(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】改良された3段構造のサイプを有するタイヤトレッドおよびタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2023537060
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2021085978
(87)【国際公開番号】W WO2022129218
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】102020000031364
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ ロドリケズ
(72)【発明者】
【氏名】パスクァーレ アゴレッティ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ ティロネ
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-227306(JP,A)
【文献】特開2010-208428(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0109200(KR,A)
【文献】特開平11-291717(JP,A)
【文献】特開2006-298057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0174008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がそれぞれの接地面(21)を有する複数のトレッドコンポーネント(20)を有する、タイヤ(1)のトレッド(10)であって、
前記複数のコンポーネント(20)のうちの少なくとも1つが、当該少なくとも1つのコンポーネント(20)の第1の対向面(101)および第2の対向面(102)を画定するサイプ(100)を備え、
当該サイプ(100)が半径方向(U)に沿ってサイプ深さ(P)を有し、
当該サイプ深さ(P)が第1のセクション(A)および第2のセクション(C)を備え、
前記第1の対向面(101)および前記第2の対向面(102)が、前記第1のセクション(A)および前記第2のセクション(C)に沿って対応する相補的なプロファイル(101a、101c、101z、102a、102c、102z)を有し、
前記第1の対向面(101)および前記第2の対向面(102)が、前記第1のセクション(A)と前記第2のセクション(C)とを互いに連結する中間セクション(B)に対応して、それぞれ第1の干渉プロファイル(101b)および第2の干渉プロファイル(102b)をさらに有し、
前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)の各々が、互いに向かい合うとともに前記少なくとも1つのコンポーネント(20)に作用する荷重に応じて可逆的に相互接触するように構成された、少なくとも2つの接触面(11’a、11’’a、12’b、12’’b)を、備え、
前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)が、前記半径方向(U)に平行な
展開軸(v)に沿って展開される前記少なくとも1つのコンポーネント(20)の変形領域(V)を画定するように、前記中間セクション(B)の最小深さ(P
min)と最大深さ(P
max)との間に間隔を置いて配置され、
前記展開軸(v)が、前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)の展開に関して対称軸であ
り、
前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)のそれぞれの前記少なくとも2つの接触面(11’a、11’’a、12’b、12’’b)は、ジグザグ状の形状をなしている、トレッド(10)。
【請求項2】
各々がそれぞれの接地面(21)を有する複数のトレッドコンポーネント(20)を有する、タイヤ(1)のトレッド(10)であって、
前記複数のコンポーネント(20)のうちの少なくとも1つが、当該少なくとも1つのコンポーネント(20)の第1の対向面(101)および第2の対向面(102)を画定するサイプ(100)を備え、
当該サイプ(100)が半径方向(U)に沿ってサイプ深さ(P)を有し、
当該サイプ深さ(P)が第1のセクション(A)および第2のセクション(C)を備え、
