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特許7590457ロボットを用いた3Dプリンタ及びロボットの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ロボットを用いた3Dプリンタ及びロボットの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20241119BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20241119BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20241119BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241119BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20241119BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/106
B29C64/209
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022566892
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043480
(87)【国際公開番号】W WO2022118760
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020200551
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勇樹
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136711(JP,A)
【文献】特開2020-189484(JP,A)
【文献】特開2017-209762(JP,A)
【文献】特開2016-218934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形対象物の材料を吐出するノズルを備えた多関節ロボットを制御するロボット制御装置であって、
前記ノズルが前記造形対象物に対して前記材料を塗布しながら移動するときに従うべきプリント予定経路を含む制御指令を格納する制御指令格納部と、
前記制御指令に基づいて動作した前記多関節ロボットの関節の入力側及び出力側のそれぞれの角度情報に基づいて、前記ノズルの実際の動作軌跡であるプリント済み経路を求め、該プリント済み経路と前記プリント予定経路とのズレを推定するズレ推定部と、
推定された前記ズレを低減又は排除すべく前記制御指令を補正する制御指令補正部と、
を有する、ロボット制御装置。
【請求項2】
前記プリント予定経路と前記プリント済み経路とのズレが段階的に低減され、塗布の幅方向について前記プリント予定経路に漸近するようにプリント補正予定経路を生成する再計算部をさらに有し、
前記制御指令補正部は、前記再計算部が生成した前記プリント補正予定経路、及び該プリント補正予定経路と前記プリント済み経路とのズレに基づいて、前記制御指令を補正する、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記材料の吐出中に前記ノズルに作用する反力に基づいて前記造形対象物の塗布状態を推定する塗布状態推定部をさらに有し、
前記制御指令補正部は、前記反力が、前記塗布状態に基づいて予め定めた目標範囲内になるように前記制御指令を補正する、請求項1又は2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記プリント予定経路と前記プリント済み経路とのズレが段階的に低減される複数のプリント補正予定経路を生成する再計算部をさらに有し、
前記制御指令補正部は、前記プリント補正予定経路に基づいて、前記プリント済み経路が前記材料の塗布の厚さ方向について前記プリント予定経路に漸近するように前記制御指令を段階的に補正する、請求項3に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記再計算部は、以前に生成したプリント済み経路及び前記造形対象物の形状に基づいて新たなプリント予定経路を生成する、請求項2又は4に記載のロボット制御装置。
【請求項6】
造形対象物の材料を塗布して積層するノズルを備えた多関節ロボットと、
前記多関節ロボットを制御する請求項1~5のいずれか1項に記載のロボット制御装置と、を備える3Dプリンタ。
【請求項7】
前記多関節ロボットは、前記入力側の角度情報を取得する入力側エンコーダと、前記出力側の角度情報を取得する出力側エンコーダとを有する、請求項6に記載の3Dプリンタ。
【請求項8】
