IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

特許7590122シリカ粒子及びその製造方法並びにスラリー組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】シリカ粒子及びその製造方法並びにスラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20241119BHJP
   C01B 33/145 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C01B33/145
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020067041
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021161008
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】火箱 亮
(72)【発明者】
【氏名】栗田 桂輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6564517(JP,B1)
【文献】特開2014-196226(JP,A)
【文献】特開2010-275334(JP,A)
【文献】特開2017-222569(JP,A)
【文献】特開平10-203821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C01B 33/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折粒度分布測定によるD50が100nm以上200nm以下であって、
比表面積が30m/g以下、
0.8μm以上の中空粒子数が1000個/0.1g以下、
吸水率が全体の質量を基準として1.0%以下、
アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下、
であるシリカ粒子(粒径が小さい方から体積を積算したときにD90/D10が2以上、D50が250nm以下であって、吸水性が乾燥時の質量を基準として1.0%以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下、であり、表面に炭素を含む官能基が表面に導入されている表面改質シリカ粒子、を除く。)。
【請求項2】
シラン化合物により表面処理されている請求項1に記載のシリカ粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリカ粒子と、
前記シリカ粒子を分散する分散媒と、
を有するスラリー組成物。
【請求項4】
リカ粒子を製造する製造方法であって、
前記シリカ粒子は、
レーザー回折粒度分布測定によるD50が100nm以上200nm以下であって、
比表面積が30m /g以下、
2μm以上の中空粒子数が1000個/0.1g以下、
吸水率が全体の質量を基準として1.0%以下、
アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下、
シラン化合物により表面処理されているシリカ粒子(粒径が小さい方から体積を積算したときにD90/D10が2以上、D50が250nm以下であって、吸水性が乾燥時の質量を基準として1.0%以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下、であり、表面に炭素を含む官能基が表面に導入されている表面改質シリカ粒子、を除く。)であり、
金属ケイ素からなる原料粒子材料をキャリア中に分散させた状態で酸化雰囲気の火炎中に投入して燃焼させて原料シリカ粒子を製造する原料シリカ粒子製造工程と、
シラン化合物を用いて前記原料シリカ粒子に表面処理を行い表面処理済原料シリカ粒子とする表面処理工程と、
前記表面処理済原料シリカ粒子を溶媒中に分散させた分散スラリーを遠心分離して粗大粒子を除去した後、孔径が大きいフィルターから孔径が小さいフィルターへと変更して行きながら複数回のそれぞれのフィルターによる分級操作で中空粒子を除去してシリカ粒子とする分級工程と、
を有し、
前記分級工程における前記遠心分離における(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が0.9以上、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が700以上であるシリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子及びその製造方法並びにスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器(電子部品も含む)の微細化は止まる所を知らない。そのような電子機器に採用される材料はその大きさに応じた非常に高い性能が求められることになる。例えば、電子部品の1つである半導体デバイスは半導体素子を封止材にて封止して製造する方法が一般的である。封止材は半導体素子を外部から隔離したり、放熱を確保したりなどの多岐にわたる性能が求められているが、半導体デバイスの微細化に伴い非常に高い性能が要求される。
