(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ベクトル角制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20241119BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H02P21/22
H02M7/12 M
(21)【出願番号】P 2023514375
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 CN2021137182
(87)【国際公開番号】W WO2023273184
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】202110734358.7
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110734368.0
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】李 武華
(72)【発明者】
【氏名】顔 曄
(72)【発明者】
【氏名】田 野
(72)【発明者】
【氏名】王 宇翔
(72)【発明者】
【氏名】李 成敏
(72)【発明者】
【氏名】李 楚杉
(72)【発明者】
【氏名】何 湘寧
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-528038(JP,A)
【文献】特表2022-542529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相コンバータの三相ブリッジインバータを、ベクトル角比例積分制御又はベクトル角比例共振制御
するために用いられるベクトル角制御方法であって、
被制御
対象の前記三相コンバータの各相の電流をサンプリングするステップであって、ベクトル角比例積分制御を行う場合、abc/dq座標変換により同期座標系の電流i
dとi
qを取得し、電流サンプリング値の複素ベクトル表現式をi
dq=i
d+ji
qと定義し、ここで、i
dとi
qはそれぞれ同期座標系におけるd軸とq軸の電流値であり、jは虚数単位であり、ベクトル角比例共振制御を行う場合、abc/αβ座標変換により静止座標系の電流i
α、i
βを取得し、電流サンプリング値の二次元列ベクトル表現式をI
αβ=[i
α i
β]
Tと定義し、ここで、i
αとi
βはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の電流値であり、上付き文字Tは転置である、ステップと、
電流基準値から電流サンプリング値を減算して、電流誤差値を得るステップと、
電流誤差値をベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の入力として、計算により対応するベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の出力を取得するステップであって、ベクトル角比例積分制御を行う場合、ベクトル角比例積分部分の出力m
dq_Rの計算式は、m
dq_R=i
dq_E・(K
p+K
i・e
jθi/s)であり、ここで、K
pは比例係数、K
iは積分係数、θ
iはベクトル角、sはラプラス演算子、jは虚数単位、i
dq_Eは電流誤差値であり、ベクトル角比例共振制御を行う場合、ベクトル角比例共振制御の出力M
αβ_Rの計算式は次のとおりであり、
【数1】
ここで、K
pαとK
pβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の比例係数であり、K
rαとK
rβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の共振係数であり、ω
0は基本角周波数であり、sはラプラス演算子であり、θ
rpは差分ベクトル角で、その値は-90°と0°の間の
所定の値であり、I
αβ_Eは電流誤差値である、ステップと、
電流サンプリング値をデカップリング部分の入力として、計算によりデカップリング出力を得るステップと、
ベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の出力とデカップリング出力を加算し
て遅延補償部分に入力し、遅延補償部分の出力を制御ループの合計出力とするステップ
であって、ベクトル角比例積分制御を行う場合、遅延補償部分の出力m
dq
の計算式はm
dq
=m
dq_RD
又はm
dq
=m
dq_RD
・e
jnTs・ω0
であり、ここで、m
dq_RD
=m
dq_R
+m
