(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】先端偏向操作可能カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/092 20060101AFI20241119BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61M25/092 500
A61M25/00 540
(21)【出願番号】P 2023520639
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017930
(87)【国際公開番号】W WO2022239127
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】神山 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴史
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0188800(US,A1)
【文献】特開2006-255401(JP,A)
【文献】特開2013-138864(JP,A)
【文献】米国特許第05855560(US,A)
【文献】国際公開第2021/070543(WO,A1)
【文献】特開2012-200445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/092
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端可撓部分を有するカテーテルシャフトと、前記カテーテルシャフトの中心軸に沿って前記先端可撓部分の内部に配置された矩形断面を有する板バネと、前記先端可撓部分を撓ませるために、前記カテーテルシャフトの前記中心軸から偏心して前記カテーテルシャフトの内部に延在し、その後端を引張操作できる操作用ワイヤとを備え、
前記カテーテルシャフトの少なくとも前記先端可撓部分はマルチルーメン構造体であり、前記先端可撓部分に形成された複数のルーメンのうち、前記板バネを挟んで対向配置された2つのルーメンの各々に前記操作用ワイヤが挿通されており、
前記板バネは、前記先端可撓部分の構成材料に埋設された状態で前記カテーテルシャフトに固定されており、
前記カテーテルシャフトの外径をD、前記板バネの幅をW、前記板バネの厚さをtとするとき、(W/D)の値が0.20~0.65であり、D/(W・t)の値が20~45であることを特徴とする先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項2】
(W/D)の値が0.24~0.40であり、D/(W・t)の値が25~45であることを特徴とする請求項1に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項3】
(W/t)の値が4.0~8.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項4】
先端部分が冠状静脈洞(CS)に配置されることを特徴とする請求項1~
3の何れかに記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外に配置した操作部を操作することにより、体腔内に挿入されているカテーテルの先端部分を撓ませて、その先端の向きを変化させることができる先端偏向操作可能カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管を通して心臓の内部まで挿入される電極カテーテルなどでは、心臓内に挿入されたカテーテルの先端(遠位端)の向きを、体外に配置されるカテーテルの後端(近位端)に装着された操作部を操作して変化(偏向)させる必要性がある。
カテーテルの先端を後端側で操作して偏向させるための機構として、下記の特許文献1に示す機構が知られている。特許文献1に示す機構では、カテーテルの先端部分の内部にスプリング力のある板バネを配置し、この板バネの片面または両面に操作用ワイヤの先端を接続固定している。そして、操作用ワイヤの後端を引張操作することによって板バネを撓ませ、カテーテルの先端部分を板バネの平面と垂直方向に曲げて、カテーテルの先端の向きを変化させる。このように、カテーテルの先端部分の内部に板バネを配置し、操作用ワイヤを引張操作することにより、先端部分の形状を同一平面上で変化させる(板バネの平面と垂直方向に曲げる)ことができる。
また、カテーテルの後端を軸回りに回転させることにより、先端部分の曲げ方向(当該曲げ方向の属する平面)を自由に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カテーテルの先端部分の内部に板バネを配置してなる従来のカテーテルは、先端部分における形状変化の平面性に優れている反面、トルク伝達性に劣るという問題がある。
具体的には、後端の回転操作時において、回転操作力が板バネの捩じれにより蓄積され、蓄積されていた回転操作力がある時点で開放(板バネの形状が復元)されることにより、先端が急激に回転するウィップ(whip)現象が起こりやすい。このウィップ現象は、カテーテルが変形している(カーブ形状やループ形状となっている)ときに特に発生しやすい。
【0005】