前記多関節ロボットは、前記ノズルに作用する反力を検出する力センサを有する、請求項6又は7に記載の3Dプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットを用いた3Dプリンタ、及び該ロボットの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂や金属等の材料を積層して立体物を造形(印刷)する積層造形装置(いわゆる3Dプリンタ)は、射出成形等に比べ、複雑な形状でも容易に造形することができる。典型的な3Dプリンタとしては門型の加工機が挙げられるが、産業用ロボットを用いた3Dプリンタも周知である(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0003】
一方、ロボットの減速機の内部機構において、剛性不足等により撓みや変形が生じ得るため、モータの回転軸の回転角度を検出する入力側エンコーダに加えて、減速機の出力軸の回転角度を検出する出力側エンコーダを備えるロボットが周知である(例えば特許文献3及び4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-537521号公報
【文献】特開2019-098682号公報
【文献】特開2016-027951号公報
【文献】特開2020-121355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
門型の加工機を用いた3Dプリンタでは、樹脂等の積層方向が限られることから、造形物の強度や剛性が不十分となる場合があった。一方、ロボットを用いた3Dプリンタでは、積層方向を任意に変更できるため、造形物の強度や剛性を高めることができるが、減速機構のバックラッシや、ロボットアーム先端に設けたノズルから溶融した樹脂を吐出する際にロボットが受ける反力の影響等により、ロボットの動作軌跡の精度が悪化することがある。この精度悪化を防止する手段として、ロボットの各軸を駆動するモータに入力側エンコーダを設けるだけでは、減速機のバックラッシ等の影響を正しく測定又は推定できないため、動作軌跡を適切に補正することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、造形対象物の材料を吐出するノズルを備えた多関節ロボットを制御するロボット制御装置であって、前記ノズルが前記造形対象物に対して前記材料を塗布しながら移動するときに従うべきプリント予定経路を含む制御指令を格納する制御指令格納部と、前記制御指令に基づいて動作した前記多関節ロボットの関節の入力側及び出力側のそれぞれの角度情報に基づいて、前記ノズルの実際の動作軌跡であるプリント済み経路を求め、該プリント済み経路と前記プリント予定経路とのズレを推定するズレ推定部と、推定された前記ズレを低減又は排除すべく前記制御指令を補正する制御指令補正部と、を有する、ロボット制御装置である。
【0007】
本開示の他の態様は、造形対象物の材料を塗布して積層するノズルを備えた多関節ロボットと、前記多関節ロボットを制御する上記一態様に係るロボット制御装置と、を備える3Dプリンタである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ロボットを用いた3Dプリンタにおいて、ロボットの入力軸側だけでなく出力軸側にも角度情報取得部を設け、塗布反力による影響をも考慮したロボット動作軌跡の補正をすることにより、造形対象物を極めて高精度に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る3Dプリンタに使用されるロボット及び造形対象物の概略図である。
図2図1のロボットに取り付けられるノズルユニットの概略図である。
図3】比較例に係る門型3Dプリンタ及び造形対象物の概略図である。
図4図1のロボットの要部を模式的に示す図である。
図5】第1実施例に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
図6】造形対象物に樹脂フィラメントを塗布した状態を示す概略図である。
図7】比較例として、図6の状態にさらに樹脂フィラメントを塗布した状態を示す概略図である。
図8】プリントの粗密の一例を示す図である。
図9】プリントの粗密の他の例を示す図である。
図10】プリントの粗密のさらなる他の例を示す図である。
図11】第2実施例に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
図12】第2実施例において、図6の状態にさらに樹脂フィラメントを塗布した状態を示す概略図である。
図13】ロボットの軌跡を段階的に補正する処理の一例を説明する図である。
図14】比較例として、凹凸を有する塗布表面に樹脂フィラメントを塗布した状態を示す概略図である。
図15図1のロボットの要部を模式的に示す図であって、力センサが追加された図である。
図16】第3実施例に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
