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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】電波伝搬推定装置及び電波伝搬推定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20241119BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20241119BHJP
   H04W 16/22 20090101ALI20241119BHJP
【FI】
H04B17/309
H04B17/391
H04W16/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022060306
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023004867
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021106175
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021106176
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021106178
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100169797
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】富永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】須山 聡
(72)【発明者】
【氏名】小田 恭弘
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/172670(WO,A1)
【文献】特開2005-341621(JP,A)
【文献】特開2003-318811(JP,A)
【文献】特開2019-205127(JP,A)
【文献】特開2005-274205(JP,A)
【文献】米国特許第06477376(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0220003(US,A1)
【文献】今井 哲朗,レイトレーシング法による移動伝搬シミュレーション,電子情報通信学会論文誌B,2009年09月01日,第J92-B巻,第9号,pp.1333~1347
【文献】白坂 潤ほか,屋内環境における反射板を用いた28GHz帯のカバレッジ拡大に関する一検討,2021年電子情報通信学会総合大会講演論文集 通信1,2021年02月23日,p.364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/30 - 17/391
H04W 16/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記物体の構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と
を備え
前記抽出部は、前記物体の面を識別する色または識別番号に基づいて、前記構造を抽出し、
前記推定部は、前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体の面を構成するピクセル数を用いて前記伝搬特性を推定する、
電波伝搬推定装置。
【請求項2】
前記物体の面は、複数の領域に分割され、
前記領域毎に異なる前記識別情報が割り当てられる請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項3】
前記物体には、前記構造物周辺の地表が含まれる請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体が見つからない場合、前記受信点における受信強度のデフォルト値を設定、前記電波の回折波を計算、レイトレース法を用いることの何れかによって、前記伝搬特性を推定する請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記受信点における受信電力、前記送信点と前記受信点との伝搬損失、及び前記送信点と前記受信点との間のチャネル特性の少なくとも何れかを推定する請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項6】
前記推定部は、
前記電波の散乱に寄与する前記物体の情報を外部から取得し、
前記情報を用いて前記伝搬特性を推定する請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項7】
前記物体には、反射波を動的に制御可能な反射板が含まれ、
前記推定部は、前記反射板の特性を制御し、前記伝搬特性を推定する請求項1に記載の電波伝搬推定装置。
【請求項8】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出するステップと、
抽出された前記構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定するステップと
を含み、
前記抽出するステップは、前記物体の面を識別する色または識別番号に基づいて、前記構造を抽出するステップを含み、
前記推定するステップは、前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体の面を構成するピクセル数を用いて前記伝搬特性を推定するステップを含む、
電波伝搬推定方法。
【請求項9】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記物体の構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、
前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体が見つからない場合、前記送信点の高さを変更し、
前記高さの変更前及び変更後の両方とも、計算できる他の受信点における伝搬特性の差分と、前記高さの変更後の前記受信点における伝搬特性に基づいて、前記高さを変更前の前記伝搬特性を推定する、
電波伝搬推定装置。
【請求項10】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出するステップと、
抽出された前記構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定するステップと、
を含み、
前記推定するステップは、
前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体が見つからない場合、前記送信点の高さを変更するステップと、
前記高さの変更前及び変更後の両方とも、計算できる他の受信点における伝搬特性の差分と、前記高さの変更後の前記受信点における伝搬特性に基づいて、前記高さを変更前の前記伝搬特性を推定するステップと、
を含む、
電波伝搬推定方法。
【請求項11】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記物体の構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と、
を備え、
前記推定部は、
前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体が見つからない場合、
他の計算可能な受信点を疑似送信点として用い、対象の受信点における前記伝搬特性を推定する、
電波伝搬推定装置。
【請求項12】
構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出するステップと、
抽出された前記構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定するステップと、
を含み、
前記推定するステップは、
前記送信点及び前記受信点の両方から見える前記物体が見つからない場合、
他の計算可能な受信点を疑似送信点として用い、対象の受信点における前記伝搬特性を推定するステップを含む、
電波伝搬推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信システムにおける電波伝搬特性を推定する電波伝搬推定装置及び電波伝搬推定方法関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムのような無線通信システムにおける電波伝搬特性を推定するため、幾何光学的回折理論に基づくレイトレース法が広く利用されている。レイトレース法とは、送信点から受信点までのレイの経路をトレースする方法であり、イメージ法とレイ・ローンチング法とが知られている。
【0003】
イメージ法は、レイが反射・回折する構造物を予め抽出し、これらの構造物を経由して送信点から受信点に至る最短経路のレイを探索する方法である。イメージ法は、送信点から受信点までのレイを厳密に求めることができる利点があるが、考慮する構造物の面(建物壁面など)とエッジの数、及び反射・回折の最大回数を増やすと演算処理量が指数関数的に激増するという問題がある。
【0004】
そこで、イメージ法の演算処理量を削減するため、送信点と受信点を焦点とする楕円内の構造物のみを対象として、面とエッジとの組み合わせを求めてレイをトレースすること、或いは送信点または受信点から見通しとなる建物を検索し、レイをトレースすることが提案、実証されている(特許文献1)。
【0005】
また、電波伝搬特性の推定精度を向上させるため、ニューラルネットワークまたはディープラーニングを用いる方法も開発されている(非特許文献1,2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-122008号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】今井哲朗、奥村幸彦、“ディープラーニングを用いた電波伝搬推定に関する一検討”、信学技報, AP2017-165, pp81-86、2018年1月
【文献】今井哲朗、浅井孝浩、“CNNを用いた深層学習による電波伝搬推定の一検討~入力するマップパラメータと推定精度の関係~”信学技報、vol.118, no.246, AP2018-89, pp.1-6、2018年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、イメージ法には、依然として次のような課題がある。例えば、一回反射のレイのトレースでは、正規反射点Irが建物の面内に属しない場合など、レイTx-Ir-Rxが破棄されると、送信点Txから受信点Rxに到来する電波の電力計算に誤差が生じる。
【0009】
また、反射のレイのトレースでは、電波の入射角度または建物の面の見える部分の面積が第一フレネルゾンにより小さくなることがある。この場合、電波は、正規方向だけでなく様々な方向に散乱するため、受信点Rxに到来する電波の電力計算に誤差が生じる。
【0010】
一方、このような誤差を低減するため、対象となる建物の複数エッジによる回折のレイをトレースし、受信点Rxに到来する電力をかき集めることが考えられるが、受信点Rxの電力計算に必要な演算量が増大する。
【0011】
そこで、以下の開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、受信点に到来する電波の電力計算の誤差及び演算量を効果的に低減できる電波伝搬推定装置及び電波伝搬推定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
電波伝搬推定装置の一態様は、送信点から送信される電波の受信点を含み、構造物を含む物体に対する識別情報を含む、地図データから、前記識別情報に基づいて前記受信点及び前記送信点から共に見える前記物体の構造を抽出する抽出部と、前記抽出部において抽出された前記構造に基づいて、周辺環境において前記電波の散乱となり得る構造から、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と、を備える。
【0013】
また、電波伝搬推定装置の一態様は、送信点から送信される電波の受信点を含む3次元の地図データにおいて、2次元データを抽出する抽出部と、前記抽出部において抽出された前記2次元データに基づいて、周辺環境において前記電波の回折計算を伴い、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と、を備える。
【0014】
電波伝搬推定装置の一態様は、送信点から送信される電波の受信点を含み、構造物を含む物体に対する識別情報及び距離情報のうち少なくとも一つを含む、地図データに、畳み込みニューラルネットワークを適用することによって、前記受信点を含む周辺環境において前記電波の散乱となり得る構造を表す第1パラメータを前記地図データから抽出する抽出部と、前記抽出部において抽出された前記第1パラメータと、前記送信点と前記受信点との間において無線通信を行う無線通信システムの構成を表す第2パラメータと、に、全結合ニューラルネットワークを適用することによって、前記電波の伝搬特性を推定する推定部と、を備える。
【0015】
