IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オルファ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】円形刃用ホルダ
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/08 20060101AFI20241119BHJP
   B26D 1/02 20060101ALI20241119BHJP
   B26D 1/14 20060101ALI20241119BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B26D7/08 Z
B26D1/02 A
B26D1/14 A
B26D3/00 601B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024139707
(22)【出願日】2024-08-21
【審査請求日】2024-08-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390024132
【氏名又は名称】オルファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真一
(72)【発明者】
【氏名】川上 崇
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-69074(JP,A)
【文献】特表2008-524087(JP,A)
【文献】実開昭54-105092(JP,U)
【文献】特開昭59-161297(JP,A)
【文献】実開昭59-142266(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 7/08
B26D 1/02
B26D 1/14
B26D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に移動するフィルムを、回転しながら切断するための円形刃を保持するホルダであって、
保持部と、導電体部と、磁石部とを備えており、
前記保持部は、前記円形刃を回転可能なように保持する構成とされており、これにより、前記円形刃は、前記一方向に移動するフィルムとの接触に伴って従動的に回転可能となっており、
前記導電体部と前記磁石部とは対向して配置されており、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方は、前記円形刃の回転に伴って、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方に対して回転する構成となっており、この回転による、前記一方に対する磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生するようになっている
ことを特徴とする円形刃用ホルダ。
【請求項2】
さらに回転抵抗部を備えており、
前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転により生じる回転力に対する抵抗を生じるように保持する構成となっており、
かつ、前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したことにより前記回転力が上昇したときには、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転を可能にする構成となっている
請求項1に記載の円形刃用ホルダ。
【請求項3】
さらに回転抵抗部を備えており、
前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転により生じる回転力に対する抵抗を生じるように保持する構成となっており、
かつ、前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したことにより前記回転力が上昇したときには、前記抵抗を減少させて、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転数を上昇可能とする構成となっている
請求項1に記載の円形刃用ホルダ。
【請求項4】
前記導電体部は銅板であり、前記磁石部は永久磁石である
請求項1~3のいずれか1項に記載の円形刃用ホルダ。
【請求項5】
請求項1に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制する
フィルム切断方法。
【請求項6】
請求項2に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制するとともに、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したときには、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を回転可能とする
フィルム切断方法。
【請求項7】
