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特許7590056焼結硬質合金、粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型
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  • 特許-焼結硬質合金、粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】焼結硬質合金、粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/06 20060101AFI20241119BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241119BHJP
   C22C 1/051 20230101ALN20241119BHJP
【FI】
C22C29/06 Z
B23B27/14 B
C22C1/051 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024540780
(86)(22)【出願日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2024023886
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 僚太
(72)【発明者】
【氏名】和田 光平
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-88608(JP,A)
【文献】特開昭48-52606(JP,A)
【文献】特開昭56-3649(JP,A)
【文献】特表2020-525301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0411903(US,A1)
【文献】特開平5-78776(JP,A)
【文献】国際公開第2023/114632(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
B23B 27/14
C22C 1/051
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbCを主成分とする硬質相であって、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(だだし、Nbは必須成分である。)を含む炭化物からなる第一硬質相と、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含むホウ化物からなる第二硬質相とを含む硬質相と、
Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種を含む結合相とからなり、
周期表第4~6族元素の少なくとも一種(Nbを除く。)を炭化物換算で前記硬質相の総量に対して3~30体積%含有し、
結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を4~40体積%含有し、
前記結合相成分に対して質量比で0.3~8%のBを含むことを特徴とする焼結硬質合金。
【請求項2】
前記第二硬質相は、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の焼結硬質合金。
【請求項3】
前記第二硬質相はNiを含むことを特徴とする請求項2に記載の焼結硬質合金。
【請求項4】
前記硬質相を構成する金属元素として、W、Mo及びVのうち少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の焼結硬質合金。
【請求項5】
前記第一硬質相は、Nbと、Nb以外の周期表第4~6族元素の少なくとも一種とを含む炭化物相からなることを特徴とする請求項に記載の焼結硬質合金。
【請求項6】
前記第一硬質相は、Nbと、Nb以外の周期表第4~6族元素の少なくとも一種とを含む炭化物相からなることを特徴とする請求項2に記載の焼結硬質合金。
【請求項7】
前記第二硬質相はW及び/又はMoを含むことを特徴とする請求項に記載の焼結硬質合金。
【請求項8】
前記第二硬質相はW及び/又はMoを含むことを特徴とする請求項に記載の焼結硬質合金。
【請求項9】
前記第一硬質相は炭化物及び/又は炭窒化物からなり、焼結硬質合金に含まれる炭素量CCと窒素量CNがCN/(CC+CN)<0.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の焼結硬質合金。
【請求項10】
