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特許7590570アーク電圧の推定値を算出するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】アーク電圧の推定値を算出するための方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20241119BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20241119BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K9/095 515Z
B23K31/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023530863
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2021082632
(87)【国際公開番号】W WO2022112225
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】20209769.7
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ロイティンガー・フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】エンスブルンナー・ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリンガー・ゲプハルト
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06710297(US,B1)
【文献】特開昭50-127853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/10
B23K 9/095
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電極(9)とワーク(7)との間で発生するアーク(10)のアーク電圧の推定値(u^LB)を算出するための方法であって、
モデルパラメータ(p)を有する溶接ケーブルモデル(13)によって、前記溶接ケーブル(4)にある測定点(19)と前記アーク(10)との間の溶接ケーブル(4)のケーブル電圧降下(u)が算出され、
実際の溶接電流(i)又は実際の測定電圧(u)に対して、前記ケーブル電圧降下に対する実際の推定値(u^LB)を算出するため、前記溶接ケーブルモデル(13)は、前記溶接ケーブル(4)を、前記溶接ケーブル(4)に通電する溶接電流(i)又は入力変数uとして前記測定点(19)に印加する測定電圧(u)と、出力変数yとして前記ケーブル電圧降下(u)とを有する伝達システムとしてモデル化し、
ケーブル電圧降下(u)とアーク電圧(uLB)との間の既知の関係によって、前記アーク電圧の推定値(u^LB)が算出される当該方法において、
前記溶接ケーブル(4)は、前記溶接ケーブルモデル(13)によって前記アーク電圧(u^LB)を推定するために二次以上の次数を有する伝達システムとしてモデル化され、
前記アーク電圧の推定値(u^LB)は、前記測定点(19)に対する測定電圧(u)と算出された前記ケーブル電圧降下(u)との間の差として算出されることを特徴とする方法。
【請求項2】
伝達関数G(s),G(Z)を有する前記伝達システムは、入力変数uに対する出力変数yから成る除算としてモデル化されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接電極(9)と前記ワーク(7)又は前記ワーク(7)にある溶融池との間の短絡中に、N個の入力変数uに対して、付随する複数の出力変数yが測定され、前記モデルパラメータ(p)が、前記N個の入力変数uと複数の出力変数yとに基づいてパラメータ推定方法によって識別されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記モデルパラメータ(p)は、溶接中の短絡フェーズ中に識別されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記モデルパラメータ(p)は、溶接前に前記入力変数u及び付随する出力変数yの予め設定されている時間推移に対して識別されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
上昇する複数のエッジ(F1,F2)を有する前記入力変数uの時間推移が生成され、 少なくとも2つのエッジ(F1,F2)の勾配が相違することを特徴とする請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接電流(i)に対する前記少なくとも2つのエッジ(F1,F2)の相違する勾配は、100A/ms~10000」A/msの範囲内の入力変数として選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶接ケーブル中の欠陥又は前記溶接ケーブルの良好でない敷設を推定するため、複数の前記モデルパラメータが複数回識別され、これらのモデルパラメータのうちの少なくとも1つのモデルパラメータの値の時間推移が検査されることを特徴とする請求項3~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定点(19)に対する測定電圧(u)の値が一定になるまで、前記溶接電流(i)の1つのパルスが、前記溶接ケーブル(4)に印加され、前記溶接ケーブルモデル(13)のオーミック抵抗(R)が、前記測定電圧(u)と印加された前記溶接電流(i)との除算から算出されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶接制御装置(11)によって溶接工程を実行するための溶接電源であって、
モデルパラメータ(p )を有する溶接ケーブルモデル(13)が、前記溶接制御装置(11)の推定部(16)内に実装されていて、
この溶接ケーブルモデル(13)は、前記溶接電源(1)の溶接ケーブル(4)に通電する溶接電流(i )又は入力変数uとして前記溶接ケーブル(4)の測定点(19)に印加する測定電圧(u )と、出力変数yとしての前記溶接ケーブル(4)に対するケーブル電圧降下(u )との関係を伝達システムとして表記し、
前記溶接ケーブルモデル(13)は、実際の溶接電流(i )又は実際の測定電圧(u )に対して前記ケーブル電圧降下に対する実際の推定値(u^ LB )を算出し、
前記溶接制御装置(11)は、ケーブル電圧降下(u )とアーク電圧(u LB )との間の既知の関係から前記アーク電圧の推定値(u^ LB )を算出する当該溶接電源において、
前記推定部(16)内の前記溶接ケーブルモデル(13)は、二次以上の次数を有する伝達システムとしてモデル化されていること、及び
前記推定部(16)は、前記アーク電圧の推定値(u^ LBw )を、前記測定点(19)に対する測定電圧(u )と算出された前記ケーブル電圧降下(u )との間の差として算出するように構成されていることを特徴とする溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電極とワークとの間で発生するアークのアーク電圧の推定値を算出するための方法に関する。この場合、モデルパラメータを有する溶接ケーブルモデルによって、当該溶接ケーブルにある測定点と当該アークとの間の溶接ケーブルのケーブル電圧降下が算出され、実際の溶接電流又は実際の測定電圧に対して、当該ケーブル電圧降下に対する実際の推定値を算出するため、当該溶接ケーブルモデルは、当該溶接ケーブルを、当該溶接ケーブルに通電する溶接電流又は入力変数として当該測定点に印加する測定電圧と、出力変数として当該ケーブル電圧降下とを有する伝達システムとしてモデル化し、ケーブル電圧降下とアーク電圧との間の既知の関係によって、当該アーク電圧の推定値が算出される。さらに、本発明は、このような溶接ケーブルモデルが実装されている溶接電源に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接工程を実行するための溶接電源の主な課題は、希望した溶接継目品質を有する良好な溶接結果と、良好な溶接接合とが最終的に得られるように、工程変数である溶接電流及び/又は溶接電圧と、必要に応じて溶接ワイヤ送給とを溶接の目的に依存して生成し、制御し、調整することにある。この場合、当該溶接電流の制御は、特別な役割を果たす。何故なら、当該溶接工程のための電力が、この制御によって提供されるからである。アーク電圧も、当該溶接工程の制御のために必要になる。何故なら、この制御は、当該溶接工程のために重要なパラメータであるからである。アークで降下するアーク電圧が、アークの長さにわたって発生し、したがって溶接電極とワーク(又は溶融池)との間の間隔にわたって発生する。しかし、当該アーク電圧は、実際には直接に測定不可能である。それ故に、当該アーク電圧は、間接的な測定から再現される。
