(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車両用灯具システム、配光コントローラ
(51)【国際特許分類】
H05B 47/155 20200101AFI20241119BHJP
【FI】
H05B47/155
(21)【出願番号】P 2022530572
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021722
(87)【国際公開番号】W WO2021251372
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2020100453
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020100454
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】眞野 光治
(72)【発明者】
【氏名】沢田 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】川端 直樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 圭祐
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0031200(US,A1)
【文献】国際公開第2019/028483(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198604(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 39/00-39/10
H05B 45/00-45/59
H05B 47/00-47/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に配置された複数の画素を含む配光可変ランプを制御する配光コントローラであって、
メモリと、
ソフトウェアプログラムを実行することにより、前記配光可変ランプの配光を規定する少なくともひとつの画像を生成し、前記メモリに書き込むプロセッサと、
前記プロセッサの異常を検出する異常検出器と、
(i)前記プロセッサの正常状態において、前記メモリに書き込まれた前記少なくともひとつの画像にもとづき、前記配光可変ランプに出力すべき配光画像データを生成し、(ii)前記プロセッサの異常状態において、前記プロセッサに依存せずに生成された補助画像にもとづき、前記配光画像データを生成するハードウェアロジック回路と、
を備えることを特徴とする配光コントローラ。
【請求項2】
前記少なくともひとつの画像は、ハイビームの配光を規定するハイビーム画像と、ロービームの配光を規定するロービーム画像と、を含み、
前記ハードウェアロジック回路は、前記プロセッサの正常状態において、前記ハイビーム画像と前記ロービーム画像を合成し、前記配光画像データを生成することを特徴とする請求項1に記載の配光コントローラ。
【請求項3】
前記プロセッサの異常状態において、前記ハードウェアロジック回路は、前記メモリの前記ロービーム画像が書き込まれる領域に、所定の形状を含む補助画像を書き込むことを特徴とする請求項2に記載の配光コントローラ。
【請求項4】
前記プロセッサの異常状態において、前記ハードウェアロジック回路は、前記補助画像を前記メモリに書き込まずに、前記配光画像データとして直接出力することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の配光コントローラ。
【請求項5】
前記異常検出器はさらに、前記メモリの異常を検出可能に構成され、
前記メモリの異常状態において、前記ハードウェアロジック回路は、前記補助画像を前記メモリに書き込まずに、前記配光画像データとして直接出力することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の配光コントローラ。
【請求項6】
前記補助画像は、ロービーム配光のエルボー点を通る水平線より上側の領域の画素値が0であり、下側の領域の画素値が非ゼロであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の配光コントローラ。
【請求項7】
前記補助画像の前記下側の領域の画素値は、垂直方向に徐変することを特徴とする請求項6に記載の配光コントローラ。
【請求項8】
前記補助画像の前記下側の領域の画素値は均一であることを特徴とする請求項6に記載の配光コントローラ。
【請求項9】
前記補助画像の前記下側の領域の画素値は、ロービーム領域内に位置ごとに規定される上限値の最小値であることを特徴とする請求項8に記載の配光コントローラ。
【請求項10】
前記異常検出器はマイコンであり、前記プロセッサの異常状態において、前記マイコンは、上位コントローラからのロービームの点消灯指示を示す制御信号を受信していることを条件として、前記補助画像にもとづく動作モードに移行することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の配光コントローラ。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記ハイビームの遮光部分を規定する遮光画像を前記メモリに書き込み、
前記ハードウェアロジック回路は、前記ハイビーム画像、前記ロービーム画像および前記遮光画像にもとづいて、前記配光画像データを生成することを特徴とする請求項2または3に記載の配光コントローラ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の配光コントローラと、
前記配光コントローラが生成する配光パターンにもとづいて制御される配光可変ランプと、
を備えることを特徴とする車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具は、一般にロービームとハイビームとを切りかえることが可能である。ロービームは、自車近傍を所定の照度で照明するものであって、対向車や先行車にグレアを与えないよう配光規定が定められており、主に市街地を走行する場合に用いられる。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に対向車や先行車が少ない道路を高速走行する場合に用いられる。したがって、ハイビームはロービームと比較してより運転者による視認性に優れているが、車両前方に存在する車両の運転者や歩行者にグレアを与えてしまうという問題がある。
【0003】
