(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電極としての使用のための階層構造を有する大面積銅ナノフォーム
(51)【国際特許分類】
C22C 1/08 20060101AFI20241119BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241119BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241119BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20241119BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241119BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241119BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20241119BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20241119BHJP
C23C 10/48 20060101ALI20241119BHJP
C23F 1/20 20060101ALI20241119BHJP
C23F 1/18 20060101ALI20241119BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20241119BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20241119BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20241119BHJP
C25B 11/083 20210101ALI20241119BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20241119BHJP
【FI】
C22C1/08 D
H01M4/04 A
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/52
H01M4/48
H01M4/80 C
H01M4/13
H01M4/66 A
C22C21/00 A
C22C9/01
C23C10/48
C23F1/20
C23F1/18
C25B11/031
C25B11/054
C25B11/061
C25B11/083
C25B11/089
(21)【出願番号】P 2021535178
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 US2019067295
(87)【国際公開番号】W WO2020132149
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-07-12
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520347166
【氏名又は名称】セルモビリティ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CELLMOBILITY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ギカプ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヘジ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,キチョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ,へーマン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162812(JP,A)
【文献】特開昭55-073346(JP,A)
【文献】特開2010-009856(JP,A)
【文献】特開2008-184671(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105543796(CN,A)
【文献】Journal of Power Sources,2011年08月15日,Volume 196, Issue 16,p. 6915-6919
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/08
H01M 4/04
H01M 4/134
H01M 4/133
H01M 4/38
H01M 4/587
H01M 4/52
H01M 4/48
H01M 4/80
H01M 4/13
H01M 4/66