【0003】
溶接電流ケーブル(溶接電源から溶接トーチ又は溶接電極まで延存するケーブル)と接地ケーブル(ワークから溶接電源まで延存する)とから成る溶接ケーブルが、ケーブル当該溶接電流源を当該溶接トーチ、すなわち当該溶接電極と当該ワークとに接続する。一般に、当該溶接ケーブルは、当該溶接電源の複数の端子ソケットに接続される。これらの端子ソケット間、すなわち溶接電流ケーブルと接地ケーブルとの間のソケット電圧と、当該溶接ケーブルに通電するソケット電流とが、当該溶接電源で簡単に測定され得る。当該ソケット電流は、当該溶接電流に等しく成り得る。なぜなら、多くの場合、溶接時に、アークに対して平行な電流の流れは無視され得るからである。しかし、当該溶接ケーブルにわたる電圧降下に起因して、当該ソケット電圧は、当該アーク電圧に相当しない。公知の従来の技術では、アーク電圧をソケット電圧から再現するため、溶接ケーブルをケーブル抵抗とケーブルインダクタンスとの直列回路としてモデル化するケーブルモデル(R/Lモデル)が、溶接ケーブルに対する電圧降下を算出するために使用される。アーク電圧に対する推定値が、測定されたソケット電圧と測定されたソケット電流とケーブルモデルとによって算出され得る。したがって、当該アーク電圧の推定値を得るため、当該溶接ケーブルに対する電圧降下が、当該ケーブルモデルによって補正される。これは、例えば国際公開第2000/74888号明細書又は独国特許第102005005771号明細書から公知である。このモデルは、エネルギー貯蔵成分又は動的成分(ケーブルインダクタンス)だけを有するホースパケットで構成されるので、このモデルは、一次の次数を有する。
【0004】
R/Lケーブルモデルのパラメータ、すなわちケーブル抵抗及びケーブルインダクタンスは、既知であるか又は識別される。当該パラメータの識別は、溶接中に又は溶接フェーズ中に実行され得る。例えば、溶接電極(又は溶接トーチの接触管)が、ワークに短絡され得る。このとき、当該ケーブル抵抗は、一定の電流で算出される。その後に、1つの電流インパルスが印加され得て、ケーブルインダクタンスが、当該印加から算出され得る。溶接中に、例えば、溶接工程を妨害しない1つの電流インパルスが、溶接電流に重畳変調され得て、モデルパラメータが、その応答から算出され得る。当該モデルパラメータは、例えば独国特許第102005005771号明細書のように、存在する複数の測定値から成る関係式から継続して算出され得る。
【0005】
したがって、アーク電圧が、溶接電源の稼働中に推定され得る。しかしながら、実際には、従来のR/Lケーブルモデルによれば、著しい推定誤差が、アーク電圧の再現時に発生し得ることが確認されている。これは、溶接工程に悪影響を及ぼし得る。
【0006】
本出願人の調査によれば、溶接ケーブルの敷設が、ケーブル電圧の再現に多大な影響を及ぼすことが確認された。多くの場合、溶接ケーブルは、導電性の部材/構成要素/構造物の近くに敷設されることが確認された。これらは、溶接ロボットのロボットアーム、又は(例えば船舶内の)金属部材、又は鉄筋コンクリート中の補強鋼、又は金属ケーブルダクト等であり得る。当該溶接ケーブルに通電する非常に動的な溶接電流(急峻なエッジと高い周波数とを有する経時変化する電流)に起因して、当該部材との電磁相互作用が発生し得る。当該経時変化する溶接電流は、経時変化する磁場を溶接ケーブルの周辺に引き起こす。知られているように、当該導電性に起因して導電体中の電流密度に直接に関与する電界強度が、変化する磁場内に存在する当該導電体中に発生する。一方で、当該部材の磁場が、当該初期磁場に逆らうように、当該電流密度が発生する。これは、通電している構成要素の相互作用をさらに引き起こす。当該溶接ケーブル中の経時変化する溶接電流は、このような現象を隣接する導電性の材料中に引き起こす。従来のR/Lケーブルモデルは、このような結合を表現できず、したがってこのような場合にはアーク電圧の十分に正確な再現を提供できない。
【0007】
この効果は、例えば鉄又は鋼のような強磁性材料の場合に非常に強く発生する。何故なら、このような材料中の磁束密度は強く発生し得るからである。しかし、例えばアルミニウムのような常磁性材料の場合でも、この効果は、観察され得るが、強磁性材料の場合よりも弱い。
【0008】
溶接ケーブルが、実際の使用中に常にこのような導電性材料の近くに敷設されなければならないので、-当該導電性材料も溶接されなければならないので-この効果は、実際には常に溶接工程の実行に影響する。この効果は、現時点で使用される直列接続されたケーブル抵抗とケーブルインダクタンスとから成るR/Lケーブルモデルによって検出され得ない。このため、アーク電圧の再現が不正確になり得る。一方で、これは、得られる溶接品質に悪影響を及ぼし得る。
【0009】
当該アーク電圧は、溶接工程を制御するためだけに重要な変数ではなくて、溶接工程の重要な既知の特性値、例えば溶接すべきワーク中に伝達する熱又は(アークエネルギーとも呼ばれる)区間エネルギーを算出するためにも必要になる。このためにも、当該アーク電圧の可能な限り正確な推定値が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2000/74888号明細書
【文献】独国特許第102005005771号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、アーク電圧の推定を溶接工程中に使用するために改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、当該溶接ケーブルが当該溶接ケーブルモデルによって当該アーク電圧を推定するために二次以上の次数を有する伝達システムとしてモデル化され、当該アーク電圧の推定値が当該測定点に対する測定電圧と算出された当該ケーブル電圧降下との間の差として算出されることによって解決される。ケーブル電圧降下の推定時に二次以上の次数を有する溶接モデルを用いることで、溶接ケーブルとこの溶接ケーブルの周辺の導電性部材との磁気結合も考慮され得ることが確認された。したがって、当該アーク電圧の推定は、溶接ケーブルの敷設も考慮でき、当該アーク電圧の推定が従来よりも正確に実行され得る。当該推定されたアーク電圧は、溶接工程を制御するために、例えば溶接電流若しくは溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御するために使用され得る。当該アーク電圧のより正確な推定に起因して、溶接継目の達成可能な品質も改良され得る。何故なら、当該制御は、アーク電圧のより正確な推定を提供できるからである。しかし、当該アーク電圧の推定は、区間エネルギー、抵抗値、電力値又は入熱のような溶接工程の特性値を算出するためにも使用され得る。また、このような特性値は、アーク電圧をより正確に推定することによってより正確に算出され得る。
【0013】
溶接電流モデルのモデルパラメータが既知でない場合、当該モデルパラメータは、パラメータ推定方法によって識別され得る。複数のパラメータ推定方法が周知であり、簡単に使用可能である。その結果、当該モデルパラメータは簡単に算出され得る。
【0014】
当該モデルパラメータの識別は、溶接中の短絡フェーズでも実行され得る。これは、所定の溶接方法の場合にモデルパラメータを継続して新たに算出することを可能にする。したがって、溶接ケーブルの敷設中の変化する状況に対処できる。しかし、当該モデルパラメータは、溶接前の入力変数と付随する出力変数との予め設定されている時間推移に対しても識別され得る。これは、当該パラメータを識別するために望ましい入力変数の推移を選択することを可能にする。その結果、当該パラメータの識別が改善され得る。
【0015】