図17】塗布方向と塗布反力との関係の一例を示すグラフである。
図18】第3実施例において、凹凸を有する塗布表面に樹脂フィラメントを塗布した状態を示す概略図である。
図19】第3実施例において、塗布表面に樹脂フィラメントを積層した状態を示す概略図である。
図20】第4実施例に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
図21】第4実施例において、塗布表面に樹脂フィラメントを積層した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、好適な実施形態に係る3Dプリンタとして使用されるロボット10、及び該3Dプリンタによって造形される造形対象物12の概略図である。ロボット10は、例えば6軸の産業用垂直多関節ロボットであり、床面等に設置されたベース14と、ベース14に対して略鉛直方向軸回りに回転可能に接続された旋回胴16と、旋回胴16に対して回転可能に接続された上腕18と、上腕18に対して回転可能に接続された前腕20と、前腕20に対して回転可能に接続された手首22と、手首22に対して回転可能に接続されたエンドエフェクタ24とを有する。本実施形態では、エンドエフェクタ24は、造形対象物12を構成する材料である樹脂フィラメントを吐出して対象物12に塗布するノズルユニットである。
【0011】
図2は、ノズルユニット24の概略構成を示す。ノズルユニット24は、融解した糸状の樹脂材料であるフィラメント26を造形対象物12に塗布するノズル27と、フィラメント26を融解するヒータ(図示せず)と、フィラメント26を送り出すローラ28を備え、これらは周知のものと同様でよい。ヒータの温度及びローラ28の回転量は、後述するロボット制御装置からの制御指令を少なくとも用いて制御することができる。またヒータの温度及びローラの回転量と、フィラメントの送り量との相関関係を表すデータは予め取得・記憶しておくことができ、このデータに基づいてフィラメントの送り量を制御することができる。
【0012】
図3は、比較例に係る門型3Dプリンタ11、及び門型3Dプリンタ11によって造形される造形対象物13の概略図であり、ここでは造形対象物13の形状は造形対象物12の形状と同一であるとする。図示のように、門型3Dプリンタ11では、造形対象物13の全体に亘って樹脂フィラメントの塗布方向が略水平方向に限定され、略鉛直方向にフィラメントが積層される。このように塗布方向及び積層方向が一様であると、特定の方向の力に対する造形物の強度が他の方向に比べ弱くなり、例えばその脚部15のような応力が集中しやすい部位で破損しやすくなるという問題があった。
【0013】
これに対し多関節ロボット10を用いたロボット3Dプリンタでは、ノズル27の位置及び姿勢はロボット10の可動範囲内において任意に変更・決定可能であり、任意の軌跡を描くようにフィラメントを塗布することができる。一般に、フィラメントの塗布方向によって造形対象物の強度は変化するが、本実施形態では任意の軌跡を描くようにフィラメントを塗布できるため、造形対象物の強度を優先した3Dプリントが可能になる。例えば図1に示したように、造形対象物12ではその部分ごとに樹脂の積層方向を変えることができ、全体として造形対象物13よりも高強度の製品を造形・製造することができる。特に、樹脂フィラメントにファイバーを混入させることでフィラメントが異方性を有する場合は、その異方性が有効に作用するように軌跡を決めることができ、造形対象物をより高強度にすることができる。
【0014】
このようにロボット10を用いた3Dプリンタでは、高強度の造形物を成形できるが、一方で門型3Dプリンタと少なくとも同程度の精度で樹脂フィラメントを塗布できることも求められる。以下、これを実現するための具体的手段について説明する。
【0015】
図4は、ロボット10の各軸周りの要部を、ロボット10を制御するロボット制御装置30とともに模式的に示す。ロボット10は、制御指令に基づいて動作したロボット10の関節の入力軸及び出力軸のそれぞれの角度情報を取得する角度情報取得部を備え、具体的には、モータ32によって駆動される入力軸34の回転角度を検出する入力側エンコーダ36と、減速機38等を介して入力軸34に連結された出力軸40の回転角度を検出する出力側エンコーダ42とを有する。図示例における出力側エンコーダ42は、出力軸40と一体的に回転する円板又はリング状のスケール部材44と、スケール部材44に設けられた角度検出用のパターンを光学式に読み取るセンサ46とを有し、入力側エンコーダ36についても同様の構成とすることができる。
【0016】
