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特許7590415パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法
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  • 特許-パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法 図1
  • 特許-パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20241119BHJP
   G01R 31/3842 20190101ALI20241119BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/3842
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022513251
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2020074019
(87)【国際公開番号】W WO2021038007
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】201910806648.0
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】チン,ユディ
(72)【発明者】
【氏名】ル,ラングアン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,シュエビン
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン,ミンガオ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジアンチウ
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-298786(JP,A)
【文献】特開2018-147680(JP,A)
【文献】特開2003-157912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0292465(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0124052(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108062086(CN,A)
【文献】GEIFES, Florian et al,Determination of the entropic heat coefficient in a simple electro-thermal lithium-ion cell model with pulse relaxation measurements and least squares algorithm,Journal of Power Sources,vol. 419,2019年03月01日,p.148-154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 31/00
G01N 25/18
H01M 10/60
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法であって、
記電池の等価回路モデルを確立するサブステップ、ならびに電池参照データを提供するサブステップを含み、前記電池の等価回路モデルのパラメータを識別して、実効エントロピー電位および開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係を決定するステップ(S10)と、
記実効エントロピー電位および前記開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係に従って、前記電池の発熱モデルを確立するステップ(S20)と、
記電池の熱伝達力モデルを提供すること、ならびに前記電池の発熱モデルおよび前記電池の熱伝達力モデルから前記電池のエネルギー定式化を取得するステップ(S30)と、
記電池のエネルギー定式化に従って、パルス加熱の下での前記電池の前記温度上昇率を取得するステップ(S40)と、
を含む、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項2】
前記電池の等価回路モデルのパラメータが、開回路電圧Uocv、オーム内部抵抗Rohm、第1の分極内部抵抗R、第2の分極内部抵抗R、第1の静電容量C、および第2の静電容量Cを含み、
前記電池の等価回路モデルを確立するサブステップが、
前記第1の分極内部抵抗Rおよび前記第1の静電容量Cを並列に接続して、第1の回路を形成することと、
前記第2の分極内部抵抗Rおよび前記第2の静電容量Cを並列に接続して、第2の回路を形成することと、
前記第1の回路、前記第2の回路、および前記オーム内部抵抗Rohmを直列に接続すること、ならびに次に、直列に一方の端を前記電池の開回路電圧Uocvに、直列に他方の端を端子電圧Uに接続して、前記電池の等価回路モデルを形成することと、
を含み、
前記開回路電圧と前記パルス加熱電流との間の関係が、