電波伝搬推定装置の一態様は、構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、前記物体を含む地図データとを用い、前記識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び前記電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える前記物体の構造を抽出する抽出部と、前記抽出部において抽出された前記構造の特徴を示す情報を用いて、前記電波の伝搬特性を推定する推定部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、第1実施形態に係る電波伝搬推定装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図2図2は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図3図3は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図4図4は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図5図5は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図6図6は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図7図7は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図8図8は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図9図9は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
図10図10は、建物に対する識別番号と受信点と送信点の位置関係を示す図である。
図11図11は、図10において、送信点Txから見た2次元画像と、受信点Rxから見た2次元画像を示す図である。
図12図12は、3次元における従来のレイトレース法での計算と、本実施の形態の手法を比較した図である。
図13図13は、第1実施形態の各機能ブロック図である。
図14図14は、「送信点から見た画像」と「受信点から見た画像」の例を示す図である。
図15図15は、第1実施形態の都市構造パラメータ抽出部及び伝搬計算部102fに適用するDNNの構成例を示す図である。
図16図16は、第2実施形態に係る送信点Tx及び受信点Rxから見た画像の一例を示す図である。
図17図17は、第2実施形態に係る送信点Tx及び受信点Rxから共通に見える壁面のイメージを示す図である。
図18図18は、電波散乱物体のグルーピングの一例を示す図である。
図19図19は、一つの面全体に一つの色を割り当てる例と、面を複数の領域(メッシュ)に分割し、メッシュ毎に異なる色を割り当てる例とを示す図である。
図20図20は、送信点Tx(アンテナ)と受信点Rx(アンテナ)との間において電波が一回反射する場合の例と、送信点Tx(アンテナ)と受信点Rx(アンテナ)との間において電波が複数回反射する場合の例とを示す図である。
図21A図21Aは、送信点から見た受信点、地面及び構造物などの画像の一例を示す図である。
図21B図21Bは、従来のレイトレース法による見通しの判定例を示す図である。
図22図22は、回折波の計算方法の例を示す図である。
図23A図23Aは、第2実施形態に係る電波伝搬推定装置の構成例を示す図である。
図23B図23Bは、第2実施形態に係る電波伝搬推定装置の構成例を示す図である。
図24図24は、計算部230の前処理部231の動作フローを示す図である。
図25図25は、過去の前処理結果を利用する場合における後処理部232の動作フローを示す図である。
図26A図26Aは、直接最初からの計算する場合における前処理部231及び後処理部232の動作フローを示す図である。
図26B図26Bは、直接最初からの計算する場合における前処理部231及び後処理部232の動作フローを示す図である。
図27図27は、電波伝搬推定装置200による受信電力及び伝搬損失の計算例を示す図である。
図28図28は、電波伝搬推定装置200によるチャネル特性の計算例を示す図である。
図29図29は、電波伝搬推定装置200が電波散乱寄与物体DBに存在していない物体を取り込む動作フローを示す図である。
図30A図30Aは、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体の例、及び車・人体モデルの例を示す図である。
図30B図30Bは、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体の例、及び車・人体モデルの例を示す図である。
図30C図30Cは、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体の例、及び車・人体モデルの例を示す図である。
図31A図31Aは、RISなどによる受信点における伝搬特性の制御イメージを示す図である。
図31B図31Bは、RISなどによる受信点における伝搬特性の制御イメージを示す図である。
図32図32は、実施形態に係る電波伝搬推定装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のうちのいくつかの実施形態について、以下に図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明は、特許請求の範囲に記載した発明に限られない。
【0018】
また、以下の複数の実施形態を任意に組み合わせて実施することが可能である。
【0019】
[第1実施形態]
1.実施形態の概要
移動通信などの無線通信の技術分野では、効率の良いセル設計のために、精度の良い伝搬損失(「パスロス」と称されることもある)の推定式が求められる。推定式を得るためのアプローチとしては、例えば、電磁界理論に基づくアプローチと、測定データ(「実測データ」または「実測値」と称してもよい)に基づくアプローチと、がある。これらのアプローチのうち、無線通信の技術分野においては、後者のアプローチ、すなわち、測定データに基づくアプローチが多く用いられる。
【0020】
例えば、無線通信システムにおいて想定される範囲内で、周波数、基地局アンテナ高、送受信間距離、及び/または、伝搬環境などを変えて伝搬損失を測定し、これらのパラメータと、測定によって得られたデータと、の関係を分析して電波伝搬の推定式を作成する。
【0021】
パラメータと測定データとの関係の分析に、重回帰分析を用いる場合、推定式を構成する「入力パラメータ」及び「関数形」が決定される。「入力パラメータ」とは、伝搬環境、例えば、市街地であれば、都市構造に関連する情報を意味する。なお、「都市構造に関連する情報」を、便宜的に、都市構造パラメータ或いは都市構造関連パラメータと称することがある。都市構造関連パラメータの一例としては、建物占有面積率、道路幅、道路角、道路際建物高、平均建物高、及び、基地局近傍建物高などが挙げられる。
【0022】
ここで、推定式のパラメータ及び関数形の決定には、推定式を作成する者のセンスと、使用したデータと、に依存するところが大きい。また、推定式のパラメータ及び関数形は、例えば、周辺建物高と、基地局及び/または移動局のアンテナ高と、の関係が異なる毎に決定する必要がある。例えば、マクロセルとスモールセルとの関係のようにセルの展開シナリオ毎に、推定式に用いるパラメータ及び関数形が変わり得る。そのため、統一的な推定式を、上述した何れかのアプローチによって作成することは容易でない。
【0023】
そこで、本実施形態のうちの一態様では、電波伝搬の推定式に用いるパラメータ及び関数形の決定に、「ディープラーニング」(深層学習)に関して、ニューラルネットワーク(neural network;NN)の一例であるディープニューラルネットワーク(deep neural network;DNN)を用いることについて検討する。
【0024】
「ディープラーニング」は、多層ニューラルネットワーク(multilayered neural network)を用いる機械学習(machine learning)の方法論の1つである。例えば、豊富な計算機資源と、インターネット上のビッグデータと、を多層ニューラルネットワークに活用することで、音声認識、画像認識、または、自然言語処理などの処理性能を向上できる。処理性能を向上できる理由の1つに、ディープラーニングには、入力データから問題解決に使用される特徴量そのものを学習する能力が備わっていることが挙げられる。
【0025】
既述のように、DNNでは、問題解決に求められる特徴量そのものを入力データから学習できるため、例えば、住宅地図などの地図データをDNNの入力データに用いることで、電波伝搬推定に使用する都市構造パラメータそのものをDNNによって学習できる。併せて、推定式を構成する「関数形」の決定にもDNNを用いることで、既存の推定式よりも電波伝搬推定精度の高い推定式が得られる。
【0026】
DNNの学習には、携帯電話などの個々の移動局(mobile station;MS)から通信ネットワークに送信(又は、報告)されるデータを利用できる。MSから通信ネットワークに報告されるデータの一例としては、MSの受信電力、MSの位置、及び/または、MSが接続(アクセス)している基地局(base station;BS)などの電波伝搬環境を明示的または暗示的(あるいは、直接又は間接的)に示す情報が挙げられる。なお、MSは、ユーザ装置(user equipment;UE)の一例である。
【0027】
移動局から通信ネットワークに報告されるデータは、例えば、通信ネットワークを構成する基地局、及び/または、基地局の上位局において収集されてよい。データセンタのサーバコンピュータ(「クラウドコンピュータ」と称してもよい)が、上位局に相当してもよい。例えば、データセンタにおいて収集されたデータは、いわゆる「ビッグデータ」としてデータセンタの記憶装置において記憶、管理されてよい。
【0028】
そのため、「DNNの学習に、MSから報告されるデータを利用する」ことは、「DNNの学習に、電波伝搬環境に関するビッグデータを利用する」こと、と読み替えられてもよい。なお、ネットワークから得られないデータについては、例えば、レイトレーシングによるシミュレーション結果を用いて補完されてよい。
【0029】
ここで、住宅地図などの地図データをDNNの入力データに用いて、電波伝搬推定に使用する都市構造パラメータなどを学習させたい場合、目的のパラメータを得るまでに多くのイテレーションが生じ、収束しにくいという課題がある。一例として、入力データとして、電波の送信点や受信点や上空などから見た、複数の地図データを用いる場合、学習結果を得るまで収束しにくいという問題点がある。
【0030】
本実施形態の一態様では、地図データにおいて、構造物を含む物体に対する識別情報(色や識別番号など)及び/または距離情報が含まれる。より具体的には、建物などの面(及び/またはエッジ)に、色や識別番号などを付けた2次元画像を活用し、送信点及び受信点から共に見えた建物の面及びエッジの部分を抽出し、伝搬推定(計算)に利用する。さらに、送信点及び受信点から見えた建物の面及びエッジまでの距離情報を算出した2次元画像(マップ)も活用し、共に見えた面及びエッジの部分までの距離を抽出し、伝搬推定(計算)に利用する。これにより、複数の地図データを用いる場合でも、同一の構造物に対して、識別情報や距離情報が与えられるので、学習のイテレーションが収束しやすく、ひいては同じリソースの場合で比較して従来よりも精度の高い電波伝搬推定結果を得ることができる。
【0031】
また、本実施形態の一態様では、上述したニューラルネットワークを用いる場合に限らず、電波伝搬推定計算を行う際に、地図データに、構造物を含む物体に対する識別情報(色や識別番号など)を含む。そして、当該地図データから、識別情報に基づいて、受信点及び送信点から共に見える物体の構造(面やエッジなど)を抽出する。そして、抽出した構造(面やエッジなど)に基づいて、周辺環境において電波の散乱となり得る構造を推定し、電波の伝搬特性を推定する。これにより、識別情報を基準として、受信点及び送信点から共に見える物体の構造(面やエッジなど)、すなわち、周辺環境において電波の散乱となり得る構造が容易に推定できるので、計算量が削減でき、高速化が可能となり、ひいては同じリソースの場合と比較して、従来よりも精度の高い電波伝搬推定結果を得ることができる。
【0032】
また、本実施形態の一態様では、上述したニューラルネットワークを用いる場合に限らず、電波伝搬推定計算を行う際に、地図データにおいて、2次元データを抽出して、周辺環境において電波の回折計算を伴う、電波の伝搬特性を推定する。したがって、3次元での回折計算よりも、大幅に、計算量が削減できる。また、回折計算を簡略化して、反射や透過などの計算を行うことができるので、伝搬推定計算全体としては、同じリソースの場合と比較して、従来よりも精度の高い電波伝搬推定結果を得ることが期待できる。
【0033】
2.電波伝搬推定装置の構成例
図1は、一実施形態に係る電波伝搬推定装置100の構成例を示す機能ブロック図である。「推定装置」は、「シミュレータ」、「モデル」、または、「ツール」などに読み替えられてもよい。
【0034】
図1に示すように、電波伝搬推定装置100は、例示的に、都市構造のパラメータなどの抽出や伝搬推定計算を行う制御部102と、各種のパラメータやデータベースなどを含む記憶部106と、伝搬特性の計算結果などを出力する出力部108と、を備えてよい。ここで、制御部102は、図示の如く、設定部102aと、面エッジ識別部102bと、送信点ビュー検索部102cと、受信点ビュー検索部102dと、伝搬計算用情報抽出部102e、伝搬計算部102fとを備える。
【0035】
設定部102aは、伝搬伝搬特性の推定計算のための各種のデータやパラメータを設定する設定手段である。例えば、設定部102aは、電波の送信点や受信点を含む地図データにおいて、構造物を含む物体に対する識別情報や距離情報を設定してもよい。一例として、設定部102aは、計算対象地域の設定や、伝搬計算用パラメータの設定(例:推定する電波の周波数帯などの設定)、建物などの面、エッジに識別情報(例えば、識別色または識別番号)の設定ルールなど、を設定してもよい。なお、地図データなどへの識別情報や距離情報の設定は、手動で行ってもよく、カメラや距離センサなどで読み取られたカラー画像や3D画像から自動で付与されてもよい。
