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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20241119BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20241119BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20241119BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B60C9/18 K
B60C5/00 H
B60C11/03 B
B60C9/22 C
B60C11/03 100A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021102395
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001584
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】松永 家朋
(72)【発明者】
【氏名】桑山 勲
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0186189(US,A1)
【文献】特開2010-120437(JP,A)
【文献】特開2009-061842(JP,A)
【文献】特開2010-120438(JP,A)
【文献】米国特許第05975176(US,A)
【文献】特開2019-001420(JP,A)
【文献】特開2015-202781(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162607(WO,A1)
【文献】特開2006-151212(JP,A)
【文献】特開2014-172582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 5/00
B60C 11/03
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接するトレッドと、コードが交錯する一対の交錯ベルトとを備えるタイヤであって、
タイヤ赤道線を基準とした車両装着時内側の前記トレッドに形成される溝部のボリュームは、前記タイヤ赤道線を基準とした車両装着時外側の前記トレッドに形成される溝部のボリュームよりも少なく、
前記交錯ベルトと前記トレッドとの間に、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿って延び、所定の距離を隔てて配置された複数の補強コードを被覆した補強ベルトを備え、
前記補強ベルトは、前記車両装着時外側から前記車両装着時内側に亘って設けられるタイヤ。
【請求項2】
前記交錯ベルトと前記補強ベルトとの間に、タイヤ周方向に沿ってコードが巻き付けられたスパイラルベルトを備える請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記補強ベルトは、少なくともタイヤ幅方向における接地端まで設けられる請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記車両装着時内側に形成される前記溝部は、少なくとも1つの周方向溝を含む請求項1乃至3の何れか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ赤道線を基準とした非対称パターンのトレッドを備えるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪自動車などの車両に装着される空気入りタイヤ(以下、タイヤと適宜省略する)では、例えば、運動性能や騒音対策を目的として、タイヤ赤道線を基準とした非対称パターンが広く採用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような非対称パターンのトレッドを備えるタイヤでは、タイヤ赤道線を基準とした車両装着時外側(OUT側)に形成される溝部のボリューム(いわゆるネガティブ率)と、車両装着時内側(IN側)に形成される溝部のボリュームとが異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-159244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような車両装着時内側(IN側)のネガティブ率が低く、特に、パターンまたはゴムの種類によってトレッドの剛性が高くなっている場合、直進状態での加速または減速(制動)時に、車両のネガティブキャンバーとも相俟って、IN側のトレッドの接地圧が抜けてしまい、前後力(Fx)が低下し易い現象が生じる。この結果、制駆動性能を悪化させ得る。
