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特許7590313溶接方法、溶接金属、溶接継手の製造方法及び溶接継手
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】溶接方法、溶接金属、溶接継手の製造方法及び溶接継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20241119BHJP
   B23K 35/02 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241119BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20241119BHJP
   B23K 15/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K35/02 Z
B23K9/173 A
B23K9/23 E
B23K9/02 M
B23K31/00 B
B23K26/21 W
B23K9/12 310C
B23K26/323
B23K9/23 F
B23K15/00 501B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021198137
(22)【出願日】2021-12-06
(65)【公開番号】P2023084041
(43)【公開日】2023-06-16
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 要
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-238450(JP,A)
【文献】特開2005-042175(JP,A)
【文献】特開2002-086272(JP,A)
【文献】特開2017-070963(JP,A)
【文献】特開平08-197281(JP,A)
【文献】特表2015-519746(JP,A)
【文献】特開平06-015482(JP,A)
【文献】特開2019-025520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 35/02
B23K 9/173
B23K 9/02
B23K 31/00
B23K 26/21
B23K 9/12
B23K 26/323
B23K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、
アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有し、
前記第1の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量を重量でW1(g)、前記第2の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量を重量でW2(g)とする場合に、
下記式(1)により得られる重量比が8%以上40%以下であることを特徴とする、溶接方法。
W2/(W1+W2)・・・式(1)
【請求項2】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、
アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有し、
前記第1の溶接ワイヤを、MIGアーク溶接の消耗電極として使用し、
前記第2の溶接ワイヤは、前記MIGアーク溶接のアークを前記熱源として溶融させるとともに、
前記第2の溶接ワイヤをフィラーワイヤとして使用し、
前記フィラーワイヤに電気を流し、電気抵抗により前記フィラーワイヤを昇温させることを特徴とする、溶接方法。
【請求項3】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、
アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有し、
前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤの少なくとも一方をフィラーワイヤとして使用し、
前記フィラーワイヤに電気を流し、電気抵抗により前記フィラーワイヤを昇温させることを特徴とする、溶接方法。
【請求項4】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、
アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有し、
前記第1の母材は、アルミニウム合金又は銅合金からなり、
前記第2の母材は、厚さ方向に貫通穴を有し、前記第1の母材よりも高融点の材料からなるものであり、
前記溶接金属を得る工程は、
前記第1の母材を下板とし、前記第2の母材を上板として前記第1の母材の上に重ねて配置する工程と、
前記貫通穴を介して、前記熱源により前記下板を溶融させるとともに、前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤを溶融させて、前記貫通穴を充填する溶融金属を形成する工程と、
前記溶融金属の上面、及び前記上板の上面における少なくとも一部に余盛りを形成する工程と、を有し、
前記溶接金属の主成分が、前記第1の母材の主成分と等しくなるように、前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤの送給速度を設定することを特徴とする、溶接方法。
【請求項5】
前記熱源は、アーク、レーザ及び電子ビームから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第1の溶接ワイヤを、MIGアーク溶接の消耗電極として使用し、
前記第2の溶接ワイヤは、前記MIGアーク溶接のアークを前記熱源として溶融させることを特徴とする、請求項1又は4に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤを、MIGアーク溶接の消耗電極として使用することを特徴とする、請求項1又は4に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第1の母材は、アルミニウム合金及び銅合金のいずれか一方からなり、
前記第2の母材の主成分は、前記第1の母材の主成分と等しいものであり、
単パス又は複数パスの積層により溶接金属を形成し、前記第1の母材と前記第2の母材とを接合することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の溶接方法により得られることを特徴とする溶接金属。
【請求項10】
さらに、3日間以上の時効硬化処理が施されたことを特徴とする、請求項9に記載の溶接金属。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の溶接方法を用いることを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【請求項12】
前記溶接金属を得る工程の後に、
前記溶接金属を3日間以上保持し、時効硬化処理を施す工程を有することを特徴とする、請求項11に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の溶接継手の製造方法により得られることを特徴とする、溶接継手。
【請求項14】
少なくとも前記溶接金属の表面を覆う領域に、水分非浸透性の樹脂シール剤を有することを特徴とする、請求項13に記載の溶接継手。
【請求項15】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有する溶接方法により得られ、
さらに、3日間以上の時効硬化処理が施されたことを特徴とする、溶接金属。
【請求項16】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有する溶接方法を用い、
前記溶接金属を得る工程の後に、
前記溶接金属を3日間以上保持し、時効硬化処理を施す工程を有することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【請求項17】
第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有する溶接方法を用いる溶接継手の製造方法により得られる溶接継手であって、
少なくとも前記溶接金属の表面を覆う領域に、水分非浸透性の樹脂シール剤を有することを特徴とする、溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄材料からなる溶接ワイヤを用いた溶接方法、該溶接方法により得られる溶接金属、該溶接方法を用いた溶接継手の製造方法、及び該溶接継手の製造方法により得られる溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金材や銅合金材は、その他の代表的な金属である鉄を主成分とする鋼材と比較して、大気暴露環境では錆びにくいという優れた長所を有する。一方、アルミニウム合金材や銅合金材の強度は、一般的な炭素鋼材よりも低いという短所を有している。
