(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】永久磁石同期機
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20241119BHJP
【FI】
H02P6/182
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023024025
(22)【出願日】2023-02-20
【審査請求日】2023-07-07
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520415627
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・テクノロジー・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ジノウ・ワン
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-119983(JP,A)
【文献】特開2020-191724(JP,A)
【文献】特開2017-163663(JP,A)
【文献】特開2022-037871(JP,A)
【文献】特開2018-033301(JP,A)
【文献】特開2020-096503(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0074327(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ(14,16)と、
永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの稼働中に、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧に基づいて検出可能である逆向きに作用する電磁力によって、前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための装置(21)とを有する永久磁石同期機(17)、特に真空ポンプ(14,16)の三相交流機であって、
前記装置(21)は、
少なくとも2つの誘導電圧をデジタル化するアナログデジタル変換器(23)と、
当該少なくとも2つのデジタル化された電圧をクラーク変換する変換部(25)と、
信号対雑音比を√N倍だけ増やすため、当該少なくとも2つの
クラーク変換された電圧の変数N個の測定値によって少なくとも2つの平均電圧を計算する平均化器(27)と、
前記ロータ(14,16)の回転数に依存して前記変数N個を決定する決定モジュール(29)と、
前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を推測する推定モジュール(41)とを有する当該永久磁石同期機(14,16)。
【請求項2】
前記決定モジュール(29)は、既定の値によって前記変数Nを初期化し、当該算出された角速度に依存して前記変数Nを反復的に適合する請求項1に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項3】
前記決定モジュール(29)は、前記角速度が下閾値を下回るときに、前記変数Nを増大させ、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nを減少させる請求項2に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項4】
前記ロータ(14,16)の回転数が増大するときに、前記決定モジュール(29)は、前記変数Nを減少させる請求項1~
3のいずれか1項に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項5】
前記推定モジュール(41)は、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を算出する請求項1~
3のいずれか1項に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項6】
前記推定モジュール(41)は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を確認する請求項
5に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項7】
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための前記装置(21)は、前記ロータ(14,17)の移動に対する機械モデルに基づくカルマンフィルタ(51)をさらに有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項8】
前記カルマンフィルタは、前記ロータ(14,16)の角度に対してと、前記ロータ(14,16)の角速度に対してと、前記ロータ(14,16)の制動トルクとに対して演繹的な推定値と帰納的な推定値とを有する請求項
7に記載の永久磁石同期機(17)。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の永久磁石同期機(17)を有する真空ポンプ(13,15)。
【請求項10】
特に永久磁石同期機(17)の駆動回転数未満のロータ(14,16)の低い回転数の場合に、前記永久磁石同期機(17)内の前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための方法であって、
前記永久磁石同期機は、前記ロータ(14,16)とアナログデジタル変換器(23)を有し、
前記方法は、
前記永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの駆動中の逆向きに作用する電磁力を示す、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によって検出されることと、
当該誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によってデジタル化されることと、
当該少なくとも2つのデジタル化された電圧が、変換部(25)によってクラーク変換されることと、
信号対雑音比を√N倍だけ増やすため、少なくとも2つの平均電圧が、当該少なくとも2つの
クラーク変換された電圧の、前記ロータ(14,16)の回転数に依存して決定される変数N個の測定値に基づいて計算されることと、
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて推定されることとを有する当該方法。
