(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車両及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20241119BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20241119BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20241119BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/1761
B60L7/24 D
B60L15/20 Y
(21)【出願番号】P 2021170489
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 孝美
(72)【発明者】
【氏名】永井 駿
(72)【発明者】
【氏名】横山 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】勝又 淳一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】原 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】立石 大悟
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190021(WO,A1)
【文献】特開2013-043495(JP,A)
【文献】特開2020-183177(JP,A)
【文献】特開2014-073709(JP,A)
【文献】特開2012-035840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0105990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0111790(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012007938(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0100132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/1761
B60L 7/24
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪の少なくとも一方を駆動する電動機と、
前記前輪及び前記後輪のそれぞれに付与されるブレーキ油圧を制御するブレーキアクチュエータを含み、前記ブレーキアクチュエータに供給される上流油圧を制御可能に構成されたブレーキ装置と、
電子制御ユニットと、
を備える車両であって、
前記電子制御ユニットは、
アクセルペダルオフに伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクを発生させるように前記電動機を制御する回生処理と、
前記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれており且つアンチロックブレーキ制御が作動していない場合には、前記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれていない場合と比べて、車輪スリップ検出状態における前記回生トルクを緩やかに減少させるトルク緩減処理と、
前記減速の開始後に前記ブレーキペダルが踏まれている時に前記アンチロックブレーキ制御が作動する場合、前記アンチロックブレーキ制御の作動開始時の前記回生トルクに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように前記上流油圧を高める油圧増加処理と、
を実行する
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記回生処理は、前記減速の開始後に前記ブレーキペダルが踏まれていない時の初回の車輪スリップ検出状態において前記回生トルクを下げる際に、前記初回の車輪スリップ検出状態の到来後の初回の制御周期において、前記初回の制御周期より後の期間と比べて高い勾配で前記回生トルクをフィードフォワード的に減少させるフィードフォワード処理を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記回生処理は、前記初回の制御周期の後に開始されるフィードバック処理を含み、
前記フィードバック処理は、車輪スリップ検出状態においては前記前輪及び前記後輪の何れかの車輪の実スリップ率と目標スリップ率との偏差に基づいて前記回生トルクを減少させ、且つ、車輪スリップ未検出状態においては前記回生トルクを増加させる処理であり、
前記電子制御ユニットは、前記初回の車輪スリップ検出状態において前記フィードバック処理が実行される場合、前記初回の車輪スリップ検出状態の後に到来する1又は複数の車輪スリップ検出状態において前記フィードバック処理が実行される場合と比べて、前記回生トルクを高い勾配で減少させる
ことを特徴とする請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記回生処理において、前記電子制御ユニットは、前記フィードバック処理を開始する時点を前記初回の制御周期の経過時点に対して待機時間だけ遅らせる
ことを特徴とする請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前輪及び後輪の少なくとも一方を駆動する電動機と、前記前輪及び前記後輪のそれぞれに付与されるブレーキ油圧を制御するブレーキアクチュエータを含み前記ブレーキアクチュエータに供給される上流油圧を制御可能に構成されたブレーキ装置と、を備える車両の制御方法であって、