アルミニウム合金材のうち、例えば板材や押出材においては、JIS規格による合金記号でA2000番台又はA7000番台に分類される合金材のように、銅、マグネシウム、亜鉛等のアルミニウム以外の金属を含有させ、これを時効硬化させた合金材が、既に一般的に使用されている。このような析出硬化した合金は、ジュラルミン、超ジュラルミン、超々ジュラルミンと呼ばれることがあり、高張力鋼には及ばないが、400MPaを超える高い強度が得られるものがある。
【0003】
ところで、溶接構造物の設計における一般的な指針として、溶接金属で破断しないことが挙げられる。しかしながら、アルミニウム合金や銅合金のように、非鉄材料からなる溶接ワイヤにおいて、顕著な析出硬化型の製品は流通しておらず、このため、母材に対して溶接部の強度が顕著に低くなってしまうことがある。
【0004】
なお、JIS Z 3232:2009には、アルミニウム及びアルミニウム合金の溶加棒及び溶接ワイヤの記号A2319として、銅を5.8~6.8質量%含有する析出硬化型のアルミニウム合金溶接ワイヤが規定されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】JIS Z 3232:2009、「アルミニウム及びアルミニウム合金の溶加棒及び溶接ワイヤ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、少なくとも現在(2021年)において、上記アルミニウム合金の溶接ワイヤは、世界的に全く流通していない。その理由として、析出硬化型金属は、強度が高い代わりに伸び特性が低いため、鋳造状態では製造することができるが、ワイヤ形状に伸線する過程で伸び不足で破断してしまい、生産性が著しく悪いからであると想像される。また、JIS Z 3232:2009において規定される記号A2319の強度値は、最も流通しているA5000系溶接ワイヤよりも低い値に留まり、析出硬化特性が不十分であることが示唆される。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、非鉄材料からなるワイヤを使用し、アルミニウム合金材同士、銅合金材同士、又は異種材料を被溶接材とした溶接継手を形成する際に使用され、高強度な溶接金属を得ることができる、溶接方法、溶接金属、溶接継手の製造方法及び溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルミニウム合金材同士、銅合金材同士、又は異種材料を母材とした溶接において、高強度な溶接金属を得ることができる方法について鋭意検討を行った。その結果、アルミニウム合金からなる溶接ワイヤと、銅合金からなる溶接ワイヤとを熱源により溶融させる溶接方法を用いることにより、著しく高い強度を有する溶接金属を得ることができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本発明の上記目的は、溶接方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 第1の母材と第2の母材とを溶接により接合する溶接方法であって、
アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属を得る工程を有することを特徴とする、溶接方法。
【0011】
また、溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
【0012】
[2] 前記熱源は、アーク、レーザ及び電子ビームから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[1]に記載の溶接方法。
【0013】
[3] 前記第1の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量を重量でW1(g)、前記第2の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量を重量でW2(g)とする場合に、
下記式(1)により得られる重量比が8%以上40%以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の溶接方法。
W2/(W1+W2)・・・式(1)
【0014】
[4] 前記第1の溶接ワイヤを、MIGアーク溶接の消耗電極として使用し、
前記第2の溶接ワイヤは、前記MIGアーク溶接のアークを前記熱源として溶融させることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶接方法。
【0015】
[5] 前記第2の溶接ワイヤをフィラーワイヤとして使用し、
前記フィラーワイヤに電気を流し、電気抵抗により前記フィラーワイヤを昇温させることを特徴とする、[4]に記載の溶接方法。
【0016】
[6] 前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤの少なくとも一方をフィラーワイヤとして使用し、
前記フィラーワイヤに電気を流し、電気抵抗により前記フィラーワイヤを昇温させることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶接方法。
【0017】
[7] 前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤを、MIGアーク溶接の消耗電極として使用することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶接方法。
【0018】
[8] 前記第1の母材は、アルミニウム合金及び銅合金のいずれか一方からなり、
前記第2の母材の主成分は、前記第1の母材の主成分と等しいものであり、
単パス又は複数パスの積層により溶接金属を形成し、前記第1の母材と前記第2の母材とを接合することを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の溶接方法。
【0019】
[9] 前記第1の母材は、アルミニウム合金又は銅合金からなり、
前記第2の母材は、厚さ方向に貫通穴を有し、前記第1の母材よりも高融点の材料からなるものであり、
前記溶接金属を得る工程は、
前記第1の母材を下板とし、前記第2の母材を上板として前記第1の母材の上に重ねて配置する工程と、
前記貫通穴を介して、前記熱源により前記下板を溶融させるとともに、前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤを溶融させて、前記貫通穴を充填する溶融金属を形成する工程と、
前記溶融金属の上面、及び前記上板の上面における少なくとも一部に余盛りを形成する工程と、を有し、
前記溶接金属の主成分が、前記第1の母材の主成分と等しくなるように、前記第1の溶接ワイヤ及び前記第2の溶接ワイヤの送給速度を設定することを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の溶接方法。
【0020】
本発明の上記目的は、溶接金属に係る下記[10]の構成により達成される。
【0021】
[10] [1]~[9]のいずれか1つに記載の溶接方法により得られることを特徴とする溶接金属。
【0022】
また、溶接金属に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[11]に関する。
【0023】
[11] さらに、3日間以上の時効硬化処理が施されたことを特徴とする、[10]に記載の溶接金属。
【0024】
本発明の上記目的は、溶接継手の製造方法に係る下記[12]の構成により達成される。
【0025】
[12] [1]~[9]のいずれか1つに記載の溶接方法を用いることを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【0026】
また、溶接継手の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[13]に関する。
【0027】
[13] 前記溶接金属を得る工程の後に、
前記溶接金属を3日間以上保持し、時効硬化処理を施す工程を有することを特徴とする、[12]に記載の溶接継手の製造方法。
【0028】
本発明の上記目的は、溶接継手に係る下記[14]の構成により達成される。
【0029】
[14] [12]又は[13]に記載の溶接継手の製造方法により得られることを特徴とする、溶接継手。
【0030】
また、溶接継手に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[15]に関する。
【0031】
[15] 少なくとも前記溶接金属の表面を覆う領域に、水分非浸透性の樹脂シール剤を有することを特徴とする、[14]に記載の溶接継手。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アルミニウム合金材同士、銅合金材同士、又は異種材料を母材とした溶接継手を形成する際に使用され、高強度な溶接金属を得ることができる、溶接方法、溶接金属、溶接継手の製造方法及び溶接継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。
図4図4は、本発明の第3の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。
