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  • 特許-防護織布 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】防護織布
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/47 20210101AFI20241119BHJP
   D02G 3/32 20060101ALI20241119BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20241119BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20241119BHJP
   D03D 15/573 20210101ALI20241119BHJP
【FI】
D03D15/47
D02G3/32
D02G3/36
D03D15/56
D03D15/573
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2022560459
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2022055312
(87)【国際公開番号】W WO2022184789
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】21160233.9
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(72)【発明者】
【氏名】ファトマ コルクマズ
(72)【発明者】
【氏名】エルドアン バルシュ オッデン
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ ゼイレク
(72)【発明者】
【氏名】ファティー コヌコウルー
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6340128(JP,B1)
【文献】特開2017-036526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0244771(US,A1)
【文献】特表2018-510972(JP,A)
【文献】特表2013-544983(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0102224(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0048497(US,A1)
【文献】中国実用新案第212477006(CN,U)
【文献】国際公開第2019/122378(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0273135(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸を有する織布であって、前記経糸および前記緯糸が、芯および鞘を有しており、前記芯が、第1の芯構成要素および第2の芯構成要素を有しており、前記第1の芯構成要素が、DIN EN ISO2062により測定される、少なくとも10g/デニールの引張強度を有しており、前記第2の芯構成要素が、エラストマー製の要素を有しており、経方向での前記織布の弾性が、(ASTM D3107に従って測定して)少なくとも20%であり、緯方向での前記織布の弾性が、(ASTM D3107に従って測定して)少なくとも20%であり、前記第1及び第2の芯構成要素は、交絡または共フィードにより互いに結合されており、前記第1および第2の芯構成要素が前記共フィードにより結合されている場合、これら両要素は、共に制限部に供給され、押し通されることにより、一緒に圧縮されて付着した状態となっていることを特徴とする織布。
【請求項2】
前記第1の芯構成要素は、少なくとも14g/デニールの引張強度を有していることを特徴とする請求項1に記載の織布。
【請求項3】
前記第1及び第2の芯構成要素が交絡により結合されている場合、結合点の個数は1メートルあたり20~200点であることを特徴とする請求項1又は2に記載の織布。
【請求項4】
前記第1及び第2の芯構成要素を組み合わせる前に、前記第2の芯構成要素は1.5~6倍の範囲の比率で延伸されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の織布。
【請求項5】
前記第1の芯構成要素の材料が、UHMWPE、アラミド、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリエステルから選択されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の織布。
