IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケモセントリックス,インコーポレイティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】癌治療のためのCXCR7阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/551 20060101AFI20241119BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241119BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20241119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241119BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61K31/551
A61K45/00
A61K31/4985
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021533313
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 US2019065600
(87)【国際公開番号】W WO2020123582
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】62/778,605
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507416218
【氏名又は名称】ケモセントリックス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(72)【発明者】
【氏名】後藤 典子
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ジェイ.キャンベル
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0311712(US,A1)
【文献】国際公開第2010/054006(WO,A1)
【文献】Cancer Metastasis Rev.,2010年,29,709-722
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CXCR7阻害剤およびCXCR4阻害剤を含む、個体の乳癌を治療するための医薬組成物であって、前記個体はFRS2βの異常な発現を有し、
前記CXCR7阻害剤は、
式Iの構造:
【化1】
又はその医薬的に許容し得る塩
(式中、
2とR3はそれぞれHであり;
1は、任意選択的に1~3個のR4置換基で置換されるキノリニルであり;
2は、それぞれが任意選択的に1~2個のR5置換基で置換されるチアゾール、ピラゾール、及びオキサゾールからなる群より選択され;
3は、それぞれが任意選択的に1~2個のR6置換基で置換されるシクロヘキシル、ピペリジニル、及びフェニルからなる群より選択され;
各R4は、独立してメチル、エチル、イソプロピル、2-フルオロエチル、2-フルオロイソプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、メトキシ、クロロ、-CO2H、及び、-CH2CO2H,、X-CO2Hからなる群より選択され;
各R5は、独立してメチル、フルオロ、クロロ、-CO2H、及び-CH2CO2Hからなる群より選択され;
各R6は、独立してメチル、フルオロ、クロロ、-OH、-CO2H、及び-CH2CO2Hからなる群より選択され;かつ、
各Xは、-OCH2-、-OCH2CH2-、-OCH2CH2CH2-からなる群より選択される式を有する結合基である);又は
式IIの構造:
【化2】
又はその医薬的に許容し得る塩
(式中、
環頂点としてのXa、Xb、及びXcを有する二環部分は、
【化3】
からなる群より選択され;
2は、H及びC1-8アルキルからなる群より選択され;
3は水素であり;
Zは
【化4】
であり;
各QはNであり;
5は任意選択的に1~3個のRaで更に置換されるアリールであり;かつ、
各Raはハロゲン又はC1-8アルキルである)
を有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記CXCR7阻害剤は、
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
及び
【化13】
からなる群より選択される構造又はその医薬的に許容し得る塩を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記個体が1種以上の管腔前駆細胞においてFRS2βを発現する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記個体が1種以上の乳腺管腔前駆細胞においてFRS2βを発現する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記個体は追加の治療薬を更に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物又は追加の治療薬を投与する前に、前記個体はFRS2βの異常な発現を有すると診断されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
及び
【化22】
からなる群より選択される化合物又はその医薬的に許容し得る塩およびCXCR4阻害剤を含む、FRS2βの異常な発現を有する個体の乳癌を治療するための医薬組成物。
【請求項8】
投与前に、前記個体がFRS2βの異常な発現を有すると診断されている、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記個体は追加の治療薬を更に投与される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記化合物は
【化23】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記化合物は
【化24】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記化合物は
【化25】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記化合物は
【化26】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記化合物は
【化27】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記化合物は
【化28】
又はその医薬的に許容し得る塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
これは、米国特許法第119条(e)に基づいて2018年12月12日に提出された米国仮出願第62/778,605号(これは、すべての目的で参照によりその全体が本明細書に取り込まれる)の優先権の利益を主張する出願である。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発のもとでなされた発明に対する権利に関する声明
適用されない。
【0003】
コンパクトディスクで提出された「配列表」、表、又はコンピュータープログラムリスト添付書類の参照
適用されない。
【背景技術】
【0004】
腫瘍組織は、多くの異種起源の細胞タイプから構成される。腫瘍細胞だけでなく、腫瘍間質の主成分である癌関連線維芽細胞(CAF)を含む他の細胞タイプも含まれる。最近、これらの細胞はすべて腫瘍細胞の生存と増殖を支持しているように思われるため、新規治療標的として腫瘍微小環境に多くの焦点が当てられている。蓄積された証拠は、腫瘍細胞自体が不均一であることを示しており、幹細胞性形質を有する癌細胞である少数の癌幹様細胞(CSC)や、急速に増殖する多数の分化した腫瘍細胞が含まれる。CSCは、自身の生存と増殖のために、CSCを取り巻く微小環境であるCSCのニッチを制御すると考えられている。炎症性のサイトカインが豊富な環境は、CSCと腫瘍の微小環境に関与していると考えられている。いくつかの報告は、核因子-κB(NFκB)転写因子が、インスリン様増殖因子(IGF)ファミリーサイトカイン及びCXCケモカインリガンド(CXCL)12を含むサイトカインの産生において重要な役割を果たすことを示した。IGFファミリーサイトカインはCSCの未分化状態を維持し、CXCL12はCAFの化学走性に関与していることが知られており、CXCL12自体はNFκBを活性化する。NFκBは炎症性マスター転写因子であることが知られており、不活性状態でIκBに結合するヘテロ二量体複合体(RelAとp50又はRelBとp52)である。リガンド刺激は、IKKα/β及びIκBのリン酸化を引き起こす。次に、リン酸化されたIκBはユビキチン化/分解を受け、放出されたNF-κBヘテロダイマーは転写活性化のために核に輸送される。しかし、明らかに正常な組織に腫瘍細胞がわずかしかない場合、腫瘍形成の開始時にこれがどのように発生するかは不明なままである。
【0005】
乳癌は、女性の最も一般的な癌である。最近、患者の数を減らすために癌の予防に大きな注目が集まっている。新たな証拠は、炎症が乳癌の発生に寄与することを示唆しているが、根底にある分子メカニズムは不明なままである。治療戦略の進歩にもかかわらず、頻繁に発生する再発のために、疾患関連の死亡率は依然として高い。蓄積されている証拠は、CSCが予後不良の主な原因であることを示唆している。CSCはさまざまなストレス状態に耐性があり、腫瘍の開始、再発、及び治療抵抗性の原因であると考えられている。多くの場合、乳癌組織には多量の間質が含まれており、CAFを含む腫瘍微小環境が乳癌において重要な役割を果たしていることを示している。従って、乳癌の効果的な治療戦略として、CSCを排除するために腫瘍微小環境又はCSCニッチを標的にすることは大いに有望である。この目標があるにもかかわらず、いまだに信頼できる有効な治療法が必要とされている。
【0006】
一部の乳癌は、ヒト表皮増殖因子受容体2(HER2)/ErbB2陽性サブタイプに属し、癌細胞ではHER2遺伝子増幅又は/及びHER2タンパク質の過剰発現が観察されている。HER2に対するヒト化抗体であるハーセプチン(Herceptin)は、HER2陽性の症例に対して有効である。しかし、ハーセプチン耐性又は再発は依然として深刻な問題を引き起こす。マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)-ErbB2トランスジェニックマウスは乳腺組織でErbB2の過剰発現を示し、これが腫瘍形成を引き起こす。乳腺組織は肺胞で終わる多くの分枝細管で構成されており、どちらも妊娠中に拡大する。上皮は、2つの主要な細胞層(内腔を取り囲む管腔細胞と、反対側の非常に細長い筋上皮細胞)で構成されている。管腔前駆細胞は管腔細胞層に存在すると考えられている。管腔前駆細胞が、このモデル及びヒト乳癌における乳腺腫瘍形成の起源細胞であることを示唆する証拠がある。しかし、これらの細胞の腫瘍形成を予防又は治療するための効果的な治療法は、依然として活発な研究分野である。
【0007】
ErbB2は、他のErbBファミリーのメンバーとホモ二量体化又はヘテロ二量体化し、細胞外シグナル調節プロテインキナーゼ(ERK)及びホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)シグナル伝達経路を活性化して、腫瘍生物学の多くの局面を引き起こす。ErbB-ERKシグナル伝達は、細胞の状況に応じて細胞の増殖と分化を上昇させる。ErbB-PI3Kシグナル伝達はNFκBを活性化する。
【0008】