近年、車両の周囲の状態にもとづいて、ハイビームの配光パターンを動的、適応的に制御するADB(Adaptive Driving Beam)が提案されている。ADB技術は、車両の前方
の先行車、対向車や歩行者の有無を検出し、車両あるいは歩行者に対応する領域を減光あるいは消灯するなどして、車両あるいは歩行者に与えるグレアを低減するものである。
【0004】
ADBランプとして、LED(発光ダイオード)アレイ方式のものが提案されている。
図1は、LEDアレイ方式のADBランプのブロック図である。ADBランプ1は、LEDアレイ10と、配光コントローラ20、電源回路30を備える。LEDアレイ10は、アレイ状に配置される複数のLED12と、複数のLED12を駆動するLEDドライバ14を備える。各LED12は画素に対応する。LEDドライバ14は、各画素に対応する電流源(スイッチ)を含み、電流源のオンオフを制御することで、各画素のオン、オフを切り替える。
【0005】
電源回路30は、LEDアレイ10に電源電圧VDDを供給する。配光コントローラ20は、複数の画素のオン、オフを指定する制御信号を生成し、LEDアレイ10に送信する。LEDアレイ10の出射ビームは、図示しない光学系を経て、仮想鉛直スクリーン40上に照射される。仮想鉛直スクリーン40には、複数の発光素子12のオン、オフに対応した配光パターン42が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
課題1. 配光コントローラ20における配光パターンの生成処理を、ソフトウェア制御されるマイコンだけに委ねると、マイコンが動作不能となった際に、LEDアレイ10を制御できなくなる。
【0008】
課題2. LEDアレイ10の分解能が低いシステムでは、汎用マイコンを用いて配光パターンを生成することが可能である。
【0009】
しかしながら、LEDアレイ10の分解能が高くなると(たとえば100×100を超えると)、汎用マイコンでは処理が追いつかなくなり、低分解能システムのアーキテクチャをそのまま転用することはできない。
【0010】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、機能安全を高めた灯具システムおよび配光コントローラの提供にある。また別の態様の例示的な目的のひとつは、高分解能な配光パターンを生成可能な配光コントローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1. 本開示のある態様は、アレイ状に配置された複数の画素を含む配光可変ランプを制御する配光コントローラに関する。配光コントローラは、メモリと、ソフトウェアプログラムを実行することにより、配光可変ランプの配光を規定する少なくともひとつの画像を生成し、メモリに書き込むプロセッサと、プロセッサの異常を検出する異常検出器と、(i)プロセッサの正常状態において、メモリに書き込まれた少なくともひとつの画像にも
とづいて、配光可変ランプに出力すべき配光画像データを生成し、(ii)プロセッサの異常状態において、プロセッサに依存せずに生成された補助画像にもとづいて、配光画像データを生成するハードウェアロジック回路と、を備える。
【0012】
2. 本開示のある態様は、アレイ状に配置された複数の画素を含む配光可変ランプを制御する配光コントローラに関する。配光コントローラは、第1領域、第2領域、第3領域を含むメモリと、ソフトウェアプログラムを実行することにより、ハイビームの配光を規定する第1レイヤ画像をメモリの第1領域に書き込み、ハイビームの遮光部分を規定する第2レイヤ画像をメモリの第2領域に書き込み、ロービームの配光を規定する第3レイヤ画像をメモリの第3領域に書き込み可能なプロセッサと、メモリに格納された第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を読み出し、第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を合成して配光画像データを生成するハードウェアロジック回路と、を備える。
【0013】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、高分解能な配光パターンを生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】LEDアレイ方式のADBランプのブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る灯具システムのブロック図である。
【
図3】配光コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3の配光コントローラの動作を説明する図である。
【
図5】アルファブレンディングあるいは加算合成にもとづくマルチレイヤの合成処理を説明する図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、第3レイヤ画像の生成を説明する図である。
【
図8】
図2の灯具システムを備えるヘッドランプを示す図である。
【
図9】配光コントローラの機能安全に関連するブロック図である。
【
図10】実施例1に係るハードウェアロジック回路の動作を説明するフローチャートである。
【
図11】実施例2に係るハードウェアロジック回路の動作を説明するフローチャートである。
【
図12】実施例3に係るハードウェアロジック回路の動作を説明するフローチャートである。
【
図13】
図13(a)は、理想的なロービームの配光パターンPTN_LOを、
図13(b)、(c)は、補助画像IMG_AUXの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
一実施形態に係る配光コントローラは、アレイ状に配置された複数の画素を含む配光可変ランプを制御する。配光コントローラは、メモリと、ソフトウェアプログラムを実行することにより、配光可変ランプの配光を規定する少なくともひとつの画像を生成し、メモリに書き込むプロセッサと、プロセッサの異常を検出する異常検出器と、(i)プロセッ
サの正常状態において、メモリに書き込まれた少なくともひとつの画像にもとづいて、配光可変ランプに出力すべき配光画像データを生成し、(ii)プロセッサの異常状態において、プロセッサに依存せずに生成された補助画像にもとづいて、配光画像データを生成するハードウェアロジック回路と、を備える。
【0018】
配光コントローラは、プロセッサの異常状態において、プロセッサを利用せずに、簡易的な配光を規定する補助画像を生成あるいは取得可能となっている。したがってプロセッサの異常状態において、補助画像にもとづいて配光画像データを生成することができ、配光可変ランプの点灯を維持できる。
