(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理プログラムおよび情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/30 20060101AFI20241119BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20241119BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01V1/30
G01M99/00 Z
G01H1/00 E
(21)【出願番号】P 2023044465
(22)【出願日】2023-03-20
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591102095
【氏名又は名称】三菱電機ソフトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 五月
(72)【発明者】
【氏名】杉本 賢司
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-253766(JP,A)
【文献】特開2014-178226(JP,A)
【文献】特開平04-109189(JP,A)
【文献】特開平11-118939(JP,A)
【文献】特開2010-085100(JP,A)
【文献】特開2003-057357(JP,A)
【文献】特開2020-101415(JP,A)
【文献】国際公開第02/031537(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第2025869(KR,B1)
【文献】生駒哲一,ピーク周波数による非定常スペクトル解析,統計数理,1996年06月,第44巻第2号,235-249,https://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/44-2-235.pdf,[2024年6月5日検索]
【文献】横田 崇 他,地震波データの自動検測方式とオンライン処理システムにおける稼働実験,地震研究所彙報,1981年07月31日,55巻,449-484頁,https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/33017/files/ji0563003.pdf,[2023年12月25日検索]
【文献】鎌谷 紀子 他,自己回帰モデルによるスペクトル解析 -地盤増幅率の周波数特性評価への適用-,日本地球惑星科学連合2022年大会 ポスター発表,2022年05月31日,https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jpgu2022/SCG55-P02/public/pdf?type=in,[2023年12月25日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M13/00-13/045
99/00
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地動に起因する振幅を計算する振幅計算部と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算する周波数解析部と、
前記周波数特性を用いることにより、前記振幅が地震波に起因するか
、前記振幅が前記地震波に起因しない地動を示すノイズに起因するかを識別するノイズ識別部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記情報処理装置は、さらに、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算する卓越周波数計算部を備え、
前記ノイズ識別部は、
前記卓越周波数を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、さらに、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算するスペクトル幅指標値計算部を備え、
前記ノイズ識別部は、
前記スペクトル幅指標値を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記情報処理装置は、さらに、
前記地動の最大振幅指標値を計算する最大振幅指標値計算部を備え、
前記ノイズ識別部は、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記情報処理装置は、さらに、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算する卓越周波数計算部を備え、
前記ノイズ識別部は、
前記卓越周波数と、前記スペクトル幅指標値と、前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
コンピュータに、
地動に起因する振幅を計算する振幅計算処理と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算する周波数解析処理と、
