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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】移動制御支援装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241119BHJP
【FI】
G05D1/43
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020197027
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085379
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷島 範安
(72)【発明者】
【氏名】酒寄 剛
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健人
(72)【発明者】
【氏名】勝田 敬一
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-129260(JP,A)
【文献】特開2015-210083(JP,A)
【文献】特開2019-219733(JP,A)
【文献】特開2019-219735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシステムの移動体が混在する共通領域における移動体の移動に対する制御を支援する移動制御支援装置において、
前記移動体それぞれの移動位置に基づき、当該移動体の開始位置、到着位置および前記開始位置と前記到着位置の間の移動履歴を含むタスク情報により定義される当該移動体における移動体タスクを推定する移動体タスク推定部と、
前記移動体タスクごとに、当該移動体タスクを実現するための個別ルールを生成する個別ルール生成部と、
前記共通領域における前記個別ルールの重畳状況を特定し、前記重畳状況に応じて、前記個別ルールのそれぞれを用いて、前記共通領域における前記移動体の移動に関する共通領域ルールを作成する共通領域ルール作成部とを有し、
前記個別ルール生成部は、前記移動履歴の変化量が最小化する個別経路を生成する移動制御支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動制御支援装置において、
前記個別ルール生成部は、前記個別ルールとして、前記移動体それぞれにおける個別経路を生成し、
前記共通領域ルール作成部は、前記共通領域ルールとして、前記移動体の前記共通領域の移動経路である共通移動経路を作成する移動制御支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動制御支援装置において、
前記共通領域ルール作成部は、前記個別経路のそれぞれを重畳し、前記複数のシステム
の個別経路のうち、重畳数が所定数以上の個別経路を前記共通移動経路の少なくとも一部として抽出する移動制御支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の移動制御支援装置において、
前記共通領域ルール作成部は、前記重畳数として、前記共通領域を格子状に区切るグリッドのうち、前記個別経路が重なり合うグリッドの数を用いる移動制御支援装置。
【請求項5】
複数のシステムの移動体が混在する共通領域における移動体の移動に対する制御を支援する移動制御支援装置を用いた移動制御支援方法において、
前記移動制御支援装置が、
前記移動体それぞれの移動位置を受け付け、
前記移動位置に基づき、当該移動体の開始位置、到着位置および前記開始位置と前記到着位置の間の移動履歴を含むタスク情報により定義される当該移動体における移動体タスクを推定し、
前記移動体タスクごとに、当該移動体タスクを実現するための個別ルールを生成し、
前記共通領域における前記個別ルールの重畳状況を特定し、
前記重畳状況に応じて、前記個別ルールのそれぞれを用いて、前記共通領域における前記移動体の移動に関する共通領域ルールを作成し、
前記共通領域を、前記複数のシステムそれぞれにおける管理サーバに送信し、
前記管理サーバのそれぞれから、前記共通領域での移動を制御するための情報を、前記移動体に送信し、
前記移動を制御するための情報に基づいて、前記移動体が前記共通領域での移動することを可能とし、
前記個別ルールの生成において、前記移動履歴の変化量が最小化する個別経路を生成する移動制御支援方法。
【請求項6】
請求項に記載の移動制御支援方法において、
前記個別ルールとして、前記移動体それぞれにおける個別経路を生成し、
前記共通領域ルールとして、前記移動体の前記共通領域の移動経路である共通移動経路を作成する移動制御支援方法。
【請求項7】
請求項に記載の移動制御支援方法において、
前記共通領域ルールの作成において、前記個別経路のそれぞれを重畳し、前記複数のシステムの個別経路のうち、重畳数が所定数以上の個別経路を前記共通移動経路の少なくとも一部として抽出する移動制御支援方法。
【請求項8】
請求項に記載の移動制御支援方法において、
前記共通領域ルールの作成において、前記重畳数として、前記共通領域を格子状に区切るグリッドのうち、前記個別経路が重なり合うグリッドの数を用いる移動制御支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なるルールベースの制御体系下にある複数の移動体の移動を制御する技術に関する。つまり、本発明は、複数のシステムにおける移動体の制御に関する。その中でも特に、移動体に対する制御を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の作業を自動化し、省人化、効率化を図る自動化システムの開発が積極的に行われ、今後多くの自動化システムが社会実装される見込みである。自動化システムでは、移動体を制御してその作業を実現する。この自動化システムの中でも、特に自動車や産業車両、建設機械等の自動運転は、移動を伴うタスクを自動化するため、実装環境が広範囲に及び、複数の自動化システムが同じ空間に混在するような条件下で運用されることが想定される。