図5図5は、本発明の第4の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。以
図6図6は、本発明の第5の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。
図7図7は、本発明の第6の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。
図8図8は、本発明の第6の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図9図9は、本発明の第7の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。
図10図10は、本発明の第7の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図11図11は、T字すみ肉溶接により得られる継手を示す断面図である。
図12図12は、突合せ溶接により得られる継手を示す断面図である。
図13図13は、フレア溶接により得られる継手を示す断面図である。
図14図14は、多層盛り突合せ溶接により得られる継手を示す断面図である。
図15図15は、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。
図16図16は、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図17図17は、他の組み合わせの母材に対して、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法を用いて得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図18図18は、さらに他の組み合わせの母材に対して、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法を用いて得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
図19図19は、樹脂シール剤を有する溶接継手を示す斜視図である。
図20図20は、樹脂シール剤を有する溶接継手の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0035】
〔1.溶接方法〕
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。また、図2は、本発明の第1の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。図1に示すように、第1の母材11を下板とし、第2の母材12を上板として、第1の母材11の表面に、その厚さ方向に積層するように第2の母材12を重ねて配置する。以下、母材11が板材である場合には、母材11の厚さ方向に直交する面を表面、厚さ方向に直交する方向を面方向、厚さ方向に平行な面を端面ということがある。
【0036】
次に、第1の母材11と第2の母材12とが重ねられた領域の上方に、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2とを設置する。なお、第1の実施形態において、第1の溶接ワイヤ1は、円筒状のシールドガスノズル3の径方向中心に配置されたワイヤガイドチップ4により保持されており、第1の溶接ワイヤ用送給ローラ5により、第1の溶接ワイヤ1の送給速度が調節可能となっている。また、第2の溶接ワイヤ2は、ワイヤガイドチップ6により保持されており、第2の溶接ワイヤ用送給ローラ7により、第2の溶接ワイヤ2の送給速度も調節可能となっている。
【0037】
溶接時においては、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2をフィラーワイヤとして使用し、シールドガスノズル3から不活性ガス8を供給しつつ、溶接の狙い位置に熱源としてのレーザ9を照射することにより、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させる。また、レーザ9の照射と同時に、第1の溶接ワイヤ用送給ローラ5及び第2の溶接ワイヤ用送給ローラ7により、第1の溶接ワイヤ1の送給速度及び第2の溶接ワイヤ2の送給速度を、それぞれ所望の速度に調節する。本実施形態においては、1本のレーザ9を溶接の狙い位置に照射し、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを1本のレーザ9で溶融させているが、2本のレーザを使用し、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とのそれぞれに照射してもよい。また、第2の溶接ワイヤ2をシールドガスノズル3に配置されたワイヤガイドチップ4により保持してもよく、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2のいずれか一方のみをフィラーワイヤとして使用してもよく、熱源は特に限定されない。
【0038】
なお、純アルミニウムの融点は約660℃であり、純銅の融点は約1083℃である。したがって、局所的に第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を同時に溶融させる温度が得られる熱源(レーザ9)を照射することにより、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2と、第2の母材12の一部とが同時に溶融する。その後、レーザ9の照射を続けることにより、図2に示すように、深い溶け込みが得られ、さらに冷却することにより、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属10が形成される。これにより、第1の母材11と第2の母材12とを溶接により接合することができる。
【0039】
また、接合後の第1の母材11及び第2の母材12を3日間以上保持し、溶接金属10に時効硬化処理を施すことにより、第1の母材11と第2の母材12とが、溶接金属10を介して接合された高強度な溶接継手を製造することができる。
【0040】
上記第1の実施形態に係る溶接方法によると、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2は、いずれも単体では強度が低いが、一般的に流通しており、容易に入手できるものであって、接合部分の溶融池において容易に混合させることができるため、高強度な析出合金からなる溶接金属10を容易に低コストで形成することができる。
【0041】
このように、異なる金属を溶融池において溶融混合させることができるのは、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2が、いずれも融点の低い金属を主成分としているためである。例えば、鋼、ニッケル合金又はクロム合金からなる溶接ワイヤを組み合わせて、上記の方法で溶接しようとすると、鋼、ニッケル合金及びクロム合金はいずれも高融点金属であるため、融点以上に達している時間が短く、均一に溶融混合された溶接金属を得ることは困難である。したがって、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2を使用する本実施形態による溶接方法は、高強度の溶接金属を得る方法として極めて有用である。
【0042】
なお、上記第1の実施形態においては、熱源としてレーザ9を使用したが、本発明はレーザに限定されない。本発明において使用することができる熱源の種類と、その熱源を使用した溶接の特徴について、以下に詳細に説明する。
【0043】
<熱源及び溶接方法の特徴>
(アーク)
アークは、電極と母材との間に電圧を印加して得られるプラズマ気体である。アークを熱源とする溶接方法としては、ワイヤ自身が消耗電極の役目を果たして、アークの発生源となる、MAG(Metal Active Gas)溶接法及びMIG(Metal Inert Gas)溶接法が挙げられる。他に、タングステン合金が非消耗電極となり、ワイヤはフィラーとして挿入する、TIG(Metal Inert Gas)溶接法も一般的に使用されている。なお、本発明においては、プラズマ溶接法と呼ばれる特殊なアークも使用することができるが、これはエネルギー密度を高めたTIG溶接アークということができる。
【0044】
本実施形態においては、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1を使用するが、アルミニウム合金は、高温において酸素との反応性が高く、酸化アルミニウムは非常に脆性的であるため、酸化アルミニウムを含む溶接金属の強度も極めて低いものとなる。このため、本実施形態においてシールドガスを使用する場合に、シールドガスとしては、Ar、He等の不活性ガス(Inert Gas)を使用することが好ましい。したがって、本実施形態においては、MIGアーク溶接及びTIGアーク溶接を好適に使用することができる。
【0045】
(レーザ)