前記周波数特性を用いることにより、前記振幅が地震波に起因するか
、前記振幅が前記地震波に起因しない地動を示すノイズに起因するかを識別するノイズ識別処理と、
を実行させる情報処理プログラム。
【請求項7】
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算する卓越周波数計算処理を備え、
前記ノイズ識別処理は、
前記卓越周波数を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項6に記載の情報処理プログラム。
【請求項8】
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算するスペクトル幅指標値計算処理を備え、
前記ノイズ識別処理は、
前記スペクトル幅指標値を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項6または請求項7に記載の情報処理プログラム。
【請求項9】
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記地動の最大振幅指標値を計算する最大振幅指標値計算処理を備え、
前記ノイズ識別処理は、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項8に記載の情報処理プログラム。
【請求項10】
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算する卓越周波数計算処理を備え、
前記ノイズ識別処理は、
前記卓越周波数と、前記スペクトル幅指標値と、前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項9に記載の情報処理プログラム。
【請求項11】
コンピュータが、
地動に起因する振幅を計算し、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算し、
前記周波数特性を用いることにより、前記振幅が地震波に起因するか
、前記振幅が前記地震波に起因しない地動を示すノイズに起因するかを識別する、
情報処理方法。
【請求項12】
前記コンピュータは、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算
し、
前記卓越周波数を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項
11に記載の情報処理
方法。
【請求項13】
前記コンピュータは、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算
し、
前記スペクトル幅指標値を利用することにより、前記ノイズを識別する請求項
11または請求項
12に記載の情報処理
方法。
【請求項14】
前記コンピュータは、
前記地動の最大振幅指標値を計算
し、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項
13に記載の情報処理
方法。
【請求項15】
前記コンピュータは、
前記周波数特性から前記振幅の卓越周波数を計算
し、
前記卓越周波数と、前記スペクトル幅指標値と、前記最大振幅指標値とを利用することにより、前記ノイズを識別する請求項
14に記載の情報処理
方法。
【請求項16】
地動に起因する振幅を計算する振幅計算部と、
前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算する周波数解析部と、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算するスペクトル幅指標値計算部と、
前記地動の最大振幅指標値を計算する最大振幅指標値計算部と、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを用いることにより、前記振幅が地震波に起因するかノイズに起因するかを識別するノイズ識別部と、
を備える情報処理装置。
【請求項17】
コンピュータに、
地動に起因する振幅を計算する振幅計算処理と、
前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算する周波数解析処理と、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算するスペクトル幅指標値計算処理と、
前記地動の最大振幅指標値を計算する最大振幅指標値計算処理と、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを用いることにより、前記振幅が地震波に起因するかノイズに起因するかを識別するノイズ識別処理と、
を実行させる情報処理プログラム。
【請求項18】
コンピュータが、
地動に起因する振幅を計算し、
前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算し、
前記周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算し、
前記地動の最大振幅指標値を計算し、
