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  • 特許-塩化水酸化亜鉛および樹脂製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】塩化水酸化亜鉛および樹脂製品
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20241119BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241119BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C01G9/00 Z
C08K3/22
C08L101/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021174324
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064195
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105738(WO,A1)
【文献】特開2020-111572(JP,A)
【文献】特開2001-222911(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102502783(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C08K 3/22
C08L 101/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が300nm以下である、シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛であって、
溶出試験後のZn 2+ イオン溶出量が150ppm以上である、塩化水酸化亜鉛。
ただし、前記溶出試験は、20g/Lの前記塩化水酸化亜鉛を含有する37℃の生理食塩水を、回転子を用いて500rpmで3時間攪拌する試験であり、
前記溶出試験後のZn 2+ イオン溶出量は、前記溶出試験後における前記生理食塩水中のZn 2+ イオン量である
【請求項2】
溶出試験後のpHが6.0以上8.0未満である、請求項1に記載の塩化水酸化亜鉛。
ただし、前記溶出試験後のpHは、前記溶出試験後における前記生理食塩水のpHである。
【請求項3】
球状である、請求項1または2に記載の塩化水酸化亜鉛。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の塩化水酸化亜鉛を有する、樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化水酸化亜鉛および樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛が、例えば、皮膚治療剤の有効成分として用いられている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-111572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透明性の高い樹脂(例えば、エポキシ樹脂)からなる樹脂製品は、多くの用途に用いられているが、近年、このような樹脂製品に高い抗菌性が要求される場合がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛(以下、単に「塩化水酸化亜鉛」ともいう)が良好な抗菌性を示すことを見出し、そのうえで、樹脂製品に塩化水酸化亜鉛を適用した。具体的には、例えば、塩化水酸化亜鉛を樹脂製品の本体内部に含有させた。
その結果、樹脂製品が十分な抗菌性を発現するには多量の塩化水酸化亜鉛を要する場合があること、および、それにより樹脂製品の透明性が不十分となる場合があることを見出した。
【0006】
以下、塩化水酸化亜鉛を適用した樹脂製品の透明性を、単に「透明性」ともいう。
同様に、塩化水酸化亜鉛を適用した樹脂製品の抗菌性を、単に「抗菌性」ともいう。
【0007】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、透明性および抗菌性に優れる塩化水酸化亜鉛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]粒子径が300nm以下である、シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛。
[2]溶出試験後のZn2+イオン溶出量が150ppm以上である、上記[1]に記載の塩化水酸化亜鉛。ただし、上記溶出試験は、20g/Lの上記塩化水酸化亜鉛を含有する37℃の生理食塩水を、回転子を用いて500rpmで3時間攪拌する試験であり、上記溶出試験後のZn2+イオン溶出量は、上記溶出試験後における上記生理食塩水中のZn2+イオン量である。