C22C 21/00
C22C 9/01
C23C 10/48
C23F 1/20
C23F 1/18
C25B 11/031
C25B 11/054
C25B 11/061
C25B 11/083
C25B 11/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パックセメンテーションプロセスを用いて、
固溶α-Alおよび金属間Al
2
Cuの二相からなるホイルの形状の前駆体合金を製造することと、
前記前駆体合金を脱合金化することと、
脱合金化された前記前駆体合金を用いて、試料全体にわたってナノスケール銅ストラットおよび細孔を形成することと、
階層マイクロ
/ナノポーラス銅またはフルナノポーラス銅の前記試料を取得することとを備える、方法。
【請求項2】
前記前駆体合金の前記ホイルは、
銅箔の前記パックセメンテーションプロセスから得られるアルミニウム-銅合金を含み、前記アルミニウムの濃度は、約20原子百分率~約85原子百分率の濃度であり、方法は、
塩酸の脱合金化溶液で前記前駆体合金を処理することを備え、リガメントサイズは約50ナノメートル~約500ナノメートルに変更可能であり、方法はさらに、
異なるアルミニウム-銅相について異なる腐食挙動に起因して、細孔径を約10ナノメートル~約10ミクロンに制御することを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前駆体合金を形成するときに、パックセメンテーション温度をセ氏約400℃~セ氏約900℃に選択す
ることを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱合金化溶液は、セ氏約20℃~セ氏約100℃の約0.01モル~約20モル塩酸溶液である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記パックセメンテーションプロセスは、1種類以上の金属粉末、充填剤、およびハロゲン化物塩活性剤の混合粉末パックを用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記脱合金化プロセスは、標準的な水素電極に関する化学腐食電位差に基づいて、製造された前記前駆体合金に対して行うことが可能であり、
アルミニウムは、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、およびマンガン(Mn)からなる群より選択される材料を含むことが可能な、銅と比較してより高い腐食性を有する他の元素に置換えることが可能である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化物塩活性剤は、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)、および塩化アンモニウム(NH
4Cl)からなる群より選択される材料である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
パックセメンテーション温度は、金属前駆体の融解温度より低く設定可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脱合金化溶液は、塩化水素(HCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硝酸(HNO
3)、リン酸(H
3PO
4)、および過塩素酸(HClO
4)からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
製造された前記階層マイクロ
/ナノポーラス
銅またはフルナノポーラス銅(NPC)は、表面積が広く3次元構造が固有であるため、さまざまなエネルギー装置に用いられる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
関連出願の相互参照
本特許出願は、2018年12月18日に出願された米国特許出願第62/781,579号の利益を主張し、本出願で参照される他のすべての参考文献と共に、参照によって援用される。
【0002】
発明の背景
本発明は、金属電極の分野に関し、具体的に、バッテリを備えるエネルギー装置およびエネルギー貯蔵電池において、高性能な電極としての使用のための階層構造を有する大面積銅ナノフォームを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
脱合金化ナノポーラス銅を製造するための技術は、まだ実用化されていない。これはなぜなら、いずれの結果でも、脱合金化の前に前駆体合金を生成するために金属「粉末」を用いることによって、サイズが小さくなり、機械的性質が不十分になるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、近年のモバイルおよび電子デバイスでの使用について容量および電力性能を向上させるために、リチウムイオン電池用に綿密に設計された構造を有する電極材料を改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の簡単な概要