このため、例えば、先端部分の内部に板バネを配置してなるカテーテルを下大静脈から右心房内に挿入して冠状静脈洞口に挿入する手技(下大静脈からのアプローチ)において、冠状静脈洞口に向けて先端部分を撓ませるために、カテーテルの後端を回転操作すると、右心房の側面に沿って形成されたカテーテルのループ形状が、ウィップ現象に伴って崩れてしまうことがある。そのような場合には、右心房内にカテーテルを挿入する操作からやり直さなければならない。
【0006】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、カテーテルシャフトが変形していているときでもウィップ現象が起こることがなくてトルク伝達性に優れ、しかも、シャフトの先端部分における形状変化の平面性にも優れている先端偏向操作可能カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルは、先端可撓部分を有するカテーテルシャフトと、前記カテーテルシャフトの中心軸に沿って前記先端可撓部分の内部に配置された矩形断面を有する板バネと、前記先端可撓部分を撓ませるために、前記カテーテルシャフトの前記中心軸から偏心して前記カテーテルシャフトの内部に延在し、その後端を引張操作できる操作用ワイヤとを備え、
前記カテーテルシャフトの外径をD、前記板バネの幅をW、前記板バネの厚さをtとするとき、(W/D)の値が0.20~0.65であり、D/(W・t)の値が20~45であることを特徴とする。
【0008】
(W/D)の値が0.65以下であって、D/(W・t)の値が20以上であることにより、板バネのスプリング力が適度に弱められることで回転操作力を蓄積しにくくなり、後述する実施例の結果からも明らかなように、後端の回転操作時におけるウィップ現象の発生を確実に防止することができる。
また、(W/D)の値が0.20以上であって、D/(W・t)の値が45以下であることにより、板バネとしての作用効果(先端可撓部分における形状変化の平面性)を確保することができる。
従って、このような構成の先端偏向操作可能カテーテルは、トルク伝達性に優れているとともに、先端可撓部分における形状変化の平面性にも優れている。
【0009】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、(W/D)の値が0.24~0.40であり、D/(W・t)の値が25~45であることが好ましい。
【0010】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、(W/t)の値が4.0~8.5であることが好ましい。
このような板バネを使用することにより、D/(W・t)の値を20~45の範囲に容易に調整することができる。
【0011】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記カテーテルシャフトの少なくとも前記先端可撓部分はマルチルーメン構造体であり、前記先端可撓部分に形成された複数のルーメンのうち、前記板バネを挟んで対向配置された2つのルーメンの各々に前記操作用ワイヤが挿通されていることが好ましい。
また、前記板バネは、前記先端可撓部分の構成材料に埋設された状態で前記カテーテルシャフトに固定されていることが好ましい。
【0012】
先端可撓部分の構成材料に埋設された状態で板バネが固定されていることにより、カテーテルを体腔内に挿入したり、先端偏向操作を行ったりする際に、板バネの位置ずれを防止することができる。これにより、シャフトの先端部分における形状変化の平面性およびトルク伝達性の更なる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルによれば、カテーテルシャフトが変形していているときでもウィップ現象が起こることがなくてトルク伝達性に優れ、しかも、シャフトの先端部分における形状変化の平面性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電極カテーテルの正面図である。
【
図2】
図1に示す電極カテーテルの先端部分を示す部分拡大図である。
【
図5】形状変化の平面性の評価試験に使用した装置の概略を模式的に示す説明図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図6】トルク伝達性の評価試験に使用した装置の概略を模式的に示す説明図であり、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
本発明の先端偏向操作可能カテーテルの一実施形態である電極カテーテル100は、例えば、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
【0016】
図1~
図4に示す本実施形態の電極カテーテル100は、先端可撓部分10Aを有するカテーテルシャフト10と、カテーテルシャフト10の中心軸に沿って先端可撓部分10Aの内部に配置された板バネ20と、カテーテルシャフト10の先端側に配置された先端電極30と、カテーテルシャフト10の先端部分の外周面に装着されたリング状電極41~43と、先端可撓部分10Aを第1方向に撓ませるために、カテーテルシャフト10の内部に延在し、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤ51と、先端可撓部分10Aを第2方向に撓ませるために、カテーテルシャフト10の内部に延在し、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤ52と、カテーテルシャフト10の後端に装着された制御ハンドル60とを備えてなり、