dq_D
であり、T
s
は制御周期、nは補償係数、ω
0
は基本角周波数、m
dq_D
はデカップリング出力であり、ベクトル角比例共振制御を行う場合、遅延補償部分の出力M
αβ
の計算式は次のとおりであり、
【数3】
ここで、M
αβ_RD
=M
αβ_R
+M
αβ_D
であり、nは補償係数、T
s
は制御周期、ω
0
は基本角周波数、M
αβ_D
はデカップリング出力である、ステップと
制御ループの合計出力に対応するdq/abc座標又はαβ/abc座標変換を行って三相変調波を取得し、それを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成して
前記三相コンバータ
の三相ブリッジインバータを駆動して電気エネルギー変換を実現するステップとを含む、ことを特徴とするベクトル角制御方法。
【請求項2】
ベクトル角比例積分制御を行う場合、電流誤差値をベクトル角比例積分部分の入力として、計算によりベクトル角比例積分部分の出力を取得する前に、位相等化部分の処理も含まれ、これは、位相等化角度を導入して電流誤差i
dq_Eを等化し、次に等化された電流誤差をベクトル角比例積分部分の入力として、計算によりベクトル角比例積分部分の出力m
dq_Rを取得し、ベクトル角比例積分部分の出力m
dq_Rの計算式はm
dq_R=i
dq_B・(K
p+K
i1・e
jθi/s)であり、ここで、i
dq_B=i
dq_E・e
jθbであり、θ
bは位相等化角度であり、i
dq_Bは位相等化結果である、ことを特徴とする請求項1に記載のベクトル角制御方法。
【請求項3】
ベクトル角比例積分制御を行う場合、デカップリング出力m
dq_Dの計算式はm
dq_D=i
dq・jω
0Lであり、ここで、Lは交流側インダクタンス値であり、ω
0は基本角周波数である、ことを特徴とする請求項1に記載のベクトル角制御方法。
【請求項4】
ベクトル角比例共振制御を行う場合、デカップリング出力M
αβ_Dの計算式は次のとおりであり、
【数2】
ここでL
αとL
βはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の等価インダクタンス値であり、ω
0は基本角周波数である、ことを特徴とする請求項1に記載のベクトル角制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス制御の技術分野に属し、特にベクトル角に基づく制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三相大容量コンバータは、エネルギー変換装置として、電化輸送や船舶電力システムなどの産業分野でますます広く使用されている。この種類のコンバータは通常、低キャリア比の条件下で動作し、制御及び変調遅延が大きく、制御ループの安定余裕が不十分であり、その動的性能に影響を及ぼす。
【0003】
三相コンバータは、通常、比例積分コントローラ(即ち、PIコントローラ)又は比例共振コントローラ(即ち、PRコントローラ)によって制御される。PIコントローラは、同期回転座標系において三相電流の有効電力制御を実現する。しかし、通常1000Hz未満の高電力デバイスのスイッチング周波数によって制限されるため、システム制御遅延はミリ秒レベルに達する可能性があり、モデリングと分析のために複素伝達関数の数学ツールを使用すると、その位相余裕と対応する動的性能は非常に不十分である。
【0004】
三相三線式高電力変換システムでは、突極同期電動機のdq軸インピーダンス非対称性、三相非対称負荷、非対称障害状態などによる三相非対称の状況が存在する。三相非対称コンバータは、PRコントローラを使用して、静止座標系において三相電流の有効電力制御を実現することができる。しかし、通常1000Hz未満の高電力デバイスのスイッチング周波数によって制限されるため、システム制御遅延はミリ秒レベルに達する可能性があり、モデリングと分析のために伝達関数行列及び特性軌跡分析などの数学ツールを使用すると、その位相余裕と対応する動的性能も非常に不十分である。
【発明の概要】
【0005】
大容量コンバータが配置された低キャリア比動作条件において、本発明は、従来のPIコントローラ又はPRコントローラに対して新たな制御自由度を導入して位相余裕を増加させ、システムの安定性及び動的性能をより効果的に向上させる。大容量コンバータの動的性能を向上させるために、本発明は、ベクトル角制御方法を提供する。
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明は、ベクトル角比例積分制御又はベクトル角比例共振制御に用いられるベクトル角制御方法を提供する。ベクトル角制御方法は以下のステップを含む。
