(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電池モジュール用弾性体
(51)【国際特許分類】
H01M 50/291 20210101AFI20241119BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20241119BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M50/291
H01M50/209
H01M50/293
(21)【出願番号】P 2021016778
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】野木村 龍
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-192055(JP,A)
【文献】特開2020-061210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材部と、
前記基材部の両面から突出した複数の凸部と、
前記基材部の外周に配された肉厚部とを有し、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部が同一のエラストマーにより形成されてなり、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記(式1)を満たす、電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み・・・(式1)
【請求項2】
基材部と、
前記基材部の両面から突出した複数の凸部と、
前記基材部の外周に配された肉厚部と、
前記肉厚部の外周に
配された縁部
とを有し、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記(式1)を満たし、
前記縁部の厚みが前記基材部の厚みより薄い
、電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み・・・(式1)
【請求項3】
基材部と、
前記基材部の両面から突出した複数の凸部と、
前記基材部の外周に配された肉厚部とを有し、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記
(式1)~(式3)を満たす
、電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み・・・(式1)
基材部の厚み<0.5×肉厚部の厚み
・・・(式2)
肉厚部の厚み<0.6×凸部の厚み
・・・(式3)
【請求項4】
基材部と、
前記基材部の両面から突出した複数の凸部と、
前記基材部の外周に配された肉厚部とを有し、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記(式1)を満たし、
前記凸部と前記肉厚部の最近接距離が下記(式4)を満たす
、電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み ・・・(式1)
y>0.24x(y:最近接距離、x:凸部最大径)・・・(式4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池モジュール用弾性体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、近年の充放電容量の向上に伴い、充放電に伴う電池セルの膨張・収縮の程度は大きくなっている。また、自動車等に適用される二次電池モジュールは、燃費向上のために高エネルギー密度化(電池の小型化)が求められている。このような二次電池モジュールでは、複数の電池セルが高密度に積層された構造をとり、充電時の電池セルの膨張に伴い隣接する電池セル同士が互いに押し合い、電池セルが破損するおそれがある。そのため、電池セル間には緩衝材として弾性体が設けられる。例えば特許文献1には、電池セルの充電に伴う湾曲凸状の膨張時に電池セルを弾性支持し、且つ電池セルの放電に伴う収縮時に電池セルに対して反力を付与するため、板状のベース部と、所定の傾斜を有する弾性凸部を有する電気モジュール用緩衝シート(弾性体)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
