IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本クライメイトシステムズの特許一覧

<>
  • 特許-蓄熱装置 図1
  • 特許-蓄熱装置 図2
  • 特許-蓄熱装置 図3
  • 特許-蓄熱装置 図4
  • 特許-蓄熱装置 図5A
  • 特許-蓄熱装置 図5B
  • 特許-蓄熱装置 図6
  • 特許-蓄熱装置 図7
  • 特許-蓄熱装置 図8
  • 特許-蓄熱装置 図9
  • 特許-蓄熱装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/02 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
F28D20/02 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021014535
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117821
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000152826
【氏名又は名称】株式会社日本クライメイトシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】椎 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 恒
(72)【発明者】
【氏名】仲村 達也
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 隆一
(72)【発明者】
【氏名】濱本 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋一
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-285549(JP,A)
【文献】特開平05-288373(JP,A)
【文献】特開2011-075050(JP,A)
【文献】特開2002-081878(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0125285(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106560666(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱装置であって、
過冷却状態を示す蓄熱材と、
前記蓄熱材を収容する蓄熱槽と、
前記蓄熱材に隣接しており、前記蓄熱材と熱交換する熱媒体が通過する流路と、
前記蓄熱材の温度を測定する第一測定器と、
前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する過冷却解除装置と、
前記第一測定器によって測定された前記蓄熱材の温度を示す第一情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する位置を調整する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記蓄熱装置に対する放熱の要求の有無に基づき、前記蓄熱材の過冷却状態の解除が必要か否かを判断し、
前記制御器は、前記蓄熱材の結晶成長速度を推算し、前記結晶成長速度に基づいて前記過冷却状態を解除する位置を調整する、
蓄熱装置。
【請求項2】
前記過冷却解除装置は、互いに異なる位置で前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能な複数の解除器を含み、
前記制御器は、前記第一情報に基づいて、前記複数の解除器の一部を動作させる、
請求項1に記載の蓄熱装置。
【請求項3】
前記複数の解除器は、前記流路に沿って延びる方向において互いに異なる複数の位置で前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能である、又は、互いに異なる複数の高さで前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能である、請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項4】
前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する位置を移動させる移動機構をさらに備え、
前記制御器は、前記第一情報に基づいて、前記位置を移動させて前記過冷却解除装置を動作させる、
請求項1に記載の蓄熱装置。
【請求項5】
前記移動機構は、前記流路に沿って延びる方向に前記位置を移動させる、又は、前記位置の高さを変える、請求項4に記載の蓄熱装置。
【請求項6】
前記第一測定器は、前記蓄熱槽の複数の位置で前記蓄熱材の前記温度を測定する、請求項1から5のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項7】
前記熱媒体の温度を測定する第二測定器をさらに備え、
前記制御器は、前記第二測定器によって測定された前記熱媒体の温度を示す第二情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
前記制御器は、前記流路における前記熱媒体の流量と相関関係のある第三情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整する、請求項1から7のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項9】
前記制御器は、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における前記蓄熱装置からの放熱量の最大値に対応する特定位置を前記複数の位置の中から決定することによって、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整する、請求項1から8のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【請求項10】