【0007】
被制御コンバータの各相の電流をサンプリングし、ベクトル角比例積分制御を行う場合、abc/dq座標変換により同期座標系の電流idとiqを取得し、電流サンプリング値の複素ベクトル表現式をidq=id+jiqと定義し、ここで、idとiqはそれぞれ同期座標系におけるd軸とq軸の電流値であり、jは虚数単位であり、ベクトル角比例共振制御を行う場合、abc/αβ座標変換により静止座標系の電流iα、iβを取得し、電流サンプリング値の二次元列ベクトル表現式をIαβ=[iα iβ]Tと定義し、ここで、iαとiβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の電流値であり、上付き文字Tは転置である。
【0008】
電流基準値から電流サンプリング値を減算して、電流誤差値を得る。
【0009】
電流誤差値をベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の入力として、計算により対応するベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の出力を取得し、ベクトル角比例積分制御を行う場合、ベクトル角比例積分部分の出力m
dq_Rの計算式は、m
dq_R=i
dq_E・(K
p+K
i・e
jθi/s)であり、ここで、K
pは比例係数、K
iは積分係数、θ
iはベクトル角、sはラプラス演算子、jは虚数単位、i
dq_Eは電流誤差値であり、ベクトル角比例共振制御を行う場合、ベクトル角比例共振制御の出力M
αβ_Rの計算式は次のとおりであり、
【数1】
ここで、K
pαとK
pβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の比例係数であり、K
rαとK
rβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の共振係数であり、ω
0は基本角周波数であり、sはラプラス演算子であり、θ
rpは差分ベクトル角で、その値は-90°と0°の間の妥協点であり、I
αβ_Eは電流誤差値である。
【0010】
電流サンプリング値をデカップリング部分の入力として、計算によりデカップリング出力を得る。
【0011】
遅延補償部分の入力として、ベクトル角比例積分部分又はベクトル角比例共振部分の出力とデカップリング出力を加算し、そして遅延補償部分の出力を制御ループの合計出力とする。
【0012】
制御ループの合計出力に対応するdq/abc座標又はαβ/abc座標変換を行って三相変調波を取得し、それを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0013】
本発明の一実施形態では、ベクトル角比例積分制御を行う場合、電流誤差値をベクトル角比例積分部分の入力として、計算によりベクトル角比例積分部分の出力を取得する前に、位相等化部分の処理も含まれ、これは、位相等化角度を導入して電流誤差idq_Eを等化し、次に等化された電流誤差をベクトル角比例積分部分の入力として、計算によりベクトル角比例積分部分の出力mdq_Rを取得し、ベクトル角比例積分部分の出力mdq_Rの計算式はmdq_R=idq_B・(Kp+Ki1・ejθi/s)であり、ここで、idq_B=idq_E・ejθbであり、θbは位相等化角度であり、idq_Bは位相等化結果である。
【0014】
本発明の一実施形態では、ベクトル角比例積分制御を行う場合、デカップリング出力mdq_Dの計算式はmdq_D=idq・jω0Lであり、ここで、Lは交流側インダクタンス値であり、ω0は基本角周波数である。
【0015】
本発明の一実施形態では、ベクトル角比例積分制御を行う場合、遅延補償部分の出力mdqの計算式はmdq=mdq_RD又はmdq=mdq_RD・ejnTs・ω0であり、ここで、mdq_RD=mdq_R+mdq_Dであり、Tsは制御周期、nは補償係数、ω0は基本角周波数である。
【0016】
本発明の一実施形態では、ベクトル角比例共振制御を行う場合、デカップリング出力M
αβ_Dの計算式は次のとおりであり、
【数2】
ここでL
αとL
βはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の等価インダクタンス値であり、ω
0は基本角周波数である。
【0017】
本発明の一実施形態では、ベクトル角比例共振制御を行う場合、遅延補償部分の出力M
αβの計算式は次のとおりであり、
【数3】
ここで、M
αβ_RD=M
αβ_R+M
αβ_Dであり、nは補償係数、T
sは制御周期、ω
0は基本角周波数である。
【0018】
