(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】光スイッチ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/35 20060101AFI20241119BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20241119BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G02B6/35
G02B26/08 E
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2024501183
(86)(22)【出願日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2023006797
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591102693
【氏名又は名称】santec Holdings株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桜井 康樹
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0360301(US,A1)
【文献】特表2017-520787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/35
G02B 26/08
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコアを備える一以上のマルチコアファイバが接続される接続部と、
前記接続部に接続された一以上のマルチコアファイバからの入力光が通過するように配置されるレンズと、
液晶偏光回折格子と、
複数のMEMSチルトミラーを備えるMEMSチルトミラーアレイと、
を備え、
前記レンズは、前記複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに、前記複数のコアのうちの対応する一つのコアからの入力光が伝播するように配置され、
前記複数のMEMSチルトミラーのそれぞれは、コントローラにより制御された傾斜角で、前記対応する一つのコアからの入力光を反射することにより、対応する反射光が前記複数のコアのうちの前記コントローラにより選択された一つのコアに伝播するように、前記入力光の伝播経路を切り替える構成にされ、
前記液晶偏光回折格子は、前記複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに対応する一つのコアからの前記入力光が、前記液晶偏光回折格子を通り、0次回折光として、対応するMEMSチルトミラーに入射するように配置され、
前記液晶偏光回折格子は、前記コントローラにより制御されて、前記0次回折光の強度を変更可能に構成される光スイッチ。
【請求項2】
請求項1記載の光スイッチであって、
前記液晶偏光回折格子は、前記液晶偏光回折格子を通って前記複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに入射する前記0次回折光の強度を、独立して制御可能であるように、複数の独立した駆動電極を備え
る光スイッチ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光スイッチであって、
前記レンズは、前記複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに伝播する前記入力光を集光するためのコンデンサレンズを備え、
前記液晶偏光回折格子は、前記コンデンサレンズと前記MEMSチルトミラーアレイとの間に配置される光スイッチ。
【請求項4】
請求項1
又は請求項2記載の光スイッチであって、
開口部と遮蔽部とを備える遮光体であって、前記開口部により、前記液晶偏光回折格子で生じる前記0次回折光を、前記MEMSチルトミラーアレイに伝播させる一方、前記遮蔽部により、前記液晶偏光回折格子で生じる1次以上の回折光の前記MEMSチルトミラーアレイへの伝播を抑制するように構成される遮光体を、前記液晶偏光回折格子と、前記MEMSチルトミラーアレイとの間に備える光スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル通信の高速化に伴い、バックボーンである光ネットワークの通信トラフィック量が増加を続けている。現在の単一モードファイバ(SCF)を用いた光リンクでは、増大するトラフィック需要に継続的に答えることが困難である。このため、マルチモードファイバ(MCF)を用いた空間分割多重(SDM)ネットワークが提案されている。
【0003】
