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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 45/00 20200101AFI20241119BHJP
   B62J 45/41 20200101ALI20241119BHJP
   B62J 6/22 20200101ALI20241119BHJP
   B62H 1/02 20060101ALI20241119BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B62J45/00
B62J45/41
B62J6/22
B62H1/02 B
F02D29/02 321A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023550917
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036161
(87)【国際公開番号】W WO2023053351
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古谷 昌志
(72)【発明者】
【氏名】塚田 善昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 潤
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】安達 惇
(72)【発明者】
【氏名】福吉 康弘
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156347(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164677(WO,A1)
【文献】特開2012-215165(JP,A)
【文献】特開2012-31851(JP,A)
【文献】特開2013-72413(JP,A)
【文献】特開2005-42649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 45/00
B62J 45/41
B62J 6/22
B62H 1/02
F02D 29/02
B62J 6/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(40)と、
クラッチ(43)を介して前記エンジン(40)と連結され、前記エンジン(40)の回転を変速して出力するマニュアル式変速機(42)と、
起立位置と収納位置との間で揺動可能に設けられ、前記起立位置において車体を車幅方向に傾けた状態で支持するサイドスタンド(63)と、
前記サイドスタンド(63)の位置を検知する位置検知手段(116)と、
前記エンジン(40)の自動停止と、自動停止後の再始動とを制御する制御手段(100)と、
ヘッドライト(36)と、
ポジションランプ(37)と、
を備えた鞍乗型車両(10)であって、
前記制御手段(100)は、
ライダの始動操作を待機し、前記始動操作に基づいて前記エンジン(40)を始動する通常始動制御と、
前記自動停止による前記エンジン(40)の停止中に再始動条件の成立を待機し、前記再始動条件の成立に基づいて前記エンジン(40)を再始動する再始動制御と、を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態での前記再始動制御において、前記再始動条件の成立の待機中に、前記位置検知手段(116)により前記サイドスタンド(63)が前記起立位置にあることが検知された場合、前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行する場合、前記ヘッドライト(36)を点灯している場合は、前記ヘッドライト(36)を消灯し、前記ポジションランプ(37)を点灯する、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項2】
エンジン(40)と、
クラッチ(43)を介して前記エンジン(40)と連結され、前記エンジン(40)の回転を変速して出力するマニュアル式変速機(42)と、
起立位置と収納位置との間で揺動可能に設けられ、前記起立位置において車体を車幅方向に傾けた状態で支持するサイドスタンド(63)と、
前記サイドスタンド(63)の位置を検知する位置検知手段(116)と、
前記エンジン(40)の自動停止と、自動停止後の再始動とを制御する制御手段(100)と、