【請求項6】
前記第1の芯構成要素の材料はUHMWPEであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の織布。
【請求項7】
前記第1の芯構成要素の材料はUHMWPEであり、前記第2の芯構成要素の材料はポリウレタンであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の織布。
【請求項8】
前記第1の芯構成要素と前記第2の芯構成要素とが、前記共フィードによって互いに結合されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の織布。
【請求項9】
前記鞘が、綿繊維を有していることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項記載の織布。
【請求項10】
前記織布の組織が、朱子織、綾織およびキャンバス織から選択された単層組織であることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の織布。
【請求項11】
前記織布の組織は3/1綾織であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の織布。
【請求項12】
緯方向での前記織布の弾性が、少なくとも30%であることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項記載の織布。
【請求項13】
経方向での前記織布の弾性が、25%~40%であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか1項記載の織布。
【請求項14】
前記経糸および/または前記緯糸が、重量において以下の組成を有しており、前記第1の芯構成要素が、前記経糸/緯糸の重量の10%~60%であり、前記第2の芯構成要素が、前記経糸/緯糸の重量の1.5%~40%であり、前記鞘が、前記経糸/緯糸の重量の40%~88.5%であることを特徴とする請求項1から13までのいずれか1項記載の織布。
【請求項15】
前記緯糸中の前記第2の芯構成要素の材料はポリウレタンであり、前記緯糸中の前記第2の芯構成要素の重量の割合は11.3~40%であることを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載の織布。
【請求項16】
前記経糸および前記緯糸の番手が、NE4~NE80に含まれていることを特徴とする請求項1から15までのいずれか1項記載の織布。
【請求項17】
前記第1の芯構成要素の番手が、30デニール~500デニールに含まれていることを特徴とする請求項1から16までのいずれか1項記載の織布。
【請求項18】
前記第2の芯構成要素の番手が、20デニール~500デニールに含まれていることを特徴とする請求項1から17までのいずれか1項記載の織布。
【請求項19】
前記経糸の密度が、15~70本/cmであり、前記緯糸の密度が、15~50本/cmであることを特徴とする請求項1から18までのいずれか1項記載の織布。
【請求項20】
ASTM D5034により測定される、経方向の引張強さと緯方向の引張強さとが、50Kgよりも大きいことを特徴とする請求項1から19までのいずれか1項記載の織布。
【請求項21】
ASTM D1424により測定される経方向の引裂強さと緯方向の引裂強さとが、10000gより大きいことを特徴とする請求項1から20までのいずれか1項記載の織布。
【請求項22】
衣服であって、該衣服の少なくとも一部が、請求項1から21までのいずれか1項記載の織布から形成されていることを特徴とする衣服。
【請求項23】
芯および鞘を有している糸であって、前記芯が、第1の芯構成要素と第2の芯構成要素とを有しており、前記第1の芯構成要素が、少なくとも10g/デニールの引張強度を有しており、前記第2の芯構成要素が、エラストマー製の要素を有しており、前記第1及び第2の芯構成要素は、交絡または共フィードにより互いに結合されており、前記第1および第2の芯構成要素が前記共フィードにより結合されている場合、これら両要素は、共に制限部に供給され、押し通されることにより、一緒に圧縮されて付着した状態となっていることを特徴とする糸。
【請求項24】
前記第1の芯構成要素は、少なくとも14g/デニールの引張強度を有していることを特徴とする請求項23に記載の糸。
【請求項25】
前記第1及び第2の芯構成要素が交絡により結合されている場合、結合点の個数は1メートルあたり20~200点であることを特徴とする請求項23又は24に記載の糸。
【請求項26】
前記第1及び第2の芯構成要素を組み合わせる前に、前記第2の芯構成要素は、1.5~6倍の範囲の比率で延伸されていることを特徴とする請求項23~25のいずれか1項に記載の糸。
【請求項27】
