(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20241119BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
E04B1/30 Z
E04B1/58 503N
(21)【出願番号】P 2021095760
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】金本 清臣
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-000557(JP,A)
【文献】特開2020-169442(JP,A)
【文献】特開2002-339455(JP,A)
【文献】特開2003-343119(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0305929(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/36
E04B 1/38 - 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFT柱と該CFT柱の上方に配置されたRC柱とが接合された柱の底面の反力を求める際に必要な軸芯との距離である偏心距離を算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法であって、
前記CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε
1,ε
2より、ε
1とε
2の値を直線で結び、前記直線の傾きφを下記式(1-1)より求め、
【数1】
前記直線によって規定される平面は終局時まで保持されるものと仮定して、下記式(1-2)より、
【数2】
前記偏心距離eを算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法。
【請求項2】
CFT柱と該CFT柱の上方に配置されたRC柱とが接合された柱の底面の反力を求める際に必要な軸芯との距離である偏心距離を算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法であって、
前記CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε
1,ε
2及び測定値ε
1,ε
2の中央のひずみε
0より、ε
0とε
1の値及びε
0とε
2の値をそれぞれ直線で結び、各前記直線の傾きφ
1,φ
2を下記式(2-1a),(2-1b)により求め、
【数3】
各前記直線によって規定される平面は終局時まで保持されるものと仮定して、下記式(2-2)より、
【数4】
前記偏心距離eを算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RC柱とCFT柱とを接合する構造(工法)として、下記の特許文献1に記載の接合構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、RC柱とCFT柱とが接合された柱(以下、CFT-RC柱と称す)に、軸力(長期荷重)と水平力(短期荷重[地震荷重]を想定しているため、この水平力は正負交番を繰返しながら漸増する)が作用した場合のCFT-RC柱底面の反力(軸方向力)及びその作用位置(材軸芯からの偏心距離)を求めるまでには至っていなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、CFT-RC柱底面の反力を求める際に必要な偏心距離を算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法は、CFT柱と該CFT柱の上方に配置されたRC柱とが接合された柱の底面の反力を求める際に必要な軸芯との距離である偏心距離を算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法であって、前記CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε
1,ε
2より、ε
1とε
2の値を直線で結び、前記直線の傾きφを下記式(1-1)より求め、
【数1】
前記直線によって規定される平面は終局時まで保持されるものと仮定して、下記式(1-2)より、
【数2】
前記偏心距離eを算定する。
【0007】
このように構成されたCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法では、CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε1,ε2より、ε1とε2の値を直線で結び、前記直線の傾きφを求める。この傾きφに基づいて、CFT-RC柱底面の反力(軸方向力)を求める際に必要な軸芯との偏心距離eを算定することができる。
【0008】
また、本発明に係るCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法は、CFT柱と該CFT柱の上方に配置されたRC柱とが接合された柱の底面の反力を求める際に必要な軸芯との距離である偏心距離を算定するCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法であって、前記CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε
1,ε
2及び測定値ε
1,ε
2の中央のひずみε
0より、ε
0とε
1の値及びε
0とε
2の値をそれぞれ直線で結び、各前記直線の傾きφ
1,φ
2を下記式(2-1a),(2-1b)により求め、
【数3】
各前記直線によって規定される平面は終局時まで保持されるものと仮定して、下記式(2-2)より、
【数4】
前記偏心距離eを算定する。
【0009】