を備えた鞍乗型車両(10)であって、
前記制御手段(100)は、
ライダの始動操作を待機し、前記始動操作に基づいて前記エンジン(40)を始動する通常始動制御と、
前記自動停止による前記エンジン(40)の停止中に再始動条件の成立を待機し、前記再始動条件の成立に基づいて前記エンジン(40)を再始動する再始動制御と、を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態での前記再始動制御において、前記再始動条件の成立の待機中に、前記位置検知手段(116)により前記サイドスタンド(63)が前記起立位置にあることが検知された場合、前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行した場合、所定時間の間に前記始動操作が無かった場合は、前記鞍乗型車両(10)の電源をOFFにする、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
スタータスイッチ(117)を備え、
前記始動操作とは、前記スタータスイッチ(117)に対する操作である、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
前記クラッチ(43)の断続を操作可能なクラッチ操作子(86)と、
前記クラッチ操作子(86)に対するライダの操作を検知するクラッチ操作検知手段(111)と、を備え、
前記再始動条件は、前記クラッチ操作検知手段(111)により前記クラッチ(43)の遮断操作が検知されたことを少なくとも含む、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項5】
請求項に記載の鞍乗型車両であって、
前記エンジン(40)のスロットル開度を調整可能なスロットル操作子(80)と、
前記スロットル操作子(80)に対するライダの操作を検知するスロットル操作検知手段(110)と、を備え、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態においては、前記再始動条件は、前記スロットル操作検知手段(110)により前記スロットル(52)の開操作が検知されたことを少なくとも含む、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
アイドルストップ機能を備えた鞍乗型車両が提案されている。こうした鞍乗型車両は、鞍乗型車両が信号待ちで一時停止した場合にエンジンが自動停止されるため、燃費の向上の点で有利である。特許文献1には、マニュアル式変速機を備えた鞍乗型車両のアイドルストップ制御技術が開示されている。特許文献1の制御技術では、マニュアル式変速機がインギアの状態でエンジンの自動停止を可能としつつ、エンジンの再始動の条件として、スロットルの開操作とクラッチの遮断操作を要求している。これにより、エンジンの自動停止後、再始動の際、鞍乗型車両の急激な飛び出しを防止しつつ、ライダの発進意図を反映することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5750020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの自動停止後、ライダがそのまま鞍乗型車両を駐車し、降車する場合が想定される。再乗車時にライダがアイドリングストップ中であることを忘れている場合、偶々再始動の条件が成立してしまってエンジンが再始動すると、ライダに違和感を与える場合がある。
【0005】
本発明の目的は、ライダの意図に即したエンジンの再始動が可能な鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
エンジン(40)と、
クラッチ(43)を介して前記エンジン(40)と連結され、前記エンジン(40)の回転を変速して出力するマニュアル式変速機(42)と、
起立位置と収納位置との間で揺動可能に設けられ、前記起立位置において車体を車幅方向に傾けた状態で支持するサイドスタンド(63)と、
前記サイドスタンド(63)の位置を検知する位置検知手段(116)と、
前記エンジン(40)の自動停止と、自動停止後の再始動とを制御する制御手段(100)と、
ヘッドライト(36)と、
ポジションランプ(37)と、
を備えた鞍乗型車両(10)であって、
前記制御手段(100)は、
ライダの始動操作を待機し、前記始動操作に基づいて前記エンジン(40)を始動する通常始動制御と、
