(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】接着剤組成物、有機繊維コード‐ゴム複合体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C09J 161/18 20060101AFI20241119BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241119BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241119BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20241119BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20241119BHJP
D06M 15/41 20060101ALI20241119BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20241119BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C09J161/18
C09J11/08
C09J11/06
D06M15/55
D06M15/693
D06M15/41
D06M13/395
B60C9/00 A
(21)【出願番号】P 2021038635
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020080679
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有香
(72)【発明者】
【氏名】中村 真明
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181654(WO,A1)
【文献】特表2006-526712(JP,A)
【文献】特開昭51-106191(JP,A)
【文献】特開平08-183937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0182486(US,A1)
【文献】特開昭63-203333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10,9/00-201/10
B60C 1/00-19/12
C08G 4/00-16/06
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化合物:
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び
(2)アルデヒド化合物、
を含むことを特徴とする、有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項2】
以下の特徴:
(A)第一浴処理液と第二浴処理液を含む、
(B)前記第一浴処理液は(3)エポキシ化合物を含む組成物である、並びに
(C)前記第二浴処理液は(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を含む組成物である、
を有する、請求項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項3】
更に、(4)ラテックスを含む、請求項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項4】
更に、前記第二浴処理液が(4)ラテックスを含む、請求項2に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項5】
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、水酸基を有するナフタレン化合物である、請求項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項6】
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、2つ以上の水酸基を有するナフタレン化合物である、請求項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項7】
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、ナフタレン化合物であって、そのナフタレン骨格の1-位及び4-位(パラ位)に水酸基を有するナフタレン化合物である、請求項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項8】
更に、(5)イソシアネート化合物を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項9】
前記(4)ラテックスが、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)、及びビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(Vp)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項3から8の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項10】
以下の工程:
(a)(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を(6)塩基性溶液に溶解し溶液aとする工程、並びに
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、
を含むことを特徴とする、請求項1から9の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物を製造する方法。
【請求項11】
請求項1から9の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード。
【請求項12】
請求項11に記載の有機繊維コードを用いた有機繊維コード‐ゴム複合体。
【請求項13】
請求項12に記載の有機繊維コード‐ゴム複合体を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物及び該有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、並びにそれらを用いた有機繊維コード、ゴム補強部材(有機繊維コード‐ゴム複合体)、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ベルト、空気バネ、ゴムホース等のゴム物品では、当該物品の強度を補うための補強材として、ポリエステル繊維等からなる有機繊維を、フィラメント、コード、ケーブル、コード織物、帆布等の形態で使用する。
【0003】
前記有機繊維を有機繊維コードとして前記補強材として使用する際には、まず、前記有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物で処理する。そして更に、当該有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードを、被覆ゴム組成物に接着させることにより有機繊維コード‐ゴム複合体を形成させる。こうして得られた有機繊維コード‐ゴム複合体が、タイヤ等のゴム物品の補強部材として使用される。
【0004】
従来より、前記有機繊維コード用接着剤組成物としては、熱硬化による接着力を確保するために、レゾルシン、ホルマリン及びゴム・ラテックスを含む RFL(レゾルシン、ホルマリン、ラテックス)有機繊維コード用接着剤が用いられてきている(特許文献1~3参照)。
【0005】
又、前記接着力を更に向上させるために、レゾルシンとホルマリンを初期縮合させたレゾルシン・ホルマリン樹脂を用いたり(特許文献4、5参照)、或いはポリエステル繊維等からなる有機繊維コードをエポキシ樹脂で前処理することも知られている。
【0006】
しかし、レゾルシンは、接着力に必要な樹脂内に架橋構造を形成させるための重要な原材料ではあるものの、近年、環境面の観点から、使用量の削減が求められている。
【0007】
そうした中で、レゾルシンを含まず、環境・作業環境に対してより好ましい、有機繊維コード用接着剤組成物及び該接着剤組成物の製造方法、並びにそれらを用いた有機繊維コード、有機繊維コード‐ゴム複合体、タイヤが提案されてきている(特許文献6、7)。しかし、これらは、接着剤の硬化が遅いために、接着剤の乾燥装置及び硬化装置への前記接着剤の付着が多く、生産性が低いことから実用に供されていない。更に、前記接着剤には、接着力そのものも弱いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭 58-2370 号公報
【文献】特開昭 60-92371 号公報
【文献】特開昭 60-96674 号公報
【文献】特開昭 63-249784 号公報
【文献】特公昭 63-61433 号公報
【文献】特開 2010-255153 号公報
【文献】特許 5990825 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる状況を鑑みて成されたものであり、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物及び該有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、並びにそれらを用いた有機繊維コード、ゴム補強部材(有機繊維コード‐ゴム複合体)、タイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、前記有機繊維コード用接着剤の組成について様々な検討を行った。その結果、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び(2)アルデヒド化合物、を含むことを特徴とする、有機繊維コード用接着剤組成物が、レゾルシンを含まないことにより、環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項1]
以下の化合物:
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び
(2)アルデヒド化合物、
を含むことを特徴とする、有機繊維コード用接着剤組成物、
である。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物である。
【0012】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項2]
以下の特徴:
(A)第一浴処理液と第二浴処理液を含む、
(B)前記第一浴処理液は(3)エポキシ化合物を含む組成物である、並びに
(C)前記第二浴処理液は(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を含む組成物である、
を有する、項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性がより良好な有機繊維コード用接着剤組成物である。
【0013】
更に、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項3]
更に、(4)ラテックスを含む、項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、該有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層と被覆ゴム組成物との間に、共加硫による良好な結合をもたらす。又、(4)ラテックスは、比較的柔軟で且つ可撓性である利点を示し、上記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にする。
【0014】
又更に、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項4]
更に、前記第二浴処理液が(4)ラテックスを含む、項2に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、該有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層と被覆ゴム組成物との間に、共加硫によるより良好な結合をもたらす。又、(4)ラテックスは、比較的柔軟で且つ可撓性である利点を示し、上記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にする。
【0015】
加えて、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項5]
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、水酸基を有するナフタレン化合物である、項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性により優れる。
【0016】
又加えて、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項6]
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、2つ以上の水酸基を有するナフタレン化合物である、項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性により優れる。
【0017】
更に加えて、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項7]
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、ナフタレン化合物であって、そのナフタレン骨格の1-位及び4-位(パラ位)に水酸基を有するナフタレン化合物である、項1から4の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性により優れる。
【0018】
又更に加えて、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項8]
更に、(5)イソシアネート化合物を含む、項1から7の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性により優れる。
【0019】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、
[項9]
前記(4)ラテックスが、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)、及びビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(Vp)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、項3から8の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物は、該有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層と被覆ゴム組成物との間に、共加硫によるより良好な結合をもたらす。又、上記ラテックスは、より柔軟で且つ可撓性である利点を示し、上記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にする。
【0020】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を製造する方法は、
[項10]
以下の工程:
(a)(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を(6)塩基性溶液に溶解し溶液aとする工程、並びに
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、
を含むことを特徴とする、項1から9の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物を製造する方法、
である。
かかる有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物の溶解性を高めることによって、本発明にかかる有機繊維コード用接着剤組成物を安定的且つ効率よく製造することができる。
【0021】
本発明の有機繊維コードは、
[項11]
項1から9の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード、
である。
かかる有機繊維コードは、環境負荷が少ない材料、方法を用いて製造されたものであり、項1から9の何れか一項に記載の有機繊維コード用接着剤組成物で被覆されていて、被覆ゴム組成物との接着性が良好になる。
【0022】
本発明の有機繊維コード‐ゴム複合体は、
[項12]
項11に記載の有機繊維コードを用いた有機繊維コード‐ゴム複合体、
である。
かかる有機繊維コード‐ゴム複合体は、環境負荷が少ない材料、方法を用いて製造されたものであり、タイヤ等のゴム物品に対する補強部材として、強度や耐久性等の性能を付与することに優れる。
【0023】
本発明のタイヤは、
[項13]
項12に記載の有機繊維コード‐ゴム複合体を用いたタイヤ、
である。
かかるタイヤは、環境負荷が少ない材料、方法を用いて製造されたものであり、且つタイヤとしての強度や耐久性等の性能に優れる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物及び該有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、並びにそれらを用いた有機繊維コード、ゴム補強部材(有機繊維コード‐ゴム複合体)、タイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を一浴処理系で使用する場合における、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)の一例の断面模式図である。
【
図2】本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合における、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態について具体的に説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0027】
<質量%>
本明細書において、特に別記しない限り、有機繊維コード用接着剤組成物中、第一浴処理液中又は第二浴処理液中での成分含有量を表す質量%は、それぞれ、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中、前記第一浴処理液の乾燥物中又は前記第二浴処理液の乾燥物中で含有される固形分の比としての質量%を表す。
【0028】
<有機繊維コード>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる有機繊維コードは、タイヤ等のゴム物品の強度を補うために使用されることがある。前記有機繊維コードをタイヤ等のゴム物品の補強材として使用する際には、まず、有機繊維を撚糸することで有機繊維コードとする。次に、当該有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物で処理する。そして更に、当該有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードを、被覆ゴム組成物に接着させることにより有機繊維コード‐ゴム複合体を形成させる。こうして得られる有機繊維コード‐ゴム複合体を、タイヤ等のゴム物品の補強部材として使用する。
【0029】
前記有機繊維コードの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate(PET))繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ナイロン等のポリアミド繊維、ポリケトン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、レーヨン繊維、リヨセル繊維等の有機繊維が挙げられる。又、前記有機繊維コードとしては、単繊維フィラメントの形態で使用することがあり、或いは複数の単繊維フィラメントの集合体の形態で使用することもある。