前記第1の対向面(101)および前記第2の対向面(102)が、前記第1のセクション(A)および前記第2のセクション(C)に沿って対応する相補的なプロファイル(101a、101c、101z、102a、102c、102z)を有し、
前記第1の対向面(101)および前記第2の対向面(102)が、前記第1のセクション(A)と前記第2のセクション(C)とを互いに連結する中間セクション(B)に対応して、それぞれ第1の干渉プロファイル(101b)および第2の干渉プロファイル(102b)をさらに有し、
前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)の各々が、互いに向かい合うとともに前記少なくとも1つのコンポーネント(20)に作用する荷重に応じて可逆的に相互接触するように構成された、少なくとも2つの接触面(11’a、11’’a、12’b、12’’b)を、備え、
前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)が、前記半径方向(U)に平行な展開軸(v)に沿って展開される前記少なくとも1つのコンポーネント(20)の変形領域(V)を画定するように、前記中間セクション(B)の最小深さ(P
min
)と最大深さ(P
max
)との間に間隔を置いて配置され、
前記展開軸(v)が、前記第1の干渉プロファイル(101b)および前記第2の干渉プロファイル(102b)の展開に関して対称軸であり、
それぞれの干渉プロファイル(101b、102b)が3対の接触面(1a、1b、1c、2a、2b、2c)を備え、前記第1の干渉プロファイル(101b)および/または前記第2の干渉プロファイル(102b)は、前記3対の接触面(1a、1b、1c、2a、2b、2c)の各々における前記展開軸(v)に対する最大距離が異なっている、トレッド(10)。
【請求項3】
前記第1の干渉プロファイル(101b)と前記第2の干渉プロファイル(102b)との間の相互距離が、前記最小深さ(P
min)において、前記最大深さ(P
max)における前記第1の干渉プロファイル(101b)と前記第2の干渉プロファイル(102b)との間の相互距離よりも、小さい、請求項1に記載のトレッド(10)。
【請求項4】
前記少なくとも2つの接触面(11’a、11’’a、12’b、12’’b)は、それぞれの干渉プロファイル(101b、102b)が前記展開軸(v)に対して最大距離をとる位置に凹部(C
1、C
2)を形成するように、互いに連続して関連している、請求項1
~3のいずれか一項に記載のトレッド(10)。
【請求項5】
前記最大距離が、前記半径方向(U)に沿って大きくなる、請求項
2に記載のトレッド(10)。
【請求項6】
前記サイプ深さ(P)が、前記第1のセクション(A)、前記中間セクション(B)、および前記第2のセクション(C)を順に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のトレッド(10)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のトレッド(10)を備える、タイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッドに関する。特には、トレッドパターンに改良された3段構造のサイプ形状を採用することで、新品タイヤの乾燥路面での性能を向上させるとともに、湿潤路面や雪上路面での性能をタイヤの寿命を通して維持することができる、タイヤトレッドに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、一般的に、横方向および/または円周方向に延びる溝を有するトレッドを備え、当該トレッドによって、地面と係合してタイヤの全体的な性能に寄与する「トレッド要素」が定義される。
【0003】
周知のように、ノッチまたはサイプと呼ばれる一般的に細く幅があまり広くない溝の存在により、特に、湿潤路面および/または雪上路面においてタイヤのグリップおよびトラクションを向上させることができる空隙が定義され、前者は水の排出に寄与し、後者は雪の捕捉に寄与する。
【0004】
今日まで、タイヤを構成する材料の生理的な摩耗や経年劣化を考慮して、特に、湿潤路面や雪上路面においてタイヤの初期レベルの性能を可能な限り長く維持することは、この分野の事業者の間で特に注目されてきた。通常のトレッド摩耗では、実際に、ボイド率が急速に減少し、タイヤの寿命が近づくほど湿潤/雪上路面でのタイヤの粘着力は急激に低下する。
【0005】
この傾向に対抗するため、トレッドの幾何学的特性を修正し、摩耗時のボイド率の減少による性能の低下を補うことを主な目的とした、特定のプロファイルのサイプを有するタイヤを製造することが知られている。
【0006】