【請求項11】
前記変数Nは、既定の値によって初期化され、前記変数Nは、当該算出された角速度に依存して反復的に適合される請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記角速度が、下閾値を下回るときに、前記変数Nが増大され、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nが減少される請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記ロータ(14,16)の回転方向が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて算出される請求項
10~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ロータ(14,16)の回転方向は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて確認される請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期機及び永久磁石同期機を有する真空ポンプ並びに永久磁石同期機内のロータの角度及び角速度を算出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期機のエンコーダなしの駆動の場合、当該永久磁石同期機のロータの磁束に対する角度情報、すなわち位相角及び角速度が、逆向きに作用する電磁力(逆起電力)とも呼ばれる当該磁束によって誘導された電圧の測定に基づいて算出される。逆起電力のモデルに基づくエンコーダなしの駆動が、例えば真空ポンプ内のロータの駆動として、そのロバスト性とその高い性能とに起因して、平均の回転数から高い回転数までの範囲内で、永久磁石同期機の使用に対して最適な解決策を提供することが分かっている。
【0003】
しかしながら、低い回転数の範囲内では、例えば、停止直後の永久磁石同期機の再起動時では、逆起電力の測定は技術的に困難である。何故なら、測定すべき誘導電圧が、当該逆起電力に起因して電気的な背景雑音とほぼ同じ大きさ又はほぼ同じ値を有するからである。したがって、当該測定すべき電圧は、逆起電力に起因して低い回転数時に非常に小さい信号対雑音比を有する。これは、特に、永久磁石同期機の定格回転数又は駆動回転数の約1%の非常に小さい回転数で発生する。
【0004】
したがって、低い回転数では、従来では、逆起電力に関する情報を取得しないで済む特別な手法が、永久磁石同期機を駆動するために使用される。この手法によれば、当該永久磁石同期機は、基準モード、すなわち逆起電力の測定に基づくモードに変更可能である回転数に移行される。この特別な手法は、閉ループ制御による永久磁石同期機の再起動(この場合、ロータの位相角が監視され、このロータの加速度が適合される)と、閉ループ制御を意味するフィードバックなしに開ループ制御(「Open Loop」)される(この場合、当該開ループ制御は、主に電圧周波数制御である)再起動とを含む。しかしながら、これらの両手法は、特別な種類の永久磁石同期機だけに対して適している。
【0005】
さらに、逆起電力に基づく開ループ制御による基準モードへの問題のない移行は、永久磁石同期機のエンコーダなしの駆動の全体の安定性及びロバスト性にとって重要である。それ故に、フィードバックなしに開ループ制御される再起動の改善された手法は、ロータ角度を実際の加速前に所定の位置に移動させることに寄与する追加の同期ステップ又は同期フェーズを再起動中に使用する。
【0006】
このような手法は、例えば欧州特許第3422559号明細書及び欧州特許出願公開第3726725号明細書に記載されていて、ロータの停止状態からの永久磁石同期機の再起動は、良好に実行されることが実証されている。しかしながら、追加の同期ステップに移行する前に、永久磁石同期機のロータが、既に緩やかに回転しているときは、技術的に困難である。この場合、ロータが、同期中に同期ベクトルによって「同期(eingefangen)」される可能性は比較的低い。これにより、永久磁石同期機が、実際の再起動フェーズに移行するときに、初期角度が不正確になり得るので、当該永久磁石同期機の全体の再起動プロセスが正常に実行されない。永久磁石同期機をロータの停止なしの状態から再起動させるためには、実際には、多大な労力が必要になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第3422559号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3726725号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、永久磁石同期機をロータの停止なしの初期状態から確実に再起動させることを可能にする永久磁石同期機及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項に記載の特徴を有する永久磁石同期機及び対応する方法によって解決される。
【0010】
当該永久磁石同期機は、特に真空ポンプの三相交流機として構成されている。当該永久磁石同期機は、ロータと、当該永久磁石同期機がエンコーダなしに駆動される間に、当該ロータによって誘導された少なくとも2つの電圧に基づいて検出可能である逆起電力に作用する電磁力によって当該ロータの角度及び角速度を算出するための装置とを有する。
【0011】
ロータの角度及び角速度を算出するための装置は、アナログデジタル変換器、平均化器、決定モジュール及び推定モジュールを有する。当該アナログデジタル変換器は、逆向きに作用する電磁力(逆起電力)によって引き起こされる少なくとも2つの誘導電圧をデジタル化する。当該平均化器は、当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の変数N個の測定値によって少なくとも2つの平均電圧を計算する。変数Nは、当該ロータの回転数に依存して当該決定モジュールによって決定される。最後に、当該推定モジュールは、当該少なくとも2つの平均電圧に基づいて当該ロータの角度及び角速度を推測する。
【0012】
ロータの低い回転数の場合でも、角度及び角速度の確実な推定が、2つの誘導電圧に基づいて可能になるように、信号対雑音比が、2つのデジタル化された電圧のN個の測定値による平均化に基づいて改善される点で、当該永久磁石同期機は優れている。N個の測定値による平均化の場合、無相関雑音の振幅は、√N倍だけ増える一方で、コヒーレント信号とみなされ得る当該デジタル化された電圧のそれぞれの振幅は、当該平均化時にN倍だけ増える。したがって、信号対雑音比は、N個の測定値による当該平均化に起因して同様に√N倍だけ増える。