【0036】
面エッジ識別部102bは、建物などの面及び/またはエッジを識別する識別手段である。ここで、図2図9は、従来のレイトレース法の課題を説明するための図である。
【0037】
従来、計算量を削減するための様々な方法が開発されている。例えば、図2及び図3に示すように、イメージ法の計算量を削減するため、送信点と受信点を焦点とする楕円内の構造物のみを対象に面とエッジの組み合わせを求めレイをトレースすることや、送信点または受信点から見通しとなる建物を検索し、レイをトレースすることなどは既に、提案・実証された方法がある(ACEツール)。
【0038】
また、従来法においては推定精度に誤差が生じるなどの問題点がある。例えば、レイトレース法の反射のレイのトレースにおいて、例えば一回反射の場合、図4及び図5に示すように、建物の面に対し、送信点Txのイメージ点Tx'を作成してから、イメージ点Tx'と受信点Rxと線で結ぶことで、その面の正規反射点Irを導出する。正規反射点Irが面内に属しない場合、または、正規反射点Irが面内に属するが、レイTx-Ir-Rxが他の建物の面に遮断された場合は、レイTx-Ir-Rxを破棄する。
【0039】
しかしながら、実際の世界では、TxとRxから両方ともに見える面により、正規方向だけでなく、様々な方向で散乱する波により、Rxに電波が到来し得る。したがって、レイTx-Ir-Rxを破棄することにより、Rxに到来する波の電力の計算に誤差が生じていた。
【0040】
また、レイトレース法の反射のレイのトレースでは、図6に示すように、送信点Txと受信点Rxから共に見える建物の面の部分は第一フレネルゾンより大きいと見なして、正規反射方向の反射レベルを計算している。
【0041】
【数1】
【0042】
しかしながら、実際の世界では、図7に示すように、入射角度や建物の面の見える部分の面積が第一フレネルゾンにより小さくなることがあり、その場合、正規方向だけでなく、様々な方向で散乱し、正規反射方向において、散乱のレベルはレイトレース法による反射レベルより小さいため、誤差が生じる。
【0043】
また、従来では、図8及び図9に示すように、正規反射点Irが面内に属しない場合、または、正規反射点Irが面内に属するが、レイTx-Ir-Rxが他の建物の面に遮断された場合、レイTx-Ir-Rxを破棄するが、実際には、建物面で散乱する電波などがあるため、それに伴い計算誤差が生じる。
【0044】
そのため、従来では、計算誤差を小さくするため、対象建物の複数エッジによる回折のレイをトレースし、受信点に到来する電力をかき集める計算を行っていたが、計算量が増大するというデメリットがあった。また、そもそも、イメージ点及び反射点を作成した上で、反射点の条件を判定し、レイをトレースする作業は手間がかかり、同様に回折点を求め、レイをトレースする作業及び回折の複雑な数式による計算は手間がかかるという問題点があった。
【0045】
そこで、本実施形態では、計算精度を考慮しつつ、従来のレイトレース法の計算量(時間)に比べ、大幅に削減できる、以下のような推定方法を提案する。
【0046】
すなわち、面エッジ識別部102bは、2次元画像で各建物のそれぞれの面、エッジを識別できるように識別情報(例:色又は番号)を用いて、紐づけ(対応付け)を行う。ここで、図10は、建物に対する識別番号と受信点と送信点の位置関係を示す図である。図10に示すように、建物などの面(及びエッジ)にそれぞれの識別色(または識別番号)で付けた上で、のちの処理で、送信点Tx及び受信点Rxから見た(投影された)建物などの面及びエッジの2次元画像を作成し、送信点Txからの画像及び受信点Rxからの画像の各要素の色(または番号)を調べると、送信点Txまたは受信点Rxから見える建物の面(及びエッジ)がわかる。
【0047】
ここで、識別色は、例えば、RGBの16進数を用いてもよい。なお、識別色は、人間が色づけることに限られない。例えば、記憶部106の地形、構造物データベースに格納された、建物の立体写真データなどから、その建物の色を利用してもよく、或いは、建物の立体構造データに対して人工知能などのコンピュータが色や番号を付与してもよい。面エッジ識別部102bは、識別情報を付与した、対象構造物の面、エッジのデータベースを、記憶部106に格納する。
【0048】
送信点ビュー検索部102cは、送信点から見通しとなる建物などの面及びエッジの検索を行う検索手段である。ここで、図11上図に示すように、図10において、送信点Txから見た2次元画像を描いた後、記憶部106に画像を格納する。また、図14左下図に示すように、図10において、送信点Txから見た建物までの距離の図(マップ)も作成し、記憶部106に画像(マップ)を格納する。なお、カメラや距離センサにより、自動でこれらの2次元画像を取得し、記憶部106に画像を格納してもよい。さらに、これらの画像の各要素の色(または番号)を調べ、「送信点から見通しとなった面、エッジのデータベース」に格納する。
【0049】
受信点ビュー検索部102dは、受信点から見通しとなる建物などの面及びエッジの検索を行う検索手段である。ここで、図11下図に示すように、図10において、受信点Rxから見た2次元画像を描いた後、記憶部106に画像を格納する。また、図14右下図に示すように、図10において、受信点Rxから見た建物までの距離の図(マップ)も作成し、記憶部106に画像(マップ)を格納する。なお、カメラや距離センサにより、自動で2次元画像を取得し、記憶部106に画像を格納してもよい。さらに、これらの画像の各要素の色(または番号)を調べ、「受信点から見通しとなった面、エッジのデータベース」に格納する。
【0050】
ここで、伝搬計算用情報抽出部102eは、送信点Txまたは受信点Rxから見える建物の面(及びエッジ)の情報のもとに、伝搬計算に求められる条件及び情報に合わせて、見える面及びエッジの組み合わせを抽出し、処理する。したがって、後述する伝搬計算部102fによる散乱(反射、回折)波の計算に必要となる見える面の部分の面積及び見えるエッジを特定できる。なお、共に見える部分の面積の計算には、その部分に対応する画像の要素の合計(ピクセル数)及び電波照射原点または、観測点までの位置関係を用いて計算する方法がある。
【0051】
また、ここで、共に見えるエッジに対し、エッジと垂直面に電波照射原点と観測点を投影し、照射角と回折角を計算する。これにより、後述する伝搬計算部102fによる、伝搬計算のあるエッジの回折計算において、得られた照射角と回折角を予め決めた簡易な関係式に代入し、回折による減衰量を得ることができる。なお、高速計算するため、照射角と回折角を求めずに、予め、一律の減衰量を与えてもよい。
【0052】
ここで、設定部102aと、面エッジ識別部102bと、送信点ビュー検索部102cと、受信点ビュー検索部102dと、伝搬計算用情報抽出部102eとの、全部または一部が、「抽出部」として機能する。
【0053】
伝搬計算部102fは、「抽出部」にて抽出されたデータに基づいて、電波の伝搬特性を推定する「推定部」として機能する。例えば、伝搬計算部102fは、抽出された構造(面、エッジなど)に基づいて、周辺環境において電波の散乱となり得る構造を推定し、電波の伝搬特性を推定することができる。
【0054】
より具体的には、伝搬計算部102fは、伝搬条件を満たした見える面及びエッジの組み合わせの抽出結果に対して、電波の伝搬特性を推定することができる。また、伝搬計算部102fは、散乱波計算のため、電波照射原点(送信点)と観測点(受信点)から共通に見える面の部分のみの面積及び照射角、散乱角の計算に簡素化することができる。また、伝搬計算部102fは、回折波計算のため、電波照射原点(送信点)と観測点(受信点)から共通に見える建物のエッジの照射角と回折角の計算を行う。なお、伝搬計算部102fは、各レイ(パス)の受信電力計算を計算し、受信電力の合計を算出する。
【0055】
本実施形態の推定方法により、計算を簡素化できるので、反射におけるイメージ点を求めることや、反射点の計算、反射点の判定は不要とすることができる。また、回折における回折点を求めることや、複雑な計算式に必要な諸条件の求めは不要とすることができる。そして、面やエッジに色(または識別番号)を付けた上で、投影された画像を処理するだけで、伝搬計算に必要な条件や、情報を高速に抽出することが可能となる。また、電波照射原点(送信点)と観測点(受信点)から共に見える面に対し、レーダ方程式などを用いて、散乱レベルを計算するだけで、その面の反射及びエッジの回折の計算は不要とすることができる。したがって、計算量が削減でき、高速化推定が可能となる。
【0056】
また、本実施形態の推定方法により、電波照射原点(送信点)と観測点(受信点)から共に見える面の部分に対し、レーダ方程式などを用いて、散乱レベルを計算することで、正規方向だけでなく、任意の方向への散乱の計算が可能となる。また、共に見える面の部分は第一フレネル半径より小さい場合でも、散乱レベルの計算が可能となる(レイトレース法の場合、上記の条件を計算できない)。したがって、従来よりも精度の高い電波伝搬推定結果を得ることが期待できる。
【0057】
また、伝搬計算部102fは、抽出された2次元データ(例:Tx, Rxから共通に見えるエッジの垂直面のデータ)に基づいて、周辺環境において前記電波の回折計算を伴う、電波の伝搬特性を推定してもよい。ここで、図12は、3次元における従来のレイトレース法での計算と、本実施の形態の手法を比較した図である。図12に示すように、従来のレイトレース法では、送信点から受信点までの建物などについて、3次元空間での回折の計算を行っており、複雑であった。本実施の形態では、上述のように、Tx, Rxから共通に見えるエッジの垂直面の2次元での地図データを用いて、2次元空間での回折の計算を行うので、計算が簡素化される。すなわち、エッジを垂直面に投影し、照射角と回折角を決めた簡易な関係式に代入し、減衰量を得る。回折の波レベルはそもそも、弱いため、上述した簡易な関係式を用いても、推定精度を維持可能である。さらに、計算量が削減でき、高速化推定が可能となる。
【0058】
さらに、伝搬計算部102fは、ニューラルネットワークなどを用いて、電波の伝搬特性を推定してもよい。特に、本実施の形態では、伝搬計算部102fは、「抽出部」において抽出された第1パラメータと、送信点と受信点との間において無線通信を行う無線通信システムの構成を表す第2パラメータと、に、全結合ニューラルネットワークを適用することによって、電波の伝搬特性を推定する「推定部」として機能してもよい。
【0059】
なお、上述した「抽出部」は、例えば、住宅地図などの地図データが入力され、地図データから伝搬推定に用いる都市構造パラメータをニューラルネットワーク(NN)によって抽出することができる。
【0060】
都市構造パラメータには、非限定的な一例として、既述の建物占有面積率、道路幅、道路角、道路際建物高、平均建物高、及び、基地局近傍建物高の中から選択された1つ以上のパラメータが含まれてよい。
【0061】
都市構造パラメータは、例えば、基地局及び/または移動局の位置と、周辺建物の位置と、の関係に応じて異なる値を取り得る。別言すると、都市構造パラメータは、送信点(基地局又は移動局)から送信される電波の受信点(移動局又は基地局)を含む周辺環境において電波の散乱となり得る構造を表す第1パラメータの一例である。
【0062】
NNには、非限定的な一例として、畳み込みNN(Convolutional Neural Network;CNN)が適用されてよい。
【0063】
CNNは、例えば図13にて後述するように、入力データ(例えば、画像)から局所的に特徴量を抽出する畳み込み層と、局所毎に特徴量をまとめるプーリング層と、を繰り返す構造を有する。プーリング層(又は、サブサンプリング層)は、例えば、畳み込み層からの入力データを処理し易い形式に圧縮(「ダウンサンプリング」と称されることもある)する。
【0064】
CNNでは、畳み込みフィルタ(以下「フィルタ」と略称することがある)のパラメータは入力画像の全ての場所で共有される。そのため、単純な全結合ニューラルネットワーク(Fully Connected Neural Network;FNN)に比べて、パラメータ数を削減できる。
【0065】
また、プーリング層によって、パラメータ数をさらに削減でき、併せて、入力画像の平行移動に対する不変性を段階的に付与できる。
【0066】
CNNは、入力データが画像データである場合、画像データの解像度を少しずつ落としながら異なるスケールにおいて隣り合う特徴量の共起を計算し、分類または識別に有効な情報を選択的に次層(上位層)へ伝達してゆくネットワークであると概念的に解釈できる。
【0067】
伝搬計算部102fは、例えば、都市構造パラメータ抽出部によって抽出された都市構造パラメータと、システムパラメータと、が入力され、両パラメータを用いたNNによって無線通信システムにおける電波伝搬を推定する。なお、システムパラメータは、送信点と受信点との間において無線通信を行う無線通信システムの構成を表す第2パラメータの一例である。電波伝搬の「推定」は、「分析」、「解析」、または、「シミュレーション」などに読み替えられてもよい。
【0068】
システムパラメータには、例えば、送信点と受信点との間の距離である送受信間距離、電波伝搬の推定対象とする電波の周波数、基地局のアンテナ高、移動局のアンテナ高、及び、送受信点間の見通し(line of sight)の有無の中から選択された1つ以上を示す情報が含まれてよい。
【0069】
システムパラメータは、電波伝搬の推定対象とするシステム及び/またはシナリオに応じて決定されてよい。例えば、マクロセル環境を推定対象とする場合、基地局アンテナは、周辺建物よりも高い位置に設置される(つまり、基地局アンテナ高>周辺建物高)と仮定してよい。
