(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】動力電池の充電の方法および電池管理システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20241119BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241119BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20241119BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20241119BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20241119BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241119BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20241119BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241119BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20241119BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20241119BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01M10/44 Q
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
H02J7/10 H
B60L3/00 S
B60L58/12
B60L58/16
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2023541352
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 CN2021133265
(87)【国際公開番号】W WO2023092413
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 19, CHINA BUILDING, 29 QUEEN’S ROAD CENTRAL, CENTRAL, CENTRAL AND WESTERN DISTRICT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲珊▼
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲廣▼玉
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ ▲微▼
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-162216(JP,A)
【文献】特開2018-082613(JP,A)
【文献】特開2013-171691(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112615075(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111082173(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/44
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/392
G01R 31/367
G01R 31/389
H02J 7/10
B60L 3/00
B60L 58/12
B60L 58/16
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力電池の充電の方法であって、前記動力電池の電池管理システムBMSに適用され、前記方法は、
前記動力電池の充電状態SOC、温度および健康状態SOHのうちの少なくとも1つを含む前記動力電池の電池状態パラメータに基づき、負極電位安全閾値を確定することと、
前記動力電池の充電過程中に、前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することと、を含
み、
前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することは、
前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下せず、かつ前記動力電池の充電時間が時間閾値よりも長い場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも大きい第3の充電要求電流に調整することを含む動力電池の充電の方法。
【請求項2】
前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することは、
前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下する場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第1の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1のSOC区間におけるSOCは、前記第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、前記第1の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さい請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第4の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1の温度区間における温度は、前記第2の温度区間における温度よりも小さく、前記第3の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第4の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第6の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1のSOH区間におけるSOHは、前記第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、前記第5の予め設定された負極電位安全閾値は、第6の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電前の電池状態パラメータである請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電過程中の電池状態パラメータである請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
動力電池の電池管理システムであって、
前記動力電池の充電状態SOC、温度および健康状態SOHのうちの少なくとも1つを含む前記動力電池の電池状態パラメータに基づき、負極電位安全閾値を確定するための確定ユニットと、
前記動力電池の充電過程中に、前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整するための調整ユニットと、を備
え、
前記調整ユニットは、具体的には、
前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下せず、かつ前記動力電池の充電時間が時間閾値よりも長い場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも大きい第3の充電要求電流に調整するために用いられる動力電池の電池管理システム。