【0003】
同様に電子基板についても配線が微細化しており同様に高い性能が要求される。電子基板は導電体からなる配線を絶縁層の表面乃至内部に配設して形成されており、その絶縁層はフィラーを樹脂材料中に分散させた樹脂組成物から構成されている。そのためフィラーを小粒径化することにより絶縁層の厚みを薄くすることができ、電子基板全体も薄くすることができる。特に、電子基板としては絶縁層と導体層を複数重ねて形成される積層基板があるが、フィラーを小粒径化することによりこの絶縁層の厚みを薄くすることができる結果、積層基板全体も薄くすることができる。更に、フィラーを小粒径化することにより基板の表面に露出するフィラーの粒径も小さくなるため、基板表面の粗度を小さくすることが可能になり表面平滑性を向上することができる。
【0004】
封止材としては物理的、化学的な安定性が高く、熱変動による体積変動を小さくするために、シリカをフィラーとして分散させたものが汎用されている。封止材は半導体素子と基板との間などの微細な隙間に充填する必要があるため、分散されているフィラーについても微細なものが要求される。また、隙間への充填性を向上させるためにはフィラーの粒度分布についても検討する必要がある。特に所定の粒径よりも大きな粗大粒子を除去することにより好ましい性能が発揮できることが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-247726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、半導体デバイスの封止材などに好適に採用できるフィラー含有組成物及びその組成物のフィラーに適用することが好適なシリカ粒子及びその製造方法並びにそのシリカ粒子を含有するスラリー組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、封止材や電子基板などの実装材料に適用されるフィラーに適用されるシリカ粒子には種々の性質が要求されることが明らかになった。具体的には(a)ナトリウムなどのアルカリ金属・アルカリ土類金属の含有量が少ないこと(純度が高いこと)、(b)吸水性が低いことである。吸水性については吸水率で評価できる。吸水性を低くすることで電気特性を向上できる。吸水性の低さはシラノール量で決まり、シラノール量が少ないと吸水性は低くなる。VMC法で製造するシリカはシラノール量が少なく、吸水性が低い特徴がある。
【0008】
シリカ粒子の純度や吸水性は、製造方法により影響を受ける。例えば、製造方法の種類によって原料が異なり、原料によっては純度の向上が容易なものや容易でないものがある。また、製造方法の相違によって結晶構造や原子間の結合状態が異なり、吸水性に影響を与える。シリカ粒子を製造する方法としてはVMC法(Vaporized Metal Combustion Method)、水ガラス法、アルコキシド法などが挙げられる。VMC法は上述した(a)及び(b)の双方を満足するシリカ粒子を安価に製造することが可能である。
【0009】
水ガラス法ではアルカリ金属などを原料中に必然的に含むために(a)の要件を満たすことは困難である。更に、吸水性についてはアルコキシド法にて製造したシリカ粒子と比較すると、幾分吸水性が低いものの、充分小さいものであるとは言い難かった。アルコキシド法で製造したシリカ粒子は原料が低分子であるため原料の精製が容易であり、またアルカリ金属などを原理的に含む必要が無いため(a)の要件については満足する物を提供することができるものの、(b)の吸水性については大きくなっていた。
【0010】
このように優れた性質をもつシリカ粒子が製造できるVMC法ではあるが、目的の粒径よりも大きな粒径をもつ粗大粒子として、中実な粒子と中空な粒子(中空粒子)が存在することを発見した。中空粒子についても含有することでフィラーなどに適用したときに望む性能を充分に発揮できない場合があることを発見した。
【0011】
従来、精密な分級を行う場合には、分級効率が高いため遠心分離が汎用されている。しかしながら中空粒子は比重が小さいために遠心分離では十分に分級除去することが困難であった。中空粒子は含有量が少なく残存していたとしても悪影響は少ないことが殆どであったため、その存在が放置されていたが、近年の微細な用途への応用にあたって僅かであっても中空粒子の存在が無い方が好ましいことが判明した。例えば、樹脂組成物中に含有させるフィラーなどとしてシリカ粒子を微細な用途に応用する場合、研磨やエッチングなどにより樹脂組成物の表面を削ることがあるが、その場合に中空粒子が削られるとその中空部分が凹凸として露出してしまい滑らかな表面が実現し難いからである。このような知見に基づき、中空粒子を除去する方法を検討し本発明を完成した。
【0012】