【0013】
当該平均化の場合、2つの誘導電圧は、N個の測定値にわたってほぼ一定のままであると仮定される。当該仮定は、特にロータの低い回転数の場合に適正である。しかしながら、例えばエイリアシングによる問題を回避するため、複数の測定値を平均するための数Nは、ロータの回転数に依存する変数である。非常に低い回転数の場合は、約100のNに対する大きい値が必要である一方で、より高い回転数の場合は、Nは減少され得ることが知られている。ロータの十分な回転数の場合、N=1であり、したがって当該平均化は省略される。
【0014】
当該アナログデジタル変換器が、少なくとも2つの誘導電圧を一定のサンプリング周波数fSによってデジタル化する場合、平均化器から出力される平均電圧は、fS/Nの新しい等価サンプリング周波数を有する。換言すれば、係数Nによるダウンサンプリングが、当該平均化器によって実行される。しかしながら、当該誘導電圧がN個の測定値にわたって一定であるという仮定は、数Nが非常に大きくならない場合にだけ適正である。詳しくは、Nとロータの角速度又は回転周波数との積は、この積が2πfSよりも小さいという条件を満たさなければならない。それ故に、この条件が満たされているように、決定モジュールは、変数Nを決定する。永久磁石同期機の再起動の場合、当該ロータの回転周波数又は回転数は連続して変化するので、例えば、上記の数Nに対する条件は常に監視される。
【0015】
本発明の利点は、非常に低い回転数の場合でも、ロータの角度及び角速度が、逆向きに作用する電磁力に基づいて推定され得て、したがって例えば永久磁石同期機の再起動時に、上記の同期のためのいずれの手法も不要であることにある。ロータの角度及び角速度が、逆向きに作用する電磁力に起因する誘導電圧に基づいて算出され得るので、当該ロータが、停止状態になく、低い回転数で回転しているときでも、当該同期のための正確な初期角度が、永久磁石同期機の再起動フェーズの開始に対して算出され得る。それ故に、等が永久磁石同期機の確実な再起動が、この事態に対しても、すなわち当該同期フェーズへの移行中の当該ロータの緩やかな回転時に可能である。
【0016】
永久磁石同期機が、例えば真空ポンプの三相交流機として構成されている場合、逆向きに作用する電磁力が、3つの誘導電圧に基づいて検出される。同様に、当該3つの誘導電圧は、クラーク変換によって実部と虚部とを有する電圧に変換され得る。この場合、当該測定された少なくとも2つの電圧は、クラーク変換から生成された電圧の実部と虚部とを有する。この場合、当該ロータの角度及び角速度を推定するため、当該デジタル化された誘導電圧は、クラーク変換後の電圧の実部及び虚部ごとに別々に平均化され、推定モジュールが、当該電圧の平均された実部と算出された虚部との双方を考慮する。
【0017】
本発明の永久磁石同期機は、好ましくは、多くの場合に停止するまで長い回転期間を要するターボ分子ポンプ内で使用され得る。したがって、当該ターボ分子ポンプの場合、それぞれのターボ分子ポンプのロータが、依然として停止状態にないときに、新たな始動が既に実行され得る。この場合、推定モジュールが、当該ロータの角度及び角速度の確実な推定を提供する。その結果、当該ターボ分子ポンプは、確実に再起動され得る。
【0018】
本発明の好適なその他の構成は、従属請求項、明細書及び図面に記載されている。
【0019】
決定モジュールは、既定の値によって数Nを初期化でき、算出された角速度に依存して当該数Nを反復的に適合できる。これに応じて、平均化器は、デジタル化された少なくとも2つの電圧値のそれぞれN個の測定値を反復的に取得できる。したがって、数Nの更新が、既定の時間間隔ごとに算出された角速度によるフィードバックに基づいて実行される。例えば、当該角速度を示す信号の信号対雑音比が算出され得て、数Nが、この信号対雑音比に基づいて適合され得る。これにより、当該ロータの角度及び角速度の算出時の信頼性が改善され得る。
【0020】
決定モジュールは、当該角速度が下閾値を下回るときに、当該変数Nを増大でき、当該決定モジュールは、当該角速度が上閾値を上回るときに、当該変数Nを減少できる。当該決定モジュールは、当該角速度の信号対雑音比に対する目標値に基づいて当該上閾値及び当該下閾値を決定できる。それぞれの変数Nごとに、角速度の最適な範囲があることが知られている。この範囲内で、信号対雑音比と、閾値幅、すなわち上閾値と下閾値との差とが相互に調整されている。変数Nをダイナミックに適合することによって、すなわち下閾値を超えたときに変数Nを増大させ、上閾値を超えたときに変数Nを減少させることによって、一方では角度及び角速度を確実に算出するために十分な信号対雑音比が提供される一方で、他方ではエイリアシングの問題を引き起こし得る非常に大きい変数Nによる平均化が回避されることが保証され得る。
【0021】
ロータの回転数が増大するときに、決定モジュールは、変数Nを減少できる。例えば、数N=100が、非常に低い回転数のときに使用され得る。この数N=100は、より高い回転数であるが、依然として低い回転数のときにN=10に減少される一方で、十分な回転数以降は、N=1が使用される。しかしながら、当該変数Nのダイナミックな適合を改善するため、これらのステップ間で、Nに対する任意の中間ステップが可能である。
【0022】
さらに、推定モジュールは、少なくとも2つの平均電圧に基づいてロータの回転方向を算出できる。当該算出は、例えば、当該推定モジュールが当該2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、当該2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号と確認することによって実行できる。当該ロータの算出された回転方向は、例えば、永久磁石同期機の再起動中の同期時に使用され得る別の情報を提供する。これにより、当該同期と当該再起動の全体との信頼性が改善され得る。当該ロータの回転方向の算出は、既定の頻度で実行され得る。
【0023】
さらに、ロータの角度及び角速度を算出するための装置が、当該ロータの移動に対する機械モデルに基づくカルマンフィルタを有し得る。当該カルマンフィルタは、当該ロータの角度に対してと、当該ロータの角速度に対してと、当該ロータの制動トルクとに対して演繹的な推定値と帰納的な推定値とを有し得る。このようなカルマンフィルタの使用は、2つの平均電圧の信号対雑音比を改善できる。これにより、当該ロータの角度及び角速度の推定時の信頼性がさらに改善される。
【0024】
さらに、本発明は、上記の永久磁石同期機を有する真空ポンプに関する。