SNT-2又はFRS3とも呼ばれるアダプタータンパク質FRS2βは、脳で豊富に発現され、他の組織ではごく一部の領域でしか発現されないが、別のFRS2ファミリーのメンバーであるFRS2αはほとんどの組織で豊富に発現される。FRS2β発現の詳細については、Gotoh et al. FEBS Lett. 2004. 564(1-2):14-8に記載されている。FRS2αではなくFRS2βは、ErbB2を含むErbBファミリーのメンバーに構成的に結合し、これが、フィードバック阻害のために活性化ERKに結合し、ErbB-ERKシグナル伝達を微調整する。FRS2βはまた、ErbB1/2のユビキチン化と分解を誘導する。しかし、特に腫瘍の成長におけるFRS2βのインビボでの役割は不明なままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
まとめると、当技術分野では、CSCニッチ環境の開発につながるプロセスを、及び腫瘍の成長を調節、低減、又は予防するための適切な薬剤を標的化できる薬剤を、特定する必要性が残っている。本発明はこの必要性に対処し、関連する利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様において、個体にCXCR7阻害剤を投与することを含む、治療の必要な個体の癌を治療する方法が本明細書に提供され、ここで、個体はFRS2βの異常な発現を有する。
【0011】
別の態様において、FRS2βを発現する前癌細胞を有する個体にCXCR7阻害剤を投与することを含む、FRS2βを発現する前癌細胞が癌に成長することを予防する方法が、本明細書に提供される。
【0012】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、式I及び/又はIIの構造:
【化1】
を有し、各可変基の定義は以下でさらに詳しく説明される。
【0013】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物1の構造:
【化2】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0014】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物2の構造:
【化3】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0015】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物3の構造:
【化4】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0016】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物4の構造:
【化5】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0017】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物5の構造:
【化6】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0018】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物6の構造:
【化7】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0019】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物7の構造:
【化8】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0020】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物8の構造:
【化9】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0021】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物9の構造:
【化10】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0022】
いくつかの実施態様において、本明細書で提供される方法は、1種以上の治療薬を使用する。いくつかの実施態様において、前記1種以上の治療薬は、IGF1阻害剤及び/又はCXCR4阻害剤である。いくつかの実施態様において、IGF1阻害剤は抗IGF1抗体である。
【0023】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び図面から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1-1】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(A)Frs2β変異対立遺伝子のヘテロ接合体の、成熟した雌乳腺のβ-ガラクトシダーゼ染色の代表的な画像。赤い矢印はFRS2β陽性細胞を示す。(B)乳腺の概略図。多くの分枝管は、管腔上皮細胞の内層と筋上皮細胞の外層に囲まれている。
図1-2】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(C)抗FRS2β抗体及びホスホヒストンH3抗体(上のパネル)又はDAPI(下のパネル)による雌の乳腺の免疫組織学的染色。
図1-3】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(D)抗FRS2β抗体及びサイトケラチン18(上のパネル)又はサイトケラチン14(下のパネル)による雌の乳腺の免疫組織学的染色。
図1-4】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(E)観察開始から14週間後にマウスの前額面に示された乳腺腫瘍の代表的なNMR画像。左側が頭、右側が腹部である。
図1-5】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(F)MMTV-neu(+)/Frs2β(+/+)及びMMTV-neu(+)/Frs2β(-/-)マウスにおける腫瘍増殖。腫瘍サイズは、週に1回、14週間測定した(平均±SEM、n=15)。FRS2βの発現レベルは、処女、妊娠、授乳マウスの間でqRT-PCR分析によって比較した(平均±SEM、n=4、**p<0.005、p<0.01)。(G)乳腺腫瘍の代表的なヘマトキシリン・エオシン(HE)染色切片。
図1-6】管腔細胞で発現されるFRS2βの欠損は乳腺腫瘍形成を大幅に遅らせる。(H)αSMAに対する抗体を使用したFrs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)乳腺腫瘍の免疫組織化学染色。スケールバー:100μm。
【0025】
図2-1】管腔前駆細胞で発現されるFRS2βは異種移植腫瘍細胞に由来する腫瘍形成を支持する。(A)代表的な画像で示されるように14日間培養したFrs2β(+/+)腫瘍スフェア細胞を、Frs2β(+/+)又はFrs2β( -/-)の8週齢の処女雌マウス乳腺脂肪パッドに接種した。
図2-2】管腔前駆細胞で発現されるFRS2βは異種移植腫瘍細胞に由来する腫瘍形成を支持する。(B)移植後30日目に代表的な腫瘍の写真を撮った。
図2-3】管腔前駆細胞で発現されるFRS2βは異種移植腫瘍細胞に由来する腫瘍形成を支持する。(C)切除した腫瘍の腫瘍体積を測定した。(D)Frs2β(+/+)腫瘍スフェア細胞に由来する腫瘍形成はFrs2β(+/+)マウスで観察されたが、Frs2β(-/-)マウスでは観察されなかった(n=4)。数字は、腫瘍の数と接種部位の数との比率を示す。
図2-4】管腔前駆細胞で発現されるFRS2βは異種移植腫瘍細胞に由来する腫瘍形成を支持する。(E)抗FRS2β抗体及び抗ErbB2抗体による、MMTV-neu(-)又はMMTV-neu(+)雌乳腺の免疫組織化学染色。矢印はFRS2β陽性の管腔細胞を示す。
図2-5】管腔前駆細胞で発現されるFRS2βは異種移植腫瘍細胞に由来する腫瘍形成を支持する。(F)乳腺上皮細胞を、マーカーを使用して分類した。P1(CD49flow/CD24high)管腔細胞の亜集団を、CD61を使用してさらに分類した。P2の亜集団(CD49flow/CD24high/CD61+)管腔前駆細胞をFRS2βでさらに選別して、P3の亜集団(CD49flow/CD24high/CD61+/FRS2β+)を得た。
【0026】
図3-1】FRS2β欠損管腔前駆細胞はサイトカインの産生量が少ない。(A)スフェア培養培地(SCM)で培養されたFrs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)乳腺上皮細胞に由来するマンモスフェアの代表的な画像。(B)マンモスフェア細胞(mammosphere cells)のスフェア形成効率の定量。N.T.、SCM中のサイトカインで処理されていない。結果は平均±SEMとして示される。n=4。**p<0.01、p<0.05。
図3-2】FRS2β欠損管腔前駆細胞はサイトカインの産生量が少ない。(C)遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を使用して、Frs2β(+/+)とFrs2β(-/-)マンモスフェア細胞における遺伝子発現プロフィールを比較した。Frs2β(+/+)マンモスフェア細胞で高度にアップレギュレートされた2つの遺伝子セットが示される。(D)遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を使用して、Frs2β(+/+)とFrs2β(-/-)前癌性乳腺上皮細胞における遺伝子発現プロフィールを比較した。Frs2β(+/+)細胞又はFrs2β(-/-)細胞で高度にアップレギュレートされた遺伝子セットが示される。ES、濃縮スコア;NES、標準化された濃縮スコア;FDR、誤検出率。
図3-3】FRS2β欠損管腔前駆細胞はサイトカインの産生量が少ない。(E)示された遺伝子転写物の発現レベルを、リアルタイム定量PCR(qPCR)を使用して、Frs2β(+/-)及びFrs2β(-/-)マンモスフェア細胞間で比較した。結果は平均±SEMとして示される。n=4。**p<0.01。
図3-4】FRS2β欠損管腔前駆細胞はサイトカインの産生量が少ない。(F)αSMA、CXCL12、及びIGF1に対する抗体を使用したFrs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)乳腺腫瘍の免疫組織化学染色。
【0027】
図4-1】前癌性Frs2β(+/+)乳腺細胞から産生されるCXCL12は、腫瘍スフェアとCAFの遊走を誘導する。(A)下部チャンバーに腫瘍スフェアを形成するためのFrs2β(+/+)腫瘍細胞と上部チャンバーのFrs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞との共培養の概略図。(B)対照IgG(400nM)又はIGF1中和抗体(Nab)(400nM)で処理されたFrs2β(+/+)乳腺上皮細胞の存在下での腫瘍スフェア形成の代表的な画像。N.T.、未処理(乳腺上皮細胞との共培養なし)。スケールバー:100μm。
図4-2】前癌性Frs2β(+/+)乳腺細胞から産生されるCXCL12は、腫瘍スフェアとCAFの遊走を誘導する。(C)腫瘍スフェア形成効率の定量。結果は平均±SEMとして示される。n=4。***p<0.001、**p<0.01。
図4-3】前癌性Frs2β(+/+)乳腺細胞から産生されるCXCL12は、腫瘍スフェアとCAFの遊走を誘導する。(D)下部チャンバーのFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)乳腺細胞と上部チャンバーのFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)CAFの共培養の概略図。(E)Cxcl12の発現レベルを、qPCRによって上部チャンバーのFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)乳腺細胞間で比較した。結果は平均±SEMとして示される。n=6。***p<0.001。