(1)上記課題を解決する本発明のシリカ粒子の製造方法は、金属ケイ素からなる原料粒子材料をキャリア中に分散させた状態で酸化雰囲気の火炎中に投入して燃焼させて原料シリカ粒子を製造する原料シリカ粒子製造工程と、シラン化合物を用いて前記原料シリカ粒子に表面処理を行い表面処理済原料シリカ粒子とする表面処理工程と、前記表面処理済原料シリカ粒子を溶媒中に分散させた分散スラリーを遠心分離して粗大粒子を除去した後、フィルターで中空粒子を除去してシリカ粒子とする分級工程とを有する。
【0013】
分級工程として精密且つ効率が高い方法である遠心分離を採用したにも拘わらず、遠心分離を行った後にフィルターでの分級操作を行う点が従来とは異なる点である。
【0014】
特に、前記分級工程における前記遠心分離における(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が0.9以上、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が700以上であることが好ましい。なお、遠心場滞留時間は、上述の遠心加速度以上の遠心場中に滞留する時間(質量基準での平均値)として定義される。
【0015】
(2)上記課題を解決する本発明のシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が100nm以上200nm以下であって、比表面積が30m/g以下、2μm以上の中空粒子数が1000個/0.1g以下、吸水率が全体の質量を基準として1.0%以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下である。特に0.8μm以上の中空粒子数が1000個/0.1g以下であることが好ましい。
【0016】
比表面積を30m/g以下にすることでスラリー組成物や樹脂組成物に含有させたときの粘度を低くすることができる。吸水性が低いことにより電気的特性を向上されることが可能となった。
【0017】
更に必要に応じてシラン化合物により表面処理されていることが好ましい。シラン化合物の種類によってシリカ粒子の表面の性質を適宜制御することができる。
【0018】
なお、本明細書中においてレーザー回折法による粒度分布をSHIMADZU製SALD-7500で取得する。また、中空粒子の数の測定は画像解析装置(JASCO International Co.,Ltd.:IF3200)で測定することができる。中空粒子であるか否かの判断は、外観の違いにより判断する。中空粒子は、中実な粒子と比べて顕著に見た目が異なるため容易に判別可能である。
【0019】
(3)上記課題を解決する本発明のスラリー組成物は、上述の本発明のシリカ粒子と、前記シリカ粒子を分散する分散媒とを有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法にて製造されたシリカ粒子は、スラリー組成物中や樹脂組成物中に分散させるフィラーとして適用すると充填性に優れ、且つ、安定性にも優れた封止材などへの応用が可能である。本発明のシリカ粒子の製造方法は本発明のシリカ粒子を簡単に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明のシリカ粒子及びその製造方法並びにスラリー組成物について実施形態に基づき以下詳細に説明する。
【0022】
(シリカ粒子)
本実施形態のシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が100nm以上200nm以下であって、比表面積が30m/g以下、2μm以上の中空粒子数が1000個/0.1g以下、吸水率が全体の質量を基準として1.0%以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属の総量が100ppm以下である。
【0023】
D50としては、下限値として110nm、120nm、130nmが例示でき、上限値として190nm、180nm、170nmが例示できる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。D50は、レーザー回折粒度分布測定により測定された値であり、粒径が小さい方から体積基準で50%となる粒径である。ちなみにD100は粒径が小さい方から100%の粒径である。なお、D50やD100の値はレーザー回折粒度分布測定による測定限界の範囲内での数値として算出される値であり、実際にはレーザー回折粒度分布測定では検出できない粗大粒子や微小な粒子が存在する。従って、D100の値よりも大きな粒径をもつ粒子が存在することに矛盾はない。
【0024】
D50の値は、シリカ粒子の製造条件を制御して製造されるシリカ粒子自体の粒度分布を制御することができる他、分級によって調節することもできる。分級については後述する製造方法にて説明する遠心分離が好適なものとして例示できる。
【0025】
比表面積は、28m/g以下、26m/g以下などにすることができる。比表面積は窒素を用いたBET法により測定した値である。比表面積の値が小さいほどスラリー組成物などに採用したときの粘度が低下できるため好ましい。比表面積の制御方法は、特に限定しないが、シリカの合成を行う際に微粉の量が少なくなる条件で実施する方法や分級を実施する際に分級機内の滞留時間を長く制御することで比表面積を小さくすることができる。
