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特許7590124全固体二次電池用負極、その製造方法および全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】全固体二次電池用負極、その製造方法および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20241119BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241119BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20241119BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M10/0562
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020093372
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190264
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】古川 一揮
(72)【発明者】
【氏名】上剃 春樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優太
(72)【発明者】
【氏名】西村 政輝
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021643(JP,A)
【文献】特開2021-075446(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/1393
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/86-4/98
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極材料と、固体電解質とを含有する負極合剤の成形体を有しており、
前記負極材料は、負極活物質として炭素材料を含有し、かつリチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層が表面に形成されており、
前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上であり、
前記固体電解質として硫化物系固体電解質を含有し、
前記負極合剤の成形体の厚みが、200μm以上であることを特徴とする全固体二次電池用負極。
【請求項2】
前記酸化物として、リチウムニオブ酸化物、リチウムチタン酸化物またはリチウムリン酸化物を含有する請求項1に記載の全固体二次電池用負極。
【請求項3】
負極活物質を含む負極材料と、固体電解質とを含有する負極合剤の成形体を有する全固体二次電池用負極を製造する方法であって、
下記の負極材料形成工程(A)、および
前記負極材料形成工程(A)を経て得られた負極材料と、硫化物系固体電解質とを用いて、厚みが200μm以上の負極合剤の成形体を形成する工程(B)を有することを特徴とする全固体二次電池用負極の製造方法。
前記負極材料形成工程(A)は、
炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物または前記酸化物を形成するための材料を付着させる工程(i-1)と、前記工程(i-1)を経た前記炭素材料を焼成して、前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を、前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上となるように形成する工程(i-2)とを有する
【請求項4】
負極活物質を含む負極材料と、固体電解質とを含有する負極合剤の成形体を有する全固体二次電池用負極を製造する方法であって、
下記の負極材料形成工程(A)、および
前記負極材料形成工程(A)を経て得られた負極材料と、硫化物系固体電解質とを用いて負極合剤の成形体を形成する工程(B)を有することを特徴とする全固体二次電池用負極の製造方法。
前記負極材料形成工程(A)は、炭素材料とリチウムイオン伝導性を有する酸化物とを混練して、前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を、前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上となるように形成する工程(ii)を有する。
【請求項5】
前記工程(i-2)において、450℃以下の温度で焼成する請求項3に記載の全固体二次電池用負極の製造方法。
【請求項6】
前記負極合剤の成形体は、導電助剤またはバインダをさらに含有する請求項3~5のいずれかに記載の全固体二次電池用負極の製造方法。
【請求項7】
前記全固体二次電池用負極は集電体をさらに備え、前記工程(B)の後に、前記負極合剤の成形体を前記集電体と貼り合わせる工程を有する請求項3~6のいずれかに記載の全固体二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、前記負極として請求項1または2に記載の全固体二次電池用負極を有することを特徴とする全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗値が低い全固体二次電池用負極、その製造方法、および前記負極を用いた全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池では、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)などのリチウム含有複合酸化物が用いられ、負極活物質に黒鉛などが用いられ、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン二次電池の適用機器の更なる発達に伴って、リチウムイオン二次電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められている。
【0005】
例えば、有機電解液を有するリチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)の高容量化に関しては、特許文献1に、負極の不可逆容量を低減する目的で、負極活物質である炭素材料の表面を、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質で被覆する技術が提案されている。