【0003】
ここで、各自動化システムはそれぞれ異なる目的を持ち、異なるタスクを実行するものであり、システム間の連携が十分に図れていない、あるいは連携を図ることが困難である可能性がある。例えば、道路の一部で補修工事を行う場面を想定すると、工事を行う建設機械群は自動施工システムの制御化にあり、自動施工システムの定めるルールに基づき行動を計画し、自動で施工が行われる。また、並行して道路上には自動運転車が走行しており、自動運転システムは自動施工システムのルールや制御特性を知ることなく、道路上の施工領域付近を走行する。
【0004】
この際、自動施工システムと自動運転システムは、道路上の施工区画及びその周辺領域を両者で共有している状態となる。共通領域内では、両システムは物体検知技術等により互いの存在は認識できるが、どのような目的でどのような行動を行っているのかはわからない。このため、安全性の観点から、極端に速度を落とす等の非常に保守的な行動を取らざるを得ず、タスクを効率良く実行するという生産性の観点では、人の作業よりも効果が減少することにもなりかねない。
【0005】
ここで、自動化システムが小規模で複雑ではなく、限られた空間内に限定されていれば、複数のシステムを予め一つに統合することで安全性を損なわずに最大効率を得ることも可能となる場合がある。しかしながら、広範囲に多数の自動化システムが実装されていくと、システムの単一統合は事実上不可能である。このような社会背景において、移動を基本タスクとし、異なるルールベースの制御体系下にある複数の自動化システムの間を取り持ち、それぞれのシステムを尊重しつつ共存させる仕組みが重要となってくる。特に、自動車や産業車両のように移動を基本タスクとする自動化システムは、統合が容易ではない上に安全上のリスクも高いことから、システム間の連携の必要性が高い。また、自動化システムが小規模で複雑ではない場合でも、統合が困難な場合や、システム間の連携の必要性が高い場合もある。
【0006】
また、移動を基本タスクとする自動化システムは、現在位置からタスクの目的となるゴール位置までの移動経路を計画し、経路に沿って移動するよう制御される。経路計画の際には、各システムが持つルールに従い、環境条件を考慮して経路が設定される場合がある。ルールとは、例えば経路の候補となるいくつか経由地点、走行してよい場所やしてはいけない場所、走行してよい条件やしてはいけない条件等の決まり事などである。また、複数の自動化システムが同じ領域において異なるルールに基づき移動することは、同じ領域内に異なる仮想の道路を敷き走行するようなものである。この場合、上述の通り安全上のリスクを下げるために保守的な制御設計が成され、生産性が低下する要因となりかねない。このため、移動を基本タスクとする複数の自動化システムが混在する共通領域においては、システム間で共通のルール、つまり共通の仮想経路地図を持つことが最初のステップとして重要である。
【0007】
特許文献1は、複数の移動体の移動を膨大な演算を行うことなく円滑に制御することのできる移動体移動制御システムに関するものである。つまり、特許文献1では、環境に設置したカメラにより移動体の位置を把握し、目的地までの走行経路を設定すると共に、スムーズな走行を確保するために走行順序を規制したり、走行方向を規制したりする規制通路を配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2002/023297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の移動体制御システムは、複数の移動ロボットが一つの領域内を同時に移動するものであり、移動ロボット同士が衝突しないよう規制通路を配置する。ただし、これらの移動ロボットは単一システムであり、異なるルールベースの制御体系下に置かれ、異なるルールに基づき行動が計画されているわけではない。
【0010】
このため、特許文献1では、異なるルールに基づき行動が計画される複数の移動体に対する共通のルールとなる仮想経路地図を作成する場合、以下の課題が存在する。特許文献1では、各システムのルールを可能な限り尊重し、全システムに対してルール変更に伴う計画行動の変化を最小限に留める必要がある。これは、共通領域外の単一システムのみが行動する領域においては、当該システムのルールをそのまま適用し行動するためであり、共通領域の内外で行動が大きく変化することは望ましくない。
【0011】
以上のように、特許文献1では、異なるシステムにおける移動体を機能させるための制御が困難であった。例えば、移動体の制御により、安全性や生産性を維持もしくは向上させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明では、複数システムにおける移動体が混在する共通領域における移動体の移動に関するルールを作成する。ここで、ルールには、移動体の経路である共通移動経路が含まれる。
【0013】
より詳細には、複数のシステムの移動体が混在する共通領域における移動体の移動に対する制御を支援する移動制御支援装置において、前記移動体それぞれの移動位置に基づき、当該移動体の開始位置、到着位置および前記開始位置と前記到着位置の間の移動履歴を含むタスク情報により定義される当該移動体における移動体タスクを推定する移動体タスク推定部と、前記移動体タスクごとに、当該移動体タスクを実現するための個別ルールを生成する個別ルール生成部と、前記共通領域における前記個別ルールの重畳状況を特定し、前記重畳状況に応じて、前記個別ルールのそれぞれを用いて、前記共通領域における前記移動体の移動に関する共通領域ルールを作成する共通領域ルール作成部とを有し、前記個別ルール生成部は、前記移動履歴の変化量が最小化する個別経路を生成する移動制御支援装置である。
