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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024169804
(22)【出願日】2024-09-30
【審査請求日】2024-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524363102
【氏名又は名称】柴田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 絵里
(74)【代理人】
【識別番号】100230765
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 洋哉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 均
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123213(JP,A)
【文献】特開2019-037127(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0026859(US,A1)
【文献】米国特許第04563602(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106972729(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電機子から構成される磁気回路を移動方向に複数並べた電機子ユニットと、複数の永久磁石から構成される永久磁石ユニットとに関し、何れか一方のユニットを固定子とした際に他方のユニットが可動子として相対的に移動するリニアモータであって、
前記磁気回路は、
第1のコアを屈曲させることにより、前記第1のコアの上端に第一の磁極を、前記第1のコアの下端に前記第一の磁極と極性が異なる第二の磁極を有する第1の電機子と、
第2のコアを屈曲させることにより、前記第2のコアの上端に第三の磁極を、前記第2のコアの下端に前記第三の磁極と極性が異なる第四の磁極を有する第2の電機子と、
前記第一の磁極に対向する第五の磁極と、前記第三の磁極に対向する第六の磁極とを有する第3の電機子と、
前記第二の磁極に対向する第七の磁極と、前記第四の磁極に対向する第八の磁極とを有する第4の電機子と、
前記第1の電機子乃至前記第4の電機子の少なくとも1つのコアに卷回された少なくとも1つのコイルと、
を有し、前記第一の磁極乃至前記第八の磁極により前記移動方向と直交する閉ループの磁束を形成し、
前記永久磁石ユニットの一つは、前記第1の電機子の二つの磁極と、前記第1の電機子の二つの磁極に対向する前記第3の電機子及び前記第4の電機子の磁極とに挟まれ、且つ前記永久磁石ユニットの他の一つは、前記第2の電機子の二つの磁極と、前記第2の電機子の二つの磁極に対向する前記第3の電機子及び前記第4の電機子の磁極とに挟まれる、リニアモータ。
【請求項2】
前記第1の電機子乃至第4の電機子は高加減速及び精密位置決めを含む用途別に異なる複数のサーボアンプと接続し、前記可動子となるユニットの移動に基づき前記サーボアンプの切替えを含む動作制御が行われる、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
高加減速用のサーボアンプに接続される前記第1の電機子乃至第4の電機子のコイルの巻数は、精密位置決め用のサーボアンプに接続される前記第1の電機子乃至第4の電機子のコイルの巻数よりも多い、請求項に記載のリニアモータ。
【請求項4】
前記第1の電機子及び前記第2の電機子に接続するサーボアンプは、前記第1の電機子及び前記第2の電機子に関する位置計測に基づき、基準位置に対する水平方向変位角の傾きであるヨーイング誤差が生じたことが判別できた場合は、ヨーイング補正がされるよう前記第1の電機子及び前記第2の電機子に付与する電流値を調整する、請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項5】
前記複数のサーボアンプをPosicast手法による停止時の振動抑制のための単一ステップ入力に使用し、各サーボアンプに対して前記リニアモータの固有振動数に合致するようステップ入力の時間間隔を設定する、請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項6】
前記サーボアンプに対する加速及び減速の指令を、前記時間間隔に基づき複数のステップ入力に分割して行う、請求項5に記載のリニアモータ。
【請求項7】
可動子である電機子ユニッ又は前記永久磁石ユニットの何れかは、リニアモータのベース上の直線ガイド機構に取り付けられ、前記直線ガイド機構はストローク長にわたり前記可動子の移動を支持する、請求項1~6の何れか1項に記載のリニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリニアモータに関し、特に電機子巻線が巻回された電機子鉄心から成る電機子及び永久磁石を備え、電機子巻線に電流を流すと電磁作用により可動子が固定子に対して相対的に移動する構造であるリニアモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のリニアモータとしては、コア(鉄心)レスリニアモータ(例えば、下記の特許文献1参照)および吸引力キャンセル型のトンネルアクチュエータがある(例えば、下記の特許文献2参照)。
