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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】予測モデル構築装置および予測装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/02 20060101AFI20241119BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G21C17/02
G21C17/02 300
G21D1/00 W
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021080635
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174673
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下出 直樹
(72)【発明者】
【氏名】助田 浩子
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-050939(JP,A)
【文献】特開平06-289179(JP,A)
【文献】特開2014-153305(JP,A)
【文献】特開平01-063894(JP,A)
【文献】特表平11-503834(JP,A)
【文献】米国特許第05724254(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
予測装置であって、
原子力発電プラントにおける原子炉の炉水放射性金属腐食生成物濃度および海水の放水情報を予測するための予測モデルを構築するための学習部であって、入力データとして、実測可能なプラント状態量と、海水情報とを含み、第一の出力データとして、実測値である第一の炉水放射性金属に関する第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、前記放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて前記予測モデルを構築し、また、入力データとして、前記プラント状態量と前記海水情報とを含み、第二の出力データとして、実測値である前記第一の炉水放射性金属と異なる第二の炉水放射性金属に関する第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、前記放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて検証用指標モデルを構築する前記学習部と、
前記実測可能なプラント状態量、前記海水情報を入力データとして、前記予測モデル及び前記検証用指標モデルに入力して、前記第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度及び前記放水情報からなる前記第一の出力データ、前記第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度及び前記放水情報からなる前記第二の出力データを計算する予測部と、
これら第一及び第二の出力データに基づいて前記第一の出力データの妥当性を検証する検証部と
を備えることを特徴とする予測装置。
【請求項4】
前記第二の出力データを入力データとして、前記第一の出力データを出力データとした教師データを機械学習モデルに学習させて整合性判定モデルを構築する整合性判定モデル作成部を備え、
前記検証部は、前記第二の出力データを前記整合性判定モデルに入力することで得られる前記第一の出力データと、前記予測部が、前記実測可能なプラント状態量、前記海水情 を前記予測モデルに入力することで得られる前記第一の出力データとを比較することで前記第一の出力データの妥当性を検証する
ことを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【請求項5】
前記検証部は、前記第二の出力データを前記整合性判定モデルに入力することで得られる前記第一の出力データと、前記予測部が、前記実測可能なプラント状態量、前記海水情 を前記予測モデルに入力することで得られる前記第一の出力データとの差分が所定値以下であれば前記第一の出力データに妥当性があると判定することを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項9】
前記第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度は、コバルト58、鉄およびニッケルのなかの何れかの炉水放射性金属腐食生成物濃度である
ことを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの炉水放射能濃度や放水情報の予測モデル構築装置および予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント(単にプラントとも記す)として、例えば、沸騰水型原子力発電プラントや加圧水型原子力発電プラントが知られている。これらのプラントにおいて、原子炉圧力容器などの主要な構成部材は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼やニッケル基合金などが用いられている。さらに、これらのプラントでは、原子炉圧力容器内に存在する冷却水(以下、炉水とも記す)の一部を炉水浄化装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0003】