カテーテルシャフト10はマルチルーメン構造を有し、先端可撓部分10Aに形成されている8個のルーメンのうち、カテーテルシャフト10の中心軸を挟んで対向配置された2つのワイヤルーメン111,112に、それぞれ、第1操作用ワイヤ51および第2操作用ワイヤ52が軸方向にスライド可能に挿通されている。
【0017】
本実施形態の電極カテーテル100は、カテーテルシャフト10と、板バネ20と、先端電極30と、リング状電極41~43と、第1操作用ワイヤ51と、第2操作用ワイヤ52と、制御ハンドル60とを備えている。
【0018】
図1において、65は、カテーテルシャフト10の先端偏向操作を行うために制御ハンドル60に装着された摘みである。
図3および
図4において、30Lは先端電極30の導線、41L~43Lは、リング状電極41~43の導線、45は熱電対である。
【0019】
電極カテーテル100を構成するカテーテルシャフト10の先端領域は、先端可撓部分10Aとなっている。
ここに、「先端可撓部分」とは、操作用ワイヤ(第1操作用ワイヤ5 1または第2操作用ワイヤ52)の後端を引張操作することにより撓む(曲がる)ことのできるカテーテルシャフトの先端部分をいう。
先端可撓部分10Aは、マルチルーメン構造を有する絶縁性のチューブ部材からなり、
図3に示すように、先端可撓部分10Aには、ワイヤルーメン111~114を含む8個のルーメン(111~118)が形成されている。
【0020】
ワイヤルーメン111とワイヤルーメン112とは、カテーテルシャフト10の中心軸を挟んで対向配置されている。
【0021】
図3において、1101は樹脂からなるインナー部、1103は、インナー部1101よりも硬度の高い樹脂からなるアウター部である。インナー部1101とアウター部1103との間には樹脂ブレード(図示省略)が配置されている。
【0022】
先端可撓部分10Aの基端側におけるカテーテルシャフト10の部分(以下「シャフト
基端部分」という)は、先端可撓部分10Aと比較して高い剛性を有している。
シャフト基端部分はマルチルーメン構造を有する絶縁性のチューブ部材からなり、
図4に示すように、シャフト基端部分には、先端可撓部分10Aのルーメン(111~118)に連通する8個のルーメン(121~128)が形成されている。
【0023】
図4において、1201は樹脂からなるインナー部、1203は、インナー部1201よりも硬度の高い樹脂からなるアウター部である。インナー部1201とアウター部1203との間には金属ブレード(図示省略)が配置されている。
【0024】
カテーテルシャフト10の構成材料としては、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂を挙げることができる。
【0025】
カテーテルシャフト10の長さは、通常400~1500mmとされ、好ましくは700~1200mmとされる。
先端可撓部分10Aの長さは、通常20~300mmとされ、好ましくは50~250mm、好適な一例を示せば175mmとされる。
カテーテルシャフト10の外径(D)は、通常0.3~3.3mmとされ、好ましくは1.0~3.0mm、好適な一例を示せば2.0mm(6Fr)とされる。
【0026】
図3に示すように、先端可撓部分10Aの内部には、カテーテルシャフト10の軸方向に延びる板バネ20が配置されている。
先端可撓部分10Aの内部に板バネ20を配置することにより、先端可撓部分10Aは、板バネ20の平面と垂直方向に撓みやすくなっている。
板バネ20は、矩形の断面を有しており、スプリング力を抑制するために、板バネ20には、凸条などの補強は形成されていない。
【0027】
板バネ20の長さは、通常20~300mmとされ、好ましくは50~250mm、好適な一例を示せば175mmとされる。
板バネ20の幅(W)は、通常0.3~1.8mmとされ、好ましくは0.5~0.7mm、好適な一例を示せば0.65mmとされる。
板バネ20の厚さ(t)は、通常0.04~0.13mmとされ、好ましくは0.06~0.1mm、好適な一例を示せば0.08mmとされる。
【0028】
電極カテーテル100を構成する板バネ20は、従来の先端偏向操作可能カテーテルを構成する板バネと比較して幅が狭い。
ここに、カテーテルシャフト10の外径(D)に対する板バネ20の幅(W)の(W/D)としては、通常0.20~0.65とされ、好ましくは0.24~0.40、好適な一例を示せば0.325(0.65mm/2.0mm)とされる。
(W/D)の値が0.20未満である場合には、先端可撓部分10Aにおける形状変化の平面性を十分に確保することができない(後述する比較例1参照)。
他方、この(W/D)の値が0.65を超える場合には、後端の回転操作時にウィップ現象が起こりやすくなり、良好なトルク伝達性を発揮することができない(後述する比較例8~10参照)。
【0029】
更に、電極カテーテル100において、D/(W・t)の値は20~45とされ、好ましくは25~45、好適な一例を示せば38.5〔2.0/(0.65×0.08)〕とされる。
D/(W・t)の値が20未満である場合には、後端の回転操作時にウィップ現象が起こりやすくなり、良好なトルク伝達性を発揮することができない(後述する比較例8~10参照)。
他方、このD/(W・t)の値が45を超える場合には、(W/D)の値が0.20以上であっても、先端可撓部分10Aにおける形状変化の平面性を十分に確保することができない(後述する比較例2~7参照)。