簡便合成は、銅粉末の代わりに銅箔を用いたパックセメンテーションプロセスに基づく。パックセメンテーション時間およびアルミニウムの量に応じて、階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅が生成され、リチウムイオン電池アノードとして用いるために錫で被覆可能である。ナノ銅フォームアノードのコイン電池試験は、表面積がきわめて大きいため、従来のグラファイトアノードと比較して、4倍高い面積容量(20サイクルまで性能が劣化することなく、平方センチメートルあたり7.4ミリアンペアアワー)を示した。
【0006】
技術において、ホイルの形状の前駆体合金を製造するためにパックセメンテーションプロセスが使用され、試料にわたってナノスケール銅ストラットおよび細孔を形成するために脱合金化プロセスが使用されて、階層マイクロポーラスまたはナノポーラスまたはフルナノポーラス銅(NPC)が得られた。さらに、高再現性および適切な機械的性質を有する新しいホイルベースのプロセスに基づいて大面積ナノ銅フォームを製造するために、この方法を使用可能である。この方法は、従来の方法と比較して、はるかに簡単な製造プロセスである。
【0007】
代表的な例として、アルミニウム-銅合金前駆体箔が選択され、約20原子百分率~約85原子百分率に変わり得るアルミニウム濃度で処理された。続いてエッチング除去されると、アルミニウム濃度は多孔度を示し得る。合金前駆体は、脱合金化溶液(HCl)で反応させることが可能である。リガメントサイズは約50ナノメートル~約500ナノメートルに変更可能であり、異なるアルミニウム-銅相について腐食挙動が異なるため、細孔径を約10ナノメートル~約10ミクロンに制御可能である。
【0008】
アルミニウム-銅前駆体合金箔を形成するために、パックセメンテーション温度をセ氏約400℃~セ氏約900℃に変更し得る。脱合金化溶液は、セ氏約20℃~セ氏約100℃の約0.01モル~約20モル塩酸(HCl)溶液であり得る。パックセメンテーションは、1種類以上の金属粉末、充填剤、およびハロゲン化物塩活性剤の混合粉末パックを含み得る。
【0009】
脱合金化プロセスは、標準的な水素電極に関する化学腐食電位差に基づいて、製造された前駆体合金に対して行うことが可能である、したがって、アルミニウムは、銅より高い腐食性を有する他の元素と置き換えることができる。たとえば、他の元素は、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、もしくはマンガン(Mn)、または任意の組合せでもよい。ハロゲン化物塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)、もしくは塩化アンモニウム(NH4Cl)、または任意の組合わせでもよい。
【0010】
パックセメンテーション温度は、金属前駆体の融解温度より低く設定可能である。脱合金化溶液は、塩化水素(HCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硝酸(HNO
3
)、リン酸(H3PO4)、もしくは過塩素酸(HClO4)、またはその組合せの溶液のうちの1つでもよい。
【0011】
製造された階層マイクロポーラスまたはナノポーラスまたはフルナノポーラス銅(NPC)は、表面積が広く3次元構造が固有であるため、さまざまなエネルギー装置に用いることが可能である。一例として、リチウムイオンと反応し、リチウムイオンを蓄積し、充電および放電サイクリングプロセス中に体積膨張を良好に吸収する、錫活物質を被覆後のリチウムイオン電池アノード集電体として用いられている。
【0012】
グラファイトベースの材料、金属ベースの材料、または酸化物ベースの材料などの付加的なアノード活物質を、ナノ銅フォームアノードに充填可能である。また、付加的なアノード活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、軟質炭素、硬質炭素、錫-リチウムベースの合金、シリコン-リチウムベースの合金、インジウム-リチウムベースの合金、アンチモン-リチウムベースの合金、ゲルマニウム-リチウムベースの合金、ビスマス-リチウムベースの合金、ガリウム-リチウムベースの合金、および二酸化スズ(SnO2)、酸化コバルト(Co3O4)、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、もしくは酸化鉄(Fe3O4)を含む酸化物ベースの材料、または組合わせのうちの1つから選択可能である。