前記制御器は、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における前記蓄熱材の前記過冷却状態の解除の開始から前記蓄熱材の固化の完了までの期間の長さの最小値に対応する特定位置を前記複数の位置の中から決定することによって、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整する、請求項1から8のいずれか1項に記載の蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、過冷却状態を示す蓄熱材を用いた蓄熱装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、筐体と、潜熱蓄熱材と、流路と、過冷却解除機構とを備えた蓄熱装置が記載されている。筐体は蓄熱室を有し、蓄熱室に潜熱蓄熱材が配置されている。潜熱蓄熱材と熱交換するべき熱伝達媒体が流路を流れる。過冷却解除機構は、潜熱蓄熱材の過冷却状態を解除する。過冷却解除機構は、熱伝達媒体の流れ方向における所定の位置に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-105511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を蓄熱装置の条件に合わせて調整できる蓄熱装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における蓄熱装置は、
過冷却状態を示す蓄熱材と、
前記蓄熱材を収容する蓄熱槽と、
前記蓄熱材に隣接しており、前記蓄熱材と熱交換する熱媒体が通過する流路と、
前記蓄熱材の温度を測定する第一測定器と、
前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する過冷却解除装置と、
前記第一測定器によって測定された前記蓄熱材の温度を示す第一情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する位置を調整する制御器と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
上記の蓄熱装置は、蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を蓄熱装置の条件に合わせて調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1の蓄熱装置の構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態1の蓄熱装置の過冷却解除装置の制御のためのフローチャートである。
図3図3は、蓄熱材の結晶成長速度Rcと蓄熱材の温度との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施の形態2の蓄熱装置の構成を示す図である。
図5A図5Aは、実施の形態2の蓄熱装置の移動機構を示す図である。
図5B図5Bは、図5AにおけるV-V線を切断線とする移動機構の断面図である。
図6図6は、実施の形態2の蓄熱装置の過冷却解除装置の制御のためのフローチャートである。
図7図7は、蓄熱材の過冷却状態を解除する位置の基準位置からのオフセット量と結晶成長速度Rcとの関係を示すグラフである。
図8図8は、蓄熱材の過冷却状態を解除する位置の蓄熱槽の底面からの高さと結晶成長速度Rcとの関係を示すグラフである。
図9図9は、変形例に係る移動機構を示す図である。
図10図10は、図9におけるX-X線を切断線とする移動機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
蓄熱材の融点以上の温度の熱が熱伝達媒体から蓄熱材に供給されると、蓄熱材は、融解して固相状態から液相状態へと変化する。その後、自然放熱によって蓄熱材の温度が融点未満の温度に下がっても、蓄熱材は液相状態を保ち続ける。この状態が「過冷却状態」である。過冷却状態において、蓄熱材は、液相状態と固相状態との間のエネルギー差に相当する内部エネルギー(潜熱)を蓄えている。この蓄熱材の過冷却状態を強制的に解除する、すなわち、蓄熱材において液相状態から固相状態への相変化(固化)を生じさせることによって、蓄熱材から潜熱が放出される。
【0010】
特許文献1によれば、過冷却解除機構は、例えば、流路における熱伝達媒体の流れ方向における蓄熱室の中心の位置に配置されている。また、特許文献1には、過冷却解除機構が熱伝達媒体の流れ方向における蓄熱室の中心の位置と蓄熱室の上流端の位置との間の位置に配置されている例も示されている。このような蓄熱装置によれば、時間の経過とともに、熱伝達媒体の流れ方向において蓄熱材に温度勾配が生じ、熱伝達媒体の温度は、流れ方向における上流側で低く、流れ方向における下流側で高い。これにより、蓄熱装置が高い熱出力を発揮しうる。また、蓄熱材から短時間で熱を取り出すことができる。
【0011】
一方、本発明者らは、蓄熱装置における高い熱出力の発揮の観点から有利な蓄熱材の過冷却状態を解除する位置は、蓄熱装置の条件によって変動することを新たに見出した。そこで、本発明者らは、蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を蓄熱装置の条件に合わせて調整できる技術について鋭意検討を重ね、本開示の蓄熱装置を案出した。
【0012】
(本開示にかかる一態様の概要)
本開示の第1態様に係る蓄熱装置は、
過冷却状態を示す蓄熱材と、
前記蓄熱材を収容する蓄熱槽と、
前記蓄熱材に隣接しており、前記蓄熱材と熱交換する熱媒体が通過する流路と、
前記蓄熱材の温度を測定する第一測定器と、
前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する過冷却解除装置と、
前記第一測定器によって測定された前記蓄熱材の温度を示す第一情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する位置を調整する制御器と、を備えている。
【0013】
