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特許7590338チオレン反応による硫黄又はセレン化化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】チオレン反応による硫黄又はセレン化化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/18 20060101AFI20241119BHJP
   C07C 321/22 20060101ALI20241119BHJP
   C07C 323/12 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C07C319/18
C07C321/22
C07C323/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021557805
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2020059380
(87)【国際公開番号】W WO2020201412
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】1903619
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507200961
【氏名又は名称】アディッソ・フランス・エス.エー.エス.
【氏名又は名称原語表記】ADISSEO FRANCE S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベリエール-バカ ビルジニー
(72)【発明者】
【氏名】ペルドゥリオ セバスティエン
(72)【発明者】
【氏名】ルーディエ ミレン
(72)【発明者】
【氏名】モンブリュン ジェローム
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104326954(CN,A)
【文献】特開2007-099755(JP,A)
【文献】特表2004-532103(JP,A)
【文献】特表2022-518201(JP,A)
【文献】特開平03-184952(JP,A)
【文献】特表2013-538789(JP,A)
【文献】特公昭49-024450(JP,B1)
【文献】米国特許第03085955(US,A)
【文献】米国特許第05973200(US,A)
【文献】国際公開第2017/191196(WO,A1)
【文献】米国特許第02392294(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物を調製するための方法であって:
【化1】
ここで、Xは、S及びSeから選択され;
は1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル基、及び、5~7個の炭素原子を有する環状アルキルから選択され、
、R及びRは、互いに独立しており、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基の中から選択され;又はR及びRは一緒にC5~C10の炭素環を形成し;
は、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、
又はRは式(II)を満たし
【化2】
ここで、n=0~24であり、
及びRは、互いに独立しており、H、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、OR、NRから選択され、ここでR及びRは、互いに独立しており、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され;
10はH、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、OR11及びNR1112から選択され、ここでR11及びR12は、互いに独立しており、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、
又はR10はCN、COR13、COOR13及びCONR1314から選択され、ここで、R13及びR14は、互いに独立しており、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、
又はR10は、CHOR15を表し、ここでR15は、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、
この方法は、式(IV)の化合物と
【化4】
(ここで、Xは、S及びSeから選択され;
m=1又は2であり;
は化合物(I)について前記の定義のとおりであり、
そして
m=1の場合、R21はHを表し;
m=2の場合、R21はアルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択され)、
式(V)の化合物との反応を:
【化5】
(ここで、R、R、R及びRは式(I)の化合物について前記の定義のとおりである)、
アルコール、カルボン酸、チオエーテル及びセレノエーテル基から選択される少なくとも1つの官能基を有する少なくとも1つの化合物であって、式(VI)で表される該化合物の存在下で、波長が254~400nmである光を照射することによって、行う、方法、