【請求項9】
前記調整ユニットは、具体的には、
前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下する場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整するために用いられる請求項
8に記載の電池管理システム。
【請求項10】
前記動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第1の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1のSOC区間におけるSOCは、前記第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、前記第1の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さい請求項
8又は9に記載の電池管理システム。
【請求項11】
前記動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第4の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1の温度区間における温度は、前記第2の温度区間における温度よりも小さく、前記第3の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第4の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい請求項
8~10のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項12】
前記動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、
前記動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第6の予め設定された負極電位安全閾値であり、
ここで、前記第1のSOH区間におけるSOHは、前記第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、前記第5の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第6の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい請求項
8~10のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項13】
前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電前の電池状態パラメータである請求項
8~12のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項14】
前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電過程中の電池状態パラメータである請求項
8~12のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項15】
コンピュータプログラムを記憶するためのメモリと、前記コンピュータプログラムを呼び出し、請求項1~
7のいずれか1項に記載の動力電池の充電の方法を実行するためのプロセッサとを備える動力電池の電池管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、動力電池の分野に関し、特に動力電池の充電方法および電池管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
時代の発展に伴い、電気自動車は、高い環境保護性、低ノイズ、低使用コストなどの利点により、大きな市場の将来性を持ち、かつ省エネ・排出削減を効果的に促進でき、社会の発展や進歩に貢献している。
【0003】
現在、電気自動車の充電速度に対する消費者の要求は高まってきている。しかし、充電速度の向上に伴い、電気自動車の電池の安全性に影響を与える可能性がある。電気自動車およびその関連分野にとって、電池技術はその発展に係る重要な要素であり、特に電池の安全性は、電池関連製品の開発や応用に影響し、さらに電気自動車に対する一般消費者の受容度に影響を与える。そのため、電池の充電速度と電池の安全性を如何に両立するかは、取り組むべき課題となっている。
【発明の概要】
【0004】
本願の実施例は、動力電池の安全性を確保しつつ、動力電池の充電速度を効果的に向上させることができる、動力電池の充電方法および電池管理システムを提供する。
【0005】
第1の態様では、動力電池の充電方法であって、前記動力電池の電池管理システムBMSに適用され、前記方法は、前記動力電池の充電状態SOC、温度および健康状態SOHのうちの少なくとも1つを含む前記動力電池の電池状態パラメータに基づき、負極電位安全閾値を確定することと、前記動力電池の充電過程中に、前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することとを含む動力電池の充電方法を提供する。
【0006】
動力電池のリチウム析出リスクがそれ自体の電池状態パラメータと密接な関係があるため、上記技術案は、動力電池の電池状態パラメータに基づいて負極電位安全閾値を確定することにより、確定された負極電位安全閾値をより正確にし、該動力電池のリチウム析出の臨界電位に一層近づけることができる。このように、確定された負極電位安全閾値および動力電池の負極電位に基づいて動力電池の充電要求電流を調整することは、動力電池の安全性を確保できるだけでなく、動力電池の充電速度を向上させることもできる。
【0007】
いくつかの可能な実施形態では、前記の前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することは、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下する場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整することを含む。
【0008】
上記技術案において、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下したら、該動力電池にリチウム析出現象がもうすぐ起きる可能性があることを意味し、この場合、動力電池の充電要求電流を減少させると、リチウムイオン凝集などによる動力電池の安全上の問題、例えば電池燃焼や爆発などを回避することができ、動力電池の安全性を確保することができる。
【0009】
いくつかの可能な実施形態では、前記の前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整することは、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下せず、かつ前記動力電池の充電時間が時間閾値よりも長い場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも大きい第3の充電要求電流に調整することを含む。
【0010】
上記技術案において、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで長時間低下していなければ、現時点では動力電池の充電電流が低すぎることを意味する。この場合、動力電池の充電要求電流を増加させると、充電速度を高め、動力電池の充電時間を大幅に短縮し、さらにユーザーエクスペリエンスを向上させることができる。
