(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】整流機能付き装具
(51)【国際特許分類】
F15D 1/12 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
F15D1/12
(21)【出願番号】P 2020157137
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恒
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-249772(JP,A)
【文献】特開2019-114505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上部が外気に対して開放されたオープン車両に乗車する乗員の装着可能な整流機能付きの装具であって、
前記装具に設けられて前記乗員が受ける空気抵抗を低減可能な複数のプラズマアクチュエータと、
前記オープン車両を運転する乗員の姿勢
及び前記オープン車両が直進中か旋回中であるかを
それぞれ検出可能な姿勢検出センサと、
前記プラズマアクチュエータを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記オープン車両の速度が所定値以上に到達した場合に前記プラズマアクチュエータを駆動し、
前記姿勢検出センサを介して検出した前記乗員の姿勢に応じて、前記複数のプラズマアクチュエータのうちいずれを駆動するか選択
し、且つ、
(i)前記オープン車両が前記直進中であるときの第1駆動パターンに従って前記複数のプラズマアクチュエータのうちの一部を駆動しつつ残部の駆動を停止し、(ii)前記オープン車両が前記旋回中であるときは前記第1駆動パターンと異なる第2駆動パターンに従って前記複数のプラズマアクチュエータを駆動する、整流機能付きの装具。
【請求項2】
前記プラズマアクチュエータを駆動する高周波信号を生成する駆動回路と、
前記駆動回路を駆動するバッテリーと、
前記バッテリーからの電圧を昇圧する昇圧回路と、をさらに含み、
前記昇圧回路は前記プラズマアクチュエータに隣接して配設されてなる、請求項1に記載の整流機能付きの装具。
【請求項3】
前記バッテリーと前記駆動回路とは互いに隣接して配設され、
前記昇圧回路と前記プラズマアクチュエータとを電気的に接続する第1配線は、前記昇圧回路と前記駆動回路とを電気的に接続する第2配線よりも短い、請求項2に記載の整流機能付きの装具。
【請求項4】
前記複数のプラズマアクチュエータは、
前記装具として前記乗員が装着する上衣と下衣が一体のツナギに対となってそれぞれ設けられる一対のプラズマアクチュエータを含み、
前記制御手段は、
前記オープン車両の
前記旋回中における進行方向に対する前記プラズマアクチュエータの向きに応じて、前記一対のプラズマアクチュエータのうち一方のプラズマアクチュエータの駆動と他方のプラズマアクチュエータの駆動とが互いに異なるように当該プラズマアクチュエータの駆動を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の整流機能付きの装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に乗車する乗員の装具に関し、より具体的には乗車中の空気抵抗を低減可能な整流機能付き装具に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において車両は不可欠であり、日常における重要な移動手段となっている。このような車両には、例えば乗員の体の一部が外気に対してオープンな状態となるオープンカーや、バイクなどの二輪自動車が既知である。
【0003】
他方で、例えば誘電体バリア放電(DBD)方式を用いたプラズマアクチュエータ(以下、適宜プラズマアクチュエータを「PA」とも略称する)の開発が行われている。かようなPAは、例えば樹脂やセラミック等の誘電体を挟んで一対の電極を設置し、これらの電極間に高周波の交流電圧又はパルス電圧を印加してプラズマを発生させる。
【0004】
そして近年では、例えば特許文献1や特許文献2に例示されるように、上記したPAによって生成されるプラズマで車両の周囲の整流を行う技術が提案されている。例えば特許文献1では、車両のAピラーやフェンダーなどにPAを設置して、このPAを駆動することで車両周囲を流れる気流の渦流を整流することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許9821862号明細書