充放電に伴う電池セルの大変位を吸収しつつ適切に反力を付与するためには、緩衝材として用いる弾性体のベース部(基材部)の厚みを薄く、弾性体の弾性突部(凸部)の高さを高く設計する必要がある。しかしながら、基材部の厚みを薄くした場合、凸部を基材部の外周付近に配置した状態で弾性体が加圧(圧縮)されると、各凸部間の基材部領域が大きく歪む。そのため、電池セルの膨張・収縮に伴い、弾性体が繰り返し加圧されて基材部の大変形(歪み)が繰り返されると、基材部の端部に亀裂が生じやすく、そこを起点として弾性体が裂けることがある。
また、上記弾性体は通常、プレス成型、射出成型等の、金型を用いた一体成型により製造される。基材部の厚みを薄くすると、弾性体製造工程において、個々の弾性体に分離するために弾性体の連結部分の切断等の仕上げ加工時に基材部に亀裂を生じやすく、歩留まりが低下する。
【0005】
本発明は、二次電池モジュールの電池セル間又は電池セルと拘束部材との間に配する緩衝材として好適な弾性体であって、その製造工程においては成型後の仕上げ加工性に優れ歩留まりを高めることができ、さらに、繰り返し加圧(厚さ方向に圧縮)されても亀裂を生じにくい電池モジュール用弾性体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、基材部の外周に肉厚部を設け、さらに基材部、肉厚部、凸部の順に厚みを厚くすることにより、その製造工程において、成型後の仕上げ加工性を格段に高めることができること、さらに、得られる弾性体は繰り返し加圧されても亀裂を生じにくいことを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
[1]
基材部と、
前記基材部の両面から突出した複数の凸部と、
前記基材部の外周に配された肉厚部とを有し、
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記(式1)を満たす、電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み・・・(式1)
[2]
前記肉厚部の外周にさらに縁部を有し、該縁部の厚みが前記基材部の厚みより薄い、[1]に記載の電池モジュール用弾性体。
[3]
前記基材部、前記凸部、及び前記肉厚部の各厚みが下記(式2)及び(式3)を満たす、[1]又は[2]記載の電池モジュール用弾性体。
基材部の厚み<0.5×肉厚部の厚み・・・(式2)
肉厚部の厚み<0.6×凸部の厚み ・・・(式3)
[4]
前記凸部と前記肉厚部との最近接距離が下記(式4)を満たす、[1]~[3]のいずれかに記載の電池モジュール用弾性体。
y>0.24x(y:最近接距離、x:凸部最大径)・・・(式4)
【0008】
本明細書において、(式1)~(式3)における各部の厚みの単位は同じである。また、(式4)について、最近接距離と凸部最大径の単位も同じである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池モジュール用弾性体は、その製造工程においては成型後の仕上げ加工性に優れ歩留まりを高めることできる。また、弾性体が繰り返し加圧されても基材部に亀裂を生じにくく、二次電池モジュールの緩衝材として、長期に亘る充放電の繰り返しによっても電池セルを適切に弾性支持することができ、かつ電池セルに対して適切に反力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の電池モジュール用弾性体の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の電池モジュール用弾性体の一実施形態を示す上面図である。
【
図3】本発明の電池モジュール用弾性体の一実施形態を示す側面図である。
【
図4】本発明の電池モジュール用弾性体の製造工程の一例を模式的に示す説明図である。分
図4(a)は脱型直後の状態を示し、分
図4(b)及び(c)は仕上げ工程(連結部の切断工程)を示す。
【
図5】本発明の電池モジュール用弾性体が適用される電池モジュールの一実施形態を模式的に示す説明図である。分
図5(a)は電池セルが膨張していない状態の電池モジュールを示し、分
図5(b)は電池セルの満充電に伴う最大膨張状態の電池モジュールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の好ましい実施形態を示すものであって、本発明は、本発明で規定すること以外は下記に限定されるものではない。
