(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20241119BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241119BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241119BHJP
C08K 9/08 20060101ALI20241119BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
C08K9/08
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2020210755
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 和也
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169238(JP,A)
【文献】特開2018-100334(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0042931(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203668(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、シリカ、及び、カーボンナノチューブをバインダーで被覆し粒状化してなるカーボンナノチューブ粒状物、を混練してな
り、カーボンブラックを含まない、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記タイヤ用ゴム組成物中の前記カーボンナノチューブの体積分率が0.5~5.0%である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して前記シリカを50~150質量部含む、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ粒状物が、ゴムラテックス、液状ポリマー及びミネラルオイルからなる群から選択された少なくとも一種をバインダーとしてカーボンナノチューブを被覆し粒状化してなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物を含むタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム組成物において、充填剤としてシリカを用いることにより、湿潤路面における走行性能であるウェット性能と、低燃費性に寄与する低発熱性能とを向上させることが知られている。その一方で、補強性充填剤としてのカーボンブラックをシリカに置換すると、ゴム組成物の導電性が低下することによりタイヤが帯電しやすくなり、静電気スパークや電子部品の誤動作を起こす原因となり得る。
【0003】
特許文献1には、導電性を向上するために、ムーニー粘度が30以下のゴムにカーボンナノチューブを添加してなるマスターバッチを、ムーニー粘度30以下のゴムに配合してなる導電性ゴム組成物が開示されている。特許文献2には、ゴム成分にゴム用補強材を配合したゴム組成物に、解砕処理を施した気相成長炭素繊維を配合することが開示されている。特許文献3には、繊維径20~120nm、繊維長2~20μm、アスペクト比20~1000の気相成長炭素繊維をゴム成分に配合してなるゴム組成物が開示されている。
【0004】
一方、特許文献4には、カーボンナノチューブのハンドリング性等を向上するために、ゴムラテックスをバインダーとしてカーボンナノチューブに被覆し造粒してなるカーボンナノチューブ粒状物を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-167216号公報
【文献】特開2010-275376号公報
【文献】特開2009-102630号公報
【文献】特許第6499781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンナノチューブは優れた導電性向上効果がある反面、ジエン系ゴムに添加し混練すると、カーボンナノチューブ同士の凝集により粘度が顕著に上昇して混練工程が困難になる。そのため、シリカ配合のゴム組成物にカーボンナノチューブを添加しても、シリカによる低発熱性能とカーボンナノチューブによる導電性向上を両立することが困難であった。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、低発熱性能と導電性を両立することができるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の実施形態は、ジエン系ゴム、シリカ、及び、カーボンナノチューブをバインダーで被覆し粒状化してなるカーボンナノチューブ粒状物、を混練してなる、タイヤ用ゴム組成物にある。
【0009】
本発明の第2の実施形態は、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム、シリカ、並びに、ゴムラテックスのゴム、液状ポリマー及びミネラルオイルからなる群から選択された少なくとも一種で被覆されたカーボンナノチューブ、を含むタイヤ用ゴム組成物にある。
【0010】
本発明の第3の実施形態は、これらのタイヤ用ゴム組成物を含むタイヤにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、低発熱性能と導電性を両立することができ、また加工性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、シリカ、及び、カーボンナノチューブをバインダーで被覆し粒状化してなるカーボンナノチューブ粒状物、を混練してなるものである。
【0013】
マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、特に限定されず、タイヤ用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これら各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中にアミノ基やヒドロキシ基などの官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。ここで、マトリックスゴム成分とは、ゴム組成物において連続相を構成するゴム成分であり、該マトリックスゴム成分中にシリカ等の充填剤やカーボンナノチューブ粒状物などが分散質として分散する。なお、カーボンナノチューブ粒状物のバインダーとしてジエン系ゴムラテックスを用いた場合でも、該ジエン系ゴムラテックスのゴムは、ここでいうマトリックスゴム成分には含まれないものとする。
【0014】
マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。より好ましくは、ジエン系ゴムは、スチレンブタジエンゴム50~100質量部と、天然ゴム及び/又はポリブタジエンゴム0~50質量部とを含むことであり、この場合スチレンブタジエンゴム単独でもよい。
【0015】
上記シリカは充填剤として配合されるものであり、シリカを配合することにより、低発熱性能とウェット性能のバランスを向上することができる。シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカを用いてもよい。
【0016】
シリカのBET比表面積(JIS K6430に記載のBET法に準じて測定)は、特に限定されず、例えば100~300m2/gでもよく、150~250m2/gでもよい。
【0017】
シリカの配合量は、マトリックスゴム成分としての上記ジエン系ゴム100質量部に対して50~150質量部であることが好ましい。シリカの配合量が50質量部以上であることにより、シリカ配合本来の低発熱性能の向上効果を高めることができ、また150質量部以下であることにより、加工性の悪化を抑えることができる。シリカの配合量は、より好ましくはジエン系ゴム100質量部に対して60~120質量部であり、さらに好ましくは60~100質量部である。
【0018】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物において、充填剤はシリカを主成分とすることが好ましい。充填剤はシリカ単独でもよく、シリカとともにカーボンブラックを併用してもよいが、充填剤の70質量%超がシリカであることが好ましく、より好ましくはカーボンブラックを実質的に含まないことである。なお、カーボンナノチューブは、ここでいうカーボンブラックには包含されない。
【0019】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、シリカとともに、シランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤としては、スルフィドシランやメルカプトシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されず、例えば、シリカ配合量に対して2~20質量%でもよい。
【0020】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、カーボンナノチューブ粒状物が配合される。該カーボンナノチューブ粒状物は、カーボンナノチューブをバインダーで被覆し粒状化してなるものである。これにより、カーボンナノチューブの飛散が抑えられ、ハンドリング性が向上するとともに、環境面や安全面のリスクが低減する。また、カーボンナノチューブが被覆されることで、カーボンナノチューブ同士の凝集が抑えられ、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム中への混ざり込みも容易となって分散性が良好となる。その結果、シリカ配合のゴム組成物において、低発熱性能と導電性を両立することができるとともに、加工性を向上することができる。
【0021】
カーボンナノチューブは、炭素六員環構造を主構造とするグラファイトシートを円筒状にした構造を持つものである。カーボンナノチューブとしては、例えば、単層型(シングルウォールナノチューブ)、多層型(マルチウォールナノチューブ)、二層型(ダブルウォールナノチューブ)、カップスタック型が挙げられ、公知のカーボンナノチューブを用いることができる。
【0022】
カーボンナノチューブの繊維径(直径)は特に限定されず、例えば0.1~300nmでもよく、1~200nmでもよく、5~50nmでもよい。カーボンナノチューブの繊維長も特に限定されず、例えば1~500μmでもよく、3~100μmでもよく、5~50μmでもよい。
【0023】
バインダーは、カーボンナノチューブを被覆する被覆材であり、カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部を被覆していればよく、必ずしもカーボンナノチューブの表面全体を覆っていなくてもよい。バインダーで被覆することによりカーボンナノチューブ同士を接着させて粒状化させることができ、ハンドリング性を向上することができる。
【0024】
カーボンナノチューブ粒状物は、ジエン系ゴムとの混練時にその一部または全部が破砕されてもよく、また破砕されずに混練前の粒状物のまま存在してもよい。一実施形態として、混練後のゴム組成物には、部分的に破砕された粒状物が含まれてもよい。このようにバインダーとしては、混練時に部分的に又は完全に破砕される程度の接着力を有するものであってもよく、混練時に破砕されることでマトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム中へのカーボンナノチューブの分散性を更に向上することができる。
【0025】
バインダーとしては、例えば、ゴムラテックス、液状ポリマー、ミネラルオイル等を用いることが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブ粒状物は、ゴムラテックス、液状ポリマー及びミネラルオイルからなる群から選択された少なくとも一種をバインダーとしてカーボンナノチューブを被覆し粒状化して得られるものが好ましい。該カーボンナノチューブ粒状物において、カーボンナノチューブは、ゴムラテックスのゴム、液状ポリマー及びミネラルオイルからなる群から選択された少なくとも一種の被覆材で被覆されており、これらの被覆材をバインダーとして粒状化することで、カーボンナノチューブの粒状物が形成されている。
【0026】
ゴムラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、ポリブタジエンラテックス、スチレンブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリルブタジエン共重合ラテックス、クロロプレンゴムラテックスなどのジエン系ゴムラテックスが挙げられる。なお、ジエン系ゴムラテックスのゴムは、上記マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴムと同種でも異種でもよい。
【0027】
液状ポリマーは、常温(23℃)で液状のポリマーであり、例えば、重量平均分子量Mwが10000以下のポリマー(オリゴマーも含む)が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、シリコーン、ポリα-オレフィンなどが挙げられる。
【0028】
ミネラルオイルとしては、例えば、流動パラフィン、パラフィン系ミネラルオイル、ナフテン系ミネラルオイル、アロマ系ミネラルオイルなどが挙げられる。
【0029】
カーボンナノチューブに対するバインダーの量は特に限定されず、例えばバインダー100質量部に対して、カーボンナノチューブの量が100~5000質量部であることが好ましく、より好ましくは200~4000質量部であり、更に好ましくは300~3000質量部であり、500~2000質量部でもよい。
【0030】
カーボンナノチューブ粒状物の大きさは特に限定されず、例えば平均粒径が0.1~3.0mmでよく、0.3~2.5mmでもよく、0.5~2.0mmでもよい。ここで、平均粒径は、顕微鏡観察により無作為抽出された50個の粒状物について計測した粒径の相加平均値である。
【0031】
カーボンナノチューブ粒状物の製造方法は特に限定されないが、例えばバインダーとしてゴムラテックスを用いる場合、上記特許文献4(特許第6499781号公報)に記載の下記(A)~(C)の方法が挙げられる。ここで、特許第6499781号公報に記載の製造方法を参照により援用する。
【0032】
製法(A):カーボンナノチューブと水を混合撹拌して分散液を調製し、該分散液にゴムラテックスを添加して混合し、得られた混合液を撹拌しながら非水溶性溶媒を滴下しながらカーボンナノチューブを水相からゴム相へ移行させて粒状物を造粒し、水相と粒状物を分離し、分離した粒状物を乾燥する。
【0033】
製法(B):水とゴムラテックスを混合撹拌して分散液を調製し、該分散液にカーボンナノチューブを添加して混合し、得られた混合液を撹拌しながら非水溶性溶媒を滴下しながらカーボンナノチューブを水相からゴム相へ移行させて粒状物を造粒し、水相と粒状物を分離し、分離した粒状物を乾燥する。
【0034】
製法(C):ゴムラテックスとカーボンナノチューブと水を混合攪拌し、得られた混合液に非水溶性溶媒を滴下しながらカーボンナノチューブを水相からゴム相へ移行させて粒状物を造粒し、水相と粒状物を分離し、分離した粒状物を乾燥する。
【0035】
上記製法において、非水溶性溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、シクロヘキサン、四塩化炭素などが挙げられる。
【0036】
カーボンナノチューブ粒状物の配合量は特に限定されず、例えば、マトリックスゴム成分としての上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.5~30質量部でもよく、1~25質量部でもよく、2~20質量部でもよい。
【0037】
好ましくは、タイヤ用ゴム組成物中のカーボンナノチューブの体積分率が0.5~5.0%となるように、カーボンナノチューブ粒状物を配合することである。該体積分率は、タイヤ用ゴム組成物全体を100%としたときの当該ゴム組成物中に含まれるカーボンナノチューブの体積分率である。カーボンナノチューブの体積分率が0.5%以上であることにより、導電性の向上効果を高めることができ、また、カーボンナノチューブの体積分率が5.0%以下であることにより、低発熱性能および加工性の向上効果を高めることができる。カーボンナノチューブの体積分率は0.7~4.0%であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0%である。
【0038】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物には、上記成分の他に、酸化亜鉛、ステアリン酸、オイル、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0039】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0040】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0041】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム、シリカ、及びカーボンナノチューブ粒状物、を混練してなるものであり、その際、任意成分としての上記添加剤を加えて混練してもよい。混練には、ゴム組成物の調製に通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いることができ、常法に従い混練すればよい。例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、シリカ及びカーボンナノチューブ粒状物とともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合する。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合して未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0042】