【0030】
板バネ20の厚さ(t)に対する幅(W)の(W/t)としては、4.0~8.5であることが好ましく、更に好ましくは6.0~8.5とされ、好適な一例を示せば8.13(0.65mm/0.08mm)とされる。
【0031】
(W/t)の値が4.0~8.5である板バネ20を、外径(D=W/0.65~W/0.20)のカテーテルシャフト10に配置することにより、D/(W・t)の値を20~45の範囲に容易に調整することができる。
【0032】
(W/t)の値が過小である板バネを使用した場合には、そのような板バネを、その平面と垂直方向に撓ませることが困難となり、先端可撓部分10Aにおける形状変化の平面性を十分に確保することができなくなるおそれがある。
他方、(W/t)が過大である板バネを使用した場合には、良好なトルク伝達性を発揮することができなくなるおそれがある。
【0033】
カテーテルシャフト10の先端には、第1極である先端電極30が接続されている。
先端電極30は、X線不透過性金属によって一体的に形成され、それぞれの中心が同一直線上に存在する3個の球面と、隣り合う球面の間に、これら球面に接続した1つの縮径部を備えた曲面とを有しており、当該曲面により、先端電極30には、隣り合う球面の間において括れが形成されている。
先端電極30の外径(球面における最大径)は、カテーテルシャフト10の外径と同程度である。
【0034】
先端電極30を構成するX線不透過性金属としてはX線に対する良好な造影性を有する金属であれば特に限定されるものではないが、好適な具体例として、白金、金、銀およびこれらを主成分とする合金などを挙げることができる。
【0035】
カテーテルシャフト10の先端部分の外周面には、X線不透過性金属からなるリング状電極41~43が装着されている。なお、リング状電極の数は3個に限定されないことは勿論である。
リング状電極41~43の幅(カテーテルシャフト10の軸方向における長さ)としては、例えば1.2~5.0mmとされる。
リング状電極41~43を構成するX線不透過性金属としては先端電極30を構成するものと同様の金属を挙げることができる。
【0036】
電極カテーテル100を構成する第1操作用ワイヤ51は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aのルーメン111およびシャフト基端部分のルーメン123)において軸方向にスライド可能に挿通されている。
また、第2操作用ワイヤ52は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aのルーメン112およびシャフト基端部分のルーメン124)において軸方向にスライド可能に挿通されている。
【0037】
第1操作用ワイヤ51および第2操作用ワイヤ52の後端は、それぞれ、制御ハンドル60の摘み65に接続され、これにより、引張操作可能となっている。
第1操作用ワイヤ51および第2操作用ワイヤ52の先端は、それぞれ、先端可撓部分10Aの先端側においてカテーテルシャフト10の内部に配置されたアンカー部材に固定されている。
【0038】
制御ハンドル60の摘み65を操作することにより、第1操作用ワイヤ51または第2操作用ワイヤ52が基端方向に引っ張られて、電極カテーテル100の先端可撓部分10Aが撓み、電極カテーテル100の遠位端は、矢印AまたはBで示す方向に偏向が可能になる。例えば、
図1に示す摘み65をA1方向に回転させることにより、第1操作用ワイヤ51が基端方向に引っ張られて、電極カテーテル100の先端が、矢印Aで示す方向に偏向する。また、摘み65をB1方向に回転させることにより、第2操作用ワイヤ52が基端方向に引っ張られて、電極カテーテル100の先端が、矢印Bで示す方向に偏向する。
【0039】
第1操作用ワイヤ51および第2操作用ワイヤ52の構成材料としては特に限定されるものではなく、従来公知の先端偏向操作可能カテーテルの操作用ワイヤの構成材料と同一のものをすべて使用することができる。
操作用ワイヤ50の直径としては、例えば0.05~0.5mmとされ、好適な一例を示せば0.21mmとされる。
【0040】
図3および
図4に示すように、先端電極30の導線30Lおよび熱電対45は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aのルーメン115およびシャフト基端部分のルーメン125)を延在している。
また、リング電極41~43の導線41L~43Lは、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aのルーメン116およびシャフト基端部分のルーメン126)を延在している。
【0041】
カテーテルシャフト10の内部を延在している導線30Lおよび導線41L~43Lは、それぞれ、制御ハンドル60の内部を通って制御ハンドル60から引き出され、例えば、高周波発生装置に接続される。
【0042】
本実施形態の電極カテーテル100によれば、(W/D)の値が0.20~0.65であり、D/(W・t)の値が20~45であることにより、後端の回転操作時におけるウィップ現象の発生を確実に防止することができるとともに、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aにおける形状変化の平面性を十分に確保することができる。
【0043】
以上、本発明の先端偏向操作可能カテーテルの一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