【0012】
(本発明の電池モジュール用弾性体)
本発明の電池モジュール用弾性体(以下、「本発明の弾性体」ともいう。)の好ましい一実施形態を
図1~3に示す。
図1~3に示される本発明の弾性体1は、基材部11と、基材部の両面(第一面11a及び第二面11b)上に配される複数の凸部12(第一凸部12a、第二凸部12b)と、基材部の外周に設けられた肉厚部13とを備える。
本発明において、上記各部の関係は、下記(式1)を満たすように設定される。
基材部の厚み<肉厚部の厚み<凸部の厚み・・・(式1)
また、
図1~3に示されるように、本発明の弾性体は、肉厚部の外周に縁部14を有する構成であることも好ましい。この場合において、縁部14は基材部11の厚みよりも薄く形成されることが好ましい。
【0013】
本発明の弾性体は、基材部、凸部、及び肉厚部を、同一の材質を用いて一体的に形成されても良く、異なる材質を用いて両者を接合することにより形成されても良く、同一の材質を用いて一体的に形成されていることが好ましい。同一の材質を用いる場合は、基材部、凸部、及び肉厚部がエラストマーにより形成されることが好ましい。また、異なる材質を用いる場合は、例えば、基材部をアルミニウム、鉄、ステンレス鋼等の金属板材とし、凸部及び肉厚部をエラストマーにより形成することもできる。さらに、基材部、凸部、及び肉厚部に、異なる種類のエラストマーを用いて、2色成型により弾性体を形成することもできる。上記エラストマーは、弾性体を構成した状態において架橋構造を形成していることが好ましい。この架橋構造は架橋剤を用いて形成することができる。架橋剤としては、有機過酸化物等、エラストマーの加硫において通常用いられるものを適宜に用いることができる。
【0014】
上記エラストマーとしては、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(イソブチレン・イソプレンゴム)(IIR)等のエストラマー材料を好適に用いることができる。中でも、圧縮永久ひずみ(耐へたり性)の観点から、上記エラストマーはEPDMであることが好ましい。
適切な反力付与および亀裂防止、並びに製造工程における亀裂防止の観点から、本発明の弾性体を構成するエストラマーのゴム硬度は、JIS K6253:2012に準拠したゴム硬度で、好ましくは55度以上、より好ましくは60度以上、さらに好ましくは65度以上である。また、同様の観点から、ゴム硬度は好ましくは82度以下、より好ましくは75度以下、さらに好ましくは70度以下である。
また、上記と同様の観点から、本発明の弾性体を構成するエストラマーの破断伸びは、JIS K6251:2017に準拠した常温での引張試験において、破断伸び120%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましく、180%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において「破断伸び120%」とは、試験前の試料に比べて長さが1.2倍となったときに破断することを意味する。
【0015】
本発明の弾性体の大きさは、適用される電気モジュールの大きさや電池セルの大きさを考慮して、適宜設定することができる。例えば
図2において、本発明の弾性体の第一方向の長さ(L’:長辺、肉厚部13の長さ)は、好ましくは100~500mm、より好ましくは200~400mm、さらに好ましくは250~350mmである。また、同様に本発明の弾性体の第二方向の長さ(L”:短辺、肉厚部13の長さ)は、好ましくは50~200mm、より好ましくは75~150mm、さらに好ましくは80~110mmである。なお、縁部14を設ける場合、縁部14の厚みは上述のように基材部11の厚みよりも薄くすることができ、また幅方向のサイズは目的に応じて適宜に調整することができる。
【0016】
本発明の弾性体は、互いに隣接する電池セルの間、又は電池セルと拘束部材との間に配される。本発明の弾性体は電池セルの充放電に伴う膨張変形を吸収(弾性支持)し、かつ収縮時には十分な反力を付与する。
例えば、本発明の弾性体を厚さ方向(本発明では厚さ方向を、電池モジュールに組み込まれた状態を想定して積層方向とも称す。