【0025】
さらに、本発明は、特に永久磁石同期機の駆動回転数未満のロータの低い回転数の場合に、当該永久磁石同期機内の当該ロータの角度及び角速度を算出するための方法に関する。この場合、当該永久磁石同期機は、当該ロータとアナログデジタル変換器(23)を有し、エンコーダなしに駆動される。
【0026】
当該方法によれば、ロータによって誘導された少なくとも2つの電圧が、アナログデジタル変換器によって検出される。当該2つの誘導電圧は、当該永久磁石同期機のエンコーダなしの駆動中の逆向きに作用する電磁力(逆起電力)を示す。当該少なくとも2つの誘導電圧が、当該アナログデジタル変換器によってデジタル化される。引き続き、少なくとも2つの平均電圧が、当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の変数N個の測定値に基づいて計算される。当該変数Nは、当該永久磁石同期機のロータの回転数に依存して決定される。当該ロータの角度及び角速度が、当該少なくとも2つの平均電圧に基づいて推定される。
【0027】
したがって、当該方法は、永久磁石同期機の稼働又は再起動中に、ロータロータの角度及び角速度を算出するための上記の装置によって実行される複数の方法ステップを有する。したがって、上記の本発明の永久磁石同期機に対する説明は、本発明の方法、特に当該方法の内容、利点及び好適な実施の形態に対しても成立する。当該変数Nは、既定の値によって初期化され得て、引き続き、当該変数Nは、当該算出された角速度に依存して反復的に適合され得る。この適合の場合、当該角速度が、下閾値を下回るときに、当該変数Nが増大され得て、当該角速度が上閾値を上回るときに、当該変数Nが減少され得る。当該ロータの回転方向が、当該少なくとも2つの平均電圧に基づいて算出され得る。詳しくは、当該ロータの回転方向は、当該2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、当該2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて確認され得る。
【0028】
以下に、本発明を、添付図面を参照して好適な実施の形態に基づいて例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】永久磁石同期機用の典型的な三相インバータを示す。
【
図1B】直交座標系で示された電圧ベクトルを示す。
【
図2】永久磁石同期機のロータの角度及び角速度を算出するための装置のモジュールを示す。
【
図3】平均するための電圧値の数Nを決定するためのフローチャートである。
【
図5】永久磁石同期機のロータの角度及び角速度を算出するための装置の第2の実施の形態を示す。
【
図6】複数の真空ポンプが本発明の永久磁石同期機によって駆動される真空設備の図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1Aは、それぞれの相U,V,Wの出力電圧u
V,u
U,u
Wが正の中間回路電圧U
dcが設定され得るように、3つの相ζ=U,V,Wのそれぞれの相ごとに1つのハーフブリッジを有する典型的な三相インバータ11を概略的に示す。出力電圧u
V,u
U,u
Wは、永久磁石同期機17(
図6参照)の対応する複数の電磁石に、すなわちこの永久磁石同期機17のステータに対して給電するために、すなわちこの永久磁石同期機17を駆動するために設けられている。それぞれの相ζの電圧成分u
ζは、切換状態s
ζがHに等しいときに値U
dcを取り、切換状態s
ζ=Lであるときに値0を取る。所定のデューティー比が、
【数1】
の場合、電圧u
ζ=λ
ζ×U
dcが、それぞれの相ζごとに発生する。
図1Bは、電圧ベクトル
【数2】
を直交座標系で示す。当該座標系の座標は、当該電圧ベクトルの実数部u
αと虚数部u
βとに相当する。したがって、当該電圧ベクトルは、以下の等価関係によって表記され得る。
【数3】
【0031】
第2方程式では、f(t)は、当該電圧ベクトルの回転周波数を示す一方で、γ
0は、位相差である。したがって、
図1Bは、電圧ベクトルの一般的なフェーザ図である。当該電圧ベクトルの振幅又は絶対値uが、時間tの関数として周波数fで回転する。
【0032】
永久磁石同期機17に給電するための3つの電圧電位又は出力電圧u
V,u
U,u
Wは、クラーク変換を使用して実部u
α及び虚部u
βによって規定された電圧ベクトルに変換され得る。
【数4】
【0033】
望ましい電圧ベクトル
【数5】
が、逆クラーク変換を使用して以下のように零電位に対する3つの電圧電位
【数6】
に変換され得る。
【数7】
【0034】
以下では、逆向きに作用する電磁力(逆起電力)がロータの角度及び角速度を算出するための唯一の情報源でることを前提とする。この角度及び個の角速度はそれぞれ電気変数である。ロータ角度を算出するための高周波信号の注入を考慮する必要はない。
【0035】
磁束Ψ
mが、ロータの閉ループ磁束(Rotorschlussverkettung)として与えられている場合、ロータ角度γは、クラーク変換後のα-β座標系における複素値(Drehzeiger)を以下のように形成する。
【数8】
【0036】
当該ロータが、零よりも大きい値である角速度ωで回転すると、誘導電圧が以下のように発生する。
【数9】
【数10】
は、上記のクラーク変換後の計測系において以下のように与えられている逆向きに作用する電磁力(逆起電力)である。
【数11】
【0037】
2つの独立した測定値又は誘導電圧
【数12】
によって、当該ロータ角度γの推定値(Schaetzung)が、
【数13】
によって表記され得る。
【数14】
は、実際の角速度ωの計算値であり、
【数15】
が成立する。
【0038】
この方程式は、
【数16】
の絶対値だけを含む。以下に、回転方向(Drehrichtung)
【数17】
の算出を説明する。ここ及び以下では、例えば
【数18】
のようなチルダ記号を有する変数は、それぞれの変数の実際に検出された測定値を示す一方で、例えば
【数19】
のようなサーカムフレックス又はハットを有する変数は、一般に取得不可能であり、それ故にモデル化又は推定される実際の値xに対する推定値を示す。
【0039】
上記の方程式(5)~(7)を考慮して、当該誘導電圧のそれぞれの測定値が、以下のように表記され得る。
【数20】
この場合、ν
α及びν
βは、それぞれの背景雑音を示す。当該それぞれの背景雑音は、当該それぞれの測定値に依存せず、それ故に白色雑音とみなされ得る。
【0040】
それぞれの測定値
【数21】
