(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C22C 23/04 20060101AFI20241119BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20241119BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20241119BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20241119BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20241119BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241119BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20241119BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20241119BHJP
C22C 23/00 20060101ALI20241119BHJP
C22F 1/06 20060101ALN20241119BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
C22C23/04
C22C1/02 503L
B22D21/04 B
B22D1/00 B
A61L27/04
A61L27/58
A61L31/02
A61L31/14 500
C22C23/00
C22F1/06
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 675
C22F1/00 682
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 640A
C22F1/00 641Z
C22F1/00 670
C22F1/00 630K
C22F1/00 694Z
(21)【出願番号】P 2023518052
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2022135496
(87)【国際公開番号】W WO2023165194
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202210204770.2
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522091988
【氏名又は名称】上海瑛泰医療器械股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shanghai INT Medical Instruments Co., Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】523097237
【氏名又は名称】上海璞▲メイ▼医療器械有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁棟科
(72)【発明者】
【氏名】趙錚
(72)【発明者】
【氏名】尚磊
(72)【発明者】
【氏名】李涛
(72)【発明者】
【氏名】林森
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112695237(CN,A)
【文献】特開2012-082474(JP,A)
【文献】特表2020-503461(JP,A)
【文献】国際公開第2007/058276(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131476(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104328318(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00 - 23/06
C22F 1/00
C22F 1/06
A61L 15/00 - 33/18
A61B 13/00 - 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素として、Zn 1.0~5.0質量%と、Mn 0.1~1.0質量%と、Ca 0.1~1.0質量%と、Sr 0.1~1.0質量%と、Sn 0.1~3.0質量%と、Zr 0.1~0.8質量%と、Mg 残量と、を含み、
結晶粒の平均寸法が5~10μmであり、表面のマイクロクラック分布の平均密度が20個/mm
2以下であ
り、
GB-T228-2002に準じて測定された引張強さ及び降伏強さはいずれも250MPaを上回る希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金。