=Uocv-U-U-IRohmであり、
が、前記第1の分極内部抵抗 の両端での電圧であり、Uが、前記第2の分極内部抵抗 の両端での電圧であり、Iが、パルス加熱電流である、
請求項1に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項3】
前記電池の発熱モデルが、
【数1】
であり、
【数2】
が、前記実効エントロピー電位である、
請求項2に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項4】
前記電池のエネルギー定式化が、
【数3】
であり、mが、前記電池の重量であり、cが、前記電池の比熱容量であり、
【数4】
が、熱伝達力である、
請求項3に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項5】
熱伝導および熱放射が無視される場合に、前記電池の熱伝達力モデルが、
【数5】
であり、hが、対流熱伝達係数であり、Sが、前記電池の表面積であり、Tbatが、電池温度であり、Tambが、環境温度である、
請求項4に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項6】
パルス加熱の下での前記電池の前記温度上昇率の関係が、
【数6】
である、
請求項5に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項7】
前記電池の等価回路モデルのパラメータが、最小二乗アルゴリズム、遺伝的アルゴリズム、およびニューラルネットワークアルゴリズムのうちの1つを使用して識別される、請求項1に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項8】
前記電池参照データを提供するサブステップが、
験される電池を提供すること、カットオフ電圧まで前記電池を放電すること、前記電池を温度チャンバに入れること、および前記温度チャンバの温度を第1の温度値に調整するステップ(S110)と、
前設定された充電容量が達成されるまで、定電流モードで第1の振幅値で前記試験される電池を充電するステップ(S120)と、
記温度チャンバの温度を第2の温度値に調整するステップ(S130)と、
1の時間値の間、定電流モードで第2の振幅値で前記試験される電池を放電すること、および次に、第2の時間値の間、一時停止するステップ(S140)と、
記第2の時間値の間、定電流モードで第3の振幅値で前記試験される電池を充電すること、および前記温度チャンバの温度を前記第1の温度値に調整するステップ(S150)と、
テップ(S120)からステップ(S150)を事前設定された時間繰り返すことと、
を含む、請求項1に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【請求項9】
メモリと、プロセッサと、前記メモリに記憶され、前記プロセッサ上で実行することができるコンピュータプログラムと、を含む、コンピュータ装置であって、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行するときに、請求項1~8のいずれか一項に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法が達成される、コンピュータ装置。
【請求項10】
コンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、請求項1~8のいずれか一項に記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法が達成される、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電池管理の技術分野、特に、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池自動車、特に、電池式電気自動車の幅広い用途により、車両の性能は、リチウムイオン電池の性能に密接に依存する。低温での充電シーンが、より増えている。低温環境でリチウムイオン電池が直面する問題は、実際のアプリケーションに大きな影響を与えている。低温環境では、電池の利用可能なエネルギーが減少し、放電中にエネルギー損失が発生、また、ライフサイクル全体で電池の寿命が短くなるであろう。同時に、低温環境はまた、電池のインピーダンスを増加させ、それによって、電池の寿命および安全性に影響を与えるであろう。これらの問題は、低温環境での電池の使用に大きな困難をもたらした。
【0003】
上記の問題を解決するために、電池は、電池の動作サイクルの前に、パルス加熱法によって効果的に加熱され得る。しかしながら、パルス加熱電流による電池の内部加熱の過程では、パルス加熱の下でのパルス加熱パラメータが電池の温度上昇率に与える影響を推定するために、パルス加熱の下での電池の温度上昇率の変化を理解する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
パルス加熱電流による電池の内部加熱の過程において、パルス加熱の下でのパルス加熱パラメータが電池の温度上昇率に与える影響を推定するために、パルス加熱の下での電池の温度上昇率の変化を理解する必要があるという問題に対処するために、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法が提供される。