【0026】
中空粒子の数は、2μm以上のものが800個/0.1g以下、600個/0.1g以下、 400個/0.1g以下とすることができる。中空粒子の数は、分級操作により低減することができる。分級操作としてはフィルターにより除去することが望ましいが、分級点以上の中実な粒子の数を遠心分離により予め減らした後にフィルターにより中空粒子を除去することが好ましい。
【0027】
吸水率の値は乾燥時のシリカ粒子の質量を基準とする。吸水率の測定は乾燥状態にある試料を40℃ 80%RHに1時間放置し、カールフィッシャー水分測定装置で200℃加熱により生成する水分を測定し、算出する。吸水率を低くするにはシリカ材料の製造方法としてVMC法を採用したり、製造されたシリカ材料を加熱して吸水率を低下させたりすることができる。加熱温度としては200℃以上、300℃以上、400℃以上などが採用できる。
【0028】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属はその総量が80ppm以下、50ppm以下、30ppm以下にすることが好ましい。シリカ粒子を製造する際の材料を精製することにより実現可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属は酸化されてイオンとして溶出乃至析出などするため、半導体デバイスなどの封止材に適用すると、半導体デバイスへの予期せぬ影響が想定される。例えば、水抽出物の導電率(EC)を想定すると、10μS/cm以下であることが望ましい。この値が低くなるためにはアルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量が少なくなることが望ましいため、上述した含有範囲を設定している。ECは以下のように測定する。金属酸化物粒子をイオン交換水(導電率1μS/cm以下)に懸濁させて10%スラリーとした状態で耐圧容器中に投入して、室温で30分間震とうする。その後、遠心沈降させた上澄みを株式会社堀場製作所製導電率メータ(EC計)ES-51にて測定したときの導電率である。
【0029】
本実施形態のシリカ粒子は、シラン化合物により表面処理されていることが好ましい。シラン化合物は特に限定されず、必要に応じて適正な官能基をもつシラン化合物を選択して表面処理を行うことができる。2種類以上のシラン化合物により表面処理を行うこともできる。
【0030】
本実施形態のシリカ粒子はシラン化合物にて表面処理することができる。シラン化合物の具体的な構成及びシリカ粒子表面への導入方法などについては後述するシリカ粒子の製造方法にて詳述するため、ここでの説明は省略する。なお、表面処理剤にて表面処理を行った後に表面処理剤を除去することにより表面処理されていないシリカ粒子を得ることもできる。
【0031】
本実施形態のシリカ粒子はα線生成量が0.001c/cm・h以下であることが望ましい。特にα線源としてのウラン、トリウムが3ppb以下(更には1ppb以下)であることが望ましい。
【0032】
(シリカ粒子の製造方法)
本実施形態のシリカ粒子の製造方法は、原料シリカ粒子製造工程と表面処理工程と分級工程とその他必要に応じて採用される工程とを有する。本実施形態のシリカ粒子の製造方法は、上述した本実施形態のシリカ粒子を好適に製造することができる方法である。
【0033】
原料シリカ粒子製造工程は、原料粒子材料を燃焼させて原料シリカ粒子を製造する工程である。本工程はいわゆるVMC法と称される方法であり、得られる原料シリカ粒子は、球形度が高く、緻密で、電気的特性に優れたものが得られやすい。
【0034】
VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより助燃剤(炭化水素ガスなど)を燃やして化学炎を形成し、この化学炎中に原料粒子材料を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて原料シリカ粒子を得る方法である。
【0035】
VMC法の作用について説明すれば以下のようになる。まず、容器中に反応ガスである酸素を含有するガスを充満させ、この反応ガス中で化学炎を形成する。次いで、この化学炎に原料粒子材料を投入して粉塵雲を形成する。すると、化学炎により原料粒子材料表面に熱エネルギーが与えられ、原料粒子材料を構成する金属ケイ素の表面温度が上昇し、原料粒子材料表面から金属ケイ素の蒸気が周囲に広がる。この蒸気が酸素ガスと反応して発火し火炎を生じる。この火炎により生じた熱は、更に原料粒子材料の気化を促進し、生じた蒸気と酸素ガスが混合され、連鎖的に発火伝播する。従って、原料粒子材料の粒径は小さいほど比表面積が大きくなり反応性が向上することから投入するエネルギーを少なくできる。
【0036】
このように連鎖的な発火が進行することによって原料粒子材料自体も破壊して飛散し、火炎伝播を促す。燃焼後に生成ガスが自然冷却されることにより、原料シリカ粒子の雲ができる。得られた原料シリカ粒子は、バグフィルタや電気集塵器等により捕集される。