この場合、複数の立ち上がりエッジを有する入力変数の時間推移が使用され、このときに、少なくとも2つのエッジの勾配が可変であり、このときに、出力変数が測定されると、非常に有益であることが分かっている。したがって、パラメータを推定するための出力変数の測定値及び推定値を得るため、溶接ケーブルとしての伝達システムが良好に改善され得る。
【0016】
以下に、本発明を、例示的に、概略的に且つ限定せずに本発明の好適な構成を示す図1~5を参照して詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】溶接工程を制御するための溶接電源を示す。
図2】導電性部材の近くの溶接ケーブルの敷設を示す。
図3】二次以上の次数を有する溶接ケーブルモデルを示す。
図4】溶接ケーブルモデルのモデルパラメータのパラメータを識別するためのインパルスとしての溶接電流の時間推移を示す。
図5】本発明の二次以上の次数を有するケーブルモデルによる所定の溶接電流時のアーク電圧の時間推移と、従来のR/Lケーブルモデルによる所定の溶接電流時のアーク電圧の時間推移とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、溶接工程を実行するための溶接電源1を示す。溶接電源1は、溶接電流を生成するための電力装置2を有する。電力装置2は、希望した溶接工程を実行するためにソケット電圧u及びソケット電流iを溶接電源1のコネクタソケットA+,A-に供給する電流源3として示されている。電力装置2は、例えば、単相(又は多相)の交流商用電源から成るか又は(例えばバッテリからの)直流電圧から成る入力電圧を(溶接電流の)電流時間推移に変換する電気回路、例えばAC/CD変換器又はDC/DC変換器のような電圧変換器である。当該電流推移は、溶接方法に依存し、溶接制御装置11によって制御される。溶接制御装置11は、溶接電源1内に組み込まれ得るが、電力装置2又は溶接電源1から分離されてもよい。当該予定された電流推移は、目標変数SGとして溶接制御装置11に提供される。当該電流推移と同様に、当然に、電圧推移が、目標変数SGとして予め設定されてもよい。溶接電流ケーブル5と接地ケーブル6とを有する溶接ケーブル4が、溶接電源1のコネクタソケットA+,A-に接続される。必須ではないものの、一般に、接地ケーブル6は、ワーク7まで個別に敷設され、当該溶接すべきワーク7に接続される。
【0019】
一般に、溶接電流ケーブル5は、(溶極式又は非溶極式の)溶接電極9を有する溶接トーチ8までホースパケット(Schlauchpaket)内に敷設される。例えば、冷媒ケーブル、シールドガスケーブル、溶極式の溶接電極用のケーブル、制御ケーブル等のような、さらに別のケーブルが、公知のように当該ホースパケット内に組み込まれてもよい。接地ケーブル6が、当該ホースパケット内に敷設されてもよい。
【0020】
溶接トーチ8は、(図示されていない)溶接ロボットに配置され得るか又は手動で操作され得る。例えば、金属不活性ガス熔接(ミグ(MIG)溶接)又は金属活性ガス溶接(マグ(MAG)溶接)の場合のように、溶接トーチ8は、(図1に示された)接触管を有し得る。この接触管は、溶接電流ケーブル5に接続されていて、同時に溶接電極9として機能する溶接ワイヤ18が、この接触管に接触する。しかし、例えばタングステン不活性ガス(WIG)溶接の場合のように、溶接電流ケーブル5に接続されている非溶極式の溶接電極9が、溶接トーチ8に配置されてもよい。補充材が、溶接ワイヤ9によって供給される。溶接ワイヤ18は、溶接ワイヤ送給装置17によって溶接点に供給され得る。
【0021】
当該溶接時に、アーク10が、溶接電極9とワーク7との間に発生する。アーク電圧uLBが、アーク10で降下する。しかしながら、溶接トーチ8の構成及び溶接方法は、本発明にとって重要でない。溶接工程を制御するためには、(ソケット電流iと十分な精度で同等とされ得る)溶接電流、すなわちアーク10に通電する電流と、アーク電圧uLB、すなわちアーク10で降下する電圧とを知ることが重要である。ソケット電流iは、対応する測定技術によって溶接電源1内で簡単に測定され得る一方で、アーク電圧uLBを直接に測定することは困難である。
【0022】
希望した溶接電流及び/又は希望した溶接電圧を生成するため、溶接電源1の電力装置2が、溶接工程を制御するためにこの電力装置2用の制御変数S、例えば電力変換器のPWM(パルス幅変調)制御のデューティー比を生成する溶接制御装置11によって制御される。このため、所定の溶接工程を実行し監視し制御する溶接工程制御部12が、溶接制御装置11内に設けられ得る。さらに、当該制御の目標変数SG、例えば溶接電流又は溶接電圧の目標時間推移が、溶接工程制御装置12に予め設定される。制御変数SGが、例えば、当該溶接工程を調整することによって、例えば溶接プログラムを選択することによって、又は溶接パラメータをI/Oインターフェースで調整することによって予め設定され得る。このため、溶接制御装置11及び/又は溶接工程制御部12は、例えばアーク電圧uLB、(溶接電流としての)実際のソケット電流iB,ist又は溶接ワイヤ送給速度vのような入力変数を当該制御の実変数として当該溶接工程から取得してもよい。
【0023】
制御変数Sは、電力装置2によって所定のソケット電流i又はソケット電圧uに変換される。このため、溶接制御装置11は、予め設定されている調整器の規則にしたがって実際のソケット電流iB,istと予め設定されている目標のソケット電流iB,sollとの差から制御変数Sを算出する電流調整器(例えば、PI制御器又はPID制御器)を有し得る。しかし、制御変数Sは、目標のソケット電流iB,soll又は目標のソケット電圧uB,sollでもよい。この場合、このような電流調整器は、電力装置2内に実装される。当然に、制御変数Sの種類は、電力装置2の当該実装に依存する。
【0024】
図1に示されているように、当該溶接工程を制御するため、溶接制御装置11は、(図1に破線で示されているように)希望した又は必要な溶接ワイヤ送給速度v(及び時間推移)によって溶接ワイヤ18及び溶接電極9を溶接点に供給するために、例えば溶接ワイヤ送給装置17のような溶接電源1の追加の又は別の構成要素を制御し監視してもよい。このため、溶接制御装置11は、当該溶接工程を制御するために追加の又は別の制御変数Sを算出してもよい。
【0025】
例えば溶接電流又はソケット電流i、ソケット電圧u又は溶接ワイヤ送給速度vのような制御の必要な実変数が、適切な測定センサによって測定され得るか、又は例えば実行すべき溶接プログラムに基づいて予め設定されてもよい。しかしながら、アーク電圧uLBは、従来の溶接電源1と従来の溶接トーチ8とによって直接に測定され得るのではなくて、推定部16内に実装されている溶接ケーブルモデル13に基づいて再構成するために評価される。アーク電圧uLBの推定値が、「^」、すなわちu^LBで示される。
【0026】
全ての又は特定の「制御ユニット」又は「ユニット」は、マイクロプロセッサベースのハードウェアとして構成され得る。この場合、これらの制御ユニット又はユニットの機能が、ソフトウェアとして実装されている。この場合、1つの共通のマイクロプロセッサベースのハードウェアが、複数の機能に対して使用され得る。しかし、1つの制御ユニット又はユニットが、ハードウェア上にフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理デバイス(PLD)又は特定用途向け集積回路(ASIC)若しくは他の集積回路として構成されてもよい。この場合でも、複数の制御ユニット及び/又は複数のユニットが、このようなハードウェア上に組み込まれ得る。しかし、1つの制御ユニット又はユニットが、アナログ回路又はアナログコンピュータとして実装されてもよい。当然に、これらの構成を任意に組み合わせることも可能である。
【0027】
溶接ケーブルモデル13は、主に、溶接ケーブル4、例えば溶接電流ケーブル5及び接地ケーブル6にわたるケーブル電圧降下uを算出し、当該ケーブル電圧降下uからアーク電圧の推定値u^LBを算出する。この場合、ケーブル電圧降下uは、溶接ケーブル4内の測定点19からアーク10までとこのアーク10からこの溶接ケーブル4内のこの測定点19までとの溶接ケーブル4で発生する全ての電圧降下の和である。アーク10までの溶接トーチ8の対応する通電部分及びアーク10から接地ケーブル6までのワーク7も、溶接ケーブル4に含まれている。溶接電流ケーブル5と接地ケーブル6との間の測定電圧uが、測定点19で測定される。
