(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】構造体および水素吸蔵構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20241119BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20241119BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241119BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241119BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241119BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20241119BHJP
B22F 1/105 20220101ALI20241119BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B01J20/28 A
C01B3/00 B
C23C14/34 S
B22F3/00 A
B22F1/00 L
B22F1/054
B22F1/105
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2022110582
(22)【出願日】2022-07-08
(62)【分割の表示】P 2019020829の分割
【原出願日】2017-11-06
【審査請求日】2022-07-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 学
(72)【発明者】
【氏名】徳永 博之
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-133229(JP,A)
【文献】特開平05-117844(JP,A)
【文献】特開2009-090378(JP,A)
【文献】特開2006-300560(JP,A)
【文献】特開2004-275951(JP,A)
【文献】特開平01-119501(JP,A)
【文献】実開平02-066640(JP,U)
【文献】特開平08-109402(JP,A)
【文献】特開2004-305848(JP,A)
【文献】特開2000-077064(JP,A)
【文献】特開昭61-270301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00
C01B 3/00
C09K 5/16
C09K 5/18
C22C 1/00
B01J 20/00 - 20/34
B01D 53/14 - 53/18
C23C 14/06
C23C 14/08
F24V 30/00
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法であって、
前記構造体は、
各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置され、
前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、
前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、
前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、
前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、
前記膜は前記複数の粒子の各々の表面の全体と接している、
という構造を有し、
前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる、
ことを特徴とする熱発生方法。
【請求項2】
各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置された構造体であって、
前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、
前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、
前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、
前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、
前記複数の粒子の間の距離が1nm以上かつ10nm以下の範囲であるように前記膜が構成されている、
という構造を有することを特徴とする構造体。
【請求項3】
構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法であって、
前記構造体は、
各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置され、
前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、
前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、
前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、