図4-4】前癌性Frs2β(+/+)乳腺細胞から産生されるCXCL12は、腫瘍スフェアとCAFの遊走を誘導する。(F)上部チャンバーのFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)乳腺細胞と24時間共培養された遊走Frs2β(+/+)CAFの代表的な画像。(G)遊走Frs2β(+/+)CAFの定量。結果は平均±SEMとして示される。n=4。**p<0.01。
図4-5】前癌性Frs2β(+/+)乳腺細胞から産生されるCXCL12は、腫瘍スフェアとCAFの遊走を誘導する。(H)Frs2β(+/+)癌細胞と24時間共培養された遊走CAFの代表的な画像。細胞を、示された濃度の化合物1及び/又は+0.1mg/mL AMD3100、又は対照で処理した。(I)Frs2β(+/+)癌細胞と24時間共培養された遊走CAFの定量。結果は平均±SEMとして示される。n=4。***p<0.001及び**p<0.01。
【0028】
図5-1】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。(A)培養したFrs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞のインビトロでのDHMEQ処理の概略図。(B)示された濃度のDHMEQで処理されたFrs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞におけるIgf1、Cxcl12、及びIκBαの発現レベルをqPCRによって比較した。結果は平均±SEMとして示される。n=4。**p<0.01。
図5-2】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。(C)Frs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)前癌性乳腺組織の溶解物中の示されたタンパク質の免疫ブロッティング分析。アクチンを添加対照として使用した。(D)Frs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)乳腺組織の溶解物中の示されたタンパク質の細胞質及び核発現レベル(対照としての核タンパク質)の免疫ブロッティング分析。PARP1を核内の代表的なタンパク質として使用した。アクチンを添加対照として使用した。
図5-3】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。(E)Frs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)乳腺組織の溶解物中の示されたタンパク質の免疫ブロッティング分析。アクチンを添加対照として使用した。(F)インビボでのFrs2β(+/+)マウスのDHMEQ処理の概略図。マウスに10μg/gのDHMEQを1日1回3週間腹腔内注射した。
図5-4】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。(G)10μg/g DHMEQによる3週間の処理有り又は無しのFrs2β(+/+)乳腺組織の、又はRelAに対する抗体を使用したFrs2β(-/-)乳腺組織の免疫組織化学染色。スケールバー:50μm。(H)10μg/gのDHMEQによる3週間の処理有り又は無しの、Frs2β(+/+)乳腺組織におけるIgf1及びCxcl12の発現レベル。N.T.、未処理。結果は平均±SEMとして示される。n=4。***p<0.001及び**p<0.01。
図5-5】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。(I)マウスをCXCR7阻害剤及び/又はIGF1抗体で処理すると、腫瘍の体積が減少する。Frs2β(+/+)腫瘍スフェア細胞を、8週齢の処女雌MMTV-neu(+)/Frs2β(+/+)マウスの乳腺脂肪パッドに接種した。7日後マウスに、0.1μg/gのIGF1抗体(R&D Biosystems)を週に1回、及び/又は1μg/gのAMD3100(Sigma)を1日1回、及び1.5μg/gの化合物1を1日1回腹腔内注射した。代表的な腫瘍は、AMD3100とCCX771の組み合わせであるCXCL12Inhの移植後35日目に撮影された。腫瘍の体積(J)は、(I)のように処理したマウスで測定した。結果は平均±SEM、nK=4、p<0.05として示した。
図5-6】FRS2β依存性のAKT-NFkB活性化の上昇は、IGF1及びCXCL12の産生を上昇させ、腫瘍形成を促進する。腫瘍の重量(K)は、(I)のように処理したマウスで測定した。結果は平均±SEM、nK=4、p<0.05として示した。
【0029】
図6-1】FRS2β発現腫瘍細胞はIGF1及びCXCL12を産生し、豊富な間質及び予後不良と関連している。(A)抗FRS2b及び抗ErbB2抗体によるFrs2β(+/+)乳腺腫瘍の免疫組織化学染色。スケールバー、25μm。(B)Cxcl12及びIgf1の発現レベルを、qPCRによってFrs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)腫瘍細胞間で比較した。結果は平均±SEMとして示される。n=4。***p<0.001。
図6-2】FRS2β発現腫瘍細胞はIGF1及びCXCL12を産生し、豊富な間質及び予後不良と関連している。(C)抗IGF1及び抗CXCL12抗体による免疫組織化学染色。スケールバー、200μm(D)組織アレイを抗FRS2b抗体による免疫組織化学染色、又はマッソンのトリクローム染色に供して、間質のコラーゲンを検出した。矢印は間質領域を示す。スケールバー:50μm。
図6-3】FRS2β発現腫瘍細胞はIGF1及びCXCL12を産生し、豊富な間質及び予後不良と関連している。(E)腫瘍試料を、腫瘍間質面積と総腫瘍面積の比(+:0~10%、++;10~20%、+++;>20%)に従って3つの群に分類した。FRS2b染色レベルの中央値をカットオフ値に使用した。n=30。(F)Uppsalaコホート(GSE3494)を使用して生成されたカプランマイヤー生存曲線。カットオフ値には中央値を使用した。P値はログ順位検定によって得られた。
図6-4】FRS2β発現腫瘍細胞はIGF1及びCXCL12を産生し、豊富な間質及び予後不良と関連している。(G)FRS2bは、管腔細胞のサブセットでサイトカイン産生を引き起こし、サイトカインに富む前癌性微小環境の生成につながる可能性がある(左上のパネル)。CSCが前癌性微小環境に現れると、IGF1の存在下で自己再生し、CXCL12動員間質細胞の助けを借りて腫瘍細胞を産生し、その後CAFになる可能性がある。CSCと腫瘍細胞はそれ自体でIGF1とCXCL12とを産生し、急速な増殖と腫瘍形成を引き起こす可能性がある(左下のパネル)。FRS2βがないと、サイトカインは低レベルのままであり、適切な前癌性微小環境は生成されない(右上のパネル);CSCが表示されても、これらは効率的に増殖することはできない(右下のパネル)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.概説
本開示は、異常なFRS2β発現が腫瘍増殖に適した微小環境条件を維持し、サイトカインに富むCSCニッチを作り出す上で重要な役割を果たすことを示す。驚くべきことに、この発現の有害な影響は、CXCR7阻害剤、又は別の治療薬と組み合わせたCXCR7阻害剤を投与することによって効果的に調節することができる。
【0031】
II.定義
用語「アルキル」は、特に他に明記されない限り、それ自体又は別の置換基の一部として、指定された数の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを意味する(すなわち、C1-8は1~8個の炭素を意味する)。アルキル基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどが含まれる。用語「アルケニル」は、1つ以上の2重結合を有する不飽和アルキル基を指す。同様に、用語「アルキニル」は、1つ以上の3重結合を有する不飽和アルキル基を指す。そのような不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-及び3-プロピニル、3-ブチニル、及びより高次の同族体と異性体が含まれ得る。用語「シクロアルキル」は、示された数の環原子(例えば、C3-6クロアルキル)を有し、完全に飽和しているか又は環の頂点間に1つ以下の2重結合を有する炭化水素環を指す。「シクロアルキル」はまた、例えばビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタンなどの2環式及び多環式炭化水素環を指すことを意味する。用語「シクロアルケニル」は、環頂点間に少なくとも1つの2重結合を有するシクロアルキル基を指す。シクロアルケニルの例は、シクロペンテニル及びシクロヘキセニルである。用語「スピロシクロアルキル」は、単一の環頂点が分子の他の2つの非水素部分に結合しているシクロアルキル基を指す。スピロシクロアルキル置換基は、アルキレン鎖の2つの炭素原子(通常はアルキレン鎖の末端)が分子の残りの部分の同じ炭素原子に結合している置換基である。用語「ヘテロシクロアルキル」は、N、O、及びSから選択される1~5個のヘテロ原子を含むシクロアルキル基を指し、ここで、窒素及び硫黄原子は任意選択的に酸化され、窒素原子は任意に4級化される。ヘテロシクロアルキルは、単環式、2環式、又は多環式環系であってよい。ヘテロシクロアルキル基の非限定例には、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ブチロラクタム、バレロラクタム、イミダゾリジノン、ヒダントイン、ジオキソラン、フタルイミド、ピペリジン、1,4-ジオキサン、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリン-S-オキシド、チオモルホリン-S,S-オキシド、ピペラジン、ピラン、ピリドン、3-ピロリン、チオピラン、ピロン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、キヌクリジンなどが含まれる。ヘテロシクロアルキル基は、環炭素又はヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合することができる。
【0032】
用語「アルキレン」は、それ自体で又は別の置換基の一部として、-CHCHCHCH-によって例示されるように、アルカンから誘導される2価のラジカルを意味する。典型的には、アルキル(又はアルキレン)基は、1~24個の炭素原子を有し、本発明では、10個以下の炭素原子を有するそれらの基が好ましい。「低級アルキル」又は「低級アルキレン」は、一般に4個以下の炭素原子を有するより短い鎖のアルキル又はアルキレン基である。同様に「アルケニレン」及び「アルキニレン」は、それぞれ2重結合又は3重結合を有する「アルキレン」の不飽和形態を指す。
【0033】
本明細書に記載の任意の化学構造において単結合、2重結合、又は3重結合と交差する本明細書で使用される波線
【化11】
は、分子の残りの部分への単結合、2重結合、又は3重結合の点結合を表す。
【0034】
用語「アルコキシ」、「アルキルアミノ」、及び「アルキルチオ」(又はチオアルコキシ)は、それらの従来の意味で使用され、それぞれ酸素原子、アミノ基、又は硫黄原子を介して分子の残りの部分に結合しているアルキル基を指す。さらに、ジアルキルアミノ基の場合、アルキル部分は同じでも異なっていてもよく、また組み合わせて、それぞれが結合している窒素原子と3~7員環を形成することもできる。従って、-NRとして表される基は、ピペリジニル、ピロリジニル、モルホリニル、アゼチジニルなどを含むことを意味する。
【0035】
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、それ自体で、又は別の置換基の一部として、特に他に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキル及びポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば用語「C1-4ハロアルキル」は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むことを意味する。