SDMネットワークは、SCFを用いた波長分割多重(WDM)レイヤに加えて、MCFベースの空間分割によるチャネルルーティングを利用するSDMレイヤを備える。
近年では、MCFを使用する空間クロスコネクト(SXC)アーキテクチャとして、コア選択スイッチ(CSS)に基づくシンプルで経済性に優れたSXCアーキテクチャが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】神野 正彦 他、「空間チャネルネットワーク用の超広帯域波長範囲で低挿入損失のコア選択スイッチ(Core selective switch with low insertion loss over ultra-wide wavelength range for spatial channel networks)」、ジャーナル・オブ・ライトウェーブ・テクノロジー(Journal of Lightwave Technology)、米国、2022年3月15日、第40巻、6号、p.1822-p.1828
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
提案されるコア選択スイッチでは、スイッチング素子として、光損失が低く、帯域幅が広く、低消費電力で拡張性に優れたMEMSチルトミラーが採用されている。MEMSチルトミラーへの印加電圧を制御することによりMEMSチルトミラーの傾斜角が制御される。傾斜角の制御を通じて、出力先のマルチコアファイバのコアが選択される。
【0006】
また、ノードに配置される光スイッチには、伝播経路に依存した異なる光損失、光増幅器の波長依存性、及び光増幅器のポート依存性をキャンセルするために、光減衰機能が設けられることが一般的である。
【0007】
MEMSチルトミラーを用いた従来の光スイッチでは、光減衰機能を実現するために故意に出力光ファイバコアへの結合率を下げるようにMEMSチルトミラーの傾斜角が制御される。しかしながら、このような光減衰手法では、コア数の多い高密度な光スイッチにおいて隣接するコアへ光が漏れ出し、クロストーク性能が劣化する。
【0008】
従って、本開示の一側面によれば、マルチコアファイバ用の光スイッチに関してクロストーク性能を向上可能な技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る光スイッチは、一以上のマルチコアファイバが接続される接続部と、レンズと、液晶偏光回折格子と、MEMSチルトミラーアレイとを備える。一以上のマルチコアファイバは、複数のコアを備える。MEMSチルトミラーアレイは、複数のMEMSチルトミラーを備える。
【0010】
レンズは、接続部に接続された一以上のマルチコアファイバからの入力光が通過するように配置される。具体的には、レンズは、複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに、複数のコアのうちの対応する一つのコアからの入力光が伝播するように配置される。
【0011】
複数のMEMSチルトミラーのそれぞれは、コントローラにより制御された傾斜角で、対応する一つのコアからの入力光を反射するように構成される。これにより、複数のMEMSチルトミラーのそれぞれは、対応する反射光が複数のコアのうちのコントローラにより選択された一つのコアに伝播するように、入力光の伝播経路を切り替える構成にされる。
【0012】
液晶偏光回折格子は、複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに対応する一つのコアからの入力光が、液晶偏光回折格子を通り、0次回折光(すなわち0次光)として、対応するMEMSチルトミラーに入射するように配置される。液晶偏光回折格子は、コントローラにより制御されて、0次回折光の強度を変更可能に構成される。
【0013】
このように構成される光スイッチによれば、故意に出力光ファイバコアへの結合率を下げるようにMEMSチルトミラーの傾斜角を制御しなくとも、液晶偏光回折格子の制御により、出力光ファイバコアに伝播する光の強度を調整することができる。従って、本開示の一側面によれば、クロストーク性能に優れたマルチコアファイバ用の光スイッチを提供可能である。
【0014】
本開示の一側面によれば、液晶偏光回折格子は、液晶偏光回折格子を通って複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに入射する0次回折光の強度を、独立して制御可能であるように構成されてもよい。そのために、液晶偏光回折格子は、複数の独立した駆動電極を備え得る。
【0015】
この光スイッチによれば、複数の入力光のそれぞれを、入力光に適合した個別の減衰率で減衰させて、対応するコアから出力可能である。従って、光スイッチの利便性が向上する。
【0016】