【0014】
本発明の一態様には、移動制御支援装置を用いた移動制御支援方法も含まれる。なお、本方法には、移動制御支援装置での処理方法も含まれる。さらに、移動制御支援装置をコンピュータとして機能させるためのコンピュータプログラムや本プログラムを格納した記憶媒体も、本発明の一態様に含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、異なるルールベースの制御体系下にある複数の移動体の制御に関し、各々のルールの変更幅を抑止しつつ、安全性を維持しつつ効率良く共通領域を移動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1における制御システムの全体図
図2】実施例1における移動体システムの機能構成図
図3】実施例1における複数のシステムにおけるルールと共通移動経路の考え方を示す図
図4】各実施例における環境センサおよびコンピュータの機能を表す機能ブロック図
図5】実施例1における移動体タスクを示す図
図6】各実施例における移動体タスクを記録するためのプロセスを示すフローチャート
図7】各実施例における共通移動経路作成プロセスを示すフローチャート
図8】実施例1における効果を説明する図
図9】実施例2における移動体タスクを示す図
図10】実施例3における制御システムの全体図
図11】実施例3における複数のシステムにおけるルールと共通移動経路の考え方を示す図
図12】各実施例における制御システムのハードウエア構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態(実施例1~実施例3)について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
また、本願明細書での「移動体」とは、移動する機能を有するものであればよい。この移動は、移動体が自律的に行ってもよいし、システムの制御に従ってもよい。さらに、移動体の移動は、ハイブリッドな制御、自律的な制御とシステムからの制御の双方を利用しもよい。このように、各実施例では、全ての移動体が制御システムの制御下になくともよい。
【実施例1】
【0019】
まず、図1から図8までを用いて実施例1における複数移動体の制御システムについて説明する。
【0020】
図1は、本実施例における複数移動体の制御システムの構成を示す全体図である。本制御システムは、一つ又は複数の環境センサ3、ネットワーク4、一つ又は複数のコンピュータ5を含む。そして、環境センサ3とコンピュータ5とは、ネットワーク4を介して通信可能に接続されている。
【0021】
また、本制御システムの制御対象として、複数の移動体1、また、対象領域として共通領域2が存在する。移動体1は、例えば自律移動機能を備え無人で移動する無人機械1a、人が操作し移動する有人機械1b、作業員1cなどに細分化できる。本実施例では、2つの異なるシステム(トラック積降システムA、倉庫管理システムシステムB)の双方が共通領域2内で移動体タスクを実行する環境を想定する。つまり、共通領域2内には、異なるシステムの移動体が混在している。本実施例では、システムAは無人機械1aを制御対象とし、トラックから積み荷を無人で荷下ろしし、仮置き場に移動させるトラック積降システムAである。
【0022】
また、システムBは有人機械1b、作業員1cを制御対象とし、仮置き場に置かれた荷物を作業員が検品し、検品済みの荷物を有人機械が倉庫へ搬送する倉庫管理システムBである。なお、トラック積降システムAおよび倉庫管理システムBのそれぞれもしくは両方を、移動体システムと称する。また、共通領域2全体が仮置き場である。さらに、無人機械1a、有人機械1bには、図示したようないわゆるフォークリフトのような荷役自動車が含まれる。
【0023】
次に、図2は、本実施例における移動体システムの機能構成図である。トラック積降システムAは、主に管理サーバ601と一つ又は複数の無人機械1a、トラック(図示しない)から成る。そして、トラック積降システムAは、管理サーバ601がトラックの運行や無人機械1aのタスクである移動体を管理する。より具体的には、まず、トラックが仮置き場付近のトラックバースに到着すると、管理サーバ601は無人機械1aに対して、移動体タスクを発行する。
【0024】
移動体タスクとしては、例えば、トラックの位置や積み荷の情報と仮置き場内の荷下ろし場所及びその間の大域的移動経路を指示する情報である。そして、無人機械1aは自身の移動体タスクを受信すると、まず、移動体タスクを開始する開始位置(以下、スタート地点(トラック位置)に移動する。次に、無人機械1aは、積み荷を持ち上げ、移動体タスクの示す大域的移動経路に沿って、移動体タスクを完了する到着位置(以下、ゴール地点(荷降ろし場所))へ移動する。そして、無人機械1aは、荷物を仮置き場に降ろす。なお、大域的移動経路とは、共通領域2内での移動を制御するための情報であればよく、その名称は問わない。
【0025】
このとき、無人機械1aは、自身に搭載されている1つ又は複数のセンサ101によって周囲の障害物や他の移動体を観測し、障害物や移動体に衝突しないように経路計画部102において局所的移動経路を計画する。そして、無人機械1aは、経路追従制御器103によって局所的移動経路に沿うようにアクチュエータ(図示しない)を制御する。
【0026】