重量において以下の組成を有しており、前記第1の芯構成要素が、前記糸の重量の10%~60%であり、前記第2の芯構成要素が、前記糸の重量の1.5%~40%であり、前記鞘が、前記糸の重量の40%~88.5%であることを特徴とする請求項23~26のいずれか1項に記載の糸。
【請求項28】
NE4~NE80に含まれる番手を有しており、前記第1の芯構成要素の番手が、30デニール~500デニールに含まれており、前記第2の芯構成要素の番手が、20デニール~500デニールに含まれていることを特徴とする請求項23~27のいずれか1項に記載の糸。
【請求項29】
前記第1の芯構成要素の破断点伸びが、10%未満であることを特徴とする請求項23から28までのいずれか1項記載の糸。
【請求項30】
前記第1の芯構成要素と前記第2の芯構成要素とが、前記共フィードによって互いに結合されていることを特徴とする請求項23から29までのいずれか1項記載の糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護織布および防護織布の製造、すなわち摩耗に対する耐性を有する織布および特に摩耗に耐性のある弾性織布に関する。
【背景技術】
【0002】
特にオートバイと一緒に使用するための衣服における耐摩耗性布帛は、当該技術分野において知られている。特に付加的な硬質材料または補強材料を備えた布帛から成る防護服が知られている。これらの硬質材料は通常、着用者に不快感を与える。これらの衣服および布帛は、見映えがせず、魅力的でないことも多い。
【0003】
したがって、ユーザにとって着心地がよい一方で、ユーザに摩耗からの効果的な防護を提供する防護織布および防護服、つまり高い耐摩耗性も提供する、着心地がよく美的に許容可能である布帛および衣服に対する需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、防護織布であって、衣服に仕立てられた場合に、その衣服の着用者にとって着心地がよく魅力的である防護織布を提供することによって、先行技術の問題を解決することである。
【0005】
本発明の別の目的は、簡単に製造および処理することができ、特に簡単に染色することができる織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの目的および別の目的は、添付された特許請求の範囲の請求項のうちの1つまたは複数に記載の織布および衣服により達成された。
【0007】
したがって、本発明の対象は、請求項1に記載の織布および請求項15に記載の衣服である。好適な態様は、従属請求項に記載されている。
【0008】
特に、本発明の1つの態様は、経糸および緯糸を有する織布であって、経糸および緯糸が、芯および鞘を有しており、芯が、第1の芯構成要素および第2の芯構成要素を有しており、第1の芯構成要素が、少なくとも6g/デニール(52.98cN/tex)、より好適には少なくとも10g/デニール(88.30cN/tex)、最も好適には少なくとも14g/デニールの引張強度(breaking tenacity)を有している一方で、第2の芯構成要素が、1つ以上のエラストマー製の要素を有しており、経方向での織布の弾性(つまり織布伸張性)が、(ASTM D3107に従って測定して)少なくとも20%であり、緯方向での織布の弾性(つまり織布伸張性)が少なくとも20%である、織布に関する。
【0009】
公知のように、テキスタイルの分野では、エラストマー製の要素(またはフィラメント)を、その当初の長さの少なくとも2倍にまで伸張させることができる。好適には、第2の芯構成要素は、その当初の長さより400%大きく伸張させることができる。換言すると、室温において化学的な処理なしで、第2の芯をその当初の長さの5倍の長さにまで伸張させることを可能にする少なくとも1つの方法があり、すなわち、破断点伸びは、少なくとも200%、好適には少なくとも400%である。弾性糸の破断点伸びを試験するために適した例示的な試験機は、当該技術分野において公知であり、例えば、Uster Tensorapid機である。
【0010】
好適な実施形態では、第1の芯構成要素の引張強度は、少なくとも14g/デニール、さらにより好適には20g/デニール、つまりデニールあたり20g、つまり少なくとも176.60cN/texである。
【0011】
第1の芯構成要素は、単一の要素または複数の要素を有していてよく、例えば、第1の芯構成要素は単一フィラメントであってよく、または第1の芯構成要素が複数のフィラメントを有していてよい。複数のフィラメントは、合着されたフィラメント(フィラメント同士が固着している)または合着されていない(別個の)フィラメントであってよい。したがって、特に指定のない限り、第1の芯構成要素の特性は、第1の芯構成要素の全ての要素の合計である。1つの例として、第1の芯構成要素の番手は、全ての要素の番手の合計である。引張強度は、相対的な特性として、つまり構成要素のデニールの関数として論じられる。結果として、第1の芯構成要素の要素は一緒に、または別個に試験し、関連する結果を組み合わせることができる。