【0070】
また、「周波数」は、例えば、送信点及び受信点の何れか一方に対応する基地局の配置態様(別言すると、セル設計)に応じて定められるため、送信点と受信点との位置関係に応じて定まるシステムパラメータの一例に含まれると捉えてよい。
【0071】
伝搬計算部102fにおけるNNには、例えば、FNNを適用することで、入力パラメータから伝搬損失を推定する関数を表現する。FNNでは、各層のノードが次層のノードの全てと接続される。FNNは、下位層に至るまでに検出された特徴量の組み合わせを、特定の予測結果に分類する識別部の役割を果たす。なお、NNにおいて、各層における「ノード」は、「ニューロン」または「ユニット」と称されることもある。
【0072】
伝搬計算部102fは、図示しない誤差計算部及び重み更新部を備えていてもよい。誤差計算部及び重み更新部は、例えば、CNN及びFNNによって形成されるDNNの重み係数(「重みパラメータ」と称されてもよい)を学習するために用いられる。
【0073】
CNNにおいて、重みパラメータは、例えば、畳み込み層(C層)において適用される畳み込みフィルタのフィルタ係数に相当すると捉えることができる。FNNにおいては、重みパラメータは、FNNを成す各層間(別言すると、異なる層のノード間)の重み結合に付与された係数に相当すると捉えることができる。重みパラメータの学習には、例示的に、誤差逆伝搬法(back propagation)が適用されてよい。
【0074】
誤差逆伝搬法は、例えば、各層の重みパラメータの更新量を、上位層側(出力層側)から得た値を利用して計算し、下位層(入力層)方向へ各層の重みパラメータの更新量を決める値を計算しながら伝搬させていく方法である。
【0075】
例えば、誤差計算部は、伝搬計算部102fによって得られた電波伝搬特性(以下「伝搬特性」と略称することがある)の推定値と、実測値(又は、理論値でもよい)から得られた電波伝搬特性と、の誤差を計算する。計算された誤差が、与えられた収束条件に収束するまで、重み更新部によってDNNの重みパラメータが繰り返し更新される。
【0076】
なお、誤差計算部によって計算される誤差は、例えば、重みパラメータを引数とする誤差関数によって表されてよい。誤差関数は、損失関数、コスト関数、または、(推定の)目的関数などと称されることもある。
【0077】
重みパラメータの更新には、例えば、勾配降下法(Gradient Descent Method)が適用されてよい。勾配降下法では、例えば、誤差関数の勾配値をゼロに近づける、別言すると、誤差関数の偏微分値をゼロに近づけることで、DNNの重みパラメータを反復的に更新する。
【0078】
図13中段は、図13上段に例示した機能ブロック図を図13上段よりも抽象化して示す機能ブロック図である。図13中段においては、上述した誤差逆伝搬法によってDNNの各層における重みパラメータが上位層から下位層(図13中段の右から左)に向かって、FNN及びCNNの重みパラメータが、順次、更新されてもよい。
【0079】
勾配降下法を用いた重みパラメータの学習には、バッチ学習(batch learning)が適用されてもよいし、ミニバッチ学習(mini-batch learning)が適用されてもよい。ミニバッチ学習は、学習に用いるデータ(「学習データ」、「教師データ」または「トレーニングデータ」と称されてもよい)を複数に分割した単位で学習を行う。
【0080】
ミニバッチ学習によれば、バッチ学習に比して、学習時間の短縮、計算機資源の利用効率向上、及び/または、学習効率の低下抑制などを図ることができる。例えば、既述の電波伝搬環境に関するビッグデータを学習データに用いる場合には、ミニバッチ学習を適用することが有用である。なお、学習データを分割した単位は、「エポック」(epoch)と称されることがある。
【0081】
本実施形態の電波伝搬推定装置100において用いる入力データ例やニューラルネットワークなどを用いた計算手法などについては、特開2019-122008に記載の事項を適宜導入することができる。
【0082】
図13下段の最も左の地図データは、或るBSの位置と、或るMSの位置と、のペアに関して伝搬特性の推定に用いるデータ(例えば、地図データ)の一例を示す図である。この図においては、BSの位置が送信点に対応し、MSの位置が受信点に対応する。
【0083】
受信点に対応したMSの位置が含まれる特定の領域(例えば、128m×128mの矩形領域)の地図データが、図13下段に示すように、都市構造パラメータ抽出部に入力される。
【0084】
なお、MSの位置が含まれる特定の領域は、矩形領域に限られず、円形、及び、楕円形、その他の形状であってもよい。また、MSの位置が含まれる特定の領域のサイズは、例えば、演算に見込まれる負荷などに応じて適宜に調整されてよい。
【0085】
また、都市構造パラメータ抽出部に入力される地図データは、図13下段に示すように、例えば、メッシュ状に分割されてよい。分割の単位である1つのメッシュのサイズは、例えば、2m×2mである。ただし、分割の単位は、2m×2mに限られず、例えば、演算に見込まれる負荷などに応じて適宜に調整されてよい。
【0086】
また、都市構造パラメータ抽出部に入力される地図データには、「建物マップデータ」や「見通しマップデータ」や「送信点から見た画像」や「受信点から見た画像」が含まれてよい。以下、「建物マップデータ」及び「見通しマップデータ」を、それぞれ、「建物マップ」及び「見通しマップ」と略称することがある。
【0087】
「建物マップ」は、例えば、「各メッシュにおける建物の高さ情報から構成される地図データ」であり、建物の存在しないメッシュは0mと定義される。一方、「見通しマップ」は、例えば、「BSに対する各メッシュの見通しの有無の情報から構成される地図データ」である。ここで、図14は、「送信点から見た画像」と「受信点から見た画像」の例を示す図である。
【0088】
図14に示すように、本実施形態の地図データは、(1)構造物に対して識別色が付与された、送信点から見た画像であってもよく、(2)構造物に対して距離情報が付与された、送信点から見た画像であってもよく、(3)構造物に対して識別色が付与された、受信点から見た画像であってもよく、(4)構造物に対して距離情報が付与された、受信点から見た画像であってもよい。
【0089】
先行技術では、伝搬特性(伝搬損失)の推定精度は悪かった(RMS誤差は10dB程度)。その要因は、主に計算で扱う範囲を限定し、散乱波に寄与する建物を全て扱うことができないことと、寄与した建物の面の大きさの情報を使用せず、正確な散乱電力を計算できないことなどによる。本実施形態によれば、精度を向上するため、上述した以下の(1)~(4)画像を、図15に示すように、CNNに入力し、制御部102(抽出部)は、CNNにより、特徴量(Tx及びRxから見える壁及びエッジの部分の大きさと、その部分までの距離)を抽出した後、FNNに入力する。
(1)送信点Txから見た建物などの面及びエッジの2次元画像(色付けた画像)
(2)送信点Txから(1)の画像の各要素に対応する位置までの距離(面毎またはエッジ毎の平均距離の場合もある)
(3)受信点Rxから見た建物などの面及びエッジの2次元画像(色付けた画像)
(4)受信点Rxら(3)の画像の各要素に対応する位置までの距離(面毎またはエッジ毎の平均距離の場合もある)
3.動作例
電波伝搬推定装置100の動作を、学習段階と、学習終了後の推定段階と、に分けて考える場合、学習段階において既述のビッグデータがCNN及びFNNの学習に利用されてよい。なお、「段階」は、「フェーズ」、「ステージ」、「手順」、または「プロシージャ」といった他の用語に読み替えられてもよい。
【0090】
なお、学習段階及び推定段階において伝搬計算部102fに入力するシステムパラメータは、例えば、BSとMSとの間の距離に相当する「送受信間距離D」(メートル)、及び、「見通しの有無」の一方または双方を示す情報である。
【0091】
なお、「送受信間距離D(m)」を示す情報には、送受信間距離の対数(logD)が用いられてもよい。また、「見通しの有無」を示す情報には、見通しフラグ(LOS)が用いられてよい。見通しフラグは、見通しの有無をそれぞれ数値(例えば、「1」及び「0」)によって表したパラメータの一例である。
【0092】
図3を用いて説明した入力データは、MSが受信点に対応する場合の入力データである。BSが受信点に対応する場合についても、受信点であるBSの位置が含まれる特定の領域の地図データを、都市構造パラメータ抽出部(図15など参照)に入力することで、受信点であるBSを含む周辺環境に対する都市構造パラメータを抽出できる。したがって、BSを含む周辺環境の電波伝搬特性を推定できる。
【0093】
<DNNの構成例>
次に、本実施形態の都市構造パラメータ抽出部及び伝搬計算部102fに適用するDNNの構成例について、図15を参照して説明する。図15に示すように、都市構造パラメータ抽出部には、例えばCNNが適用され、伝搬計算部102fには、例えばFNNが適用される。
【0094】
(CNNの構成例)
CNNは、例示的に、畳み込み層(C層)と、プーリング層(P層)と、全結合層(F層)と、を有する。
【0095】
C層は、例えば、入力データに対して、畳み込みフィルタを用いた畳み込み演算を行うことによって、入力データにおける局所的なパターンの特徴量を抽出する。
【0096】
P層は、入力データにおける小領域(「局所領域」と称されることもある)の値を、1つの値にプーリング(別言すると、集約)する。プーリングにおいて、多少の位置ずれは許容される。
【0097】
F層は、C層及びP層で得られた特徴量に基づいた分類(又は識別)を行う。
【0098】
図15において、都市構造パラメータ抽出部は、非限定的な一例として、4つのC層(C0~C3)と、2つのP層(P0及びP1)と、2つのF層(F0及びF1)を有する。ただし、C層、P層、及び、F層それぞれの数は、図15に例示した数に限られず、例えば、演算に見込まれる負荷などに応じて、適宜に調整されてよい。
【0099】
図15に示すように、都市構造パラメータ抽出部には、例えば、「256×256」のサイズの入力データが入力される。なお、「256×256」は、1マップあたりのサンプル数を表す。また、「256×256」のサイズの入力データに付記した「4」は、マップ数を表している。4つのマップは、例えば、送信点の場合、「送信点から見た建物の画像の色のR成分のマップ」と「送信点から見た建物の画像の色のG成分のマップ」、「送信点から見た建物の画像の色のB成分」と、「送信点から見た建物までの距離のマップ」に対応すると捉えてもよい。受信点の場合、「受信点から見た建物の画像の色のR成分のマップ」と「受信点から見た建物の画像の色のG成分のマップ」、「受信点から見た建物の画像の色のB成分」と、「受信点から見た建物までの距離のマップ」に対応すると捉えてもよい。
【0100】
都市構造パラメータ抽出部は、「256×256×マップ数」のサイズの入力データに対し、C0層において、例えば、フィルタサイズ=「5×5×マップ数」、及び、フィルタ数=「48」の畳み込み演算を行う。
【0101】
例えば、都市構造パラメータ抽出部は、「5×5×マップ数」の3次元配列(別言すると、「行列」)によって表されるフィルタの要素値と、「256×256×マップ数」の行列によって表される入力データの要素値(別言すると、サンプル値)と、を要素値毎に乗算し、乗算結果を加算(合計)する。
【0102】
このような乗算及び加算を、2次元方向で「256×256」範囲をカバーするようにフィルタをスライドさせながら行うことで、「252×252」の2次元配列に対する畳み込み演算結果が得られる。例えば、この畳み込み演算によって、「252×252」のサイズを有する、フィルタ数=48に等しい数のマップデータが得られる。
【0103】
なお、入力データに対してスライドされるフィルタは、「スライド窓」、「カーネル」、或いは、「特徴検出器」(feature detector)などと称されることもある。
【0104】
次いで、都市構造パラメータ抽出部は、P0層において、C0層の出力(すなわち、「252×252」のサイズを有する「48」個のマップデータ)に対し、例えば、局所領域のサイズとして「4×4」のサイズのプーリング演算を行う。
【0105】
P0層のプーリング演算によって、「252×252」のサイズが「63×63」のサイズに圧縮された、48個のマップデータが得られる。なお、プーリング演算には、局所領域内の最大値を選択するMaxプーリング、及び、局所領域内の平均値を求めるAverageプーリングの何れが適用されてもよい。以下では、便宜的に、Averageプーリングが適用される例について説明する。
【0106】
さらに、都市構造パラメータ抽出部は、C1層において、P0層の出力(すなわち、「63×63」のサイズを有する48個のマップデータ)に対し、例えば、フィルタサイズ=「4×4×48」、及び、フィルタ数=「24」の畳み込み演算を行う。C1層の畳み込み演算によって、「60×60」のサイズを有する、フィルタ数=24に等しい数のマップデータが得られる。
【0107】
次いで、都市構造パラメータ抽出部は、P1層において、C1層の出力(すなわち、「60×60」のサイズを有する24個のマップデータ)に対し、例えば、局所領域のサイズとして「4×4」のサイズのプーリング演算を行う。P1層のプーリング演算によって、「60×60」のサイズが「15×15」のサイズに圧縮された、24個のマップデータが得られる。
【0108】
さらに、都市構造パラメータ抽出部は、C2層において、P1層の出力(すなわち、「15×15」のサイズを有する24個のマップデータ)に対し、例えば、フィルタサイズ=「4×4×24」、及び、フィルタ数=「12」の畳み込み演算を行う。C2層の畳み込み演算によって、「12×12」のサイズを有する、フィルタ数=12に等しい数のマップデータが得られる。
【0109】