前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、
前記複数の粒子が、400℃、10時間の熱処理を受けた後においても相互に離隔されている、
という構造を有し、
前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる、
ことを特徴とする熱発生方法。
【請求項4】
各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置された水素吸蔵構造体であって、
前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、
前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、
前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、
前記膜は複数の微結晶を含み、前記複数の粒子の各々は、前記膜の前記複数の微結晶の少なくとも1つに接している、
という構造を有することを特徴とする水素吸蔵構造体。
【請求項5】
請求項2
に記載の構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法であって、
前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させることを特徴とする熱発生方法。
【請求項6】
請求項
4に記載の水素吸蔵構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法であって、
前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させることを特徴とする熱発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体および水素吸蔵構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を貯蔵する手段として水素吸蔵金属または水素吸蔵合金が使用されうる。特許文献1には、水素吸蔵合金の製造方法が記載されている。この製造方法では、減圧した真空容器内にrfアークプラズマを形成し、該プラズマ中でTiおよびCu、または、Ti、CuおよびSiの蒸気を反応させてTi-Cu合金またはTi-Cu-Si合金の微粉末を形成し回収する。特許文献1によれば、該製造方法によって製造される微粉末は、表面積が大きいために、従来の約10~50倍の水素吸蔵量が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素吸蔵金属および水素吸蔵合金のように水素吸蔵金属元素を含む粒子は、水素を吸蔵するときに発熱しうる。特に、単位体積あたりの粒子の表面積を大きくするために該粒子の寸法を小さくしてゆくと、水素の吸蔵効率が向上するとともに、水素を吸蔵するときの発熱量も増加しうる。発熱量が大きくなると、粒子が凝集しうる。あるいは、粒子に対して外部から熱が加えられた場合においても、粒子が凝集しうる。粒子が凝集すると、水素吸蔵能力が低下しうる。
【0005】
本発明は、水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子の凝集を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面は、構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法に係り、前記構造体は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置され、前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、前記膜は前記複数の粒子の各々の表面の全体と接している、という構造を有し、前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる。
本発明の第2の側面は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置された構造体に係り、前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、前記複数の粒子の間の距離が1nm以上かつ10nm以下の範囲であるように前記膜が構成されている。
本発明の第3の側面は、構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法に係り、前記構造体は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置され、前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、前記複数の粒子は、前記下地の前記表面の上に配置され前記下地の前記表面からの距離が互いに異なる2以上の粒子を含み、前記複数の粒子が、400℃、10時間の熱処理を受けた後においても相互に離隔されている、という構造を有し、前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる。