前記有機繊維コードを構成する繊維は、例えば、タイヤ、ベルト、空気バネ、ゴムホース等のゴム物品のコード補強材等として使用することを目的としているため、前記単繊維フィラメントの平均直径は、2 μm 以上であるのが好ましく、15 μm 以上、50 μm 以下の範囲が更に好ましい。
【0030】
前記有機繊維コードは、例えば、タイヤコードとして使用することを目的とする場合、該有機繊維コードとしては、単繊維フィラメントとして使用することもできるし、有機繊維の複数の単繊維フィラメントを撚り合わせてなる集合体の形態で使用することもできる。
【0031】
<有機繊維コード用接着剤組成物>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、以下の化合物:
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び
(2)アルデヒド化合物、
を含むことを特徴とする。
【0032】
<<(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物>>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物のナフタレン化合物とは、下記の構造式(I)のナフタレン骨格
【化1】
を有する化合物のことを言う。前記ナフタレン化合物は、上記ナフタレン骨格の1位から8位の何れかの位置で、水素以外の置換基を有することがある。前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物は、上記ナフタレン骨格の1位から8位の何れかの位置で、少なくとも1つの親水性官能基の置換基を有する。
【0033】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の親水性官能基とは、水分子(H2O)との間に水素結合を作ることで、水への親和性を示す官能基のことをいう。前記親水性官能基の例としては、限定されるものではないが、水酸基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、アミノ基(-NH2)等が含まれる。
【0034】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物は、水酸基を有するナフタレン化合物であることが好ましい。
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、水酸基を有するナフタレン化合物であれば、水/塩基性溶媒への溶解性がより増し、樹脂の作製能がより高まるからであるからである。
【0035】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物は、2つ以上の水酸基を有するナフタレン化合物であることが好ましい。
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、2つ以上の水酸基を有するナフタレン化合物であれば、水/塩基性溶媒への溶解性がより増し、樹脂の作製能がより高まるからであるからである。
【0036】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物は、ナフタレン化合物であって、そのナフタレン骨格の1-位及び4-位(パラ位)に水酸基を有するナフタレン化合物であることが好ましい。
前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が、ナフタレン化合物であって、そのナフタレン骨格の1-位及び4-位(パラ位)に水酸基を有するナフタレン化合物であれば、水/塩基性溶媒への溶解性がより増し、樹脂の作製能がより高まるからであるからである。
【0037】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の例としては、限定されるものではないが、
6-ヒドロキシ-1ナフトエ酸
【化2】
1,7-ジヒドロキシナフタレン
【化3】
2,7-ジヒドロキシナフタレン
【化4】
1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸アンモニウム
【化5】
(上記構造式(II)中、Yは下記構造式(III):
【化6】
(上記構造式(III)中、R
2、R
3、R
4は水素原子である。)、
が含まれる。
これらは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物は、1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸アンモニウムであることが好ましい。
前記1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸アンモニウムは水/塩基性溶媒への溶解性に特に優れ、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物として1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸アンモニウムを含有する有機繊維コード用接着剤組成物は、接着能がより高いからである。
【0039】
なお、1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸アンモニウムは、例えば、亜硫酸水素塩の水溶液とを混合することにより付加反応を行う方法等で合成でき、市販製品である川崎化成工業(株)製「キノパワー」等を使用することも可能である。
【0040】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、より優れた接着性を確保できる点からは、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、3.0質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。
【0041】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が確実に溶解し、より優れた作業性が得られる点からは、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、13質量%以下であることが好ましく、11質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
なお、親水性官能基を有するナフタレン化合物が、その1分子内に、更に少なくとも1個のアルデヒド官能基を担持する場合、その化合物は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物ではなく、(2)アルデヒド化合物に含まれるもの、とする。
【0043】
<<(2)アルデヒド化合物>>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(2)アルデヒド化合物とは、1分子内に、少なくとも1個のアルデヒド官能基を担持する化合物のことをいう。
【0044】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(2)アルデヒド化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、クロラール、ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド等のモノアルデヒドや、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジポアルデヒド等の脂肪族ジアルデヒド化合物、ジホルミルフラン、テレフタルアルデヒド、ナフタレンジアルデヒド、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド等の芳香環を有するアルデヒド化合物、ジアルデヒドデンプン等が挙げられる。これらのアルデヒド化合物は、一種類を用いても、複数種を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物にかかる(2)アルデヒド化合物は、ホルムアルデヒド、又は芳香環を有するアルデヒド化合物であることが好ましい。
(2)アルデヒド化合物として、ホルムアルデヒド、又は芳香環を有するアルデヒド化合物を含有する有機繊維コード用接着剤組成物は、優れた機械的強度、電気絶縁性、耐酸性、耐水性、耐熱性等を備えた、比較的安価な樹脂を形成することができるからである。
【0046】
ここで、前記芳香環を有するアルデヒド化合物とは、1分子内に、少なくとも1個の芳香環を含み、且つ少なくとも1個のアルデヒド官能基を担持する芳香族アルデヒドである。
前記(2)アルデヒド化合物として、ホルムアルデヒドではなく、芳香環を有するアルデヒドを使用すれば、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、より環境負荷が少ないものとなる。
【0047】
前記芳香環を有するアルデヒド化合物は、1分子内に2個以上のアルデヒド官能基を担持する芳香族ポリアルデヒド化合物であることが好ましい。前記芳香族ポリアルデヒド化合物は、1分子内にアルデヒド基を2個以上有するので、アルデヒド基による架橋剤として効果的に機能を発揮する。又、前記芳香環は、アルデヒド官能基を直接的に担持する芳香環であることが好ましく、前記アルデヒド官能基は、芳香環上のオルト、メタ又はパラ位に存在することがある。
【0048】
好ましくは、前記芳香環を有するアルデヒド化合物の芳香環は、ベンゼン環、フラン環、ナフタレン環である。更に好ましくは、前記ポリアルデヒドは、1,2-ベンゼンジカルボアルデヒド、1,3-ベンゼンジカルボアルデヒド、1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド、2-ヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルバルデヒド、ジホルミルフラン、ナフトアルデヒド及びこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる。
【0049】
更により好ましくは、前記芳香環を有するアルデヒド化合物は、以下の構造式を有する1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド(これはテレフタルアルデヒドとも呼ばれる)である。