この意味で、タイヤ摩耗時のボイド率の減少を緩和し、それによって湿潤路面や雪上路面での性能低下を軽減するために、トレッドパターン内に適切な、いわゆる「隠れた」ボイドを残すようにサイプをモデル化することが知られている。
【0007】
前述した公知の解決策では、タイヤ寿命の間、湿潤路面および/または雪上路面でのグリップおよびトラクションについて良好な性能を維持することができる一方で、トレッド剛性の低下を伴うため、特に、タイヤの新品時には、乾燥路面および/または平滑路面での剛性、制動能力、およびハンドリングの点で全体的に性能が悪化する。
【0008】
例えば、特許文献1は、幅広部分と幅狭部分とを交互に連続して配置し、トレッドの滑走面に対して傾斜させたサイプを開示している。特許文献2は、ブロックの変形を防止してその剛性を高めるように、全体的なジグザグ構造を特徴とするサイプを開示している。特許文献3は、その対向面が協働するように構成されたサイプであって、当該対向面間の距離がトレッドの最大撓みを受ける領域内で最大となるサイプを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】US2012/132337A1
【文献】US2002/017349A1
【文献】EP2138330A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が提起し、解決しようとする技術的課題は、前述の問題を克服することであり、特に、タイヤの新品時における乾燥路面および/または平滑路面でのタイヤの制動およびハンドリング能力に影響を与えることなく、タイヤ寿命の間の通常の摩耗の結果として、湿潤路面および/または雪上路面での性能を向上させるサイプ形状を有するトレッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これは、請求項1に定義されるタイヤトレッドによって達成される。
【0012】
本発明のさらなる目的は、請求項7に定義されるタイヤである。
【0013】
本発明のさらなる特徴は、対応する従属請求項に定義されている。
【0014】
本発明によるトレッドは、湿潤路面および/または雪上路面条件下で最適な性能を発揮すると同時に、乾燥路面で必要とされる剛性を向上させる。
【0015】
言い換えれば、本発明のトレッドは、タイヤの摩耗に起因する空隙容積の減少を補うだけでなく、同時に、乾燥路面および/または平滑路面での操縦性と制動能力を有利にし、新品タイヤ状態での性能を向上させる、最適化された形状のサイプを提供する。
【0016】
本発明の目的上、「トレッド要素」とは、トレッドの全長に沿って同一に繰り返され得るトレッドパターンの一部をいう。
【0017】
「トレッドコンポーネント」または単に「コンポーネント」とは、その形状および/または位置に関係なく、トレッドの任意のブロックをいう。
【0018】
「接地面」とは、タイヤの転動中に地面と接触するコンポーネント表面の部分をいう。
【0019】
「サイプ」とは、タイヤの成型によって得られる、トレッドコンポーネントにある細くて幅の狭い溝であって、特に、湿潤路面や雪上路面でのタイヤ性能を向上させるためのものをいう。
【0020】
その他の利点は、本発明の特徴および用途とともに、純粋に非限定的な例として与えられる好ましい実施形態に関する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0021】
添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明によるトレッドを備える本発明によるタイヤを示す図である。
【
図2】本発明によるトレッドコンポーネントのサイプの例示的な透視図である。
【
図4】
図4A、4Bおよび4Cは、それぞれ、静的状態、通常の負荷状態および滑り状態における、当該技術分野で公知の実施形態によるサイプを有するトレッドコンポーネントの挙動を模式的に示す図である。
【
図5】
図5A、5Bおよび5Cは、それぞれ、静的状態、通常の負荷状態および滑り状態における、本発明の実施形態によるサイプを有するトレッドコンポーネントの挙動を模式的に示す図である。
【
図6】
図3の断面図であり、サイプ形状の好ましい重要なパラメータを示す図である。
【
図7】
図7Aは、
図7Bの例示的な概略図に示されるように、
図2に示すサイプ形状を組み込んだトレッドコンポーネントに関する好ましい参考寸法をさらに参照して、
図6に示すパラメータの好ましい値を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記の図に示す厚みや曲率は、純粋に例示的なものであり、必ずしも比例して示されたものではないと理解すべきである。さらに、これらの図では、本発明の態様をより明確に説明するために、タイヤのいくつかの層/構成要素を省略している場合がある。