上記のような腐食防止対策を講じても、炉水中に残る極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の外面に付着する。燃料棒外面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料物質から放出される中性子の照射により原子核反応を生じ、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54などの放射性核種になる。酸化物の形態で燃料棒外面に付着した一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出する。また、放射性核種は、クラッドとよばれる不溶性固体として炉水中に放出される。
【0004】
炉水中の放射性核種の一部は、炉水浄化装置で取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性核種は炉水とともに再循環系などを循環している間に、炉水と接触する構造部材の表面に蓄積される。この結果、構造部材表面から放射線が放出され、定期検査を行う従事者の放射線被ばくの原因となる。従事者の被ばく線量については、各従事者が規定値を超えないように管理されている。しかしながら、近年この規定値が引き下げられ、各従事者の被ばく線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
【0005】
このような状況のなか、次回定期検査時の被ばく線量を予測して、遮蔽計画や作業人員計画を立てたり、除染の必要性を判断したりすることは、総被ばく線量を下げる上で有効な対策となる。被ばく線量の予測には配管線量の予測が必要であり、配管線量は運転中の炉水放射能濃度に強く依存するため、プラントの運転期間中における炉水放射能濃度の推移を予測することが重要となる。加えて、次回定期検査の被ばく線量を予測して定期検査計画に利用するので、その予測はできるだけ速く行う必要がある。
【0006】
炉水放射能濃度の予測装置として、例えば特許文献1に記載されているような物理的および化学的シミュレーションモデルを利用した原子炉一次系の線量率を低減するための水質診断システムがある。この水質診断システムは、現在の水質条件を入力として冷却水中の放射能変化を推定するシミュレーションモデル(マスバランスモデル)を用いて、将来のプラント線量率を予測し、その結果に基づき現在の水質条件の良否を診断する。
【0007】
特許文献1の技術では、シミュレーションモデルおよびモデルパラメータが存在し、かつ最適化されている必要がある。しかし、現実には、モデルパラメータが時間的に変化し、運転が継続されていくに従って機器や材料が交換されモデル計算値と実測値との差が大きくなってくることがある。
【0008】
特許文献2に記載の自己学習診断、予測装置は、プラントの仕様、特性などの時間的な変化に対応してモデルパラメータを自動修繕し予測精度の劣化を防ぐとともに、モデルを自己学習により改良する機能を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭64-063894号公報
【文献】特開平06-289179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の技術は、物理モデルや化学モデルに基づいて設定したモデルのモデルパラメータの最適化とその寄与を調整するものであり、そのモデルが予め準備されている必要がある。このため、予測目標の状態量と入力として使用する状態量との相関関係が数式として記述されている必要がある。
マスバランスモデルで表現される状態量の相関関係は、モデルパラメータが最適化されることで最適化される。しかしながら、相関関係は考えられるが、相関関係が複雑で数式表現が難しい場合には、適切なモデルを構築できない。このため、複雑で数式で表現できない相関関係が含まれている場合でも、プラントの状態量を正確に予測することが求められている。
【0011】
炉水放射能濃度の予測とともにプラントでは、温排水(放水)の温度管理も求められる。詳しくは、プラントでは、核分裂で発生した熱から生じ、タービンを回転させた蒸気を冷やすために、海水が使われており、炉水放射能濃度の低減とともに海水(温排水、放水)の温度上昇幅に係る規定を守る必要がある。温度は、取水時の海水温度や原子炉の熱出力によるため、炉水放射能濃度とともに放水時の温度(または取水時との温度差、放水情報とも記す)の予測が求められている。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、原子力発電プラントの炉水放射能濃度と放水情報との高精度な予測を可能とする予測モデルを構築する予測モデル構築装置および予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するため、本発明に係る予測モデル構築装置は、入力データとして、実測可能なプラント状態量と、海水情報とを含み、第一の出力データとして、実測値である第一の炉水放射性金属に関する第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて予測モデルを構築し、また、入力データとして、プラント状態量と海水情報とを含み、第二の出力データとして、実測値である第一の炉水放射性金属と異なる第二の炉水放射性金属に関する第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて検証用指標モデルを構築する学習部を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子力発電プラントの炉水放射能濃度と放水情報との高精度な予測を可能とする予測モデルを構築する予測モデル構築装置および予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る原子力発電プラントの全体系統構成図である。