ここで、大域的移動経路と局所的移動経路の違いは、管理サーバ601が計画する大域的移動経路は障害物や移動体の位置を考慮しない理想の経路であり、局所的移動経路は大域的移動経路に対してさらに周囲の障害物や移動体を避けるよう調整された経路である。このように、トラック積降システムAは、トラックの積み荷を管理サーバ601と無人機械1aによって自律的に仮置き場に移動させる。以上のように、本実施例では、
なお、トラック積降システムAは、倉庫側とは独立してトラックの運行管理を行っているものであるが、本実施例では複数システムの共通領域2に関するものである。つまり、トラックの運行は本実施例と直接関わらないため、図示や説明を省略する。
【0027】
また、倉庫管理システムBは、主に管理サーバ602と一つ又は複数の有人機械1b、一人又は複数人の作業員1cを含む。そして、管理サーバ602が有人機械1bのオペレータや作業員1cへ作業(タスク)を指示(ガイダンス)することで、効率良く仮置き場から倉庫へ荷物を搬送する。
【0028】
有人機械1bにはモニタ104が備わり、管理サーバ602からの移動体タスク(搬送する荷物の位置、倉庫内の搬送先位置、その間の大域的移動経路)の指示内容が表示される。有人機械1bのオペレータは、モニタ104に表示された移動体タスク指示に従い、移動体タスクを実行することになる。具体的には、現在地からスタート地点(荷物の位置)までの移動、荷物の持ち上げ、スタート地点からゴール地点(荷物の搬送先)までの移動、荷降ろし動作を行う。そして、一連の移動体タスクが完了したら次の移動体タスク指示に従って作業を繰り返す。
【0029】
作業員1cは、作業員端末105を保持しており、管理サーバ602からの移動体タスク(検品を行う荷物の位置、そこまでの大域的移動経路)の指令内容が提示される。作業員1cは、作業員端末105に表示された移動体タスク指示に従い、現在地からゴール地点(荷物の位置)まで移動し、荷物の検品作業を行う。そして、作業員1cは、自身の移動体タスクが完了したら次の移動体タスク指示に従って作業を繰り返す。有人機械1bのオペレータや作業員1cは、移動の際に目視によって障害物や他の移動体の位置を観察し、衝突しないように移動を行う。このように、本実施例では、人(作業員1c)も制御対象に含まれる。
【0030】
また、図2に示すように、移動体システムのそれぞれは、ネットワーク4を介して、コンピュータ5と接続される。なお、コンピュータ5については、追って説明する。
【0031】
本実施例では、トラック積降システムAと倉庫管理システムBは独立したシステムであり、相互に密な情報の共有やシステムの連携は行われていない場合を想定している。ただし、無人機械1aがセンサ101で有人機械1bや作業員1cの位置を計測した場合や、有人機械1bのオペレータや作業員1cが無人機械1aを目視によってその位置を捉えた場合などは、他システムの情報を取得したことになる。このような環境において、共通領域2の中で2つのシステムが並行して移動体タスクを実行する場合、例えば無人機械1aは有人機械1bや作業員1cと衝突しないように行動しなければならない。
【0032】
しかし、有人機械1bや作業員1cの現在地は観測できても次にどこに移動するかは容易には把握できないため、あらゆる方向に移動すると仮定した局所的移動経路計画をしなければならない。このため、動作を遅くしたり大回りで移動体を避けたりすることにより移動体タスクの完了時間が延び作業効率が低下する。
【0033】
ここで、有人機械1bや作業員1cも、無人機械1aがどのように動作するかを予測することは困難である。このため、有人機械1bや作業員1cは、無人機械1aが近くにいる場合はその行動を継続的に観察し、減速や停止、回避など安全上余裕を持った行動をしなければならず、作業効率が低下する。このように、複数のシステムが混在する環境、つまり、共通領域2のような環境においては、互いのシステムの振る舞いが予測できなければ安全上のリスクが高まり、許容可能なリスクまで下げるために作業効率を犠牲にした行動を取らざるを得ない。
【0034】
そこで、各システムはそれぞれのルール(システムの設定や取り決め)に従った行動を取るが、システム間でルールが共有されていない場合に、移動体の衝突や異常接近などの運用上の課題が発生する。このような、複数のシステムにおけるルールと共通移動経路の考え方を、図3を用いて、説明する。
【0035】
まず、前提として、図3(a)~(c)のそれぞれは、実施例1における共通領域2を示す。そして、各共通領域2は、グリッドにより格子状(マトリックス状)に区切られている。そして、図3(a)は、トラック積降システムAの基本移動ルールが、仮置き場を反時計回りに移動することを示している。また、倉庫管理システムBの基本移動ルールが、目的地に最短経路で移動することを示している。
【0036】
このとき、倉庫管理システムBの取りうる移動経路の一部(図3(b)の経路702)は、トラック積降システムAの移動経路(図3(a)の経路701)と重なっている。つまり、グリッドの一部が重畳している。そして、各移動体の移動方向が正反対となっている。このため、正面衝突を避けるために片方または両方の移動体が減速、停止、迂回などの措置をとる必要があり、移動体タスクの完了時間が延びてしまう。そこで、本実施例では、異なるルールベースのシステム管理下にある複数の移動体に対して、共通ルールとなる共通移動経路を作成する。このことで、各システムに共通移動経路に従い行動させることができ、他システムの移動体の行動を予測させやすくし、安全性を維持したまま移動体タスクの完了時間を短くし作業効率の低下を防ぐことを可能とする。
【0037】