【0011】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第1の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOC区間におけるSOCは、前記第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、前記第1の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さい。
【0012】
動力電池のSOCが大きいほど、動力電池のリチウム析出リスクは高くなる。一方、上記技術案では、リチウム析出リスクが高い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に大きく設定することで、動力電池のリチウム析出リスクを効果的に抑制し、動力電池の安全性を向上させることができる。他方、上記技術案では、リチウム析出リスクが低い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に小さく設定することで、動力電池の安全性を損なうことなく、動力電池の充電速度を確保することができる。
【0013】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第4の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1の温度区間における温度は、前記第2の温度区間における温度よりも小さく、前記第3の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第4の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0014】
動力電池の温度が低いほど、動力電池のリチウム析出リスクは高くなる。一方、上記技術案では、リチウム析出リスクが高い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に大きく設定することで、動力電池のリチウム析出リスクを効果的に抑制し、動力電池の安全性を向上させることができる。他方、上記技術案では、リチウム析出リスクが低い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に小さく設定することで、動力電池の安全性を損なうことなく、動力電池の充電速度を確保することができる。
【0015】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第6の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOH区間におけるSOHは、前記第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、前記第5の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第6の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0016】
動力電池のSOHが小さいほど、動力電池のリチウム析出リスクは高くなる。一方、上記技術案では、リチウム析出リスクが高い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に大きく設定することで、動力電池のリチウム析出リスクを効果的に抑制し、動力電池の安全性を向上させることができる。他方、上記技術案では、リチウム析出リスクが低い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に小さく設定することで、動力電池の安全性を損なうことなく、動力電池の充電速度を確保することができる。
【0017】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電前の電池状態パラメータである。
【0018】
上記技術案では、BMSは動力電池の充電前に動力電池の電池状態パラメータを確定し、すなわち、BMSは動力電池の充電前に負極電位安全閾値を確定することができる。このように、動力電池が充電を始めた瞬間から、BMSは負極電位安全閾値に基づいて動力電池の充電要求電流を調整することができ、これにより動力電池の充電過程全体においてBMSが充電要求電流を調整することが可能となり、動力電池の安全性をさらに確保するとともに、動力電池の充電速度をさらに向上させることができる。
【0019】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電過程中の電池状態パラメータである。
【0020】
上記技術案では、BMSは、充電過程中に動力電池の電池状態パラメータを確定する。動力電池の電池状態パラメータが充電過程中に常に変化する可能性があるため、確定された電池状態パラメータは、現時点での動力電池の実際の電池状態パラメータに最も近いパラメータである可能性があり、BMSが動力電池の最新の電池状態パラメータに基づいて確定する負極電位安全閾値をより正確にする。
【0021】
第2の態様では、動力電池の電池管理システムであって、前記動力電池の充電状態SOC、温度および健康状態SOHのうちの少なくとも1つを含む前記動力電池の電池状態パラメータに基づき、負電位安全閾値を確定するための確定ユニットと、前記動力電池の充電過程中に、前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整するための調整ユニットとを備える動力電池の電池管理システムを提供する。
【0022】
いくつかの可能な実施形態では、前記調整ユニットは、具体的には、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下する場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整するために用いられる。
【0023】
いくつかの可能な実施形態では、前記調整ユニットは、具体的には、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下せず、かつ前記動力電池の充電時間が時間閾値よりも長い場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも大きい第3の充電要求電流に調整するために用いられる。
【0024】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第1の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOC区間におけるSOCは、前記第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、前記第1の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さいことを特徴とする。
【0025】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第4の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1の温度区間における温度は、前記第2の温度区間における温度よりも小さく、前記第3の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第4の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0026】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第6の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOH区間におけるSOHは、前記第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、前記第5の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第6の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0027】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電前の電池状態パラメータである。