【化7】
【0050】
又、フラン環を有するアルデヒド化合物としては、例えば、以下の構造式(IV)を有する化合物(ジホルミルフラン、5-(ヒドロキシメチル)フルフラール等)を挙げることができる。
【化8】
(上記構造式(IV)中、X は O である;R は、-H、-CHO、又はメチロールを示す。)
更により具体的には、上記のフラン環を有するアルデヒド化合物として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【化9】
【0051】
これらの芳香環を有するアルデヒド化合物は、ホルムアルデヒドよりも環境負荷が少なく、他のアルデヒド化合物と比べて、合理的なコストで接着性が良好な有機繊維コード用接着剤組成物の材料とすることができる。
【0052】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(2)アルデヒド化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、より優れた接着性を確保できる点からは、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、1.0質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましい。
【0053】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(2)アルデヒド化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、前記(2)アルデヒド化合物が確実に溶解し、より優れた作業性が得られる点からは、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、10質量%以下であることが好ましく、9.0質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、前記有機繊維コード用接着剤組成物中における(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物対(2)アルデヒド化合物の質量比の値(前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比)は、0.1以上、4.0以下であることが好ましく、0.25以上、3.0以下であることがより好ましい。
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物と(2)アルデヒド化合物との間では、縮合反応が起こるが、上記範囲内の質量比では、その生成物である樹脂の水溶性、接着性がより適したものになるからである。
【0055】
<<その他配合しても良い薬品>>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、その他配合しても良い薬品として、特に限定されるものではないが、(3)エポキシ化合物、(4)ラテックス、(5)イソシアネート化合物、2,5-ジ(ヒドロキシメチル)フラン、及び/又はポリフェノール類等を更に含むことがある。
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、ポリフェノール類を含む場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物中の、ポリフェノール類及び前記芳香環を有するアルデヒド類の合計含有量は、5-65質量%であることが好ましく、5-40質量%であることがより好ましい。溶媒への溶解性を含めた作業性等を悪化させることなく、より優れた接着性を確保できるためである。
なお、(3)エポキシ化合物、(4)ラテックス、(5)イソシアネート化合物については、後述する。
【0056】
<第一浴処理液と第二浴処理液>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び(2)アルデヒド化合物を含む一種の処理液だけとする、一浴処理系で使用することがある。
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、他の化合物を含む処理液を別途用意し、第一浴処理液と第二浴処理液の、少なくとも二種の処理液を含む、二浴処理系で使用することもある。
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、加工費を抑制し、より小さな設備で使用できる観点からは、一浴処理系とすることが好ましい。
一方で、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性をより高める観点からは、二浴処理系とすることが好ましい。
【0057】
即ち、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、接着性をより高める観点から、
以下の特徴:
(A)第一浴処理液と第二浴処理液を含む、
(B)前記第一浴処理液は(3)エポキシ化合物を含む組成物である、並びに
(C)前記第二浴処理液は(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を含む組成物である、
を有する、有機繊維コード用接着剤組成物、
であることが好ましい。
【0058】
ここで、前記第一浴処理液とは、有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物で処理する工程において、後述する第二浴処理液で処理するよりも前の工程で、前記有機繊維コードの外径方向の外側表面に、接着剤層を形成させるのに使用する処理液のことをいう。
【0059】
一方、前記第二浴処理液とは、有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物で処理する工程において、前記第一浴処理液で処理した後の工程で、第一浴処理液による接着剤層が形成された有機繊維コードの外径方向の更に外側表面に、別の接着剤層を形成させるのに使用する処理液のことをいう。
【0060】
有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物で処理する工程では、前記有機繊維コードを、第一浴処理液で処理する前、第一浴処理液で処理した後であって第二浴処理液で処理する前、及び/又は第二浴処理液で処理した後、の何れの時期に、任意選択的に、前記有機繊維コードに対して任意の処理をすることもある。
【0061】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物の第二浴処理液における、好ましい(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の含有量、好ましい(2)アルデヒド化合物の含有量、及び好ましい(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物対(2)アルデヒド化合物の質量比の値(前記第二浴処理液の乾燥物中で含有される固形分の比)は、それぞれ、前述の本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における、好ましい(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物の含有量、好ましい(2)アルデヒド化合物の含有量、及び好ましい(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物対(2)アルデヒド化合物の質量比の値(前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比)と同様である。
【0062】
<<(3)エポキシ化合物>>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物の第一浴処理液は(3)エポキシ化合物を含む組成物であることが好ましい。
【0063】
前記(3)エポキシ化合物とは、1分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物である。前記(3)エポキシ化合物は、接着剤組成物の架橋剤として作用し、優れた接着性、耐熱性、耐久性、強度、可撓性、電気的絶縁性等を持つ。
【0064】
前記(3)エポキシ化合物は、特に限定されるものではないが、1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物であることが好ましく、4個以上有する化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物の1分子内にエポキシ基を2個以上有すると、当該化合物がエポキシ基による架橋剤として効果的に機能を発揮し、4個以上あると、より密に架橋が行われ、可撓性もより付与される。
又、前記(3)エポキシ化合物は、特に限定されるものではないが、1分子内にエポキシ基を10個以下で有することが好ましい。架橋密度が過度になりすぎず、靭性も備えるようになるからである。
【0065】
前記(3)エポキシ化合物として、特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
前記(3)エポキシ化合物として、これらの化合物を使用すると、有機繊維コード用接着剤組成物の接着性をより優れたものにすることができる。
【0066】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物の第一浴処理液における(3)エポキシ化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、前記第一浴処理液の乾燥物中で含有される固形分の比として、5質量%より多く、95 質量%以下の範囲であることが好ましく、15 質量%以上、85質量% 以下の範囲が更に好ましく、15 質量% 以上、50質量% 以下の範囲がより好ましい。
5質量%より多く含有されれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層中でエポキシ樹脂による架橋がより形成され、高温での凝集破壊抗力、接着力がより向上し、可撓性もより付与されるからである。又、95質量%以下で含有されれば、前記接着剤層で形成される樹脂架橋は十分であり、靭性もより備えるようになるからである。