本開示の一側面によれば、レンズは、複数のMEMSチルトミラーのそれぞれに伝播する入力光を集光するためのコンデンサレンズを備えることができる。この場合、液晶偏光回折格子は、コンデンサレンズとMEMSチルトミラーアレイとの間に配置され得る。
【0017】
入力光が集光してビーム径が小さく変化した段階で液晶偏光回折格子を通ることにより、隣接する入力光が空間的に重なっている状態で液晶偏光回折格子を通ることを抑制することができる。このため、クロストークの劣化を抑制することができ、各チャンネルの減衰率を精度よく制御することが可能である。
【0018】
本開示の一側面によれば、光スイッチは、遮光体を備えてもよい。遮光体は、開口部と、遮蔽部とを備え得る。遮光体は、開口部によって、液晶偏光回折格子で生じる0次回折光を、MEMSチルトミラーアレイに伝播させる一方、遮蔽部によって、液晶偏光回折格子で生じる1次以上の回折光のMEMSチルトミラーアレイへの伝播を抑制するように構成され得る。遮光体は、液晶偏光回折格子と、MEMSチルトミラーアレイとの間に設けられ得る。
【0019】
遮光体を備える光スイッチによれば、1次以上の回折光が原因でクロストークが劣化するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】光ネットワークにおけるコア選択スイッチの設置例を説明する図である。
【
図2】コア選択スイッチの光学構成を説明する図である。
【
図3】コア選択スイッチを制御するコントローラを説明する図である。
【
図4】コア選択スイッチにおける光スイッチングを概念的に説明する図である。
【
図5】光軸に垂直な面におけるマルチコアファイバの二次元配置を説明する平面図である。
【
図6】
図6Aは、電圧が印加されていない状態での液晶偏光回折格子における光の透過を説明する図であり、
図6Bは、電圧が印加されている状態での液晶偏光回折格子における光の回折を説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
1…光ネットワーク、10…コア選択スイッチ、20…マルチコアファイバ、30…MCFアレイ、40…マイクロレンズアレイ、41…マイクロレンズ、50…コンデンサレンズ、60…液晶偏光回折格子、61…駆動電極、65…エリア、70…アパーチャプレート、71…開口部、75…遮蔽部、80…MEMSチルトミラーアレイ、81…MEMSチルトミラー、90…コントローラ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態のコア選択スイッチ(CSS)10は、単一モードファイバ(SMF)に代えて、マルチコアファイバ(MCF)20を用いて構築される光ネットワーク1のノードに設置される光スイッチである。
【0023】
マルチコアファイバ20のそれぞれは、一つのクラッド内に複数のコア21を備える光ファイバである。本実施形態のコア選択スイッチ10は、複数のマルチコアファイバ20に接続され、入力MCFと、出力MCFとの間において、光信号の伝播経路をコア単位で切替可能に構成される。
【0024】
入力MCFは、複数のマルチコアファイバ20のうち、コア選択スイッチ10に光信号を入力する一以上のマルチコアファイバ20である。出力MCFは、複数のマルチコアファイバ20のうち、コア選択スイッチ10から外部に光信号を出力する一以上のマルチコアファイバ20である。
【0025】
図2に示すコア選択スイッチ10は、光学系の構成要素として、MCFアレイ30と、マイクロレンズアレイ40と、コンデンサレンズ50と、液晶偏光回折格子(LCPG)60と、アパーチャプレート70と、MEMSチルトミラーアレイ80とを備える。
図2における一点鎖線は、入力光のMEMSチルトミラーアレイ80への伝播経路を概略的に表す。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。
【0026】
コア選択スイッチ10には、
図3に示すように、コントローラ90が接続される。コントローラ90は、液晶偏光回折格子60及びMEMSチルトミラーアレイ80を制御可能に、液晶偏光回折格子60及びMEMSチルトミラーアレイ80に接続される。
【0027】
図4は、コア選択スイッチ10において実現される光スイッチングを概念的に説明する。
図4における実線矢印は、入力MCFを通じて外部から入力される入力光の伝播を概念的に表す。
図4における二点鎖線矢印は、入力光に対応するMEMSチルトミラーアレイ80からの反射光であって、出力MCFを通じて外部に出力される反射光の伝播を概念的に表す。
【0028】
MCFアレイ30は、マルチコアファイバ20との接続部として機能する。MCFアレイ30には、複数のマルチコアファイバ20が接続及び固定される。これらの複数のマルチコアファイバ20の少なくとも一部が、上述の入力MCFとして機能する。複数のマルチコアファイバ20の少なくとも一部が、上述の出力MCFとして機能する。