得られたタイヤ用ゴム組成物において、カーボンナノチューブ粒状物は、上記のように、混練前の粒状物のまま存在してもよく、部分的に破砕されていてもよく、完全に破砕されて粒状物の形態を持たないものでもよく、これらの形態がいずれか一種または2種以上混在してもよい。そのため、一実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴム、シリカ、並びに、ゴムラテックス由来のゴム、液状ポリマー及びミネラルオイルからなる群から選択された少なくとも一種で被覆されたカーボンナノチューブ、を含み、該カーボンナノチューブは粒状物の形態で含まれてもよく、それらが部分的または完全に破砕された形態で含まれてもよい。
【0043】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、例えば乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途、各種サイズのタイヤに用いることができ、タイヤのトレッド部やサイドウォール部などのタイヤの各部位に適用することができる。好ましくはタイヤのトレッドゴムに用いること、即ちタイヤトレッド用ゴム組成物である。
【0044】
本実施形態に係るタイヤは、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製されたものである。タイヤとしては空気入りタイヤが好ましい。一実施形態として、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたタイヤでもよい。タイヤは、上記ゴム組成物を用いてゴム用押し出し機などによりトレッドゴム等のタイヤ部材を作製し、他のタイヤ部材と組み合わせて未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製した後、例えば140~180℃で加硫成型することにより製造することができる。
【0045】
なお、上述した配合量や繊維径をはじめとする種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例および比較例で使用した各成分は以下の通りである。
・SBR:スチレンブタジエンゴム、JSR(株)製「JSR1502」
・BR:ポリブタジエンゴム、宇部興産(株)製「UBEPOL BR150B」
・NR:天然ゴム、RSS#3
・シリカ1:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」 BET比表面積:205m2/g
・シリカ2:エボニックインダストリーズ社製「ULTRASIL 9100GR」 BET比表面積:235m2/g
・シランカップリング剤:エボニックインダストリーズ社製「Si69」
・オイル:ENEOS(株)製「プロセスNC140」
・CNT:カーボンナノチューブ、Kumho社製「K-Nanos-100P」(繊維径:8~15nm、繊維長:26μm)
・カーボンブラック:N339
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学(株)製「ノクラック6C」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0048】
・CNT粒状物1:特許第6499781号公報に記載の方法に準拠して、以下の方法により調製されたカーボンナノチューブ粒状物。
10Lのステンレス製丸型容器に最大10000回転のホモジナイザーとパドル羽根の付いたポータブルミキサーをセットし、水4455gに、天然ゴム濃縮ラテックス(レヂテックス社製、ゴム濃度:60質量%)7.4gを投入、約600rpmで撹拌しながらCNT(Kumho社製「K-Nanos-100P」)45gを少量ずつ添加し全量加えた後、ミキサーをホモジナイザーに切り替え約6000rpmで30分間分散させた。得られた分散液を数滴スポイトでガラス板上に取りヘラで展延し、未分散塊を目視と指で調べた結果、ザラザラした未分散塊は皆無であった。ここで、水に対するCNT濃度は約1質量%であり、CNTに対するゴム(ゴムラテックスの固形ゴム分)の割合は約10質量%である。
次いで、ホモジナイザーをポータブルミキサーに切り替え700rpmで撹拌しながら、自動滴下装置を用い、非水溶性溶媒としてトルエン400gを20分間で滴下し、約1mm径の粒状物を得た。得られた粒状物を60メッシュ篩で水と分離した後、ドラフト内で常温にて粒状物を約20時間自然乾燥した。次いで真空乾燥機を用い70~80℃で加熱し、該粒状物中の溶媒と残存する水の150℃、1時間における加熱減量が0.5質量%以下になるまで乾燥し、CNT粒状物1を得た。
【0049】
・CNT粒状物2:CNT粒状物1の調製方法において、天然ゴム濃縮ラテックス7.4gの代わりに、流動パラフィン(ナカライテスク(株)製)を5.0g用いた以外は、CNT粒状物1の調製方法と同様にて、CNT粒状物2を得た。
【0050】
・CNT粒状物3:CNT粒状物1の調製方法において、天然ゴム濃縮ラテックス7.4gの代わりに、スチレンブタジエン共重合体ラテックス(JSR(株)製「ローデックス」、ゴム濃度:50質量%)を9.0g用いた以外は、CNT粒状物1の調製方法と同様にて、CNT粒状物3を得た。
【0051】
・CNT粒状物4:CNT粒状物1の調製方法において、CNTとしてKumho社製「K-Nanos-100P」の代わりに、Kumho社製「K-Nanos-300P」(繊維径:8~28nm、繊維長:50μm)を用いた以外は、CNT粒状物1の調製方法と同様にて、CNT粒状物4を得た。
【0052】
[第1実施例:ゴム組成物及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練した(排出温度=90℃)。これによりゴム組成物を調製した。
【0053】
得られた各ゴム組成物について、加工性を評価するとともに、160℃×30分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、低発熱性能と導電性を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。結果は、下記表1に示すとおりである。表1中、「シリカ(体積%)」及び「CNT(体積%)」は、ゴム組成物中のシリカ及びカーボンナノチューブの体積分率を示す。
【0054】
・加工性:JIS K6300に準拠して東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間予熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れることを表す。