【0012】
第1の芯構成要素は、好適には、1本以上のUHMWPEフィラメントから形成されている。UHMWPE(つまり、超高分子量ポリエチレン)は、当該技術分野で公知の材料である。第1の芯構成要素が、好適には経糸および緯糸の両方の芯において使用されていて、織布(ひいては最終的な衣服)に高い耐摩耗性を提供する一方で、鞘の存在は、UHMWPEがユーザの肌に(不快に)触れることと、目に見えることとを阻止する。UHMWPEフィラメントは、第1の芯構成要素にとって最も好適な材料である。実際に意想外に、UHMWPEフィラメントが、高い靱性および耐摩耗性を有している一方で、目むき(grin through)も阻止することが判った。換言すると、通常の使用時に、上述のフィラメントは、織布の伸縮を数回繰り返した後でさえ、表面に露出することなしに、鞘内で経糸/緯糸の芯部分の中心にとどまる。
【0013】
同様に、第2の芯構成要素は、単一の要素から成っていてもよく、または第2の芯構成要素は複数の要素を有していてよく、例えば単一フィラメントまたは複数のフィラメントを有していてよい。
【0014】
これに加えて、経糸の芯および緯糸の芯の両方にエラストマー製のフィラメントを使用することにより、最終的な織布に、あらゆる方向での弾性が提供される。さらにこのような効果は、特にオートバイ使用のために着心地のよい衣服を提供し、実際に、両方向の弾性は、織布に経方向および緯方向での延伸を可能にし、これにより、衣服がユーザの身体と一緒に動くことを可能にする。衣服が一着のズボンである場合、ユーザは座っている位置で制限または拘束されておらず、特に膝および腰回りの領域における不快感が回避される。
【0015】
可能な1つの態様によれば、織布は、好適には朱子織、綾織およびキャンバスから選択された単層組織を有している。これらの組織、特に朱子織および綾織(斜文織)は、織布に通常のデニム調を提供することができる。最も好適な組織は、綾織であり、好適には3/1綾織である。
【0016】
可能な1つの態様によれば、第1の芯構成要素および第2の芯構成要素は、交絡、加撚または共フィードによって互いに結合されている。好適な1つの実施形態では、第1の芯構成要素は、複数のUHMWPEフィラメントを有し、好適には複数のUHMWPEフィラメントから成っており、第2の芯構成要素は、複数のエラストマー製のフィラメントを有し、好適には複数のエラストマー製のフィラメントから成っている。UHMWPEに対して代替的に、アラミドフィラメント、液晶ポリマーフィラメント、高強度ポリエステルまたは少なくとも6g/デニール、好適には少なくとも10g/デニールまたは14g/デニールまたは20g/デニールの引張強度を有するポリアミドフィラメントのような別のフィラメントを使用することができる。
【0017】
適切なエラストマー製のフィラメントは、ポリウレタン(elastane)およびゴム、好適にはポリウレタンが含まれる。耐摩耗性フィラメントとエラストマー製のフィラメントとを組み合わせる前に、エラストマー製のフィラメントは、1.5:1~6:1の範囲の比率で延伸され、つまりエラストマー製のフィラメントは、その初期の長さより50%~500%大きく延伸される。
【0018】
可能な1つの態様によれば、鞘は、短繊維を有していて、好適には短繊維から成っている。鞘のための好適な繊維は、天然繊維、より好適には綿繊維である。別の可能な天然繊維は、例えば、ウールおよびリネンである。ポリエステルおよびポリアミドのような合成材料も鞘のために使用することができる。鞘、特に綿鞘は、ユーザの肌に柔らかく自然な感触を与える。これに加えて、綿表面は、(染色しない実施形態が可能である場合でも)例えば、藍、墨または別の染料で、例えば、エクリュ染色(ecru dyeing)、ロープ染色、スラッシャ染色または別の適切な方法により染色することができる。
【0019】
上述の材料の組み合わせと、好適には芯構成要素の結合とは、芯が表面に露出することなしに数度の異なる洗浄を受けることができる従来のデニム生地のような、洗浄可能な織布も提供する。つまり、糸の目に見える面は、実質的に100%鞘の材料、例えば100%綿である。
【0020】
可能な1つの態様によれば、緯方向での織布の弾性は少なくとも30%である。可能な1つの態様によれば、経方向での弾性は25%~40%である。
【0021】
可能な1つの実施形態によれば、織布の経糸と緯糸とのために同一の糸が使用される。可能な代替的な解決策では、経糸は緯糸とは異なっている。換言すると、可能な1つの解決策によれば、経糸と緯糸とは、同じ種類の糸から形成されている。しかし、緯糸は、経糸とは異なる番手を有していて、かつ芯構成要素の性質は、経糸と緯糸とで同一であることが可能である。
【0022】