1つの回転軸に入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42の双方を設けることにより、減速機38の内部機構のがたつきや、剛性不足に起因する撓み・変形が発生したとしても、入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42により検出された回転角度の双方を用いることで、ロボット10の各関節軸の位置決め精度及び軌跡精度を向上することができる。なおこのような入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42の構成は、例えば特許文献4に記載のものと同様でよく、故に詳細な説明は省略する。なお出力軸40の角度情報を取得する手段としては、出力側エンコーダ42の他、ロボットアームにカメラ(図示せず)を設け、該カメラの画像を処理する画像処理装置(図示せず)を用いることもできる。
【0017】
(第1実施例)
図5は、ロボット制御装置30の第1実施例の機能ブロック図である。制御装置30は、例えばCPU、RAM等を有する演算部50と、液晶ディスプレイ等の表示装置52と、不揮発性ストレージ、ROM等を有する記憶装置54とを有し、演算部50は記憶装置54に含まれ得る。また制御装置30には、操作者が持ち運び可能な可搬式操作盤56が、有線又は無線で通信可能に接続され、操作盤56への操作者の入力内容等は制御装置30に送信・入力される。
【0018】
制御装置30は、多関節ロボット10の各軸のモータ32及びノズルユニット24に接続され、CPU等の制御部57によりこれらを制御する。各軸に設けられている入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42はそれぞれ、入力軸34及び出力軸40の角度情報を検出可能であり、検出した角度情報を制御装置30に送信する。ノズルユニット24はフィラメントの送り量を検出可能であり、検出した送り量を制御装置30に送信可能であるとともに、制御装置30から送り量に関する指令を受信可能である。
【0019】
図2に示すように、ロボット10を3Dプリンタとして使用する場合、ノズル27が塗布面60と近接した状態を維持しながら、粘性を有する融解したフィラメント26を吐出・塗布するので、ノズル27は塗布反力を受ける。より具体的には、ノズル27には、ノズル27の軸方向に沿う反力58と、塗布対象12の塗布面60に沿う反力62とが作用する。これらの反力と、ロボット10の減速機等の機構部内部の摩擦やバックラッシの影響とにより、制御指令と実際のロボット軌跡にはズレが生じ得る。よって入力側エンコーダ36のみを用いたフィードバックでは、例えば図6に示すフィラメント26aに対するフィラメント26bのように、実際のロボット軌跡が制御指令からずれたことに起因する塗布ズレが生じる可能性が比較的高い。また入力側エンコーダ36だけではフィラメント26bのような塗布ズレが生じた後に適切なフィードバックを行うことが難しいので、図6の状態からさらにフィラメントを塗布しようとすると、ノズル27がフィラメント26bに接触する等、適切な塗布反力が得られず、その結果図7に例示するように、フィラメント26cのように、フィラメントが変形したり塗布面60から浮き上がったりしてしまい、いわゆる塗布不良につながる恐れがある。
【0020】
そこで図5に示すように、演算部50は、予め指定又は作成されたロボット10の各軸のモータ32への制御指令を格納する制御指令格納部66と、入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42の双方の検出結果を受信して、制御指令とロボット10の実際の軌跡とのズレを推定するズレ推定部68と、ズレ推定部68の推定結果を用いて制御指令を補正する制御指令補正部70とを有する。
【0021】
このように構成されたロボット3Dプリンタの基本的な動作を説明する。制御装置30の記憶装置54には、造形対象物12の3D形状データ、3D形状データに従って造形対象物を3Dプリンタで成形するのに必要なプリント経路生成アルゴリズム、プリント予定経路、プリント済み経路、経路補正アルゴリズム及びプリント補正予定経路が格納される。以下、各用語について説明する。
【0022】
3D形状データは、3Dプリンタによって造形対象物が最終的に成形されるべき形状を表すデータであり、造形対象物(の各部)に要求される強度の情報、プリント方向(造形対象物に対するフィラメント吐出時のノズルの移動方向)、及びプリントの粗密等の情報も含む。粗密の具体例としては、図8-10に示すように、略円柱形状の造形対象物12の内部に、断面積の異なる中空部72a-72cのいずれかを形成し、対象物12の実質的密度を所望の値にすることが挙げられる。図示例では中空部の断面形状はいずれも六角形であるが、これに限られるものではなく、任意の形状とすることができる。このようなプリントの粗密は従来の門型3Dプリンタでも実現可能であるが、ロボットを用いた場合はフィラメントを任意の方向に積層できるので、より複雑で好適な形状の中空部を形成することができる。
【0023】