の信号対雑音比(SN比)は、当該白色雑音に起因して非常に低い回転数又は角速度ωに対しては明らかに非常に小さい。これにより、上記の方程式(8)及び(9)は、低い回転数のときに当該ロータ角度を推定するのに適さない。
【0041】
所定の永久磁石同期機又は同様な駆動システム向けに、磁束Ψ
mが、モータの特定の用途によって一定にされ、それ故に当該信号対雑音比を改善するために増大され得ない。同様に、雑音ν
α及び雑音ν
βの成分が、インバータ11(
図1参照)のハードウェア構成に起因して予め一定に設定されている。その結果、一般に、雑音ν
α及び雑音ν
βは、さらに減少され得ない。それ故に、当該ロータ角度の推定を改善するために当該信号対雑音比を大きくすることを可能にする新しい技術を以下で説明する。
【0042】
図2は、ロータの角度γ及び角速度ωを算出するための装置21の第1の実施の形態のモジュールの概略図である。別のモジュール及び装置21の第2の実施の形態は、
図4又は5に示されている。
【0043】
装置21は、
図1のインバータ11のアナログ信号u
U,u
V,u
Wを受信し、対応するデジタル信号u
U、k,u
V、k,u
W、kに変換するアナログデジタル変換器23を有する。換言すれば、当該アナログ信号が、所定のサンプリング周波数f
Sによってサンプリングされる。この場合、kは、k番目のサンプリングを示す。さらに、上記の両測定信号
【数22】
をデジタル方式で取得するため、装置21は、デジタル信号u
U、k,u
V、k,u
W、kに基づいてクラーク変換を実行する変換部25を有する。
【0044】
さらに、装置21は、それぞれの平均値を最後のN番目のサンプリング値によって以下のように算出する平均化器27を有する。
【数23】
【0045】
当該平均化は、k番目のサンプリング値によってそれぞれ開始する。
【0046】
小さい回転数の条件下では、すなわち、回転周波数が、サンプリング周波数f
Sに比べて小さい(ω/2π≪f
S)条件下では、最後のN番目のサンプリング値に対するγ及びωの変化は無視してよい。それ故に、方程式(12)及び(13)は以下のように近似され得る。
【数24】
【0047】
したがって、方程式(10)及び(11)の白色雑音ν
α及びν
βの項は、N個の測定値に対するそれぞれの平均値になる。無相関雑音又は白色雑音の振幅は、このような平均化で
【数25】
倍だけ増える一方で、方程式(14)及び(15)のそれぞれの第1項におけるコヒーレント信号は、N倍だけ増えるので、結合された信号
【数26】
の信号対雑音比は、
【数27】
倍だけ大きい。換言すれば、平均化器27は、その入力信号
【数28】
(
図2)の信号対雑音比を
【数29】
倍だけ改善する。当該信号対雑音比のこの改善によって、当該ロータの回転数が低いときでも、装置21は、回転角度γ及び角速度ωを確実に算出することが可能である。平均化される測定値の数Nは、十分に大きく決定されなければならない。
【0048】
しかしながら、平均化器27の出力信号は、f
S/Nの新しい等価サンプリングレート又はサンプリング周波数で実行されるデータレートの低下又はダウンサンプリングの結果であるので、適正な数Nが、平均化すべき複数の測定値によって選択される点にさらに留意する必要がある。それ故に、上記の方程式(14)及び(15)は、以下の条件を満たすときにだけ有効である。
【数30】
【0049】
これは、十分な信号対雑音比を保証するためには、非常に低い回転数のときに、大きい値をNのために選択できることを意味する。しかしながら、当該ロータが、惰性回転中にあり、このため角速度ωが制御されずに変化し得るので、上記の方程式(16)の条件は連続して監視されなければならない。
【0050】
極端な事態は、例えば、永久磁石同期機とこの永久磁石同期機のインバータ11との始動後の状態である。この永久磁石同期機の装置21を有するコントローラが、ωに関する情報を演繹的に有さず、当該ロータは、この始動中に外部の負荷によって十分な回転数で駆動され得る。これにより、上記の誘導電圧の平均化が、方程式(14)及び(15)中のsinγk|Nによる瞬時信号とcоsγk|Nによる瞬時信号とを互に打ち消しあう。少なくともこの状態では、装置21は、当該平均化を使用しないかもしれないし、又は、装置21は、比較的小さいNの値を選択する必要がある。したがって、平均化プロセスは、アダプティブにする必要があり、瞬時に存在する回転数に反復的に適合される必要がある。
【0051】
それ故に、装置21は、平均化器27の出力信号を入力信号として受信し、複数の電圧値の個数N(これらの電圧値が、このNによって平均される)をアダプティブに且つ反復的に決定する決定モジュール29をさらに有する。したがって、決定モジュール29は、変数Nを平均化器27に対して出力する。
【0052】
図3には、変数Nを平均化器27に対して算出するための決定モジュール29によって実行されるステップが示されている。上記の複数の瞬時信号が互いに打ち消し合う事態を回避するため、ステップ30による開始後に、数Nが、固定値、この例では1で初期化される。後続するステップ35で角速度ωの絶対値を、決定モジュール29の入力信号又は平均化器27の出力信号u
α,k|N及びu
β,k|Nに基づいて評価するため、ステップ33で、決定モジュール29は、N個のサンプリング値が存在するまでホールドする。
【0053】
ステップ37で、ステップ35で算出されたωに対する評価値が検査される。詳細には、ωに対する評価値の絶対値が、下閾値ωN,minと上閾値ωN,maxと比較される。変数Nのそれぞれの値ごとに、ωN,minからωN,maxまでの角速度の最適な範囲があることが知られている。この範囲内で、信号対雑音比が、複数の測定値の閾値幅によって調整されている。上閾値は、Nによって決定されている、すなわちエイリアシングが回避されるように決定されている。これに対して、下閾値は、磁束又はロータの閉ループ磁束Ψmと当該信号対雑音比に対する予め設定されている目標値とに依存する。ロータの閉ループ磁束Ψmが大きいほど、当該信号対雑音比の予め設定されている所定の目標値に対する下閾値ωN,minは小さい。
【0054】
ロータが、ωN,minよりも速く回転するか、又は、ωに対する評価値が、上閾値よりも大きい場合、閾値幅を増やすため、Nが、ステップ38で減少される。実効サンプリングレート又は実効サンプリング周波数は、fS/Nであり、高い角速度が、エイリアシングによる問題を引き起こし得るので、当該Nの減少は必要である。確かに、Nの減少によって、平均化器27から出力される平均電圧の信号対雑音比も減少する。しかしながら、決定モジュール29の入力信号の大きくなった信号対雑音比に起因して、当該信号対雑音比は、ステップ38でのNの減少後も比較的高い回転数ωに起因して依然として適用可能である。
【0055】
