(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】反射型遮音壁
(51)【国際特許分類】
E01F 8/00 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
E01F8/00
(21)【出願番号】P 2023218829
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】笠見 智大
(72)【発明者】
【氏名】浦田 容輔
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-262519(JP,A)
【文献】特開2020-111979(JP,A)
【文献】特開2021-025259(JP,A)
【文献】特開平10-077610(JP,A)
【文献】特開2007-092299(JP,A)
【文献】特開2008-303490(JP,A)
【文献】特開2009-108634(JP,A)
【文献】特開2015-110882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 8/00-8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をあけて立設された複数のH鋼支柱,および上記H鋼支柱を構成するフランジ間に両側部が嵌め込まれ,正面に凹凸が形成され,内部が中空の金属製の直方体状の反射型遮音パネルを備え,
上記反射型遮音パネルが,その両側部のそれぞれにおいて高さ方向に通されるパネル落下防止用ワイヤロープが通る第1のワイヤロープ挿通路と,その上端部において幅方向に通される支柱回転防止用ワイヤロープが通る第2のワイヤロープ挿通路を備え,
上記H鋼支柱の上端部および下端部のそれぞれにおいてH鋼支柱を構成するウエブにワイヤロープが通る通し孔があけられており,
高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルに共通の1本のパネル落下防止用ワイヤロープが,上記H鋼支柱の上端部および下端部の通し孔および複数の反射型遮音パネルの第1のワイヤロープ挿通路に通されており,
複数のH鋼支柱に共通の1本の支柱回転防止用ワイヤロープが,複数のH鋼支柱の上端部の通し孔および幅方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの第2のワイヤロープ挿通路に通されている,
反射型遮音壁。
【請求項2】
上記パネル落下防止用ワイヤロープが,
上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通され,上記H鋼支柱のウエブの一方がわに高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの一側部の第1のワイヤロープ挿通路を下方に向けて通り,上記H鋼支柱の下端部の通し孔を通され,上記H鋼支柱の他方がわに高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの他側部の第1のワイヤロープ挿通路を上方に向けて通り,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通されており,
上記パネル落下防止用ワイヤロープの先端部に,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通過しない大きさの端末具が固定されている,
請求項1に記載の反射型遮音壁。
【請求項3】
上記支柱回転防止用ワイヤロープの先端部に,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通過しない大きさの端末具が固定されている,
請求項1または2に記載の反射型遮音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は反射型遮音壁および反射型遮音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等からの騒音や路面音を外に出さないために,高速道路,自動車専用道路,大型国道などの路側に遮音壁が設置される。遮音壁は,音を壁にあてて跳ね返す反射型(主としてコンクリート製)のものと,音を吸音材によって吸音する吸音型(主として金属製で,吸音材が収納される)のものとに大別される。反射型遮音壁は主に土工部で使用され,吸音型遮音壁は主に橋梁部で使用されている。
【0003】
土工部に設置される反射型遮音壁は,橋梁部に設置される吸音型遮音壁と異なり,一般には落下防止対策が施されない。反射型遮音壁が設置される土工部は周囲に民家等がほとんどないからである。