本発明の第4の側面は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子が相互に離隔されるように固定部材の中に配置された水素吸蔵構造体に係り、前記複数の粒子の各々の表面の全体が前記固定部材によって取り囲まれ、前記固定部材が酸化物および窒化物の少なくとも1つを含み、前記固定部材は、下地と、前記下地の表面の上に配置された膜とを含み、前記膜は複数の微結晶を含み、前記複数の粒子の各々は、前記膜の前記複数の微結晶の少なくとも1つに接している。
本発明の第5の側面は、第2の側面に係る構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法に係り、前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる。
本発明の第6の側面は、第4の側面に係る水素吸蔵構造体に水素を吸蔵させ熱を発生させる熱発生方法に係り、前記複数の粒子が相互に離隔されるように前記固定部材の中に配置されていることによって前記複数の粒子の凝集を抑制しながら、前記複数の粒子に水素を吸蔵させることによって前記複数の粒子を発熱させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子の凝集が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態の構造体の模式的な断面図。
【
図2】本発明の第1実施形態の構造体の模式的な断面図。
【
図3A】本発明の第1実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
【
図3B】本発明の第1実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
【
図3C】本発明の第1実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
【
図3D】本発明の第1実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
【
図4B】実施例に係る構造体の断面のTEM画像(
図4Aの拡大図)。
【
図5A】熱処理を行った後の構造体の断面のTEM画像。
【
図5B】熱処理を行った後の構造体の断面のTEM画像(
図5Aの拡大図)。
【
図7】本発明の第2実施形態の構造体の模式的な断面図。
【
図8】本発明の第3実施形態の構造体の模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明をその例示的な実施形態を通して説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1、
図2には、本発明の第1実施形態の構造体1の模式的な断面図が示されている。ここで、
図2は、
図1のA-A’線に沿った断面の一部の拡大図に相当する。構造体1は、複数の粒子3が相互に離隔されるように固定部材10の中に配置された構造を有する。
【0011】
固定部材10は、複数の粒子3を高温環境下においても相互に離隔した状態に保つ機能を果たすものであって、例えば複数の粒子3の位置を固定するように機能する。複数の粒子3の各々は、水素吸蔵金属元素を含む。固定部材10は、例えば、下地2と、下地2の上に配置された膜4とを含みうる。複数の粒子3の各々は、その表面の全体が固定部材10によって取り囲まれている。
【0012】
粒子3は、水素吸蔵金属元素を含む材料で構成された粒子であり、例えば、水素吸蔵金属の粒子および水素吸蔵合金の粒子の少なくとも1つを含みうる。水素吸蔵金属元素は、例えば、Pd、Ni、Cu、Ti、Nb、Zr、Mg、Mn、V、Fe、希土類元素からなるグループから選択される少なくとも1つでありうる。水素吸蔵合金は、例えば、Pd/Ni合金、Pd/Cu合金、Mg/Zn合金、Zr/Ni合金、Zr/Ni/Mn合金、Ti/Fe合金、Ti/Co合金、La/Ni合金、Re/Ni合金、Mm/Ni合金、Ca/Ni合金、Ti/V合金、Ti/Cr合金、Ti/Cr/V合金、Mg/Ni合金、Mg/Cu合金からなるグループから選択される少なくとも1つでありうる。複数の粒子3の各々の寸法は、例えば、2nm以上かつ1000nm以下でありうる。複数の粒子3の総表面積を増加させる観点において、複数の粒子3の各々の寸法は、2nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、2nm以上かつ10nm以下であることが更に好ましい。粒子3は、結晶であることが好ましく、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。
【0013】
膜4は、高融点材料、例えば、融点が1400℃以上の材料で構成されうる。膜4は、複数の微結晶を含みうるが、非晶質であってもよい。膜4は、例えば、酸化物(例えば、MgO、ZrO2、ZrO2・Y2O3、CaO、SiO2およびAl2O3の少なくとも1つ)および窒化物(例えば、Si3N4およびAlNの少なくとも1つ)の少なくとも1つを含みうる。
【0014】
下地2は、例えば、Si基板、または、Si基板の上にSiO2膜が形成された下地でありうるが、他の材料(例えば、金属または絶縁体)で構成されてもよい。下地2は、例えば、1400℃以上の融点を有する材料で構成されることが好ましい。下地2は、膜4と同一の材料で構成された膜等の部材であってもよいし、膜4とは異なる材料で構成された膜等の部材であってもよい。下地2は、自立した部材であってもよいし、他の部材によって支持された部材であってもよい。