前記自動停止による前記エンジン(40)の停止中に再始動条件の成立を待機し、前記再始動条件の成立に基づいて前記エンジン(40)を再始動する再始動制御と、を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態での前記再始動制御において、前記再始動条件の成立の待機中に、前記位置検知手段(116)により前記サイドスタンド(63)が前記起立位置にあることが検知された場合、前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行する場合、前記ヘッドライト(36)を点灯している場合は、前記ヘッドライト(36)を消灯し、前記ポジションランプ(37)を点灯する、
ことを特徴とする鞍乗型車両が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ライダの意図に即したエンジンの再始動制御が可能な鞍乗型車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る鞍乗型車両の左側面図。
図2図1の鞍乗型車両の上面図。
図3図1の鞍乗型車両の制御装置のブロック図。
図4】制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
図5】制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
図6】制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
図7】制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
図8】制御ユニットが実行する処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<鞍乗型車両の概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両10の左側面図、図2は、鞍乗型車両10の上面図である。図3は鞍乗型車両10の制御装置のブロック図である。図1及び図2に示す矢印で示すように、車両の全長方向を前後方向と、幅方向を左右方向と、高さ方向を上下方向ともいう。鞍乗型車両10を単に車両10と呼ぶ場合がある。車両10は、ネイキッドタイプの自動二輪車であるが、本発明は他の形式の自動二輪車を含む各種の鞍乗型車両にも適用可能である。
【0011】
車両10は、ダブルクレードル型の車体フレーム12を有する。この車体フレーム12は、ヘッドパイプ14と、左右一対のメインフレーム16と、ダウンフレーム18とを有する。左右一対のメインフレーム16は、ヘッドパイプ14から左右に分岐して緩やかに後ろ下がりで後方に延びた後、湾曲部16aを介して下方に延びている。ダウンフレーム18は、ヘッドパイプ14から左右に分岐してメインフレーム16の下方を、後ろ斜め下方に延びた後、湾曲部18aを介して略水平に後方に延び、メインフレーム16の後端部に接続される。
【0012】
車体フレーム12は、更に、左右一対のシートフレーム20と、左右一対のピボットプレート22と、左右一対の補強ステー24とを有する。左右一対のシートフレーム20は、左右一対のメインフレーム16の湾曲部16a近傍から後方やや後ろ上がりに延びている。左右一対のピボットプレート22は、メインフレーム16の前記後端部付近に配置される。左右一対の補強ステー24は、メインフレーム16のピボットプレート22が設けられている付近から斜め後ろ上がりに延びてシートフレーム20に接続される。左右一対のピボットプレート22には、ピボット26が設けられている。
【0013】
車体フレーム12には、サイドスタンド63が設けられている。サイドスタンド63は図1において破線で示す起立位置と、図1において実線で示す収納位置との間で揺動可能に設けられている。サイドスタンド63は起立位置において車体を車幅方向左側に傾けた状態で車両10を支持する。
【0014】
左右一対のフロントフォーク28は、ヘッドパイプ14によって回転自在に軸支され、左右一対のフロントフォーク28の上端には、トップブリッジ30aを介して、操舵用のハンドルバー32が取り付けられている。
【0015】
トップブリッジ30aには、スピードメータ等を有するメータ部34が取り付けられている。ヘッドパイプ14の前方には、車両10の前方を照射するヘッドライト36と、左右一対のフロントウインカ37が設けられている。フロントウインカ37はポジションランプとしても機能する。ポジションランプはフロントウインカ37とは別のランプとしてもよい。前輪WFは、左右一対のフロントフォーク28によって回転自在に軸支され、前輪WFの上部には、フロントフェンダ38が設けられている。