前記スペクトル幅指標値と前記最大振幅指標値とを用いることにより、前記振幅が地震波に起因するかノイズに起因するかを識別する、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地動センサが観測した観測データの時系列が、地震動によるものかノイズによるものかを識別する地震計に関する。
【背景技術】
【0002】
地震計は、地震発生直後に即時的な被害推定を行い、被害を未然に防ぐための装置である。地震計は、ノイズによる被害の誤推定をなくす必要がある。このため、観測した地動が地震によるものかノイズによるものか、を識別する必要がある。
【0003】
ノイズ識別法として、特許文献1は、観測データの高周波成分と低周波成分との比を用いることにより、車両等の走行に起因する高周波の雑振動ノイズを識別する方法を開示する。また、特許文献2は、振幅の急激な立ち上がりを検出する仕組みを利用して、電磁波や落雷等に起因する大振幅のパルス性ノイズを識別する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-38065号公報
【文献】特許第5534669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術では、周波数成分の帯域が広く低周波成分もある程度含まれる雑振動ノイズが、地震動と誤判定され得るという課題がある。特許文献2に開示された技術では、振幅の立ち上がりが急激な直下型地震による地動に対して、立ち上がりの急激さと振幅の大きさを同時に特徴づけることができない。このため、地震動がノイズと誤判定され得るという課題がある。
【0006】
本開示は、雑振動ノイズをノイズと正しく識別し、直下型地震による地震動を地震動と正しく識別する地震計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る情報処理装置は、
地動に起因する振幅を計算する振幅計算部と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅から周波数特性をリアルタイムに計算する周波数解析部と、
前記周波数特性を用いることにより、前記振幅が地震波に起因するかノイズに起因するかを識別するノイズ識別部と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る情報処理装置は、周波数解析部およびノイズ識別部を備えるので、雑振動ノイズをノイズと正しく識別し、直下型地震による地震動を地震動と正しく識別する装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1の図で、地震計30のシステム構成図。
【
図2】実施の形態1の図で、情報処理装置20の機能ブロック図。
【
図3】実施の形態1の図で、情報処理装置20によるノイズ識別処理の動作を示すフローチャート。
【
図4】実施の形態1の図で、情報処理装置20のハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態の説明および図面において、同じ要素および対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略または簡略化する。以下の実施の形態では、「部」を、「回路」、「プロセス」、「ステップ」、「処理」または「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
【0011】
以下に実施の形態1で使用する記号をまとめておく。
【0012】
式1から式14以外の記載において、以下ではLの小文字lを数字の1と区別するためl*と表記する。
【0013】
<インデックス及び送受信されるデータ>
(1)l*:l*はサンプリングごとにカウントアップするカウンタである。
(2)m:mはARモデルのインデックスである。
(3)f:fは周波数(Hz)である。
(4)Dg(l*):Dg(l*)は観測デジタルデータである。
(5)x(l*):x(l*)は物理的単位の振幅データである。
(6)φSm(l*):φSm(l*)はARモデルのAR係数である(m=1,・・・,M)。
(7)σS2(l*):σSj
2(l*)はARモデルによる振幅データの推定誤差の分散である。
(8)PS(l*,f):PS(l*,f)はARモデルによるランニングスペクトルである。
(9)fSd(l*):fSd(l*)は卓越周波数である。
(10)W(l*):W(l*)はスペクトル幅指標値である。
(11)MAX(l*):MAX(l*)は最大振幅指標値である。
(12)Fn:Fnはノイズ識別結果(真偽値とし、真はノイズ、偽はノイズではないことを示す)である。
【0014】
<内部変数>
(1)μS(l*):μS(l*)はARモデルによる平均である。
(2)CSm(l*):CSm(l*)はARモデルによる共分散関数である(m=0,・・・,M)。
(3)xS(l*):xSj(l*)はARモデルによる振幅データの推定値である。
(4)Q:QはARモデルの特性根の個数である。
(5)zSq(l*):zSq(l*)はARモデルの特性根である(q=1,・・・,Q)。
(6)fSq(l*):fSq(l*)はARモデルによるランニングスペクトルのピーク周波数である(q=1,・・・,Q)。
(7)PSq(l*):PSq(l*)はARモデルによるランニングスペクトルのピーク値である(q=1,・・・,Q)。
