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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04858 20160101AFI20241119BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241119BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20241119BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241119BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/00 A
H01M8/04537
H01M8/10 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021021279
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123760
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】富本 尚也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149882(JP,A)
【文献】特開2018-073722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に電力を供給する燃料電池スタックと、
前記負荷と並列に接続される蓄電装置と、
前記蓄電装置の充電状態を検出する充電状態検出部と、
前記燃料電池スタックの発電電力を検出する発電電力検出部と、
前記充電状態検出部により検出された前記蓄電装置の充電状態に基づいて前記燃料電池スタックの発電状態を切り替えることで、前記蓄電装置の充電状態に応じた発電電力となるように前記燃料電池スタックの発電電力を制御する制御装置と、を備え、
前記発電状態は、前記燃料電池スタックに第1発電電力を発電させる第1発電状態と、前記燃料電池スタックに前記第1発電電力よりも大きい第2発電電力を発電させる第2発電状態と、前記燃料電池スタックに前記第2発電電力よりも大きい第3発電電力を発電させる第3発電状態と、を含み、
前記制御装置は、
前記発電電力検出部によって検出された前記発電電力から、前記燃料電池スタックの発電の実績を示す電力基準値を算出する電力基準値算出部と、
前記電力基準値に基づき前記第2発電電力を更新する更新部と、を備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記更新部は、
前記電力基準値と前記第2発電電力の現在値との差分を算出し、
前記差分を所定時間で除算した値を前記第2発電電力の現在値に加算した値を新たな前記第2発電電力とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、蓄電装置と、制御装置と、を備える。燃料電池スタックは、負荷に電力を供給する。蓄電装置は、負荷に並列に接続されている。燃料電池スタックの発電電力が負荷の要求電力を上回る場合には、余剰の電力が蓄電装置に充電される。燃料電池スタックの発電電力が負荷の要求電力を下回る場合には、不足分の電力が蓄電装置から放電される。制御装置は、蓄電装置の充電率に応じて燃料電池スタックの発電状態を遷移させる。発電状態は、低発電状態、中発電状態、及び高発電状態を含む。低発電状態での発電電力は、中発電状態での発電電力よりも小さい。中発電状態での発電電力は、高発電状態での発電電力よりも小さい。制御装置は、発電状態を遷移させることで、蓄電装置の充電率に応じて段階的に発電電力を変化させることができる。燃料電池スタックの発電電力を段階的に変化させることで、燃料電池スタックの発電電力の変動を抑制している。燃料電池スタックの発電電力の変動は、燃料電池スタックを劣化させる一因となる。燃料電池スタックの発電電力の変動を抑制することで、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-73722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負荷の要求電力には、ばらつきがある。このため、燃料電池スタックの発電電力と負荷の要求電力には差が生じる。燃料電池スタックの発電電力が負荷の要求電力を上回る場合には、蓄電装置の充電率が上昇する。燃料電池スタックの発電電力が負荷の要求電力を下回る場合には、蓄電装置の充電率が低下する。