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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ヨウ素低減昆布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20241119BHJP
【FI】
A23L17/60 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021066856
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162180
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】508234981
【氏名又は名称】株式会社くらこん
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】伝宝 啓史
(72)【発明者】
【氏名】白杉 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 将弘
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-136348(JP,A)
【文献】特開昭51-076454(JP,A)
【文献】特開昭54-011270(JP,A)
【文献】特開2011-010639(JP,A)
【文献】特開2000-157224(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101972009(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆布の原藻を、カルシウム塩及びグリシンが混合した水溶液を用いて浸漬する第一工程と、
前記第一工程の後に、水を用いて浸漬する第二工程と、
を備えることを特徴とするヨウ素低減昆布の製造方法。
【請求項2】
前記第一工程又は前記第二工程の少なくとも一方において、煮沸を行うことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素低減昆布の製造方法。
【請求項3】
前記煮沸の時間が、2~10分であることを特徴とする請求項2に記載のヨウ素低減昆布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含有されるヨウ素が低減した食用の昆布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食用の昆布にはヨウ素が多く含有されていることが知られている。そのヨウ素は生命にとって重要なミネラルではあるが、ヨウ素の摂取量は厚生労働省から推奨される摂取量や上限量などの基準が公表されている。ヨウ素を過剰に摂取すると、甲状腺機能低下症、甲状腺腫、甲状腺中毒症など甲状腺に関わる病気に至る危険性があるため、食用の昆布においてヨウ素の低減を望む声が多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、原藻昆布を60~100℃に熱した水に3分~30分浸漬することでヨウ素を溶出させることでヨウ素を低減した食用の昆布の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-136348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、ヨウ素を十分に低減することができず、ヨウ素を低減させた後の状態の昆布が型崩れを起こし歩留りも良くなかった。
【0006】
そこで、本件発明では、食感等を維持した状態でヨウ素を十分に低減することができ、ヨウ素を低減させた後の状態の昆布が型崩れを起こさずに歩留りが良くなるヨウ素低減昆布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕すなわち、本発明は、昆布の原藻を、カルシウム塩及びグリシンが混合した水溶液を用いて浸漬する第一工程と、前記第一工程の後に、水を用いて浸漬する第二工程と、を備えることを特徴とするヨウ素低減昆布の製造方法である。
【0008】
〔2〕そして、前記第一工程又は前記第二工程の少なくとも一方において、煮沸を行うことを特徴とする前記〔1〕に記載のヨウ素低減昆布の製造方法である。
【0009】
〔3〕そして、前記煮沸の時間が、2~10分であることを特徴とする前記〔2〕に記載のヨウ素低減昆布の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本件発明によれば、食用の昆布において、食感等を維持した状態でヨウ素を十分に低減することができ、ヨウ素を低減させた後の状態の昆布が型崩れを起こさずに歩留りが良くなるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本件発明のヨウ素低減昆布の製造方法に関する実施形態について詳しく説明する。なお、説明中における範囲を示す表記のある場合は、上限と下限を含有するものである。
【0012】
〔昆布の原藻〕
本発明のヨウ素を低減した昆布の製造方法において使用される昆布の原藻は、褐藻類コンブ科に属する大型の海藻であり、マコンブ〔真昆布〕、オニコンブ〔羅臼昆布〕、リシリコンブ〔利尻昆布〕、ホソメコンブ〔細目昆布〕、ミツイシコンブ〔三石昆布、日高昆布〕、ナガコンブ〔長昆布〕、ガゴメ〔籠目昆布〕などが好ましい。そして、これらの原藻のうち一種、又は、二種以上組み合わせて用いることができる。なお、本発明において使用されるときには、乾燥状態である原藻昆布であることが好ましいが、水戻しした原藻であってもよい。
【0013】
〔カルシウム塩〕
本発明のヨウ素を低減した昆布の製造方法において使用されるカルシウム塩は、カルシウムの有機塩又は無機塩である。カルシウム塩の水溶液で昆布の原藻を浸漬するときに、特に煮沸するときに、昆布がドロドロ、ブヨブヨになるなどの型崩れを防止することができ、ひいては使用した昆布の歩留りを向上させることができる。また、使用されるカルシウム塩としては、具体的に、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
昆布の原藻を処理するときのカルシウム塩の水溶液の濃度は、0.1~5重量%が好ましく、0.5~3重量%がさらに好ましい。カルシウム塩の水溶液の濃度がこの範囲であると、処理された昆布の型崩れを十分に防止することができる。
【0015】
〔グリシン〕