次いで、都市構造パラメータ抽出部は、C3層において、C2層の出力(すなわち、「12×12」のサイズを有する12個のマップデータ)に対し、例えば、フィルタサイズ=「4×4×12」、及び、フィルタ数=「6」の畳み込み演算を行う。C3層の畳み込み演算によって、「9×9」のサイズを有する、フィルタ数=6に等しい数のマップデータが得られる。
【0110】
都市構造パラメータ抽出部は、以上のような畳み込み演算とプーリング演算とを「送信点Txから見た構造物のマップ」と「受信点Rxから見た構造物のマップ)」との2つのマップセット(4マップ)それぞれに行った後、C3層の出力のそれぞれの486(9×9×6)サンプル数を合計し972(9×9×6×2)のデータを得る。
【0111】
そして、都市構造パラメータ抽出部は、972個のサンプルのデータを、972個のF1層に全結合されたF0層に入力することより、CNNによる最終的な出力として972個のデータ(別言すると、972種類のデータ)をF1層から出力する。
【0112】
以上のように、都市構造パラメータ抽出部では、サンプル数=256×256×マップ数×2セットの地図データから、972種類の都市構造パラメータの値を求めることができる。
【0113】
なお、CNNへの入力データサイズ、並びに、C層(C0~C3)、P層(P0及びP1)、及び、F層(F0及びF1)のそれぞれに適用するフィルタサイズ及び/またはフィルタ数は、上述した数値に限られない。例えば、演算に見込まれる負荷などに応じて、これらの数値は適宜に調整されてよい。
【0114】
(FNNの構成例)
一方、伝搬計算部102fに適用するFNNは、図15に例示したように、入力層、中間層、及び、出力層の3層によって構成されてよい。
【0115】
入力層には、都市構造パラメータ抽出部によって得られた都市構造パラメータと、既述のシステムパラメータ(例えば、送受信間距離:logD、及び、見通し有無:LOS)と、が入力される。したがって、伝搬計算部102fを成すFNNへの入力パラメータ数は「974」である。なお、中間層及び出力層のノード数は、それぞれ、「3」及び「1」である。
【0116】
当該FNN構成では、2つのF層(F2及びF3)による2回の全結合NNによって、伝搬特性(例えば、伝搬損失)の推定値が得られる。
【0117】
(活性化関数)
次に、C層及びF層に適用する活性化関数(activation function)f(x)について説明する。なお、「x」は、局所領域のインデクスを表す。C層(C0~C3)のそれぞれには、例えば、ReLU関数が適用されてよい。なお、「ReLU」は、「Rectified Linear Unit」の略称である。
【0118】
これに対し、F層(F0~F3)のうちF0~F2層のそれぞれには、例えば、シグモイド関数が適用されてよい。
【0119】
F3層には、例えば、恒等関数:f(x)=xが適用されてよい。
【0120】
<DNNの学習法>
既述のとおり、重みパラメータの学習には誤差逆伝搬法が適用されてよい。ここで、DNNの規模が大きく、また、学習データ量が多いほど、DNNの学習にかかる時間が長くなる傾向にある。
【0121】
そこで、ミニバッチ勾配降下法をDNNの学習に適用することで、DNNの学習時間を短縮できる。ミニバッチ勾配降下法とは、サンプル数がN個の学習データに対して、n(<N)個のサンプル(別言すると、ミニバッチ)毎に、重みパラメータを勾配降下法によって更新する方法である。重みパラメータの収束性を高めるために、最適化手法の1つであるAdam(adaptive moment estimation)が併用されてもよい。
【0122】
<P層のプーリング演算>
P層は、既述のとおり、入力データを扱いやすい形式に変形するために、情報をダウンサンプリングして圧縮する。情報を圧縮することで、微小な位置変化に対するロバスト性の向上、過学習の抑制、及び/または、演算コストの低減といった効果が期待できる。
【0123】
MAXプーリングでは、局所領域に対して、最大値を選択する。例えば、DNNにおいて、上位層の(複数の)ノードに接続される下位層の複数のノードのうち、最大値をもつノードの値が上位層のノードの出力値となる。
【0124】
別言すると、MAXプーリングでは、下位層の複数のノードの特徴量を、その複数のノードの中の「最大値」と扱って、サブサンプリングが行われる。ニューロンプールの観点から捉えると、MAXプーリングは、下位層の複数のニューロンによって構成されるニューロンプールから、「集中的」に、そのプールがもつ最大値を出力する構造であると云え、ニューロンプールの集中性を再現する。
【0125】
例えば、下位層のノードのもつ値がほとんど「0」であり、一部に限って有効な値をもつような特性のデータセットが対象であれば、MAXプーリングは、averageプーリングに比して、無駄な入力を高効率に分離できる。別言すると、MAXプーリングは、averageプーリングに比して、ノイズフィルタとして高い性能をもつと云える。
【0126】
一方、averageプーリングでは、下位層の複数のノードから上位層のノードに対して出力する値が最大値ではなく平均値である。ニューロンプールの観点から捉えると、下位層のニューロンの総和に揺らぎが無いか、或いは、その揺らぎが無視できる程度であれば、ノイズフィルタとして十分に機能する。
【0127】
averageプーリングでは、MAXプーリングのように最大値よりも小さな値のニューロンの値を無視しないため、MAXプーリングに比して、例えば、局所解問題(local minimum problem)に陥る可能性を低減できる。なお、「局所解問題」とは、例えば、部分的な最適解に系が収束し、真の最適解にたどり着かない現象を意味する。
【0128】
上述した構成を有する電波伝搬推定装置100の動作、特に学習と推定計算などについては、特開2019-122008などに記載の公知の手法を用いることができる。
【0129】
一例として、電波伝搬推定装置100は、例えば、都市構造パラメータ抽出部によって、取得した地図データから、都市構造パラメータを計算し、伝搬計算部102fによって、図15にて都市構造パラメータとシステムパラメータなどとを用いて、図15にて説明したとおり、伝搬特性を計算する。
【0130】
伝搬特性が計算されると、電波伝搬推定装置100は、例えば、誤差計算部によって、計算された伝搬特性(例えば、伝搬損失)の推定値と、伝搬特性に関する実測値(又は、理論値でもよい)に基づいて求められた伝搬特性と、の誤差を計算してもよい。なお、伝搬特性に関する実測値(又は理論値)は、例えば、既述のセンタDB400に記憶された、BSとMSとの間の電波伝搬環境に関する情報(別言すると、ビッグデータ)に基づいて求められてよい。
【0131】
そして、誤差計算部は、計算した誤差が、与えられた収束条件に収束したか否かを判定する。計算した誤差が、与えられた収束条件に収束していなければ、例えば、重み更新部によって、DNNを成すFNN及びCNNの重みパラメータが誤差逆伝搬法によって更新される。
【0132】
重みパラメータの更新後、都市構造パラメータ及び伝搬特性がそれぞれ都市構造パラメータ抽出部及び伝搬計算部102fにおいて再計算され、誤差計算部において、再度、誤差が計算され、収束条件の判定が行われる。
【0133】
以上の処理が、収束条件が満たされたと判定されるまで繰り返されることによって、DNNを成すFNN及びCNNの重みパラメータが更新されてゆく。収束条件が満たされたと判定された場合、電波伝搬推定装置100は、学習段階の処理を終了してよい。
【0134】
推定段階では、電波伝搬推定装置100は、例えば、電波伝搬の推定条件を設定する。推定条件の設定は、例示的に、都市構造パラメータ抽出部において行われてよい。
【0135】
推定条件の設定データには、例示的に、MSが接続し得るBSに相当する送信点の情報、及び、MSに相当する受信点の情報が含まれてよい。
【0136】
また、電波伝搬推定装置100は、例えば、地図データのDBから図15に例示したようにCNNに入力する地図データ(例えば、建物マップ及び見通しマップ)を取得する。
【0137】
また、電波伝搬推定装置100は、例えば、DNNを成す各層のそれぞれについて、電波伝搬推定に用いるパラメータ(例えば、重みパラメータ)を設定する。当該設定は、例示的に、都市構造パラメータ抽出部において行われてよい。
【0138】
別言すると、都市構造パラメータ抽出部は、電波伝搬推定に用いるパラメータを設定する設定部としての機能を有してよい。
【0139】
次いで、電波伝搬推定装置100は、例えば、学習段階において学習済みの都市構造パラメータ抽出部によって、図15にて説明したとおり、取得した地図データから、都市構造パラメータを計算する。
【0140】
都市構造パラメータが計算されると、電波伝搬推定装置100は、例えば、学習段階において学習済みの伝搬計算部102fによって、都市構造パラメータとシステムパラメータなどとを用いて、図15にて説明したとおり、伝搬特性を計算する。
【0141】
以上のように、一実施形態に係る電波伝搬推定装置100によれば、CNNを用いた都市構造パラメータ抽出部によって、例えば住宅地図などの地図データから、受信点及び/または送信点から見える構造物などに限定して、電波伝搬推定に寄与する都市構造パラメータを抽出して決定できる。したがって、電波伝搬推定に用いるべき都市構造パラメータの決定を、簡素化して、電波伝搬推定にかかる時間を短縮でき、もって同リソースでの計算に比べて精度よく推定できる。
【0142】
なお、都市構造パラメータ抽出部及び伝搬計算部102fに用いられるDNN(CNN及びFNN)の学習に、例えば、MSからネットワークに報告される、電波伝搬環境に関する情報(例えば、ビッグデータ)を用いることで、DNNの学習精度を高めることができる。DNNの学習精度を高めることができるため、伝搬特性の推定精度も高めることができる。
【0143】
[第2実施形態]
次に、構造物の面(及びエッジ)に識別情報(識別番号または色)を付与し、伝搬計算に用いる実施形態について、さらに説明する。以下、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については、説明を省略する。
【0144】
具体的には、構造物などの壁面における任意方向の反射(散乱)波を計算可能な電波伝搬推定装置(及び電波伝搬推定方法)について説明する。
【0145】
(特徴1)
電波が任意方向に反射(散乱)となる構造物などの壁面を探索するため、構造物を含む全ての物体(道路標識、電柱、街灯、什器などを含んでよい)の面に異なる識別番号または色が付与される。
【0146】
本実施形態に係る電波伝搬推定装置は、電波の送信点と電波の受信点との双方向から見た構造物などの画像を描き、共通に見えるそれぞれの色(壁面相当)のピクセル数をカウントする。カウントされたピクセル数は、送信点Tx及び受信点Rxから共通に見える壁面の部分の面積に相当し、送信点Tx及び受信点Rxと、壁面との距離、及び角度関係により変化する。したがって、送信点Tx及び受信点Rx双方の画像のピクセル数を掛け合わせた結果は、当該壁面における受信電波の強さ(受信電力)に比例する。
【0147】
図16は、送信点Tx及び受信点Rxから見た画像の一例を示す。図17は、送信点Tx及び受信点Rxから共通に見える壁面のイメージを示す。なお、画像は、コンピュータを用いて作成されてよいが、カメラなどを用いて取得された構造物などの物体の静止画像または動画が
されてもよい。
【0148】
図16及び図17に示すように、電波伝搬推定装置は、送信点Tx及び受信点Rxの両方から共通に見える色(ここでは、建物などの構造物の壁面を想定)を検出し、検出した共通に見える色のピクセル数をカウントする。送信点Tx及び受信点Rxから見たピクセル数(見える部分の面積相当)は、次のように表現されてよい。
【0149】
・送信点Txから見た場合:Tx_pixels
・受信点Rxから見た場合:Rx_pixels
図17に示すように、送信点Tx及び受信点Rxからは、同一色が付与された構造物の面(建物の壁面など)が共通に見える。このような壁面を介して受信点Rxにおいて受信される電波の強度(受信電力と解釈されてもよい)は、次のように表現できる。
【0150】
受信電波の強度 ∝Tx_pixels * Rx_pixels
或いは、受信電波の強度は、次のように表現されてもよい。
【0151】
受信電波の強度Pr = k * Tx_pixels * Rx_pixels
なお、比例係数(k)は定数と限らない。比例係数は、アンテナ利得、距離、角度、散乱物体の材質の定数、周波数などの関数であってもよい。
【0152】
このような送信点Tx及び受信点Rxから共通に見える構造物の面を一意に識別可能な色を用いて受信電波の強度を計算(推定)する方法を、ここでは、カラーイメージ法と呼ぶ。
【0153】
なお、構造物を含む物体(具体的には、物体の面)を識別する識別情報は、色でもよいし、番号でもよい。また、色の表現形式には、典型的にはRBGが用いられてよいが、他の形式(例えば、CYMK)が用いられても構わない。
【0154】
また、構造物とは、典型的には、ビルなどの建物を含む建築物(建造物)を含んでよいが、これらに限定されない。具体的には、電波の反射(散乱)に寄与する物体全部、例えば、道路標識、電柱、街灯、什器なども含まれてよい。さらに、静止物体だけでなく、移動物体、例えば、車両などが含まれてよい。
【0155】
図18は、電波散乱物体のグルーピングの一例を示す。図18に示すように、識別情報(番号または色の集合)は、地面と電波散乱物体とに区分され、電波散乱物体は、静止物体と移動物体とに区分されてよい。
【0156】
静止物体には、上述した構造物、電柱、街灯、什器などが含まれてよく、移動物体には、車両など(鉄道を含んでよい)が含まれてよい。
【0157】
識別番号または色(識別情報)の割り当て方法としては、個々の面にランダムに割り当てる方法が挙げられる。或いは、電波散乱物体の種別などに応じてグループ分けし、同一グループに属する物体の個々の面にランダムに割り当てる方法も挙げられる。なお、識別情報の割り当ては、必ずしもランダムに割り当てられなくてもよい。