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。
【0025】
以下、説明を簡潔にするため、一般的なトレッドブロックを参照する。しかしながら、すでに述べたように、本発明の根底にある原理は、それがブロックであろうと他のものであろうと、どのようなトレッドコンポーネントにも適用可能であることを理解されたい。
【0026】
まず、
図1を参照すると、本発明の好ましい実施形態によるトレッド10を備えるタイヤ1の概略透視図が示されている。
【0027】
一般的に、タイヤ1のトレッド10は、複数のトレッドコンポーネント20を備える。特に、
図2は、本発明によるトレッド10のブロック20内に位置するサイプ100の例示的な透視図である。視覚的に分かりやすくするため、ブロック20の実線部分は図示していない。
【0028】
トレッド10の各ブロック20は、それぞれの接地面21を有し、トレッドとともに、地面と接触するトレッド自体の表面を画定している。
【0029】
さらに
図3を参照すると、本発明によれば、トレッド10のブロック20の少なくとも1つは、サイプ長さLおよびサイプ深さPを有するサイプ100を備え、後者は、接地面21に対して実質的に直交する摩耗方向Uに沿っている。当該摩耗方向Uは、すなわち、タイヤ1の中心に向かう半径方向である。
【0030】
非限定的な好ましい実施形態において、サイプ100の長手方向のサイプ長さLは、ブロック20の対向する端部間に設けられている。
【0031】
当該サイプ100の長手方向の長さLは、トレッド10の展開方向と必ずしも一致せず、同じトレッド10内のブロック20(または、他の構成要素)の相対的な位置関係に応じて異なる向きであってよいことを理解されたい。
【0032】
図2に見られるように、サイプ100は、コンポーネント20の互いに対向する第1の対向面101および第2の対向面102と、上記の摩耗方向Uに沿ったサイプ深さPと、を画定し、それぞれ参照符号AおよびCで示される第1のセクションおよび第2のセクションを備える。
【0033】
好ましくは、第1のセクションAは、第2のセクションCに対して上方、すなわちタイヤの半径方向外側に位置し、第1のセクションAは、タイヤ1の新品状態または段階的な摩耗状態において接地面21に最も近いセクションである。
【0034】
したがって、便宜上、上記第1のセクションAを上部セクションとし、上記第2のセクションCを下部セクションとして説明する。
【0035】
図示されていないが、好ましい実施形態において、サイプ100は、摩耗方向Uに沿って上記第1のセクションAの上方に位置する追加のセクションをその深さP内に備えていてもよい。
【0036】
好ましくは、サイプ深さPの下部セクションCは、タイヤ1のトレッド10の最大摩耗限界(スキッド深さ)で終端する。
【0037】
摩耗方向Uに沿って、サイプ100は、第1のセクションAと第2のセクションCとを互いに連結するさらなるセクション、すなわち、中間セクションBを備える。
【0038】
好ましくは、サイプ100は、その深さPに沿って、半径方向外側位置から半径方向内側位置まで順に、第1のセクションA、中間セクションB、および第2のセクションCを備える。
【0039】
図3に見られるように、サイプ100によって画定される第1の対向面101および第2の対向面102は、上部セクションAおよび下部セクションCに沿ってそれぞれ対応する相補的な形状101a、102a、および101c、102cを有する。さらに、第1の対抗面101および第2の対抗面102はそれぞれ、中間セクションBにおいて、摩耗方向Uに沿って、第1の干渉プロファイル101bおよび第2の干渉プロファイル102bを示している。
【0040】
有利なことに、本発明のトレッド10は、特定のサイプ形状100によって特徴付けられる少なくとも1つのコンポーネント20を有し、このサイプ形状は、摩耗方向Uに沿って選択された漸進的な深さに位置する3つの領域(3段構造)を定義している。
【0041】
一般論として、これらの段構造は、サイプ100の深さPを異なる割合でカバーすることができる。トレッド10のコンポーネント20の剛性および/または耐久性を調整するために、サイプ100の各セクションA、B、Cの形状によってもたらされる技術的効果がその追加のセクションとの関係において相乗的であり、かつ均衡が保たれるようにすることで、タイヤ1の性能を要求される用途に応じて最適化する。
【0042】