第1態様によれば、蓄熱材の温度を示す第一情報に基づいて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が調整される。このため、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が蓄熱材の温度に合わせて調整される。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0014】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る蓄熱装置では、前記過冷却解除装置は、互いに異なる位置で前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能な複数の解除器を含んでいてもよい。加えて、前記制御器は、前記第一情報に基づいて、前記複数の解除器の一部を動作させてもよい。第2態様によれば、蓄熱材の温度に合わせて、複数の解除器の一部が動作する。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0015】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様に係る蓄熱装置では、前記複数の解除器は、前記流路に沿って延びる方向において互いに異なる複数の位置で前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能であってもよい。前記複数の解除器は、互いに異なる複数の高さで前記蓄熱材の過冷却状態を解除可能であってもよい。第3態様によれば、蓄熱材の温度に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を、流路に沿って延びる方向において互いに異なる複数の位置又は互いに異なる複数の高さから選択できる。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0016】
本開示の第4態様において、例えば、第1態様に係る蓄熱装置は、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する位置を移動させる移動機構をさらに備えていてもよい。加えて、前記制御器は、前記第一情報に基づいて、前記位置を移動させて前記過冷却解除装置を動作させてもよい。第4態様によれば、蓄熱材の温度に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を移動機構によって移動させて過冷却解除装置を動作させることができる。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0017】
本開示の第5態様において、例えば、第4態様に係る蓄熱装置では、前記移動機構は、前記流路に沿って延びる方向に前記位置を移動させてもよく、又は、前記位置の高さを変えてもよい。第5態様によれば、蓄熱材の温度に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を流路に沿って延びる方向に移動させることができる。もしくは、蓄熱材の温度に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置の高さを変えることができる。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第1態様から第5態様のいずれか1つの態様に係る蓄熱装置では、前記第一測定器は、前記蓄熱槽の複数の位置で前記蓄熱材の前記温度を測定してもよい。第6態様によれば、蓄熱槽の複数の位置での蓄熱材の温度に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置を調整できる。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0019】
本開示の第7態様において、例えば、第1態様から第5態様のいずれか1つの態様に係る蓄熱装置は、前記熱媒体の温度を測定する第二測定器をさらに備えていてもよい。加えて、制御器は、前記第二測定器によって測定された前記熱媒体の温度を示す第二情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整してもよい。第7態様によれば、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が熱媒体の温度に合わせて調整される。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0020】
本開示の第8態様において、例えば、第1態様から第7態様のいずれか1つの態様に係る蓄熱装置では、前記制御器は、前記流路における前記熱媒体の流量と相関関係のある第三情報に基づいて、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整してもよい。第8態様によれば、流路における熱媒体の流量に合わせて、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が調整される。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0021】
本開示の第9態様において、例えば、第1態様から第8態様のいずれか1つの態様に係る蓄熱装置では、前記制御器は、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における前記蓄熱装置からの放熱量の最大値に対応する特定位置を前記複数の位置の中から決定することによって、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整してもよい。第9態様によれば、蓄熱装置からの放熱量の最大値に対応する特定位置の決定によって、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が調整される。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0022】