ここで、図3(c)に示す共通移動経路は、本実施例におけるトラック積降システムAと倉庫管理システムBに対する共通移動経路の一例である。この共通移動経路は、例えば、倉庫管理システムBに着目し、トラック積降システムAの経路と重畳するグリッドを特定する。そして、その重畳数が一定以下(例えば、重畳していない)グリッド上の倉庫管理システムBの経路を削除する。その上で、トラック積降システムAの経路と、削除された倉庫管理システムBの経路で実現される移動体タスクを補完する経路を追加して、図3(C)に示す共通移動経路を作成する。この手順の詳細は、追って説明する。また、本実施例では、格子状のグリッドを単位に処理するが、緯度経度情報などの他の位置情報を用いてもよい。なお、グリッドを用いる理由は、処理における計算の簡易化、省力化が図れるためである。
【0038】
次に、図4および図12を用いて本実施例および実施例2、3における制御システムの各装置の構成を説明する。各実施例では、この構成を用いて、異なるルールベースの制御体系下(システム管理下)にある複数の移動体が共通領域を移動する際に、安全性を損なわず円滑かつ効率良く移動を行うための、共通移動経路を作成する。また、各実施例においては、作成された共通移動経路に従って、各システムが振る舞うよう制御又はガイダンスを行う。
【0039】
まず、図4は、各実施例における環境センサ3およびコンピュータ5の機能を表す機能ブロック図である。図4に示す各装置の機能は、大きく環境センサ3で実行される機能とコンピュータ5で実行される機能に分けられる。環境センサ3では、移動体1の位置を計測する移動体位置計測部301を有し、移動体の位置を計測し、この結果がコンピュータ5へネットワーク4を介して送信される。
【0040】
コンピュータ5は、移動体タスク推定部501、移動体タスク記録部502、最適経路生成部503および共通移動経路作成部504を有する。まず、コンピュータ5は、環境センサ3から移動体位置の計測結果を受信する。そして、移動体タスク推定部501が、受信した時系列の移動体位置情報から移動体の移動体タスクを推定する。なお、後述するように移動体タスク推定部501は、環境センサ3の計測結果の代わりに、管理サーバ601、602の有する移動体位置情報に基づいて、移動体タスクを推定してもよい。
【0041】
また、移動体タスク記録部502が、推定された移動体タスクを、後述する補助記憶装置54に記録する。そして、最適経路生成部503が、記録された複数の移動体タスクに含まれるタスク情報を用いて、各移動体の最適経路を生成する。
【0042】
また、共通移動経路作成部504が、複数の最適経路を基に、共通移動経路を作成する。ここで、コンピュータ5で作成された共通移動経路は、各システムの管理サーバ(601、602)へ送られ、大域的移動経路の計画に用いられる。
【0043】
次に、図12に、各実施例における制御システムのハードウエア構成図を示す。図1および図2に示したように、本制御システムは、無人機械1a、有人機械1b、環境センサ3、ネットワーク4、管理サーバ601および管理サーバ602を含む。ここで、図12では、ハードウエア構成として、作業員1cの保持する作業員端末105を記載する。
【0044】
そして、これら各装置は、ネットワーク4を介して接続されている。ここで、無人機械1aおよび作業員端末105は、無線によりネットワーク4と接続し、他は有線で接続している。なお、本例は、一例であり、各装置は有線、無線を問わずネットワーク4と接続できればよい。また、図12には、無人機械1a、有人機械1b、環境センサ3、作業員端末105を1台ずつ記載したが、それぞれ複数台存在してもよい。
【0045】
ここで、コンピュータ5は、各実施例における主要の処理を行う構成であり、複数移動体に対する移動制御支援装置として機能する。また、コンピュータ5は、いわゆるサーバ、クラウドなどで実現される。このため、コンピュータ5は、処理部51、通信I/F52、主記憶装置53および補助記憶装置54を有し、これらがバスなどの通信経路を介して互いに接続されている。
【0046】
ここで、処理部51は、CPUの如きプロセッサで実現され、主記憶装置53のプログラムに従って後述する各処理を実行する。通信I/F52は、ネットワーク4を介した通信を行う。
【0047】
また、主記憶装置53は、メモリなどで実現され、以下の各プログラムが展開される。主記憶装置53には、移動体タスク推定プログラム531、移動体タスク記録プログラム532、最適経路生成プログラム533および共通移動経路作成プログラム534が展開される。これら、各プログラムは、補助記憶装置54や他の記憶媒体に格納されており、処理部51で処理を行う際に、主記憶装置53に展開される。また、これら各プログラムはネットワーク4を介して、コンピュータ5に配信されてもよい。
【0048】
ここで、各プログラムは、回路などのハードウエア構成でも実現でき、図4に示す各部と以下の対応関係を有する。
・移動体タスク推定プログラム531:移動体タスク推定部501
・移動体タスク記録プログラム532:移動体タスク記録部502
・最適経路生成プログラム533:最適経路生成部503
・共通移動経路作成プログラム534:共通移動経路作成部504
次に、補助記憶装置54は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置で実現され、移動体タスク541、最適経路542、共通移動経路543を記憶する。なお、上述のように、補助記憶装置54は、各プログラムを記憶していることが望ましい。
【0049】
また、各管理サーバ(601、602)は、それぞれ自身の管理する移動体の移動体タスク541や移動体位置544を記憶することが望ましい。
【0050】
なお、コンピュータ5は、キーボード、マウス、表示装置、タッチパネルといった入出力装置をさらに設けてもよい。
【0051】