特許文献1に開示されるようなコアレスリニアモータは、磁性が異なる永久磁石を交互に配置した永久磁石列、及び所定の空隙を介して対向配置される複数個の巻線群を平板状に成形して成る電機子とを備え、永久磁石列と電機子の何れか一方を固定子、他方を可動子として相対的に走行させるものである。
【0003】
特許文献2に開示されるトンネル式アクチュエータは、可動子が固定子の電機子によって閉じられた空間内を移動するリニアモータである。従来のコア付きリニアモータの構造は、電機子巻線が卷回された電磁鋼板製の鉄心が永久磁石と対面する構造であり、推力よりも大きい吸引力が働くことから可動子の支持機構に負担がかかるという課題があった。特許文献2が示すリニアモータは、この磁気的な吸引力を低減させるために、上部と下部の磁極が互い違いになるように構成した鉄心の上部磁極歯と下部磁極歯との間に永久磁石が挟まれる構造にしている。この構造により、上部磁極歯及び可動子における磁気吸引力と、下部磁極歯及び可動子における磁気吸引力とは、大きさが同じで吸引力方向が反対になるので相殺され、全体の磁気吸引力を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-197718号公報
【文献】特開2002-125360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コギング力はコア(鉄心)と永久磁石の吸引力の作用により発生する。永久磁石が移動するとコアとの位置関係から吸引力が周期的に変化し、モータの回転にゴツゴツとした引っ掛かり現象(脈動)が発生し、可動子のスムーズな動作が制約されてしまう。特許文献1に記載のコアレスリニアモータはコアが無い構造であるため、コギング力や磁気吸引力が発生せず、これらを起因とする精度劣化のリスクは無い。しかしながら、コアレスリニアモータは、コア付きリニアモータに比べるとトルク(推力)が小さいため、大きな重量の可動子やストロークが長くなる程、電機子巻線の巻数を増やし且つ大電流を流すことで不足するトルクを補う必要がある。その結果、高トルクにするために流す電流値を上げざるを得ず、制御的分解能の低下が可動子を目標位置で高精度に停止させることを困難にし、さらに高発熱が精度劣化の要因となっている。
【0006】
また、特許文献2に記載のトンネル式リニアモータの場合、磁気回路が長くなってしまうため磁気飽和を起こしやすく、また可動子の支持機構をトンネルの出入り口にしか設置できないためストロークの長い用途には適さないという課題がある。
【0007】
そこで本発明は、1台のリニアモータであっても十分な推力があり、高加減速動作及び長ストローク動作が可能であり、しかも超精密位置決め制御が可能なリニアモータを提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリニアモータは、複数の永久磁石及びこれら永久磁石を挟む複数の電機子を含んで構成され、永久磁石からみて両側に存する電機子との間隔が同じになるように配置することで、永久磁石の一方端と電機子の間に作用する磁気吸引力と、他方端と電機子の間に作用する磁気吸引力との大きさが等しく且つその力の働く方向が反対になることから、永久磁石と電機子との間で生じる全体の磁気吸引力がほぼ零となり、推力に対する外乱力およびコギング力を小さくすることができる。
【0009】
また、一部の電機子の巻線を異なるサーボアンプに接続することにより、巻線数とサーボアンプの電流容量の組み合わせおよび電流制御の次第で、1台のリニアモータで高加減速動作と超精密位置決め動作の両方が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願発明のリニアモータは、複数の電機子から構成される磁気回路を移動方向に複数並べた電機子ユニットと、複数の永久磁石から構成される永久磁石ユニットとに関し、何れか一方のユニットを固定子とした際に他方のユニットが可動子として相対的に移動するリニアモータであって、前記磁気回路は、第1のコアを屈曲させることにより、前記第1のコアの上端に第一の磁極を、前記第1のコアの下端に前記第一の磁極と極性が異なる第二の磁極を有する第1の電機子と、第2のコアを屈曲させることにより、前記第2のコアの上端に第三の磁極を、前記第2のコアの下端に前記第三の磁極と極性が異なる第四の磁極を有する第2の電機子と、前記第一の磁極に対向する第五の磁極と、前記第三の磁極に対向する第六の磁極とを有する第3の電機子と、前記第二の磁極に対向する第七の磁極と、前記第四の磁極に対向する第八の磁極とを有する第4の電機子と、前記第1の電機子乃至前記第4の電機子の少なくとも1つのコアに卷回された少なくとも1つのコイルと、を有し、前記第一の磁極乃至第八の磁極により前記移動方向と直交する閉ループの磁束を形成し、