本開示の第10態様において、例えば、第9態様の蓄熱装置では、前記制御器は、前記蓄熱材の結晶成長速度を推算し、前記結晶成長速度に基づいて特定位置を決定してもよい。第10態様によれば、結晶成長速度に基づいて蓄熱装置からの放熱量の最大値に対応する特定位置を決定できる。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0023】
本開示の第11態様において、例えば、第1態様から第8態様のいずれか1つの態様に係る蓄熱装置では、前記制御器は、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における前記蓄熱材の前記過冷却状態の解除の開始から前記蓄熱材の固化の完了までの期間の長さの最小値に対応する特定位置を前記複数の位置の中から決定することによって、前記過冷却解除装置が前記蓄熱材の前記過冷却状態を解除する前記位置を調整してもよい。第11態様によれば、蓄熱材の過冷却状態の解除の開始から蓄熱材の固化の完了までの期間の長さの最小値に対応する特定位置の決定によって、過冷却解除装置が蓄熱材の過冷却状態を解除する位置が調整される。これにより、蓄熱装置において高い熱出力が発揮されやすい。
【0024】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。以下の実施の形態は例示に過ぎず、本開示は以下の実施の形態に限定されない。添付の図面において、X軸及びY軸は互いに直交しており、Y軸負方向が重力方向である。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の蓄熱装置1aの構成を示す。蓄熱装置1aは、蓄熱材10と、蓄熱槽20と、流路30と、第一測定器41と、過冷却解除装置50と、制御器60とを備えている。蓄熱材10は、過冷却状態を示しうる。蓄熱槽20の内部には、蓄熱材10が収容されている。流路30は、蓄熱材10に隣接しており、蓄熱材10と熱交換する熱媒体が流路30を通過する。第一測定器41は、蓄熱材10の温度を測定する。過冷却解除装置50は、蓄熱材10の過冷却状態を解除する。制御器60は、第一測定器41によって測定された蓄熱材10の温度を示す第一情報D1に基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を調整する。これにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が蓄熱材10の温度に合わせて調整され、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0026】
制御器60は、例えば、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置と対応づけられた物理量を、第一情報D1を用いて算出する。制御器60には、例えば、その物理量と第一情報D1とを関係づけるデータが格納されている。制御器60は、例えば、その物理量の算出結果から、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を決定できる。
【0027】
蓄熱槽20は、例えば、X軸に平行な軸線を有する筒状のシェルによって構成されている。図1に示す通り、蓄熱槽20の内部には、例えば、上流室22a、蓄熱室22b、及び下流室22cが存在している。蓄熱材10は、蓄熱室22bに収容されている。蓄熱室22bは、X軸に平行な方向において上流室22aと下流室22cとの間に形成されている。蓄熱室22bは、仕切りによって上流室22a及び下流室22cのそれぞれと隔てられている。上流室22a及び下流室22cは、流路30によって互いに連通している。図1に示す通り、蓄熱槽20は、例えば、入口26及び出口27を有する。熱媒体は、入口26を通って蓄熱槽20の内部に供給され、出口27を通って蓄熱槽20の外部に排出される。
【0028】
図1に示す通り、流路30は、例えば、X軸に平行な方向に延びている。流路30は、例えば、管によって形成されており、蓄熱材10は、流路30をなす管の外面に接触している。
【0029】
第一測定器41は、例えば、熱電対又はサーミスタ等の測温体を備えている。第一測定器41の測温体は、蓄熱槽20の外面に配置されていてもよいし、蓄熱槽20の内部に配置されていてもよい。
【0030】
図1に示す通り、第一測定器41は、例えば、蓄熱槽20の複数の位置で蓄熱材10の温度を測定する。例えば、複数の第一測定器41がX軸に平行な方向に沿って配置されている。複数の第一測定器41は、異なる高さに配置されていてもよい。これにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置は、複数の位置における蓄熱材10の温度に合わせて調整される。その結果、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0031】
過冷却解除装置50は、蓄熱材10の過冷却状態を解除する限り特定の装置に限定されない。図1に示す通り、過冷却解除装置50は、例えば、蓄熱材10の過冷却状態を解除可能な解除器51を有する。解除器51は、蓄熱材10に対して蓄熱材10の過冷却状態を解除するために、蓄熱材10との接触、蓄熱材10との摩擦、蓄熱材10への電圧印加、又は蓄熱材10への超音波の照射等の物理的処理を蓄熱材10に対して行う。例えば、図1に示す通り、蓄熱装置1aは、例えば、複数の解除器51を備えている。複数の解除器51は、互いに異なる位置で蓄熱材10の過冷却状態を解除可能である。この場合、制御器60は、例えば、第一情報D1に基づいて、複数の解除器51の一部を動作させる。なお、仮に複数の解除器51を同時に動作させても蓄熱材10における温度分布が熱媒体と効率的に熱交換できる温度分布になるとは限らない。例えば、蓄熱材10と熱媒体とが効率的に熱交換できる温度分布は、例えば、熱交換器の分野における「対向流」の温度分布である。このような温度分布では、熱媒体の流れ方向の上流側で蓄熱材10の温度が低く、熱媒体の流れ方向の下流側で蓄熱材10の温度が高い。一方、熱媒体の流れ方向の上流側で熱媒体の温度が低く、熱媒体の流れ方向の下流側で熱媒体の温度が高い。複数の解除器51の一部を動作させることによって、蓄熱材10及び熱媒体において、「対向流」の温度分布を生じさせることができる。