【請求項2】
さらに、Znは1.0~3.0
質量%、Caは0.5~1.0
質量%、Mnは0.5~1.0
質量%、Zrは0.3~0.5
質量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金。
【請求項3】
不純物が質量比で0.003
質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金。
【請求項4】
不純物がアルミニウムを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金。
【請求項5】
具体的には、
密閉容器にて、各金属粉末を所望の割合で溶銑鍋に十分に添加し、温度を700~800℃に制御して熔解し、アルゴンを吹き込んで撹拌し、鋳込みを行い、冷却する熔解・鋳込みのステップ1)と、
鋳造した合金を加熱し、温度を200~250℃に制御して、1~5minアニールし、冷却する熱処理のステップ2)と、
熱処理した合金を熱間押出型に入れて、温度を250~300℃、押し出し速度を2~5mm/sに制御して、押し出し比を10~15:1に設定する熱間押出のステップ3)と、
320~350℃で圧延し、速度を20~30m/minに制御し、各パスの圧延の圧下量を50~80%に制御し、成形した分解性マグネシウム合金を得る圧延成形のステップ4)と、を含む請求項1~4の何れかに記載の生分解性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項6】
前記圧延完了後、必要に応じて、さらに熱処理工程を行うことができることを特徴とする請求項5に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項7】
前記圧延前に、予熱を10min以下行うことを特徴とする請求項5に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項8】
前記圧延パスは10回以下であることを特徴とする請求項5に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項9】
好ましい実施例では、前記熔解・鋳込みの際に、アルゴンを吹き込んで撹拌するとは、アルゴンガスを溶銑鍋の底部の吹き込み口から吹き込むことであることを特徴とする請求項5に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金の医療器械における使用であって、
前記生分解性マグネシウム合金を整形外科用インプラン、心内介入ステント又は血管介入ステントとして使用することを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は2022年3月3日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が202210204770.2、発明の名称が「希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金、その製造方法及び使用」である中国特許出願の優先権を主張しており、その全内容は引用により本願に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本願は医療用材料の分野に関し、具体的には、希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
医療用金属材料は近年急速に発展している生体材料であり、その優れた機械的特性のため、非金属材料より負荷部位のインプラント材料として好適である。現在よく使われている医療用金属材料にはステンレス鋼、チタン及びチタン合金、コバルト・クロム合金、貴金属、マグネシウム合金などが含まれている。
【0004】
マグネシウム合金は、密度が低く、強さが高く、機械加工や溶接が容易であるような特性から、医療用金属材料として広く使用されている。体内のマグネシウムは溶液媒体中で化学反応を起こしてマグネシウムイオンに変化し、マグネシウムイオンは体内での吸収と腎臓での代謝によりバランスを調整し、これにより、マグネシウム合金材料は体内で徐々に分解・吸収される。マグネシウム合金は良好な機械的特性、制御可能な腐食性や分解物の副作用が最も小さいなどの利点を持っているため、人体のステント材料やサポート材料、負荷材料として最も好適である。しかし、マグネシウムは性質が活発で、体内で腐食されやすく、すなわち分解速度が速すぎるという欠点があったが、他の金属材料とは異なり、マグネシウム自体が人体に必須な重要な元素であり、マグネシウム合金は体内での分解吸収可能な材料として利用することができる。従来技術において、多くの学者と研究者が人体に応用されたマグネシウム合金について研究を行った。