請求項3に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制するとともに、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したときには、前記回転抵抗部による前記抵抗を減少させて、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転数を上昇可能とする
フィルム切断方法。
【請求項8】
前記フィルムは未延伸フィルムである
請求項5又は6に記載のフィルム切断方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の円形刃用ホルダを備えたスリッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形刃用ホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1~4に記載のように、本件出願人は、固定された状態の円形刃を用いてフィルムを切断する技術を提案している。これらの技術によれば、円形刃を定期的に所定角度ずつ回動させて、切断時における円形刃とフィルムとの接触位置を変更することにより、円形刃の寿命を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7244149号公報
【文献】特許第7244150号公報
【文献】特許第7361432号公報
【文献】特許第7361433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、円形刃を所定角度ずつ回動させるためには、回動を可能とし、かつ回動後の所定位置に円形刃を保持する機構が必要となる。さらには、円形刃を回動させる作業が必要になる。
【0005】
これに対して、円形刃を回転自由とし、フィルムの切断の際に、フィルムの移動に伴って円形刃が従動的に回転する構成も可能である。
【0006】
しかしながら、このように円形刃がフィルムの移動により回転する構成とした場合には、例えば未延伸フィルムのように柔軟なフィルムを切断すると、切断時の抵抗によりフィルムが刃の下方向に逃げて切断できない場合があった。また、切断できた場合であっても、切断端面が荒れる(例えば毛羽立つ)ことがあった。すなわち、このような点において、切断品質が劣化しやすいという問題があった。
【0007】
そこで本発明者が種々研究したところ、円形刃が回転自由であっても、切断時における円形刃の速度とフィルムの速度との差が大きければ、フィルムの切断品質の劣化を抑制できるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。本発明の主な目的は、円形刃に適切な制動力を付与することにより、円形刃の回転を許容しつつ、フィルムの切断品質を向上させることができる円形刃用ホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0010】
(項目1)
一方向に移動するフィルムを、回転しながら切断するための円形刃を保持するホルダであって、
保持部と、導電体部と、磁石部とを備えており、
前記保持部は、前記円形刃を回転可能なように保持する構成とされており、これにより、前記円形刃は、前記一方向に移動するフィルムとの接触に伴って従動的に回転可能となっており、
前記導電体部と前記磁石部とは対向して配置されており、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方は、前記円形刃の回転に伴って、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方に対して回転する構成となっており、この回転による、前記一方に対する磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生するようになっている
ことを特徴とする円形刃用ホルダ。
【0011】
(項目2)
さらに回転抵抗部を備えており、
前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転により生じる回転力に対する抵抗を生じるように保持する構成となっており、
かつ、前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したことにより前記回転力が上昇したときには、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転を可能にする構成となっている
項目1に記載の円形刃用ホルダ。
【0012】
(項目3)
さらに回転抵抗部を備えており、
前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転により生じる回転力に対する抵抗を生じるように保持する構成となっており、
かつ、前記回転抵抗部は、前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したことにより前記回転力が上昇したときには、前記抵抗を減少させて、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転数を上昇可能とする構成となっている