図2】実施形態に係る予測装置の原理を説明するための図である。
図3】実施形態に係る炉水への金属腐食生成物の移行挙動のマスバランスモデルを説明するための図である。
図4】実施形態に係る炉水放射能濃度・放水温度予測装置の機能構成図である。
図5】実施形態に係る目的変数データの一例を示す図である。
図6】実施形態に係る検証用指標データの一例を示す図である。
図7】本実施形態に係る学習処理における予測モデルの教師データの元となるデータの構成を説明するための図である。
図8】実施形態に係る予測処理における予測モデルの入力データの元となるデータおよび出力データの構成を説明するための図である。
図9】実施形態に係る予測処理における予測モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
図10】実施形態に係る予測処理における検証用指標予測モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
図11】実施形態に係る予測処理における整合性判定モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
図12】実施形態に係る予測処理における予測結果整合性検証処理を説明するためのフローチャートである。
図13】実施形態に係る予測処理における整合性判定処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0017】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0019】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0020】
本発明を実施するための形態(実施形態)における炉水放射能濃度・放水温度予測装置(予測モデル構築方法および予測方法)を説明する前に、予測の対象となる原子力発電プラントを説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係る原子力発電プラントP100の全体系統構成図である。本実施形態における炉水放射能濃度・放水温度予測装置が適用される原子力発電プラントP100(例えば沸騰水型原子力発電プラント)の概略構成を、図1を参照して説明する。
【0022】
原子力発電プラントP100は、原子炉P1、タービンP3、復水器P4、原子炉浄化系および給水系などを備えている。原子炉格納容器P11内に設置された原子炉P1は、炉心P13を内蔵する原子炉圧力容器P12を有する。原子炉圧力容器P12内に設置された円筒状の炉心シュラウドP15が、炉心P13を取り囲んでいる。炉心P13には複数の燃料集合体(不図示)が装荷されている。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。原子炉圧力容器P12の内面と炉心シュラウドP15の外面の間には、環状のダウンカマP17が形成される。複数のインターナルポンプP21が原子炉圧力容器P12の底部に設置される。インターナルポンプP21のインペラは、ダウンカマP17の下部に配置される。
【0023】
給水系は、復水器P4と原子炉圧力容器P12とを連絡する給水配管P10に、復水ポンプP5、復水浄化装置P6、給水ポンプP7、低圧給水加熱器P8、および高圧給水加熱器P9が、この順番に復水器P4から原子炉圧力容器P12に向かって設置されて構成される。水素注入装置P16が、水素注入配管P18によって、復水浄化装置P6と給水ポンプP7の間で給水配管P10に接続されている。開閉弁P19が水素注入配管P18に設けられる。
【0024】
原子炉浄化系は、原子炉圧力容器P12と給水配管P10とを連絡するステンレス鋼製の浄化系配管(ステンレス鋼部材)P20に、浄化系隔離弁P23、浄化系ポンプP24、再生熱交換器P25、非再生熱交換器P26、および炉水浄化装置P27が、この順番で設置されて構成される。原子力発電プラントP100に設けられた残留熱除去系は、一端部が原子炉圧力容器P12に接続されてダウンカマP17に連絡され、他端部が炉心P13より上方で原子炉圧力容器P12内に連絡される残留熱除去系配管P28を有する。この残留熱除去系配管P28に残留熱除去系ポンプP29および熱交換器(冷却装置)P30が設置される。浄化系配管P20の一端は、残留熱除去系ポンプP29の上流で残留熱除去系配管P28に接続される。
【0025】
原子炉圧力容器P12内のダウンカマP17に存在する冷却水(炉水)は、インターナルポンプP21で昇圧され、炉心P13よりも下方の下部プレナムに導かれる。炉水は、下部プレナムから炉心P13に供給され、燃料集合体の燃料棒に含まれる核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉圧力容器P12から主蒸気配管P2を通ってタービンP3に導かれ、タービンP3を回転させる。タービンP3に連結された発電機(不図示)が回転され、電力が発生する。タービンP3から排出された蒸気は、復水器P4で凝縮されて水になる。
【0026】
復水器P4は、熱交換器の一種であり、取水口で取水された海水で蒸気を冷やして水に戻す。蒸気を冷やして温度が上昇した温排水は、放水口から放水される。取水時の温度(取水温度)と放水時の温度(放水温度)との差は、7~8℃になるように規定されている。このため、プラントは、海水の流量や熱出力を調整しながら運転される。
【0027】