【0006】
そこで、以下の開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、車両装着時内側(IN側)のネガティブ率が低い非対称パターンを採用した場合でも、直進状態での加速または減速時の接地圧抜けを効果的に抑制し得るタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、路面に接するトレッド(トレッド40)と、コードが交錯する一対の交錯ベルト(傾斜ベルト61, 63)とを備えるタイヤ(空気入りタイヤ10)であって、タイヤ赤道線を基準とした車両装着時内側の前記トレッドに形成される溝部のボリュームは、前記タイヤ赤道線を基準とした車両装着時外側の前記トレッドに形成される溝部のボリュームよりも少なく、前記交錯ベルトと前記トレッドとの間に、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿って延び、所定の距離を隔てて配置された複数の補強コードを被覆した補強ベルト(補強ベルト70)を備え、前記補強ベルトは、前記車両装着時外側から前記車両装着時内側に亘って設けられる。
【発明の効果】
【0008】
上述したタイヤによれば、車両装着時内側(IN側)のネガティブ率が低い非対称パターンを採用した場合でも、直進状態での加速または減速時の接地圧抜けを効果的に抑制し得る
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、空気入りタイヤ10のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面図である。
図2図2は、空気入りタイヤ10のトレッドの一部平面展開図である。
図3図3は、空気入りタイヤ10のトレッド40内部の一部分解平面図である。
図4図4は、ネガティブキャンバーが付与された四輪自動車に装着された空気入りタイヤ10の断面形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0011】
(1)タイヤの全体概略構成
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の断面図である。具体的には、図1は、空気入りタイヤ10のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿った断面図である。なお、図1では、断面ハッチングの図示が、一部省略されている(以下同)。図2は、空気入りタイヤ10のトレッドの一部平面展開図である。
【0012】
本実施形態では、空気入りタイヤ10は、主に乗用自動車などの四輪自動車(車両)に用いられる。四輪自動車には、軽自動車やSUV(Sport Utility Vehicle)なども含まれてよく、また、スポーツドライビングに好適なスポーツカーが含まれてもよい。
【0013】
空気入りタイヤ10は、ビード部20、サイドウォール部30及びトレッド40を備える。また、空気入りタイヤ10は、トレッド40のタイヤ径方向内側に、カーカス50及びベルト層60を備える。さらに、空気入りタイヤ10は、トレッド40(トレッドゴム)とベルト層60との間に、補強ベルト70を備える。
【0014】
ビード部20は、リムホイールRM(図1,2において不図示、図4参照)に係止され、タイヤ周方向に沿った円環状である。ビード部20は、金属(スチールなど)または有機繊維のコードを束ねたビードコア21を有する。ビードコア21のタイヤ径方向外側には、周囲のゴムよりも高剛性なゴム(或いはゴム以外(例えば、樹脂)によって形成されたビードフィラー(不図示、スティフナーと呼ばれてもよい)が設けられてもよい。
【0015】
サイドウォール部30は、ビード部20に連なり、ビード部20のタイヤ径方向内側に位置する。サイドウォール部30は、ビード部20のタイヤ幅方向外側端からベルト層60の上端までの領域である。サイドウォール部30は、サイドウォールなどと呼ばれることもある。