要約すると、本発明は、dq同期座標系における三相コンバータの制御を目的としており、既存の位相等化方式は、正側と負側の位相余裕を等化することしかできず、全体の位相余裕を増加させることはできない。本発明は、ベクトル角PI制御を提案し、これは、従来のPI制御を踏まえて、新しい制御自由度のベクトル角θiを導入することにより、正の位相余裕と負の位相余裕の同時改善を実現することができ、それによって低キャリア比動作条件での安定余裕と動的性能を向上させ、有益な技術的効果を達成する。一方、キャリア比が低い場合、従来のPR制御では、三相非対称コンバータシステムの正側と負側の位相余裕は低く、不安定でさえある。本発明は、行列ベクトル角PR制御を提案し、これは、従来のPR制御を踏まえて、新しい制御自由度の差分ベクトル角θrpを導入することにより、特性軌跡の正の位相余裕と負の位相余裕の同時改善を実現することができ、それによって低キャリア比動作条件での安定余裕と動的性能を向上させ、有益な技術的効果を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明の第1の実施形態による全体制御ブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態による、微分位相補正共振制御を備えた制御ループのブロック図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態による、制御ループの実数体における複素ベクトルの実装のブロック図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態によるベクトル角PIコントローラの両側周波数領域ボード線図である。
【
図6】同期座標系における従来の方式と第1の実施形態の方式1の過渡電流波形図である。
【
図7】同期座標系における第1の実施形態の方式1と方式2の過渡電流波形図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態による全体制御ブロック図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態による、行列ベクトル角比例共振制御を備えた制御ループのブロック図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態による行列ベクトル角PRコントローラの特性軌跡の両側周波数領域ボード線図である。
【
図11】従来の方式と第2の実施形態の方式の過渡電流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、電力変換回路の概略図であり、以下に説明する第1の実施形態及び第2の実施形態に適用可能である。
図2~
図7は、本発明の第1の実施形態によるベクトル角比例積分制御方法に関連する概略図である。
図8~
図10は、本発明の第2の実施形態によるベクトル角比例共振制御方法に関連する概略図である。
【0021】
本発明の第1の実施形態は、一般的な三相ブリッジインバータトポロジーの電流ループ制御を例にとる。三相電流をサンプリングして交流側電流ia、ib、icを取得し、そしてabc/dq座標変換により静止座標系の電流id、iqを取得し、制御ループの入力とする。次に、制御ループによって静止座標系の変調波md、mqを出力し、dq/abc座標変換により三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0022】
本発明の第1の実施形態が提供するベクトル角比例積分制御方法は、位相等化部分、ベクトル角PI部分、及び遅延補償部分を含む。ここでは、複素ベクトルと複素伝達関数の表現式を使用する。静止座標系の電流サンプリング値idqを例として、複素ベクトルはidq=id+jiqであり、ここでjは虚数単位であり、idとiqはそれぞれd軸とq軸の電流値を表し、下付き文字にdqが含まれる残りの複素数ベクトルの定義は同じである。
【0023】
制御ループは、被制御対象から対応するidqをサンプリングし、変調波mdqを出力して被制御対象を制御する。本発明の第1の実施形態では、制御ループに対応するベクトル角に基づく比例積分制御方法のステップは次のとおりである。
【0024】
1)被制御コンバータの各相の電流をサンプリングし、abc/dq座標変換により同期座標系の電流idとiqを取得し、電流サンプリング値をidq=id+jiqと定義し、ここで、idとiqはそれぞれ同期座標系におけるd軸とq軸の電流値であり、idqは複素ベクトル、jは虚数単位である。
【0025】
2)電流基準値idq_Rから電流サンプリング値idqを減算して、電流誤差値idq_Eを得る。
【0026】