アクセルペダルオフに伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクを発生させるように前記電動機を制御する回生処理と、
前記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれており且つアンチロックブレーキ制御が作動していない場合には、前記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれていない場合と比べて、車輪スリップ検出状態における前記回生トルクを緩やかに減少させるトルク緩減処理と、
前記減速の開始後に前記ブレーキペダルが踏まれている時に前記アンチロックブレーキ制御が作動する場合、前記アンチロックブレーキ制御の作動開始時の前記回生トルクに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように前記上流油圧を高める油圧増加処理と、
を含む
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、前輪又は後輪に電動機を備えるハイブリッド車両を開示している。このハイブリッド車両では、検出手段が運転者の減速命令を検出している場合であっても、アンチロックブレーキシステム(ABS)が作動して制動装置のリリースが検出手段により検出された場合には、電動機による回生制動は一時的に中断される。そして、この中断とともに、即時に電動機により車両の進行方向とは逆向きに作用する反転トルクが伝達されて車両の制動が補助される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクセルペダルオフに伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクを発生させるための電動機の制御(以下、便宜上、「減速回生制御」と称する)を行うことが考えられる。減速時には、減速回生制御が開始された後、ブレーキペダルが踏み込まれ、さらに、その後に油圧ブレーキによるアンチロックブレーキ制御(ABS制御)が作動する場合がある。このような場合に、車輪スリップを抑制するために不用意に回生トルクを減らすと、減速度の抜けが発生し得る。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクセルペダルオフの後にブレーキペダルが踏み込まれる車両減速時において、減速回生制御による回生トルクの減少に起因する減速度の抜け抑制と車輪スリップ抑制とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両は、電動機と、ブレーキ装置と、電子制御ユニットと、を備える。電動機は、前輪及び後輪の少なくとも一方を駆動する。ブレーキ装置は、前輪及び後輪のそれぞれに付与されるブレーキ油圧を制御するブレーキアクチュエータを含み、ブレーキアクチュエータに供給される上流油圧を制御可能に構成されている。電子制御ユニットは、アクセルペダルオフに伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクを発生させるように電動機を制御する回生処理を実行する。また、電子制御ユニットは、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれており且つアンチロックブレーキ制御が作動していない場合には、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれていない場合と比べて、車輪スリップ検出状態における回生トルクを緩やかに減少させるトルク緩減処理を実行する。そして、電子制御ユニットは、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれている時にアンチロックブレーキ制御が作動する場合、アンチロックブレーキ制御の作動開始時の回生トルクに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように上流油圧を高める油圧増加処理を実行する。
【0007】
回生処理は、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれていない時の初回の車輪スリップ検出状態において回生トルクを下げる際に、初回の車輪スリップ検出状態の到来後の初回の制御周期において、初回の制御周期より後の期間と比べて高い勾配で回生トルクをフィードフォワード的に減少させるフィードフォワード処理を含んでもよい。
【0008】
回生処理は、初回の制御周期の後に開始されるフィードバック処理を含んでもよい。フィードバック処理は、車輪スリップ検出状態においては前輪及び後輪の何れかの車輪の実スリップ率と目標スリップ率との偏差に基づいて回生トルクを減少させ、且つ、車輪スリップ未検出状態においては回生トルクを増加させる処理である。そして、電子制御ユニットは、初回の車輪スリップ検出状態においてフィードバック処理が実行される場合、初回の車輪スリップ検出状態の後に到来する1又は複数の車輪スリップ検出状態においてフィードバック処理が実行される場合と比べて、回生トルクを高い勾配で減少させてもよい。
【0009】
回生処理において、電子制御ユニットは、フィードバック処理を開始する時点を初回の制御周期の経過時点に対して待機時間だけ遅らせてもよい。
【0010】