前記永久磁石ユニットの一つは、前記第1の電機子の二つの磁極と、前記第1の電機子の二つの磁極に対向する前記第3の電機子及び前記第4の電機子の磁極とに挟まれ、且つ前記永久磁石ユニットの他の一つは、前記第2の電機子の二つの磁極と、前記第2の電機子の二つの磁極に対向する前記第3の電機子及び前記第4の電機子の磁極とに挟まれる、ことを特徴とする。
【0011】
また、本願発明のリニアモータは、前記第1の電機子乃至第4の電機子は高加減速及び精密位置決めを含む用途別に異なる複数のサーボアンプと接続し、前記可動子となるユニットの移動に基づき前記サーボアンプの切替えを含む動作制御が行われることを特徴とする。
【0012】
また、本願発明のリニアモータは、前記用途別の電流制御に合わせて、前記第1の電機子乃至第4の電機子の各コアに卷回するコイルの巻数が決定されていることを特徴とする。さらに、前記第1の電機子及び前記第2の電機子に接続するサーボアンプは、前記第1の電機子及び前記第2の電機子に関する位置計測に基づき、基準位置に対する水平方向変位角の傾きであるヨーイング誤差が生じたことが判別できた場合は、ヨーイング補正がされるよう前記第1の電機子及び前記第2の電機子に付与する電流値を調整することを特徴とする。
【0013】
また、本願発明のリニアモータは、前記複数のサーボアンプをPosicast手法による起動時および停止時の振動抑制のための単一ステップ入力に使用し、各サーボアンプに対して前記リニアモータを駆動源とする機械の固有振動数に合致するようステップ入力時間間隔を設定し、さらに前記サーボアンプに対する加速及び減速の指令を、前記時間間隔に基づき複数のステップ入力に分割して行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態であるリニアモータの磁気回路を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態であるリニアモータの電機子ユニットの外観図である。
図3】本発明の一実施形態である永久磁石ユニットの外観図である。
図4】永久磁石ユニットを可動子としたリニアモータステージの概略断面図である。
図5】永久磁石の極ピッチと電機子のピッチとの関係を示した図である。
図6】電機子ユニットを可動子としたリニアモータステージの概略断面図である。
図7】一般的なコア付きリニアモータの磁束の流れを示した図である。
図8】電機子ユニットとサーボアンプの接続例を示した図である。
図9】サーボアンプが2つのときの接続例を示した図である。
図10】Posicast制御に基づく振動抑制の理論グラフと、実験結果を示した図である。
図11】多段ステップ入力を用いた整定時間短縮方法を示した図である。
図12】最高速度を上げてステップ入力を行う整定時間短縮方法を示した図である。
図13】サーボアンプが3つのときの接続例を示した図である。
図14】ヨーイング方向の補正方法を示した図である。
図15】電機子ユニットの別の実施形態を示す図である。
図16】ボールスプラインを用いた場合のリニアモータの構造を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明のリニアモータは種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。この実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0016】
図1(a)は、本発明の一実施形態であるリニアモータの磁気回路100の構成を概念的に示した斜視図であり、図1(b)は正面図を示す。
図1(a)及び(b)に示すように、磁気回路100は複数の電機子の鉄心基部(以下、「コア」と言う。)1~4、複数の巻線(コイル)1a-1b,2a-2b,3a,4b、複数の永久磁石5a-5b,6a-6bから構成される。各電機子のコアには巻線が卷回される。本実施形態における第1の電機子10のコア1はコ字形状であり、上突出部に上巻線1a、下突出部に下巻線1bを巻回する。もう一つのコ字形状である第2の電機子20のコア2も同様の構成であり、上突出部に上巻線2a、下突出部に下巻線2bを巻回する。コアは積層鋼板によって製造される。
【0017】
以下では、コア1及び巻線1a,1bから構成されるのが第1の電機子10、コア2及び巻線2a,2bから構成されるのが第2の電機子20、コア3及び巻線3aから構成されるのが第3の電機子30、コア4及び巻線4bから構成されるのが第4の電機子40とする。
なお、本実施形態においては、各コア1~4に1又は2つの巻線を巻回すことにしているが、必ずしもこれに限定するものではない。例えばコア1に1個の巻線しかなくてもよい。磁束量が少なくなる可能性があるが、磁気回路として成立させる観点で言えば、磁気回路100は少なくとも1つのコアに少なくとも1つの巻線を有していればよい。
【0018】
第1の電機子10の上突出部と第2の電機子20の上突出部との間には、第3の電機子30を配置する。また、第1の電機子10の下突出部と第2の電機子20の下突出部との間には、第4の電機子40を配置する。第3の電機子30及び第4の電機子40はI字形状(直線状)のコア3,4であり、それぞれに巻線3a,4bが巻回されている。詳細は後述するが、2つのコ字状電機子10,20の間に、上部には第3の電機子30を、下部には第4の電機子40を追加的に配置していることが本発明の特徴の一つである。
【0019】