項目1に記載の円形刃用ホルダ。
【0013】
(項目4)
前記導電体部は銅板であり、前記磁石部は永久磁石である
項目1又は2に記載の円形刃用ホルダ。
【0014】
(項目5)
項目1に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制する
フィルム切断方法。
【0015】
(項目6)
項目2に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制するとともに、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したときには、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方を回転可能とする
フィルム切断方法。
【0016】
(項目7)
項目3に記載の円形刃用ホルダを用いたフィルムの切断方法であって、
前記フィルムを前記円形刃に接触させつつ、前記一方向に移動させることによって前記フィルムを切断し、
前記フィルムの移動により、前記円形刃を、前記フィルムとの接触に伴って従動的に回転させ、
この回転による前記磁気制動によって、前記円形刃の回転に対する制動力を発生させて、前記円形刃の回転数の上昇を抑制するとともに、
前記導電体部と前記磁石部のうちの一方の回転数が上昇したときには、前記回転抵抗部による前記抵抗を減少させて、前記導電体部と前記磁石部のうちの他方の回転数を上昇可能とする
フィルム切断方法。
【0017】
(項目8)
前記フィルムは未延伸フィルムである
項目5又は6に記載のフィルム切断方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の技術によれば、円形刃に適切な制動力を付与することにより、円形刃の回転を許容しつつ、フィルムの切断品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る円形刃用ホルダの分解斜視図である。
図2図1の円形刃用ホルダを左側面から見た状態での説明図である。
図3図1の円形刃用ホルダを右側面方向から見た斜視図である。
図4図1の円形刃用ホルダを左側面方向から見た斜視図である。
図5図1の円形刃用ホルダに用いる第1磁石保持体の斜視図である。
図6図5の一部を破断した状態での斜視図である。
図7図5の第1磁石保持体を反対方向から見た斜視図である。
図8図1の円形刃用ホルダに用いる第2磁石保持体の斜視図である。
図9図8の一部を破断した状態での斜視図である。
図10図1の円形刃ホルダの一部を示す分解斜視図である。
図11】第2磁石保持体を保持部に取り付けた状態を説明するための説明図である。
図12図11を反対方向から見た説明図である。
図13】第1磁石保持体と第2磁石保持体との位置関係を説明するための説明図である。
図14図1の円形刃ホルダの一部を示す、一部を破断した斜視図である。
図15図1の円形刃ホルダに用いる第3導電体を説明するための説明図である。
図16】第3導電体を説明するための説明図である。
図17図1の円形刃ホルダに用いる回転抵抗部を説明するための説明図である。
図18】回転抵抗部を説明するための説明図である。
図19】回転抵抗部を説明するための説明図である。
図20】一部を破断した状態での、回転抵抗部の説明図である。
図21図1の円形ホルダの一部を示す分解斜視図である。
図22図21に示す円形ホルダの斜視図である。
図23図1の円形ホルダの一部を破断した状態での斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る円形刃用ホルダ(以下単に「ホルダ」と称することがある)1を、添付の図面を参照しながら説明する。このホルダ1は、一方向に移動するフィルム10(図2参照)を、回転しながら切断するための円形刃2を保持するものである。本実施形態で用いるフィルム10は帯状であり、所定のロールから引き出されて所定幅に切断されるべきものである。また、フィルム10としては、本実施形態においては、樹脂フィルム、特に未延伸フィルムを用いるものとするが、これには制約されない。
【0021】
(円形刃)
本実施形態のホルダ1により保持される円形刃2は、外周に刃先を有する円形刃本体21と、円形刃本体21の表裏両面に取り付けられた樹脂板22とを有している。円形刃2の構成は、前記した特許文献1に記載の円形刃と基本的に同様とすることができるので、これ以上詳しい説明は省略する。ただし、本実施形態の円形刃2は、後述するシャフト36を中心として、フィルム10の切断に伴って従動的に回転できるようになっている。
【0022】
(ホルダの構成)
本実施形態のホルダ1は、保持部3と、導電体部4と、磁石部5とを基本的な構成として有している。さらにこのホルダ1は、回転抵抗部6とブレードカバー7とを追加的な構成として有している。
【0023】
(保持部)
保持部3は、円形刃2を回転可能なように保持する構成とされている。これにより円形刃2は、一方向に移動するフィルム10との接触に伴って従動的に回転可能となっている。
【0024】