【0067】
<(4)ラテックス>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、更に(4)ラテックスを含むことが好ましい。
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物の第二浴処理液は、更に(4)ラテックスを含むことが好ましい。
【0068】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物、又は前記有機繊維コード用接着剤組成物の第二浴処理液は、更に(4)ラテックスを含むことによって、該有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層と被覆ゴム組成物との間に、共加硫による良好な結合をもたらすことがあるからである。又、ラテックスは、比較的柔軟で且つ可撓性である利点を示し、上記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にする。
【0069】
前記(4)ラテックスについては、特に限定はされず、天然ゴム(NR)の他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(Vp)等の合成ゴムを用いることができる。これらのゴム成分は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0070】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(4)ラテックスの含有量は、特に限定されるものではないが、より優れた接着性を確保できる点からは、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(4)ラテックスの含有量は、特に限定されるものではないが、有機繊維コード用接着剤組成物中、前記(4)ラテックス以外の成分として含まれる樹脂成分等の量を、相対して一定以上確保することを可能とし、それにより接着剤層の耐凝集破壊抗力を十分に確保するために、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
<(5)イソシアネート化合物>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、更に(5)イソシアネート化合物を含むことが好ましい。
【0072】
前記(5)イソシアネート化合物は、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の被着体である樹脂材料(例えば、有機繊維材料)への接着を促進させる作用を有するからである。
又、前記(5)イソシアネート化合物は、架橋構造形成等を含む(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物との相乗効果によって、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の接着性を大きく高めることができるからである。
【0073】
前記(5)イソシアネート化合物とは、極性官能基としてイソシアネート基を1分子内に少なくとも1個有する化合物である。なお、本明細書において前記「イソシアネート基」は、ブロックドイソシアネート基又はイソシアネート基を意味し、イソシアネート基の他、イソシアネート基に対するブロック化剤と反応して生じたブロックドイソシアネート基、イソシアネート基に対するブロック化剤と未反応のイソシアネート基、又はブロックドイソシアネート基のブロック化剤が解離して生じたイソシアネート基等を含む。
【0074】
前記(5)イソシアネート化合物は、芳香族環を含むことが好ましい。芳香族環を含む(5)イソシアネート化合物は、樹脂の高分子鎖の間隙へ、より分散しやくすくなるからである。更に、前記(5)イソシアネート化合物は、芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含むのが好ましく、芳香族類がメチレン結合した分子構造を含むのが更に好ましい。芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、又はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物等にみられる分子構造が挙げられる。又更に、前記(5)イソシアネート化合物は、数平均分子量6,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが好ましく、数平均分子量4,000以下であるポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが特に好ましい。
【0075】
前記(5)イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤を含む化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物、水性ウレタン化合物等が挙げられる。
これらは、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0076】
前記芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤とを含む化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネートと公知のイソシアネートブロック化剤を含むブロックドイソシアネート化合物等が好適に挙げられる。上記ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートを、イソシアネート基をブロックする公知のブロック化剤でブロックした反応生成物が挙げられる。具体的には、エラストロンBN69、エラストロンBN77(第一工業製薬(株)製)やメイカネートTP-10(明成化学工業(株)製)等の市販のブロックドポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0077】
前記水性ウレタン化合物は、芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造、好ましくは芳香族類がメチレン結合した分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素基を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる。又、前記水性ウレタン化合物は、その可撓性のある分子構造から、接着改良剤としての作用のみならず、可撓性のある架橋剤として接着剤の高温時流動化を抑止する作用も有する。
なお、「水性」とは、水溶性または水分散性であることを示し、「水溶性」とは必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性のもの、あるいは本発明の接着剤組成物の水溶液中で相分離しないものを意味する。
【0078】
ここで、前記水性ウレタン化合物としては、例えば、下記構造式(V):
【化10】
(上記構造式(V)中、Aは芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)の活性水素基が脱離した残基を示し、Yはイソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)の活性水素基が脱離した残基を示し、Zは化合物(δ)の活性水素基が脱離した残基を示し、Xは複数の活性水素基を有する化合物(β)の活性水素基が脱離した残基であり、nは2以上4以下の整数であり、p+mは2以上4以下の整数(m≧0.25)である。)
で表される水性ウレタン化合物が好ましい。
【0079】
なお、前記芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)としては、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。
また、前記複数の活性水素基を有する化合物(β)は、好ましくは2個以上4個以下の活性水素基を有し、平均分子量が5,000 以下の化合物である。かかる化合物(β)としては、(i)2個以上4個以下の水酸基を有する多価アルコール類、(ii)2個以上4個以下の第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多価アミン類、(iii)2個以上4個以下の第一級及び/又は第二級アミノ基と水酸基を有するアミノアルコール類、(iv)2個以上4個以下の水酸基を有するポリエステルポリオール類、(v)2個以上4個以下の水酸基を有するポリブタジエンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vi)2個以上4個以下の水酸基を有するポリクロロプレンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vii)2個以上4個以下の水酸基を有するポリエーテルポリオール類であって、多価アミン、多価フェノール及びアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、又はC3~C4のアルキレンオキサイド重合物等が挙げられる。
さらに、前記イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)は、熱処理によりイソシアネート基を遊離することが可能な化合物であり、公知のイソシアネートブロック化剤が挙げられる。
さらにまた、前記化合物(δ)は、少なくとも 1 つの活性水素基とアニオン性及び/又は非イオン性の親水性基を有する化合物である。少なくとも1つの活性水素基とアニオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、タウリン、N-メチルタウリン、N-ブチルタウリン、スルファニル酸等のアミノスルホン酸類、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸類等が挙げられる。一方、少なくとも1つの活性水素基と非イオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、親水性ポリエーテル鎖を有する化合物類が挙げられる。