【0028】
基本的に、測定点19は、溶接電源1のコネクタソケットA+,A-と溶接トーチ8との間の任意の位置に設けられ得る。図1のように、例えばコネクタソケットA+,A-が、測定点19として使用され得る。しかし、図1に破線で示されているように、測定点19は、溶接ケーブル4内の任意の位置に設けられてもよく、又はホースパケットの終端位置に設けられてもよい。複数の測定点19を設けることも可能である。溶接電流ケーブル5と接地ケーブル6との間の測定電圧uが、測定点19で測定される。図1には、ソケット電圧uが、測定電圧uとして測定される。次いで、アーク電圧u^LBが、それぞれの時点に対しての測定電圧uと溶接ケーブルモデル13によって算出されたケーブル電圧降下uとから、例えば測定電圧uとケーブル電圧降下uとの差として算出され得る。この場合、固定されていないワイヤ電極の長さにわたる既知の電圧降下が、公知の方法で考慮されてもよい。この場合、ケーブル電圧降下uが、中間ステップとして算出される必要はなくて、アーク電圧の推定値u^LBが直接に算出されてもよい。測定点19とアーク10との間の溶接ケーブル4にわたるケーブル電圧降下uが、溶接ケーブルモデル13によって再現されなければならない。
【0029】
このため、溶接ケーブルモデル13は、例えば測定される実際のソケット電流iB,istに相当する溶接電流i、及び/又は測定電圧u、例えば実際のソケット電圧uB,istを、測定センサによって測定され、アナログ測定値又はデジタル測定値として、例えば連続時間で又は離散時間で提供され得る入力変数として取得できる。
【0030】
溶接ケーブルモデル13は、1つの制御ユニットによって分割されてもよいマイクロプロセッサベースのハードウェア上にソフトウェアとして実装されてもよく、又は、溶接ケーブルモデル13の全体又は一部が、FPGA、PLD、ASIC又は同様な回路の形式のハードウェアとして実装されてもよい。
【0031】
図2に示されているように、溶接ケーブル4、接地ケーブル6及び/又は溶接電流ケーブル5は、常磁性又は強磁性で且つ導電性の部材(以下では略して単に導電性部材14と記す)の近くに配置され得る。図2では、溶接電流ケーブル5が、例えば導電性部材14a(例えば、導電性の形材又はロボットアーム)を貫通して敷設されていて、又は導電性部材14b(溶接すべきワーク7が想定される)上にループ状に敷設されていて、又は鉄筋コンクリート部材14c上に敷設されている。
【0032】
実際には、当然に、全ての導電性部材が、図2に例示されたように敷設される必要はなく、さらに別の敷設形態が、導電性部材14の範囲内で実施されてもよい。ループ15が、例えば導電性部材14の周りに構成されてもよく、コイルが構成されてもよい。電磁相互作用が、導電性部材14と溶接ケーブル4との間に発生し得る。
【0033】
本発明によれば、溶接ケーブルモデル13によって、従来のR/Lケーブルモデルのように、溶接ケーブル4自体によって引き起こされたケーブル電圧降下uだけをモデル化すべきではなくて、溶接ケーブル4の周囲の影響及び溶接ケーブル4の敷設の影響をもモデル化すべきである。当該モデル化を達成するためには、二次以上の次数を有する溶接ケーブルモデル13が必要になることが確認された。
【0034】
溶接ケーブルモデル13は、互いに接続された抵抗、インダクタンス及びキャパシタンスのような複数の電気素子から構成される。この場合、複数のインダクタンス及び/又は複数のキャパシタンスのような複数のエネルギー貯蔵素子が含まれている。図3には、好適な溶接ケーブルモデル13が示されている。溶接ケーブル4によって引き起こされたケーブル電圧降下uが、溶接ケーブルモデル13の回路の入力部に印加し、溶接電流iが、当該溶接ケーブルモデルに通電する。ケーブル電圧降下uと溶接電流iとの間の関係が、出力変数と入力変数とから成る除算としての伝達関数Gによって示され得る。この場合、ケーブル電圧降下uは、出力変数yを示し、溶接電流iは、入力変数uを示す。しかし、測定電圧uが、入力電圧として使用され、さらにケーブル電圧降下uが、出力変数として使用されるように、溶接ケーブルモデル13は構成されてもよい。伝達関数Gの次数、すなわち基礎となる微分方程式における最大である時間微分、又は同様に基礎となる微分方程式の次数が、溶接ケーブルモデル13の次数を決定する。本発明によれば、ケーブル電圧降下uと溶接電流i又は測定電圧uとの間の関係を、二次以上の次数を有する伝送システム(Uebertragungssystem)によって示す溶接ケーブルモデル13が使用される。当該伝送システムは、二次以上の次数を有する伝達関数Gと等価であるとみなすことができる。したがって、溶接ケーブルモデル13は、専ら受動的に動作する複数の電気素子が互いに接続されているような構成である。(一次の次数を有する)従来のR/Lケーブルモデルの場合よりも高い次数によって、周囲の影響が十分にモデル化され得る。
【0035】
溶接ケーブルモデル13のような物理システムが、連続時間領域における微分方程式によって、又は同様に離散時間領域における微分方程式によって表現され得て、また連立微分方程式又は連立差分方程式から成るシステムとして表現されてもよい。システムが、連立一次微分方程式又は連立一次差分方程式からより高い次数の一元微分方程式又は一元差分方程式に変換され得て、且つより高い次数の一元微分方程式又は一元差分方程式から連立一次微分方程式又は連立一次差分方程式に変換され得ることが、システム理論から公知である。例えば、システムが、n元一次微分方程式から一元n次微分方程式に変換され得て、且つ一元n次微分方程式からn元一次微分方程式に変換され得る。同じことが、差分方程式に対して成立する。したがって、二次以上の次数を有する溶接ケーブルモデル13が、同様に多様に数式で示され得る。
【0036】
溶接ケーブルモデル13及び数式を、図3を参照して説明する。溶接ケーブル4は、1つのオーミック抵抗Rと1つの1つのケーブルインダクタンスLとから成る入力側の直列回路によって(すなわち、従来のように一次の次数を有するR/Lケーブルモデルによって)モデル化される。さらに、溶接ケーブル4の周辺における導電性部材14との結合が、結合インダクタンスLによって示される。当該モデルでは、鉄損及び渦電流損を示す抵抗Rが、結合インダクタンスLに対して並列に設けられてもよい。導電性部材14中で起こり得る通電iを示すため、オーミック抵抗RとインダクタンスLとから成る直列回路を有する別の分岐部分がさらに設けられ得る。この溶接ケーブルモデル13は、公知の変圧器の短絡している二次側を有する等価回路に相当することが分かる。
【0037】
導電性部材14中で起こり得る磁器飽和を示すため、導電性部材14、例えばケーブルインダクタンスLを非線形にモデル化することも可能である。したがって、例えばケーブルインダクタンスLは、ソケット電流iの関数、すなわちL(i)であり得る。この場合、溶接ケーブルモデル13を数式で示すため、非線形のシステム理論が使用され得る。溶接ケーブルモデル13が、n次(n>1)の次数の伝送システムによって示される限り、溶接ケーブルモデル13の構成は、一義的ではなくて、したがって図3に示された構成とは違う構成もあり得る点を再度指摘する。図3による溶接ケーブルモデル13は、下記のように一次の微分方程式から成るシステムによる伝送システムにキルヒホッフの法則を適用することによって示され得る。
【0038】
【数1】
ここで、
【0039】
【数2】
は、状態ベクトルであり、p=[R,R,R,L,L,L]は、モデルパラメータである。その結果、一次方程式(線形システム)の公知の規則にしたがって、伝達関数G(s)が、出力変数y(ここでは、i)と入力変数u(ここでは、u)との除算として
【0040】
【数3】
になる。ここで、Iは、単位行列であり、sは、ラプラス演算子である。上記の伝送システムを図3による溶接ケーブルモデル13に適用して、伝達関数
【0041】
【数4】
、すなわち三次(n=3)の伝送システムが得られる。したがって、ケーブル電圧降下uとしての入力変数に依存する溶接電流iとしての出力変数yが示される。また、当該伝送システムは、溶接電流iの代わりに入力変数uとしての測定電圧uによって示されてもよい。当然に、当該伝送システム(連立微分方程式)は、入力変数としての溶接電流i及び出力変数としてのケーブル電圧降下uによって示されてもよい。この場合、伝達関数
【0042】
【数5】