[3]溶出試験後のpHが6.0以上8.0未満である、上記[1]または[2]に記載の塩化水酸化亜鉛。ただし、上記溶出試験後のpHは、上記溶出試験後における上記生理食塩水のpHである。
[4]球状である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の塩化水酸化亜鉛。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の塩化水酸化亜鉛を有する、樹脂製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性および抗菌性に優れる塩化水酸化亜鉛を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】塩化水酸化亜鉛(実施例1)のXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[塩化水酸化亜鉛]
本発明の塩化水酸化亜鉛は、シモンコライトを含む。
シモンコライトは、Zn(OH)Cl、または、結合水が付いた状態のZn(OH)Cl・nHO(nは、例えば、1~6である)で表される。シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛は、下記式(1)で表されることが好ましい。このとき、ZnとClとのモル比(Zn/Cl)は、2.0~4.0が好ましい。
Zn4~6Cl1~3(OH)7~8・nHO (1)
ただし、式(1)中、nは、0~6であり、1~6が好ましい。
【0012】
本発明の塩化水酸化亜鉛に含まれるシモンコライトの量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0013】
〈粒子径〉
本発明の塩化水酸化亜鉛は、粒子径が小さい。これにより、可視光の光散乱が抑制され、透明性に優れる。
更に、本発明の塩化水酸化亜鉛は、粒子径が小さいことにより、抗菌性にも優れる。これは、粒子径が小さくなることにより、表面積が増えて、その結果、Zn2+イオン溶出量が増えるためと推測される。すなわち、抗菌性には、塩化水酸化亜鉛から溶出するZn2+イオンが効くと考えられる。
【0014】
具体的には、本発明の塩化水酸化亜鉛の粒子径は、300nm以下であり、透明性および抗菌性がより優れるという理由から、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
一方、本発明の塩化水酸化亜鉛の粒子径は、下限は特に限定されず、例えば50nm以上であり、80nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
【0015】
塩化水酸化亜鉛の粒子径は、次のように求める。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000倍の倍率で塩化水酸化亜鉛を観察して、画像(SEM像)を得る。得られたSEM像中の粒子について、画像解析ソフトウェアWinROOF2015(三谷商事社製)を用いて、円相当直径を計測する。任意の粒子100個におけるこの円相当直径の平均値を、粒子径とする。
【0016】
本発明の塩化水酸化亜鉛を構成する粒子は、球状であることが好ましい。
具体的には、後述する近似円差分値が10以下であることが好ましく、7以下がより好ましい。近似円差分値は、粒子とその近似円との差を表す数値である。このため、近似円差分値が0に近いほど、球状であることを意味する。
【0017】
近似円差分値は、次のように求める。
まず、SEMを用いて、1000倍の倍率で塩化水酸化亜鉛を観察して、SEM像を得る。得られたSEM像中の粒子について、画像解析ソフトウェアWinROOF2015(三谷商事社製)を用いて、近似円を計測する。近似円と元の粒子との差を、360度の放射状の線上にて比較し、凹側の絶対値と凸側の絶対値との合計値を算出する。任意の粒子100個におけるこの合計値の平均値を、近似円差分値とする。
【0018】
〈溶出試験後の特性〉
次に、本発明の塩化水酸化亜鉛について、溶出試験後の特性(Zn2+イオン溶出量およびpH)を説明する。
【0019】
抗菌性がより優れるという理由から、溶出試験後のZn2+イオン溶出量は、150ppm以上が好ましく、180ppm以上がより好ましく、200ppm以上が更に好ましく、250ppm以上が特に好ましい。
一方、溶出試験後のZn2+イオン溶出量は、上限は特に限定されない。
Zn2+イオン溶出量の単位「ppm」は、特に断りの無い限り、「質量ppm」を意味する。
【0020】
抗菌性がより優れるという理由から、溶出試験後のpHは、6.0以上が好ましく、6.3以上がより好ましく、6.5以上が更に好ましい。
同様の理由から、溶出試験後のpHは、8.0未満が好ましく、7.5以下がより好ましく、7.3以下が更に好ましい。
【0021】
溶出試験は、塩化水酸化亜鉛を含有する37℃の生理食塩水(塩化水酸化亜鉛の含有量:20g/L)を、回転子を用いて500rpmで3時間攪拌する試験である。
