(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】硬化性組成物および有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/844 20230101AFI20241119BHJP
H10K 77/10 20230101ALI20241119BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20241119BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20241119BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20241119BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241119BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241119BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K77/10
H10K85/10
C08F220/20
C08L71/02
C08L63/00 A
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2023517476
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2022018382
(87)【国際公開番号】W WO2022230748
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021076201
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】舘野 航太郎
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/006070(WO,A1)
【文献】特開2020-057580(JP,A)
【文献】特開2021-064541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/844
H10K 77/10
H10K 85/10
C08F 220/20
C08L 71/02
C08L 63/00
H10K 59/10
H10K 50/10
C08G 65/18
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子の封止に用いる、液状の硬化性組成物であって、
以下の成分(a)および(b):
(a)重合性化合物、
(b)重合開始剤
を含み、
波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm
2、積算光量1500mJ/cm
2で硬化させた当該硬化性組成物の硬化物の周波数100kHzにおける誘電率が
3.3以下であり、
以下の条件1にて得られる試料を、以下の条件2にて測定したときのヒステリシスロスが0%以上45%以下であ
り、
前記成分(b)が、光カチオン重合開始剤である、硬化性組成物。
(条件1)当該硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートを挟み込んだ2枚のガラス中へ封入し、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm
2、積算光量1500mJ/cm
2にて硬化して得られる硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットし、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物を前記試料とする。
(条件2)前記試料の一端を固定し、チャック間距離が30mmになるよう他端を固定する。このとき前記試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とする。23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて前記他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこなったときの応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)において、前記引っ張り試験の前記開始点から2%伸張時までのグラフ1、前記縦軸、''ひずみ=2%''の直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をAとし、前記2%伸張時から前記応力がゼロとなるまでのグラフ2、''ひずみ=2%''の前記直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をBとし、{(A-B)/A}×100で計算される解を前記ヒステリシスロスとする。
【請求項2】
前記成分(a)が
、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記成分(a)
が、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される2種以上を含む、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
有機EL素子の封止に用いる、液状の硬化性組成物であって、
以下の成分(a)および(b):
(a)重合性化合物、
(b)重合開始剤
を含み、
波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm
2
、積算光量1500mJ/cm
2
で硬化させた当該硬化性組成物の硬化物の周波数100kHzにおける誘電率が3.6以下であり、
以下の条件1にて得られる試料を、以下の条件2にて測定したときのヒステリシスロスが0%以上45%以下であり、
前記成分(a)が(メタ)アクリル化合物を含み、
前記(メタ)アクリル化合物中の単官能アクリレート化合物の含有量は、前記(メタ)アクリル化合物全体に対して15質量%以下である、硬化性組成物。
(条件1)当該硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートを挟み込んだ2枚のガラス中へ封入し、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm
2
、積算光量1500mJ/cm
2
にて硬化して得られる硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットし、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物を前記試料とする。
(条件2)前記試料の一端を固定し、チャック間距離が30mmになるよう他端を固定する。このとき前記試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とする。23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて前記他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこなったときの応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)において、前記引っ張り試験の前記開始点から2%伸張時までのグラフ1、前記縦軸、''ひずみ=2%''の直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をAとし、前記2%伸張時から前記応力がゼロとなるまでのグラフ2、''ひずみ=2%''の前記直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をBとし、{(A-B)/A}×100で計算される解を前記ヒステリシスロスとする。
【請求項5】
前記成分(b)が、光ラジカル重合開始剤である、請求項
4に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記成分(a)が、一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物を1種以上含む、請求項4または5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記成分(a)が、一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物を2種以上含む、請求項
6に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
成分(c):レベリング剤をさらに含む、請求項1または
4に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記成分(c)が、アクリル系レベリング剤である、請求項