【0006】
また、リチウムイオン二次電池においては、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化とともに、その信頼性を高めることも求められている。
【0007】
しかし、リチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン二次電池の信頼性が求められている。
【0008】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム二次電池(全固体二次電池)が注目されている。全固体二次電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い安全性を備えている。
【0009】
また、全固体二次電池においては、種々の改良が試みられている。例えば、特許文献2には、黒鉛構造を有する負極活物質の構造欠陥部を平均粒径が1.5nm以下の粒子状のニオブ酸リチウムで被覆することで、発熱を抑制し、かつ抵抗を低減した被覆負極活物質を、全固体二次電池に使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2017/169616号
【文献】特開2017-54615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、現在、全固体二次電池においては、その適用分野が急速に拡大しており、例えば大きな電流値での放電が求められる用途への適用も考えられることから、これに応え得るように負荷特性を高めることが求められる。また、全固体二次電池の充電方法としては、定電流で電池電圧が所定値に達するまで充電(定電流充電)を行い、その後に定電圧で電流値が低下して所定値に達するまで充電(定電圧充電)する方法が一般的であるが、例えば全固体二次電池の急速充電特性を高めるには定電流充電時の充電容量が大きいことが好ましい。このように、全固体二次電池の負荷特性や定電流充電時の充電容量(CC容量)を高める手段としては、例えば負極の抵抗値を下げることが挙げられることから、これを達成する技術の開発が求められる。
【0012】
特許文献2では、前記の通り、黒鉛構造を有する負極活物質の構造欠陥部を、小さな粒子状のニオブ酸リチウムで被覆することで、負極活物質の抵抗を低減できるとしているが、全固体二次電池の前記特性を十分に高める程度にまで負極の抵抗値を下げ得るものではない。
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗値が低い全固体二次電池用負極、その製造方法、および前記負極を用いた全固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の全固体二次電池用負極は、負極活物質を含む負極材料と、固体電解質とを含有する負極合剤の成形体を有しており、前記負極材料は、負極活物質として炭素材料を含有し、かつリチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層が表面に形成されており、前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上であり、前記固体電解質として硫化物系固体電解質を含有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の全固体二次電池用負極は、下記の負極材料形成工程(A)、および前記負極材料形成工程(A)を経て得られた負極材料と、硫化物系固体電解質とを用いて負極合剤の成形体を形成する工程(B)を有することを特徴とする本発明の製造方法によって製造することができる。
【0016】
ここで、負極材料形成工程(A)は、(1)炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物または前記酸化物を形成するための材料を付着させる工程(i-1)と、前記工程(i-1)を経た前記炭素材料を焼成して、前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を、前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上となるように形成する工程(i-2)とを有するか、または、(2)炭素材料とリチウムイオン伝導性を有する酸化物とを混練して、前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を、前記炭素材料100質量部に対する前記酸化物の量が1質量部以上となるように形成する工程(ii)を有する。
【0017】
また、本発明の全固体二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、前記負極として本発明の全固体二次電池用負極を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、抵抗値が低い全固体二次電池用負極、その製造方法、および前記負極を用いた全固体二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の全固体二次電池の一例を模式的に表す断面図である。
図2】本発明の全固体二次電池の他の例を模式的に表す平面図である。
図3図2のI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<全固体二次電池用負極>
本発明の全固体二次電池用負極は、負極活物質を含む負極材料と、固体電解質とを含有する負極合剤の成形体を有している。そして、負極材料には、負極活物質である炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層が形成されたものを使用し、固体電解質には、硫化物系固体電解質を使用する。
【0021】
負極活物質として使用される炭素材料は、一般に疎水性であり、硫化物系固体電解質との親和性が低いため、これらを含む負極(負極合剤の成形体)においては、両者の間で良好な界面を形成し難く、負極の抵抗値を低くすることが困難である。
【0022】
そこで、本発明では、負極材料として、リチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層が表面に形成された炭素材料を使用することとした。前記負極材料であれば、硫化物系固体電解質との親和性が高く、良好な界面を形成できる。よって、本発明の全固体二次電池用負極は、抵抗値が低くリチウムイオンの受け入れ性が高くなるため、これを用いた全固体二次電池(すなわち、本発明の全固体二次電池)のCC容量を高めることが可能であり、また、負荷特性を向上させることができる。