【0005】
パルス加熱の下で電池の温度上昇率を推定するための方法であって、
S10、電池の等価回路モデルを確立すること、ならびに電池参照データを提供し、電池の等価回路モデルのパラメータを識別して、実効エントロピー電位および開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係を決定することと、
S20、実効エントロピー電位および開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係に従って、電池の発熱モデルを確立することと、
S30、電池の熱伝達力モデルを提供すること、ならびに電池の発熱モデルおよび電池の熱伝達力モデルから電池のエネルギー定式化を取得することと、
S40、電池のエネルギー定式化に従って、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を取得することと、を含む、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法。
【0006】
実施形態の1つでは、電池の等価回路モデルのパラメータは、開回路電圧Uocv、オーム内部抵抗Rohm、第1の分極内部抵抗R、第2の分極内部抵抗R、第1の静電容量C、および第2の静電容量Cを含み、
電池の等価回路モデルを確立するステップは、
第1の分極内部抵抗Rおよび第1の静電容量Cを並列に接続して、第1の回路を形成することと、
第2の分極内部抵抗Rおよび第2の静電容量Cを並列に接続して、第2の回路を形成することと、
第1の回路、第2の回路、およびオーム内部抵抗Rohmを直列に接続すること、ならびに次に、直列に一方の端を電池の開回路電圧Uocvに、直列に他方の端を端子電圧Uに接続して、電池の等価回路モデルを形成することと、を含み、
開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係は、
=Uocv-U-U-IRohmであり、
は、第1の分極内部抵抗の両端での電圧であり、Uは、第2の分極内部抵抗の両端での電圧であり、Iは、パルス加熱電流である。
【0007】
実施形態の1つでは、電池の発熱モデルは、次のとおりである。
【数1】
であり、
【数2】
が、実効エントロピー電位である。
【0008】
実施形態の1つでは、電池のエネルギー定式化は、次のとおりである。
【数3】
【0009】
ここで、mは、電池の重量であり、cは、電池の比熱容量であり、
【数4】
は、熱伝達力である。
【0010】
実施形態の1つでは、熱伝導および熱放射が無視される場合、電池の熱伝達力モデルは、次のとおりである。
【数5】
【0011】
ここで、hは、対流熱伝達係数であり、Sは、電池の表面積であり、Tbatは、電池温度であり、Tambは、環境温度である。
【0012】
実施形態の1つでは、パルス加熱の下での電池の温度上昇率の関係は、次のとおりである。
【数6】
【0013】
実施形態の1つでは、電池の等価回路モデルのパラメータは、最小二乗アルゴリズム、遺伝的アルゴリズム、およびニューラルネットワークアルゴリズムのうちの1つを使用して識別される。
【0014】
実施形態の1つでは、電池参照データを提供するステップは、以下を含む。
【0015】
S110、試験される電池を提供すること、カットオフ電圧まで電池を放電すること、電池を温度チャンバに入れること、および温度チャンバの温度を第1の温度値に調整することと、
S120、事前設定された充電容量が達成されるまで、定電流モードで第1の振幅値で試験される電池を充電することと、
S130、温度チャンバの温度を第2の温度値に調整することと、
S140、第1の時間値の間、定電流モードで第2の振幅値で試験される電池を放電すること、および次に、第2の時間値の間、一時停止することと、
S150、第2の時間値の間、定電流モードで第3の振幅値で試験される電池を充電すること、および温度チャンバの温度を第1の温度値に調整することと、
S160、ステップS120からS150を事前設定された時間繰り返すこと。
【0016】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサ上で実行することができるコンピュータプログラムと、を含む、コンピュータ装置であって、プロセッサがコンピュータプログラムを実行するときに、前述の実施形態のいずれかに記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法のステップが達成される、コンピュータ装置。
【0017】
コンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読記憶媒体であって、コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、前述の実施形態のいずれかに記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法のステップが達成される、コンピュータ可読記憶媒体。
【0018】