【化6】
ここで、X’はS又はSeから選択され;
p及びtは、互いに独立して、0又は1であり;
q、r及びsは、互いに独立して、0~10であり;
ただし、p+r+tは1以上であり、そしてp≠0であればq+s≠0であり;
22は、p=0の場合、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、p=1の場合、1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択され;そして
23、R24、R25、R26及びR27は、互いに独立しており、H及び1~6個の炭素原子を有するアルキル基から選択される。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記光は、波長が365nm±20nmであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(VI)は、少なくとも、チオエーテル、プロピオン酸、ブタン酸、乳酸、3-ヒドロキシ-プロピオン酸、3-ヒドロキシ-酪酸、1-ヒドロキシカプロン酸、3-メチルチオプロパン酸、4-メチルチオブタノール、2,4-ヒドロキシ酪酸(2,4-DHB)、4-メチルチオ-2-ヒドロキシ酪酸(MHA)及びメチルチオブタンジオール(MTBDO)を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(VI)の量は、1当量の化合物(V)に対し、最少で0.1当量であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(VI)の量は、1当量の化合物(V)に対し、最少で0.5当量であり且つ最大で10当量であることを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の方法において、
化合物(IV)は、アルキルチオール若しくはアルキルセレノールから、又は、ジスルフィド及びジセレニドから選択される方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法において、
化合物(IV)は、メタンチオール、エタンチオール、n-ブタンチオール、tertioブタンチオール、メタンセレノール、又は、ジメチル若しくはアリールジスルフィドから選択される方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の方法において、
化合物(V)は、ブテン、ペンテン、ヘキセン、2,3-ジメチルブテン、ブト-3-エン酸、ブト-2-エン酸、ブト-3-エン-2-オール、ブテン-ジオール、シクロヘキセン、ビニルグリコール酸(VGA)及びメチルビニルグリコール酸(MVG)から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(I)は、4-メチルチオ-2-ヒドロキシ酪酸、4-メチルセレノ-2-ヒドロキシ酪酸及びそれらのエステルから選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(IV)と前記化合物(V)とのモル比は、1.1~15:1であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記化合物(IV)と前記化合物(V)とのモル比は、1.2~10:1であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記反応は、光開始剤の存在下で行われ、
前記光開始剤は、ベンゾイン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、チオキサントン、1-クロロ-4-ヒドロキシ-チオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシ-チオキサントン、ベンゾフェノン、3-アルキル-ベンゾフェノン及び4-アルキル-ベンゾフェノンから選択されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)の硫黄又はセレン化化合物を製造するための方法に関する。
【0002】
【化1】
【0003】
ここで、Xは、S及びSeから選択され;
はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びヘテロアリール基から選択され、1つ以上の官能基を有していてもよく、該官能基は、ヒドロキシル基、及びその誘導官能基であるエーテル基など、ケトン基及びアルデヒド基などのカルボニル基、及びその誘導官能基であるヘミアセタール基及びアセタール基など、並びにカルボン酸官能基、及びその誘導官能基であるカルボン酸エステル基など、から選択され;R、R及びRは、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基の中から選択され;又はR及びRは一緒にC5~C10の炭素環を形成し;Rは、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択され、又はRは式(II)を満たし
【0004】
【化2】
【0005】