次に、図5、6、7を用いて、本実施例の処理の内容を説明する。なお、以下の説明での処理の主体として、図4の各部を用いて説明するが、図12に示す各プログラムに従って処理部51でも同様に処理することになる。また、この際、図12にのみ記載した構成を利用する場合、図12に示す構成も適宜用いて説明する。
【0052】
図5は、移動体タスク推定部501によって推定される移動体タスク541の例を示している。本実施例では、移動体の移動を制御することを目的としており、図5(a)に示すように、スタート地点である位置「Start」から別のゴール地点である「Goal」に目的をもって移動することを基本タスクとしている。この基本タスクは、例えば、現在の場所である「Start」から荷物の置いてある場所である「Goal」に移動することが一つのタスク(移動タスク)であり、荷物を持ち上げて別の荷降ろし場所に移動することが別の一つのタスク(荷役タスク)と定義することが可能である。これらの基本タスクを示す移動体タスク541は、スタート地点とゴール地点を最小構成要素として規定することが可能である。このため、移動体1の一連の作業をタスクに分解し、時系列順に並べると、図5(b)に示す表のように表現することができる。つまり、図5(b)が移動体タスク541を示す。
【0053】
次に、図6は、移動体タスクを記録するためのプロセスを示すフローチャートである。ここで、図6(a)は、移動体タスク記録環境センサ側プロセスを示すフローチャートである。本移動体タスク記録プロセスでは、まず環境センサ3の移動体位置計測部301が実行される。まず、ステップS101において、移動体位置計測部301は、共通領域2における一つ又は複数の移動体の位置(本実施の形態ではx、y座標)を計測する。そして、ステップS102において、移動体位置計測部301はステップS101で計測した移動体位置、をコンピュータ5へネットワーク4介して、送信する。
【0054】
なお、本実施例では、環境センサ3を用いて移動体位置を計測しているが、制御対象の各移動体が自己位置推定機能を有していれば、各移動体から自己位置を取得してもよい。この場合は各移動体に搭載された自己位置推定用のセンサが環境センサ3の代わりとなる。また、コンピュータ5は、各管理サーバ(601、602)が保持する大域的移動経路に含まれる移動体位置544を用いて、移動体の位置を特定してもよい。
【0055】
次に、図6(b)に示す移動体タスク記録コンピュータ側プロセスを説明する。まず、ステップS103では、コンピュータ5の移動体タスク推定部501は、環境センサ3から通信I/F52を介して受信した移動体位置544を受け付ける。この移動体位置544は、移動体の移動しているグリッドを用いることが可能である。但し、上述のように、移動体位置は他の緯度経度などの位置情報を用いてもよい。
【0056】
次に、ステップS104では、移動体タスク推定部501は、コンピュータ5内の記憶領域、例えば補助記憶装置54に時系列に移動体位置544を記録する。
【0057】
次に、ステップS105において、移動体タスク推定部501は、記録された時系列の移動体位置情報から、該当の移動体における一連の移動体タスク541が完了したかどうかを判定する。この判定は、例えば移動体1が一定時間同じ位置に留まった場合に、移動体タスク541が終了と判断する方法がある。また、管理サーバ601、602から大域的移動経路を受信し、大域的移動経路のスタート地点とゴール地点に移動体1が到着したら、該当の移動体タスク541が終了と判定する方法もある。
【0058】
ここで、ステップS105で移動体タスクがまだ終了していないと判定された場合は(No)、ステップS103に戻る。とS104を繰り返す。移動体タスク541が終了したと判定された場合は(Yes)、ステップS106へ進む。
【0059】
そして、ステップS106では、移動体タスク推定部501は、終了したと判定された移動体タスク541のタスク情報を抽出する。本実施例では、移動体タスク541は図5に示す通りスタート地点とゴール地点の2つの位置情報によって表すものである。このため、ステップS106では、一連の時系列情報の時間軸方向の最初の位置をスタート地点とし、最後の位置をゴール地点としてタスク情報を抽出する。つまり、図5に示す移動体タスク541の各レコードがタスク情報を示す。こうして移動体タスク推定部501は、移動体のタスク情報を取得することができる。
【0060】
次に、ステップS107では、取得されたタスク情報を、移動体タスク記録部502が、補助記憶装置54などのコンピュータ5内の記憶領域に記録する。ここで、ステップS107によって、図5に示すように一意なタスク番号とスタート地点、ゴール地点のセットとして、移動体毎に記録される。以上が移動体タスク記録プロセスの処理内容である。なお、本ステップS107は省略してもよい。
【0061】
次に、図7は、図6のプロセスの後に実行される共通移動経路作成プロセスを示すフローチャートである。本プロセスは、移動体タスク記録プロセスよりも長い所定の時間間隔(例えば1日に1回)で実行される。
【0062】
まず、ステップS201では、最適経路生成部503が、コンピュータ5内の記憶領域に記録されたタスク情報を、移動体毎に、ランダムに1つ選択し読み出す。
【0063】
次に、ステップS202では、最適経路生成部503が、移動体の数分の移動体タスクが並行して実行される場合の、各移動体の最適経路542を探索する。ここで、最適経路542は、タスク完了時間を最小化し、移動体同士の接近回数を最小化するような経路であり、例えばQ学習などの機械学習手法を用いて探索することが可能である。なお、本実施例は、最適経路542に限定されるものでなく、所定条件を満たすか、所定の制限下における各移動体の個別経路であればよい。
【0064】
また、本実施例は、経路の作成には限定されず、移動に関する移動体の個別ルールを作成することが可能である。つまり、最適経路生成部503は、個別ルール生成部として、機能することが可能である。さらに、移動に関する移動体の個別ルールには、移動に関するシステムの設定や取り決め、基準を示す。
