電圧を印加して、作用電極22と参照電極24との間の電位が所望の電位になるように制御するように構成されている。
【0039】
電流検出部33は、電極チップ2の作用電極22と対極23との間を流れる電流の大きさを検出するように構成されている。電流検出部33が検出した電流の大きさに関する信号は演算制御部31に取り込まれる。
【0040】
演算制御部31は、電流検出部33から取り込んだ信号に基づき、例えば予め用意された検量線を用いて、混合溶液10中の特定成分濃度等の計算を行ない、測定結果を表示部5に表示するように構成されている。本実施例では、演算制御部31は混合溶液10中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する。
【0041】
電気化学測定装置1において、操作部4は、電源のオン・オフや測定の開始、表示部5に表示される情報の変更といった操作をユーザが行なうための入力装置である。表示部5は、例えば液晶ディスプレイによって実現されるものである。なお、表示部5をタッチパネルで構成し、表示部5に操作部4の機能を兼ね備えさせてもよい。電源部6は、例えば乾電池や蓄電池などによって実現することができる。電源部6により、ポテンショスタット3や表示部5へ必要な電力が供給される。
【0042】
また、ポテンショスタット3には、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)端子といった有線通信手段や無線通信手段によってパーソナルコンピュータ等の外部機器へ情報を出力することができるように、外部出力部7が接続されてもよい。その場合、演算制御部31は、外部出力部7を介して測定データ等を外部機器へ出力するように構成されている。
【0043】
なお、操作部4、表示部5、電源部6及び外部出力部7は、例えば、ノートパソコンやタブレットなどのモバイルコンピュータで実現されるようにしてもよい。さらに、ポテンショスタット3として小型のもの(例えば小型ポテンショスタット「miniSTAT100」(バイオデバイステクノロジー製))を用いるようにすれば、電気化学測定装置1を持ち運び可能に構成できる。これにより、電気化学測定装置1を使用したオンサイト(現場)での測定が可能になる。
【0044】
電気化学測定装置1を使用した電気化学測定は、図3に示すように、電極チップ2の作用電極22、対極23及び参照電極24の一端側をチューブ容器13に収容した混合溶液10に浸漬した状態で測定を行う。なお、混合溶液10を電極チップ2に対して作用電極22、対極23及び参照電極24に接触するようにして基板21上に滴下された状態で測定を行ってもよい。
【0045】
次に、図3も参照しながら第1実施例での測定操作について説明する。第1実施例では、印刷炭素電極を使用した電気化学測定により、水溶性ペクチンが鉛イオンを吸着することを確認した。
【0046】
1.5ml容量のチューブ容器13に、超純水890μlと、100ppm鉛標準液10μlとを注入して混合調製した鉛イオン水溶液900μlを陽イオン溶液11として調製した。陽イオン溶液11に、100μlの水溶性ペクチン含有水溶液をサンプル12として添加した(図3(1)参照)。これにより、1mlの混合溶液10を調製した。混合溶液10の鉛濃度は1ppmである。混合溶液10では、鉛イオンを吸着した水溶性ペクチンのゲル状物質14が沈殿した(図3(2)参照)。
【0047】
サンプル12として水溶性ペクチン濃度が既知の水溶液を使用した。具体的には、低メトキシルペクチン25%、グラニュー糖74%、乳酸カルシウム1%を含む食品添加用粉体(共立食品株式会社製)10.541gを超純水100mlに溶解して調製した、水溶性ペクチン濃度が2.38重量%の水溶液をサンプル12として使用した。
【0048】
ここで調製した混合溶液10は、鉛イオン濃度が既知の鉛イオン水溶液に水溶性ペクチン濃度が既知の水溶液を添加した標準混合溶液とも言える。また、水溶性ペクチンを含まない標準混合溶液として、超純水990μlと、100ppm鉛標準液10μlとを注入して混合調製した1ppm鉛イオン水溶液を用意した。
【0049】
電極チップ2の一端側の作用電極22、対極23及び参照電極24(電極)をチューブ容器13に挿し込んで混合溶液10に浸漬する(図3(2)参照)。第1実施例では、作用電極22、対極23及び参照電極24として基板21上にスクリーン印刷法で形成した炭素電極を使用した。
【0050】
ポテンショスタット3として小型ポテンショスタット「Interface1010T」(GARMY製)を使用した。2電極系の陽極溶出微分パルスボルタンメトリー(ASDPV)により電気化学測定を行った。ASDPVによる測定は、前濃縮電圧-1200mV、前濃縮時間200s(秒)の条件で行った。得られた電流-電位曲線を図4に示す。図4において、縦軸は電流、横軸は電位を示す。
【0051】