【0080】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物における(5)イソシアネート化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、前記有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比として、5 質量%より多く、95質量%以下の範囲が好ましく、15 質量% 以上、85質量% 以下の範囲が更に好ましく、15 質量% 以上、70質量% 以下の範囲がより好ましい。5 質量%より多く含有されれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層の強度、耐薬品性が向上し、基材との密着性・接着性も向上するからである。又、95質量%以下で含有されれば、前記接着剤層の高温での凝集破壊抗力を十分に確保することができ、高温での接着力も十分となるからである。
【0081】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、(5)イソシアネート化合物は、第一浴処理液と第二処理液のどちらか一方、又は両方に含ませることができる。(5)イソシアネート化合物と有機繊維コードとの相互作用があると、より接着性が高まることから、(5)イソシアネート化合物は、第一浴処理液に含ませることが好ましい。
【0082】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用し、且つ前記有機繊維コード用接着剤組成物の第一浴処理液が(5)イソシアネート化合物を含有する場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、前記第一浴処理液の乾燥物中で含有される固形分の比として、5 質量%より多く、95質量%以下の範囲が好ましく、15 質量% 以上、85質量% 以下の範囲が更に好ましく、15 質量% 以上、70質量% 以下の範囲がより好ましい。5 質量%より多く含有されれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層の強度、耐薬品性が向上し、基材との密着性・接着性も向上するからである。又、95質量%以下で含有されれば、前記接着剤層の高温での凝集破壊抗力を十分に確保することができ、高温での接着力も十分となるからである。
【0083】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用し、且つ前記有機繊維コード用接着剤組成物の第二浴処理液が(5)イソシアネート化合物を含有する場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、前記第二浴処理液の乾燥物中で含有される固形分の比として、5 質量%より多く、95質量%以下の範囲が好ましく、15 質量% 以上、85質量% 以下の範囲が更に好ましく、15 質量% 以上、70質量% 以下の範囲がより好ましい。5 質量%より多く含有されれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物による接着剤層の強度、耐薬品性が向上し、基材との密着性・接着性も向上するからである。又、95質量%以下で含有されれば、前記接着剤層の高温での凝集破壊抗力を十分に確保することができ、高温での接着力も十分となるからである。
【0084】
<有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法>
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を、溶解する工程及び樹脂熟成させる工程、を含めば特に限定されるものではない。好ましくは、
以下の親水性官能基を有するナフタレン化合物とアルデヒド化合物を溶媒に溶解させたナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液を熟成させる工程:
(a)(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を(6)塩基性溶液に溶解し溶液aとする工程、並びに
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、
を含むことを特徴とする。
【0085】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物が、更に、(4)ラテックスを含む場合、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を、溶解する工程及び樹脂熟成させる工程、を含み、これに更に、(4)ラテックスと混合・熟成させる工程、を含めば特に限定されるものではない。好ましくは、
以下の親水性官能基を有するナフタレン化合物とアルデヒド化合物を溶媒に溶解させたナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液をラテックスと混合・熟成させる工程:
(a)(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を(6)塩基性溶液に溶解し溶液aとする工程、並びに
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、
(c)前記溶液bに(4)ラテックスを添加し及び混合・熟成させる工程、
を含むことを特徴とする。
【0086】
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物は、(A)第一浴処理液と第二浴処理液を含む、ことがある。この場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、
以下の工程:
前記親水性官能基を有するナフタレン化合物とアルデヒド化合物を溶媒に溶解させたナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液を熟成させる工程、又は前記親水性官能基を有するナフタレン化合物とアルデヒド化合物を溶媒に溶解させたナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液をラテックスと混合・熟成させる工程
を含む前記第二浴処理液の調製工程、並びに
(d)エポキシ化合物を溶媒に溶解させる工程、
を含む前記第一浴処理液の調製工程、
を含むことを特徴とする。
【0087】
かかる有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物の溶解性を高めることが可能であり、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を溶媒中に均一に分散させて、安定的且つ効率的に製造することができる。
【0088】
従来、前記有機繊維コード用接着剤組成物の成分について、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物は、水に溶解しにくく、ただ配合しても水に分散してしまい、水系の接着剤組成物の含有成分として使用できないという問題があった。そこで、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法では、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物を溶解させる溶媒として、(6)塩基性溶液を使用する。(6)塩基性溶液は、特に限定はされないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等の塩基性溶液の何れか1種若しくは2種以上とすることが好ましい。
【0089】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法において、好ましい前記溶解させる方法の一例としては、
(a1)(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を1種若しくは2種以上の選択した塩基性溶液に溶解させたのちに必要量の水で希釈する、
(b1)前記親水性官能基を有するナフタレン化合物が溶解した塩基性水溶液に少しずつ、(2)アルデヒド化合物を添加し、前記(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物と前記(2)アルデヒド化合物とを、化学反応変化を起こさせながら溶解させる、
が挙げられる。
【0090】
この結果、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法によれば、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物が十分に溶解し、有機繊維コード用接着剤組成物液中で均一な状態となること、及び(2)アルデヒド化合物を確実に溶解させること、が可能となる。そして、優れた接着性を有する本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の生産性を向上させることが可能となる。
【0091】
(6)塩基性溶液の温度については、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物をより確実に溶解させることができ、生産性を高めることができる観点から、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
【0092】
又、(6)塩基性溶液のpHについては、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物をより確実に溶解させることができ、生産性を高めることができる観点から、9以上13以下であることが好ましく、10以上12以下であることがより好ましい。
【0093】
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、では、(2)アルデヒド化合物をより確実に溶解させつつ、生産性の低下を抑える観点からは、(2)アルデヒド化合物を漸次的に加えることが好ましい。
【0094】