3)電流誤差idq_Eをidq_Bとして直接使用するか、又は位相等化部分の入力として使用し、計算によりidq_Bを取得し、位相等化部分の計算式は次のとおりであり、
idq_B=idq_E又はidq_B=idq_E・ejθb
ここで、θbは位相等化角度であり、その値はゼロにすることも、通常は正側と負側の位相余裕の差の半分に設定して、両側の位相余裕を等化することもできる。
【0027】
4)等化後の電流誤差idq_Bをベクトル角PI部分の入力として、計算によりmdq_Rを取得し、ベクトル角PI部分の計算式は次のとおりであり、
mdq_R=idq_B・(Kp+Ki・ejθi/s)
ここで、Kpは比例係数、Kiは積分係数、θiは本実施形態で提案されたベクトル角、sはラプラス演算子である。
【0028】
5)電流サンプリング値idqをデカップリング部分の入力として、計算によりデカップリング出力mdq_Dを取得し、デカップリング部分の計算式は次のとおりであり、
mdq_D=idq・jω0L
ここで、Lは交流側インダクタンス値、ω0は基本角周波数である。
【0029】
6)遅延補償部分の入力として、ベクトル角PIの出力mdq_Rとデカップリング出力mdq_Dを加算してmdq_RDを取得し、計算により制御ループの合計出力mdqを取得し、遅延補償部分の計算式は次のとおりであり、
mdq=mdq_RD又はmdq=mdq_RD・ejnTs・ω0
ここで、Tsは制御周期であり、nは補償係数で、標準値1.5、0、又は他の任意の値であってもよい。
【0030】
7)制御ループの合計出力mdqにdq/abc座標変換を行って三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0031】
次に、実数体での上記の複素数ベクトルの実装について簡単に説明する。制御ループの表現式には、d軸とq軸の間のクロスカップリングを表す虚数単位jが含まれる。フィードバックデカップリング部分にはjが分子にある項ω
0Lが含まれ、即ち、m
dq_D=i
dq・jω
0Lであり、実数体でのその実装方式は
図4の(a)に示され、即ち、次のとおりであり、
m
d_D=-i
q・ω
0L、m
q_D=i
d・ω
0L
ここで、m
d_Dとm
q_Dは、それぞれd軸とq軸のデカップリング出力を表す。また、ベクトル角PI部分、位相等化部分(i
dq_B=i
dq_E・e
jθb)、遅延補償部分(m
dq=m
dq_RD・e
jnTs・ω0)には指数関数が含まれる。上記の指数関数の一般的な形式y
dq=u
dq・e
jθを例にとると、実数体でのその実装方式は
図4の(b)に示され、即ち、次のとおりであり、
y
d=u
d・cosθ-u
q・sinθ、y
q=u
d・sinθ+u
q・cosθ
ここで、y
dqとu
dqも前述の複素ベクトルの定義、即ち、y
d+jy
q=y
dq、u
d+ju
q=u
dqを使用し、θは指数関数で位相を進めるために使用される角度を表す。
【0032】
以下に、本発明の第1の実施形態の適用例を示す。
【0033】
図1に示される三相電力変換回路の場合、一般的な制御方式は、三相電流をサンプリングして交流側電流i
a、i
b、i
cを取得し、そしてabc/dq座標変換により静止座標系の電流i
d、i
qを取得し、制御ループの入力とする。ここで、制御ループの具体的な実装プロセスは上記と同じであり、位相等化、PI、フィードバックデカップリング、及び遅延補償を含む。PI部分の場合、本実施形態で提案された追加のベクトル角制御自由度を有するベクトル角PIと比較し、従来の方式は次の式に対応する。
m
dq_R=i
dq_B・(K
p+K
i/s)
【0034】
上記の制御ループの出力は、同期座標系の変調波md、mqであり、dq/abc座標変換により三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0035】
大容量コンバータに対応する低キャリア比動作条件で、dq同期座標系での三相コンバータの制御の場合、既存の位相等化方式は、正側と負側の位相余裕を等化することしかできず、全体の位相余裕を増加させることはできない。本実施形態は、従来の位相等化方式の欠点を考慮して、ベクトル角PIを提案し、これは、従来のPI制御を踏まえて、新しい制御自由度のベクトル角θiを導入することにより、正の位相余裕と負の位相余裕の同時改善を実現することができ、それによって低キャリア比動作条件での安定余裕と動的性能を向上させ、具体的な分析は以下のとおりである。
【0036】
複素伝達関数を使用して、改良前後のPIコントローラを分析し、
図5に示される両側周波数領域のボード線図を得た。この図において、θ
iは本実施形態で提案されたベクトル角であり、その値は0°~90°の範囲であり、値が大きいほど極の右側の位相進み能力が強くなり、値が大きすぎると極の左側の帯域幅が減少することを考慮して、ここではθ