可能な1つの態様によれば、経糸の番手と緯糸の番手とは、NE4~NE80、より好適にはNE8~NE60、さらにより好適にはNE10~NE20に含まれている。最終的な糸は、典型的には(例えば、加撚によって)別の糸と組み合わせられておらず、したがって番手は、好適にはNE4/1~NE80/1であり、より好適にはNE8/1~NE60/1の範囲内であり、さらにより好適にはNE10/1~NE20/1である。
【0023】
可能な1つの態様によれば、第1の芯構成要素の番手(すなわち、第1の芯構成要素を形成する唯1つの要素、典型的にはフィラメントの番手、または第1の芯構成要素の全ての互いに異なる要素の番手の合計、典型的には第1の芯構成要素の全てのフィラメントの合計)は、30デニール~500デニール、より好適には60~200デニール、さらにより好適には75~150デニールに含まれている。
【0024】
可能な1つの態様によれば、第2の芯構成要素の番手(すなわち、上述したように、第2の芯構成要素を形成する唯1つの要素の番手、または第2の芯構成要素を形成する互いに異なる要素の番手の合計)は、20~500デニール、より好適には40~200デニール、さらにより好適には70~105デニールに含まれている。
【0025】
好適な1つの態様によれば、第1の芯構成要素の複数の要素は(2つ以上の要素を有する場合)、同一の材料から形成されている、かつ/または同一の番手を有している。
【0026】
好適な1つの態様によれば、第2の芯構成要素の複数の要素は(2つ以上の要素を有する場合)、同一の材料から形成されている、かつ/または同一の番手を有している。
【0027】
第1の芯構成要素の要素は、第2の芯構成要素の要素の材料とは異なる材料から形成されている。
【0028】
好適な1つの態様によれば、第1の芯構成要素の破断点伸びは、DIN EN ISO 2062により試験して、10%未満、より好適には8%未満である。好適には、この値は、第1の芯構成要素の各要素にも適用される。
【0029】
好適には、経糸および緯糸の組成は、以下の通りである:第1の芯構成要素は、糸の重量の少なくとも10%であり、第2の芯構成要素は、糸の重量の少なくとも1.5%であり、鞘は、糸の重量の少なくとも40%である。好適な(重量における)範囲は、以下の通り:第1の芯構成要素10%~60%、第2の芯構成要素1.5%~40%、鞘38.5%または40%~88.5%である。
【0030】
可能な1つの態様によれば、最終的な織布の経糸密度は、15~70本/cmであり、緯糸密度は、15~50本/cmである。好適な実施形態は、経糸密度は、20~60本/cmであり、かつ/または緯糸密度は、18~40本/cmである。
【0031】
高強度糸、特にUHMWPE糸は、通常、低い融点/軟化点を有している。特に、典型的には、UHMWPEは、約120℃~140℃の融点を有している。結果として、好適な実施形態によれば、織布は、ヒートセット加工されていない。より一般的には、織布の製造中に、約100℃~110℃を上回る織布の加熱を引き起こす熱処理が好適には回避される。好適には、織布が染色されている場合、染色は100℃未満の温度または室温で実施される。
【0032】
これに関して、ヒートセット加工が実施されない場合、組織は、洗濯時に最終的な衣服の収縮が低減されるように、選択されている。好適な織布は、上述したような密度および番手を使用しており、好適には9~22oz sq ydの目付(1平方ヤードあたりの重さ(オンス))を有している。前述のように、好適な組織は、図1に示すような綾織、特に3/1綾織である。
【0033】
特に図1に示されているように、この組織は、織機において4つの異なる運動を含んでいる。同様に、図示された繰返し単位の4本の経糸および4本の緯糸のシーケンス運動は、全て一緒になって1つのパターンを形成する。経糸側における4回目の運動の後に、パターンは、経糸と緯糸とが一緒に行う1回目の運動に戻る。これら全ての経糸運動および緯糸運動は、1つの組織図において4つの互いに異なるシーケンスで生じ、1つの完全組織の後、パターンは、経糸/緯糸が一緒に行う運動の最初のシーケンスに戻る。
【0034】
経糸パターンは、右から左に見て、2b/1a/1b、1b/1a/2b、1a/3b、3b/1aであり、ここで「a」は、沈み部分であり、「b」は、浮き部分である。
【0035】
可能な1つの態様によれば、ASTM D5034、一般的にはASTM D5034 GE(すなわち、定速引張試験機での織物グラブ引張試験)により15×10cm(長さ×幅)の試料において測定される、織布の経方向の引張強さ(tensile strength)と緯方向の引張強さは、50Kgより大きく、より好適には80Kgより大きい。好適な1つの実施形態では、少なくとも経方向の引張強さは(場合によっては緯方向の引張強さも)、100kgより大きい。
【0036】