レーザは、位相が揃った光を集光したもので、狭い領域に大きなエネルギーを作り出すことができる熱源である。溶接ワイヤはフィラーとして挿入する。レーザとしては、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、ファーバーレーザなどの種類が挙げられ、いずれのレーザも本発明に適用可能である。なお、上記各レーザ光の種類の他に、集光される光束の形状についても種々の形状が挙げられるが、例えば、円形、ドーナツ状等のいずれの形状も本発明に適用可能である。
また、熱源としてレーザを使用する場合に、シールドガスは必ずしも必要ではないが、熱源として上記アークを使用する場合と同様に、不活性ガスを用いることが、品質上望ましい。
【0046】
(電子ビーム)
電子ビームとは、加熱された陰極から放出される電子を高電圧で加速し、電磁コイルで集束させて高エネルギー密度とした熱源であり、極めて高いエネルギー密度が得られるという特徴を有する。電子ビームを熱源として溶接する場合に、シールドガスを必要としないが、真空雰囲気下で行う必要がある。
【0047】
(その他の熱源)
上記アーク、レーザ及び電子ビームの他に、局所的高温熱源としては、例えばガス火炎が挙げられる。ただし、ガス火炎による溶接時には、不活性雰囲気又は真空雰囲気にすることができないため、本実施形態において、熱源としては、アーク、レーザ及び電子ビームから選択された少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0048】
<第1の溶接ワイヤ>
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1として、アルミニウム合金からなるワイヤを使用する。
第1の溶接ワイヤ1としては、JIS Z 3232:2009の「アルミニウム及びアルミニウム合金の溶加棒及び溶接ワイヤ」に規定され、市場流通している一般製品を使用することができる。具体的には、記号が、A1070、A1100、A4043、A4047、A5554、A5356、A5183等を使用することができるが、アルミニウム合金からなるワイヤであれば特に限定されず、JISに規格されたワイヤ以外であっても、独自に調整した組成を有する溶接ワイヤを用いることができる。
【0049】
<第2の溶接ワイヤ>
本実施形態においては、第2の溶接ワイヤ2として、銅合金からなるワイヤを使用する。
第2の溶接ワイヤ2としては、JIS Z 3341:1999の「銅及び銅合金イナートガスアーク溶加棒及びソリッドワイヤ」に規定され、市場流通している一般製品を使用することができる。具体的には、記号が、YCu、YCuSi A、YCuSi B、YCuSn A、YCuSn B、YCuAl、YCuAlNi A、YCuAlNi B、YCuAlNi C、YCuNi-1、YCuNi-3等を使用することができる。ただし、Alを比較的多く含むYCuAl、これに加えてNiを多く含むYCuAlNi A~C、並びにAlは含まないがNiを多く含むYCuNi-1及びYCuNi-3は、合金成分を多量に含有するため、最終的に得られる合金組成を逆算してワイヤ送給速度条件を決定する際に、計算が面倒になる。したがって、シンプルな組成を有するワイヤを選択することが好ましい。なお、第1の溶接ワイヤ1と同様に、本実施形態においては、銅合金からなるワイヤであれば特に限定されず、JISに規格されたワイヤ以外であっても、独自に調整した組成を有する溶接ワイヤを用いることができる。
【0050】
(第1の溶接ワイヤ及び第2の溶接ワイヤのワイヤ径)
本実施形態において、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを、均一に溶融させることができれば、ワイヤ径については特に限定されない。例えば、溶融特性及び送給性の観点から、ワイヤ径は、それぞれ1.2mm以上1.6mm以下であることが好ましい。
【0051】
<ワイヤ送給速度>
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2との送給速度の比を適切に制御すると、より一層高強度の溶接金属を得ることができる。一般的に、ジュラルミンと呼ばれるアルミニウム合金に含まれる銅の含有量は、3.5~4.5質量%であるが、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2とを同時に溶融させて溶接金属を得る場合に、母材からの希釈を考慮し、ジュラルミンにおける銅含有量よりも多い割合で、第2の溶接ワイヤ2を供給することが好ましい。
【0052】
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2の単位時間あたりの送給量の比を限定することにより、高強度の溶接金属を得るための送給速度を設定することができる。すなわち、第1の溶接ワイヤ1の単位時間あたりの送給量を重量(すなわち、質量)でW1(g)、前記第2の溶接ワイヤ2の単位時間あたりの送給量を重量でW2(g)とする場合に、下記式(1)により得られる第2の溶接ワイヤ2の重量比(すなわち、質量比)を規定する。
W2/(W1+W2)・・・式(1)
【0053】
式(1)により得られる重量比が8%以上であると、溶接金属が十分に析出硬化し、それによる顕著な高強度化を実現することができる。また、上記重量比が15%以上であると、固溶硬化も寄与するため、より一層溶接金属の強度を向上させることができる。したがって、式(1)により得られる第2の溶接ワイヤ2の重量比は、8%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。
一方、式(1)により得られる重量比が40%を超えても、析出硬化は飽和し、溶接金属の硬度をより一層高める効果は得られない。また、式(1)により得られる重量比を40%以下にすると、溶接割れ欠陥の発生や脆化を抑制することができるとともに、溶接金属内へのワイヤ溶け残りの発生を抑制することができる。さらに、式(1)により得られる重量比を30%以下にすると、溶接金属の脆化を抑制し、耐割れ性をより一層向上させることができるとともに、ワイヤの溶け残りの発生を抑制する効果も向上する。したがって、式(1)により得られる第2の溶接ワイヤ2の重量比は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0054】
なお、本実施形態において、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2を使用するものとしている。アルミニウム合金とは、合金全質量に対してアルミニウムが50質量%超含有されていることを表し、銅合金とは、合金全質量に対して銅が50質量%超含有されていることを表す。ただし、上述のとおり、第1の溶接ワイヤ1としては、JIS Z 3232:2009に規定されたワイヤ記号が、A1070、A1100、A4043、A4047、A5554、A5356、A5183である組成のワイヤのうち1種を使用することが好ましい。この場合に、第1の溶接ワイヤ1中のアルミニウムの含有量は、約85質量%以上となるため、第1の溶接ワイヤ中のアルミニウムの含有量は、85質量%以上であることが好ましい。
【0055】
同様に、第2の溶接ワイヤ2としては、JIS Z 3341:1999に規定されたワイヤ記号が、YCu、YCuSi A、YCuSi B、YCuSn A、YCuSn B、YCuAl、YCuAlNi A、YCuAlNi B、YCuAlNi C、YCuNi-1、YCuNi-3である組成のワイヤのうち1種を使用することが好ましい。この場合に、第2の溶接ワイヤ2中の銅の含有量は、約65質量%以上となるため、第2の溶接ワイヤ2中の銅の含有量は、65質量%以上であることが好ましい。また、上記組成のワイヤのうち、YCu、YCuSi A、YCuSi B、YCuSn A又はYCuSn Bを使用することがより好ましく、第2の溶接ワイヤ2中の銅の含有量は、90質量%以上であることがより好ましい。
【0056】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。以下の図3及び図4に示す第2及び第3の実施形態において、図1に示す第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図3に示すように、本実施形態においては、真空チャンバ100内に、第1の母材11と第2の母材12とを厚さ方向に重ねて配置し、これらが重ねられた領域の上方に、第1の溶接ワイヤ1と、第2の溶接ワイヤ2とを設置する。なお、第1の溶接ワイヤ1は、ワイヤガイドチップ4に保持されているのみで、シールドガスノズルは使用していない。
【0057】
溶接時においては、真空チャンバ100内を真空雰囲気にした後、溶接の狙い位置に熱源としての電子ビーム21を照射する。本実施形態においては、1本の電子ビーム21を溶接の狙い位置に照射し、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを1本の電子ビーム21で溶融させたが、2本の電子ビームを使用し、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とのそれぞれに照射してもよい。
【0058】
上記第2の実施形態に係る溶接方法によると、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を同時に溶融させ、接合部分の溶融池において容易に混合させることができるため、高強度な析出合金からなる溶接金属10を容易に低コストで形成することができる。