【0005】
CN112760537Aは、Mg 88~93部、Zn 2~6部、Ca 0.2~1部、Mn 0.3~1部、Sn 0.3~1部、及び希土類金属 0.7~5部を含むマグネシウム合金を開示する。本願はまた、上記のマグネシウム合金の製造方法及び医療機器の製造における使用を開示する。本願は、Mgを主として、特定の割合のZn、Ca、Mn、Sn及び希土類金属と混合して、分解速度が制御可能であり、機械的強さが強い合金を製造する。
【0006】
CN102296220Aは人体インプラント材料に使用できる生体医療用耐食性マグネシウム合金に関し、その成分及び含有量は、Zn:1.5~2.5質量%、Mn:0.8~1.4質量%、Nd:0.5~1.5質量%、Ca:0.5~1.0質量%であり、残量はMg及び不可避的不純物である。その製造方法は次のとおりである。原料を所定の配合比で計量して黒鉛るつぼに入れ、高純度アルゴンガスを保護ガスとして真空誘導炉で合金を溶製し、溶製温度が770℃に達すると電磁撹拌装置を起動し、10~20min撹拌し、その間にるつぼを数回傾けて回転させ、次に、C2Cl6精錬剤で3~5min精錬処理した後、熔解物を撹拌し、700~720℃まで冷却すると金型に流し込んで合金インゴットを形成する。本願に係るマグネシウム合金は、良好な機械的特性、特に優れた耐食性を有するだけでなく、生体医療用マグネシウム合金の体液中での腐食分解速度が速すぎるという問題を効果的に解決することができるとともに、生体適合性に優れ、分解物は人体に対して毒性作用を有しないため、生体医療分野での応用が期待される。
【0007】
CN109972007Aは生分解性マグネシウム合金吻合釘材料及びその製造方法に関する。前記マグネシウム合金はMg-Zn-Ca-Mの組成を有し、Mは、Ag、Mn、Sn、Sr、Zr、Geのうちの1種又は2種以上の元素の任意の組み合わせである。溶製鋳造、均質化処理、熱間押出、又は室温引き抜き及び焼鈍処理を経て目的合金を得る。従来技術と比較して、本願に記載された成分及び製造方法を用いて製造されたマグネシウム合金材料は、高い強さ及び塑性を有し、制御可能な分解速度を有し、生体内で自然に分解することができ、分解物は毒性及び副作用がないだけでなく、必要な栄養補給を提供することができ、生物学的安全性が高い。口腔、胃腸などの器官の縫合又は吻合手術の吻合器に用いられる吻合釘材料として好適であり、二次手術を避けて、患者の苦痛を軽減する。放出される微量の銀元素はインプラント周辺の細菌性炎症の発生を抑えることもできる。
【0008】
従来技術において、マグネシウム合金に希土類元素を加えたマグネシウム合金は強さが向上したが、希土類(特に分解後)は肝臓毒性などの一連の不良反応を引き起こすことがある。従来技術には生体内整形外科インプラント用マグネシウム合金の非希土類ドーピング元素に対する研究が大量に存在しているが、生分解性マグネシウム合金として、従来技術では、例えばマグネシウム合金の体内での分解速度、腐食速度が速すぎる(特に孔食の拡大が速い)こと、分解効果の調節、及びどのように希土類元素の欠損による強さ損失を補うかなど、まだ解決されていない問題がいくつかあり、これらは医療用マグネシウム合金の使用効果に影響を与える。そのため、強さを確保しつつ、分解効果と腐食を制御できるマグネシウム合金の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0009】
本願は、分解速度が制御できず、分解及び腐食が速すぎると生物毒性を引き起こし、希土類影を添加しないことにより強さや耐食性が低下するという従来の生分解性マグネシウム合金の問題を解決するために、希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金を提供する。
【0010】
本願の発明者らは、マグネシウム合金整形外科インプラント材料に希土類元素を添加しないことにより、希土類元素による生物的不適合性、細胞毒性等の問題を緩和することができるが、従来技術における希土類元素を含まない分解性マグネシウム合金には依然として強さが低く、孔食又はピット腐食が深刻であり、急速に悪化する等の問題が解決されていないことを発見した。マグネシウム合金の強さと腐食性に影響を与える重要な要素はマグネシウム合金の内部組織構造である。一般的には、結晶粒を微細化することでマグネシウム合金の強さを向上させることができ、腐食、特に孔食の形成は、一般的には金属表面の陰陽電極効果によって引き起こされ、つまり、合金の表面層(一般的に酸化物層)が破壊されると、陰極を形成し、むき出しの内部真性マグネシウム合金が「陽極」を形成し、陰極と陽極の間の作用が形成すると電極効果が累積し、ますます深い腐食ピットが形成され、しかもこのピットは絶えず拡散して累積し、最終的にマグネシウム合金の強さや耐食性に極めて大きな破壊をもたらす。従来技術では、鋳造したマグネシウム合金を加工し、例えば押出などの塑性変形を行うことで、組織構造の再構築の効果を達成することが望まれている。しかし、現在の鋳造後の合金を加工して得られるワークの性能の改善には限界がある。