前記第一硬質相の平均粒径が0.3~4μmであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の焼結硬質合金。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の焼結硬質合金を用いた粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具又は金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結硬質合金、及びそれを用いた粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂や磁性体材料の粉砕、混合、混錬を行うための耐摩耗部材や金型にはセラミックスや超硬合金が用いられることが多い。しかし、セラミックスは靭性が低く耐摩耗部材同士の干渉により欠けやすいという問題がある。スクリュー等は部材の大きさも大きく超硬合金で作製する場合は比重が大きいため部材の重量が重く、片持ちのスクリューなどではたわみの原因になったり、回転速度を上げられないという問題がある。
【0003】
一方、サーメットで大きな部材を焼結する場合には焼結時に割れやすいなどの問題もある。そこで、近年このような耐摩耗部材や金型の軽量化と高靭性化の両立、また焼結割れしにくいサーメットの大型部材が求められている。
【0004】
そのような材料として、NbCは、WCとTiCの中間の硬さと比重を持ち、古くから着目されてきた。近年、NbCを硬質相とする合金の研究開発が進められているが、NiやCoを結合相として焼結したNbC合金は、NbCが粗大化して機械的特性値の低下を起こしやすく、実際の工具や金型で使用するには強度が低く、強度の向上が求められていた。また試験片を真空焼結するか、ホットプレスやSPSでの試作が多く、実際に製品化された例は報告されていない。
【0005】
非特許文献1は、NbCを主原料とし、Mo2C、WC、VC等を1種類以上添加することで、NbCが固溶体相を作り、さらにNbC固溶体相の粒子成長を抑制できるため、硬さ、靱性等の機械的特性値が向上することを開示している。また結合相の種類を変えることで機械的特性値を向上することができる旨も開示している。一方で、抗折力などの強度は低く、強度改善が課題とされていた。
【0006】
特許文献1は、金属筒体の内面に、1種又は2種以上の炭化物粒子を10~90重量%含むNi基あるいはCo基の耐食耐摩耗性焼結合金の層が焼結一体化された構造の複合シリンダであって、該炭化物粒子の少くとも30体積%以上を比重6.5~8.5の炭化物にされてなる複合シリンダを開示している。金属筒体の内面を耐摩耗性焼結合金とした複合構造のシリンダにおいて、内面の焼結合金をWC-CoからNbC-Ni等に置き換え、WC-Coの比重が大きいことに起因した製作上の課題を解消したシリンダを得ることができた。しかし強度や耐摩耗性は十分でなく、それらを要する用途には適用できない。
【0007】
特許文献2は、例えばTiC-WC-Co合金と比較して靭性を低下させることなく硬度を高めることができ、減圧または常圧の手段で高密度焼結が可能な、4a、5a、6a属の遷移金属元素の炭化物、炭窒化物等とW-Ni-B化合物とを主体とする硬質相と、Niを主体とする結合相とからなるサーメット合金を開示しており、実施例2において、NbC-30vol%WB-10vol%Niの原料粉末組成を有するサーメット合金(試料No.6)を開示している。しかしながら、実施例2の試料No.6ではWBを30体積%と多量に含むため、10体積%含まれているNiのほとんどがW2NiB2相等の複合ホウ化物を形成し、焼結体中に残る結合相は1質量%以下となるため、靭性が高いとは言えない。
【0008】
このようにNbC基合金はWC基合金と比べて低比重であることが大きな特徴であるが、強度や耐摩耗性については依然として改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2527078号公報
【文献】特開平5-78776号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Hubler and Gradt: Forsch Ingenieurwes, 86(2022), 197-211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、軽量化と強度及び高靭性を両立させ、かつ肉厚品でも焼結時の割れが生じにくく被研削性にも優れた焼結硬質合金、及びそれを用いた粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明の一実施態様による焼結硬質合金は、NbCを主成分とする硬質相であって、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(だだし、Nbは必須成分である。)を含む炭化物からなる第一硬質相と、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含むホウ化物からなる第二硬質相とを含む硬質相と、
Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種を含む結合相とからなり、
周期表第4~6族元素の少なくとも一種(Nbを除く。)を炭化物換算で前記硬質相の総量に対して3~30体積%含有し、
結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を4~40体積%含有し、
前記結合相成分に対して質量比で0.3~8%のBを含むことを特徴とする。
【0013】
前記硬質相を構成する金属元素として、W、Mo及びVのうち少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0014】
前記第一硬質相は、Nbと、Nb以外の周期表第4~6族元素の少なくとも一種とを含む炭化物相からなるのが好ましい。
【0015】
前記第二硬質相は、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種をさらに含むのが好ましい。
【0016】
前記第二硬質相はW及び/又はMoを含むのが好ましく、Niを含むのが好ましい。
【0017】
前記第一硬質相は炭化物及び/又は炭窒化物からなり、焼結硬質合金に含まれる炭素量CCと窒素量CNがCN/(CC+CN)<0.5の関係を満たすのが好ましい。
【0018】
前記第一硬質相の平均粒径が0.3~4μmであるのが好ましい。
【0019】
本発明の一実施態様による粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具及び金型は、上述の焼結硬質合金を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軽量化と強度及び高靭性を両立させ、かつ肉厚品でも焼結時の割れが生じにくく被研削性にも優れた焼結硬質合金が得られる。これにより、スクリューや粉砕刃などサイズが大きく高速回転を伴う耐摩耗部材に好適に用いられ、粉砕、混合、混錬における生産効率が飛躍的に向上できる。例えば、樹脂や磁性体材料の粉砕、混合、混錬するための工具、粉砕刃などの用途に適する。また同様の特徴を有するため、金型やレンズ成形用周辺部材にも適する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】発明品3の研磨断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1] 焼結硬質合金
本発明の一実施態様による焼結硬質合金は、NbCを主成分とする硬質相であって、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(だだし、Nbは必須成分である。)を含む炭化物からなる第一硬質相と、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含むホウ化物からなる第二硬質相とを含む硬質相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種を含む結合相とからなり、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(Nbを除く。)を炭化物換算で前記硬質相の総量に対して3~30体積%含有し、結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を4~40体積%含有し、前記結合相成分に対して質量比で0.3~8%のBを含むことを特徴とする。
【0023】
硬質相はNbCを主成分として含む。硬質相がNbCを「主成分」として含むとは、NbCの含有量が、体積比率でそれ以外の含有化合物の合計の含有量よりも多いことを意味する。NbCの含有量が体積比でそれ以外の含有化合物の合計の含有量の1.5~5倍であるのが好ましく、2~4倍であるのがより好ましい。
【0024】
第一硬質相はNbCを必須成分として含み、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含む炭化物相である。第一硬質相は、Nbと、Nb以外の周期表第4~6族元素の少なくとも一種とを含む炭化物相であるのが好ましい。第一硬質相は炭化物固溶体相であるのが好ましい。Nbと、Nb以外の周期表第4~6族元素を含む固溶体とすることで、NbCを主成分とする第一硬質相に耐摩耗性を付与することができる。硬質相を構成する金属元素として、W、Mo及びVのうち少なくとも一種を含むのが好ましい。また第一硬質相は、W、Mo及びVのうち少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0025】