が得られる。この伝達関数Gでは、次数は、ラプラス演算子sの最大のべき乗によって決定されている。したがって、図3による溶接ケーブルモデル13に対する係数は、例えばb=R,b=(L+(L+L)R),b=L,a=R,a=(L+(L+L)R+(L+L)R)R,a=L+L(L+L)R+L(R+R),a=Lになる。
【0043】
溶接電源1内の溶接ケーブルモデル13を使用できるようにするためには、伝達関数G(s)の係数b,b,b,a,a,a,a及び基礎となるモデルパラメータp、ここではR,R,R,L,L,Lは、既知であるか又は算出されなければならない。モデルパラメータpが既知でない場合、これらのモデルパラメータpは、周知のパラメータ推定方法によって算出され得る。この場合、伝達関数Gの係数b,b,b,a,a,a,aが算出され得る。すなわち、モデルパラメータpは、間接に算出され得るか、又は、モデルパラメータpは、直接に算出され得る。
【0044】
既知の変数による既知の係数b,b,b,a,a,a,aの場合、例えば溶接電流i又は測定電圧u,検出されたケーブル電圧降下uが、連続時間領域で算出され得るが、当該算出は、実際には労力を要する。このためには、微分方程式を解く必要がある。これは、解析的な方法では多くの場合に不可能であって、数値的に実行されなければならない。当該数値的な実行に関連する計算の労力に起因して、多くの場合、当該計算を十分に短い期間内にオンラインで実行することはできない。それ故に、時間連続信号をサンプリング時間Tによってサンプリングすること、及び出力変数の実際の値を入力変数及び出力変数の先行する値から計算するサンプリングシステムを(微分方程式の代わりに)定差方程式(gleichwerten Differenzengleichung)によってインストールすることが有益である。このようなサンプリングシステムは、溶接電源1内に実際に実装するためには遥かにより良好に適している。
【0045】
システム理論によれば、サンプリングシステムが、サンプリングt=k・T(ここで、Tはサンプリング時間である)によって作成され得る。この場合、kは、それぞれのサンプリング点を示す。したがって、溶接電流i(t)及びケーブル電圧降下u(t)から、離散時間関数i(k)又は別の表記ではiS,kと、ケーブル電圧降下u(k)又は別の表記ではuS,kが得られる。この場合、kは、k・Tに対する略称である。公知のz変換を使用することによって、時間離散伝達関数G(Z)が、出力変数と入力変数とから成る除算として算出され得る。同様に、当該時間離散伝達関数G(Z)の次数nは、時間連続伝達関数の場合と同様に2以上である。この場合、同様に多項式として、z演算子及び係数a,bが、入力変数u、例えば溶接電流iS,k又は測定電圧uM,k及び出力変数y、例えばケーブル電圧降下uS,kに含まれている。当該伝達関数G(Z)では、次数nは、z演算子の最大のべき乗によって決定されている。したがって、実際のサンプリング点kに対する溶接電流iS,k(又は測定電圧uM,k)の値と、先行する時点(k-j)・Taに対する溶接電流iS,k-j(又は測定電圧uM,k-j)の値と、先行する時点(k-j)・Taからのケーブル電圧降下uS,k-jの値とから、実際の時点k(kは、k・Tに対して略記されている(ここで、Tはサンプリング時間である))に対するケーブル電圧降下uS,kを算出する差分方程式が、z変換の規則によって作成され得る。図3による溶接ケーブルモデル13の例では、例えば一般形では、伝達関数
【0046】
【数6】
が得られる。ここで、次数は、n>1(n=3)である。この伝達関数G(Z)から、z変換の規則によって、実際の時点kに対するケーブル電圧降下uS,kに関する差分方程式が導かれ得る。一般形では、
【0047】
【数7】
が得られる。溶接ケーブルモデル13に応じて、特定の項が省略され得るか、又は、別の若しくは追加の項が、当該差分方程式に含まれ得る。
【0048】
この場合、当然に時間連続伝達関数G(s)とは違う値を有する時間離散伝達関数G(Z)の係数b,b,b,a,a,a,aは、既知であるか、又は例えば周知のパラメータ推定方法によって算出する必要がある。しかし、これらの係数b,b,b,a,a,a,aも、溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpに関係している。その結果、モデルパラメータpは、これらの係数から算出され得る。
【0049】
当該差分方程式は、実際の時点kに対するケーブル電圧降下uS,kをオンラインで算出するために適する。このため、専ら出力変数yk-j、例えばケーブル電圧降下uS,k-jと入力変数uk-j、例えば溶接電流iS,k-j(又は測定電圧uM,k)との先行する値が、必要な時点(k-j)に対して記憶され、入力変数u、例えば溶接電流iS,k(又は測定電圧uM,k)の実際の値が、例えば当該それぞれの変数を測定しサンプリングすることによって算出されるだけで済む。
【0050】
上記のように、伝達関数G(s)又はG(Z)の係数b,b,b,a,a,a,a(このとき、これらの係数から、同様に溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpが算出され得る)又はモデルパラメータpは直接に算出され得る。したがって、モデルパラメータpは、図3による溶接ケーブルモデル13における、例えばR,R,R,L,L,Lであるか、又は間接的には伝達関数G(s)又はG(Z)における係数b,b,b,a,a,a,aである。
【0051】
モデルパラメータpを識別するため、伝達関数G(s)又はG(Z)又は図3による溶接ケーブルモデル13の数学的記述と全く同様に、有限数のモデルパラメータpによるモデルに対して適している周知のパラメータ推定方法が使用され得る。一般には、溶接ケーブルモデル13の品質判定基準が、識別すべき区間、ここでは溶接ケーブル4に最適に合致するように、モデルパラメータpは、パラメータ推定方法によって間接に又は直接に決定される。このため、多数の公知のパラメータ推定方法が存在する。この場合、最小二乗法又はコスト関数の最適化が頻繁に使用される。両方法は基本的に公知であるので、以下では簡単に説明する。
【0052】
これらのパラメータ推定方法は、出力変数y、ここではケーブル電圧降下uのN個の実際の測定値が、入力変数u、ここでは溶接電流iの関数として存在することに基づく。当該測定の場合、特に、溶接電極9が、最初は短絡されている。すなわち、アーク電圧uLBは0Vである。溶接電極9の短絡時のケーブル電圧降下uは、測定点19の測定電圧u、すなわち例えばソケット電圧uに相当する。したがって、溶接電源1によって、予め設定されている溶接電流iが、入力変数uとして生成され得て、発生する測定電圧u、例えばソケット電圧uが、出力変数yとして測定され得る。こうして、任意の数i=1,...,Nの測定値が、入力変数uと付随する出力変数yとから生成され得る。
【0053】
これらの測定値に起因して、測定電圧uが測定される測定点19とアーク10との間のケーブル電圧降下uを提供するように、溶接ケーブルモデル13が推定されることが明らかである。最適なモデルパラメータを決定するため、出力変数yの実際の測定値と存在する入力変数uに対して溶接ケーブルモデル13から提供されたモデルパラメータpに依存する当該出力変数の推定値y^との間の偏差が、パラメータ推定方法によって最小にされなければならない。
【0054】
最小二乗法の場合は、モデルパラメータpを得るために解かれる一次方程式(線形システム)が、測定値u,yからインストールされる。このため、決定すべき複数のパラメータである複数のモデルパラメータpが、パラメータベクトルc内で直接に統合されるか、又は、定すべき複数のパラメータである伝達関数G(s)又はG(Z)の複数の係数b,b,b,a,a,a,aが、パラメータベクトルc内で統合される。分子多項式と分母多項式とを有する伝達関数
【0055】
【数8】
の場合、パラメータベクトル
【0056】
【数9】
が得られる。この場合、一般に、a=1が設定されていて、nは、当該伝達関数の次数である。この場合、当然に、特定の複数の係数が、値0を有してもよい。このとき、i番目の測定の出力変数の推定値y^は、
【0057】
【数10】
と表記される。ここで、hは、これらの測定値を含むデータベクトルである。データベクトルhの次元は、パラメータベクトルcから得られる。一般に、当該データベクトルは、
【0058】
【数11】