【0015】
<パラメータ>
(1)fs:fsは観測デジタルデータのサンプリング周波数(Hz)である。
(2)Cf:Cfは物理値換算係数である。
(3)M:MはARモデルの次数である。
(4)rS:rSはARモデルの忘却係数である。ランニングスペクトルの平滑化のウィンドウサイズを決める係数であり、rSが大きいほどウィンドウサイズが小さく短時間平均となる。
(5)Nw:Nwはスペクトル幅指標値を計算するためのサンプル数である。
(6)fw1:fw1はスペクトル幅指標値を計算するための周波数の下限(Hz)である。
(7)fw2:fw2はスペクトル幅指標値を計算するための周波数の上限(Hz)である。
(8)Nmax:Nmaxは最大振幅指標値を計算するためのサンプル数である。
(9)fmax1:fmax1は最大振幅指標値を計算するための周波数の下限(Hz)である。
(10)fmax2:fmax2は最大振幅指標値を計算するための周波数の上限(Hz)である。
(11)TMN:TMNはノイズの識別において高周波の雑振動ノイズを識別するための閾値である。
(12)TPNa:TPNaはノイズの識別において大振幅のパルス性ノイズを識別するための第1閾値である。
(13)TPNb:TPNbはノイズの識別において大振幅のパルス性ノイズを識別するための第2閾値である。
【0016】
実施の形態1.
図1から
図4を参照して、実施の形態1の地震計30を説明する。
【0017】
***構成の説明***
図1は、地震計30のシステム構成図である。地震計30は、地動センサ10と情報処理装置20を備える。地震計30は、ネットワーク50を介して外部装置40と通信可能である。
【0018】
図2は、情報処理装置20のブロック構成である。情報処理装置20は、機能要素として、振幅計算部21、周波数解析部22、卓越周波数計算部26、スペクトル幅指標値計算部27、最大振幅指標値計算部28、ノイズ識別部29を備えている。
【0019】
***動作の説明***
図3は、情報処理装置20によるノイズ識別処理の動作を示すフローチャートである。
図3を参照して情報処理装置20の動作を説明する。情報処理装置20の動作は、情報処理方法に相当する。また情報処理方法の動作は、後述の情報処理プログラム231よる処理に相当する。
図3では、情報処理装置20の動作をプロセスP201からプロセスP206として示している。情報処理装置20は、サンプリング周波数fsの逆数(fs)
-1の時間間隔で、地動センサ10から観測デジタルデータとして地動を取得する。地動とは大地の震動であり、地動のうち地震に由来する大地の震動を「地震動」という。以下、逆数(fs)
-1をサンプリング間隔という。サンプリングごとに、情報処理装置20はノイズ識別処理を行う。
【0020】
<プロセスP201:観測データの振幅を計算>
(1)振幅計算部21は、地動センサ10から、地動センサ10の観測した地動の観測デジタルデータDg(l
*)を取得する。観測デジタルデータDg(l
*)は地動である。(2)振幅計算部21は、式1で、取得した観測デジタルデータDg(l
*)に基づき、地動の振幅データx(l
*)を計算する。
【数1】
x(l
*):振幅データ
Dg(l
*):観測デジタルデータ
Cf:物理値換算係数
【0021】
<プロセスP202:周波数特性を計算>
周波数解析部22は、初めに、振幅データx(l
*)の時系列に対して、時間平均による平滑化を行う。次に、それを自己回帰モデルで表現することにより、振幅データの時間平均されたランニングスペクトルを計算する。以下、自己回帰モデルは、ARモデルという。
周波数特性とは、下記に示す、ARモデルのAR係数φS
m(l
*)、ARモデルによる振幅データの推定誤差の分散σS
2(l
*)及びARモデルによるランニングスペクトルPS(l
*,f)を合わせたものを指す。
(1)周波数解析部22は、式2で、ARモデルによる平均μS(l
*)を計算する。
【数2】
μS(l
*):ARモデルによる平均
rS:ARモデルの忘却係数
x(l
*):振幅データ
(2)周波数解析部22は、式3で、ARモデルによる共分散関数CS
m(l
*)を計算する。
【数3】
CSm(l
*):ARモデルによる共分散関数
rS:ARモデルの忘却係数
x(l
*):振幅データ
μS(l
*):ARモデルによる平均
(3)周波数解析部22は、式4のM次連立方程式(ユールウォーカー方程式)を解いて、ARモデルのAR係数φS
m(l
*)を計算する
【数4】
CS
m(l
*):ARモデルによる共分散関数
φS
m(l
*):ARモデルのAR係数
M:ARモデルの次数
(4)周波数解析部22は、式5及び式6で、ARモデルによる振幅データの推定値xS(l
*)及びARモデルによる振幅データの推定誤差の分散σS
2(l
*)を計算する。
【数5】
【数6】
x(l
*):振幅データ
μS(l
*):ARモデルによる平均
φS
m(l
*):ARモデルのAR係数
xS(l
*):ARモデルによる振幅データの推定値
σS
2(l
*):ARモデルによる振幅データの推定誤差の分散
M:ARモデルの次数
rS:ARモデルの忘却係数
(5)周波数解析部22は、式7で、ARモデルによるランニングスペクトルPS(l
*,f)を計算する。
【数7】
PS(l