硬質相は、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(Nbを除く。)を炭化物換算で硬質相の総量に対して3~30体積%含有する。周期表第4~6族元素の少なくとも一種(Nbを除く。)の含有量は、硬質相に含まれるNb以外の周期表第4~6族元素の総量を意味する。硬質相に含まれるNb以外の周期表第4~6族元素の含有量が3体積%未満であると、第一硬質相に含まれるNb以外の周期表第4~6族元素の含有量が十分でないため、硬質相は十分な耐摩耗性を得ることができない。また硬質相に含まれるNb以外の周期表第4~6族元素の含有量が30体積%を超えると、焼結硬質合金は十分な靭性を得ることができない。硬質相に含まれるNb以外の周期表第4~6族元素の含有量は5~30体積%であるのが好ましく、6~25体積%であるのがより好ましく、6~20体積%であるのがさらに好ましい。
【0026】
第一硬質相の平均粒径が0.3~4μmであるのが好ましい。第一硬質相の平均粒径は、焼結硬質合金の任意の断面のSEM組織をもとにフルマンの式により求められる。第一硬質相の平均粒径が0.3μm未満であると、使用状況によっては靭性が低下し、チッピングが生じる。第一硬質相の平均粒径が4μm超であると、強度が不足する。第一硬質相の平均粒径は0.5~3.5μmであるのがより好ましく、0.7~3μmであるのがさらに好ましい。
【0027】
第一硬質相は、炭窒化物相でも良く、炭化物相と炭窒化物相の両方を含んでいても良い。その際、焼結硬質合金に含まれる炭素量CCと窒素量CNがCN/(CC+CN)<0.5の関係を満たすのが好ましい。すなわち、焼結硬質合金に含まれる炭素量が窒素量より多いのが好ましく、それにより焼結性が低下せず、材料強度も保つことができる。焼結硬質合金に含まれる炭素量CCと窒素量CNがCN/(CC+CN)<0.3の関係を満たすのがより好ましい。
【0028】
第二硬質相は、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含むホウ化物からなる。硬質相中に第二硬質相を存在させることで第一硬質相を微粒化させ強度を向上させることができる。特にW及び/又はMoを含むホウ化物相は微粒化効果が大きいので好ましい。またホウ化物相を存在させることで焼結硬質合金の摺動特性を高めることができる。第二硬質相の平均粒径は4μm以下程度であるのが好ましく、0.1~4μmであるのがより好ましく、0.2~2μmであるのがさらに好ましい。
【0029】
第二硬質相は、周期表第6族元素のうち少なくとも一種の元素と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種の金属元素と、ホウ素とを含む複合ホウ化物X2YB2(Xは周期表第6族元素のうち少なくとも一種、YはNi、Co及びFeのうち少なくとも一種)からなるのが好ましい。それにより、第一硬質相をさらに微粒化させ強度を向上させることができる。これは、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種の金属元素をさらに含むことにより、ピン止め効果による粒成長抑制が起こっているものと考えられ、また複合ホウ化物が存在することにより液相出現温度が低下するため固相での成長が抑制されるためとも考えられる。複合ホウ化物は、例えばW2NiB2、WNiB、W3CoB3、NiW2B15等が挙げられる。
【0030】
本発明の焼結硬質合金は、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種を含む結合相を有し、結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を4~40体積%含有する。ここで、結合相成分とは焼結硬質合金中に含まれるNi、Co及びFeを指しており、結合相成分の含有量は、結合相以外に存在するNi、Co及びFeを含めた焼結硬質合金中の全てのNi、Co及びFeの含有量を意味する。結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を5~30体積%含有するのが好ましく、6~20体積%含有するのがより好ましい。また結合相には硬質相成分が固溶しうる。
【0031】
焼結硬質合金がホウ素を含むことにより、結合相成分と6族元素の複合ホウ化物を形成するため、その分、結合相の含有量が減少する。そのため、複合ホウ化物が多量に形成されれば焼結硬質合金の硬度は上昇するものの靭性・強度は低下する。このため、焼結硬質合金に含ませるホウ素の量は結合相成分に対して質量比で0.3~8%である。0.3%未満であると十分な微粒化効果が得られず、8%超であると十分な強度や靭性が得られない。焼結硬質合金に含ませるホウ素の量は結合相成分に対して質量比で0.4~7%であるのが好ましく、0.6~5%であるのがより好ましく、0.8~4%がさらに好ましい。
【0032】