【0016】
トレッド40は、路面GND(図1,2において不図示、図4参照)と接する部分である。空気入りタイヤ10のトレッド40には、空気入りタイヤ10に要求される各種性能、具体的には、高速耐久性、運動性能(コーナリング性能、操縦安定性、制動性能など)、排水性能、耐摩耗性能、転がり抵抗(RR)及び静粛性(タイヤ騒音)などを考慮したパターン(トレッドパターン)が形成される。
【0017】
空気入りタイヤ10は、車両への装着時における外側(車両装着時外側(OUT側))及び内側(車両装着時内側(IN側))が指定されることが好ましい。OUT側は、車両装着時に車両側面から視認できる外側に位置し、IN側は、車両装着時に車両側面から視認できない内側に位置する。なお、以下の説明では、単に、外側または内側と適宜記載するが、車両装着時と解釈されてもよい。但し、必ずしも車両装着時に限定されず、単に、サイドウォール部30(またはビード部20)の一方のショルダーを外側(OUT側)、サイドウォール部30(またはビード部20)の他方のショルダーを内側(IN側)と解釈されてもよい。
【0018】
図2に示すように、トレッド40には、幾つかの溝要素によって溝部が形成される。具体的には、トレッド40には、複数の周方向溝41、幅方向サイプ42及びショルダー溝43がそれぞれ形成されてよい。
【0019】
周方向溝41は、タイヤ周方向に沿って延びる直線状の主溝である。タイヤ赤道線CLを基準として、OUT側に2本の周方向溝41、IN側に1本の周方向溝41が形成されている。このように、車両装着時内側(IN側)に形成される溝部は、少なくとも1つの周方向溝41を含んでよい。
【0020】
周方向溝41の幅及び深さは特に限定されないが、例えば、深さは、4.5mm~7mm程度であり、幅は、深さと略同様でもよいし、深さよりも少し広く(または狭く)てもよい。
【0021】
また、周方向溝41の溝壁部分は、タイヤ径方向(タイヤ赤道線CLでもよい)に対して傾斜していてもよい。具体的には、周方向溝41の一方の溝壁部分は、タイヤ径方向内側に向かうに連れて車両装着時内側に近づくように傾斜する。また、周方向溝41の他方の溝壁部分は、タイヤ径方向内側に向かうに連れて車両装着時外側に近づくように傾斜する。つまり、周方向溝41の溝幅は、タイヤ径方向外側からタイヤ径方向内側に向かうに連れて狭くなってもよい。
【0022】
幅方向サイプ42は、タイヤ幅方向に延びる直線状のサイプであり、タイヤ周方向において一定の距離を隔てて複数形成される。
【0023】
なお、サイプとは、トレッド40の接地面内では閉じる細溝であり、非接地時におけるサイプの開口幅は、特に限定されないが、0.1mm~1.5mmであることが好ましい。
【0024】
幅方向サイプ42のタイヤ幅方向における一端は、周方向溝41に連通する。幅方向サイプ42は、タイヤ幅方向に沿いつつ、タイヤ幅方向に対して傾斜する。つまり、幅方向サイプ42は、タイヤ幅方向とは平行でなく、タイヤ幅方向に対して傾斜している。幅方向サイプ42のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、45度以下であり、トレッド40の剛性と通過騒音(PBN)抑制との両立を考慮すると、30度以下であることが好ましい。
【0025】
ショルダー溝43は、IN側のトレッドショルダー部分に形成される。本実施形態では、ショルダー溝43は、タイヤ幅方向に延び、中央部分で折れ曲がるような形状を有する。
【0026】
ショルダー溝43は、正規内圧に設定され、正規荷重が負荷された空気入りタイヤ10のタイヤ幅方向における接地端よりもタイヤ幅方向外側に形成されてよい。但し、ショルダー溝43が形成されている内側ショルダー陸部の領域は、コーナリング時などには路面GNDと接地してもよい。
【0027】
なお、正規内圧とは、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のYearBookにおける最大負荷能力に対応する空気圧であり、正規荷重とは、JATMA YearBookにおける最大負荷能力に対応する最大負荷能力(最大荷重)である。また欧州ではETRTO、米国ではTRA、その他各国のタイヤ規格が対応する。
【0028】
ラグ溝44は、IN側のトレッドショルダー部分に形成される。ラグ溝44は、タイヤ幅方向に沿いつつ、タイヤ幅方向に対して傾斜する。つまり、ラグ溝44は、タイヤ幅方向とは平行でなく、タイヤ幅方向に対して傾斜している。