本開示に係る車両の制御方法は、前輪及び後輪の少なくとも一方を駆動する電動機と、前輪及び後輪のそれぞれに付与されるブレーキ油圧を制御するブレーキアクチュエータを含みブレーキアクチュエータに供給される上流油圧を制御可能に構成されたブレーキ装置と、を備える車両の制御方法である。この制御方法は、アクセルペダルオフに伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクを発生させるように電動機を制御する回生処理と、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれており且つアンチロックブレーキ制御が作動していない場合には、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれていない場合と比べて、車輪スリップ検出状態における回生トルクを緩やかに減少させるトルク緩減処理と、上記減速の開始後にブレーキペダルが踏まれている時にアンチロックブレーキ制御が作動する場合、アンチロックブレーキ制御の作動開始時の回生トルクに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように上流油圧を高める油圧増加処理と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、アクセルペダルオフに伴う減速の開始後にブレーキペダルが踏まれており且つアンチロックブレーキ(ABS)制御が作動していない場合には、上述のトルク緩減処理が実行される。これにより、ブレーキペダルが踏まれた後にトルク緩減処理なしに回生トルクが減らされる例と比べて、減速度の抜けを抑制できる。また、当該減速の開始後にブレーキペダルが踏まれている時にABS制御が作動する場合には、上述の油圧増加処理が実行される。これにより、トルク緩減処理の実行後にABS制御が作動する状況になったとしても、上述の回生処理による回生トルク相当の制動トルクを確保した状態でABS制御を利用して車輪スリップを抑制できる。このように、本開示によれば、アクセルペダルオフの後にブレーキペダルが踏み込まれる車両減速時において、回生処理(減速回生制御)による回生トルクの減少に起因する減速度の抜け抑制と車輪スリップ抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る車両の減速時の制御の概要を模式的に示すタイムチャートである。
【
図3】ブレーキペダルの踏み込み前の非制動時における減速回生制御による回生トルクRTの制御を模式的に示すタイムチャートである。
【
図4】
図3に示すスリップ判定に関する処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図2に表される油圧増加処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0014】
1.車両の構成例
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、4つの車輪2を備える。以下の説明では、左前輪、右前輪、左後輪、及び右後輪を、それぞれ、2FL、2FR、2RL、及び2RRと称する。また、前輪をまとめて2Fと称し、後輪をまとめて2Rと称する場合もある。
【0015】
車両1は、前輪2Fを駆動する電動機10Fと、後輪2Rを駆動する電動機10Rとを備える。より詳細には、車両1は、一例として、バッテリ12から供給される電力によって作動する電動機10F及び10Rによって駆動されるバッテリ電気車両(BEV)である。ただし、本開示に係る「車両」は、例えば、動力源として電動機とともに内燃機関を備えるハイブリッド電気車両(HEV)であってもよい。また、車両の他の例では、電動機は、前輪及び後輪の何れか一方のみを駆動するように備えられてもよい。さらに、電動機は、例えば、車輪2に設けられたインホイールモータであってもよい。
【0016】
車両1は、ブレーキ装置20を備えている。ブレーキ装置20は、ブレーキペダル22、マスタシリンダ24、ブレーキアクチュエータ26、ブレーキ機構28、及び油圧配管30を含んでいる。マスタシリンダ24は、ブレーキペダル22の踏力に応じた油圧を発生し、発生した油圧(ブレーキ油圧)をブレーキアクチュエータ26に供給する。
【0017】
ブレーキアクチュエータ26は、マスタシリンダ24とブレーキ機構28との間に介在する油圧回路(図示省略)を含む。油圧回路には、マスタシリンダ圧に頼らずにブレーキ油圧を昇圧するためのポンプ、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバー、及び複数の電磁バルブが備えられている。
【0018】
ブレーキアクチュエータ26には、油圧配管30を介してブレーキ機構28が接続されている。ブレーキ機構28は、各車輪2に配置されている。ブレーキアクチュエータ26は、ブレーキ油圧を各車輪2のブレーキ機構28に分配する。より具体的には、ブレーキアクチュエータ26は、マスタシリンダ24又は上記ポンプを圧力源として各車輪2のブレーキ機構28にブレーキ油圧を供給することができる。ブレーキ機構28は、供給されるブレーキ油圧に応じて作動するホイールシリンダ28aを有している。
【0019】
さらに、ブレーキアクチュエータ26は、上記油圧回路に備えられた各種電磁バルブを制御することで、各車輪2に付与されるブレーキ油圧を独立して調整することができる。より具体的には、ブレーキアクチュエータ26は、ブレーキ油圧の制御モードとして、圧力を高める増圧モードと、圧力を保持する保持モードと、圧力を下げる減圧モードとを有している。ブレーキアクチュエータ26は、各種電磁バルブのON/OFFを制御することで、車輪2毎にブレーキ油圧の制御モードを異ならせることができる。各車輪2に付与される制動力は、それぞれのホイールシリンダ28aに供給されるブレーキ油圧に応じて定まる。このような制御モードの変更により、ブレーキアクチュエータ26は、各車輪2の制動トルクを独立して制御することができる。
【0020】