第1の電機子10のコア1に巻線1a,1bを巻回することで、上突出部と下突出部には極性が異なる磁極が形成される。図1(b)の例では、第1の電機子10の巻線1aが存する上突出部がS極、巻線1bが存する下突出部がN極の磁力をもつ。第2乃至第4の電機子についても異なる二つの磁極をもたせて、図1(a)及び(b)に示す磁気回路は、対向する電機子のコア端部の磁極が真逆になるよう配置している。
第1の電機子10の巻線1a,1bを励磁したときと同一位相の電流を第2乃至第4の電機子の各巻線に流すと、磁気回路100内において閉ループ状に磁束が流れることになる。
【0020】
図2(a)及び(b)は、上述した磁気回路100を3つ並べて構成した電機子ユニット200の外観図及び側面図である。本実施形態では三相(U,V,W)交流を使用することとし、3つの磁気回路にU相、V相、W相を割当てることにより、電機子ユニット200は、U相電機子、V相電機子、及びW相電機子より構成される。
U相電機子にはU相の巻線1a(u),2a(u),3a(u),1b(u),2b(u),4b(u)が巻かれ、V相電機子にはV相の巻線1a(v),2a(v),3a(v),1b(v),2b(v),4b(v)が巻かれ、W相電機子にはW相の巻線1a(w),2a(w),3a(w),1b(w),2b(w),4b(w)が巻かれる。
U相の巻線に電流を流すと、第1の電機子10の巻線1a(u)が存する上突出部の先端には第一の磁極(例えばS極)が形成され、巻線1b(u)が存する下突出部の先端には第一の磁極と極性が異なる第二の磁極(例えばN極)が形成される。第一および第二の磁極の極性は周期的に反転する。
【0021】
次に、永久磁石について説明する。
図1に示すとおり、第1の電機子10の上突出部の端部と、第3の電機子30の端部との間に永久磁石5aを介在させ、及び第2の電機子20の上突出部の端部と、第3の電機子30の他の端部との間に永久磁石6aを介在させる。同様に、第1の電機子10の下突出部の端部と、第4の電機子40の端部との間に永久磁石5bを介在させ、第2の電機子20の下突出部の端部と、第4の電機子40の他の端部との間に永久磁石6bを介在させる。
【0022】
実際のリニアモータにおいては、複数個の永久磁石を並べて配置した永久磁石ユニットを用いる。図3は、永久磁石ユニット5の一例である。図3(a)に示すように、永久磁石ユニット5は、複数の永久磁石が並べられた2つの磁石列5a(n)、5b(n)を備えて構成される。磁石列5a(n)、5b(n)は所定の間隔をあけて整列され、磁石列5a(n)、5b(n)に含まれる各永久磁石はストローク方向に一定のピッチで並べられる。
【0023】
ここで、2つの磁石列5a(n),5b(n)において対向する各永久磁石の端部の極性が真逆になるよう配置する。例えば、図3(b)に示すように、磁石列5a(n)中の永久磁石5a1の右側がN極で、左側がS極である場合、磁石列5b(n)中の永久磁石5b1の右側がS極で、左側がN極の配置にする。また、同一の磁石列において、隣接する永久磁石の対向する極性が互い違いになるよう配置する。例えば、磁石列5a(n)における各永久磁石の極性が、ストローク方向にS、N、S、N・・・と配置した場合、磁石列5b(n)における各永久磁石の極性はN、S、N、S・・・である。
なお、磁石列5a(n),5b(n)は、各永久磁石がストローク方向に向かって必ずしも揃っている必要は無く、図3(d)のように一定の角度斜めにずらしたスキュー配置であってもよい。
【0024】
本実施形態の永久磁石ユニット5における各永久磁石は四角形の板状に形成され、且つ基材7上に着磁される。基材7はアルミ等の非磁性体である。永久磁石を固定する基材7を非磁性にすることで、永久磁石ユニット5を挟む電機子ユニット200を構成する各電機子10~40で形成する磁気回路100の漏れ磁束を防ぐことができる。
【0025】
基材7には、永久磁石を嵌めるための開口(不図示)が形成されている。永久磁石を基材7の開口に単に嵌めても、永久磁石5a,5bと基材7との接着面積は開口の枠の面積しかなく、基材7から永久磁石5a,5bが抜けるリスクがある。そこで、永久磁石の保護及び基材7への確実な固定のため、図3(c)のように永久磁石の上方から炭素繊維強化プラスチック(Carbon-Fiber-Reinforced Plastic、CFRP)製の部材等の板材又はシート材8を基材7に張り付けてもよい。
【0026】
本発明のリニアモータは、上述した電機子ユニット200と及び永久磁石ユニット5を基本構成とするが、高加減速動作や超精密位置決めといった動作制御の優位性を示すため、リニアモータにテーブルを置いたリニアモータステージ300を用いて説明する。
図4(a)は、永久磁石ユニット5,6を可動子、電機子ユニットを固定子とした場合のリニアモータステージ300の概略断面図である。
【0027】
固定子はストローク方向に並べられた複数の電機子ユニット200を備える。電機子ユニット200を構成するU相、V相、W相の各磁気回路において、第1の電機子10は、ベース11に固定された非磁性体の電機子ユニット固定治具12に取り付けられる。また、同様に、第2の電機子20は、ベース11に固定された非磁性の電機子ユニット固定治具14に取り付けられる。中間部の第3の電機子30及び第4の電機子40は、ベース11に固定された非磁性体の電機子ユニット固定治具13に取り付けられる。