復水器P4で凝縮された水は、給水として、給水配管P10を通って原子炉圧力容器P12内に供給される。給水配管P10を流れる給水は、復水ポンプP5で昇圧され、復水浄化装置P6で不純物が除去されて、給水ポンプP7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9で加熱される。抽気配管P14で主蒸気配管P2およびタービンP3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0028】
原子炉圧力容器P12内の炉水には給水に含まれる金属腐食生成物や原子炉圧力容器P12内の構造材の腐食によって生じた生成物が含まれるため、一定の割合の炉水が炉水浄化系によって浄化される。原子炉圧力容器P12内の炉水は、浄化系ポンプP24の駆動により、残留熱除去系配管P28から分岐した浄化系配管P20を通して再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26に供給され、これらの熱交換器により50℃程度まで冷却される。冷却された炉水が炉水浄化装置P27を通ることによって炉水に含まれる金属腐食生成物が除去され、再生熱交換器P25で昇温された後、給水配管P10内を流れる給水と合流して原子炉圧力容器P12に供給される。
【0029】
原子炉P1の運転を停止するときには、全制御棒(不図示)が炉心に挿入される。全制御棒の挿入により核燃料物質の核分裂反応が停止され、原子炉P1の運転が停止される。炉心P13および原子炉圧力容器P12内の機器に残留する熱は炉水の蒸発によって除去されるが、ある程度、温度が低下すると炉水の蒸発による除熱効率が低下するため、炉水温度が150℃程度まで低下すると残留熱除去系を用いて炉心P13および原子炉圧力容器P12内の機器を冷却する。すなわち、残留熱除去系ポンプP29の駆動により原子炉圧力容器P12内の炉水が残留熱除去系配管P28を通して熱交換器P30に供給され、そして、その炉水は熱交換器P30で冷却されて原子炉圧力容器P12に戻される。
【0030】
原子炉運転中の炉水にはコバルト60をはじめとする放射性金属腐食生成物が含まれており、その濃度に応じて構造材への付着が生じ、構造材へ付着した放射性核種からの放射線によって定期検査従事者の放射線被ばくが生じる。
【0031】
次に、図2を参照して、本実施例の炉水放射能濃度・放水温度予測装置(以下、単に「予測装置」と称する)の原理について説明する。
【0032】
原子炉P1内への給水中に含まれる金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生する金属腐食生成物との間には、図3で示すマスバランスモデルに示す物理モデルが成立することが知られている。
【0033】
マスバランスモデルは、給水中に含まれている金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生する金属腐食生成物とが、炉水を介在して燃料棒表面や炉内・炉外の構造材表面に再付着したり、炉水浄化系によって系外に除去されたりする動的挙動をマクロな質量保存則によって記述する物理モデルである。なお、図2の実線と破線の矢印は、クラッドとイオンによる移行を示している。
【0034】
金属腐食生成物のマスバランスモデルは、以下に示す(式1)~(式8)に示される連立微分方程式群により記述される。
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
【0038】
【数5】
【0039】
【数6】
【0040】
【数7】
【0041】
【数8】
【0042】
上式において、変数やパラメータの意味は以下のとおりである。
C:炉水の金属腐食生成物濃度(炉水金属腐食生成物濃度、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどの濃度)
t:時刻
V:炉水保有水量
:給水流量
:金属腐食生成物の給水中濃度(給水金属腐食生成物濃度)
X:炉内構造材の腐食により発生する金属腐食生成物の発生率
ζ:燃料棒付着物の溶出あるいは剥離定数
ζ :炉内構造材付着物の溶出あるいは剥離定数
ζ :炉外構造材付着物の溶出あるいは剥離定数
【0043】
M:燃料棒上に蓄積する金属腐食生成物量
:炉内の構造材表面に付着蓄積する金属腐食生成物量
:炉外の構造材表面に付着蓄積する金属腐食生成物量
δ:燃料棒への付着定数
β:原子炉浄化系における除去率
δ :炉内構造材への付着定数
δ :炉外構造材への付着定数
:炉内の構造材の表面積
:炉外の構造材の表面積
【0044】
R:炉水の放射性金属腐食生成物濃度(炉水放射性金属腐食生成物濃度、例えば、コバルト60、コバルト58、マンガン54などの濃度)
Y:炉内構造材の腐食により発生する放射性金属腐食生成物の発生率
A:燃料棒上に蓄積する放射性金属腐食生成物量
Γ:炉内の構造材表面に付着蓄積する放射性金属腐食生成物量
Γ:炉外の構造材表面に付着蓄積する放射性金属腐食生成物量
λ:放射性金属腐食生成物の崩壊定数
G:燃料棒上における放射性核種の生成率
:炉内構造材上における放射性核種の生成率
【0045】
上記変数のなかで、C、C、F、R、Γは運転中に測定可能な状態量であり、M、A、Γは定期検査などの停止時に炉内から燃料棒を取り出したときに測定可能な状態量である。また、V、S、Sはプラント固有のプラントパラメータである。λ、G、Gは放射性金属腐食生成物の核種に応じて定まる物理定数であって、X、Y、ζ、ζ 、ζ 、δ、δ 、δ 、βは原則的にモデルパラメータである。なお、m、mは水側から付着したものと構造材の腐食によって発生したものとの区別ができないので、通常測定が困難な状態量である。
【0046】