【0023】
全固体二次電池用負極としては、負極合剤を成形してなる成形体(ペレットなど)や、負極合剤の成形体からなる層(負極合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0024】
負極材料を構成する炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛;熱分解炭素類、メソフェーズカーボンマイクロビーズ、炭素繊維などの易黒鉛化炭素を2800℃以上で黒鉛化処理した人造黒鉛;など)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソフェーズカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
負極材料の表面に形成される層を構成する酸化物は、リチウムイオン伝導性を有するものであり、例えば、リチウムニオブ酸化物(LiNbOなど)、リチウムチタン酸化物(LiTi12など)、リチウムリン酸化物(LiPOなど)、リチウムホウ素酸化物(LiBOなど)、リチウムタングステン酸化物(LiWOなど)、リチウムアルミニウム酸化物(LiAlOなど)などが挙げられる。なお、LiPOは酸化物系固体電解質であるが、これ以外の酸化物系固体電解質、例えば、LiLaZr12、LiTi(PO、LiGe(PO、LiLaTiOなども、負極材料の表面に形成される層の構成材料として使用できる。
【0026】
負極材料におけるリチウムイオン伝導性を有する酸化物の量は、全固体二次電池用負極の抵抗値低減効果を良好に確保する観点から、炭素材料100質量部に対して、1質量部以上であり、1.5質量部以上であることが好ましい。ただし、前記酸化物の量が多すぎると、負極活物質の容量が小さくなったり、負極合剤の成形体中の導電性が低下したりする虞がある。よって、負極材料におけるリチウムイオン伝導性を有する酸化物の量は、炭素材料100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
負極材料の表面に形成される前記層に含まれる前記酸化物は、全固体二次電池のCC容量が負荷特性を高める効果がより増大することから、非晶質であることが好ましい。前記酸化物が非晶質であることは、例えば、X線回折法(XRD)を行った時に当該酸化物の結晶を表すピークがないか、またはブロードであることで確認することができる。
【0028】
全固体二次電池用負極における負極合剤は、前記負極材料とともに、リチウムイオン二次電池に通常使用されている他の負極活物質を含有することができる。ただし、負極活物質に、前記負極材料とともに、その他の負極活物質を併用する場合には、全負極活物質中の、前記負極材料の割合を、60質量%以上とすることが好ましい。なお、全固体二次電池用負極における負極合剤は、前記負極材料以外の負極活物質を使用しなくてもよいため、全負極活物質中の、前記負極材料の割合の好適上限値は、100質量%である。
【0029】
負極合剤における、前記負極材料を含む全負極活物質の含有量は、30~70質量%であることが好ましい。
【0030】
全固体二次電池用負極における硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiS-P-GeS、LiS-B系ガラスなどの粒子が挙げられる他、近年、リチウムイオン伝導性が高いものとして注目されているLGPS系のもの(Li10GeP12など)や、アルジロダイト系のもの〔LiPSClなどの、Li7-x+yPS6-xClx+y(ただし、0.05≦y≦0.9、-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7)で表されるもの、Li7-aPS6-aClBr(ただし、a=b+c、0<a≦1.8、0.1≦b/c≦10.0)で表されるものなど〕も使用することができる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が高いことから、リチウムおよびリンを含む硫化物系固体電解質が好ましく、特にリチウムイオン伝導性が高く、化学的に安定性の高いアルジロダイト系材料がより好ましい。
【0031】
硫化物系固体電解質の平均粒子径は、粒界抵抗軽減の観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、一方、負極材料と固体電解質との間での十分な接触界面形成の観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0032】
本明細書でいう固体電解質および極活物質の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」など)を用いて、粒度の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50)を意味している。
【0033】
全固体二次電池用負極には、硫化物系固体電解質と共に、その他の固体電解質(水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質など)も使用することができる。ただし、全固体電池用極負極における硫化物系固体電解質以外の固体電解質の、固体電解質粒子全量中の割合は、30質量%以下であることが好ましい。なお、全固体二次電池用負極における固体電解質は、全て硫化物系固体電解質であってもよいため、硫化物系固体電解質以外の固体電解質の固体電解質全量中の割合の下限値は、0質量%である。
【0034】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH、LBHと下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、Rb、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミド
よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0035】
酸化物系固体電解質としては、例えば、LiLaZr12、LiTi(PO、LiGe(PO、LiLaTiOなどが挙げられる。
【0036】
硫化物系固体電解質以外の固体電解質の平均粒子径は、硫化物系固体電解質の平均粒子径と同等程度であることが好ましい。
【0037】
負極合剤における固体電解質の含有量は、4~70質量%であることが好ましい。
【0038】
負極合剤には、必要に応じて、カーボンブラック、グラフェンなどの導電助剤を含有させることもできる。負極合剤に導電助剤を含有させる場合、その含有量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0039】