図7Bを参照すると、本発明の好ましい適用例において、トレッド10の少なくとも1つのコンポーネント20の全高Tは、5m~20mmである。一般論として、サイプ深さP、すなわち、第1のセクションAの延在長さと、中間セクションBの延在長さと、第2のセクションCの延在長さと、の合計は、好ましくは、上記高さTの40%~100%であり、さらに好ましくは、上記高さTの40%~80%である。
【0043】
さらに、
図7Aの表に示すように、第1のセクションAは、サイプ深さPの40%~60%、好ましくは40%~55%にわたって延在することができ、中間セクションBは、サイプ深さPの40%~60%、好ましくは40%~55%にわたって延在することができ、第2のセクションCは、サイプ深さPの最大25%、好ましくは5%~15%にわたって延在することができる。
【0044】
前述したように、中間セクションBは、第1の干渉プロファイル101bと第2の干渉プロファイル102bとを有する。
図3および
図5A~
図5Cを参照すると、当該干渉プロファイルの各々は、互いに向かい合い、ブロック20に作用する応力に応答して可逆的に相互接触するように構成された、少なくとも2つの接触面(11’a、11’’aおよび12’b、12’’bで示される)を備える。
【0045】
図示例では、第1および第2の干渉プロファイル101b、102bが、ブロック20内に変形領域Vすなわち空隙を画定するように、中間セクションBの最小深さPminと最大深さPmaxとの間に間隔を空けて配置されている様子が分かる。この変形領域Vは、好ましくは、摩耗方向Uに平行な軸線vに沿って展開される。
【0046】
上記の接触面11’a、11’’a、12’b、12’’bは、変形領域Vの内側に面している。
【0047】
特に、
図5A~
図5Cでは、静止状態、負荷状態、および滑り状態(後者は、トラクションまたは制動の瞬間におけるタイヤ1の転がり状態を表す)における、前述の好ましい実施形態によるサイプ100を有するトレッド10のブロック20の挙動をそれぞれ示している。
【0048】
以下に、この挙動を、異なる実施形態によるサイプSを有するトレッドコンポーネントの挙動を概略的に示す、対応する
図4A、4B、および4Cと比較する。
【0049】
図5Aに見られるように、静止状態(例えば、タイヤ1に応力が加わっておらず、タイヤ1の重量を無視した状態)では、タイヤは転動面R上に載っており、対向面101、102の干渉プロファイル101b、102bは、その間に間隔をあけて配置され、変形領域Vの第1の空隙体積V’を画定している。これらの条件下では、サイプ自体の形状を除いて、
図4Aに示したサイプSとの実質的な違いは認められない。
【0050】
図5Bの例に表されるように、通常、つまり半径方向に作用する力F
Zで表される荷重がタイヤ1、特にコンポーネント20に作用する(例えば、静止した車両に取り付けられたタイヤに代表される状態である)と、コンポーネント20は変形し、その結果、中間セクションBの干渉プロファイル101b、102bも変形する。
【0051】
特に、上記プロファイル101b、102bは、加えられた応力F
Zの向きに実質的に対応する向きに沿って変形する。この変形方向は、
図5Bにおいて、全体として参照符号F
Rで示される4つの矢印で表されている。
【0052】
したがって,変形領域Vは,タイヤ1が静止状態にあるときに想定される第1の体積V’よりも小さい第2の体積V’’が想定される。
【0053】
第1のプロファイル101bの一対の接触面11’a、11’’aは互いに接近し、同様に、第2のプロファイル102bの一対の接触面12’b、12’’bも互いに接近する。それぞれの対の接触面が接触し、干渉プロファイル101b、102bを部分的に相互にロックすることができる。
【0054】
前述のロックは、好ましくは、転動面Rに沿って、トレッド10のブロック20の接地面21に対して半径方向に沿って行われる。
【0055】
ブロック20の変形は可逆的であり、接触面11’a、11’’a、12’b、12’’b間に可逆的な接触をもたらす。この接触は、応力、特に半径方向の応力がない場合には生じない場合がある。
【0056】
対応する
図4Bを参照すると、干渉プロファイルおよび接触面を有しないサイプSでは、前述の接触は生じず、それに関連する有利な技術的効果も得られないことがわかる。
【0057】
本発明によれば、中間セクションBの干渉プロファイル101b、102bの特殊な形状により、トレッド10のコンポーネント20の挙動を「バネ」の挙動と関連付けることができる。換言すれば、本発明の概念によれば、有利なことに、サイプ100の特定の干渉プロファイル101b、102bの相互的かつ可逆的なロックを得ることができ、ブロック20に応力が作用すると接触することで、応力が作用したときのトレッド10の変形による剛性の低下を緩和することができる。