ここで、n=0~24であり、R及びRは、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基、OR、NRから選択され、ここでR及びRは、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアシル基から選択され;R10はH、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基、OR11及びNR1112から選択され、ここでR11及びR12は、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアシル基から選択され、又はR10はCN、COR13、COOR13及びCONR1314から選択され、ここで、R13及びR14は、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択され、又はR10は、CHOR15を表し、ここでR15は、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアシル基から選択され、又はRは式(III)を満たし、
【0006】
【化3】
【0007】
ここでn’=0~24であり、Yは、O及びNR16から選択され、ここでR16は、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、OR14から選択され、ここでR14は前記の定義のとおりであり、Zは、以下より選択され、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、CN、COR17であって、ここでR17は、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びOR18、NR1819基であって、ここでR18、R19及びR20は、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基から選択され、並びにCHOR20であって、R20はH、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアシル基から選択され、OR18及びNR1819であって、ここでR18及びR19は、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択される。
【背景技術】
【0008】
これらの化合物を表す主な例としては、2-ヒドロキシ-4-メチルチオ-酪酸(HMTBA又はMHA)、及びその類似体であって、その塩、キレート、特に金属キレート(Zn、Ca、Mn、Mg、Cu、Na等)、それらのエステル、例えばHMTBAのイソプロピル及びtertioブチル酸エステルなどが挙げられ、これらは動物栄養に広く使用されている。メチオニンのこれらのヒドロキシ類似体のセレン化誘導体もまた、動物栄養における大変興味深い成分である。
【0009】
HMTBAの調製はよく知られており、種々の合成中間体、特にアクロレイン及びメタンチオールが関与する、種々のプロセスによって行うことができる。2-ヒドロキシ-4-メチルセレノ-酪酸も、同様の合成プロセスによって容易に入手可能である。工業規模で実施されるプロセスの欠点は、硫酸アンモニウム又は硫酸ナトリウムのような最終生成物に到達することを可能にする中和から生じるかなりの量の塩が生成されることにあり、その分離は大量の溶媒を伴う大がかりな精製処理を必要とし、その再利用は依然として困難である。
【0010】
これらのプロセスのほとんどが、本質的な中間体である、アクロレイン源としてのプロピレンのみから得られる中間体を必要とするという事実は、別の主要な欠点である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は既存のプロセスの代替法を提供し、さらに、多数の硫黄又はセレン化化合物を入手することを可能にし、その用途は、もちろん、動物栄養に限定されない。したがって、そのような化合物は、多くの分野、すなわち、界面活性剤、モノマー、ポリマー、可塑剤、接着剤、コーティング、ラッカー、フィルム、乳化剤、酸化防止剤、抗菌剤、防食剤、包装材料、消費者製品の組成物及び/又は調製、並びに医療又は農業用途で使用することができる。
【0012】
本発明に係る方法によれば、前記式(I)の化合物は、式(IV)の化合物と
【0013】
【化4】
【0014】
(ここで、Xは、S及びSeから選択され;m=1又は2であり;Rは化合物(I)について前記の定義のとおりであり、すなわち、それはアルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びヘテロアリール基から選択され、1つ以上の官能基を有していてもよく、該官能基は、ヒドロキシル基、及びその誘導官能基であるエーテル基など、ケトン基及びアルデヒド基などのカルボニル基、及びその誘導官能基であるヘミアセタール基及びアセタール基など、並びにカルボン酸官能基、及びその誘導官能基であるカルボン酸エステル基など、から選択され;そして、m=1の場合、R21はHを表し;m=2の場合、R21はアルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択され)、式(V)の化合物との反応を:
【0015】
【化5】
【0016】