【0065】
次に、ステップS203では、最適経路生成部503が、ステップS202で得られた各移動体1の最適経路542を、補助記憶装置54などのコンピュータ5内の記憶領域に記録する。
【0066】
次に、ステップS204では、最適経路生成部503が、ステップS201~S203を所定回数実行したかを判定する。本ステップでは、ステップS202の最適経路の探索回数を判定してもよい。この結果、実行回数が所定回数未満であると判定された場合は(No)、ステップS201に戻り、別のタスク情報について処理を繰り返す。また、実行回数が所定回数以上であると判定された場合は(Yes)、ステップS205に進む。
【0067】
なお、ステップS204で用いられる所定回数は、記録されているタスクの数や種類、移動体の数などにより変動するが、例えば1,000回や10,000回など、様々な組み合わせのタスクを選択するのに十分な回数であることが望ましい。このために、コンピュータ5は、予めこの回数を補助記憶装置54に記憶しておき、これを用いることが望ましい。
【0068】
次に、ステップS205において、共通移動経路作成部504は、ステップS203によって記録された最適経路542を読み出す。
【0069】
次に、ステップS206で、共通移動経路作成部504は、読み出された最適経路542を重畳する。つまり、共通移動経路作成部504は、各最適経路542を重ね合わせる。
【0070】
最後に、ステップS207において、共通移動経路作成部504は、重畳数が所定数未満の経路が削除され、残った経路に基づいて共通移動経路543を作成する。トラック積降システムAと倉庫管理システムBのいずれか一方の経路の内、重畳数が所定数以上の経路を抽出し、これに基づいて共通移動経路543が作成される。そして、共通移動経路作成部504が、削除された経路の移動体タスクを達成する経路を補完する経路を追加して共通移動経路543を作成する。なお、この補完には、削除された経路を流用することも含まれる。さらに、抽出された経路を共通移動経路そのものとして用いてもよい。
【0071】
このように、共通移動経路作成部504は、重畳数が所定数以上の経路を、共通移動経路543の少なくとも一部として抽出する。また、図3の例では、重なり合うグリッドの数が、重畳数として用いられる。
【0072】
このように、本実施例では、共通移動経路作成部504が、重畳状況の一例として、重畳数に基づいて、共通移動経路を作成している。重畳状況には、重畳数の他、共通領域のうち所定位置(例えば、重要位置)での重畳の有無が含まれる。
【0073】
さらに、本実施例では、重畳状況を用いるが、この重畳状況には、個別ルールで移動した場合における移動体同士の衝突もしくは所定条件を満たす接近といった状況である衝突状況が含まれる。ここで、所定条件を満たす接近には、移動体同士の距離や所定値以下であることや移動体の少なくとも一方の減速、方向転換などの移動状況を変化させることが含まれる。なお、衝突状況には、衝突数や共通領域のうち所定位置(例えば、重要位置)での衝突の有無が含まれる。
以上の処理により、図3に示す例のような複数移動体の共通移動経路543を作成することができる。
【0074】
なお、共通移動経路作成部504は、共通移動経路543の作成には限定されず、移動に関する共通領域ルールを作成することが可能である。つまり、共通移動経路作成部504は、共通領域ルール作成部として、機能することが可能である。
【0075】
このようにして作成された共通移動経路543は、各システムの管理サーバ(601、602)に、通信I/F52を介して送信される。これを受信した管理サーバ601、602では、共通移動経路543を、大域的移動経路を計画する際に設定可能な経路地図として用いる。つまり、管理サーバ601、602で計画される大域的移動経路は共通移動経路543に沿ったものが計画されることになる。なお、図12には、図示しないが、管理サーバ(601、602)は、大域的移動経路を記憶することが望ましい。
【0076】
また、管理サーバ(601、602)は、この大域的移動経路を移動体1に送信する。そして、無人機械1aでは、この大域的移動経路に沿うように局所的移動経路を計画して自律移動し、有人機械1bや作業員1cでは参照経路としてガイダンス表示され、これに沿って移動するよう促される。
【0077】
このように共通移動経路という共通のルールに従って、トラック積降システムA、倉庫管理システムBの振る舞いを計画すると、複数の移動体1の移動の流れが円滑になり接近や衝突のリスクが減少する。さらに、共通移動経路によって他システムの移動体の動きを予測しやすくなるため、移動体1同士が近づくことによる減速や停止の必要な場面が少なくなり、結果として各移動体1の平均移動体タスク完了時間が短くなる。
【0078】
この本実施例の効果を図8に図示する。共通移動経路543を用いない場合は、安全性と効率(タスク完了時間)はトレードオフの関係にあり、効率を求めると移動体同士の接触リスクの増加に伴い安全性が低下する。この場合、安全性を求めると移動体の減速や停止回数の増加に伴いタスク完了時間が延びる。一方、共通移動経路を用いた場合、安全性を維持しつつタスク完了時間を短くすることができ、安全性と効率の両立を図ることが可能となる。
【0079】
加えて、本実施例では、実際の移動体タスクをベースとして最適経路を探索している。このため、本実施例では、移動体タスク541のスタート地点とゴール地点は実タスクと同じとなり、その間の移動経路が最適化される。
【0080】