【0019】
一実施形態において、プロセッサが生成する少なくともひとつの画像は、ハイビームの配光を規定するハイビーム画像と、ロービームの配光を規定するロービーム画像と、を含んでもよい。ハードウェアロジック回路は、プロセッサの正常状態において、ハイビーム画像とロービーム画像を合成し、配光画像データを生成してもよい。
【0020】
一実施形態において、プロセッサの異常状態において、ハードウェアロジック回路は、メモリのロービーム画像が書き込まれる領域に、所定の形状を含む補助画像を書き込んでもよい。
【0021】
この構成によると、プロセッサに異常が生じた場合には、ハードウェアロジック回路が、メモリに簡易的なロービーム配光を規定する補助画像を書き込み、それ以降は、自身が書き込んだ補助画像にもとづいて、配光画像データを生成することができ、配光可変ランプのロービーム点灯を維持できる。
【0022】
一実施形態において、プロセッサの異常状態において、ハードウェアロジック回路は、補助画像をメモリに書き込まずに、配光画像データとして直接出力してもよい。メモリアクセスを減らすことで、メモリの発熱を減らすことができる。プロセッサが高温により異常状態となっている場合には、プロセッサがメモリにより加熱されるのを防止でき、短時間で冷却できる。
【0023】
一実施形態において、異常検出器はさらにメモリの異常を検出可能に構成されてもよい。メモリの異常状態において、ハードウェアロジック回路は、補助画像をメモリに書き込まずに、配光画像データとして直接出力してもよい。これにより、メモリの異常状態においても、配光可変ランプの点灯を維持できる。
【0024】
一実施形態において、補助画像は、ロービーム配光のエルボー点を通る水平線より上側の領域の画素値が0であり、下側の領域の画素値が非ゼロであってもよい。補助画像を簡易的なものとすることで、ハードウェアロジック回路の構成を簡素化できる。
【0025】
一実施形態において、補助画像の下側の領域の画素値は、垂直方向に徐変してもよい。これにより、カットライン付近の急峻な明暗差を緩和でき、運転者が見やすい配光を形成できる。
【0026】
一実施形態において、補助画像の下側の領域の画素値は均一であってもよい。これによりハードウェアロジック回路の構成を一層、簡素化できる。
【0027】
一実施形態において、補助画像の下側の領域の画素値は、ロービーム領域内に位置ごとに規定される上限値の最小値であってもよい。これにより、ピッチングの際のグレアを防止し、また近傍が明るすぎて遠方が見にくくなるような状況を回避できる。
【0028】
異常検出器はマイコンであってもよい。マイコンが異常を検出すると、上位コントローラからのロービームの点消灯指示を受信し、ハードウェアロジック回路を制御してもよい。
【0029】
プロセッサは、ハイビームの遮光部分を規定する遮光画像をメモリに書き込んでもよい。ハードウェアロジック回路は、ハイビーム画像、ロービーム画像および遮光画像にもとづいて、配光画像データを生成してもよい。
【0030】
一実施形態に係る車両用灯具システムは、配光コントローラと、配光コントローラが生成する配光パターンにもとづいて制御される配光可変ランプと、を備えてもよい。
【0031】
一実施形態に係る配光コントローラは、アレイ状に配置された複数の画素を含む配光可変ランプを制御する。配光コントローラは、第1領域、第2領域、第3領域を含むメモリと、ソフトウェアプログラムを実行することにより、ハイビームの配光を規定する第1レイヤ画像をメモリの第1領域に書き込み、ハイビームの遮光部分を規定する第2レイヤ画像をメモリの第2領域に書き込み、ロービームの配光を規定する第3レイヤ画像をメモリの第3領域に書き込み可能なプロセッサと、メモリに格納された第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を読み出し、第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を合成して配光画像データを生成するハードウェアロジック回路と、を備える。
【0032】
この構成では、ハイビーム、ハイビームの遮光部分、ロービームを規定する第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を個別に生成する前処理をプロセッサにより実行し、第1レイヤ画像から第3レイヤ画像を合成する後処理をハードウェアロジック回路によって実行することとした。これにより、プロセッサの負荷を減らし、高解像度な配光パターンを生成することが可能となる。
【0033】
第2レイヤ画像の各画素は、第1レイヤ画像の対応する画素の透過度を示すアルファ値を含んでもよい。ハードウェアロジック回路は、第2レイヤ画像のアルファ値にもとづいて、第1レイヤ画像と第3レイヤ画像を合成してもよい。合成には、アルファブレンディングあるいは加算合成を用いることができる。
【0034】
第2レイヤ画像のアルファ値は、遮光部分の境界において徐変してもよい。これにより遮光部分の境界における急峻な輝度変化を抑え、違和感を減らすことができる。
【0035】
プロセッサは、ロービームの基本となる配光を規定する基準画像にもとづいて、第3レイヤ画像を生成してもよい。基準画像を予め生成しておき、それを加工、修正して第3レイヤ画像を生成することにより、毎回、ゼロから第3レイヤ画像を生成する場合に比べて、プロセッサの演算量を減らすことができる。
【0036】
基準画像は、ロービームの照射範囲、すなわち配光可変ランプの照射範囲より広い領域をカバーしており、プロセッサは、基準画像の一部をクロップして、第3レイヤ画像を生成してもよい。
【0037】
基準画像は、少なくとも水平方向に関して、ロービームの照射範囲より広い領域をカバーしており、プロセッサは、基準画像の水平方向のクロップ位置を変化させることにより、電子スイブルを実現してもよい。
【0038】
基準画像は、少なくとも垂直方向に関して、ロービームの照射範囲より広い領域をカバーしており、プロセッサは、基準画像の垂直方向のクロップ位置を変化させることにより、レベリング調整を実現してもよい。
【0039】
配光コントローラは、基準画像を格納する不揮発性メモリをさらに備えてもよい。
【0040】
メモリは第4領域をさらに含んでもよい。プロセッサは、ハイビームの配光を規定する第4レイヤ画像をメモリの第4領域に書き込んでもよい。ハードウェアロジック回路は、メモリに格納された第1レイヤ画像から第4レイヤ画像を合成して配光画像データを生成してもよい。さまざまな走行シーンに対応してハイビームの配光を変更したい場合がある。この場合に、走行シーンに依存しないベースとなる配光を第1レイヤ画像として規定し、走行シーンに依存する適応的な配光を第4レイヤ画像として規定し、それらを合成することにより、さまざまな走行シーンに適した配光を生成できる。走行シーン毎に個別の配光(第1レイヤ画像)を用意する場合に比べて、メモリ容量を減らすことが可能である。