しかしながら、ωの絶対値に対する評価値が、ωN,min未満にある場合、ロータ角度γ及び角速度ωを確実に算出するためには、当該信号対雑音比は非常に小さい。この場合、当該信号対雑音比を改善するため、変数Nが、ステップ39で増大される。モータが実際に遅く回転し、これにより装置21の閾値幅に関する要求が小さい限り、当該Nの増大に起因する減少した閾値幅は問題にならない。ωに対する当該評価に基づいて、閾値ωN,min及びωN,maxが、ステップ38及び39でそれぞれの反復ごとに新たに
決定される。
【0056】
最も簡単な状況では、3つのステップ又は値が、永久磁石同期機17を始動させるための変数Nに対して十分であることが知られている。すなわち、N=100は、非常に低い回転数に対して十分であり、N=10は、低い回転数に対して十分であり、N=1は、十分な回転数に対して十分である。当該十分な回転数は、平均の作成の終了に相当する。しかしながら、変数Nを現時点の角速度ωに精確にアダプティブに適合することは、上記のように永久磁石同期機の始動時、特に永久磁石同期機の停止から始動しない時の信頼性を改善する。
【0057】
図4には、ロータの角度及び角速度を算出するための装置21の別の構成要素を示す推定モジュール41が示されている。装置21の他の構成要素は、
図2に示されている。推定モジュール41は、入力変数として平均化器27(
図2参照)から出力される平均電圧u
α,k|N及びu
β,k|Nを得る。一般的なインデックスξが、最初に有効なサンプリング値以降の当該平均電圧のその都度の更新を示す場合、方程式(8)及び(9)は、以下のように表記され得る。
【数31】
【0058】
したがって、角速度ωの絶対値は、それぞれの更新
【数32】
ごとに直接に算出され得る一方で、一組の瞬時測定値に対する回転方向は容易に導き出され得ない。しかしながら、両電圧
【数33】
のうちの1つの電圧の零通過時に、当該両電圧のそれぞれ他方の電圧の極性が、回転方向に関する明確な情報を提供する。例えば、
【数34】
の零通過が検査される場合、
【数35】
が、正の零通過時に、すなわち負の値から正の値への移行時に成立する。
これに応じて、
【数36】
【0059】
明らかに、対応する方程式は、
【数37】
の零通過に対して成立する。方程式(19)及び(20)を使用することで、当該算出された回転方向は、それぞれの周期ごとに、又は複素値(方程式(5)参照)の回転ごとに、又は予め設定されている一定の別の時間間隔ごとに更新され得る。両信号
【数38】
の零通過が考慮される場合、これに応じて、当該回転方向は、2倍の速度又は頻度で更新され得る。
【0060】
これに応じて、
図4の推定モジュール41が、上記の方程式(17)~(20)を使用してロータの角度
【数39】
及び角速度
【数40】
の推定値を出力する。上記の条件の下で数Nを適合されている平均化器27(
図2参照)内で可変の平均値を作成することによって、ロータ角度γの推定値の効力が、低い回転数の範囲内に拡張され得る。以下で説明するように、さらなるステップが、推定モジュール41の出力信号に適用されると、この推定値の効力範囲のさらなる拡張が可能である。
【0061】
図5は、ロータの角度及び角速度を算出するための装置21の第2の実施の形態を示す。この第2の実施の形態は、
図5のこの第2の実施の形態がカルマンフィルタ51をさらに有する点だけが、上記の
図2~4に示されている第1の実施の形態と異なる。したがって、それ以外は、
図5の装置21の第2の実施の形態は、同様に、アナログデジタル変換器23と、変換部25と、平均化器27と、
図2に関連して説明されている決定モジュール29と、
図4に示されている推定モジュール41とを有する。したがって、これらのモジュールの上記の説明は、
図5の装置21の第2の実施の形態に対しても成立する。カルマンフィルタ51は、入力信号として推定モジュール41の出力信号
【数41】
を受け取る。
【0062】
カルマンフィルタの基本原理は、技術的に知られているので、この点に関しては詳しく説明しない。この代わりに、永久磁石同期機のロータの回転に関連する特別な観点だけを説明する。
【0063】
上記の電圧信号
【数42】
の処理、すなわち変数Nによる平均値の作成は、当該信号に固有の性質に依存しなく、任意の電圧信号に対して有効である。しかしながら、ロータの運動が、ニュートンの運動法則を満たさなければならない場合は、
図5のカルマンフィルタ51の使用は、当該信号の性質をさらに考慮する。
【0064】
当該ニュートンの運動法則によれば、惰性回転中のロータに対する簡単な機械モデルが以下のように表記され得る。
【数43】
この場合、Jは、永久磁石同期機17のモータによって駆動される回転部分の総慣性トルクであり、pは、このモータの極対数であり、Mは、摩擦によって生成される負荷に起因する残留制動トルク(restliche Bremsdrehmoment)である。Mは、一定で小さい負の変数であるとみなされる。留意すべきは、ωは、ここでは電気角速度である点である。機械モデルでは、機械角速度が使用されなければならないので、上記の方程式では、係数1/pが挿入されなければならない。方程式(21)が、上記の離散領域に変換されると、すなわちアナログデジタル変換及びクラーク変換後のサンプリング周波数f
S=1/T
Sを有する信号に変換されると、以下の差分連立方程式が得られる。
【数44】
【0065】
インデックスkは、サンプリング周波数fSを有する一定のサンプリングレートを示す。
【0066】
上記のように、変数Nとその都度の更新ξとによる平均値の作成を考慮すると、方程式(22)~(24)は、以下のように変更され得る。
【数45】
【0067】
したがって、当該連立方程式は、カルマンフィルタのプレディクタ(Praediktor)にとって完璧であるカルマンフィルタの場合、基本的に、
【数46】
によって示される演繹的な推定値と
【数47】
によって示される帰納的な推定値とに区別される。それぞれの更新ステップξごとに、演繹的な推定値が、最後の帰納的な推定値
【数48】
に基づいて推定され得て、
【数49】
が、連立方程式(25)~(27)によって推定され得る。詳細には、この推定値は、以下のように示され得る。
【数50】
【0068】
演繹的な推定値
【数51】
の他に、直接的な推定値も、進化系の測定
【数52】
に基づいて推定される。それ故に、それぞれの更新ステップξごとの帰納的な推定値は、対応するカルマンゲインK
ω、K
γ及びK
Mによって重み付けされる2つの差分信号源に基づいて融合(Fusion)したものである。
【数53】
【0069】
この帰納的な推定値は、確実な推定値とみなされ得て、カルマンフィルタ51、すなわち装置21の最終的な出力である。すなわち、装置21は、ロータ角度及び角速度に対する推定値