本発明の焼結硬質合金は、結合相成分とNbとの金属間化合物からなる第4相をさらに含んでも良い。金属間化合物は、例えば、Ni3Nb、Ni6Nb7、Fe2Nb、Fe7Nb6、Fe2Nb3、Co2Nb、Co7Nb6等が挙げられる。第4相を存在させても焼結硬質合金の室温での特性・性能に特段害悪は与えないが、使用環境の温度が高まった際には硬度の低下を抑えることができる。第4相は、結合相と第4相の総和に対して40体積%以下含んでいても良く、30体積%以下であるのが好ましく、20体積%以下であるのがより好ましい。
【0033】
[2] 焼結硬質合金の製造方法
本発明の焼結硬質合金の製造方法の一例として、上述の焼結硬質合金の構成成分粒子の粉末を配合し、有機溶媒中で湿式混合粉砕し、乾燥した後、パラフィン等結合剤を添加した粉末を加圧成形して成形体を形成し、成形体を焼結することにより焼結硬質合金を得る方法が挙げられる。
【0034】
第二硬質相の構成成分であるホウ素は、ホウ素粉末として添加しても良く、TiB2やWB等のホウ化物粉末として添加しても良い。
【0035】
混合粉末の成形体は、プレス成形により完成品に近い状態(ニアネットシェイプ)に成形しても良く、さらにそれを機械加工して所定の形状を付与したものでも良い。また仮焼結後に機械加工して所定の形状を付与しても良い。
【0036】
焼結時の雰囲気は真空でも良いし、不活性ガス中でも良い。窒素を含む混合粉末の成形体を焼結する場合は窒素又は窒素を含む混合ガスを使用しても良いし、COガス等を用いても良い。またそれらの雰囲気ガスの導入温度やガス圧力は目的により種々変化させて良い。昇温速度、焼結温度やその保持時間、またそれに至る途中での温度保持及びガス圧力は脱脂や焼結性向上また表面性状の改善など目的により任意に選定できる。
【0037】
焼結温度は、1250~1500℃とするのが好ましく、1280~1450℃とするのがより好ましい。普通焼結した焼結体をHIP処理しても良い。HIP処理の圧力は0.5 MPa以上200 MPa以下であるのが好ましい。焼結は、ホットプレス焼結により行っても良いし、通電焼結、SPS焼結等の電磁エネルギー支援焼結により行っても良い。また、用途に応じてsinter-HIPで焼結しても良い。
【0038】
[3] 焼結硬質合金部材
本発明の焼結硬質合金は、スクリューや粉砕刃などサイズが大きく高速回転を伴う粉砕用工具、混錬用工具、耐摩耗工具や金型等に好適に用いられる。そのため本発明の焼結硬質合金を用いた焼結硬質合金部材は、例えば、粉砕、混合又は混練用部材に用いることで優れた性能を発揮することができる。また本発明の焼結硬質合金は、これらの用途に限らず、工具使用時に割れ等が発生しにくいため打抜きパンチや室温、温間及び熱間の成形型、押出型、金型及び鍛造パンチに用いることができ、また部材の取扱い時に欠けや割れが生じにくいため熱膨張係数が大きい特殊レンズ用の胴型などのレンズ成形用周辺部材に用いることは有効である。
【0039】
上述のような耐摩耗工具や部材に限らず、本発明の焼結硬質合金部材は、インサートチップ、エンドミル、ドリル等の切削工具でも効果を発揮する場合もある。本発明の焼結硬質合金は、TiCN系サーメットとは異なり、WC系超硬合金とほぼ同等の研削加工性を備えており、複雑な形状を有する部材であっても形状加工が容易であり、切削加工費も安価で済む。また本発明の焼結硬質合金部材は、DLCやPVDにより硬質コーティングを表面に被覆しても良いし、用途によってはCVDにより硬質コーティングを表面に被覆しても良い。
【実施例
【0040】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
原料粉末として、NbC(1.6μm)、WC(0.8μm)、VC(2.0μm)、Mo2C(3.5μm)、TaC(1.8μm)、TiC(1.7μm)、B(0.8μm)、TiB2(2.8μm)、WB(4.5μm)、NbB(2.0μm)、Ni(2.4μm)、Co(1.4μm)、Fe(3.0μm)を準備した[カッコ内の数値はフィッシャー粒度測定法(FSSS法)により測定した平均粒度]。表1に示す組成となるように湿式混合により混合粉末を作製し、98 MPaの圧力で圧粉成形し、1300℃(Ar雰囲気)で焼結して、発明品1~21及び比較品1~3を作製した。発明品12は、原料粉末としてNbCの代わりにNb(C0.5N0.5)(1.8μm)を使用した。発明品12に含まれる炭素量CCを硫黄・炭素分析装置(LECO社製)、窒素量CNを酸素・窒素分析装置(LECO社製)により調べたところ、両者の関係式:CN/(CC+CN)は0.47であった。
【0042】
【表1】
【0043】
発明品1~21及び比較品1~3の構成相、硬質相を構成する金属元素に占めるNb以外の周期表第4~6族元素の炭化物換算での割合(体積%)、結合相成分(質量%)に対するホウ素(質量%)の割合(%)、焼結合金に含まれるホウ素量(質量%)、及びホウ化物相に含まれる金属元素を調べた。ホウ化物相に含まれる金属元素はSEM-EDXによる元素分析により測定した。焼結合金に含まれるホウ素量はICP発光分光分析法により測定した。得られた結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