図3)に15%圧縮(厚さが85%となるまで圧縮)したときに、面圧が0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、本発明の弾性体を厚さ方向に40%圧縮(厚さが60%となるまで圧縮)したときに、面圧が1.5MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましい。なお、本発明において面圧は、電池セルの表面と本発明の弾性体における複数の凸部との総接触面積を基に算出される。
【0017】
本発明の弾性体を構成する各部について説明する。
[基材部]
図3に示すように、本発明の弾性体のベースとなる基材部は板状であり、第一面11a及び第二面11bを有する。本発明の弾性体を構成する基材部の厚み(mm)(第一面から第二面までの距離)は、弾性体の強度維持の観点から、好ましくは0.1~2.0mm、より好ましくは0.3~1.5mm、さらに好ましくは0.5~0.8mmである。
【0018】
本発明の弾性体がエラストマー材料を用いて一体成型される場合、基材部は電池セルの膨張に伴い、凸部と同様に圧縮される。このため基材部の厚みは、電池セル表面と基材部との間に十分な隙間を確保する観点から、凸部の厚み及び肉厚部の各厚みより薄いことが好ましい。例えば、凸部の厚みに対して0.18倍以下とすることができ、凸部の厚みに対して0.15倍以下であることがさらに好ましい。
【0019】
[凸部]
図3に示すように、本発明の弾性体は、基材部の厚さ方向(積層方向)に対し、基材部の両面(第一面11a及び第二面11b)から突出形成された凸部12(第一凸部12a及び第二凸部12b)を有する。
本発明において、凸部は充電に伴う電池セルの膨張に対して適切に弾性支持することができ、かつ放電に伴う電池セルの収縮時に電池セルに対して反力を付与できるよう、適宜に受圧面積(サイズ)と配列個数を設定することができる。
【0020】
本発明の弾性体の凸部の形状は特に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に設計される。例えば凸部の形状は円柱形状、円錐台形状、四角錐台形状、又はその他の多角錐台形状であってもよい。このうち、凸部の形状は円柱形状であることが好ましい。
凸部の最大径もまた、所望の受圧面積や凸部の配列個数に応じて適宜に設定することができる。なお、本明細書において「凸部の最大径」とは、積層方向に垂直な面であって電池セル等に接する面における最大径(当該面の外周上の一点から当該面の外周上の他点までの距離が最長になる当該最長長さ)である。例えば、積層方向から見て凸部が円形である場合はその直径を、四角形である場合はその対角線の長さを意味し、また第一方向又は第二方向から見て凸部が台形状である場合は凸部の頂部(電池セルと接する面)における直径を意味する。
例えば本発明の弾性体の凸部の形状が円柱形状である場合、当該凸部の最大径(φ:直径)は4~18mmであることが好ましく、5~12mmであることがより好ましく、6~10mmであることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の弾性体において、複数の凸部は、第一方向(第一配列方向)に複数個独立して配列されると共に、第二方向(第二配列方向)にも複数個独立して配列されることが好ましい。
図1及び2は、複数の凸部が、直交する第一方向と第二方向のそれぞれに配列する例を示す。つまり、近接する4個の凸部が、正方形の頂点に位置するように配置されている。この他に、第一方向に代えて、第一方向および第二方向に対して角度を有する方向に複数個独立して配列するようにしてもよい。つまり、近接する4個の凸部が、平行四辺形の頂点に位置するように配置してもよい。すなわち、第一方向と第二方向とは、互いに交差する方向であればよい。
【0022】
複数の独立した凸部において、互いに最も近い距離に位置する2つの凸部の間隔(mm)(例えば、第一方向において隣接する2つの凸部間の距離)は、凸部の直径(最大径)や基材部の面積に対する占有率を考慮して適宜に設定することができる。例えば、6~48mmであることが好ましく、8~38mmであることがより好ましく、10~24mmであることがさらに好ましい。
【0023】
図3に示すように、本発明の弾性体1は、電池モジュールに組み付けられた際に、電池セル15の表面15a1と本発明の弾性体1との間において、複数の凸部12(12a)と基材部11(11a)により隙間(空間)16を有している。この空間が存在することにより、電池セルの膨張変形を吸収し、適切に弾性支持することができる。