【0037】
VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものである。VMC法によれば、瞬時に大量の金属酸化物粒子が得られる。得られる金属酸化物粒子は、略真球状の形状をなす。投入する金属粒子の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、得られる金属酸化物粒子の粒子径分布を調整することが可能である。また、原料物質としては金属粒子(金属ケイ素)単独に加えて、金属酸化物粒子(例えばシリカ)も添加することができる。同時に投入する金属酸化物粒子は本方法により得られる金属酸化物粒子を採用することで得られる金属酸化物粒子の純度を保つことができる。
【0038】
原料粒子材料は、シラン化合物などにより表面処理を行うこともできる。採用できるシラン化合物の種類は特に限定されず、後述する表面処理工程で用いるものなどが採用できる。
【0039】
原料粒子材料は、キャリア中に分散させた状態で火炎に投入することにより燃焼させる。火炎中への原料粒子材料の投入速度は特に限定されない。キャリアとしては、窒素、アルゴン、空気などの気体や、水、アルコールなどの液体が選択できる。どのように分散するかについては特に限定しないが、液体中に分散させる場合には、火炎中に霧状に噴霧して投入することが好ましい。例えば、全体の体積基準で10%~80%程度の量の原料粒子材料が含まれるようにすることが好ましい。
【0040】
火炎としては酸化雰囲気の火炎を採用する。例えば、酸素を過剰に含む雰囲気でLPGなどの可燃性ガスを燃焼させて得られる火炎が挙げられる。また、熱プラズマについても火炎に含まれる。
【0041】
火炎中に投入された金属ケイ素からなる原料粒子材料は燃焼により気化し、急冷されることによりシリカからなる原料シリカ粒子となる。得られた原料シリカ粒子はバグフィルタなどにより回収される。回収前後に分級操作を行い必要な粒度分布をもつ原料シリカ粒子とすることもできる。分級操作はサイクロン分級などにより行うことができる。
【0042】
表面処理工程は、原料シリカ粒子に対してシラン化合物により表面処理して表面処理済原料シリカ粒子とする工程である。表面処理は、直接(液状、気体状何れでも良い)、シラン化合物を表面に接触させたり、シラン化合物を何らかの溶媒中に溶解させた状態で接触させたりすることで行う。表面処理においては、シラン化合物を原料シリカ粒子に接触させた後に加熱することもできる。表面処理工程は、後述する分級工程で用いる分級スラリーを調製した後のスラリーの状態で行うこともできる。
【0043】
表面処理を行うシラン化合物の量は特に限定されず、原料シリカ粒子の表面に存在するOH基の量を基準として100%、75%、50%、25%などの量を選択することができる。100%を超える過剰な量(120%、150%など)を選択することもできる。
【0044】
シラン化合物としては特に限定されず、フェニル基、アルキル基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、フェニルアミノ基、アミノ基、スチリル基などを有するものが挙げられる。
【0045】
分級工程は、表面処理済原料シリカ粒子から所定以上の粒径をもつ粒子(粗大粒子)を除去する工程である。粗大粒子としては、中実な粗大粒子と中空な粗大粒子がある。分級工程は、まず中実な粗大粒子を分離するため、表面処理済原料シリカ粒子を溶媒中に分散させた分散スラリーを調製した後、遠心分離を行う。分級スラリーの調製は、表面処理済原料シリカ粒子を調製した後に調製しても良いし、分級スラリーを調製した後に表面処理を行っても良い。
【0046】
本工程における分散スラリーに用いる溶媒は、粘度が低いことが望まれる。例えばメチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエンが挙げられる。MEK中に10質量%~30質量%程度(特には15質量%~25質量%)の濃度で分散させた状態で遠心分離を行うことで高精度に中実な粗大粒子が分離できる。
【0047】
遠心分離は、分級スラリーの遠心場におけるデカンテーションにより実施する。分級スラリーの物性と分級条件の関係は、(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が0.9以上、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.8以上、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が700以上、好ましくは900以上、より好ましくは1100以上とすることができる。なお、遠心場滞留時間は、上述の遠心加速度以上の遠心場中に滞留する時間として定義される。
【0048】