本実施例の予測装置において予測対象となる金属腐食生成物をコバルト60とする。一方、予測対象以外の金属腐食生成物についても、上述したマスバランスモデルに従うことが考えられる。従って、給水中に含まれている金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生する金属腐食生成物であるコバルト60との間に統計学上でいう強い相関関係があると予想される一方、給水中に含まれている金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生するコバルト60以外の金属腐食生成物(図2ではコバルト58と鉄とを例に挙げている)との間にも強い相関関係があると予想される。そして、これら相関関係を前提に考えると、コバルト60の濃度とコバルト58、鉄の濃度との間にも強い相関関係があると予想される。
【0047】
そこで、本実施例の予測装置では、給水中に含まれている金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生する金属腐食生成物であるコバルト60との間の相関関係を学習した第一の学習モデルを生成し、また、給水中に含まれている金属腐食生成物と、炉水に接する炉内・炉外の構造材の腐食に伴って発生するコバルト60以外の金属腐食生成物との間の相関関係を学習した第二の学習モデルを生成する。そして、(1)第一の学習モデルにより実際の給水中に含まれている金属腐食生成物に基づくコバルト60の金属腐食生成物濃度を予測するとともに、(2)第二の学習モデルにより実際の給水中に含まれている金属腐食生成物に基づくコバルト60以外の金属腐食生成物の濃度を予測し、さらに、(3)コバルト60以外の金属腐食生成物の濃度から予測されるコバルト60の金属腐食生成物濃度を予測し、(1)の結果と(3)の結果(ともにコバルト60の金属腐食生成物濃度を予測している)との差異に基づいて(1)の結果の妥当性を判定している。
【0048】
以下に、本実施形態に係る原子力発電プラントP100における炉水の放射能濃度および放水温度を予測する炉水放射能濃度・放水温度予測装置を説明する。炉水放射能濃度・放水温度予測装置は、炉水のコバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54などの濃度、および放水温度を予測する。予測には機械学習技術を用いる。
【0049】
本実施形態に係る炉水放射能濃度・放水温度予測装置によれば、放射性金属腐食生成物濃度や放水温度が高精度に予測できる。この予測を用いることで、プラントの運用者は、放水(温排水)の温度管理の規定を守りつつ、運転中の炉水放射能濃度を下げたり、遮蔽を敷設したり、化学除染を実施したりして被ばくを抑制する計画を立案し、実施できるようになる。
【0050】
図4は、本実施形態に係る予測装置100の機能構成図である。予測装置100は、コンピュータであり、制御部110、モデル記憶部120、データ記憶部130、および入出力部140を備える。予測装置100は、原子力発電プラントP100で使用されるプロセスコンピュータP110から熱出力などの運転データ、および原子力発電プラントP100内に設置された計測器P120からの出力データを受信する。
【0051】
モデル記憶部120は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などから構成され、予測モデルが格納される予測モデル記憶部121、検証用指標モデルが格納される検証用指標モデル記憶部122及び整合性判定モデルが格納される整合性判定モデル記憶部123を有する。
【0052】
予測モデル記憶部121に格納される予測モデルは、入力データ(説明変数)としてプラント状態量及び海水情報を用い、出力データ(目的変数)としてコバルト60の金属腐食生成物濃度を用いた機械学習の学習モデルであり、例えばニューラルネットワークである。
【0053】
検証用指標モデル記憶部122に格納される検証用指標モデルは、入力データ(説明変数)としてプラント状態量及び海水情報を用い、出力データ(目的変数)としてコバルト60以外(本実施例では後述するようにコバルト58、鉄、ニッケル)の金属腐食生成物濃度を用いた機械学習の学習モデルであり、例えばニューラルネットワークである。
【0054】
整合性判定モデル記憶部123に格納される整合性判定モデルは、入力データ(説明変数)としてコバルト60以外の金属腐食生成物濃度を用い、出力データ(目的変数)としてコバルト60の金属腐食生成物濃度を用いた機械学習の学習モデルであり、例えばニューラルネットワークである。
【0055】
ここで、本実施例にいうプラント状態量は、原子力発電プラントP100のプラントデータや給水データ、炉水水質データを含む。また、プラント状態量は、炉心P13(図1参照)に装荷されている燃料集合体の炉内滞在期間、電気出力などのプラント状態量を含む。海水情報とは、取水温度(取水口での海水温度)や放水温度(放水口での温排水温度)である。海水情報は、取水温度に影響を与える海流の温度や位置などの情報を含んでもよい。
【0056】
データ記憶部130は、モデル記憶部120と同様にRAMやROM、SSDなどから構成され、説明変数データが格納される説明変数データ記憶部131、目的変数データが格納される目的変数データ記憶部132及び検証用指標データが格納される検証用指標データ記憶部133を有する。
【0057】
説明変数データ記憶部131に格納される説明変数データは、上述したプラント状態量及び海水情報からなる。
【0058】
目的変数データ記憶部132に格納される目的変数データは、一例として図5に示すようなデータ構造を有する。図5に示すように、目的変数データ200は、エントリとして日付201及び炉水コバルト60イオン濃度202を有する。
【0059】
検証用指標データ記憶部133に格納される検証用指標データは、一例として図6に示すようなデータ構造を有する。図6に示すように、検証用指標データ210は、エントリとして日付211、炉水コバルト58イオン濃度212、炉水鉄クラッド濃度213及び炉水ニッケルイオン濃度214を有する。