【0055】
・低発熱性能:JIS K6394に準拠し、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度70℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性能(低燃費性)に優れることを表す。
【0056】
・導電性:(株)三菱化学アナリテック製「ハイレスターUP」により電気体積抵抗値を測定し、測定値の常用対数を取り、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど電気抵抗が小さく、導電性に優れることを表す。
【0057】
【0058】
表1に示されるように、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例1に対して、ゴムラテックスをバインダーとしてカーボンナノチューブを被覆し粒状化してなるカーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例1~7であると、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。カーボンナノチューブの代わりにカーボンブラックを配合した比較例2では、比較例1に対して加工性と低発熱性能は改善されたものの、導電性が顕著に悪化した。
【0059】
実施例1のゴム組成物について加硫後のゴム断面を倍率30倍の顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの粒状物が部分的に破砕された形態で存在していること、即ち、混練前の粒状物の形態そのままではなく、それが破砕されることでより小さな粒として存在していることを確認した。
【0060】
[第2実施例:ゴム組成物及び評価]
下記表2に示す配合(質量部)に従いシリカなどの配合量を増量し、その他は第1実施例と同様にゴム組成物を調製し、試験片を作製した後、加工性、低発熱性能及び導電性を評価した。各測定・評価方法は上記のとおりであるが、ここではいずれも比較例3の値を100とした指数で表示した。
【0061】
【0062】
表2に示すように、シリカを高充填配合した場合にも、第1実施例と同様、カーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例8~12であると、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例3に対して、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。
【0063】
[第3実施例:ゴム組成物及び評価]
下記表3に示す配合(質量部)に従いシリカなどの配合量を増量し、その他は第1実施例と同様にゴム組成物を調製し、試験片を作製した後、加工性、低発熱性能及び導電性を評価した。各測定・評価方法は上記のとおりであるが、ここではいずれも比較例4の値を100とした指数で表示した。
【0064】
【0065】
表3に示すように、シリカを更に高充填配合した場合にも、第1実施例と同様、カーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例13であると、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例4に対して、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。
【0066】
[第4実施例:ゴム組成物及び評価]
下記表4に示す配合(質量部)に従いシリカ種を変更し、その他は第1実施例と同様にゴム組成物を調製し、試験片を作製した後、加工性、低発熱性能及び導電性を評価した。各測定・評価方法は上記のとおりであるが、ここではいずれも比較例5の値を100とした指数で表示した。
【0067】
【0068】
表4に示すように、粒径の小さいシリカ2を配合した場合にも、第1実施例と同様、カーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例14であると、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例5に対して、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。
【0069】
[第5実施例:ゴム組成物及び評価]
下記表5に示す配合(質量部)に従いジエン系ゴム成分を変更し、その他は第1実施例と同様にゴム組成物を調製し、試験片を作製した後、加工性、低発熱性能及び導電性を評価した。各測定・評価方法は上記のとおりであるが、ここではいずれも比較例6の値を100とした指数で表示した。
【0070】
【0071】
表5に示すように、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴムとしてSBRとBRのブレンド系とした場合にも、第1実施例と同様、カーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例15であると、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例6に対して、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。
【0072】
[第6実施例:ゴム組成物及び評価]
下記表6に示す配合(質量部)に従いジエン系ゴム成分を変更し、その他は第1実施例と同様にゴム組成物を調製し、試験片を作製した後、加工性、低発熱性能及び導電性を評価した。各測定・評価方法は上記のとおりであるが、ここではいずれも比較例7の値を100とした指数で表示した。
【0073】
【0074】
表6に示すように、マトリックスゴム成分としてのジエン系ゴムとしてSBRとNRのブレンド系とした場合にも、第1実施例と同様、カーボンナノチューブ粒状物を用いた実施例16であると、カーボンナノチューブをそのまま配合した比較例7に対して、未加硫ゴム粘度が低減して加工性に優れるとともに、低発熱性能及び導電性がともに改善された。
【0075】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。