溶出試験後のZn2+イオン溶出量は、溶出試験後における生理食塩水中のZn2+イオン量(単位:ppm)であり、ICP発光分析装置(島津製作所社製、ICPE-9000)を用いて測定される。
溶出試験後のpHは、溶出試験後における生理食塩水のpHである。
【0022】
本発明の塩化水酸化亜鉛は、必要に応じて、担体とともに用いてもよい。
担体としては、例えば、有機または無機の液体が挙げられ、その具体例としては、水、生理食塩水、アルコール、多価アルコール、これらの混合物などが挙げられる。
本発明の塩化水酸化亜鉛を液体に分散させて使用する場合、更に、増粘剤などを加えることによりゲル状またはペースト状に加工して、取り扱い性を向上させてもよい。
【0023】
[塩化水酸化亜鉛の製造方法]
次に、本発明の塩化水酸化亜鉛を製造する方法を説明する。
以下に説明するように、まず、沈殿物生成反応により塩化水酸化亜鉛を得て、その後、得られた塩化水酸化亜鉛を粉砕することが好ましい。
【0024】
〈沈殿物生成反応〉
塩化水酸化亜鉛(シモンコライトを含む塩化水酸化亜鉛)は、亜鉛源、塩素源およびアルカリを用いた沈殿物生成反応(アルカリ沈殿法)により得ることが好ましい。
【0025】
亜鉛源としては、例えば、硫酸亜鉛(ZnSO)、塩化亜鉛(ZnCl)、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))、硝酸亜鉛(Zn(NO)などが挙げられ、塩化亜鉛が好ましい。
塩素源としては、例えば、塩酸(HCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アンモニウム(NHCl)が挙げられ、塩化アンモニウムが好ましい。
アルカリとしては、アンモニア(NH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などが挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。
亜鉛源、塩素源およびアルカリは、水溶液の態様で用いられることが好ましい。
【0026】
具体的には、例えば、亜鉛源の水溶液(酸性の水溶液)を塩素源の水溶液に滴下し、この滴下中、塩素源の水溶液にアルカリの水溶液を送液して、塩素源の水溶液のpHを一定の範囲に維持することが好ましい。
滴下が終了した後、10~30時間の撹拌(撹拌養生)を行ない、沈殿物を含む反応液を得ることが好ましい。
【0027】
pHは、6.0以上が好ましく、6.3以上がより好ましい。一方、pHは、8.5以下が好ましく、7.5未満がより好ましい。
すなわち、Zn2+イオン、ClイオンおよびOHイオンの反応により沈殿物を得るが、pHが上記範囲に制御された反応場で沈殿物を得ることが好ましい。
【0028】
亜鉛源および塩素源における亜鉛と塩素とのモル比(亜鉛:塩素)は、5:2にすることが好ましい。
亜鉛源の水溶液の濃度は、0.05mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましい。一方、亜鉛源の水溶液の濃度は、10mol/L以下が好ましく、5mol/L以下がより好ましく、3mol/L以下が更に好ましい。
塩素源の水溶液の濃度は、0.05mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましい。一方、塩素源の水溶液の濃度は、10mol/L以下が好ましく、5mol/L以下がより好ましく、3mol/L以下が更に好ましい。
【0029】
反応温度は、5~40℃が好ましく、10~30℃が好ましい。
【0030】
沈殿物生成反応の後、例えば、沈殿物を含む反応液を吸引濾過または遠心分離することにより固液分離し、得られた沈殿物を純水または蒸留水を用いて洗浄し、次いで真空乾燥する。これにより、塩化水酸化亜鉛が得られる。
得られた塩化水酸化亜鉛は、未反応物(原料)、反応副生物、原料から混入する不純物などを含み得る。
【0031】
〈粉砕〉
次に、得られた塩化水酸化亜鉛を粉砕する。このとき、粉砕メディアとしてビーズを用いる粉砕機(ビーズミル)により粉砕することが好ましい。
上述した沈殿物生成反応により得られたまま(粉砕前)の塩化水酸化亜鉛は、例えば板状(板状結晶)であるが、ビーズミルを用いることにより、板状結晶が過粉砕されて、粒子径の小さい粉末が得られると考えられる。
【0032】
所望の粉末が得られる限り、粉砕の条件は特に限定されないが、例えば、以下に記載する条件が好適に挙げられる。
【0033】
粉砕メディアであるビーズの直径は、1mm以下が好ましく、1mm未満がより好ましく、0.2mm以下が更に好ましく、0.2mm未満が特に好ましく、0.1mm以下が最も好ましい。一方、ビーズの直径は、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.03mm以上が更に好ましい。
ビーズの素材としては、例えば、ジルコニア等のセラミックが挙げられる。
【0034】
塩化水酸化亜鉛は、スラリーの態様で、粉砕されることが好ましい。
スラリーにおける塩化水酸化亜鉛の含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。