8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
E型粘度計を用いて25℃、20rpmにて測定される当該硬化性組成物の粘度が、3mPa・s以上50mPa・s以下である、請求項1または
4に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に配置された有機EL素子と、
前記有機EL素子を被覆する封止層と、
を含み、前記封止層が、請求項1または
4に記載の硬化性組成物の硬化物により構成されている、有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物および有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、消費電力が少ないことから、ディスプレイや照明装置などに用いられつつある。有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化しやすいことから、シール材で封止されて使用することが検討されている。
【0003】
特許文献1(国際公開第2015/129670号)には、シクロアルケンオキサイド型脂環式エポキシ化合物と、フェノキシ樹脂と、硬化剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子封止用硬化性樹脂組成物について記載されており、かかる組成物により、透明性、耐屈曲性、及び、バリア性に優れる硬化物を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、特許文献1に記載の技術について検討したところ、かかる技術においては、有機EL表示装置を長期使用した時の耐久性を向上するという点で改善の余地があることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、有機EL表示装置を長期使用した時の耐久性を向上するために鋭意検討した。その結果、有機EL素子の封止に用いられる組成物を、特定の成分を含む液状の硬化性組成物とし、誘電率およびヒステリシスロスが特定の範囲にある構成とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、特定の成分を含む液状の硬化性組成物において、誘電率およびヒステリシスロスという尺度が、有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上するための設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す硬化性組成物および有機EL表示装置が提供される。
[1] 有機EL素子の封止に用いる、液状の硬化性組成物であって、
以下の成分(a)および(b):
(a)重合性化合物、
(b)重合開始剤
を含み、
波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2で硬化させた当該硬化性組成物の硬化物の周波数100kHzにおける誘電率が3.6以下であり、
以下の条件1にて得られる試料を、以下の条件2にて測定したときのヒステリシスロスが0%以上45%以下である、硬化性組成物。
(条件1)当該硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートを挟み込んだ2枚のガラス中へ封入し、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2にて硬化して得られる硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットし、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物を前記試料とする。
(条件2)前記試料の一端を固定し、チャック間距離が30mmになるよう他端を固定する。このとき前記試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とする。23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて前記他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこなったときの応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)において、前記引っ張り試験の前記開始点から2%伸張時までのグラフ1、前記縦軸、''ひずみ=2%''の直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をAとし、前記2%伸張時から前記応力がゼロとなるまでのグラフ2、''ひずみ=2%''の前記直線および前記横軸に囲まれる領域の面積をBとし、{(A-B)/A}×100で計算される解を前記ヒステリシスロスとする。
[2] 前記成分(a)が、一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される1種以上を含む、[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 前記成分(a)が、一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される2種以上を含む、[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
[4] 前記成分(b)が、光カチオン重合開始剤である、[1]乃至[3]いずれか1つに記載の硬化性組成物。
[5] 前記成分(b)が、光ラジカル重合開始剤である、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
[6] 成分(c):レベリング剤をさらに含む、[1]乃至[5]いずれか1つに記載の硬化性組成物。
[7] 前記成分(c)が、アクリル系レベリング剤である、[6]に記載の硬化性組成物。
[8] E型粘度計を用いて25℃、20rpmにて測定される当該硬化性組成物の粘度が、3mPa・s以上50mPa・s以下である、[1]乃至[7]いずれか1つに記載の硬化性組成物。
[9] 前記成分(a)が、一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物を2種以上含む、[1]乃至[8]いずれか1つに記載の硬化性組成物。
[10] 基板と、
前記基板上に配置された有機EL素子と、
前記有機EL素子を被覆する封止層と、
を含み、前記封止層が、[1]乃至[9]いずれか1つに記載の硬化性組成物の硬化物により構成されている、有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。
【
図2】実施形態における応力-ひずみ曲線の一例を模式的に示す図である。
【
図3】実施例における耐屈曲性の評価方法を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本実施形態において、各成分について、それぞれ、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本明細書において、数値範囲を表す「~」は、下限値および上限値をいずれも含む。
【0011】
(硬化性組成物)
本実施形態において、硬化性組成物は、有機EL素子の封止に用いる、液状の組成物であって、以下の成分(a)および(b)を含む。
(a)重合性化合物
(b)重合開始剤
また、硬化性組成物を波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2で硬化させた硬化物の周波数100kHzにおける誘電率は、3.6以下である。
また、硬化性組成物を用いて以下の条件1にて得られる試料を、以下の条件2にて測定したときのヒステリシスロスは、0%以上45%以下である。
(条件1)硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートを挟み込んだ2枚のガラス中へ封入し、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2にて硬化して得られる硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットし、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物を試料とする。
(条件2)試料の一端を固定し、チャック間距離が30mmになるよう他端を固定する。このとき試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とする。23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこなったときの応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)において、引っ張り試験の開始点から2%伸張時までのグラフ1、縦軸、''ひずみ=2%''の直線および横軸に囲まれる領域の面積をAとし、2%伸張時から応力がゼロとなるまでのグラフ2、''ひずみ=2%''の直線および横軸に囲まれる領域の面積をBとし、{(A-B)/A}×100で計算される解をヒステリシスロスとする。