また、ブレーキ装置20は、ブレーキアクチュエータ26に供給されるブレーキ油圧(以下、「上流油圧」とも称する)を制御可能に構成されている。具体的には、ブレーキ装置20は、上流油圧(ブレーキ元圧)を高めることを可能とするために、電動ポンプ32と、電動ポンプ32により高められたブレーキ油圧を蓄えるアキュムレータ34とを備えている。また、他の例では、上流油圧を高めるためにマスタシリンダ24を押動可能な電動機が備えられてもよい。
【0021】
さらに、車両1は、電子制御ユニット(ECU)40を備えている。ECU40は、プロセッサ、記憶装置、及び入出力インターフェースを備えている。入出力インターフェースは、車両1に取り付けられた各種センサからセンサ信号を取り込むとともに、電動機10F及び10R、ブレーキアクチュエータ26、並びに電動ポンプ32等の各種アクチュエータに対して操作信号を出力する。記憶装置には、上記の各種アクチュエータを制御するための各種の制御プログラムが記憶されている。プロセッサは、制御プログラムを記憶装置から読み出して実行し、これにより、上記の各種アクチュエータを利用した各種制御が実現される。なお、ECU40は、複数であってもよい。
【0022】
上記の各種センサは、例えば、車輪速センサ42、加速度センサ44、アクセルポジションセンサ46、及びブレーキポジションセンサ48を含む。車輪速センサ42は、各車輪2に対応して配置されており、車輪2の回転速度に応じた車輪速信号を出力する。加速度センサ44は、車両1の前後方向の加速度(前後G)に応じた加速度信号を出力する。アクセルポジションセンサ46及びブレーキポジションセンサ48は、それぞれ、アクセルペダル50及びブレーキペダル22の踏み込み量に応じた信号を出力する。
【0023】
2.車両減速時の制御
車両1の減速時にECU40によって実行される制御は、次の「減速回生制御」及び「アンチロックブレーキ制御(ABS制御)」を含む。
【0024】
図1に示す電動機10F及び10Rは、車両1を駆動する駆動トルクを発生させる電動機としての機能だけでなく、車両減速時に車輪2に作用する回生トルクRT(負トルク)を発生させる発電機としての機能を有する。減速回生制御は、アクセルペダルオフ(以下、単に「アクセルOFF」とも称する)に伴う減速時に、減速エネルギ回生のための回生トルクRTを発生させるように電動機10F及び10Rを制御するものである。減速回生制御の詳細は、
図3及び
図4を参照して後述される。
【0025】
ABS制御は、各車輪2の実スリップ率Sが所定の目標スリップ率Stとなるようにブレーキアクチュエータ26を制御するものである。各車輪2の実スリップ率Sは、例えば、車輪速センサ42により検出される車輪速Vwと車体速度Vとに基づいて、次の(1)式に従って算出することができる。車体速度Vは、例えば、車輪速センサ42により検出される車輪速Vwと加速度センサ44により検出される減速度Dとに基づく公知の手法を利用して算出(推定)できる。
【0026】
【0027】
(1)式によれば、減速時に何れかの車輪2がロック傾向にあると、当該車輪2の車輪速Vwが車体速度Vより低くなり、実スリップ率Sが負の値を示す。したがって、車体速度Vに対する車輪速Vwの低下量が大きくなるにつれ、実スリップ率Sは小さくなる(負側に大きくなる)。
【0028】
ABS制御の開始条件は、例えば、車輪2の実スリップ率Sが所定の閾値(負の値)を下回ったか否かに基づいて判断される。ABS制御の作動中には、ブレーキアクチュエータ26は、ロック傾向にある車輪2の実スリップ率Sを目標スリップ率Stに近づけるために、ブレーキ機構28に作用するブレーキ油圧を制御する。具体的には、まず、負側に増加した実スリップ率Sを下げるためにブレーキ油圧が減らされ、その後、当該ブレーキ油圧が保持される。ブレーキ油圧保持中に実スリップ率Sが回復したら(ゼロに近づいたら)、ブレーキ油圧が増やされる。ABS制御の実行中には、このようなブレーキ油圧の制御が繰り返される。その後、車両1が停止するか、或いはロック傾向にある車輪2の実スリップ率Sが所定の閾値以上にまで回復すると、ABS制御が終了される。このようなABS制御によれば、路面μが低い路面(低μ路)においてブレーキペダル22が踏まれた時に車輪1のロックを回避できる。
【0029】
減速時には、減速回生制御が開始された後、ブレーキペダル22が踏み込まれ、さらに、その後にABS制御が作動する場合がある。このような場合に、車輪スリップを抑制するために不用意に回生トルクRTを減らすと、減速度D(減速G)の抜けが発生し得る。付け加えると、このような課題は、エネルギ回生量を高めるために減速回生制御による回生トルクRTが高いほど、発生する減速度Dが高くなるので顕著となる。
【0030】
上述の課題に鑑み、本実施形態では、アクセルOFFの後にブレーキペダル22が踏み込まれる車両減速時において、減速回生制御による回生トルクRTの減少に起因する減速度の抜け抑制と車輪スリップ抑制とを両立するために、次のような制御が実行される。
【0031】
2-1.制御の概要
図2は、実施の形態に係る車両1の減速時の制御の概要を模式的に示すタイムチャートである。
図2の上段には、減速回生制御による回生トルクRTにより生じる減速度DAの波形(太線)と、ブレーキ装置20による制動トルクにより生じる減速度DBの波形(細線)とが表されている。また、
図2の下段には、減速回生制御を停止させる要求度の度合いを示す回生停止要求度Rの波形が表されている。
【0032】
アクセルOFFに伴って減速回生制御が実行される減速時を表した
図2において、ブレーキペダル22が踏まれた時点t12(ブレーキON)より前の期間、すなわち、アクセルOFF且つブレーキOFFの期間は、「非制動時」とも称される。また、時点t12からブレーキOFFの時点t15までの期間は「制動時」とも称される。また、時点t15以降の期間も「非制動時」に相当する。