【0158】
また、通常、一つの面全体に一つの識別番号または色を割り当てるが、場合によっては、一つ面を複数の領域(例えば、メッシュ状)に分割し、メッシュ毎に識別番号または色を割り当ててもよい。
【0159】
図19は、一つの面全体に一つの色を割り当てる例と、面を複数の領域(メッシュ)に分割し、メッシュ毎に異なる色を割り当てる例とを示す。
【0160】
図19(左側)に示すように、通常、一つの面全体に特定の色が割り当てられてよい。一方、図19(右側)に示すように、面を複数の領域(メッシュ)に分割し、メッシュ毎に異なる色が割り当てられてもよい。
【0161】
一つの面全体に特定の色を割り当てた場合、面全体の一つ色塗りのため、実際、送信点Tx及び受信点Rxから見る部分はオーバーラップしない場合も、面全体が共通に見えると判定しまい、電波散乱レベルの計算において誤差が生じる。
【0162】
一方、面を複数の領域(メッシュ)に分割した場合、メッシュ単位の色で見ると、送信点Tx及び受信点Rxの両方から共通に見えるメッシュはない(図19右側)ため、上述したような電波散乱レベルの計算において誤差は生じない。
【0163】
送信点Tx及び受信点Rxは、典型的には、送信アンテナの設置位置及び受信アンテナの設置位置を意味するが、必ずしもアンテナの設置位置には限られない。例えば、電波が複数回反射(散乱)する場合、疑似的な送信点及び受信点を含んでもよい。
【0164】
図20は、送信点Tx(アンテナ)と受信点Rx(アンテナ)との間において電波が一回反射する場合の例と、送信点Tx(アンテナ)と受信点Rx(アンテナ)との間において電波が複数回反射する場合の例とを示す。
【0165】
図20に示すように、送信点Tx(アンテナ)から、複数の壁面を介して電波(無線信号と読み替えてもよい)が受信点Rx(アンテナ)に到達する場合、壁面1及び壁面N-1などは、擬似的な受信点及び/または送信点と解釈されてよい。
【0166】
(特徴2)
送信点Txと受信点Rxとの間の見通し状態を高速に判定するため、地面にも識別番号または色が付与されてよい。具体的には、電波伝搬推定装置は、送信点Txから見た受信点Rx、地面及び構造物などの画像を作成し、受信点Rxが属するピクセルの色(または識別番号)が見える地面の色(または識別番号)と一致する場合、送信点Txと受信点Rxとの間が見通し状態であると判定してよい。
【0167】
図21Aは、送信点から見た受信点、地面及び構造物などの画像の一例を示す。図21Bは、従来のレイトレース法による見通しの判定例を示す。
【0168】
なお、地面に一つの識別番号または色を付けると限らず、地面をメッシュで分割し、メッシュ毎に識別番号または色を付与してもよい。これにより、送信点から見た1枚の画像のみを解析すれば、評価対象エリア全体の受信点の見通し状態を判定できる。
【0169】
図21Aに示すように、地面は、複数の領域に分割されてよく、各領域を一意に識別可能な色(または識別番号)が割り当てられる。図21Aでは、構造物及び背景には、地面とは異なる同一の色(ここでは、黒色)が割り当てられている。
【0170】
図21Aは、送信点から見た画像(地形図)を示しており、図21Aに示されている受信点は、送信点と見通し状態であると判定される。
【0171】
一方、図21Bに示すように、従来のレイトレース法による見通し判定では、受信点(RX1, 2, 3)毎に、送信点と線を結び、各構造物に遮断されるか否かを逐次確認していくため、判定までに時間が掛かる。
【0172】
(特徴3)
電波伝搬推定装置が計算可能な最大反射(散乱)回数には、時間などを考慮すると、おのずと制限(最大N回)がある。したがって、N回反射(散乱)でも受信強度を計算できない受信点、いわゆる、共通に見える物体の面を一つも見つけられない場合が想定される。このような場合に対応するため、電波伝搬推定装置は、補完的な計算方法を用いて、受信強度などの伝搬特性を計算してよい。
【0173】
具体的には、電波伝搬推定装置は、次のような補完的な計算方法を用いてよい。
【0174】
(1)受信強度のデフォルト値を設定する
(2)対象の受信点を計算できるように送信点の高さを変更(高く)し、変更前後の両方とも、計算できる他の受信点における計算結果の差分の統計量、いわゆる平均値と標準偏差値を求め、当該平均値及び標準偏差値と、当該受信点における変更後の計算結果とを用いて、変更前の受信強度を計算(推定)する
(3)回折波を計算する
(4)レイトレース法を用いる
(5)他の計算可能な受信点を疑似送信点として用い、対象の受信点における電力を計算する
図22は、回折波の計算方法の例を示す。そもそも、回折波の電力は微弱であるため、簡易的な計算方法を適用すればよい。図22に示すように、構造物のエッジの垂直面に投影し、電波の照射角(θt)と回折角(θr)とを定めた簡易な関係式に代入し、減衰量を求めてもよい。
【0175】
(電波伝搬推定装置の構成例)
図23A及び図23Bは、本実施形態に係る電波伝搬推定装置の構成例を示す。図23A及び図23Bに示すように、電波伝搬推定装置200は、外部入力部210、記憶部220、計算部230及び出力部240を備える。
【0176】
外部入力部210は、記憶部220に記憶(格納)されていない情報を外部から記憶部220などに入力できる。例えば、外部入力部210は、カメラ、レーザースキャナによって取得された画像データを記憶部220などに入力できる。
【0177】
記憶部220は、地図データなどの各種データベース(DB)を格納できる。例えば、記憶部220は、地理情報DB、電波散乱寄与物体DB、識別番号/色DB、受信点DB、送信点DBなどを格納できる。
【0178】
計算部230は、前処理部231及び後処理部232を含む。前処理部231は、指定された範囲において受信点を設定し、予め受信点の画像の作成・解析を実行できる。具体的には、前処理部231は、次のような機能を有してよい。
【0179】
(1)評価エリア及び受信点の間隔、使用DBなどの条件を指定する
(2)受信点取得用DB、例えば、道路ネットワークを用いて、評価エリア及び受信点の間隔に基づいて受信点を計算する
(3)電波散乱寄与物体の面に対して、色塗りまたは識別番号の紐づけをする
(4)受信点から見た画像を作成する
(5)受信点から見た画像を解析する
(6)受信点から見た画像及び解析結果をDBに格納する
本実施形態では、前処理部231は、抽出部の一部として機能してよい。具体的には、前処理部231は、上述したように、構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、構造物を含む地図データとを用い、識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な受信点から見える物体の構造を抽出できる。
【0180】
物体の構造は、構造物の外観形状などであればよく、特に、複数の面(平面でよいが、曲面でも構わない)によって構成される建物などの面構成が含まれてよい。
【0181】
前処理部231(抽出部)は、上述したように、物体の面を識別する色(または番号)に基づいて、物体の構造(面)を抽出できる。また、物体の面は、図19に示したように、複数の領域(メッシュ)に分割されていてよい。当該領域(メッシュ)毎に異なる識別情報(番号または色)が割り当てられてよい。
【0182】
さらに、物体の構造には、広義には、構造物周辺の地表が含まれてよい。地表とは、地面と読み替えられてもよい。地面は、建物などの構造物が設置されていない領域と解釈されてもよい。
【0183】
後処理部232は、送信点の設定、送信点から見た画像の作成・解析などを実行できる。また、後処理部232は、受信点の画像の解析結果との比較・統合し、構造物の各面における電波散乱レベルの計算及び合成を実行できる。具体的には、後処理部232は、次のような機能を有してよい。
【0184】
(1)後処理の条件(散乱回数の設定、送信点の諸元の設定、アンテナパターンなど)を設定する
(2)送信点から見た画像を作成する
(3)送信点から見た画像を解析する
(4)送信点から見た画像の解析結果と、受信点から見た画像の解析結果との比較・統合(送信点と受信点から見た共通の面のピクセル数をカウントすることなど)
(5)構造物の各面における電波散乱レベルの計算と合成
本実施形態では、後処理部232の機能(1)~(4)は、抽出部の一部として機能してよい。具体的には、後処理部232の機能(1)~(4)は、上述したように、構造物を含む物体を識別可能な識別情報と、構造物を含む地図データとを用い、識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点から見える物体の構造を抽出できる。したがって、後処理部232の機能(1)~(4)と前処理部231とは、抽出部として機能してよい。
後処理部232の伝搬計算部は、推定部として機能してよい。具体的には、伝搬計算部は、前処理部231と後処理部232の機能(1)~(4)(抽出部)において抽出された構造物などの物体の構造の特徴を示す情報を用いて、電波の伝搬特性を推定できる。構造の特徴とは、物体の種別、外観上の面の構成(数、サイズ、方向、位置(距離)、見える部分の面積など)、面の材質などが含まれてよい。
【0185】
伝搬計算部(推定部)は、上述したように、送信点及び受信点の両方から見える物体の面を構成するピクセル数(見える部分の面積相当)を用いて伝搬特性を推定してよい。具体的には、伝搬計算部は、図16及び図17に示したように、送信点及び受信点から共通に見える面の画像のピクセル数から受信強度を計算し、伝搬特性を推定してよい。
【0186】
伝搬計算部は、送信点及び受信点の両方から見える物体が見つからない場合、送信点の高さを変更してよい。高さの変更は、一般的には、高さを高くすることが有効だが、低くすることが含まれてもよい。
【0187】
伝搬計算部は、上述したように、高さの変更前及び変更後の他の全ての受信点における受信特性の計算結果の差分に基づいて、高さを変更前の伝搬特性を推定してよい。具体的には、対象の受信点を計算できるように送信点の高さを変更(高く)し、変更前後の両方とも、計算できる他の受信点における計算結果の差分の統計量、いわゆる平均値と標準偏差値を求め、当該平均値及び標準偏差値と当該受信点における変更後の計算結果とを用いて、変更前の受信強度を計算(推定)してよい。
【0188】
また、伝搬計算部は、送信点及び受信点の両方から見える物体が見つからない場合、上述したように、受信点における受信強度のデフォルト値を設定、電波の回折波を計算、レイトレース法を用いることの何れかによって、伝搬特性を推定してもよい。或いは、伝搬計算部は、送信点及び受信点の両方から見える物体が見つからない場合、他の計算可能な受信点を疑似送信点として用い、推定対象の受信点における伝搬特性を推定してもよい。
【0189】
伝搬計算部は、受信点における受信電力、送信点と受信点との伝搬損失、及び送信点と受信点との間のチャネル特性の少なくとも何れかを推定してよい。チャネル特性には、各レイの電力、遅延時間及び到来角などが含まれてよい。具体的な推定方法については、さらに後述する。
【0190】
伝搬計算部は、電波の散乱に寄与する物体(電波散乱寄与物体)の情報を外部から取得してもよい。具体的には、伝搬計算部は、外部入力部210を介して電波散乱寄与物体の情報を取得してよい。伝搬計算部は、取得した当該情報をさらに用いて上述した伝搬特性を推定してよい。
【0191】
また、物体には、構造物が含まれるが、さらに、反射波を動的に制御可能な反射板が含まれてもよい。このような反射板は、Reconfigurable Intelligent Surface(RIS)などと呼ばれてもよい。伝搬計算部は、当該反射板の特性を制御し、上述した伝搬特性を推定してもよい。
【0192】
出力部240は、計算部230による計算結果(受信レベル)を、地図上においてカラーマップ表示したり、ファイルに出力したりすることができる。また、出力部240は、図16及び図21などに示した画像データを表示または出力したりすることもできる。
【0193】
(動作例)
次に、本実施形態に係る電波伝搬推定装置200の動作例について説明する。図24は、計算部230の前処理部231の動作フローを示す。図24に示すように、前処理部231は、計算条件の設定、地形情報処理、受信点の計算、色または識別番号の紐づけ、受信点から見た画像の作成、解析を実行する。
【0194】
図25は、過去の前処理結果を利用する場合における後処理部232の動作フローを示す。図25に示すように、後処理部232は、過去の前処理結果を利用しつつ、後処理条件の設定、送信点から見た画像の作成、送信点から見た画像の解析、送信点から見た画像の解析結果と、受信点から見た画像の解析結果との比較・統合、構造物の各面における電波散乱レベルの計算と合成を実行し、受信点毎の計算結果を出力部240に出力させる。
【0195】
図26A及び図26Bは、直接最初からの計算する場合における前処理部231及び後処理部232の動作フローを示す。図26A及び図26Bに示すように、前処理部231は、図24に示した動作と概ね同様の動作を実行し、後処理部232は、図25に示した動作と概ね同様の動作を実行してよい。
【0196】
(取得可能な伝搬特性)
次に、本実施形態に係る電波伝搬推定装置200が取得可能な伝搬特性の例について説明する。
【0197】
図27は、電波伝搬推定装置200による受信電力及び伝搬損失の計算例を示す。図27に示すように、各面iにおける散乱の受信電力をPriとすると、受信点における受信電力の合計Prは、図27に示す式で表現できる。
【0198】
図28は、電波伝搬推定装置200によるチャネル特性の計算例を示す。上述したように、チャネル特性には、各レイの電力、遅延時間及び到来角などが含まれてよい。
【0199】
各面iにおけるレイi(パス)は、次のような情報を有するため、受信点におけるチャネル特性を計算できる。