【文献】特開2019-167006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した各特許文献に限らず既存の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。すなわち、たしかに特許文献1や特許文献2に示されるように車両に対してプラズマアクチュエータを設置すれば車両に起因する空気抵抗の低減は実現できる。
【0007】
しかしながら、例えば自動二輪車はもとより上記したオープンカーやレーシングカーなどでは、走行時に乗員の体への空気抵抗が大きくなることも想定されるが、上記した特許文献を含む既存の技術ではこのような乗員が受ける空気抵抗に対して配慮するまでは至っていないと言える。
【0008】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、少なくとも体の一部が車外に対してオープンとなる車両に乗車する乗員の空気抵抗を抑制可能な整流機能付き装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態における整流機能付きの装具は、(1)少なくとも上部が外気に対して開放されたオープン車両に乗車する乗員の装着可能な整流機能付きの装具であって、前記装具に設けられて前記乗員が受ける空気抵抗を低減可能な複数のプラズマアクチュエータと、前記オープン車両を運転する乗員の姿勢及び前記オープン車両が直進中か旋回中であるかをそれぞれ検出可能な姿勢検出センサと、前記プラズマアクチュエータを制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記オープン車両の速度が所定値以上に到達した場合に前記プラズマアクチュエータを駆動し、前記姿勢検出センサを介して検出した前記乗員の姿勢に応じて、前記複数のプラズマアクチュエータのうちいずれを駆動するか選択し、且つ、(i)前記オープン車両が前記直進中であるときの第1駆動パターンに従って前記複数のプラズマアクチュエータのうちの一部を駆動しつつ残部の駆動を停止し、(ii)前記オープン車両が前記旋回中であるときは前記第1駆動パターンと異なる第2駆動パターンに従って前記複数のプラズマアクチュエータを駆動する。
【0010】
なお、上記した(1)に記載の整流機能付きの装具においては、(2)前記プラズマアクチュエータを駆動する高周波信号を生成する駆動回路と、前記駆動回路を駆動するバッテリーと、前記バッテリーからの電圧を昇圧する昇圧回路と、をさらに含み、前記昇圧回路は前記プラズマアクチュエータに隣接して配設されてなることが好ましい。
【0011】
また、上記した(2)に記載の整流機能付きの装具においては、(3)前記バッテリーと前記駆動回路とは互いに隣接して配設され、前記昇圧回路と前記プラズマアクチュエータの電極とを電気的に接続する第1配線は、前記昇圧回路と前記駆動回路とを電気的に接続する第2配線よりも短いことが好ましい。
【0012】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の整流機能付きの装具においては、(4)前記複数のプラズマアクチュエータは、前記装具として前記乗員が装着する上衣と下衣が一体のツナギに対となってそれぞれ設けられる一対のプラズマアクチュエータを含み、前記制御手段は、前記オープン車両の前記旋回中における進行方向に対する前記プラズマアクチュエータの向きに応じて、前記一対のプラズマアクチュエータのうち一方のプラズマアクチュエータの駆動と他方のプラズマアクチュエータの駆動とが互いに異なるように当該プラズマアクチュエータの駆動を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両走行中における乗員の体に生ずる気流の剥離を制御することができ、これにより車両全体としての空気抵抗も低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る整流機能付き装具を装着して車両に乗車する乗員の模式図である。
【
図2】整流機能付き装具における機能ブロック図とプラズマアクチュエータの構造例を示す模式図である。
【
図3】整流機能付き装具を用いた整流方法を示すフローチャートである。
【
図4】変形例1の整流機能付き装具を用いた整流方法を示すフローチャートである。
【