【0036】
用語「アリール」は、特に他に明記されない限り、一緒に縮合又は共有結合された単環又は多環(最大3環)であり得る多価不飽和の、典型的には芳香族の炭化水素基を意味する。用語「ヘテロアリール」は、N、O、及びSから選択される1~5個のヘテロ原子を含むアリール基(又は環)を指し、ここで、窒素及び硫黄原子は任意選択的に酸化され、窒素原子は任意選択的に4級化される。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合できる。アリール基の非限定例には、フェニル、ナフチル、及びビフェニルが含まれ、ヘテロアリール基の非限定例には、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、トリアジニル、キノリニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、フタラジニル、ベンゾトリアジニル、プリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、イソベンゾフリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンゾトリアジニル、チエノピリジニル、チエノピリミジニル、ピラゾロピリミジニル、イミダゾピリジン、ベンゾチアキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、インダゾリル、プテリジニル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアジアゾリル、ピロリル、チアゾリル、フリル、チエニルなどが含まれ得る。上記アリール及びヘテロアリール環系のそれぞれの置換基は、以下に記載され許容し得る置換基の群から選択される。
【0037】
用語「アリールアルキル」は、アリール基がアルキル基に結合しているラジカル(例えば、ベンジル、フェネチルなど)を含むことを意味する。同様に用語「ヘテロアリール-アルキル」は、ヘテロアリール基がアルキル基に結合しているラジカル(例えば、ピリジルメチル、チアゾリルエチルなど)を含むことを意味する。
【0038】
上記の用語(例えば、「アルキル」、「アリール」、及び「ヘテロアリール」)は、いくつかの実施態様において、示されたラジカルの置換形態及び非置換形態の両方を含むであろう。各タイプのラジカルの好ましい置換基を以下に提供する。
【0039】
アルキルラジカル(しばしばアルキレン、アルケニル、アルキニル、及びシクロアルキルと呼ばれるそれらの基を含む)の置換基は、0~(2m'+1)の数の、-ハロゲン、-OR'、-NR'R"、-SR'、-SiR'R"R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-COR'、-CONR'R"、-OC(O)NR'R"、-NR"C(O)R'、-NR'-C(O)NR"R'''、-NR"C(O)R'、-NH-C(NH)=NH、-NR'C(NH)=NH、-NH-C(NH)=NR'、-S(O)R'、-S(O)R'、-S(O)NR'R"、-NR'S(O)R"、-CN、及び-NOから選択される様々な基であり得、ここで、m'はそのようなラジカル中の炭素原子の総数である。R'、R"、及びR'''はそれぞれ独立して、水素、非置換C1-8アルキル、非置換アリール、1~3子のハロゲンで置換されたアリール、非置換C1-8アルキル、C1-8アルコキシ若しくはC1-8チオアルコキシ基、又は非置換アリール-C1-4アルキル基を指す。R'とR"が同じ窒素原子に結合している場合、それらを窒素原子と組み合わせて、3、4、5、6、又は7員環を形成することができる。例えば、-NR'R"は、1-ピロリジニルと4-モルホリニルを含むことを意味する。
【0040】
同様に、アリール基及びヘテロアリール基の置換基は多様であり、一般に、0~芳香環系の開原子価の総数までの数の、-ハロゲン、-OR'、-OC(O)R'、-NR'R"、-SR'、-R'、-CN、-NO、-COR'、-CONR'R"、-C(O)R'、-OC(O)NR'R"、-NR"C(O)R'、-NR"C(O)R'、-NR'-C(O)NR"R'''、-NH-C(NH)=NH、-NR'C(NH)=NH、-NH-C(NH)=NR'、-S(O)R'、-S(O)R'、-S(O)NR'R"、-NR'S(O)R"、N、パーフルオロ(C-C)アルコキシ、及びパーフルオロ(C-C)アルキルから選択され、そして、ここで、R'、R''、及びR'''は、水素、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、非置換アリール及びヘテロアリール、(非置換アリール)-C1-4アルキル、及び非置換アリールオキシ-C1-4アルキルから独立して選択される。他の適切な置換基には、1~4個の炭素原子のアルキレンテザーによって環原子に結合した上記のアリール置換基のそれぞれが含まれる。
【0041】
アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子上の2つの置換基は、任意選択的に式-TC(O)-(CH-U-の置換基で置き換えることができ、ここで、T及びUは独立して-NH-、-O-、-CH-、又は単結合であり、qは0~2の整数である。あるいは、アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子上の2つの置換基は、任意選択的に式-A-(CH-B-の置換基で置き換えることができ、ここで、A及びBは独立して-CH-、-O-、-NH-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、-S(O)NR'-、又は単結合であり、rは1~3の整数である。このように形成された新しい環の単結合の1つは、任意選択的に2重結合で置き換えることができる。あるいは、アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子上の2つの置換基は、任意選択的に式-(CH-X-(CH-の置換基で置き換えることができ、ここで、s及びtは、独立して0~3の整数であり、Xは、-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、又は-S(O)NR'-である。-NR'-及び-S(O)NR'-中の置換基R'は、水素又は非置換C1-6アルキルから選択される。
【0042】
本明細書で使用される用語「ヘテロ原子」は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、及びケイ素(Si)を含むことを意味する。
【0043】
本明細書で使用される用語「前駆細胞」及び「幹細胞」は交換可能に使用される。「前駆細胞」及び「幹細胞」は、特定の刺激に応答して、特に限定されるものではないが、造血細胞、間葉細胞、上皮細胞、神経細胞、腎細胞、又は骨髄細胞を含む分化した細胞系統を形成することができる細胞を指す。前駆細胞/幹細胞の存在は、試料中の細胞が、例えばCFU-GM(コロニー形成単位、顆粒球マクロファージ)、CFU-GEMM(コロニー形成単位、多能性)、BFU-E(バースト形成ユニット、赤血球)、HPP-CFC(増殖能の高いコロニー形成細胞)を含む様々なタイプのコロニー形成単位、又は既知のプロトコールを使用して培養で得ることができる他のタイプの分化したコロニーを形成する能力によって評価することができる。造血前駆細胞/幹細胞は、しばしばCD34が陽性である。ただしこのマーカーを含まない幹細胞もある。これらのCD34+細胞は、蛍光活性化細胞ソーター解析(FACS)を使用して測定することができため、この手法を使用して試料内のこれらの存在を評価することができる。あるいはそのような細胞は、FACSにより、c-kit受容体(CD117)の存在、系統特異的マーカー(例えば、マウスではCD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、TER-119、及びGr-1、ヒトではCD3、CD14、CD16、CD19、CD20、及びCD56)の欠失について測定することができる。
【0044】
用語「医薬的に許容し得る塩」は、本明細書に記載の化合物に見られる特定の置換基に応じて、比較的非毒性の酸又は塩基で調製される活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性形態に、そのままの又は適切な不活性溶媒中のいずれかで、十分量の所望の塩基と接触させることによって、塩基付加塩を得ることができる。医薬的に許容し得る無機塩基に由来する塩の例には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、第二マンガン、第一マンガン、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが含まれる。医薬的に許容し得る有機塩基に由来する塩には、一級、二級、及び三級アミンの塩が含まれ、これらのアミンには、置換アミン、環状アミン、天然に存在するアミンなど、例えばアルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン。ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどが含まれる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性形態に、そのままの又は適切な不活性溶媒中のいずれかで、十分量の所望の酸と接触させることによって、酸付加塩を得ることができる。医薬的に許容し得る酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸塩、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、硫酸、一水素硫酸、ヨウ化水素酸、又はリン酸などの無機酸に由来するもの、並びに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的毒性のない有機酸に由来する塩が含まれる。アルギン酸塩などのアミノ酸の塩、及びグルクロン酸又はガラクツロン酸などの有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge, S.M., et al, “Pharmaceutical Salts", Journal of Pharmaceutical Science, 1977, 66, 1-19を参照)。本発明の特定の化合物は、化合物を塩基付加塩又は酸付加塩のいずれかに変換することを可能にする塩基性及び酸性の両方の官能基を含む。
【0045】
中性形態の化合物は、塩に塩基又は酸を接触させ、従来の方法で親化合物を単離することによって再生することができる。化合物の親形態は、極性溶媒への溶解度などの特定の物理的特性において様々な塩形態とは異なるが、それ以外の点では、塩は本発明の目的のための化合物の親形態と同等である。
【0046】
本発明は、塩形態に加えて、プロドラッグ形態である化合物を提供する。本明細書に記載の化合物のプロドラッグは、生理学的条件下で容易に化学変化を受けて本発明の化合物を提供する化合物である。さらにプロドラッグは、エクスビボ環境において化学的又は生化学的方法によって本発明の化合物に変換することができる。例えばプロドラッグは、適切な酵素又は化学試薬とともに経皮パッチリザーバーに配置された場合、ゆっくり本発明の化合物に変換することができる。
【0047】
本発明の特定の化合物は、非溶媒和形態並びに溶媒和形態(水和形態を含む)で存在することができる。一般に、溶媒和形態は非溶媒和形態と同等であり、本発明の範囲内に包含されることが意図される。本発明の特定の化合物は、複数の結晶形態又は非晶質形態で存在し得る。一般にすべての物理的形態は、本発明によって企図される使用に関して同等であり、本発明の範囲内であることが意図される。
【0048】