【0028】
テーブル16が永久磁石ユニット5,6の上方に固定的に取り付けられ、ベース11上には永久磁石ユニット5,6を支持するための直線ガイド機構15がそれぞれ取り付けられる。電機子ユニット固定治具12,13,14により、可動子である永久磁石ユニット5,6はストローク方向以外全て拘束されることになり、永久磁石ユニット5,6の動きに随伴してテーブル16が移動する。直線ガイド機構15は、レールとレールに沿って移動するブロックとを備える。直線ガイド機構15は公知のものであり、レールとブロックとの間には転がり運動可能に多数の転動体が介在することが多いが、ここでは詳細な説明を省略する。なお、直線ガイド機構15として、リニアボールガイドの替わりに、空気静圧案内装置やボールスプライン等を用いることも可能である。
【0029】
本発明のリニアモータは、図1及び図4等のとおり、永久磁石ユニット5は、第1の電機子10の(上下)突出部と対向する第3の電機子30及び第4電機子40の間隙に固定されて取り付けられる。永久磁石ユニット6は、第2の電機子20の(上下)突出部と対向する第3の電機子30及び第4電機子40の間隙に固定されて取り付けられる。上下の永久磁石列5a(n),5b(n)の極性及びストローク方向に対する磁石の位置は同一にする必要がある。永久磁石ユニット6における6a(n),6b(n)も同様である。
なお、永久磁石ユニット5,6は、第3の電機子30に対向する永久磁石列5a(n)のみ或いは第4の電機子40に対向する永久磁石列5b(n)のみというように、1つの永久磁石列で構成されることもあり得る。
【0030】
図4(b)はリニアモータステージ300の側面図である。ただし、図4(a)に示す電機子固定治具は省略している。
図4(b)に示す電機子が6個であることから分かるように、リニアモータステージ300には本実施形態においては電機子ユニット200が二つ配置されている。ただし、二つに限定されないことは言うまでもない。リニアモータは3相のリニアモータであり、各電機子ユニットは上述したU相電機子、V相電機子及びW相電機子より構成される。
【0031】
図5は、永久磁石の極ピッチと、電機子のピッチの関係を示している。電機子のピッチP1、永久磁石の極ピッチをPとし、電機子のピッチが永久磁石のピッチよりも小さいとき(P1<P)、隣り合う電機子ユニットのピッチP1は2P/3、4P/3等である。
【0032】
図4に示すリニアモータステージ300の場合、電機子ユニット200を固定子としていたが、図6に示すリニアモータステージ400は永久磁石ユニット5,6を固定子とした構造の一例である。つまり、電機子ユニット200が可動子となる。
永久磁石ユニット5は、第1の電機子10の(上下)突出部と対向する第3の電機子30及び第4電機子40との間隙に固定されて取り付けられる。永久磁石ユニット6は、第2の電機子20の(上下)突出部と対向する第3の電機子30及び第4電機子40との間隙に固定されて取り付けられる。上下の永久磁石列5a(n),5b(n)の極性及びストローク方向に対する磁石の位置は同一にする必要がある。永久磁石ユニット6における6a(n),6b(n)も同様である。
なお、永久磁石ユニット5,6は、第3の電機子30に対向する永久磁石列5a(n)のみ或いは第4の電機子40に対向する永久磁石列5b(n)のみというように、1つの永久磁石列で構成されることもあり得る。
【0033】
リニアモータステージ400の場合、電機子ユニット中の第1の電機子10と第2の電機子20がそれぞれ連結治具16,18を介してテーブル16と固定的に連結し、この連結治具16,18にそれぞれ直線ガイド機構15が取り付けられている。電機子ユニットの中央に存する第3の電機子30は、連結治具17を介してテーブル16と固定的に連結している。本実施形態では、テーブル16の平衡度を保持するために、第1の電機子10及び第2の電機子20の両方が連結治具16,18を介して、電機子ユニットの両端の直線ガイド機構15に取り付けられるようにしているが、他の実施形態では、直線ガイド機構15が、第1の電機子10側と第2の電機子20側のいずれか一方のみに配置(片側ガイド)されることもあり得る。
【0034】
上述したように、リニアモータステージ300の場合、永久磁石ユニット5,6が直線ガイド機構15に取り付けられ、リニアモータステージ400の場合、第1の電機子10と第2の電機子20が直線ガイド機構15に取り付けられる。従来のコア付きリニアモータステージは、可動子と固定子間の磁気吸引力が大きく、耐荷重の大きな支持機構を選択する必要があった。あるいは吸引力キャンセル型のトンネルアクチュエータステージは、可動子の支持機構をトンネルの出入り口にしか設置できなかったが、本実施形態のリニアモータステージによれば、磁気吸引力はキャンセルされ、さらに直線ガイド機構15は、ストロークの全長に渡るので、可動子である永久磁石ユニット又は電機子は移動ストローク中、直線ガイド機構によって支持されることになる。このため、ストロークが長くなっても、可動子がしっかりガイドされた揺れのない安定的な移動実現可能にできる。
【0035】