注※1.A:硬質相を構成する金属元素に占めるNb以外の周期表第4~6族元素の炭化物換算での含有量(体積%)。
注※2.B:結合相成分の含有量(質量%)に対するホウ素の含有量(質量%)の割合(%)。
注※3.C:焼結合金に含まれるホウ素量(質量%)。
注※4.D:ホウ化物相に含まれる金属元素。
注※5.第一硬質相。
注※6.第二硬質相。
注※7.第一相が炭窒化物相である。
【0045】
各試料の第一硬質相の平均粒径、ビッカース硬さ、抗折力を調べた。第一硬質相の平均粒径は各試料の任意の断面のSEM組織をもとにフルマンの式により求め、ビッカース硬さはビッカース硬度計を用いて計測(HV30)し、抗折力は各試料の#140平面研削仕上げ面を張力面とし、JISR 1601に基づいて3点曲げ試験により測定した。
【0046】
各試料の混錬工具に用いることを想定した耐摩耗性(工具としての摩耗のしにくさ)を評価するために、ラバーホイール試験(規格:ASTM G65)にて試験を行い、摩耗の大きさを0~5で評価した。発明品1の摩耗量の0.9倍以上1.0倍未満のときを「3」、0.8倍以上0.9倍未満のときを「4」、0.8倍未満のときを「5」、1.0倍以上1.1倍未満のときを「2」、1.1倍以上1.2倍未満のときを「1」、1.2倍以上のときを「0」とした。
【0047】
各試料の耐欠け性(工具としての欠けにくさ;靱性)を評価するために、ダイヤモンドホイール砥石(#140)を用いて、切込み量5μmの条件で平面研削を行い、20°のシャープエッジに加工した。そのときの各試料のシャープエッジの先端の欠けの大きさを0~5で評価した。発明品3の欠け幅の0.9倍以上1.1倍未満のときを「4」、0.9倍未満のときを「5」、1.1倍以上1.2倍未満のときを「3」、1.2倍以上1.3倍未満のときを「2」、1.3倍以上1.4倍未満のときを「1」、1.4倍以上のときを「0」とした。表3にそれらの評価結果と各試作品の第一硬質相の平均粒径、ビッカース硬さ、抗折力を示す。
【0048】
また比較のために、粉末ハイス鋼からなる試料を比較品4として作製し、耐摩耗性及び耐欠け性について同様の試験を行った。
【0049】
【表3】
注※1:粉末ハイス鋼。
【0050】
比較品1及び2は、いずれもホウ化物からなる第二硬質相を含んでおらず、第一硬質相の粒径が大きいため耐摩耗性が低く、抗折力が低いため耐欠け性も劣った。比較品3はホウ素含有量が多く、第二硬質相が多いため耐摩耗性は優れたが、同時に抗折力が低いため耐欠け性に劣った。
【0051】
比較品4は、耐欠け性は優れて評価「5」であったが、耐摩耗性は発明品3の4.5倍の摩耗量であり著しく劣ることがわかった。
【0052】
次に本発明の焼結硬質合金を粉砕工具に用いることを想定した耐摩耗性を評価するために、ステンレス鋼からなる試料を別途用意し、ブラスト装置を用いて、SiCの粉体(粒度:#500)を、投射角度30°、投射圧力0.6 MPa及び投射時間90秒の条件でステンレス鋼試料及び発明品3に衝突させた。耐摩耗試験後のステンレス鋼試料は発明品3と比較して2倍の摩耗量であり、粉砕工具としての耐摩耗性が著しく劣ることが分かった。
【0053】
発明品3の焼結体切断面を鏡面研磨して走査型電子顕微鏡(Regulus8100、日立ハイテク社製)により撮影したSEM組織(観察倍率:5,000倍)を図1に示す。同時にEDS分析により各相の組成分析を行い、第一硬質相(灰色の相)はNb、W、Mo、Vが含まれる炭化物相であること、第二硬質相(白色の相)はW、Mo、Ni、Coが含まれるホウ化物相であることを確認した。またXRDにより結晶構造を調べ、第二硬質相が(W,Mo)2(Ni,Co)B2であることを確認した。
【0054】
発明品3を混錬工具にて使用した場合、比較品4の粉末ハイス鋼と比較して寿命が5倍となった。また粉砕工具にて使用した場合、既存品であるステンレス鋼を用いた工具は摩耗が著しく、発明品3はステンレス鋼を用いた工具と比較して寿命が2倍となった。
【要約】
NbCを主成分とする硬質相であって、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(だだし、Nbは必須成分である。)を含む炭化物からなる第一硬質相と、周期表第4~6族元素の少なくとも一種を含むホウ化物からなる第二硬質相を含む硬質相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも一種を含む結合相とからなり、周期表第4~6族元素の少なくとも一種(前記第一硬質相に含まれるNbを除く。)を炭化物換算で前記硬質相の総量に対して3~30体積%含有し、結合相成分としてNi、Co及びFeのうち少なくとも一種を4~40体積%含有し、前記結合相成分に対して質量比で0.3~8%のBを含む焼結硬質合金。
図1