【0029】
ラグ溝44のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、幅方向サイプ42と同様に45度以下であり、外側ショルダー陸部の剛性とPBN抑制との両立を考慮すると、30度以下であることが好ましい。
【0030】
また、ラグ溝44の周縁部分は、トレッド40(外側ショルダー陸部)の踏面側からタイヤ径方向内側に向かって傾斜していてもよい。このような傾斜は、チャンファー(面取り部)などと呼ばれてもよい。
【0031】
空気入りタイヤ10では、タイヤ赤道線CLを基準とした車両装着時内側のトレッド40に形成される溝部(具体的には、1本の周方向溝41及びラグ溝44)のボリュームは、タイヤ赤道線CLを基準とした車両装着時外側のトレッド40に形成される溝部(具体的には、2本の周方向溝41、幅方向サイプ42及びショルダー溝43)のボリュームよりも少なくなっている。
【0032】
溝部のボリュームとは、上述した正規内圧及び正規荷重時において、路面GNDと接地しない部分の面積(或いは体積)と解釈されてよい。一方、正規内圧及び正規荷重時において、路面GNDと接地する部分が、陸部と解釈されてよい。
【0033】
また、このような溝部と陸部の比率は、いわゆるネガティブ率として定義されてもよい。ネガティブ率は、端的には、溝部/(陸部+溝部)として表現できるが、正確には、トレッド40の全周(または単位長(ピッチ)でもよい)部分を二次元に投影したトレッド40全体面積に対する溝部の比率と解釈されてよい。
【0034】
なお、ネガティブ率の計算を容易にするため、トレッド40の主溝部分のみを溝部の対象とし、他の溝は除外されてもよい。具体的には、本実施形態であれば、タイヤ周方向に延びる周方向溝41は溝部の対象とし、タイヤ幅方向に延びる幅方向サイプ42、ショルダー溝43及びラグ溝44は、ネガティブ率の計算から除外されてもよい。
【0035】
また、陸部の面積の確定に必要となるタイヤ幅方向における接地端は、上述したように、正規内圧に設定された空気入りタイヤ10に最大負荷能力(ロードインデックス(LI))に対応する最大負荷能力(最大荷重)が負荷された状態を基準としてよい。
【0036】
カーカス50は、空気入りタイヤ10の骨格を形成する。カーカス50は、タイヤ径方向に沿って放射状に配置されたカーカスコード51a(図1,2において不図示、図3参照)がゴム材料によって被覆されたラジアル構造である。カーカス50は、ビードコア21を介してタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されている。なお、カーカス50は、1枚でもよいし、2枚以上が積層されてもよい。
【0037】
ベルト層60は、カーカス50のタイヤ径方向外側に設けられる。ベルト層60は、傾斜ベルト61、傾斜ベルト63及びスパイラルベルト65を含む。
【0038】
傾斜ベルト61は、カーカス50のタイヤ径方向外側に設けられる。傾斜ベルト63は、傾斜ベルト61のタイヤ径方向外側に設けられる。傾斜ベルト61及び傾斜ベルト63は、互いに交錯するベルトコード61a及びベルトコード63a(図3参照)をそれぞれ有する。
【0039】
本実施形態において、傾斜ベルト61及び傾斜ベルト63は、コードが交錯する一対の交錯ベルトを構成する。
【0040】
スパイラルベルト65は、傾斜ベルト63、つまり、交錯ベルトのタイヤ径方向外側に設けられる。スパイラルベルト65は、タイヤ周方向に沿ってベルトコード65aが巻き付けられた構造である。具体的には、ベルトコード65aを被覆したストリップ状のゴム部材を交錯ベルトに沿ってタイヤ周方向に巻き付けることによってスパイラルベルト65が構成される。
【0041】
補強ベルト70は、傾斜ベルト63(交錯ベルト)とトレッド40(具体的には、トレッド40を形成するトレッドゴム)との間に設けられる。本実施形態では、補強ベルト70は、スパイラルベルト65とトレッド40との間に設けられる。補強ベルト70は、タイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿って延びる複数の補強コード70a(図3参照)を有する。
【0042】
補強コード70aは、トレッド面視においてタイヤ幅方向に延び、タイヤ側面視において、タイヤ径方向(ラジアル方向と呼ばれてもよい)に沿って延びる。従って、補強ベルト70は、ラジアル方向に沿って延びるコードを有するラジアルベルトなどと呼ばれてもよい。