【0016】
メインフレーム16とダウンフレーム18との間には、エンジン40及びマニュアル式変速機42が設けられている。エンジン40は、例えば、単気筒の4ストローク・DOHC・エンジンであり、吸気量を調整するスロットル52、燃料を噴射する燃料噴射装置(インジェクタ)40b、及び、燃焼室内の混合気に着火する点火装置40cを備える。エンジン40の上方であって、メインフレーム16の前側上方には、エンジン40に供給される燃料を収容した燃料タンク44が取り付けられている。エンジン40には、排気管46が取り付けられ、排気管46にはマフラー48が接続されている。オイルクーラ50は、エンジン40の前方であってダウンフレーム18の前側に設けられ、エンジン40のスロットル52や、スロットル52を通過してエンジン40に供給される空気を浄化するエアクリーナ54は、エンジン40の後方に設けられている。
【0017】
電動機41はエンジン40に連結されている。電動機41は、エンジン40を始動するスタータとして機能すると共に、エンジン40で駆動されて電力を発生するオルタネータとして機能する。
【0018】
マニュアル式変速機42はクラッチ43を介してエンジン40と連結され、後輪WRに伝達されるエンジン40の回転を変速して出力する。マニュアル式変速機42は、ギアチェンジペダル88に対するライダのシフト操作に応じて例えば、一速~六速のギア比と、ニュートラルのいずれかの状態に切り替えられる常時噛み合い式の変速機である。一速~六速のギア比のいずれかが選択されている状態をインギアともいう。ギアチェンジペダル88は、ライダが操作可能に左側のステップ64の前方に設けられたシフト操作子である。ライダが左側のステップ64に左足を置いて、ギアチェンジペダル88を左足で操作することで、マニュアル式変速機42の状態が切り替わる。クラッチ43は、例えば、湿式多板コイルスプリング式の手動クラッチであり、エンジン40とマニュアル式変速機42との間の駆動力の伝達を接続又は遮断する。
【0019】
左右一対のピボットプレート22には、ピボット26を介してスイングアーム56が略上下方向に揺動自在に軸支され、スイングアーム56の後端部上側とシートフレーム20との間には、リアクッション58が介装されている。スイングアーム56の後端には、駆動輪である後輪WRが回転可能に軸支されている。エンジン40の駆動力は、マニュアル式変速機42及びチェーン60を介して後輪WRに伝達される。左右一対のピボットプレート22には、後方に延びる左右一対のステップホルダ62が固定されており、左右一対のステップホルダ62の前部と後部には、ライダ用、同乗者用のステップ64、66が左右に取り付けられている。
【0020】
燃料タンク44の後方且つシートフレーム20の上部には、ライダ及び同乗者が着座する(跨る)ためのシート68が取り付けられており、シート68は、ライダが乗車するライダ用シート68aと、同乗者が乗車する同乗者用シート68bからなるタンデムシートである。シートフレーム20の後部には、同乗者が把持するグラブバー70、及び、リアウインカ72が取り付けられている。シートフレーム20の後方にはリアフェンダ74が設けられており、リアフェンダ74には、テールランプ76が取り付けられている。
【0021】
図2に示すように、ハンドルバー32の右端側には、ハンドルバー32に対して回動可能に設けられたスロットルグリップ80が設けられている。スロットルグリップ80は、ライダが操作可能に設けられ、スロットル52の開度をライダが調整可能なスロットル操作子である。本実施形態の場合、スロットルグリップ80とスロットル52はメカニカルワイヤで物理的に連結されている。しかし、スロットルグリップ80とスロットル52とが物理的に連結されず、ライダのスロットル操作(アクセル操作)を電気信号に変換してスロットルを制御するスロットル・バイ・ワイヤ方式を採用してもよい。
【0022】
ハンドルバー32には、スロットルグリップ80の前方にブレーキレバー82が設けられている。ブレーキレバー82は、ライダが操作可能に設けられ、車両10の前輪WFに制動力を与えるブレーキ(不図示)の作動を操作可能なブレーキ操作子である。ライダがブレーキレバー82を右手で操作することで、前輪WFに設けられたブレーキ(不図示)が作動し、前輪WFに制動力が与えられる。
【0023】
右側のステップ64の前方には、フットブレーキペダル84が設けられている。フットブレーキペダル84は、ライダが操作可能に設けられ、車両10の後輪WRに制動力を与えるブレーキ(不図示)の作動を操作可能なブレーキ操作子である。ライダが右側のステップ64に右足を置いて、フットブレーキペダル84を右足で操作することで、後輪WRに設けられたブレーキ(不図示)が作動し、後輪WRに制動力が与えられる。