負極合剤には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは負極合剤中においても抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、負極合剤においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合にはその含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。負極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0040】
全固体二次電池用負極に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0041】
全固体二次電池用負極は、例えば、負極材料形成工程(A)、および前記負極材料形成工程(A)を経て得られた負極材料と、硫化物系固体電解質とを用いて負極合剤の成形体を形成する工程(B)を有する製造方法によって製造することができる。
【0042】
負極材料形成工程(A)は、例えば、炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物または前記酸化物を形成するための材料を付着させる工程(i-1)と、前記工程(i-1)を経た前記炭素材料を焼成することで前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を形成して、前記負極材料を得る工程(i-2)とを有する。
【0043】
工程(i-1)において、炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物を付着させる方法としては、前記酸化物を溶媒に溶解または分散させて調製した組成物を、炭素材料の表面に塗布する方法;炭素材料と前記酸化物とを乾式で混合する方法:などを採用することができる。また、工程(i-1)において、炭素材料の表面に、前記酸化物を形成するための材料を付着させる方法としては、前記材料を溶媒に溶解または分散させて調製した組成物を、炭素材料の表面に塗布する方法などを採用することができる。
【0044】
前記酸化物を含む組成物や、前記酸化物を形成するための材料を含む組成物における溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒;などが使用できる。なお、前記組成物に含有させる前記酸化物や前記酸化物を形成するための材料が、水分によって反応しやすい場合には、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした脱水溶媒(超脱水溶媒)を使用することが好ましい。他方、前記酸化物や前記酸化物を形成するための材料が、水分によって反応し難い場合には、前記組成物の溶媒に水を使用することもできる。
【0045】
前記組成物を炭素材料に塗布する方法については、特に制限はなく、公知の各種塗布方法が採用できる。また、前記酸化物と炭素材料とを乾式で混合する方法についても、特に制限はなく、公知の各種混合方法が採用できる。
【0046】
工程(i-2)では、工程(i-1)を経て得られた炭素材料を焼成して、リチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層を、炭素材料の表面に形成する。なお、工程(i-1)において、前記酸化物を形成するための材料を含む組成物を炭素材料に塗布した場合には、この工程(i-2)によって、前記酸化物を形成するための材料を反応させて前記酸化物を合成しつつ、前記酸化物を含む層を形成する。
【0047】
工程(i-2)における焼成方法については、特に制限はなく、公知の各種焼成方法が採用できる。工程(i-2)における焼成温度は、前記酸化物が非晶質の状態で層を形成し得る温度が好ましく、具体的には、450℃以下であることが好ましく、また、300℃以上であることが好ましい。工程(i-2)における焼成時間は、0.5~3時間であることが好ましい。
【0048】
また、負極材料形成工程(A)は、前記工程(i-1)および工程(i-2)に代えて、炭素材料とリチウムイオン伝導性を有する酸化物とを混練して、前記炭素材料の表面に前記酸化物を含む層を形成する工程(ii)を有することもできる。
【0049】
工程(ii)では、炭素材料とリチウムイオン伝導性を有する酸化物とを、混練、すなわち、シェアをかけつつ混合することで、炭素材料の表面に、リチウムイオン伝導性を有する酸化物を含む層を形成して、負極材料を得る。炭素材料と前記酸化物とを混練する方法については、シェアをかけつつ両者を混合できる方法であれば特に制限はなく、公知の各種装置を使用した方法を採用することができる。
【0050】
次に、工程(B)では、負極材料形成工程(A)によって得られた前記負極材料と、硫化物系固体電解質とを用いて負極合剤の成形体を形成する。
【0051】
負極合剤の成形体は、例えば、前記負極材料および硫化物系固体電解質、さらには必要に応じて添加される導電助剤やバインダなどを混合して調製した負極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。全固体二次電池用負極が負極合剤の成形体のみで構成される場合には、この工程(B)によって全固体二次電池用負極を得ることができる。
【0052】
他方、全固体二次電池用負極が集電体を有する場合には、工程(B)によって得られた負極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで、全固体二次電池用負極を得ることができる。
【0053】
負極合剤の成形体の厚み(集電体を有する負極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。なお、電池の負荷特性は、一般に正極や負極を薄くすることで向上しやすいが、本発明によれば、負極合剤の成形体が200μm以上と厚い場合においても、その負荷特性を高めることが可能である。よって、本発明においては、負極合剤の成形体の厚みが例えば200μm以上の場合に、その効果がより顕著となる。また、負極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0054】
<全固体二次電池>
本発明の全固体二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、負極が本発明の全固体二次電池用負極である。
【0055】