【0058】
有利なことに、第1の干渉プロファイル101bの接触面は、第2の干渉プロファイル102bの接触面と接触することができ、これによって干渉プロファイル101b、102b自体のロック状態が改善される。
【0059】
この状態は、例えば、タイヤ1が回転(または、回転初期)状態にある間に、半径方向の応力(F
Z)に加えて例えばF
Xで示される接線方向の応力も作用する際に生じる。この回転状態を
図5Cに模式的に示す。
【0060】
有利なことに、再び
図3に示す例を参照すると、それぞれの干渉プロファイル101b、102bの接触面11’a、11’’a、12’b、12’’bは、連続してその間で関連し合い、それによって対応する凹部C
1、C
2を形成することができる。各対の接触面によって形成される凹部は、変形領域Vの展開軸vに対する、それぞれの干渉プロファイル101b、102bの最大(相対)距離に配置される。
【0061】
同様に、各干渉プロファイルについて、接触面の第1の対の接触面11’’aは、接触面の第2の対に属して連続する別個の接触面110’’aとともに、上記の変形領域Vに面する鈍角ωを画定する。
【0062】
したがって、好ましくは、中間セクションBにおける対向面101、102は、凹部と「隆起部」とを画定する「ジグザグ状の」または「波状の」形状である、それぞれの干渉プロファイル101b、102bを備える。この形状は、対向する干渉プロファイル101b、102bの接触面の接近を促進し、ブロック20の実質的に接線方向の変形方向に沿って相互ロックに寄与する局所的なせん断力を発生させることができる。
【0063】
前述の局所的なせん断力は、
図5Cに4つの矢印で、全体として参照符号F
Tで表されている。
【0064】
従って、変形領域Vは、タイヤ1が静止状態にあるときに想定される第2の体積V’’より小さい第3の体積V’’’が想定される。
【0065】
この構成は、有利には、トレッド10の剛性およびドライ条件下での摩擦係数の点で、タイヤの性能のさらなる向上をもたらす。
【0066】
対応する
図4Cの例では、本発明で提案する特定の形状、したがって関連する有利な技術的効果を有しないがために、少なくともサイプSの深さの全長にわたって、サイプSの対向面同士が接触する可能性はなく、したがって当該対向面同士が相互にロックすることはない。
【0067】
再び
図3に戻ると、本発明の好ましい実施形態によれば、第1および第2の干渉プロファイル101b、102b間の相互距離は、中間セクションBの最小深さP
minにおいて、最大深さP
maxにおける相互距離よりも小さい。
【0068】
このようにして、トレッド10の空隙率を増加させ、湿潤路面および/または雪上路面でのタイヤ1の性能をさらに向上させることができる。
【0069】
有利なことに、サイプ100の特定の中間セクションBにおいて、可逆的に接触するように構成された接触面を有する、波状(または、「ジグザグ状」)に形成された干渉プロファイル101b、102bを呈する対向面101、102に、全体的な「間隔」を設ける形状の組み合せにより、
図4A~4Cおよび
図5A~5Cを参照して前述した挙動に従い、タイヤの耐用年数を通して湿潤路面および/または雪上路面で高い性能を維持することが可能になると同時に、新品状態のタイヤにも、乾燥路面および/または平滑路面で適切な剛性を提供することが可能となる。
【0070】
言い換えれば、本発明の有利な態様によれば、中間セクションBにおいて干渉プロファイル101b、102bに設けられた全体的な「間隔」により、サイプ100の深さPを徐々に消費する摩耗の進行に起因するトレッド10の空隙率の減少を補うことが可能になる。このようにして、路面との接地面積が減少するにつれて空隙率が増加するので、その結果、湿潤路面および/または雪上路面でのタイヤ1の不可避的な性能の低下を遅らせることができる。実際に、タイヤ1の摩耗は、通常、サイプ100が提供する空隙率の減少を伴い、摩耗方向Uに沿ってその深さPが徐々に消費される。この空隙率の減少は、中間セクションBにおける干渉プロファイル101b、102bの距離、特に、最小深さPminおよび最大深さPmaxにおける相互距離を考慮することによって緩和される。
【0071】
このことは、トレッド10のコンポーネント20の変形方向、好ましくは半径方向および接線方向に沿って相互にかつ可逆的にロックするように構成された干渉プロファイル101b、102bの存在と有利に組み合わされる。すなわち、この干渉プロファイルは、本発明の好ましい実施形態における、湿潤路面および/または雪上路面で前述の性能を得るために必要となる空隙率の減少を全体的に緩和する形状、に起因する、タイヤ1の(特に、新品時における)不可避的な剛性の低下を補償する。