【0041】
プロセッサは、第1レイヤ画像に描画するパターンをスケーリングすることにより、第4レイヤ画像に描画するパターンを生成してもよい。たとえば、第1レイヤ画像を水平方向に縮小することにより、第4レイヤ画像を生成し、もとの第1レイヤ画像と合成してもよい。これにより、高速走行に適した配光を形成できる。
【0042】
(実施形態)
以下、好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0043】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0044】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0045】
図2は、実施の形態に係る灯具システム100のブロック図である。灯具システム100は、ADBランプであり、上位コントローラ102、配光可変ランプ200および配光コントローラ300を備える。
【0046】
配光可変ランプ200は、アレイ状に配置された複数の画素PIXを含む。たとえば配光可変ランプ200は、LEDアレイデバイス210と、インタフェース回路220を備える。LEDアレイデバイス210は、複数の発光画素PIXのアレイであり、各発光画素PIXは、個別にオン(点灯)、オフ(消灯)が切り替え可能となっている。発光画素PIXは、たとえばLEDなどの半導体発光素子と、半導体発光素子に駆動電流を供給する電流源と、を含みうる。
【0047】
LEDアレイデバイス210の出射ビームは、図示しない光学系を経て、仮想鉛直スクリーン40上に照射される。仮想鉛直スクリーン40には、複数の発光画素PIXのオン、オフに対応した配光パターン42が形成される。本実施形態において、配光可変ランプ200は、ハイビームとロービームを兼用しており、LEDアレイデバイス210の出射ビームは、ハイビームの照射領域とロービームの照射領域をカバーしている。
【0048】
インタフェース回路220は、配光コントローラ300から配光パターン42を規定する配光画像データIMG_LDを受信する。そしてインタフェース回路220は、配光画像データIMG_LDにもとづいて、LEDアレイデバイス210の各画素のオン、オフを制御する。
【0049】
LEDアレイデバイス210の発光画素PIXの輝度の階調表現には、PWM制御が利用される。配光画像データIMG_LDの各画素は、発光画素PIXの輝度値(階調値)を表してもよい。インタフェース回路220は、配光画像データIMG_LDの各画素について、画素値に応じたデューティサイクルを有するPWM信号を生成し、対応する発光画素PIXのオン、オフを制御してもよい。つまりインタフェース回路220がPWMコントローラの機能を有する。
【0050】
配光コントローラ300は、上位コントローラ102からの点灯指令CMDに加えて、配光パターン42を生成する上で必要な情報INFOが供給される。上位コントローラ102は車両側のECUECU(Electronic Control Unit)であってもよいし、灯具側の
ECUであってもよい。具体的には、上位コントローラ102から配光コントローラ300には、ロービームやハイビームのオン、オフを指示する点灯指令CMDが入力される。
【0051】
また上位コントローラ102が配光コントローラ300に供給する情報INFOは、周囲環境情報や車両情報を含みうる。周囲環境情報は、(i)先行車や対向車、歩行者や標
識、デリニエータなどの物標に関する情報、(ii)道路情報(高速道路、一般道路、郊外、市街地などの区分、直線路か曲路かなどの情報)、(iii)天気、視界の良否、路面の
状態などの情報を含みうる。車両情報は、車速やステアリング角、車両の傾斜角などを含みうる。
【0052】
図3は、配光コントローラ300の構成を示すブロック図である。ビークルバスインタフェース302は、CAN(Controller Area Network )やLIN(Local Interconnect
Network)などであり、上位コントローラ102やその他のデバイスとの通信のために設けられる。
【0053】
配光コントローラ300は、上位コントローラ102からの情報INFOにもとづいて、配光パターン42を規定する配光画像データIMG_LDを生成し、配光可変ランプ200に送信する。配光コントローラ300と配光可変ランプ200は、HDMI(High-Definition Multimedia Interface、登録商標)をはじめとする画像用のシリアルインタフェースで接続される。
【0054】
上位コントローラ102あるいはその他のデバイスとの間で、より大容量のデータを伝送する場合には、広帯域インタフェース304を設けてもよい。広帯域インタフェース304はイーサネット(登録商標)などを用いることができる。
【0055】
出力インタフェース306は、信号処理部310が生成した配光画像データIMG_LDを送信する。出力インタフェース306は、HDMIインタフェース(トランスミッタ)やその他のビデオインタフェースである。
【0056】
配光コントローラ300は、配光画像データIMG_LDを生成する信号処理部310を備える。信号処理部310は、プロセッサ312およびハードウェアロジック回路314を含む。信号処理部310は、SOC(System-on-a-chip)であってもよい。オシレータ308は、クロック信号を生成し、プロセッサ312、ハードウェアロジック回路314に供給する。プロセッサ312やハードウェアロジック回路314は、クロック信号と同期して動作する。
【0057】
プロセッサ312は、ビークルバスインタフェース302や広帯域インタフェース304を介して、点灯指令CMDや情報IMFOを受信する。
【0058】
不揮発性メモリ320は、フラッシュメモリやROM(Read Only Memory)、強誘電体メモリや磁気抵抗RAMなどであり、プロセッサ312が実行すべきソフトウェアプログラムを格納する。プロセッサ312は、不揮発性メモリ320からロードしたプログラムを実行し、配光画像データIMG_LDを生成するための処理の一部を実行する。
【0059】
揮発性メモリ322は、信号処理部310により使用され、プロセッサ312からロードしたソフトウェアプログラムを格納する他、配光画像データIMG_LDの生成に必要な画像やデータを格納するビデオメモリとしても使用される。揮発性メモリ322は、DRAM(Dynamic RAM)やSDRAM(Synchronous DRAM)などのRAM(Random Access