(ここで、R、R、R及びRは式(I)の化合物について前記の定義のとおりである)、アルコール、カルボン酸、チオエーテル及びセレノエーテル基から選択される少なくとも1つの官能基を有する少なくとも1つの化合物であって、式(VI)で表される該化合物の存在下で、波長が200~800nmである光を照射することによって、行うことを含む、
【0017】
【化6】
【0018】
ここで、X’はS又はSeから選択され;p及びtは、互いに独立して、0又は1であり;q、r及びsは、互いに独立して、0~10であり;ただし、p+r+tは1以上であり、そしてp≠0であればq+s≠0であり;R22は、p=0の場合、H、アルキル基、アリール基及びアリールアルキル基から選択され、p=1の場合、アルキル基、アリール基及びアリールアルキル基から選択され;そして、R23、R24、R25、R26及びR27は、互いに独立しており、H、アルキル基、アリール基及びアルキルアリール基から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特徴、用途及び利点は、これらの特徴が、組合せに関係なく、互いに独立して、又は組合せて考慮され得ることを念頭に置いて、以下により詳細に開示される。
【0020】
説明の前に、いくつかの使用される用語を以下に定義する。
【0021】
得られた又は含まれる化合物を定義する式において、「アルキル」という用語によって、1~20個の炭素原子、有利には1~6個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分岐の飽和炭化水素の一価の基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、又は3~20個の炭素原子、有利には5~7個の炭素原子を有する環状飽和炭化水素の一価の基、例えばシクロペンチル、シクロヘプチルを理解すべきである。
【0022】
「アリール」基によって、例えば、フェニル、ナフチル、アニソール、アルキルベンゾエート基によって例示される、メトキシ基又はエステル基によって官能化されていてもよい、6~22個の炭素原子を有する芳香族炭化水素の一価の基であると理解すべきである。ここでアルキルという用語は前記の定義のとおりである。
【0023】
「アルキルアリール」基によって、6~22個の炭素原子を有するアリール基が理解されるべきであり、前記アリール基はトリル、メシチル、キシリル基によって例示されるように、前記の定義に従う少なくとも1つのアルキル基によって置換されており;この用語はベンジル、ベンジヒドリル、フェネチル、トリチル基によって例示されるように、前記の定義に従う少なくとも1つのアリール基によって置換されている、前記の定義に従うアルキル基を無差別に指す。
【0024】
用語「ヘテロアリール」はピロリル、ピリジル、インドリル、フリル基によって例示されるように、3~21個の炭素原子及びO、Nなどの少なくとも1個のヘテロ原子を有する芳香族炭化水素の一価の基を定義する。
【0025】
用語「アシル」は、一価の基RC(O)-を定義し、ここで、Rは、前記で特定されるようなアルキル基である。
【0026】
本発明に係る式(VI)の化合物は、添加剤とも呼ばれる。前記の式(VI)において、p+r+tが1以上であるべきという条件から、本発明に係る添加剤は、チオエーテル、セレノエーテル、第一級アルコール/ヒドロキシル、第二級アルコール/ヒドロキシル、第三級アルコール/ヒドロキシル及びカルボン酸官能基から選択される少なくとも1つの官能基を有する炭化水素化合物であるといえる。それは、前記官能基の少なくとも2つ若しくは少なくとも3つ、又はそれ以上を有していてもよく、前記官能基は同一又は異なる。本発明によれば、この方法は式(VI)の異なる化合物の混合物の存在下で実施することができ;この変形例では、式(VI)の化合物の各々が1つ以上の前記官能基をもたらすことができる。式(VI)は、q、r及び/又はsが1より大きい場合に、置換基R23、R24、R25、R26及びR27が一般的な様式で、それぞれ異なる置換基R23’、R23’’、R23’’’等、R24’、R24’’、R24’’’等、R25’、R25’’、R25’’’等、R26’、R26’’、R26’’’等、R27’、R27’’、R27’’’等をそれぞれ表し得る化合物を包含すると理解されるべきであり、例えば、化合物(VI)は、4-メチル-1,2-ブタンジオールから構成され得る。
【0027】
本発明の方法は、波長が200~800nmである光の照射下で行われるべきである。この特徴は本質的である。可視光スペクトルの波の放射による照射とUV放射による照射とを、同一の関与化合物で比較すると、反応は両方の状況で起こるが、その収率は放射がUVである場合に有意に高いことが観察される。したがって、本発明の方法は、有利には254~400nm、理想的には365nm±20nmの波長の光の下で操作される。好ましい変形例によれば、光にさらすのは連続的に行う。
【0028】
前記のような適切な照射条件は発光ダイオード(LED)によって確保されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0029】
化合物(VI)のより詳細な説明を以下に提供する。
【0030】