【0059】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。
図4に示すように、本実施形態において、第1の溶接ワイヤ1は、円筒状のシールドガスノズル3の径方向中心に配置された給電コンタクトチップ14により保持されており、この給電コンタクトチップ14と第2の母材12とが、アーク溶接電源23に接続されている。第2の溶接ワイヤ2は、第1の実施形態と同様に、ワイヤガイドチップ6に保持されている。
【0060】
溶接時においては、第1の溶接ワイヤ1を、MIGアーク溶接の消耗電極として使用する。すなわち、シールドガスノズル3から不活性ガス8を供給しつつ、アーク溶接電源23によって、第1の溶接ワイヤ1と第2の母材12との間にアーク22を発生させることにより、第1の溶接ワイヤ1及び第2の母材12を溶融させる。また、第2の溶接ワイヤ2は、上記MIGアーク溶接のアーク22を熱源として溶融させる。
【0061】
上記第3の実施形態に係る溶接方法によると、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を同時に溶融させ、接合部分の溶融池において容易に混合させることができるため、高強度な析出合金からなる溶接金属10を容易に低コストで形成することができる。
なお、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1を用いたMIG溶接と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2を用いたMIG溶接とを比較した場合、前者のほうが、優れたアーク安定性を有するとともに、スパッタの発生を抑制することができる。これは、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1の方が、第2の溶接ワイヤ2よりも融点が低いからである。したがって、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2のうち、いずれか一方をフィラーとする場合には、アルミニウム合金ワイヤをMIG溶接のワイヤとして使用し、銅合金ワイヤをフィラーワイヤとする溶接方法が、作業性の点で望ましい。
【0062】
[第4の実施形態]
図5は、本発明の第4の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。以下の図5に示す第4の実施形態において、図4に示す第3の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
第4の実施形態においては、第3の実施形態と同様に、第1の溶接ワイヤ1をMIG溶接の消耗電極として使用している。また、第2の溶接ワイヤ2をフィラーワイヤとしており、MIG溶接により発生するアーク22を熱源として溶融させる。ただし、フィラーワイヤを用いた第2の溶接ワイヤ2は、給電コンタクトチップ16により保持されており、この給電コンタクトチップ16と第2の母材12とが、通電用電源24に接続されている。
【0063】
溶接時においては、通電用電源24により、第2の溶接ワイヤ(フィラーワイヤ)2に電気を流し、電気抵抗により第2の溶接ワイヤ2を昇温させた後に、第2の溶接ワイヤ2の先端をアーク22に挿入する。これにより、フィラーワイヤの溶融を促進することができる。
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1をMIG溶接の消耗電極として使用し、第2の溶接ワイヤ2をMIG溶接のアークにより溶融させたが、本発明において、第1の溶接ワイヤ1の熱源及び第2の溶接ワイヤ2の熱源は、特に限定されない。例えば、図1に示すレーザ9又は図3に示す電子ビーム21も、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させる熱源として使用することができる。
【0064】
なお、フィラーワイヤの先端をアークやレーザなどの高温熱源に挿入させる前に、通電による抵抗発熱を利用して、フィラーワイヤを昇温する方法は公知である。このようなワイヤは、一般的に「ホットワイヤ」と呼ばれており、例えば、特開平8-39249号公報、特開平1-289573号公報、特開平2-169183号公報等に記載されている。ホットワイヤシステムは、元々、入熱上昇を抑制しつつ、多量の同種金属溶接ワイヤを溶融させ、施工能率を高めることを目的として開発されたものである。
【0065】
一方、本実施形態は、互いに異なる材料からなる2種の低融点金属ワイヤを使用し、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2の少なくとも一方を、通電により昇温させるフィラーワイヤとして使用することができる。その結果、より効率よく異なる材料を混合して、高強度な低融点金属を生成することができる。このため、本実施形態に係る溶接方法は、従来のホットワイヤを利用する溶接方法とは異なり、新たな観点により得られた方法であるといえる。
【0066】
[第5の実施形態]
図6は、本発明の第5の実施形態に係る溶接方法を示す模式図である。以下の図6に示す第5の実施形態において、図5に示す第4の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
第5の実施形態において、第2の溶接ワイヤ2は、給電コンタクトチップ16により保持されているが、第1の溶接ワイヤ1と同様に、第2の溶接ワイヤ2を保持する給電コンタクトチップ16と第2の母材12とが、アーク溶接電源33に接続されている。また、上記第4の実施形態では、第1の溶接ワイヤ1は、円筒状のシールドガスノズル3の径方向中心に配置された給電コンタクトチップ14により保持されているが、本実施形態では、角筒型のシールドガスノズル13を使用している。図6に示すように、シールドガスノズル13は、所定の位置に配置した際に、例えば第2の母材12の表面に平行な方向における断面が長方形であり、長手方向に2本のワイヤを保持できるように形成されている。
【0067】
溶接時においては、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を、それぞれ、MIGアーク溶接の消耗電極として使用する。すなわち、幅広のシールドガスノズル13から不活性ガス8を供給しつつ、アーク溶接電源23により第1の溶接ワイヤ1と第2の母材12との間にアーク22を発生させるとともに、アーク溶接電源33により第2の溶接ワイヤ2と第2の母材12との間にアーク32を発生させる。これにより、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを同時に溶融させることができる。
【0068】
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを、共通のシールドガスノズル13を使用して、同時に移動させたが、本発明において、シールドガスノズルの形状は特に限定されない。例えば、図5に示すシールドガスノズル3と同様のものを2つ利用し、一方のシールドガスノズルで第1の溶接ワイヤ1の給電コンタクトチップ14を保持し、他方のシールドガスノズルで第2の溶接ワイヤ2の給電コンタクトチップ16を保持するように構成してもよい。
【0069】
なお、2本のワイヤを使用し、両方のワイヤを消耗電極としてアークを発生させる方法は公知である。このような溶接方法は、一般的にタンデムアーク溶接方法と呼ばれ、例えば、特許4615779号公報、特許4864232号公報、特許4175781号公報、特開2009-006368号公報、特許4844564号公報等に記載されている。タンデムアーク溶接方法は、元々、1パスの施工で多量の同種溶接金属ワイヤを溶融させ、施工能率を高めることを目的として開発されたものである。
【0070】
一方、本実施形態は、互いに異なる材料からなる2種の低融点金属ワイヤを、MIG溶接の消耗電極として使用することにより、効率よく異なる材料を混合して、高強度な低融点金属を生成することができる。このため、本実施形態に係る溶接方法は、従来のタンデムアーク溶接方法とは異なり、新たな観点により得られた方法であるといえる。
【0071】
[第6の実施形態]
図7は、本発明の第6の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。また、図8は、本発明の第6の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。以下の図7に示す第6の実施形態、及び図9に示す第7の実施形態は、それぞれ、図4に示す第3の実施形態の母材形状及び溶接位置を変化させたものである。したがって、図7及び図9において、図4に示す第3の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、図7及び図9において、第1の溶接ワイヤ1と第2の母材12との間に接続するアーク溶接電源23については、図示を省略している。
【0072】