【0029】
複数のマルチコアファイバ20には、入力MCF及び出力MCFの両者として機能するマルチコアファイバ20が含まれていてもよい。例示的なMCFアレイ30では、
図5に示すように、光軸に垂直な面において、9つのマルチコアファイバ20が二次元配列される。
図5に例として示されるマルチコアファイバ20は、それぞれ5つのコア21を有する。
【0030】
マイクロレンズアレイ40は、複数のマイクロレンズ41を備える。複数のマイクロレンズ41は、マイクロレンズアレイ40において、MCFアレイ30におけるマルチコアファイバ20の二次元配列に応じた二次元配列で配置される。各マイクロレンズ41は、コリメータとして機能する。
【0031】
各マイクロレンズ41は、複数のマルチコアファイバ20のうちの一つに対応付けられる。すなわち、各マイクロレンズ41は、複数のマルチコアファイバ20のうちの対応する一つのマルチコアファイバ20からの入力光、又は、当該対応する一つのマルチコアファイバ20への出力光が伝播する経路に配置される。
【0032】
入力MCFの各コア21からの入力光は、対応するマイクロレンズ41によって、コリメート光に変換され、コンデンサレンズ50に入射する。コンデンサレンズ50上の入射位置は、コア21毎に異なる。
図4では、図示される3つのマルチコアファイバ20のうち、中段のマルチコアファイバ20が、入力MCFに対応する。
【0033】
コア選択スイッチ10の光学系は、マイクロレンズアレイ40とコンデンサレンズ50とを用いた4f光学系として構成される。従って、マルチコアファイバ20におけるコアピッチ及びコアMFD(モードフィールド径)は、MEMSチルトミラーアレイ80の反射面上で、倍率M(=f2/f1)に拡大される。ここでf1は、マイクロレンズ41の焦点距離であり、f2は、コンデンサレンズ50の焦点距離である。
【0034】
コンデンサレンズ50は、テレセントリック光学系を形成するように配置される。入力MCFからの入力光は、コンデンサレンズ50を通じて、コンデンサレンズ50通過後の光がコンデンサレンズ50の主光線(主軸)と平行になるよう偏向され、コンデンサレンズ50の焦点位置で焦点を結ぶように集光される。
【0035】
MEMSチルトミラーアレイ80は、この焦点位置に反射面を有するように配置される。MEMSチルトミラーアレイ80は、複数のMEMSチルトミラー81として、入力MCFのコア数と同数以上のMEMSチルトミラー81を備える。
【0036】
複数のMEMSチルトミラー81は、コンデンサレンズ50からの入力光の結像面に設けられる。入力MCFが、複数のマルチコアファイバ20であるとき、MEMSチルトミラーアレイ80には、入力MCFに対応する複数のマルチコアファイバ20のコア数合計と同数以上のMEMSチルトミラー81が設けられる。
【0037】
各MEMSチルトミラー81は、コンデンサレンズ50を通って伝播する、対応する一つのコア21からの入力光が集光する位置に配置される。すなわち、MEMSチルトミラーアレイ80において、複数のMEMSチルトミラー81は、入力MCFのコア21の二次元配列を拡大したパターンで、二次元配列される。
【0038】
MEMSチルトミラー81の傾斜角は、コントローラ90により制御される。コントローラ90は、複数のMEMSチルトミラー81のそれぞれに対する印加電圧を個別に制御可能に、MEMSチルトミラーアレイ80に接続される。
【0039】
コントローラ90による印加電圧の制御により、複数のMEMSチルトミラー81の傾斜角は、それぞれ個別に出力コアに対応する傾斜角に制御される。ここでいう出力コアは、反射光を光結合すべき対象の出力MCFのコア21のことを言う。
【0040】
各MEMSチルトミラー81は、コントローラ90により制御された傾斜角で、対応する一つのコア21からの入力光を反射する。傾斜角に応じて、反射光は、出力MCFが備える複数のコア21のうちの、コントローラ90により選択された一つのコア21、すなわち上述の出力コアに伝播し、出力光として、当該コア21からコア選択スイッチ10の外に出力される。
【0041】
この他、液晶偏光回折格子60は、コンデンサレンズ50とMEMSチルトミラーアレイ80との間に設けられる。
【0042】
マルチコアファイバ20では、複数のコア21が高密度に配置される。このため、入力MCFの各コア21からの入力光は、MEMSチルトミラーアレイ80に近づくまで、空間的にオーバーラップしている。
【0043】
コンデンサレンズ50を通じた集光により、各コア21からの入力光は、MEMSチルトミラーアレイ80の近くで、隣接するコア21の入力光と完全に分離し、対応するMEMSチルトミラー81に入射する。液晶偏光回折格子60は、特にMEMSチルトミラーアレイ80の近くにおいて、各コア21の入力光が完全に分離する位置に配置される。
【0044】