粗大粒子を分離した後に中空な粗大粒子を分離するために必要な孔径をもつフィルターにより分散スラリーを分級して中空な粗大粒子を除去する。中空な粗大粒子は、遠心分離によって十分に分離できないがフィルターでの分級操作により十分に除去することが可能になる。フィルターでの分級操作は、溶媒中に分散させた分散スラリーの状態で行う。フィルターでの分級操作は複数回行うことが望ましい。複数回行う場合には孔径が大きいフィルターから孔径が小さいフィルターへと変更して行きながらフィルターでの分級操作を行うことが好ましい。
【0049】
(スラリー組成物)
本実施形態のスラリー組成物は上述のシリカ粒子と液状の分散媒(溶媒、樹脂材料前駆体等)とを混合したものである。シリカ粒子と分散媒との混合比は特に限定しない。
【実施例
【0050】
本発明のシリカ粒子及びその製造方法について実施例に基づき説明を行う。
(試験例1)
・原料シリカ粒子の製造
試験例1:VMC法により原料シリカ粒子を製造した。以下、具体的に説明する。反応室をもつ反応容器と、反応容器の上部に設けられ反応室に開口する燃焼器と、反応容器の下部側壁に設けられ反応室と連通する捕集装置と、ホッパと、ホッパ内の原料粒子材料を燃焼器へ供給する粉末供給装置とから構成されている。
【0051】
燃焼器は、反応室に開口する原料粒子材料供給路と、原料粒子材料供給路と同軸的に設けられ反応室内にリング状に開口する可燃ガス供給路と、可燃ガス供給路の外側に同軸的に設けられ且つ反応室内にリング状に開口する酸素供給路とから構成されている。
【0052】
捕集装置は、反応室に開口する排気管と、排気管の他端に接続されたバグフィルタと、ブロアとからなり、ブロアの駆動により反応室内の燃焼排ガスを吸引して排気するとともに、生成した原料シリカ粒子を捕集する。なお、ブロアの吸引により、反応室内は負圧に保たれる。
【0053】
上記した製造装置を用い、以下に示す製造方法により球状シリカを製造した。金属ケイ素からなる原料粒子材料をホッパに投入し、粉末供給装置からキャリアとしての空気とともに反応室内に供給した。このとき原料粒子材料は30kg/hrの割合で供給され、搬送空気の量は30Nm/hrであった。また、着火用の燃料である可燃ガス(LPG)は、可燃ガス供給路から10Nm/hrの量で供給され、支燃性ガスである酸素ガスは、酸素供給路から300Nm/hrの量で供給した。
【0054】
粉末供給装置から燃焼器へ供給された混合粉末は、酸素ガスとともに連続的に可燃ガスの燃焼により形成された着火炎で着火され、爆発的に燃焼して火炎を生成した。この火炎は燃焼器から反応室に延び、生成した原料シリカ粒子(体積平均粒径300nm)が捕集装置により捕集された(原料シリカ粒子製造工程)。得られた原料シリカ粒子の比表面積は、17.8m/gであった。
【0055】
この原料シリカ粒子についてシラン化合物としてのN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランにて表面処理を行い表面処理済原料シリカ粒子を調製した(表面処理工程)。シラン化合物の量は原料シリカ粒子の重量を基準として2%とした。
【0056】
得られた表面処理済原料シリカ粒子をMEK中に分散し固形分濃度20質量%の分散液(分散スラリー)を得た。分散スラリーについて振動式粘度計にて測定した粘度は、2mPa・sであった。
【0057】
次に遠心場におけるデカンテーションにより遠心加速度:1700G、滞留時間2.8分間の条件で粗大粒子の沈降・除去を実施した。(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が1.4、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が850であった。その後、5μm、3μm、1μmの孔径をもつフィルターを用いてそれぞれ1回ずつ分級を行い、中空な粗大粒子の除去を実施した。分級後の分級スラリーを160℃の乾燥機中で30分間静置して乾燥させて乾燥したシリカ粒子を本試験例の試験試料とした。
【0058】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が150nm、D100が270nm、比表面積が21.3m/g、2μm以上の中空粒子が104個/0.1g、吸水率が0.08%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が30ppm以下であった。
【0059】
(試験例2)
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランにシラン化合物を変更した以外は試験例1と同様にしてシリカ粒子を製造して本試験例の試験試料とした。分級スラリーの粘度は1mPa・sであった。そのため、(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が2.8、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が1700であった。
【0060】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が200nm、D100が370nm、比表面積が20.3m/g、2μm以上の中空粒子が429個/0.1g、吸水率が0.08%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が30ppm以下であった。