【0032】
過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する限り、複数の解除器51が蓄熱材10の過冷却状態を解除可能な位置は特定の条件に限定されない。図1に示す通り、複数の解除器51は、流路30に沿って延びる方向において互いに異なる複数の位置で蓄熱材10の過冷却状態を解除可能である。複数の解除器51は、互いに異なる複数の高さで蓄熱材10の過冷却状態を解除可能であるように配置されていてもよい。
【0033】
図1に示す通り、複数の解除器51は、流路30に沿って延びる方向における蓄熱室22bの中心よりも熱媒体の流れの上流に配置された解除器51と、その中心よりも熱媒体の流れの下流に配置された解除器51を含む。制御器60は、第一情報D1に基づいて、上流に配置された解除器51及び下流に配置された解除器51を択一的に動作させてもよい。
【0034】
制御器60は、例えば、過冷却解除装置50の制御のためのプログラムが実行可能に格納されたデジタルコンピュータである。制御器60は、例えば、第一測定器41から第一情報D1を取得できるように第一測定器41に接続されている。制御器60は、過冷却解除装置50に対して過冷却解除装置50の制御のための信号を発信する。過冷却解除装置50は、制御器60からの信号を取得可能に制御器60に接続されている。
【0035】
図1に示す通り、蓄熱装置1aは、例えば、第二測定器42をさらに備えている。第二測定器42は、例えば、熱媒体の温度を測定する。制御器60は、第二測定器42によって測定された熱媒体の温度を示す第二情報D2に基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を調整する。これにより、熱媒体の温度に合わせて過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が調整され、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0036】
制御器60には、例えば、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置と対応づけられた物理量と第一情報D1とを関係づける複数の選択肢が格納されている。制御器60は、例えば、第二情報D2を用いて、その複数の選択肢の中から参照すべき物理量と第一情報D1との関係を選択する。
【0037】
第二測定器42は、例えば、流路30を通過した熱媒体の温度を測定する。第二測定器42は、流路30に供給される前の熱媒体の温度を測定してもよく、流路30における熱媒体の温度を測定してもよい。第二測定器42は、例えば、熱電対又はサーミスタ等の測温体を備えている。第二測定器42の測温体は、例えば、熱媒体と接する部材に取り付けられている。制御器60は、第二測定器42から第二情報D2を取得できるように第二測定器42に接続されている。
【0038】
蓄熱装置1aは、例えば、流路30における熱媒体の流量と相関関係のある第三情報D3に基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を調整する。これにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が熱媒体の流量に合わせて調整され、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0039】
第三情報D3は、流路30における熱媒体の流量と相関関係のある限り、特定の情報に限定されない。第三情報D3は、例えば、流路30における熱媒体の流量に影響を及ぼすポンプ又は弁の作動に関する情報である。ポンプは、例えば、熱媒体を送るためのポンプである。第三情報D3は、例えば、ポンプの回転数を示す情報である。弁は、例えば、熱媒体の流量を調整する電動弁である。第三情報D3は、例えば、電動弁の開度を示す情報である。第三情報D3は、熱媒体の利用対象の稼働状況に関する情報であってもよい。例えば、熱媒体がエンジンに利用される場合、第三情報D3はエンジンの回転速度を示す情報であってもよい。
【0040】
制御器60には、例えば、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置と対応づけられた物理量と第一情報D1とを関係づける複数の選択肢が格納されている。制御器60は、例えば、第三情報D3を用いて、その複数の選択肢の中から参照すべき物理量と第一情報D1との関係を選択する。
【0041】
制御器60は、例えば、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における蓄熱装置1aからの放熱量の最大値に対応する特定位置を複数の位置の中から決定する。制御器60は、この決定によって、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を調整する。これにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が、蓄熱装置1aからの放熱量が大きくなるように調整され、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。蓄熱装置1aからの放熱量は、例えば、蓄熱材10の過冷却状態の解除の開始から所定期間を経過するまでに蓄熱装置1aの外部に放出される熱量である。
【0042】
制御器60は、例えば、蓄熱材10の結晶成長速度を推算する。制御器60は、その結晶成長速度に基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合における蓄熱装置1aからの放熱量の最大値に対応する特定位置を決定する。結晶成長速度は、例えば、メートル毎秒の次元を有する。蓄熱材10の過冷却状態を解除するときに、蓄熱材10の結晶成長速度は、蓄熱材10の温度及び熱媒体の温度に影響を及ぼす。蓄熱装置1aからの放熱量は、蓄熱材10の温度と熱媒体の温度との差に左右される。このため、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合に蓄熱装置1aからの放熱量の最大値に対応する位置は、蓄熱材10の結晶成長速度の値によって変動しうる。蓄熱装置1aでは、例えば、蓄熱材10の結晶成長速度が推算され、その推算の結果に基づいて過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が調整される。このため、蓄熱装置1aからの放熱量が大きくなりやすく、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0043】