【0024】
また、ハンドルバー32には、ハンドルバー32の左端側の前方にクラッチレバー86が設けられている。クラッチレバー86は、ライダが操作可能に設けられ、クラッチ43の断続を操作可能なクラッチ操作子である。ライダがクラッチレバー86を引くと、クラッチ43は遮断状態となり、離すと接続状態となる。
【0025】
<制御装置>
主に図3を参照して車両10の制御装置について説明する。車両10は制御ユニット(ECU)100を含む。制御ユニット100は、CPUに代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとの入出力インタフェース、センサ信号の処理回路、アクチュエータの駆動回路を含む。記憶デバイスにはプロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。プロセッサや記憶デバイスは複数設けてもよい。
【0026】
制御ユニット100は、各種のセンサ110~117の検知結果を取得してエンジン40や電動機41を制御する。スロットル操作センサ110は、スロットルグリップ80に対するライダの操作を検知するセンサであり、スロットルグリップ80に設けられ、スロットルグリップ80の回動量を検知するセンサであってもよいし、スロットル52に設けられ、スロットル開度を検知するセンサであってもよい。クラッチ操作センサ111はクラッチレバー86に対するライダの操作を検知するセンサであり、クラッチレバー86に設けられ、レバーが引かれたこと(遮断操作)を検知するセンサであってもよいし、クラッチ43に設けられ、クラッチ43のアームの回動を検知するセンサであってもよい。
【0027】
電源スイッチ112は、車両10の電源のON、OFFを切り替えるスイッチである。電源スイッチ(メインスイッチ)112は、例えば、キーの差込により操作可能となるキースイッチであり、ハンドルバー32に中央付近に配置される。電源スイッチ112がONに切り替えられると、ヘッドライト36等の電装品に電力を供給可能となり、また、エンジン40の始動が可能となる。電源スイッチ112がOFFに切り替えられると電装品への電力が供給不能となり、エンジン40の始動も不能となる。
【0028】
エンジン回転数センサ113はエンジン40の回転数を検知するセンサである。シフトポジションセンサ114は、マニュアル式変速機42の状態(一速~六速のいずれか、又は、ニュートラル)を検知するセンサである。車速センサ115は車両10の車速を検知するセンサであり、例えば、前輪WFの回転量を検知するセンサである。
【0029】
サイドスタンド位置センサ116は、サイドスタンド63の位置を検知するセンサであり、サイドスタンド63が収納位置にあるか起立位置にあるかを検知する。サイドスタンド位置センサ116は、例えば、サイドスタンド63が起立位置にある場合にONとなり、収納位置にある場合にOFFとなるスイッチであってもよい。
【0030】
スタータスイッチ117は、ライダがエンジン40の始動を指示するためのスイッチであり、例えば、ハンドルバー32の右端側に配置される。制御ユニット100は、電源スイッチ112がONの状態で、スタータスイッチ117がライダによってONにされると、これを始動操作として受け付け、エンジン40を始動する。本実施形態では、電源スイッチ112とは別にスタータスイッチ117を設けたが、電源スイッチ112をスタータスイッチ117と兼用してもよく、この場合、電源スイッチ112をスタータスイッチと呼ぶこともでき、電源スイッチ112の切り替えポジションとして、ACC ON(電源ON)、イグニション ON(始動操作)、OFF(電源OFF)があってもよい。
【0031】
<処理例>
制御ユニット100の処理例について図4図8を参照して説明する。図4図8は制御ユニット100のプロセッサが実行する処理例を示すフローチャートである。
【0032】
<通常始動制御>
図4は通常始動制御の処理例を示す。通常始動制御は、電源スイッチ112がONの場合に実行され、ライダのスタータスイッチ117に対する始動操作を待機し、始動操作に基づいてエンジン40を始動する制御である。通常始動制御は、車両10に乗車する際、ライダがエンジン40を始動するための基本的な始動制御であり、ライダが電源スイッチ112をONにして、スタータスイッチ117をONにすることでエンジン40を始動させる制御である。
【0033】