【0028】
いくつかの可能な実施形態では、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電過程中の電池状態パラメータである。
【0029】
第3の態様では、プログラムを記憶するためのメモリと、前記メモリに記憶されたプログラムを実行するためのプロセッサとを備え、前記メモリに記憶されたプログラムが実行される場合、前記プロセッサが上述した第1の態様または各実施形態に記載の方法を実行するために用いられる動力電池の電池管理システムBMSを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本願の実施例の技術案をより明確に説明するために、以下は本願の実施例で使用すべき図面を簡単に説明する。明らかに、下記図面は本願の一部の実施例を示したものに過ぎず、当業者であれば、創造的な努力をせずに、これらの図面に基づいて他の図面をさらに取得できる。
【0031】
【
図1】本願の一実施例が適用される充電システムの構造図である。
【
図2】本願の実施例に係る動力電池の充電方法の概略図である。
【
図3】本願の実施例に係る階層型1次RC等価回路モデルの概略図である。
【
図4】本願の実施例に係る動力電池の充電方法の概略フローチャートである。
【
図5】本願の実施例に係るBMSの概略ブロック図である。
【
図6】本願の実施例に係るBMSの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下は、図面および実施例を参照しながら本願の実施形態をさらに詳しく説明する。以下の実施例の詳細な説明および図面は、本願の原理を例示的に説明するために用いられるが、本願の範囲を限定するために用いられることはできず、つまり、本願は説明される実施例に限定されない。
【0033】
本願の説明において、特に明記しない限り、「複数の」は、2つ以上を意味し、「上」、「下」、「左」、「右」、「内」、「外」などの用語が指す方位または位置関係は、本願の説明を容易にして簡略化することのみを意図しており、示された装置または素子が特定の方位を有し、特定の方位で構成され、動作しなければならないことを表示または暗示するわけではないため、本願を限定するものとして理解してはならない。また、「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、目的を説明するものに過ぎず、相対的な重要性を示したり暗示したりするものとして理解してはならない。
【0034】
新エネルギー分野では、動力電池は電気装置(例えば、車両、船舶または宇宙船など)の主動力源として使用できる。現在、市販されている動力電池の多くは充電可能な蓄電池であり、最も一般的なのはリチウムイオン電池やリチウムイオンポリマー電池などのリチウム電池である。充電過程において、一般的に連続充電によって動力電池を充電するが、動力電池に対する連続充電は、動力電池のリチウム析出、発熱などの現象の発生を引き起こし、中でもリチウム析出、発熱などの現象は、動力電池の性能を低下させ、サイクル寿命を著しく短縮させるだけではなく、動力電池の急速充電能力を制限し、燃焼、爆発などの破滅的結果を招き、深刻な安全上の問題をもたらす恐れがある。
【0035】
動力電池の安全性を確保するために、動力電池の充電過程中の充電電流を低減することは極めて有効な方法である。しかし、現在、動力電池の充電速度に対する消費者の要求は高まってきている。動力電池の安全性を確保するために、動力電池の充電電流を一方的に低減すると、動力電池の充電速度が低下し、ユーザーエクスペリエンスに影響を与えることになる。
【0036】
これに鑑み、本願は、動力電池の充電速度と安全性を両立でき、すなわち、動力電池の安全性を確保しつつ、動力電池の充電速度を効果的に向上させることができる新しい動力電池の充電方法を提供する。
【0037】
図1は、本願の一実施例が適用される充電システムの構造図を示している。
【0038】
図1に示すように、該充電システム100は、充電装置110および電池システム120を含んでもよく、選択的に、該電池システム120は、電気自動車(純電気自動車とプラグインハイブリッド車を含む)における電池システムまたは他の適用シナリオにおける電池システムであってもよい。
【0039】
選択的に、電池システム120には、少なくとも1つの電池パック(battery pack)が設けられていてもよく、該少なくとも1つの電池パック全体は、動力電池121と総称できる。電池の種類からすれば、該動力電池121は、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム硫黄電池、鉛酸電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、またはリチウム空気電池など、任意の種類の電池であってよいが、これらに限定されない。電池の大きさからすれば、本願の実施例に係る動力電池121は、セル/電池セル(cell)であってもよく、複数の電池を直列・並列に接続してなる電池モジュールや電池パックであってもよく、本願の実施例では、動力電池121の具体的な種類および大きさはいずれも特に限定されるものではない。
【0040】
また、該動力電池121をインテリジェントに管理・維持し、動力電池121の過充電・過放電を防止して電池の寿命を延ばすために、電池システム120には、一般に、充放電管理、高電圧制御、電池保護、電池データの収集、電池状態の評価などの機能を実施するための電池管理システム(battery management system、BMS)122が設けられている。選択的に、該BMS122は、動力電池121と同じ機器または装置に統合して設けられてもよく、あるいは、該BMS122は、独立した機器または装置として動力電池121の外に設けられてもよい。
【0041】
充電装置110は、BMS122の充電要求に従って動力電池121を充電するための充電電力を出力することができる。例えば、充電装置110は、BMS122から送信された要求電圧および要求電流に従って電圧および電流を出力することができる。選択的に、本願の実施例に係る充電装置110は、充電器とも称される充電パイルであってもよい。ここでの充電パイルは、例えば、一般的な充電パイル、スーパー充電パイル、自動車からグリッドへの電力供給(vehicle to grid、V2G)モードをサポートする充電パイルなどであってもよい。
【0042】
図1に示すように、充電装置110は、電線130を介して動力電池121に接続され、かつ充電装置110とBMSとの間の情報交換を実現するための通信線140を介してBMS122に接続されてもよい。通信線140は、一例として、コントローラエリアネットワーク(control area network、CAN)通信バスまたはデイジーチェーン(daisy chain)通信バスを含むが、これらに限定されない。
【0043】
充電装置110は、通信線140を介してBMS122と通信する以外に、無線ネットワークを介してBMS122と通信してもよい。本願の実施例では、充電装置110とBMS122との間の有線通信の種類または無線通信の種類のいずれに対しても特に限定しない。
【0044】
図2は、本願の実施例に係る動力電池の充電方法200の概略図を示している。方法200は、BMSによって実行されてもよく、BMSは、例えば
図1のBMS122であってもよい。方法200は、以下の少なくとも一部の内容を含んでいてもよい。
【0045】
ステップS210において、動力電池の電池状態パラメータに基づき、負極電位安全閾値を確定する。
【0046】