なお、スタート地点やゴール地点をよりダイナミックに変化させた方が全体最適を得られる可能性が高いが、各移動体1の動作が大きく変化することとなる。このため、各システムのベースのルールを共通領域の内外で大幅に変更してしまう危険性がある。一方本実施例では、各システムのベースのルールを尊重した上で両者の和を取るような共通ルールである共通移動経路543の作成を行うものである。つまり、本実施例では、全体最適を目指すのではなく、各システムの振る舞いを可能な限り変えずに安全性と効率を最適化できる。以上で、実施例1の説明を終了する。
【実施例2】
【0081】
次に、本発明の実施例2を説明する。実施例2は実施例1に対して、移動体タスク541が異なるものである(本実施例では、移動体タスク541’とする)。図9は、実施例2における移動体タスク541’を表したものである。実施例1の移動体タスク541はスタート地点とゴール地点のみによって表されていた。これに対して、実施例2では、移動体タスク541’として、スタート地点とゴール地点に加え、その間の移動履歴もタスク情報としてステップS106により抽出される。つまり、ステップS106では時系列の移動体位置544のそれぞれタスク情報として抽出する。
【0082】
加えて、ステップS202において最適経路生成部503では、実施例1の最適経路の条件に加えて、実タスクの移動履歴との変化量を最小化するような最適経路を探索する。
【0083】
このように、実施例2では、得られる共通移動経路543はより各システムのベースのルールを反映したものとなり、ルールの変更幅を抑えたい場合により有効となる。例えば、トラック積降システムAのルールはできる限り変更せずに、倉庫管理システムBのルールをフィットさせたい場合は、トラック積降システムAの移動体1にのみ実施例2のタスク情報(各移動履歴)を用いる。このことで、倉庫管理システムBの移動体1は実施例1のタスク情報(スタート地点とゴール地点)を用いることで、望ましい共通移動経路543を作成することが可能となる。以上で、実施例2の説明を終了する。
【実施例3】
【0084】
次に、本発明の実施例3を説明する。実施例3は、移動体1である自動車が走行する道路上の一部で、同じく移動体1である建設機械による施工がなされている場面を想定したものである。本実施例の処理内容は、実施例1もしくは実施例2と同じであり、適用先環境である共通領域2が異なる。
【0085】
図10は、実施例3の複数移動体の制御システムの全体図である。図10では、共通領域2’に含まれる片側2車線の道路の片側をふさぐように建設機械や周囲作業員が施工を行っている。ここで、建設機械や周囲作業員や、対向車線を走行中の自動車が移動体1に該当する。このような環境に、本実施例を適用した場合の複数のシステムにおけるルールと共通移動経路の考え方を、図11に示す。
【0086】
まず、人が運転する自動車群を含むシステムをシステムCとする。システムCは、その場所に設定されている交通ルールをベースルールとして振る舞う。また、システムC内の移動体1は管理サーバ601に接続されている。これら移動体1は、管理サーバ601から大域的移動経路が送信され、自動運転、自動支援運転又はオペレータによる手動運転がなされているとする。なお、システムCは、各移動体1が自律的に制御されてもよい。つまり、管理サーバ601は省略してもよい。また、環境センサ3は、移動体1に設置してもよいし、道路に設置してもよい。
【0087】
また、オペレータが運転する建設機械を含むシステムをシステムDとする。建設機械は施工計画に則って順番に移動しながら掘削などの施工を行い、施工計画或いは現場の労働安全に関するルール等がベースルールとなる。これらの各システムのベースルールに基づく各移動体1(システムCの場合は自動車、システムDの場合は建設機械又は作業員)の単独システムでの移動経路は、図11(a)(b)の通りとなる。
【0088】
なお、図11ではシステムCの車線変更した場合の移動経路は省略している。システムC、Dが共通領域2’内で、各移動体1が並行して動作する場合、片側2車線はシステムDの移動体1である建設機械や周囲作業員により、他システムの移動体1は走行不可能である。このため、システムCの移動体1である自動車は、建設機械や周囲作業員が存在する車線との反対車線を走行する移動体1(自動車)が停止している場合は停止し続ける。そして、システムCの移動体1は、反対車線を走行する移動体がいなくなると反対車線を利用してシステムDの移動体1を追い越すこととなる。両車線の交通量が同程度である場合、片側に渋滞が発生し、タスク完了時間が延びる可能性が高い。
【0089】
このような環境である共通領域2’に本発明を適用した場合、例えば、コンピュータ5は、図11(c)に示すような共通移動経路543を作成する。そして、この共通移動経路543に基づいて、システムCの移動体1が自律制御される。もしくは、移動体1の表示装置がガイダンスを表示する。このことで、共通領域2’内の安全性と効率が最適化される。
【0090】
以上で、本発明の各実施例の説明を終了する。なお、各実施例における移動体には、上述した自動運転自動車(含む自動運転支援車)やフォークリフトなどの他、いわゆるロボットが含まれる。ロボットには、ビル、駅、空港などの施設における警備ロボットや案内ロボットが含まれる。さらに、自動運転自動車には、トラックやバスなどのいわゆる隊列走行が含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1…移動体、1a…無人機械、1b…有人機械、1c…作業員、2…共通領域、3…環境センサ、4…ネットワーク4、5…コンピュータ、501…移動体タスク推定部、502…移動体タスク記録部、503…最適経路生成部503、共通移動経路作成部504、601…管理サーバ、602…管理サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12