*,f):ARモデルによるランニングスペクトル
σS
2(l
*):ARモデルによる振幅データの推定誤差の分散
φS
m:ARモデルのAR係数
f:周波数
fs:サンプリング周波数
M:ARモデルの次数
【0022】
<プロセスP203:卓越周波数を計算>
(1)卓越周波数計算部26は、式8のzについてのM次多項式(特性方程式)を解き、解のうち虚部が0または正のものをARモデルの特性根zS
q(l
*)とする(qは連番でq=1,・・・,Q)。
【数8】
φS
m(l
*):ARモデルのAR係数
zS
q(l
*):ARモデルの特性根(q=1,・・・,Q)
M:ARモデルの次数
(2)卓越周波数計算部26は、式9で、ARモデルによるランニングスペクトルのピーク周波数fS
q(l
*)を計算する。
【数9】
fS
q(l
*):ARモデルによるランニングスペクトルのピーク周波数
fs:サンプリング周波数
zS
q(l
*):ARモデルの特性根(q=1,・・・,Q)
(3)卓越周波数計算部26は、式10で、ARモデルによるランニングスペクトルのピーク値PS
q(l
*)を計算する。
【数10】
PS
q(l
*):ARモデルによるランニングスペクトルのピーク値
σS
2(l
*):ARモデルによる振幅データの推定誤差の分散
φS
m(l
*):ARモデルのAR係数
fS
q(l
*):ARモデルによるランニングスペクトルのピーク周波数
M:ARモデルの次数
fs:サンプリング周波数
(4)卓越周波数計算部26は、ARモデルによるランニングスペクトルのピーク値PS
q(l
*)のうち最大のものをPS
q’(l
*)とし、fS
q’(l
*)を卓越周波数fSd(l
*)とする。
【0023】
<プロセスP204:スペクトル幅指標値を計算>
スペクトル幅指標値計算部27は、式11で、スペクトル幅指標値W(l
*)を計算する。
【数11】
W(l
*):スペクトル幅指標値
Nw:スペクトル幅指標値を計算するためのサンプル数
f:周波数
fw1:スペクトル幅指標値を計算するための周波数の下限(Hz)
fw2:スペクトル幅指標値を計算するための周波数の上限(Hz)
PS(i,f):ARモデルによるランニングスペクトル
【0024】
<プロセスP205:最大振幅指標値を計算>
最大振幅指標値計算部28は、式12で、最大振幅指標値MAX(l
*)を計算する。
【数12】
MAX(l
*):最大振幅指標値
Nmax:最大振幅指標値を計算するためのサンプル数
f:周波数
fmax1:最大振幅指標値を計算するための周波数の下限(Hz)
fmax2:最大振幅指標値を計算するための周波数の上限(Hz)
PS(i,f):ARモデルによるランニングスペクトル
【0025】
<プロセスP206:ノイズを識別>
(1)ノイズ識別部29は、卓越周波数fSd(l
*)が式13を満たす場合、車両等の走行に起因する高周波の雑振動ノイズと識別する。
【数13】
TMN:ノイズの識別において高周波の雑振動ノイズを識別するための閾値
(2)スペクトル幅指標値W(l
*)及び最大振幅指標値MAX(l
*)が式14を満たす場合、電磁波や落雷等に起因する大振幅のパルス性ノイズと識別する。
【数14】
TPNa:ノイズの識別において大振幅のパルス性ノイズを識別するための第1閾値
TPNb:ノイズの識別において大振幅のパルス性ノイズを識別するための第2閾値
W(l
*):スペクトル幅指標値
MAX(l
*):最大振幅指標値
(3)ノイズ識別部29は、ノイズの識別結果Fnを出力する。
(a)ノイズ識別部29が、式13で高周波の雑振動ノイズと識別する。
(b)ノイズ識別部29が、式14で大振幅のパルス性ノイズと識別する。
(a)と(b)の少なくとも一つが成立する場合、ノイズ識別部29は、ノイズ識別結果Fnを真とし、それ以外の場合は偽とする。ノイズ識別部29は、ノイズ識別結果Fnを外部装置40に送信する。
【0026】
以上の情報処理装置20による手順によって、精度の高いノイズの識別が可能となる。
【0027】
***実施の形態1の効果***
(1)実施の形態1においては、周波数帯域全体から計算した卓越周波数を利用する。このため、低周波成分がある程度含まれるが相対的に高周波成分が卓越する雑振動ノイズに対しても、正しくノイズと識別が可能である。
(2)実施の形態1においては、立ち上がりの急激さと振幅の大きさを、同時に特徴づける。つまり、式14によって、立ち上がりの急激さを特徴づける指標値であるW(l*)と振幅の大きさを特徴づける指標値であるMAX(l*)とに対して、ノイズと識別される範囲をTPNa及びTPNbの2つのパラメータで指定する。このため、振幅の立ち上がりが急激な直下型地震による地震動に対しても正しくノイズではなく地震動であると識別が可能である。
【0028】
図3で説明したように、ノイズ識別部29は、卓越周波数fSd(l
*)と、スペクトル幅指標値W(l
*)と、最大振幅指標値MAX(l
*)とを利用することにより、ノイズを識別するが、ノイズ識別部29は、以下の(1)から(4)のいずれかでノイズを識別してもよい。
(1)振幅計算部21は、地動センサ10から観測デジタルデータを取得し、地動に起因する振幅を計算する。周波数解析部22は、振幅からランニングスペクトル等の周波数特性を計算する。ノイズ識別部29は、ランニングスペクトル等の周波数特性を用いることにより、振幅が地震波に起因するかノイズに起因するかを識別することができる。