【0033】
図2中のD1は、減速回生制御によって発生させる減速度Dの基本値であり、より詳細には、減速回生制御の実行中に「車輪スリップ検出状態(後述のステップS106参照)」にない時に用いられる減速度Dの基本値である。この基本値D1は、例えば、0.15Gである。
【0034】
図2に示す一例において想定される路面は、次の通りである。すなわち、車両1が走行する路面は、時点t11付近において高μ路から低μ路に切り替わり、その後の時点t14付近において低μ路から高μ路に戻っている。このため、車両1が低μ路を走行する時点t11から時点t14までの期間では、車輪2のスリップの抑制を求める要求が高くなる。
【0035】
時点t11より前の期間では、車両1は高μ路を走行しているため、車輪2にスリップが生じていない。このため、この期間における回生停止要求度Rはゼロである。
【0036】
<期間T1(t11~t12)>
次に、時点t11において、車輪スリップが検出されている。このように非制動時において車輪スリップ検出状態になると、車輪スリップを抑制するための「スリップ抑制制御A」が実行される。詳細は
図3及び
図4を参照して後述されるが、このスリップ抑制制御Aによれば、車輪スリップ抑制のために、回生トルクRTを減少させることによって減速度DAが下げられる。概略的には、
図2中に示すように、期間T1の減速度DAが、回生トルクRTの低下に伴って徐々に下げられていく。この期間T1における回生停止要求度Rは、他の期間との比較において2番目に高い値R1である。
【0037】
<期間T2(t12~t13)>
次に、時点t12において、ブレーキONとなっている。この時点t12から時点t13までの期間T2は、ABS制御が作動していない制動時に相当する。本実施形態では、この期間T2において、ECU40は、次のような「トルク緩減処理」を実行する。
【0038】
トルク緩減処理は、
図2に示すように、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキペダル22がONとされ且つABS制御が作動していない場合(すなわち、期間T2)には、当該減速開始後にブレーキOFFの場合(すなわち、期間T1)と比べて、車輪スリップ検出状態における回生トルクRTを緩やかに減少させる処理である。このように回生トルクRTを緩やかに減少させる処理は、例えば、期間T2において用いられる制御ゲインGN(後述の「FB処理」の説明参照)を、期間T1において用いられる制御ゲインGNよりも小さくすることによって実現できる。
【0039】
このように回生トルクRTが制御されることに伴い、期間T2における減速度DAは、期間T1と比べて緩やかな勾配で時間経過とともに低下している。付け加えると、期間T2においては、ブレーキONに伴うブレーキ装置20による制動トルクの増加に伴い、減速度DBが一例として徐々に増加している。
【0040】
ここで、ブレーキONとされた後の制動時には、減速回生制御による回生トルクRTの制御(上述のスリップ抑制制御A)と比べて車輪スリップをより確実に抑制可能なABS制御が控えている。このため、ブレーキONの後にロック傾向が強くなったとしても(換言すると、実スリップ率Sが低下しても)、ABS制御によって対処可能である。このような理由により、期間T2における回生停止要求度Rの値R2は、期間T1における値R1と比べて低くなっている。換言すると、期間T2においては、ブレーキONとされたこと(すなわち制動が開始されたこと)を受けて、スリップ抑制よりも減速Gの抜け防止が優先されている。
【0041】
<期間T3>
次に、時点t13において、ABS制御の開始条件が成立し、ABS制御が開始されている。また、ABS制御によってスリップ抑制が行われるため、回生停止要求度Rは、最も高い値R3とされている。その結果、時点t13において、減速回生制御による回生トルクRTはゼロに向けて速やかに減らされる。
【0042】
そのうえで、
図2に示す例のように時点t13における減速度DBが低い場合(すなわち、ブレーキ装置20による制動トルクが低い場合)には、ABS制御の開始とともに単純に減速回生制御の回生トルクRTをゼロにするだけでは、減速度Dの抜けが発生してしまう。これを回避するために、本実施形態では、時点t13において、ECU40は、次のような「油圧増加処理」を実行する。
【0043】
油圧増加処理は、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキONとされている時にABS制御が作動する場合(すなわち、時点t13からABS制御の終了時点t14までの期間T3において)、ABS制御の作動開始時(時点t13)の回生トルクRTに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように上流油圧を高める処理である。上流油圧はブレーキ装置20によって高められる。より詳細には、
図1に示す構成を有する車両1の例では、上流油圧を高めるために電動ポンプ32(
図1参照))が制御される。換言すると、ABS制御の作動開始時(時点t13)の減速度DAの大きさDA1に等しい変化量ΔDB分だけ減速度DBを高められるように上流油圧がかさ上げされる。これにより、減速回生制御を一時的に停止しつつABS制御を実行することに起因する減速度Dの変化を抑制できる。
【0044】
<期間T4>
次に、時点t14からブレーキOFFの時点t15までの期間T4について説明される。上述のように、時点t14付近において、車両1が走行する路面が高μ路に戻る。その結果、時点t14において、車輪スリップ検出状態が解消し、ABS制御が終了する。それに伴い、減速回生制御が再開される。具体的には、回生トルクRTを高めることによって減速度DAが高められる。ただし、