可能な1つの態様によれば、ASTM D1424により、典型的には10×7.5cm(長さ×幅)の試料において測定される、ASTM D1424の図1(a)に示されるダイにより切断される織布の経方向の引裂強さおよび緯方向の引裂強さは、10000gより大きく、好適には13900gより高い。
【0037】
本発明の別の態様は、衣服であって、衣服の少なくとも一部が、先行する請求項のいずれか1項記載の織布から形成されている、衣服にも関する。
【0038】
衣服の好適な実施形態は、一着のズボンである。
【0039】
本発明の別の態様は、芯および鞘を有する糸であって、芯が、第1の芯構成要素と第2の芯構成要素とを有しており、第1の芯構成要素が、少なくとも6g/デニール、より好適には少なくとも10g/デニールの引張強度を有しており、第2の芯構成要素が、エラストマー製の要素を有している、糸に関する。
【0040】
さらにより好適な実施形態は、少なくとも20g/デニールの第1の芯構成要素の引張強度を有している。
【0041】
好適には、上述したように、第1の芯構成要素が、10%未満、さらにより好適には8%未満の破断点伸びを有している。第2の芯構成要素の破断点伸びは、好適には200%よりも大きく、さらにより好適には400%よりも大きい。第1の芯構成要素の破断点伸びは、DIN EN ISO 2062により測定することができる一方で、第2の構成要素の破断点伸びは、適切な方法により測定することができ、つまり、室温で第2の芯構成要素の少なくとも200%、より好適には少なくとも400%の伸長を可能にする少なくとも1つの方法がある。
【0042】
上述したように、糸の1つの好適な組成は以下の通りである:第1の芯構成要素は、糸の重量の10%~60%であり、第2の芯構成要素は、糸の重量の1.5%~40%であり、鞘は、糸の重量の40%~88.5%である。
【0043】
好適には、糸は、NE4~NE80、より好適にはNE8~NE60、さらにより好適にはNE10~NE20に含まれている番手を有しており、第1の芯構成要素の番手は、30デニール~500デニール、より好適には60~200デニール、さらにより好適には75~150デニールに含まれており、ここで、第2の芯構成要素の番手は、20~500デニール、より好適には60~150デニール、さらにより好適には70~105デニールに含まれている。
【0044】
第1の芯構成要素と第2の芯構成要素とは、好適には、共フィード、加撚または交絡を介して互いに組み合わせられる。
【0045】
この糸は、最終的な織布に耐摩耗性を提供し、概して非弾性である高耐性の構成要素の存在にもかかわらず、弾性(伸長可能な)織布を織ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明のための好適な組織図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、経糸および緯糸を有する織布に関する。
【0048】
経糸と緯糸とは、同一の構造を有しており、即ち、第1の芯構成要素と第2の芯構成要素とを有する芯を有しており、芯は鞘により覆われている。
【0049】
典型的には、芯は、別の構成要素を有していない。好適には、芯は、単一の第1の芯構成要素と、単一の第2の芯構成要素とを有している。しかし、芯が1つより多くの第1の糸および/または1つより多くの第2の糸を有していることは除外されていない。
【0050】
第1の芯構成要素は、高い耐摩耗性を提供し、典型的には低弾性の構成要素である。
【0051】
より詳細には、第1の芯構成要素は、ISO 2062により試験された場合、6g/デニール以上、より好適には10g/デニール以上、さらにより好適には14g/デニール以上の引張強度を有する。最も好適な実施形態は、20g/デニール以上、例えば20g/デニール~50g/デニールの引張強度を有している。
【0052】
好適には、第1の芯構成要素は、低い弾性、ひいては低い伸張性を有している。特に、好適な1つの解決策によれば、DIN EN ISO 2062により試験した場合に、第1の芯構成要素の破断点伸びは10%未満、より好適には8%未満である。
【0053】
第1の芯構成要素は、単一フィラメント糸であってよく、または複数のフィラメントおよび/または繊維を含む糸であってよい。第1の芯構成要素は、典型的にはUHMWPE糸である。
【0054】
前述のように、第1の芯構成要素の番手は、30デニール~500デニール、より好適には60~200デニール、さらにより好適には75~150デニールに含まれている。
【0055】
第2の芯構成要素は、好適には単一のフィラメント糸であり、または複数のフィラメントを有する糸である。好適なエラストマー製の糸は、ポリウレタン糸である。第2の芯構成要素の番手は、20~500デニール、より好適には40~200デニール、さらにより好適には70~105デニールに含まれている。
【0056】