ステップS220において、動力電池の充電過程中に、動力電池の負極電位(またはアノード電位と呼ばれる)および負極電位安全閾値に基づき、動力電池の充電要求電流を調整する。
【0047】
ここで、動力電池の電池状態パラメータは、動力電池の充電状態(state of charge、SOC)、温度および健康状態(state of health、SOH)を含んでもよいが、これらに限定されない。SOCは、動力電池の残量を示すために使用することができ、総利用可能容量に対する動力電池の現在の残量の比率として数値的に定義され、パーセントで表現されることが一般的である。具体的には、SOC=100%の場合は動力電池が満充電であることを意味し、逆にSOC=0%の場合は動力電池が完全放電であることを意味する。SOHは、動力電池の劣化状態を示すために使用することができ、動力電池の残存寿命と理解することもできる。長期間使用した動力電池は、性能が低下し続けるため、残存寿命が短くなり、つまりSOHの数値が低くなる。SOHが小さいほど、動力電池のリチウム析出リスクが高くなる。
【0048】
選択的に、方法200は、BMSが動力電池の電池状態パラメータを取得することをさらに含んでもよい。
【0049】
動力電池の電池状態パラメータは、動力電池の充電前の動力電池の電池状態パラメータであってもよい。すなわち、動力電池が充電される前に、BMSは、動力電池の電池状態パラメータを取得し、該電池状態パラメータに基づいて負極電位安全閾値を確定する。その後、充電全過程でBMSは二度と動力電池の電池状態を取得せず、負極電位安全閾値も変化しなくなる。
【0050】
このように、動力電池が充電を始めた瞬間から、BMSは負極電位安全閾値に基づいて動力電池の充電要求電流を調整することができ、これにより動力電池の充電過程全体においてBMSが充電要求電流を調整することが可能となり、動力電池の安全性をさらに確保するとともに、動力電池の充電速度をさらに向上させることができる。
【0051】
あるいは、動力電池の電池状態パラメータは、動力電池の充電過程中の電池状態パラメータであってもよい。すなわち、BMSは、動力電池の充電過程中に動力電池の電池状態パラメータをリアルタイムで取得することができる。
【0052】
ここで、BMSは、動力電池の充電過程中に動力電池の電池状態パラメータを定期的に取得してもよい。例えば、BMSは、動力電池の充電過程中に、5秒ごとに動力電池の電池状態パラメータを取得することができる。
【0053】
あるいは、BMSは、動力電池の充電過程中に動力電池の電池状態パラメータが変化するたびに、動力電池の電池状態パラメータを取得してもよい。
【0054】
動力電池の電池状態パラメータは、充電プロセス中に常に変化する可能性があるため、上記技術案では、BMSが充電過程中に動力電池の電池状態パラメータを確定する。このように、確定された電池状態パラメータは、現時点での動力電池の実際の電池状態パラメータに最も近いパラメータである可能性があり、BMSが動力電池の最新の電池状態パラメータに基づいて確定する負極電位安全閾値をより正確にし、電池の安全性をさらに確保するとともに、電池の充電速度を効果的に向上させることができる。
【0055】
通常、動力電池の充電過程中に、動力電池の負極電位は徐々に低下し、動力電池の負極電位がある電位まで低下すると、リチウムが析出する現象は発生してしまう。例えば黒鉛負極系リチウムイオン電池の場合、リチウムイオン電池は充電過程中に電極分極、すなわち、負極電位が下がり正極電位が上がることが起きる。負極電位が0V(vs Li/Li+)まで低下すると、負極表面にリチウム金属が析出し、電池の性能が損なわれ、深刻な場合は熱暴走などの安全事故につながる恐れもある。
【0056】
これらの問題を考慮すると、本願の実施例では、動力電池のリチウム析出リスクが高いほど、負極電位安全閾値は大きくなる。
【0057】
一例として、動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、負極電位安全閾値は、第1の予め設定された負極電位安全閾値であり、動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、負極電位安全閾値は、第2の予め設定された負極電位安全閾値である。ここで、第1のSOC区間におけるSOCは第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、第1の予め設定された負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さい。
【0058】
別の例として、動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、負極電位安全閾値は第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、負極電位安全閾値は第4の予め設定された負極電位安全閾値である。ここで、第1の温度区間における温度は第2の温度区間における温度よりも小さく、第3の予め設定された負極電位安全閾値は第4の予め設定された負極電位安全閾値より大きい。
【0059】
さらなる例として、動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、負極電位安全閾値は、第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、負極電位安全閾値は、第6の予め設定された負極電位安全閾値である。ここで、第1のSOH区間におけるSOHは、第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、第5の予め設定された負極電位安全閾値は、第6の予め設定された負極電位安全閾値より大きい。
【0060】
表1~表4は、負極電位安全閾値のいくつかの例を示している。ここで、負極電位安全閾値の単位はミリボルト(mv)である。表1の動力電池のSOHは95%~100%、表2の動力電池のSOHは90%~95%、表3の動力電池のSOHは85%~90%、表4の動力電池のSOHは85%未満である。
【表1】
【0061】
表1~表4から、他の要因が一定の場合、動力電池のSOCが大きいほど、負極電位安全閾値が大きくなることが分かる。例えば、動力電池の温度が[-10℃,0℃)の範囲にあり、かつSOHが95%~100%の場合、動力電池のSOCが[0%,40%)の範囲にある時の負極電位安全閾値は10mvであり、動力電池のSOCが[40%,80%)の範囲にある時の負極電位安全閾値は15mvである。
【0062】
また、表1~表4から、他の要因が一定の場合、動力電池の温度が低いほど、負極電位安全閾値が大きくなることが分かる。例えば、動力電池のSOCが[80%,100%]の範囲にあり、かつSOHが85%~95%の場合、動力電池の温度が[-10℃,0℃)の範囲にある時の負極電位安全閾値は35mvであり、動力電池の温度が[0℃,10℃)の範囲にある時の負極電位安全閾値は30mvである。
【0063】
また、表1~表4から、他の要因が一定の場合、動力電池のSOHが小さいほど、負極電位安全閾値が大きくなることがわかる。例えば、動力電池のSOCが[0%,40%)の範囲にあり、かつ温度が[-10℃,0℃)の範囲にある場合、動力電池のSOHが85%~90%である時の負極電位安全閾値は18mvであり、動力電池のSOHが90%~95%である時の負極電位安全閾値は15mvである。
【0064】
理解できるように、本明細書の具体例は、当業者が本願の実施例をよりよく理解するためだけを目的としており、本願の実施例の範囲を限定することを意図していない。
【0065】
上記技術案では、動力電池のリチウム析出リスクに基づいて負極電位安全閾値を設定する。一方、リチウム析出リスクの高い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に大きく設定することで、動力電池のリチウム析出リスクを効果的に抑制し、動力電池の安全性を向上させることができる。他方、リチウム析出リスクの低い動力電池に対応する負極電位安全閾値を比較的に小さく設定することで、動力電池の安全性に影響を与えることなく、動力電池の充電速度を確保することができる。