(b)前記溶液aに(2)アルデヒド化合物を溶解し及び樹脂熟成させて溶液bとする工程、における樹脂熟成とは、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物等の樹脂成分を、所定の温度で所定の時間、置く処置である。樹脂熟成を行うことで、前記有機繊維コード用接着剤組成物の接着性を高めることができる。前記樹脂熟成は、攪拌しながら、任意の温度、任意の時間、で行うことができる。
【0095】
前記樹脂熟成の温度(樹脂熟成温度)は、特に限定されるものではないが、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。20℃以上であれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物の接着性がより高まるからである。又、前記樹脂熟成温度は、特に限定されるものではないが、80℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。60℃以下であれば、溶液の蒸発に伴う高粘度化をより抑制することができるためである。
【0096】
前記樹脂熟成の時間(樹脂熟成時間)は、特に限定されるものではないが、30分間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。1時間以上であれば、前記有機繊維コード用接着剤組成物の接着性がより高まるからである。又、前記樹脂熟成時間は、特に限定されるものではないが、6時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましい。6時間以下であれば、すべての溶質が溶解するとともに縮合が進んでいると推察できたためある。
【0097】
(c)前記溶液bに(4)ラテックスを添加し及び混合・熟成させる工程、では、あらかじめ作成したナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液である溶液bにラテックスを添加後、混合・熟成(ラテックス熟成)させる。
【0098】
ここで、前記ラテックス熟成とは、(4)ラテックスを添加した液を、所定の温度で所定の時間、置く処置である。ラテックス熟成を行うことで、より確実に(4)ラテックスを凝固させ、前記有機繊維コード用接着剤組成物の取り扱い易さを向上できるとともに、接着性の向上を図ることもできる。前記ラテックス熟成は、攪拌しながら、任意の温度、任意の時間、で行うことができる。
【0099】
前記ラテックス熟成の温度(ラテックス熟成温度)は、特に限定されるものではないが、20℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃程度であることがより好ましい。ラテックスの特性を好適に向上させることができるからである。
【0100】
前記ラテックス熟成の時間(ラテックス熟成時間)は、特に限定されるものではないが、15分以上1週間以下であることが好ましく、1時間以上3日以下であることがより好ましい。ラテックスの特性を好適に向上させることができるからである。
【0101】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物が、更に、(5)イソシアネート化合物を含む場合、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法では、ナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液にラテックスを投入後、ラテックス熟成の前若しくは後にイソシアネート化合物を添加することがある。
【0102】
(d)エポキシ化合物を溶媒に溶解させる工程、の溶媒としては、特に制限は無く、水の他に、各種アルコール、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、メチルエチルケトン等の有機溶媒を使用することができる。
そして、これら溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
かかる溶媒は、水であることが好ましい。環境負荷が少ないからである。
【0103】
<有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード>
本発明の有機繊維コードは、本発明にかかる有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードである。
【0104】
次に、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)を、図を参照しながら詳細に説明する。
【0105】
図1は、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を一浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)1の一例の断面模式図である。
図1に示す接着剤被覆繊維1は、有機繊維コード2の表面が本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の接着剤層3で被覆されている。
【0106】
図2は、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合、前記有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)10の一例の断面模式図である。
図2に示す接着剤被覆繊維10は、有機繊維コード2の表面が第一浴処理液による接着剤層11で被覆されている。そして、更にその外径方向外側が、第二浴処理液による接着剤層12で被覆されている。
【0107】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)においては、使用する有機繊維コード用接着剤組成物の質量が、被着体の有機繊維コードの質量に対し、それぞれの乾燥物中で含有される固形分の比として、0.2 質量%以上、6.0 質量%以下であることが好ましい。
【0108】
本発明において、有機繊維コードの表面を有機繊維コード用接着剤組成物の接着剤層で被覆する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、有機繊維コード用接着剤組成物に有機繊維コードを浸漬する方法、有機繊維コード用接着剤組成物を有機繊維コード表面に塗布する方法、有機繊維コード用接着剤組成物を有機繊維コードに吹き付ける方法等が挙げられる。
【0109】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を二浴処理系で使用する場合は、前記有機繊維コードを第一浴処理液及び第二浴処理液で処理する。そこでは、先に、前記第一浴処理液を、前記有機繊維コードの外径方向表面に、前記被覆する方法の何れかを用いて、被覆する。そして次に、前記第二浴処理液を、前記第一浴処理液による接着剤層で被覆した有機繊維コードの外径方向表面に、前記被覆する方法に何れかを用いて被覆する。
【0110】
有機繊維コードの外径方向表面を第一浴処理液による接着剤層で被覆する方法と、前記第一浴処理液による接着剤層で被覆した有機繊維コードの外径方向表面を第二浴処理液による接着剤層で被覆する方法は、同じであっても、異なっていても良い。
【0111】
有機繊維コードの表面を有機繊維コード用接着剤組成物の接着剤層で被覆する処理に際し、使用する有機繊維コード用接着剤組成物の粘度が高い場合には、有機繊維コード用接着剤組成物をそのままで使用するのではなく、有機繊維コード用接着剤組成物を溶媒で希釈した接着剤液として使用してもよい。なお、前記接着剤液には、有機繊維コード用接着剤組成物を構成する成分が溶媒中に完全に又は部分的に溶解した溶液、有機繊維コード用接着剤組成物を構成する成分が溶媒中に分布している分散液等が含まれる。
【0112】
なお、上記有機繊維コード用接着剤組成物を希釈する溶媒としては、特に制限は無く、水の他に、各種アルコール、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、メチルエチルケトン等の有機溶媒を使用することができる。
そして、これら溶媒は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
かかる溶媒は、水であることが好ましい。環境負荷が少ないからである。
【0113】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードの用途は、特に限定されるものではないが、ゴム組成物との接着性に優れ、前記ゴム組成物に強度や耐久性等を付与することができることから、後述する有機繊維コード‐ゴム複合体の部材として用いることがある。
又、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードは、各種材質の粒子、繊維、布等との複合体としてもよい。
【0114】
<有機繊維コード‐ゴム複合体>
本発明の有機繊維コード‐ゴム複合体は、前記本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードを用いたものである。
【0115】
本発明の有機繊維コード‐ゴム複合体を構成するゴムは、前記本発明の有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コードを被覆する、被覆ゴム組成物であることが好ましい。又、前記被覆ゴム組成物は、ゴム成分にゴム業界で通常的に用いられる配合剤を配合してなるのが好ましい。
【0116】
ここで、前記被覆ゴム組成物のゴム成分としては、特に限定はなく、例えば、天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン‐ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム、更には、エチレン‐プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴム等か挙げられ、これらの中でも、天然ゴム及び共役ジエン系合成ゴムが好ましい。又、これらゴム成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