本発明の全固体二次電池の一例を模式的に表す断面図を図1に示す。図1に示す全固体二次電池1は、外装缶40と、封口缶50と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット60で形成された外装体内に、正極10、負極20、および正極10と負極20との間に介在する固体電解質層30が封入されている。
【0056】
封口缶50は、外装缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、外装缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が封口缶50に当接することで、外装缶40の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。
【0057】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0058】
また、図2および図3に、本発明の全固体二次電池の他の例を模式的に表す図面を示す。図2は全固体二次電池の平面図であり、図3図2のI-I線断面図である。
【0059】
図2および図3に示す全固体二次電池100は、2枚の金属ラミネートフィルムで構成したラミネートフィルム外装体500内に、正極、固体電解質層および本発明の負極からなる電極体200を収容しており、ラミネートフィルム外装体500は、その外周部において、上下の金属ラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、図3では、図面が煩雑になることを避けるために、ラミネートフィルム外装体500を構成している各層や、電極体を構成している正極、負極およびセパレータを区別して示していない。
【0060】
電極体200の有する正極は、電池100内で正極外部端子300と接続しており、また、図示していないが、電極体200の有する負極も、電池100内で負極外部端子400と接続している。そして、正極外部端子300および負極外部端子400は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をラミネートフィルム外装体500の外側に引き出されている。
【0061】
(正極)
全固体二次電池の正極は、例えば、正極活物質、導電助剤および固体電解質などを含む正極合剤の成形体を有するものであり、前記成形体のみからなる正極や、前記成形体と集電体とが一体化してなる構造の正極などが挙げられる。
【0062】
正極活物質は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている正極活物質、すなわち、Liイオンを吸蔵・放出可能な活物質であれば特に制限はない。正極活物質の具体例としては、LiMMn2-x(ただし、Mは、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LiMn(1-y-x)Ni(2-k)(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0<y<0.5、0≦z≦0.5、k+l<1、-0.1≦k≦0.2、0≦l≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1-x(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1-x(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM1-xPO(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物、LiTi12で表されるリチウムチタン複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
正極活物質の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は一次粒子でも一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。平均粒子径が前記範囲の正極活物質を使用すると、固体電解質との界面を多くとれるため、電池の負荷特性がより向上する。
【0064】
正極活物質は、その表面に、固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有していることが好ましい。
【0065】
正極合剤の成形体内において、正極活物質と固体電解質とが直接接触すると、固体電解質が酸化して抵抗層を形成し、成形体内のイオン伝導性が低下する虞がある。正極活物質の表面に、固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を設け、正極活物質と固体電解質との直接の接触を防止することで、固体電解質の酸化による成形体内のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0066】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbOなどのNb含有酸化物、LiPO、LiBO、LiSiO、LiGeO、LiTiO、LiZrOなどが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbOを使用することがより好ましい。
【0067】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば正極活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0068】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法などが挙げられる。
【0069】
正極合剤における正極活物質の含有量は、60~95質量%であることが好ましい。
【0070】
正極の導電助剤としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。正極合剤における導電助剤の含有量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0071】
正極の固体電解質には、負極に使用し得るものして先に例示した各種の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましい。
【0072】
正極合剤における固体電解質の含有量は、4~30質量%であることが好ましい。
【0073】