【0043】
補強ベルト70は、タイヤ周方向には比較的自由に伸びて変形し、逆に、タイヤ幅方向には伸び難く、変形し難い補強ベルトの一種と解釈されてもよい。このように、補強ベルト70は、トレッド40の内部(タイヤ径方向内側)において異方性を与える構成要素として機能できる。
【0044】
また、補強ベルト70は、スパイラルベルト65とトレッド40との間に設けられ、上述したような特徴を有することから、フローティングベルトなどと呼ばれてもよい。
【0045】
補強ベルト70は、車両装着時外側(OUT側)から車両装着時内側(IN側)に亘って設けられる。具体的には、補強ベルト70は、タイヤ赤道線CLを基準としたOUT側及びIN側に設けられてよい。
【0046】
また、補強ベルト70は、少なくともタイヤ幅方向における接地端まで設けられてもよい。上述したように、接地端は、正規内圧及び正規荷重時を基準としてよい。なお、補強ベルト70のタイヤ幅方向における端部は、接地端を超えたトレッド40のショルダー側に位置してもよい。
【0047】
(2)トレッド40内部の構造
図3は、空気入りタイヤ10のトレッド40内部の一部分解平面図である。具体的には、図3は、トレッド40(トレッドゴム)内部に設けられるカーカス50、ベルト層60及び補強ベルト70の一部平面図である。
【0048】
図3に示すように、本実施形態では、カーカス50は、2枚のカーカスプライ51によって構成される。上述したように、本実施形態では、カーカス50は、ラジアル構造であるが、ラジアル構造に限定されず、カーカスコード51aがタイヤ径方向に交錯するように配置されたバイアス構造でもよい。
【0049】
カーカスコード51aの材料は特に限定されないが、例えば、一般的な四輪自動車向けのタイヤと同様に、ナイロンなどの有機繊維を用いて形成できる。但し、カーカスコード51aは、芳香族ポリアミド、スチールなどの材料によって構成されてもよい。
【0050】
ベルト層60を構成する傾斜ベルト61及び傾斜ベルト63は、上述したように一対の交錯ベルトを構成する。具体的には、ベルトコード61a及びベルトコード63aは、タイヤ幅方向(タイヤ周方向でもよい)に対して傾斜して配置され、ベルトコード61aとベルトコード63aとは、互いに交錯するように、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜する。
【0051】
ベルトコード61a及びベルトコード63aの材料も特に限定されず、例えば、芳香族ポリアミド、スチールなどの材料によって構成されてよい。
【0052】
スパイラルベルト65は、傾斜ベルト61, 63(交錯ベルト)と補強ベルト70との間に設けられる。
【0053】
スパイラルベルト65は、タイヤ赤道線CLと実質的に平行に延びるベルトコード65aをゴム材料で被覆したベルトである。ベルトコード65aは、スパイラルコードと呼ばれてもよい。ベルトコード65aは、例えば、有機繊維またはスチールによって形成できる。なお、ベルトコード65aの材質と、ベルトコード61a及びベルトコード63aの材質とは、同一でもよいが、空気入りタイヤ10に要求される性能を考慮すると、異なっていることが好ましい。具体的には、ベルトコード65aは、ベルトコード61a及びベルトコード63aよりも強度が高いことが好ましい。
【0054】
タイヤ幅方向におけるベルトコード65aの打ち込み数(配置間隔或いは配置密度と呼んでもよい)は、6本/cm以上であることが好ましい。
【0055】
補強ベルト70は、タイヤ幅方向に延び、所定の距離を隔てて配置された複数の補強コード70aをコーティングゴム70bによって被覆することによって構成される。
【0056】
補強コード70aは、タイヤ幅方向と平行、つまり、タイヤ幅方向と成す角度が0度となるように配置されることが望ましい。但し、補強コード70aは、タイヤ幅方向に対して多少の角度(15度以下)を有していてもよい。
【0057】
補強コード70aの材料としては、比較的強度の高い有機繊維を用いることが望ましい。例えば、アラミド繊維、具体的には、ケブラー(登録商標)などを用いることできる。ナイロンなども使用環境次第では用い得るが、より高強度の有機繊維(芳香族ポリアミド)を用いることが好ましい。
【0058】
補強コード70aは、上述した有機繊維などを複数撚ることによって形成されてよいが、補強コード70aの太さは、0.5mm~2.0mmとすることが好ましく、補強コード70aのヤング率は、50GPa以上であることが好ましい。