液晶偏光回折格子60は、MEMSチルトミラーアレイ80に向かう入力MCFの各コア21からの入力光の強度を、印加電圧に応じた減衰率で減衰させる。MEMSチルトミラーアレイ80には減衰後の入力光が伝播する。
【0045】
液晶偏光回折格子60は、複数のMEMSチルトミラー81と同じパターンで二次元配列された複数の独立した駆動電極61を備える。複数の駆動電極61に対する印加電圧は、コントローラ90によって個別に制御される。
【0046】
複数の駆動電極61に対する電圧制御を通じて、液晶偏光回折格子60の上記パターンに応じた複数のエリア65には、個別の電圧が印加される。これにより、液晶偏光回折格子60の当該複数のエリア65では、当該エリア65を透過する光が、当該エリア65に印加された個別の電圧に応じた減衰率で減衰する。
【0047】
図6Aに示すように、液晶偏光回折格子60に電圧が印加されていないとき、液晶偏光回折格子60は、回折格子として実質機能せず、液晶偏光回折格子60へ入射する光は、透過光(すなわち0次回折光)として出力される。
【0048】
一方、
図6Bに示すように、液晶偏光回折格子60に電圧が印加されるときには、その印加電圧が増大するほど、1次以上の回折光成分が増えて、0次回折光の強度が低下する。こうした原理で、液晶偏光回折格子60を通過する光は減衰して、MEMSチルトミラーアレイ80に伝播する。
【0049】
このように、液晶偏光回折格子60は、入力MCFの各コア21から、対応するMEMSチルトミラー81に向けて伝播する入力光が液晶偏光回折格子60を通過する際に、入力光の強度を独立して調整可能又は変更可能に構成される。
【0050】
付言すると、液晶偏光回折格子60は、透過型デバイスであり、光の往路及び復路において光を回折する。このため、液晶偏光回折格子60は、往路で発生する1次回折光、復路で発生する1次回折光の双方がマルチコアファイバ20のコア21に結合しない回折角度を実現するように、設計及び配置される。
【0051】
また、MEMSチルトミラーアレイ80の不適切な場所に回折光が当たると、意図しない方向に光散乱が発生し、散乱光が意図しないコア21への結合を誘発し、クロストークを劣化させてしまう可能性がある。
【0052】
アパーチャプレート70は、このような散乱光に起因したクロストークの劣化を抑制するために、液晶偏光回折格子60とMEMSチルトミラーアレイ80との間に設けられる。すなわち、アパーチャプレート70は、不要な光である液晶偏光回折格子60の1次以上の回折光を遮光し、それにより、これらの回折光がマルチコアファイバ20と結合しないように配置される。
【0053】
具体的に、アパーチャプレート70は、プレート状の遮光体に、複数の開口部71が形成された構成にされる。複数の開口部71は、MEMSチルトミラー81の二次元配列に対応する二次元配列で、アパーチャプレート70に設けられ、貫通する孔を規定する。
【0054】
各開口部71は、入力MCFの対応するコア21からの入力光であって、0次回折光として液晶偏光回折格子60を透過する入力光が、アパーチャプレート70により遮蔽されずに、対応するMEMSチルトミラー81に伝播するように、当該入力光の、対応するMEMSチルトミラー81への伝播経路に設けられる。
【0055】
アパーチャプレート70の開口部71以外の部位である遮蔽部75は、液晶偏光回折格子60で生じる1次以上の回折光のMEMSチルトミラーアレイ80への伝播経路を遮断するように配置される。これにより、遮蔽部75は、1次以上の回折光のMEMSチルトミラーアレイ80への伝播を抑制する。
【0056】
上述したように構成されるコア選択スイッチ10では、入力MCFの各コア21からの入力光が、対応するマイクロレンズ41及びコンデンサレンズ50を通過し、液晶偏光回折格子60の、対応するエリア65に入射する。入力光は、液晶偏光回折格子60を0次回折光として透過する際、対応するエリア65の印加電圧に応じた減衰率で減衰する。印加電圧は、コントローラ90により制御される。
【0057】
液晶偏光回折格子60を通って減衰した入力光は、アパーチャプレート70の開口部71を通過して、対応するMEMSチルトミラー81に入射する。この際、液晶偏光回折格子60の1次以上の回折光は、アパーチャプレート70の遮蔽部75で遮蔽され、MEMSチルトミラーアレイ80への伝播を阻害される。
【0058】
MEMSチルトミラー81に入射した光は、その反射面でMEMSチルトミラー81の傾斜角に応じた方向に反射する。反射光は、対応するMEMSチルトミラー81の傾斜角の制御を通じてコントローラ90が選択した出力MCFの一つのコア21である出力コアと光結合する。
【0059】
反射光は、MEMSチルトミラー81の反射面から、アパーチャプレート70の開口部71を通って、液晶偏光回折格子60を透過する。反射光は、液晶偏光回折格子60を透過する際に、再度減衰される。