制御器60は、例えば、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を複数の位置のそれぞれで解除する場合に所定の条件を満たす特定位置をそれらの複数の位置の中から決定する。その特定位置は、蓄熱材10の過冷却状態の解除の開始から蓄熱材10の固化の完了までの期間の長さの最小値に対応していてもよい。制御器60は、この決定によって、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を調整する。これにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置が、蓄熱材10の過冷却状態の解除の開始から蓄熱材10の固化の完了までの期間が短くなるように調整される。このため、蓄熱装置1aにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0044】
蓄熱材10は、過冷却状態を示す限り特定の蓄熱材に限定されない。蓄熱材10は、例えば、金属塩又は金属塩の水和物を主成分として含有している。これにより、蓄熱材10が所望の過冷却安定性を有しやすい。本明細書において「主成分」とは、質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。
【0045】
金属塩は、ナトリウム塩であってもよく、リチウム塩であってもよく、カリウム塩であってもよく、カルシウム塩であってもよく、マグネシウム塩であってもよく、バリウム塩であってもよい。金属塩は、鉄の塩であってもよく、アルミニウム塩であってもよい。
【0046】
蓄熱材10は、酢酸ナトリウムを主成分として含有していてもよい。これにより、蓄熱材10が所望の過冷却安定性をより確実に有しやすい。
【0047】
蓄熱材10の主成分は、所定の水和物であってもよい。例えば、上記の金属塩の水和物であってもよい。水和物の例は、硫酸ナトリウム十水和物、硫酸水素ナトリウム一水和物、塩素酸リチウム三水和物、過塩素酸リチウム三水和物、フッ化カリウム二水和物、フッ化カリウム四水和物、塩化カルシウム二水和物、塩化カルシウム四水和物、塩化カルシウム六水和物、硝酸リチウム三水和物、硫酸ナトリウム十水和物、炭酸ナトリウム七水和物、炭酸ナトリウム十水和物、臭化カルシウム二水和物、リン酸水素二ナトリウム二水和物、リン酸水素二ナトリウム七水和物、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、塩化鉄四水和物、塩化鉄六水和物、チオ硫酸ナトリウム五水和物、硫酸マグネシウム七水和物、酢酸リチウム二水和物、水酸化ナトリウム一水和物、水酸化バリウム一水和物、水酸化バリウム八水和物、ピロリン酸ナトリウム十水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、及びリン酸三ナトリウム十二水和物である。
【0048】
蓄熱材10は、安定剤及び水等の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0049】
蓄熱装置1aで使用される熱媒体は、特定の物質に限定されない。熱媒体は、不凍液等のエンジン冷却水であってもよいし、ロングライフクーラント(LLC)であってもよいし、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)であってもよい。
【0050】
蓄熱装置1aの動作の一例を説明する。蓄熱装置1aにおいて過冷却状態の蓄熱材10に蓄えられた熱を利用する場合に、蓄熱装置1aに向かって熱媒体が供給される。この熱媒体は、蓄熱装置1aの内部において、上流室22aから下流室22cに向かって、流路30を通過する。加えて、過冷却解除装置50によって蓄熱材10の過冷却状態が解除され、蓄熱材10に蓄えられた熱が流路30における熱媒体の流れに付与される。流路30を通過した熱媒体が蓄熱装置1aの外部に供給されることによって、蓄熱材10に蓄えられた熱が蓄熱装置1aの外部で利用される。
【0051】
図2は、過冷却解除装置50の制御のためのフローチャートの一例を示す。制御器60は、ステップS101において、第一情報D1、第二情報D2、及び第三情報D3を取得する。次に、ステップS102に進み、制御器60は、蓄熱材10の過冷却状態の解除が必要か否かを判断する。例えば、制御器60は、蓄熱装置1aに対する放熱の要求の有無に基づき、蓄熱材10の過冷却状態の解除が必要か否かを判断する。ステップS102における判断結果が否定的な場合、処理を終了する。一方、ステップS102における判断結果が肯定的な場合、ステップS103に進み、第一情報D1、第二情報D2、及び第三情報D3に基づいて、蓄熱材10の結晶成長速度Rcを算出する。図3は、蓄熱材10の結晶成長速度Rcと蓄熱材10の温度との関係の一例を示すグラフである。図3に示す通り、蓄熱材10の温度が高いほど結晶成長速度Rcが高くなりやすい。制御器60には、例えば、蓄熱材10の温度の値と蓄熱材10の結晶成長速度Rcの値とを対応づける複数のテーブルが格納されている。複数のテーブルは、熱媒体の温度及び流路30における熱媒体の流量に関する複数の異なる条件に対して準備されている。このようなテーブルは、例えば、蓄熱装置1aの模型を用いた実験結果又はシミュレーション結果に基づいて作成できる。制御器60は、例えば、第二情報D2及び第三情報D3に基づいて、複数のテーブルの中から蓄熱材10の結晶成長速度Rcの算出のために参照すべき特定のテーブルを選択する。その後、制御器60は、選択されたテーブルを参照して、第一情報D1に基づいて蓄熱材10の結晶成長速度Rcを算出する。
【0052】