と表記され、したがって出力変数yi-NのN個の測定値と付随する入力変数ui-Nと新しい入力変数uとを含む。当該出力変数の推定値が、この新しい入力変数uに対して検出されている。実際の誤差eが、e=y-y^として当該推定値と当該測定値との間の偏差から得られる。このとき、式
【0059】
【数12】
(ここで、H=[h…h]は、データマトリックスであり、e=y-H^c(ここで、y=[y…y]、e=[e…e]及びc^=[c^…c^])は、誤差ベクトルである)の連立一次方程式(連立線形システム)(ein ueberbestimmtes lineares Gleichungssystem)が、取得可能なN個の測定値によって得られる。最小二乗法の場合、誤差eの二乗ノルムmすなわち
【0060】
【数13】
が使用される。すなわち、この誤差eの二乗が最小になる
【0061】
【数14】
が使用される。それ故に、解が、
【0062】
【数15】
として解析的に出力され得る。この場合、当該パラメータベクトル内の伝達関数G(s)又はG(Z)の係数b,b,b,a,a,a,a(正確には、複数の係数の推定値)に相当するパラメータと、基礎となるモデルパラメータp(正確には、基礎となるモデルパラメータpの推定値)とが算出され得る。
【0063】
コスト関数Jを最適化する方法の場合、コスト関数が、最小になるモデルパラメータpの関数(個々のパラメータを有するベクトル)としてインストールされる。これは、
【0064】
【数16】
として数学的に表記され得る。溶接ケーブルモデル13の成分値が、モデルパラメータpによって直接に推定される場合に、例えば、制約条件p>0が考慮される。この場合、様々な最適化目的を達成するため、コスト関数Jは、任意にインストールされ得て、複数のコスト項も含み得る。この場合、コスト関数Jにおけるこれらのコスト項は、例えば重み付け係数によって異なって重み付けされ得る。一般に、異なる複数のコスト項が、コスト関数Jにおいて加算される。頻繁に使用される方法では、測定されて入力変数uに起因して発生するN個の実際の出力変数yと溶接ケーブルモデル13によって入力変数uに対して推定された値y^との間の偏差平方和が、コスト関数Jとしてセットされる。したがって、数学的には、コスト関数Jは、
【0065】
【数17】
と表記され得る。一般に、当該最適化は、例えば公知の繰り返し法によって、例えばニュートン法によって、又はガウス法によって、又は進化法よって数値的に解かれる。当該最適化の場合、モデルパラメータpが、開始時に選択又は予め設定され、その後に最適化方法の規則にしたがって繰り返し変更される。その結果、コスト関数Jが最小にされる。一般に、最適化が、停止基準の到達時に終了されるように、当該停止基準が規定される。当該停止基準の到達時のモデルパラメータpが、最適なモデルパラメータとして使用される。
【0066】
例えば、溶接ケーブル4の所定の敷設に対する図3による溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpが、コスト関数
【0067】
【数18】
によって次の成分値L=28,841μH、L=16.373μH、L=67.27μH、R=56mΩ、R=2.3mΩ、R=60.9mΩとして推定された。
【0068】
しかし、上記の方法に加えて、パラメータを推定するために使用され得るさらに多数の別の方法も存在する。測定ノイズがさらに考慮され得る方法も存在する。一般に、ARX又はARMAXの構成のような公知のモデル構成(主に、所定の構成の複数の差分方程式から成るシステム)に基づき、且つ測定ノイズも考慮され得る自己回帰法が使用され得る。多くの場合、このようなモデル構成は、最尤推定法又は最小二乗法によって解かれる。
【0069】
溶接ケーブルモデル13における成分値の値が直接に推定されるか、又は、時間連続伝達関数G(s)又は時間離散伝達関数G(Z)の係数b,b,b,a,a,a,aが推定される。時間連続伝達関数G(s)又は時間離散伝達関数G(Z)の係数b,b,b,a,a,a,aが推定される場合、上記のように、溶接ケーブルモデル13における成分値の値が、当該推定から直接に計算され得る。時間離散伝達関数G(Z)の係数b,b,b,a,a,a,aが推定される場合、当該時間離散伝達関数が、逆z変換によって時間連続領域に変換され得る。同様に、溶接ケーブルモデル13における成分値の値が、当該変換から算出され得る。
【0070】
入力変数u(溶接電流i又は測定電圧u)と出力変数y(ケーブル電圧降下u)との数i=1,...,N個の測定値が、パラメータを推定するために必要になる。この場合、識別すべきシステムに関する可能な限り多くの情報が、出力変数yから導き出され得るように、入力変数uは選択されなければならない。溶接時に、例えばパルスアーク溶接時に又は短絡アーク溶接時に、多くの場合、溶接電流iは、急峻に上昇する電流エッジを伴って推移する。溶接電流iの減衰挙動は、直接に制御され得ない。何故なら、当該電流によって引き起こされた電力は、溶接ケーブルモデル4の抵抗による損失によって発生する抵抗による電力損失と、さらにアークの発生時のアーク10によって発生した損失電力とによって消費され得るにすぎないからである。それ故に、パラメータを推定するため、特に複数の立ち上がりエッジ、例えば勾配|Δi/Δt|を呈する電流エッジを有する入力変数u(溶接電流i又は測定電圧u)の時間推移が生成される。この場合、個々の立ち上がりエッジの勾配は異なる。溶接電流iとしての入力変数uのこのような時間推移は、図4に例示されている。第1傾斜の立ち上がりエッジF1は、第2傾斜の立ち上がりエッジF2よりも急峻であることが、図4において分かる。入力変数u、例えば溶接電流iは、時間的に連続するこれらのエッジF1,F2間で減衰する。
【0071】
溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpMを推定するためには、特に、少なくとも2つのエッジF1,F2の異なる勾配が、100A/ms~10000A/msの範囲内で選択されることが有益である。特に、第1エッジF1の勾配|Δi/Δt|は、800A/ms~1000A/ms、特に好ましくは900A/msであり、第2エッジF2の勾配|Δi/Δt|は、200A/ms~400A/ms、特に好ましくは300A/msである。当該勾配は、絶対値で表記されている。何故なら、当該パラメータを識別するための溶接電流iは、正(の直流)と負(の直流)との双方であり得るか、又は正と負とが交互し得る(交流)からである。
【0072】
この場合、入力変数uの値、例えば溶接電流iは、最小入力値umin、例えば最小溶接電流iS,minと最大入力値umax、例えば最大溶接電流iS,maxとの間で生成される。この最小入力値とこの最大入力値とは、一定に設定されてもよく、異なる勾配ごとに異なってもよい。溶接電流iを入力変数uとして使用する場合、溶接電源1から供給可能な溶接電流iの特に90%~100%が、最大溶接電流iS,maxとして選択される。最小溶接電流iは、特に、溶接電源1から供給可能な溶接電流iSの特に0%~40%で選択される。
【0073】
しかし、パラメータの識別は、二段階で実行されてもよい。図3の溶接ケーブルモデル13から、入力変数u、例えば溶接電流iのパルスの入力時に、インダクタンスL,L,Lに対する電圧又は電流が減衰することが分かる。当該電圧又は電流が完全に減衰するまで、当該パルスが十分長く持続すると、Lは、短絡のように作用し、オーミック抵抗R1は、例えば式R=u/iにおいて、例えば入力される溶接電流iの入力変数uと例えば測定点9で測定される測定電圧u、例えばソケット電圧uの出力変数yとから直接に算出され得る。したがって、抵抗Rは既に既知であるので、残りのモデルパラメータpを算出するためのパラメータ推定方法は簡略化され得る。
【0074】
この場合、測定電圧uが一定になるまで、すなわちインダクタンスL,L,Lに対する電圧が減衰するまで、当該パルスは長く持続される。測定電圧uが一定である場合、測定電圧uは、簡単に測定され得る。溶接電流iの場合、当該パルスの高さは、溶接電源1から供給可能な溶接電流iの特に40%~60%に選択される。
【0075】
留意すべきは、エッジF1,F2と、場合によっては抵抗R1を推定するためのパルスとの順序は、パラメータの識別にとって重要でなく、任意に選択され得る点である。
【0076】