図2に示すように、減速度DBは、ABS制御開始の時点t13において、減速度DAの低下分を補うように高められている。このため、時点t14の到来に伴って回生トルクRTを高め過ぎると、合計の減速度D(=DA+DB)が基本値D1を超えてしまう。付け加えると、上流油圧を高める油圧増加処理は、時点t15においてブレーキOFFとされるまで継続される。
【0045】
そこで、時点t14においては、合計の減速度D(=DA+DB)が基本値D1を超えないようにするために必要な減速度DAが得られるように減速回生制御による回生トルクRTが高められる。
【0046】
<期間T5>
次に、時点t15以降の期間T5について説明される。時点t15においてブレーキOFFが検出されると、ブレーキ装置20による制動トルクがゼロとされ、減速度DBがゼロとなる。これに伴い、
図2に示すように、減速度DAが基本値D1に戻るように、減速回生制御による回生トルクRTが高められていく。
【0047】
2-2.非制動時の制御の詳細
図3は、ブレーキペダル22の踏み込み前の非制動時における減速回生制御による回生トルクRTの制御を模式的に示すタイムチャートである。なお、
図3に示される回生トルクRTは、減速回生制御に用いられる電動機によって駆動される車輪に作用する回生トルクの合計値である。
図1に示す車両1の例では、電動機10F及び電動機10Rによってそれぞれ駆動される前輪2F及び後輪2Rの回生トルクの合計値である。
【0048】
減速回生制御は、時点t0においてアクセルOFFが検出された時に開始される。
図3中の時点t21は、減速開始後に車輪スリップが初めて検出された時点であり、
図2中の時点t11に対応している。時点t21より前の期間では、車両1は高μ路を走行しているため、車輪スリップは検出されていない。このため、
図2に示す減速度Dの基本値D1を生じさせる基本値RT1となるように回生トルクRTが制御される。
【0049】
減速回生制御は、車輪スリップを抑制するためのスリップ抑制制御Aを含んでいる。スリップ抑制制御Aは、時点t21においてスリップ判定がON状態(すなわち、車輪スリップ検出状態)となった時に開始される。なお、本実施形態の減速回生制御は、ECU40が本開示に係る「回生処理」を実行することによって実現される。このため、減速回生制御に含まれるスリップ抑制制御Aも、ECU40が「回生処理」を実行することによって実現される。
【0050】
図4は、
図3に示すスリップ判定に関する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0051】
図4では、ECU40は、まずステップS100において、スリップ判定を実行可能な条件か否かを判定する。具体的には、例えば、車輪速センサ42が正常であるか否かが判定される。
【0052】
その結果、スリップ判定を実行可能でない場合(つまり、スリップ判定が許可されない場合)には、処理はステップS102に進み、スリップ判定がOFFとされる。一方、スリップ判定を実行可能な場合(つまり、スリップ判定が許可される場合)には、処理はステップS104に進む。
【0053】
ステップS104において、ECU40は、実スリップ率Sが所定の閾値TH1より低いか否かを判定する。上述の(1)式により算出される実スリップ率Sによれば、減速時に車輪2がロック傾向になる場合におけるスリップ量が大きくなると、負側に大きくなる。付け加えると、この閾値TH1は、車輪スリップを早期に検出してスリップ抑制のために回生トルクRTの修正を速やかに開始できるように、例えばABS制御の実行対象となる実スリップ率Sの領域と比べて微小なスリップを検出できるような値に設定されている。具体的には、閾値TH1は、例えば、-3%である。
【0054】
ステップS104の判定結果がyesの場合(S<TH1)には、処理はステップS106に進み、スリップ判定がONとされる。すなわち、上述の車輪スリップ検出状態となる。一方、ステップS104の判定結果がNoの場合(S≧TH1)には、処理はステップS108に進む。
【0055】
ステップS108では、ECU40は、実スリップ率Sが所定の閾値TH2より高いか否かを判定する。閾値TH2は、閾値TH1よりも大きな値(ゼロに近い値)であり、例えば、-1%である。
【0056】
ステップS108の判定結果がNoの場合(TH1≦S≦TH2)には、処理はステップS106に進み、スリップ判定がONとされる。一方、ステップS108の判定結果がyesの場合(S>TH2)には、処理はステップS102に進み、スリップ判定がOFFとされる。
【0057】
上述した
図4に示すスリップ判定処理によれば、車輪スリップが発生した後、スリップ量の増加に伴って実スリップ率Sが低下していくと、まず、ステップS104の判定結果がYesとなり、スリップ判定がONとなる。その後、スリップ量が低下して実スリップ率Sがゼロに戻る過程では、実スリップ率Sが閾値TH1よりも大きな閾値TH2を上回るまでスリップ判定がONとされる。
【0058】
車両減速中の車輪スリップは、断続的に複数回発生し得る。
図3に示す一例では、車輪スリップ(スリップ判定ON状態)が2回発生している。スリップ抑制制御Aは、時点t21において減速開始後に初めてスリップ判定ON状態となった後に次のように実行される。
【0059】
<初回の制御周期におけるフィードフォワード(FF)処理>
スリップ抑制制御Aでは、ECU40は、アクセルOFF後の時点t21において初回の車輪スリップ検出状態(スリップ判定ON状態)が到来すると、回生トルクRTを下げ始める。この際、ECU40は、当該初回の車輪スリップ検出状態の到来後の初回の制御周期において、当該初回の制御周期より後の期間と比べて、回生トルクRTを高い勾配でフィードフォワード(FF)的に減少させるフィードフォワード処理を実行する。