【0011】
本発明者らが上記の問題を解決するために採用した手段には、鋳造後のマグネシウム合金に対して精密で制御可能な後加工工程を行うことが含まれる。利用可能な後加工には、プロセス制御可能な熱処理、圧延及び熱間押出が含まれる。熱処理中の拡散作用を利用して鋳造凝固中にマグネシウム合金組織に発生する不均一な介在析出物を先に除去又は縮小し、後続加工中の結晶粒の微細化又は再結晶プロセスの阻害を低減し、その後、制御された熱間押出プロセスによりマグネシウム合金の内部組織の一次微細化を行い、押し出すときに、合金表層膜のクラックが修復され、より緻密になり、その後、制御された圧延プロセスにより、マグネシウム合金の結晶粒の二次微細化を行う。このようにマグネシウム合金の形態組織への精密な制御は、最終製品の特性の制御に不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
具体的には、本願の第1態様は、
元素として、Zn 1.0~5.0質量%と、Mn 0.1~1.0質量%と、Ca 0.1~1.0質量%と、Sr 0.1~1.0質量%と、Sn 0.1~3.0質量%と、Zr 0.1~0.8質量%と、Mg 残量と、を含み、
結晶粒の平均寸法が5~10μmであり、表面のマイクロクラック分布の平均密度が20個/mm2以下である希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金を提供する。
【0013】
好ましい実施形態では、前記マグネシウム合金においては、Znは1.0~3.0質量%、Caは0.5~1.0質量%、Mnは0.5~1.0質量%、Zrは0.3~0.5質量%を占める。
【0014】
好ましい実施形態では、前記マグネシウム合金においては、不純物が質量比で0.003質量%以下である。
【0015】
好ましい実施形態では、前記マグネシウム合金においては、不純物がアルミニウムを含有しない。
【0016】
本願の第2態様は、
具体的には、
密閉容器にて、各金属粉末を所望の割合で溶銑鍋に十分に添加し、温度を700~800℃に制御して熔解し、アルゴンを吹き込んで撹拌し、鋳込みを行い、冷却する熔解・鋳込みのステップ1)と、
鋳造した合金を加熱し、温度を200~250℃に制御して、1~5minアニールし、冷却する熱処理のステップ2)と、
熱処理した合金を熱間押出型に入れて、温度を250~300℃、押し出し速度を2~5mm/sに制御して、押し出し比を10~15:1に設定する熱間押出のステップ3)と、
320~350℃で圧延し、速度を20~30m/minに制御し、各パスの圧延の圧下量を50~80%に制御し、成形した分解性マグネシウム合金を得る圧延成形のステップ4)と、を含む上記生分解性マグネシウム合金の製造方法を提供する。
【0017】
好ましい実施例では、上記圧延完了後、必要に応じて、さらに熱処理工程を行うことができる。
【0018】
好ましい実施例では、前記圧延前に、予熱を10min以下行う。
【0019】
好ましい実施例では、前記圧延パスは10回以下である。
【0020】
好ましい実施例では、前記熔解・鋳込みの際に、アルゴンを吹き込んで撹拌するとは、アルゴンガスを溶銑鍋の底部の吹込み口から吹き込むことである。
【0021】
本願の第3態様は、具体的な用途に応じて、前記生分解性マグネシウム合金をさらに塊状、管状又は棒状に加工する、上記生分解性マグネシウム合金の医療器械の製造における使用を提供する。
【0022】
好ましい実施例では、前記医療器械は、骨釘、骨板、ステントなどを含み、例えば整形外科用インプラン、心内介入ステント又は血管介入ステントとしての使用である。
【発明の効果】
【0023】
本願による技術的効果は以下を含む。
【0024】
本願では、生分解性マグネシウム合金を製造する際に、その組織形態の制御により、本願はα-Mgを主体相とし、特定の割合のZn、Zr及びMnと混合して、その分解速度が制御可能であり、十分な機械的強さを確保し、人体に有害な希土類元素を含まず、体内で分解されても人体に影響を及ぼさない形態組織制御可能な合金を製造する。
【0025】
本願は、まず、鋳造により得られた合金を予熱処理することにより、析出した不均一な介在物を変性し、偏析により凝集した析出物を拡散除去し、析出物の面積を縮小する効果を達成し、後続の組織、構造の再構築のための阻害を解消する。
【0026】
また、本願の後続の加工工程では、結晶粒を微細化し、マグネシウム合金の表面皮膜のクラックを修復し、強さ及び耐食性を改善する。
【0027】