【0012】
前述のように、本発明者は、成分(a)および(b)を含む液状の硬化性組成物について、その硬化物の誘電率およびヒステリシスロスという尺度が、有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上できる封止材を実現するための設計指針として有効であることを見出した。そして、本発明者は、上記知見をもとにさらに鋭意検討したところ、前述の誘電率が3.6以下であり、前述のヒステリシスロスが0%以上45%以下である硬化性組成物を用いることにより、長期使用時の耐久性を向上するための封止材を実現できることを見出した。
このような硬化性組成物を用いることにより、有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上することができる理由は必ずしも明らかではないが、有機EL素子の電界の影響を受けにくい点や樹脂がもとに戻りにくいためひずみが起きやすい点が考えられる。
【0013】
硬化性組成物の硬化物の誘電率は、封止材の封止特性を向上する観点から、3.6以下であり、たとえば1.0以上3.6以下であってよく、好ましくは1.0以上3.5以下、さらに好ましくは1.0以上3.3以下である。
ここで、硬化物の誘電率は、波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物について、周波数100kHzにて測定される誘電率である。
【0014】
また、封止材の長期耐久性を向上する観点から、硬化性組成物の硬化物のヒステリシスロスは、0%以上45%以下であり、好ましくは0%以上40%以下、より好ましくは0%以上35%以下、さらに好ましくは0%以上25%以下であり、さらにより好ましくは0%以上20%以下である。また、硬化性組成物の硬化物のヒステリシスロスは、たとえば5%以上であってもよい。
【0015】
ここで、硬化性組成物の硬化物のヒステリシスロスは、硬化性組成物を用いて上記条件1にて得られる試料を、上記条件2にて測定することにより得られる。
条件1においては、まず、硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートを挟み込んだ2枚のガラス中へ封入する。そして、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2にて硬化して、厚みが概ね100μmの硬化物を得る。
得られた硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットする。カットした硬化物のうち、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物をヒステリシスロス測定のための試料とする。
【0016】
ヒステリシスロスの測定は、条件2に基づいておこなう。測定には、たとえば万能材料試験機等の引っ張り試験が可能な装置を用いることができる。試料の一端を測定装置のチャックに固定し、チャック間距離が30mmになるよう他端を固定する。23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこない、応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)を得る。なお試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とする。つまり、開始点においては、ひずみ0mm、荷重0.05Nである。
ここで、ひずみとは、((引っ張り距離)/(チャック間距離))である。このチャック間距離は、開始点におけるチャック間距離のことを示し、引っ張り距離とは、開始点から180度方向に引っ張った距離を示す。
図2は、応力-ひずみ曲線の一例を模式的に示す図である。
引っ張り試験で得られた応力-ひずみ曲線において、引っ張り試験の開始点から2%伸張時までのグラフ1、縦軸、''ひずみ=2%''の直線および横軸に囲まれる領域の面積をAとし、2%伸張時から応力がゼロとなるまでのグラフ2とする。そして、グラフ2、''ひずみ=2%''の直線および上記横軸に囲まれる領域の面積をBとし、下記式によりヒステリシスロスを算出する。
ヒステリシスロス={(A-B)/A}×100
【0017】
本実施形態において、硬化性組成物の硬化物の誘電率やヒステリシスロスを上述の範囲内に調整するためには、たとえば、成分(a)および(b)の種類や含有割合、硬化性組成物の製造方法等を高度に制御する必要がある。
中でも、本実施形態においては、たとえば成分(a)として一分子中に2以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2以上のオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される1種以上を用いること;
成分(b)として、たとえば光カチオン重合開始剤を用いること;
成分(a)および(b)の配合割合を調整すること;
硬化性組成物の粘度を調整すること;
重合開始剤以外の材料を減圧下、たとえば40℃以上の温度で加熱攪拌した後、重合開始剤を添加すること;
硬化物組成物の硬化物を得るにあたり、硬化性組成物の成膜(たとえば、塗布)時および硬化時の酸素濃度を調整すること;
等が硬化性組成物の硬化物の誘電率やヒステリシスロスを上述の範囲内に制御するための因子として挙げられる。
このうち、硬化物組成物の調製時は、たとえば200Paの減圧下、たとえば40℃以上の温度で混合および攪拌をおこなう。攪拌時に減圧状態ではない場合、気体中の酸素が液へ溶け込み、液中酸素濃度が高くなってしまうため好ましい硬化特性が得られない場合がある。また、温度が低すぎる場合、液中の酸素が取り除かれにくくなるため、好ましい硬化特性が得られない場合がある。
また成膜のための塗布時は、硬化物の長期使用時の信頼性を向上する観点から、たとえば酸素濃度20.0~21.1%雰囲気下で塗布を行い、硬化時においては、たとえばUV硬化時は酸素濃度50ppm~1000ppmにて硬化を行う。
【0018】
本実施形態において、硬化性組成物は、好ましくは塗布に用いられる封止剤であり、より好ましくはインクジェット法による塗布に用いられる封止剤である。
E型粘度計を用いて25℃、20rpmにて測定される硬化性組成物の粘度は、インクジェット吐出性向上の観点から、好ましくは3mPa・s以上であり、より好ましくは5mPa・s以上、さらに好ましくは8mPa・s以上、さらにより好ましくは10mPa・s以上である。
また、インクジェット吐出性向上の観点から、上記硬化性組成物の粘度は、好ましくは50mPa・s以下であり、より好ましくは30mPa・s以下、さらに好ましくは27mPa・s以下、さらにより好ましくは25mPa・s以下である。
【0019】
次に、硬化性組成物の構成成分について具体例を挙げて説明する。
【0020】
(成分(a))
成分(a)は、重合性化合物である。成分(a)として、具体的には、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等のラジカル重合性官能基を有する化合物(以下、「ラジカル重合性化合物」とも呼ぶ。);および
エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等のカチオン重合性の官能基を有する化合物(以下、「カチオン重合性化合物」とも呼ぶ。)が挙げられる。
【0021】
有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上する観点から、成分(a)は、好ましくは一分子中に2以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2以上のオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される1種以上を含み;より好ましくは一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される1種以上を含み;さらに好ましくは一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物、一分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ化合物、および、一分子中に2つのオキセタニル基を有するオキセタン化合物からなる群から選択される2種以上を含み、さらにより好ましくは一分子中に2つの(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物を2種以上含む。
なお、本実施形態において、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0022】
成分(a)がラジカル重合性化合物であるとき、ラジカル重合性化合物は好ましくは(メタ)アクリル化合物である。