より具体的には、本実施形態の保持部3は、ホルダ1をスリッタ装置(図示せず)に取り付けるための取付板31と、取付板31に取り付けられる本体32と、円形刃2を挟み込む2枚のブレード支持体33・34と、ブレード止めねじ35と、シャフト36とを有している。シャフト36は、本体32、ブレード支持体33・34、円形刃2等を貫通するように配置されており、その一端にはブレード止めねじ35がねじ込まれて、シャフト36に円形刃2等を保持できるようになっている(図23参照)。シャフト6の他端は、ピン361により、第2磁石保持体52のボス521(後述)に固定されている。
【0025】
本体32は、取付板31に形成された長孔312(図2参照)を通って本体32にねじ込まれたねじ311により、取付板31に取り付けられるようになっている。これにより、本実施形態では、長孔312を用いて、取付板31に対する本体32の角度を調整できるようになっている。
【0026】
(導電体部及び磁石部)
導電体部4は、第1導電体41と、第2導電体42と、第3導電体43とを有している。
【0027】
本実施形態の第1導電体41と第2導電体42と第3導電体43とは、いずれも円板状の銅板から構成されている。第1導電体41は、ねじ412により保持部3の本体32に固定されている。第1導電体41の中央には軸受411が取り付けられており、この軸受411にシャフト36が回転自在に取り付けられている。同様に、第2導電体42は、ねじにより保持部3の本体32に固定されている。第2導電体42の中央には軸受421が取り付けられており、この軸受421にシャフト36が回転自在に取り付けられている。ここで軸受411及び421としては、例えば転がり軸受けが用いられている。
【0028】
第3導電体43の中央には、回転抵抗部6の回転抵抗リング61(後述)が取り付けられている。回転抵抗リング61は回転抵抗軸62(後述)に取り付けられており、これにより、第3導電体43は、回転抵抗軸62に取り付けられたものとなっている。第3導電体43の一面側(図1において左側)には、鉄心を構成する鉄円盤431が、ねじ432により固定されている。
【0029】
磁石部5は、第1磁石保持体51と、第2磁石保持体52とを有している。第1磁石保持体51には、永久磁石51a~51h(図5参照)が、円周に沿って取り付けられている。永久磁石51a~51hは、円周に沿ってS極とN極が交互に表れるように配置されている。例えば図5のように正面側から見たときに、例えば時計回りでN-S-N-S…という順で磁極が表面に表れるようになっている。
【0030】
同様に、第2磁石保持体52には、永久磁石52a~52h(図8参照)が、円周に沿って取り付けられている。永久磁石52a~52hは、円周に沿ってN極とS極が交互に表れるように配置されている。例えば、図8に示した状態において時計回りでS-N-S-N…という順で磁極が表面に表れるようになっている。
【0031】
第1磁石保持体51と第2磁石保持体52とは、いずれも、シャフト36に固定されていて、シャフト36と同軸で一体に回転できるようになっている。
【0032】
また、第1磁石保持体51の永久磁石51a~51hと、第2磁石保持体52の永久磁石52a~52hとは、互いに対向するようにシャフト36に取り付けられた状態において、対向する一方の極性と他方の極性とが異なる(例えばN極に対してS極が対向する)ように配置されており、これにより磁界を強めることができるようになっている。
【0033】
第1磁石保持体51にはボス511が設けられている(図6及び図7参照)。ボス511の内部にはシャフト36が取り付けられている。また、ボス511の外側にはブレード支持体33、円形刃2、ブレード支持体34が、相対回転しないように嵌合されている。これにより、円形刃2にフィルム10から回転力が加わると、円形刃2、ブレード支持体34、第1磁石保持体51を介して、シャフト36が回転できるようになっている。
【0034】
第2磁石保持体52には、シャフト36を内部に取り付けて回転するためのボス521が設けられている(図9及び図13参照)。
【0035】
導電体部4の第1導電体41と、磁石部5の磁石51a~51hとは、対向して配置されている。また、導電体部4の第2導電体42と第3導電体43は、磁石部5の磁石52a~52hに対向して、かつ、磁石52a~52hを挟んで配置されている。
【0036】
本実施形態では、磁石部5の第1・第2磁石保持体51・52が、円形刃2の回転に伴って、導電体部4の第1~第3導電体41~43に対して回転する構成となっている。後述するように、本実施形態では、この回転により生ずる磁気制動によって、円形刃2の回転に対する制動力を発生するようになっている。
【0037】
(回転抵抗部)
回転抵抗部6は、回転抵抗リング61と、回転抵抗軸62と、ケース63とを有している。回転抵抗リング61は、前記したように、第3導電体43の中央に嵌め込まれて取り付けられている(図15及び図16参照)。また、回転抵抗リング61の外側には、鉄円盤431が嵌め込まれている。回転抵抗軸62は、ケース63の内部に取り付けられている(図17及び図18参照)。
【0038】