本発明の特定の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)又は2重結合を有する;ラセミ体、ジアステレオ異性体、幾何異性体、位置異性体、及び個々の異性体(例えば、別個の鏡像異性体)はすべて、本発明の範囲内に含まれることが意図される。いくつかの実施態様において、本発明の化合物は鏡像異性的に濃縮された形態で存在し、特定の鏡像異性体に対する過剰の鏡像異性体の量は既知の方法によって計算される。鏡像異性体に富む形態の調製も当技術分野で周知であり、例えばクロマトグラフィー又はキラル塩形成によるキラル分割を使用して達成することができる。さらに、異なる配座異性体並びに別個の回転異性体が本発明によって企図される。配座異性体は、1つ以上のσ結合の周りの回転によって異なる可能性のある配座異性体である。回転異性体は、単一のσ結合のみを中心とする回転によって異なる配座異性体である。さらに本発明の化合物はまた、そのような化合物を構成する1種以上の原子に不自然な割合の原子同位体を含み得る。従って、いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、同位体的に濃縮された形態で存在する。同位体の不自然な比率は、自然界に見られる量から問題の原子の100%からなる量までの範囲として定義することができる。例えば化合物は、トリチウム(H)、ヨウ素-125(125I)、又は炭素-14(14C)などの放射性同位体、又は重水素(H)若しくは炭素-13(13C)などの放射性同位体を含み得る。このような同位体の種類は、本出願の他の場所で説明されているものに追加の有用性を提供できる。例えば、本発明の化合物の同位体変種は、特に限定されるものではないが、診断薬及び/又は画像化試薬として、又は細胞毒性/放射線毒性治療薬として追加の有用性を見出すことができる。さらに本発明の化合物の同位体変種は、治療中の安全性、耐容性、又は有効性の向上に寄与することができる改変された薬物動態学的及び薬力学的特性を有しうる。本発明の化合物のすべての同位体変種は、放射性であるかどうかにかかわらず、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0049】
「RDC1」又は「CCXCKR2」とも呼ばれる「CXCR7」は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)と推定される7回膜貫通ドメインを指す。CXCR7イヌオルソログは1991年に最初に同定された。 Libert et al. Science 244:569-572 (1989)を参照されたい。イヌの配列は、Libert et al., Nuc. Acids Res. 18(7):1917 (1990)に記載されている。マウスの配列は、例えば Heesen et al., Immunogenetics 47:364-370 (1998) に記載されている。ヒトの配列は、例えば Sreedharan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4986-4990 (1991) に記載されており、これは、このタンパク質を血管作動性腸ペプチドの受容体として誤って説明した。
【0050】
用語「治療有効量」は、研究者、獣医、医師、又は他の治療提供者によって求められている、細胞、組織、系、又はヒトなどの動物の生物学的又は医学的応答を誘発する対象化合物の量を意味する。
【0051】
本明細書で使用される用語「組成物」は、特定の量の特定の成分を含む生成物、並びに特定の量の特定の成分の組み合わせから直接的又は間接的に生じる任意の生成物を包含することを意図する。「医薬的に許容し得る」とは、担体、希釈剤、又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合性があり、その受容者に有害であってはならないことを意味する。
【0052】
III.実施態様の詳細な説明
A.方法
1つの態様において、FRS2βの異常な発現を有する個体にCXCR7阻害剤を投与することを含む、必要な個体の癌を治療する方法本明細書で提供される。
【0053】
別の態様において、FRS2βを発現する前癌細胞を有する個体にCXCR7阻害剤を投与することを含む、FRS2βを発現する前癌細胞が癌に成長することを予防する方法が本明細書で提供される。
【0054】
背景技術の欄で説明したように、FRS2βは脳で豊富に発現されるが、他の組織ではほんのわずかの領域でしか発現されない。すなわち、多くの組織はFRS2βを自然には発現しない。本明細書に示されるように、本来はFRS2βを発現しない細胞におけるこのタンパク質の異常な発現が、CSCニッチを提供し、腫瘍形成をもたらす可能性がある。
【0055】
異常な発現とは、健康な個体中のあるタンパク質を通常は産生しない患者の細胞、組織、器官、又は体液におけるそのタンパク質の発現(不適切な発現)、又は健康な個体の同じタイプの細胞、組織、器官、又は体液で検出されるよりも、被験体の細胞、組織、器官、又は体液におけるより高レベルのタンパク質の発現(示差的発現)を指すことが理解される。いくつかの実施態様において、FRS2βの異常な発現は、健康な個体におけるよりも少なくとも約3%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、又はそれ以上のFRS2β発現である。FRS2β発現は当技術分野で知られている方法を使用して決定できることは、当業者によって理解されるであろう。いくつかの実施態様において、FRS2β発現は、開示された方法に記載されるように検出することができる。いくつかの実施態様において、FRS2β発現は免疫組織化学を使用して検出することができる。様々な実施態様において、異常な発現はELISAアッセイで検出される。
【0056】
当技術分野では多くのCXCR7阻害剤が知られており、本開示において有用な可能なCXCR7阻害剤のさらなる詳細は、以下のセクションでさらに考察される。
【0057】
癌を治療する好ましい方法は、1種以上の前述の化合物(又はその塩)の治療有効量を癌患者に、癌を治療するのに十分な時間投与することを含む。
【0058】
ヒトなどの霊長類に加えて、様々な他の哺乳動物を本発明の方法に従って治療することができる。例えば、特に限定されるものではないが、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、又は他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類、又はネズミ種を含む哺乳動物を治療することができる。しかし、この方法は、鳥類(例えば、ニワトリ)などの他の種でも実施することができる。
【0059】
場合によっては、CXCR7阻害剤は、癌、例えば癌腫、神経膠腫、中皮腫、黒色腫、リンパ腫、白血病(急性リンパ球性白血病を含む)、腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、神経膠芽細胞腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、バーキットリンパ腫、結腸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝胆道癌、胆嚢癌、小腸癌、直腸癌、腎臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、尿道癌、精巣癌、子宮頸癌、膣癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、膵臓内分泌癌、カルシチイド癌、骨癌、皮膚癌、網膜芽細胞腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(追加の癌については、CANCER:PRINCIPLES AND PRACTICE (DeVita, V.T. et al. eds 1997) CANCER:PRINCIPLES AND PRACTICE (DeVita, V.T. et al. eds 1997 を参照)を治療するために投与される。
【0060】
いくつかの実施態様において、本明細書で治療される癌は乳癌である。
【0061】
いくつかの実施態様において、個体は、CXCR7阻害剤又は追加の治療薬の投与の前に、FRS2βの異常な発現を有すると診断されている。
【0062】
B.CXCR7阻害剤
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、式Iの構造:
【化12】
又はその医薬的に許容し得る塩、水和物、N-オキシド、それらの同位体的に濃縮又は鏡像異性体的に濃縮されたものを有し、式中、
下付き文字nは、0~2の整数であり;
各Rは、存在する場合、C1-4アルキル、-CO、-X-CO、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択され;
とRはそれぞれ、H、-R、-XR、-XNR、-XNHCONR、-XNHCOR、-X-O-CONR、-XNHSO、-CO、-X-CO、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択されるメンバーであり;又はまとめてオキソであり;
は、単環式又は縮合2環式アリール及びヘテロアリールからなる群から選択され、ここでヘテロアリール基は、環メンバーとしてN、O、及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を有し;及びここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、任意選択的に、1~3個のR置換基で置換され;
は、ベンゼン、ヘテロ芳香族、シクロアルカン、及びヘテロシクロアルカンからなる群から選択される単環式の4、5、6、又は7員環であって、ここで、前記ヘテロ芳香環及びヘテロシクロアルカン環は、環メンバーとしてN、O、及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を有し;及びここで、前記単環式C環のそれぞれは、任意選択的に1~3個のR置換基で置換され;
は、水素、C1-8アルキル、C3-8シクロアルキル、アリール、アリール-C1-4アルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリール-C1-4アルキル、及び4~6員のヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、ここで、ヘテロシクロアルキル基又は部分は、N、O、及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を有し、ここで、前記ヘテロアリール基は、環メンバーとしてN、O、及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を有し、各Cは、任意選択的に1~3個のR置換基で置換され;
各Rは、ハロゲン、-CN,-NO、-R、-CO、-NR、-OR、-X-CO、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択され;
ここで、R、R、R、及びRのそれぞれの中で、各R及びRは、水素、C1-8アルキル、C3-7シクロアルキル、C1-8ハロアルキル、及び4~6員ヘテロシクロアルキルから独立して選択されるか、又は、同じ窒素原子に結合している場合、窒素原子と一緒になって、環メンバーとしてN、O、又はSから選択される0~2個の追加のヘテロ原子を有する4、5、又は6員環を形成することができ;R内で、各Rは、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールからなる群から独立して選択され、ここで、前記R、R、及びRの脂肪族及び環状部分は、任意選択的に1~3個のハロゲン、ヒドロキシ、メチル、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキサミド、カルボキシアルキルエステル、カルボン酸、ヘテロアリール、及び4~6員のヘテロシクロアルキル基でさらに置換され;及び、ここで、前記R、R、及びRのヘテロシクロアルキル部分は、任意選択的にオキソで置換され;及び、任意選択的に、2つのR置換基が隣接する原子上にある場合、一緒になって、環メンバーとして炭素原子及び酸素原子を有する縮合5員又は6員環を形成し;