そのため、凸部の厚さは、好ましくは1.5~7.0mm、より好ましくは2.0~6.0mm、さらに好ましくは3.5~5.0mmである。なお、本明細書において、「凸部の厚さ」とは、第一凸部の頂部から第二凸部の頂部までの距離(長さ)を意味する。すなわち、本明細書において「凸部の厚さ」とは、基材部の第一面及び第二面に配された2つの凸部(第一凸部及び第二凸部)の高さの合計に、2つの凸部が立設される基材部の厚みを加えた長さである。
【0024】
[肉厚部]
本発明の弾性体において、肉厚部は弾性体が繰り返し圧縮される際に基材部の亀裂伝搬を抑制するリブとして機能する。また、本発明の弾性体が肉厚部を有することにより、弾性体製造工程における脱型時の切れ不良を抑制することもできる。肉厚部は、基材部の外周に形成される。ただし、肉厚部は、外周部に限らず、適切に弾性支持および反力の付与が行える範囲で、適宜基材部の中央部などにも設けられて良い。
【0025】
肉厚部の形状は特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば本発明の弾性体を積層方向に切断した際に、
図3に示すように断面が円形であることが好ましい。
本発明の弾性体において、肉厚部の厚みは基材部の厚みより厚く、凸部の厚みより薄い。本明細書において、「肉厚部の厚み」とは、積層方向における厚みを意味する。肉厚部がリブとしての機能を十分に発揮する観点から、肉厚部の厚みは基材部の厚みの2倍を越えることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。また、電池セルの膨張時に肉厚部も圧縮され得ることから、膨張時の電池セルの変形を十分に吸収する観点から、肉厚部の厚さは凸部の厚さの0.6倍未満であることが好ましい。
上記と同様の観点から、肉厚部の厚さは、好ましくは1.0~4.0mm、より好ましくは1.8~2.1mmである。
【0026】
肉厚部は、本発明の弾性体の最外周に位置する凸部との距離を一定程度離して形成されることが好ましい。電池セルの膨張時に圧縮された凸部と肉厚部との接触を抑制し、また変形を十分に吸収する観点から、肉厚部と凸部の最近接距離(mm)は、凸部の最大径(mm)に対して0.24倍を越えることが好ましい。
また、上記と同様の観点から、上記最近接距離は、好ましくは1.92~5.00mmである。
【0027】
[縁部]
本発明の複数の弾性体が一体成型される場合、連結部の一部を縁部(フラット部)として設けてもよい。縁部を設けることにより、仕上げ工程における連結部切断時の応力を縁部に集中させ、基材部への亀裂の発生を格段に抑えることができる。また、本発明の弾性体が1個取り型の金型を用いて一体成型される場合であっても、外周部に漏れ出たオーバーフロー部を除去するに際し、基材部の亀裂発生を防止する観点から、同様に肉厚部の外周部に縁部を設けることも好ましい。
図4(a)に示されるように、本発明において、縁部14とは連結部17中の肉厚部に接する部分とその近傍を指す。縁部の厚みは、基材部の厚みより薄いことが好ましく、また肉厚部の厚さの1/3倍以下であることが好ましい。なお、縁部の厚みは通常0.02~0.40mmである。本発明の弾性体が縁部を有する場合、この縁部は本発明の弾性体の機能には事実上影響しない。
【0028】
(弾性体の製造)
【0029】
以下に、本発明の弾性体の製造方法の好ましい例を説明するが、本発明の弾性体の製造方法は、本発明の弾性体が得られる限り、下記に説明する方法に限定されるものではない。
【0030】
[成型工程]
成型工程において、本発明の弾性体は、例えば、エラストマー材料を金型プレスによって成型し、これを加硫して得ることができる。
前記金型プレス成型は、弾性体の製造に通常用い得るものを適用することができる。本発明において金型プレス成型とは、コンプレッション成型、トランスファー成型、及びインジェクション成型など、金型を用いて成型する方法を広く包含する意味である。
【0031】
図4(a)に、コンプレッション成型の一例として、脱型直後の状態を模式的に示す。