溶接時に溶融池が第2の母材12の面方向に移動せず、点状に溶接金属を形成する溶接方法を、一般的にアークスポット溶接又は栓溶接という。上述の第1~第5の実施形態は、アークスポット溶接の例であり、第1の母材11及び第2の母材12に穴を形成せず、熱源と溶融金属の熱により第2の母材12を貫通して、第1の母材11まで溶融させる方法である。第2の母材12が薄い場合は、上記アークスポット溶接を好適に使用することができる。
【0073】
これに対して、第6の実施形態は、栓溶接の例であり、第1の母材(下板)11の上に積層するように第2の母材(上板)42を配置するが、第2の母材42における溶接金属30を形成する位置には、貫通穴42aが形成されている。第2の母材42が厚い場合は、この栓溶接を好適に使用することができる。なお、本実施形態において、第1の母材11はアルミニウム合金からなり、第2の母材42の主成分は、第1の母材11の主成分と等しい材料、すなわちアルミニウム合金からなるものである。なお、本明細書において、主成分とは、母材、溶接金属等を構成する材料のうち50質量%超の割合で含有されている成分を示す。
【0074】
溶接時においては、第2の母材42の貫通穴42aに第1の溶接ワイヤ1の先端と第2の溶接ワイヤ2の先端を挿入し、第1の溶接ワイヤ1を溶融させる熱源であるアーク22を、貫通穴42aの中心付近を狙って照射する。これにより、貫通穴42aを介して露出している第1の母材11を溶融させるとともに、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させて、貫通穴42aを充填する溶接金属30を形成する。その結果、第4の実施形態と同様に、溶接金属30は、アルミニウム及び銅を含有する高強度なものとなり、第1の母材11と第2の母材42とを接合することができる。
【0075】
上記のように、貫通穴42aが真円に近く、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を移動させることなく溶接金属を貫通穴42aに充填できれば、これらのワイヤは移動させる必要はない。しかし、貫通穴が長方形である場合や、面方向における貫通穴の大きさが大きい場合には、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2と、第1の母材11及び第2の母材42を相対的に移動させてもよい。
【0076】
ところで、アルミニウム合金からなる母材同士を接合する場合には、アルミニウム合金からなるワイヤを使用し、アルミ基合金からなる溶接金属を形成することが一般的である。同様に、銅合金からなる母材同士を接合する場合には、銅合金からなるワイヤを使用し、銅合金からなる溶接金属を形成することが一般的である。
【0077】
本実施形態においては、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を同時に溶融させ、アルミニウム及び銅を含有する溶接金属30を形成しており、溶接金属30と第1の母材11と、及び溶接金属30と第2の母材42とが、それぞれ金属結合によって接合した状態となっている。
【0078】
なお、第6の実施形態に示すような栓溶接を実施した場合の継手強度は、(a)溶接金属の強度と、(b)断面積、すなわち、溶接金属と母材との接触面積によって主に支配される。したがって、上記(a)の溶接金属の強度を高めるためには、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2とを適切な比率で溶融させ、高い強度特性を持たせることが有効である。また、上記(b)の断面積を大きくするためには、第2の母材42の面方向における貫通穴42aの面積を、施工能率が許される範囲で適度に大きくすることが有効である。これにより、さらに高い継手強度を得ることができる。
【0079】
また、熱源と溶融金属の熱により溶融した第1の母材11及び第2の母材42における、溶接金属との境界となる面に、溶融池を確実に行き渡らせるためには、溶接金属30が下板に対して深く溶け込むようにすることが好ましい。すなわち、第1の母材11が、熱によって半溶融又は溶融池となり、図8に示すように、第1の母材11の裏面から突起状に膨らむ突出部30aが形成されるように施工管理することにより、望ましい溶け込み状態を得ることができ、高い強度を有する継手を得ることができる。
【0080】
[第7の実施形態]
図9は、本発明の第7の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。また、図10は、本発明の第7の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。
【0081】
図9に示すように、第7の実施形態においては、略水平に配置された第1の母材11の表面11aに、第2の母材12の端面12bが配置されるように、第2の母材12を配置する。
【0082】
溶接時においては、第1の母材11の表面11aと第2の母材12の端面12bとの間に形成されたすみ肉部45を狙うように、第1の溶接ワイヤ1と第2の溶接ワイヤ2とを配置し、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させつつ、第2の母材12の端面12bに沿って移動させる。これにより、図10に示すように、すみ肉部45に溶接金属40が形成され、第1の母材11と第2の母材12とを接合することができる。なお、溶接時に溶融池を移動させ、線状に形を成したものを溶接ビードといい、比較的薄板の母材同士を強固に接合することができる。
【0083】
上述の第7の実施形態は、すみ肉部45に溶接金属を形成する重ねすみ肉溶接について示したが、本発明は他の溶接方法にも適用することができる。
【0084】
図11図14は、種々の溶接方法により得られる継手の例を模式的に示す断面図である。図11は、T字すみ肉溶接により得られる継手を示している。図11に示すように、略水平に配置された第1の母材11の表面11aに、第2の母材12の端面12bを対向させるように配置し、第1の母材11の表面11aと第2の母材12の表面12aとの間に形成されたすみ肉部45に溶接金属40を形成することにより、第1の母材11と第2の母材12とが接合され、T字すみ肉継手81を得ることができる。
【0085】
図12は、突合せ溶接により得られる継手を示している。図12に示すように、第1の母材11と第2の母材12とを、これらの端面11bと端面12bとが対向するように配置し、第1の母材11の端面11bと第2の母材12の端面12bとの間に形成された突合せ部17に溶接金属60を形成することにより、第1の母材11と第2の母材12とが接合され、突合せ継手82を得ることができる。
【0086】
図13は、フレア溶接により得られる継手を示している。図13に示すように、所定の曲率を有するように曲げられた第1の母材61と第2の母材62とを、その湾曲部が隣接するように配置し、第1の母材61の湾曲部と第2の母材62の湾曲部との間に形成された開先67に溶接金属60を形成することにより、第1の母材61と第2の母材62とが接合され、フレア継手83を得ることができる。なお、第1の母材61及び第2の母材62は鉄筋でもよく、長手方向が互いに平行となるように接触して配置された鉄筋の間に溶接金属を形成することにより、両者を接合することができる。
【0087】
上記図11図13に示す継手は、1回のパス(単パス)により溶接金属を形成した例である。一方、図14は、板厚が大きい第1の母材71及び第2の母材72を溶接する場合に、複数パスにより溶接金属を形成した継手の例を示している。図14に示すように、第1の母材71及び第2の母材72の端面には、それぞれ切り欠き71a、72aが形成されている。溶接時においては、第1の母材71と第2の母材72とを、これらの端面同士が対向するように配置し、V開先を形成する。その後、V開先に対して、溶接ビードを複数パス70a、70b、70c・・・70dで積層させて、大きな溶接金属70を形成させることにより、第1の母材71と第2の母材72とが接合され、多層盛り突合せ継手84を得ることができる。
【0088】
上記のとおり、第1~第5の実施形態に係る溶接方法は、種々の溶接継手を製造する際に好適に利用することができ、全ての場合において、溶接金属と第1の母材、及び溶接金属と第2の母材とが金属結合により結合されるため、高い強度の溶接継手を得ることができる。なお、上述した全ての実施形態は、第1の母材及び第2の母材として、ともにアルミニウム合金からなるものを使用したが、ともに銅合金からなる第1の母材及び第2の母材を使用することもできる。すなわち第1の母材は、アルミニウム合金及び銅合金のいずれか一方からなり、第2の母材の主成分は、第1の母材の主成分と等しいものであればよい。
【0089】
本実施形態に係る溶接方法は、上記のように、第1の母材の主成分と第2の母材の主成分とが等しい場合のみでなく、第1の母材と第2の母材とが互いに異なる成分からなる場合、すなわち異材溶接に対しても、適用することができる。異材溶接の方法について、以下に説明する。
【0090】
[第8の実施形態]