(2)卓越周波数計算部26は、周波数特性から振幅の卓越周波数を計算し、ノイズ識別部29は、卓越周波数を利用することにより、ノイズを識別することができる。
(3)スペクトル幅指標値計算部27は、周波数特性の示すスペクトルの一定値関数への近さの指標値であるスペクトル幅指標値を計算し、ノイズ識別部29は、スペクトル幅指標値を利用することにより、ノイズを識別することができる。
(4)最大振幅指標値計算部28は、地動の最大振幅指標値を計算し、ノイズ識別部29は、スペクトル幅指標値と最大振幅指標値とを利用することにより、ノイズを識別することができる。
【0029】
式7計算したPS(l*,f)をディープラーニング等の機械学習に用いてノイズの特徴を学習させることで、精度の高いノイズ識別を行う実施の形態が可能である。
【0030】
また、式8から式10で計算したzSq(l*)、fSq(l*)及びPSq(l*)はすべての周波数fにわたるランニングスペクトルを次元削減したことに相当するので、これらの全部または一部をディープラーニング等の機械学習に用いてノイズの特徴の効果的な学習を行うことで、精度の高いノイズ識別を行う実施の形態が可能である。
【0031】
また、実施の形態1では、振幅データx(l*)を空間3成分のうちの1成分を想定したが、複数の空間成分を同時に用いる場合や、複数の空間成分から計算される関数値を用いる場合の実施の形態も可能である。例えば、空間3成分の変位データから計算されるパーティクルモーション(粒子軌跡)を利用することや上下成分のランニングスペクトルと水平動成分のランニングスペクトルの比を利用することが考えられる。
【0032】
また、実施の形態1では、周波数解析部22においてランニングスペクトルを計算するために自己回帰モデルを用いたが、FFT(Fast Fourier Transform)等の他の方法でランニングスペクトルを計算する実施の形態も可能である。
【0033】
(ハードウェアの補足)
図4は、情報処理装置20のハードウェア構成を示す。情報処理装置20のハードウェア構成を示す。情報処理装置20は、コンピュータである。情報処理装置20は、プロセッサ210を備える。情報処理装置20は、ハードウェアとして、プロセッサ210、主記憶装置220、補助記憶装置230、通信インタフェース240を備えている。プロセッサ210は、信号線250を介して、他のハードウェアと接続され、他のハードウェアを制御する。
【0034】
情報処理装置20は、振幅計算部21、周波数解析部22、卓越周波数計算部26、スペクトル幅指標値計算部27,最大振幅指標値計算部28およびノイズ識別部29を備えている。これらの機能は、情報処理プログラム231により実現される。
【0035】
プロセッサ210は、情報処理プログラム231を実行する装置である。プロセッサ210が情報処理プログラム231を実行することで、振幅計算部21、周波数解析部22、卓越周波数計算部26、スペクトル幅指標値計算部27,最大振幅指標値計算部28およびノイズ識別部29の機能が実現される。プロセッサ210は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)である。
【0036】
主記憶装置220の具体例は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)である。主記憶装置220は、プロセッサ210の演算結果を保持する。
【0037】
補助記憶装置230は、データを不揮発的に保管する記憶装置である。補助記憶装置230の具体例は、HDD(Hard Disk Drive)である。補助記憶装置230は、可搬記録媒体であってもよい。補助記憶装置230は、情報処理プログラム231を記憶している。
【0038】
通信インタフェース240は、プロセッサ210が他の装置と通信するための通信ポートである。通信インタフェース240は、ネットワーク50に接続している。
【0039】
プロセッサ210は補助記憶装置230から情報処理プログラム231を主記憶装置220にロードする。プロセッサ210は、ロードされた情報処理プログラム231を主記憶装置220から読み込んで実行する。
【0040】
情報処理プログラム231は、情報処理装置20の有するそれぞれの「部」を「処理」、「手順」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順あるいは各工程を、コンピュータに実行させるプログラムである。
【0041】
また、コンピュータである情報処理装置20が情報処理プログラム231を実行することにより行われる方法は、情報処理方法である。情報処理プログラム231は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 地動センサ、20 情報処理装置、21 振幅計算部、22 周波数解析部、26 卓越周波数計算部、27 スペクトル幅指標値計算部、28 最大振幅指標値計算部、29 ノイズ識別部、30 地震計、40 外部装置、50 ネットワーク、210 プロセッサ、220 主記憶装置、230 補助記憶装置、231 情報処理プログラム、240 通信インタフェース、250 信号線。