各Rは、ハロゲン、-CN、-NO、-R、-CO、-COR、-NR、-OR、-X-CO、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択され;ここで、各R及びRは、水素、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、C3-6シクロアルキルアルキル、及び4~6員ヘテロシクロアルキルから独立して選択されるか、又は同じ窒素原子に結合している場合、窒素と一緒になって、環メンバーとしてN、O、又はSから選択される0~2個の追加のヘテロ原子を有する5員又は6員環を形成することができ;各Rは、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、及びC3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択され、ここで、前記R、R、及びRの脂肪族及び環状部分は、任意選択的に、1~3個のハロゲン、ヒドロキシ、メチル、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキサミド、カルボキシアルキルエステル、カルボン酸、ヘテロアリール、4~6員ヘテロシクロアルキル基でさらに置換され;
各Rは、ハロゲン、-CN、-NO、-R、-CO、-COR、-NR、-OR、-X-CO、-X-COR、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択され、ここで、各R及びRは、水素、C1-8アルキル、及びC1-8ハロアルキルから独立して選択され;各Rは、C1-8アルキル及びC1-8ハロアルキルからなる群から独立して選択され;そして
各Xは、式-(CHO(CH-を有する連結基であって、ここで、下付き文字m及びpは0~5の整数であり、m+pは0~6であって、ここで、メチレン基は、任意選択的に1つ又は2つのメチル基で置換される。
【0063】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物1の構造:
【化13】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0064】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物2の構造:
【化14】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0065】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物3の構造:
【化15】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0066】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物4の構造:
【化16】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0067】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物5の構造:
【化17】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0068】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物6の構造:
【化18】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0069】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、ChemoCentrixによって2009年11月4日に出願されたPCT出願番号US2009/063298(その内容はすべての目的のために本明細書に組み込まれる)に由来するPCT公開番号WO2010/054006に開示された化合物又は医薬組成物から選択される。
【0070】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、式IIの構造:
【化19】
又はその医薬的に許容し得る塩、水和物、N-オキシド、同位体的に濃縮、又は鏡像異性的に濃縮されたもの、又はそれらの回転異性体を有し、式中、
環頂点X、X、及びXのそれぞれは、N、NH、N(R)、O、CH、及びC(R)からなる群から独立して選択され;
下付き文字nは、0、1、又は2であり;
Zは、以下からなる群から選択される:
(i)単環式又は縮合2環式アリール及びヘテロアリールであって、ここで、前記ヘテロアリール基は、環メンバーとしてN、O、及びSから選択される1~4個のヘテロ原子を有し、前記アリール及びヘテロアリール基は、任意選択的に1~5個のR置換基で置換され;
(ii)シクロアルカン及びヘテロシクロアルカンからなる群から選択される単環式4、5、6、又は7員環であって、ここで、前記ヘテロシクロアルカン環は、環メンバーとしてN、O、及びSから選択される1~3個のヘテロ原子を有し、前記単環式Z環のそれぞれは、任意選択的に1~3個のR置換基で置換され;
は、H及びC1-8アルキルからなる群から選択されるメンバーであって、ここで、前記アルキル部分は、任意選択的にハロゲン、-NR、-OR、-CO、及び-CONRで置換され;
各Rは、H、ハロゲン、CN、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C1-8ヒドロキシアルキル、-OR、-CO、-X-CO、-NR、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択され;
は、H、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C1-8ヒドロキシアルキル、-CO、-X-CO、-CONR、及び-X-CONRからなる群から選択されるメンバーであり;
各Rは、存在する場合、C1-8アルキル、C1-8ハロアルキル、C1-8ヒドロキシアルキル、-OR、-CO、-X-CO、-NR、-CONR、及び-X-CONRからなる群から独立して選択されるメンバーであり;
各Rは、ハロゲン、CN、-X-CN、C1-8アルキル、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルケニル、C3-5スピロシクロアルキル、C2-8アルケニル、C2-8アルキニル、C1-8ハロアルキル、C1-8ヒドロキシアルキル、-OR、-CO、-X-CO、-NR、-CONR、-X-CONR、アリール、5又は6員ヘテロアリール、及び3、4、5、又は6員複素環からなる群から独立して選択されるメンバーであって、ここで、前記ヘテロアリール及び複素環の環頂点として存在する前記ヘテロ原子は、N、O、及びSから選択され、Rのアリール、ヘテロアリール、及び複素環部分は、任意選択的に1~3個のRでさらに置換され;
各R及びRは、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、シアノ、C1-8アルキル、C1-8アルコキシ、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、C3-6シクロアルキルアルキル、アミノ、C1-8アルキルアミノ、ジC1-8アルキルアミノ、カルボキサミド、カルボキシC1-4アルキルエステル、カルボン酸、及び-SO-C1-8アルキルからなる群から独立して選択され;
各Xは、C1-4アルキレン連結基、又は式-(CHO(CH-を有する連結基であって、ここで、下付き文字m及びpは0~5の整数であり、m+pは0~6であり、Xのメチレン部分のいずれかは、任意選択的に1つ又は2つのメチル基で置換される。
【0071】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物7の構造:
【化20】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0072】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物8の構造:
【化21】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0073】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、化合物9の構造:
【化22】
又はその医薬的に許容し得る塩を有する。
【0074】
いくつかの実施態様において、CXCR7阻害剤は、ChemoCentrixによって2013年11月26日に出願されたPCT出願番号US2013/072067(その内容はすべての目的のために本明細書に組み込まれる)に由来するPCT公開番号WO2014/085490に開示された化合物又は医薬組成物から選択される。
【0075】
C.併用療法
本明細書に開示される癌を治療する方法は、1種以上の追加の治療薬をさらに含むことができる。
【0076】
本開示において有用である追加の治療薬には、抗癌活性を有する化合物又は組成物が含まれる。いくつかの実施態様において、本発明のCXCR7モジュレーターは、化学療法剤又は放射線と組み合わせて投与することができる。
【0077】
別々に又は同じ医薬組成物のいずれかで投与される、本発明の化合物又は組成物と組み合わせることができる他の治療薬のさらなる例には、特に限定されるものではないが、以下が含まれる:IGF1阻害剤(例えば、抗体又は小分子)、CXCR4阻害剤(例えば、AMD3100)、免疫調節剤、シスプラチン、パクリタキセル、メトトレキサート、シクロホスファミド、イフォスファミド、クロラムブシル、カルムスチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、チオテパ、ロムスチン、セムスチン、5-フルオロウラシル、及びシタラビン。いくつかの実施態様において、1種以上の追加の治療薬は、抗IGF1抗体及び/又はCXCR4阻害剤であり得る。いくつかの実施態様において、1種以上の追加の治療薬はCXCR4阻害剤である。いくつかの実施態様において、1種以上の追加の治療薬は抗IGF1抗体である。
【0078】
小分子、ペプチド、及び抗体を含む、当技術分野で知られている多くのCXCR4阻害剤が存在する。これらのそれぞれは、本開示において有用である。いくつかの例示的なCXCR4阻害剤には、AMD3100、並びにWO2007115232、WO2007115231、US20070275965、US20130289020、US20140286936、及びUS20170226106(それぞれの内容はすべての目的のために本明細書に組み込まれる)で提供されるCXCR4阻害剤が含まれる。
【0079】
CXCR4と同様に、いくつかの小分子阻害剤及び抗体がIGF1を標的とすることが知られている。例示的な阻害剤には、AG538、AG1024、NVP-AEW541、及びフィギツムマブ、並びにUS20090068110、US20140045832、US20050281812、US20050244408、US20120005767、US20140044720、及びUS20080161278(それぞれの内容はすべての目的のために本明細書に組み込まれる)で提供される阻害剤が含まれる。
【0080】
本発明の化合物と第2の活性成分との重量比は変化してもよく、それは各成分の有効用量に依存するであろう。一般的に、それぞれの有効用量が使用される。従って、例えば本発明の化合物を第2の抗癌剤と組み合わせる場合、本発明の化合物と第2の薬剤との重量比は、一般に約1000:1~約1:1000、好ましくは約200:1~約1:200の範囲である。本発明の化合物と他の有効成分との組み合わせもまた一般に前述の範囲内であるが、いずれの場合も、各有効成分の有効量を使用すべきである。
【0081】