いずれの場合であっても、蓄電装置の充電率が変化することで、発電状態が遷移する原因となる。結果として、燃料電池スタックの発電電力が変動することで、燃料電池スタックの劣化の一因となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する燃料電池システムは、負荷に電力を供給する燃料電池スタックと、前記負荷と並列に接続される蓄電装置と、前記蓄電装置の充電状態を検出する充電状態検出部と、前記燃料電池スタックの発電電力を検出する発電電力検出部と、前記充電状態検出部により検出された前記蓄電装置の充電状態に基づいて前記燃料電池スタックの発電状態を切り替えることで前記燃料電池スタックの発電電力を制御する制御装置と、を備え、前記発電状態は、前記燃料電池スタックに第1発電電力を発電させる第1発電状態と、前記燃料電池スタックに前記第1発電電力よりも大きい第2発電電力を発電させる第2発電状態と、前記燃料電池スタックに前記第2発電電力よりも大きい第3発電電力を発電させる第3発電状態と、を含み、前記制御装置は、前記発電電力検出部によって検出された前記発電電力から、前記燃料電池スタックの発電の実績を示す電力基準値を算出する電力基準値算出部と、前記電力基準値に基づき前記第2発電電力を更新する更新部と、を備える。
【0006】
更新部は、燃料電池スタックの発電の実績を示す電力基準値に基づいて第2発電電力を更新している。これにより、燃料電池スタックの使用状況に応じた第2発電電力が設定される。燃料電池スタックの発電電力が不足したり、過剰になることを抑制できる。蓄電装置の充電状態の変化が少ないため、燃料電池スタックの発電状態が第2発電状態から第1発電状態、あるいは、第2発電状態から第3発電状態に遷移しにくい。発電状態が遷移することによる燃料電池スタックの発電電力の変動を抑制することができ、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【0007】
上記燃料電池システムについて、前記更新部は、前記電力基準値と前記第2発電電力の現在値との差分を算出し、前記差分を所定時間で除算した値を前記第2発電電力の現在値に加算した値を新たな前記第2発電電力としてもよい。
【0008】
燃料電池スタックの発電電力が一時的に過剰に大きくなったり、一時的に過剰に小さくなった場合であっても、この影響を抑制しつつ、発電の実績に応じた第2発電電力を算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】燃料電池車両の概略構成図。
図2】DC/DCコンバータの回路図。
図3】発電状態の状態遷移図。
図4】中発電電力設定処理を示すフローチャート。
図5】燃料電池スタックの発電時間と、中発電電力の値及び燃料電池スタックの発電状態が遷移した回数との関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、燃料電池システムの一実施形態について説明する。
図1に示すように、燃料電池車両10は、水素タンク11と、バルブ12と、コンプレッサ13と、車両負荷15と、燃料電池ユニット20と、を備える。燃料電池車両10は、乗用車であってもよいし、産業車両であってもよい。本実施形態の燃料電池車両10は、産業車両である。産業車両としては、例えば、フォークリフト及びトーイングトラクタを挙げることができる。あるいは、水素タンク11と、バルブ12と、コンプレッサ13と、燃料電池ユニット20とは、接続された負荷に電力を供給する定置型発電機を構成していてもよい。
【0012】
燃料電池ユニット20は、補機14と、燃料電池システム21と、を備える。燃料電池システム21は、燃料電池スタック22と、電圧センサ23と、電流センサ24と、DC/DCコンバータ30と、蓄電装置25と、充電状態検出部26と、制御装置40と、を備える。
【0013】
水素タンク11は、水素ガスを貯蔵している。水素タンク11から排出された水素ガスは、燃料電池スタック22に供給される。
バルブ12は、水素タンク11から燃料電池スタック22に供給される水素ガスの供給量を調整するための部材である。バルブ12は、駆動周期や開弁時間に応じて、弁体が電磁的に駆動する電磁駆動式の開閉弁である。燃料電池スタック22への水素ガスの供給量は、バルブ12の駆動周期や開弁時間を制御することで調整可能である。
【0014】
コンプレッサ13は、電動モータによって駆動する電動圧縮機である。コンプレッサ13は、燃料電池スタック22に空気を供給する。燃料電池スタック22への空気の供給量は、電動モータの電圧(回転数)を制御することで調整可能である。