(メタ)アクリル化合物は、好ましくは一分子中に2以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物であり、その具体例として、ジ(メタ)アクリル化合物、3官能以上の(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0023】
ジ(メタ)アクリル化合物の具体例として、脂肪族ジ(メタ)アクリル化合物および脂環式ジ(メタ)アクリル化合物からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
脂肪族ジ(メタ)アクリル化合物として、たとえば、ジオールのジ(メタ)アクリレート、(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(たとえばA-HD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジアクリレート(たとえばA-NOD-N、新中村化学工業社製)、1,10-デカンジオールジアクリレート(たとえばA-DOD-N、新中村化学工業社製)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(たとえばA-NPG、新中村化学工業社製)、エチレングリコールジアクリレート(たとえばSR206NS、アルケマ社製)、ポリエチレングリコールジアクリレート(たとえばA-400、新中村化学工業社製)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(たとえばAPG-400、新中村化学工業社製)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(たとえばA-DCP)、1,3-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBG、新中村化学工業社製)、1,4-ブタンジオールジメタクリレート(たとえばBD、新中村化学工業社製)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(たとえばHD-N、新中村化学工業社製)、1,9-ノナンジオールジメタクリレート(たとえばNOD-N、新中村化学工業社製)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(たとえばDOD-N、新中村化学工業社製)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(たとえばNPG、新中村化学工業社製)が挙げられる。
脂環式ジ(メタ)アクリル化合物として、たとえば、ジシクロペンタニルジメタクリレート(たとえばDCP、新中村化学工業社製)が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル化合物中のジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、架橋密度を高く保つ観点から、(メタ)アクリル化合物全体を100質量部としたとき、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、さらにより好ましくは90質量部以上である。また、(メタ)アクリル化合物中のジ(メタ)アクリル化合物の含有量は、たとえば100質量部以下であり、また、たとえば95質量部以下であってもよい。
【0025】
3官能以上の多官能(メタ)アクリル化合物の具体例として、トリメチロールプロパントリアクリレート(たとえばA-TMPT、新中村化学工業社製)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(たとえばA-TMPT-EO、新中村化学工業社製)、エトキシ化グリセリントリアクリレート(たとえばA-GLY-6E、新中村化学工業社製)、プロポキシ化グリセリントリアクリレート(たとえばA-GLY-3P、新中村化学工業社製)等の3官能(メタ)アクリル化合物;
ペンタエリスリトールテトラアクリレート(たとえばA-TMMT、新中村化学工業社製)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(たとえばATM-4E、新中村化学工業社製)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(たとえばAD-TMP-L、新中村化学工業社製)等の4官能(メタ)アクリル化合物;
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(たとえばM-402、東亞合成社製)等の5官能脂肪族アクリレート化合物;および
ジペンタエリスリトールペンタヘキサアクリレート(たとえばGM66G0H、國精化學社製)等の6官能(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
一方、単官能(メタ)アクリル化合物として、たとえば、イソステアリルアクリレート等の単官能脂肪族(メタ)アクリル化合物;ベンジルアクリレート、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート等の単官能芳香族(メタ)アクリル化合物が挙げられる。
【0026】
硬化性を向上させる観点から、一分子中に2以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物は、好ましくは炭素数8以上12以下の脂肪族ジオールのジ(メタ)アクリレートであり、より好ましくは1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレートおよび1,10-デカンジオールジメタクリレートからなる群から選択される1種または2種以上である。
同様の観点から、一分子中に2以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物が、脂肪族ジ(メタ)アクリル化合物および脂環式ジ(メタ)アクリル化合物を含むことも好ましく、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレートおよび1,10-デカンジオールジメタクリレートからなる群から選択される1種または2種以上とジシクロペンタニルジメタクリレートとを含むことがより好ましい。
また、(メタ)アクリル化合物中の単官能アクリレート化合物の含有量は、(メタ)アクリル化合物全体に対して好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらにより好ましくは12質量%以下であり、いっそう好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、さらによりいっそう好ましくは2質量%以下であり、(メタ)アクリル化合物が単官能アクリレート化合物を含まないことがことさら好ましい。
【0027】
成分(a)がカチオン重合性化合物であるとき、成分(a)は好ましくはエポキシ化合物およびオキセタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエポキシ化合物およびオキセタン化合物である。
【0028】
エポキシ化合物は、好ましくは一分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であり、その具体例として、2官能エポキシ化合物、3官能以上のエポキシ化合物が挙げられる。
【0029】
2官能エポキシ化合物の具体例として、2官能脂環式エポキシ化合物、2官能脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
2官能脂環式エポキシ化合物としては、シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0030】
シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物として、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
上記一般式(1)中、Xは、単結合または連結基である。連結基は、たとえば2価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基(エーテル結合)、チオエーテル基(チオエーテル結合)、エステル基(エステル結合)、カーボネート基(カーボネート結合)、アミド基(アミド結合)、またはこれらが複数連結した基とすることができる。
【0033】
Xのうち、2価の炭化水素基として、たとえば、炭素数が1~18のアルキレン基や2価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18のアルキレン基として、たとえば、メチレン基や、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。2価の脂環式炭化水素基として、たとえば、1,2-シクロペンチレン基や、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の2価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む。)が挙げられる。