S1では、各センサの検知結果が取得される。S2ではS1で取得した検知結果に基づき、エンジン40の始動許可状態か否かが判定される。始動許可状態とは、例えば、マニュアル式変速機42がニュートラルであることである。また、始動許可状態とは、例えば、マニュアル式変速機42がインギアであるがクラッチ43が遮断状態にあり、かつ、サイドスタンド63が収納状態にあること、等を挙げることができる。始動許可状態にあると判定した場合はS3へ進む。
【0034】
S3は、ライダによる始動操作を検知するための処理であり、スタータスイッチ117がONか否かを判定する。ONの場合はS4へ進み、電動機41をスタータとして駆動してエンジン40を始動する。
【0035】
<アイドルストップ制御>
図5図7の処理例について説明する。制御ユニット100は、エンジン40のアイドルストップ制御を行う。アイドルストップ制御では、車両10が信号待ちにより一時停止した場合等にエンジン40を自動停止し、また、自動停止後、車両10が発進すると推定される場合にエンジン40を再始動する。
【0036】
<自動停止制御>
図5はエンジン40の自動停止に関する処理例を示している。S11で各センサの検知結果が取得される。S12ではS11で取得した検知結果に基づいて予め定めたアイドルストップ条件が成立したか否かを判定する。アイドルストップ条件が成立したと判定した場合はS13へ進む。
【0037】
アイドルストップ条件としては、例えば、車速が規定車速(例えば3km/h)以下であり、かつ、規定時間(例えば3秒)の間、ライダによるスロットル52の開操作が検知されなかったことを少なくとも挙げることができる。加えて、マニュアル式変速機42がインギアの場合は、規定時間(例えば3秒)の間、ライダによるクラッチ43の遮断操作が検知されたことを、マニュアル式変速機42がニュートラルの場合は、規定時間(例えば3秒)の間、ライダによるクラッチ43の遮断操作が検知されなかったことを挙げることができる。また、ヘッドライト36が消灯していることや、ライダが予めアイドルストップ制御の実行を許可していること(アイドルストップ用スイッチを設け、これをライダがONにしていること)等も条件としてもよい。
【0038】
S13ではエンジン40を自動停止する。例えば、燃料噴射装置40bによる燃料の供給を遮断することで、或いは、点火装置40cによる点火を停止することで、エンジン40を停止することができる。
【0039】
<再始動制御>
図6は自動停止後、エンジン40を再始動する再始動制御の例を示している。再始動制御では、自動停止によるエンジン40の停止中に再始動条件の成立を待機し、再始動条件の成立に基づいてエンジン40を再始動する。
【0040】
S21で各センサの検知結果が取得される。S22ではS21で取得したサイドスタンド位置センサ116の検知結果により、サイドスタンド63が起立状態か否かを判定し、起立状態である場合はS26へ進み、収納状態である場合はS23へ進む。
【0041】
S23では再始動条件が成立したか否かの判定処理が行われる。図7はその例を示すフローチャートである。S31では、S21で取得したクラッチ操作センサ111の検知結果に基づき、ライダによるクラッチ43の遮断操作を検知したか否かを判定し、検知した場合はS32へ進み、検知していない場合はS35へ進んで停止維持(再始動条件不成立)と判定する。
【0042】
S32では、S11で取得したシフトポジションセンサ114の検知結果に基づき、マニュアル式変速機42の状態がインギアかニュートラルかを判定し、インギアの場合はS33へ進み、ニュートラルの場合はS34へ進んで再始動条件成立と判定する。本実施形態では、マニュアル式変速機42がニュートラルの場合、クラッチ43の遮断操作があればライダがエンジン40の再始動の意図があるとみなし、その検知のみを条件としてエンジン40を再始動する。しかし、他の条件を再始動条件に加えてもよい。
【0043】
S33では、S21で取得したスロットル操作センサ110の検知結果に基づき、ライダによるスロットル52の開操作(スロットルグリップ80の回動操作)を検知したか否かを判定し、検知した場合はS34へ進んで再始動条件成立と判定し、検知していない場合はS35へ進んで停止維持(再始動条件不成立)と判定する。マニュアル式変速機42がインギアの状態にある場合、クラッチ43の遮断操作だけでなく、スロットル52の開操作を再始動条件に含めることで、ライダが直ぐに発進を意図している場合に、再始動時のエンジン40の出力の立ち上がりがよくなり、エンジン40がストールすることを防止できる。 なお、本実施形態では、マニュアル式変速機42がインギアの場合、クラッチ43の遮断操作及びスロットル52の開操作を再始動条件としたが、ニュートラルの場合と同様にクラッチ43の遮断操作のみを再始動条件としてもよいし、また、他の条件を再始動条件に加えてもよい。