【0004】
近年では,土工部に設置される反射型遮音壁にも,条件によっては落下防止対策が要求されるケースが生じている。しかしながら反射型遮音壁の多くを占めるコンクリート製遮音壁は重量が大きく,落下防止対策自体を講じることが難しい。
【0005】
特許文献1は金属製の反射型遮音壁を開示する。金属製遮音壁はコンクリート製遮音壁に比べて重量は軽い。しかしながら特許文献1の遮音壁には落下防止対策は講じられてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は,落下対策を講じた反射型遮音壁および遮音パネルを提供することを目的とする。
【0008】
この発明による反射型遮音壁は,間隔をあけて立設された複数のH鋼支柱,および上記H鋼支柱を構成するフランジ間に両側部が嵌め込まれ,正面に凹凸が形成され,内部が中空の金属製の直方体状の反射型遮音パネルを備え,上記反射型遮音パネルが,その両側部のそれぞれにおいて高さ方向に通されるパネル落下防止用ワイヤロープが通る第1のワイヤロープ挿通路と,その上端部において幅方向に通される支柱回転防止用ワイヤロープが通る第2のワイヤロープ挿通路を備え,上記H鋼支柱の上端部および下端部のそれぞれにおいてH鋼支柱を構成するウエブにワイヤロープが通る通し孔があけられており,高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルに共通の1本のパネル落下防止用ワイヤロープが,上記H鋼支柱の上端部および下端部の通し孔および複数の反射型遮音パネルの第1のワイヤロープ挿通路に通されており,複数のH鋼支柱に共通の1本の支柱回転防止用ワイヤロープが,複数のH鋼支柱の上端部の通し孔および幅方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの第2のワイヤロープ挿通路に通されているものである。
【0009】
この発明は,上記反射型遮音壁を構成する反射型の遮音パネルも提供する。この発明による反射型遮音パネルは,内部が中空の金属製の直方体状のものであって,正面に凹凸が形成されており,両側部のそれぞれにおいて高さ方向に通されるパネル落下防止用ワイヤロープが通る第1のワイヤロープ挿通路,および上端部において幅方向に通される支柱回転防止用ワイヤロープが通る第2のワイヤロープ挿通路を備えている。
【0010】
反射型遮音パネルは直方体状であり,正面,背面,上面,底面(下面)および左右の側面を持つ。反射型遮音パネルはその正面が車両等が走行する道路側に向けられる。
【0011】
反射型遮音パネルの両側部が,間隔をあけて立設されたH鋼支柱に嵌め込まれる。H鋼支柱は横断面がアルファベット文字「H」に似た形状を備えるもので,間隔をあけて互いに平行に並ぶフランジと,フランジ間を結ぶウエブを備え,ウエブおよびフランジによって形成される高さ方向にのびる2つの隙間(溝)のそれぞれに,反射型遮音パネルの側部が嵌め込まれる。
【0012】
この発明によると,パネル落下防止用および支柱回転防止用のワイヤロープのそれぞれが通る第1,第2のワイヤロープ挿通路が反射型遮音パネルの内部に形成されているので,パネル落下防止用および支柱回転防止用ワイヤロープを雨風から守ることができる。ワイヤロープを風雨から保護するための別部材を遮音パネルに取り付ける必要もない。
【0013】
反射型遮音壁を構成する反射型遮音パネルの正面に凹凸が形成されているので,反射型遮音パネルの正面において反射される車両等からの排気音,路面音等を様々な方向に散らすことでき,遮音(音減衰)効果が高められる。また,反射型遮音パネルは内部が中空の金属製のものであるから,コンクリート製遮音パネルに比べて軽く,取り扱いが用意である。
【0014】
一実施態様では,上記パネル落下防止用ワイヤロープは,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通され,上記H鋼支柱のウエブの一方がわに高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの一側部の第1のワイヤロープ挿通路を下方に向けて通り,上記H鋼支柱の下端部の通し孔を反対向きに通され,上記H鋼支柱の他方がわに高さ方向に並ぶ複数の反射型遮音パネルの他側部の第1のワイヤロープ挿通路を上方に向けて通り,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通されており,上記第1のワイヤロープの両先端部に,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通過しない大きさの端末具が固定されている。一本の落下防止用ワイヤロープによって,H鋼支柱の両側において高さ方向にそれぞれ並ぶ複数の反射型遮音パネルを,H鋼支柱に緩やかに拘束することができる。反射型遮音パネルに車両がぶつかったとしても反射型遮音パネルのみが吹き飛ばされてしまう可能性は低い。