図4(a)は、1組の金型により同形状の弾性体を2つ同時に得る形態を示すものである。すなわち、2個取り型の金型2を用いる製造方法である。なお、金型の取り数は、目的に応じて適宜設計することができる。このコンプレッション成型では、予め所定形状に予備成形されたエラストマー材料を、必要により架橋剤とともに、所定の温度に加熱された金型にセットする。このとき、エラストマー材料は通常、目的の弾性体の重量よりも多量に金型内に仕込まれる。目的の弾性体の重量よりも多量のエラストマー材料を仕込むことにより、成型品の外周部に欠けなどを生じず、目的の形状の弾性体を得ることができる。
金型内に仕込んだエラストマー材料は、上下の金型を締めてエラストマー材料に熱と圧力を一定時間与えることにより、金型形状に沿って弾性体1と、縁部14ないし連結部17とに形成される。
上記成型・架橋反応工程において、金型温度は150~200℃、反応時間は2~10分とすることが好ましい。
【0032】
[仕上げ工程]
図4(b)では、本発明の弾性体には連結部17も含めて弾性体が取り出されており、仕上げ工程において連結部は切断され、2つの弾性体が得られる(
図4(c))。
【0033】
弾性体が基材部と凸部のみで構成され、肉厚部を有しない場合、連結部(又は縁部)と基材部との厚みの差が小さく、連結部(又は縁部)と基材部との境界部に十分な応力集中が生じにくい。結果、仕上げ工程における連結部の切断によって、基材部に亀裂が生じやすい。この亀裂は基材部の中央部まで伸展することもある。
これに対し、基材部の外周に本発明で規定する肉厚部を設けることで、連結部(又は縁部)と肉厚部との厚みの差を大きくすることができ、結果、連結部(又は縁部)と肉厚部との境界部に応力が集中し、仕上げ工程における不良品の発生を格段に抑えることができる。
【0034】
仕上げ工程における連結部の切断は、手作業により行ってもよいし、治具や装置を用いて行ってもよい。基材部の外周に肉厚部を有することにより、仕上げ工程における連結部の切断に起因した基材部への亀裂の発生を格段に抑えることができ、生産性の向上を実現することができる。
【0035】
(電池モジュールの構成)
本発明の弾性体が適用される電池モジュールについて、
図5(a)及び(b)を参照して説明する。
図5(a)は放電した電池セルを有する電池モジュールを、
図5(b)は充電によって膨張した電池セルを有する電池モジュールを、内部の電池セルや弾性体の配置が見える状態で模式的に示す説明図である。この説明図では、5つの電池セルのうち1つについて、内部の電極体の状態も示した。
【0036】
電池モジュール3は、複数の電池セル15と、拘束部材31と、電池セル間、ないし電池セルと拘束部材との間に配される本発明の弾性体1とを備える。電池モジュール3は、電池セル15と弾性体1とが交互に積層され、拘束部材31(31a、31b、31c)によって保持されている。電池セル15は、筐体15aと、筐体15aの内部に電極体15bとを備える。電池セル15は電力を充放電可能な二次電池であり、例えば、リチウムイオン二次電池等を好適に用いることができる。
【0037】
電池セル15は、充電に伴って内部の電極体(負極)がイオンを吸蔵して膨張することによって、電池セル全体として、主として積層方向(
図5(a)の横方向)に膨張する(
図5(b))。電池セルの満充電時には膨張量が最大となる。充電された電池セルは放電することにより収縮し、理想的には、
図5(a)に示す平面状に復帰する。この電極体の膨張・収縮が繰り返されると電池セル内部の電極間距離が徐々に拡がり、電池性能は経時的に低下していく。
【0038】
拘束部材31は、電池モジュール3を、積層方向の両端から拘束する。つまり、拘束部材は、各電池セルが充電によって膨張すると、その膨張を吸収しながら、各電池セルに対して反力を付与する。これにより、電池セルを初期状態(膨張していない状態)に戻すように作用する。また放電により電池セルが収縮した際も、電池セルに対して反力を付与し続けて、電池セル内の電極間距離の経時的な拡張を抑える役割も担う。
拘束部材31(31a)は、十分な拘束力を発揮するために金属が好適に用いられるが、硬質樹脂を適用することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
(製造方法)
[実施例1]