【0015】
燃料電池スタック22は、複数の燃料電池セルをスタック化したものである。燃料電池セルは、例えば、固体高分子型燃料電池である。燃料電池スタック22は、燃料ガスと、酸化剤ガスとの化学反応によって発電を行う。本実施形態では、水素ガスを燃料ガス、空気中の酸素を酸化剤ガスとして発電が行われる。燃料電池スタック22は、水素タンク11から供給された水素ガスとコンプレッサ13から供給された酸素とで発電を行う。
【0016】
電圧センサ23は、燃料電池スタック22の電圧を測定する。電圧センサ23の測定結果は、制御装置40に取得される。
電流センサ24は、燃料電池スタック22の電流を測定する。電流センサ24の測定結果は、制御装置40に取得される。
【0017】
DC/DCコンバータ30は、燃料電池スタック22に接続されている。DC/DCコンバータ30は、燃料電池スタック22が発電した直流電力を昇圧して出力する。
図2に示すように、DC/DCコンバータ30は、正極配線Lpと、負極配線Lnと、6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6と、6つのダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6と、3つのリアクトル31,32,33と、コンデンサCと、を備える。
【0018】
第1スイッチング素子Q1と第2スイッチング素子Q2とは互いに直列接続されている。第3スイッチング素子Q3と第4スイッチング素子Q4とは互いに直列接続されている。第5スイッチング素子Q5と第6スイッチング素子Q6とは互いに直列接続されている。第1スイッチング素子Q1、第3スイッチング素子Q3、及び第5スイッチング素子Q5は、正極配線Lpに接続されている。第2スイッチング素子Q2、第4スイッチング素子Q4、及び第6スイッチング素子Q6は負極配線Lnに接続されている。第1スイッチング素子Q1、第3スイッチング素子Q3、及び第5スイッチング素子Q5は、上アームを構成している。第2スイッチング素子Q2、第4スイッチング素子Q4、及び第6スイッチング素子Q6は下アームを構成している。6つのスイッチング素子Q1~Q6としては、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いている。6つのスイッチング素子Q1~Q6としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いてもよい。
【0019】
ダイオードD1~D6は、各スイッチング素子Q1~Q6に並列接続されている。ダイオードD1~D6は、スイッチング素子Q1~Q6の寄生ダイオードである。上アームを構成するスイッチング素子Q1,Q3,Q5に並列接続されたダイオードD1,D3,D5のカソードは、正極配線Lpに接続されている。上アームを構成するスイッチング素子Q1,Q3,Q5に並列接続されたダイオードD1,D3,D5のアノードは、互いに直列接続された2つのスイッチング素子Q1~Q6の中点に接続されている。下アームを構成するスイッチング素子Q2,Q4,Q6に並列接続されたダイオードD2,D4,D6のカソードは、互いに直列接続された2つのスイッチング素子Q1~Q6の中点に接続されている。下アームを構成するスイッチング素子Q2,Q4,Q6に並列接続されたダイオードD2,D4,D6のアノードは、負極配線Lnに接続されている。
【0020】
上アームを構成するスイッチング素子Q1,Q3,Q5と下アームを構成するスイッチング素子Q2,Q4,Q6との中点には、リアクトル31,32,33が1つずつ接続されている。リアクトル31,32,33は、燃料電池スタック22に接続されている。
【0021】
コンデンサCは、正極配線Lpと負極配線Lnに接続されている。
上記したDC/DCコンバータ30では、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作により昇圧が行われる。DC/DCコンバータ30は、例えば、蓄電装置25の電圧帯の直流電圧を出力する。
【0022】
図1に示すように、補機14は、DC/DCコンバータ30に接続されている。補機14は、燃料電池スタック22の発電した電力によって駆動する電装品である。
車両負荷15は、DC/DCコンバータ30に接続されている。車両負荷15は、燃料電池スタック22の発電した電力によって駆動する電装品、及び燃料電池車両10を走行させる走行用モータを含む。補機14、及び車両負荷15は、負荷である。燃料電池スタック22は、DC/DCコンバータ30を介して負荷に電力を供給している。以下の説明において、適宜、補機14、及び車両負荷15を総称して負荷と称する。