【0060】
入出力部140は、プロセスコンピュータP110や計測器P120からのデータを受信して、プラント状態量・海水情報データベース150に格納する。また、入出力部140は、不図示のディスプレイやキーボード、マウスを備え、予測装置100の利用者からの操作を受け付けたり、予測結果などのデータを表示したりする。
【0061】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)から構成され、学習部111、予測部112、整合性判定モデル作成部113及び検証部114を有する。
学習部111は、説明変数データ記憶部131に格納されている説明変数データを教師データ(学習データ)として学習処理を行い、炉水の放射能濃度と放水温度とを予測する予測モデル及び検証用指標予測モデルを生成する。
【0062】
予測部112は、生成された予測モデル及び検証用指標モデルに説明変数データを入力して、炉水の放射能濃度と放水温度とを予測する予測処理を実行する。
【0063】
整合性判定モデル作成部113は、検証用指標データ記憶部133に記憶されている検証用指標データを入力データとして学習処理を行い、目的変数データを予測する整合性判定モデルを生成する。
【0064】
検証部114は、予測モデルの出力結果である炉水のコバルト60の金属腐食生成物濃度と、整合性判定モデルの出力結果である炉水のコバルト60の金属腐食生成物濃度とを比較し、予測モデルの出力結果である炉水のコバルト60の金属腐食生成物濃度の妥当性を検証する。
【0065】
学習部111、予測部112、整合性判定モデル作成部113及び検証部114の処理の詳細は、後記する図9図13を参照して説明する。
【0066】
図7は、本実施形態に係る学習処理における予測モデルの教師データの元となるデータの構成を説明するための図である。本実施形態では、過去3年(36月)分のデータから、将来3年(36月)間を予測する例を説明する。
【0067】
図7に記載のデータセット230は、第1月を開始月とする1セットの教師データの元となるデータセットである。データセット230は、入力データ(入力データの元データ)として、第1月~第36月のプラント状態量と海水情報(取水温度と放水温度)とを含む。また、データセット230は、出力データ(出力データの元データ)として第37月~第72月のコバルト60の炉水放射能濃度(コバルト60濃度とも記す)と放水温度とを含む。これらのデータは、説明変数データ記憶部131に記憶されている。
【0068】
第1月~第36月のプラント状態量のそれぞれに含まれる、給水流量、給水金属腐食生成物濃度、炉水金属腐食生成物濃度、炉水放射性金属腐食生成物濃度、炉水浄化流量、燃料集合体の炉内滞在期間、電気出力、取水温度、および放水温度など実測可能なプラント状態量(実測データ)が、予測モデルの入力データとして含まれる。
【0069】
第37月~第72月のコバルト60濃度および放水温度(実測値)が、予測モデルの出力データ(炉水放射性金属腐食生成物濃度と放水温度)として含まれる。
【0070】
以上に説明した入力データおよび出力データが予測モデルに対する1セットの教師データとなる。同様にして、第2月を開始日とするデータセット240から1セットの教師データが生成される。以下、これを繰り返すことで、第1月~第101月のコバルト60や海水情報を含むプラント状態量から、30セットの予測モデルに対する教師データ(教師データのデータセット)が生成される。予測モデルの入力となる教師データには、実測可能なプラント状態量と、海水情報(取水温度と放水温度)と、プラント状態量予測値とが含まれる。また、予測モデルの出力となる教師データには、実測値である炉水放射性金属腐食生成物濃度(コバルト60濃度)と、放水情報(放水温度)とが含まれる。
【0071】
図8は、本実施形態に係る予測処理における予測モデルの入力データの元となるデータおよび出力データの構成を説明するための図である。
【0072】
図7において、基準月とは予測処理の実行月であり、予測部112は、基準月を含めて過去36月分のプラント状態量・海水情報から、基準月の1月~36月後のコバルト60濃度および放水温度を予測する。
【0073】
詳しくは、基準月の35月前~基準月のプラント状態量のそれぞれに含まれる、給水流量、給水金属腐食生成物濃度、炉水金属腐食生成物濃度、炉水放射性金属腐食生成物濃度、炉水浄化流量、燃料集合体の炉内滞在期間、および電気出力など実測可能なプラント状態量と、取水温度および放水温度を含む海水情報と(実測データ)が、予測モデルの入力データとして含まれる。
【0074】
基準日から1月~36月後のコバルト60濃度および放水温度が、予測モデルの出力データ(予測結果)として含まれる。
【0075】
なお、図7及び図8に示すデータは予測モデルに関するものであるが、検証用指標モデルに関するデータも同様のものであるので、ここでの説明を省略する。
【0076】
次に、図9図13のフローチャートを参照して、本実施形態の予測装置100の動作について説明する。
【0077】
図9は、実施形態に係る予測処理における予測モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
【0078】
まず、予測装置100の学習部111は、目的変数データ記憶部132から目的変数データ200を読み込む(S901)。次いで、学習部111は、説明変数データ記憶部131から説明変数データを読み込む(S902)。さらに、学習部111は、説明変数データを入力データ、目的変数データ200を出力データとする回帰モデルを作成する(S903)。そして、学習部111は、S903で作成した回帰モデルを予測モデルとして予測モデル記憶部121に格納する(S904)。
【0079】