【0015】
複数の粒子3を相互に離隔させる高融点材料の膜4が存在しない場合、粒子3が水素を吸蔵して発熱する際に、その熱によって近傍に位置する2以上の粒子3が凝集しうる。これにより個々の粒子の寸法が大きくなり、水素吸蔵能力を低下させうる。複数の粒子3を相互に離隔させる高融点材料の膜4の存在は、粒子3が水素を吸蔵する際に発生する熱によって近傍に位置する2以上の粒子3が凝集することを抑制する。また、高融点材料の膜4の存在は、粒子3が水素を吸蔵する際に発生する熱に起因して粒子3と膜4の構成物質との合金が形成されることも抑制する。膜4に必要とされる耐熱性は、構造体1の発熱時に溶融しない程度の耐熱性である。構造体1の発熱時の温度は、粒子3の材料や粒子3の構造体1における密度、水素同位体ガス圧力等に依存するため、一律に規定することはできない。それゆえ、膜4の材料は、使用環境に応じて適宜選択することが望ましいが、例えば1400℃以上の融点を有する材料である。 固定部材10によって離隔されている複数の粒子3の間の距離は、1nm以上かつ10nm以下が好ましい。離隔されている複数の粒子3の間の距離が増大すると、構造体1における水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の含有率が低下し、好ましくないからである。
【0016】
複数の粒子3は、下地2の表面に接触するように下地2の表面に沿って2次元状に配置された粒子3’を含みうる。粒子3’は、膜4を介して相互に離隔して配置され、かつ、膜4によって覆われている。
【0017】
構造体1の製造方法は、
図3Aに例示されるように、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子3を互いに離隔するように形成し、個々の粒子3を島状に配置する第1工程と、
図3Bに例示されるように、複数の粒子3をそれぞれ覆うように膜4を形成する第2工程とを含みうる。ここで、第1工程および第2工程を含む処理を複数回にわたって実施することによって
図3C、
図3Dに例示されるように積層され、その結果、
図1Aに例示されるように、下地2の表面からの距離が互いに異なる複数の粒子3を有する構造体1を得ることができる。1つの例において、第1工程では、スパッタリング法によって複数の粒子3が形成され、第2工程では、個々の粒子3の表面を直接覆うようにスパッタリング法によって膜4が形成されうる。他の例では、第1工程および第2工程の少なくも一方は、スパッタリング法以外の堆積方法(例えば、CVD法、ALD法、真空蒸着法、プラズマスプレー法)で実施されうる。特に、物理的な堆積法を用いて上記のような水素吸蔵材料を形成すると、水素吸蔵材料を溶液中で合成する場合や、溶融とその後の急速冷却により合成する場合(メルトスピニング法)と比べ、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の粒子の寸法を制御すること、所望の寸法の粒子の含有率を高めること、粒子の結晶性を高めること、隣接する異なる材料への拡散を抑制することなども可能となる。
【0018】
一例において、スパッタリング法によって複数の粒子3を形成する第1工程と、スパッタリング法によって膜4を形成する第2工程と、を含む処理が複数回にわたって繰り返されうる。また、下地2をスパッタリング装置に搬入した後、下地2をスパッタリング装置から搬出することなく、該スパッタリング装置において、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。例えば、下地2がスパッタリング装置の1つの処理チャンバーの中に配置された後、下地2が該処理チャンバーから取り出されることなく、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。あるいは、スパッタリング装置が複数の処理チャンバーを含む真空系を有する場合、下地2がスパッタリング装置の該真空系に搬入された後、下地2が該真空系から取り出されることなく、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。
【0019】
上記の例において、第1工程は、チャンバー内の圧力が0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持され、水素吸蔵金属元素を含む粒子3の構成材料からなるターゲットに0.05kW~5kWの範囲内の直流電力が印加され、チャンバーにはスパッタリングガスとして不活性ガスが供給されうる。ターゲットは、水素吸蔵金属および水素吸蔵合金の少なくとも1つを含む。ターゲットは、純金属であっても、合金であってもよい。ターゲットは、例えば第1実施形態の冒頭において粒子3を構成する材料として列挙した水素吸蔵金属および水素吸蔵合金の少なくとも1つを含む。これにより相互に離隔して位置する複数の粒子3が形成されうる。また、第2工程では、チャンバー内の圧力が0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持され、膜4の構成材料からなるターゲットに0.1kW~2kWの範囲内の電力が印加され、チャンバーには不活性ガスが供給されうる。
【0020】
[実施例]
粒子3としてCu粒子を形成し、膜4としてMgO膜を形成する実施例を説明する。本実施例では、凝集抑制効果を検証するにあたり、比較的凝集しやすい金属であり、かつ水素吸蔵合金の構成要素となりうるCuを粒子3の構成元素として選択した。