本発明の先端偏向操作可能カテーテルは、心腔内除細動カテーテルとして使用することもできる。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
図1~
図4に示したような電極カテーテル、すなわち、先端可撓部分(10A)およびシャフト基端部を有するカテーテルシャフト(10)と、カテーテルシャフト(10)の中心軸に沿って先端可撓部分(10A)の内部に配置されたニッケルチタン合金からなる板バネ(20)と、カテーテルシャフト(10)の先端側に配置された先端電極(30)と、カテーテルシャフト(10)の先端部分の外周面に装着されたリング状電極(41)~(43)と、カテーテルシャフト(10)のワイヤルーメン(111)および(123)に延在し、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤ(51)と、カテーテルシャフト(10)のワイヤルーメン(112)および(124)に延在し、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤ(52)と、カテーテルシャフト(10)の後端に装着された制御ハンドル(60)とを備えてなる電極カテーテル(100)を製造した。
カテーテルシャフト(100)のインナー部(1101,1201)およびアウター部
(1103,1203)はポリエーテルブロックアミド(PEBAX)により形成され、PFAからなるルーメンチューブによってルーメン(111~118,121~128)が形成されている。先端側におけるインナー部(1101)とアウター部(1103)との間にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる樹脂ブレード(図示省略)が配置され、基端側におけるインナー部(1201)とアウター部(1203)との間にはステンレススチール(SUS)からなる金属ブレード(図示省略)が配置されている。
【0045】
この実施例の電極カテーテル(100)のサイズは下記のとおりである。
・カテーテルシャフト(10)の長さ:1050mm
・先端可撓部分(10A)の長さ: 115mm
・カテーテルシャフト(10)の外径(D):1.65mm
・板バネ(20)の長さ :115mm
・板バネ(20)の幅(W) :0.50mm
・板バネ(20)の厚さ(t):0.08mm
【0046】
<実施例2~7および比較例1~10>
下記表1に従って、カテーテルシャフトの外径(D)、板バネの幅(W)および厚さ(t)の少なくとも1つを変更したこと以外は実施例1と同様にして本発明の電極カテーテルおよび比較用の電極カテーテルを製造した。
【0047】
実施例1~7および比較例1~10で得られた電極カテーテルの各々について、下記のようにして形状変化の平面性およびトルク伝達性を評価した。
結果を併せて表1に示す。
【0048】
<実験例1(形状変化の平面性の評価)>
図5(A)に示すように、検体であるカテーテルを構成するシャフトCの先端可撓部分を、ロール治具R1,R2に巻き付けるようにして同一平面上においてS字状に曲げ、この状態で、操作用ワイヤの後端を引張操作することにより、シャフトCの先端部を矢印Yで示す方向に撓ませて偏向させた。偏向させた後の形状を上方より観察し、
図5(B)に示すような、シャフトCの先端の前記平面からのずれ量Gを測定した。
評価基準としては、このずれ量Gが1mm以内であるときを「○」、1mmを超えるが5mm以内であるときを「△」、5mmを超える場合を「×」とした。
なお、表1におけるずれ量が「測定不能」とあるのは、偏向後のシャフトCが捩じれてしまい、
図5(A),(B)に示すような形状にならなかったため、ずれ量Gを測定できなかったことを意味する。
【0049】
<実験例2(トルク伝達性の評価)>
図6に示すように、制御ハンドルHの基端をモータMに固定し、カテーテルシャフトCを、内径10mmのチューブT1および内径5mmのチューブT2に挿通することによりカテーテルを配置した。
図6において、寸法を示す数値の単位は「mm」である。
制御ハンドルHの摘みを操作してチューブT2から延び出しているカテーテルシャフトCの先端部を撓ませて約90°偏向させた後、カテーテルシャフトCの基端(手元端)側を、モータMにより一定の角速度(36°/秒)で1080°(360°×3)捻り回転させ、当該カテーテルシャフトCの先端における回転角度の変化をカメラVで確認することによって測定し、当該変化を示すチャート(横軸:シャフト基端の回転角度、縦軸:シャフト先端の回転角度)から、トルク伝達性を確認した。結果を下記表1に示す。評価基準は下記のとおりである。
【0050】
<評価基準>
「○」:理想直線と同等または略同等(シャフト基端の回転角度とシャフト先端の回転角
度は略1:1であり、前記チャートの最大傾きは45~60°)
「△」:理想直線からの乖離が大きく、トルク溜まりが認められる。
「×」:トルク溜まりが著しく、急激な変化(ウィップ現象)が発生した。
【0051】
【符号の説明】
【0052】
100 電極カテーテル
10 カテーテルシャフト
10A 先端可撓部分
111~114 ワイヤルーメン
115~118 ルーメン
121~124 ワイヤルーメン
125~128 ルーメン
20 板バネ
30 先端電極
41~43 リング状電極
30L 先端電極の導線
41L~43L リング状電極の導線
45 熱電対
51 第1操作用ワイヤ
52 第2操作用ワイヤ
60 ハンドル
65 摘み