【0059】
また、補強コード70aの打ち込み数は、20~60本/50mmとすることが好ましい。
【0060】
(3)作用・効果
次に、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の作用及び効果について説明する。上述したように、空気入りタイヤ10では、タイヤ赤道線CLを基準とした車両装着時内側(IN側)のトレッド40に形成される溝部のボリュームは、タイヤ赤道線CLを基準とした車両装着時外側(OUT側)のトレッド40に形成される溝部のボリュームよりも少なくなっている。つまり、空気入りタイヤ10では、IN側のネガティブ率は、OUT側のネガティブ率よりも低い。
【0061】
四輪自動車などの車両に装着される空気入りタイヤには、上述したように運動性能や騒音対策などを目的として、非対称パターンが広く採用される。しかしながら、空気入りタイヤ10のようなIN側ネガティブ率<OUT側ネガティブ率の非対称パターンの場合、次のような欠点がある。
【0062】
具体的には、乗用自動車などの四輪自動車の場合、一般的には、ネガティブキャンバーが付与されており、直進状態では、OUT側よりもIN側の接地圧が高くなる傾向にある。
【0063】
図4は、ネガティブキャンバーが付与された四輪自動車に装着された空気入りタイヤ10の断面形状を模式的に示す。
【0064】
図4に示すように、ネガティブキャンバー(図中のθc)が付与されており、IN側のネガティブ率が低い場合、直進状態において加速または減速(制動)すると、空気入りタイヤ10に負荷される荷重が一時的に増大し、タイヤ幅方向における接地端がIN側に広がる。
【0065】
このような場合、特に、高剛性でネガティブ率が低いIN側のトレッド40では、路面GNDとの接地に伴うタイヤ幅方向中央に向かう面内収縮力が作用し、トレッドゴムがタイヤ幅方向に沿ったワイピング変形と呼ばれる変形を来す。
【0066】
ワイピング変形は、ベルト層60など(スパイラルベルト65を含む)の収縮も引き起こし、トレッドゴムの流動を助長する要因となる。このため、ネガティブ率が低いIN側では、流動したトレッドゴムの逃げ場が限られ、ベルト層60の突き上げ(バックリングと呼ばれてもよい)、つまり、タイヤ径方向内側へのトレッド40の変形(図中の点線矢印参照)が生じ易い。これにより、加減速時には、IN側の接地圧が低下し、横力(Fy)が損失し、また、前後力(Fx)も低下してしまう。
【0067】
空気入りタイヤ10では、タイヤ幅方向に沿って配置される補強コード70aをコーティングゴム70bによって被覆した補強ベルト70が、トレッド40のタイヤ径方向内側に設けられている。つまり、補強ベルト70は、タイヤ幅方向(及びタイヤ径方向)に沿って配置されるコードのみを備えているため、タイヤ周方向には比較的自由に伸びて変形し、逆に、タイヤ幅方向には変形し難い特性を有する。
【0068】
補強ベルト70が、剛性が高いベルト層60(及びスパイラルベルト65)とトレッド40との緩衝層として機能し、上述したワイピング変形が低減できる。具体的には、トレッドゴムの流動を助長する要因となるワイピング変形が、補強ベルト70によって吸収されるため、IN側の周方向溝41近傍でのベルト層60の突き上げ(浮き)も抑制できる。
【0069】
また、補強ベルト70によって、タイヤ周方向の張力からタイヤ幅方向の張力に分散でき、ベルト層60(及びスパイラルベルト65)の剛性も程良く低下し、ワイピング変形による接地圧抜けを抑制し得る。
【0070】
このように、空気入りタイヤ10によれば、車両装着時内側(IN側)のネガティブ率が低く、特に、パターンまたはゴムの種類によってトレッド40の剛性が高くなっている場合でも、直進状態での加速または減速時の接地圧抜けを効果的に抑制できる。これにより、前後力の低下が抑制でき、制駆動性能を向上し得る。
【0071】
本実施形態では、傾斜ベルト61, 63(交錯ベルト)と補強ベルト70との間に、タイヤ周方向に沿ってベルトコード65aが巻き付けられたスパイラルベルト65が設けられる。このため、タイヤ周方向における箍(たが)として機能しつつ、補強ベルト70による接地圧抜け抑制に貢献し得る。
【0072】
また、補強ベルト70は、少なくともタイヤ幅方向における接地端まで設けられてもよい。これにより、直進時において、ネガティブ率が低いIN側のトレッド40の接地圧抜けをさらに効果的に抑制し得る。