本発明のヨウ素を低減した昆布の製造方法において使用されるグリシンは、示性式H2NCH2COOHで示されるアミノ酸である。グリシンの水溶液で昆布の原藻を浸漬するときに、昆布に含有されるヨウ素をより多く溶出することができる。
【0016】
昆布の原藻を処理するときのグリシンの水溶液の濃度は、0.1~5重量%が好ましく、0.5~3重量%がさらに好ましい。グリシンの水溶液の濃度がこの範囲であると、昆布に含有されるヨウ素を十分に溶出することができる。
【0017】
そして、これらのカルシウム塩及びグリシンが混合した水溶液にて、昆布の原藻が浸漬処理、さらには煮沸処理される。カルシウム塩のみの水溶液、グリシンのみの水溶液で複数の工程で処理するよりも、食感等を維持した状態でヨウ素を十分に低減することができ、ヨウ素を低減させた後の状態の昆布の原藻が型崩れすることを防止することができる。
【0018】
以下に、本発明のヨウ素低減乾燥昆布の製造方法について説明する。
【0019】
〔第一工程(S1)〕
第一工程は、昆布の原藻に含有されているヨウ素などを溶出するために、昆布の原藻を十分な量のカルシウム塩及びグリシンが混合した水溶液に浸漬する工程である。より好ましくは、昆布の原藻を80~100℃に沸かした熱水に2~10分浸漬する工程である。溶出する温度を80~100℃とすることにより、ヨウ素を素早く溶出させることができる。第一工程において、原藻昆布に含有されているヨウ素を90%量低減させることが好ましく、さらに95%量低減させることが好ましい。
【0020】
〔第二工程(S2)〕
第二工程は、第一工程の後に、さらに昆布の原藻に含有されているヨウ素などを溶出するために、水を用いて浸漬する工程である。より好ましくは、第一工程の後に取り出した昆布の原藻を80~100℃に沸かした熱水に2~10分浸漬する工程である。一般的に2回以上も熱水に浸漬すると、昆布の原藻が型崩れを起こして歩留りが悪くなるが、第一工程においてカルシウム塩が含まれた水溶液を用いているので、第二工程において熱水に浸漬したとしても昆布の原藻が型崩れを起こしにくくなっている。なお、本実施形態において、第二工程を1度行うことが好ましいが、他の実施形態において、第二工程を2回以上の複数回行ってもよい。
【0021】
〔乾燥工程(S3)〕
乾燥工程は、第一工程又は第二工程の後に、昆布の原藻を取り出して、余分な水分を揮発させる工程である。具体的には、天日干し、温風や熱風をあてる、減圧下で加温する、そのまま室内で静置して自然乾燥するなどの方法により乾燥する。乾燥工程は、本発明において必須の工程ではなく、必要に応じて行われる。
【0022】
さらに、第一工程又は第二工程の後に、又は乾燥工程の後に、取り出された昆布の原藻を、各種調味液により味付けする工程を加えることもできる。
【実施例
【0023】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0024】
<実施例1>
〔第一工程〕
根室産の長昆布である昆布の原藻50gを、表面に付着している異物を取り除いた後に、1重量%となる塩化カルシウム及び1重量%となるグリシンが混合した水溶液の沸騰水950mlに浸漬し、5分間煮沸した。その後、昆布の原藻をざるに上げて静置し水分を切った。
【0025】
〔第二工程〕
そして、第一工程の後に取り出した昆布の原藻を用いて、沸騰水950mlに浸漬し、5分間煮沸した。その後、昆布の原藻をざるに上げて静置し水分を切った。
【0026】
〔乾燥工程〕
そして、第二工程の後、網に広げて静置し熱風により、含有水分率が10重量%程度になるまで乾燥させた。
【0027】
これらの工程を経て、ヨウ素を低減した昆布の原藻を得た。
【0028】
<比較例1>
第一工程において1重量%のグリシン水溶液を用い、第二工程において1重量%の塩化カルシウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてヨウ素を低減した昆布の原藻を得た。
【0029】
<比較例2>
第一工程において1重量%の塩化カルシウム水溶液を用い、第二工程において1重量%のグリシン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてヨウ素を低減した昆布の原藻を得た。
【0030】
<参考例>
第一工程において単に水を用い、第二工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてヨウ素を低減した昆布の原藻を得た。
【0031】
実施例1、比較例1~2、参考例にて得られた昆布の原藻について、ヨウ素の含有量を計測し、原料である昆布の原藻に対してどれだけ低減しているかを除去率として算出した。具体的に、処理前及び処理後の昆布の原藻に含有されるヨウ素の量については、JIS K0127、JIS K0102、JIS Z73026に準拠して以下の燃焼イオンクロマトグラフ法に基づいて計測した。すなわち、まず、昆布の原藻を秤量し、燃焼装置(日東精工アナリテック社製、型番:AQF-100)にて燃焼等を行い、残渣をメスフラスコに移して所定量になるまで水を加えて希釈し、その水溶液をイオンクロマトグラフィー(Thermo Scientific社製、型番:ICS-1600)にて分析し、1000mg/Lのヨウ素イオン標準液との対比等により昆布の原藻中のヨウ素の量を定量した。そして、得られたヨウ素の含有量から、除去率を算出した。
【0032】
そして、実施例1、比較例1~2、参考例にて得られた昆布の原藻の歩留りを算出した。すなわち、処理に用いた昆布の原藻の重量に対する、最終的に得られた昆布の原藻の重量の割合を歩留りとして算出した。
【0033】
そして、実施例1、比較例1~2にて得られた昆布の原藻の食感を評価した。具体的には、参考例を基準として官能評価を実施した際に、参考例と同等の硬さで、容易に咀嚼できるものを○と評価し、やや硬いが、咀嚼が可能なものを△と評価し、硬く咀嚼が困難なものを×と評価した。
【0034】
そして、実施例1、比較例1~2にて得られた昆布の原藻の味を評価した。具体的には、参考例を基準として官能評価を実施した際に、参考例と同等の風味を保持しているものを○と評価し、風味が損なわれているものを△と評価し、風味が著しく損なわれているものを×と評価した。
【0035】
これらの結果を、表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例1の製造方法では、比較例1~2と比べ、水のみを用いた参考例と同等の食感や味を維持しながらも、ヨウ素を95%以上も除去して十分に低減することができ、昆布が型崩れを起こさずに歩留りが良くなるということが分かった。