図10は、実施形態に係る予測処理における検証用指標予測モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
【0080】
まず、予測装置100の学習部111は、検証用指標データ記憶部133から検証用指標データ210を読み込む(S1001)。次いで、学習部111は、説明変数データ記憶部131から説明変数データを読み込む(S1002)。さらに、学習部111は、説明変数データを入力データ、検証用指標データ210を出力データとする回帰モデルを作成する(S1003)。そして、学習部111は、S1003で作成した回帰モデルを検証用指標モデルとして検証用指標モデル記憶部122に格納する(S1004)。
【0081】
図11は、実施形態に係る予測処理における整合性判定モデルの作成処理を説明するためのフローチャートである。
【0082】
まず、予測装置100の整合性判定モデル作成部113は、目的変数データ記憶部132から目的変数データ200を読み込む(S1101)。次に、整合性判定モデル作成部113は、検証用指標データ記憶部133から検証用指標データ210を読み込む(S1102)。さらに、整合性判定モデル作成部113は、検証用指標データ210を入力データ、目的変数データ200を出力データとする回帰モデルを作成する(S1103)。そして、整合性判定モデル作成部113は、S1103で作成した回帰モデルを整合性判定モデルとして整合性判定モデル記憶部123に格納する(S1104)。
【0083】
図12は、実施形態に係る予測処理における予測結果整合性検証処理を説明するためのフローチャートである。
【0084】
まず、予測装置100の予測部112は、説明変数データ記憶部131から説明変数データを読み込む(S1201)。
【0085】
次いで、予測部112は、予測モデル記憶部121から予測モデルを読み込む(S1202)。さらに、予測部112は、S1202で読み込んだ予測モデルにS1201で読み込んだ説明変数データを入力して、目的変数データの予測値(予測結果)を得る(S1203)。
【0086】
これと並行して、予測部112は、検証用指標モデル記憶部122から検証用指標モデルを読み込む(S1204)。さらに、予測部112は、S1204で読み込んだ予測モデルにS1201で読み込んだ説明変数データを入力して、検証用指標データの予測値(予測結果)を得る(S1205)。
【0087】
次いで、予測装置100の検証部114は整合性判定処理を行う(S1206)。整合性判定処理の詳細については後述する。そして、検証部114はS1206の整合性判定処理の結果を出力する。
【0088】
図13は、実施形態に係る予測処理における整合性判定処理を説明するためのフローチャートであり、図12のS1206の整合性判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0089】
まず、予測装置100の検証部114は、整合性判定モデル記憶部123から整合性判定モデルを読み込む(S1301)。次いで、検証部114は、図12のS1205で取得した検証用指標データの予測値を整合性判定モデルに入力して目的変数データの推定値を得る(S1302)。
【0090】
そして、検証部114は、S1302で取得した目的変数データの推定値(コバルト60の推定結果)と図12のS1203で取得した目的変数データの予測値(コバルト60の予測結果)とを比較し、これらの差異が所定の誤差値以下であるか否かを判定する(S1203)。なお、誤差値は事前に設定しておくことが好ましい。
【0091】
S1203の判定の結果、所定の誤差値以下であると判定したら(S1203においてYES)、検証部114は整合性判定結果を「YES」にし(S1204)、所定の誤差値を上回ったと判定したら(S1203においてNO)、検証部114は整合性判定結果を「NO」にする(S1205)。
【0092】
以上詳細に説明したように、本実施形態の予測装置100によれば、コバルト60の金属腐食生成物濃度の予測結果についてその整合性、妥当性を検証することができる。
【0093】
マスバランスモデルに基づいて学習モデルを作成し、この学習モデルによりコバルト60の金属腐食生成物濃度を予測することは可能である。一方で、学習モデルに基づくコバルト60の金属腐食生成物濃度の精度を保証することは、学習モデル単体では困難である。本実施形態の予測装置100によれば、予測モデルにより得られたコバルト60の金属腐食生成物濃度の予測値を、検証用指標モデルにより得られたコバルト60以外の金属腐食生成物濃度の予測値、及び整合性判定モデルによりえら得たコバルト60の金属腐食生成物濃度の推定値を用いて検証することが可能になる。これにより、予測モデルにより得られたコバルト60の金属腐食生成物濃度の整合性、妥当性を検証することができ、より精度の高いコバルト60の金属腐食生成物濃度を求めることができる。
【0094】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0095】
例えば、上述の実施形態において、整合性判定モデルにより得られたコバルト60の金属腐食生成物濃度の推定結果を用いて予測モデルの学習を再度行うことも可能である。
【0096】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0097】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
(付記1)
原子力発電プラントにおける原子炉の炉水放射性金属腐食生成物濃度および海水の放水 情報を予測するための予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、