本実施形態のリニアモータによれば、対向する電機子の間に永久磁石を介在させ、しかも永久磁石からみて両側に存する電機子との間隔が同じになるように配置した構造によって磁気回路が構成されるので、永久磁石の一方端と電機子の間に作用する磁気吸引力と、他方端と電機子の間に作用する磁気吸引力の大きさが等しく且つその力の働く方向が反対になることから、両者の磁気吸引力が相殺する。その結果、永久磁石と電機子との間で生じる全体の磁気吸引力がほぼ零となり、推力に対する外乱力およびコギング力を小さくすることができる。この原理が、永久磁石ユニット5のみならず、永久磁石ユニット6の側にも適用され、磁気回路が巻線や永久磁石の増加によって電磁気的に大きくなっても磁気吸引力によって生じる副作用が小さいという顕著な効果がある。
【0036】
さらに図7に示すように、一般的なコア付きリニアモータは、永久磁石を鉄製のマグネットヨークに張り付け、そこに磁束を通す構造となっているため、磁束が密になる箇所で他相電機子への漏れ磁束が生じてしまい、ノイズの要因となる。これに対し、本実施形態のリニアモータは、各相間に空隙または非磁性体を介在させることにより、他相への漏れ磁束が発生し難いので、磁気漏洩によるノイズを低減することができる。
【0037】
図8は本発明のリニアモータに対して1台のサーボアンプ21を接続する例である。右上の枠内に、単純化した接続構成図を示した。本接続例の場合、図2に示したU相の巻線1a(u),2a(u),3a(u),1b(u),2b(u),4b(u)のすべてをサーボアンプ21のU相端子に接続し、V相の巻線1a(v),2a(v),3a(v),1b(v),2b(v),4b(v)のすべてをサーボアンプ21のV相端子に接続し、W相の巻線1a(w),2a(w),3a(w),1b(w),2b(w),4b(w)のすべてをサーボアンプ21のW相端子に接続するというシンプルな形態である。なお、各相の巻線は、図8(a)に示す直列接続、或いは図8(b)に示す並列接続のいずれも可能である。
【0038】
次に、図9は本発明のリニアモータに対して2台のサーボアンプ21,22を接続する例である。なお、3相のリニアモータとしているので本来であれば図8のように、U相,V相,W相それぞれの電機子を描画すべきところであるが、図9ではU相の電機子のみを示していることに留意されたい。
図示のとおり、サーボアンプ21のU相端子にはU相の巻線1a(u),1b(u),2a(u),2b(u)を接続する。一方、サーボアンプ22のU相端子にはU相の巻線3a(u),4b(u)を接続する。サーボアンプ21のV相端子にはV相の巻線1a(v),1b(v),2a(v),2b(v)を接続する。一方、サーボアンプ22のV相端子にはV相の巻線3a(v),4b(v)を接続する。W相端子についても同様である。
すなわち、サーボアンプ21は電機子ユニット中の第1の電機子10および第2の電機子20用のものであり、サーボアンプ22は、第3の電機子30および第4の電機子40用のものということになる。
【0039】
図9に示すように、一部の電機子の巻線を異なるサーボアンプに接続することにより、巻線の巻数とサーボアンプの電流容量の組み合わせおよび電流制御の次第で、1台のリニアモータでありながら2つの特性を持った動作を可能にするのが、本発明のリニアモータの顕著な技術的効果である。
【0040】
例えば、第1の電機子10および第2の電機子20の巻数を多くし、サーボアンプ21として電流容量が大きなアンプを選択した場合、推力が大きく且つ加減速度が大きなリニアモータを形成する。一方、第3の電機子30および第4の電機子40の巻数を少なくし、サーボアンプ22としてノイズの小さなリニアアンプ等を選択した場合、超精密位置決めが可能なリニアモータを形成する。そこで、加速区間、等速区間、減速区間はサーボアンプ21で動作させて、停止直前からはサーボアンプ21をOFFにしてサーボアンプ22をONにして制御を切り替えること等の操作により、高加減速動作と超精密位置決め動作を1台のリニアモータで実現することが可能になる。
なお、第3の電機子30および第4の電機子40の巻数を多くしてサーボアンプ22を高加減速動作用に使用し、第1の電機子10および第2の電機子20の巻数を少なくしてサーボアンプ21を超精密位置決め用に使用してもよい。なお、サーボアンプ21,22の両方で加減速し、等速駆動区間や停止時には高加減速動作用のサーボアンプの電流を零にして超精密位置決め用のサーボアンプのみを動作するようにしてもよい。
【0041】
また、電機子ユニットに2台のサーボアンプを接続する別の実施形態について示す。これは、Posicast制御手法を高加減速駆動ステージにおける加減速時および停止時の振動抑制に応用したものである。Posicast制御とは振動抑制に効果的な手法として公知であり、従来の適用例は主にクレーンの振れ止めに用いられる技術である。本発明のような高加減速駆動ステージの振動抑制にPosicast制御手法を適用した例は、本出願人による調査範囲では存在しない。
【0042】
まず、Posicast制御の理論値を図10(a)、実験装置を用いた実験結果を図10(b)に示す。図10(a)の(1)は、2次振動系のメカニズムに単一ステップ入力xが加えられた時のステップ応答を示したグラフである。振動のピーク時間t,ピーク値xについて次の式が成り立つとする。
=Const. γ=x/x=Const.