例えばASTM D4849から公知のように、エラストマー製の糸は、室温でその当初の長さの少なくとも2倍にまで繰り返し伸長させることができ、引張力を除去後に直ちにかつ強制的にその当初の長さに実質的に戻ることができる非テクスチャード加工糸である。
【0057】
2つの芯構成要素は、加撚、交絡または共フィードによって組み合わされている。共フィード技術は、以下でより良好に説明されるが、好適な解決策である。
【0058】
加撚は公知の技術である。加撚は、通常、2つの芯構成要素(すなわち、第1の芯構成要素および第2の芯構成要素)が、20~2500T/m、好適には100~1000T/m、最も好適には300~600T/mの撚り数を得るように実施される。
【0059】
交絡は、開放または閉鎖された交絡ジェットのような当該技術分野の公知の技術に従って実施することができる。このシステムは、1メートルあたり20~200点、好適には1メートルあたり50~120点、最も好適には95~105点の範囲の個数の結合点を提供するように調整されている。交絡点の個数を測定する方法は、組み合わされた繊維を直接数えることによるものであり、この後者の方法では、弾性の芯「糸」が、黒または暗い表面上に置かれ、場合によっては拡大鏡を用いて目視で検査され、1メートルの糸における結合点が手作業で数えられる。
【0060】
別の可能な結合技術は、共押出としても知られる共フィードである。共フィードにより、2つの芯構成要素が、制限部を押し通され、この制限部において、2本の糸は、これらの糸が制限部を出た後も付着したままであるような程度にまで一緒に圧縮される。適切な制限部は、例えば、「V」字形ロールであり、好適な1つの実施形態では、2つの芯構成要素が、V字形を有するロールに供給され、特に、2つの芯構成要素は一緒に供給され、「V」字形の底部内に押し込まれて、底部において2つの芯構成要素は一緒に圧縮され、結合されたままとなる。共フィード糸は、好適には、共フィードステップの直後に鞘の繊維と一緒に紡がれる。
【0061】
芯は、鞘、典型的には短繊維、典型的には綿繊維の鞘により覆われている。
【0062】
したがって、最終的な経糸および緯糸は、好適にはNE4~NE80、より好適にはNE8~NE60、さらにより好適にはNE10~NE20に含まれている番手を有している。
【0063】
経糸および緯糸は、好適にはキャンバス織、朱子織および綾織から選択された単層織により織られている。
【0064】
最終的な織布の経糸密度は、好適には15~70本/cm、より好適には20~50本/cm、さらにより好適には25~35本/cmに含まれている。
【0065】
最終的な織布の緯糸密度は、好適には15~50本/cm、より好適には20~30本/cmに含まれている。
【0066】
ASTM D3107に従って測定される、経方向および緯方向での織布の弾性は、少なくとも20%である。
【0067】
ASTM D3107では、試料を3.0lbまたは4.0lbの重りを用いて伸張させることができるということに留意されたい。3.0lbまたは4.0lbのいずれかの重りを使用した場合、試験結果における有意な差はないことが証明された。本開示において、ASTM D3107による伸張は、3.0lbの重りにより測定された。
【0068】
ASTM D3107のための標準的な手順として、荷重は30分にわたって加えられる。
【0069】
したがって本発明に係る織布は、この織布が弾性を有しており、つまり織布は、経方向で少なくとも20%、好適には30%~40%伸張させることができ、かつ緯方向での弾性は、少なくとも20%、より好適には少なくとも30%、さらにより好適には少なくとも35%であることを特徴とする。
【0070】
好適な1つの実施形態によれば、本発明の織布は、例えば、ASTM D4850に記載されているような、経方向および緯方向の両方で伸張するストレッチ織布であり、ASTM D4850によれば、ストレッチ織布は、使用時に発生する力および条件下で、経方向または緯方向のいずれか、またはその両方向で少なくとも20%の伸張が可能であり、力の除去後にほぼ完全に戻る織布である。
【0071】
好適には、緯方向での織布の弾性は、経方向での織布の弾性よりも高い。しかし、2つの値が実質的に同一であるか、または経方向での織布の弾性が緯方向の織布の弾性よりも高いことも可能である。
【0072】
本発明に係る織布が経方向および緯方向の両方において高い弾性を有しているという事実を考慮すると、本発明に係る織布は「バイストレッチ」織布として定義することができる。
【0073】
本明細書で使用される場合、「弾性」の値は、ASTM D3107に従って測定される、緯方向および経方向での伸張のパーセンテージを指す。
【0074】
本発明のバイストレッチ織布の別の利点は、経方向および緯方向の両方での高い弾性の提供、戻りの改善および伸びの減少が達成されることである。
【0075】
試験法EN 17092は、その性能に従って、防護服の5つの異なるクラスを提供する(最良~最悪):AAA、AA、A、B、C。本発明に係る防護織布は、少なくとも「A」織布である。