【0013】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および添付の図面を考慮すると明らかとなり、図面を通して、同様の参照符号は同様の特徴を表す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】大面積ナノ銅フォームを生成するために、パックセメンテーションアルミニウム被覆プロセスを銅箔に対して用いて、ナノポーラスまたはマイクロポーラスまたはナノポーラス銅を生成するための、より詳細には、使用される初期の銅箔のサイズに応じて、最終的なナノ銅フォーム製品の面積を比較的容易に拡大可能な、提案される新しい合成方法を示す模式図である。
【
図2】
図2A~
図2Fは、脱合金化後のp3hおよびp6hサンプルのx線回折パターン、ならびにナノポーラス銅フォームサンプルの表面の対応するSEM像を示す図である。
【
図3】
図3A~
図3Fは、脱合金化後のp12hおよびp15hサンプルのx線回折パターン、ならびに階層構造を有するナノポーラス銅フォームの表面の対応するSEM像を示す図である。
【
図4A】約0.01~3.0ボルトで平方センチメートルあたり約1ミリアンペアのSnO/Cu
3Sn/Cu
2O/Cuリチウムイオン電池アノードのサイクル性能を示す図である。
【
図4B】SnO/Cu
3Sn/Cu
2O/Cuアノードの面積容量と、類似のナノスケールアノード材料の面積容量との比較を示す図である。
【
図5】セ氏約800℃で行われるパックセメンテーションプロセスの時間の増加に伴う、アルミニウム組成の変化と、アルミニウム-銅合金前駆体箔の被覆厚さとのプロットを示す図である。
【
図6】
図6A~
図6Fは、銅箔試料の厚さの増加と比較する、パックセメンテーションアルミニウム被覆プロセス(a:p15m、b:p30m、c:p3h、d:p6h、e:p12h、およびf:p15h)中の銅箔サンプルの走査電子顕微鏡(SEM)断面像を示す図である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、脱合金化後のパックセメンテーション試料(a:p15mおよびb:p30m)の表面のSEM像、ならびに対応するx線回折パターンを示し、p15mおよびp30mサンプルの両方のx線回折パターンは、銅相およびCu
9Al
4相のみの存在を表していると示す図である。
【
図8】固溶α-Al(暗い領域:A)およびAl
2Cu(明るい領域:B)の連続網目を示すp15hサンプルの後方散乱SEM像を示し、展開されると、均一な3次元接続されたα-AlおよびAl
2Cu相がそれぞれ、マイクロポーラスおよびナノポーラスを生成したことを示す図である。
【
図9】標準的な金属組織法を用いたナノポーラスおよびマイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプル内のストラットサイズ分布の比較プロットを示す図である。
【
図10】本特許が説明する技術に従って製造された階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプルの脱合金化メカニズムを示し、脱合金化されると、固溶α-Al相がマイクロポーラスを生成する一方で、金属間Al
2Cu相がナノポーラスを生成することを示す模式図である。
【
図11】セ氏約150℃で約1時間熱処理を行う無電解めっき法を用いた錫被覆後の、p15hマイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプルのx線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ナノポーラス金属構造は、固有の3次元構造による顕著な比表面積、低い密度、および効率的な触媒反応など、有益な特性をもたらし得る。そのため、ナノポーラス金属構造は、電解触媒、アクチュエータ、およびエネルギー貯蔵(たとえば、電池および二次電池)など、エネルギー装置の応用で用いられる可能性がある。ナノポーラス金属のさまざまな合成は、化学的脱合金化、金属溶解脱合金化、および酸素プラズマ脱合金化など、異なる方法を用いて生成されてもよい。化学的脱合金化法は、一般に100ナノメートル未満の平均径を有する細孔で構成されるナノポーラス金属を製造するための、最も一般的に用いられる方法である。この場合、化学的脱合金化では、さまざまな酸性溶液または基礎液を用いて、合金から1つ以上の元素(卑金属)が選択的に溶解される。
【0016】
最近は、相互接続されたナノサイズ細孔構造を有するナノポーラス銅(NPC)が議論されている。粉末冶金、電解めっき、および造塊法など、脱合金化の前に合金前駆体を調製するために開発された製造方法は少ない。これらの前駆体方法はすべて、大きなサイズのサンプルを製造する際に複雑であり制限的であるために、実際の応用における使用について克服すべき問題がある。特に、一般的な粉末冶金方法は、2種類以上の異なる粉末を完全に凝固させるのに高圧および高温を必要とする。その結果、この方法を用いて生成されたナノポーラス銅は通常、脱合金化プロセス中に(または最終的なナノポーラス銅において)最終的にひびにつながるミクロサイズの欠陥を示す。