プリント予定経路は、ノズル27が造形対象物12に対して樹脂フィラメントを塗布しながら移動するときに従うべき経路であり、造形対象物12の3D形状データを経路生成アルゴリズムに読み込ませることで生成され、ロボット10は制御指令に含まれるプリント予定経路を元に動作を開始・実行する。経路生成アルゴリズムは、多関節ロボットの機構干渉解析アルゴリズムを含み、ロボットが動作可能な軌跡として経路生成する。但しプリント予定経路は、機械的な経路生成アルゴリズムに完全に依存するものでなくてもよく、例えば操作者の操作によって微調整されてもよい。なお本実施形態においては、プリント1回ごとに経路の補正を蓄積して高精度化を図っており、1回分のプリントをプリントジョブとも称する。
【0024】
プリント済み経路は、入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42の検出結果、フィラメント送り量、及び後述する力センサからのフィードバック等に基づいて再現された、ノズル27の実際の動作軌跡であり、プリントジョブごとのプリント履歴とも言える。
【0025】
プリント補正予定経路は、少なくとも上述の3D形状データ、実行済みのプリント予定経路及びこれに対応するプリント済み経路を用いて、造形対象物の最終的な形状を3D形状データが表す形状に一致させるべく、プリントの最中に、実行済みのプリント予定経路とこれに対応するプリント済み経路とを滑らかに接続し、残り(未実行)のプリント予定経路に立体的な変形を加えることで補正された経路である。プリント予定経路、プリント済み経路及びプリント補正予定経路は、表示装置52や操作盤56等を用いて、外部のユーザインターフェースから視覚的に理解し易い状態で確認可能とすることもできる。
【0026】
経路補正アルゴリズムは、プリント補正予定経路を生成するためのアルゴリズムである。元々のプリント予定経路をどこまで忠実に再現するかの度合や、補正を反映するタイミング、更新するタイミングは別途指定可能とすることができる。
【0027】
次に、第1実施例に係る図5の制御装置30における処理の具体例を説明する。先ず、演算部50の制御指令格納部66には、上述のプリント予定経路に基づいた制御指令が格納されている。制御指令は、造形対象物12のプリントを開始する際、ノズル27が造形対象物12のプリント予定経路に従って移動しつつ樹脂フィラメント26を吐出するように、ロボット10の各軸のモータ32及びノズルユニット24に送られる。ロボット10は、送られた制御指令に従い、例えば図6に示すように、造形対象物12に樹脂フィラメント26aを塗布していく。
【0028】
ここで演算部50では、入力側エンコーダ36及び出力側エンコーダ42の検出結果に基づいて、プリント済み経路が生成される。次にズレ推定部68において、プリント予定経路とプリント済み経路との差に基づき、制御指定と実際のロボットの動作軌跡とのズレが計算・推定される。そして制御指令補正部70において、推定されたズレを低減又は排除すべく制御指令が補正される。例えば図6の例では、直線状のフィラメントを1本塗布するごとに、又は1本のフィラメントを予め指定した長さで区切った各セグメントを塗布するごとに、プリント済み経路を作成し、プリント予定経路とのズレに基づいて制御指令を補正することで、フィラメント26bが予定経路から大きく乖離していることを検出し、フィラメント26bのズレを低減・排除するようにフィラメント26bの塗布経路を補正することができる。従って、図7のフィラメント26cのようにさらにズレが大きくなるような不具合が生じる可能性を大きく低減することができる。第1実施例におけるプリント済み経路としては、塗布すべきフィラメント又はセグメントの直近のフィラメント又はセグメントの情報があれば足りる。
【0029】
第1実施例では、プリントを開始する前から出力側エンコーダ42の情報を読み込み、読み込んだ情報を用いて制御指令に補正を加えることで、ロボット10(のノズル27)の動作軌道の高精度化を図っている。すなわち、出力側エンコーダ42は、3Dプリンタ特有の現象である塗布反力の影響も含めたノズルの軌跡の誤差を正確に検出できるので、3Dプリンタに特有の課題を解決し、極めて高精度の3Dプリントが可能となる。例えば、図6のフィラメント26bのような塗布ズレが発生する確率が大きく低減され、仮にフィラメント26bのような塗布ズレが発生しても、図7のフィラメント26cのようにさらに塗布ズレが拡大する確率が大きく低減される。
【0030】
(第2実施例)
図11は、ロボット制御装置30の第2実施例の機能ブロック図である。なお第2実施例では、第1実施例と異なる点のみを説明し、第1実施例と同様でよい点については説明を省略する。
【0031】
演算部50は、制御指令格納部66、ズレ推定部68及び制御指令補正部70に加え、ズレ補正の履歴を蓄積して、ノズル27が従うべき軌跡を再計算する再計算部74をさらに有し、制御指令補正部70は、再計算された軌跡に基づいて、ズレの補正量を変更する。換言すれば、塗布の幅方向に塗布ズレが発生した後、実際の軌跡が漸近的に目標軌跡となるように1本以上のプリント補正予定経路が再計算部74によって生成され、制御指令補正部70においてプリント補正予定経路に基づいて制御指令が段階的に補正される。例えば、図6のフィラメント26bのような塗布ズレが発生した後、フィラメント26dで示すように塗布ズレを段階的に減らすような塗布が行われ、最終的にはフィラメント26eのように目標軌跡に一致した塗布が行われる。第2実施例におけるプリント済み経路は、過去のプリント履歴を全て含むものであることが好ましい。