Memory)である。揮発性メモリ322はビデオメモリ領域を含み、ビデオメモリ領域は
、第1領域A1~第3領域A3を含む。
【0060】
プロセッサ312は、ソフトウェアプログラムを実行することにより、ハイビームの配光を規定する第1レイヤ画像L1を揮発性メモリ322の第1領域A1に書き込み、ハイビームの遮光部分を規定する第2レイヤ画像L2を揮発性メモリ322の第2領域A2に書き込み、ロービームの配光を規定する第3レイヤ画像L3を揮発性メモリ322の第3領域A3に書き込む。
【0061】
ハードウェアロジック回路314と、設計者が論理回路を定義、変更可能なプログラマブルロジックデバイスである。ハードウェアロジック回路314は、揮発性メモリ322の第1領域A1~第3領域A3から、第1レイヤ画像L1~第3レイヤ画像L3を読み出し、第1レイヤ画像L1~第3レイヤ画像L3を合成して配光画像データIMG_LDを生成する。
【0062】
なお、ハードウェアロジック回路314をASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成してもよい。
【0063】
監視用マイコン324は、配光コントローラ300の各ブロックの動作状態を監視し、異常の有無を判定する。監視用マイコン324は、プロセッサ312、ハードウェアロジック回路314、オシレータ308や出力インタフェース306の異常を検出すると、ビークルバスインタフェース302を経由して、エラー信号ERRを上位コントローラ102に送信する。
【0064】
以上が配光コントローラ300の構成である。続いて配光コントローラ300の動作を説明する。
図4は、
図3の配光コントローラ300の動作を説明する図である。
図5は、アルファブレンディングあるいは加算合成にもとづくマルチレイヤの合成処理を説明する図である。第1レイヤ画像L1~第3レイヤ画像L3は、配光可変ランプ200のLEDアレイデバイス210と同じ解像度を有する画像データである。
【0065】
第1レイヤ画像L1は、ハイビームの配光パターンPTN_HIを規定する。第2レイヤ画像L2は、ハイビームの遮光部分SHDを規定する。第3レイヤ画像L3は、ロービームの配光パターンPTN_LOを規定する。これらの画像は、プロセッサ312がソフトウェアプログラムを実行することにより生成され、揮発性メモリ322のビデオメモリの第1領域A1~第3領域A3に書き込まれる。第1レイヤ画像L1および第3レイヤ画像L3の画素値は、対応する発光素子212の輝度値(PWM制御におけるデューティサイクル)に対応する。
【0066】
ハードウェアロジック回路314は、第1領域A1~第3領域A3に書き込まれたレイヤ画像L1~L3を合成し、配光画像データIMG_LDを生成する。画像合成処理のいくつかの例を説明する。
【0067】
(第1実施例)
遮光部分SHDを規定する第2レイヤ画像L2は、最も簡易には1ビットのモノクロ画像データであり、値0が遮光に、値1が照射に対応付けられ、遮光部分SHDの内側の画素値が0に、外側の画素値が1となる。
【0068】
この場合、ハードウェアロジック回路314は、第1レイヤ画像L1~第3レイヤ画像L3の対応する画素の値について、以下の演算式(1)にもとづいて、配光画像データIMD_LDを生成することができる。
IMD_LD[x,y]=L1[x,y]×L2[x,y]+L3[x,y] …(1)
Li[x,y]は、i番目のレイヤ画像の位置[x,y]の画素値を表す。この演算により、遮光部分SHDは、ロービームの配光には影響を与えない。
【0069】
(第2実施例)
第1実施例では、遮光部分SHDの境界において、明暗の差が大きくなるため、運転者が見にくくなる場合がある。そこで、第2レイヤ画像L2を、多ビット(mビット)の画像データとし、アルファブレンディングの手法にもとづいて、画像合成を行ってもよい。この場合、第2レイヤ画像L2の各画素値L2[x,y]は、アルファ値を表す。m=8とすると、遮光部分の画素値L2[x,y]が0の画素は完全な遮光となり、画素値が大きくなるにしたがって、遮光の程度が弱まる。アルファブレンディングは、以下の式(2)で表される。
IMD_LD[x,y]=(L1[x,y]-L3[x、y])×(L2[x,y]/(2m-1))+L3[x,y] …(2)
【0070】
この手法によれば、遮光部分SHDの境界において、第2レイヤ画像L2の画素値を徐変することにより、境界における明暗差を抑制できる。
【0071】
(第3実施例)
第3実施例では、第2実施例と同様に、第2レイヤ画像L2は、アルファ値を表すが、演算には、式(3)で表される加算合成が用いられる。
IMD_LD[x,y]=L1[x,y]×(L2[x,y]/(2m-1))+L3[x,y] …(3)
【0072】
図4、
図5の例では、ハイビームとロービームの同時照射のケースを示したが、ロービームのみを照射する場合には、第1レイヤ画像L1の画素値をゼロとすればよい。また先行車や対向車が存在しない場合、第2レイヤ画像L2の全画素値を255とすればよい。
【0073】
以上が配光コントローラ300の動作である。この配光コントローラ300によれば、ハイビーム、ハイビームの遮光部分、ロービームを規定する第1レイヤ画像L1、第2レイヤ画像L2、第3レイヤ画像L3を個別に生成する前処理を、プロセッサ312によりソフトウェア制御で実行し、第1レイヤ画像L1から第3レイヤ画像L3を合成する後処理をハードウェアロジック回路314によって実行することとした。これにより、プロセッサ312の負荷を減らし、高解像度な配光パターンを生成することが可能となる。また配光画像データの要素を、3つのレイヤ画像L1~L3に分解することで、後述するように、さまざまな変更や応用が可能となる。
【0074】
またハイビームの配光を、第1レイヤ画像L1と第2レイヤ画像L2の2レイヤで表現することにより、遮光部のみを移動させる際に、第2レイヤ画像L2のみを更新すればよく、第1レイヤ画像L1は更新する必要がないため、プロセッサ312の負荷を減らすことができる。
【0075】
続いて、第3レイヤ画像L3の生成処理について説明する。
図6(a)、(b)は、第3レイヤ画像の生成を説明する図である。
図6(a)には、ロービームの基本となる配光を規定する基準画像IMG_REFが示される。
図6(a)に示される基準画像IMG_REFは、ロービームのZ型配光を規定した画像である。この基準画像IMG_REFは、水平方向に関して、第3レイヤ画像L3より大きな画素数を有しており、したがって、ロービームの照射範囲より広い領域をカバーしている。基準画像IMG_REFは、