パルス加熱の下での電池の電池の温度上昇率を推定するための前述の方法は、電池の等価回路モデルを確立することによって電池の等価回路モデルのパラメータを識別して、電池の実効エントロピー電位、および電池の開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係を取得する。パルス加熱電流の振幅および周期は、パルスパラメータである。次に、実効エントロピー電位、および開回路電圧と電池のパルス加熱電流との間の関係に従って、発熱モデルが確立される。電池の発熱モデルおよび熱伝達力を使用することによって、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を取得するために、パルス加熱の過程での電池のエネルギー定式化が取得される。電池の等価回路モデルを確立すること、ならびに電池の発熱モデルおよび電池の熱伝達力モデルを使用することにより、前述の方法は、パルス加熱の下での電池の温度上昇率とパルス加熱電流との間の関係を得ることができ、実際の用途におけるパルス加熱の加熱効果を決定するための便利で包括的な推定方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本出願の実施形態によって提供されるパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法の流れ図である。
図2】本出願の実施形態によって提供される二次RCモデルの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願の前述の目的、特徴および利点をより明白かつ容易に理解するために、本出願の特定の実装方法を、以下の添付の図面を参照することによって詳細に説明する。以下の説明では、本出願を完全に理解するために多くの詳細が提供される。しかしながら、本出願は、この説明とは異なる多くの方法で実装され得、当業者は、本出願の精神から逸脱することなく同様の修正を行うことができるので、本出願は、以下に開示される特定の実装に限定されない。
【0021】
ある要素が別の要素「上に配置されている」と言われる場合、その要素は、別の要素上に直接的に存在してもよく、または中間の要素が存在してもよいことに留意すべきである。要素が別の要素に「接続されている」と見なされる場合、その要素は、別の要素に直接的に接続されていてもよく、または同時に中間の要素が存在してもよい。
【0022】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本出願が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書における本出願の詳述で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを意図しており、本出願を限定することを意図していない。本明細書で使用される「および/または」という用語は、1つ以上の関連する列挙されたアイテムのうちのいずれか、およびそれらのすべての組み合わせを含む。
【0023】
図1を参照されたい。本出願は、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法を提供する。この方法は、以下を含む。
【0024】
S10、電池の等価回路モデルを確立すること、ならびに電池参照データを提供し、電池の等価回路モデルのパラメータを識別して、実効エントロピー電位および開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係を決定すること。電池の等価回路モデルを通じて、パルス電流の作用下での電池の電圧応答を分析して、パルス過程をシミュレートする際のモデルの精度を推定する。オプションの実施形態では、電池の等価回路モデルのパラメータは、最小二乗アルゴリズム、遺伝的アルゴリズム、およびニューラルネットワークアルゴリズムのうちの1つを使用して識別される。実効エントロピー電位は、充電および放電中の電池の反作用熱の量を決定し、電池の発熱に影響を与える重要な要因である。
【0025】
S20、実効エントロピー電位および開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係に従って、電池の発熱モデルを確立すること。電池の発熱は、主に2つの部分で構成され、1つは、電池のジュール熱であり、もう1つは、電池の反応熱である。また、電池内部の物質の濃度差による混合過程での発熱や、各種副反応による副反応熱がまた存在する。一般に、混合熱および副反応熱の値は小さく、無視することができる。実効エントロピー電位が電池の反作用熱を決定し、開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係が電池のジュール熱を決定する。したがって、実効エントロピー電位、および開回路電圧と電池のパルス加熱電流との間の関係に従って、電池の発熱モデルを確立することができる。電池の発熱モデルは、ベルナルディ発熱モデルにすることができる。
【0026】
S30、電池の熱伝達力モデルを提供すること、ならびに電池の発熱モデルおよび電池の熱伝達力モデルから電池のエネルギー定式化を取得すること。電池の熱伝達には、主に3つの方法、すなわち、熱伝導、熱放射、および対流熱伝達が含まれる。熱伝導は、主に電池の内側から電池の外側への熱伝達の過程で発生する。熱放射とは、電池の表面から外界への電磁波の形でのエネルギー伝達の過程を指す。対流熱伝達は、主に電池と空気との間の熱伝達の過程で発生する。
【0027】
S40、電池のエネルギー定式化に従って、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を取得すること。パルス加熱の下での電池の温度上昇率は、電池のエネルギー定式化、および電池の質量と電池の比熱容量との間の商から解くことができる。