【0015】
他の実施態様では,上記支柱回転防止用ワイヤロープの両先端部に,上記H鋼支柱の上端部の通し孔を通過しない大きさの端末具が固定されている。車両等が衝突することによって複数のH鋼支柱のうちのいずれか外向きに傾いたとしても,衝突をのがれたH鋼支柱および支柱回転防止用ワイヤロープによって傾いたH鋼支柱がその根元を軸にして外側に回転してしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】
図2のIII-III線に沿う反射型遮音パネルの断面図である。
【
図4】反射型遮音壁の支柱の上端部の拡大斜視図である。
【実施例】
【0017】
図1は反射型遮音壁の正面図である。
図2は反射型遮音壁を構成する反射型遮音パネルの斜視図である。
図3は
図2のIII-III線に沿う反射型遮音パネルの断面図である。
【0018】
図1を参照して,反射型遮音壁は,間隔をあけて立設されたH鋼支柱20の対向するフランジ間の溝内に複数の反射型遮音パネル10の側部を嵌め込んで積み上げることで構成される。積み上げる反射型遮音パネル10の数を増やすことによって反射型遮音壁の高さが調整される。立設されるH鋼支柱20の本数を増やすことによって反射型遮音壁の全長が調整される。反射型遮音壁は一般には道路,特には土工部の道路の両側に設けられる。
【0019】
図2および
図3を参照して,反射型遮音壁を構成する反射型遮音パネル10は,正面板11,背面板12,側面板13および仕切り板15を備えている。反射型遮音パネル10(正面板11,背面板12,側面板13および仕切り板15)はたとえば溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板によってつくられる。
【0020】
正面板11は,幅方向の長さが高さ方向の長さよりも長い矩形の形状を備え,左右の両側部を結ぶ方向にのびる複数の凸部11Aおよび凹部11Bが縦方向に交互に形成されている。反射型遮音壁はその正面板11が道路側に向けられて設置される。正面板11に形成された凸部11Aおよび凹部11Bによって車両等からの排気音,路面音等を様々な方向に散らすことができ,遮音効果(音の減衰効果)が高められる。
【0021】
背面板12はその上縁端および下縁端に正面板11の向きにのびる部分(上面部および下面部)を有しており,正面板11と背面板12とを組み立てることによって左右が開口する箱体が形成される。左右の開口は,以下に説明するワイヤロープ30,40が通る空間(通路)を確保して固定される側面板13によって閉じられる。
【0022】
背面板12の上面部および下面部の左右の両端部に,内向きの概略半円形の切り欠き12Aが形成されており,切り欠き12Aを通じて,反射型遮音パネル10の左右両側部のそれぞれに高さ方向(縦向き)にワイヤロープ40が通すことができる。すなわち,切り欠き12Aによって反射型遮音パネル10の両側部には高さ方向にワイヤロープ40が通る挿通路が形成されている。また,
図2を参照して,高さ方向に通されるワイヤロープ40を反射型遮音パネル10の両側部内に収めておき,反射型遮音パネル10をワイヤロープ40を介してH鋼支柱20に緩く拘束するために,正面板11の側端縁の一部と背面板12の側端端の一部をつなぐ側面固定板14が設けられている。
【0023】
側面固定板14を設けるのに代えて,側面板13にアイボルトを固定しておき,アイボルトの穴にワイヤロープ40を通すようにしてもよい。
【0024】
図1を参照して,反射型遮音壁を構成するH鋼支柱20ごとに,高さ方向に通されるワイヤロープ40は設けられる。すなわち,H鋼支柱20ごとに,一本のワイヤロープ40によって,H鋼支柱20の上端部と下端部のそれぞれにあけられた通し孔24,25を通じてループがつくられ,H鋼支柱20(そのウエブ)を縦に一周するようにワイヤロープ40は設けられる。高さ方向に通されるワイヤロープ40は,車両等が反射型遮音壁に衝突したときに反射型遮音パネル10が落下してしまうのを防止するためのものであり,以下では,パネル落下防止用ワイヤロープ40と呼ぶ。
【0025】
図4はH鋼支柱20の上端部の斜視図を示している。H鋼支柱20は一対のフランジ21,22およびウエブ23を備え,ウエブ23の両側のそれぞれに形成される高さ方向にのびる溝内に反射型遮音パネル10の側部が収められる。
図4では反射型遮音パネル10の図示は省略されている。
【0026】
図1および
図4を参照して,パネル落下防止用ワイヤロープ40の両端部に端末具41がそれぞれ固定されている。