図15は、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法を示す斜視図である。また、図16は、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法により得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。以下の図15に示す第8の実施形態は、図7に示す第6の実施形態の母材の材質を変化させたものである。したがって、図15において、図7に示す第6の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、図15においても、第1の溶接ワイヤと第2の母材との間に接続するアーク溶接電源については、図示を省略している。
【0091】
第8の実施形態において、第1の母材11はアルミニウム合金からなるものであり、第2の母材43は、第1の母材11よりも高融点の材料、例えば鋼合金からなるものである。また、第2の母材(上板)43における溶接金属を形成する位置には、貫通穴43aが形成されている。
【0092】
溶接時においては、第2の母材43の貫通穴43aに第1の溶接ワイヤ1の先端と第2の溶接ワイヤ2の先端を挿入し、第1の溶接ワイヤ1を溶融させる熱源であるアーク22を、貫通穴43aの中心付近を狙って照射する。これにより、貫通穴43aを介して露出している第1の母材11を溶融させるとともに、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させて、貫通穴43aを溶接金属30で充填する。本実施形態においては、得られる溶接金属30の主成分が第1の母材11の主成分と等しくなるように、第1の溶接ワイヤ1の送給速度と第2の溶接ワイヤ2の送給速度を調整する。その後さらに、第2の母材43の表面の一部と貫通穴43aの上面に溶接金属30を形成することにより、余盛30bを形成する。
【0093】
第6の実施形態と同様に、貫通穴43aが真円に近く、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を移動させることなく溶接金属を貫通穴43aに充填できれば、これらのワイヤは移動させる必要はない。しかし、貫通穴が長方形である場合や、面方向における貫通穴の大きさが大きい場合には、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2と、第1の母材11及び第2の母材43を相対的に移動させてもよい。
【0094】
上記第8の実施形態に係る溶接方法によると、金属結合のみを利用して接合することができない、異材同士の接合を実現することができる。すなわち、得られる溶接金属30の主成分と第1の母材11の主成分とは、互いに等しいため、溶接金属30と第1の母材(下板)11とは金属結合により強固に接合される。一方、溶接金属30と第2の母材(上板)43とは、互いに異なる成分を有する材料からなるため、これらは金属結合されない。しかし、本実施形態においては、第2の母材(上板)43は、溶接金属30の余盛30bと第1の母材(下板)11とに物理的に挟まれた状態となり、三次元的に拘束されるため、第1の母材11と第2の母材43とを接合することができる。
【0095】
また、第2の母材43は、第1の母材11よりも高融点の材料からなるため、第1の母材11を溶融させる温度の熱源を用いた場合であっても、第2の母材43は溶融しにくい。したがって、脆弱な金属間化合物が形成されることを防止することができる。
【0096】
なお、第8の実施形態に示すような異材溶接を実施した場合の継手強度は、(a)溶接金属の強度、(b)断面積、(c)余盛の厚みによって主に支配される。したがって、上記(a)の溶接金属の強度を高めるためには、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2とを適切な比率で溶融させ、第1の母材11の主成分と等しい主成分を有する溶接金属を形成し、高い強度特性を持たせることが有効である。また、上記(b)の断面積を大きくするためには、第2の母材43の面方向における貫通穴43aの面積を、施工能率が許される範囲で適度に大きくすることが有効である。さらに、上記(c)の余盛の厚みを厚くするためには、余盛高さが大きくなるように溶接金属30を形成することが有効である。これにより、さらに高い継手強度を得ることができる。
【0097】
また、熱源と溶融金属の熱により溶融した第1の母材11及び第2の母材43における、溶接金属との境界となる面に、溶融池を確実に行き渡らせるためには、溶接金属30が下板に対して深く溶け込むようにすることが好ましい。すなわち、第1の母材11が、熱によって半溶融又は溶融池となり、図16に示すように、第1の母材11の裏面から突起状に膨らむ突出部30aが形成されるように施工管理することにより、望ましい溶け込み状態を得ることができ、高い強度を有する継手を得ることができる。
【0098】
第8の実施形態に係る溶接方法では、アルミニウム合金又は銅合金からなる第1の母材を使用し、第2の母材として、第1の母材よりも高融点の材料からなるものを使用するとともに、第1の母材の主成分と等しい主成分となるように、溶接金属の成分を調整すればよい。したがって、本発明においては、第1の母材と第2の母材の組み合わせは、上記の組み合わせに限定されない。
【0099】
銅合金からなる母材と鋼合金からなる母材とを接合する例、及びアルミニウム合金からなる母材と銅合金からなる母材とを接合する例について、以下に簡単に説明する。
【0100】
図17及び図18は、他の組み合わせの母材に対して、本発明の第8の実施形態に係る溶接方法を用いて得られた溶接金属を拡大して示す断面図である。基本的な溶接方法は、第8の実施形態と同様であるため、溶接方法の詳細な説明は省略する。
【0101】
図17に示すように、まず、銅合金からなる第1の母材44の上に、鋼合金からなり、貫通穴43aを有する第2の母材43を積層するように配置する。その後、第1の母材44を溶融させ、突出部50aを形成しつつ、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させて、貫通穴43aを充填し、さらに上部に余盛50bを有する溶接金属50を形成する。
本実施形態においては、溶接金属50の主成分が銅となるように、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2の送給速度を設定するため、溶接金属50と第1の母材44とが金属結合により接合される。また、余盛50bの形成により、第2の母材43は物理的に固定されるため、第1の母材44と第2の母材43とを接合することができる。
【0102】
また、図18に示すように、まず、アルミニウム合金からなる第1の母材11の上に、銅合金からなり、貫通穴47aを有する第2の母材47を積層するように配置する。その後、第1の母材11を溶融させ、突出部30aを形成しつつ、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させて、貫通穴47aを充填し、さらに上部に余盛30bを有する溶接金属30を形成する。
本実施形態においては、溶接金属30の主成分がアルミニウムとなるように、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2の送給速度を設定するため、溶接金属30と第1の母材11とが金属結合により接合される。また、余盛30bの形成により、第2の母材47は物理的に固定されるため、第1の母材11と第2の母材47とを接合することができる。
【0103】
[2.溶接金属]
本実施形態に係る溶接金属は、上記[1.溶接方法]で説明した溶接方法により得られる溶接金属である。上述のとおり、銅を例えば5.8~6.8質量%含有するアルミニウム合金からなる溶接ワイヤは、実質的には存在しないため、通常の溶接により高強度の溶接金属を得ることはできない。本実施形態に係る溶接方法によると、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤとを所望の比率で混合溶融させることができるため、得られる溶接金属の強度を従来の溶接金属と比較して、著しく高いものとすることができる。
【0104】
なお、溶接を実施した後、3日間以上保持して時効硬化処理を施すことにより、溶接金属の強度をより一層向上させることができる。
【0105】
[3.溶接継手の製造方法]
本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、上記[1.溶接方法]で説明した溶接方法を用いて溶接継手を製造する方法である。溶接継手を製造するための製造方法において、母材の形状及び接合する箇所について特に限定されず、重ね溶接、T字すみ肉溶接、突合せ溶接、フレア溶接、多層盛り突合せ溶接等、種々の溶接方法を本発明に適用することができる。
また、上記[1.溶接方法]で説明した溶接方法により溶接金属を得た後、接合後の第1の母材及び第2の母材を3日間以上保持し、溶接金属に時効硬化処理を施すと、継手強度をより一層向上させることができる。
【0106】
[4.溶接継手]
本実施形態に係る溶接継手は、上記[3.溶接継手の製造方法]により得られるものである。本実施形態に係る溶接継手は、本実施形態に係る溶接金属を有するため、高い強度を有するものとなる。本実施形態に係る溶接継手の形状は特に限定されず、重ね溶接継手、T字すみ肉継手、突合せ継手、フレア継手、多層盛り突合せ継手等の種々の形状の溶接継手を対象としている。
【0107】