このように構成されたCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法では、CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε1,ε2及び測定値ε1,ε2の中央のひずみε0より、ε0とε1の値及びε0とε2の値をそれぞれ直線で結び、各前記直線の傾きφ1,φ2を求める。この傾きφ1,φ2に基づいて、CFT-RC柱底面の反力(軸方向力)を求める際に必要な軸芯との偏心距離eを算定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法によれば、CFT-RC柱底面の反力を求める際に必要な偏心距離を算定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るCFT柱とRC柱との接合構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るCFT-RC柱試験体におけるCFT柱鋼管のひずみ測定位置を示した正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るCFT-RC柱試験体におけるCFT柱鋼管のひずみ測定位置を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態によるCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法について、図面に基づいて説明する。
【0013】
(CFT柱とRC柱との接合構造)
まず、CFT柱とRC柱との接合構造について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るCFT柱とRC柱との接合構造を示す図である。
図1に示す本実施形態のCFT柱とRC柱との接合構造20は、例えば、重層物流施設の倉庫の架構等に適用される。倉庫は、例えば、低層階に階高10mを超える階を設け、その中に重層且つ複雑なマテハン架台を備えて構成されている。
【0014】
なお、CFT柱とRC柱との接合構造20は、重層物流施設への適用だけでなく、例えば、CFT構造の低層部をオフィスや商業施設、RCS構造やRC構造の高層部を住宅・ホテルを有する複合施設とする施設に採用してもよく、低層部にCFT柱2を備え、高層部にRC柱3を備えていれば、特にその適用対象を限定する必要はない。
【0015】
本実施形態のCFT柱とRC柱との接合構造20では、低層部のCFT柱2の鋼管5をCFT柱2の頂部2aから根巻きレベル程度(約1.5m程度)上方に延出させている。鋼管5の延出部分である接合鋼管(根巻鋼管)6の内部に、上層部のRC柱3の主筋7を挿入するとともにコンクリート8を打設充填され、主筋7がコンクリート8に定着している。
【0016】
接合鋼管6は、角筒状をなしている。接合鋼管6の頂部6a側は、接合鋼管6の上端部の内面から内側に突出し周方向に延びて繋がる環状のリブプレートが補剛部9として設けられている。補剛部9は、接合鋼管6の4辺に設けられている。補剛部9によって接合鋼管6を補剛し、面外変形を抑制するようにしている。
【0017】
接合鋼管6に挿入される部分のRC柱3の主筋7の下端部7dには、定着板10が取り付けられている。定着板10によって、主筋7と接合鋼管6内部のコンクリート8とが一体化するため、変形の漸増に伴って接合鋼管6内部のコンクリート8から主筋7が抜け出すのを防ぐ。CFT柱2の頂部2aには、梁4が接合されている。
【0018】
(CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法1)
次に、CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法1を説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係るCFT-RC柱試験体におけるCFT柱鋼管のひずみ測定位置を示した正面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係るCFT-RC柱試験体におけるCFT柱鋼管のひずみ測定位置を示した側面図である。
図2及び
図3に、CFT-RC柱試験体におけるCFT柱鋼管のひずみ測定位置の一例を示す。
偏心距離の算定方法1は、CFT柱鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε
1,ε
2を用いた「平面保持仮定一直線分布」による方法である。
【0019】
本方法によるひずみ測定位置xと当該位置のひずみゲージから得られるCFT柱鋼管最外縁のひずみε
1,ε
2との関係を
図4に示し、偏心距離の算定手順を以下に示す。
【0020】
(1)ε1とε2の値を直線で結び、下記式(1-1)式よりφ(直線の傾き)を求める。
【0021】
【0022】
この直線によって規定される平面は、終局時まで保持されるものとする(平面保持の仮定)。
【0023】
(2)CFT-RC柱に圧縮軸力が作用した場合のCFT柱鋼管最外縁のひずみεxiを算定する。
CFT-RC柱に圧縮軸力が作用し、CFT柱鋼管に軸ひずみε0が生じた場合、εxiは下記式(1-2)式で表される。
【0024】
【0025】
(3)CFT柱鋼管の負担軸力NSを算定する。
1)εxi≦εy(εy:CFT柱鋼管の降伏ひずみ)の場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が弾性範囲内にあるものとして、下記式(1-3)式によりNSを算定する。
【0026】
【0027】
2)εxi>εyの場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとして、εxiをCFT柱鋼管の応力度σsに変換し、下記式(1-4)によりNSを算定する。
なお、CFT-RC柱に正負交番漸増繰返し水平力が作用すると、CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係は弾性範囲を超えて塑性域に入り、応力度とひずみ度の比例関係が成立しなくなるため、NSは下記式(1-4)によって算定されるケースが多いものと考えられる。
【0028】
【0029】
(4)CFT柱鋼管の負担曲げモーメントMSを算定する。
1)εxi≦εyの場合
MSを下記式(1-5)により算定する。
【0030】
【0031】
2)εxi>εyの場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとして、εxiをCFT柱鋼管の応力度σsに変換し、下記式(1-6)によりMSを算定する。