【0021】
熱酸化によってSiO2膜が表面上に形成されたSi基板(下地)を準備し、以下の第1工程および第2工程を交互にそれぞれ10回にわたって繰り返し、その後に以下の第3工程においてCu膜を形成することによって構造体1を完成させた。スパッタリング装置には、CuターゲットおよびMgOターゲットを装着し、下地をチャンバーから取り出すことなく、下地に対して、10回にわたって、第1工程および第2工程を含む処理を繰り返した。
(第1工程)
第1工程では、チャンバー内の圧力を0.02Paに維持し、Cuターゲットに0.1kWの直流電力を供給し、スパッタガスとしてアルゴンガスを使用した。
(第2工程)
第2工程では、チャンバー内の圧力を0.05Paに維持し、MgOターゲットに1.1kWの高周波電力を供給し、スパッタガスとしてアルゴンガスを使用した。
(第3工程)
第3工程では、チャンバー内の圧力を0.02Paに維持し、Cuターゲットに0.1kWの直流電力を供給し、スパッタガスとしてアルゴンガスを使用した。
【0022】
図4Aは、上記の実施例によって形成された構造体1の断面のTEM画像であり、
図4Bは、
図4Aの一部の拡大図である。
図5Aは、上記の実施例によって形成された構造体1に対して400℃、10時間の熱処理を行った後の構造体1’の断面のTEM画像であり、
図5Bは、
図5Aの一部の拡大図である。
図6Aは、
図4Aの構造体1のEDX分析の結果であり、
図6Bは、
図5Aの構造体1’のEDX分析の結果である。
図6A、6Bにおいて、横軸は、構造体1、1’の表面からの距離を示し、縦軸は、X線の検出強度を示している。なお、構造体1’は、水素を吸蔵して発熱した後の構造体1の状態を推定するためのサンプルである。
【0023】
構造体1に関する
図6Aにおいて、Cu元素を示すピークとピークとの間に、Mg元素およびO元素を示すピークがあり、Mg元素を示すピークの位置とO元素を示すピークの位置とが一致している。このことから、Cu粒子とMgO膜とが交互に存在していることが分かる。また、構造体1に関する
図4Bから、寸法が約5nmに制御されたCu粒子がMgO膜によって取り囲まれていることが分かる。
【0024】
構造体1を加熱した後の構造体1’に関する
図6Bにおいて、
図6Aと同様に、Cu元素を示すピークとピークとの間に、Mg元素およびO元素を示すピークがあり、Mg元素を示すピークの位置とO元素を示すピークの位置とが一致している。このことから、加熱後においても、Cu粒子とMgO膜とが交互に存在し、Cu粒子が元の配置を維持していることが分かる。また、構造体1’に関する
図5Bから、加熱後においても、Cu粒子がMgO膜によって取り囲まれており、Cu粒子の寸法は約5nmで、加熱前の寸法を維持していることが分かる。また
図5Aおよび
図5Bから、MgOによって取り囲まれていない最表面のCuは、加熱によって凝集したことが読み取れる。
【0025】
[第2実施形態]
以下、
図7を参照しながら本発明の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態として言及しない事項は、第1実施形態に従いうる。第2実施形態の構造体1において、不活性ガス7は、膜4(固定部材10)に存在している。例えば、膜4における不活性ガス7の含有率は、例えば0.5原子%以上である。膜4は、複数の微結晶を含みうる。不活性ガス7は、例えば、該複数の微結晶の粒界に存在する。膜4の粒界に不活性ガスを積極的に取り込むことによって、粒界を通じて空気中の水分が構造体1の内部に侵入し、粒子3を酸化して、水素吸蔵能力を低下させることを抑制することができる。
【0026】
また、粒界に取り込んだ不活性ガス7を除去すると、通路(空間)を発生させることができる。この通路は、構造体1に水素を吸蔵させる際、水素の通り道として機能しうる。そこで、膜4に不活性ガス7を積極的に取り込ませ、膜4における粒界の数を増加させるほど、水素は構造体1の内部にまで到達しやすくなり、水素吸蔵能力を向上させることができる。
【0027】
これらの理由から、構造体1に取り込まれた不活性ガス7は、構造体1(粒子3)に水素を吸蔵させる直前に除去されることが好ましい。不活性ガス7の除去は、例えば、構造体1を加熱することによってなされうる。
【0028】
第2実施形態の構造体1の製造方法は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子3を互いに離隔するように形成する第1工程と、複数の粒子3を覆うように膜4を形成する第2工程とを含みうる。特に、第2の工程における圧力、放電電圧などの成膜条件を調節することによって、膜4の粒界に不活性ガス原子を積極的に取り込むことが可能となる。ここで、第1工程および第2工程を含む処理を複数回にわたって実施することによって、
図7に例示されるように、下地2の表面からの距離が互いに異なる複数の粒子3を有する構造体1を得ることができる。1つの例において、第1工程では、スパッタリング法によって複数の粒子3が形成され、第2工程では、スパッタリング法によって膜4が形成されうる。他の例では、第1工程および第2工程の少なくも一方は、スパッタリング法以外の堆積方法(例えば、CVD法、ALD法、真空蒸着法、プラズマスプレー法)で実施されうる。
【0029】