【0034】
上記の中でも、Xは、単結合または酸素原子を有する連結基であることが好ましい。酸素原子を有する連結基は、-CO-(カルボニル基)、-O-CO-O-(カーボネート基)、-COO-(エステル基)、-O-(エーテル基)、-CONH-(アミド基)、これらの基が複数連結した基、またはこれらの基の1以上と2価の炭化水素基の1以上とが連結した基であることがより好ましい。Xは、単結合であることがさらに好ましい。
【0035】
一般式(1)で表されるエポキシ化合物の例を以下に示す。以下の式中、lは、1~10の整数を表し、mは、1~30の整数を表す。Rは、炭素数1~8のアルキレン基(好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3のアルキレン基)を表す。
【0036】
【0037】
【0038】
シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物の市販品として、たとえば、セロキサイド2021P(3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、セロキサイド2081(ε-カプロラクトン変性 3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、セロキサイド8000、セロキサイド8010(以上、ダイセル社製)が挙げられる。
【0039】
2官能脂肪族エポキシ化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(たとえばNPG(D)、四日市合成社製)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(たとえばED-503、ADEKA社製)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(たとえばSR-PG、阪本薬品工業社製)水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(たとえばEX252、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
3官能以上のエポキシ化合物の具体例として、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(たとえばEX-321L、ナガセケムテックス社製)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(たとえばEX-421、ナガセケムテックス社製)等の多官能エポキシ化合物が挙げられる。
【0040】
硬化性向上の観点から、一分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物は、好ましくは上記一般式(1)においてXが単結合である化合物、3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートおよびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルからなる群から選択される1以上である。
【0041】
カチオン重合性化合物のエポキシ化合物の含有量は、初期反応速度を高める観点から、カチオン重合性化合物全体を100質量部としたとき、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは25質量部以上である。
また、伸長反応速度を高める観点から、カチオン重合性化合物中のエポキシ化合物の含有量は、カチオン重合性化合物全体を100質量部としたとき、たとえば100質量部以下であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0042】
次に、オキセタン化合物について説明する。
オキセタン化合物は、好ましくは一分子中に2以上のオキセタニル基を有するオキセタン化合物であり、より好ましくは2官能オキセタン化合物であり、さらに好ましくは以下の一般式(6)または(7)で表される2官能オキセタン化合物である。
【0043】
【0044】
一般式(6)および(7)中、R5は、独立して、水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、フリル基またはチエニル基であり、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。R6は、2価の有機残基である。また一般式(7)中、uは平均値で1~5の数であり、好ましくは1~3の数である。
【0045】
R5のうち、炭素原子数1~6のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
アリール基の例として、具体的には、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基が挙げられる。
アラルキル基として、具体的には、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
【0046】
また、R6として、具体的には、アルキレン基、ポリオキシアルキレン基、フェニレン基、キシリレン基、下記一般式で示される構造が挙げられる。
【0047】
【0048】
上記一般式中、R3は酸素原子、硫黄原子、-CH2-、-NH-、-SO-、-SO2-、-C(CF3)2-または-C(CH3)2-である。
また、R4は、炭素原子数1~6のアルキレン基またはアリーレン基である。炭素原子数1~6のアルキレン基として、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基が挙げられる。
【0049】
また、R6のうち、ポリオキシアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは4~30であり、より好ましくは4~8である。ポリオキシアルキレン基の具体例として、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基が挙げられる。
【0050】
一般式(6)に示した化合物の具体例として、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(たとえばOXT-221、東亞合成社製)が挙げられる。また、一般式(7)に示した化合物の具体例として、キシリレンビスオキセタン(たとえばOXT121、東亞合成社製、一般式(7)におけるu=1~3)等の2官能オキセタニル化合物が挙げられる。
硬化性向上の観点から、一分子中に2以上のオキセタニル基を有するオキセタン化合物は、好ましくは3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタンである。
【0051】
また、オキセタン化合物は単官能オキセタン化合物を含んでもよい。単官能オキセタン化合物として、たとば、3-エチル-3-〔(2-エチルヘキシルオキシ)メチル〕オキセタン等の単官能脂肪族オキセタン化合物が挙げられる。
【0052】
カチオン重合性化合物中のオキセタン化合物の含有量は、硬化性組成物の硬化物の誘電率を低下させる観点から、カチオン重合性化合物全体を100質量部としたとき、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上である。
また、同様の観点から、カチオン重合性化合物中のオキセタン化合物の含有量は、カチオン重合性化合物全体を100質量部としたとき、たとえば100質量部以下であり、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。
【0053】
有機EL表示装置の長期使用時の耐久性を向上する観点から、成分(a)は、好ましくは、上記一般式(1)においてXが単結合である化合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレートおよびトリメチロールプロパントリアクリレートからなる群から選択される1種または2種以上を含み、より好ましくは、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,9-ノナンジオールジアクリレートおよび1,9-ノナンジオールジメタクリレートからなる群から選択される1種または2種以上を含む。
【0054】
また、成分(a)は、単官能の(メタ)アクリレート化合物、単官能のエポキシ化合物および単官能のオキセタン化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含んでもよい。封止材の長期使用時の耐久性を向上する観点から、硬化性組成物は、好ましくは単官能の(メタ)アクリレート化合物および単官能のオキセタン化合物からなる群から選択される1または2以上の化合物を含む。
【0055】