図5】変形例2の整流機能付き装具を装備した乗員が操作する車両(自動二輪車)の走行状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、例えばプラズマアクチュエータの駆動機構のうち本実施形態で説明する以外の部分については、上記した各特許文献を含む公知のプラズマアクチュエータの機構を援用してもよい。その他、本実施形態で詳述する以外の車両構成については、公知の二輪又は四輪の車両に関する要素技術や機構を補完してもよい。
【0016】
[整流機能付き装具100]
まず実施形態の車両Veに乗車する乗員が装着する整流機能付き装具100について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお本実施形態の車両Veは、図示のとおりバイクなどの二輪自動車が好適ではあるが、少なくとも上部が外気に対して開放されて乗員の体の少なくとも一部が車外に対して常時露出(オープン)となる車両(これをオープン車両という)であれば、例えば二輪以外の四輪のオープンカーやレーシングカーなどであってもよい。
【0017】
整流機能付き装具100は、少なくとも上部が外気に対して開放されたオープン車両に乗車する乗員の装着可能であって、これらの図から理解されるように、プラズマアクチュエータ10、制御手段20、駆動回路30、バッテリー40および昇圧回路50を含んで構成されている。
【0018】
かような整流機能付き装具100は、上記した車両Veに乗車する乗員が装着可能な物体であり、例えばヘルメット、ツナギ、ブーツ、グローブなどが例示できる。以下では、かような整流機能付き装具100の一例として、二輪自動車に乗車する乗員が装着可能なヘルメットとツナギに適用した例を示す。
【0019】
プラズマアクチュエータ10は、前記した乗員が受ける空気抵抗を低減する機能を有している。かようなプラズマアクチュエータ10は、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている公知のプラズマアクチュエータであり、本実施形態では誘電体バリア放電(DBD)方式のプラズマアクチュエータを適用できる。
【0020】
なお、本実施形態のプラズマアクチュエータ10は、上記したDBDプラズマアクチュエータに限られず、例えばプラズマ発生領域が大きくなるように改良されたSliding Discharge(SD)方式プラズマアクチュエータなど他の公知のPAを適用してもよい。
【0021】
図示されるとおり、本実施形態では、整流機能付き装具100としてのヘルメットの後頭部側の両サイドにプラズマアクチュエータ10が設置されている。また、本実施形態では、整流機能付き装具100としてのツナギ(上衣と下衣が一体の外衣)における両袖付近、後方側の腰部付近、および膝下のふくらはぎ付近にプラズマアクチュエータ10がそれぞれ設置されている。
【0022】
制御手段20は、後述するバッテリー40から電力の供給を受けて駆動する公知の集積回路(制御用IC)であり、前記したプラズマアクチュエータ10を制御する機能を有している。より具体的に本実施形態の制御手段20は、後述する整流方法など実行可能な制御プログラムが格納された不図示のメモリ等を備えている。
【0023】
なお、本実施形態では制御手段20(制御用IC)と駆動回路30(インバータ素子)は別体として構成されているが、この形態に限られず、例えばインバータ制御に必要な構成素子や回路をSOI技術によってワンチップに集積したモノリシックIC(ワンチップインバータIC)で構成してもよい。
【0024】
駆動回路30は、上記したプラズマアクチュエータ10を駆動する高周波信号を生成する機能を有している。より具体的に、本実施形態の駆動回路30は、バッテリー40の直流電圧を交流電圧に変換する公知のインバータ素子である。
【0025】
バッテリー40は、前記したプラズマアクチュエータ10や制御手段20あるいは駆動回路30などを駆動する機能を有している。本実施形態のバッテリー40は、例えばリチウムイオン二次電池など、車両Veに搭載される充放電可能な公知の二次電池が例示できる。すなわち本実施形態ではバッテリー40の一例として24Vのリチウムイオン二次電池が適用されているが、PAの駆動電圧まで昇圧可能なものであれば例えば鉛蓄電池やニッケル水素電池など他の公知の電池を適用してもよい。
【0026】
昇圧回路50は、前記したバッテリー40からの電圧を、前記したプラズマアクチュエータ10が駆動可能な電圧まで昇圧する機能を有している。より具体的に本実施形態の昇圧回路50は、24Vの電圧を数十kV(一例として9kV~20kV)まで昇圧する公知のトランスが例示できる。なお、本実施形態のプラズマアクチュエータ10は数十キロV程度の電圧で駆動が可能な公知のプラズマアクチュエータであるが、昇圧回路50による昇圧割合は当該プラズマアクチュエータの駆動電圧の値に応じて適宜変更することができる。