図4を参照して,パネル落下防止用ワイヤロープ40の一端部の端末具41はウエブ23によって仕切られるH鋼支柱20の一方の溝内(反射型遮音パネル10の一側部の溝内でもある)に位置する。同様にして,パネル落下防止用ワイヤロープ40の他端部の端末具41はH鋼支柱20の他方の溝内にそれぞれ位置する。すなわち,1本のパネル落下防止用ワイヤロープ40はH鋼支柱20の上端部の通し孔24において交差している。端末具41はパネル落下防止用ワイヤロープ40が通されるウエブ23にあけられた通し孔24よりも大きく,端末具41が通し孔24から抜け出てしまうことはない。
【0027】
図3を参照して,反射型遮音パネル10の内部の上端部に仕切り板15が固定されており,仕切り板15によって反射型遮音パネル10内には幅方向にのびるワイヤロープ挿通路17が形成されている。
図1を参照して,ワイヤロープ挿通路17およびH鋼支柱20のウエブ23にあけられた通し孔24を通じて,反射型遮音壁の上端部には幅方向にワイヤロープ30が通されている。ワイヤロープ30は車両等が反射型遮音壁に衝突した場合にH鋼支柱20(および反射型遮音パネル10)が回転してしまうのを防止するためのものであり,以下,支柱回転防止用ワイヤロープ30と呼ぶ。
【0028】
支柱回転防止用ワイヤロープ30は,複数のH鋼支柱20にわたって設けられ,複数のH鋼支柱20の間に設けられる複数の反射型遮音パネル10のうち最上段に位置する反射型遮音パネル10のワイヤロープ挿通路17に通される。3本以上,好ましくはより多数のH鋼支柱20に共通に一本の支柱回転防止用ワイヤロープ30が用いられる。
図4を参照して,複数のH鋼支柱20の通し孔24および幅方向に並ぶ複数の反射型遮音パネル10のワイヤロープ挿通路17を通された支柱回転防止用ワイヤロープ30の末端部には,H鋼支柱20のウエブ23にあけられた通し孔24より大きな端末具31が固定されており,端末具31も通し孔24から抜け出てしまうことはない。
【0029】
支柱回転防止用ワイヤロープ30については,その一端部に上述の端末具31を固定し,他端はH鋼支柱20のウエブ23にボルトやナットを用いて強固に固定してもよい。
【0030】
支柱回転防止用ワイヤロープ30およびパネル落下防止用ワイヤロープ40はいずれも反射型遮音パネル10内に収納されるので風雨に晒されることがない。支柱回転防止用ワイヤロープ30およびパネル落下防止用ワイヤロープ40の風雨から保護することができる。
【0031】
H鋼支柱20の溝内に最上段の反射型遮音パネル10を積み重ねた後,H鋼支柱20の溝部の上面,または反射型遮音パネル10の背面板12の上面部の左右の両端部の切り欠き12Aを,板材等によって閉じるようにしてもよい。支柱回転防止用ワイヤロープ30が通るワイヤロープ挿通路17内への雨水の進入,およびパネル落下防止用ワイヤロープ40が通るH鋼支柱20の溝内への雨水の進入を一層抑制することができる。
【0032】
反射型遮音パネル10は内部が中空の金属製であるので軽く,運搬作業や設置作業において扱いやすい。このため,反射型遮音壁の設置工事の短期化,省人化に有利である。
【0033】
仕切り板15および仕切り板15によって形成されるワイヤロープ挿通路17は,反射型遮音壁を構成する複数の反射型遮音パネル10のうち,最上段の反射型遮音パネル10だけが備えればよいが,最上段に設置される反射型遮音パネルと,その他(最上段ではない)の箇所に設けられる反射型遮音パネルの構造を異ならせると,仕切り板15を設けるコストよりも管理コストの方が高くなりかねない。反射型遮音壁を構成する反射型遮音パネル10のすべてについて仕切り板15および仕切り板15によって形成されるワイヤロープ挿通路17を備える一律構造のものを採用することによって,コスト面で有利となる。
【符号の説明】
【0034】
10 反射型遮音パネル
11 正面板
11A 凸部
11B 凹部
12A 切り欠き
13 側面板
14 側面固定板
15 仕切り板
17 ワイヤロープ挿通路
20 H鋼支柱
21,22 フランジ
23 ウエブ
24,25 通し孔
30 支柱回転防止用ワイヤロープ
31,41 端末具
40 パネル落下防止用ワイヤロープ
【要約】
【課題】落下対策を講じた反射型遮音壁を提供する。
【解決手段】反射型遮音壁は,間隔をあけて立設された複数のH鋼支柱のフランジ間に両側部が嵌め込まれ,正面に凹凸11A,11Bが形成され,内部が中空の金属製の直方体状の反射型遮音パネル10を備える。反射型遮音パネル10は,その両側部のそれぞれにおいて高さ方向に通されるパネル落下防止用ワイヤロープ40が通る第1のワイヤロープ挿通路と,その上端部において幅方向に通される支柱回転防止用ワイヤロープ30が通る第2のワイヤロープ挿通路を備える。
【選択図】
図2