図4からわかるように、水溶性ペクチンを含有しない混合溶液(Pb 1ppm)の波形は明確な鉛の酸化ピークが見て取れる。これに対し、水溶性ペクチンを含有する混合溶液(Pb 1ppm+pectin)の波形は、水溶性ペクチンを含有しない混合溶液の波形で確認できる鉛の酸化ピークが減少し消失していることが確認できた。これは、鉛イオン水溶液に水溶性ペクチンを混合すると、水溶性ペクチンが鉛イオンを吸着し、鉛イオン濃度が低下することを表している。
【0052】
種々の濃度既知の水溶性ペクチンを含む標準混合溶液と水溶性ペクチンを含まない標準混合溶液とについて測定を行い、水溶性ペクチン濃度に対して例えば鉛の酸化ピーク電流値をプロットすることによって、水溶性ペクチン濃度と電流値との関係を示す検量線を得ることができる。そして、その検量線を使用して、濃度未知の水溶性ペクチンを含むサンプル中の水溶性ペクチン濃度を算出できる。なお、第1実施例では測定値(電流値)は混合溶液10中の鉛イオン濃度に依存するので、検量線は、鉛イオン濃度と電流値との関係を示すものであっても構わない。
【0053】
第1実施例によれば、水溶性ペクチン及びその誘導体を直接的に定量しなくても、水溶性ペクチンに吸着した鉛イオン量(陽イオン溶液11に対する鉛イオン減少量)から水溶性ペクチンを簡便に定量できる。
【0054】
[第2実施例]
第2実施例では、印刷炭素電極以外の電極でも水溶性ペクチンが鉛イオンを吸着したことを電気化学的に定量できるかを検証した。また、サンプル中の水溶性ペクチン濃度に対する鉛の酸化ピーク電流値の減少量の依存性を検証した。
【0055】
陽イオン溶液11として、チューブ容器13に超純水990μlと100ppm鉛標準液10μlとを注入して混合調製した1ppm鉛イオン水溶液1mlを調製した。測定対象の混合溶液10として、陽イオン溶液11に水溶性ペクチンを含有するサンプル12を10μl添加した溶液(Pb 1ppm+pectin 10μl)と、サンプル12を1μl添加した溶液(Pb 1ppm+pectin 1μl)と、サンプル12を添加していない溶液(Pb 1ppm)とを調製した。サンプル12は第1実施形態で使用した溶液と同じである。
【0056】
ポテンショスタット3は、第1実施例の測定で使用したものと同じものを使用した。2電極系の陽極溶出微分パルスボルタンメトリー(ASDPV)により電気化学測定を行った。測定条件は第1実施例と同じである。上記3つの混合溶液10それぞれについて、銀電極を形成した電極チップ2を浸漬して測定を行った。得られた電流-電位曲線を図5に示す。図5において、縦軸は電流、横軸は電位を示す。
【0057】
図5からわかるように、サンプル12を添加していない混合溶液(Pb 1ppm)の波形は明確な鉛の酸化ピークが現れた。サンプル12を1μl添加した混合溶液(Pb 1ppm+pectin 1μl)の波形は、ピーク高さ(電流値)がPb 1ppmの波形のものよりも小さい鉛の酸化ピークが現れた。サンプル12を10μl添加した混合溶液(Pb 1ppm+pectin 10μl)の波形は、鉛の酸化ピークが減少し消失していることが確認できた。
【0058】
第2実施例では、混合溶液10中の水溶性ペクチン濃度が低いほど鉛の酸化ピークの電流値が大きくなることから、サンプル中の水溶性ペクチン濃度に対する鉛の酸化ピーク電流値の依存性を確認できた。また、炭素電極だけでなく金属電極でも、水溶性ペクチンの定量が可能であることが分かった。なお、電気化学測定で使用する電極は、測定対象の陽イオン(ここでは鉛イオン)を測定できる電極であれば材質は特に限定されない。
【0059】
本発明は、前述の実施形態及び実施例に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば、前述した実施形態、実施例及び変形例(尚書き等)で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施例では、電気化学測定として2電極系の陽極溶出微分パルスボルタンメトリーを採用しているが、本発明の定量法における測定工程での電気化学測定は、例えばクロノアンペアメトリーなどの他の電気化学測定法であっても構わない。また、本発明の定量法における測定工程は、電気化学測定に限定されず、例えばプラズマ発光分光法、原子吸光法など、陽イオンを定量できる種々の測定法を採用できる。
【符号の説明】
【0061】
10 混合溶液,11 陽イオン溶液,12 サンプル,13 チューブ容器,14 ゲル状物質
【要約】
【課題】アニオン基含有多糖類を簡便に定量する方法を提供する。
【解決手段】アニオン基含有多糖類の定量法は、濃度既知の陽イオンを含む陽イオン溶液11に上記陽イオンと反応してゲル化又は増粘化するアニオン基含有多糖類を含むサンプル12を添加して混合溶液10を得る調製工程と、混合溶液10中の陽イオン濃度を測定する測定工程と、測定工程で得られた測定値に基づき、前記サンプル中のアニオン基含有多糖類の濃度を算出する算出工程と、を含む。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5