回転抵抗軸62には、ボス621が形成されている。ボス621の外面には、回転抵抗リング61が密に嵌合され、両者間の摩擦により、周方向への相対移動が阻止されている(図19及び図20参照)。また、第2磁石保持体52の回転数の増加に伴って、第3導電体43に加わる回転力が大きくなると、ボス621と回転抵抗リング61との間の摩擦力に抗して、回転抵抗リング61(したがって第3導電体43)が、ボス621に対して滑りながら自転できる(つまり回転が可能とされる)ようになっている。一旦、回転抵抗リング61が滑り始めると、摩擦係数が動摩擦係数となるので、摩擦力は低下する。すなわち、本実施形態のボス621と回転抵抗リング61とは、相互に回転可能ではあるが、回転始動時の起動トルクは、軸受411及び421の回転始動時の起動トルクに比較すると、十分大きなものとなっている。
【0039】
これにより、本実施形態の回転抵抗部6は、導電体部4の第3導電体43を、磁石部5の回転により生じる回転力に対する抵抗を生じるように保持する構成となっている。かつ、本実施形態の回転抵抗部6は、磁石部5(具体的には磁石52a~52h)の回転数が上昇したことによりこの回転力が上昇したときには、回転力に対する抵抗を減少させて、導電体部4の第3導電体43を回転させる(つまり回転数を上昇可能とする)構成となっている。ここで「回転力に対する抵抗を減少させる」とは、本実施形態においては、回転抵抗リング61が滑り始めたことにより摩擦力が低下することを意味する。
【0040】
ケース63は、本体32に取り付けられている(図21及び図23参照)。
【0041】
(ブレードカバー)
ブレードカバー7は、第1カバー体71と第2カバー体72とを有している。これらの第1・第2カバー体71・72は、保持部3の本体32の外側に取り付けられている(図3及び図4参照)。第1・第2カバー体71・72は、それぞれ、ねじ73・74により、本体32に対してスライド可能なものとなっている(図23参照)。すなわち、第1・第2カバー体71・72は、ねじ73・74に対してスライドすることにより、閉状態(図21及び図22参照)と開状態(図2~4参照)とを切り替えることができるようになっている。
【0042】
(ホルダの動作)
以下、図面を参照して、本実施形態のホルダ1の動作を詳しく説明する。
【0043】
(初期状態)
まず、ブレードカバー7が閉じた状態(図22参照)であると仮定する。この状態のホルダ1の取付板31を、所定のスリッタ装置(図示せず)に取り付ける。本実施形態では、ブレードカバー7で円形刃2を覆うことができるので、取り付けや取り外し等の作業中に作業者が円形刃2に触れることがなく、作業の安全性を向上させることができる。
【0044】
ついで、ブレードカバー7を開き、円形刃2を露出させる(図2参照)。この状態で、フィルム10を円形刃2に接触させつつ、図2において矢印A方向にフィルム10を引き出して移動させる。フィルム10の走行位置を図2において二点鎖線で示す。ここで本実施形態では、フィルム10が初速0(あるいは低速)から徐々に加速していくものとする。ここでフィルム10の加速度は一定であってもよいし、適宜に変化してもよい。
【0045】
円形刃2は、移動するフィルム10に接触することにより、フィルム10を所定幅に切断することができる。このとき円形刃2は、フィルム10から力(回転力)を受けて、一方向に(すなわち図2において反時計方向に)自転する。すると、ブレード支持体33・34、第1磁石保持体51、シャフト36、第2磁石保持体52が、円形刃2と一緒に回転することになる。しかしながら、第1~第3導電体41~43は回転しない(第3導電体43については後述)。
【0046】
これにより、第1・第2磁石保持体51・52と第1~第3導電体41~43とを相対的に回転させることができる。すると、第1~第3導電体41~43に誘導電流を生じ、この誘導電流により生じた磁力によって、第1・第2磁石保持体51・52の回転に対する制動力を生じることができる(いわゆる磁気制動)。すると、円形刃2の回転に対しても制動を行うことができる。したがって、本実施形態によれば、円形刃2の回転数を低く抑えることが可能になる。
【0047】
フィルム10の進行速度に対して円形刃2の回転数を低く抑えることができれば、未延伸フィルムのように比較的に柔軟なフィルムについても、切断品質を向上させることができるという利点がある。
【0048】
ここで、本実施形態では、第3導電体43も、円形刃2の回転に拘わらず固定されているので、円形刃2に対する強い制動力を発揮することができる。特に、円形刃2の回転初期(つまり回転数が十分に上昇する前の状態)においては、磁気制動による強い制動力を得ることは難しいが、本実施形態では、第3導電体43を併用しているので、円形刃2の回転初期においても強い制動力を得ることができるという利点がある。なお、第2磁石保持体52の磁石52a~52hが回転すると、この回転による力が第3導電体43に作用するが(いわゆるアラゴの円板)、回転抵抗リング61と回転抵抗軸62との間の摩擦力により、第3導電体43の回転を阻止することができる。
【0049】