一例において、スパッタリング法によって複数の粒子3を形成する第1工程と、スパッタリング法によって膜4を形成する第2工程と、を含む処理が複数回にわたって繰り返されうる。また、下地2をスパッタリング装置に搬入した後、下地2をスパッタリング装置から搬出することなく、該スパッタリング装置において、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。例えば、下地2がスパッタリング装置の1つの処理チャンバーの中に配置された後、下地2が該処理チャンバーから取り出されることなく、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。あるいは、スパッタリング装置が複数の処理チャンバーを含む真空系を有する場合、下地2がスパッタリング装置の該真空系に搬入された後、下地2が該真空系から取り出されることなく、第1工程および第2工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。
【0030】
上記の例において、第1工程は、チャンバー内の圧力が0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持され、水素吸蔵金属元素を含む粒子3の構成材料からなるターゲットに0.05kW~5kWの範囲内の直流電力が印加され、チャンバーにはスパッタリングガスとして不活性ガスが供給されうる。これにより相互に離隔した複数の粒子3が形成されうる。また、第2工程では、チャンバー内の圧力は、膜4の材料などによって異なるため一律に規定することはできないが、プラズマが発生する圧力範囲内で低いほうが望ましく、例えば0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持される。これは、ターゲットに衝突して反射したスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)が、膜形成対象(下地2)に到達する前に原子やイオンに衝突することなく、即ち、保有しているエネルギーをなるべく失わずに、膜形成対象に到達したほうが、膜4(固定部材10)の表面から内部に打ち込まれやすくなり、膜4(固定部材10)におけるスパッタリングガス(不活性ガス7)の含有量を高めることができるためである。
【0031】
また、膜4の構成材料からなるターゲットに発生させる電圧(例えば高周波放電の場合にはセルフバイアス電圧)は、スパッタリング条件とスパッタリング空間構造が同一の場合には使用するターゲット材料に固有の電圧であり、スパッタに必要なエネルギー以上のエネルギーに相当する電圧でありうる。スパッタに必要なエネルギーに対して余剰となるエネルギーが大きいほど、ターゲットにて反射したスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)の膜形成対象への入射エネルギーが大きくなり、膜4にスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)が打ち込まれやすくなる。例えば、-100V~-500Vの範囲内のセルフバイアス電圧が膜4の構成材料からなるターゲットに発生するように供給電力が調整されうる。
【0032】
[第3実施形態]
以下、
図8を参照しながら本発明の第3実施形態を説明する。なお、第3実施形態として言及しない事項は、第1又は第2実施形態に従いうる。第3実施形態の構造体1は、膜4(固定部材10)を覆うように被覆膜8を有し、被覆膜8が不活性ガス7を含有する。被覆膜8における不活性ガス7の含有率は、例えば、0.5原子%以上である。この例では、被覆膜8における不活性ガス7の含有率は、膜4(固定部材10)における不活性ガス7の含有率よりも大きい。
【0033】
被覆膜8は、不活性ガス7を積極的に取り込むことを目的として設けられた膜である。そのため、被覆膜8を構成する元素および被覆膜8の成膜条件は、膜中に不活性ガス7を取り込むことを最優先に考えて設定することができる。被覆膜8の粒界に不活性ガスを積極的に取り込むことによって、粒界を通じて空気中の水分が構造体1の内部に侵入し、粒子3を酸化して、水素吸蔵能力を低下させることを抑制することができる。
【0034】
また、粒界に取り込んだ不活性ガス7を除去すると、通路(空間)を発生させることができる。この通路は、構造体1に水素を吸蔵させる際、水素の通り道として機能しうる。そこで、被覆膜8に不活性ガス7を積極的に取り込ませ、被覆膜8における粒界の数を増加させるほど、水素は構造体1の内部にまで到達しやすくなり、水素吸蔵能力を向上させることができる。 これらの理由から、第2実施形態と同様に、不活性ガス7は、構造体1(粒子3)に水素を吸蔵させる直前に除去されることが好ましい。不活性ガス7の除去は、例えば、構造体1を加熱することによってなされうる。
【0035】
被覆膜8は、原子量の大きな元素を含む材料であることが好ましい。言い換えると、被覆膜8を成膜するためのターゲットは、原子量の大きな元素を含む材料であることが好ましい。これは、以下の理由からである。一般的に、スパッタリングガス(即ち、不活性ガス7)のイオンはターゲット表面で加速され、ターゲットに衝突してターゲットを構成する原子をはじき出すと共に、一部のイオンは原子となり、まだある程度のエネルギーを保持したまま反射する。そこで、原子量の大きい元素を含有するターゲットを用いることによって、反射したスパッタリングガス原子が保有するエネルギーを大きくし、被覆膜8に打ち込まれやすくすることができる。言い換えると、膜4(固定部材10)の原子量または分子量よりも大きな原子量または分子量を有する被覆膜8を構造体1に設けることによって、構造体1に取り込まれるスパッタリングガス(不活性ガス)の量をより多くすることができる。構造体1における不活性ガスの含有率の増加は、先に記載したように、粒子3の酸化抑制および水素を通過させるための空間の増加を可能にし、その結果、水素吸蔵能力の向上をもたらす。