【0017】
最終的なナノポーラス銅サンプルの機械的性質を改善し、かつ、面積を拡大するために、新しい簡便な脱合金化技術について、銅箔のためのパックセメンテーションアルミニウム被覆プロセスと組合わせて説明される。すなわち、後に続く熱処理プロセスで銅-アルミニウム合金前駆体を生成するためのパックセメンテーション方法を用いて、調製された銅箔上にアルミニウムの均一な薄い層が被覆され、この技術によると、大きな初期銅箔を調製することによって、大面積ナノ銅フォームサンプルを生成可能である。所望の最終的な多孔度および細孔構造に応じて、アルミニウム被覆層の厚さを、パックセメンテーション時間および温度を制御することによって、正確に制御可能である。
【0018】
アルミニウム-銅合金前駆体に存在する相をわずかに操作することによって、従来のナノポーラス銅と共に、階層的に構造化されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅を生成することが可能であった。より具体的に、固有の階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅は、組成および熱処理プロセスを最適化することによって生成されていた。これは、固溶α-Alおよび金属間Al2Cuからなる二相を形成できるような、アルミニウムと銅との間の相図に基づいていた。この場合、α-A1の固溶相は、酸性溶液で優先的にエッチング除去されて、金属間Al2Cu細胞相間にミクロ細孔を生成可能であり、その後また、エッチング除去されてナノ細孔を形成する。ナノ細孔とミクロ細孔との組合わせを有する階層構成が、(表面積が大きいために)さまざまな電解触媒、およびリチウムイオン電池(LIBs)などの高電気化学効率を必要とする他のエネルギー関連分野での使用について、有望に応用され得ると期待されている。
【0019】
この技術で製造されるマイクロポーラスまたはナノポーラス銅の有望なエネルギー装置の応用を実証するために、結合剤および導電剤を全く含まない、(無電解めっきプロセスによって)アノード活物質として錫で被覆後のリチウムイオン電池の高性能なアノードとして用いられていた。錫は、リチウムとさまざまな合金を形成可能であるが、高性能なリチウムイオン電池のための高容量アノード活物質として、最近大きな注目を集めている。これはなぜなら、グラファイト(たとえば、グラムあたり372ミリアンペアアワー)よりも高い理論容量(たとえば、グラムあたり991ミリアンペアアワー)を有するからである。しかしながら、従来のリチウムイオン電池アノードに応用される場合は重大な欠点が残る。錫は、最終的に銅箔アノード設計に関する早期サイクリング故障につながる充電または放電プロセス中にリチウムイオンを挿入するまたは取出す間に、深刻な体積膨張(最大で300%)が生じる。
【0020】
本研究によって、錫で被覆された階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅が、サイクリング中に錫の使用によって生じる問題を解決するのに役立つと実証されている。構造的性質について調べ、マイクロポーラスまたはナノポーラス構造化3次元(3-Dまたは3D)ポーラス銅-錫アノードのリチウムイオン電池アノード性能を、ナノ構造を有する錫ベースのアノードのリチウムイオン電池アノード性能と比較した。x線回折(XRD)、走査電子顕微鏡法(SEM)、およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、微細構造検査を行った。くわえて、錫で被覆されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノードの容量およびサイクル性能を分析した。
【0021】
実験例1:ナノポーラス銅サンプルの調製
脱合金化の前に、パックセメンテーション法を用いて、アルミニウム-銅合金前駆体を合成した。
図1は、全体的な処理ルートを示す模式図である。第1のステップは、パックセメンテーションプロセスで用いられる粉末の混合を示す。粉末は、活性剤として3重量%NH
4Cl粉末(100ミクロン、Alfa Aesar、米国)、被覆金属ソースとして15重量%純アルミニウム粉末(99.8%、+325メッシュ、Alfa Aesar、米国)、およびフィラーとして82重量%Al
2O
3粉末(60μm、Alfa Aesar、米国)から構成されていた。機械混合(8000-D Mixer Mill, SPEX SamplePrep、米国)を30分間行って、均一に混合された粉末を得た。混合後、次の熱処理ステップのためにステンレス鋼容器を用いてパッキングおよび封止(