図3の不揮発性メモリ320に格納しておいてもよい。あるいは、配光コントローラ300の起動時に、プロセッサ312がソフトウェアプログラムにもとづいて描画し、揮発性メモリ322に格納しておいてもよい。プロセッサ312は、基準画像IMG_REFの一部をクロップして、第3レイヤ画像L3を生成する。
【0076】
図6(b)には、水平範囲H1、H2それぞれをクロップしたときの第3レイヤ画像L3が示される。この手法によれば、プロセッサ312が第3レイヤ画像L3を描画するための演算処理量を大幅に減らすことができる。
【0077】
たとえば、プロセッサ312は、上位コントローラ102からの車両情報に含まれるステアリング角や、道路の情報(直線路か曲路かなど)などにもとづいて、クロップする範囲を決定してもよい。これにより、電子スイブル機能を実現することができる。
【0078】
同様にして、基準画像IMG_REFは、垂直方向に関して、ロービームの照射範囲より広い領域をカバーしてもよい。プロセッサ312は、基準画像IMG_REFの垂直方向のクロップ位置を変化させることにより、レベリング調整を実現してもよい。
【0079】
続いて、ハイビームの配光制御について説明する。高速道路を走行する際には、より中央部分に、明るい照射領域が集中した配光を形成したい場合がある。走行シーン毎に、ハイビームを規定する基準画像を複数の用意すると、不揮発性メモリの容量が増加し、コストアップの要因となる。
【0080】
そこで、走行シーンに対応して、ハイビームの配光を切り替えるために、以下の処理を行ってもよい。
図7は、ハイビームの配光制御を説明する図である。ハイビームの配光切り替えあるいは制御のために、新たな第4レイヤ画像L4が追加され、揮発性メモリ322は、第4レイヤ画像L4を格納するための第4領域A4をさらに備える。
【0081】
プロセッサ312は、ハイビームの配光を規定する第4レイヤ画像L4を第4領域A4に書き込む。第4レイヤ画像L4は、第1レイヤ画像L1が規定する基本となるハイビームの配光に追加されるパターンPTN_HI_ADDを表し、別の観点から見ると、走行シーンに応じたハイビームの配光と、基本となるハイビームの配光の差分と把握される。
【0082】
ハードウェアロジック回路314は、第1レイヤ画像L1から第4レイヤ画像L4を合成して配光画像データIMG_LDを生成する。この場合、第2レイヤ画像L2は、第1レイヤ画像L1と第4レイヤ画像L4の両方に作用させる。第3レイヤ画像L3が1ビットの場合、式(1’)にもとづいた合成を行ってもよい。
IMD_LD[x,y]=(L1[x,y]+L4[x,y])×L2[x,y]+L3[x,y] …(1’)
【0083】
第3レイヤ画像L3がアルファ値を表す場合、式(2’)あるいは(3’)にもとづいた合成を行ってもよい。
IMD_LD[x,y]=(L1[x,y]+L4[x,y]-L3[x、y])×(L2[x,y]/(2m-1))+L3[x,y] …(2’)
IMD_LD[x,y]=(L1[x,y]+L4[x,y])×(L2[x,y]/(2m-1))+L3[x,y] …(3’)
【0084】
この手法によれば、第4レイヤ画像L4を走行シーンに応じて書き換えることにより、さまざまな走行シーンに適した配光を生成することが可能となる。
【0085】
第4レイヤ画像L4に描画する追加パターンPTN_HI_ADDは不揮発性メモリ320に格納しておいてもよい。
【0086】
あるいは第4レイヤ画像L4に描画する追加パターンPTN_HI_ADDは、第1レイヤ画像L1に描画するパターンPTN_HIをスケーリングすることにより生成してもよい。
図7の例では、パターンPTN_HIを横方向に圧縮することにより、追加パターンPTN_HI_ADDが生成されている。これにより、追加パターンPTN_HI_ADDを不揮発性メモリ320に格納しておく必要がないため、不揮発性メモリ320の容量増加を抑制できる。
【0087】
ステアリングやカーブの状況に応じて、追加パターンPTN_HI_ADDの描画位置をシフトさせてもよい。
【0088】
(変形例1)
配光コントローラ300の制御対象である配光可変ランプ200の構成は特に限定されない。たとえば配光可変ランプ200は、均一な強度分布を有するビームを生成する光源と、光源の強度分布をパターニングする空間光変調器を含んでもよい。空間光変調器としては、DMD(Digital Micromirror Device)や液晶パネルなどが例示される。
【0089】
(変形例2)
配光コントローラ300から配光可変ランプ200への配光画像データIMG_LDの伝送方式は、特に限定されない。たとえば、配光画像データIMG_LDの画素値がnビット(2n階調)の場合、配光画像データIMG_LDを、2n枚の1ビットのサブフレームに分解して伝送してもよい。2n枚のサブフレームの各画素は1または0をとり、値1と0の出現比率(すなわちデューティサイクル)が、配光画像データIMG_LDの対応する画素値に応じて変化する。配光可変ランプ200は、サブフレームの各画素について、値が1のときにLEDアレイデバイス210の対応する画素をオンとし、値が0のときにLEDアレイデバイス210の対応する画素をオフとする。つまり配光コントローラ300が、PWMコントローラの機能を有することとなる。
【0090】
図8は、
図2の灯具システム100を備えるヘッドランプ600を示す図である。ヘッドランプ600は、配光可変ランプ200およびイメージセンサ500を備える。配光可変ランプ200が生成すべき配光(特に遮光部分、すなわち第2レイヤ画像L2)は、イメージセンサ500が撮影した画像にもとづいて生成することができる。配光コントローラ300は、ヘッドランプ600の筐体602内に収容されてもよいし、その外部に設けるようにしてもよい。ヘッドランプ600は、その他、ターンランプ606、ポジションランプ608を備える。LEDアレイデバイス210がカバーできる照射エリアの制約から、LEDアレイデバイス210のみで完全なロービームの配光を生成することが難しい場合、より広範囲な領域を照射する補助的なロービーム用光源604を追加してもよい。
【0091】
(機能安全)
続いて、配光コントローラ300における機能安全について説明する。
【0092】
図9は、配光コントローラの機能安全に関連するブロック図である。配光コントローラ300Aの基本構成は、
図3を参照して説明した通りである。
【0093】