本願では、Znを加えることでマグネシウム合金の強さと伸びを高めることができるが、少なすぎると、本願の所望の効果が得られず、多すぎると、限界を超えてZnが濃縮された析出物が形成され、耐食性が低下する。本願において、Caはマグネシウム合金の強さを維持し、耐食性を向上させる効果があるが、少なすぎると、本願の所望の効果が得られず、多すぎると、析出物が形成されやすい。本願において、Mnは合金の微細化及び耐食性の向上に効果があり、少なすぎると、本願の所望の効果が得られず、多すぎると、その機械加工性に影響を与えやすい。本願において、Zr、Sn、及びSrを少量添加することにより、マグネシウム合金の結晶粒を微細化し、強さや塑性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本願の実施例1及び比較例1のサンプルの断面のミクロ組織の比較図である。
【
図2】本願の実施例1及び比較例1のサンプルの表面のミクロ組織形態の比較図である。
【
図3】実施例1~3及び比較例1のサンプルの引張-ひずみ曲線の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、図面に示されている本願の実施例を詳細に説明し、ここでは、図面を通じて同一又は類似の符号は、同一又は類似のモジュール、又は同一又は類似の機能を有するモジュールを示す。図面を参照して以下に説明する実施例は、本願を解釈するためにのみ使用される例示的なものであり、本願を限定するものとは理解されない。
【0030】
本明細書の説明において、「一実施例」、「別の実施例」などの参照用語の記載は、その実施例において説明された具体的な特徴、構造、材料、又は特性が、本願の少なくとも1つの実施例に含まれることを意味する。本明細書では、上記の用語の概略的な説明は、同じ実施例又は例を対象としていなければならないものではない。さらに、説明された具体的な特徴、構造、材料、又は特性は、任意の1つ又は複数の実施例又は例において、適切な方法で組み合わされてもよい。さらに、当業者は、互いに矛盾する限り、本明細書に記載された異なる実施例又は例、及び異なる実施例又は例の特徴を結合したり組み合たせたりすることができる。
【0031】
本願の整形外科インプラントに用いられるマグネシウム合金は、いずれもMgを主相とし、他の合金元素を配合したものであり、希土類元素を含まない。一般的には、このような整形外科的に移植されるマグネシウム合金に対して、一定の強さと分解速度が必要である。強さについては、本願で得られたマグネシウム合金の引張強さ及び降伏強さはいずれも250MPaを上回り、分解速度については、本願の分解性マグネシウム合金は模擬体液中で0.5~1.5mm/年の分解速度を有する。従来技術における従来のマグネシウム合金と比較して、本願の以下の実施例における整形外科移植用マグネシウム合金は、顕著な耐食性を有し、特に孔食の形成に対して顕著な抑制効果を有する。マグネシウム合金が生体内に移植された後、インプラントが一定期間内に大面積で腐食、損失されず、十分な強さを有し、かつ任意に生体自体の治癒過程に影響を及ぼさないことが必要であるため、腐食率の調整は本願のマグネシウム合金が従来技術に与える主要な貢献である。また、本願のマグネシウム合金は優れた強さを示す。
【0032】
組織形態については、本願の実施形態では、大面積の不規則な柱状結晶、帯状結晶粒又はアスペクト比の明らかな結晶粒組織が現れず、好適には結晶粒のサイズ分布が均一な等軸微細結晶粒及び表層組織分布が比較的緻密である分解性マグネシウム合金が得られる。これらの形態上の特徴は、例えば生分解性整形外科インプラント用の合金材料としての本願のマグネシウム合金の使用に特に有利である。
【0033】
本願で得られた生分解性生体用マグネシウム合金は使用が広く、整形外科インプラント、心内介入ステント又は血管介入ステントとして使用でき、体内の釘、ネジ、縫合釘、固定板、曲がり棒、関節ボルト、ロックボルト、脊柱内ステント、ハニカム支持体等として広く使用(又は成形加工して使用)でき、いずれも生体のニーズを満たす。
【0034】
実施例に示されていない具体的な実験ステップ又は条件に関しては、当該分野の文献に記載された従来の実験ステップの操作又は条件に従って行うことができる。
【0035】
下記の実施例及び比較例で使用する金属原料の粉末の純度はいずれも99.999%以上であり、使用する試薬又は計器は製造メーカーが明記されておらず、いずれも市場で購入することができる通常の試薬製品である。
【0036】
実施例1
本実施例は、希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金を提供し、その製造方法は以下のとおりである。金属粉末としてMg 91部、Zn 4部、Ca 1部、Mn 1部、Zr 0.8部、Sn 2部、Sr 0.2部を十分に混合し、その後、700℃で熔解した後、鋳込み成形し、温度を200℃に制御して、鋳造した合金を加熱し、1minアニールし、冷却する熱処理を行い、熱処理完了後の合金を熱間押出型に入れて、温度を300℃、押し出し速度を5mm/sに制御して、押し出し比を10:1に設定する熱間押出を行い、速度を30m/min、各圧延パスの圧下量を60%に制御して、10パス以下、350℃で圧延する圧延成形を行い、成形させた生分解性マグネシウム合金を得た。