【0032】
図13は、図12のような塗布を実現する処理の具体例を説明する。ここでは、フィラメントが塗布される経路を点群データで表しており、フィラメント26aでは、丸印76で表すプリント予定経路と、三角印78で表すプリント済み経路とが概ね一致している。しかし塗布反力のばらつき等の要因により、フィラメント26bに示すように、プリント済み経路78がプリント予定経路76から乖離してしまったとする。
【0033】
次に塗布されるフィラメント26dでは、フィラメント26bで生じたズレに相当する量だけ経路を補正するのではなく、四角印80で表すプリント補正予定経路のように、上記ズレより少ない量の補正を複数回(図12の例では4回)行い、最終的にフィラメント26eのように、プリント予定経路76にほぼ一致したプリント補正予定経路80となるようにする。これにより、ズレを滑らかに補正して所望形状の造形対象物を得ることができる。このような点群同士の座標の擦り合わせとしては種々の手法が利用可能であるが、例えば、単純な周囲との平均を求める方法や、数値解析的な熱平衡モデルを用いる方法等が挙げられる。
【0034】
第2実施例では、第1実施例と同様にプリント予定経路とプリント済み経路とのズレを検出・推定した後、経路補正アルゴリズムが実行され、3D形状データや推定したズレに基づいて、予め指定された補正強度にて上述のプリント補正予定経路が生成され、指定したタイミングで3Dプリントの経路(制御指令)が更新される。
【0035】
ここで補正強度とは、プリント補正予定経路の生成において、軌跡のズレをどの程度の頻度で補正するか、何段階でプリント予定経路に漸近させるか、ズレの補正のために、補正対象軌跡からどれだけ離れた範囲までの他の軌跡の情報を利用するか等、操作者が予め設定・変更しておくものである。なおプリント補正予定経路の生成と、実際の3Dプリントは同時進行していてもよいが、上述の補正強度の設定において広範囲のズレを補正に反映するようにしている場合は、当該範囲のプリント済み経路が全て生成されるまでプリント補正予定経路の生成を待つこともある。
【0036】
このように第2実施例では、塗布の幅方向(塗布面に平行な方向)でのフィラメント塗布に関し、プリント予定経路とプリント済み経路とのズレが段階的に低減されるプリント補正予定経路を生成して、該プリント補正予定経路、及び該プリント補正予定経路とプリント済み経路とのズレを用いて、漸近的に目標とする塗布状態となるように制御指令を補正するので、塗布ズレを滑らかに解消して、造形対象物の外観を所望のものとすることができる。
【0037】
(第3実施例)
図14は、比較例として、フィラメント塗布時に適正な反力が得られなかった場合の塗布状態の一例を示す。ここでは、造形対象物12の塗布表面61が、平坦ではなく凹凸を有している。図2に関して説明したように、フィラメント26を塗布しているときのノズル27には塗布反力58及び62が作用するが、塗布面61が凹凸を有するような場合は特に、塗布反力が大きく変動することがある。塗布反力が想定値より大きいとフィラメント26が潰れる等の不具合が生じ、逆に小さいとフィラメント26が塗布面61に馴染まず、図14に示すように塗布面61から剥離する等の不具合が生じる。また塗布面の凹凸以外にも、塗布面又は周囲の温度、湿度、ロボットの軌跡のブレ、ノズルの状態等によって、塗布反力は変動することがあり、この変動はプリント品質に悪影響をもたらす。
【0038】
そこで図15に示すように、第3実施例では、ノズル27に作用する反力を測定する力センサ82をノズルユニット24内又はその近傍に設ける。力センサ82の具体例としては、直交3方向の力と、回転3方向のトルクとを検出できる6軸力センサが挙げられる。このような力センサ82の使用により、反力58及び62の合力の大きさ及び方向を検出することができ、当該合力を用いた簡単な計算によって、反力58及び62のそれぞれの大きさを求めることができる。但し塗布反力を推定する手段は6軸力センサに限られず、例えば、ノズルユニット24の先端にスライダ及びバネを設け、該スライダの押し込み量及びバネ定数から力を求める方法や、静電容量式センサやレーザ変位計を用いて塗布面とノズルとの距離を求め、フィラメントの物性から力を求める方法なども挙げられる。またこれらの方法は、ノズルユニット内部の付属機能として実現することもできる。
【0039】
図16に示すように、ロボット制御装置30の演算部50は、制御指令格納部66、ズレ推定部68及び制御指令補正部70に加え、樹脂フィラメント吐出時の力センサ82の検出結果を用いて、塗布反力と強い相関があるフィラメントの塗布状態を推定する塗布状態推定部84をさらに有し、制御指令補正部70は、ズレ推定部68の推定結果に加えて推定された塗布状態も用いて、制御指令を補正する。