一方、スラリーにおける塩化水酸化亜鉛の含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
【0035】
粉砕時間は、20分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、60分間以上が更に好ましい。
一方、粉砕時間は、300分間以下が好ましく、240分間以下がより好ましく、180分間以下がより好ましい。
【0036】
[樹脂製品]
本発明の樹脂製品は、上述した本発明の塩化水酸化亜鉛を有する。
樹脂製品の本体を構成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂(メタクリル樹脂)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられ、透明性に優れる樹脂が好ましい。
樹脂製品の本体形状としては、フィルム状、板状などが挙げられ、用途に応じて適宜選択される。
【0037】
塩化水酸化亜鉛は、例えば、樹脂製品の本体表面に、塗膜の態様で配置される。
この場合、例えば、塩化水酸化亜鉛を含有するスラリーを、樹脂製品の本体(例えば、ポリプロピレンフィルム)の表面に塗布した後に乾燥する。これにより、塩化水酸化亜鉛を含有する塗膜を形成する。
【0038】
塩化水酸化亜鉛は、樹脂製品の本体内部に含有されていてもよい。
この場合、樹脂製品の本体を構成する樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を加熱溶融し、これに塩化水酸化亜鉛を添加したものを、板状などに成形する。
【実施例
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0040】
〈塩化水酸化亜鉛の調製〉
以下に説明するようにして、塩化水酸化亜鉛の粉末を調製した。
【0041】
《実施例1》
反応容器内に0.08mol/Lの塩化アンモニウム水溶液(500mL)を調製した。これとは別に、0.1mol/Lの塩化亜鉛水溶液(1000mL)を準備した。更に、pH調整液として、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
【0042】
反応容器内の塩化アンモニウム水溶液を回転子によって撹拌しつつ、この塩化アンモニウム水溶液にpHコントローラを装入した。
このpHコントローラによってオンオフ制御されるポンプを用いて、準備した塩化亜鉛水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を、反応容器内の塩化アンモニウム水溶液に滴下した。滴下中、反応容器内の塩化アンモニウム水溶液のpHを6.5に維持した。
塩化亜鉛水溶液を全て滴下した後、更に16時間の攪拌を行ない、養生した。反応温度(滴下、養生の際の環境温度)は25℃とした。こうして、沈殿物を含む反応液を得た。
【0043】
得られた反応液を、遠心分離によって固液分離した。得られた固体(沈殿物)に対して、水洗および遠心分離を3回繰り返すことにより、洗浄を施した。洗浄した沈殿物を、真空乾燥することにより、塩化水酸化亜鉛の粉末を得た。
【0044】
得られた塩化水酸化亜鉛の粉末を、ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、HFM06)を用いて粉砕した。粉砕メディアとしては、直径0.1mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製)を使用した。
【0045】
より詳細には、まず、得られた塩化水酸化亜鉛の粉末を、分散剤を用いて、エタノールに分散させた。分散剤としては、1-メトキシ-2-プロピルアセタート(BYK社製、DISPERBYK-103)を用いた。こうして、塩化水酸化亜鉛の含有量が20質量%、分散剤(固形分)の含有量が8質量%であるスラリーを調製した。
次いで、調製したスラリーを0.1L/minの速度で流しながら、ビーズミルを180分間運転した。このとき、ビーズミルにおいて、粉砕メディアの充填率を85体積%、アジテータの周速を12m/秒、スラリー循環速度を0.5L/分に設定した。その後、ビーズミルからスラリーを取り出し、真空乾燥することにより、粉砕粉を得た。
【0046】
実施例1で得られた塩化水酸化亜鉛の粉末について、粉砕前および粉砕後に、XRD装置(Bruker社製、D8ADVANCE)を用いて、XRD測定した。このXRD測定の結果を、図1に示す。
図1のXRDパターンを見ると、粉砕前には、シモンコライトを示すピークが認められる。粉砕後においても、シモンコライトを示すピークが維持されていることが認められる。
【0047】
《比較例1》
まず、実施例1と同様にして、塩化水酸化亜鉛の粉末を得た。
次いで、得られた塩化水酸化亜鉛の粉末を、ボールミル(入江商会社製、卓上型ボールミル「V-1ML」)を用いて、粉砕した。粉砕メディアとしては、直径5mmのジルコニアボールを使用した。