【数54】
をカルマンフィルタリングの結果として出力する。
図4の推定モジュール41の出力が、カルマンフィルタ51によってさらに改善される。その結果、効力範囲又はロータ角度に対する確実な推定値を有する範囲が、カルマンフィルタ51によってさらに低い回転数まで拡張され得る。
【0070】
図6は、ターボ分子ポンプ13に接続されている真空容器12を有する典型的な真空設備を概略的に示す。ターボ分子ポンプ13は、ロータ14に属する、例えばロータディスクのようなポンプ動作する構造物を有する。同様に、ターボ分子ポンプ13は、同様にロータ16を真空ポンプ15のポンプ動作する構成要素の一部として有する真空ポンプ15に接続されている。
【0071】
ターボ分子ポンプ13及び真空ポンプ15を再起動するためには、ロータ14,16は、常に停止状態にあるとは限らない。これは、特に、ロータ14の停止までに長い回転期間を要し得るターボ分子ポンプ13に対して成立する。それ故に、ターボ分子ポンプ13のロータ14が停止する前に、このターボ分子ポンプ13が再起動することが起こり得る。この場合、従来の方法では、再起動時に同期フェーズに移行できるように、ロータの角度γ及び角速度ωを、逆起電力に基づいて確実に算出することはできない。それ故に、ターボ分子ポンプ13を再起動するためには、多大な労力を要し得る。しかしながら、本発明の永久磁石同期機17及び本発明の方法が使用される場合、ロータ14の角度γ及び角速度ωが、非常に低い回転数でも逆起電力に基づいて算出され得る。その結果、ターボ分子ポンプ13が、確実に同期され且つ確実に再起動される。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る:
1.
ロータ(14,16)と、
永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの稼働中に、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧に基づいて検出可能である逆向きに作用する電磁力によって、前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための装置(21)とを有する永久磁石同期機(17)、特に真空ポンプ(14,16)の三相交流機であって、
前記装置(21)は、
少なくとも2つの誘導電圧をデジタル化するアナログデジタル変換器(23)と、
当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の変数N個の測定値によって少なくとも2つの平均電圧を計算する平均化器(27)と、
前記ロータ(14,16)の回転数に依存して前記変数N個を決定する決定モジュール(29)と、
前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を推測する推定モジュール(41)とを有する当該永久磁石同期機(14,16)。
2.
前記決定モジュール(29)は、既定の値によって前記変数Nを初期化し、当該算出された角速度に依存して前記変数Nを反復的に適合する上記1に記載の永久磁石同期機(17)。
3.
前記決定モジュール(29)は、前記角速度が下閾値を下回るときに、前記変数Nを増大させ、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nを減少させる上記2に記載の永久磁石同期機(17)。
4.
前記決定モジュール(29)は、前記角速度の信号対雑音比に対する目標値に基づいて前記上閾値及び前記下閾値を決定する上記3に記載の永久磁石同期機(17)。
5.
前記ロータ(14,16)の回転数が増大するときに、前記決定モジュール(29)は、前記変数Nを減少させる上記1~4のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
6.
前記推定モジュール(41)は、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を算出する上記1~5のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
7.
前記推定モジュール(41)は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を確認する上記6に記載の永久磁石同期機(17)。
8.
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための前記装置(21)は、前記ロータ(14,17)の移動に対する機械モデルに基づくカルマンフィルタ(51)をさらに有する上記1~7のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
9.
前記カルマンフィルタは、前記ロータ(14,16)の角度に対してと、前記ロータ(14,16)の角速度に対してと、前記ロータ(14,16)の制動トルクとに対して演繹的な推定値と帰納的な推定値とを有する上記8に記載の永久磁石同期機(17)。
10.
上記1~9のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)を有する真空ポンプ(13,15)。
11.
特に永久磁石同期機(17)の駆動回転数未満のロータ(14,16)の低い回転数の場合に、前記永久磁石同期機(17)内の前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための方法であって、
前記永久磁石同期機は、前記ロータ(14,16)とアナログデジタル変換器(23)を有し、
前記方法は、
前記永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの駆動中の逆向きに作用する電磁力を示す、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によって検出されることと、
当該誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によってデジタル化されることと、
少なくとも2つの平均電圧が、当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の、前記ロータ(14,16)の回転数に依存して決定される変数N個の測定値に基づいて計算されることと、
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて推定されることとを有する当該方法。
12.