前記のように、本発明に係る方法における添加剤はアルコール、カルボン酸、チオエーテル及びセレノエーテル基から選択される少なくとも1つの官能基を有する化合物(VI)であり;したがって、それは、前記官能基の2つ以上を有していてもよく、これらは同一であっても異なっていてもよい。1つの変形例によれば、本発明の方法は前記添加剤のいくつかを含んでもよく、これらはそれぞれ、同一又は異なる前記官能基の1つ以上を有する。いくつかの添加剤を含む方法の例として、これらは、チオエーテル基又はセレノエーテルを有する化合物と、ヒドロキシル及び/又はカルボン酸官能基を有する化合物との混合物を含む。反応の選択性の点で有利である特定の実施によれば、化合物(VI)はα-ヒドロキシ酸である。実際、ヒドロキシル基及びカルボン酸官能基を有する化合物(VI)については、ヒドロキシル基及びカルボン酸官能基を一緒にすると性能が高くなることが認められている。例示のために、このようなヒドロキシ酸は、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシイソ酪酸から構成され得る。この定義に基づけば、当業者は、本発明に係る添加剤として化合物(VI)の1つ以上を保持するために必要な一般知識を有する。
【0031】
式(VI)を例示できる非限定的な例として、化合物は硫化メチル及び硫化エチルなどの硫化アルキル、プロピオン酸、ブタン酸、乳酸、3-ヒドロキシ-プロピオン酸、3-ヒドロキシ-酪酸、6-ヒドロキシカプロン酸、3-メチルチオプロパン酸、4-メチルチオブタノール、2,4-ヒドロキシ酪酸(2,4-DHB)酸、4-メチルチオ-2-ヒドロキシ酪酸(MHA)及びメチルチオブタンジオール(MTBDO)から選択され、これらの化合物は単独で、又は2、3若しくはそれ以上の混合物で使用されてもよい。
【0032】
化合物(VI)は、1当量の化合物(V)に対して、最少で0.1当量、より好ましくは最少で0.2当量の好ましい量で反応媒体中に存在する。実際、少量であっても、前記の定義の本発明の条件において、化合物(VI)が反応媒体中に存在するとすぐに、反応の選択性に関して有意な向上が観察された。化合物(VI)の量約0.5当量まで、反応速度及び選択性の向上が測定される。化合物(VI)の過剰、例えば10当量超え、そして5当量を超えでも、反応の性能を向上させることができず、それを超えると、反応収率の低下を認めることができた。最適な変形例によれば、化合物(VI)の量は化合物(V)の1当量に対して、最少で0.5当量であり、最大で2当量である。
【0033】
化合物(IV)のより詳細な説明を以下に提供する。
【0034】
化合物(IV)は、メタンチオール、エタンチオール、n-ブタンチオール、tertioブタンチオール、メタンセレノールのような任意のアルキルチオール又はアルキルセレノール、及びチオグリコール酸のような1つ以上のヒドロキシル、カルボニル、カルボン酸又はカルボン酸エステル官能基を有するアルキルチオール又はアルキルセレノールから選択され得る。それはまた、ジスルフィド又はジセレニド、特にジフェニルジスルフィド及びジフェニルジセレニドなど、ジメチル若しくはアリールジスルフィドなどの、任意のアルキルジスルフィド又はジセレニドから構成されていてもよい。
【0035】
化合物(VI)中に存在すべき1つ以上の官能基の化合物(IV)中での存在は、反応性を有意に向上させることが認められている。この効果は、特にチオグリコール酸で観察された。
【0036】
好ましくは、化合物(IV)が化合物(V)に対して過剰に使用される。一般に、化合物(IV)と化合物(V)とのモル比は、1.1~15:1、又は1.2~10:1である。この比は本質的に、含まれる化合物(IV)及び(V)に依存し、それを決定することは当業者である。指標として、化合物(IV)が硫化物又はセレン化物である場合、化合物(IV)と化合物(V)との比は1.1~2:1であり、化合物(IV)がジスルフィド又はジセレン化物である場合、化合物(IV)の過剰量はより高く、この比は5~10:1である。
【0037】
化合物(V)のより詳細な説明を以下に提供する。
【0038】
前記の定義の式(V)に従うと、化合物(V)は炭素-炭素二重結合を有し、ここにおいて化合物(IV)がチオレン反応に従って反応する。この反応は、求められる化合物(I)、並びにこのチオレン反応におけるこれらの化合物(IV)及び(V)の式に含まれる官能基の反応性に従い、それぞれ化合物(IV)及び(V)を選択することができるのであろう当業者に知られている。したがって、チオレン付加によって反応し得るすべての化合物(IV)及び(V)を、本発明の方法に適用することができる。非限定的な例として、化合物(V)は、ブテン、ペンテン、ヘキセン、2,3-ジメチル-ブテン、ブト-3-エン酸、ブト-2-エン酸、ブト-3-エン-2-オール、ブテン-ジオール、シクロヘキセン、ビニルグリコール酸(VGA)、メチルビニルグリコレート(MVG)から選択される。VGA及びMVGはバイオマスに由来する化合物であり、したがって、化合物(V)の天然の豊富な供給源であり、本発明に、工業規模でのその使用のための別の魅力を与える。
【0039】
本発明の方法はまた、室温に近い温度で行うことができるという点で興味深い。したがって、32℃±5℃の範囲の温度が最適であり、その50℃までの上昇は同等の速度プロファイルをもたらすが、選択性の低下を伴うことが実験された。したがって、温度範囲は、-10~100℃、特に0~50℃、さらに好ましくは20~35℃である。
【0040】