【0028】
この実施形態では、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための前述の方法は、電池の等価回路モデルを確立することによって電池の等価回路モデルのパラメータを識別して、電池の実効エントロピー電位、および電池の開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係を取得する。パルス加熱電流の振幅および周期は、パルスパラメータである。次に、実効エントロピー電位、および開回路電圧と電池のパルス加熱電流との間の関係に従って、発熱モデルが確立される。電池の発熱モデルおよび熱伝達力を使用することによって、パルス加熱の下での電池の温度上昇率を取得するために、パルス加熱の過程での電池のエネルギー定式化が取得される。電池の等価回路モデルを確立すること、ならびに電池の発熱モデルおよび電池の熱伝達力モデルを使用することにより、前述の方法は、パルス加熱の下での電池の温度上昇率とパルス加熱電流との間の関係を得ることができ、実際の用途におけるパルス加熱の加熱効果を決定するための便利で包括的な推定方法を提供する。
【0029】
図2を参照されたい。実施形態の1つでは、電池の等価回路モデルのパラメータは、開回路電圧Uocv、オーム内部抵抗Rohm、第1の分極内部抵抗R、第2の分極内部抵抗R、第1の静電容量C、および第2の静電容量Cを含む。電池の等価回路モデルを確立するステップは、第1の分極内部抵抗Rおよび第1の静電容量Cを並列に接続して、第1の回路を形成すること、第2の分極内部抵抗Rおよび第2の静電容量Cを並列に接続して、第2の回路を形成すること、ならびに第1の回路、第2の回路、およびオーム内部抵抗Rohmを直列に接続すること、ならびに次に、直列に一方の端を電池の開回路電圧Uocvに、直列に他方の端を端子電圧Uに接続して、電池の等価回路モデルを形成することであることができる。開回路電圧とパルス加熱電流との間の関係は、
=Uocv-U-U-IRohm 式(1)であり
は、第1の分極内部抵抗の両端での電圧であり、Uは、第2の分極内部抵抗の両端での電圧であり、Iは、パルス加熱電流である。
【0030】
電池の等価回路モデルにおける前述の6つのタイプのパラメータ(開回路電圧Uocv、オーム内部抵抗Rohm、第1の分極内部抵抗R、第2の分極内部抵抗R、第1の静電容量C、および第2の静電容量C)は、パルス電流の作用下で電池の電圧応答を共同で決定する。パラメータ識別方法には、最小二乗アルゴリズムに基づく識別、および遺伝的アルゴリズムに基づく識別が含まれる。パラメータ識別中に、電池参照データを提供する必要がある。
【0031】
オプションの実施形態では、電池参照データを提供するステップは、以下を含む。
【0032】
S110、試験される電池を提供すること、カットオフ電圧まで電池を放電すること、電池を温度チャンバに入れること、および温度チャンバの温度を第1の温度値に調整すること。
【0033】
S120、事前設定された充電容量が達成されるまで、定電流モードで第1の振幅値で試験される電池を充電すること。
【0034】
S130、温度チャンバの温度を第2の温度値に調整すること。
【0035】
S140、第1の時間値の間、定電流モードで第2の振幅値で試験される電池を放電すること、および次に、第2の時間値の間、一時停止すること。
【0036】
S150、第2の時間値の間、定電流モードで第3の振幅値で試験される電池を充電すること、および温度チャンバの温度を第1の温度値に調整すること。
【0037】
S160、ステップS120からS150を事前設定された時間繰り返すこと。
【0038】
具体的には、-20℃~25℃の混合試験データを取得するために、次の動作を実施することができる。カットオフ電圧まで試験される電池を放電し、電池を温度チャンバに入れ、温度を25℃に調整し、それを十分に放置すること、電池を1/3定電流モードで充電して、10%のSOC充電容量を達成し、それを十分に放置すること、温度を-20℃に調整し、それを十分に放置すること、低温で混合パルス実験を行うことと:30秒間0.2Cで放電し、30秒間一時停止し、30秒間0.2Cで充電すること、温度を25℃に調整し、それを十分に放置すること、常温で混合パルス実験を行うことと:30秒間1.5℃で放電し、30秒間一時停止し、30秒間1.5℃で充電すること。混合試験データから、電池の内部抵抗、温度による電池の開回路電圧の変化、および実効エントロピー電位を取得することができ、パラメータ識別過程のデータサポートを提供する。
【0039】
オプションの実施形態では、パラメータは、オーム内部抵抗、分極内部抵抗、および静電容量の識別過程が分離されている、遺伝的アルゴリズムによって識別され得る。オーム内部抵抗は、パルス電流の排出および作用の前後の極端な過程から識別される。遺伝的アルゴリズムは、第1の個体をランダムに生成し、制約および適応度関数を介して個体をスクリーニングし、特定の突然変異確率を選択し、世代から世代へと進化する。ここで、母集団のサイズは各世代の個体数を決定し、個体数が多いほど、より良い個体を生み出す可能性が高くなるであろう。遺伝的世代の数が多いほど、世代から世代へと優秀な個体をスクリーニングする可能性が高くなるであろう。オプションの実施形態では、母集団のサイズを200に設定し、世代数を1000に設定し、許容誤差を10~12に設定することができる。電池の等価回路モデルは、二次RCモデルであり、分極抵抗の両端の過渡電圧は、次のとおりである。