【0076】
本発明を以下に非限定的である実施例を参照して開示する。
【0077】
実施例
【表1】


【表2】
【実施例1】
【0078】
実施例1では、織布は、表1に示すような特徴を有していた。経糸は緯糸とは異なっていた。経糸は、NE16/1糸であり、第1の芯構成要素として75デニールのUHMWPE糸を有しており、このUHMWPE糸は、共フィードプロセスを介して、第2の芯構成要素としての70デニールのポリウレタン糸に結合されていた。ポリウレタンは、第1の芯構成要素との結合前には、3.7のドラフト率を有していた。したがって、経糸の組成は、71.5重量%の綿、22.5重量%のUHMWPE、6重量%のポリウレタンであった。
【0079】
最終的な経糸の撚係数は3.40であったのに対して、最終的な糸の1メートルあたりの撚り数は535であった。
【0080】
緯糸では、ポリウレタン糸がより太かった(105デニール)が、鞘はより細く、最終的な糸はより細かった(綿番手20NE)。
【0081】
したがって、緯糸の組成は、60.5重量%の綿、28.2重量%のUHMWPE、11.3重量%のポリウレタンであった。
【0082】
最終的な緯糸の撚係数が4.20であったのに対して、最終的な糸の1メートルあたりの撚り数は828であった。
【0083】
公知のように、撚数(1インチあたりの撚りで測定)=撚係数α√糸番手(英式綿番手で測定)であり、すなわち、撚数=α√NE、である。ここで、αは撚係数である。
【0084】
織布は、3/1綾織で、筬上で20本/cmの経糸および18.2本/cmの緯糸を有していたのに対して、最終的な織布上では、35.8本/cmの経糸および22本/cmの緯糸があった。
【0085】
織布の目付は12.2ozであった。
【0086】
織布は、黒で後染め加工されており、黒い経糸と黒い緯糸とを備えていた。
【0087】
この織布は、弾性に関してASTM D3107、引張強さに関してASTM D5034、引裂強さに関してASTM D1424で試験された。試験結果は、表2に示す通りである。引裂強さのための試験機が、13900グラム(g)の最大適用荷重を有していたことに留意されたい。この最大レベルで試験した場合、織布は破れず、したがって引裂強さは13900gよりも大きいと記載されている。
【実施例2】
【0088】
実施例2では、織布は、表1に示すような特徴を有していた。経糸は緯糸と同一であった。経糸および緯糸は、NE10/1糸であり、第1の芯構成要素として150デニールのUHMWPE糸を有しており、このUHMWPE糸は、共フィードプロセスを介して、第2の芯構成要素としての70デニールのポリウレタン糸に結合されていた。ポリウレタンは、第1の芯構成要素との結合前には、3.7のドラフト率を有していた。したがって、経糸および緯糸の組成は、68重量%の綿、28.2重量%のUHMWPE、3.8重量%のポリウレタンであった。
【0089】
最終的な経糸および緯糸の撚係数は4.20であったのに対して、最終的な糸の撚り数は、1メートルあたり523であった。
【0090】
織布は、3/1綾織で、筬上で18本/cmの経糸および14.2本/cmの緯糸を有していたのに対して、最終的な織布上では25本/cmの経糸および18本/cmの緯糸があった。
【0091】
織布の目付は14.5ozであった。
【0092】
織布の経糸は藍染めされていた。
【0093】
この織布は、弾性に関してASTM D3107で、引張強さに関してASTM D5034で、かつ引裂強さに関してASTM D1424で試験された。試験結果は、表2に示す通りである。引裂強さの試験機が、13900グラム(g)の最大適用荷重を有していたことに留意されたい。この最大レベルで試験した場合、織布は破れず、したがって引裂強さは13900gよりも大きいと記載されている。
【0094】
EN 17092で試験した場合、この織布はAAA織布に分類された。
【実施例3】
【0095】
実施例3の織布では、実施例2と同一の糸および同一の織りを使用した。しかし染色技術は異なっていた。特に、織布は黒で後染め加工されており、黒い経糸と黒い緯糸を有していた。異なる染色技術により、弾性、強度、および織布の目付の値は、実施例2とは異なっていた(目付は13.3ozであった)。
【0096】
本発明に係る織布は、衣服、特に一着の防護ズボンまたは防護ジャケットのようなオートバイ用の防護服に仕立てられた。
【0097】
衣服の少なくとも一部は、本織布から成っていた。換言すれば、織布の少なくとも一部にとって、織布の内面は衣服の内面と一致し、かつ織布の外面は織布の外面と一致し、これにより、織布の別の層は、衣服の少なくとも一部のための本発明の織布に重ねられない。換言すると、衣服の少なくとも一部が、本発明による単層織布から形成されている。
【0098】
EN 17092で試験した場合、この織布はAAA織布に分類された。
図1