【0040】
具体的には、例えば図17に示すような、塗布方向と理想的な塗布反力との関係を予め目標データとして制御装置30の記憶装置54等に記憶しておく。理想的反力は、フィラメントの潰れや剥離がない良好な塗布状態を得るためのものであり、フィラメントの材質及び線径、印刷速度、印刷品質並びに塗布方向等によって異なるが、これらの情報も予め記憶装置54等に与えておくことができる。また塗布反力及びフィラメントの送り量と、フィラメント塗布時の変形の態様との関係も予めデータとして取得・記憶しておくことができる。
【0041】
そして力センサ82が検出した実際の塗布反力が、良好な塗布状態を実現できる予め定めた目標範囲内となるようにフィードバック制御を行うことができる。このように、力センサ82をロボットアーム18又は20とノズルユニット24との間に設け、塗布反力を制御装置30にて取得可能とすることで、塗布反力の履歴を用いて、指定した目標塗布反力となるようにノズル27を塗布面61に押し付けることが可能になり、例えば図18に示すような、塗布面61の湾曲や凹凸等にフィットしたプリントが可能になる。
【0042】
(第4実施例)
次に、ロボット制御装置30の第4実施例を説明する。なお第4実施例は、第2実施例と第3実施例とを組み合わせたものに概ね相当するが、ここでは第2実施例及び第3実施例と異なる点のみを説明し、第2実施例又は第3実施例と同様でよい点については説明を省略する。
【0043】
第3実施例では、塗布面61に意図しない凹凸があってもそれにフィットしたフィラメント塗布を行うことができるが、そのような塗布を厚さ方向(塗布面61に略垂直な方向)に反復した場合、図19に示すように、最終的な造形対象物の外形も塗布面61の凹凸を反映したものとなってしまうことがある。具体的には、塗布面61の上に、塗布面61の凹凸にフィットしたフィラメント26fが塗布され、フィラメント26fの上に、フィラメント26fと同一形状のフィラメント26gが積層されていく。
【0044】
そこで図20に示すように、ロボット制御装置30の演算部50は、制御指令格納部66、ズレ推定部68、制御指令補正部70及び塗布状態推定部84に加え、ズレ補正を蓄積して軌跡を再計算する再計算部74をさらに有し、制御指令補正部70は、第2実施例と同様に、再計算された軌跡に基づいて、ズレの補正量を変更する。換言すれば、塗布の厚さ方向に塗布ズレが発生した後、実際の軌跡が漸近的に目標軌跡となるように、制御指令が段階的に補正される。例えば、図19のフィラメント26fのように塗布面の凹凸にフィットするフィラメントが塗布された後、フィラメント26hで示すように凹凸を段階的に減らすような塗布が行われ、最終的には図21に示すように、フィラメント26iのように目標軌跡に一致した塗布が行われる。
【0045】
なお第4実施例では、図13を用いて説明した第2実施例と同様に、プリント補正予定経路80を、指定された制御指令に含まれるプリント予定経路76に基づいて生成しているが、以前に生成したプリント済み経路に基づいて新たなプリント予定経路を生成することも可能である。例えば、塗布面61上に意図しない大きな凹部があり、プリント済み経路と元のプリント予定経路との乖離が大きく、漸近的な補正では適切な塗布が困難となり得る場合、プリント済み経路と造形対象物との形状の差分に基づいて、先ず該凹部のみを埋めるような経路を含む新たなプリント予定経路を生成することできる。このような処理は、再計算部74を含む第2実施例でも行うことができる。
【0046】
上述の制御装置30の各部の機能は、コンピュータプログラムによって提供することもできる。例えば、記憶装置54は、演算部50で実行される各処理で利用される各種のデータや、各処理の途中で生成される各種のデータを記憶する。演算部50の各構成要素(制御指令補正部70等)は、プロセッサで実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールであり得る。またそのようなコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータで読取可能な非一過性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 ロボット
12 造形対象物
24 ノズルユニット
26 フィラメント
27 ノズル
30 ロボット制御装置
32 モータ
36 入力側エンコーダ
42 出力側エンコーダ
50 演算部
52 表示装置
54 記憶装置
56 操作盤
57 制御部
58、62 塗布反力
60、61 塗布面
66 制御指令格納部
68 ズレ推定部
70 制御指令補正部
74 再計算部
82 力センサ
84 塗布状態推定部
図1
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