正極合剤には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは正極合剤中において抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、正極合剤においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合にはその含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。正極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0074】
正極に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0075】
正極合剤の成形体は、例えば、正極活物質、導電助剤および固体電解質、さらには必要に応じて添加されるバインダなどを混合して調製した正極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0076】
集電体を有する正極の場合には、前記のような方法で形成した正極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0077】
正極合剤の成形体の厚み(集電体を有する正極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、正極合剤の成形体の厚みは、通常、2000μm以下である。
【0078】
(固体電解質層)
固体電解質層における固体電解質には、負極に使用し得るものして先に例示した各種の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましく、正極、負極および固体電解質層の全てに硫化物系固体電解質を含有させることがより望ましい。
【0079】
固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0080】
固体電解質層は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮する方法;固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法:などで形成することができる。
【0081】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0082】
固体電解質層の厚みは、100~300μmであることが好ましい。
【0083】
(電極体)
正極と負極とは、固体電解質層を介して積層した積層電極体や、さらにこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で、電池に用いることができる。
【0084】
なお、電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。
【0085】
(電池の形態)
全固体二次電池の形態は、図1に示すような、外装缶と封口缶とガスケットとで構成された外装体を有するもの、すなわち、一般にコイン形電池やボタン形電池と称される形態のものや、図2および図3に示すような、樹脂フィルムや金属-樹脂ラミネートフィルムで構成された外装体を有するもの以外にも、金属製で有底筒形(円筒形や角筒形)の外装缶と、その開口部を封止する封止構造とを有する外装体を有するものであってもよい。
【0086】
本発明の全固体二次電池は、従来から知られている二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0088】
実施例1
(固体電解質層の形成)
硫化物系固体電解質(LiPSCl):80mgを直径:10mmの粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて加圧成形を行いて固体電解質層を形成した。
【0089】
(負極の作製)
500mLの脱水エタノール中で、0.1molのリチウムと0.125molのチタンテトライソプロポキシドとを混合し、コート層形成用組成物を調製した。次に、転動流動層を用いたコート装置にて、500gの黒鉛上に、前記コート層形成用組成物を毎分2gの速度で180分間塗布した。得られた粉末を400℃で30分間焼成して、リチウムイオン伝導性を有する酸化物(LiTi12)を含むコート層が表面に形成された黒鉛からなる負極材料(1)を得た。負極材料(1)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して1.91質量部であった。また、負極材料(1)において、前記コート層を構成する酸化物が非晶質であることを、前記の方法によって確認した。
【0090】
負極材料(1)と、グラフェンと、固体電解質層に用いたものと同じ硫化物系固体電解質とを、質量比で45:5:50の割合で混合し、よく混練して負極合剤を調製した。次に、前記負極合剤:15mgを前記粉末成形金型内の前記固体電解質層の上に投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記固体電解質層の上に負極合剤成形体よりなる負極を形成した。
【0091】
(積層電極体の形成)
対極として、Li金属とIn金属とをそれぞれ円柱形状に成形して貼り合わせたものを使用した。この対極を、前記粉末成形金型内の固体電解質層の、負極とは反対側の面上に投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、積層電極体を作製した。
【0092】
(モデルセルの組み立て)
前記の積層電極体を使用し、図2に示すものと同様の平面構造の全固体電池(モデルセル)を作製した。ラミネートフィルム外装体を構成するアルミニウムラミネートフィルムの、外装体の内側となる面に、負極集電箔(SUS箔)および対極集電箔(SUS箔)を、間にある程度の間隔を設けつつ横に並べて貼り付けた。前記各集電箔には、前記積層電極体の負極側表面または対極側表面と対向する本体部と、前記本体部から電池の外部に向けて突出する負極外部端子400および対極外部端子300となる部分とを備えた形状に切断したものを用いた。
【0093】
前記ラミネートフィルム外装体の負極集電箔上に前記積層電極体を載せ、対極集電箔が前記積層電極体の対極上に配置されるように前記ラミネートフィルム外装体で前記積層電極体を包み、真空下で前記ラミネートフィルム外装体の残りの3辺を熱融着によって封止して、モデルセルを得た。
【0094】
実施例2