【0036】
尚、膜4(固定部材10)と同様の理由から、被覆膜8は、高融点材料で構成される。被覆膜8が溶融して粒子3や膜4と合金を形成すると、粒子3の水素吸蔵能力が低下してしまうため、被覆膜8には粒子3が水素を吸蔵して発生した熱によって溶融しない程度の耐熱性が必要とされる。この耐熱性は、粒子3の材料や粒子3の構造体1における密度、水素同位体ガス圧力等に依存するため、被覆膜8の材料は、使用環境に応じて適宜選択することが望ましい。被覆膜8は、例えば、融点が1400℃以上の材料で構成されうる。被覆膜8は、膜4を構成する材料と同じ材料で構成されてもよいし、他の材料で構成されてもよい。被覆膜8は、複数の微結晶を含みうるが、非晶質であってもよい。被覆膜8は、例えば、酸化物(例えば、MgO、ZrO2、ZrO2・Y2O3、CaO、SiO2およびAl2O3の少なくとも1つ)および窒化物(例えば、Si3N4およびAlNの少なくとも1つ)の少なくとも1つを含みうる。
【0037】
第3実施形態の構造体1の製造方法は、各々が水素吸蔵金属元素を含む複数の粒子3を互いに離隔するように形成する第1工程と、複数の粒子3を覆うように膜4を形成する第2工程とを含みうる。ここで、第1工程および第2工程を含む処理を複数回にわたって実施し、その後に第3工程を実施することによって、
図8に例示されるように、下地2の表面からの距離が互いに異なる複数の粒子3を有する構造体1を得ることができる。1つの例において、第1工程では、スパッタリング法によって複数の粒子3が形成され、第2工程では、スパッタリング法によって膜4が形成され、第3工程では、スパッタリング法によって被覆膜8が形成されうる。他の例では、第1工程、第2工程および第3工程の少なくも1つは、スパッタリング法以外の堆積方法(例えば、CVD法、ALD法、真空蒸着法、プラズマスプレー法)で実施されうる。
【0038】
一例において、第1工程、その後の第2工程、その後の第3工程を1つのサイクルとして、このサイクルが複数回にわたって繰り返されうる。別の例においては、第1工程、その後の第2工程、その後の第3工程、その後の第2工程を1つのサイクルとして、このサイクルが複数回にわたって繰り返えされうる。また、下地2をスパッタリング装置に搬入した後、下地2をスパッタリング装置から搬出することなく、該スパッタリング装置において、第1工程、第2工程および第3工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。あるいは、スパッタリング装置が複数の処理チャンバーを含む真空系を有する場合、下地2がスパッタリング装置の該真空系に搬入された後、下地2が該真空系から取り出されることなく、第1工程、第2工程および第3工程を含む処理の繰り返しが実行されうる。
【0039】
上記の例において、第1工程は、チャンバー内の圧力が0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持され、水素吸蔵金属元素を含む粒子3の構成材料からなるターゲットに0.05kW~5kWの範囲内の直流電力が印加され、チャンバーにはスパッタリングガスとして不活性ガスが供給されうる。これにより相互に離隔した複数の粒子3が形成されうる。また、第2工程では、チャンバー内の圧力が0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持され、膜4の構成材料からなるターゲットに0.1kW~2kWの範囲内の電力が印加され、チャンバーには不活性ガスが供給されうる。また、第3工程におけるチャンバー内の圧力はプラズマが発生する圧力範囲内で低いほうが望ましい。これは、ターゲットに衝突して反射したスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)が、膜形成対象に到達する前に他の原子やイオンに衝突することなく、即ち、保有しているエネルギーをなるべく失わずに、膜形成対象に到達したほうが、被覆膜8の表面から内部に打ち込まれやすくなり、被覆膜8中のスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)の濃度を高めることができるためである。第3工程におけるチャンバー内の圧力は、例えば、0.02Pa~5Paの範囲内の圧力に維持されるように不活性ガスが供給される。
【0040】
また、被覆膜8の構成材料からなるターゲットに発生させる電圧は、使用するターケット材料に固有の電圧であり、スパッタに必要なエネルギー以上のエネルギーに相当する電圧でありうる。これは、スパッタに必要なエネルギーに対して余剰となるエネルギーが大きいほど、ターゲットにて反射したスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)の膜形成対象への入射エネルギーが大きくなり、被覆膜8にスパッタリングガス原子(不活性ガス原子)が取り込まれやすくなるためである。例えば、-100V~-500Vの範囲内のセルフバイアス電圧が被覆膜8の構成材料からなるターゲットに発生するように供給電力が調整されうる。