【0072】
図7Bおよび
図7Aの表を参照しながら、次に
図6を参照するが、この
図6は、
図3の例を参照して、本発明の好ましい実施形態に従っていくつかの重要なパラメータが示された、サイププロファイル100の断面図を示している。
【0073】
図示例において、干渉プロファイル101b、102bの各々は、中間セクションBに沿って好ましくは3対の接触面を備える。第1の干渉プロファイル101bについては、それぞれ第1の対が参照符号11’a、11’’a、第2の対が参照符号110’a、110’’a、および第3の対が参照符号1100’a、1100’’aで示されており、同様に、第2の干渉プロファイル102bについては、それぞれ第1の対が参照符号12’a、12’’a、第2の対が参照符号120’a、120’’a、および第3の対が参照符号1200’a、1200’’aで示されている。
【0074】
以下では、説明を簡単にするために、第1のプロファイル101bにおける3つの対をそれぞれ参照符号1a、1b、1cで示し、第2のプロファイル102bにおける3つの対をそれぞれ参照符号2a、2b、2cで示す。
【0075】
この例では、干渉プロファイル101b、102bは、上記3対の接触面のそれぞれに対応する展開軸vからの最大(相対)距離が異なる。特に、第1の干渉プロファイル101bにおいて、第1の対1aの最大(相対)距離asは、第2の対1bに対応する最大(相対)距離bsよりも小さい。また、第1の干渉プロファイル101bにおいて、第3の対1cに対応する最大(相対)距離csは、第2の対1bに対応する最大(相対)距離bsよりも大きい。
【0076】
同様の考察が、好ましくは、参照符号ad、bd、cdで示される、第2の干渉プロファイル102bにおける接触面の相対的な対2a、2b、2cに対応する展開軸vからの最大(相対)距離にも適用される。
【0077】
同様に、干渉プロファイル101b、102bの両方について、展開軸vからのそれぞれの最小(相対)距離を特定することができる。具体的には、最小(相対)距離は、第1の対1a(または、2a)の接触面11’’a(または、12’’b)と、それに連続し、第2の対1b(または、2b)に関連する明確な接触面110’a(または、120’b)と、の間に定義されるそれぞれの鈍角ωにある。
【0078】
図6において、最小(相対)距離は、第1の干渉プロファイル101bについては参照符号d
s、e
sで示され、第2の干渉プロファイル102bについては参照符号d
d、e
dで示されている。
【0079】
図示の実施形態から分かるように、中間セクションBの展開軸vは、第1および第2の干渉プロファイル101b、102bに対して対称軸である。
【0080】
特には、上記の最大(相対)距離は、さらに好ましくは上記の最小(相対)距離もまた、摩耗方向Uに沿って長くなる。
【0081】
さらに、中間セクションB内で、サイプ深さPに平行な方向に沿って、接触面の各対1a、1b、1c、2a、2b、2cの半径方向の最大延在長さを特定することができる。
【0082】
展開軸vが対称軸である場合、正反対にある干渉プロファイルの鏡面対、すなわち対1a、2a、対1b、2b、対1c、2cでは、好ましくは、半径方向の延在長さが同じである。
図6では、対1a、2a、対1b、2b、対1c、2cについて、半径方向の延在長さをそれぞれ参照符号u、v、wで示している。
【0083】
それぞれの干渉プロファイルにおける接触面の対の半径方向の延在長さの合計は、中間セクションBの最小深さPminと最大深さPmaxとの間の長さに及ぶ。
【0084】
図7Aに示す表は、好ましい間隔を参照して、本発明によるサイプ形状100について前述のパラメータに想定し得る値を示している。
【0085】
ここで、上部セクションAを考えると、第1および第2の対向面101、102は、長手方向の延在方向、すなわちサイプ延在方向Lに直交する平面γにおいて、それぞれの第1のプロファイル101a、102aを特定する。
【0086】
好ましくは、第1のプロファイル101a、102aのそれぞれは、上記直交平面γにおいて、第1のセクションAに沿う少なくとも2つの異なる点で直線と交差するようなパターンを有する。
【0087】
図示例から分かるように、第1のプロファイル101a、102aのパターンは、好ましくは「ジグザグ」パターンであり、頂上(または、対応する谷)の広がりは異なっていてもよい。頂上(または、谷)は、上記第1のプロファイル101a、102aの連続部分によって画定され、各頂上(または、谷)は、好ましくは、その間に70°から135°の内角βを形成する2つの連続部分によって画定される。
【0088】
図6をさらに参照すると、摩耗方向Uに平行な方向に沿って、連続するセクションの2つの頂上(または、谷)間の距離を特定することが可能であり、参照符号y