【0066】
選択的に、負極電位安全閾値を確定する前に、方法200はさらに、BMSが第1の充電要求電流を確定し、第1の充電要求電流を充電パイルに送信することを含んでもよい。具体的には、BMSは、動力電池の温度、SOC、SOHおよび電圧などのパラメータに基づいて第1の充電要求電流を確定することができる。
【0067】
充電パイルが第1の充電要求電流を受信した後、充電パイルは、第1の充電要求電流に基づいて動力電池を充電してもよい。
【0068】
選択的に、第1の充電要求電流は、電池充電要求BCLメッセージに含有され得るが、これに限定されない。
【0069】
負極電位安全閾値を確定した後、BMSは、動力電池の充電過程中に、動力電池の負極電位および負極電位安全閾値に基づき、動力電池の充電要求電流を調整してもよい。
【0070】
具体的には、充電過程中に、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下したら、BMSは、動力電池の充電要求電流を減少させ、すなわち、充電要求電流を第1の充電要求電流から、第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整してもよい。
【0071】
第1の充電要求電流を第2の充電要求電流に調整した後、BMSは、充電パイルが第2の充電要求電流に基づいて動力電池を充電するように、第2の充電要求電流を充電パイルに送信してもよい。
【0072】
上記技術案において、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下したら、動力電池にリチウム析出がもうすぐ起きる可能性があることを意味し、この場合、動力電池の充電要求電流を低減させると、リチウムイオン凝集などによる動力電池の安全上の問題、例えば電池燃焼や爆発などを回避することができ、動力電池の安全性を確保することができる。
【0073】
あるいは、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下せず、かつ動力電池の充電時間が時間閾値よりも長かったら、現時点の充電要求電流が小さいことを意味し、この場合、BMSは、動力電池の充電要求電流を増加させ、すなわち、第1の充電要求電流から、第1の充電要求よりも大きい第3の充電要求電流に調整してもよい。
【0074】
選択的に、BMSが第1の充電要求電流を充電パイルに送信すると、BMSは、時間閾値の時間長を有するタイマーを開始してもよい。タイマーがタイムアウトしたら、動力電池の充電時間が時間閾値よりも長かったことを意味する。
【0075】
選択的に、時間閾値は、30sであってもよいが、これに限定されない。
【0076】
第1の充電要求電流を第3の充電要求電流に調整した後、BMSは、充電パイルが第3の充電要求電流に基づいて動力電池を充電するように、第3の充電要求電流を充電パイルに送信してもよい。
【0077】
上記技術案において、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで長時間低下していなければ、現時点での動力電池の充電電流が低すぎることを意味する。この場合、動力電池の充電要求電流を増加させると、充電速度を高め、動力電池の充電時間を大幅に短縮し、さらにユーザーエクスペリエンスを向上させることができる。
【0078】
理解できるように、本願の実施例において、「第1」、「第2」、「第3」などは、異なる対象を区別するために使用されているが、本願の実施例の範囲を限定するものではない。
【0079】
本願の実施例は、BMSが動力電池の負極電位を取得する実現方式に対して特に限定しない。例えば、BMSは、負極電位推定モデルを用いて動力電池の負極電位を推定してもよく、または、BMSは、参照電極を有する3極セルを用いて動力電池の負極電位を実測してもよい。
【0080】
一実施例では、2極セルの場合、BMSは、負極電位推定モデルを用いて電池の正極と負極を分離することによって、負極電位を得ることができる。ここで、負極電位推定モデルは、例えば、等価回路モデル、電気化学モデル、および等価回路・電気化学カップリングモデルなどであってもよい。
【0081】
別の実施例では、BMSは、参照電極を有する3極セルの負極電位および参照電極の電位を収集することによって、動力電池の負極電位を得ることもできる。ここで、3極セルとは、従来の2極セルの正極および負極に加えて、例えばリチウム金属参照電極、リチウム合金参照電極または銅線インサイチュリチウムめっき参照電極などの参照電極を一つ新たに追加したものを指す。
【0082】
具体的には、まず、3極セルの階層型等価モデルを構築してもよい。負極電位を正確に推定するために、該階層型等価モデルは、該3極セルの外部特性および内部特性を反映するための正極パラメータおよび負極パラメータを含んでもよい。ここで、階層型等価モデルは、Rintモデル、階層型1次RC等価回路モデル、階層型2次RC等価回路モデルなどを含むことができる。
【0083】
図3は、本願の一実施例に係る階層型1次RC等価回路モデルの概略図を示している。
図3に示すように、Utはフル電池の端子電圧であり、UcaとUanはそれぞれ参照電極に対する正極の電位と参照電極に対する負極の電位である。OCVcaとOCVanはそれぞれ正極の開回路電圧と負極の開回路電圧を表し、Rca_0とRan_0はそれぞれ正極のオーミック内部抵抗と負極のオーミック内部抵抗を表し、Uca_pとUan_pはそれぞれ正極の分極電圧と負極の分極電圧を表し、Rca_pとRan_pはそれぞれ正極の分極内部抵抗と負極の分極内部抵抗を表し、Cca_pとCan_pはそれぞれ正極の分極容量と負極の分極容量を表し、Iは電流を表す。Uca_p’とUan_p’はそれぞれUca_pとUan_pの導関数を表す。
【0084】
まず、実測によって正極の開回路電圧OCVcaと負極の開回路電圧OCVanを取得し、次に、式(1)~(5)に、最適化アルゴリズム、例えば、最小二乗法、遺伝的アルゴリズムなどの校正モデルパラメータRca_0、Ran_0、Rca_p、Ran_p、Cca_p、及びCan_pをさらに組み合わせ、最後に拡張カルマンフィルタアルゴリズム、比例-積分-微分(Proportion Integral Differental、PID)アルゴリズムまたはルーエンバーガー観測器などを用いて、負極電位を推定する。
Ut=Uca-Uan (1)
Uca=OCVca+I*Rca_0+Uca_p (2)
Uan=OCVan+I*Ran_0+Uan_p (3)
Uca_p’=I/Cca_p-Uca_p/(Rca_p*Cca_p) (4)
Uan_p’=I/Can_p-Uan_p/(Ran_p*Can_p) (5)
【0085】
以下、拡張カルマンフィルタアルゴリズムを用いて負極電位を推定する実施例を簡単に説明する。拡張カルマンフィルタアルゴリズムは、主に状態方程式(6)と観測方程式(7)からなり、再帰方程式(8)~(12)とさらに組み合わせて時間と状態の反復更新に対して状態推定を実現する。
【数1】
【0086】
ここで、Xは推定すべき状態量、Uは制御可能な入力量、Yは出力量、QとRはそれぞれシステム誤差と測定誤差、Pは推定誤差の共分散行列、下付き文字kは時刻kの変数、下付き文字k-1は時刻k-1の変数、下付き文字k+1は時刻k+1の変数、上付き文字
【数2】
は推定値、上付き文字Tは行列に対して転置演算を行うことを表す。Pは推定誤差の共分散行列で、例えばP
k
-は時刻kの事前推定共分散行列、P
kは時刻kの事後推定共分散行列を表す。A、B、CおよびDは係数行であり、K
kはカルマンゲインである。
【0087】
X、A、B、C、QおよびRの値を前記の方程式に代入する。
【数3】
【0088】
すると、負極電位推定方程式から負極電位を求めることができる。
【数4】
【0089】