硬化性組成物中の成分(a)の含有量は、硬化物の強度を向上する観点から、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは60~99.9質量%であり、より好ましくは80~99.9質量%、さらに好ましくは85~99.9質量%、さらにより好ましくは90~99.9質量%、よりいっそう好ましくは90~98.0質量%である。
【0056】
(成分(b))
成分(b)は、重合開始剤である。重合開始剤の具体例として、熱ラジカル開始剤および光重合開始剤からなる群から選択される1種以上が挙げられる。低温で安定的に硬化物を形成する観点から、成分(b)は、紫外線等の光が照射されることでラジカルまたはイオンを生成する重合開始剤(UVラジカル開始剤等の光ラジカル重合開始剤またはUVカチオン開始剤等の光カチオン重合開始剤)を含み、より好ましくは光カチオン重合開始剤である。
【0057】
光カチオン重合開始剤の具体例として、硬化物を安定的に形成する観点から、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族アンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩のアニオン部分は、たとえば、BF4
-、(Rf)nPF6-n(Rfは有機基であり、nは1~5の整数である。)、PF6
-、SbF6
-、またはBY4
-(Yは、少なくとも2つ以上のフッ素またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基である。)である。
【0058】
芳香族スルホニウム塩の具体例として、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビステトラフルオロボレート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。
【0059】
芳香族ヨードニウム塩の具体例として、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。
【0060】
芳香族ジアゾニウム塩の具体例として、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。
【0061】
芳香族アンモニウム塩の具体例として、1-ベンジル-2-シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ベンジル-2-シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0062】
また、光カチオン重合開始剤の市販品の具体例として、Irgacure250、Irgacure270、Irgacure290(以上、BASF社製)、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-400PG(以上、サンアプロ社製)、SP-150、SP-170、SP-171、SP-056、SP-066、SP-130、SP-140、SP-601、SP-606、SP-701(以上、ADEKA社製)が挙げられる。光カチオン重合開始剤は、硬化膜を安定的に得る観点から、好ましくはIrgacure270、Irgacure290、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-400PG、SP-150、SP-170、SP-171、SP-056、SP-066、SP-601、SP-606、SP-701等のスルホニウム塩である。
【0063】
また、光ラジカル重合開始剤の具体例として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド光重合開始剤が挙げられる。
【0064】
硬化性組成物中の成分(b)の含有量は、硬化性を向上する観点から、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。
また、硬化性組成物の着色を抑制する観点から、硬化性組成物中の成分(b)の含有量は、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0065】
硬化性組成物は、成分(a)および(b)以外の成分を含んでもよく、たとえば、硬化性組成物が成分(c):レベリング剤をさらに含んでもよい。
【0066】
(成分(c))
硬化性組成物が成分(c)のレベリング剤を含むことにより、硬化性組成物により形成される膜の平坦性を向上することができる。
成分(c)の具体例として、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(たとえばBYK-310、ビックケミー・ジャパン社製)、ポリエーテル変性シロキサン(たとえばBYK-345、ビックケミー・ジャパン社製)等のシリコーン系レベリング剤;
アクリル系共重合体(たとえばBYK-350、ビックケミー・ジャパン社製;KL700、共栄社化学社製)等のアクリル系レベリング剤;
フッ素変性ポリマー(たとえばBYK-340、ビックケミー・ジャパン社製)、パーフルオロアルキル含有オリゴマー(たとえばサーフロンS-611(AGCセイミケミカル社製)等のフッ素系レベリング剤が挙げられる。
【0067】
硬化性組成物をインクジェット印刷に適用する際における平坦性を向上する観点から、成分(c)は、好ましくはアクリル系共重合体、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサンおよびフッ素変性ポリマーからなる群から選択される1種または2種以上である。
同様の観点から、成分(c)がアクリル系レベリング剤であることも好ましい。
【0068】
硬化性組成物中の成分(c)の含有量は、硬化性組成物により形成される膜の平坦性を向上する観点から、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。
また、硬化物の表面硬度を安定させる観点から、硬化性組成物中の成分(c)の含有量は、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0069】
また、硬化性組成物における他の成分の例として、粘着性付与剤、増感剤、シランカップリング剤等のカップリング剤が挙げられる。
【0070】
たとえば、硬化性組成物が粘着性付与剤を含むことにより、硬化性組成物の硬化物の誘電率を大きく変化させることなく硬化性組成物の粘度を調整することができ、たとえば粘度を好ましく高めることができる。
粘着性付与剤の具体例として、脂肪族炭化水素樹脂、脂環式炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂等の石油樹脂;テルペン樹脂;フェノール樹脂等のフェノール類;およびロジン樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0071】
石油樹脂として、たとえば、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等から得られるC5モノマーまたはそのオリゴマー;
インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン等から得られるC9モノマーまたはそのオリゴマー;
C5モノマーおよびC9モノマーの共重合体(C5-C9共重合樹脂);
シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等から得られる脂環式モノマーまたはその重合体;
イソプロペニルトルエン等の芳香族モノマーまたはその重合体;
上記各種モノマーもしくはその重合体の水素化物;
上記各種モノマーもしくはその重合体を、無水マレイン酸やマレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、フェノール等で変性した変性石油樹脂が挙げられる。
成分(a)との相溶性に優れる観点から、粘着付与剤として用いられる石油樹脂は、好ましくはスチレン系オリゴマーである。同様の観点から、成分(a)がジシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂であることも好ましく、より好ましくはジシクロペンタジエンを主原料に製造され、分子内にエステル基を有している石油樹脂(たとえばQTN1500、日本ゼオン社製)である。
【0072】
テルペン系樹脂として、たとえば、α-ピネン樹脂や、β-ピネン樹脂、α-ピネンモノマー、β-ピネンモノマー等のテルペン類とスチレン等の芳香族モノマーとを共重合させた芳香族変性のテルペン系樹脂が挙げられる。
【0073】
フェノール類の具体例として、フェノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール、p-アルキルフェノール、レゾルシン等のフェノール化合物が挙げられる。
また、フェノール樹脂の具体例として、これらのフェノール化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒で付加反応させたレゾールや、酸触媒で縮合反応させて得られるノボラック等が含まれる。また、フェノール樹脂には、ロジンにフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂等も含まれる。