図1b)を行って、一定のセ氏800℃で15分、30分、3時間、6時間、12時間、または15時間、パックセメンテーション(
図1c)を行って、空気管炉における比較のために、異なるアルミニウム銅合金前駆体箔を形成した。パックセメンテーションされたアルミニウム銅合金前駆体箔は以降では、p15m、p30m、p3h、p6h、p12h、およびp15hと呼ばれる。パックセメンテーションプロセスの最後に、封止された容器を水に浸漬した。その後、均質化のために、セ氏500℃で9時間またはセ氏700℃で6時間、アルゴン雰囲気の管炉でさらに熱処理プロセス(
図1d)を行った。その後、3重量%HCl溶液でセ氏50℃でアルミニウム銅合金前駆体の脱合金化プロセス(
図1e)を行って、アルミニウム銅合金からアルミニウム原子をエッチング除去した。最終的なナノポーラス銅を、無水アルコールで水洗いした。パックセメンテーションされたアルミニウム-銅合金前駆体箔および脱合金化ナノポーラス銅のサンプルの微細構造の特徴を明らかにし、EDSアナライザを組合わせたSEM(JSM7401F、JEOL)を用いて分析した。銅K-アルファ放射(1.5406オングストロームの波長)を有するXRD(リガク Ultima III X線回折装置)も用いて、アルミニウムと銅との間の合金相を判断した。
【0022】
実験例2:無電解錫被覆プロセス
リチウムイオン電池アノードとして合成されたナノポーラス銅の性能を実証するために、無電解めっきによって、高容量アノード活物質(錫)をナノポーラス銅に被覆した。ナノポーラス銅を、セ氏60℃で1分間錫めっき溶液に浸漬した。錫めっき溶液は、2グラムの塩化スズ(II)二水和物(SnCl2・2H2O)、2グラムのリン酸ナトリウム一水化物(NaH2PO2・2H2O)、10.5グラムのチオ尿素(CS(NH2)2)、および0.84ミリリットルの濃酸塩を含有する200ミリリットルの脱イオン水からなる。その後、錫で被覆されたナノポーラス銅アノードサンプルを、セ氏150℃で1時間、窒素雰囲気の管炉で熱処理した。
【0023】
実験例3:リチウムイオン電池コイン電池サイクル試験
11ミリメートルの直径および250ミクロンの厚さの寸法を有する銅ディスクを準備した。CR2032型コイン電池を、錫が被覆されたナノポーラス銅アノード切取り試片を作用電極として、およびリチウム金属箔を対向電極および参照電極の両方のために用いて、乾燥アルゴン雰囲気のグローブボックスにおいて組立てた。電解液は、3:7の体積比のエチレンカーボネート(EC)およびジエチレンカーボネート(DEC)の従来の1.3モルLiPF6溶液であった。セ氏25℃で、3.0ボルト~0.01ボルト(Liイオン/Liに対して)の電圧範囲で、平方センチメートルあたり1ミリアンペアの電流密度で、錫が被覆されたナノポーラス銅アノード切取り試片を含む組立てコイン電池に対して定電流試験を行った。
【0024】
実験例の結果:パックセメンテーションに基づくアルミニウム-銅前駆体の処理
パックセメンテーション時間を15分~15時間で異ならせて、9.7原子百分率アルミニウム~79.6原子百分率アルミニウムの範囲の組成を有する、異なるアルミニウム-銅合金前駆体箔を得た。ホイル試料の厚さは、パックセメンテーション時間が15時間まで増加するにつれて、255.0プラスマイナス0.5から1139.6プラスマイナス26.6ミクロンに増加した(表S1、
図5および
図6A~
図6F)。
【0025】
表S1は、パックセメンテーション時間が15分~15時間で異なるアルミニウム-銅合金前駆体サンプルのリストを提供する。パックセメンテーションプロセス前後の重量測定値に基づいて、アルミニウムおよび銅の相対組成を原子百分率として推定した。均質化プロセス後に存在する主な相を、x線回折によって同定した。
【0026】
【0027】
アルミニウムの組成が十分高い場合のみ、3次元接続されたナノポーラス銅を、脱合金化によって得ることができる。p15mおよびp30mサンプルは、銅相およびCu
9Al
4相のみを含む。これらのサンプルは、アルミニウムの含有量が少ないため、試料の内部を通って脱合金化溶液と反応できない(
図7A~
図7D)。脱合金化溶液(たとえば、塩酸または水酸化ナトリウム)の種類も、合金前駆体に存在する各構成相の腐食挙動に影響を与える。たとえば、アルミニウム銅相は、塩酸(HCl)溶液で良好な安定性を有する一方で、アルミニウムおよびAl
2Cu相は、良好な安定性を有さない。したがって、Al
2Cuおよびα-Al相は不安定になり、塩酸溶液を用いる場合のみナノポーラス銅を生成する傾向がある。
【0028】
図2A~
図2Fは、脱合金化されると均一な3次元ナノ細孔を生成可能な、すべてのピークがAl
2Cu相のみに対応するp3hおよびp6hサンプルのx線回折(XRD)パターンを示す。その結果、p3h(
図2~
図2D)およびp6h(
図2E~