本発明の変形例によれば、反応は少なくとも1つの光開始剤の存在下で行うことができ、後者は、本発明の文脈において、反応を加速させる効果がある。これは、I型又はII型光開始剤から選択され、より有利にはII型光開始剤から選択される。例として、I型光開始剤としてはベンゾイン及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を挙げることができ、II型光開始剤としてはチオキサントン、並びにその誘導体である1-クロロ-4-ヒドロキシ-チオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシ-チオキサントン又はベンゾフェノン、及びその誘導体、特に3-アルキル-ベンゾフェノン及び4-アルキル-ベンゾフェノンから選択されるもの、例えば3-メチルベンゾフェノンなどを挙げることができる。1つ以上の光開始剤が使用される場合、それらの量は当業者の一般的な知識なしに、従来使用されるものである。
【0041】
本発明はまた、溶媒の不在下で実施することができるという点で興味深い。そのため、本発明は、例えば化合物(VI)を希釈するために、溶媒が使用される任意の方法を包含し、この場合、溶媒は、極性、プロトン性又は非プロトン性であり得、特にメタノール及びアセトニトリルの中から選択され得る。
【0042】
本発明及びその利点を以下の実施例で説明する。
【実施例
【0043】
これらの実施例において、本発明の性能は、以下のパラメータの決定によって評価される:
式(VI)の添加剤の存在下又はそのような添加剤の不在下での、照射下での、式(IV)の化合物と式(V)の化合物との反応を通して、式(I)の化合物を調製について、
転化、すなわち、%で表される化合物(V)の変換比、
収率、すなわち、%で表される形成された化合物(I)と提供された化合物(V)との比、及び
%で表される、形成された化合物(I)と実際に転化された化合物Vとの比を定義する選択率。
【0044】
実施例1:本発明に係る異なる添加剤の存在下での(n-ブチルチオ)-シクロヘキサンの合成、及び添加剤なしでの同じ化合物の合成との比較
【0045】
【化7】
【0046】
マグネチックバーを備えた20mLのミニリアクター中に、シクロヘキセン(500mg)、ブタンチオール(1.5当量)及び示されている添加剤(0.5当量)を連続的に投入する。混合物にLED(365nm)を32℃で30分間照射する。反応の性能は、H NMR解析(内部対照として使用され、99%でカウントされた3,5-ジメチルアニソールに対して)によって計算され、以下の表1に示される。
【0047】
【表1】
【0048】
全ての試験された添加剤は予想外に、測定されたパラメータの全てに対してプラスに作用することがわかる。
【0049】
実施例2:本発明に係る異なる添加剤の存在下での(n-ブチルチオ)-2-ブタノールの合成、及び添加剤なしでの同じ化合物の合成との比較
【0050】
【化8】
【0051】
マグネチックバーを備えた20mLのミニリアクターに、ブト-3-エン-2-オール(500mg)、ブタンチオール(1.5当量)及び示されている添加剤(0.5当量)を連続的に投入する。混合物にLED(365nm)を32℃で1時間照射する。反応の性能は、H NMR解析(内部対照として使用され、99%でカウントされた3,5-ジメチルアニソールに対して)によって計算され、以下の表2に示される。
【0052】
【表2】
【0053】
全ての試験された添加剤は予想外に、測定されたパラメータの全てに対してプラスに作用することがわかる。この実施例はさらに、化合物(I)の調製が、異なる様式で官能化されたいくつかの添加剤の存在下で実施され得ることを示す。
【0054】
実施例3:本発明に係る添加剤としての4-メチル-チオ-2-ヒドロキシ-ブタン酸(MHA)の存在下での(n-ブチルチオ)-2-ヒドロキシ-ブタン酸の合成、及び添加剤なしでの同じ化合物の合成との比較
【0055】
【化9】
【0056】
マグネチックバーを備えた20mLのミニリアクターに、2-ヒドロキシ-3-ブテン酸(500mg)、ブタンチオール(1.5当量)及び示されている添加剤(0.5当量)を連続的に投入する。混合物にLED(365nm)を32℃で1時間照射する。反応の性能は、H NMR解析(内部対照として使用され、99%でカウントされた3,5-ジメチルアニソールに対して)によって計算され、以下の表3に示される。
【0057】
【表3】
【0058】
この実施例は、別の化合物(I)の合成における添加剤としてのMHAの興味深さを強調する。
【0059】
実施例4:本発明に係る添加剤としてのMHAの存在下での4-メチルチオ-2-ヒドロキシ-ブタン酸のメチルエステルの合成、及び添加剤なしでの同じ化合物の合成との比較
【0060】
【化10】
【0061】
マグネチックバーを備えた20mLのミニリアクターに、メチル2-ヒドロキシ-3-ブテノエート(500mg)、ジメチルスルフィド(10当量)及び示されている添加剤(0.5当量)を連続的に投入する。混合物にLED(365nm)を32℃で2時間照射する。反応の性能は、H NMR解析(内部対照として使用され、99%でカウントされた3,5-ジメチルアニソールに対して)によって計算され、以下の表5に示される。
【0062】
【表4】
【0063】
その程度は前記の実施例と比較してより小さいが、本発明に係る式(V)の添加剤のプラスの影響が観察される。