【0074】
ロジン樹脂として、たとえば、ガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンや、これらのロジンを用いて不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン、これらのロジンを無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、フェノール等で変性した変性ロジン、さらにはこれらのエステル化物等が挙げられる。エステル化物を得るために用いるアルコールは多価アルコールが好ましい。多価アルコールとして、たとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価アルコール;ジペンタエリスリトールなどの6価アルコール等が挙げられる。
【0075】
硬化性組成物中の粘着付与剤の含有量は、硬化性組成物の粘度を好ましいものとする観点から、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0076】
硬化性組成物が増感剤を含むことにより、硬化性組成物の硬化性をさらに向上することができる。増感剤として、たとえば光カチオン増感剤が挙げられる。
また、増感剤の具体例として、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ベンゾフェノン、2,4-ジクロロベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4'-メチルジフェニルサルファイド、9,10-ジブトキシアントラセンが挙げられる。
【0077】
硬化性組成物中の増感剤の含有量は、硬化性組成物の硬化性を向上する観点から、硬化性組成物の全組成に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。
また、硬化物の可視光透過性を好ましいものとする観点から、硬化性組成物中の増感剤の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、さらにより好ましくは1質量%以下である。
【0078】
次に、硬化性組成物の製造方法を説明する。
本実施形態において、硬化性組成物の製造方法は、たとえば、成分(a)および(b)ならびにその他の成分を混合することによって、液状の硬化性組成物を得る工程を含む。また、得られた硬化性組成物を硬化することにより硬化物が得られる。
このとき、前述のとおり、成分(a)および(b)の種類や含有割合、硬化性組成物の製造方法等を高度に制御することにより、硬化性組成物の硬化物の誘電率やヒステリシスロスを上述の範囲内に安定的に調整することができる。たとえば、硬化性組成物は、上述の成分を混合し、たとえばホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロールなどの混合機を用いて混合して得ることができる。なお、硬化性組成物を安定に混合する観点では、成分(b)以外の成分を混合した後、成分(b)を混合することがより好ましい。また、硬化性組成物の原料を混合および撹拌する際の減圧度、混合温度ならびに硬化物を得る際の酸素濃度を調整することも好ましい。こうした方法により、均一に液が調整可能で、ムラがない硬化物を得ることができ、硬化性組成物の硬化物の誘電率およびヒステリシスロスを上述の範囲に制御しやすくなる。
【0079】
本実施形態において得られる硬化性組成物は、たとえば表示装置、好ましくは有機EL表示装置の封止のために好適に用いられる。
本実施形態に得られる硬化性組成物の硬化物をたとえば表示装置、好ましくは有機EL表示装置の封止材として用いることにより、長期使用時の耐久性に優れる表示装置を得ることができる。
以下、有機EL表示装置を例に、表示装置の構成例を挙げる。
【0080】
(有機EL表示装置)
本実施形態において、有機EL表示装置は、硬化性組成物の硬化物に構成された層を有する。
図1は、本実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。
図1に示した表示装置100は、有機EL表示装置であって、基板(基材層50)と、基材層50上に配置された有機EL素子(発光素子10)と、発光素子10を被覆する封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)と、を含む。そして、たとえば封止層22が、本実施形態における硬化性組成物の硬化物により構成されている。
また、
図1においては、表示装置100が、発光素子10よりも観察側に位置する層として、バリア性層21(タッチパネル層21または表面保護層21であってもよい)、封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)、平坦化層23(封止層23であってもよい)、バリア性層24を有している。平坦化層23は、発光素子10を覆うように基材層50上に設けられており、バリア性層24は、平坦化層23の表面に設けられている。封止層22は、平坦化層23およびバリア性層24を覆うように基材層50上に設けられている。また、封止層22上にバリア性層21が設けられている。
【0081】
各層の具体的な構成は限定されず、一般的に公知の情報に基づいて、適切な構成をそれぞれ採用することができる。また、このような表示装置100は、一般的に公知の情報に基づいて、製造することが可能である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
はじめに、以下の例において用いた材料を示す。
((a)重合性化合物)
重合性化合物1:2官能脂環式エポキシ化合物、セロキサイド CEL8010(ダイセル社製、下記式で表される化合物(推定))
【0084】
【0085】
重合性化合物2:2官能脂肪族エポキシ化合物、NPG(D)、四日市合成社製、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル
重合性化合物3:2官能脂肪族オキセタン化合物、OXT221、東亞合成社製、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン
重合性化合物4:2官能脂環式メタクリレート化合物、DCP、新中村化学工業社製、ジシクロペンタニルジメタクリレート
重合性化合物5:2官能脂肪族メタクリレート化合物、NOD-N、新中村化学工業社製、1,9-ノナンジオールジメタクリレート
重合性化合物6:2官能脂肪族アクリレート化合物、A-NOD-N、新中村化学工業社製、1,9-ノナンジオールジアクリレート
重合性化合物7:単官能脂肪族アクリレート化合物、新中村化学株式工業社製、イソステアリルアクリレート
重合性化合物8:3官能脂肪族アクリレート化合物、A-TMPT、新中村化学工業社製、トリメチロールプロパントリアクリレート
重合性化合物9:5官能脂肪族アクリレート化合物、M-402、東亞合成社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
重合性化合物10:単官能脂肪族オキセタン化合物、OXT212、東亞合成社製、3-エチル-3-〔(2-エチルヘキシルオキシ)メチル〕オキセタン
重合性化合物11:単官能芳香族アクリレート化合物、A-LEN-10、新中村化学工業社製、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート
重合性化合物12:単官能芳香族アクリレート化合物、ビスコート160、大阪有機化学工業社製、ベンジルアクリレート
((b)重合開始剤)
重合開始剤1:光カチオン開始剤、CPI210S、サンアプロ社製
重合開始剤2:光ラジカル開始剤、TPO、BASF社製、2,4,6-trimethylbenzoyl-diphenyl phosphine oxide
((c)レベリング剤)
レベリング剤1:アクリル系共重合物、KL700、共栄社化学社製
(その他成分)
その他成分1(粘着性付与剤):スチレン系オリゴマー(イソプロぺニルトルエン(IPT)の単独重合体(スチレン系オリゴマー、重量平均分子量:1200、数平均分子量:800))
その他成分2(光カチオン増感剤):9,10-ジブトキシアントラセン、UVS-1331、川崎化成工業社製
【0086】
(実施例1~8、比較例1~3)
表1に示した配合組成となるように各成分を合計11kgスケールで配合して液状の硬化性組成物を得た。その際、重合開始剤以外の成分を全て混合し、真空ポンプにて系内を減圧し、減圧度190Pa~210Paの雰囲気下80℃で4時間混合および攪拌を行い、室温まで下げた後、酸素の混入を防ぐため窒素押し出しによって重合開始剤の入ったタンクへ移液を行い、減圧度190Pa~210Paの雰囲気下40℃で1時間混合および攪拌を行った。また成膜のための塗布時は酸素濃度20.0~21.1%雰囲気下で行い、UV硬化時は酸素濃度50ppm~1000ppmにて硬化を行った。