【0032】
【0033】
なお、σs1,σs2は、CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとしてCFT柱鋼管のひずみ測定値ε1,ε2を応力度に変換したものである。したがって、σs1,σs2は当該ひずみ測定位置におけるCFT柱鋼管の応力度になる。
【0034】
RC柱の負担軸力N
RC、負担曲げモーメント(CFT柱鋼管内のRC柱底面に作用する曲げモーメント)M
RCを、それぞれ下記式(1-7),(1-8)により算定する。なお、N,P,Hについては、
図2に示す。
【0035】
【0036】
(6)偏心距離eを算定する。
eは、式(1-8)の関係から下記式(1-9)により算定する。
【0037】
【0038】
(CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法2)
次に、CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法2を説明する。
偏心距離の算定方法2は、CFT柱鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε1,ε2と同中央のひずみε0を用いた「平面保持仮定二直線分布」による方法である。
【0039】
本方法によるひずみ測定位置xと当該位置のひずみゲージから得られるCFT柱鋼管最外縁のひずみε
1,ε
2及び軸ひずみ(測定値ε
1と測定値ε
2との中央のひずみ、測定値)ε
0との関係を
図4に示し、偏心距離の算定手順を以下に示す。本算定方法では、ε
0を基点に、ε
0-ε
1区間とε
0-ε
2区間の2区間に分けて考える。
【0040】
(1)ε0-ε1区間とε0-ε2区間の曲率φ1,φ2を算定する。
ε0とε1、ε0とε2の値それぞれを直線で結び、下記式(2-1a),(2-1b)により各区間φ1,φ2(直線の傾き)を求める。
【0041】
【0042】
各直線によって規定される平面は、終局時まで保持されるものとする(平面保持の仮定)。
【0043】
(2)CFT-RC柱に圧縮軸力が作用した場合の各区間のCFT柱鋼管最外縁のひずみε1Xi,ε2Xiを下記式(2-2a),(2-2b)により算定する。
【0044】
【0045】
(3)CFT柱鋼管の負担軸力NSを算定する。
1)εxi≦εy(εy:CFT柱鋼管の降伏ひずみ)の場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が弾性範囲内にあるものとして、下記式(2-3)式によりNSを算定する。
【0046】
【0047】
2)εxi>εyの場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとして、εxiをCFT柱鋼管の応力度σsに変換し、下記式(2-4)によりNSを算定する。
なお、CFT-RC柱に正負交番漸増繰返し水平力が作用すると、CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係は弾性範囲を超えて塑性域に入り、応力度とひずみ度の比例関係が成立しなくなるため、NSは下記式(2-4)によって算定されるケースが多いものと考えられる。
【0048】
【0049】
(4)CFT柱鋼管の負担曲げモーメントMSを算定する。
1)εxi≦εyの場合
MSを下記式(2-5)により算定する。
【0050】
【0051】
2)εxi>εyの場合
CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとして、εxiをCFT柱鋼管の応力度σsに変換し、下記式(2-6)によりMSを算定する。
【0052】
【0053】
なお、σs1,σs2は、CFT柱鋼管の応力度-ひずみ度関係が完全弾塑性型の履歴則に従うものとしてCFT柱鋼管のひずみ測定値ε1,ε2を応力度に変換したものである。したがって、σs1,σs2は当該ひずみ測定位置におけるCFT柱鋼管の応力度になる。
【0054】
RC柱の負担軸力N
RC、負担曲げモーメント(CFT柱鋼管内のRC柱底面に作用する曲げモーメント)M
RCを、それぞれ下記式(2-7),(2-8)により算定する。なお、N,P,Hについては、
図2に示す。
【0055】
【0056】
(6)偏心距離eを算定する。
eは、式(2-8)の関係から下記式(2-9)により算定する。
【0057】
【0058】
次に、下記の表1に示す試験体No.1を例として当該実験結果を用いて、上記の算定方法1,2による偏心距離eの算定を試みる。
【0059】
【0060】
試験体No.1の試験体図を
図6~
図8に示し、算定方法1,2による試験体No.1の偏心距離の算定結果を
図9に示す。
【0061】
図9に示すように、算定方法1,2ともほぼ同精度でCFT-RC柱底面の反力(軸方向力)を求める際に必要な軸芯との偏心距離e(この場合、e≒200mm)を算定できることが分かる。
【0062】
このように構成されたCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法1では、CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε1,ε2より、ε1とε2の値を直線で結び、前記直線の傾きφを求める。この傾きφに基づいて、CFT-RC柱底面の反力(軸方向力)を求める際に必要な軸芯との偏心距離eを算定することができる。
【0063】
また、CFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法2では、CFT柱の鋼管の最外縁2点のひずみ測定値ε1,ε2及び測定値ε1,ε2の中央のひずみε0より、ε0とε1の値及びε0とε2の値をそれぞれ直線で結び、各前記直線の傾きφ1,φ2を求める。この傾きφ1,φ2に基づいて、CFT-RC柱底面の反力(軸方向力)を求める際に必要な軸芯との偏心距離eを算定することができる。
【0064】
以上、本発明に係るCFT柱とRC柱との接合構造における偏心距離の算定方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0065】
2 CFT柱
3 RC柱
5 鋼管
20 CFT柱とRC柱との接合構造
e 偏心距離