500mLの脱水エタノール中で、0.1molのリチウムと0.1molのニオビウムペンタオキシドとを混合し、コート層形成用組成物を調製した。次に、転動流動層を用いたコート装置にて、500gの黒鉛上に、前記コート層形成用組成物を毎分2gの速度で184分間塗布した。得られた粉末を400℃で焼成して、リチウムイオン伝導性を有する酸化物(LiNbO)を含むコート層が表面に形成された黒鉛からなる負極材料(2)を得た。負極材料(2)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して2.55質量部であった。また、負極材料(2)において、前記コート層を構成する酸化物が非晶質であることを、前記の方法によって確認した。
【0095】
負極材料(1)に代えて負極材料(2)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0096】
実施例3
黒鉛へのコート層形成用組成物の塗布を、毎分2gの速度で132分間とした以外は、実施例2と同様にして負極材料(3)を作製した。負極材料(3)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して1.83質量部であった。また、負極材料(3)において、前記コート層を構成する酸化物が非晶質であることを、前記の方法によって確認した。
【0097】
負極材料(1)に代えて負極材料(3)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0098】
実施例4
黒鉛へのコート層形成用組成物の塗布を、毎分2gの速度で72分間とした以外は、実施例2と同様にして負極材料(4)を作製した。負極材料(4)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して1質量部であった。また、負極材料(4)において、前記コート層を構成する酸化物が非晶質であることを、前記の方法によって確認した。
【0099】
負極材料(1)に代えて負極材料(4)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0100】
実施例5
黒鉛:20gとLiPO:1gとをよく混練して、リチウムイオン伝導性を有する酸化物(LiPO)を含むコート層が表面に形成された黒鉛からなる負極材料(5)を得た。負極材料(5)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して5質量部であった。
【0101】
負極材料(1)に代えて負極材料(5)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0102】
実施例6
300gのハードカーボン上に、前記コート層形成用組成物を毎分4gの速度で190分間塗布した。得られた粉末を400℃で30分間焼成して、リチウムイオン伝導性を有する酸化物(LiTi12)を含むコート層が表面に形成されたハードカーボンからなる負極材料(6)を得た。負極材料(6)における酸化物の量は、ハードカーボン100質量部に対して6.72質量部であった。
【0103】
負極材料(1)に代えて負極材料(6)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0104】
比較例1
黒鉛へのコート層形成用組成物の塗布を、毎分2gの速度で36分間とした以外は、実施例2と同様にして負極材料(7)を作製した。負極材料(7)における酸化物の量は、黒鉛100質量部に対して0.5質量部であった。また、負極材料(7)において、前記コート層を構成する酸化物が非晶質であることを、前記の方法によって確認した。
【0105】
負極材料(1)に代えて負極材料(7)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0106】
比較例2
負極材料(1)に代えて、表面にコート層を形成していない黒鉛を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0107】
比較例3
負極材料(6)に代えて、表面にコート層を形成していないハードカーボンを用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いた以外は実施例1と同様にしてモデルセルを作製した。
【0108】
実施例および比較例の負極を有するモデルセルについて、以下の各評価を行った。
【0109】
<CC容量評価>
各モデルセルについて、23℃の温度下で加圧(1t/cm)した状態で、0.05Cの電流値で電圧が0.62Vになるまで定電流充電を行い、続いて0.62Vの電圧で電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行い、その後に0.05Cの電流値で電圧が1.88Vになるまで放電させる一連の工程を2回繰り返し、2回目の定電流充電時の容量と、2回目の放電時の容量(初期容量)とを求めた。そして、各モデルセルの2回目の定電流充電時の容量を、初期容量で除した値を百分率で表して、CC容量を評価した。
【0110】
<直流抵抗(DCR)測定>
初期容量測定後の各モデルセルについて、23℃の温度下で加圧(1t/cm)した状態で、初期容量測定時と同じ条件で定電流充電および定電圧充電を行い、その後に0.1Cの電流値で充電深度(SOC)が、50%になるまで放電させてから1時間休止させた。その後の各モデルセルについて、0.1Cの電流値で10secのパルス放電を行った後に電圧を測定し、パルス放電前後の電圧差から固体電解質層と対極とに帰属される電圧上昇分を差引いた電圧を求め、その値からDCRを算出した。
【0111】
この方法で求められるDCRが小さいモデルセルに使用されている負極ほど、内部抵抗が低く、負荷特性に優れ、CC容量が大きな全固体二次電池を構成可能であるといえる。
【0112】
前記の各評価結果を、負極材料の構成と併せて表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例1~6で作製したモデルセルは、炭素材料の表面にリチウムイオン伝導性を有する酸化物を適正量で含む層を有する負極材料と、硫化物系固体電解質とを含有する負極合剤の成形体からなる負極を使用しており、DCRが低かった。よって、これらの負極を用いることで、全固体二次電池の負荷特性やCC容量を向上させることができる。
【0115】
これに対し、比較例1のモデルセルは表面の酸化物量が少ない負極材料を含有する負極を使用し、比較例2、3のモデルセルは表面に酸化物を含む層を持たない炭素材料を含有する負極を使用したが、これらではDCRが、実施例のものよりも高かった。
【符号の説明】
【0116】
1、100 全固体二次電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 外装缶
50 封口缶
60 ガスケット
200 電極体
300 正極外部端子
400 負極外部端子
500 ラミネートフィルム外装体
図1
図2
図3