Posicast制御ではγ=x/xとし、次の2つの目標入力xr1及びxr2を作成する。
・xr1=γx
・xr2=x-xr1
【0043】
時間t=0においてxr1を加えたときの波形が図10(a)における(2)のグラフの実線、t=tにおいてxr2を更に加えたときの波形が(2)の一点鎖線である。すなわち、例えば、サーボアンプ21に単一ステップ入力xr1を与えて、t時間遅らせてサーボアンプ22にステップ入力xr2を与える。図示のとおり、t=tより半周期遅れてピーク値xp2を生じる。実際のメカニズムにより得られる応答振動は実線と一点鎖線の合成波形となるので、(3)に示すように振動成分が相殺されて無振動状態になり、t=t以降は目標値xに保持されることになる。
【0044】
本発明の構成に基づく実際の実験機にPosicast制御を適用して実験した結果が図10(b)であるが、ほぼ図10(a)に示す理論値のとおりであることを確認した。ただし、1台のサーボアンプで入力xr1及び入力xr2の両方を入力させようとする場合、単一ステップ入力を加えるタイミングは制御上のサーボサイクルの倍数となるため、入力xr1及び入力xr2の両方が、制御系の指令サイクルと機械振動の固有振動数の整数倍ときちんと合致しない場合がある。そのような場合は、2台のサーボアンプを用いて、xr1及びxr2を独立に入力制御し、それぞれの入力が固有振動数に合致するタイミングで各単一ステップ入力を加えれば、効果的に振動を抑制できる。
【0045】
なお、上記の2台の振動抑制用サーボアンプは停止時点で必要になることから、駆動力を発生させるためのストローク動作用のサーボアンプを2台の振動抑制用サーボアンプの少なくとも1つで併用することにし、停止時点でストローク動作用から振動抑制用に切り替えればよい。
【0046】
ところで、急激な加減速駆動をした場合、一度のステップ入力だけではPosicast制御による振動抑制をしたとしても、残留振動が残ることがある。そこで、残留振動を効果的に抑制する方法を図11に示す。図11の実線は振動を考慮せず、減速時間を5msとした時の速度波形である。図11の破線はメカニズムの固有振動数から計算した、振動抑制効果が見込める22msを減速時間とした時の速度波形であり、確かに振動抑制効果はあるが、停止時に残留振動が残ってしまう。図11の一点鎖線は、22msで減速し、22msで停止、その後22msで減速するパターンで動作させた時の速度波形である。図11の二点鎖線は22msの減速及び停止動作を5回繰り返した時の速度波形である。回数が多い方が残留振動は小さくなるが、整定時間は長くなることが明らかになった。
これらの事実より、整定時間が長くなったとしても、残留振動を可能なかぎり小さくして超精密位置決めをしたい場合は、Posicast制御において残留振動を抑制する効果が見込める減速時間で減速し及び停止する動作を複数回繰り返せばよい。
【0047】
さらに、残留振動を小さくするだけでなく、整定時間も短縮する方法を示しているのが図12である。等速で動作する時の最高速度を上げることで目的位置に到達する時間を短縮し、残留振動を抑制する効果のある減速時間で複数回にわけて減速及び停止を繰り返せばよい。等速区間の速度上昇に伴う動作時間短縮の効果が大きいので、加速時に発生した振動の影響もほぼ受けることなく残留振動の少ない減速停止をしながら、整定時間短縮も含めた総移動時間の短縮が可能である。
【0048】
高速駆動が可能でありながら、上述したようなPosicast制御に基づく振動抑制して超精密位置決めの両方を1台のリニアモータが実現し得るのは、複数のサーボアンプを用いているからに他ならない。リニアモータを構成する一部の電機子(巻線数が大)を高速駆動用として一のサーボアンプに接続し、他の電機子(巻線数が小)を超精密位置決め用として他のサーボアンプに接続し、両サーボアンプを切換制御するという構成にしておくことで容易に実現できる。
【0049】
次に、本発明のリニアモータに対して3台のサーボアンプ21,22,23を接続する例を図13に示す。図9と同様に、図13ではU相の電機子のみを示しているが、実際にはV相及びW相の電機子が存在することに留意されたい。
図示するとおり、サーボアンプ21のU相端子にはU相の巻線1a(u),1b(u)を接続する。サーボアンプ22のU相端子にはU相の巻線3a(u),4b(u)を接続する。サーボアンプ23のU相端子にはU相の巻線2a(u),2b(u)を接続する。V相及びW相端子についても同様である。
すなわち、サーボアンプ21は電機子ユニット中の第1の電機子10用のものであり、サーボアンプ22は第3の電機子30および第4の電機子40用のものであり、サーボアンプ23は第2の電機子20用のものということになる。
【0050】
図13の接続例は、図4に示す構成のように電機子ユニット200が可動子となる場合であるが、各相の第3の電機子30における巻線3aと、第4の電機子40における巻線4bと、サーボアンプ22とを連結して構成される可動子を主にストローク動作用として使用する。このとき、ストローク方向の位置検出にはリニアスケール25(図14参照)を使用する。