【0044】
図6に戻り、S24ではS23で再始動条件が成立したと判定された場合はS25へ進んでエンジン40を再始動し、成立していないと判定された場合は再始動条件の成立を待機する。S25では電動機41をスタータとして駆動し、燃料噴射装置40bによる燃料の供給及び点火装置40cによる着火を行ってエンジン40を再始動する。
【0045】
次に、サイドスタンド63が起立状態にある場合は、ライダがそのまま車両10を駐車し、降車する場合が想定される。再乗車時にライダがアイドリングストップ中であることを忘れている場合、偶々再始動の条件が成立してしまってエンジンが再始動すると、ライダに違和感を与える場合がある。特に、マニュアル式変速機42がインギアの状態である場合、ライダが車両10を取り回している際に、偶々クラッチレバー86とスロットルグリップ80を操作してしまった場合、エンジン40が再始動して車両10が前進してライダを驚かせる場合がある。
【0046】
そこで、本実施形態では、マニュアル式変速機42がインギアの状態で、再始動条件の成立の待機中に、サイドスタンド63が起立位置にあることが検知された場合、再始動制御を終了して通常始動制御を実行する。
【0047】
S26ではS21で取得したシフトポジションセンサ114の検知結果に基づき、マニュアル式変速機42の状態がインギアかニュートラルかを判定し、ニュートラルの場合はS23へ進み、インギアの場合はS27へ進む。S27では再始動制御の終了を設定する。図6の処理が実行されなくなるので、再始動条件が成立してもエンジン40は再始動されない。
【0048】
本実施形態では、サイドスタンド63が起立状態であっても、マニュアル式変速機42がニュートラルの場合は再始動制御を継続し、再始動条件の成立によりエンジン40を再始動させる。マニュアル式変速機42の状態がニュートラルの場合は、エンジン40が再始動しても車両10が前進することはなく、ライダを驚かせる可能性は低いと考えられるからである。尤も、マニュアル式変速機42の状態で区別せず、マニュアル式変速機42がニュートラルの場合も、インギアの場合と同様に再始動制御を終了するようにしてもよい。
【0049】
S28ではライト切替処理を行う。ここでは、ヘッドライト36を点灯している場合は、ヘッドライト36を消灯し、ポジションランプ37を点灯する。車両10の駐車によってエンジン40の始動までに時間を要すると考えられるため、電力消費を低減すると共に、ライダに対して再始動制御が終了してエンジン40が再始動しないことを知らせることができる。
【0050】
S29では電源オフタイマを作動させる。電源オフタイマは、車両10の電源をOFFにするまでの予め定めた時間(電源オフ時間という。例えば3分)を計時するタイマであって、例えば、ソフトウエアタイマである。S30では通常始動制御の開始を設定する。以降、エンジン40を始動するためには、図4を参照して説明した通り、エンジン40の始動操作(スタータスイッチ117のON操作)が必要となる。
【0051】
図8は、S29で作動させた電源オフタイマに関連する処理の例を示す。駐車時間が長い場合、車両10の電源をオフにすることで電力消費を低減することができる。
【0052】
S41では電源オフタイマを作動中か否かを判定し、作動中であればS42へ進む。S42では電源オフタイマの値から電源オフ時間が経過したか否かを判定し、経過していた場合はS43へ進む。S43では電源オフタイマを終了し、車両10の電源をオフとする。この電源オフにより、車両10の電装品に対する電力の供給が遮断される。電力の供給遮断の対象となる電装品には制御ユニット100も含めてもよい。車両10の電力消費を低減することができる。以降、エンジン40を始動するためには、エンジン40の始動操作(スタータスイッチ117のON操作)では足りない。電源スイッチ112のON操作をやり直して車両10の電源をONにし、これにより通常始動制御(図4)が開始されるので、始動許可状態でエンジン40の始動操作(スタータスイッチ117のON操作)を行うことでエンジン40が始動される。
【0053】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は、少なくとも以下の鞍乗型車両を開示している。
【0054】
1.上記実施形態の鞍乗型車両(10)は、
エンジン(40)と、