【0023】
蓄電装置25は、負荷に並列に接続されている。蓄電装置25は、充放電可能であれば、どのようなものを用いてもよい。蓄電装置25としては、例えば、二次電池及びキャパシタを挙げることができる。燃料電池スタック22の発電電力が負荷の要求電力を上回っている場合、余剰の電力は蓄電装置25に充電される。燃料電池スタック22の発電電力が負荷の要求電力を下回っている場合、不足分の電力が蓄電装置25から放電される。燃料電池スタック22の発電電力は、燃料電池スタック22の出力電力ともいえる。
【0024】
充電状態検出部26は、蓄電装置25の充電状態を検出する。充電状態としては、例えば、蓄電装置25の充電率、蓄電装置25の残容量、及び蓄電装置25の開回路電圧を挙げることができる。本実施形態の充電状態検出部26は、蓄電装置25の充電率を検出する。充電状態検出部26は、センサと、センサの検出結果から充電状態を推定する推定部と、を含む。センサは、電流センサ及び電圧センサの少なくとも一方を含む。推定部は、蓄電装置25の充放電電流を積算する電流積算法、蓄電装置25の開回路電圧と蓄電装置25の充電率との相関を用いる手法、あるいは、これらを組み合わせて蓄電装置25の充電率を推定する。開回路電圧は、閉回路電圧から推定してもよい。
【0025】
制御装置40は、プロセッサ41と、記憶部42と、を備える。プロセッサ41としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びDSP(Digital Signal Processor)を挙げることができる。記憶部42は、RAM(Random access memory)、ROM(Read Only Memory)、及び書き換え可能な不揮発性メモリを含む。不揮発性メモリとしては、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)及びフラッシュメモリを挙げることができる。記憶部42は、処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部42、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置40は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置40は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0026】
制御装置40は、燃料電池スタック22の発電電力を制御する。燃料電池スタック22の発電電力は、燃料電池スタック22に供給される水素ガスの量と、燃料電池スタック22に供給される酸素の量によって変化する。制御装置40は、バルブ12を制御することで燃料電池スタック22への水素ガスの供給量を制御する。制御装置40は、コンプレッサ13を制御することで燃料電池スタック22への酸素の供給量を制御する。
【0027】
制御装置40は、DC/DCコンバータ30を制御する。制御装置40は、負荷の要求電力に応じた電力が燃料電池スタック22から出力されるようにスイッチング素子Q1~Q6を制御する。燃料電池スタック22の発電中には燃料電池スタック22の電圧が蓄電装置25の電圧よりも低くなる。本実施形態では、燃料電池スタック22の発電が停止している際には燃料電池スタック22の電圧が蓄電装置25の電圧よりも高くなる。制御装置40は、燃料電池スタック22の発電中にスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させることで、昇圧を行う。制御装置40は、燃料電池スタック22の発電が停止している際にはスイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作を行わない。この場合、上アームを構成するスイッチング素子Q1,Q3,Q5の寄生ダイオードとなるダイオードD1,D3,D5から蓄電装置25に電流が流れる。ダイオードD1,D3,D5によって燃料電池スタック22の電圧を降圧しつつ、蓄電装置25の充電を行うことができる。
【0028】
図3に示すように、制御装置40は、蓄電装置25の充電率に応じて、燃料電池スタック22の発電状態を段階的に切り替える。本実施形態の発電状態は、発電停止状態ST1、低発電状態ST2、中発電状態ST3、及び高発電状態ST4を含む。発電停止状態ST1、低発電状態ST2、中発電状態ST3、及び高発電状態ST4には、それぞれ、燃料電池スタック22の発電電力[kW]が対応付けられている。制御装置40は、発電状態を切り替えることで、燃料電池スタック22の発電電力を制御する。なお、発電状態に対応付けられる発電電力は、発電電力の目標値である。制御装置40は、燃料電池スタック22の発電電力が目標値に追従するように制御を行う。