【0200】
・受信電力Pri
・出射方向θti、到来角θri、遅延時間Τi
また、電波伝搬推定装置200は、外部入力部210を備えており、上述したように、外部入力を活用できる。外部入力の用途は、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体(例えば、車両、電話ボックス、人体など)を取り込んで、伝搬特性の計算に利用するためである。
【0201】
図29は、電波伝搬推定装置200が電波散乱寄与物体DBに存在していない物体を取り込む動作フローを示す。図30A~30Cは、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体の例、及び車・人体モデルの例を示す。
【0202】
図29に示すように、電波伝搬推定装置200は、電波散乱寄与物体DBに存在していない物体を取り込む場合、方法1~3によって示されるように、ラフなモデル(図30B参照)を利用してもよいし、方法2,3のように、詳細なモデル(図30C参照)を利用してもよい。
【0203】
電波伝搬推定装置200は、このようなモデルを利用して電波散乱寄与物体のモデルを作成し、電波散乱寄与物体DBに格納できる。これにより、周辺環境をリアルに再現でき、推定精度の向上、及び移動物体による周辺環境の変動によるチャネル特性への影響も評価できる。
【0204】
(変更例)
電波伝搬推定装置200は、再構成可能なインテリジェントサーフェス(RIS)などと組み合わせて使用されてもよい。
【0205】
図31A及び図31Bは、RISなどによる受信点における伝搬特性の制御イメージを示す。RISを組み合わせる場合、電波伝搬推定装置200は、次のように動作してよい。
【0206】
(1)RISなどに識別番号または色を付与する
(2)送信点及び受信点からの画像を作成・解析し、両方から見えるピクセル数をカウントする
(3)受信電波の強度(Pr = k * Tx_pixels * Rx_pixels)を計算する
(4)受信電力を最大になるようにRISなどの入射角、反射角を調整・制御する
(作用・効果)
本実施形態に係る電波伝搬推定装置200によれば、次のような作用・効果が得られる。具体的には、電波伝搬推定装置200は、構造物などを含む物体を識別可能な識別情報(色または番号)と、構造物を含む地図データとを用い、当該識別情報に基づいて、電波の直接的または擬似的な送信点、及び当該電波の直接的または擬似的な受信点の両方から見える物体の構造(外観上の面など)を抽出する。また、電波伝搬推定装置200は、抽出した当該構造の特徴を示す情報を用いて、当該電波の伝搬特性を推定する。
【0207】
このため、正規反射点Irが建物の面内に属しない場合でも、受信点に到来する電波の電力計算の誤差及び演算量を効果的に低減できる。また、電波は、正規方向だけでなく様々な方向に散乱するため、電波伝搬推定装置200によれば、受信点に到来する電波の電力計算の誤差及び演算量を効果的に低減できる。
【0208】
本実施形態では、電波伝搬推定装置200は、物体の面を識別する色に基づいて、上述した構造を抽出し、送信点及び受信点の両方から見える物体の面を構成するピクセル数を用いて伝搬特性を推定できる。このため、処理負荷を抑制しつつ、より高精度に伝搬特性を推定できる。
【0209】
本実施形態では、物体の面は、複数の領域(メッシュ)に分割され、当該領域毎に異なる識別情報が割り当てられてもよい。これにより、送信点及び受信点の両方から見える面をより精度よく判定できるため、より高精度に伝搬特性を推定できる。
【0210】
本実施形態では、物体には、造物周辺の地表が含まれてよい。これにより、送信点から見た1枚の画像のみを解析すれば、評価対象エリア全体の受信点の見通し状態を判定でき、効率的に伝搬特性を推定できる。
【0211】
本実施形態では、電波伝搬推定装置200は、受信点における受信電力、送信点と受信点との伝搬損失、及び送信点と受信点との間のチャネル特性の少なくとも何れかを推定できる。このため、必要とする伝搬特性を容易に提供することができる。
【0212】
本実施形態では、電波伝搬推定装置200は、電波散乱寄与物体の情報を外部から取得し、当該を用いて伝搬特性を推定できる。これにより、電波散乱寄与物体DBに存在しないような物体を含む場合でも、高精度に伝搬特性を推定できる。
【0213】
本実施形態では、物体には、反射波を動的に制御可能な反射板(RISなど)が含まれてよく、電波伝搬推定装置200は、当該反射板の特性を制御し、伝搬特性を推定できる。このため、RISを組み合わせた高精度な受信点における伝搬特性の制御も可能となる。
【0214】
[その他の実施形態]
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0215】
図1に例示した電波伝搬推定装置100、図23A,23Bに例示した電波伝搬推定装置200おける機能ブロック(構成要素)は、ハードウェア及び/またはソフトウェアの任意の組み合わせによって実現されてよい。また、各機能ブロックの実現手段は特定の手段に限定されない。例えば、各機能ブロックは、物理的及び/または論理的に結合した1つの装置によって実現されてもよいし、物理的及び/または論理的に分離した複数の装置を直接、及び/または、間接的に(例えば、有線及び/または無線)によって接続することによって実現されてもよい。
【0216】
図32に、電波伝搬推定装置100及び電波伝搬推定装置200のハードウェア構成例を示す。電波伝搬推定装置100は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)またはサーバコンピュータといったコンピュータによって構成されてよい。コンピュータは、情報処理装置の一例である。
【0217】
電波伝搬推定装置100(及び電波伝搬推定装置200、以下同)は、1台のコンピュータによって構成されてもよいし、複数台のコンピュータによって構成されてもよい。複数台のコンピュータによって、電波伝搬推定装置100が実行する処理の負荷分散が図られてよい。
【0218】
図16に示すように、電波伝搬推定装置100は、例示的に、プロセッサ1001、メモリ1002、ストレージ1003、通信装置1004、入力装置1005、出力装置1006、バス1007を備えてよい。
【0219】
なお、以下の説明において、「装置」という文言は、回路、デバイス、または、ユニットなどに読み替えることができる。電波伝搬推定装置100のハードウェア構成は、図10に例示した各装置を1つまたは複数含むように構成されてもよいし、一部の装置を含まずに構成されてもよい。
【0220】
例えば、図32において、プロセッサ1001は1つだけ図示されているが、複数のプロセッサが電波伝搬推定装置100に備えられていてもよい。また、電波伝搬推定装置100における処理は、1つのプロセッサ1001によって実行されてもよいし、複数のプロセッサによって実行されてもよい。1つまたは複数のプロセッサにおいて、複数の処理は同時に、並列に、または、逐次に実行されてもよいし、その他の手法によって実行されてもよい。なお、プロセッサ1001は、シングルコアプロセッサでもよいし、マルチコアプロセッサでもよい。プロセッサ1001は、1つ以上のチップを用いて実装されてよい。
【0221】
電波伝搬推定装置100が有する1つまたは複数の機能は、例示的に、プロセッサ1001及びメモリ1002などのハードウェアに、所定のソフトウェアを読み込ませることで実現される。なお、「ソフトウェア」は、「プログラム」、「アプリケーション」、または「ソフトウェアモジュール」と称されてもよい。
【0222】
例えば、プロセッサ1001は、メモリ1002及びストレージ1003の一方または双方に記憶されたデータの読み出し及び書き込みの一方または双方を制御することで、プログラムを読み込んで実行する。なお、プログラムは、通信装置1004による電気通信回線を介した通信によってネットワークから送信されてもよい。
【0223】
プログラムは、電波伝搬推定装置100における処理の全部または一部をコンピュータに実行させるプログラムであってよい。プログラムに含まれるプログラムコードの実行に応じて、電波伝搬推定装置100の1つ以上の機能が実現される。プログラムコードの全部または一部は、メモリ1002またはストレージ1003に記憶されてもよいし、オペレーティングシステム(OS)の一部として記述されてもよい。
【0224】
例えば、プログラムは、図1などに例示した機能ブロックを具現するプログラムコードを含んでよく、また、例示したフローを実行するプログラムコードを含んでもよい。そのようなプログラムコードを含んだプログラムは、「電波伝搬推定プログラム」と称されてもよい。
【0225】
プロセッサ1001は、処理部の一例であり、例えば、OSを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ1001は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を用いて構成されてもよい。
【0226】
また、プロセッサ1001は、例えば、プログラム及びデータの一方または双方を、ストレージ1003及び通信装置1004の一方または双方からメモリ1002に読み出し、読み出したプログラム及び/またはデータに従って各種の処理を実行する。
【0227】
メモリ1002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例であり、例えば、ROM、EPROM、EEPROM、RAM、SSDなどの少なくとも1つを用いて構成されてよい。なお、「ROM」は、「Read Only Memory」の略称であり、「EPROM」は、「Erasable Programmable ROM」の略称である。「EEPROM」は、「Electrically Erasable Programmable ROM」の略称であり、「RAM」は、「Random Access Memory」の略称であり、「SSD」は、「Solid State Drive」の略称である。
【0228】
メモリ1002は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ、ワークメモリ、主記憶装置などと呼ばれてもよい。メモリ1002は、本発明の一実施の形態に係る電波伝搬推定方法を実施するために実行可能なプログラムを記憶する。
【0229】
ストレージ1003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例であり、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)、フレキシブルディスク、磁気ストリップなどの少なくとも1つを用いて構成されてもよい。ストレージ1003は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。上述の記憶媒体は、例えば、メモリ1002及びストレージ1003の一方または双方を含むデータベース、サーバその他の適切な媒体であってもよい。
【0230】
通信装置1004は、有線ネットワーク及び無線ネットワークの一方または双方を介してコンピュータ間の通信を行うためのハードウェア(「送受信デバイス」と称してもよい。
)の一例である。「通信装置」は、例えばネットワークデバイス、ネットワークコントローラ、ネットワークカード、通信モジュールなどと称されてもよい。
【0231】
入力装置1005は、電波伝搬推定装置100の外部からの入力を受け付ける入力デバイスの一例である。例示的に、キーボード、マウス、マイクロフォン、スイッチ、ボタン、センサの1つ以上が、入力装置1005に含まれてよい。
【0232】
出力装置1006は、電波伝搬推定装置100の外部への出力を実施する出力デバイス(出力部108)の一例である。例示的に、ディスプレイ、スピーカー、LEDランプなどの1つ以上が、出力装置1006に含まれてよい。なお、「LED」は、「light emitting diode」の略記である。
【0233】
なお、入力装置1005及び出力装置1006は、個別の構成でもよいし、例えばタッチパネルのように一体構成であってもよい。
【0234】
また、プロセッサ1001及びメモリ1002などの各装置は、バス1007によって通信可能に接続されてよい。装置間は、単一のバス1007で接続されてもよいし、複数のバスを用いて接続されてもよい。
【0235】
電波伝搬推定装置100は、マイクロプロセッサ、DSP、ASIC、PLD、FPGAなどのハードウェアを含んで構成されてもよい。例えば、プロセッサ1001は、これらのハードウェアの少なくとも1つで実装されてよい。当該ハードウェアにより、図1及び図2に例示した各機能ブロックの一部または全てが実現されてよい。
【0236】
なお、「DSP」は、「Digital Signal Processor」の略称であり、「ASIC」は、「Application Specific Integrated Circuit」の略称である。「PLD」は、「Programmable Logic Device」の略称であり、「FPGA」は、「Field Programmable Gate Array」の略称である。
【0237】
(適応システム)
本明細書で説明した実施形態は、LTE(Long Term Evolution)、LTE-A(LTE-Advanced)、SUPER 3G、IMT-Advanced、4G、5G、FRA(Future Radio Access)、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、UMB(Ultra Mobile Broadband)、IEEE 802.11(Wi-Fi)、IEEE 802.16(WiMAX)、IEEE 802.20、UWB(Ultra-WideBand)、Bluetooth(登録商標)、その他の適切なシステムを利用するシステム及び/またはこれらに基づいて拡張された次世代システムに適用されてもよい。