クラッチ(43)を介して前記エンジン(40)と連結され、前記エンジン(40)の回転を変速して出力するマニュアル式変速機(42)と、
起立位置と収納位置との間で揺動可能に設けられ、前記起立位置において車体を車幅方向に傾けた状態で支持するサイドスタンド(63)と、
前記サイドスタンド(63)の位置を検知する位置検知手段(116)と、
前記エンジン(40)の自動停止と、自動停止後の再始動とを制御する制御手段(100)と、
を備えた鞍乗型車両(10)であって、
前記制御手段(100)は、
ライダの始動操作を待機し、前記始動操作に基づいて前記エンジン(40)を始動する通常始動制御と、
前記自動停止による前記エンジン(40)の停止中に再始動条件の成立を待機し、前記再始動条件の成立に基づいて前記エンジン(40)を再始動する再始動制御と、を実行し、
前記制御手段(100)は、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態での前記再始動制御において、前記再始動条件の成立の待機中に、前記位置検知手段(116)により前記サイドスタンド(63)が前記起立位置にあることが検知された場合、前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行する。
この実施形態によれば、前記サイドスタンドが起立位置にあるときは、再始動条件が成立しても前記エンジンが再始動しない。エンジンの自動停止後、ライダがそのまま前記鞍乗型車両を駐車し、降車したのち、再乗車時にライダがアイドリングストップ中であることを忘れている場合、偶々再始動の条件が成立してしまってエンジンが再始動することを防止できる。また、前記鞍乗型車両を駐車し、降車した場合、ライダに再始動の意図は薄いと推定される。こうした場合には前記通常始動制御の実行による前記エンジンの始動がライダに意図に沿う。よって、ライダの意図に即したエンジンの再始動が可能な鞍乗型車両を提供することができる。
【0055】
2.上記実施形態の鞍乗型車両(10)は、
ヘッドライト(36)と、
ポジションランプ(37)と、を備え、
前記制御手段(100)は、
前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行する場合、前記ヘッドライト(36)を点灯している場合は、前記ヘッドライト(36)を消灯し、前記ポジションランプ(37)を点灯する。
この実施形態によれば、電力消費を低減できると共に、ライダに対して前記再始動制御の終了を認識させることもできる。
【0056】
3.上記実施形態の鞍乗型車両(10)では、
前記制御手段(100)は、
前記再始動制御を終了して前記通常始動制御を実行した場合、所定時間の間に前記始動操作が無かった場合は、前記鞍乗型車両(10)の電源をOFFにする。
この実施形態によれば、電力消費を低減でき、バッテリ上がりを防止できる。
【0057】
4.上記実施形態の鞍乗型車両(10)は、
スタータスイッチ(117)を備え、
前記始動操作とは、前記スタータスイッチ(117)に対する操作である。
この実施形態によれば、ライダに対して前記エンジンの通常の始動操作を再始動操作と区別しやすくすることができる。
【0058】
5.上記実施形態の鞍乗型車両(10)は、
前記クラッチ(43)の断続を操作可能なクラッチ操作子(86)と、
前記クラッチ操作子(86)に対するライダの操作を検知するクラッチ操作検知手段(111)と、を備え、
前記再始動条件は、前記クラッチ操作検知手段(111)により前記クラッチ(43)の遮断操作が検知されたことを少なくとも含む。
この実施形態によれば、ライダに対して前記エンジンの通常の始動操作を再始動操作と区別しやすくすることができる。
【0059】
6.上記実施形態の鞍乗型車両(10)は、
前記エンジン(40)のスロットル開度を調整可能なスロットル操作子(80)と、
前記スロットル操作子(80)に対するライダの操作を検知するスロットル操作検知手段(110)と、を備え、
前記マニュアル式変速機(42)がインギアの状態においては、前記再始動条件は、前記スロットル操作検知手段(110)により前記スロットル(52)の開操作が検知されたことを少なくとも含む。
この実施形態によれば、前記スロットルの開操作を再始動のトリガーとすることで、ライダがすぐに発進したい場合にも、前記エンジンが駆動している通常発進時と同様のスロットル操作及びクラッチ操作での発進を可能とし、エンジンストールを抑制できる。
【0060】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8