【0029】
発電停止状態ST1とは、燃料電池スタック22の発電を行わない状態である。発電停止状態ST1での発電電力は、0[kW]である。
低発電状態ST2とは、燃料電池スタック22の発電を行う状態である。低発電状態ST2での燃料電池スタック22の発電電力を低発電電力とする。低発電電力は、例えば、3[kW]である。低発電状態ST2は、第1発電状態である。低発電電力は、第1発電電力である。
【0030】
中発電状態ST3とは、低発電状態ST2よりも燃料電池スタック22の発電電力を大きくする状態である。中発電状態ST3での燃料電池スタック22の発電電力を中発電電力とする。中発電電力は、燃料電池スタック22の使用状況に応じて変化する変動値である。中発電状態ST3は、第2発電状態である。中発電電力は、第2発電電力である。
【0031】
高発電状態ST4とは、燃料電池車両10が最大負荷で動作する際の負荷の要求電力を燃料電池スタック22に発電させる状態である。高発電状態ST4での燃料電池スタック22の発電電力を高発電電力とする。高発電電力は、例えば、12[kW]である。高発電状態ST4は、第3発電状態である。高発電電力は、第3発電電力である。
【0032】
燃料電池スタック22が発電停止状態ST1の際に、蓄電装置25の充電率が発電開始閾値V以下になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を低発電状態ST2に遷移させる。発電開始閾値Vとしては、例えば、50[%]を挙げることができる。
【0033】
燃料電池スタック22が低発電状態ST2の際に、蓄電装置25の充電率が中発電切替閾値V以下になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を中発電状態ST3に遷移させる。中発電切替閾値Vとしては、例えば、45[%]を挙げることができる。
【0034】
燃料電池スタック22が中発電状態ST3の際に、蓄電装置25の充電率が高発電切替閾値V以下になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を高発電状態ST4に遷移させる。高発電切替閾値Vとしては、例えば、30[%]を挙げることができる。
【0035】
燃料電池スタック22が高発電状態ST4の際に、蓄電装置25の充電率が中発電切替閾値V以上になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を中発電状態ST3に遷移させる。
【0036】
燃料電池スタック22が中発電状態ST3の際に、蓄電装置25の充電率が低発電切替閾値V以上になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を低発電状態ST2に遷移させる。低発電切替閾値Vとしては、例えば、60[%]を挙げることができる。
【0037】
燃料電池スタック22が低発電状態ST2の際に、蓄電装置25の充電率が発電停止閾値V以上になった場合、制御装置40は、燃料電池スタック22を発電停止状態ST1に遷移させる。発電停止閾値Vとしては、例えば、70[%]を挙げることができる。
【0038】
制御装置40は、中発電電力設定処理を行う。中発電電力設定処理は、中発電電力を設定するための処理である。中発電電力設定処理は、燃料電池車両10が起動状態の場合に、所定の制御周期で繰り返し行われる。起動状態とは、燃料電池車両10を走行可能な状態である。起動状態は、キーオン状態ともいわれる。
【0039】
図4に示すように、ステップS1において、制御装置40は、燃料電池スタック22が発電中か否かを判定する。燃料電池スタック22が発電中か否かは、燃料電池スタック22の発電状態から判定できる。制御装置40は、燃料電池スタック22が発電停止状態ST1であれば燃料電池スタック22が発電中ではないと判定する。制御装置40は、燃料電池スタック22が低発電状態ST2、中発電状態ST3、又は高発電状態ST4であれば燃料電池スタック22は発電中と判定する。ステップS1の判定結果が肯定の場合、制御装置40は、ステップS2の処理を行う。ステップS1の判定結果が否定の場合、制御装置40は、ステップS6の処理を行う。
【0040】