【0027】
[整流機能付き装具100における素子レイアウトの構成]
次に
図2を用いて本実施形態の整流機能付き装具100における各素子のレイアウト構成について説明する。
【0028】
同図に示すとおり、本実施形態の整流機能付き装具100においては、低電圧駆動部と高電圧駆動部とが第2配線L2を介して接続されている。このうち低電圧駆動部は、上記した制御手段20(制御用IC)、駆動回路30(インバータ素子)およびバッテリー40が含まれる。そして
図1からも明らかなとおり、整流機能付き装具100における低電圧駆動部と高電圧駆動部は互いに離間した位置にそれぞれ配置されていることから、感電などを防止する目的で第2配線L2は絶縁ゴムなどの公知の絶縁部材IPで被覆されている。
【0029】
一方で、高電圧駆動部は、上記したプラズマアクチュエータ10と、このプラズマアクチュエータ10と第1配線L1を介して電気的に接続された昇圧回路50(トランス)が含まれる。
図1及び
図2(a)からも明らかなとおり、本実施形態の昇圧回路50は、プラズマアクチュエータ10に隣接して配設されていることが好ましい。換言すれば、昇圧回路50は、駆動回路30よりもプラズマアクチュエータ10に対して近接して配置される。上述のとおり昇圧回路50を介してプラズマアクチュエータ10に印加される駆動電圧は数kVに達するため、そのような高電圧の回路はなるべく少ない領域とした方がよいからである。
【0030】
上述のとおり、本実施形態ではプラズマアクチュエータをヘルメットやツナギなどの装具に搭載しているため、設置レイアウトの効率化などの観点から低電圧駆動部と高電圧駆動部とに分割されて構成されている。そして
図2(a)に示すとおり、本実施形態では、バッテリー40と駆動回路30とは互いに隣接して配設されており、駆動回路30は昇圧回路50よりもバッテリー40に対して近接して配置される。
【0031】
従って、図示からも明らかなとおり、昇圧回路50とプラズマアクチュエータ10とを電気的に接続する第1配線L1は、昇圧回路50と駆動回路30とを電気的に接続する第2配線L2よりも短くなるように設定されている。これにより安全性もより向上させつつ、プラズマアクチュエータ10によって装具周囲に生ずる気流の剥離を制御(整流)することが可能となっている。
【0032】
なお
図2(a)中において点線枠で示した高電圧駆動部は、例えばセラミックスなど絶縁機能の高い公知の材料で一体的に形成されていてもよい。これにより、例えば第1配線L1の絶縁性能を向上させつつ、プラズマアクチュエータ10から昇圧回路50へのスパークもより効果的に抑制できる。さらに
図2(b)に示すように、上記した絶縁機能の高い材料を、プラズマアクチュエータ10を構成する誘電体の一部として兼用してもよい。
【0033】
具体的には
図2(b)に示すように、プラズマアクチュエータ10を構成する一方の被覆電極が誘電体DM内に埋没するとともに、プラズマアクチュエータ10を構成する他方の露出電極が誘電体DM上に配置されてもよい。また、上記した昇圧回路50および第1配線L1が誘電体DM内に埋没されて絶縁材料で被覆された形態となっていてもよい。
【0034】
[整流機能付き装具100を用いた整流方法]
次に、
図3もさらに参照しつつ、本実施形態の整流機能付き装具100を用いた空気の整流方法について説明する。なお以下では車両Veの例としてバイク(自動二輪車)を例にして説明する。まずバイクを運転する乗員は、安全性向上などを目的として上記した本実施形態の整流機能付き装具100を装着して乗車する。
【0035】
そしてまずステップ1では、制御手段20は、プラズマアクチュエータ10の電源スイッチがONされたか否かを判定する。より具体的には、例えば整流機能付き装具100には、上記バッテリー40からプラズマアクチュエータ10へ電力を供給するための電源スイッチ(不図示)が設けられていてもよい。そしてバイクに乗車した乗員がこの電源スイッチを押圧したか否かが判定される。なお本実施形態では機械的な電源スイッチによりON/OFFの判定をしているが、例えば不図示の速度センサ又は加速度センサを具備してバイクの発進に応じて自動的に電源スイッチが入るように構成してもよい。
【0036】