入力データとして、実測可能なプラント状態量と、海水情報とを含み、第一の出力デー タとして、実測値である第一の炉水放射性金属に関する第一の炉水放射性金属腐食生成物 濃度と、前記放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて前記予測モデル を構築し、また、入力データとして、前記プラント状態量と前記海水情報とを含み、第二 の出力データとして、実測値である前記第一の炉水放射性金属と異なる第二の炉水放射性 金属に関する第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、前記放水情報とを含む教師データ を機械学習モデルに学習させて検証用指標モデルを構築する学習部
を備えることを特徴とする予測モデル構築装置。
(付記2)
原子力発電プラントにおける原子炉の炉水放射性金属腐食生成物濃度および海水の放水 情報を予測するための予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、
入力データとして、実測可能なプラント状態量と、海水情報とを含み、第一の出力デー タとして、実測値である第一の炉水放射性金属に関する第一の炉水放射性金属腐食生成物 濃度と、前記放水情報とを含む教師データを機械学習モデルに学習させて前記予測モデル を構築し、また、入力データとして、前記プラント状態量と前記海水情報とを含み、第二 の出力データとして、実測値である前記第一の炉水放射性金属と異なる第二の炉水放射性 金属に関する第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度と、前記放水情報とを含む教師データ を機械学習モデルに学習させて検証用指標モデルを構築する学習部と、
前記実測可能なプラント状態量、前記海水情報を入力データとして、前記予測モデル及 び前記検証用指標モデルに入力して、前記第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度及び前記 放水情報からなる前記第一の出力データ、前記第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度及び 前記放水情報からなる前記第二の出力データを計算する予測部と、
これら第一及び第二の出力データに基づいて前記第一の出力データの妥当性を検証する 検証部と
を備えることを特徴とする予測装置。
(付記3)
前記第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度と前記第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度 との間には強い相関があることを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
(付記4)
前記第二の出力データを入力データとして、前記第一の出力データを出力データとした 教師データを機械学習モデルに学習させて整合性判定モデルを構築する整合性判定モデル 作成部を備え、
前記検証部は、前記第二の出力データを前記整合性判定モデルに入力することで得られ る前記第一の出力データと、前記第二の出力データを前記予測モデルに入力することで得 られる前記第一の出力データとを比較することで前記第一の出力データの妥当性を検証す
ことを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
(付記5)
前記検証部は、前記第二の出力データを前記整合性判定モデルに入力することで得られ る前記第一の出力データと、前記第二の出力データを前記予測モデルに入力することで得 られる前記第一の出力データとの差分が所定値以下であれば前記第一の出力データに妥当 性があると判定することを特徴とする(付記4)に記載の予測装置。
(付記6)
前記実測可能なプラント状態量は、前記原子炉の炉水の給水流量、給水金属腐食生成物 濃度、炉水金属腐食生成物濃度、炉水放射性金属腐食生成物濃度、炉水浄化流量、燃料集 合体の炉内滞在期間、および電気出力のなかの何れか少なくとも1つを含む
ことを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
(付記7)
前記入力データに含まれる前記海水情報は、前記海水の取水温度と放水温度とを含み、 前記第一及び第二の出力データに含まれる放水情報は、前記海水の放水温度を含む
ことを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
(付記8)
前記第一の炉水放射性金属腐食生成物濃度は、コバルト60、コバルト58、およびマ ンガン54のなかの何れかの炉水放射性金属腐食生成物濃度である
ことを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
(付記9)
前記第二の炉水放射性金属腐食生成物濃度は、コバルト58、鉄およびニッケルのなか の何れかの炉水放射性金属腐食生成物濃度である
ことを特徴とする(付記2)に記載の予測装置。
【符号の説明】
【0098】
100…予測装置 110…制御部 111…学習部 112…予測部 113…整合性判定モデル作成部 114…検証部 120…モデル記憶部 121…予測モデル記憶部 122…検証用指標モデル記憶部 123…整合性判定モデル記憶部 130…データ記憶部 131…説明変数データ記憶部 132…目的変数データ記憶部 133…検証用指標データ記憶部 140…入出力部 150…海水情報データベース 200…目的変数データ 210…検証用指標データ 230…データセット 240…データセット


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13