【0060】
液晶偏光回折格子60を透過した反射光は、コンデンサレンズ50、及び、対応するマイクロレンズ41を通じて、出力コアに入射する。出力コアに入射する光は、出力コアを通じてコア選択スイッチ10の外部に伝播する。
【0061】
以上に説明した本実施形態のコア選択スイッチ10によれば、液晶偏光回折格子60により、光減衰機能を実現する。液晶偏光回折格子60は、複数の駆動電極61を備え、入力MCFの各コア21から入力される入力光を個別の減衰率で減衰可能に構成される。液晶偏光回折格子60は、液晶偏光回折格子60を通って複数のMEMSチルトミラー81のそれぞれに入射する0次回折光の強度を、独立して制御可能である。
【0062】
光スイッチの分野において知られている従来の光減衰手法は、例えば、故意に出力光ファイバへの結合率を下げるようにMEMSチルトミラー81の傾斜角を制御する方法である。しかしながら、この手法は、光ファイバ及び/又はコア21が高密度に配置された光スイッチでは、隣接する光ファイバ及び/又はコア21へ光が漏れ出す現象を抑制することができず、クロストーク性能を劣化させる。
【0063】
他の光減衰手法として、液晶素子から出力される光の偏光角度又は偏向角度を、液晶素子への印加電圧を制御することで調整し、それにより出力光ファイバへの結合率を調整する手法も知られている。しかしながら、液晶素子は、一般的に強い偏光依存性を有する。
【0064】
光スイッチに入力される光の予測できない偏光状態に対処するため、従来手法は、偏波ダイバーシティを使用することによって、光スイッチに入力される光を、直交する二つの直線偏光に分離する。その後、λ/2波長板を使用することによって、一方の直線偏光を他方の直線偏光に変換して、液晶素子に入力する。
【0065】
従って、従来手法では、光学系の部品点数が多い。更には、異なる二つの光路を光学系内で操作する必要があるため、光学系が大型化しやすい。更には、光学レンズ等の収差を受けやすいといった欠点がある。
【0066】
一方、液晶偏光回折格子60は、入射光の偏光状態に依存しない特性を有する。液晶偏光回折格子60は、液晶分子の配向方向が周期的に変化した構造をしており、その光学異方性を利用して偏光無依存な回折素子として動作させることができる。
【0067】
液晶偏光回折格子60は、電圧印加されていない状態では、回折格子として機能せず、入射光は回折することなく直進する。従って、この状態では、光減衰なく入力光が、所望の出力コアに光結合される。
【0068】
一方、液晶偏光回折格子60に対して電圧印加がなされている場合には、印加電圧に応じて回折格子の変調度が強くなり、1次回折光の光強度が増加し、0次回折光の光強度が減少する。このため、液晶偏光回折格子60に対する印加電圧の制御により、出力コアに光結合する入力光である0次回折光の光強度を任意に調整することが可能である。
【0069】
本実施形態では、この液晶偏光回折格子60を、コア選択スイッチ10のテレセントリック光学系のすべての光軸が平行となる位置に配置する。本実施形態では、この配置で、液晶偏光回折格子60の電圧を制御することで入力光の一部を1次回折光として回折させる。これにより、出力コアに結合する0次回折光の強度を調整し光減衰機能を実現する。本実施形態では更に、一次以上の回折光の影響を抑えるために、アパーチャプレート70が、MEMSチルトミラーアレイ80に隣接して設けられる。
【0070】
従って、本実施形態によれば、光減衰機能によってクロストーク性能が劣化するのを抑制することができ、クロストーク性能に優れたマルチコアファイバ20用の光スイッチを提供することが可能である。
【0071】
[その他の実施形態]
本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、図示されるマルチコアファイバ20の数やそのコア数は、例示に過ぎない。本開示は、一以上の任意の数のマルチコアファイバ20を備える光スイッチに適用することが可能である。
【0072】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【要約】
本発明の光スイッチは、一以上のマルチコアファイバ(20)と、レンズ(50)と、液晶偏光回折格子(60)と、MEMSチルトミラーアレイ(80)とを備える。MEMSチルトミラーアレイ(80)において、複数のMEMSチルトミラー(81)のそれぞれは、コントローラにより制御された傾斜角で、対応する一つのコアからの入力光を反射し、対応する反射光がコントローラにより選択された一つのコアに伝播するように、入力光の伝播経路を切り替える構成にされる。液晶偏光回折格子(60)は、複数のMEMSチルトミラー(81)のそれぞれに対応する一つのコアからの入力光が、液晶偏光回折格子(60)を通り、0次回折光として、対応するMEMSチルトミラー(81)に入射するように配置される。