一部の実施例では、BMSは、予測制御アルゴリズムによって調整後の電流(例えば、第2の充電要求電流または第3の充電要求電流)を確定してもよい。例えば、BMSは、比例-積分-微分(Proportion Integral Differential、PID)制御アルゴリズムによって調整後の電流を確定することができる。
【0090】
BMSが第1の充電要求電流を第2の充電要求電流に調整することを例として説明する。具体的には、BMSは、以下の式によって調整後の電流を得ることができる。
【数5】
【0091】
ここで、I0k+1は時刻k+1の充電要求電流、つまり第2の充電要求電流であり、I0kは時刻kの充電要求電流、つまり第1の充電要求電流であり、ΔUankは時刻kの負極電位安全閾値であるが、時刻kの動力電池の負極電位であってもよく、ΔUank-1は時刻k-1の負極電位安全閾値または時刻k-1の動力電池の負極電位である。kp、ki、kdはそれぞれPID制御アルゴリズムの比例パラメータ、積分パラメータおよび微分パラメータである。例示的に、kpは20、kiは5、kdは70であってもよい。
【0092】
本願の実施例に係る動力電池の充電方法200をより明確に理解するために、以下は、
図4を参照しながら本願の可能な実施例に係る動力電池の充電方法を説明する。
【0093】
ステップ401において、BMSは、動力電池が充電状態であるか否かを判断する。
【0094】
動力電池が充電状態であれば、ステップ402を実行し、動力電池が充電状態でなければ、ステップ409を実行する。
【0095】
ステップ402において、BMSは、動力電池の充電要求電流I0を確定する。
【0096】
具体的には、BMSは、まず、動力電池のSOC、SOH、温度および電圧などのパラメータを取得し、動力電池のSOC、SOH、温度および電圧に基づいてI0を確定することができる。
【0097】
ステップ403において、BMSは、充電を要求するための充電要求電流I0を充電パイルに送信し、計時を開始する。
【0098】
ステップ404において、BMSは、動力電池の負極電位を取得する。
【0099】
ステップ405において、BMSは、動力電池の負極電位と負極電位安全閾値を比較し、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下したか否かを判断する。
【0100】
動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下した場合、ステップ406を実行し、動力電池の負極電位が負極電位安全閾値まで低下していない場合、ステップ407を実行する。
【0101】
ステップ406において、BMSは、充電要求電流I0を充電要求電流I1に調整し、調整後の充電要求電流I1を充電パイルに送信することによって、充電パイルがI1に基づいて動力電池を充電するようにする。
【0102】
ステップ407において、BMSは、動力電池の充電時間が時間閾値より長いか否かを判断する。
【0103】
充電期間が時間閾値よりも長い場合、BMSはステップ408を実行し、充電期間が時間閾値未満である場合、BMSはステップ404を実行する。
【0104】
ステップ408において、BMSは、充電要求電流I0を充電要求電流I2に調整し、調整後の充電要求電流I2を充電パイルに送信することによって、充電パイルがI2に基づいて動力電池を充電するようにする。
【0105】
ステップ409において、BMSは、動力電池が満充電状態またはコネクタが外された状態であるか否かを判断する。
【0106】
動力電池が満充電状態またはコネクタが外された状態であれば、今回の充電過程は終了し、動力電池が満充電状態またはコネクタが外された状態でなければ、BMSはステップ404を引き続き実行する。
【0107】
本願の実施例では、動力電池のリチウム析出リスクがそれ自体の電池状態パラメータと密接な関係があるため、上記技術案は、動力電池の電池状態パラメータに基づいて負極電位安全閾値を確定することにより、確定された負極電位安全閾値をより正確にし、該動力電池のリチウム析出の臨界電位に一層近づけることができる。このように、確定された負極電位安全閾値および動力電池の負極電位に基づいて動力電池の充電要求電流を調整することは、動力電池の安全性を確保できるだけでなく、動力電池の充電速度を向上させることもできる。
【0108】
上述のように、本願の実施例に係る方法実施例を詳細に説明したが、以下は本願の実施例に係る装置実施例を説明する。装置実施例は方法実施例に対応するので、詳しく説明していない部分は、上述した各方法実施例を参照してもよく、装置は上述した方法の任意の可能な実施形態を実現することができる。
【0109】
図5は、本願の一実施例に係るBMS500の概略ブロック図を示している。該BMS500は、上述した本願の実施例に係る動力電池の充電方法200を実行することができる。
図5に示すように、該BMS500は、
【0110】
前記動力電池の充電状態SOC、温度および健康状態SOHのうちの少なくとも1つを含む前記動力電池の電池状態パラメータに基づき、負極電位安全閾値を確定するための確定ユニット510と、
【0111】
前記動力電池の充電過程中に、前記動力電池の負極電位および前記負極電位安全閾値に基づき、前記動力電池の充電要求電流を調整するための調整ユニット520と、を備えてもよい。
【0112】
選択的に、本願の一実施例において、前記調整ユニット520は、具体的には、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下する場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも小さい第2の充電要求電流に調整するために用いられる。
【0113】
選択的に、本願の一実施例において、前記調整ユニット520は、具体的には、前記負極電位が前記負極電位安全閾値まで低下せず、かつ前記動力電池の充電時間が時間閾値よりも長い場合、前記充電要求電流を、第1の充電要求電流から、前記第1の充電要求電流よりも大きい第3の充電要求電流に調整するために用いられる。
【0114】
選択的に、本願の一実施例において、前記動力電池のSOCが第1のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第1の予め設定された負極電位安全閾値である。
【0115】
前記動力電池のSOCが第2のSOC区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第2の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOC区間におけるSOCは、前記第2のSOC区間におけるSOCよりも小さく、前記第1の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第2の予め設定された負極電位安全閾値よりも小さい。
【0116】
選択的に、本願の一実施例において、前記動力電池の温度が第1の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第3の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池の温度が第2の温度区間にある場合、前記負極電位安全閾値は、第4の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1の温度区間における温度は、前記第2の温度区間における温度よりも小さく、前記第3の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第4の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0117】