プロセッサ312は、ソフトウェアプログラムを実行することにより、配光可変ランプ200の配光を規定する少なくともひとつの画像を生成し、揮発性メモリ322に書き込む。本実施形態において、プロセッサ312が生成する画像は、ハイビームの配光を規定するハイビーム画像と、ロービームの配光を規定するロービーム画像と、を含む。ハイビーム画像IMG_HIは、上述の説明における第1レイヤ画像L1、第2レイヤ画像L2(および第4レイヤ画像L4)に対応付けることができ、ロービーム画像IMG_LOは、第3レイヤ画像L3に対応付けることができる。
【0094】
ハードウェアロジック回路314は、プロセッサ312の正常状態において、揮発性メモリ322に書き込まれたハイビーム画像IMG_HIおよびロービーム画像IMG_LOにもとづいて、配光画像データIMG_LDを生成する。ハードウェアロジック回路314は、合成処理部316および補助画像展開部318を含む。合成処理部316は、ロービーム画像IMG_LOとハイビーム画像IMG_HIを合成し、配光画像データIMG_LDを生成する。
【0095】
なおここで説明する機能安全の効果を発揮するためには、レイヤ構成は、
図4や
図7に示したそれらに限定されるものではなく、少なくとも、ハイビームを記述する画像と、ロービームを記述する画像が、分離して揮発性メモリ322の別々の領域に書き込まれていればよい。
【0096】
一例では、プロセッサ312は
図4や
図7に示したように、3つ(あるいは4つ)のレイヤ画像L1~L3(L4)をハイビーム画像IMG_HIおよびロービーム画像IMG_LOとして、揮発性メモリ322に書き込んでもよい。この場合、合成処理部316は、上述した演算式にもとづいて複数のレイヤ画像を合成可能に構成される。
【0097】
別の例では、プロセッサ312は、遮光部分がくりぬかれたハイビーム画像IMG_HIを生成し、ロービーム画像IMG_LOとともに、揮発性メモリ322に書き込んでもよい。つまりプロセッサ312が、第1レイヤ画像L1と第2レイヤ画像L2の合成処理を実行してもよい。この場合は、合成処理部316は、ハイビーム画像IMG_HIとロービーム画像IMG_LOを合成して、配光画像データIMG_LDを生成すればよい。
IMG_LD[x,y]=IMG_HI[x,y]+IMG_LO[x,y]
【0098】
監視用マイコン324は、プロセッサ312の異常を検出可能な異常検出器である。プロセッサ312の正常時は、プロセッサ312が、上位コントローラ102からの、ロービームやハイビームの点灯指令CMDを受信するが、プロセッサ312の異常時には、点灯指令CMDに対応する制御信号CNTを、上位コントローラ102から受信可能となっている。制御信号CNTは、ビークルバスインタフェース302を介して受信してもよいし、図示しない直線(じか線)を介して受信してもよい。
【0099】
監視用マイコン324がプロセッサ312の異常を検出すると、プロセッサ312の動作が停止する。異常の検出方法は特に限定されず、ウォッチドッグタイマーを用いた手法など、公知技術を利用すればよい。監視用マイコン324は、プロセッサ312の異常を検出すると、ハードウェアロジック回路314に通知する。
【0100】
ハードウェアロジック回路314の補助画像展開部318は、プロセッサ312の異常状態において、プロセッサ312に依存せずに補助画像IMG_AUXを生成、あるいは取得可能に構成される。ハードウェアロジック回路314は、補助画像IMG_AUXにもとづいて、配光画像データIMG_LDを生成する。
【0101】
ハードウェアロジック回路314がプログラマブルロジック回路である場合には、補助画像展開部318は、カウンタや論理ゲートの組み合わせで構成されるパターン発生器を含みうる。補助画像IMG_AUXは、通常のロービームの配光に近づけることが望ましいが、使用可能なハードウェアの制約があるため、実際には、ロービームの配光を簡素化したものとなりうる。
【0102】
以上が配光コントローラ300Aの構成である。この配光コントローラ300Aは、プロセッサ312の異常状態において、プロセッサ312を利用せずに、簡易的な配光を規定する補助画像IMG_AUXを生成あるいは取得可能となっている。したがってプロセッサ312の異常状態において、補助画像IMG_AUXにもとづいて配光画像データIMG_LDを生成することができ、配光可変ランプ200の点灯を維持できる。
【0103】
続いて、異常状態における配光コントローラ300Aの動作に関するいくつかの例を説明する。
【0104】
(実施例1)
ハードウェアロジック回路314の補助画像展開部318は、揮発性メモリ322のロービーム画像IMG_LOが書き込まれる領域に、所定の形状を含む補助画像IMG_AUXを書き込む。
【0105】
補助画像展開部318が補助画像IMG_AUXを揮発性メモリ322に展開した後は、合成処理部316は、補助画像IMG_AUXにもとづいて配光画像データIMG_LDを生成する。
【0106】
合成処理部316は、異常状態において、揮発性メモリ322から読み出した補助画像IMG_AUXを配光画像データIMG_LDとしてそのまま出力する。
【0107】
図10は、実施例1に係るハードウェアロジック回路314の動作を説明するフローチャートである。プロセッサ312の正常状態(S100のY)では、ハードウェアロジック回路314は、プロセッサ312のハイビーム画像IMG_HIとロービーム画像IMG_LOを合成し、配光画像データIMG_LDを生成する(S102)。配光画像データIMG_LDが、配光可変ランプ200に出力される(S104)。
【0108】
プロセッサ312の異常状態(S100のN)では、監視用マイコン324が、ロービームスイッチがオンであるかを判定する(S106)。ロービームスイッチがオフであるとき(S106のN)、S100に戻る。ロービームスイッチがオンであるとき(S106のY)、ハードウェアロジック回路314は、補助画像IMG_AUXを揮発性メモリ322に展開する(S108)。そして、揮発性メモリ322から読み出した補助画像IMG_AUXを配光画像データIMG_LDとする(S110)。
【0109】
なお、補助画像IMG_AUXの揮発性メモリ322上への展開(S108)は、1回だけ行えばよく、二回目以降はスキップできる。
【0110】
(実施例2)
補助画像展開部318は、補助画像IMG_AUXを揮発性メモリ322に書き込むとともに、ハイビーム画像IMG_HIが書き込まれる領域を消去し、画素値を0にリセットする。合成処理部316は、正常状態と同様の処理を行う。これにより、画素値が0のハイビーム画像IMG_HIと、ロービーム画像IMG_LOの代替として書き込まれた補助画像IMG_AUXが合成され、配光画像データIMG_LDは、補助画像IMG_AUXと同一となる。
【0111】