前記変数Nは、既定の値によって初期化され、前記変数Nは、当該算出された角速度に依存して反復的に適合される上記11に記載の方法。
13.
前記角速度が、下閾値を下回るときに、前記変数Nが増大され、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nが減少される上記12に記載の方法。
14.
前記ロータ(14,16)の回転方向が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて算出される上記11~13のいずれか1つに記載の方法。
15.
前記ロータ(14,16)の回転方向は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて確認される上記14に記載の方法。
【0072】
ターボ分子ポンプ13及び真空ポンプ15を再起動するためには、ロータ14,16は、常に停止状態にあるとは限らない。これは、特に、ロータ14の停止までに長い回転期間を要し得るターボ分子ポンプ13に対して成立する。それ故に、ターボ分子ポンプ13のロータ14が停止する前に、このターボ分子ポンプ13が再起動することが起こり得る。この場合、従来の方法では、再起動時に同期フェーズに移行できるように、ロータの角度γ及び角速度ωを、逆起電力に基づいて確実に算出することはできない。それ故に、ターボ分子ポンプ13を再起動するためには、多大な労力を要し得る。しかしながら、本発明の永久磁石同期機17及び本発明の方法が使用される場合、ロータ14の角度γ及び角速度ωが、非常に低い回転数でも逆起電力に基づいて算出され得る。その結果、ターボ分子ポンプ13が、確実に同期され且つ確実に再起動される。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る。
1.
ロータ(14,16)と、
永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの稼働中に、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧に基づいて検出可能である逆向きに作用する電磁力によって、前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための装置(21)とを有する永久磁石同期機(17)、特に真空ポンプ(14,16)の三相交流機であって、
前記装置(21)は、
少なくとも2つの誘導電圧をデジタル化するアナログデジタル変換器(23)と、
当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の変数N個の測定値によって少なくとも2つの平均電圧を計算する平均化器(27)と、
前記ロータ(14,16)の回転数に依存して前記変数N個を決定する決定モジュール(29)と、
前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を推測する推定モジュール(41)とを有する当該永久磁石同期機(14,16)。
2.
前記決定モジュール(29)は、既定の値によって前記変数Nを初期化し、当該算出された角速度に依存して前記変数Nを反復的に適合する上記1に記載の永久磁石同期機(17)。
3.
前記決定モジュール(29)は、前記角速度が下閾値を下回るときに、前記変数Nを増大させ、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nを減少させる上記2に記載の永久磁石同期機(17)。
4.
前記決定モジュール(29)は、前記角速度の信号対雑音比に対する目標値に基づいて前記上閾値及び前記下閾値を決定する上記3に記載の永久磁石同期機(17)。
5.
前記ロータ(14,16)の回転数が増大するときに、前記決定モジュール(29)は、前記変数Nを減少させる上記1~4のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
6.
前記推定モジュール(41)は、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を算出する上記1~5のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
7.
前記推定モジュール(41)は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて前記ロータ(14,16)の回転方向を確認する上記6に記載の永久磁石同期機(17)。
8.
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための前記装置(21)は、前記ロータ(14,17)の移動に対する機械モデルに基づくカルマンフィルタ(51)をさらに有する上記1~7のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)。
9.
前記カルマンフィルタは、前記ロータ(14,16)の角度に対してと、前記ロータ(14,16)の角速度に対してと、前記ロータ(14,16)の制動トルクとに対して演繹的な推定値と帰納的な推定値とを有する上記8に記載の永久磁石同期機(17)。
10.
上記1~9のいずれか1つに記載の永久磁石同期機(17)を有する真空ポンプ(13,15)。
11.
特に永久磁石同期機(17)の駆動回転数未満のロータ(14,16)の低い回転数の場合に、前記永久磁石同期機(17)内の前記ロータ(14,16)の角度及び角速度を算出するための方法であって、
前記永久磁石同期機は、前記ロータ(14,16)とアナログデジタル変換器(23)を有し、
前記方法は、
前記永久磁石同期機(17)のエンコーダなしの駆動中の逆向きに作用する電磁力を示す、前記ロータ(14,16)によって誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によって検出されることと、
当該誘導された少なくとも2つの電圧が、前記アナログデジタル変換器(23)によってデジタル化されることと、
少なくとも2つの平均電圧が、当該少なくとも2つのデジタル化された電圧の、前記ロータ(14,16)の回転数に依存して決定される変数N個の測定値に基づいて計算されることと、
前記ロータ(14,16)の角度及び角速度が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて推定されることとを有する当該方法。
12.
前記変数Nは、既定の値によって初期化され、前記変数Nは、当該算出された角速度に依存して反復的に適合される上記11に記載の方法。
13.
前記角速度が、下閾値を下回るときに、前記変数Nが増大され、前記角速度が上閾値を上回るときに、前記変数Nが減少される上記12に記載の方法。
14.
前記ロータ(14,16)の回転方向が、前記少なくとも2つの平均電圧に基づいて算出される上記11~13のいずれか1つに記載の方法。
15.
前記ロータ(14,16)の回転方向は、前記2つの平均電圧のうちの一方の平均電圧に対する零通過と、前記2つの平均電圧のうちの他方の平均電圧に対する符号とに基づいて確認される上記14に記載の方法。
【符号の説明】
【0073】
11 三相インバータ
12 真空容器(Rezipient)
13 ターボ分子ポンプ
14 ロータ
15 真空ポンプ
16 ロータ
17 永久磁石同期機
21 装置
23 アナログデジタル変換器
25 変換部
27 平均化器
29 決定モジュール
30-39 ステップ
41 推定モジュール
51 カルマンフィルタ