ステップS2において、制御装置40は、燃料電池スタック22の発電電力の値を記憶部42に格納する。詳細にいえば、制御装置40は、電流センサ24の検出結果と電圧センサ23の検出結果とから燃料電池スタック22の発電電力を算出する。そして、制御装置40は、発電電力の値を記憶部42に格納する。電流センサ24及び電圧センサ23は、燃料電池スタック22の発電電力を検出する発電電力検出部である。
【0041】
次に、ステップS3において、制御装置40は、カウンタが満了したか否かを判定する。制御装置40は、ステップS2の処理が行われた回数をカウントしている。制御装置40は、ステップS2の処理が行われた回数が予め設定された回数に到達すると、カウンタが満了したと判定する。即ち、制御装置40は、燃料電池スタック22の発電電力の値を記憶部42に格納した回数が、予め定められた回数に到達するとカウンタが満了したと判定する。ステップS3の判定結果が否定の場合、制御装置40は、ステップS2の処理に戻る。ステップS3の判定結果が肯定の場合、制御装置40は、ステップS4の処理を行う。制御装置40は、カウンタが満了するまで、ステップS2の処理を行うといえる。
【0042】
次に、ステップS4において、制御装置40は、電力基準値[kW]を算出する。電力基準値は、燃料電池スタック22の発電の実績を示す値である。本実施形態において、電力基準値としては、燃料電池スタック22の発電電力の平均値を採用している。制御装置40は、ステップS2及びステップS3の処理によって記憶部42に格納された燃料電池スタック22の発電電力の平均値を算出する。制御装置40は、この平均値を電力基準値とする。ステップS4の処理を行うことで、制御装置40は、電力基準値算出部として機能している。
【0043】
次に、ステップS5において、制御装置40は、中発電電力を更新する。制御装置40は、電力基準値と初期値との差分を求めて、この差分を予め定められた所定時間[h]で除算する。これにより得られた値を初期値に加算することで中発電電力を算出する。即ち、以下の(1)式から中発電電力を算出する。
【0044】
中発電電力=初期値+(電力基準値-初期値)/所定時間…(1)
初期値は、ステップS5の処理を最初に行う際には、予め定められた設定値である。ステップS5の処理を最初に行う際は、中発電電力の更新が行われていない状態といえる。設定値としては、低発電電力と高発電電力との間の範囲で、任意の値を設定することができる。初期値は、ステップS5の処理を2回目以降に行う際には、前回の制御周期で算出された中発電電力の値である。即ち、初期値とは、中発電電力の現在値である。
【0045】
所定時間としては、任意の値を採用することができる。所定時間としては、例えば、1週間で、負荷の使用状況に応じた中発電電力を算出できるような値に設定される。この場合、燃料電池車両10が1週間のうちに5日間、1日当たり8時間稼働した場合を想定すると所定時間は40[h]となる。
【0046】
(1)式から把握できるように、中発電電力は、燃料電池スタック22の発電している時間が経過するにつれて、所定時間の電力基準値の平均値に漸近していく。即ち、中発電電力は、直近の所定時間に燃料電池スタック22が発電した発電電力の平均値とみなすことができる。制御装置40は、(1)式で算出された値を新たな中発電電力として設定して、中発電電力設定処理を終了する。ステップS5の処理を行うことで、制御装置40は、更新部として機能している。中発電電力は、低発電電力と高発電電力との間で設定される。中発電電力は、低発電電力よりも大きく、高発電電力よりも小さい電力といえる。
【0047】
ステップS6において、制御装置40は、中発電電力を前回値とする。即ち、制御装置40は、前回の制御周期で算出された中発電電力を維持する。
なお、中発電電力の値は、燃料電池車両10がキーオフ状態にされても保持されるように、記憶部42の不揮発性メモリに記憶される。
【0048】
本実施形態の作用について説明する。
燃料電池車両10の使用状況に応じて、燃料電池スタック22の使用状況は変化する。燃料電池スタック22の使用状況は、顧客毎に異なる。例えば、燃料電池車両10の操作者による燃料電池車両10の操作方法の差異、燃料電池車両10の使用される環境、繁忙期の有無や繁忙期の時期等の要素により燃料電池スタック22の使用状況は異なる。言い換えれば、顧客毎に、適切な中発電電力が異なる。適切な中発電電力とは、中発電状態ST3から、中発電状態ST3とは異なる発電状態への遷移が少なくなる電力である。
【0049】