次に、ステップS104に進み、結晶成長速度Rcに基づいて、過冷却解除装置50における複数の解除器51の中から動作させるべき解除器51を決定する。例えば、図1に示す通り、複数の解除器51が、熱媒体の流れ方向において、上流、中央、及び下流に配置された3つの解除器51を含む場合を考える。算出された結晶成長速度RcがRc<R1の条件を満たす場合には、3つの解除器51の中から下流の解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。算出された結晶成長速度RcがRc>R2の条件を満たす場合には、上流の解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。なお、R2>R1である。算出された結晶成長速度RcがR1≦Rc≦R2の条件を満たす場合には、中央の解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。一方、例えば、複数の解除器51が、異なる高さに配置された3つの解除器51を含む場合を考える。算出された結晶成長速度RcがRc<R1の条件を満たす場合には、3つの解除器51の中から最も高い位置にある解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。算出された結晶成長速度RcがRc>R2の条件を満たす場合には、最も低い位置にある解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。算出された結晶成長速度RcがR1≦Rc≦R2の条件を満たす場合には、最も高い位置にある解除器51と最も低い位置にある解除器51との間にある解除器51が動作させるべき解除器51として決定される。
【0053】
次に、ステップS105に進み、ステップS104における決定に基づいて過冷却解除装置50を動作させる。これにより、蓄熱材10の過冷却状態が解除され、一連の処理が終了する。
【0054】
蓄熱装置1aを用いることによって、下記(i)及び(ii)の事項を含む熱供給方法を提供できる。
(i)蓄熱槽20に収容された過冷却状態の蓄熱材10の過冷却状態が解除される位置を蓄熱材10の温度を示す第一情報D1に基づいて調整し、その位置で蓄熱材10の過冷却状態を解除する。
(ii)蓄熱材10に隣接している流路30に熱媒体を供給して蓄熱材10とその熱媒体とを熱交換させ、流路30を通過した熱媒体を蓄熱槽20の外部に供給する。
【0055】
蓄熱装置1aによれば、上記(i)の事項は、例えば下記(ia)の事項によって実現される。
(ia)互いに異なる位置で蓄熱材10の過冷却状態を解除可能な複数の解除器51の一部を第一情報D1に基づいて動作させる。
【0056】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2の蓄熱装置1bの断面図である。蓄熱装置1bは、特に説明する部分を除き蓄熱装置1aと同様に構成されている。蓄熱装置1aの構成要素に対応する蓄熱装置1bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。蓄熱装置1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、蓄熱装置1bにも当てはまる。
【0057】
図4に示す通り、蓄熱装置1bは、移動機構70をさらに備えている。移動機構70は、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動させる。制御器60は、第一情報D1に基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動させて、過冷却解除装置50を動作させる。このため、蓄熱材10の温度に合わせて過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動機構70によって移動させて、過冷却解除装置50を動作させることができる。これにより、蓄熱装置1bにおいて高い熱出力が発揮されやすい。
【0058】
過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置の移動方向は、特定の方向に限定されない。蓄熱装置1bにおいて、移動機構70は、流路30に沿って延びる方向に、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動させる。移動機構70は、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置の高さを変えるように構成されていてもよい。
【0059】
移動機構70は、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動させることができる限り特定の機構に限定されない。図5A及び図5Bは、移動機構70の一例を示す。移動機構70は、例えば、ステージ71と、シャフト72と、ガイド73と、モータ75とを備えている。ステージ71には、過冷却解除装置50の解除器51が取り付けられている。ステージ71は、シャフト72に取り付けられている。シャフト72は、例えば、ねじ構造を有しており、ステージ71は、このねじ構造に適合したねじ穴を有する。このねじ穴は、ステージ71を貫通している。シャフト72の一部は、このねじ穴の内部に配置されている。ガイド73は、枠状の部材である。ステージ71の少なくとも一部は、ガイド73の内部に配置されており、ガイド73は、ステージ71の側面と向かい合う内面を有する。ステージ71の側面は、ガイド73の内面と接触していてもよい。ガイド73は、シャフト72の軸線方向において、モータ75に接して配置されている。ガイド73のモータ75に接する部分には貫通孔が形成されている。シャフト72の一部はこの貫通孔の内部に配置されている。
【0060】
移動機構70において、モータ75が作動すると、モータ75に連結されたシャフト72が回転する。これにより、ステージ71がシャフト72の軸線方向に移動する。ステージ71には、解除器51が取り付けられているので、ステージ71がシャフト72の軸線方向に移動することにより、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を移動させることができる。