一方、第1の電機子10における巻線1a,1bとサーボアンプ21と位置検出用の高精度リニアスケール26、及び第2の電機子20おける巻線2a,2bとサーボアンプ23と位置検出用の高精度リニアスケール27を、それぞれの直線ガイド機構15の付近に設置する。
【0051】
テーブル16上の重量バランス、直線ガイド機構の機械的な摩擦の差や熱変形等の影響により、停止位置付近で第1の電機子10側と第2の電機子20側で微妙なズレが発生した場合はテーブル16がヨーイング方向に傾いて歪みが発生し、正確な位置に停止させてもテーブル16上の目標位置に誤差が生じることがある。3台のサーボアンプ21,22,23を使用するので、サーボアンプ22をストローク動作用として使用しながら、残りのサーボアンプ2つによりヨーイング方向の誤差を算出する。
【0052】
つまり、第1の電機子10側の高精度リニアスケール26および第2の電機子20側の高精度リニアスケール27の位置ずれからヨーイング方向の誤差を計算し、その誤差を解消するようにサーボアンプ21とサーボアンプ23の各出力を調整して停止時のヨーイング方向の姿勢誤差を補正し、その結果、テーブル16の位置決めを歪みのない停止位置で停止させるという超精密な位置決めをすることが可能となる。これも、1台のリニアモータが複数の異なるサーボアンプに接続することで、複数の特性を持った動作を可能にすることをあらわしている。
【0053】
なお、駆動力発生させるためのストローク動作用を第3の電機子30及び第4の電機子40に割当て、ヨーイング方向の誤差算出用に第1の電機子10及び第2の電機子20を割当てたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、電機子(及びサーボアンプ)をいずれの用途に使用するかは適宜組み合わせて決めてよい。
【0054】
図15は、永久磁石ユニット7を可動子とする場合に、可動子の剛性を向上させるのに好適な磁気回路の一例である。第3の電機子30のコア両端に永久磁石5a,6aを接着させ、及び第4の電機子40のコア両端にも永久磁石5b,6bを接着させ、第3の電機子30における巻線3a及び第4の電機子40における巻線4bを取り外した構造である。永久磁石5a,5bは、永久磁石ユニット5として基材7の開口に嵌められ一体化しているが、第3の電機子30及び第4の電機子40と合体する構造体となることで、機械的剛性が一層向上する利点がある。
【0055】
最後に、本発明のリニアモータの構造において直線ガイド機構15をボールスプライン28とした場合の例を図16に示す。永久磁石5a,5bをスプラインナットに固定し、第1の電機子10と第2の電機子20が永久磁石5a,5bと一定の空隙を保つように固定しておく。一般的なXY平面で使用される直線ガイド機構15のレールを2本使用する構造と比較すると、ボールスプライン28を使用する場合は2本のレールの平行度調整作業が不要であり、しかもレールの平行度のズレによる不均一な摩擦力の軽減が可能となる。したがって、小型で軽量物の搬送目的の場合や、Z軸方向(図16の上下方向)に駆動したい場合に有利である。さらにまた、図16(b)は、図16(a)のリニアモータ構造を2軸構成とした場合である。第1の可動子である永久磁石5a,5bと、第2の可動子である6a,6bの間に第3の電機子30を設置する。第3の電機子30は、第1の可動子である永久磁石5a,5bおよび第2の可動子である6a,6bに推力を与える電機子として作用する。同様の構成を拡張し、3軸以上の多軸構成も可能である。多軸構成にした場合、各軸間での同期制御をすることなく、全体の同期運転を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0056】
1~4 鉄心基部(コア)
1a,1b,2a,2b,3a,4b 巻線(コイル)
5a,5b,6a,6b 永久磁石
5,6 永久磁石ユニット
7 基材
10 第1の電機子
11 ベース
12,13,14 電機子ユニット固定治具
15 直線ガイド機構
16 テーブル
20 第2の電機子
21,22,23 サーボアンプ
25 リニアスケール
26,27 高精度リニアスケール
28 ボールスプライン
30 第3の電機子
40 第4の電機子
100 磁気回路
200 電機子ユニット
300,400 リニアモータステージ
【要約】
【課題】1台のリニアモータであっても十分な推力があり、高加減速動作及び長ストローク動作が可能であり、且つ超精密位置決め制御が可能なリニアモータを提供する。
【解決手段】複数の電機子から構成される磁気回路を移動方向に複数並べた電機子ユニットと、複数の永久磁石から構成される永久磁石ユニットとを有し、永久磁石からみて両側に存する電機子との間隔が同じに配置することで、永久磁石の一方端と電機子の間に作用する磁気吸引力と、他方端と電機子の間に作用する磁気吸引力の大きさが等しく且つその力の働く方向が反対になり、永久磁石と電機子との間で生じる全体の磁気吸引力がほぼ零となって、推力に対する外乱力およびコギング力を小さくする。また、一部の電機子の巻線を異なるサーボアンプに接続することで、巻線数とサーボアンプの電流容量の組合わせ及び電流制御の次第で1台のリニアモータで高加減速動作と超精密位置決め動作が可能となる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16