【0060】
具体的には、路面が高μ路から低μ路に切り替わることに起因して生じる車輪スリップを速やかに抑制するためには、回生トルクRTを速やかに減少させたい。しかし、回生トルクRTを大きく減少させ過ぎると、運転者に減速度D(減速G)の抜け感を与えてしまう。
【0061】
そこで、初回の制御周期において、ECU40は、減速度Dの抜け感の発生を抑制ししつつ出来るだけ大きな値となるように事前に求められた減速度Dの低下量(例えば、0.03G)に応じた減少量ΔRTだけ回生トルクRTを減らす。より詳細には、この減少量ΔRTは、減速度Dの上記低下量に基づいて事前に決定されている。ECU40は、初回の制御周期において、減少量ΔRTだけ回生トルクRTが減少するように電動機10F及び10Rを制御する。
【0062】
<待機時間Tsbの設定>
初回の制御周期において上述のように回生トルクRTをフィードフォワード的に減少させた後、ECU40は、次のようなフィードバック処理(FB処理)を実行する。ただし、
図3に示すように、ECU40は、FB処理の開始時点t22を、上記初回の制御周期の経過時点に対して所定の待機時間Tsbだけ遅らせる。この待機時間Tsbは、例えば72msである。
【0063】
スリップ抑制制御Aの開始後の待機時間Tsbの経過中に、車輪スリップが収束(解消)することが起こり得る。このような現象は、車両1が走行する路面が高μ路から低μ路への切り替わる場合とは異なり、例えば車両1が段差を通過するような場合に起こり得る。そこで、待機時間Tsbの経過中に車輪スリップが収束した場合には、
図3中に破線で示すように、回生トルクRTが速やかに基本値RT1に戻されてもよい。
【0064】
<フィードバック(FB)処理>
FB処理は、例えば、次のように実行される。すなわち、FB処理において、ECU40は、車輪スリップ検出状態(例えば時点t22から時点t23までの期間)において、スリップが生じている車輪2の実スリップ率Sと目標スリップ率St(例えば、ゼロ)との偏差ΔSに基づいて回生トルクを減少させる。具体的には、ECU40は、例えば、上記偏差ΔSの絶対値に制御ゲインGNを乗じて得られる制御量だけ回生トルクRTを減少させる。このため、回生トルクRTの減少量は、偏差ΔSの絶対値が大きいほど大きくなり、また、制御ゲインGNが大きいほど大きくなる。
【0065】
また、
図3では、時点t23において、車輪スリップが収束している。その結果、スリップ判定がOFF状態(車輪スリップ未検出状態)となる。FB処理では、ECU40は、例えば時点t23から時点t24までの期間のように車輪スリップが収束している車輪スリップ未検出状態においては、回生トルクRTを増加させる。具体的には、回生トルクRTが基本値RT1に向けて時間経過とともに徐々に(例えば、一定の勾配で)戻されていく。
【0066】
そのうえで、ECU40は、初回の車輪スリップ検出状態においてFB処理が実行される場合、当該初回の車輪スリップ検出状態の後に到来する1又は複数の車輪スリップ検出状態においてFB処理が実行される場合と比べて、回生トルクRTを高い勾配(時間変化率)で減少させる。具体的には、車輪スリップ検出状態が2回到来している
図3に示す例では、初回の車輪スリップ検出状態における回生トルクRTの勾配g1が、2回目の車輪スリップ検出状態における回生トルクRTの勾配g2よりも高くなるように回生トルクRTが制御される。
【0067】
このような回生トルクRTの勾配(時間変化率)の差は、例えば、初回の車輪スリップ検出状態において用いられる制御ゲインGNの値を、2回目の車輪スリップ検出状態において用いられる制御ゲインGNの値よりも大きくすることによって実現できる。これらの制御ゲインGNの値は、事前に決定されている。
【0068】
付け加えると、制御ゲインGNは、勾配g1よりも緩い勾配g2はもちろんのこと、勾配g1が減速度Dの抜け感を運転者に与えないような大きさとなるように決定されている。また、2回目の勾配g2(すなわち、基本値RT1に戻るように回生トルクRTが増加している復帰中に再度車輪スリップ検出状態となった場合の勾配)は、減速度Dの変動を避けるために、初回の勾配g1の半分程度の勾配とされてもよい。また、このように再度スリップした場合には、所定の低下量(例えば、0.02G)だけ減速度DAが減少するように回生トルクRTが減らされてもよい。
【0069】
上述のようにスリップ抑制制御Aが実行された結果として、
図2中の期間T1に示すように、減速度DAが時間経過とともに低下していく。また、ここでは、非制動時の制御として説明したが、スリップ抑制制御Aに含まれる「FB処理」は、ブレーキペダル22が踏み込まれてからABS制御の作動が開始されるまでの期間T2においても実行される。
【0070】
2-3.制動時の制御の詳細
図5は、
図2に表される油圧増加処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキONとされた後に、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0071】
図5では、ECU40は、まずステップS200において、ABS制御の作動中であるか否かを判定する。その結果、ABS制御の作動中であれば、処理はステップS202に進む。
【0072】
ステップS202では、ECU40は、電動ポンプ32(
図1参照)を制御することにより、上流油圧のかさ上げを実行する。具体的には、既に説明されたように、上流油圧は、ABS制御の作動開始時(
図2中の時点t13)の回生トルクRTに応じた大きさの制動トルクを発生させるために必要な値となるように高められる。
【0073】