【数7】
【数8】
【0040】
ここで、Δtは、シミュレーションのステップサイズであり、τおよびτは、以下の時定数であり、
τc=Rτd=R 式(4)
次に、電池の端子電圧は次のように表すことができる。
testimated(t+Δt)=Uocv(t+Δt)+U(t+Δt)+U(t+Δt)+RohmI(t+Δt) 式(5)
【0041】
前述の関係から、二次Rモデルに基づいて推定電圧Utestimatedを取得するために、実験的に測定された電流データI(t)に基づいて前述の電圧値を計算することができる。遺伝的アルゴリズムの適応度関数は、推定電圧と実際に測定された電圧の時間領域での差の二乗平均平方根値であり、その理論式は、次のとおりである。
【数9】
【0042】
ここで、Tは、合計時間、Utexperimentは、実験電圧である。識別過程では、推定電圧は、計算入力として特定のサンプリング間隔で実験的に測定された電流データを使用するため、計算過程は、シミュレーションステップサイズに基づく前述の離散反復過程である。したがって、遺伝的アルゴリズムの適応度関数によって最終的に選択される二乗平均平方根値の式は、次のとおりである。
【数10】
パラメータ識別は、対応する回路モデルパラメータを得るために、前述の基準で実施される。
【0043】
実施形態の1つでは、電池の発熱モデルは、次のとおりである。
【数11】
【0044】
ここで、
【数12】
は、実効エントロピー電位であり、Iは、パルス加熱電流であり、放電中は正、充電中は負であり、式の右側の第1の項は、反応熱であり、これは、電池の実効エントロピー電位によって決定され、電気化学的可逆熱であり、式の右側の第2の項は、オーム内部抵抗によって生成される熱および分極内部抵抗によって生成される熱を含む、電池の総内部抵抗によって引き起こされるジュール熱である。
【0045】
一実施形態では、電池のエネルギー定式化は、次のとおりである。
【数13】
【0046】
ここで、mは、電池の重量であり、cは、電池の比熱容量であり、
【数14】
は、熱伝達力である。電池の熱伝達には、主に3つの方法、すなわち、熱伝導、熱放射、および対流熱伝達が含まれる。熱伝導は、主に電池の内側から電池の外側への熱伝達の過程で発生する。熱放射とは、電池の表面から外界への電磁波の形でのエネルギー伝達の過程を指す。対流熱伝達は、主に電池と空気との間の熱伝達の過程で発生する。オプションの実施形態では、実験環境では、電池と外界との間の熱伝達は、主に対流熱伝達であるため、熱伝導および熱放射の値は小さい。したがって、本出願の一実施形態では、熱伝導および熱放射が無視される場合、電池の熱伝達力モデルは、次のとおりである。
【数15】
【0047】
ここで、hは、対流熱伝達係数であり、Sは、電池の表面積であり、Tbatは、電池温度であり、Tambは、環境温度である。電池の熱伝達力モデルおよび電池の発熱モデルの式は、電池のエネルギー定式化に代入されて、以下が取得される。
【数16】
【0048】
次に、パルス加熱の下での電池の温度上昇率の関係は、次のとおりである。
【数17】
【0049】
ここで、対流熱伝達係数は、電池の放熱実験結果を適合することによって取得され得る。例えば、温度チャンバの環境が-10℃であるという条件の下で、電池パルス加熱実験の実験過程を例として選択することができる。実験の後半、すなわち、パルスが引き抜かれた後、電池の熱放散過程が分析される。実験中の温度と時間との間の関係から、対流熱伝達係数は、適合によって取得され得る。
【0050】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサ上で実行することができるコンピュータプログラムと、を含む、コンピュータ装置であって、プロセッサがコンピュータプログラムを実行するときに、前述の実施形態のいずれかに記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法のステップが達成される、コンピュータ装置。
【0051】
コンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読記憶媒体であって、コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、前述の実施形態のいずれかに記載のパルス加熱の下での電池の温度上昇率を推定するための方法のステップが達成される、コンピュータ可読記憶媒体。
【0052】
前述の実施形態の技術的特徴は、自由に組み合わせることができる。説明を簡潔にするために、前述の実施形態における技術的特徴のすべての可能な組み合わせは説明されていない。しかしながら、これらの技術的機能の組み合わせに矛盾がない限り、これらはこの仕様の範囲内に含まれるとみなす必要がある。
【0053】
前述の実施形態は、本出願のいくつかの実装方法を表すにすぎない。それらの説明は具体的かつ詳細であるが、したがって、出願中の特許の範囲に対する制限として理解されるべきではない。当業者にとって、本出願の概念から逸脱することなく、実施形態に様々な変更および修正を加えることができることに留意されたい。これらはすべて、本出願の保護の範囲内に含まれる。したがって、本出願に基づく特許の保護の範囲は、添付の特許請求の範囲に従うものとする。
図1
図2