図11は、実施例2に係るハードウェアロジック回路314の動作を説明するフローチャートである。プロセッサ312の正常状態(S200のY)では、ハードウェアロジック回路314は、プロセッサ312のハイビーム画像IMG_HIとロービーム画像IMG_LOを合成し、配光画像データIMG_LDを生成する(S202)。配光画像データIMG_LDは配光可変ランプ200に出力される(S204)。
【0112】
プロセッサ312の異常状態(S200のN)では、ロービームスイッチがオンであるかが判定される(S206)。ロービームスイッチがオフであるとき(S206のN)、S200に戻る。ロービームスイッチがオンであるとき(S206のY)、ハードウェアロジック回路314は、補助画像IMG_AUXを揮発性メモリ322のロービーム画像IMG_LOの領域に展開する(S208)。また揮発性メモリ322のハイビーム画像IMG_HIの領域をリセットする(S210)。そして、揮発性メモリ322から読み出したハイビーム画像IMG_HIと補助画像IMG_AUXを合成し、配光画像データIMG_LDを生成する(S212)。
【0113】
なお、処理S208、S210は1回目だけ行えばよく、二回目以降はスキップできる。
【0114】
(実施例3)
ハードウェアロジック回路314は、プロセッサ312の異常状態において、補助画像展開部318が展開した補助画像IMG_AUXを、揮発性メモリ322に書き込まずに、配光画像データIMG_LDとして直接出力する。
【0115】
図12は、実施例3に係るハードウェアロジック回路314の動作を説明するフローチャートである。プロセッサ312の正常状態(S300のY)では、ハードウェアロジック回路314は、プロセッサ312のハイビーム画像IMG_HIとロービーム画像IMG_LOを合成し、配光画像データIMG_LDを生成し(S302)、出力する(S304)。
【0116】
実施例3では、揮発性メモリ322を利用しないため、補助画像IMG_AUXを保持しておくことができない。したがってプロセッサ312の異常状態(S300のN)において、ロービームスイッチがオンであるとき(S306のY)、補助画像展開部318は、配光画像データIMG_LDのフレームレートごとに補助画像IMG_AUXを展開し、配光画像データIMG_LDとする(S308)。ロービームスイッチがオフであれば(S306のN)、処理S300に戻る。
【0117】
実施例3によれば、揮発性メモリ322へのアクセスを減らすことができ、揮発性メモリ322の発熱を減らすことができる。プロセッサ312が高温により異常状態となっている場合には、プロセッサ312が揮発性メモリ322により加熱されるのを防止でき、短時間で冷却でき、正常状態に復帰させることができる。
【0118】
なお、実施例3の制御は、揮発性メモリ322に異常が生じている場合にも有効である。この場合、
図12の処理S300における「プロセッサ」を、「揮発性メモリ」と読み替えればよい。
【0119】
信号処理部310は、異常の発生箇所や原因に応じて、実施例1~実施例3の制御を切り替えてもよい。たとえば、プロセッサ312の異常状態では、実施例1または実施例2の制御を行い、揮発性メモリ322の異常状態では、実施例3の制御を行ってもよい。
【0120】
また、プロセッサ312が異常であり、揮発性メモリ322が正常である状況において、配光コントローラ300Aの温度が高い場合には、実施例3の制御を行うようにしてもよい。
【0121】
続いて補助画像IMG_AUXについて説明する。
図13(a)は、理想的なロービームの配光パターンPTN_LOを、
図13(b)、(c)は、補助画像IMG_AUXの例を示す図である。
図13(b)の補助画像IMG_AUX1は、ロービームの配光を粗くした画像である。
図13(b)の補助画像IMG_AUX1は、補助画像展開部318のハードウェアに余裕がある場合や、ハードウェアロジック回路314をASICで構成する場合に適している。
【0122】
補助画像IMG_AUXは、
図13(b)よりもさらに簡略化してもよく、
図13(c)の補助画像IMG_AUXは、単なる矩形である。より具体的には、補助画像IMG_AUX2は、ロービーム配光パターンPTN_LOのエルボー点Pを通る水平線HLより上側の領域R1の画素値が0であり、下側の領域R2の画素値が非ゼロである。
図13(c)の補助画像IMG_AUXは、極めて簡素なハードウェアによって揮発性メモリ322上に展開することができる。
【0123】
補助画像IMG_AUX2の下側の領域の画素値は均一としてもよい。この場合の画素値は、ロービーム用の配光パターンPTN_LOの位置ごとに法規で規定される上限値の最小値であってもよい。これにより、ピッチングの際のグレアを防止し、また近傍が明るすぎて遠方が見にくくなるような状況を回避できる。
【0124】
あるいは補助画像IMG_AUX2の下側の領域の画素値は、垂直方向に徐変してもよい。これにより、カットライン付近の急峻な明暗差を緩和でき、運転者が見やすい配光を形成できる。
【0125】
続いて、機能安全に関連する変形例を説明する。
【0126】
(変形例1)
ハードウェアロジック回路314が不揮発性メモリ320にアクセス可能である場合には、不揮発性メモリ320に補助画像IMG_AUXを格納しておき、読み出すようにしてもよい。
【0127】
(変形例2)
実施形態では、プロセッサ312が、ハイビーム画像IMG_HIとロービーム画像IMG_LOを分離して生成し、ハードウェアロジック回路314において合成することとしたがその限りでない。プロセッサ312は、最終的な配光可変ランプ200の配光を規定する1枚の画像データを生成し、揮発性メモリ322に書き込んでもよい。この場合、ハードウェアロジック回路314は、正常状態においては、揮発性メモリ322から画像データを読み出して、後段の出力インタフェース306に受け渡す。異常状態では、補助画像IMG_AUXを出力インタフェース306に受け渡す。
【0128】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、車両用灯具に関する。
【符号の説明】
【0130】
100…灯具システム,102…上位コントローラ,300…配光コントローラ,200…配光可変ランプ,210…LEDアレイデバイス,212…発光素子,220…インタフェース回路,300…配光コントローラ,302…ビークルバスインタフェース,304…広帯域インタフェース,306…出力インタフェース,308…オシレータ,310…信号処理部,312…プロセッサ,314…ハードウェアロジック回路,320…不揮発性メモリ,322…揮発性メモリ,324…監視用マイコン,L1…第1レイヤ画像,L2…第2レイヤ画像,L3…第3レイヤ画像,A1…第1領域,A2…第2領域,A3…第3領域