【0037】
実施例2
本実施例は希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金を提供し、その製造方法は以下のとおりである。金属粉末としてMg 89.2部、Zn 5部、Ca 1部、Mn 1部、Zr 0.8部、Sn 2部、Sr 1部を十分に混合し、その後、750℃で熔解した後、鋳込み成形し、温度を250℃に制御して、鋳造した合金を加熱し、2minアニールし、冷却する熱処理を行い、熱処理完了後の合金を熱間押出型に入れて、温度を300℃、押し出し速度を5mm/s、押し出し比を15:1に制御する熱間押出を行い、速度を20m/min、各パスの圧下量を50%に制御して、10パス以下、350℃で圧延する圧延成形を行い、成形させた生分解性マグネシウム合金を得た。
【0038】
実施例3
本実施例は希土類元素フリー生分解性マグネシウム合金を提供し、その製造方法は以下のとおりである。金属粉末としてMg 90部、Zn 5部、Ca 1部、Mn 1部、Zr 0.8部、Sn 1.2部、Sr 1部を十分に混合し、その後、700℃で熔解した後、鋳込み成形し、温度を200℃に制御して、鋳造した合金を加熱し、1minアニールし、冷却する熱処理を行い、熱処理完了後の合金を熱間押出型に入れて、温度を250℃、押し出し速度を5mm/sに制御して、押し出し比を15:1に設定する熱間押出を行い、速度を30m/min、各圧延パスの圧下量を80%に制御して、10パス以下、320℃で圧延する圧延成形を行い、成形させた生分解性マグネシウム合金を得た。
【0039】
比較例1
本比較例では、ステップ2)の熱処理を含まない以外、残りのパラメータ及びプロセスは実施例1と同様であった。
【0040】
合金のミクロ組織形態のテスト
実施例1及び比較例1で得られたマグネシウム合金を用いてサンプルを作製し、ミクロ組織形態を観察して比較した。
本願の実施例1及び比較例1のサンプルの断面のミクロ組織比較図を
図1に示す。比較例1のサンプルと比較して、本願の方法で得られたマグネシウム合金サンプルの組織形態では、結晶粒の寸法がより均一であり、プロセス中に組織の再結晶が十分に行われ、また、結晶粒がより微細になり、偏析相がより少なくなり、このことから、事前の熱処理により析出物が減少し、結晶粒を再度微細化して結晶させることが容易になることが明らかとなっている。
本願の実施例1及び比較例1のサンプルの表面のミクロ組織形態比較図を
図2に示す。比較した結果、本願の方法で得られたマグネシウム合金のサンプルでは、表面のクリックが明らかに抑制され、クリックの幅と長さ、密度がいずれも顕著に減少する。本願の表面膜では、クリックの密度が20個/mm
2よりも低い一方、比較例1のサンプルでは、表面のクリックの密度が100個/mm
2よりも高い。
【0041】
合金強さのテスト
実施例1~3及び比較例1で得られた生分解性マグネシウム合金について、GB-T228-2002に準じて引張強さ、降伏強さ及び伸びをテストすることで、強さの指標をテストし、テスト結果を表1及び
図4に示す。
【表1】
図4の引張-歪み曲線から明らかに、実施例1~3で得られたマグネシウム合金のいずれも、降伏強さが250MPaよりも大きく、引張強さが275MPaよりも大きく、伸びが20%よりも大きく、一方、比較例1のマグネシウム合金のサンプルは、降伏強さが225MPaよりも低く、引張強さも260MPaよりも低く、伸びが17%未満である。このため、比較例のサンプルと比較して、本願のサンプルの強さ性能は少なくとも10~20%以上向上する。
【0042】
合金分解性能
実施例1~3及び比較例1で得られた生分解性マグネシウム合金を用いて棒材を作製し、棒材ごとに厚さ1mm、直径10mmの材料を取り、37%生理食塩水に浸漬して人体内の体液での分解の状況を模擬し、模擬テストの結果を以下の表に示す。
【表2】
上記の表から分かるように、本願の実施例で得られた生分解性マグネシウム合金はその模擬体液での分解速度を確実に制御しつつ、所定時間内に強さを提供することができるとともに、生体自体組織の癒合時間を満たすことができる。一方、比較例1では、分解速度が速すぎ、また制御することができず、分解後の沈殿析出物の制御やインプラントの強さの維持のいずれに不利である。
【0043】
もちろん、上記実施例は明確に説明するための例示に過ぎず、実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて、様々な他の変化や変更を行うこともできる。ここでは、全ての実施形態を網羅的に例示する必要がなく、また、不可能なことである。これから導き出される明らかな変化や変更も本願が創造した保護範囲に属する。