フィルム10の加速に伴って円形刃2の回転数がさらに上昇すると、第2磁石保持体52の磁石52a~52hの回転による力が強くなり、回転抵抗リング61と回転抵抗軸62との間の摩擦力に打ち勝って、第3導電体43が自転する。第3導電体43が自転すれば、第3導電体43による磁気制動力は低下する。円形刃2の高速回転時には、第1・第2導電体41・42と第1・第2磁石保持体51・52との相対的な速度差が大きいので、円形刃2に対して実用上十分な制動力を与えることができる。また、第3導電体43の自転を許容することにより、円形刃2の高速回転時における第3導電体43からの発熱量を低く抑えることができるという利点もある。
【0050】
さらに、本実施形態では、第3導電体43が自転し始めると、回転抵抗リング61と回転抵抗軸62との間の摩擦力(つまり回転力に対する抵抗)が低減し、回転抵抗軸62はいわゆる滑り軸受けとして機能する。このため、円形刃2の高速回転時には、第3導電体43に起因する制動力を一層低く抑えることができ、また、これによる発熱量も一層低く抑えることができるという利点もある。
【0051】
また、本実施形態によれば、円形刃2を所定角度ごとに回動させる機構を設ける必要がなく、さらには、このように回動させる作業も不要になる。
【0052】
また、本実施形態では、回転する円形刃2を用いてフィルム10を切断できるので、固定刃を利用する場合に比較して、切粉の発生が極めて少ないという利点もある。
【0053】
さらに、固定刃のように1箇所で切断する場合に比較すると、回転する円形刃2を用いることにより、刃の損耗や欠けを抑制でき、そのために、スリット品質(切断品質)が向上するという利点もある。
【0054】
さらに、厚い延伸フィルムを固定の板刃(レザー刃)で切断した場合、切断面における耳立ち(すなわち毛羽立ち)が発生し易いという問題があったが、本実施形態のように磁気制動される円形刃2を用いると、耳立ちを抑制できるという効果もある。
【0055】
また、従来は、切断対象が未延伸フィルムか延伸フィルムかに応じて、板刃と回転刃とを切り替えて用いていたが、本実施形態によれば、同じ円形刃2を用いて未延伸フィルムも延伸フィルムも良好な品質で切断可能となる。このため、工程変更により生産ラインが停止する頻度を少なくすることができ、生産性向上を図ることができる。
【0056】
さらに、刃の交換頻度を減らすことができるので、交換時における切傷等のおそれを減らし、作業の安全性を向上させることもできる。
【0057】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0058】
例えば、前記した実施形態では、導電体部4側を基本的に固定とし、磁石部5側を基本的に回転する構成としたが、逆に、磁石部5側を基本的に固定とし、導電体部4側を基本的に回転する構成としてもよい。この場合、円形刃2の回転に伴って導電体部4の第1導電体41等が回転することになる。またこの場合、回転抵抗部は、導電体部の回転数が上昇したことにより回転力が上昇したときに、この回転力に負けて、磁石部を回転させる構成とすればよい。
【0059】
さらに、前記した実施形態では、フィルム10として樹脂フィルム、特に未延伸フィルムを例示したが、これに限らず、延伸フィルムでもよい。また、樹脂フィルムに限らず、他の種類のフィルム(例えば金属フィルム)であってもよい。
【0060】
また、本実施形態では、ボス621の外面に回転抵抗リング61を密に嵌合し、両者間の摩擦により、周方向への相対移動を阻止している。しかしながら、これに代えて、例えば回転抵抗リング61と回転抵抗軸62とを、軸受411・421よりも始動時の回転抵抗が高い軸受を介して連結しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 ホルダ
2 円形刃
21 円形刃本体
22 樹脂板
3 保持部
31 取付板
311 ねじ
312 長孔
32 本体
33 ブレード支持体
34 ブレード支持体
35 ブレード止めねじ
36 シャフト
361 ピン
4 導電体部
41 第1導電体
411 軸受
412 ねじ
42 第2導電体
421 軸受
43 第3導電体
431 鉄円盤
432 ねじ
5 磁石部
51 第1磁石保持体
51a~h 磁石
511 ボス
52 第2磁石保持体
52a~52h 磁石
521 ボス
6 回転抵抗部
61 回転抵抗リング
62 回転抵抗軸
621 ボス
63 ケース
7 ブレードカバー
71 第1カバー体
72 第2カバー体
73 ねじ
74 ねじ
10 フィルム
A フィルムの進行方向
【要約】
【課題】円形刃に適切な制動力を付与することにより、円形刃の回転を許容しつつ、フィルムの切断品質を向上させる。
【解決手段】一方向に移動するフィルム10を、回転しながら切断するための円形刃2を保持するホルダ1である。保持部3は、円形刃2を回転可能なように保持する。導電体部4と磁石部5とは対向して配置されている。導電体部4と磁石部5のうちの一方は、円形刃2の回転に伴って、導電体部4と磁石部5のうちの他方に対して回転する構成となっており、この回転による、前記一方に対する磁気制動によって、円形刃2の回転に対する制動力を発生するようになっている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23