又、前記ゴム業界で通常的に用いられる配合剤は、加硫剤、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等を含むことがあり、適宜配合することができる。
【0118】
前記加硫剤には、限定されるものではないが、例えば、テトラメチルチラリウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラリウムテトラサルファイド等のチラリウムポリサルファイド化合物、4,4-ジチオモルフォリン、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミド、過酸化物等が含まれる。加硫の効率が高いことから、前記加硫剤は硫黄であることが好ましい。
【0119】
本発明の有機繊維コード‐ゴム複合体の用途は、特に限定されるものではないが、ベルト、空気ばね、ホース等の部材として用いることがある。
【0120】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、前記本発明の有機繊維コード‐ゴム複合体を用いたものである。
【0121】
前記本発明のタイヤには、例えば、カーカスプライ、ベルト層、ベルト補強層、フリッパー等のベルト周り補強層等の部材を含み、それら部材に本発明にかかる有機繊維コード‐ゴム複合体を用いたタイヤも含まれる。
【実施例】
【0122】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0123】
環境負荷を少なくするためにレゾルシンを含まない、本発明の各種有機繊維コード用接着剤組成物を用いて、有機繊維コード‐ゴム複合体を作成し、その接着力等を測定し、比較例と比較した。
【0124】
<有機繊維コード用接着剤組成物の配合成分>
<<配合成分、出所、使用形態>>
評価検討した有機繊維コード用接着剤組成物を調製するために使用した配合成分、その出所、使用形態は表1の通りである。
【表1】
【0125】
<<配合比>>
評価検討した各有機繊維コード用接着剤組成物において、総重量を100としたときの上記各配合成分の配合比は以下の通りである(各質量%の数値は、各有機繊維コード用接着剤組成物である処理液の液体中、液体又は固体として各配合成分を配合したときの比としての質量%である。)。
【表2】
【0126】
なお、各配合成分を表2の通り配合した場合、各有機繊維コード用接着剤組成物の乾燥物中で含有される固形分の比としての各配合成分の質量%は、後述する表4に記載した通りとなる。
【0127】
<一浴処理系(比較例1、実施例1~4)の有機繊維コード用接着剤組成物の調製>
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を溶解させるため、1 N NaOH、水、30質量% アンモニア水(以上、(6)塩基性溶液)をこの順序で添加し溶解させた。その後更に(2)アルデヒド化合物を少量ずつ漸次的に添加した。なお、上記添加は、40℃以上、60℃以下の範囲で、常時撹拌しながら行った。
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物が溶解するまで攪拌後、樹脂熟成温度を25℃、樹脂熟成時間を3時間、で樹脂熟成を行い、ナフタレン‐アルデヒド樹脂を形成させた。
上記所定の樹脂熟成を行った、ナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液に、(4)ラテックスを、27±1℃の室温(雰囲気温度)で撹拌しながら添加したのち、27±1℃で24時間、接着剤組成物の熟成を行った。熟成後のナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液及びラテックス混合溶液に、イソシアネート化合物としてエラストロンBN77(第一工業製薬(株)製)を攪拌しながら添加し、各一浴処理液を得た。
【0128】
<二浴処理系(実施例5~8)の有機繊維コード用接着剤組成物の調製>
<<二浴処理系の第一浴処理液の調製>>
二浴処理系の第一浴処理液は、(3)エポキシ化合物としてデナコールEX614B(ナガセケムテック(株)製)を1質量%、(5)イソシアネート化合物としてエラストロンBN77(第一工業製薬(株)製)を3質量%、含有する水溶液とした(実施例5~8)。なお、前記各質量%の数値は、第一浴処理液の液体中、液体又は固体として各成分を配合したときの比としての質量%である。
【0129】
<<二浴処理系の第二浴処理液の調製>>
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を溶解させるため、1 N NaOH、水、30質量% アンモニア水(以上、(6)塩基性溶液)をこの順序で添加し溶解させた。その後更に(2)アルデヒド化合物を少量ずつ漸次的に添加した。なお、上記添加は、40℃以上、60℃以下の範囲で、常時撹拌しながら行った。
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物及び(2)アルデヒド化合物が溶解するまで攪拌後、樹脂熟成温度を25℃、樹脂熟成時間を3時間、で樹脂熟成を行い、ナフタレン‐アルデヒド樹脂を形成させた。
【0130】
上記所定の樹脂熟成を行った、ナフタレン‐アルデヒド樹脂溶液に、(4)ラテックスを、27±1℃の室温(雰囲気温度)で撹拌しながら添加したのち、27±1℃で24時間、接着剤組成物の熟成を行い、各第二浴処理液を得た。
【0131】
<一浴処理系(比較例1、実施例1~4)での、有機繊維コード用接着剤組成物による有機繊維コードの処理>
上記各第一浴処理液中の成分が均一に分散するよう攪拌を行った後、該各第一浴処理液に、コード繊度1670 dtex/2、下撚り数39 回/10 cm、上撚り数39 回/10 cmの有機繊維コード(タイヤ用PETコード)を浸漬し、次いで、該タイヤ用PETコードに付着した第一浴処理液中の溶媒を乾燥し、加熱による接着処理を施すことで、第一浴処理液による接着処理をしたタイヤ用PETコードを得た。ここで、乾燥処理条件は、ドライ温度が160℃で、ドライ時間が60秒であり、加熱による接着処理条件は、ホット温度が245℃で、ホット時間が120秒であった。
【0132】
<二浴処理系(実施例5~8)での、有機繊維コード用接着剤組成物による有機繊維コードの処理>
<<二浴処理系での、第一浴処理液による有機繊維コードの処理>>
上記各第一浴処理液中の成分が均一に分散するよう攪拌を行った後、該各第一浴処理液に、コード繊度1670 dtex/2、下撚り数39 回/10 cm、上撚り数39 回/10 cmの有機繊維コード(タイヤ用PETコード)を浸漬し、次いで、該タイヤ用PETコードに付着した第一浴処理液中の溶媒を乾燥し、加熱による接着処理を施すことで、第一浴処理液による接着処理をしたタイヤ用PETコードを得た。ここで、乾燥処理条件は、ドライ温度が160℃で、ドライ時間が80秒であり、加熱による接着処理条件は、ホット温度が205℃で、ホット時間が60秒であった。
【0133】
<<二浴処理系での、第二浴処理液による有機繊維コードの処理>>
各第一浴処理液による接着処理をしたタイヤ用PETコードを各第二浴処理液に浸漬し、次いで、該タイヤ用PETコードに付着した第二浴処理液中の溶媒を乾燥し、加熱による接着処理を施すことで、
図1に示す構造のタイヤ用PETコードを得た。ここで、乾燥処理条件は、ドライ温度が160℃で、ドライ時間が80秒であり、加熱による接着処理条件は、ホット温度が245℃で、ホット時間が60 秒であった。
【0134】
<有機繊維コード‐ゴム複合体の作製>
天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体からなるゴム成分、カーボンブラック、架橋剤を含む未加硫状態のゴム組成物に、上記第一浴処理液による接着処理及び第二浴処理液による接着処理を施したタイヤ用PETコードを埋め込み、これを試験片として、160℃で20分間、20 kgf/cm2の加圧下で加硫した。得られた加硫物(タイヤコード‐ゴム複合体)を23℃まで冷却した。
【0135】
<接着力の評価>
前記タイヤコード‐ゴム複合体からコードを掘り起こし、30 cm/分の速度でタイヤ用PETコードをタイヤコード‐ゴム複合体から剥離する時の抗力を有機繊維コード用接着剤組成物の接着力として、23±1℃の室温(雰囲気温度)にて測定した。
【0136】
<被覆ゴムの付着状態の評価>
前記タイヤコード‐ゴム複合体から剥離させたタイヤ用PETコードについて、被覆ゴムの付着状態を目視観察し、下記表3に従いスコア付けを行った。
【表3】
【0137】
<接着性の評価結果>
以下、比較例1、実施例1~8について、有機繊維コード用接着剤組成物の接着力、及び被覆ゴムの付着状態の評価結果を表4に示す。
【0138】
【0139】
表4の結果は、本発明にかかる、レゾルシンを含まず、環境・作業環境に対してより好ましい有機繊維コード用接着剤組成物を、一浴処理系(実施例1~4)、又は二浴処理系(実施例5~8)で使用した場合、(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物を含有しない一浴処理系の有機繊維コード用接着剤組成物(比較例1)と比較して、本発明にかかる有機繊維コード用接着剤組成物が、接着力及び被覆ゴムの付着状態の評価において、優れることを示す。
【0140】
以上より、本発明の
「以下の化合物:
(1)親水性官能基を有するナフタレン化合物、及び
(2)アルデヒド化合物、
を含むことを特徴とする、有機繊維コード用接着剤組成物」
は、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、レゾルシンを含まないことにより環境負荷が少なく、且つ接着性も良好な有機繊維コード用接着剤組成物及び該有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、並びにそれらを用いた有機繊維コード、ゴム補強部材(有機繊維コード‐ゴム複合体)、タイヤが提供される。本発明は、タイヤ等のゴム物品を製造する産業等で利用可能である。
【符号の説明】
【0142】
1:有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)
2:有機繊維コード
3:有機繊維コード用接着剤組成物の接着剤層
10:有機繊維コード用接着剤組成物で処理した有機繊維コード(接着剤被覆繊維)
11:第一浴処理液による接着剤層
12:第二浴処理液による接着剤層