本実施形態では、中発電電力を、燃料電池スタック22の発電の実績を示す電力基準値に基づいて更新している。これにより、燃料電池スタック22の使用状況に応じた中発電電力が設定される。燃料電池スタック22の発電電力が不足したり、過剰になることを抑制できる。仮に、中発電電力を5[kW]の一定値とし、負荷が平均して4[kW]の電力を必要としている場合には、1[kW]の電力が蓄電装置25に充電される。蓄電装置25の充電率が上がることで、中発電状態ST3が低発電状態ST2に遷移する。仮に、中発電電力を5[kW]の一定値とし、負荷が平均して6[kW]の電力を必要としている場合には、1[kW]の電力が蓄電装置25から放電される。蓄電装置25の充電率が下がることで、中発電状態ST3が高発電状態ST4に遷移する。これに対し、電力基準値に基づいて中発電電力を設定すると、中発電電力を一定値にする場合に比べて、蓄電装置25の充放電を抑制できる。燃料電池スタック22の発電状態は、蓄電装置25の充電率に応じて遷移するため、蓄電装置25の充電率の変動を減らすことで発電状態が遷移する回数を低減することができる。
【0050】
図5には、燃料電池スタック22が発電を行った発電時間と、燃料電池スタック22の発電状態が遷移した回数及び中発電電力との関係の一例を示している。図5に示す例では、(1)式の初期値が設定値である時刻、即ち、燃料電池スタック22の発電の実績が中発電電力に反映されていない時刻を0としている。図5から把握できるように、燃料電池スタック22が発電を行った時間が経過する毎に、中発電電力は更新されていく。燃料電池スタック22が発電を行った時間が経過する毎に、燃料電池スタック22の発電の実績が蓄積されていき、負荷の使用状況による傾向を反映した中発電電力が設定される。所定時間が経過すると、負荷の使用状況を十分に反映した中発電電力が設定される。中発電電力が更新されていくことで、燃料電池スタック22の発電状態が遷移する回数も減少していく。
【0051】
また、燃料電池スタック22は、発電電力が大きくなるほど電流が大きくなり、発電電力が大きくなるほど電圧が低くなる特性を有する。燃料電池スタック22の理論電圧は、1.23[V]であり、燃料電池スタック22の電圧が理論電圧から乖離するほど燃料電池スタック22の損失は大きくなる。理論電圧とは、水素ガスが有する化学エネルギーを全て電気エネルギーに変換できた場合の電圧である。燃料電池スタック22の発電電力が大きくなり、燃料電池スタック22の電圧が低くなると、燃料電池スタック22の電圧と理論電圧との差が大きくなり、燃料電池スタック22の損失が増加する。図5に示す例では、中発電電力が徐々に低下していく。このように、燃料電池スタック22の発電の実績に基づく中発電電力が設定されることで、燃料電池スタック22の発電電力が過剰に高くなることを抑制できる。これにより、燃料電池スタック22の損失を低減することができる。
【0052】
本実施形態の効果について説明する。
(1)中発電電力は、電力基準値に基づいて設定される。蓄電装置25の充電率の変化が少ないため、燃料電池スタック22が中発電状態ST3から低発電状態ST2、あるいは、中発電状態ST3から高発電状態ST4に遷移しにくい。発電状態が遷移することによる燃料電池スタック22の発電電力の変動を抑制することができ、燃料電池スタック22の劣化を抑制できる。
【0053】
(2)制御装置40は、電力基準値と初期値との差分を求めて、この差分を予め定められた所定時間で除算する。これにより得られた値を初期値に加算することで新たな中発電電力を算出する。中発電電力は、燃料電池スタック22の発電の実績に応じて漸減又は漸増していく。燃料電池スタック22の発電電力が一時的に過剰に大きくなったり、一時的に過剰に小さくなった場合であっても、この影響を抑制しつつ、発電の実績に応じた中発電電力を算出することができる。
【0054】
また、所定時間の燃料電池スタック22の発電電力を記憶部42に格納し、所定時間の発電電力の平均値を中発電電力とする場合に比べて、記憶部42に記憶するデータ量が少なくなる。従って、記憶部42の容量が大きくなることを抑制できる。
【0055】
(3)燃料電池スタック22の発電状態が中発電状態ST3から遷移しにくいため、燃料電池スタック22の発電電力が変動しにくい。燃料電池スタック22の発電電力を変動させる場合、コンプレッサ13及びバルブ12を制御して水素ガスの供給量、及び酸素の供給量を調整する必要がある。この際、コンプレッサ13の駆動力、及びバルブ12の駆動周期や開弁時間が変化するため、燃料電池車両10の静音性を低下させる原因となる。燃料電池スタック22の発電電力を変動しにくくすることで、燃料電池車両10の静音性を向上させることができる。
【0056】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○制御装置40は、低発電電力の値を変動値としてもよい。この場合、低発電電力の値は、中発電電力の値に応じて変更される。例えば、制御装置40は、低発電電力の値を中発電電力の値の1/2としてもよい。