エラストマー材料としてEPDM(商品名:エスプレンEPDM、住友化学株式会社製)を、フィラーとしてカーボンブラック(型番:旭#60HN、旭カーボン株式会社製)を用いて両者を混合し、さらに架橋剤(加硫剤)として有機過酸化物系硬化剤(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を混合し、ミキシングロール機(株式会社安田精機製作所製)及びスーパーカッター(株式会社荻野精機製作所製)により短冊形状に予備成形した。この予備成形品を金型内に配し、金型を締めて温度190℃で4分間プレスすることにより、成型しながら架橋反応(硬化反応)を行わせた。この金型は、
図4(a)に示すような、1ショットで2個の弾性体を得ることができるものである。
得られた弾性体は、デュロメータ タイプAにおいてゴム硬度が67度(JIS K6253:2012準拠)であり、破断伸びが200%(JIS K6251:2017準拠)であった。ここで、「破断伸びが200%」とは、試験前の試料の長さから2倍の長さになったときに破断することを意味する。
なお、実施例1の弾性体は、凸部を第一面及び第二面にそれぞれ157個ずつ有している。すなわち、第一凸部12aと第二凸部12bとから構成される凸部12を157個有している。各部の寸法の測定結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
比較例1の弾性体は、弾性体が肉厚部を有していないこと以外は、実施例1と同様にして製造した。比較例1の弾性体の各部の寸法を表1に示す。
【0042】
(本発明の弾性体製造の作業性評価)
[仕上げ切れ]
実施例1及び比較例1の弾性体をそれぞれ400枚作製し、同一の作業者による手仕上げ工程における不良品(基材部に亀裂が生じた弾性体)の数(枚数)をカウントした。結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
比較例1の弾性体では、仕上げ工程において63枚もの不良品が生じた。これに対し本発明の構成を満たす実施例1の弾性体は、仕上げ工程における不良品の発生が格段に抑えられていた(仕上げ加工性が格段に向上していた)。
【0045】
(弾性体の機能性試験)
上記より得られた仕上げ工程後の実施例1及び比較例1の弾性体(良品:仕上げ工程において亀裂の発生していない弾性体)を用いて、下記の試験により弾性体の機械特性を計測した。
【0046】
[荷重特性]
圧縮試験機(万能材料試験機 型番:5585H(インストロン社製))を用い、荷重制御範囲:200N~60kN、試験速度:1mm/minの条件で弾性体を加圧し、弾性体の圧縮率(%)が15%、40%のときの面圧(MPa)を測定した。なお、測定は各弾性体につき3回行い平均値を算出し、下記評価基準により判定を行った。「〇」評価の荷重特性の場合、電池モジュール用の緩衝材として目的の機能を果たすことができ、好ましい。結果を表2に示す。
-評価基準-
「〇」:圧縮率15%時の面圧が0.2MPa以上、且つ圧縮率40%時の面圧が1.5MPa以下
「×」:圧縮率15%時の面圧が0.2MPa未満、及び/又は圧縮率40%時の面圧が1.5MPa越え
【0047】
[繰り返し疲労性]
圧縮試験機(万能材料試験機 型番:5585H(インストロン社製))を用い、荷重制御範囲:200N~60kN、試験速度:5mm/minの条件で、弾性体を40000回繰り返し圧縮し、弾性体の基材部の亀裂の有無を調べ、下記評価基準に当てはめ評価した。結果を表2に示す。
-評価基準-
「良好」:亀裂が発生しなかった。
「亀裂」:亀裂が発生した。
【0048】
【0049】
肉厚部を有しない比較例1の弾性体では、繰り返し圧縮を行うことで、弾性体に亀裂が生じた。これに対し肉厚部を有し、本発明の構成を満たす実施例1の弾性体では、40000回も繰り返し圧縮を行っても弾性体に亀裂が生じなかった。
【0050】
以上のことから、基材部、凸部、及び肉厚部からなり、かつ本発明の構成を満たす弾性体は、製造時の仕上げ工程における作業性に優れ(歩留まりが良く)、さらに得られる弾性体は繰り返し疲労性に優れたものであることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
1 弾性体
11 基材部
11a 第一面
11b 第二面
12 凸部
12a 第一凸部
12b 第二凸部
13肉厚部
14縁部
15電池セル
15a 筺体
15a1 対象面
15b 電極体
16 隙間(空間)
17 連結部
2 金型
3 電池モジュール
31 拘束部材
31a 第一拘束部材
31b 第二拘束部材
31c 連結部材
L’ 長辺
L” 短辺