【0061】
蓄熱装置1bにおける過冷却解除装置50の制御のための処理の一例を説明する。図6は、過冷却解除装置50の制御のためのフローチャートの一例を示す。図6に示すステップS201、S202、及びS203は、それぞれ、ステップS101、S102、及びS103と同様に実行される。ステップS204において、制御器60は、蓄熱材10の結晶成長速度Rcに基づいて、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置Pcを決定する。図7は、流路30に沿って延びる方向における蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置の基準位置からのオフセット量δと、結晶成長速度Rcとの関係を示すグラフである。基準位置は、例えば、流路に沿って延びる方向における蓄熱室22bの中心に相当する。正のオフセット量は、基準位置よりも熱媒体の流れ方向において下流へずれていることに相当する。負のオフセット量は、基準位置よりも熱媒体の流れ方向において上流にずれていることに相当する。制御器60には、例えば、オフセット量δの値と、蓄熱材10の結晶成長速度Rcの値とを対応づけるテーブルが格納されている。このようなテーブルは、例えば、蓄熱装置1bの模型を用いた実験結果又はシミュレーション結果に基づいて作成できる。制御器60は、例えば、このテーブルを参照して、ステップS203で算出された結晶成長速度Rcに基づいてオフセット量δを算出する。これにより、位置Pcが決定される。
【0062】
次に、ステップS205に進み、制御器60は、制御信号を送って移動機構70を作動させ、過冷却解除装置50の解除器51を位置Pcに移動させる。次に、ステップS206に進み、解除器51が位置Pcに移動した状態で、過冷却解除装置50を動作させる。これにより、蓄熱材10の過冷却状態が解除され、一連の処理が終了する。
【0063】
上記の通り、移動機構70は、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置の高さを変えるように構成されていてもよい。図8は、蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置の蓄熱室22bの底面からの高さhと、蓄熱材10の結晶成長速度Rcとの関係を示すグラフである。図8に示す通り、蓄熱材10の結晶成長速度Rcが大きくなると、高さhは低くなる。制御器60には、例えば、高さhの値と、蓄熱材10の結晶成長速度Rcの値とを対応づけるテーブルが格納されていてもよい。このようなテーブルは、例えば、蓄熱装置1bの模型を用いた実験結果又はシミュレーション結果に基づいて作成できる。制御器60は、例えば、このテーブルを参照して、ステップS203で算出された結晶成長速度Rcに基づいて高さhを算出して、位置Pcを決定してもよい。
【0064】
蓄熱装置1bにおいて、移動機構70は、図9及び図10に示す移動機構70bのように構成されていてもよい。移動機構70bは、特に説明する部分を除き、移動機構70と同様に構成されている。移動機構70の構成要素に対応する移動機構70bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。移動機構70に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、移動機構70bにも当てはまる。
【0065】
移動機構70bは、ステージ71と、ガイド73と、一対のプーリー74aと、プーリー74bと、プーリー74cと、モータ75と、変速機76と、ベルト77と、ビーム78とを備えている。ステージ71には、過冷却解除装置50の解除器51が取り付けられている。ステージ71には、ベルト77の一部が取り付けられている。ステージ71は、ガイド73の内部に収容されている。ガイド73の内部において、ステージ71は、ベルト77の移動に伴って移動可能である。ベルト77は、一対のプーリー74a、プーリー74b、及びプーリー74cに通されている。一対のプーリー74aは、ステージ71の移動可能な方向におけるガイド73の両端部に取り付けられている。ビーム78の一端部は、ステージ71の移動可能な方向におけるガイド73の中央部に取り付けられている。移動機構70bにおいて、ステージ71は、ビーム78と解除器51との間に配置されている。ビーム78の他端部は、変速機76に取り付けられている。プーリー74bは、ビーム78の一端部に回転可能に取り付けられている。プーリー74bとステージ71との間にビーム78が配置されている。プーリー74cは、ビーム78の他端部に回転可能に取り付けられている。プーリー74cと変速機76との間にビーム78が配置されている。プーリー74cと変速機76とはシャフトによって連結されている。また、モータ75の回転動力は、変速機76によってプーリー74cに伝達され、プーリー74cが駆動される。ベルト77は、一対のプーリー74aからプーリー74bに向かって延びており、かつ、プーリー74bからプーリー74cに向かって延びている。
【0066】
モータ75の作動によりプーリー74cが駆動され、ベルト77が移動する。これにより、ステージ71とともに解除器51が移動する。モータ75の制御により、過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を所望の位置に調整できる。
【0067】
蓄熱装置1bを用いることによっても、上記(i)及び(ii)の事項を含む熱供給方法を提供できる。蓄熱装置1bによれば、上記(i)の事項は、例えば下記(ib)の事項によって実現される。
(ib)過冷却解除装置50が蓄熱材10の過冷却状態を解除する位置を第一情報D1に基づいて移動させて、過冷却解除装置50を動作させる。
【符号の説明】
【0068】
1a、1b 蓄熱装置
10 蓄熱材
20 蓄熱槽
30 流路
41 第一測定器
42 第二測定器
50 過冷却解除装置
51 解除器
60 制御器
70、70b 移動機構
D1 第一情報
D2 第二情報
D3 第三情報
Rc 結晶成長速度
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10