図2F)サンプルの両方は、塩酸溶液にアルミニウム全体を溶解し、サンプルの厚さ全体にわたって、純ナノポーラス銅リガメントを形成することが可能であった。p3h(
図2~
図2D)およびp6h(
図2E~
図2F)サンプルの平均リガメントサイズはそれぞれ(脱合金化後で)、150プラスマイナス64ナノメートルおよび125プラスマイナス26ナノメートルと推定された。脱合金化後のナノポーラス銅のリガメントサイズは、より精細なAl
2Cu相の形成によって、アルミニウム含有量が増加するにつれて減少した。
【0029】
また、
図3A~
図3Fは、固溶α-AlおよびAl
2Cuの相のみを含むp12h(
図3C~
図3D)およびp15h(
図3E~
図3F)試料のx線回折パターンを示す。p12hおよびp15hサンプルの両方が、全試料を通じて、階層的に構造化されたミクロ細孔またはナノ細孔で構成されていることは興味深い。p12hおよびp15hサンプルの平均ミクロ細孔径はそれぞれ、5.5プラスマイナス2.2ミクロンおよび6.5プラスマイナス2.4ミクロンと計算される。p15hサンプルの平均ミクロ細孔径は、p12hサンプルと比較して18%大きい。これはなぜなら、固溶α-Alの量はp15hサンプルと比較して大きく、銅ストラット間により大きなミクロ細孔を生成するからである。
【0030】
ミクロ細孔に沿って、各銅ストラットは、ランダムに構造化されたナノサイズのリガメント間のナノスケール細孔からなる。ナノサイズのリガメントの平均厚さは、p12hサンプルおよびp15hサンプルについてそれぞれ、209.8プラスマイナス100.7ナノメートルおよび98.7プラスマイナス46.7ナノメートルと推定される(
図9)。さらに、p15hサンプルの後方散乱SEM像は明らかに、α-Al(暗い領域)およびAl
2Cu(明るい領域)相の均一で連続した網目を示す(
図8)。脱合金化プロセス中、α-Al相は最初に溶解して、ミクロ細孔を生成する。
図10に模式的に示すように、Al
2Cu相はその後溶解して、マイクロスケールAl
2Cuストラットの各々においてナノ細孔を生成する。
【0031】
アノードとしての階層多孔質銅のリチウムイオン電池サイクリング性能
高性能なリチウムイオン電池アノードとしての潜在的な使用について、階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプル(p15h)を、錫被覆のためにアノード集電体および多孔質基板の両方として適用した。十分成長した多孔度を有する階層電極構造は、繰返される充電または放電プロセス中に錫の大きな体積変化を軽減するような、合理的設計であり得る。
【0032】
図11は、セ氏150℃で1時間、追加的な熱処理で錫が被覆されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅のx線回折パターンを示す。熱処理後の錫が被覆された銅フォームアノードは、SnO/Cu
3Sn/Cu
2O/Cu相の回折ピークを示す。Cu
2O相は通常、セ氏70℃~セ氏130℃の温度で形成される。さらに、Cu
3Snの金属間化合物相は、リチウムイオンとの反応に対して不活発であると知られており、そのような不活性物質が均一に存在していると(複合材料におけるように)、充電または放電プロセス中の体積の変化が好適に緩衝される。
【0033】
図4Aは、0.01~3ボルトの範囲の平方センチメートルあたり1ミリアンペアにおける、錫が被覆されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノードのサイクル性能を示す。このサンプルの第1の放電能力は、平方センチメートルあたり最大で10.9ミリアンペアアワーである。第2のおよび第3の放電能力はそれぞれ、平方センチメートルあたり8.3および8.0ミリアンペアアワーである。初期サイクルのわずかに低下した能力は、SnOおよびCu
2O酸化物活物質と関連する不可逆反応が原因である。これに加えて、放電能力は、性能劣化が観察されることなく、12番目のサイクルで平方センチメートルあたり7.4ミリアンペアアワーで安定していた。対照的に、以前の報告では、初期サイクル中の錫ベースのアノードの深刻な容量劣化および早期故障が明らかであった。
【0034】
図4Bは、錫被覆マイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノードと、近年開発されたナノ粒子、ナノシート、およびナノワイヤなどの類似のナノスケールアノード材料との性能の比較を示す。錫が被覆されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノード(本アプローチでは、新しい銅箔ベースのパックセメンテーションプロセスを用いて製造された)は、類似の電流密度条件で、他の類似のナノ構造化アノード材料と比較して、優れた面積容量性能を示す。たとえば、従来のグラファイトアノードよりも、約4倍高い面積容量を示す。
【0035】