パラメータを推定するために選択された入力変数u、例えば溶接電流iの時間推移(離散時間推移)が、目標変数SGとして、例えば溶接工程制御部12に予め設定される。数i=1,...,N個の測定値を得るため、予め設定されているこの入力変数uによって、付随する出力変数yが、例えば、溶接電極9の短絡時のケーブル電圧降下uとして、好ましくは所定のサンプリング点Taごとに時間離散式に測定される。入力変数uの時間推移の選択は、パラメータの識別の特性に影響し、それ故に好ましくは問題志向型(problemangepasst)で実行される。
【0077】
アーク電圧に対する推定値u^LBを、入力変数u、例えば(測定されるソケット電流iB,istに相当する)実際の溶接電流iS,istの測定変数又は測定点19に対する実際の測定電圧uM,ist(例えば、実際のソケット電圧uB,ist)から算出するため、上記のように、例えば溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpの識別後に、当該既知のモデルパラメータpによって、この溶接ケーブルモデル13が使用され得る。この推定値u^LBは、オプションとして固定されていないワイヤ電極に対する既知の電圧降下を考慮しつつ、測定される測定電圧uM,istと溶接ケーブルモデル13から得られるケーブル電圧降下uとの間の既知の関係から得られる。
【0078】
簡単な場合、当該関係は、例えば、測定電圧uM,istと算出されたケーブル電圧降下uとの差である。
【0079】
溶接ケーブルモデル13のモデルパラメータpの算出は、溶接を開始する前に一回実行される。このため、溶接電極9が、ワーク7を介して短絡され、入力変数u(溶接電流i)の予め設定されている時間推移又は所定の時間推移が、モデルパラメータpを識別するために生成される。この場合、短絡時にケーブル電圧降下uに相当する測定電圧uが、測定点19で測定される。その結果、モデルパラメータpが、上記のように算出され得る。
【0080】
短絡フェーズが規則的に設けられている溶接工程、例えばいわゆるCMT(コールドメタルトランスファー)溶接工程又は短絡アーク溶接工程が存在する。この場合、短絡が、溶融池との接触時に発生するまで、溶融すべき溶接電極が、ワーク7の方向に移動する。その後に、当該溶接電極は、反対方向に戻るように移動される。短絡が発生する前に、アークフェーズ中に、当該溶接電極に溶滴が、当該溶融池内に移行される。アークフェーズと短絡フェーズとが交互に周期的に実行される。
【0081】
モデルパラメータpが、短絡フェーズ中に上記のように新たに決定されることによって、溶接中に溶接ケーブルモデル13を継続して更新するために、このような短絡フェーズは利用されてもよい。
【0082】
モデルパラメータpの当該繰り返される新たな決定は、例えば、溶接トーチ8が、溶接ロボットによって誘導され、溶接ケーブル4,接地ケーブル6及び/又は溶接電流ケーブル5の少なくとも一部が、当該溶接ロボットに配置されている場合に、溶接ケーブルモデル13を溶接時の実際の状況に継続して適合するために有益であり得る。溶接ロボットの関節の動きによって、上記のように考慮され得る交番磁気作用が、溶接ケーブル4と溶接ロボット(導電性部材14)との間に発生する。しかし、当該溶接ロボットの動きによって、導電性部材14に対する溶接ケーブル4の位置も変化し得る。その結果、同様に、相互作用が発生し得る。当然に、手作業による溶接時でも、同様に、相互作用が発生し得る。
【0083】
図5図5の上側)には、溶接電流iSの急峻に上昇する電流エッジを有する電流インパルスの場合に溶接ケーブル4の近くの導電性部材14によって発生する、比較のために測定されるアーク電圧uLBの時間tに対する時間推移が例示されている。従来の簡単なR/Lケーブルモデルによって推定されたアーク電圧uLB,RLが破線で示されている。n>1(具体的には、図3に対する上記のような三次)の次数を有する本発明の溶接ケーブルモデル13によって算出されたアーク電圧u^LBが、一点鎖線で示されている。このアーク電圧u^LBは、測定されたアーク電圧uLBに小さい偏差で追従している。これらの2つの時間推移間の偏差はより小さいことが分かる。明確にするため、R/LケーブルモデルによるuLB,RLと本発明にしたがって算出されたアーク電圧u^LBと測定されたアーク電圧uLBとの間のそれぞれの誤差eを図5の下側に示す。本発明にしたがって算出されたアーク電圧u^LBで発生する誤差e^は、従来のR/Lケーブルモデルによって算出されたアーク電圧uLB,RLで発生する誤差eよりも小さい。
【0084】
従来のR/Lケーブルモデルは、特に急激に変化する溶接工程(急峻な電流エッジ)の場合に本発明のn>1を有する溶接ケーブルモデル13よりもあまり適していないことが、図5から明らかである。このような溶接ケーブルモデル13によるアーク電圧uLBは明らかにより近似されることが明らかである。必要に応じて、アーク電圧の推定値u^LBの誤差は、溶接ケーブルモデル13のインダクタンスLを、例えば溶接電流iの関数、すなわちL(i)として非線形にモデル化することによってさらに除去され得る。
【0085】
上記のように、モデルパラメータpの値が、パラメータを推定することによって推定される。当該推定が繰り返され、少なくとも1つのモデルパラメータpの時間推移が記録されると、この少なくとも1つのモデルパラメータpの値の時間推移から、当該溶接ケーブルの状態も推定され得る。当該少なくとも1つのモデルパラメータpが、連続する推定中に著しく変化する(対応する限界に達し得る)場合、溶接ケーブル中の損傷も推定され得て、対応する警報、例えば視覚的な表示及び/又は音響警報信号が、溶接電源1で発せられ得る。
【0086】
上記のモデルパラメータp又は少なくとも1つのモデルパラメータpは、溶接ケーブル4の敷設状態を推定するためにも使用され得る。モデルパラメータp(導電性部材14と結合する、例えば図3による溶接ケーブルモデル13におけるような結合インダクタンスL)が、非常に大きくなる場合(これは、対応する限界に達し得ることを意味する)、溶接ケーブル4の位置が検査されなければならないという警報が、例えば音響的に又は視覚的に発せられ得る。
【0087】
説明したように、複数の測定位置19が設けられてもよい。これは、複数のモデルパラメータpがそれぞれ、異なる複数の測定点19に対する測定値ごとに推定されることによって、複数の異なる測定点19に対してそれぞれ1つの溶接ケーブルモデル13を算出することを可能にする。したがって、アーク電圧の少なくとも2つの異なる推定値u^LBが算出され得る。したがって、2つの推定値が、非常に大きく相違しないときに、当該推定値が有効とみなされることによって(この場合、対応する限界に達し得ない)、例えば、一方の推定値が、他方の推定値によって妥当性をチェックされる。しかし、アーク電圧の少なくとも2つの異なる推定値u^LBが、アーク電圧の推定値u^LBとして使用される平均値を算出するために使用されてもよい。しかし、溶接ケーブル4中の誤差を局所的に限定するため、アーク電圧の推定値u^LBの複数の異なる推定値が使用されてもよい。1つの特定の測定点19以降の(すなわち、溶接トーチ8の方向の)アーク電圧の複数の推定値u^LBが、アーク電圧のほぼ同じであるが、この特定の測定点19の前の複数の推定値と異なる複数の推定値u^LBを提供する場合、これは、この特定の測定点19の前の溶接ケーブル4中の損傷を示し得る。
【0088】
図1に対する上記のように、推定されたアーク電圧u^LBが、溶接電源1によって実行された溶接工程を制御するために使用され得る。しかし、推定されたアーク電圧u^LBが、溶接工程に対して重要な別の特性値を算出するために使用されてもよい。例えば、溶接工程の特性値、例えば溶接すべきワーク7中への入熱及び/又は(アークエネルギーとも呼ばれる)区間エネルギーが、アーク電圧u^LBと、必要に応じて溶接電流iのような別の工程変数とによって算出され得る。当該区間エネルギーは、例えば、溶接工程に供給されるエネルギーに対する目安である。当該入熱及び/又は当該区間エネルギーは、品質保証と溶接に対する誤差の後の追跡とのために記録値として記録され得る。推定されたアーク電圧u^LBに基づいて算出され得て、記録値として記憶され得る溶接工程の他の特性値は、溶接個所にわたる抵抗値又は電力値である。記録値が、当該溶接電源又は別の場所に記憶され得るか、又はリアルタイムで(又は溶接工程に対して周期同期して)インターフェースを介して(アナログ式に若しくはデジタル式に)出力され得る。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る。
1.