ただし、本実施形態に係る溶接金属は、アルミニウム及び銅を有するものであり、高い強度を有する一方、応力腐食割れやガルバニック腐食(電食)が起きやすいという特徴を有する。応力腐食割れは、溶接金属自身に起きる割れであり、ガルバニック腐食は異種材の母材との界面付近で起きる割れである。いずれの場合も、メカニズム的に、溶接金属にHOが付着する環境によって発生する。したがって、応力腐食割れ及びガルバニック腐食を防止するためには、溶接金属に水が付かないようにすることが有効である。
【0108】
なお、HOが付着する環境とは、視認できる液体状の水だけでなく、いわゆる湿気も含まれる。このため、本実施形態においては、水に曝される環境下での使用が想定されない場合であっても、腐食を防ぐための水分を遮断することが好ましい。具体的に、本実施形態に係る溶接継手は、溶接金属が露出しないように、少なくとも溶接金属の表面を覆う領域に、水分非浸透性の樹脂シール剤を有することが好ましい。溶接金属の表面が樹脂シール剤により覆われた溶接継手の例について、図面を参照して以下に説明する。
【0109】
図19及び図20は、樹脂シール剤を有する溶接継手を示す斜視図である。図19は、図9に示す第7の実施形態に係る溶接方法を用いて製造した溶接継手を示すため、図20において、図9と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、図20は、図15に示す第8の実施形態に係る溶接方法を用いて製造した溶接継手を示すため、図19において、図15と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0110】
図19に示す溶接継手においては、すみ肉部45に沿って延びる溶接金属40が形成されており、溶接金属40の露出している表面及びその周辺の第1の母材11及び第2の母材12の表面が、樹脂シール剤25により覆われている。
また、図20に示す溶接継手においては、栓溶接により溶接金属30が形成されており、溶接金属40における円状に露出している表面及びその周辺の第2の母材43の表面が、樹脂シール剤26により覆われている。
【0111】
このように、少なくとも溶接金属の表面を樹脂シール剤で覆うことにより、応力腐食割れ及びガルバニック腐食を防止することができる。
【0112】
少なくとも溶接金属の表面を樹脂シール剤により覆う方法としては特に限定されず、樹脂シール剤を構成する液体材料を塗布又は噴射等により溶接金属の表面に付着させた後、乾燥させる方法や、フィルム状の樹脂シール剤を貼付する方法等を利用することができる。また、使用することができる樹脂シール剤の種類も特に限定されず、例えば、エポキシ系、合成ゴム系、PVC系、ウレタン系、アクリル系、シリコーン系樹脂シール剤等を使用することができる。
【0113】
なお、樹脂シール剤を有する溶接継手として、上記の2種の重ね溶接継手を例に挙げて、図を用いて説明したが、本実施形態に係る全ての溶接金属の表面を樹脂シール剤で覆うことにより、応力腐食割れ及びガルバニック腐食を防止することができる。
【実施例
【0114】
[溶接]
溶接時に送給する第1の溶接ワイヤと第2の溶接ワイヤとの重量比と、得られる溶接金属の硬さとの関係を確認するため、第1の溶接ワイヤ1をMIGアーク溶接の消耗電極として使用し、第2の溶接ワイヤ2はMIGアークを熱源として溶融させて、栓溶接を行った。具体的な溶接方法について、図15を用いて以下に説明する。
【0115】
図15に示すように、アルミニウム合金からなる第1の母材11の上に、鋼合金からなり、貫通穴43aを有する第2の母材43を重ねて配置し、重ねられた領域の上方に、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤ1と、銅合金からなる第2の溶接ワイヤ2とを設置した。なお、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2の送給速度は、それぞれ、第1の溶接ワイヤ用送給ローラ及び第2の溶接ワイヤ用送給ローラにより、調節可能とした。
【0116】
その後、第2の母材43の貫通穴43aに、第1の溶接ワイヤ1の先端と第2の溶接ワイヤ2の先端を挿入し、シールドガスノズル3から不活性ガス8を供給しつつ、第1の溶接ワイヤ1を溶融させる熱源であるアーク22を、貫通穴43aの中心付近を狙って照射した。なお、第1の溶接ワイヤ1、第2の溶接ワイヤ2及び母材は移動させずに、貫通孔43aに向けて、1.5秒間のアーク22の照射を行った。これにより、貫通穴43aを介して露出している第1の母材11を溶融させるとともに、第1の溶接ワイヤ1及び第2の溶接ワイヤ2を溶融させて、貫通穴43aを溶接金属30で充填するとともに、第2の母材43の表面の一部と貫通穴43aの上面に余盛30bを形成した。
また、第1の溶接ワイヤ1の送給速度及び第2の溶接ワイヤ2の送給速度を、種々の速度に調節し、同様の栓溶接を実施した。溶接条件を以下に示す。
【0117】
<溶接条件>
(第1の溶接ワイヤ)
ワイヤの種類:JIS Z 3232:2009 A5356
ワイヤ径:1.2mm
(第2の溶接ワイヤ)
ワイヤの種類:JIS Z 3341:1999 YCu
ワイヤ径:1.2mm
(第1の母材)
板材の種類:アルミニウム合金A6022
板厚:2.0mm
(第2の母材)
板材の種類:980MPa級合金化溶融亜鉛めっき鋼板
板厚:1.4mm
貫通穴43aの直径:7mm
(溶接条件)
シールドガスの種類、流量:100体積%Ar、25L/min
第1の溶接ワイヤの送給速度:960cm/min
溶接時間:1.5s
【0118】
[第1及び第2の溶接ワイヤの送給量に対する硬さの評価]
ワイヤの送給量を種々に変化させて得られた溶接金属について、JIS Z2244:2009に記載の「ビッカース硬さ試験-試験方法」に準拠して、ビッカース硬さを測定した。溶接ワイヤの送給量及びビッカース硬さの測定結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、W1は第1の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量(g)を表し、W2は第2の溶接ワイヤの単位時間あたりの送給量(g)を表す。
【0119】
【表1】
【0120】
得られた溶接金属については、ビッカース硬さが、90Hv未満であったものを不可と判断し、「D」とした。また、ビッカース硬さが、90Hv以上であったものを可と判断し、「C」とした。また、「C」と判断されたもののうち、150Hv以上(490MPa相当以上)、345Hv以下(1080MPa相当以下)であったものを良好(「B」)とし、「B」と判断されたもののうち、170Hv以上(540MPa相当以上)、280Hv以下(980MPa相当以下)であったものを優良(「A」)とした。
【0121】
上記表1に示すように、発明例No.1~7は、アルミニウム合金からなる第1の溶接ワイヤと、銅合金からなる第2の溶接ワイヤと、を熱源により溶融させることにより得られた溶接金属であるため、アルミニウム合金からなるワイヤのみを使用して溶接金属を作製した比較例No.1と比較して、高い硬さを有する溶接金属を得ることができた。また、発明例No.2~6は、ワイヤ重量比が8%~40%であり、銅合金からなる第2の溶接ワイヤの重量比が本発明の好ましい範囲内であったため、ビッカース硬さの評価結果が良好以上となった。さらに、発明例No.3~5は、ワイヤ重量比が15%~30%であり、銅合金からなる第2の溶接ワイヤの重量比が本発明のより好ましい範囲内であったため、ビッカース硬さの評価結果が優良となった。
【0122】
[溶接継手の製造]
ワイヤ重量比を30%として、上記と同様の方向で溶接を実施し、溶接金属を形成した後、1日間~7日間保持し、溶接継手を製造した。
【0123】
[経過日数に対する硬さの評価]
得られた溶接継手における溶接金属の部分について、JIS Z2244:2009に記載の「ビッカース硬さ試験-試験方法」に準拠して、ビッカース硬さを測定した。溶接後の保持日数及びビッカース硬さの測定結果を下記表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
上記表2に示すように、溶接により溶接金属を得た後に、溶接金属を保持する時効硬化処理を施すことにより、溶接金属の硬さはさらに上昇した。また、保持日数を3日間以上とすると、1日目に対する硬さ比は5%となり、より良好な硬さとなった。なお、さらに保持日数を増加し、7日間保持した場合であっても、保持日数を3日間とした場合と硬さに大きな変化はなかった。したがって、溶接金属を3日間以上保持し、時効硬化処理を施すことにより、より高い硬さを有する溶接継手を得ることができることが示された。
【符号の説明】
【0126】
1 第1の溶接ワイヤ
2 第2の溶接ワイヤ
3,13 シールドガスノズル
4,6 ワイヤガイドチップ
5,7 送給ローラ
8 不活性ガス
9 レーザ
10,30,40,50,60,70 溶接金属
11,44,61,71 第1の母材
12,42,43,47,62,72 第2の母材
14,16 給電コンタクトチップ
21 電子ビーム
22,32 アーク
25,26 樹脂シール剤
42a,43a,47a 貫通穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20