本特許では、充電/放電プロセス中に錫活物質の大きな体積膨張によって生じる応力を効果的に低減することによって、錫が被覆された階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノードは、安定し、容量の改善が可能であると示されている。より詳細に、結合剤および導電剤を加えなくても、集電体および活性アノード材料の両方として一体化されたマイクロポーラスまたはナノポーラス銅または錫アノードは、20サイクル後に平方センチメートルあたり7.4ミリアンペアアワーという際だった可逆容量を出力した。階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅の実用的用途は、リチウムイオン電池アノードの応用に限定されず、きわめて大きな表面積および固有の細孔構造を利用可能な他のエネルギー分野にも適用可能である。
【0036】
図5は、セ氏800℃で行われたパックセメンテーションプロセスの時間を増加させた、アルミニウム-銅合金前駆体箔のアルミニウム組成変化および被覆厚さのプロットを示す。
【0037】
図6A~
図6Fは、パックセメンテーションアルミニウム被覆プロセス(a:p15m、b:p30m、c:p3h、d:p6h、e:p12h、およびf:p15h)中の銅箔サンプルのSEM断面像を示し、ここでは、銅箔試料の厚さの増加が比較される。
【0038】
図7は、脱合金化後のパックセメンテーション試料(a:p15mおよびb:p30m)の表面のSEM像と、対応するx線回折パターンとを示す。p15mおよびp30mサンプルの両方のx線回折パターンは、銅相およびCu
9Al
4相のみの存在を示す。なお、2相のみの存在では、アルミニウム含有量が低いため、サンプルの内部全体を通じて脱合金化を完全にすることはできない。しかしながら、サンプルの外面のみが脱合金化されて、(SEM像に示すように)複数の不規則な表面細孔を生成した。
【0039】
図8は、固溶α-Al(暗い領域:A)およびAl
2Cu(明るい領域:B)の連続した網目を示すp15hサンプルの後方散乱SEM像を示す。展開されると、均一の3次元接続されたα-AlおよびAl
2Cu相はそれぞれ、ミクロ細孔およびナノ細孔を生成した。
【0040】
図9は、標準的な金属組織法を用いた、ナノポーラスおよびマイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプルにおけるストラットサイズ分布の比較プロットを示す。
【0041】
図10は、上述のように製造された階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプルの脱合金化メカニズムを示す模式図である。脱合金化されると、固溶α-Al相はミクロ細孔を生成する一方で、金属間Al
2Cu相は、ナノ細孔を生成する。
【0042】
図11は、セ氏150℃で1時間、熱処理を行う無電解めっき法を用いた錫被覆後の、p15hマイクロポーラスまたはナノポーラス銅サンプルのx線回折パターンを示す。
【0043】
結論
簡便な脱合金化法が、銅箔のためのパックセメンテーションアルミニウム被覆処理と組合わせて良好に展開されて、約10~80原子百分率アルミニウムを有する銅-アルミニウム合金前駆体が調製された。セ氏800℃で15時間のパックセメンテーション時間によって、脱合金化されると階層構造化マイクロポーラスまたはナノポーラス銅を生成可能な固溶α-Al相および金属間Al2Cu相の二相が生じた。この場合、固溶α-Al相は、酸性溶液において優先的にエッチング除去可能であり、ミクロ細孔が後に残った。その後、Al2Cu相は、Al2Cuマイクロスケールストラットにおいてナノ細孔を生成可能であった。
【0044】
マイクロポーラスまたはナノポーラス銅の有望なエネルギー応用を実証するために、(無電解めっきプロセスによって)アノード活物質として金属錫で被覆後に、リチウムイオン電池の高性能なアノードとして応用された。これによって、SnO/Cu3Sn/Cu2O/Cu相の組合わせが生じた。これに加えて、錫が被覆された階層マイクロポーラスまたはナノポーラス銅アノードは、従来のグラファイトと比較して、4倍高い容量を示した。これは、充電または放電プロセス中の大きな体積膨張によって生じる応力を効果的に低減することによる、錫活物質被覆の好ましい採用によって得られた。
【0045】
発明の記載は、例示および説明の目的で示された。網羅的であること、または発明を説明した正確な形式に限定することを意図しておらず、上述の教示を考慮して多くの修正例および変形例が可能である。発明の原則およびその実用的な応用を最適に説明するために、実施形態は選択され記載された。本明細書によって、当業者は、さまざまな実施形態で、およびさまざまな修正例を有する発明を、特定の使用に適合するように良好に利用し、実践することが可能になる。発明の範囲は、以下の請求項によって規定される。