一方、ステップS200においてABS制御の作動中でない場合には、処理はステップS204に進む。ステップS204では、ECU40は、ブレーキペダル22がOFFとされたか否かを判定する。その結果、ブレーキOFFがなされていない場合には、処理はリターンに進む。すなわち、上流油圧は前回値で保持される。一方、ブレーキOFFがなされた場合には、ステップS206に進み、上流油圧のかさ上げが終了される。
【0074】
図5に示す処理によれば、ABS制御の作動が開始されると、上流油圧のかさ上げが開始され、ABS制御の実行中は上流油圧のかさ上げが維持される。また、
図5に示す処理によれば、上流油圧のかさ上げは、ABS制御の終了後であっても、ブレーキOFFがなされるまでは継続される。これにより、ABS制御の終了後の制動中においても、減速度Dの抜けが防止される。
【0075】
2-4.効果
以上説明したように、本実施形態によれば、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキペダル22が踏まれており且つABS制御が作動していない場合(例えば、
図2の期間T2)には、トルク緩減処理が実行される。すなわち、減速開始後にブレーキペダル22が踏まれていない場合(例えば、
図2の期間T1)と比べて、車輪スリップ検出状態における回生トルクRTが緩やかに減らされる。これにより、ブレーキペダル22が踏まれた後にトルク緩減処理なしに回生トルクRTが減らされる例と比べて、減速度Dの抜けを抑制できる。また、減速開始後にブレーキペダル22が踏まれている時にABS制御が作動する場合には、油圧増加処理が実行される。これにより、
図2に示す例のようにトルク緩減処理の実行後にABS制御が作動する状況になったとしても、減速回生制御による回生トルクRT相当の制動トルクを確保した状態でABS制御を利用してスリップを抑制できる。
【0076】
このように、本実施形態によれば、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキペダル22が踏み込まれる車両減速時において、減速回生制御による回生トルクRTの減少に起因する減速度Dの抜け抑制と車輪スリップ抑制とを両立することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態によれば、アクセルOFFに伴う減速の開始後にブレーキペダル22が踏まれていない時の初回の車輪スリップ検出状態において回生トルクRTを下げる際に、当該初回の車輪スリップ検出状態の到来後の初回の制御周期において、当該初回の制御周期より後の期間と比べて高い勾配で回生トルクRTをフィードフォワード的に減少させるFF処理が実行される。このようなFF処理なしに初回の制御周期からFB処理が直ちに開始されると、回生トルクRTの減少が遅れてしまう。これに対し、初回のFF処理によれば、事前に決められた量で高い勾配で回生トルクRTを速やかに減らせるので、スリップ抑制を速やかに開始できる。より詳細には、本実施形態のスリップ判定(
図4参照)によれば、微小スリップを検出して速やかに回生トルクRTの低減を開始できる。また、回生トルクRTの減少量ΔRTは、減速度Dの抜け感の発生を抑制ししつつ出来るだけ大きな値となるように事前に求められた減速度Dの低下量に基づいて事前に決定されている。このため、減速度Dの抜けに配慮しつつ、スリップ抑制のために速やかに回生トルクRTを減らすことができる。
【0078】
さらに、本実施形態によれば、減速開始後の初回の車輪スリップ検出状態(例えば、
図3の時点t22~時点t23)においてFB処理が実行される場合、初回の車輪スリップ検出状態の後に到来する1又は複数の車輪スリップ検出状態(例えば、
図3の時点t24~時点t25)においてFB処理が実行される場合と比べて、回生トルクRTが高い勾配で減らされる。これにより、減速開始後の初期にスリップ抑制を確実に行うことができ、また、その後の車輪スリップの検出時に減速度Dの抜けを抑制しつつスリップ抑制を行えるようになる。
【0079】
また、本実施形態によれば、減速開始後の初回の車輪スリップ検出状態におけるFB処理を開始する時点を、初回の制御周期の経過時点に対して待機時間Tsbだけ遅らせる処理が実行される。既に説明されたように、車両1が走行する路面が高μ路から低μ路への切り替わる場合とは異なり、例えば車両1が段差を通過するような場合には、車輪スリップが瞬間的に発生する可能性がある。このような場合にFF処理の後にFB処理を直ちに開始させてしまうと、回生トルクRTを不必要に大きく変化させてしまい、その結果として減速度Dを大きく変化させてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態のようにFF処理の後にFB処理を開始するまでに経過時間(ディレイ時間)Tsbを設けておくことにより、例えば上記段差の通過時に生じるような瞬間的な実スリップ率Sの振動に反応して減速度Dの変化をさせないようにすることができる。
【0080】
なお、上述した実施の形態とは異なり、本開示に係る制動時の「トルク緩減処理」及び「油圧増加処理」は、必ずしも、非制動時の「フィードフォワード処理」を伴って実行されなくてもよい。具体的には、制動時の「トルク緩減処理」及び「油圧増加処理」が実施される場合、非制動時には、例えば、上述の「フィードフォワード処理」(及び「フィードバック処理」)と異なる処理によって車輪スリップ検出時の回生トルクの制御が行われてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 車両
2 車輪
10F、10R 電動機
12 バッテリ
20 ブレーキ装置
22 ブレーキペダル
24 マスタシリンダ
26 ブレーキアクチュエータ
32 電動ポンプ
34 アキュムレータ
40 電子制御ユニット(ECU)
42 車輪速センサ
44 加速度センサ
46 アクセルポジションセンサ
48 ブレーキポジションセンサ
50 アクセルペダル