iを妥協点の60°とした。本実施形態で提案されたベクトル角を適用した後、正の周波数帯域の位相遅れが大幅に減少し、対応する正端子の位相余裕が大幅に増加したことがわかる。負の周波数帯域の場合、クロスオーバー周波数を-10Hzより左側に設定すると、対応する負端子の位相余裕の減少は正端子の位相余裕の増加よりも小さくなり、更に-26Hzより左側に設定すると、対応する負端子の位相余裕もわずかに増加する。したがって、ベクトル角PIコントローラは、両側の位相余裕の合計を増加させる機能を実現することができる。
【0037】
次に、従来の方式と本実施形態の方式の時間領域比較分析を行った。パラメータ設定では、周波数キャリア比を5、帯域幅fcを60Hz、比例係数Kpを2πfcL、積分係数KiをπfcKp/2とした。従来の方式では、ベクトル角θiと位相等化角度θbは両方とも0°であり、本実施形態の方式1及び方式2では、ベクトル角θiは両方とも60°であり、位相等化角度θbは方式1では依然として0であり、方式2では両側位相余裕を等化するために41.7°が選択され、即ち、方式1はidq_B=idq_Eに対応し、方式2はidq_B=idq_E・ejθbに対応する。
【0038】
従来の方式と本実施形態の方式1を比較すると、
図6に示されるように、有効電流指令が0.03秒で0puから1puにジャンプするとき、従来のPIコントローラの電流応答は発散し、不安定になるが、ベクトル角PIコントローラの電流応答はほぼ臨界安定性を達成することができる。
【0039】
本実施形態の方式1と本実施形態の方式2を更に比較すると、
図7に示されるように、ベクトル角PIコントローラは、周波数キャリア比が5で、設計帯域幅が60Hzであるという条件で、電流ループを不安定な状態から、位相余裕が45°に近く、過渡調整時間が約0.03sに大幅に短縮された状態に補正する。
【0040】
したがって、ベクトル角に基づく比例積分制御により、大容量コンバータの低キャリア比動作条件下でコンバータの安定余裕と動的性能を向上させることができ、有益な技術的効果を達成した。
【0041】
本発明の第2の実施形態は、一般的な三相ブリッジインバータトポロジーの電流ループ制御を例にとる。三相電流をサンプリングして交流側電流ia、ib、icを取得し、そしてαβ/abc座標変換により静止座標系の電流iα、iβを取得し、制御ループの入力とする。次に、制御ループによって静止座標系の変調波mα、mβを出力し、αβ/abc座標変換により三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0042】
本発明の第2の実施形態が提供するベクトル角比例共振制御方法は、行列ベクトル角PR部分、フィードバックデカップリング部分、及び遅延補償部分を含む。ここでは、行列及び伝達関数行列の表現式を使用し、この表現式の演算は行列の演算規則に従う。制御ループは、被制御対象から対応するIαβをサンプリングし、変調波Mαβを出力して被制御対象を制御する。
【0043】
本発明の第2の実施形態では、制御ループに対応する行列ベクトル角に基づく比例共振制御方法のステップは次のとおりである。
【0044】
1)被制御コンバータの各相の電流をサンプリングし、abc/αβ座標変換により静止座標系の電流iαとiβを取得し、電流サンプリング値をIαβ=[iα iβ]Tと定義し、ここで、iαとiβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の電流値であり、Iαβは二次元列ベクトル、上付き文字Tは転置である。
【0045】
2)電流基準値Iαβ_Rから電流サンプリング値Iαβを減算して、電流誤差値Iαβ_Eを得る。
【0046】
3)電流誤差I
αβ_Eを行列ベクトル角PR部分の入力として、計算によりM
αβ_Rを取得し、行列ベクトル角PR部分の計算式は次のとおりであり、
【数4】
ここで、K
pαとK
pβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の比例係数であり、K
rαとK
rβはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の共振係数であり、θ
rpは、本発明の第2の実施形態で提案された差分ベクトル角であり、ω
0は基本角周波数であり、sはラプラス演算子である。
【0047】
4)電流サンプリング値I
αβをデカップリング部分の入力として、計算によりデカップリング出力M
αβ_Dを取得し、デカップリング部分の計算式は次のとおりであり、
【数5】
ここでL
αとL