次いでステップ2では、バイクが始動したか否かが判定され、始動した場合には続くステップ3で速度計がリセットされてからバイクの速度がカウントされる。これにより、バイクで計測される速度と整流機能付き装具100で計測される速度がほぼ同じ値となる。なおこの始動判定は、例えばステップ1で用いた速度センサ又は加速度センサの値に基づいて実行することができる。
【0037】
なお制御手段20とバイクの双方が公知の近距離無線通信機能を備えている場合には、バイクの速度情報を制御手段20が受信することで上記の始動判定を行ってもよい。このようにバイクから速度情報を受信可能な場合には、バイクと整流機能付き装具100とで速度情報の同期が不要となることから、上記したステップ3は省略できる。
【0038】
次いでステップ4では、例えば上記した速度センサ又は加速度センサの値などに基づいて、車両速度(装具での速度と同じ値と見做せる)が所定値以上に到達したか否かが判定される。すなわち、バイクが始動した直後の比較的低速度・低加速度下においては乗員が受ける空気抵抗は比較的小さく、プラズマアクチュエータ10による整流機能は不要な段階であると言える。一方で車両速度が比較的高速になった場合には乗員が受ける空気の流れも強くなり、装具の周囲には空気の渦流が生じ得る。
【0039】
そこで本実施形態では、上記した空気の渦流が生じ得る程度の所定値以上に車両速度が到達した場合に、制御手段20を介してプラズマアクチュエータ10が駆動されて上記した整流機能が実行されるように構成したのである。なお車両速度における上記した「所定値」としては、地域や車両の形状あるいは走行中の天候状況によって種々の値が設定されてよく、例えば実験やシミュレーションによって最適な値を設定してもよい。
【0040】
このようにステップ4で車両速度が所定値以上に到達した場合(ステップ4でYes)には、ステップ5-Aで制御手段20を介してプラズマアクチュエータ10が駆動される。一方で車両速度が所定値以上に到達していない場合(ステップ4でNo)には、ステップ6で制御手段20を介してプラズマアクチュエータ10の駆動が停止される。なお、ステップ6でプラズマアクチュエータ10の駆動が停止される形態としては、始動直後でそもそも車両速度が所定値に達していない場合と、減速して車両速度が所定値以上から所定値未満に変化した場合とが含まれる。
【0041】
そしてステップ6でプラズマアクチュエータ10の駆動が停止された後は、続くステップ7で上記した電源スイッチがOFFされたか否かが判定される。そしてステップ6で電源スイッチがOFFされていない(ステップ6でNo)場合には、ステップ2に戻って上記した処理が再び継続される。他方、ステップ6で電源スイッチがOFFされた(ステップ6でYes)場合には、以上の処理が終了される。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0043】
<変形例1>
一例として、
図4を用いて本発明の変形例1における整流機能付き装具100を用いた整流方法について説明する。なお以下の変形例においては、上記した実施形態との相違点を中心に説明し、上記実施形態と同じ機能を有する構成については同じ参照番号を付してその説明も適宜省略する。
【0044】
すなわち
図4に示す変形例1では、ステップ5-Aでプラズマアクチュエータ10を駆動した後で、車両Veの進行方向に対する装具の向きに応じてプラズマアクチュエータ10の駆動を制御する点に特徴がある。すなわち、本変形例における整流機能付き装具100では、装具の回転の有無(向き)を検出可能な公知のジャイロセンサなどの角速度センサ(不図示)が具備されている。
【0045】
そしてステップ5-Aに続くステップ5-Bでは、制御手段20は、上記した角速度センサからの情報に基づいて、プラズマアクチュエータ10の電極の向きが進行方向に対してどの程度回転したかを検出している。より具体的には、例えば進行方向に対して乗員が真っ直ぐ向いた姿勢の状態を基準として、各装具が所定角度以上回転したか(例えば装具がヘルメットの場合にはどの程度だけ脇見をしているか)を検出する。
【0046】
例えば車両Veとしてのバイクが大きく旋回する場合には、乗員は旋回する方向を見続けることが想定される。このとき装具の周囲では直進時とは異なった空気の流れが生ずることから、このような状態において制御手段20はプラズマアクチュエータ10を駆動停止する処理を行う。なお、上記した「所定角度」については渦流の剥離が不能となる角度である限りにおいて特に制限はなく、例えば実験やシミュレーションなどで適正な角度の値を設定できる。
【0047】