【0057】
また、制御装置40は、低発電電力の値に下限値及び上限値を設定し、下限値と上限値との間の範囲内で低発電電力の値が変動するようにしてもよい。下限値及び上限値の値は、任意である。下限値は、例えば、電圧変換限界値の下限であってもよい。上限値は、例えば、電圧変換限界値の上限であってもよい。
【0058】
電圧変換限界値の上限は、燃料電池スタック22の電圧がDC/DCコンバータ30に入力可能な最低電圧になる際の発電電力である。DC/DCコンバータ30には、入力電圧の範囲が定められている。電圧変換限界値の上限を上記したように設定することで、DC/DCコンバータ30に入力される電圧が入力電圧の下限値を下回ることを抑制できる。
【0059】
電圧変換限界値の下限は、燃料電池スタック22の電圧が蓄電装置25の電圧と一致する電圧である。燃料電池スタック22の電圧が蓄電装置25の電圧を上回ると、ダイオードD1,D3,D5を用いた降圧が行われる。ダイオードD1,D3,D5を用いた降圧が行われると、この降圧により損失が生じる。電圧変換限界値の下限を上記したように設定することで、ダイオードD1,D3,D5による降圧が行われることを抑制でき、降圧による損失を抑制できる。
【0060】
制御装置40は、中発電電力の値に下限値及び上限値を設定してもよい。中発電電力の下限値、及び中発電電力の上限値は任意に設定することができる。中発電電力の下限値として電圧変換限界値の下限を用いてもよいし、電圧変換限界値の上限値として電圧変換限界値の上限を用いてもよい。
【0061】
○中発電電力は、電力基準値に応じた値であればよく、(1)式とは異なる手法で算出されてもよい。例えば、中発電電力は、所定時間の発電電力の移動平均であってもよい。制御装置40は、所定時間の電力基準値を所定の周期で取得し、記憶部42に格納する。制御装置40は、所定時間の電力基準値の総和を、電力基準値を取得した回数で除算する。これにより得られた値を制御装置40は、中発電電力としてもよい。
【0062】
○電力基準値は、ステップS2及びステップS3の処理によって記憶部42に格納された燃料電池スタック22の発電電力の中央値であってもよい。制御装置40は、1回の制御周期で燃料電池スタック22の発電電力を1回のみ取得し、この発電電力を電力基準値としてもよい。電力基準値は、所定時間の発電電力の移動平均であってもよい。即ち、電力基準値としては、燃料電池スタック22の発電の実績を示す値であれば、どのような値であってもよい。
【0063】
○DC/DCコンバータ30は、任意の構成に変更してもよい。DC/DCコンバータ30としては、絶縁型であってもよいし、非絶縁型であってもよい。
○発電状態は、発電電力が異なる3つの状態を含んでいればよい。例えば、実施形態の低発電状態ST2を省略して、発電停止状態ST1、中発電状態ST3、及び高発電状態ST4の3つの状態を遷移するようにしてもよい。この場合、発電停止状態ST1が第1発電状態、中発電状態ST3が第2発電状態、高発電状態ST4が第3発電状態である。
【0064】
発電状態は、発電電力が異なる5つ以上の状態を含んでいてもよい。この場合、燃料電池スタック22の発電電力の平均値に対応する状態が第2発電状態である。第2発電状態よりも発電電力が1段階下の状態が第1発電状態である。第2発電状態よりも発電電力が1段階上の状態が第3発電状態である。
【0065】
○燃料電池スタック22の発電電力は、車両負荷15に供給される電力/(1-補機損失の比率)で算出してもよい。この場合、電流センサ24及び電圧センサ23は、車両負荷15に供給される電力を測定できるように設けられる。補機損失は、DC/DCコンバータ30で生じる損失、及び補機14で消費される電力を含む。
【0066】
○燃料電池スタック22の発電電力を制御する装置と、DC/DCコンバータ30を制御する装置とは別々の装置であってもよい。即ち、制御装置40は、複数の装置によって構成されるユニットであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
ST2…第1発電状態としての低発電状態、ST3…第2発電状態としての中発電状態、ST4…第3発電状態としての高発電状態、14…負荷としての補機、15…負荷としての車両負荷、23…発電電力検出部としての電圧センサ、24…発電電力検出部としての電流センサ、25…蓄電装置、26…充電状態検出部、40…電力基準値算出部、及び更新部としての制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5