βはそれぞれ静止座標系におけるα軸とβ軸の等価インダクタンス値である。
【0048】
5)遅延補償部分の入力として、行列ベクトル角PRの出力M
αβ_Rとデカップリング出力M
αβ_Dを加算してM
αβ_RDを取得し、計算により制御ループの合計出力M
αβを取得し、遅延補償部分の計算式は次のとおりであり、
【数6】
ここで、T
sは制御周期であり、nは補償係数で、標準値1.5、0、又は他の任意の値であってもよい。
【0049】
6)制御ループの合計出力Mαβにαβ/abc座標変換を行って三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0050】
以下に、本発明の第2の実施形態の適用例を示す。
【0051】
図1に示される三相電力変換回路の場合、一般的な制御方式は、三相電流をサンプリングして交流側電流i
a、i
b、i
cを取得し、そしてabc/αβ座標変換により静止座標系の電流i
α、i
βを取得し、制御ループの入力とする。ここで、制御ループの具体的な実装プロセスは上記と同じであり、PR、フィードバックデカップリング、及び遅延補償を含む。PR部分の場合、本発明の第2の実施形態で提案された追加の差分ベクトル角制御自由度を有する行列ベクトル角PRと比較し、従来の方式は次の式に対応する。
【数7】
【0052】
上記の制御ループの出力は、静止座標系の変調波mα、mβであり、αβ/abc座標変換により三相変調波ma、mb、mcを取得し、それらを変調及び駆動モジュールにおいてキャリア波と比較し、駆動信号を生成してコンバータトポロジーを駆動して電気エネルギー変換を実現する。
【0053】
大容量コンバータに対応する低キャリア比動作条件で、αβ静止座標系での三相コンバータの制御の場合、従来のPR制御では、システムの正側と負側の位相余裕は低く、不安定でさえある。本発明の第2の実施形態は、従来のPR制御方式の欠点を考慮して、行列ベクトル角PRを提案し、即ち、従来のPRを踏まえて、新しい制御自由度の差分ベクトル角θrpを導入することにより、特性軌跡の正の位相余裕と負の位相余裕の同時改善を実現することができ、それによって低キャリア比動作条件での安定余裕と動的性能を向上させ、具体的な分析は以下のとおりである。
【0054】
伝達関数行列及び特性軌跡分析などの数学ツールを使用して、改良前後のPRコントローラを分析し、
図10に示される両側周波数領域のボード線図を得た。この図において、点線は従来の方式を表し、実線は、本発明の第2の実施形態で提案された方式を表し、θ
rpは、本発明の第2の実施形態で提案された差分ベクトル角であり、その値は-90°~0°の範囲であり、値が-90°に近いほど、特性軌跡の振幅-周波数特性が歪みやすく、システムが不安定になりやすく、0°に近いほど、特性軌跡の位相余裕の改善効果が顕著でなくなるため、ここでは、θ
rpを妥協点の-60°とした。本発明の第2の実施形態で提案された行列ベクトル角PRを適用した後、負の周波数帯域の位相余裕は-4.2°から30.7°に増加し、正の周波数帯域の位相余裕は19.9°から27.5°に増加したことが分かる。したがって、行列ベクトル角PRコントローラは、正側と負側の位相余裕を増加させる機能を実現することができる。
【0055】
次に、従来の方式と本発明の第2の実施形態の方式の時間領域比較分析を行った。パラメータ設定では、周波数キャリア比を7、帯域幅fcを50Hz、比例係数Kpαを2πfcLα、Kpβを2πfcLβ、共振係数KrαをKpαωc/4、KrβをKpβωc/4とした。従来の方式では、差分ベクトル角θrpは0°であり、本発明の第2の実施形態の方式では、差分ベクトル角θrpは-60°である。
【0056】
従来の方式と本発明の第2の実施形態の方式を比較すると、
図11に示されるように、有効電流指令が0.1秒で0puから1puにジャンプするとき、従来の方式では、電流応答は何度も振動した後に徐々に発散するが、本発明の第2の実施形態の方式では電流応答は急速に収束する。
【0057】
したがって、行列ベクトル角に基づく比例共振制御により、大容量コンバータの低キャリア比動作条件下でコンバータの安定余裕と動的性能を向上させることができ、有益な技術的効果を達成した。
【0058】
本発明は、上記の特定の実施形態に限定されるものではなく、当業者は、本発明に開示された内容に従って、フィードバックデカップリング部分をフィードフォワードデカップリングに置き換えたり、2レベルコンバータトポロジーを3レベルトポロジーに置き換えたりするなど、様々な他の実施形態を採用することができる。したがって、特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲内のすべての変更をカバーすることを意図している。