【0073】
本実施形態では、IN側に形成される溝部は、少なくとも1つの周方向溝41を含んでよい。つまり、ネガティブ率が高いIN側には、主溝となり得るようなタイヤ周方向に伸びる直線状の溝が形成されていてよい。このような比較的溝幅が広くタイヤ周方向に沿って延び、変形抑制には不利なトレッドパターンの場合でも、周方向溝41近傍の接地圧抜けを効果的に抑制し得る。
【0074】
また、本実施形態では、周方向溝41の一方の溝壁部分は、タイヤ径方向内側に向かうに連れて車両装着時内側に近づくように傾斜し、周方向溝41の他方の溝壁部分は、タイヤ径方向内側に向かうに連れて車両装着時外側に近づくように傾斜している。このため、ネガティブキャンバーが付与されており、直進状態の加減速時でも、周方向溝41近傍でのタイヤ径方向内側へのトレッド40の変形を抑制する方向に作用する。このため、車両装着時内側(IN側)のトレッド40の接地圧低下をさらに効果的に抑制できる。
【0075】
なお、ウェット性能(排水性能)を重視する場合には、周方向溝41の溝壁部分は、傾斜せずにタイヤ径方向と平行としてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、ラグ溝44の周縁部分は、トレッド40(外側ショルダー陸部)の踏面側からタイヤ径方向内側に向かって傾斜するチャンファー(面取り部)が形成されてもよい。このようなチャンファーを形成することによって、ウェット性能向上とラグ溝44近傍の偏摩耗抑制などに効果がある。
【0077】
(4)その他の実施形態
以上、実施形態について説明したが、当該実施形態の記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、スパイラルベルト65が備えられていたが、スパイラルベルト65は、必須ではない。つまり、空気入りタイヤ10の用途などによっては、交錯ベルト(傾斜ベルト61, 63)のタイヤ径方向外側に補強ベルト70が設けられ、補強ベルト70のタイヤ径方向外側にトレッド40(トレッドゴム)が設けられる構造でもよい。
【0079】
また、スパイラルベルト65以外に、他の補強ベルト、例えば、交錯ベルトのタイヤ幅方向端部を覆うベルト(キャップ層などと呼ばれてもよい)が設けられてよい。
【0080】
本実施形態では、補強ベルト70が車両装着時外側(OUT側)及び車両装着時内側(IN側)の接地端付近まで備えられていたが、補強ベルト70の幅は、タイヤ赤道線CLを基準としたOUT側及びIN側に設けられていれば、多少狭くしてもよい。さらに、補強ベルト70の幅は、タイヤ赤道線CLを基準として非対称でもよい。つまり、OUT側またはIN側の何れのタイヤ径方向外側端は、他方のタイヤ径方向外側端よりもタイヤ幅方向外側に位置していてもよい。
【0081】
本実施形態では、直線状の周方向溝41がトレッド40に複数形成されていたが、周方向溝41は必ずしも直線状ではなく、タイヤ周方向に沿って多少蛇行したり、屈曲したりしてもよい。或いは、トレッド40には、必ずしも周方向溝が形成されず、タイヤ周方向(タイヤ幅方向)に対して傾斜した傾斜溝などが形成されていてもよい。つまり、IN側ネガティブ率<OUT側ネガティブ率の非対称パターンであれば、トレッドパターンは、必ずしも限定されない。
【0082】
以上、本開示について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示が本開示中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本開示は、請求の範囲の記載により定まる本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とするものであり、本開示に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0083】
10 空気入りタイヤ
20 ビード部
21 ビードコア
30 サイドウォール部
40 トレッド
41 周方向溝
42 幅方向サイプ
43 ショルダー溝
44 ラグ溝
50 カーカス
51 カーカスプライ
51a カーカスコード
60 ベルト層
61 傾斜ベルト
61a ベルトコード
63 傾斜ベルト
63a ベルトコード
65 スパイラルベルト
65a ベルトコード
70 補強ベルト
70a 補強コード
70b コーティングゴム
図1
図2
図3
図4