【0061】
(試験例3)
分級工程におけるフィルターによる中空粒子の除去を行わないこと以外は試験例1と同様にしてシリカ粒子を製造して本試験例の試験試料とした。
【0062】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が200nm、D100が370nm、比表面積が21.3m/g、2μm以上の中空粒子が9400個/0.1g、吸水率が0.08%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が30ppm以下であった。
【0063】
(試験例4)
分級スラリーを調製するときに用いたMEKをシクロヘキサノンに変更したこと、及び遠心加速度を1900G、遠心場滞留時間を5.5分にしたこと、更にはフィルターによる中空粒子の除去を行っていないこと以外は試験例1と同様にしてシリカ粒子を製造して本試験例の試験試料とした。分級スラリーの粘度は7mPa・sであった。そのため、(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が0.786、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が271.4であった。フィルターによる中空粒子の除去を行っていないのは、この遠心分級条件ではフィルターの詰まりが直ぐに生じてしまって中空粒子の十分な除去ができなかったからである。
【0064】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が330nm、D100が590nm、比表面積が19.1m/g、吸水率が0.08%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が30ppm以下であった。なお、2μm以上の中空粒子の数は、多すぎるため測定しなかった。
【0065】
(試験例5)
分級スラリーを調製するときに用いたMEKをイソプロピルアルコールに変更したこと、及び遠心加速度を2500G、遠心場滞留時間を5.5分にしたこと、更にはフィルターによる中空粒子の除去を行っていないこと以外は試験例1と同様にしてシリカ粒子を製造して本試験例の試験試料とした。分級スラリーの粘度は5mPa・sであった。そのため、(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が1.1、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が500であった。フィルターによる中空粒子の除去を行っていないのは、試験例4と同様に、この遠心分級条件ではフィルターの詰まりが直ぐに生じてしまって中空粒子の十分な除去ができなかったからである。
【0066】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が160nm、D100が740nm、比表面積が19.8m/g、吸水率が0.08%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が30ppm以下であった。
【0067】
(試験例6)
原料シリカ粒子として、コロイダルシリカ(D50が100nm、D100が210nm:カタロイドSI-80P:日揮触媒化成株式会社製、水中に分散されており固形分濃度が40質量%、表面処理済)を用い、160℃、30分間乾燥を行って得られたシリカ粒子を本試験例の試験試料とした。
【0068】
得られたシリカ粒子は、レーザー回折粒度分布測定によるD50が100nm、D100が210nm、比表面積が35.6m/g、2μm以上の中空粒子が0個/0.1g、吸水率が1.2%、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が3000ppm以下であった。
【0069】
試験例1及び3の結果から、遠心分離のみでは中空粒子の除去は十分にできていないことが分かった。また、分級スラリーを調製するときの分散媒が異なるなどの理由で(遠心場滞留時間:分)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が0.4で0.9未満の試験例4はフィルターでの分級操作ができないほどの粗大粒子の残存が認められた。
【0070】
また、(遠心加速度:G)/(分級スラリー粘度:mPa・s)が900未満である試験例4及び5ではフィルターでの分級操作ができないほどの粗大粒子の残存が認められた。
【0071】
更に、原料シリカ粒子としてコロイダルシリカを採用した試験例6では、粒度分布や粗大粒子(中空粒子を含む)の量については十分に満足のいくものであったが、吸水率が1.2%と高く、また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量が多く実用に供するための性能が充分では無かった。