なお、本変形例では、車両Veの進行方向に対する装具の向きに応じてプラズマアクチュエータ10の駆動を停止したが、プラズマアクチュエータ10の駆動制御は上記に限られない。例えばプラズマアクチュエータ10がヘルメット後部の両サイドや両脚など対となって複数設けられる場合には、制御手段20は、車両Veの進行方向に対する装具の向きに応じて、対となるプラズマアクチュエータ10のうちの一方の駆動が他方の駆動に対して異なる(弱まる又は強まる)ようにプラズマアクチュエータ10の駆動を制御してもよい。
【0048】
<変形例2>
次に、
図5を用いて本発明の変形例2における整流機能付き装具100を用いた整流方法について説明する。なお本変形例2では、説明の便宜上、上記した制御手段20、駆動回路30、バッテリー40および昇圧回路50は不図示としている。同様に説明の便宜上、
図5(b)においては姿勢検出センサS(後述)の図示は省略している。
【0049】
上記した変形例1では車両Veの進行方向に対する装具の向きに応じてプラズマアクチュエータ10の駆動を制御していた。これに対して本変形例2における整流機能付き装具では、制御手段20は、乗員の姿勢又は車両の傾きに適したプラズマアクチュエータ10の駆動パターン(複数のプラズマアクチュエータ10のいずれを駆動するか)を選択する点に特徴がある。
【0050】
すなわち、本変形例2では、乗員が装備する整流機能付き装具100には、乗員の姿勢を検出可能なジャイロセンサなどの複数の公知の姿勢検出センサSが設けられている。また、本変形例2における車両Veにも、車両Veの姿勢を検出可能なジャイロセンサなどの公知の姿勢検出センサSが設けられている。このとき、車両Veに設けられた姿勢検出センサSからは、公知の通信手段を介して制御手段20へ車両Veの姿勢情報が送信可能に構成されている。
【0051】
従って制御手段20は、上記した姿勢検出センサSからの乗員及び車両の少なくとも一方の姿勢情報を受信することで、車両Veや乗員がどのような姿勢となっているか判別が可能となっている。なお車両Veや乗員の姿勢判定については、上記したジャイロセンサを用いた姿勢検出の他、公知の姿勢検出技術を適用してもよい。
【0052】
従って、例えば制御手段20は、上記姿勢検出センサSからの情報に基づいて車両Veが直進中であると判定されれば、
図5(a)に示すプラズマアクチュエータ10の駆動パターンを選択することができる。
すなわち、
図5(a)は直進中に適したプラズマアクチュエータ10の駆動パターン例を示しており、制御手段20はプラズマアクチュエータ10aを駆動するとともにプラズマアクチュエータ10sの駆動は停止する制御を行う。
【0053】
また、例えば制御手段20は、上記姿勢検出センサSからの情報に基づいて車両Veが旋回中(同図は左旋回の例)であると判定されれば、
図5(b)に示すプラズマアクチュエータ10の駆動パターンを選択することができる。
すなわち、
図5(b)は左旋回中に適したプラズマアクチュエータ10の駆動パターン例を示しており、制御手段20はプラズマアクチュエータ10aを駆動するとともにプラズマアクチュエータ10sの駆動は停止する制御を行う。
【0054】
このように変形例2における制御手段20は、車両Veに設けられた姿勢検出センサSやプラズマアクチュエータ10の近傍にそれぞれ設置された姿勢検出センサS等を用いて、車両又は乗員の姿勢に適したプラズマアクチュエータの駆動パターンを選択する。
これにより、走行状況に応じて複数のプラズマアクチュエータ10の駆動パターンを変化させることができ、車両Veや乗員が受ける空気抵抗をアクティブに低減させることが可能となる。
【0055】
なお、上記した変形例2では、車両Veに搭載された姿勢検出センサSや乗員が装備する整流機能付き装具100に搭載された姿勢検出センサSを用いて上記姿勢情報を検出したが、これに加えて例えば乗員が所有するスマートフォン等のウェアラブルデバイスに搭載された加速度センサからの加速度情報をさらに受信して上記車両や乗員の姿勢を判定するようにしてもよい。
【0056】
以上説明した変形例における整流機能付き装具100およびこれを用いた整流方法によれば、上記した実施形態の効果に加え、空気の渦流が抑制し難い場合にはプラズマアクチュエータ10の駆動を停止するなどして省エネルギー化を図ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0057】
10 プラズマアクチュエータ
20 制御手段
30 駆動回路(インバータ)
40 バッテリー
50 昇圧回路(トランス)
100 整流機能付き装具
DM 誘電体