より詳細には、まず、塩化水酸化亜鉛の粉末50gを、エタノール125mLに分散させて、スラリーを調製した。調製したスラリーおよび粉砕メディア250gを用いて、ボールミルを32時間運転した。その後、ボールミルからスラリーを取り出し、真空乾燥することにより、粉砕粉を得た。
【0048】
《比較例2》
実施例1と同様にして、塩化水酸化亜鉛の粉末を得た。比較例2では、得られた粉末を粉砕せずに、そのまま用いた。
【0049】
〈溶出試験後の特性〉
実施例1および比較例1~2の塩化水酸化亜鉛の粉末(実施例1および比較例1は、粉砕前および粉砕後)について、上述した方法により、溶出試験後のZn2+イオン溶出量およびpHを求めた。結果を下記表1に示す。
【0050】
〈粒子径〉
実施例1および比較例1~2の塩化水酸化亜鉛の粉末(実施例1および比較例1は粉砕後の粉末)について、上述した方法により、粒子径(単位:nm)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0051】
〈試験1:塗膜〉
実施例1および比較例1~2の塩化水酸化亜鉛の粉末(実施例1および比較例1は粉砕後の粉末)を用いて、以下の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0052】
《塗膜の形成》
まず、塩化水酸化亜鉛の粉末を、分散剤を用いて、エタノールに分散させた。分散剤としては、1-メトキシ-2-プロピルアセタート(BYK社製、DISPERBYK-103)を用いた。こうして、塩化水酸化亜鉛の含有量が20質量%、分散剤(固形分)の含有量が8質量%であるスラリーを調製した。
次に、調製したスラリーを、ポリプロピレンフィルム(厚さ:25μm)の表面上に、自動バーコーター(三井電気精機社製、Smart卓上コーターTC-100S)を用いて、12.5μmの膜厚で塗布し、その後、室温(25℃)で0.5時間乾燥した。こうして、塗膜を形成した。
【0053】
《透明性(透過率)》
紫外・可視・近赤外分光光度計(日本分光社製、V-770)を用いて、波長400nmおよび800nmの光について、塗膜の透過率(単位:%)を測定した。なお、塗膜を形成していないポリプロピレンフィルムのみを対象として、ベースライン測定をした。
透過率の値が大きいほど、透明性に優れると評価できる。
【0054】
《抗菌性》
JIS Z2801:2012(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠して、塗膜の抗菌性を評価した。試験菌としては、大腸菌(Escherichia Coli、NBRC3972)を用いた。
サンプル区(塗膜)および対照区において、試験菌を1時間培養した。塗膜を形成していないポリプロピレンフィルムを対照区とした。1時間の培養後、対照区の生菌数に対するサンプル区の生菌数の割合(単位:%)を菌生存率として算出し、抗菌性を評価した。
菌生存率の値が小さいほど、抗菌性に優れると評価できる。
「〇」:菌生存率が0%以上0.2%未満
「△」:菌生存率が0.2%以上0.4%未満
「×」:菌生存率が0.4%以上
【0055】
〈試験2:エポキシ板(10質量%)〉
実施例1および比較例1~2の塩化水酸化亜鉛の粉末(実施例1および比較例1は粉砕後の粉末)を、エポキシ板に含有させた。
【0056】
より詳細には、市販の2液混合型のエポキシ樹脂(三啓社製、53型)を、80℃以上に発熱しないようしながら、これに塩化水酸化亜鉛の粉末を添加し、混合した。このとき、最終的に得られるエポキシ板中の含有量が10質量%となる量で、塩化水酸化亜鉛の粉末を添加した。
その後、塩化水酸化亜鉛の粉末が添加されたエポキシ樹脂を、冷却しつつ、成形することにより、厚さ5mmのエポキシ板を作製した。
【0057】
作製したエポキシ板を用いて、上述した試験1と同様にして、透明性および抗菌性を評価した。結果を下記表1に示す。
ただし、透過率の測定において、塩化水酸化亜鉛の粉末を添加していないエポキシ板のみを対象として、ベースライン測定をした。
また、抗菌性の評価においては、塩化水酸化亜鉛の粉末を添加していないエポキシ板を対照区とした。
【0058】
〈試験3:エポキシ板(20質量%)〉
塩化水酸化亜鉛の含有量を20質量%に増やした以外は、試験2と同様にして、エポキシ板を作製し、透明性および抗菌性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
〈評価結果のまとめ〉
上記表1に示すように、実施例1においては、粉砕によって、溶出試験後のpHが低下し、かつ、溶出試験後のZn2+イオン溶出量が顕著に増加した。
【0061】
塩化水酸化亜鉛の粒子径が300nm以下である実施例1では、これを満たさない比較例1~2と比較して、いずれの試験においても、透過率の値が大きく、透明性に優れていた。
【0062】
更に、実施例1は、試験1~2において、比較例1~2よりも抗菌性に優れていた。
なお、試験3では、試験2よりも多量の塩化水酸化亜鉛をエポキシ板に含有させたことより、比較例1は、実施例1と同等の抗菌性を示したが、その分、透過率の値が低下し、透明性が不十分であった。
図1