そのような投与は、第2の治療薬の前に、後に、又は一緒に行うことができ、その結果、CXCR7モジュレーターの非存在下で第2の薬剤を投与した場合と比較すると、第2の薬剤の治療効果が増強されることが理解される。併用療法で使用するための適切な薬剤の選択は、従来の製薬原理に従って当業者によってなされ得る。治療薬の組み合わせは相乗的に作用する可能性があり、このアプローチを使用すると、各薬剤のより低用量で治療効果を達成でき、従って有害な副作用の可能性が低減する。
【0082】
D.投与方法
一般に、本明細書で提供される治療方法は、本明細書で提供される1種以上のCXCR7化合物の有効量を患者に投与することを含む。好適な実施態様において、本発明の化合物は好ましくは経口的に患者(例えばヒト)に投与される。治療計画は、使用される化合物及び治療される特定の状態によって異なる場合があり、ほとんどの障害の治療には、1日4回以下の投与頻度が好ましい。一般に、1日2回の投与計画がより好ましく、特に1日1回の投与が好ましい。しかしながら、特定の患者の特定の用量レベル及び治療計画は、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の組み合わせ(すなわち、患者に投与されている他の薬物)、及び治療を受けている特定の疾患の重症度、並びに処方する医師の判断を含む様々な要因に依存することが理解されよう。一般に、効果的な治療を提供するのに十分な最小用量の使用が好ましい。患者は一般に、治療又は予防されている状態に適した医学的又は獣医学的基準を使用して、治療効果について追跡され得る。
【0083】
治療される癌及び被験体の状態に応じて、本発明の化合物及び組成物は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、槽内注射又は注入、皮下注射、又はインプラント)、吸入、経鼻、経膣、直腸、舌下、又は局所投与経路で投与することができ、単独で又は一緒に、各投与経路に適した従来の非毒性の医薬的に許容し得る担体、補助剤、及びビヒクルを含む適切な単回投与剤形で製剤化することができる。本発明はまた、デポー製剤における本発明の化合物及び組成物の投与を企図する。
【0084】
1日あたり体重1キログラムについて約0.1mg~約140mgのオーダーの投与量レベルが有用である(1日あたりヒト患者について約0.5mg~約7g)。単一の剤形を作製するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に応じて変化するであろう。単回投与剤形は、一般に約1mg~約500mgの有効成分を含むであろう。50ng/ml~200ng/mlの血清濃度を達成するために十分な量の化合物を投与する必要がある。
【0085】
本発明の化合物及び組成物は、癌を予防及び治療するための関連する有用性を有する他の化合物及び組成物と組み合わせることができる。そのような他の薬物は、本発明の化合物又は組成物と同時に、又は連続して、そのために一般的に使用される経路及び量で投与することができる。CXCR7阻害剤が1種以上の他の薬物と同時に使用される場合、CXCR7阻害剤に加えてそのような他の薬物を含む医薬組成物が好ましい。従って本発明の医薬組成物はまた、CXCR7阻害剤に加えて、1種以上の他の有効成分又は治療薬も含有するものも含む。
【0086】
併用療法で使用される追加の治療薬は、それが化合物であろうと抗体抗体であろうと、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、槽内注射又は注入、皮下注射、又はインプラント)、吸入、経鼻、経膣、直腸、舌下、又は局所投与経路で投与することができる。さらに、化合物及び/又は抗体は、単独で又は一緒に、各投与経路に適切した従来の非毒性の医薬的に許容し得る担体、補助剤、及びビヒクルを含む適切な単回投与剤形で製剤化することができる。本開示はまた、デポー製剤における本開示の化合物及び抗体の投与を企図する。
【0087】
任意の特定の患者の特定の用量レベル及び投与頻度は変化してもよく、使用される特定の化合物及び/又は抗体の活性、その化合物の代謝安定性と作用の長さ、年齢、体重、遺伝的特徴、全身の健康、性別、食事、投与様式と時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、特定の状態の重症度、及び治療を受けている宿主を含む様々な要因に依存することが理解されるであろう。
【0088】
併用療法は、CXCR7阻害剤と1種以上の追加の治療薬の同時投与、CXCR7阻害剤と1種以上の追加の治療薬の連続投与、又は別個の組成物の同時投与を含み、その結果、1つの組成物が、CXCR7阻害剤と、1種以上の追加の治療薬を含む1種以上の組成物とを含む。
【0089】
同時投与は、本開示のCXCR7阻害剤を、1種以上の追加の治療薬の1回以上の投与の0.5、1、2、4、6、8、10、12、16、20、又は24時間以内に投与することを含む。さらに、CXCR7阻害剤と1種以上の追加の治療薬は、それぞれ、1日1回、又は2回、3回、又はそれ以上の回数投与して、1日あたりの好ましい投与量レベルを提供することができる。
【0090】
IV.実施例
以下の例は、特許請求される発明を説明するために提供されるが、特に限定されるものではない。
【0091】
実施例1:管腔前駆細胞で発現されたFRS2βは乳腺腫瘍形成に有利な微小環境を作り出す
インビボでのFRS2βの役割を調べるために、マウスのFrs2β遺伝子を遺伝子ターゲティングによって変異させた。変異マウスは正常に成長し、肉眼的異常もなく繁殖可能性を有した。Frs2βのプロモーター活性は、Frs2β変異対立遺伝子に対してヘテロ接合性であった成熟したメスの乳腺組織のβ-ガラクトシダーゼ染色によって検出された(図1A)。Frs2β転写物の量は、妊娠中及び授乳中に有意に増加し、離乳後(生後3週間)、退行期中に減少した(データは示していない)。免疫組織化学により、我々は、FRS2βが乳腺小葉のいくつかの細胞で発現していることを確認した(図1C)。ほとんどのFRS2β陽性細胞は、分裂細胞の核マーカーであるホスホヒストンH3が陰性であり、これらが、細胞増殖におけるFRS2βの負の役割に一致して、他の細胞よりもゆっくり増殖することを示している(図1C)。FRS2βは、サイトケラチン18(管腔細胞マーカー)が陽性であったが、サイトケラチン14(筋上皮細胞マーカー)が陽性ではなかったいくつかの細胞で発現された(図1D)。これらのデータは、乳腺の少数の管腔細胞がFRS2βを発現することを示している。一方、乳腺のホールマウント染色では、変異マウスに肉眼的に構造異常は見られなかった。このため我々は、腫瘍形成におけるFRS2βの病理学的役割を調べることになった。
【0092】
我々は、Frs2β変異マウスをMMTV-neu(+)マウスと交配して、MMTV-neu(+)/Frs2β(+/+)マウス及びMMTV-neu(+)/Frs2β(-/-)マウスを作成した。以下、それぞれFrs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)マウスと呼ぶ。生後約8週齢で妊娠を経験したMMTV-neu(+)マウス(23.4+1.9週、83%、n=8)では、処女MMTV-neu(+)マウス(32.6+2.6週、23.4%、n=8)よりも、腫瘍形成が、より高率で早く始まることが観察された。従って我々は、妊娠直後及び授乳期間中のマウスの腫瘍形成を調べた。直径1mmでも腫瘍を検出できる高感度な方法である核磁気共鳴(NMR)イメージングを使用した20図1E)。測定開始後5~8週間で小さな腫瘍が観察され始め、Frs2β(-/-)マウスの方がFrs2β(+/+)マウスよりも腫瘍増殖速度がはるかに遅い(図1E、1F)が、腫瘍発生率は同様の割合を示し、すなわちFrs2β(+/+)では83.2%(n=18)そしてFrs2β(-/-)では88.2%(n=17)であった。この結果は、FRS2βが乳腺腫瘍形成において重要な役割を果たしていることを示している。その分子メカニズムを調べるために、最初に腫瘍組織を比較した。Frs2β(+/+)腫瘍には、ヒトの乳癌組織を思わせる十分量の間質があった(図1G)。しかし、これはFrs2β(-/-)腫瘍でははるかに少なかった。腫瘍間質が腫瘍微小環境の主要な構成要素であるという事実を考慮して、我々は、FRS2βが乳腺組織における腫瘍形成のための好ましい微小環境を作り出すのに役割を果たしている可能性があるという仮説を立てた。
【0093】
組織学的検査は、Frs2β(+/+)腫瘍が、ヒト乳癌組織を思わせる十分な間質を含むことを明らかにした(図1Gの矢印)。対照的に、Frs2β(-/-)腫瘍では間質はほとんど観察されなかった。Frs2β(+/+)腫瘍の間質には高レベルの平滑筋アクチン(SMA)陽性CAFが存在したが、Frs2β(-/-)腫瘍には存在しなかった(図1Hの矢印)。これらの結果は、FRS2βが腫瘍間質の形成に必要であることを示している。
【0094】
FRS2βが、腫瘍発症前でさえ、腫瘍形成に必要な乳腺組織微小環境を作り出すのに役割を果たすという考えを試験するために、我々は異種移植実験を行い、Frs2β(+/+)腫瘍細胞を、Frs2β(+/+)及びFrs2β(-/-)マウスの若い処女前癌性乳腺組織に接種した。Frs2β(+/+)腫瘍細胞を無血清懸濁状態で培養し、CSCを濃縮するためのスフェアとして使用した15,21。次に、限界希釈後、それらをFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)の8週齢の処女乳腺組織に接種し、腫瘍形成を測定した(図2A)。興味深いことに、腫瘍はFrs2β(-/-)乳腺組織では形成されず、Frs2β(+/+)でのみ形成され、1か月以内に急速に増殖した(図2B、2C、2D)。この結果は、CSCが乳腺組織のFrs2β(-/-)微小環境で消失したことを示唆している。予想通り、Frs2β(+/+)腫瘍細胞をFrs2β(+/+)雄乳腺脂肪パッドに接種した場合、腫瘍は形成されず(データは示していない)、乳腺組織が腫瘍形成に重要であることを確認した。従って、FRS2βを発現する前癌性乳腺細胞は、CSCの増殖を支持し腫瘍形成を可能にする微小環境を作り出すように思われる。
【0095】
免疫組織化学により、我々は、MMTV-neu(-)マウス及びMMTV-neu(+)マウスにおいて、FRS2βを発現する同様の数の管腔細胞が存在することを見出した(図2E)。内因性ErbB2発現は、MMTV-neu(-)マウスのFRS2β陽性細胞で適度に減少し(黄色の矢印)、これは、FRS2βがErbB2のユビキチン化と分解に関与しているという事実19と一致している;一方、ErbB2はMMTV-neu(+)マウスのFRS2β陽性細胞で過剰発現された(白い矢印)。どのタイプの管腔細胞でFRS2βが発現しているかをさらに調べるために、表面マーカーを使用して乳腺細胞を分類した。管腔細胞はCD49flow/CD24high細胞集団22で濃縮され、管腔前駆細胞はCD49flow/CD24high/CD61集団23について、CD61でさらに分画することで濃縮できることが知られている。FRS2βの有意な発現は、CD49flow/CD24+high/CD61+管腔前駆細胞集団の23.6%の細胞で観察された(図2F)。我々は、Frs2β(-/-)乳腺細胞に由来するCD49flow/CD24high/CD61+管腔前駆細胞集団で、FRS2βが消失していることを確認した。これらのデータは、乳腺の管腔前駆細胞のサブセットがFRS2βを発現することを示唆している。
【0096】
実施例2:前癌性乳腺細胞はFRS2β発現に依存するサイトカインを発現する