選択的に、本願の一実施例において、前記動力電池のSOHが第1のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第5の予め設定された負極電位安全閾値であり、前記動力電池のSOHが第2のSOH区間にある場合、前記負極電位安全閾値は第6の予め設定された負極電位安全閾値であり、ここで、前記第1のSOH区間におけるSOHは、前記第2のSOH区間におけるSOHよりも小さく、前記第5の予め設定された負極電位安全閾値は、前記第6の予め設定された負極電位安全閾値よりも大きい。
【0118】
選択的に、本願の一実施例において、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電前の電池状態パラメータである。
【0119】
選択的に、本願の一実施例において、前記動力電池の電池状態パラメータは、前記動力電池の充電過程中の電池状態パラメータである。
【0120】
理解できるように、該BMS500は、方法200におけるBMSの対応する操作を実現することができるが、簡潔化するためにここでは省略する。対応的に、該BMS500は、上述した方法200と同じ技術的効果を達成することができるが、内容を簡潔化するためにここでは省略する。
【0121】
図6は、本願の実施例に係るBMSのハードウェア構造の概略図である。BMS600は、メモリ601、プロセッサ602、通信インターフェース603、およびバス604を含む。ここで、メモリ601、プロセッサ602、通信インターフェース603は、バス604を介して互いに通信可能に接続されている。
【0122】
メモリ601は、リードオンリーメモリ(read-only memory、ROM)、静的記憶装置、およびランダムアクセスメモリ(random access memory、RAM)であってもよい。メモリ601は、プログラムを記憶でき、メモリ601に記憶されたプログラムがプロセッサ602によって実行される場合、プロセッサ602および通信インターフェース603は、本願の実施例に係る動力電池の充電方法の各ステップを実行するために用いられる。
【0123】
プロセッサ602は、関連プログラムを実行するように汎用の中央処理装置(central processing unit、CPU)、マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(application specific integrated circuit、ASIC)、画像処理装置(graphics processing unit、GPU)または1つ以上の集積回路を採用することによって、本願の実施例に係る装置におけるユニットが実行すべき機能を実現し、または本願の実施例に係る動力電池の充電方法を実行してもよい。
【0124】
また、プロセッサ602は、信号に対する処理能力を有する集積回路チップであってもよい。実現過程において、本願の実施例に係る動力電池の充電方法の各ステップは、プロセッサ602におけるハードウェアの集積論理回路またはソフトウェアの形態の命令によって達成されてもよい。
【0125】
上記プロセッサ602は汎用プロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(digital signal processor、DSP)、ASIC、フィールドプログラマブルゲートアレイ(field programmable gate array、FPGA)または他のプログラマブルロジックデバイス、ディスクリートゲートまたはトランジスタロジックデバイス、ディスクリートハードウェアコンポーネントであってもよい。本願の実施例に記載の各方法、ステップおよび論理ブロック図を実現または実行することができる。汎用プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよく、該プロセッサは任意の従来のプロセッサなどであってもよい。本願の実施例に開示される方法を参照したステップは、ハードウェアプロセッサによって実行されるように直接具体化されてもよいし、プロセッサ内のハードウェアモジュールとソフトウェアモジュールの組み合わせで実行されてもよい。ソフトウェアモジュールは、ランダムメモリ、フラッシュメモリ、リードオンリーメモリ、プログラマブルリードオンリーメモリまたは電気的に消去可能なプログラマブルメモリ、レジスタなどの当分野で周知の記憶媒体に配置されてもよい。該記憶媒体はメモリ601に配置され、プロセッサ602はメモリ601の情報を読み出し、そのハードウェアと組み合わせて、本願の実施例に係るBMSに含まれるユニットが実行すべき機能を実行し、または本願の実施例に係る動力電池の充電方法を実行する。
【0126】
通信インターフェース603は、例えば、トランシーバのような送受信装置を用いて、BMS600と他の装置または通信ネットワークとの間の通信を可能にするが、これらに限定されない。例えば、BMS600は、通信インターフェース603を介して充電パイルに充電要求情報を送信することができる。
【0127】
バス604は、装置600における各部品(例えば、メモリ601、プロセッサ602、通信インターフェース603)間で情報を伝送するための経路を含んでもよい。
【0128】
なお、上述したBMS600は、メモリ、プロセッサ、通信インターフェースのみを例示しているが、具体的な実現過程において、当業者が理解できるように、BMS600は、正常動作を実現するために必要な他のデバイスをさらに含んでもよい。また、特定のニーズに応じて、当業者が理解できるように、BMS600は、他の追加機能を実現するためのハードウェアデバイスをさらに含んでもよい。さらに、当業者が理解できるように、BMS600は、
図6に示されたデバイスのすべてを含む必要がなく、本願の実施例を実施するための必要なデバイスのみを含んでもよい。
【0129】
本願の実施例は、機器による実行のためのプログラムコードを記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体をさらに提供し、前記プログラムコードは、前記動力電池の充電方法におけるステップを実行するための命令を含む。
【0130】
本願の実施例は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されたコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品をさらに提供し、前記コンピュータプログラムは、プログラム命令がコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに前記動力電池の充電方法を実行させるプログラム命令を含む。
【0131】
前記コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、一過性コンピュータ読み取り可能な記憶媒体であっても、非一過性コンピュータ読み取り可能な記憶媒体であってもよい。
【0132】
本願の様々な実施例において、各プロセスの番号の大小は、実行順序の前後を意味するものではなく、各プロセスの実行順序は、その機能および固有の論理によって決定されるべきであり、本願の実施例の実施プロセスに対する如何なる制限も構成すべきではないことを理解されたい。
【0133】
また、本明細書に記載された様々な実施形態は、単独で実施されてもよく、組み合わせて実施されてもよく、本願の実施例はこれを限定しないことを理解されたい。
【0134】
好ましい実施例を参照しながら本願を説明したが、本願の範囲から逸脱することなく、様々な改良を行うことができ、かつその構成要素を均等物と置き換えることができる。特に、各実施例で言及された各技術的特徴は、構造的な矛盾がない限り、任意の方法で組み合わせることができる。本願は、本文中に開示された特定の実施例に限定されるものではなく、請求項の範囲内の全ての技術案を含む。
【符号の説明】
【0135】
100 充電システム
110 充電装置
120 電池システム
121 動力電池
122 BMS
130 電線
140 通信線
510 確定ユニット
520 調整ユニット
600 装置
601 メモリ
602 プロセッサ
603 通信インターフェース
604 バス