各例で得られた硬化性組成物またはその硬化物の物性を以下の方法で測定した。測定結果を表1にあわせて示す。
【0087】
(硬化性組成物の粘度)
各例で得られた硬化性組成物の粘度を、E型粘度計(LV-DV-II+、BROOKFIELD社製)を用いて25℃、20rpmにて測定した。
表1に示した粘度の評価基準は以下のとおりである。
A:3mPa・s以上50mPa・s以下
B:3mPa・s未満または50mPa・s超
【0088】
(硬化性組成物の硬化物のヒステリシスロス)
前述の方法に従い、硬化性組成物の硬化物を作製し、硬化物の引っ張り試験結果からヒステリシスロスを求めた。
すなわち、まず、硬化性組成物を、厚さ100μmのテフロン(登録商標)シート(MSF-100、中興化成工業社製)を挟み込んだ2枚のガラス中へ封入した。そして、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2にて硬化して、厚み約100μmの硬化物を得た。
得られた硬化物を、幅10mm×長さ55mmの大きさにカットした。カットした硬化物のうち、長さ方向に10mm毎合計5点での厚みがすべて90~110μmの範囲である硬化物をヒステリシスロス測定のための試料とした。
試料の一端をチャックに固定し、万能材料試験機 AG-X-Plus、島津製作所社製を用いて、23℃、10mm/秒(引っ張り速度)にて他端を180度方向へ引っ張る引っ張り試験をおこない、応力を縦軸とし、ひずみを横軸とした曲線(応力-ひずみ曲線)を得た。なお試料を何も取り付けていない状態を0mNと設定し、また、初期ひずみ解消のため、荷重が0.05Nに達するまで引っ張り、その点を開始点とした。したがって、開始点においては、ひずみ0mm、荷重0.05Nとした。応力-ひずみ曲線において、引っ張り試験の開始点から2%伸張時までのグラフ1、縦軸、''ひずみ=2%''の直線および横軸に囲まれる領域の面積をAとし、2%伸張時から応力がゼロとなるまでのグラフ2とした。そして、''ひずみ=2%''の直線および横軸に囲まれる領域の面積をBとし、下記式によりヒステリシスロスを算出した。
ヒステリシスロス={(A-B)/A}×100
表1に示したヒステリシスロスの評価基準は以下のとおりである。
A:0%以上45%以下
B:45%超
【0089】
(硬化性組成物の硬化物の誘電率)
誘電率測定のための硬化物を得るための塗膜を以下の方法により作製した。すなわち、得られた硬化性組成物を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、無アルカリガラス上にアルミを100nmの厚みで蒸着した基板に、硬化後の厚みが10μmとなるように、5cm×5cmのサイズで塗布した。この時の酸素濃度は20.6%で行った。
得られた塗膜を1分間、室温(25℃)で放置した後、波長395nmのUV-LEDで照度1500mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2、酸素濃度1000ppm以下で硬化させた。
その後インクジェット塗布面にアルミを100nmの厚みで蒸着し、LCRメーターHP4284A(アジレント・テクノロジー社製)にて、自動平衡ブリッジ法により条件100kHzにて誘電率を測定した。
表1に示した誘電率の評価基準は以下のとおりである。
A:3.6以下
B:3.6超
【0090】
また、各例で得られた硬化性組成物について、表示装置の封止材に用いたときの長期耐久性の指標として、耐屈曲性およびEL素子ダメージを評価した。評価方法は以下のとおりである。また、評価結果を表1にあわせて示す。
【0091】
(評価方法)
(耐屈曲性)
耐屈曲性の指標として、以下の方法で、30万回耐折試験後のヘイズに関する評価をおこなった。
各例で得られた硬化性組成物を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、6cm×6cmのPETフィルム(25μm、A31)に、硬化後の厚みが10μmとなるように、5cm×5cmのサイズで塗布した。この時の酸素濃度は20.0%から21.1%の範囲内で行った。得られた塗膜を1分間、室温(25℃)で放置した後、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm
2、積算光量1500mJ/cm
2、酸素濃度1000ppm以下で硬化させた。
得られた硬化物を測定試料として耐屈曲性を評価した。
図3は、耐屈曲性の評価方法を説明するための上面図である。屈曲試験機(DML HP、ユアサシステム社製)にて、屈曲半径を1mmに設定し、
図3に示したように測定試料(
図3のサンプル31、PETフィルムが下面、硬化膜が上面となるよう配置した。)を両面テープ35(ナイスタックNW-15、ニチバン社製)にてサンプル固定用プレート33に固定し、1分間に30回の屈曲速度で30万回屈曲試験を行った。1000回屈曲終了後、10分以内に外観を目視にて確認を行い、白濁の有無を評価した。さらに30万回屈曲終了後、10分以内に外観を目視にて確認を行い、白濁の有無を評価した。1000回屈曲終了時に白濁の無いもの(以下のAおよびB)を合格とした。
評価基準を以下に示す。
A:白濁なし
B:1000回屈曲終了後は白濁が無かったが、30万回屈曲終了後に白濁あり
C:1000回屈曲終了後に白濁あり
【0092】
(EL素子ダメージ)
EL素子ダメージの指標として、以下の方法で有機EL表示素子の信頼性を評価した。
ITO電極を製膜したガラス基板に対し、上記基板をUV-オゾン処理装置(セン特殊光源社製、PL21-200(S)/UVE-200J)にて処理を行った後、アルカリ水溶液、純水、アセトン、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄を行い、最後にアセトンにて10分間超音波洗浄を行った。
次に、この基板を真空蒸着装置の基板フォルダに固定し、素焼きの坩堝にDipyrazino[2,3-f:2',3'-h]quinoxaline-2,3,6,7,10,11,hexacarbonitrile(HAT-CN)を200mg、別の素焼き坩堝に9-Phenyl-3,6-bis(9-phenyl-9Hcarbazol-3-yl)-9H-carbazole(Tris-PCz)を200mg入れ、真空チャンバー内を1×10-4Paまで減圧した。その後、HAT-CNの入った坩堝を加熱し、HAT-CNを蒸着速度0.4Å/sで基板に堆積させ、膜厚100nmを製膜した。続いて、Tris-PCzの入った坩堝を加熱し、蒸着速度1.0Å/sで基板に堆積させ、膜厚400nmを製膜した。次に、別の素焼き坩堝にTris(8-hydroxyquinolinato)aluminium(Alq3)を200mg入れ、真空チャンバー内を、再び1×104Paまで減圧した。次いでAlq3(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム)の入った坩堝を加熱し、蒸着速度0.5Å/sで厚膜700nmを製膜した。その後、タングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mgを入れ、真空チャンバーを1×10-4Paまで減圧し、フッ化リチウムを0.03Å/sの蒸着速度で5nm製膜した。最後に、タングステン製抵抗加熱ボートにマグネシウムを1g、銀を200mg入れ、真空チャンバーを1×10-4Paまで減圧し、マグネシムを0.9Å/s、銀を0.1Å/sの蒸着速度でマグネシウム/銀=1/9の比率となるよう150nm製膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し、8mm×8mm有機発光材料層を有する積層体が配置された基板を取り出した。
この有機発光材料層を有する積層体に対し、窒素雰囲気下でシール材となる各例で得られた硬化性組成物を30mg滴下し、ガラスを被せ、UV照射装置にて395nmを400mWで4秒間照射し、シール材を硬化させた。
得られた有機EL表示素子を、温度85℃の環境下で96時間暴露した後、3Vの電圧を印加し、有機EL表示素子の発光状態を目視にて確認した。
評価基準を以下に示す。以下のAおよびBを合格とした。
A:素子発光時にダークスポット無し。
B:素子発光時にダークスポットが部分的に存在する。
C:素子発光時にダークスポットが全面的に存在し、発光領域の縮小も見られる。
【0093】
【0094】
表1より、各実施例で得られた硬化性組成物では、硬化物の誘電率が3.6以下でかつ、ヒステリシスロスが0%~45%の範囲内であった。そして、各実施例における硬化性組成物を表示装置の封止に用いることにより、長期使用時の耐久性に優れる表示装置を得ることができる。
【0095】
この出願は、2021年4月28日に出願された日本出願特願2021-076201号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0096】
10 発光素子
21 バリア性層、タッチパネル層または表面保護層
22 封止層、オーバーコート層、またはバリア性層
23 平坦化層または封止層
24 バリア性層
31 サンプル
33 サンプル固定用プレート
35 両面テープ
50 基材層
100 表示装置