次に我々は、管腔前駆細胞で発現されるFRS2βが腫瘍形成に有利な微小環境を作り出す分子メカニズムを調べた。Frs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)の前癌性乳腺細胞を無血清懸濁条件下で培養し、未分化細胞又は前駆細胞をスフェアとして濃縮し、それらのマンモスフェア形成能を測定した(図3A及び3B)。これらの1次スフェアを単一細胞懸濁液に分離し、これらを培養して2次マンモスフェアを生成した。2次スフェアは、スフェア形成性の未分化細胞又は前駆細胞の発生率を正確に反映していると考えられている。我々は、FRS2βの欠損により、スフェア形成能力が大幅に低下することを見いだした(図3A、3B)。マンモスフェアの直径に有意差はなく、増殖速度がFrs2β(+/+)とFrs2β(-/-)の前癌性乳腺細胞間で類似していたことを示唆している。管腔前駆細胞のどの機能がFRS2βの喪失によって破壊されるかを調べるために、DNAマイクロアレイを使用してFrs2β(+/+)とFrs2β(-/-)マンモスフェア細胞間のトランスクリプトミクスプロフィールを比較した。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、幹細胞機能関連遺伝子セットとインターフェロンシグナル関連遺伝子セットが、Frs2β(-/-)細胞と比較して、Frs2β(+/+)マンモスフェア細胞で濃縮されたことを示した(図3C)。前癌性乳腺上皮細胞のGSEAはまた、NFkB標的、幹細胞機能、及び間質に関連する遺伝子セットが、Frs2β(-/-)細胞と比較してFrs2β(+/+)細胞で濃縮されたことも明らかにした(図3D)。ERK経路関連遺伝子セットは、Frs2β(+/+)細胞と比較してFrs2β(-/-)細胞でアップレギュレートされ、これは、FRS2βがERKシグナル伝達を阻害するため予想された。サイトカインをコードする多くの遺伝子は、Frs2β(+/+)細胞でアップレギュレートされた。それらの中で18個の遺伝子が、Frs2β(-/-)細胞よりもFrs2β(+/+)細胞で、1.5倍超高いレベルで発現された(データは示されていない)。
【0097】
次に我々は、Frs2β(+/+)細胞で高度に発現される上位の遺伝子の中で、幹細胞機能関連遺伝子セットに含まれるIGF1と、インターフェロンシグナル関連遺伝子セット及び間質関連遺伝子セットに含まれるCXCL12とに注目した。定量的PCT(qPCT)により、Igf1及びCxcl12転写物は、Frs2β(-/-)細胞よりもヘテロ接合性Frs2β(+/-)乳腺細胞で強く発現され、分化細胞マーカー(ケラチン8、ケラチン18、及びケラチン14)は、Frs2β(-/-)細胞でアップレギュレートされていることが確認された(図3E)。免疫組織化学により、IGF1、CXCL12、及びCAFマーカーであるαSMAのタンパク質レベルがFrs2β(+/+)乳腺組織でより高いことを確認した(図3F)。αSMAを用いる強い染色により、野生型乳腺組織におけるCAFの動員が確認された。
【0098】
実施例3:前癌性乳腺細胞におけるCXCL12産生のFRS2β依存性の増加は、CXCR7阻害剤を用いるか、又は腫瘍増殖を調節する他の治療薬と組み合わせたCXCR7阻害剤を用いる腫瘍形成治療を可能にする
腫瘍スフェア形成は、その増殖が培養物中のサイトカインに依存するCSCの特性を反映している。前癌性乳腺上皮細胞に由来するIGF1が腫瘍スフェア形成に役割を果たすかどうかを判断するために、無血清懸濁条件下で無血清懸濁条件下でFrs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞の存在下又は非存在下で、Frs2β(+/+)腫瘍細胞を培養した(図4A)。Frs2β(+/+)腫瘍細胞による腫瘍スフェア形成が、Frs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞の存在下では観察されたが、非存在下では観察されなかった(図4B及び4Cの対照IgGと未治療[N.T.]を比較されたい)。IGF1中和抗体(IGF1 NAb)による治療は、Frs2β(+/+)前癌性乳腺細胞と共培養されたFrs2β(+/+)腫瘍細胞による腫瘍スフェア形成を大幅に減少させた(図4B及び4C)。これらの知見は、近くのFrs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞に由来するIGF1が腫瘍スフェア形成において重要な役割を果たしていることを示している。従って、Frs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞に由来するIGF1は、CSC増殖を支持している可能性がある。
【0099】
前癌性乳腺上皮細胞に由来するCXCL12が癌関連線維芽細胞(CAF)について役割を果たすかどうかを調べるために、我々は、Frs2β(+/+)CAFをFrs2β(+/+)又はFrs2β(-/-)前癌性乳腺上皮細胞と共培養した(図4D)。Cxcl12の発現レベルは、この培養条件ではFrs2β(-/-)細胞よりもFrs2β(+/+)前癌性乳腺細胞で高いことが確認された(図4E)。Frs2β(-/-)細胞よりもFrs2β(+/+)前癌性乳腺細胞と共培養した場合、有意に多くの遊走CAFが観察された(図4F及び4G)。CXCL12はCXC受容体(CXCR)4及びCXCR7に結合する。報告されている最適濃度のCXCR4阻害剤AMD3100(100μg/ml)又は化合物1(100μg/ml)単独で治療しても、CAFの動員に有意な影響は観察されなかった(データは示していない)が、両方の阻害剤の組み合わせで治療すると、CAFの動員は用量依存的に大幅に減少した(図4H、4I)。これらの知見は、近くのFrs2β(+/+)前癌性乳腺細胞に由来するCXCL12がCAFの動員に重要な役割を果たすことを示唆している。従って、前癌性乳腺細胞における、IGF1及びCXCL12を含むサイトカインのFRS2β依存性の産生増加が、CSCの維持及びCAFの動員を可能にするように思われる。
【0100】
前癌性乳腺組織においてIGF1及びCXCL2の発現を誘導する分子メカニズムは何か?Igf1とCxcl12はNFkB標的遺伝子セットに含まれており(図3D)、AKT-NFkB軸はErbB2とCXCL12を含む多くのシグナル伝達経路によって活性化されるため、我々は、NFkBの活性化がこれらのサイトカインの産生に関与しているかどうかを調べた。この目的のために、Frs2β(+/+)前癌性乳腺上皮細胞を培養し、NFkBの特異的阻害剤であるDHMEQで治療した(図5A)。DHMEQによる治療は、Igf1、Cxcl12、及びよく知られているNFkB誘導性遺伝子であるIkBαの発現を用量依存的に阻害し(図5B)、NFkBの活性化が前癌性乳腺上皮細胞におけるIGF1及びCXCL12の発現において重要な役割を果たすことを示唆している。
【0101】
次に我々は、インビボで前癌性乳腺組織におけるAKT-NFkB軸の活性化を調べた。前癌性乳腺組織からの溶解物の免疫ブロッティングは、Frs2β(-/-)組織と比較してFrs2β(+/+)組織において、核内のより高レベルのリン酸化AKT、より多量のNFkB成分RelAとRelB、より高レベルのリン酸化IKKb、及びより低レベルのIkBaを明らかにした(図5C~5E)。予想通り、リン酸化されたERK1/2は、Frs2β(-/-)組織よりもFrs2β(+/+)組織ではより低レベルで存在していた(図5C)。さらに、免疫組織化学は、RelAが、Frs2β(-/-)前癌性管腔細胞よりもはるかに高率のFrs2β(+/+)前癌性管腔細胞で、核に局在化されていることを明らかにした(図5G、左パネル及び中央パネルの赤い矢尻)。インビボでのDHMEQによる治療は、核内にRelAを保有するFrs2β(+/+)前癌性管腔細胞の数を劇的に減少させ(図5F及びG、右パネル)、前癌性乳腺組織におけるIgf1及びCxcl12転写物の発現を阻害した(図5H)。これらの結果は、前癌性管腔細胞におけるNFkB活性化が、インビボでの前癌性乳腺上皮細胞におけるIGF1及びCXCL12の発現において重要な役割を果たすことを示唆している。FRS2βは前癌性管腔細胞でAKT-NFkB軸を誘発し、それによってIGF1やCXCL12などのサイトカインの産生を誘導し、これが次にNFkBをオートクリン又はパラクリン的に活性化して、NFkBの活性化の効果を周囲の乳腺上皮細胞に広げるようである。
【0102】
前癌性乳腺微小環境で発現されるIGF1及びCXCL12が腫瘍形成に寄与するかどうかを調べるために、我々は、Frs2β(+/+)マウスを、Frs2β(+/+)腫瘍細胞の接種後に、IGF1中和抗体で、及び/又はCXCR4阻害剤とCXCR7阻害剤の組み合わせ(化合物1)で治療した(両方一緒に、CXCL12阻害剤)。IGF1中和抗体又はCXC12阻害剤のいずれかによる治療は腫瘍形成を有意に減少させ、IGF1中和抗体とCXCL12阻害剤の両方による併用治療は腫瘍の体積と重量に対して最大の阻害効果を示した(図5I~5K)。体重は顕著に変化せず(データは示していない)、毒性作用がなかったことを示している。これらの結果は、前癌性乳腺組織におけるIGF1及びCXCL12のFRS2β依存性の産生増加が、腫瘍形成に不可欠な微小環境を作り出すことを示している。
【0103】
次に我々は、乳腺腫瘍におけるFRS2β発現を調べた。免疫組織化学により、FRS2β発現細胞が乳腺腫瘍に存在することが明らかになった(図6A)。Igf1及びCxcl12の発現レベルは、Frs2β(-/-)腫瘍よりもFrs2β(+/+)腫瘍でより高かった(図6B)。免疫組織化学により、IGF1及びCXCL12の発現レベルが、Frs2β(-/-)腫瘍よりもFrs2β(+/+)腫瘍でより高いことが確認された(図6C)。従って、FRS2βがAKT-NFkB軸を誘発して、腫瘍組織においてIGF1及びCXCL12の産生を誘導すると推測するのは妥当である。
【0104】
最後に我々は、ヒト乳癌組織におけるFRS2βの発現を免疫組織化学によって調べた。FRS2βの発現レベルは癌細胞間で変動した(図6D)。FRS2βの発現レベルが高かった(+++)乳癌組織は、FRS2βの発現レベルが中程度(++)のもの又は低い(+)ものよりも、有意に高レベルの癌間質を有した(p=0.0499、バーナード検定)(図6E)。さらに、公表された遺伝子発現プロフィールの分析により、乳癌組織におけるFRS2βの発現がより高レベルの患者は、予後不良であることが明らかになった(図6F)。
【0105】
この試験において我々は、FRS2βタンパク質が管腔細胞のサブセットにおいて発現され、IGF1及びCXCL12を含むサイトカインの産生を誘発することを証明した。FRS2βはAKT-NFkB軸を刺激して、ERKシグナル伝達を阻害しながらサイトカインの産生を促進することができる。次にこれらのサイトカインは、周囲の乳腺管腔細胞中のNFkBをオートクリン又はパラクリン的に活性化し、腫瘍発症前にある程度の間質を含むサイトカインに富む前癌性微小環境を作り出すようである(図6G、左上のパネル)。いったんCSCが前癌性微小環境に現れると、これはIGF1の存在下で自己再生し、CXCL12動員間質細胞の助けにより腫瘍細胞を産生し、これがその後CAFになる可能性がある。CSCと腫瘍細胞はそれら自体でIGF1とCXCL12を産生し、急速な増殖と腫瘍形成を引き起こす可能性がある(図6G、左下のパネル)。FRS2βがないと、サイトカインは低レベルのままであり、適切な前癌性微小環境は作成されない(図6G、右上のパネル);たとえCSCが現れても、これは効率的に増殖することはできない(図6G、右下のパネル)。これらの知見に基づいて、我々は、FRS2βが乳癌予防の有望な標的であると提唱する。さらに、IGF1とCXCL12を標的とする併用療法が、腫瘍形成を初期段階で効果的に予防することを示した。
【0106】
腫瘍微小環境は、様々な細胞タイプ(CAF、間葉系幹細胞、骨髄由来樹状細胞、免疫細胞、及び新たに形成された血管)からなる(3)。一方、前癌性微小環境のどの細胞タイプが腫瘍の発症に寄与するのかは不明なままである。ここで我々は、管腔細胞と管腔前駆細胞が前癌性微小環境において重要な細胞タイプであり、管腔細胞と管腔前駆細胞で発現されるFRS2βがサイトカインの産生において極めて重要な役割を果たし、腫瘍の進展に不可欠なサイトカインに富む前癌性微小環境の生成につながることを発見した。
【0107】
前述の発明は、理解を明確にする目的で例示及び例によりある程度詳細に説明されているが、当業者は、添付の特許請求の範囲内で特定の変更及び修正が実施され得ることを理解するであろう。さらに、本明細書で提供される各参照は、各参照が参照によって個別に組み込まれた場合と同じ程度に、その全体が参照によって組み込まれる。本出願と本明細書に提供される参照との間に矛盾が存在する場合は、本出願が優先するものとする。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】