【0238】
(処理手順など)
本明細書で説明した各態様/実施形態の処理手順、シーケンス、フローチャートなどは、矛盾の無い限り、順序を入れ替えてもよい。例えば、本明細書で説明した方法については、例示的な順序で様々なステップの要素を提示しており、提示した特定の順序に限定されない。
【0239】
(入出力された情報などの扱い)
入出力された情報などは特定の場所(例えば、メモリ)に保存されてもよいし、管理テーブルで管理してもよい。入出力される情報などは、上書き、更新、または追記され得る。出力された情報などは削除されてもよい。入力された情報などは他の装置に送信されてもよい。
【0240】
(判定方法)
判定は、1ビットで表される値(0か1か)によって行われてもよいし、真偽値(Boolean:trueまたはfalse)によって行われてもよいし、数値の比較(例えば、所定の値との比較)によって行われてもよい。
【0241】
(ソフトウェア)
ソフトウェアは、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語と呼ばれるか、他の名称で呼ばれるかを問わず、命令、命令セット、コード、コードセグメント、プログラムコード、プログラム、サブプログラム、ソフトウェアモジュール、アプリケーション、ソフトウェアアプリケーション、ソフトウェアパッケージ、ルーチン、サブルーチン、オブジェクト、実行可能ファイル、実行スレッド、手順、機能などを意味するよう広く解釈される。
【0242】
また、ソフトウェア、命令などは、伝送媒体を介して送受信されてもよい。例えば、ソフトウェアが、同軸ケーブル、光ファイバケーブル、ツイストペア及びデジタル加入者回線(DSL)などの有線技術及び/または赤外線、無線及びマイクロ波などの無線技術を使用してウェブサイト、サーバ、または他のリモートソースから送信される場合、これらの有線技術及び/または無線技術は、伝送媒体の定義内に含まれる。
【0243】
(情報、信号)
本明細書で説明した情報、信号などは、様々な異なる技術の何れかを使用して表されてもよい。例えば、データ、命令、コマンド、情報、信号、ビット、シンボル、チップなどは、電圧、電流、電磁波、磁界若しくは磁性粒子、光場若しくは光子、またはこれらの任意の組み合わせによって表されてもよい。
【0244】
なお、本明細書で説明した用語及び/または本明細書の理解を助ける用語については、同一のまたは類似する意味を有する用語に置き換えられてもよい。
【0245】
(パラメータ)
また、本明細書で説明した情報、パラメータなどは、絶対値で表されてもよいし、所定の値からの相対値で表されてもよいし、対応する別の情報で表されてもよい。
【0246】
上述したパラメータに使用する名称はいかなる点においても限定的なものではない。また、これらのパラメータを使用する数式などは、本明細書で明示的に開示したものと異なる場合もある。
【0247】
(基地局)
基地局は、1つまたは複数(例えば、3つ)の(セクタとも呼ばれる)セルを収容することができる。基地局が複数のセルを収容する場合、基地局のカバレッジエリア全体は複数のより小さいエリアに区分でき、各々のより小さいエリアは、基地局サブシステム(例えば、屋内用の小型基地局RRH:Remote Radio Head)によって通信サービスを提供することもできる。「セル」または「セクタ」という用語は、このカバレッジにおいて通信サービスを提供する基地局、及び/または、基地局サブシステムのカバレッジエリアの一部または全体を指す。さらに、「基地局」、「BS」、「eNB」、「gNB」、「セル」、及び「セクタ」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。基地局は、固定局(fixed station)、NodeB、eNodeB(eNB)、gNodeB、アクセスポイント(access point)、スモールセルなどの用語で呼ばれる場合もある。スモールセルは、マクロセルよりもカバレッジの小さいセルの一例である。スモールセルは、カバレッジエリアに応じて呼称が異なってよい。例えば、スモールセルは、「フェムトセル」、「ピコセル」、「マイクロセル」、「ナノセル」、「メトロセル」、「ホームセル」などと称されてもよい。「セル」または「セクタ」という用語は、基地局が無線サービスを提供する個々の地理的範囲を意味する他、その個々の地理的範囲において端末と通信を行なうために基地局が管理する通信機能の一部をも意味してよい。
【0248】
(UE)
UEは、当業者によって、ユーザ端末、端末、移動局、加入者局、モバイルユニット、加入者ユニット、ワイヤレスユニット、リモートユニット、モバイルデバイス、ワイヤレスデバイス、ワイヤレス通信デバイス、リモートデバイス、モバイル加入者局、アクセス端末、モバイル端末、ワイヤレス端末、リモート端末、ハンドセット、ユーザエージェント、モバイルクライアント、クライアント、UE、または、いくつかの他の適切な用語で呼ばれる場合もある。UEは、その位置が変化しない固定端末であってもよいし、その位置が変化する移動端末であってもよい。非限定的な一例として、UEは、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末などの移動可能な端末であってよい。また、UEは、IoT(Internet of Things)端末であってもよい。IoTによって、様々な「物」に通信機能が搭載され得る。通信機能を搭載した様々な「物」は、インターネットや無線アクセス網などに接続して通信を行なうことができる。例えば、IoT端末には、無線通信機能を具備したセンサデバイスやメータ(測定器)などが含まれてよい。センサデバイスやメータを搭載した監視カメラや火災報知器などの何らかの監視装置が端末に該当してもよい。監視装置などのIoT端末であるUEと基地局との間の無線通信は、MTC(Machine Type Communications)と称されることがある。そのため、IoT端末であるUEは「MTCデバイス」と称されることがある。
【0249】
機能には、判断、決定、判定、計算、算出、処理、導出、調査、探索、確認、受信、送信、出力、アクセス、解決、選択、選定、確立、比較、想定、期待、みなし、報知(broadcasting)、通知(notifying)、通信(communicating)、転送(forwarding)、構成(configuring)、再構成(reconfiguring)、割り当て(allocating、mapping)、割り振り(assigning)などがあるが、これらに限られない。例えば、送信を機能させる機能ブロック(構成部)は、送信部(transmitting unit)や送信機(transmitter)と呼称される。何れも、上述したとおり、実現方法は特に限定されない。
【0250】
本開示において基地局によって行われるとした特定動作は、場合によってはその上位ノード(upper node)によって行われることもある。基地局を有する1つまたは複数のネットワークノード(network nodes)からなるネットワークにおいて、端末との通信のために行われる様々な動作は、基地局及び基地局以外の他のネットワークノード(例えば、MMEまたはS-GWなどが考えられるが、これらに限られない)の少なくとも1つによって行われ得ることは明らかである。上記において基地局以外の他のネットワークノードが1つである場合を例示したが、複数の他のネットワークノードの組み合わせ(例えば、MME及びS-GW)であってもよい。
【0251】
情報、信号(情報など)は、上位レイヤ(または下位レイヤ)から下位レイヤ(または上位レイヤ)へ出力され得る。複数のネットワークノードを介して入出力されてもよい。
【0252】
本開示において説明した各態様/実施形態は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよいし、実行に伴って切り替えて用いてもよい。また、所定の情報の通知(例えば、「Xであること」の通知)は、明示的に行うものに限られず、暗黙的(例えば、当該所定の情報の通知を行わない)ことによって行われてもよい。
【0253】
本開示において使用する「システム」及び「ネットワーク」という用語は、互換的に使用される。
【0254】
「接続された(connected)」、「結合された(coupled)」という用語、またはこれらのあらゆる変形は、2またはそれ以上の要素間の直接的または間接的なあらゆる接続または結合を意味し、互いに「接続」または「結合」された2つの要素間に1またはそれ以上の中間要素が存在することを含むことができる。要素間の結合または接続は、物理的なものであっても、論理的なものであっても、或いはこれらの組み合わせであってもよい。例えば、「接続」は「アクセス」で読み替えられてもよい。本開示で使用する場合、2つの要素は、1またはそれ以上の電線、ケーブル及びプリント電気接続の少なくとも一つを用いて、並びにいくつかの非限定的かつ非包括的な例として、無線周波数領域、マイクロ波領域及び光(可視及び不可視の両方)領域の波長を有する電磁エネルギーなどを用いて、互いに「接続」または「結合」されると考えることができる。
【0255】
参照信号は、Reference Signal(RS)と略称することもでき、適用される標準によってパイロット(Pilot)と呼ばれてもよい。
【0256】
本開示において使用する「に基づいて」という記載は、別段に明記されていない限り、「のみに基づいて」を意味しない。言い換えれば、「に基づいて」という記載は、「のみに基づいて」と「に少なくとも基づいて」の両方を意味する。
【0257】
本開示において使用する「第1」、「第2」などの呼称を使用した要素へのいかなる参照も、それらの要素の量または順序を全般的に限定しない。これらの呼称は、2つ以上の要素間を区別する便利な方法として本開示において使用され得る。したがって、第1及び第2の要素への参照は、2つの要素のみがそこで採用され得ること、または何らかの形で第1の要素が第2の要素に先行しなければならないことを意味しない。
【0258】
本開示において、「含む(include)」、「含んでいる(including)」及びそれらの変形が使用されている場合、これらの用語は、用語「備える(comprising)」と同様に、包括的であることが意図される。さらに、本開示において使用されている用語「または(or)」は、排他的論理和ではないことが意図される。
【0259】
本開示において、例えば、英語でのa, an及びtheのように、翻訳により冠詞が追加された場合、本開示は、これらの冠詞の後に続く名詞が複数形であることを含んでもよい。
【0260】
本開示で使用する「判断(determining)」、「決定(determining)」という用語は、多種多様な動作を包含する場合がある。「判断」、「決定」は、例えば、判定(judging)、計算(calculating)、算出(computing)、処理(processing)、導出(deriving)、調査(investigating)、探索(looking up、search、inquiry)(例えば、テーブル、データベースまたは別のデータ構造での探索)、確認(ascertaining)した事を「判断」「決定」したとみなす事などを含み得る。また、「判断」、「決定」は、受信(receiving)(例えば、情報を受信すること)、送信(transmitting)(例えば、情報を送信すること)、入力(input)、出力(output)、アクセス(accessing)(例えば、メモリ中のデータにアクセスすること)した事を「判断」「決定」したとみなす事などを含み得る。また、「判断」、「決定」は、解決(resolving)、選択(selecting)、選定(choosing)、確立(establishing)、比較(comparing)などした事を「判断」「決定」したとみなす事を含み得る。つまり、「判断」「決定」は、何らかの動作を「判断」「決定」したとみなす事を含み得る。また、「判断(決定)」は、「想定する(assuming)」、「期待する(expecting)」、「みなす(considering)」などで読み替えられてもよい。
【0261】
本開示において、「AとBが異なる」という用語は、「AとBが互いに異なる」ことを意味してもよい。なお、当該用語は、「AとBがそれぞれCと異なる」ことを意味してもよい。
「離れる」、「結合される」などの用語も、「異なる」と同様に解釈されてもよい。
【0262】
以上、本開示について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示が本開示中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本開示は、請求の範囲の記載により定まる本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とするものであり、本開示に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0263】
100 電波伝搬推定装置
102 制御部
102a 設定部
102b 面エッジ識別部
102c 送信点ビュー検索部
102d 受信点ビュー検索部
102e 伝搬計算用情報抽出部
102f 伝搬計算部
106 記憶部
108 出力部
200 電波伝搬推定装置
210 外部入力部
220 記憶部
230 計算部
231 前処理部
232 後処理部
240 出力部
1001 プロセッサ
1002 メモリ
1003 ストレージ
1004 通信装置
1005 入力装置
1006 出力装置
1007 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23A
図23B
図24
図25
図26A
図26B
図27
図28
図29
図30A
図30B
図30C
図31A
図31B
図32