1で示される。同様に、摩耗方向Uに直交する方向に沿って、連続するセクションの2つの頂上(または、谷)間の距離を特定することも可能であり、この距離は参照符号x
1で示される。
【0089】
さらに、
図6において、上記第1のプロファイル101a、102a間の相互距離は、参照符号t
1で示される。
【0090】
図7Aに示す表は、好ましい間隔を参照しながら、本発明によるサイプ形状100について前述のパラメータが想定し得る値を示している。
【0091】
サイプ100の第1のセクションAは、コンポーネント20に高い剛性を付与し、それによって、特に新品状態にあるタイヤ1の乾燥路面での性能を最適化する。
【0092】
図2および
図3を併せて参照すると、第1および第2の対向面101、102は、好ましくは、接地面21に平行な面αで、それぞれのプロファイルをさらに特定する。
【0093】
例えば、サイプ100の第1のセクションAを参照すると、第1および第2の対向面101、102は、サイプ100の長手方向の延在方向Lに沿って延在し、当該面α上に横たわる直線と少なくとも2つの異なる点で交差することができるようなパターンを有するプロファイルを特定している。
図1では、これらのプロファイルを101z、102zとして示している。
【0094】
このようにして、上記第1および第2の対向面101、102のプロファイルが「応力下で」相互貫入することによってコンポーネント20に高い剛性を維持することができる、三次元的な展開を有するサイプ形状100が得られる。つまり、新品のコンポーネントが、例えば、制動時にせん断応力を受けた場合、サイプが平面的な形状を有する場合に比べてブロック20の開口は困難になる。
【0095】
上記長手方向の延在方向Lに沿って、上記のプロファイル101z、102zは、第1のプロファイル101a、102aについて前述したものと同様のジグザグパターンを有することができる。この場合も同様に、図示の実施例から分かるように、頂上(または、谷)は、上記のプロファイル101z、102zの連続するセクションによって画定され、各頂上(または、谷)は、好ましくは、その間に135°~180°の内角φを形成する2つの連続するセクションによって画定される。
【0096】
第1のプロファイル101a、102aおよび長手方向の延在方向Lに沿ったさらなるプロファイル101z、102zの両方が、2つ以上の内角(それぞれ、βおよびφ)を形成するように、3つ以上の連続するセクションから構成されてもよい。実施形態では、プロファイル101z、102zは、第2の内角φ2に対して異なる範囲で、少なくとも第1の内角φ1を決定することができる。
【0097】
サイプ深さPの下部セクションCは、上部セクションAについて前述したのと同様の方法で、第2のプロファイル101c、102cを備える。この第2のプロファイルは、サイプの延在方向Lに対する前述の直交平面γ内に得られる。好ましくは、第2のプロファイル101c、102cは、実質的に矩形のパターンを有し、例えば、その間に平行なパターンを有する。
図6を参照すると、その相互距離は参照符号t
3で示され、当該相互距離の好ましい値は
図7Aの表に示されている。
【0098】
好ましい実施形態によれば、下部セクションCも、上部セクションAについて前述したように、サイプの延在方向Lに沿って延びている。
【0099】
第1の態様に関連して、前述したようなサイプ深さPの下部セクションCは、摩耗時に本発明のトレッド10の剛性を低く保ち、それによって、タイヤ寿命の終わりに差し掛かったときにも、湿潤路面および/または雪上路面でタイヤ1に良好なグリップを与える。
【0100】
トレッド10内に下部セクションCを設けることにより、本発明では、サイプ100の上部セクションAが完全に摩耗した場合にも、ブロック20の全体的な剛性について異なる値を得ることがさらに可能である。この調整は、前述したように、サイプ深さPに対する中間セクションBと下部セクションCとの相対的な延在割合を調節することによって得られる。
【0101】
製造工程の観点から、トレッド10からモールドを抜き取る工程で、新品時のタイヤ1の剛性を損なうことなくサイプ100の対向面101、102の分離を容易にするために、下部セクションCを十分に延長すると有利である。
【0102】
以上、本発明を、その好ましい実施形態を参照して説明した。本明細書に記載の好ましい例示的な実施形態において実施される技術的解決策の各々は、同じ発明核に属する他の実施形態を形成するために異なる方法で有利に組み合わせることができ、そのすべてが以下に記載する特許請求の範囲によって与えられる保護範囲内に含まれることが意図される。