溶接電極(9)とワーク(7)との間で発生するアーク(10)のアーク電圧の推定値(u^ LB )を算出するための方法であって、
モデルパラメータ(p )を有する溶接ケーブルモデル(13)によって、前記溶接ケーブル(4)にある測定点(19)と前記アーク(10)との間の溶接ケーブル(4)のケーブル電圧降下(u )が算出され、
実際の溶接電流(i )又は実際の測定電圧(u )に対して、前記ケーブル電圧降下に対する実際の推定値(u^ LB )を算出するため、前記溶接ケーブルモデル(13)は、前記溶接ケーブル(4)を、前記溶接ケーブル(4)に通電する溶接電流(i )又は入力変数uとして前記測定点(19)に印加する測定電圧(u )と、出力変数yとして前記ケーブル電圧降下(u )とを有する伝達システムとしてモデル化し、
ケーブル電圧降下(u )とアーク電圧(u LB )との間の既知の関係によって、前記アーク電圧の推定値(u^ LB )が算出される当該方法において、
前記溶接ケーブル(4)は、前記溶接ケーブルモデル(13)によって前記アーク電圧(u^ LB )を推定するために二次以上の次数を有する伝達システムとしてモデル化され、
前記アーク電圧の推定値(u^ LB )は、前記測定点(19)に対する測定電圧(u )と算出された前記ケーブル電圧降下(u )との間の差として算出される当該方法。
2.
伝達関数G(s),G (Z)を有する前記伝達システムは、入力変数uに対する出力変数yから成る除算としてモデル化される上記1に記載の方法。
3.
前記溶接電極(9)と前記ワーク(7)又は前記ワーク(7)にある溶融池との間の短絡中に、N個の入力変数uに対して、付随する複数の出力変数yが測定され、前記モデルパラメータ(p )が、前記N個の入力変数uと複数の出力変数yとに基づいてパラメータ推定方法によって識別される上記1又は2に記載の方法。
4.
前記モデルパラメータ(p )は、溶接中の短絡フェーズ中に識別される上記3に記載の方法。
5.
前記モデルパラメータ(p )は、溶接前に前記入力変数u及び付随する出力変数yの予め設定されている時間推移に対して識別される上記3に記載の方法。
6.
上昇する複数のエッジ(F1,F2)を有する前記入力変数uの時間推移が生成され、 少なくとも2つのエッジ(F1,F2)の勾配が相違する上記3~5のいずれか1つに記載の方法。
7.
前記溶接電流(i )に対する前記少なくとも2つのエッジ(F1,F2)の相違する勾配は、100A/ms~10000」A/msの範囲内の入力変数として選択される上記6に記載の方法。
8.
前記溶接ケーブルモデルのモデルパラメータを決定するため、前記パラメータ推定方法によって、前記出力変数の測定値と前記溶接ケーブルモデルによって前記入力変数に対して算出された前記出力変数の推定値との間の偏差が最小にされる上記3~6のいずれか1つに記載の方法。
9.
前記溶接ケーブル中の欠陥又は前記溶接ケーブルの良好でない敷設を推定するため、複数の前記モデルパラメータが複数回識別され、これらのモデルパラメータのうちの少なくとも1つのモデルパラメータの値の時間推移が検査される上記3~8のいずれか1つに記載の方法。
10.
前記測定点(19)に対する測定電圧(u )の値が一定になるまで、前記溶接電流(i )の1つのパルスが、前記溶接ケーブル(4)に印加され、前記溶接ケーブルモデル(13)のオーミック抵抗(R )が、前記測定電圧(u )と印加された前記溶接電流(i )との除算から算出される上記1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.
溶接制御装置(11)によって溶接工程を実行するための溶接電源であって、
モデルパラメータ(p )を有する溶接ケーブルモデル(13)が、前記溶接制御装置(11)の推定部(16)内に実装されていて、
この溶接ケーブルモデル(13)は、前記溶接電源(1)の溶接ケーブル(4)に通電する溶接電流(i )又は入力変数uとして前記溶接ケーブル(4)の測定点(19)に印加する測定電圧(u )と、出力変数yとしての前記溶接ケーブル(4)に対するケーブル電圧降下(u )との関係を伝達システムとして表記し、
前記溶接ケーブルモデル(13)は、実際の溶接電流(i )又は実際の測定電圧(u )に対して前記ケーブル電圧降下に対する実際の推定値(u^ LB )を算出し、
前記溶接制御装置(11)は、ケーブル電圧降下(u )とアーク電圧(u LB )との間の既知の関係から前記アーク電圧の推定値(u^ LB )を算出する当該溶接電源において、
前記推定部(16)内の前記溶接ケーブルモデル(13)は、二次以上の次数を有する伝達システムとしてモデル化されていること、及び
前記推定部(16)は、前記アーク電圧の推定値(u^ LBw )を、前記測定点(19)に対する測定電圧(u )と算出された前記ケーブル電圧降下(u )との間の差として算出するように構成されている当該溶接電源。
【符号の説明】
【0089】
1 溶接電源
2 電力装置
3 電流源
4 溶接ケーブル
5 溶接電流ケーブル
6 接地ケーブル
7 ワーク
8 溶接トーチ
9 溶接電極
10 アーク
11 溶接制御装置
12 溶接工程制御部
13 溶接ケーブルモデル
14 導電性部材
14a 導電性部材、形材、ロボットアーム
14b 導電性部材、ワーク
14c 導電性部材、鉄筋コンクリート部材
15 ループ
16 推定部
17 溶接ワイヤ送給装置
18 溶接ワイヤ
19 測定点
A+ コネクタソケット
A- コネクタソケット
ソケット電圧
ケーブル電圧降下
測定電圧
ソケット電流
溶接電流、通電
S 制御変数
SG 目標変数
LB アーク電圧
U^LB アーク電圧(の推定値)
y 出力変数
Y^ 出力変数の推定値
u 入力変数
e 誤差
G 伝達関数
オーミック抵抗
ケーブルインダクタンス
オーミック抵抗
インダクタンス
結合インダクタンス
F1 第1エッジ、立ち上がりエッジ
F2 第2エッジ、立ち上がりエッジ
図1
図2
図3
図4
図5